(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】遠心ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 7/04 20060101AFI20240528BHJP
F04D 29/22 20060101ALI20240528BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F04D7/04 J
F04D29/22 B
F04D29/22 E
F04D29/66 A
(21)【出願番号】P 2018078964
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2020-12-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000150844
【氏名又は名称】株式会社鶴見製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(72)【発明者】
【氏名】新家 寿和
(72)【発明者】
【氏名】金子 智矢
(72)【発明者】
【氏名】清山 幹弘
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-121543(JP,A)
【文献】特開昭57-86599(JP,A)
【文献】特開2007-255324(JP,A)
【文献】特開2014-47748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D7/04
F04D29/22
F04D29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボリュート形状の内部空間を有するポンプケーシングと、
1枚羽根、または、1つの流路を有し、回転軸の軸方向において、前記ポンプケーシングの吸込口側とは逆側に配置される主板と、前記主板の前記吸込口側に配置される羽根部とを含み、前記ポンプケーシングの前記内部空間に配置され、前記回転軸周りに回転する羽根車と、
前記羽根車内の流路、前記羽根部および前記ポンプケーシング内の流路により形成される主流部と、
前記羽根車の上方に配置されるオイルケーシングと、を備え、
前記羽根車は、前記羽根部の前記吸込口側に配置される側板を有するクローズド羽根車を含み、
前記主板は、前記羽根部側に凹むとともに前記羽根部の軸方向長さの0.25倍以上の深さに形成されている凹部を有し、
前記回転軸の軸方向に直交する方向における前記主板の外側面と前記ポンプケーシングとの間の隙間、および、前記回転軸の軸方向における前記主板の前記吸込口側とは逆側の端面と前記オイルケーシングとの間の隙間の少なくとも一方が、2mm以下となるように形成され、
前記主流部は、前記回転軸の回転方向の全位相において、前記主流部を形成する前記羽根車の流路および前記羽根部に作用するラジアル荷重の位相が、前記主板から前記回転軸に作用する、前記羽根車が回転する際の前記主板の前記凹部の外側面に作用する力と内側面に作用する力との合力であるラジアル荷重の位相に対して、180度ずれた軸対称位置から±90度の範囲内に収まるように、前記ボリュート形状の前記内部空間の基礎円の直径が、前記羽根部の外側直径の1.15倍以上1.25倍以下となるように形成され、前記回転軸の軸方向において、前記クローズド羽根車の吸込口から前記ポンプケーシングの吐出口の中心位置までの距離が、前記吐出口の直径の1.3倍以上1.5倍以下となるように形成され、
前記ポンプケーシングの前記ボリュート形状は、前記回転軸の回転中心軸線と前記ポンプケーシングの舌部との間の距離が前記羽根部の外側直径の半分の1.1倍以上1.2倍以下となり、かつ、舌部が基礎円の内側に配置されるように位置調整され、
前記主流部は、前記ポンプケーシングの吐出口から前記回転軸の回転方向の上流側45度の位置において、前記ポンプケーシングの内側面とボリュート状の前記内部空間の基礎円との間の距離が、前記吐出口の直径の0.3倍以上0.4倍以下となるように形成され、
前記クローズド羽根車の吸込口は、前記回転軸と同心である円形の吸込み口を底面とする下流側に向けて狭まる円錐形状の角度が45度以上75度以下のテーパ状に形成されている、遠心ポンプ。
【請求項2】
前記凹部には、制御ウェイトが設けられている、請求項
1に記載の遠心ポンプ。
【請求項3】
前記制御ウェイトの上端は、前記凹部の内底面の最も浅くなっている部位よりも低い位置に形成されている、請求項
2に記載の遠心ポンプ。
【請求項4】
前記制御ウェイトの前記羽根車の回転方向に対する上流側は、前記凹部の内底面のうち、前記羽根車の流路に沿って肉盛りされた内底面の部分に接続されている、請求項
2または3に記載の遠心ポンプ。
【請求項5】
前記制御ウェイトの内径側形状は、前記羽根車の回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が増加するよう形成されている、請求項
2~4のいずれか1項に記載の遠心ポンプ。
【請求項6】
前記制御ウェイトは、内径側形状と前記回転軸が挿通される前記羽根車のボス部とで構成される溝が円周方向に60度以上にわたって形成されている、請求項
2~5のいずれか1項に記載の遠心ポンプ。
【請求項7】
前記制御ウェイトの外径側形状は、前記羽根車の回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が減少するよう形成されている、請求項
2~6のいずれか1項に記載の遠心ポンプ。
【請求項8】
前記制御ウェイトは、外径側形状と前記凹部の外側面で構成される溝が円周方向に60度以上にわたって形成されている、請求項
2~4または7のいずれか1項に記載の遠心ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ポンプに関し、特に、汚水や汚物の排出に適している遠心ポンプ用の1枚羽根、または、1つの流路を有する羽根車を備える遠心ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1枚羽根、または、1つの流路を有する遠心ポンプが知られている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ボリュート形状の内部空間を有するポンプケーシングと、羽根部を挟み込む主板および側板を有し、ポンプケーシングの内部空間に配置され、回転軸回りに回転するクローズド羽根車(1つの流路を有する羽根車)とを備える遠心ポンプが開示されている。
【0004】
また、上記特許文献2には、ポンプケーシングと、ポンプケーシングの内側に配置され、回転軸回りに回転するセミオープン羽根車(1枚羽根の羽根車)とを備える遠心ポンプが開示されている。
【0005】
ここで、上記特許文献1および上記特許文献2に開示の遠心ポンプでは、水を吐出することにより、流体反力を受ける。なお、流体反力の大きさ、および、流体反力の向き(位相)は、水の吐出状態(吐出し量を含む)により変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-291937号公報
