(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】アルカリ二次電池用の正極及びアルカリ二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20240528BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20240528BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/62 C
H01M4/24 J
H01M10/30
(21)【出願番号】P 2020055688
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】山根 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】井本 雄三
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-106179(JP,A)
【文献】特開2006-100178(JP,A)
【文献】特開2005-226064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/32
H01M 4/62
H01M 4/36
H01M 4/24
H01M 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯材と、前記正極芯材に充填されている正極合剤とを有するアルカリ二次電池用の正極において、
前記正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルの粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末と、導電材とを含んでおり、
前記水酸化ニッケルの粒子は、その表面に、価数が3価を超える高次化された高次コバルト化合物であって、ナトリウムを含有している高次コバルト化合物で形成された導電層を有しており、
前記導電材は、価数が3価を超える高次化された高次コバルト化合物であって、ナトリウムを含有している高次コバルト化合物
の粒子の集合体であるナトリウム含有高次コバルト化合物粉末であり、
前記導電材の量は、前記正極活物質100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下である、アルカリ二次電池用の正極。
【請求項2】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、
前記正極は、請求項
1に記載のアルカリ二次電池用の正極である、アルカリ二次電池。
【請求項3】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項
2に記載のアルカリ二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ二次電池用の正極及びアルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池用の正極として、一般的に非焼結式のニッケル正極が用いられている。この非焼結式のニッケル正極は、正極活物質である水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の微粒子を含む正極活物質合剤のペーストを三次元網目構造の発泡ニッケル(正極芯材)に充填し、乾燥後、加圧成形することにより製造される(例えば、特許文献1)。この非焼結式のニッケル正極は、正極芯材中に水酸化ニッケルを多量に充填できるので、従来用いられていた焼結式のニッケル正極に比べ、単位体積当たりの充放電の容量が大きく、電池の高容量化に貢献する。
【0003】
アルカリ二次電池の正極において正極活物質は、放電された状態では、水酸化ニッケルである。そして、充電の進行にともない、水酸化ニッケルは、酸化されてオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)となる。充電が完了し、放電が開始されると、放電の進行にともない、オキシ水酸化ニッケルは還元されて水酸化ニッケル(Ni(OH)2)に変化する。
【0004】
ところで、水酸化ニッケル自体は導電性が低くいので、放電の進行にともない正極活物質粒子間や正極活物質粒子と正極芯材との間の導電性ネットワークが部分的に断たれ、正極活物質の利用率が低下してしまう。そのため、正極活物質の利用率向上のため、正極合剤には、高導電性を付与するために導電材が添加される。このような導電材としては、例えば、水酸化コバルトを用いることが一般的である(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-131765号公報
【文献】特開平1-315962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したようなアルカリ二次電池は、高容量を発揮するものの自己放電を起こしやすい。自己放電とは、電池を負荷に接続して実際に放電させたわけではないのに、電池内で放電と同じ化学反応が起きてしまい、電池の残存容量が徐々に減っていく現象のことである。自己放電の主なものとしては、例えば、正極の自己分解がある。これは、正極内で、以下のI式のような自己分解反応が起こり、オキシ水酸化ニッケルが還元されるタイプのものが挙げられる。
NiOOH+OH-→Ni(OH)2+1/2O2・・・(I)
【0007】
自己放電を起こしやすい電池は、電池を充電した後に長い間放置すると電池の残存容量が著しく減少し、使用する直前に再度充電する必要があり、使い勝手が悪い。
【0008】
このため、アルカリ二次電池の用途の拡大にともない、自己放電が少なく、より使い勝手が良いアルカリ二次電池の開発が望まれている。
【0009】
ところで、アルカリ二次電池においては、特に、水酸化コバルトを導電材として添加した場合、自己放電が起こりやすい傾向が見られる。つまり、正極活物質の利用率向上のために水酸化コバルトを添加するものの、自己放電特性は低下してしまうという不具合が起こる。このため、正極活物質の利用率が高く、且つ、自己放電が少ない電池の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、正極活物質の利用率の向上及び自己放電の抑制の両立を図ることができるアルカリ二次電池用の正極及びアルカリ二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、正極芯材と、前記正極芯材に充填されている正極合剤とを有するアルカリ二次電池用の正極において、前記正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルの粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末と、導電材とを含んでおり、前記導電材は、価数が3価を超える高次化された高次コバルト化合物であって、ナトリウムを含有している高次コバルト化合物であり、前記導電材の量は、前記正極活物質100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下である、アルカリ二次電池用の正極が提供される。
