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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】二次電池セル用の筐体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/262 20210101AFI20240528BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20240528BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20240528BHJP
   H01M 50/291 20210101ALI20240528BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20240528BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240528BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240528BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240528BHJP
   H01M 10/6551 20140101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M50/262 E
H01M50/204 401H
H01M50/262 P
H01M50/293
H01M50/291
H01M50/211
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/6551
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024019375
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2022079903の分割
【原出願日】2022-05-16
(65)【公開番号】P2024040367
(43)【公開日】2024-03-25
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500356371
【氏名又は名称】LSIクーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】吉川 隆一
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-522670(JP,A)
【文献】特開2019-160496(JP,A)
【文献】特開2013-016375(JP,A)
【文献】特開2021-180086(JP,A)
【文献】特表2021-516854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、
熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、
前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、
を備え
前記第1加圧機構および前記第2加圧機構のうち少なくとも一方は、内部に気体が充填された膨張可能な容器により構成されている筐体。
【請求項2】
複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、
熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、
前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、
を備え、
前記熱伝導性シートが、面方向の熱伝導率が100W/mK以上で、かつ、厚さ方向に作用する圧力に応じて接触熱抵抗が低減する性質を有している筐体。
【請求項3】
複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、
熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、
前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、
を備え、
前記二次電池セルは、側方へ向けて尖った尖端縁部を備え、前記尖端縁部に保護部材を被せ、前記保護部材の側面で前記はみだし部分を押圧する筺体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池セル用の筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気自動車には、リチウムイオン電池などの二次電池が搭載されている。リチウムイオン電池は走行時(放電時)および充電時に発熱するが、必要な充放電性能および耐久性を維持する観点から適当な温度範囲は25℃~35℃である。実際には、リチウムイオン電池はより広い温度範囲での使用が可能であるものの、0℃~45℃に維持されることが望ましい。リチウムイオン電池の温度がこれよりも高くなると、充電時に充電速度が低下し、放電時に電費が低下する。リチウムイオン電池の温度が適正な温度範囲から逸脱した状態で長期間にわたって使用されると、リチウムイオン電池の性能劣化を早めることになる。
【0003】
リチウムイオン電池の冷却方法としては、多くの電気自動車では水冷が一般的である。リチウムイオン電池には板状および円柱状がある。板状セルの場合、これらを冷却パネル上に設置し、セルが放出する熱を冷却パネル経由で冷却水へ伝える。円柱状セルの場合、セル間の隙間に冷却水を流すチューブを設けるなどの方法で、セルが放出する熱を冷却水へ伝える。
【0004】
これらの方法は冷却水の温度と流量の制御によりセル温度を常に最適に制御できる利点があるが、そのために複雑な装備およびその駆動電力を必要とするため、電気自動車の重量とコスト増加および航続距離低減に繋がる。よって水冷式は中型以上の高級電気自動車に限定されている現状である。
【0005】
一方、電気自動車の簡素化およびコスト低減のためにリチウムイオン電池を空冷する方式も実用化されている(例えば、特許文献1および2参照)。これは走行時の空気の流れをリチウムイオン電池の筐体内に引き込んで通風する方式である。よって、各リチウムイオン電池セルの周囲には出来るだけ空気が流れやすいように隙間を設ける必要があるものの、リチウムイオン電池セルを収容する筐体(電池パック)の小型化の妨げとなる。リチウムイオン電池には高電圧が流れるため、安全のため防塵および浸水時の被水対策との両立が必須である。このほかに空冷式の問題点として、長時間の高速走行で電費が落ちる弱点があった。また、充電中にはリチウムイオン電池が発熱する一方で走行時のような空冷能力が得られず、電池の温度が上昇し55℃~60℃くらいから急に電力が入りにくくなる問題があった。さらにバッテリーの過熱はセルの劣化を早めるという問題も指摘されている。従って、リチウムイオン電池の空冷方法は、比較的小型の電気自動車で、性能よりもコスト低減を重視する場合に限定されて使われている。
【0006】
以上より、簡素かつ軽量で十分な性能の二次電池の冷却方策が求められている現状である。この方策は今後さらに普及が進む電動二輪車および軽自動車規格の小型電気自動車などに必須である。また電動の建設機械、フォークリフトおよび農業用自動収穫ロボットなど電動の特殊車両にも適する。このほか定置用の充電設備にも適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特願2011-243358号公報
【文献】特開2015-123924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、リチウムイオン電池など二次電池を収容する筐体において、小型・軽量・簡素な構造で駆動電力を必要とせず、空冷による十分な冷却性能により、充放電中に当該二次電池を必要な温度に維持し、かつ防塵および浸水時の被水対策との両立を果たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の筐体は、
(1)複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、を備え、前記第1加圧機構および前記第2加圧機構のうち少なくとも一方が、内部に気体が充填された膨張可能な容器により構成されている
【0010】
(2)また、本発明の筺体は、複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、を備え、前記熱伝導性シートが、面方向の熱伝導率が100W/mK以上で、かつ、厚さ方向に作用する圧力に応じて接触熱抵抗が低減する性質を有している