【文献】特開昭57-86599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のような従来の遠心ポンプおよび上記特許文献2のような従来の遠心ポンプでは、遠心ポンプの吐出状態(吐出し量)が大きく変動した際に、羽根車が回転する中で非軸対称に羽根車から流出する水の反作用力として回転軸の半径方向の内向きに受ける流体反力が作用する大きさおよび向き(位相)が大きく変化することに起因して、水の反作用力の釣り合い(水力的バランス)が崩れるという問題点がある。なお、水の反作用力の釣り合い(水力的バランス)が崩れると、羽根車の回転に伴って遠心ポンプに振動が発生する。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、1枚羽根、または、1つの流路を有する遠心ポンプにおいて、流体反力の大きさおよび向きが変化したとしても流体反力を減殺する(打ち消す)ことが可能な遠心ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者が鋭意検討した結果、羽根車内の流路、羽根部およびポンプケーシング内の流路により形成される主流部を、回転軸の回転方向の全位相において、主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相に対して180度ずれた軸対称位置から±90度の範囲内に収まるような構造を有するように構成することによって、回転軸の回転方向の全位相において水の反作用力(ラジアル荷重)の釣り合いを保つことができることを見出した。なお、回転軸の回転方向の全位相において水の反作用力(ラジアル荷重)の釣り合いが保たれることにより、遠心ポンプの振動を抑制することができる。そして、本発明に想到するに至った。
【0010】
すなわち、この発明の一の局面における遠心ポンプは、ボリュート形状の内部空間を有するポンプケーシングと、1枚羽根、または、1つの流路を有し、回転軸の軸方向において、ポンプケーシングの吸込口側とは逆側に配置される主板と、主板の吸込口側に配置される羽根部とを含み、ポンプケーシングの内部空間に配置され、回転軸周りに回転する羽根車と、羽根車内の流路、羽根部およびポンプケーシング内の流路により形成される主流部と、羽根車の上方に配置されるオイルケーシングと、を備え、羽根車は、羽根部の吸込口側に配置される側板を有するクローズド羽根車を含み、主板は、羽根部側に凹むとともに羽根部の軸方向長さの0.25倍以上の深さに形成されている凹部を有し、回転軸の軸方向に直交する方向における主板の外側面とポンプケーシングとの間の隙間、および、回転軸の軸方向における主板の吸込口側とは逆側の端面とオイルケーシングとの間の隙間の少なくとも一方が、2mm以下となるように形成され、主流部は、回転軸の回転方向の全位相において、主流部を形成する羽根車の流路および羽根部に作用するラジアル荷重の位相が、主板から回転軸に作用する、羽根車が回転する際の主板の凹部の外側面に作用する力と内側面に作用する力との合力であるラジアル荷重の位相に対して、180度ずれた軸対称位置から±90度の範囲内に収まるように、ボリュート形状の内部空間の基礎円の直径が、羽根部の外側直径の1.15倍以上1.25倍以下となるように形成され、回転軸の軸方向において、クローズド羽根車の吸込口からポンプケーシングの吐出口の中心位置までの距離が、吐出口の直径の1.3倍以上1.5倍以下となるように形成され、ポンプケーシングのボリュート形状は、回転軸の回転中心軸線とポンプケーシングの舌部との間の距離が羽根部の外側直径の半分の1.1倍以上1.2倍以下となり、かつ、舌部が基礎円の内側に配置されるように位置調整され、主流部は、ポンプケーシングの吐出口から回転軸の回転方向の上流側45度の位置において、ポンプケーシングの内側面とボリュート状の内部空間の基礎円との間の距離が、吐出口の直径の0.3倍以上0.4倍以下となるように形成され、クローズド羽根車の吸込口は、回転軸と同心である円形の吸込み口を底面とする下流側に向けて狭まる円錐形状の角度が45度以上75度以下のテーパ状に形成されている。
【0011】
この発明の一の局面による遠心ポンプでは、上記のように構成することによって、回転軸の回転方向の全位相において、主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)を、主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の逆向きに向けることができるので、回転軸の回転方向の全位相において、主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)を、主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)で効果的に相殺することができる。これにより、1枚羽根、または、1つの流路を有する遠心ポンプにおいて、流体反力の大きさおよび向きが変化したとしても流体反力を減殺して(打ち消して)、水の反作用力の釣り合い(水力的バランス)を保つことができる。つまり、主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)と主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)との合力の最大値を小さくすることができるので、遠心ポンプに作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の最大値を小さくすることができる。以上により、遠心ポンプの振動を抑制することができる。また、主流部は、ボリュート形状の内部空間の基礎円の直径が、羽根部の外側直径の1.15倍以上1.25倍以下となるように形成されている。この値は一般的に設計される遠心ポンプの設計値より大きな値である。これにより、ポンプケーシングの内部空間が回転軸の回転方向の全位相において一律に大きく形成されるので、内部空間内の流れの流速差が小さくなり内部空間内の圧力差を小さくすることができる。例えば、上記内部空間の回転対称位置の断面積の比が3:5だったとしてその比は0.60だが、基礎円を大きくしたことにより断面積の比が4:6となればその比は約0.67となり差が縮まる。その結果、内部空間内の圧力差により生ずる主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の静的成分を小さくすることができるので、吐出し量に対する主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相変化を小さくすることができるとともに、主流部を形成する羽根車の流路と羽根部に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)を主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)でより効果的に相殺することができる。また、羽根車は、羽根部の吸込口側に配置される側板を有するクローズド羽根車を含み、主流部は、回転軸の軸方向において、クローズド羽根車の吸込口からポンプケーシングの吐出口の中心位置までの距離が、吐出口の直径の1.3倍以上1.5倍以下となるように形成されている。これにより、羽根車の流路長さを比較的長く取ることができるので、水から羽根車の流路内面に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)を相殺されやすくすることができる。また、回転軸の回転中心軸線とポンプケーシングの舌部との間の距離を羽根部の外側直径の半分の1.1倍以上1.2倍以下とすることにより、舌部を内部空間のボリュート形状の基礎円の内側に配置することができる。その結果、内部空間のボリュート形状の巻き始めから巻き終わりの間における圧力の漏れ(圧力損失)を抑制することができる。