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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ベーストレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20240528BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240528BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240528BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 61/08 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 61/14 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 61/28 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60C1/00 A
B60C11/00 B
C08K3/04
C08K3/36
C08L9/00
C08L61/08
C08L61/14
C08L61/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018033830
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019147897
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 郭葵
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】北澤 健一
【審判官】松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-35674(JP,A)
【文献】特開2013-253222(JP,A)
【文献】特開2011-6651(JP,A)
【文献】特開2006-306955(JP,A)
【文献】特開2008-156419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
C08G4/00-16/06
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫後の70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)が式(1):
150≦E*/tanδ≦250 (1)
を満たすベーストレッド用ゴム組成物であって、
前記ベーストレッド用ゴム組成物がジエン系ゴムからなるゴム成分とカーボンブラックとを含有し、
前記ジエン系ゴムがブタジエンゴムを含み、
ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、
カーボンブラックであるか、または、カーボンブラックおよびシリカである補強材を30~70質量部、
カシューオイル変性フェノール樹脂、変性レゾルシン縮合物およびm-クレゾール縮合物から選択される少なくとも1つの熱硬化性樹脂を5~20質量部、ならびに
ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物を2~8質量部
を含有する、ベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記E*/tanδが160以上かつ250以下である請求項1記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記E*/tanδが200以上かつ250以下である請求項2記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記E*/tanδが220以上かつ250以下である請求項3記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
ジエン系ゴムからなるゴム成分を含有し、
前記ジエン系ゴムが天然ゴムを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
シリカを含有する請求項1~5のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して
シューオイル変性フェノール樹脂、変性レゾルシン縮合物およびm-クレゾール縮合物から選択される少なくとも1つの熱硬化性樹脂を~20質量部、ならびに
ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物を~8質量部
を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
ジエン系ゴムが、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を2.5~20質量%含むブタジエンゴムを10~30質量%含む請求項1~5および7のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物で構成されたベーストレッドを備えるタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーストレッド用ゴム組成物およびベーストレッド用ゴム組成物により構成されたベーストレッドを備えるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、省エネルギー化を目的とし、タイヤへの低燃費性能の要求が高まるなか、スポーツ走行を楽しむための高性能タイヤにおいても操縦安定性と低燃費性能との高い両立度が求められている。そのなかで、シリカを充填材とし、変性SBRを用いたトレッドゴムを高剛性化しつつ発熱性を下げる手法が一般的に用いられている。
【0003】
一方で、タイヤのトレッドを2重構造(内面層および表面層)として、その内面層であるベーストレッドに、転がり抵抗特性および操縦安定性に優れたゴム組成物を使用することも行われている。
【0004】
