(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両の走行支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/16 20200101AFI20240528BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20240528BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60W30/16
B60W50/14
G08G1/16 E
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2020072240
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 滋
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-215906(JP,A)
【文献】特開2002-327635(JP,A)
【文献】特開2011-65442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に搭載されて該自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて、前記自車両の直前を走行する先行車を認識する先行車認識部と
を備える車両の走行支援装置において、
前記先行車認識部で認識した前記先行車及び該先行車前方の車列の車影を路面との輝度差に基づいて検出する車影検出部と、
前記車影検出部で検出した前記車影から前記先行車の車影と分離し
且つ手前の影よりも常に前方
にある車影が特定されたか否かを調べる前方車影判定部と、
前記前方車影判定部で前記前方の車影が特定された場合、該前方の車影に基づいて前記先行車と同一車列の先々行車の位置を推定する先々行車推定部と
を更に備えることを特徴とする車両の走行支援装置。
【請求項2】
自車両に搭載されて該自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて、前記自車両の直前を走行する先行車を認識する先行車認識部と、
前記先行車認識部で認識した前記先行車及び該先行車前方の車列の車影を路面との輝度差に基づいて検出する車影検出部と、
前記車影検出部で検出した前記車影から前記先行車の車影と分離した前方の車影が特定されたか否かを調べる前方車影判定部と、
前記前方車影判定部で前記前方の車影が特定された場合、該前方の車影に基づいて前記先行車と同一車列の先々行車の位置を推定する先々行車推定部と
を備える車両の走行支援装置において、
太陽の位置を示す天球図データを記憶する記憶部と、
現在の日時に基づき前記記憶部に記憶されている天球図データを参照して天球図上の太陽の位置を求める太陽位置推定部と、
前記自車両の移動によって特定される該自車両の進行方位角を取得する進行方位角取得部と、
前記太陽位置推定部で推定した前記太陽の位置と前記進行方位角取得部で取得した前記自車両の進行方位角とに基づいて太陽光の入射角を設定する入射角設定部と、
前記先行車認識部で認識した前記先行車に基づき該先行車の後部外郭を設定する先行車後部外郭設定部と、
前記先行車後部外郭設定部で設定した前記先行車の後部外郭と前記自車両前方の無限遠点とに基づいて前記先々行車の存在しうる領域を設定する先々行車領域設定部と、
前記先々行車領域設定部で設定した前記先々行車の存在しうる領域と前記入射角設定部で設定した前記太陽光の入射角とに基づいて前記車影の検出領域を設定する車影検出領域設定部と
を更に備え、
前記車影検出部は、前記車影検出領域設定部で設定した前記車影の検出領域内の影を前記車影と特定する
ことを特徴とす
る車両の走行支援装置。
【請求項3】
前記先々行車推定部は、前記前方車影判定部で前記前方の車影が特定された場合、該前方の車影に基づいて前記先々行車の存在しうる領域に該先々行車の後部外郭を設定し、前記先行車後部外郭設定部で設定した前記先行車の後部外郭を基準として前記先々行車の後部外郭の位置を推定する
ことを特徴とする請求項2記載の車両の走行支援装置。
【請求項4】
前記先行車後部外郭設定部で設定した前記先行車の後部外郭に対する前記先々行車推定部で推定した前記先々行車の後部外郭の時間的変化量に基づいて、該先々行車の急減速を推定する先々行車急減速推定部
を更に備えることを特徴とする請求項3記載の車両の走行支援装置。
【請求項5】
前記先々行車急減速推定部で前記先々行車の急減速を推定した場合、報知装置を駆動して運転車に前記先々行車の急減速を報知する急減速対応を行う急減速対応部