【0011】
(3)さらに、本発明の筺体は、複数の二次電池セルが内部空間に収容され、かつ、外側に放熱構造を有している筐体であって、熱伝導性シートを間に挟んで積層されている前記複数の二次電池セルを積層方向に加圧する第1加圧機構と、前記熱伝導性シートのうち前記複数の二次電池セルの側方へのはみだし部分を前記筐体の内側面に対して加圧する第2加圧機構と、を備え、前記二次電池セルは、側方へ向けて尖った尖端縁部を備え、前記尖端縁部に保護部材を被せ、前記保護部材の側面で前記はみだし部分を押圧する
【0012】
第1加圧機構により、複数の二次電池セル、ひいてはこれらの間に挟まれている熱伝導性シートが加圧される。熱伝導性シートには、その厚さ方向に圧力が加えられることにより、接触熱抵抗が低減する性質がある。これにより、二次電池セルから熱伝導性シートに熱が効率的に伝導される。また、熱伝導性シートの面方向の熱伝導率が高いため、二次電池セルから熱伝導性シートに伝導された熱が、当該熱伝導性シートの面方向に効率的に伝導される。
【0013】
第2加圧機構により、熱伝導性シートのうち複数の二次電池セルからのはみだし部分が筐体の内側面に対して押し付けられ、熱伝導性シートの当該はみだし部分および筐体の内側面の密着が図られている。これにより、二次電池セルから熱伝導性シートを通じて伝導された熱が、筐体に対して効率的に伝導される。筐体の外側には、放熱構造があるため、当該熱が、筐体の外部空間に効率よく放出される。
【0014】
筐体に通気孔が形成され、その径またはサイズが小さく抑制されることにより、筐体の外部空間から内部空間に水および/または粉塵が進入することが抑制または防止される。また、二次電池セルの温度変化、ひいては筐体の内部空間に存在する空気の温度変化に応じて、通気孔を介して筐体の内部空間および外部空間の間で空気の往来が許容されるので、筐体の内部空間が不適当に昇圧または減圧することが回避されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態としての二次電池セル用の筐体の構成説明図。
図2】実施例における放電時の二次電池セル温度分布の計算結果に関する説明図。
図3】比較例における放電時の二次電池セル温度分布の計算結果に関する説明図。
図4】実施例における充電時の二次電池セル温度分布の計算結果に関する説明図。
図5】比較例における充電時の二次電池セル温度分布の計算結果に関する説明図。
図6】本発明の第2実施形態としての二次電池セル用の筐体の構成説明図。
図7】本発明の第3実施形態としての二次電池セル用の筐体の構成説明図。
図8】本発明の第4実施形態としての二次電池セル用の筐体の構成説明図。
図9】本発明の第5実施形態としての二次電池セル用の筐体の構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1に示されている本発明の第1実施形態としての筐体10は、上方に開口している本体部11と、その開口を閉じるための矩形板状の蓋部12とを備えている。筐体10は、熱伝導率が高く軽量な金属により構成されていることが好ましく、例えば、アルミニウムのほか、マグネシウムまたはこれらの合金などにより構成されていることが好ましい。筐体10の板厚または肉厚は放熱性能および軽量化の観点では薄いことが望ましい一方、後述するように膨縮部材21、22が膨張した際の圧力に対抗できる強度が必要である。この観点から、筐体10の板厚は、例えば、5~10mmの範囲に含まれるように設計されていることが好ましい。
【0017】
本体部11の側壁外側には、放熱構造としてヒートシンク110が設けられている。ヒートシンク110は本体部11と一体であることが望ましい。アルミニウムの鋳造品(ダイカスト)ならばこの一体構造を製作可能である。この他、ブロックからの切削または3Dプリンターによる製作方法も可能である。別体のヒートシンクを筐体10の表面に接触させる構成では、両者の接触界面に接触熱抵抗が発生し、熱伝達が妨げられる。やむを得ず別体のヒートシンクを採用する場合は、筐体10との接触面をロウ付けするか、接触面に熱伝導性シートを介して、0.1MPa以上の圧力で加圧する必要がある。なお放熱構造としては、筐体10または本体部11の壁部外側の表面積を増大させるような、任意の凹凸構造でもよい。
【0018】