【0012】
前記水酸化ニッケルの粒子は、その表面にナトリウム含有高次コバルト化合物で形成された導電層を有している構成とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、前記正極は、上記のアルカリ二次電池用の正極である、アルカリ二次電池が提供される。
【0014】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルカリ二次電池用の正極は、正極芯材と、前記正極芯材に充填されている正極合剤とを有するアルカリ二次電池用の正極において、前記正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルの粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末と、導電材とを含んでおり、前記導電材は、価数が3価を超える高次化された高次コバルト化合物であって、ナトリウムを含有している高次コバルト化合物であり、前記導電材の量は、前記正極活物質100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下である。この構成により、高い導電性を発揮しつつ、自己放電を低く抑えることができる。このため、本発明によれば、正極活物質の利用率の向上及び自己放電の抑制の両立を図ることができるアルカリ二次電池用の正極及びアルカリ二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態に係るニッケル水素二次電池(以下、電池という)2について、図面を参照して説明する。
【0018】
電池2は、例えば、AAサイズの円筒型電池である。詳しくは、
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす容器としての外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口するとともに正極端子20を提供する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0019】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0020】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0021】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28を含んでいる。詳しくは、これら正極24及び負極26は、セパレータ28を間に挟み込んだ状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成されており、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0022】
外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39内を通って延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0023】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH、LiOH等を溶質として含むアルカリ水溶液を用いることが好ましい。
【0024】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維を主体とする不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようなスルホン基を有する繊維を含むセパレータを用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。
【0025】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極芯材と、この正極芯材の空孔内に保持された正極合剤とを含んでいる。上記したような正極芯材としては、例えば、発泡ニッケルを用いることができる。
【0026】
正極合剤は、正極活物質、導電材及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質及び導電材を結着させるとともに正極合剤を正極芯材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0027】
正極活物質としては、水酸化ニッケルが用いられる。この水酸化ニッケルの形態としては、粉末状のものが用いられる。つまり、水酸化ニッケル粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末が用いられる。
【0028】
上記した水酸化ニッケル粒子の表面には、導電層が形成されている態様とすることが好ましい。この導電層は、ナトリウムを含有しているコバルト化合物(以下、ナトリウム含有高次コバルト化合物ともいう)により形成されていることが好ましい。ここで、ナトリウム含有高次コバルト化合物は、詳しくは、ナトリウムを含有するオキシ水酸化コバルトに類似する構造を持つコバルト化合物である。このナトリウム含有高次コバルト化合物は価数が3価を超える程度にまで高次化されており、極めて高い導電性を有することから、正極内にて活物質の利用率を高めることができる良好な導電性ネットワークを形成する。また、ナトリウムの作用により、導電層の安定性が増すので好ましい。
【0029】
また、上記した水酸化ニッケル粒子は高次化されている高次水酸化ニッケル粒子であると導電性が向上するので好ましい。更に、上記した水酸化ニッケル粒子には、必要に応じて、亜鉛やコバルトを固溶させることが好ましい。亜鉛は正極の充放電に伴う膨化を抑制し、電解液の枯渇を防止する。また、コバルトは水酸化ニッケルの導電性を確保する効果を有している。
【0030】
導電材としては、価数が3価を超える程度にまで高次化された高次コバルト化合物であって、ナトリウムを含有している高次コバルト化合物(以下、ナトリウム含有高次コバルト化合物ともいう)が用いられる。ここで、ナトリウム含有高次コバルト化合物とは、ナトリウムを含有するオキシ水酸化コバルトに類似する構造を持つコバルト化合物のことをいう。上記したナトリウム含有高次コバルト化合物の形態としては、粉末状のものが用いられる。つまり、ナトリウム含有高次コバルト化合物粒子の集合体であるナトリウム含有高次コバルト化合物粉末が用いられる。ナトリウム含有高次コバルト化合物は、導電性に優れるため、正極活物質の利用率の向上に貢献する。また、ナトリウム含有高次コバルト化合物は、オキシ水酸化ニッケルの還元を抑制する効果も奏するため、電池の自己放電を抑制し、電池の自己放電特性の改善に貢献する。