これにより、揚程の低下を抑制することができる。また、凹部は、羽根部の軸方向長さの0.25倍以上の深さに形成されている。これにより、遠心ポンプの振動をより抑制することができる。このような効果は本願発明者が鋭意検討の結果、見出した。また、羽根車の上方に配置されるオイルケーシングを備え、回転軸の軸方向に直交する方向における主板の外側面とポンプケーシングとの間の隙間、および、回転軸の軸方向における主板の吸込口側とは逆側の端面とオイルケーシングとの間の隙間の少なくとも一方が、2mm以下となるように形成されている。これにより、回転軸の軸方向に直交する方向における主板の外側面とポンプケーシングとの間の隙間、および、回転軸の軸方向における主板の吸込口側とは逆側の端面とオイルケーシングとの間の隙間を介して、オイルケーシングと主板との間に水が到達するのを抑制することができる。その結果、オイルケーシングと主板との間に水が到達することに起因する遠心ポンプの吐出し量の変化に対する主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の変化の影響を小さくすることができるので、主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の大きさを安定させる(主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)のラジアルリサージュ曲線をより真円形状に近づける)ことができる。その結果、遠心ポンプの全体に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)をより安定させることができる。また、主流部は、ポンプケーシングの吐出口から回転軸の回転方向の上流側45度の位置において、ポンプケーシングの内側面とボリュート状の内部空間の基礎円との間の距離が、吐出口の直径の0.3倍以上0.4倍以下となるように形成されている。これにより、ポンプケーシングの流路の吐出口側が比較的大きく形成されるので、流路の吐出側の流速を遅くして圧力を上げることができ、吐出し量が多い範囲(過大流量域)において、より流路内の圧力差を小さくすることができる。その結果、内部空間内の圧力差により生ずる主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の静的成分を小さくすることができるので、主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の向き(位相)が大きく変化する過大流量域において、より吐出し量に対する主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重(半径方向荷重)の位相変化を小さくすることができるとともに、主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重(半径方向荷重)と主板に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)とをより効果的に相殺することができる。また、羽根車は、羽根部の吸込口側に配置される側板を有するクローズド羽根車を含み、クローズド羽根車の吸込口は、回転軸と同心である円形の吸込み口を底面とする下流側に向けて狭まる円錐形状の角度が45度以上75度以下のテーパ状に形成されている。これにより、クローズド羽根車に水を十分に吸込可能に構成しつつ、吸込口を円錐形状にして余計なラジアル荷重を発生させないので、羽根車の流路内面における水から受けるラジアル荷重(半径方向荷重)の偏りを抑制することができる。
【0012】
ここで、従来より、遠心ポンプの分野では、機械的バランス(空気中における羽根車の回転中心軸線に対する動的および静的な釣り合い)を確保するために、羽根車に不釣り合い質量を設けたり、羽根車から除肉をすることが一般的に行われていた。しかし、不釣り合い質量や、除肉を行うことに起因して水力的バランスを確保することが困難であった。すなわち、機械的バランスおよび水力的バランスの両方を確保することが困難であった。そこで、本発明では上記のように構成することで、羽根車の回転中心軸線に対する動的および静的な釣り合いを略変えることなく水力的バランスを確保することができる。すなわち、機械的バランスに略影響を及ぼすことなく(機械的バランスを略損なうことなく)水力的バランスを確保することができる。したがって、水力的バランスを確保することができるとともに、機械的バランスを確保(保持)することが可能となる。
【0023】
上記主板が凹部を有する構成において、好ましくは、凹部には、制御ウェイトが設けられている。このように構成すれば、羽根車の回転中心軸線に対する動的および静的な釣り合いを確実に確保して、遠心ポンプの振動を一層抑制することができる。
【0024】
この場合、好ましくは、制御ウェイトの上端は、凹部の内底面の最も浅くなっている部位よりも低い位置に形成されている。
【0025】
上記凹部に制御ウェイトが設けられる構成において、好ましくは、制御ウェイトの羽根車の回転方向に対する上流側は、凹部の内底面のうち、羽根車の流路に沿って肉盛りされた内底面の部分形状に接続されている。
【0026】
上記凹部に制御ウェイトが設けられる構成において、好ましくは、制御ウェイトの内径側形状は、羽根車の回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が増加するよう形成されている。
【0027】
上記凹部に制御ウェイトが設けられる構成において、好ましくは、制御ウェイトは、内径側形状と回転軸が挿通される羽根車のボス部とで構成される溝が円周方向に60度以上にわたって形成されている。
【0028】
上記凹部に制御ウェイトが設けられる構成において、好ましくは、制御ウェイトの外径側形状は、羽根車の回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が減少するよう形成されている。
【0029】
上記凹部に制御ウェイトが設けられる構成において、好ましくは、制御ウェイトは、外径側形状と凹部の外側面で構成される溝が円周方向に60度以上にわたって形成されている。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、上記のように、1枚羽根、または、1つの流路を有する遠心ポンプにおいて、流体反力の大きさおよび向きが変化したとしても流体反力を減殺する(打ち消す)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態による遠心ポンプを示した概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による遠心ポンプの主板および主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の位相および大きさについて説明するための図である。
【
図3】
図1のA-A線に沿ったクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図4】
図1のB-B線に沿った主流部の断面矢視図である。
【
図5】
図3のC-C線に沿ったクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図6】本発明の一実施形態による遠心ポンプのクローズド羽根車を上方から示した斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態による遠心ポンプのクローズド羽根車を下方から示した斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態による遠心ポンプのフルモデル解析を行う領域を示した図である。