を更に備えることを特徴とする請求項4記載の車両の走行支援装置。
【請求項6】
前記先々行車急減速推定部で前記先々行車の急減速を推定した場合、前記先行車に対する目標車間距離を長い値に設定する急減速対応を行う急減速対応部
を更に備えることを特徴とする請求項4記載の車両の走行支援装置。
【請求項7】
前記急減速対応部は、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき前記太陽光の入射側の隣接車線であって前記先行車よりも前方を走行する隣接先々行車を認識し、且つ該隣接先々行車の車影が前記車影検出領域設定部で設定した前記車影の検出領域に入り込んでいると判定した場合は前記急減速対応を行わない
ことを特徴とする請求項5或いは6記載の車両の走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前方を走行する車両の車影から先々行車を推定する車両の走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の追従車間距離(ACC:Adaptive Cruise Control)制御は、直前を走行する車両(以下、「先行車」と称する)が、自車両に設定されている目標車間距離よりも先を走行している場合、或いは自車両の前方に先行車が検出されていない場合は、予め設定したセット車速で自車両を定速走行させる。
【0003】
又、先行車が目標車間距離に近づき、しかも自車両より遅い車速で走行している場合、ACC制御は自車両の車速を制御し、先行車に対して目標車間距離を維持した状態で追従走行させる。従って、先行車の急減速により車間距離が目標車間距離よりも短くなった場合、自車両もブレーキを作動させ、急減速させることで先行車との接触を回避する。
【0004】
この場合、先行車の前方を走行する車両(以下、「先々行車」と称する)の挙動を認識することができれば、先行車の急減速を予測し、余裕を持って自車両を減速させることができる。例えば、自車両から先行車のウインドウガラスを透過して先々行車の挙動を認識することができるのであれば、先々行車の挙動から先行車のブレーキタイミングを予測することができる。或いは、先行車のブレーキタイミングを待たずに、自車両を減速させることができる。
【0005】
しかし、例えば、先行車がバンボディトラックや大形トラック、大形バスのように、車体後部が閉塞されている車両では、自車両前方の視界が制限されるため、先々行車の挙動から先行車のブレーキタイミングを予測することが困難となる。この対策とし、例えば、特許文献1(特開2013-61274号公報)には、自車両に搭載されているレーダ波送信部から送信したレーダ波を、先行車下方の路面に反射させて先々行車に伝播させ、先々行車から反射したレーダ波を路面で反射させて、自車両の搭載されているレーダ波受信部で受信することで、先々行車を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている技術では、先行車下方の路面を反射させて先々行車にレーダ波を伝播させるようにしている。そのため、先行車が上述したような大形トラックや大形バス等のように車体の前後長が長い場合、路面を反射したレーダ波が先々行車方向へ伝播されず、先行車の車体フロアやシャーシに照射されてしまい、先々行車を誤認識する可能性がある。又、自車両と先行車との車間距離が長い場合も、路面を反射したレーダ波が先行車の床面に照射されやすくなり、先々行車を誤認識してしまう可能性がある。
【0008】
その結果、引用文献1に開示されている技術では、先々行車の存在を正確に検出することができず、先々行車の挙動から先行車のブレーキタイミングを正確に予測することが困難となる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、車体の前後長の長い車両が先行車であっても、先々行車の存在を高い精度で認識することができ、先々行車の挙動から先行車の急減速を予測することで、当該急減速に対して適切に対応することのできる車両の走行支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自車両に搭載されて該自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて、前記自車両の直前を走行する先行車を認識する先行車認識部とを備える車両の走行支援装置において、前記先行車認識部で認識した前記先行車及び該先行車前方の車列の車影を路面との輝度差に基づいて検出する車影検出部と、前記車影検出部で検出した前記車影から前記先行車の車影と分離し且つ手前の影よりも常に前方にある車影が特定されたか否かを調べる前方車影判定部と、前記前方車影判定部で前記前方の車影が特定された場合、該前方の車影に基づいて前記先行車と同一車列の先々行車の位置を推定する先々行車推定部とを更に備える。