蓋部12には、通気口120が形成されている。通気口120の径または幅は、通気性を維持しつつも防塵および水の浸入防止のために、例えば約1mmに設計されていることが好ましい。通気口120の個数は1であることが好ましい。蓋部12の周縁部には全周にわたり外側に張り出している第2フランジ部122が形成されている。なお、通気口120の位置としては、蓋に限定されるものではなく、筐体10の側面または底面でもよい。また穴の大きさは直径3mm以下であることが望ましいが、丸い穴に限定されるものではなく、角穴またはスリット状など同等面積の任意形状の開口部でもよい。防塵および防水が担保されている空間に筐体10が配置される場合、当該筐体10それ自体には防塵および防水対策は施されていなくてもよい。
【0019】
第1フランジ部112および第2フランジ部122のそれぞれに位置合わせされて形成されている複数の貫通孔のそれぞれを貫通する複数のボルト101のそれぞれが複数のナット102のそれぞれと締結されることにより、本体部11が蓋部12により閉じられている。例えば、第1フランジ部112および第2フランジ部122の間にOリングなどの環状シール部材が配置されることにより、本体部11および蓋部12が密封されている。
【0020】
本体部11には、矩形板状の複数の二次電池セル41が、間に熱伝導性シート42を挟んだ状態で積層されている。図1の例では、12個の二次電池セル41の各下面に熱伝導性シート42を挟んで積層された状態で、本体部11の内部空間に収容されている。以上のうちのある1個の二次電池セル41は、筐体10の対向しあう一対の側壁部のうち一方の側壁部(図1の左側壁部)に偏在し、上記二次電池セル41に対して上側および/または下側で隣接する他の二次電池セル41が当該一対の側壁部のうち他方の側壁部(図1の右側壁部)に偏在するように、複数の二次電池セル41が互い違いに積層されている。なお各二次電池セル41の電極は図1には示されていないが、本断面の手前側または奥側に位置する。
【0021】
なお一部の熱伝導性シート42が省略されてもよい。最も上にある二次電池セル41の上面を除き、各二次電池セル41は、上面および下面のそれぞれのほぼ全体にわたって熱伝導性シート42に対して直接的に接触している。
【0022】
熱伝導性シート42のうち二次電池セル41からのはみだし部分が上方に折り曲げられたうえで、二次電池セル41の側面および本体部11の内側面により挟まれている。二次電池セル41の上記側面は、電極を備える面ではなく、また電極を備える面の対向面でもない面とする。図1に示されている例では、熱伝導性シート42の当該はみだし部分は、二次電池セル41の側面および本体部11の内側面のそれぞれに対して直接的に接触している。
【0023】
積層した二次電池セル41および熱伝導性シート42は、その上に置かれた第1膨縮部材21により筐体下面に加圧される。また各二次電池セルの一端には個別の第2膨縮部材22が設置され、もう一方の端部は個別の第2膨縮部材22により、熱伝導性シート42を介して筐体10の内側側面に加圧される。
【0024】
二次電池セル41の上面に置かれた第1膨縮部材21および各二次電池セルの端部に置かれた第2膨縮部材22は、(全ては図示されていないが)連通管220により互いに接続されている。これらのうちのいずれか一つの膨縮部材には、筐体を貫通する注入バルブ210が接続されている。従って注入バルブ210から空気または窒素ガスなどの気体を注入すると、筐体内の全ての膨縮部材は同一の内圧で膨らみ、二次電池セル41および熱伝導性シート42を加圧する。
【0025】
以上の構成により、積層された二次電池セル41の層間に介在する熱伝導性シート42は、加圧されることにより二次電池セルの発熱を効率良く二次電池セルの端部まで伝達し、さらには筐体10の内面に伝達する。筐体10は熱伝導率が高く軽量な金属性のため、二次電池セルの発熱はその外面のヒートシンク110から効率良く空気中に放冷される。
【0026】
二次電池セル41としては、リチウムイオン電池のセルが一般的であるが、これに限定されるものではなく、例えば全固体電池などの開発途上の各種新型電池が採用されてもよい。電池の種類により発熱密度は同一とは限らないが、充放電により必ず発熱する。
【0027】
筐体内に積載する二次電池セル41の数量および総容積は、駆動する車両などの重量および航続距離により決定される。
【0028】
図1に示されているように、筐体10は、第1加圧機構としての第1膨縮部材21と、第2加圧機構としての複数の第2膨縮部材22と、を備えている。
【0029】