【
図9】比較例による遠心ポンプのクローズド羽根車の主板に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相について説明するための図である。
【
図10】本発明の一実施形態による遠心ポンプの全揚程、ポンプ効率と、吐出し量の関係を示した図である。
【
図11】比較例による遠心ポンプを示した概略図である。
【
図12】
図11のA1-A1線に沿った蓋を取り外したクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図13】
図11のB1-B1線に沿った主流部の断面矢視図である。
【
図14】
図12のC1-C1線に沿ったクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図15】ラジアル荷重の静的成分および動的成分について説明するための図である。
【
図16】比較例の遠心ポンプの全体の解析点1~4のラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図17】比較例の遠心ポンプの全体、主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)、主板の解析点1のラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図18】比較例の遠心ポンプの全体、主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)、主板の解析点4のラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図19】クローズド羽根車の所定回転位置におけるラジアル作用位相と吐出し量との関係を示した図である。
【
図20】参考例の遠心ポンプ(主板ラジアル制御のみ)および比較例の遠心ポンプの主板の解析点1および4におけるラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図21】参考例の遠心ポンプ(主板ラジアル制御のみ)および比較例の遠心ポンプの全体の解析点1および4におけるラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図22】比較例の遠心ポンプの解析点1におけるラジアル作用位相とクローズド羽根車の回転角度との関係を示した図である。
【
図23】比較例の遠心ポンプの解析点4におけるラジアル作用位相とクローズド羽根車の回転角度との関係を示した図である。
【
図24】本発明の遠心ポンプの解析点1におけるラジアル作用位相とクローズド羽根車の回転角度との関係を示した図である。
【
図25】本発明の遠心ポンプの解析点4におけるラジアル作用位相とクローズド羽根車の回転角度との関係を示した図である。
【
図26】本発明の遠心ポンプ(主流部のラジアル位相制御)および比較例の遠心ポンプの主板の解析点1および4におけるラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図27】本発明の遠心ポンプ(主流部のラジアル位相制御)および比較例の遠心ポンプの主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)の解析点1および4におけるラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図28】本発明の遠心ポンプ(主流部のラジアル位相制御)および比較例の遠心ポンプの全体の解析点1および4におけるラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図29】本発明の遠心ポンプの主板の解析点1および4において、主流部ラジアル位相制御のみを行った場合と、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御を行った場合とを比較して説明するための主板のラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図30】本発明の遠心ポンプの全体の解析点1および4において、主流部ラジアル位相制御のみを行った場合と、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御を行った場合とを比較して説明するための全体のラジアルリサージュ曲線を示した図である。
【
図31】本発明の一実施形態の第1変形例による遠心ポンプを示した概略図である。
【
図32】
図31のA2-A2線に沿ったクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図33】
図31のB2-B2線に沿った主流部の断面矢視図である。
【
図34】
図32のC2-C2線に沿ったクローズド羽根車の断面矢視図である。
【
図35】本発明の一実施形態の第1変形例による遠心ポンプのクローズド羽根車を上方から示した斜視図である。
【
図36】本発明の一実施形態の第1変形例による遠心ポンプのクローズド羽根車を下方から示した斜視図である。
【
図37】比較例(本発明の一実施形態の第1変形例の比較例)のクローズド羽根車の平面図である。
【
図38】本発明の一実施形態の第2変形例による遠心ポンプを示した概略図である。
【
図39】本発明の一実施形態の第1変形例による遠心ポンプのクローズド羽根車の制御ウェイトの他の例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
(遠心ポンプの構成)
図1~
図30を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0034】
図1~
図9を参照して、本実施形態による遠心ポンプ100の構成について説明する。本実施形態による遠心ポンプ100は、汚水に含まれる固形物(異物)をクローズド羽根車4内の流路4aに詰まらせることなく通過させて排出するように構成されたノンクロッグ型のポンプである。なお、クローズド羽根車4は、特許請求の範囲の「羽根車」の一例である。
【0035】
図1に示すように、遠心ポンプ100は、モータ1と、オイルケーシング2と、ポンプケーシング3と、クローズド羽根車4と、主流部5とを備えている。
【0036】
モータ1は、ステータ11と、ロータ12と、ステータ11およびロータ12を覆うモータケーシング13と、回転軸14とを含んでいる。回転軸14は、上下方向(Z方向)に延びており、軸受15に回動可能に支持されている。また、回転軸14は、下端部にクローズド羽根車4が取り付けられている。モータ1は、回転軸14を介してクローズド羽根車4を回転させるように構成されている。
【0037】
オイルケーシング2は、オイル室21とオイル室21の下側に配置されるポンプ室(後述する内部空間31)とを仕切るように、オイル室21とポンプ室(内部空間31)との間に設けられている。オイルケーシング2は、クローズド羽根車4の上方に配置されており、クローズド羽根車4の後述する主板42の上端面422に対向配置されている。
【0038】
ポンプケーシング3は、オイルケーシング2に下側から接触するように設けられている。ポンプケーシング3は、上側に開口部を有している。開口部には、オイルケーシング2の下部が配置されている。ポンプケーシング3には、下方側からマウスリングM1が設置されている。