本発明は、自車両に搭載されて該自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて、前記自車両の直前を走行する先行車を認識する先行車認識部と、前記先行車認識部で認識した前記先行車及び該先行車前方の車列の車影を路面との輝度差に基づいて検出する車影検出部と、前記車影検出部で検出した前記車影から前記先行車の車影と分離した前方の車影が特定されたか否かを調べる前方車影判定部と、前記前方車影判定部で前記前方の車影が特定された場合、該前方の車影に基づいて前記先行車と同一車列の先々行車の位置を推定する先々行車推定部とを備える車両の走行支援装置において、太陽の位置を示す天球図データを記憶する記憶部と、現在の日時に基づき前記記憶部に記憶されている天球図データを参照して天球図上の太陽の位置を求める太陽位置推定部と、前記自車両の移動によって特定される該自車両の進行方位角を取得する進行方位角取得部と、前記太陽位置推定部で推定した前記太陽の位置と前記進行方位角取得部で取得した前記自車両の進行方位角とに基づいて太陽光の入射角を設定する入射角設定部と、前記先行車認識部で認識した前記先行車に基づき該先行車の後部外郭を設定する先行車後部外郭設定部と、前記先行車後部外郭設定部で設定した前記先行車の後部外郭と前記自車両前方の無限遠点とに基づいて前記先々行車の存在しうる領域を設定する先々行車領域設定部と、前記先々行車領域設定部で設定した前記先々行車の存在しうる領域と前記入射角設定部で設定した前記太陽光の入射角とに基づいて前記車影の検出領域を設定する車影検出領域設定部とを更に備え、前記車影検出部は、前記車影検出領域設定部で設定した前記車影の検出領域内の影を前記車影と特定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、先行車及び、この先行車前方の車列の車影を路面との輝度差に基づいて検出し、検出した車影から先行車の車影と分離した前方の車影が特定された場合、当該前方の車影に基づいて先行車と同一車列の先々行車の位置を推定するようにしたので、先行車で遮蔽されて先々行車を直接認識することができず、しかも先行車の車体の前後長が長い場合であっても、前方の車影から先々行車の存在を高い精度で認識することができる。又、先々行車の挙動から先行車の急減速を予測することが可能となり、当該急減速に対して適切に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】先々行車推定処理サブルーチンを示すフローチャート
【
図4】隣接先々行車車影検出処理サブルーチンを示すフローチャート
【
図5】先々行車急減速推定処理サブルーチンを示すフローチャート
【
図6】自車位置を中心とした太陽の軌道を示す天球図
【
図7】先行車と先々行車に対する自車両の視野範囲を示す説明図
【
図8】先行車と隣接車線を走行する先々行車に対する自車両の視野範囲を示す説明図
【
図9】カメラで認識した先行車の後部外郭に基づいて先々行車が存在しうる位置を推定する態様を示す説明図
【
図10】先々行車の車影を検出する領域を設定する態様を示す説明図
【
図11】先行車の車影と先々行車の車影とを切り分ける態様を示す説明図
【
図12】先々行車の車影から車体位置を推定する態様を示す説明図
【
図13】(a)は先行車と先々行車とが定速走行している状態の説明図、(b)は先々行車が急減速した状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1の符号1は走行支援装置であり、自車両M(
図7、
図8参照)に搭載されている。この走行支援装置1は、走行制御ユニット11とカメラユニット21とを備えている。尚、走行制御ユニット11、及びカメラユニット21に備えられている後述の前方走行環境取得部21dは、CPU,RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやテーブル、マップ等の固定データ等が予め記憶されている。
【0014】
カメラユニット21は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向の中央(車幅中央)を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21c、及び走行環境情報取得部としての前方走行環境取得部21dとを有している。このカメラユニット21は、メインカメラ21aで基準画像データを撮像し、サブカメラ21bで比較画像データを撮像する。
【0015】