第1膨縮部材21および第2膨縮部材22のそれぞれは、(全ては図示されていないが)連通管220により互いに接続されており、筐体を貫通する注入バルブ210から空気または窒素ガスなどの気体を注入すると、筐体内の全ての膨縮部材は同一の内圧で膨らみ、二次電池セル41および熱伝導性シート42を加圧する。
【0030】
第1膨縮部材21、第2膨縮部材22および連通管220の内圧は、室温にてゲージ圧で0.1MPa(1kg/cm)となるように封入することが適する。この理由は後述する熱伝導性シートの機能を最適制御するために決定したものである。
【0031】
膨縮部材はガス封入時点では上記圧力で二次電池セル41と接触している。二次電池セル41の温度は充放電状況によって変動するため、膨縮部材21、22の封入ガスの温度は、時間遅れがあるものの、前者に追従して変化する。
【0032】
例えば、二次電池セルの温度が高速走行や急速充電時に仮に80℃まで上昇すると、膨縮部材21、22の内圧はボイル・シャルルの法則に従い0.12MPaとなる。
【0033】
一方、寒冷地にて長時間停車し、二次電池セルの温度が0℃まで低下すると、膨縮部材の内圧は同様な計算により0.093MPaとなる。
【0034】
このように二次電池セルの温度に呼応してガス膨張式チューブ(収縮部材21、22)の内圧が変化する現象は、後述する熱伝導性シート42の特性を有効活用する上で重要な役割を果たす。
【0035】
この他にリチウムイオン電池の膨縮部材21、22の重要な役割として、リチウムイオン電池に常に密着して熱伝導性シートを加圧することである。リチウムイオン電池は充電時にはやや膨らみ、放電時にはやや凹む特性があり、この現象は「リチウムイオン電池が呼吸する」と呼ばれている。また寿命末期のリチウムイオン電池は、内部の電解液の変質により膨らむ傾向がある。このような変形に対しても常に密着を維持できることが、膨縮部材の利点である。
【0036】
図1に示すように、第1膨縮部材21は、蓋部12の内側面と最も上にある二次電池セル41との間に配置されている。第2膨縮部材22は、二次電池セル41において熱伝導性シート42のはみだし部分に接触している側面とは反対側の側面と、本体部11の内側面との間に配置されている。筐体10の一方の側壁部(図1の左側壁部)に偏在している二次電池セル41と他方の側壁部との間に第2膨縮部材22が配置されている。当該二次電池セル41に対して上側および/または下側で隣接し、他方の側壁部(図1の右側壁部)に偏在している他の二次電池セル41と一方の側壁部との間に他の第2膨縮部材22が配置されている。
【0037】
膨縮部材22および連通管220の材質は、自転車用タイヤのチューブと同様なゴム製が適し、その厚さは1~2mm程度でよい。この他、気密性および伸縮性のある素材でもよい。
【0038】
注入バルブ210は、自転車および自動車などのタイヤ用と同等品で構わない。空気注入の際は、自転車または自動車タイヤ用の空気入れが使用できる。
【0039】
注入する気体としては非可燃性であることが必須で、空気が一般的だが、窒素ガスの方が漏れにくいため、空気補充の手間を省ける利点がある。
【0040】
熱伝導性シート42は、例えば、カーボンシート(別名:膨張黒鉛シート)により構成されている。カーボンシートは膨張黒鉛がシート状に成型されたもので、柔軟性があり接触面に密着し、接触熱抵抗を低減させる効果がある。カーボンシートの厚さ方向の熱伝導率は約5(W/mK)、面方向の熱伝導率は約200(W/mK)、接触熱抵抗は厚さ0.2mmの場合約0.9~1.1×10-4(mK/W)である。
【0041】
一般に接触熱抵抗低減に必要な加圧力は、接触面の平面度や表面仕上げ状態などに依存する。接触面における接触熱抵抗の存在は、固体同士の接触面には必ず存在する。
【0042】
公開済み特許:熱電変換モジュール(特許第4829552号公報)によると、接触面を鏡面状の平面に仕上げた銅ブロック2個を互いに0.04 MPa(0.4 kg/cm)の圧力で接触させた際の接触熱抵抗は、100℃にて14×10-4(mK/W)、300~500℃では10×10-4(mK/W)である。しかし、この接触界面にカーボンシートを介在させると、全温度範囲で1×10-4(mK/W)を達成している。これはカーボンシート無しの場合の1/10以下である。すなわちカーボンシートの採用により接触熱抵抗を1/10以下に低減できる。
【0043】