そして、特許文献1では、ベーストレッド用ゴム組成物として、ゴム成分、カーボンブラック、熱硬化性樹脂および硬化剤を含有してなり、通常乗用車タイヤとして使用されていない比較的大きな粒子径を有するカーボンブラックを用いることにより、タイヤに用いた場合の転がり抵抗性や、操縦安定性を両立させ、さらには耐亀裂成長性に優れたゴム組成物が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献2では、ベーストレッド用ゴムとして、(a)1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を2.5~20質量%含むポリブタジエンゴム(a1)および/または希土類系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(a2)を0質量%以上、20質量%未満、(b)リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有率が50~3000ppm、ビニル結合量が5~50質量%、および分子量分布(Mw/Mn)が2以下であるスズ変性ポリブタジエンゴム(b1)および/または下記式(A)で表される化合物により変性された変性ブタジエンゴム(b2)を5質量%を超え、60質量%以下、ならびに(c)(a)および(b)以外のジエン系ゴムを40~75質量%含有するゴム成分100質量部に対して、硫黄を1.8~3.5質量部、シリカを7質量部以上含有する補強用充填剤を36~60質量部用いることにより、押出し加工性を低下させることなく、操縦安定性、転がり抵抗特性および耐久性を向上させることが記載されている。
【化1】
(式(A)中、R1、R2およびR3は、同一もしくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基、メルカプト基またはこれらの誘導体を表す。R4およびR5は、同一もしくは異なって、水素原子またはアルキル基を表す。R4およびR5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-189738号公報
【文献】特開2014-189774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したシリカを充填材とし、変性SBRを用いたトレッドゴムを高剛性化しつつ発熱性を下げる手法は、ブレーキ性能と背反するという課題がある。
【0008】
また、特許文献1では、熱硬化性樹脂の効果反応の際に発生するアミン等の化合物がゴムと、テキスタイルやスチールなどの異種材料との接着性を低下させることが知られており、それらの異種材料を含む周辺部位に適用することができないという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献2では、押出し加工性を低下させることなく、操縦安定性、転がり抵抗特性および耐久性を向上させることができるとあるが、得られるタイヤの操縦安定性と燃費性能とにはまだ改善の余地がある。
【0010】
そこで、剛性と発熱性の両立度を高めたベーストレッド用ゴム組成物を提供すること、また、それにより操縦安定性および燃費性能を高次元に両立させたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ベーストレッド用ゴム組成物を、70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)が式(1):150≦E*/tanδ≦250 (1)を満たすものとすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本開示は、
[1]70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)が式(1):
150≦E*/tanδ≦250 (1)
を満たすベーストレッド用ゴム組成物、
[2]前記E*/tanδが160以上かつ250以下である上記[1]記載のベーストレッド用ゴム組成物、
[3]前記E*/tanδが200以上かつ250以下である上記[2]記載のベーストレッド用ゴム組成物、
[4]前記E*/tanδが220以上かつ250以下である上記[3]記載のベーストレッド用ゴム組成物、
[5]ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、
カーボンブラックおよびシリカから選択される少なくとも1つの補強材を30~70質量部、好ましくは35~60質量部、より好ましくは40~55質量部、さらに好ましくは40~50質量部、
カシューオイル変性フェノール樹脂、変性レゾルシン縮合物およびm-クレゾール縮合物から選択される少なくとも1つの熱硬化性樹脂を5~20質量部、好ましくは10~15質量部、ならびに
ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物を2~8質量部、好ましくは3~6質量部
を含有する上記[1]~[4]のいずれかに記載のベーストレッド用ゴム組成物、
[6]ジエン系ゴムが、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を2.5~20質量%、好ましくは10~18質量%含むポリブタジエンゴムを10~30質量%、好ましくは15~25質量%含む上記[5]記載のベーストレッド用ゴム組成物、ならびに
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のベーストレッド用ゴム組成物で構成されたベーストレッドを備えるタイヤ
に関する。
【発明の効果】
【0013】
ベーストレッド用ゴム組成物として、70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)が式(1):150≦E*/tanδ≦250 (1)を満たすベーストレッド用ゴム組成物は、改善された剛性および低発熱性を有し、そのベーストレッド用ゴム組成物で構成されたベーストレッドを備えるタイヤは、操縦安定性および燃費性能を高次元に両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)の関係が式(1):150≦E*/tanδ≦250を満たすことを特徴とする。
【0015】
本明細書中においてE*は、粘弾性試験機により温度70℃、1%伸長の条件で測定された伸長時の動的弾性率を示す。動的弾性率E*は、周期的に与えられた歪みに対する応力を示すため、E*の値が大きいほどゴム弾性が良好であり、他のタイヤ部材と追従性の良いゴム物性であることを表す。また、本明細書中のtanδは、粘弾性スペクトロメータにより温度70℃、1%伸長の条件で測定された伸長時の損失正接を示す。損失正接tanδは、歪みが与えられる過程で消費されたエネルギーの大きさを示し、この消費されたエネルギーは熱に変わる。つまりtanδの値が小さいほど、優れた低発熱性を示し、低燃費性が優れていることを表す。また、E*の値が大きすぎると、減衰性が低下し、乗り心地が悪くなる傾向があり、tanδの値が小さすぎる場合も、減衰性が低下し、乗り心地が悪くなる傾向がある。よって、ベーストレッド用ゴム組成物の70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)の関係が、式(1):150≦E*/tanδ≦250を満たすことにより、得られるベーストレッドゴム組成物の剛性および発熱性能がバランス良く両立可能となると考えられる。そしてそのようなベーストレッド用ゴム組成物により構成されたベーストレッドを備えるタイヤは、トレッドゴムに対する力の伝播が良好であり、発熱性も低く抑えられることにより、操縦安定性と燃費性能とを高次元に両立できることが可能となると考えられる。