そして、この両画像データをIPU21cにて所定に画像処理する。前方走行環境取得部21dは、IPU21cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込み、その視差に基づいて両画像中の同一対象物を認識すると共に、その距離データ(自車両Mから対象物までの距離)を、三角測量の原理を利用して算出して、前方走行環境情報を取得する。
【0016】
この前方走行環境情報には、自車両Mが走行する車線(走行車線)の道路形状(左右を区画する区画線、区画線間中央の道路曲率[1/m]、及び左右区画線間の幅(車線幅))、前方障害物(先行車、横断歩行者、自転車、電柱、電信柱、駐車車両等)、信号機及び信号現示(点灯色)等が含まれており、これらを周知のパターンマッチング等の手法を用いて認識する。更に、前方走行環境情報には、前方を走行する車両の路面に投影された影(以下、「車影」と称する)が含まれている。尚、この車影は、道路上を移動し、且つ路面との輝度差を有するエッジを検出することで特定する。
【0017】
この前方走行環境情報は走行制御ユニット11で読込まれる。この走行制御ユニット11の入力側に、上述した前方走行環境取得部21dとGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)受信機22、及び太陽光の強度を検出する照度センサ23が接続されている。GNSS受信機22は複数の測位衛星から発信される測位信号と時刻信号を受信する。尚、照度センサ23はフロントガラスの内側に配設されている。
【0018】
又、この走行制御ユニット11の出力側に、対象物との衝突を回避すべく強制ブレーキにより自車両Mを減速させるブレーキ駆動部31、エンジンやモータ等の駆動源41の出力を、運転者のアクセル操作量に対し必要に応じて制限する加減速駆動部32、電動パワーステアリング(EPS)モータ(図示せず)を駆動するEPS駆動部33、運転者に注意を促す情報を報知するモニタ、スピーカ等の報知装置34が接続されている。
【0019】
走行制御ユニット11は、前方走行環境取得部21dで取得した前方走行環境情報に基づき、周知のACC(Adaptive Cruise Control)、及び車線維持(ALK:Active Lane Keep)制御を実行する。ACC制御は、自車両Mに設定されている目標車間距離よりも遠方に先行車P1(
図7、
図8参照)を認識し、或いは先行車が検出されない場合は、予め設定したセット車速で自車両Mを定速走行させる。又、ACC制御は、目標車間距離に接近する先行車P1を検出した場合は、当該先行車P1を追従対象として、追従走行制御を実行させる。一方、ALK制御は、前方走行環境情報で取得した左右の区画線(いわゆる、白線)のほぼ中央を走行するようにEPS駆動部33に駆動信号を送信して操舵制御を行う。
【0020】
更に、走行制御ユニット11は、GNSS受信機22からの測位信号に基づいて、自車両Mの現在位置(緯度、経度、高度を特定する座標)、及び自車両Mが進行している方位角を求める。又、時刻信号に基づいて走行制御ユニット11に備えられている時計の日時及び時刻を修正する。尚、この時計の日時及び時刻は路側機の内部時計からの信号を利用して修正してもよい。従って、走行制御ユニット11は、本発明の自車位置検出部としての機能を備えている。
【0021】
走行制御ユニット11で実行されるACC制御では、追従対象の先行車P1が検出された場合、先行車P1に追従する追従走行制御を実行する。その際、現在の日時(日付及び時刻)から、不揮発性記憶部に格納されている太陽の位置を示す天球図データを参照して現在の太陽Snの高度(太陽高度)Hsnを調べる。
【0022】
図6に示す天球図には、ある季節(春分の日、或いは秋分の日等)の太陽Snの軌道が例示されている。不揮発性記憶部には、太陽Snの年間軌道を示す天球図データが予め記憶されており、この年間軌道は太陽Snの南中高度(子午線と交差する位置)Hsuが低くなるに従い冬季に近づき、逆に高くなるに従い夏季に近づく。
【0023】
走行制御ユニット11は、現在の日付、及び時間に基づき天球データを参照して、天球上の太陽の位置(方位角及び太陽高度Hsn)を推定し、自車両Mの進行方位角に対する太陽光の入射角(方位角、及び仰角)Slを設定する。そして、この太陽光の入射角Slに基づいて車影の延在する方向を推定する。次いで、先行車P1よりも前方の車影を検出し、この車影の位置から先々行車P2を示す位置を推定する。そして、この先々行車を示す位置の前後変動から先々行車P2の急制動を推定する。
【0024】
上述した走行制御ユニット11での追従走行制御は、具体的には、