【0031】
ここで、導電材は、例えば、以下のようにして製造することができる。
水酸化コバルト粒子を高温環境下にて酸素を含む空気中に対流させ、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しつつ、所定の加熱温度、所定の加熱時間で加熱処理を施す。ここで前記加熱処理は80~100℃、30分~2時間保持する。この処理により水酸化コバルトは、ナトリウム含有高次コバルト化合物になる。このようにして、導電材を得る。
【0032】
正極合剤に添加される導電材としてのナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の量は、上記した正極活物質である水酸化ニッケル粉末100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下とする。ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の量が0.5質量部未満であると十分な自己放電抑制効果を得ることができない。一方、ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の量が5.0質量部を超えると自己放電抑制効果の度合いが少なくなってくるとともに、正極における水酸化ニッケルの量が相対的に減り、電池の容量低下を招く。このため、ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の量は、上記の数値範囲とする。
【0033】
また、必要に応じて正極活物質には正極添加剤を添加することが好ましい。この正極添加剤は、正極の特性を改善するために添加されるものであり、例えば、酸化イットリウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
【0034】
正極活物質は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、硫酸ニッケルの水溶液を調製する。この硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケル粒子を析出させる。ここで、水酸化ニッケル粒子に亜鉛、及びコバルトを固溶させる場合は、所定組成となるよう硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、及び硫酸コバルトを計量し、これらの混合水溶液を調製する。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、及びコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を析出させる。なお、上記した亜鉛及びコバルトは、両方とも固溶させる態様でもよく、どちらか一方のみ固溶させる態様でもよい。
【0035】
上記のようにして得られた水酸化ニッケル粒子の表面に導電層を形成する場合は、例えば、以下に示すような手順により導電層を形成する。
【0036】
まず、上記のようにして得られた水酸化ニッケル粒子をアンモニア水溶液中に投入し、この水溶液中に硫酸コバルト水溶液を加える。これにより、水酸化ニッケル粒子を核として、この核の表面に水酸化コバルトが析出し、水酸化コバルトの層を備えた中間体粒子が形成される。得られた中間体粒子は、高温環境下にて酸素を含む空気中に対流させられ、水酸化ナトリウム水溶液が噴霧されつつ、所定の加熱温度、所定の加熱時間で加熱処理が施される。ここで、前記加熱処理は、80℃~100℃で、30分~2時間保持することが好ましい。この処理により、前記中間体粒子の表面の水酸化コバルトは、価数が3価を超える導電性の高い高次コバルト化合物(オキシ水酸化コバルト等)となるとともにナトリウムを取り込む。これにより、ナトリウムを含有したコバルト化合物(ナトリウム含有高次コバルト化合物)からなる導電層で覆われた正極活物質粒子が得られる。
【0037】
次に、正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したようにして得られた正極活物質粒子の集合体である正極活物質粉末に、導電材、正極添加剤(必要に応じて)、水及び結着剤を添加して混練し、正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えば、発泡ニッケルに充填され、乾燥処理が施される。乾燥処理後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケルは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を担持した正極24が得られる。
【0038】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
【0039】
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0040】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、導電材及び結着剤を含む。この結着剤は、水素吸蔵合金粒子及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電材としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。なお、負極合剤には、必要に応じて負極添加剤を添加しても構わない。
【0041】
水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではなく、一般的なニッケル水素二次電池に使用されているものが用いられる。
【0042】
次に、上記した水素吸蔵合金粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットに、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃で5~24時間保持する熱処理を施す。この後、室温まで冷却したインゴットを粉砕し、篩分けすることにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子が得られる。
【0043】
また、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストを負極基板に塗着し、乾燥処理を施す。乾燥処理の後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基板にロール圧延及び裁断を施す。これにより負極26が製造される。
【0044】
以上のようにして製造された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0045】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内にはアルカリ電解液が所定量注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、これにより電池2が得られる。得られた電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0046】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)負極の製造