熱伝導性シートの厚さについては、熱伝導性能および入手可能性の観点で1mmが最適である。二次電池セルの積層面間で受熱した熱伝導性シートが、その熱を二次電池セル端部まで伝導させる性能は、シートの断面積、すなわちシートの幅とシートの厚さの積に比例する。また熱伝導性シートはそのクッション性により、充放電時に呼吸する二次電池セルに常に密着する必要がある。これらの観点からはある程度の厚さが必要で、1mmが最適である。ただしこれに限定されるものではなく、厚さが1~2mmの範囲でもよい。
【0044】
熱伝導性シート42としては、上記カーボンシートに限定されるものではなく、面方向の熱伝導率が高く、かつ、接触熱抵抗が低いさまざまなシートが採用されてもよい。例えば、開発途上であるものの、カーボンファイバが一方向に配向され、当該配向方向について1600[W/mK]以上の熱伝導率が実現可能なシートにより熱伝導性シート42が構成されていてもよい。
【0045】
(機能)
注入バルブ210を経て空気または窒素ガスなどの気体が第1膨縮部材21の内部空間に供給されると、第1膨縮部材21に対して直接的または間接的に接続されている複数の第2膨縮部材22の内部空間にも当該気体が供給される。
【0046】
第1膨縮部材21の内部空間が昇圧して当該第1膨縮部材21が膨張し、熱伝導性シート42を間に挟んだ状態で積層されている複数の二次電池セル41が上下方向に加圧される。熱伝導性シート42には、その厚さ方向に圧力が加えられることにより、接触熱抵抗が低減する性質がある。これにより、二次電池セル41に接触している熱伝導性シート42に熱が効率的に伝導される。また、熱伝導性シート42の面方向の熱伝導率が比較的高いため、二次電池セル41から熱伝導性シート42に伝導された熱が、当該熱伝導性シート42の面方向に効率的に伝導される。
【0047】
同様に、第2膨縮部材22の内部空間が昇圧して当該第2膨縮部材22が膨張し、複数の二次電池セル41のそれぞれが、熱伝導性シート42のはみだし部分を筐体10の内側面に対して押し付ける方向に加圧される。これにより、熱伝導性シート42の当該はみだし部分および筐体10の内側面の密着が図られ、ひいては二次電池セル41から熱伝導性シート42を通じて伝導された熱が、筐体10に対して効率的に伝導される。筐体10の外側には、放熱構造としてのヒートシンク110があるため、当該熱が筐体10の外部空間に効率よく放出される。
【0048】
熱伝導性シート42を構成するカーボンシートの接触熱抵抗は圧力依存性がある。表1には、第1膨縮部材21および第2膨縮部材22のそれぞれの内部空間の気体の温度および圧力と、熱伝導性シート42を構成するカーボンシートの接触熱抵抗との関係を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、二次電池セル41の温度が上昇し、第1膨縮部材21および第2膨縮部材22のそれぞれの内部空間の気体の温度が上昇すると、圧力の増大により熱伝導性シート42の接触熱抵抗が低下し、熱伝導性シート42を介した当該二次電池の放熱効率の向上が図られる。
【0051】
その一方、寒冷地において、二次電池の二次電池セル41、ならびに、第1膨縮部材21および第2膨縮部材22の温度が0℃程度まで低下すると、圧力の低下により熱伝導性シート42の接触熱抵抗が増大し、当該二次電池の放熱能力が抑制される。二次電池の性能の観点での最適温度範囲は25~35℃であるため、このような低温時に放熱能力が抑制されることは、二次電池を適正温度に維持する観点から好ましい特性である。
【0052】
このように、前記構成の筐体10には、膨縮部材21、22と熱伝導性シート42の相互作用により二次電池セル41を適正温度に維持する自己制御性がある。この特性は、気体の膨張・収縮および熱伝導性シート42の接触熱抵抗の加圧力依存性など、物質固有の特性に由来するもので、電力および計装制御システムは不要で、長期間に亘って性能が維持され、故障の心配が無いことも利点である。
【0053】
本発明の構成における二次電池セル41の温度分布を試算した結果を示す。表2の前提条件で試算した。これらの条件は実在する複数の小型電気自動車の仕様を参考に決定した。
【0054】
【表2】
【0055】
図2には、第1実施形態にしたがった場合(実施例)における、定格走行時の二次電池セル41の面方向の温度分布および筐体10の厚さ方向の温度分布の計算結果を示す。図において横軸は各部材の位置を示し、縦軸は温度を示す。
【0056】
二次電池セル41の最高温度は第2防縮部材22との接触面にて42℃で、最適な温度範囲に抑えられている。ヒートシンクのある筐体10の外面温度は37.5℃で、手を触れても安全な温度である。