図2に示す追従走行制御ルーチンに従って実行される。このルーチンでは、先ず、ステップS1で、カメラユニット21の前方走行環境取得部21dで取得した前方走行環境情報を取得する。そして、ステップS2へ進み、この前方走行環境情報から目標車間距離に相対的に近づく先行車P1、或いは目標車間距離内に位置する先行車P1が存在しているか否かの先行車認識処理を実行する。尚、このステップS2での処理が、本発明の先行車認識部に対応している。
【0025】
次いで、ステップS3ヘ進み、先行車P1が認識されたか否かを調べ、先行車P1が認識された場合は、ステップS4へ進む。又、先行車P1が認識されなかった場合は、ルーチンを抜ける。従って、先行車P1が検出されなかった場合、ACC制御はセット車速を維持する定速走行制御を実行する。
【0026】
又、ステップS4へ進むと、照度センサ23の検出値、すなわち、太陽光の強度を読込む。そして、ステップS5へ進み、太陽光の強度が予め設定したしきい値以上か否かを調べる。このしきい値は路面に投影される車影を、カメラユニット21で明確に認識できるか否かを判定する値である。すなわち、太陽光の強度が弱いと車影のエッジを明確に検出することが困難となり、先々行車P2を検出する精度が低下するため、このしきい値で振り分けることで誤判定を防止する。尚、このしきい値は予め実験により、カメラユニット21の特性に応じて設定する。
【0027】
そして、太陽光の強度が所定しきい値未満の場合は、ルーチンを抜ける。又、太陽光の強度がしきい値以上の場合は、ステップS6へ進む。ステップS6では先々行車推定処理を実行して、ステップS7へ進む。
【0028】
ステップS6での先々行車推定処理は、
図3に示す先々行車推定処理サブルーチンに従って実行される。
【0029】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS21で、前方走行環境取得部21dで取得した前方走行環境情報に基づき先行車P1の前方の先々行車P2が直接認識されているか否かを調べ、先々行車P2が直接認識されている場合は、ステップS29へジャンプする。一方、先々行車P2を直接認識することができない場合は、ステップS22へ進む。
【0030】
すなわち、例えば、先行車P1が乗用車で、先々行車P2がバンボディトラック、大形トラック、大型バスのように、車高が先行車P1よりも高く、しかも先行車P1の車体背面によって前方の視界が遮られている場合、自車両Mに搭載されているカメラユニット21のカメラ21a,21bでは先行車P1の前方を直接認識することができない。一方、先行車P1が乗用車のようにリヤガラスを通して前方が認識できる場合、カメラユニット21のカメラ21a,21bから先行車P1のウインドウガラスを通して先々行車P2の挙動を直接認識することができる。尚、先々行車P2を直接認識することができない状態には、先々行車P2が存在しない状態も含まれる。
【0031】
しかし、先行車P1にて自車両Mに搭載されているカメラ21a、21bの視野が遮られた場合であっても、
図7に示すように、前方走行環境取得部21dはカメラ21a,21bの視野角θMから先行車P1によって遮られた視野角θP1を除いた左右の部分によって前方を認識することは可能である。そのため、以下のステップにおいては、先々行車P2の車影SP2を検出し、この車影SP2によって先々行車P2の存在を推定する。
【0032】
先ず、ステップS22では、先々行車P2の存在しうる領域を設定する。すなわち、このステップでは、先ず、
図9に示すように、先行車P1の背面のエッジ部分の輝度差から先行車P1のおおよその後部外郭(輪郭)IP1を設定し、この後部外郭IP1の四隅と、カメラ21a,21bによって撮像された、自車両M前方の画像上の無限遠点(消失点)Oとを結ぶ前方領域を設定する。
【0033】
先々行車P2が先行車P1と同一車列で走行していれば、この先々行車Pは前方領域の何れかに存在していることになる。従って、この前方領域が先々行車P2の存在しうる領域Rとなる。尚、符号SP1は先行車P1の車影である。従って、ステップS22で実行される処理に、本発明の先行車後部外郭設定部及び先々行車領域設定部が含まれている。
【0034】
その後、ステップS23へ進み、太陽光の入射角(方位角、及び仰角)Sl(
図10参照)を設定する。太陽光の入射角Slは、現在の日時及び自車両Mが進行している方位によって変化する。太陽光の入射角Slを求めるには、先ず、現在の日時(日付及び時刻)から天球図データを参照して、現在の太陽Snの天球図上における方位角及び太陽高度Hsnを調べる。
【0035】