【0039】
ポンプケーシング3は、内部空間31と、吸込口32と、吐出口33とを含んでいる。
【0040】
内部空間31は、モータ1およびオイル室21の直下に配置されている。内部空間31は、内側にクローズド羽根車4が配置されており、ポンプ室として機能する空間である。内部空間31は、平面視で(Z1側から見て)、ボリュート形状に形成されている。
【0041】
吸込口32は、内部空間31の直下に配置されており、内部空間31(クローズド羽根車4)に送られる水を吸い込む入口部分である。吐出口33は、内部空間31の側方に配置されており、内部空間31(クローズド羽根車4)から送られた水を吐出する出口部分である。
【0042】
クローズド羽根車4は、円形状の1つの流路4aを有するブレードレス形の羽根車である。クローズド羽根車4は、ポンプケーシング3の内部空間31に配置され、回転軸14の回転中心軸線Oの周りに回転するように構成されている。
【0043】
クローズド羽根車4は、側板41と、主板42と、羽根部43と、ボス部44とを含んでいる。
【0044】
側板41は、概して、円環形状を有している。側板41は、回転軸14の軸方向(Z方向)において、ポンプケーシング3の吸込口32側(下側、Z2側)に配置されている。側板41は、ポンプケーシング3の吐出口33の中心の高さ位置(
図1において下方側の一点鎖線で示す高さ位置)よりも低い高さ位置に配置されている。
【0045】
主板42は、概して、円環形状を有している。主板42は、回転軸14の軸方向(Z方向)において、側板41(ポンプケーシング3の吸込口32側)とは逆側に配置されている。すなわち、主板42は、側板41の上側(Z1側)に配置されている。
【0046】
主板42は、回転軸14の半径方向外側に配置される円環形状の環状部42aと、回転軸14の半径方向内側(環状部42aの内側)に配置され、下方に窪む凹部42bとを含んでいる。凹部42bは、概して、クローズド羽根車4内の流路4aに沿った湾曲形状を有している。
【0047】
環状部42aは、ポンプケーシング3に水平方向に対向して配置される外側面421と、オイルケーシング2に対向して配置される上端面422とを有している。外側面421は、回転軸14の回転方向の全周にわたり、ポンプケーシング3と所定の隙間G1を隔てて対向している。上端面422は、回転軸14の回転方向の全周にわたり、オイルケーシング2と所定の隙間G2を隔てて対向している。上端面422および外側面421は、共に環状形状を有している。
【0048】
羽根部43は、側板41と主板42との間に挟まれるように配置されている。羽根部43の内径側には、平面視で(Z1側から見て)、渦状の流路4aが形成されている。
【0049】
ボス部44は、回転軸14と同軸上に配置され、凹部42bの中心位置から上方に延びる円筒形状に形成されている。ボス部44には、回転軸14が挿通され、羽根車43を回転軸14に固定している。
【0050】
主流部5は、クローズド羽根車4内の流路4aと羽根部43およびポンプケーシング3内の流路3aにより形成されている。すなわち、主流部5は、遠心ポンプ100が水を送るために備える全体の流路である。
【0051】
ここで、従来の一般的な遠心ポンプでは、機械的バランスを調整するために不釣合い質量の存在する部分を除肉して主板または側板に凹部を設けるなどしていた。この場合、羽根車の軽量化や材料費の低減、鋳造時の各部の冷却速度差を小さくして鋳造精度を向上させるため肉厚を等しくしようとすれば、必然的に凹部の形状は羽根または流路の形状を写し取ることになる。このため、凹部も回転中心について非軸対称な形状となると共に、凹部の所定の角度位置における体積も決定されることになり、凹部の非軸対称な形状を開放したまま水中で羽根車を回転させると流体の乱れによる動力損失が発生するため、凹部は蓋で覆われているが、蓋を設けたことで凹部内に侵入した水が凹部内に閉じ込められることになり、羽根車の水中での回転に伴って凹部内の水に作用する非軸対称な遠心力によって振動が大きくなる。本実施形態における遠心ポンプ100は、このような凹部42b内の水に作用する非軸対称な遠心力による振動を抑制するために蓋を設けない構成とし、蓋を設けない構成としても上記動力損失を小さく抑制できるように形成することで、水力的バランスを確保するとともに、機械的バランスを確保することが可能なように構成されている。以下、主流部ラジアル位相制御について説明する。
【0052】
(主流部ラジアル位相制御)
図1に示す遠心ポンプ100は、運転時における空気中の回転軸14に作用する力のバランス(機械的バランス)が取れるように構成されているのみならず、主流部ラジアル位相制御(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相に基づく制御(設計))の下、運転時における水中の回転軸14に作用する力のバランス(水力的バランス)も調整することが可能なように構成されている。すなわち、遠心ポンプ100は、主流部ラジアル位相制御により、水中での振動を抑制可能なように構成(設計、調整)されている。なお、遠心ポンプ100の機械的バランスは、空気中におけるクローズド羽根車4などの回転体の静的および動的な釣り合いを調整することにより取られている。
【0053】
主流部ラジアル位相制御とは、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相を調整することにより、回転軸14の回転方向において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、の合力の大きさの最大値を小さく抑制する制御である。主流部ラジアル位相制御により、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重とを効果的に相殺することが可能である。なお、主流部ラジアル位相制御においては、位相の確認を行いながら設計を行う。また、主流部ラジアル位相制御は、流体解析(CFD;Computational Fluid Dynamics)を実施することにより行われる。また本発明では、
図8に示す従来の解析領域に加えて、
図8に示す斜線領域のすべてについて解析(フルモデル解析)を行う。
【0054】
ここで、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさ、および、位相は、回転軸14の回転方向におけるクローズド羽根車4の位相(回転角度)に応じて変動する。すなわち、クローズド羽根車4の位相(回転角度)が変化するにつれて、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさと位相が変化する。また、クローズド羽根車4の位相(回転角度)が変化するにつれて、同じ変化幅で、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相が変化するものではない。
【0055】
具体的な一例を示すと、クローズド羽根車4が回転軸14周りに+10度回転した場合、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相は、回転軸14周りに+12度だけ回転し、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさは、1.3倍になる。さらに、クローズド羽根車4が回転軸14周りに+10度回転した場合、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相は、回転軸14周りに+15度だけ回転し、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさは、0.8倍になる。要するに、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重のラジアルリサージュ曲線は、回転軸14の回転中心位置に配置される真円形状ではなく、湾曲した形状になる。詳細については後述する。