【0057】
図3には、比較のため図2と同じ条件で、二次電池セル41の側面と筐体10の内側面との間にのみ熱伝導性シート42が存在している場合における、定格走行時の二次電池セル41の面方向の温度分布および筐体10の厚さ方向の温度分布の計算結果を示す。第2膨縮部材22と接触している側面における二次電池セル41の温度は55℃(最高温度)であり、性能および耐久性の観点ではより低いことが望ましい。しかし本構成でも二次電池セル41の端部と筐体10の内面間に介在する熱伝導性シート42が放熱の役割を果たしている。以上、図2図3の比較により、二次電池セル41の層間に介在する熱伝導性シート42の有効性が明らかである。また熱伝導性シート42を全く使用しない場合には、二次電池セル41の最高温度は上記の55℃よりも格段に高くなることが推測できる。
【0058】
図4には、第1実施形態にしたがった場合(実施例)における、停止・充電時の二次電池セル41の面方向の温度分布および筐体10の厚さ方向の温度分布の計算結果を示す。二次電池セル41の最高温度は第2膨縮部材22との接触面にて42℃で、最適な温度範囲に抑えられている。ヒートシンクのある筐体10の外面温度は40℃で、手を触れても安全な温度である。
【0059】
図5には、比較のため図2と同じ条件で、二次電池セル41の側面と筐体10の内側面との間にのみ熱伝導性シート42が存在している場合における、停止・充電時の二次電池セル41の面方向の温度分布および筐体10の厚さ方向の温度分布の計算結果を示す。二次電池セル41の最高温度は第2膨縮部材22との接触面にて50℃となり、性能および耐久性の観点ではより低いことが望ましい。しかし本構成でも二次電池セル41の端部と筐体10の内面間に介在する熱伝導性シート42が放熱の役割を果たしている。以上、図4および図5の比較によっても、二次電池セルの層間に介在する熱伝導性シート42の有効性が明らかである。
【0060】
(第2実施形態)
図6には、本発明の第2実施形態としての筐体10を示す。第1実施形態の筐体10(図1参照)と比較して相違する事項について説明し、第1実施形態と共通する構成または対応する構成については、同一の符号を用いるとともに説明を省略する。第2実施形態では、複数の二次電池セル41が筐体10の一方の側壁部(図6の右側壁部)に偏在するように積層されている。熱伝導性シート42のはみだし部分は、複数の二次電池セル41の一方側と筐体10の当該一方の側壁部とにより挟まれている。第2加圧機構として単一の第2膨縮部材22が、筐体10の他方の側壁部(図6の左側壁部)と複数の二次電池セル41との間に配置されている。
【0061】
単一の第2膨縮部材22の内部空間の昇圧によって、熱伝導性シート42のはみだし部分が筐体10の一方の側壁部の内側面に対して押し付けられるように、複数の二次電池セル41がまとめて筐体10の壁部に向かって加圧される。よって放熱能力は前記実施例1より劣るが、構造が簡素な点がメリットである。
【0062】
(第3実施形態)
図7には、本発明の第3実施形態としての筐体10を示す。第2実施形態の筐体10(図6参照)と比較して相違する事項について説明し、第2実施形態と共通する構成または対応する構成については、同一の符号を用いるとともに説明を省略する。第3実施形態では、二次電池セル41がラミネートセルにより構成され、例えばアルミコーティングされたポリマー製のアウタースキンによりパウチまたは包摂されているため、その両側縁部が尖った尖端縁部414を構成する。この尖端縁部414のいずれか一方には、図示されていないが電極を備えている。このようなラミネートセルにおいては、通常は上述の実施例1および実施例2のように、互いに対向するいずれも電極を備えない面の一方の側面から他の側面に向かって加圧することが一般的だが、本実施例では両側縁部の尖った対向面を加圧する方策を示す。
【0063】
本構成においては、尖端縁部414が強く加圧されると、当該尖端縁部414が潰されて二次電池セル41が損傷する可能性がある。そのため両端の尖った部分に保護部材114を被せ、パウチを損傷することなく第2膨縮部材の加圧力を二次電池セル41に伝達し、かつ二次電池セル41の圧力を熱伝導性シート42および筐体10に作用させる構成とする。
【0064】
二次電池セル41は、一方側に配置されている第2膨縮部材22により一方の保護部材114を介して加圧され、他方側に配置されている熱伝導性シート42のはみだし部分を他方の保護部材114を介して筐体10の内側面に対して押し付ける。