【0016】
式(1)中のE*/tanδは、150以上であり、160以上が好ましく、200以上がより好ましく、220以上がさらに好ましい。E*/tanδが150未満の場合、十分な操縦安定性が得られない傾向がある。また、式(1)中のE*/tanδは、250以下であり、245以下好ましく、240以下がより好ましい。E*/tanδが250を超える場合、ゴム組成物の減衰性が乏しくなり、著しく乗り心地が悪化する傾向や、ゴムの熱入れ性が悪くなり、加工性が悪化する傾向がある。
【0017】
70℃における1%伸長時の複素弾性率E*(MPa)および損失正接(tanδ)の関係が式(1):150≦E*/tanδ≦250を満たすベーストレッド用ゴム組成物は、好ましくは、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックおよびシリカから選択される少なくとも1つの補強材を30~70質量部、カシューオイル変性フェノール樹脂、変性レゾルシン縮合物およびm-クレゾール縮合物から選択される少なくとも1つの熱硬化性樹脂を5~20質量部、ならびにヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物を2~8質量部を含有するベーストレッド用ゴム組成物である。
【0018】
ベーストレッド用ゴム組成物においては、配合の高剛性化を実施するにあたり、熱硬化性樹脂を使用することが行われているが、熱硬化性樹脂の硬化反応の際に発生するアミン等の化合物は、ゴムとテキスタイルやスチールといった異種材料との接着性を低下させることが知られており、異種部材の周辺部位に用いられるベーストレッド用ゴム組成物に配合することは困難である。しかし、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物を熱硬化性樹脂の硬化剤として用いることにより、反応の際のアミン等の化合物の発生を抑制し、さらに所定量の補強材にて樹脂層を補強させることで従来よりも剛性と発熱性とを両立させることが可能になったと考えられる。
【0019】
(ゴム成分)
ジエン系ゴムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、変性スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR、変性E-SBR)、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴムなどが挙げられる。なかでも、操縦安定性、破断時伸びおよび転がり抵抗特性において優れるという点からは、NRおよびBRが好ましい。なお、これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20などが挙げられる。また、前記IRとしてもタイヤ業界において一般的なものを用いることができる。
【0021】
NRを含む場合のゴム成分中の含有量は30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。NRの含有量を30質量%以上とすることにより、十分な耐久性や、破断時伸び、操縦安定性が得られる傾向がある。また、ゴム成分中のNRの含有量は75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。NRの含有量を75質量%以下とすることにより、十分な耐亀裂成長性が得られる傾向がある。
【0022】
BRとしては、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。
【0023】
前記ハイシスBRとは、シス1,4結合含有率が90重量%以上のブタジエンゴムである。このようなハイシスBRとして、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどが挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0024】
前記SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を、単にBR中に分散させたものではなく、BRと化学結合したうえ、無配向で分散していることが好ましい。前記結晶がBRと化学結合したうえで分散することにより、クラックの発生および伝播が抑制される傾向がある。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617などが挙げられる。
【0025】
SPBの融点は180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましい。SPBの融点が180℃未満の場合は、プレスによるタイヤの加硫中に結晶が溶融し、硬度が低下してしまう傾向がある。また、SPBの融点は220℃以下が好ましく、210℃以下がより好ましい。SPBの融点が220℃を超える場合は、ゴム成分(a1)の分子量が大きくなるため、ゴム組成物中において分散性が悪化する傾向がある。
【0026】
SPB含有BR中の沸騰n-ヘキサン不溶物の含有量は2.5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。沸騰n-ヘキサン不溶物の含有量が2.5質量%未満の場合は、ゴム組成物の硬度が不十分となる傾向がある。また、沸騰n-ヘキサン不溶物の含有量は22質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。沸騰n-ヘキサン不溶物の含有量が22質量%を超える場合は、SPB含有BR自体の粘度が高く、ゴム組成物中におけるSPB含有BRおよび補強用充填剤の分散性が悪化する傾向がある。ここで、沸騰n-ヘキサン不溶物とは、SPB含有BR中における1,2-シンジオタクチックポリブタジエン(SPB)を示す。
【0027】
SPB含有BR中のSPBの含有量は2.5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。SPBの含有量を2.5質量%以上とすることにより、十分な硬度が得られる傾向がある。また、SPB含有BR中のSPBの含有量は20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましい。SPBの含有量を20質量%以下とすることにより、SPB含有BRがゴム組成物中に十分に分散し、良好な押出し加工性が得られる傾向がある。
【0028】
ゴム成分中のSPB含有BRの含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。SPB含有BRの含有量を10質量%以上とすることにより、良好なシリカの分散性および押出し加工性を得ることができる傾向がある。また、ゴム成分中のSPB含有BRの含有量は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。SPB含有BRの含有量を30質量%以下とすることにより、良好な発熱性や破断時伸びが得られる傾向がある。