まず、20質量%のLa、80質量%のSmを含む希土類成分を調製した。得られた希土類成分、Mg、Ni、Alを計量して、これらがモル比で0.99:0.01:3.25:0.25の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、その溶湯が鋳型に流し込まれた後、室温まで冷却され水素吸蔵合金のインゴットとされた。このインゴットより採取したサンプルにつき、高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって組成分析を行った。その結果、水素吸蔵合金の組成は、(La0.20Sm0.80)0.99Mg0.01Ni3.25Al0.25であった。
【0047】
次いで、このインゴットに対し、アルゴンガス雰囲気下にて温度1000℃で10時間保持する熱処理を施した。そして、この熱処理後、室温まで冷却された水素吸蔵合金のインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕し、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得た。ここで、得られた水素吸蔵合金粉末につき、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて粒子の粒径を測定した結果、かかる水素吸蔵合金粒子の体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0048】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4質量部、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスパージョン1.0質量部、カーボンブラック1.0質量部、及び水30質量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0049】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0050】
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末等が付着した孔あき板を更にロール圧延して体積当たりの合金量を高めた後、裁断し、AAサイズ用の負極26を得た。
【0051】
(2)正極の製造
ニッケルに対して亜鉛3質量%、コバルト1質量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛及び硫酸コバルトを計量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調製した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13~14に安定させて、水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛及びコバルトを固溶したベース粒子を生成させた。
【0052】
得られたベース粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥した。なお、得られたベース粒子は、平均粒径が10μmの球状をなしている。
【0053】
次に、得られたベース粒子をアンモニア水溶液中に投入し、その反応中のpHを9~10に維持しながら硫酸コバルト水溶液を加えた。これにより、ベース粒子を核として、この核の表面に水酸化コバルトが析出し、厚さ約0.1μmの水酸化コバルトの層を備えた中間体粒子を得た。ついで、この中間体粒子を80℃の環境下にて酸素を含む高温空気中に対流させ、12Nの水酸化ナトリウム水溶液を噴霧して、45分間の加熱処理を施した。これにより、前記中間体粒子の表面の水酸化コバルトが、価数が3価を超える導電性の高いオキシ水酸化コバルトとなるとともに、オキシ水酸化コバルトの層中にナトリウムが取り込まれ、ナトリウムを含有したコバルト化合物からなる導電層が形成された。その後、斯かるオキシ水酸化コバルトの層を備えた粒子を濾取し、水洗いしたのち、60℃で乾燥させた。このようにして、ベース粒子の表面にナトリウムを含有したオキシ水酸化コバルトで形成された導電層を有した正極活物質粒子の集合体である正極活物質粉末を得た。
【0054】
次に、導電材を準備した。以下に導電材の製造方法を示す。
まず、平均粒径10μmの水酸化コバルトを80℃の環境下にて酸素を含む高温空気中で対流させ、12Nの水酸化ナトリウム水溶液を噴霧して、60分間の加熱処理を実施した。この処理により水酸化コバルトが導電性の高いナトリウム含有高次コバルト化合物(ナトリウムを含有するオキシ水酸化コバルト及びこれに類似する構造を持つコバルト化合物)になる。このようにして導電材を得た。
【0055】
次に、上記のようにして製造した正極活物質粉末100質量部に、0.5質量部のナトリウム含有高次コバルト化合物粉末、0.2質量部のHPC、0.5質量部のPTFE(結着剤)のディスパージョン溶液、1.0質量部のY2O3(添加剤)、1.0質量部のZnO(添加剤)、及び30質量部の水を混合して正極活物質ペーストを調製し、この正極活物質ペーストを正極芯材としての発泡ニッケルのシートに塗着・充填した。正極活物質を含む発泡ニッケルのシートを乾燥させ、その後、ロール圧延したのち裁断し、AAサイズ用の正極24を得た。
【0056】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を製造した。ここでの電極群22の製造に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布で形成され、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0057】
一方、アルカリ電解液として、KOH、NaOH及びLiOHを含む水溶液を準備した。ここで、アルカリ電解液には、KOH、NaOH及びLiOHが、KOH:NaOH:LiOH=0.8:7.0:0.02の比で含まれている。
【0058】
次いで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収容するとともに、準備したアルカリ電解液を所定量注入した。この後、封口体11で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量2000mAhのAAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。ここで、公称容量は、温度25℃の環境下にて、0.2Itで16時間充電後、0.4Itで電池電圧が1.0Vになるまで放電した際の電池の放電容量とした。