【0056】
この理由としては、まず、クローズド羽根車4が回転してクローズド羽根車4内の流路4aおよび羽根部43とポンプケーシング3内の流路3aとの相対位置が変動することなどにより、クローズド羽根車4内の流路4aおよび羽根部43からの吐出状態(吐出し量を含む)が変動する。その結果、吐出した水から受ける反力(流体反力)が変動するため、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさ、および、位相が変動する。本実施形態の主流部ラジアル位相制御は、回転軸14の回転に伴い変動する主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相を調整して、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相が変動する中でも、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重と、主板42に作用するラジアル荷重と、の合力の大きさの最大値を小さく抑制する制御(設計)である。
【0057】
主流部ラジアル位相制御の下、主流部5は、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±90度の範囲に収まるような構造を有するように構成されている。また、主流部5は、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重と主板42に作用するラジアル荷重との合力の最大値が小さくなるような構造を有するように構成されている。
【0058】
すなわち、主流部ラジアル位相制御の下、主流部5は、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重と主板42に作用するラジアル荷重との合力の大きさを、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相および大きさの調整により、小さくするように構成されている。
【0059】
要するに、
図2に示すように、主流部ラジアル位相制御の下、主流部5は、平面視で(Z1側から見て)、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重F1とは反対側にあるハッチングにより示す位相範囲において、回転軸14の位相(回転角度)に拘わらず主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43から回転軸14)にラジアル荷重F2が作用するように構成されている。
【0060】
図1に示す遠心ポンプ100は、設計上、主流部5(ポンプケーシング3、クローズド羽根車4)の形状を変更(調整)することにより、主流部ラジアル位相制御を行うように構成されている。主流部ラジアル位相制御のための主流部5の設計上の形状変更(調整)については後述する。
【0061】
主流部ラジアル位相制御の下、主流部5は、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±60度の範囲に収まるような構造を有するように構成されているのがより好ましい。主流部ラジアル位相制御を行うと、後述するラジアルリサージュ曲線を小さくすることが可能となる。
【0062】
(主板ラジアル制御)
図1に示す遠心ポンプ100は、主流部ラジアル位相制御に加えて、主板ラジアル制御を行うことにより、水中での振動をより抑制可能なように構成(設計)されている。すなわち、本実施形態の主板ラジアル制御は、必須の制御ではなく、主流部ラジアル位相制御に加えて行われる補助的な制御である。
【0063】
主板ラジアル制御とは、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相の少なくとも一方を変更(調整)することにより、回転軸14の回転方向の全位相において、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、の合力の大きさの最大値を小さく抑制する制御(設計)である。主板ラジアル制御により、主板42(から回転軸14)に作用するラジアル荷重と、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43から回転軸14)に作用するラジアル荷重とを効果的に相殺することが可能である。主板ラジアル制御は、流体解析(CFD)を実施することにより行われる。
【0064】
なお、主板ラジアル制御では、主板42は、要求されるポンプ運転範囲において最大振動が小さくなるように、最適な主板42のラジアル荷重の大きさと位相とが算出され、その結果に基づいて主板42の具体的な形状が設計される。
【0065】
主板ラジアル制御の下、主板42は、回転軸14の回転方向において、主板42に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相の少なくとも一方を変更(調整)することにより、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)および主板42に作用するラジアル荷重の合力の大きさを小さくするように形成されている。
【0066】
なお、主板42に作用するラジアル荷重は、主流部5のように流体反力の影響をほとんど受けることがない。すなわち、クローズド羽根車4の位相(回転角度)が変化しても、主板42に作用するラジアル荷重の大きさは略変化しない。また、クローズド羽根車4の位相(回転角度)が変化するにつれて、略同じ変化幅で、主板42に作用するラジアル荷重の位相が変化する。
【0067】
具体的な一例を示すと、クローズド羽根車4が回転軸14周りに+10度回転した場合、主板42に作用するラジアル荷重の位相は、同様に回転軸14周りに約+10度だけ回転し、主板42に作用するラジアル荷重の大きさは、略変化しない。さらに、クローズド羽根車4が回転軸14周りに+10度回転した場合、同様に、主板42に作用するラジアル荷重の位相は、回転軸14周りに約+10度だけ回転し、主板42に作用するラジアル荷重の大きさは略変わることはない。要するに、主板42に作用するラジアル荷重のラジアルリサージュ曲線は、概して、中心が回転軸14の回転中心軸線O上に配置される真円形状になる。
【0068】
遠心ポンプ100は、設計上、主板42の形状などを変更(調整)することにより、主板ラジアル制御を行うように構成されている。主板ラジアル制御のための主板42の設計上の形状変更(調整)については後述する。
【0069】
(主流部ラジアル位相制御のための主流部の設計上の形状変更(調整)について)
次に、主流部ラジアル位相制御のための主流部5の設計上の形状変更(調整)について、主流部5の具体的な形状(構成)を示して説明する。
【0070】
なお、
図1に示す遠心ポンプ100の実際の設計においては、遠心ポンプ100に所定のポンプ運転範囲において要求される仕様を満たすための所定の設計をした上で、主流部ラジアル位相制御(流体解析)を行い主流部5の具体的な形状(パラメータ)を決定していく。具体的には、主流部ラジアル位相制御では、流路4aの形状および羽根部43の形状を変更する。