【0029】
前記変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、希土類系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)などが挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)などが挙げられる。
【0030】
希土類系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)は、シス含量が高く、かつビニル含量が低いという特徴を有している。希土類系BRとしては、タイヤ製造における汎用品を使用できる。
【0031】
スズ変性BRは、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有率が50~3000ppm、ビニル結合量が5~50質量%、および分子量分布(Mw/Mn)が2以下であるスズ変性ポリブタジエンゴム(スズ変性BR)である。このスズ変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されたスズ変性ポリブタジエンゴムが好ましい。
【0032】
リチウム開始剤としては、例えば、リチウムや、アルキルリチウム、アリールリチウム、アリルリチウム、ビニルリチウム、有機スズリチウム、有機窒素リチウム化合物などのリチウム系化合物などが挙げられる。リチウムやリチウム系化合物を開始剤とすることで、高ビニル、低シス含量のスズ変性BRを作製できる。
【0033】
スズ化合物としては、例えば、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、ジオクチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズクロライド、ジフェニルジブチルスズ、トリフェニルスズエトキシド、ジフェニルジメチルスズ、ジトリルスズクロライド、ジフェニルスズジオクタノエート、ジビニルジエチルスズ、テトラベンジルスズ、ジブチルスズジステアレート、テトラアリルスズ、p-トリブチルスズスチレンなどがあげられ、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
スズ変性BR中のスズ原子の含有率は50ppm以上が好ましく、60ppm以上がより好ましい。スズ原子の含有率を50ppm以上とすることにより、スズ変性BR中の補強用充填剤の分散を促進する効果が得られ、さらに、tanδが増大するのを防止する傾向がある。また、スズ原子の含有率は3000ppm以下が好ましく、2500ppm以下がより好ましく、250ppm以下がさらに好ましい。スズ原子の含有率を3000ppm以下とすることにより、混練り物のまとまりが良く、エッジが整わないことによる混練り物の押出し加工性が悪化することを防ぐことができる傾向がある。
【0035】
スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。Mw/Mnを2.0以下とすることにより、補強用充填剤の分散性が悪化してtanδが増大してしまうのを防ぐことができる傾向がある。なお、分子量分布の下限は、特に限定されないが、1以上であることが好ましい。
【0036】
スズ変性BRのビニル結合量は5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましい。ビニル結合量が5質量%未満のスズ変性BRを重合(製造)することは困難である。また、スズ変性BRのビニル結合量は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。スズ変性BRのビニル結合量を50質量%以下とすることにより、補強用充填剤の分散性が悪化し、tanδが増大してしまうのを防ぐ傾向がある。
【0037】
ゴム成分中のスズ変性BRの含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。スズ変性BRの含有量を10質量%以上とすることにより、転がり抵抗特性の向上効果が得られる傾向がある。また、ゴム成分中のスズ変性BRの含有量は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。スズ変性BRの含有量を30質量%以下とすることにより、十分な押出し加工性および破断時伸びが得られる傾向がある。
【0038】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を、単独または2種以上を組合せて使用することができる。
【0039】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、40m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、60m2/g以上がさらに好ましい。カーボンブラックのN2SAを40m2/g以上とすることにより、十分な補強性が得られ、耐久性が苦情する傾向がある。また、カーボンブラックのN2SAは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。カーボンブラックのN2SAを200m2/g以下とすることにより、良好な分散性を得ることができる傾向がある。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217のA法によって求められる。
【0040】
カーボンブラックを含有させる場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量を前記の範囲内とすることで、良好な低燃費性および耐候性が得られ、耐久性が向上する傾向がある。
【0041】
(シリカ)
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。本発明では、BET比表面積(N2SA)が180~280m2/gのシリカを使用する。シリカは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
シリカのBET比表面積(BET)は50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、150m2/g以上がさらに好ましい。シリカのBETを50m2/g以上とすることにより、良好な破断時伸びおよび耐久性が得られる傾向がある。また、シリカのBETは300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましい。シリカのBETを300m2/g以下とすることにより、良好なtanδが得られる傾向がある。なお、シリカのBET比表面積はASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0043】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。シリカの含有量を10質量部以上とすることにより、タイヤに必要な補強性を得ることができる。また、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。シリカの含有量を40質量部以下とすることにより、良好な加工性を得ることができる。