【0065】
なおパウチの側面から加圧すると同時に、上述の両側縁部の尖った対向面を加圧する方策を併用することも可能である。その場合は熱伝導性シート42からのはみ出しは上記両方向とし、各々を折り曲げる構成とする。
【0066】
保護部材114は、難燃性であり、耐熱温度100℃以上であり、かつ、第2膨縮部材22の加圧力に耐える程度の強度が必要である。また軽量で量産性に適することが望ましい。例えば、アルミニウムおよびプラスチックなどがある。
【0067】
保護部材114の深さ(図7の上下一対の部分の左右方向のサイズ)は、二次電池セル41の両端の尖端縁部414の突出量(図7の左右方向のサイズ)よりも深いことが好ましい。保護部材114の厚さ(図7の上下方向のサイズ)は、二次電池セル41の厚さ(図7の上下方向のサイズ)よりもわずかに小さいことが好ましい。保護部材114の幅(図7の紙面垂直方向のサイズ)は、二次電池セル41の幅よりもわずかに小さいことが望ましい。
【0068】
(第4実施形態)
図8には、本発明の第4実施形態としての筐体10を示す。第1実施形態の筐体10(図1参照)と比較して相違する事項について説明し、第1実施形態と共通する構成または対応する構成については、同一の符号を用いるとともに説明を省略する。第4実施形態では、間に熱伝導性シート42を挟んだ状態で積層された複数の二次電池セル41からなる2つの二次電池セル群が、隣り合って筐体10の内部空間に配置されている。当該2つの二次電池セル群のそれぞれを構成する最も上にある二次電池セル41と蓋部12(筐体10の上端部)との間に、第1加圧機構として単一の第1膨縮部材21が配置されている。2つの二次電池セル群の間に第2加圧機構としての単一の第2膨縮部材22が配置されている。一方(図8の左側)の二次電池セル群のそれぞれを構成する二次電池セル41において、第2膨縮部材22の反対側と筐体10の一方の側壁部(図8の左側壁部)との間に熱伝導性シート42のはみだし部分が挟まれている。同様に、他方(図8の右側)の二次電池セル群のそれぞれを構成する二次電池セル41において、第2膨縮部材22の反対側と筐体10の他方の側壁部(図8の右側壁部)との間に熱伝導性シート42のはみだし部分が挟まれている。
【0069】
(第5実施形態)
図9には、本発明の第5実施形態としての筐体10を示す。第1実施形態の筐体10(図1参照)と比較して相違する事項について説明し、共通する構成または対応する構成については、同一の符号を用いるとともに説明を省略する。第5実施形態では、第1加圧機構が第1弾性付勢部材212および第1押し板214により構成され、第2加圧機構が第2弾性付勢部材222および第2押し板224により構成されている。
【0070】
第1弾性付勢部材212は筐体10の上壁部または蓋部12に反作用点を有し、二次電池セル41の側面(図9の上下面)に当接している第1押し板214に作用点を有するばね部材により構成されている。
【0071】
第2弾性付勢部材222は筐体10の側壁部に反作用点を有し、二次電池セル41の端面(図9の左右面)に当接している第2押し板224に作用点を有するばね部材により構成されている。
【0072】
本方式では、温度条件にかかわらずバネ部材が一定の加圧力を与えるため、膨縮部材と熱伝導性シートの相互作用により二次電池セルを適正温度に維持する自己制御性は期待出来ないが、膨縮部材内のガスを補充する手間が不要となる。当該バネ部材の数、設置位置および反発力は、膨縮部材を採用時と同等の大きさで均一な加圧力を実現できるように選定する。押し板はバネ部材に押されても変形しないような強度が必要である。その材質への要件としては難燃性で、耐熱温度100℃以上で、例えばアルミニウムなどが適する。
【符号の説明】
【0073】
10‥筐体
11‥本体部
12‥蓋部
21‥第1膨縮部材(第1加圧機構)
22‥第2膨縮部材(第2加圧機構)
41‥二次電池セル
42‥熱伝導性シート
101‥ボルト
102‥ナット
110‥ヒートシンク(放熱構造)
112‥第1フランジ部
114‥保護部材
120‥通気口
122‥第2フランジ部
210‥注入バルブ
212‥第1弾性付勢部材(第1加圧機構)
214‥第1押し板
220‥連通管
222‥第2弾性付勢部材(第2加圧機構)
224‥第2押し板
414‥尖端縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9