【0071】
主流部5は、ポンプケーシング3の内部空間31のボリュート形状を変更することにより、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±90度の範囲内に収まるような構造を有するように構成されている。
【0072】
主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重は、ボリュート形状によって生じる内部空間31内の圧力差による静的な力と、クローズド羽根車4の回転により流路4aおよび羽根部43から吐出される水の流れの反作用力による動的な力(流体反力)とが足し合わさったものである。このため、ボリュート形状を変更することにより、主流部5に作用するラジアル荷重の静的な力を変化(調整)させて、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相に影響を与えることが可能となる。このような目的のために、ボリュート形状を変更(調整)している。動的な力、静的な力については後述する(後述する比較例とともに説明する)。
【0073】
具体的には、
図4に示すように、ボリュート形状の調整のために、主流部5は、ボリュート形状の内部空間31の基礎円Jの直径D3が、羽根部43の外側直径D2の約1.15倍以上1.25倍以下となるように形成されている。基礎円Jとは、ボリュート形状を設計する際に用いられる基礎となる円である。なお、外側直径D2は、たとえば、262mmに設定される。
【0074】
また、ボリュート形状の調整のために、主流部5は、ポンプケーシング3の吐出口33から回転軸14の回転方向の上流側45度の位置において、ポンプケーシング3の内側面3bとボリュート状の内部空間31の基礎円Jとの間の距離Hが、吐出口33の直径Tの約0.3倍以上0.4倍以下となるように形成されている。
【0075】
また、ボリュート形状の調整のために、主流部5は、回転軸14の回転中心軸線Oとポンプケーシングの舌部34との間の距離Zが、羽根部43の外側直径D2の半分の約1.10倍以上1.20倍以下となるように形成されている。また、舌部34は、基礎円Jの内側に配置されている。
【0076】
図1に示すように、主流部5は、回転軸14の軸方向において、クローズド羽根車4の吸込口45からポンプケーシング3の吐出口33の中心位置(
図1において下方側の一点鎖線で示す高さ位置)までの距離Kが、吐出口33の直径Tの約1.3倍以上1.5倍以下となるように形成されている。吐出口33の直径Tは、たとえば、100mmに設定される。また、回転軸14の半径方向において、クローズド羽根車4内の流路4aの広がりを抑えるために、流路4aを回転軸14の比較的近傍(比較的半径方向内側)に配置した。このように、流路4aの半径方向への広がりを抑えることにより、回転軸14の軸方向(Z方向)において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重が作用する高さ位置を、ポンプケーシング3の吐出口33の中心位置(
図1において下方側の一点鎖線で示す高さ位置)に近づけることが可能となり、主流部ラジアル位相制御を行いやすくすることが可能となる。
【0077】
図5に示すように、クローズド羽根車4の吸込口45(開口角度M)は、下流側に向けて狭まる約45度以上75度以下のテーパ状に形成されている。たとえば、クローズド羽根車4の吸込口45は、下流側に向けて狭まる60度のテーパ状に形成されている。
【0078】
図4に示すように、主流部ラジアル位相制御では、ポンプケーシング3の吐出口33の中心位置(
図1において下方側の一点鎖線で示す高さ位置)におけるクローズド羽根車4の水平断面形状Sを変更(調整)することにより、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重と主板42に作用するラジアル荷重と、の合力の大きさの最大値を小さくことも可能である。具体的には、羽根部43の巻き終わり角度Fを調整する。羽根部43の巻き終わり角度Fとは、平面視で(Z1側から見て)、クローズド羽根車4の水平断面形状Sにおいて、ポンプケーシング3の吐出口33の中心および回転軸14の回転中心を通る線L1と、羽根部43の巻き終わり端部および回転軸14の回転中心を通る線L2とのなす角度である。なお、通常、羽根部の巻き終わり角度Fは、羽根部内での相対位置、羽根部の巻き始めと巻き終わりの位置で調整される。しかし、本実施形態では、主流部ラジアル位相制御のため、羽根部43の巻き終わり角度Fは、羽根部43の巻き終わりの位置とポンプケーシング3の吐出口33中心線との相対位置の調整が重要となる。
【0079】
たとえば、遠心ポンプ100は、平面視で(Z1側から見て)、線L2が線L1の上流側(時計回り方向側)に配置され、羽根部43の巻き終わり角度Fが、約13.7度に設定される。また、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の大きさやその位相は、設計上、クローズド羽根車4の水平断面形状Sの各位相における面積や軸方向長さや、半径、回転方向に対する傾斜角度等の設計パラメータに大きく影響されて変動するため、フルモデル解析結果を用いて上記ラジアル荷重の大きさや位相が目標値となるよう、水平断面形状Sは設計される。
【0080】
(主板ラジアル制御のための主板の設計上の形状変更(調整)について)
次に、主板ラジアル制御のための主板42の設計上の形状変更(調整)について、主板42の具体的な形状(構成)を示して説明する。
【0081】
なお、
図1に示す遠心ポンプ100の実際の設計においては、主流部ラジアル位相制御(流体解析)を行い具体的な形状(パラメータ)を決定した上で、主板ラジアル制御(流体解析)を行い主板42などの具体的な形状(パラメータ)を決定していく。
【0082】
回転軸14の軸方向に直交する方向における主板42(外側面421)とポンプケーシング3との間の隙間G1が、2mm以下となるように形成されている。なお、隙間G1は、回転軸14の軸方向における主板42(上端面422)とオイルケーシング2との間の隙間G2よりも小さい。すなわち、隙間G2は、2mmよりも大きく形成(たとえば、10mmに形成)されている。
【0083】
主板42には、従来より一般的に用いられている凹部42bを塞ぐための蓋部が設けられてはいない。蓋部を設けないことにより、凹部42bに浸入して閉じ込められた水に作用する遠心力に起因する振動を防止することが可能となる。
【0084】
〈主板の圧力分布について〉
主板42の圧力分布は、回転軸14の回転中心からの距離が大きくなるほど圧力が大きくなり、凹部42bが所定深さ(羽根部43の軸方向長さQの0.25倍)以上となる場合に回転軸14に対する対称性(等圧線が同心円状)が略維持される。主板42のラジアル荷重には、主流部5の流れ場が影響しにくい。特に、隙間G1が2mm以下であれば、主板42のラジアル荷重は、主流部5の流れ場が一層影響しにくい。主板42の形状変更による主板42のラジアル荷重の位相の制御は機械的バランスを調整する必要があるため±30度ぐらいが限度であり、主板42のラジアル荷重の大きさの制御は要求されるモータ出力によりクローズド羽根車の外径が制限されるため後述する遠心ポンプ200(従来設計)に対して-50%~+10%程度となる。
【0085】
凹部42bは、羽根部43の軸方向長さQの0.25倍以上の深さに形成されている。これにより、遠心ポンプ100は、振動をより効果的に抑制可能である。