【0044】
(シランカップリング剤)
シリカを含有させるため、シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエーテル系、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリカとの反応の温度制御のしやすさおよび、ゴム組成物の補強性改善効果等の点から、スルフィド系のカップリング剤、とりわけビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドが好ましい。
【0045】
シランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が1質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高く、加工性が悪くなる傾向がある。また、シリカ100質量部に対するシランカップリング剤の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が20質量部を超えると、その含有量ほどのシランカップリング剤の配合効果が得られず、高コストになる傾向がある。
【0046】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、カシューオイル変性フェノール樹脂、変性レゾルシン縮合物およびm-クレゾール縮合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの化合物の少なくとも1種を含むことにより、破断時伸び、複素弾性率を向上できる。なかでも、カシューオイル変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0047】
カシューオイル変性フェノール樹脂は、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸またはアルカリ触媒で反応させることにより得られるフェノール樹脂をカシューオイルを用いて変性した樹脂である。具体的には、住友ベークライト(株)製のPR12686などが挙げられる。
【0048】
レゾルシン樹脂としては、例えば、レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。具体的には、住友化学工業(株)製のレゾルシノール等が挙げられる。変性レゾルシノール樹脂としては、例えば、レゾルシノール樹脂の繰り返し単位の一部をアルキル化したものが挙げられる。具体的には、インドスペック社製のペナコライト樹脂B-18-S、B-20、田岡化学工業(株)製のスミカノール620、ユニロイヤル社製のR-6、スケネクタディー化学社製のSRF1501、アッシュランド化学社製のArofene7209等が挙げられる。
【0049】
m-クレゾール樹脂としては、例えば、クレゾール・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。変性クレゾール樹脂としては、例えば、クレゾール樹脂の末端のメチル基を水酸基に変性したもの、クレゾール樹脂の繰り返し単位の一部をアルキル化したものが挙げられる。具体的には、田岡化学工業(株)製のスミカノール610、住友ベークライト(株)製のPR-X11061等が挙げられる。
【0050】
これらの熱硬化性樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、複素弾性率および耐久性の観点から、5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましい。また、熱硬化性樹脂の含有量は、低燃費性、破断時伸び、加工性(シート圧延性)および耐久性の観点から、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。費性、破断時伸び、加工性(シート圧延性)、耐久性が低下する。
【0051】
熱可塑性樹脂の硬化剤としては、特に限定されるものではないが、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。HMMPMEの部分縮合物を含有することで、コードとゴムとの接着性を強化できる。一方、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)を使用すると、加硫中に分解生成物としてアンモニアが発生するために、コードとの接着性が十分ではなく耐久性が低下する恐れがある。
【0052】
熱硬化性樹脂の硬化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は複素弾性率(E*)の観点から2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、熱硬化性樹脂の硬化剤の含有量は、破断時伸びの観点から8質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0053】
(その他の配合剤)
ベーストレッド用ゴム組成物には、上記成分以外にも、必要に応じて、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、各種軟化剤、各種老化防止剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0054】
(軟化剤)
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、等が挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下である。この場合、ウェットグリップ性能を低下させる危険性が少ない。
【0055】
(オイル)
オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイルが挙げられる。
【0056】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以下が好ましく、55質量部以下がより好ましい。オイルの含有量が上記範囲内の場合は、オイルを含有させる効果が十分に得られ、良好な耐摩耗性を得ることができる。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0057】
(液状ジエン系重合体)