又、GNSS受信機22からの測位信号に基づいて求めた自車両Mの移動による位置の時間的変化から、自車位置及び進行方位角と前後傾斜角とを求める。次いで、この自車両Mの自車位置及び進行方位角及び前後傾斜角と、太陽Snの天球図上の方位角及び太陽高度Hsnとに基づいて、自車両Mに対する太陽光の入射角(方位角、及び仰角)Slを設定する。従って、このステップS23で実行される処理に、本発明の太陽位置推定部、進行方位角取得部、及び入射角設定部が含まれている。
【0036】
次いで、ステップS24へ進み、先々行車P2の車影を検出するための車影検出領域D(
図10参照)を設定する。尚、このステップでの処理が、本発明の車影検出領域設定部に対応している。
【0037】
この車影検出領域Dは、ステップS22で検出した先々行車P2の存在しうる領域Rに対し、ステップS23で設定した入射角Slで太陽光を照射した際に形成されうる日影の領域である。車影検出領域Dを設定することで、先行車P1前方の車列によって形成される車影のみを精度良く取得することができる。尚、この車影検出領域Dは走行中において逐次設定される。
【0038】
その後、ステップS25へ進み、車影検出領域Dに影が検出されているか否かを調べ、検出された場合、その影を車影として特定する。車影の特定は、先ず、車影検出領域D内の路面と影の部分との境界(エッジ)を輝度差により求め、その境界枠(輪郭)を設定する。
【0039】
そして、例えば、
図11に示すように、手前の影と先方の影とが分離されて設定され、且つ、先の影が常に手前の影よりも前にあると判定した場合、手前の影を先行車P1の車影SP1として特定し、先の影を先々行車P2の車影SP2と特定する。その際、車影検出領域D内の影が1つで、先行車P1の車影SP1のみが特定された場合、先々行車P2の車影は特定できないと判定する。尚、ステップS25での処理が、本発明の車影検出部に対応している。
【0040】
その後、ステップS26へ進み、車影検出領域Dに先々行車P2の車影SP2が特定されたか否かを調べ、特定されている場合はステップS27へ進む。又、車影SP2が特定されなかった場合は、先々行車P2の存在を明確に識別することができないためステップS30へ分岐する。尚、ステップS25,S26での処理が、本発明の前方車影判定部に対応している。
【0041】
ステップS27へ進むと、太陽光の入射側の隣接車線を走行する先々行車(隣接先々行車)P3の車影SP3の検出処理を実行して、ステップS28へ進む。ここで、隣接先々行車P3とは、太陽光側の隣接車線を走行する車両であって、先行車P1よりも前方を走行している車両を云う。
【0042】
ステップS27での隣接先々行車車影検出処理は、
図4に示す隣接先々行車車影検出処理サブルーチンに従って実行される。
【0043】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS31で、前方走行環境情報に基づき、太陽光の入射側の隣接車線を走行する先行車(隣接先々行車)P3が認識されているか否かを調べる。
図8に示すように、自車両Mに搭載されているカメラ21a,21bの視野角θMのうち先行車P1によって視野角θP1が阻害されても、太陽光の入射側の隣接車線を認識することができれば、制限された視野範囲であっても隣接先々行車P3が存在するか否かをある程度認識することは可能である。
【0044】
そして、隣接先々行車P3が認識されている場合はステップS32へ進む。又、隣接先々行車P3が認識されていない場合は、ステップS36へジャンプする。尚、この隣接先々行車P3が認識されていない状態には、
図7に示すように自車両Mが太陽光の入射側の車線を走行しているために隣接車線が検出されない場合も含まれる。
【0045】
ステップS32へ進むと、前方走行環境情報に基づき隣接先々行車P3の車高HP3を推定する。この隣接先々行車P3の車高HP3の求め方は種々知られている。例えば、自車両Mから隣接先々行車P3までの距離に基づき、隣接先々行車P3の背面を撮像している画像の画素ピッチを距離に換算し、路面接地位置から車体背面の頂部までの画素数に基づいて車高HP3を算出する。
【0046】
その後、ステップS33へ進み、車影SP3の延在する方向を、隣接先々行車P3の車高HP3と、ステップS23で設定した太陽光の入射角Slとに基づいて推定する。次いで、ステップS34へ進み、車影SP3が、ステップS24で設定した車影検出領域Dに入り込んでいるか否かを調べる。そして、車影SP3が車影検出領域Dに入り込んでいる場合は、ステップS35へ進み、隣接先々行車車影判定フラグFP3をセットして(FP3←1)、
図3のステップS28へ進む。又、車影SP3が車影検出領域Dに入り込んでいない場合は、ステップS36へ分岐し、隣接先々行車車影判定フラグFP3をクリアして(FP3←0)、
図3のステップS28へ進む。
【0047】
例えば、