【0059】
(4)初期活性化処理
電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.2Itで16時間の充電を行った後に、0.4Itで電池電圧が1.0Vになるまで放電させる充放電作業を5回繰り返すことにより初期活性化処理を行った。このようにして、電池2を使用可能状態とした。
【0060】
(実施例2)
ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の添加量を1.0質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0061】
(実施例3)
ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の添加量を1.5質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0062】
(実施例4)
ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の添加量を3.0質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0063】
(実施例5)
ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の添加量を5.0質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0064】
(比較例1)
導電材を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0065】
(比較例2)
ナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の添加量を8.0質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0066】
(比較例3)
導電材としてナトリウム含有高次コバルト化合物粉末の代わりに水酸化コバルトの粉末を採用し、その添加量を1.0質量部としたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0067】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)自己放電特性
初期活性化処理済みの実施例1~5、比較例1~3の電池について、25℃の環境下にて、1.0Itの充電電流で1時間充電を行い、その後、25℃の環境下で0.2Itの放電電流で放電終止電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を初期放電容量とする。
【0068】
次いで、これら実施例1~5、比較例1~3の電池について、25℃の環境下にて、1.0Itの充電電流で1時間充電を行い、その後、40℃の環境下で2週間放置した。ついで、この電池を25℃の環境下に置き、電池の温度を25℃とし、0.2Itの放電電流で放電終止電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を40℃放置後残容量とする。
【0069】
更に、実施例1~5、比較例1~3の電池について、25℃の環境下にて、1.0Itの充電電流で1時間充電を行い、その後、80℃の環境下で2週間放置した。ついで、この電池を25℃の環境下に置き、電池の温度を25℃とし、0.2Itの放電電流で放電終止電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を80℃放置後残容量とする。
【0070】
そして、初期放電容量に対する40℃放置後残容量の比率(40℃残容量比率)を求めるとともに、初期放電容量に対する80℃放置後残容量の比率(80℃残容量比率)を求めた。比較例1の電池の40℃残容量比率及び80℃残容量比率の値をそれぞれ100として、各電池の40℃残容量比率及び80℃残容量比率の値との比を求め、その結果を表1の40℃自己放電特性、80℃自己放電特性の欄に併せて示した。これら40℃自己放電特性及び80℃自己放電特性の値が高い電池ほど自己放電が抑制されており、自己放電特性に優れていることを表す。
【0071】
【0072】
(2)考察
導電材として水酸化コバルトを添加した比較例3の電池(従来例に相当)は、40℃自己放電特性の値が99.5であり、80℃自己放電特性の値が98.1である。水酸化コバルトは、導電材として正極中において導電性ネットワークを形成していると考えられが、自己放電の抑制に対しては、あまり効果が得られないことがわかる。
【0073】
一方、導電材としてナトリウム含有高次コバルト化合物を添加した実施例1~5及び比較例2の電池は、40℃自己放電特性の値及び80℃自己放電特性の値が100を超えており、導電材が無添加の比較例1及び導電材が水酸化コバルトを採用した比較例3の電池に比べ、自己放電が抑制されており自己放電特性が改善されていることがわかる。これは、導電材として、ナトリウム含有高次コバルト化合物を使用した場合、電池の充放電後のコバルトの状態が水酸化コバルトを使用した場合と異なっているものと考えられる。このコバルトの状態の違いにより、オキシ水酸化ニッケルの還元が抑制され、その結果、自己放電が抑制され自己放電特性が向上したものと考えられる。
【0074】
ここで、実施例5及び比較例2より、ナトリウム含有高次コバルト化合物の添加量が5.0質量部を超えて、8.0質量部となると自己放電特性の向上効果は徐々に低下してくる傾向が見られる。また、ナトリウム含有高次コバルト化合物の添加量が5.0質量部を超えると正極合剤中における正極活物質である水酸化ニッケルの量が相対的に少なくなり、電池の容量低下を招くおそれがある。よって、ナトリウム含有高次コバルト化合物の添加量は5.0質量部以下とすべきと考えられる。
【0075】
以上より、ナトリウム含有高次コバルト化合物は、それ自体が導電性に優れるので、正極内において良好な導電性ネットワークを形成することから正極活物質の利用率向上に寄与する。そして、ナトリウム含有高次コバルト化合物は、自己放電を抑制する効果も奏する。よって、ナトリウム含有高次コバルト化合物を導電材として含む正極を備えたアルカリ二次電池は、正極活物質の利用率の向上及び自己放電の抑制の両立を図ることができるといえる。
【0076】
なお、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明が適用される電池は、アルカリ二次電池であればよく、ニッケル水素二次電池の他に、例えば、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル亜鉛二次電池等を挙げることができる。また、電池の構造は格別限定されることはなく、円筒型電池、角型電池等どのような形状であってもよい。
【0077】
2 ニッケル水素二次電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