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)等が挙げられる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定した操縦安定性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBRが好ましい。なお、本明細書における液状ジエン系重合体は、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。
【0058】
液状ジエン系重合体のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性、破壊特性、耐久性の観点から、1.0×103以上が好ましく、3.0×103以上がより好ましい。また、生産性の観点から2.0×105以下が好ましく、1.5×104以下がより好ましい。なお、本明細書における液状ジエン系重合体のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0059】
液状ジエン系重合体を含有する場合のゴム成分100質量部に対する液状ジエン系重合体の含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、液状ジエン系重合体の含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。液状ジエン系重合体の含有量が上記範囲内である場合は、良好なウェットグリップ性能が得られ、本発明の効果が得られやすい傾向がある。
【0060】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、アルドール-α-トリメチル1,2-ナフチルアミンなどのナフチルアミン系;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどのキノリン系;p-イソプロポキシジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、N,N-ジフェニルエチレンジアミン、オクチル化ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系;N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミン系;2,5-ジ-(tert-アミル)ヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンなどのヒドロキノン誘導体;フェノール系(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、1-オキシ-3-メチル-4-イソプロピルベンゼン、ブチルヒドロキシアニソール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノールなどのモノフェノール系;2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1’-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサンなどのビスフェノール系;トリスフェノール系;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのポリフェノール系);4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2’-チオビス-(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)などのチオビスフェノール系;2-メルカプトメチルベンゾイミダゾールなどのベンゾイミダゾール系;トリブチルチオウレアなどのチオウレア系;トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどの亜リン酸系;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの有機チオ酸系老化防止剤などが挙げられる。これら老化防止剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐熱性と耐疲労性の両立の点からN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンおよび2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を組み合わせて用いることが好ましい。
【0061】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。老化防止剤の含有量を上記範囲内とすることにより、老化防止効果を十分に得ると共に、老化防止剤がタイヤ表面に析出することによる変色を抑制することができる傾向がある。
【0062】
その他、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックス等は、従来ゴム工業で使用されるものを用いることができる。
【0063】
(加硫剤)
加硫剤としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0064】
加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1.8質量部以上が好ましく、2.4質量部以上がより好ましい。加硫剤の含有量を、1.8質量部以上とすることにより、十分な硬度が得られる傾向があり、さらに、ベーストレッドと隣接するジョイントレスバンドや、スチールブレーカーのコード被覆用ゴム組成物から加硫剤が流入し、コード被覆用ゴム組成物中の加硫剤が不足し、コード接着性が悪化することを防止できる傾向がある。また、加硫剤の含有量は3.5質量部以下が好ましく、2.9質量部以下がより好ましい。加硫剤の含有量を3.5質量部以下とすることにより、ベーストレッドと隣接するキャップトレッドへ加硫剤が流出し、キャップトレッドが硬化し、トレッド割れや溝割れの原因となり、耐久性が低下したり、転がり抵抗が増大したりするのを防止できる傾向がある。なお、加硫剤として不溶性硫黄を用いる場合、加硫剤の含有量はオイル分を除いた純硫黄分の含有量とする。
【0065】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、本発明の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0066】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られる点からCBSおよびDPGを組み合わせて使用することが好ましい。
【0067】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、適度な破壊特性が得られ、耐摩耗性が良好となる傾向がある。
【0068】
(ベーストレッド用ゴム組成物の製造方法)