図8に示すように、隣接先々行車P3の車高HP3が、大型トラック、大型バスのように高く、しかも、低い仰角の入射角Slで太陽光が隣接先々行車P3を照射している場合、車影SP3は自車両Mが走行する車線を跨いで反対側の隣接車線まで延在する場合がある。その結果、この車影SP3を自車両Mが走行する車線の前方を走行する先々行車P2のものであると誤認する可能性がある。そのため、車影SP3が車影検出領域D(
図10~
図12参照)に入り込んでいると推定した場合は、隣接先々行車車影判定フラグFP3をセットして(FP3←1)、誤判定を防止する。
【0048】
そして、
図3のステップS28へ進むと、隣接先々行車車影判定フラグFP3の値を参照し、車影SP3が車影検出領域Dに入り込んでいる場合(FP3=0)は、ステップS29へ進む。又、車影SP3が車影検出領域Dに入り込んでいない場合は(FP3=1)、ステップS30へ分岐する。
【0049】
ステップS21、或いはステップS28からステップS29へ進むと、車影検出フラグFP2をセットして(FP2←1)、
図2のステップS7へ進む。一方、ステップS26、或いはステップS28からステップS30へ分岐すると、車影検出フラグFP2をクリアして(FP2←0)、
図2のステップS7へ進む。
【0050】
図2のステップS7では、車影検出フラグFP2の値を参照する。そして、先々行車P2の車影SP2が検出されている場合は(FP2=1)、ステップS8へ進む。又、先々行車P2の車影SP2が認識されていない場合は(FP2=0)、ステップS11へジャンプする。
【0051】
ステップS8へ進むと、先々行車P2の急減速推定処理を実行する。このステップS8での処理は、
図5に示す先々行車急減速推定処理サブルーチンで実行される。
【0052】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS41で、ステップS25で検出した先々行車P2の車影SP2が、車影検出領域D内に収まっているか否かを調べる。そして、先々行車P2が車影検出領域D内に収まっている場合は、ステップS43へ進む。一方、先々行車P2が車影検出領域Dからはみだしている場合は、ステップS42へ分岐する。
【0053】
ステップS42では、車影検出領域Dを車影SP2の境界枠まで拡大させて、ステップS43へ進む。車影検出領域Dを拡大させることで、
図11に示す先行車P1の後部外郭IP1の高さ方向が仮想的に広がり、車体の大きな先々行車P2の後部位置を精度良く推定することができる。
【0054】
そして、ステップS41、或いはステップS42からステップS43へ進むと、車影SP2の境界枠(輪郭)から先々行車P2の後部位置を示す後部外郭(先々行車後部外郭)IP2(
図12参照)を設定し、これにより、先々行車SP2の位置を推定する。尚、このステップでの処理が、本発明の先々行車推定部に対応している。
【0055】
すなわち、先々行車P2の車影SP2は、太陽光を先々行車P2が受けることで形成される。従って、
図7に示すように、車影SP2の形状は太陽光の入射角Slと太陽光によって形成される先々行車P2のシルエットとでほぼ決定される。
【0056】
そのため、
図12に示すように、先々行車P2の後端のエッジで形成された車影SP2の境界枠を、太陽光の入射角Slへ延長させて、先々行車P2の存在しうる領域Rの太陽光側の下線と交差させる。次いで、この交点を基準として、先々行車P2の存在しうる領域Rの四隅を直角に結び、先々行車後部外郭IP2を設定する。尚、本実施形態では、先々行車P2の急減速動作を検出できれば良いので、先々行車P2の車体の大きさや実際の車体形状、自車両Mや先行車P1との車間距離を測定する必要はない。
【0057】
次いで、ステップS44へ進み、先行車P1の後部外郭IP1と先々行車後部外郭IP2との車幅方向或いは車高方向の撮像面、又は、後部外郭IP1,FP2の全体の画素数nP1,nP2の比ε(ε←nP2/nP1)を算出する。そして、ステップS45で、前回の演算時に算出した画素数nP1,nP2の比ε(n-1)と、今回求めた画素数nP1,nP2の比ε(n-1)との差分から時間的変化量Δε(Δε←ε(n-1)-ε)を算出する。尚、(n-1)は前回の演算を示す。
【0058】
すなわち、例えば、
図13(a)に示すように、先行車P1が所定の車間距離を維持した状態で先々行車P2を追従している場合、先行車P1の後部外郭IP1に対して先々行車後部外郭IP2は急激に変化することは無い。これに対し、先々行車P2が急減速すると、当然、先行車P1と先々行車P2との車間距離が短くなるため、