ベーストレッド用ゴム組成物の製造方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0069】
(タイヤの製造方法)
前記ベーストレッド用ゴム組成物から構成されるベーストレッドを備えたタイヤは、前記ベーストレッド用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ジエン系ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記ゴム組成物を、ベーストレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0070】
タイヤは、乗用車用タイヤ、乗用車用高性能タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、競技用タイヤ等タイヤ全般に用いることができる。なかでも、シリカを用いた配合である点から、乗用車用高性能タイヤとすることが好ましい。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
・NR:TSR20(天然ゴム)
・SPB含有BR:宇部興産(株)製のVCR617(1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むポリブタジエンゴム、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)の含有率:12質量%、SPBの融点:200℃、沸騰n-ヘキサン不溶物の含有率:15~18質量%)
・スズ変性BR:日本ゼオン(株)製のBR1250(スズ変性ポリブタジエンゴム(スズ変性BR)、開始剤としてリチウムを用いて重合、ビニル結合量:10~13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有率:250ppm)
・BR:ランクセス(株)製のCB24(希土類系BR、シス1,4含有率96%)
・カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックN330(DBP吸油量:102ml/100g、N2SA:79m2/g)
・シリカ:エボニックデグッサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(BET比表面積:175m2/g、平均一次粒子径:18nm)
・シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
・熱硬化性樹脂1:住友ベークライト(株)製のPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂、軟化点:100℃)
・熱硬化性樹脂2:田岡化学工業(株)製のスミカノール620(変性レゾルシン縮合物、軟化点:100℃)
・熱硬化性樹脂3:田岡化学工業(株)製のスミカノール610(m-クレゾール縮合物、軟化点:96℃)
・硬化剤1:田岡化学工業(株)製のスミカノール507AP(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物)、シリカおよびオイルを合計35質量%含有)
・硬化剤2:田岡化学工業(株)製のスミカノール508(ヘキサメトキシメチロールメラミン)
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
・ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
・ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース355
・老化防止剤1:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)
・老化防止剤2:川口化学工業(株)製アンテージRD(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
・不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミ硫黄(オイル10%含有、二硫化炭素による不溶物:60%以上)
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0073】
実施例および比較例
表1または2に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、不溶性硫黄および加硫促進剤を除く薬品を投入し、排出温度が155℃となるように5分間混練りした。ついで、得られた混練物に不溶性硫黄および加硫促進剤を表1または2に示す配合量で加えた後、オープンロールを用いて、排出温度80℃の条件で3分間混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物トレッド形状に成形して、他の部材と貼り合わせ、170℃で15分間加硫することにより、空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を得た。また、未加硫ゴム組成物を試験片にして、170℃で15分間加硫することにより、加硫ゴム試験片を得た。
【0074】
各実施例および比較例により得られた空気入りタイヤまたは加硫ゴム試験片について、粘弾性試験、低燃費性、操縦安定性、スチール接着性の評価を下記試験により行った。結果を表1または2に示す。
【0075】
<粘弾性試験>
(株)岩本製作所製の伸長方の粘弾性試験機RSAを用いて、温度70℃、周波数10Hz、伸長歪み1%の条件下で、各試験用加硫ゴムシートの複素弾性率E*および損失正接tanδを測定した。得られた値より、式(1)中のE*/tanδの値を算出した。
【0076】
<低燃費性指数>
転がり抵抗試験機を用い、各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100として指数表示した。低燃費性指数が大きいほど低燃費性が良好であり、105以上を目標値とする。
【0077】
<操縦安定性試験>
各試験用タイヤを国産FF2000ccの全輪に装着してテストコースを実車走行し、蛇行運転をした際の試験開始直後と開始30分後の操縦安定性をドライバーの官能評価により評価した。前記評価を総合的に、比較例1の操縦安定性を100点として相対評価を行った。点数が高いほど操縦安定性に優れ、120以上を目標値とする。
【0078】
<スチール接着性試験>
各試験用タイヤを、スチール部材を含む部分(Brk部)で剥離させた際の剥離抗力(N/mm)と形態を評価した。剥離抗力は(株)島津製作所製のオートグラフAG-100NXにより測定し、スチール材料へのゴム残りと合わせて、0~100の点数化した。なお、比較例1の点数を100とし、100を維持できることを目標値とする。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】