図13(b)に示すように、先行車P1の後部外郭IP1に対して先々行車後部外郭IP2が増大される。従って、先行車P1の後部外郭IP1に対する先々行車後部外郭IP2の変化を継続的に監視することで、先々行車P2の急減速をいち早く推定することができる。その結果、先行車P1の前後長が長い場合であっても、先々行車P2を認識し、その急減速を推定することができる。
【0059】
ところで、先行車P1の車影SP1と先々行車P2の車影SP2との間の間隔を監視し、この間隔が狭くなった場合に、急減速と推定することも可能である。しかし、車両の進行方位はカーブ、右左折等により常に変化し、相対的に太陽光の入射角Slも変化するため、車影SP1,SP2の間隔の変化から急減速を推定することは困難である。
【0060】
その後、ステップS46へ進み、画素数nP1,nP2の比εの変化量Δεと予め設定されている急減速判定値εoとを比較する。この急減速判定値εoは予め実験等から求めて設定したものである。尚、ステップS44~S46での処理が、本発明の先々行車急減速推定部に対応している。
【0061】
そして、Δε≧εoの場合、先々行車P2は急減速したと推定し、ステップS47へ進み、急減速フラグFdecをセットして、
図2のステップS9へ進む。一方、Δε<εoの場合、先々行車P2は定常走行していると推定し、ステップS48へ分岐し、急減速フラグFdecをクリアして、
図2のステップS9へ進む
図2のステップS9へ進むと、急減速フラグFdecの値を参照する。そして、Fdec=1の場合、先々行車P2は急減速したと推定し、ステップS10へ進む。又、Fdec=1の場合、先々行車P2は定速走行していると推定し、ステップS11へ分岐する。
【0062】
ステップS10へ進むと、急減速に対応する急減速対応制御を実行してルーチンを抜ける。又、ステップS7、或いはステップS9からステップS11へ分岐すると、従来と同様の先行車追従走行制御を継続させてルーチンを抜ける。尚、このステップS10での処理が、本発明の急減速対応部に対応している。
【0063】
ステップS10で実行する急減速対応制御としては、例えば目標車間距離を長い値に設定する。これにより、先行車P1が急減速したとしても、自車両Mは余裕を持って減速させて、追従走行制御を継続させることができる。或いは、運転者に先々行車P2の急減速を報知装置34にて報知する。これにより、運転者はブレーキオーバライドにより減速させ、車間距離を広げることで先行車の急減速に備えることができる。又、隣接車線へ車線変更することが可能であれば、運転者に車線変更を促す案内を報知装置34にて報知することで先行車P1の急減速に対し、事前に対応させることも可能である。
【0064】
このように、本実施形態によれば、自車両Mと同一の車線を走行する先行車P1によって先々行車P2を直接認識できない場合であっても、先々行車P2の車影SP2から先々行車P2を示す位置を推定するようにしたので、先行車P1の前後長が長い場合であっても、誤認識すること無く、先々行車P2を示す位置を高い精度で推定することができる。
【0065】
又、先々行車後部外郭IP2の前後相対移動から、その後の先行車P1の急減速を予測するため、先行車P1が先々行車P2の急減速を認識して急減速する場合に、この先行車P1の急減速に対し、余裕を持って適切に対応することができる。
【0066】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、
図2に示す追従走行制御ルーチンのステップS10における急減速対応制御が、単に、報知装置34による運転者への警告報知のみであれば、本実施形態の特徴部分を、ACC制御やALK制御等からなるアシスト制御ユニットが搭載されていない通常のマニュアルトランスミッション車やオートマチックトランスミッション車に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…走行支援装置、
11…走行制御ユニット、
21…カメラユニット、
21a…メインカメラ、
21b…サブカメラ、
21c…画像処理ユニット、
21d…前方走行環境取得部、
22…GNSS受信機、
23…照度センサ、
31…ブレーキ駆動部、
32…加減速駆動部、
33…EPS駆動部、
34…報知装置、
41…駆動源、
D…車影検出領域、
FP2…車影検出フラグ、
FP3…隣接先々行車車影判定フラグ、
Fdec…急減速フラグ、
HP3…車高、
Hsn…太陽高度、
IP1…(先行車の)後部外郭、
IP2…先々行車後部外郭、
M…自車両、
O…無限遠点、
P1…先行車、
P2…先々行車、
P3…隣接先々行車、
R…(先々行車の)存在しうる領域、
SP1,SP2,SP3…車影、
Sl…入射角、
Sn…太陽、
nP1,nP2…画素数、
Δε…変化量、
ε,ε(n-1)…比、
εo…急減速判定値、
θM,θP1…視野角