【0086】
主板42のラジアル荷重は、ラジアルリサージュ曲線において、略真円形状で、クローズド羽根車4の回転角度に対する角度変化が略均等であるため、要求されるポンプ運転範囲において主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重との合力が最小となる主板ラジアル荷重の大きさと位相をエクセルのソルバー機能などにより決定することができる。
【0087】
なお、
図9に示すように、主板42のラジアル荷重の大きさおよび位相は、クローズド羽根車4が回転する際に、主板42の凹部42bの外側面(大きな破線矢印)と、内側面とに作用する力(小さな破線矢印)との合力(実線矢印)により導かれる。凹部42bは、回転方向において外側面や内側面の半径方向位置やZ方向への深さが均一ではないため、主板42のラジアル荷重の位相は、回転軸14の所定の回転方向に向く。この作用を利用して、目標とする主板ラジアル荷重の大きさと位相となるよう、凹部42bの外側面や内側面の半径方向位置やZ方向の深さを設計する。
【0088】
(遠心ポンプの解析)
図10~
図30を参照して、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御の下、設計された遠心ポンプ100の解析結果について説明する。なお、比較例として従来の遠心ポンプ200についても説明する。
【0089】
図10に示すように、互いに異なる4つの吐出し量において解析を行い、それぞれ回転中心軸線O周りのラジアル荷重を算出した。なお、以下では、吐出し量が少ない解析点から順に解析点1、解析点2、解析点3、解析点4とする。また、解析点3は、ポンプ効率の最高効率点(近傍)にある。ここで、遠心ポンプ100の振動は、最高効率点(解析点3)近傍では小さく、最高効率点(解析点3)から離れるほど大きくなる傾向がある。また、遠心ポンプ100の振動は、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)および主板42に作用するラジアル荷重の合力の最大値が大きい程、大きくなる。そこで、以下では、遠心ポンプ100の振動に影響が大きい解析点1および解析点4について主に説明する。
【0090】
以下では、最高効率点よりも小さい吐出し量の範囲を部分流量域と称し、最高効率点よりも大きい吐出し量の範囲を過大流量域と称して説明する。すなわち、解析点1は、部分流量域の解析点であり、解析点4は、過大流量域の解析点である。
【0091】
ここで、
図10に示すグラフでは、一般的に、ポンプが要求される運転範囲の端部においてラジアル荷重が大きくなるV字傾向にある。ブレードレス形ポンプでは部分流量側より過大流量側が大きいことが多い。実験によりポンプ振動は、ラジアルの変動幅より最大値と相関が高いことが分かっている。したがって、ポンプ運転範囲の振動を低減しようとすれば、運転範囲の端部のラジアルリサージュ曲線が小さくなるよう水力的バランスを調整してやればよい。
【0092】
なお、解析は、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)および主板42にそれぞれ作用するラジアル荷重と、遠心ポンプ100のポンプ部に作用するラジアル荷重(主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)および主板42に作用するラジアル荷重の合力に、側板41側に作用するラジアル荷重などを合わせた合力)が得られるように実施した。すなわち、解析は、クローズド羽根車4の裏側(オイルケーシング側)への循環流や、クローズド羽根車4の吸込口45への還流などの遠心ポンプ100内の全体の流れを考慮して解析モデル化したフルモデル解析(
図8にフルモデル解析の範囲を示す)により実施した。
【0093】
〈比較例の遠心ポンプの構成〉
ここで、
図11~
図14を参照して、比較例の遠心ポンプ200の構成について簡単に説明する。なお、
図12では、説明の便宜上、凹部を塞ぐ蓋部の図示を省略している。
【0094】
図11に示す遠心ポンプ200は、遠心ポンプ100の構成と同様の構成を備えている。遠心ポンプ200は、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御の下で設計されたポンプではなく、従来の一般的手法により設計されたポンプである。
【0095】
図13に示すように、比較例の遠心ポンプ200では、ボリュート形状の内部空間の基礎円J1の直径D31が、羽根部の外側直径D21の1.05倍以上1.13倍以下となるように形成されている。
【0096】
図13に示すように、また、比較例の遠心ポンプ200では、クローズド羽根車の吸込口からポンプケーシングの吐出口の中心位置(
図11において下方側の一点鎖線で示す高さ位置)までの距離K1が、吐出口の直径T1の1.15倍以上1.25倍以下となるように形成されている。直径T1は、たとえば、100mmに設定される。
【0097】
また、比較例の遠心ポンプ200は、平面視で(Z1側から見て)、直線L21(水平断面形状S1において、羽根部の巻き終わり端部および回転軸の回転中心を通る直線)が直線L11(水平断面形状S1において、ポンプケーシングの吐出口の中心および回転軸の回転中心を通る直線)の下流側(反時計回り方向側)に配置され、羽根部の巻き終わり角度F1が、0.8度である。
【0098】
また、
図14に示すように、比較例の遠心ポンプ200では、クローズド羽根車の吸込口(開口角度M1)は、下流側に向けて狭まる80度~90度のテーパ状に形成されている。
【0099】
また、
図11に示すように、比較例の遠心ポンプ200では、回転軸の軸方向における主板とポンプケーシングとの間の隙間G11が、3mm~10mmとなるように形成されている。隙間G21も同様に、比較的大きく(3mm以上で)形成されている。
【0100】
なお、比較例の遠心ポンプ200の主板には、凹部を塞ぐ蓋部が設けられている。
【0101】
〈ラジアルリサージュ曲線について〉
ここで、遠心ポンプ100(200)の以下で説明するラジアルリサージュ曲線について簡単に説明する。ラジアルリサージュ曲線は、回転軸の回転中心を基準とした主流部(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)などに作用するラジアル荷重の大きさと位相との関係を示す図である。横軸(Y軸)および縦軸(X軸)は、それぞれ、ラジアル荷重の互いに直交する所定の水平方向成分の大きさ[N]を示している。要するに、ラジアルリサージュ曲線は、クローズド羽根車4の回転する中で、遠心ポンプ100(200)の各部に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相の変化の態様を示した図である。
【0102】
なお、ラジアルリサージュ曲線は、ポンプケーシング3の内部空間31内の圧力差による静的な力(静的成分)と、クローズド羽根車4の回転に伴い流路4aおよび羽根部43から吐出される流れの反作用力による動的な力(動的成分)との合力である。また、最高効率点では、ポンプケーシング3による静的な力が最小となるので、ラジアル荷重は、最高効率点の近傍で小さくなりやすい。
【0103】
ここで、
図15を参照して上述した動的な力、静的な力について説明する。ポンプケーシング3(ボリュートケーシング)を大きくすることでボリュートケーシング内の圧力差が小さくなるため、圧力差によって生じるラジアル荷重の静的成分を小さくすることができる。
図15に示すように、矢印Y10が矢印Y11になり、小さくなっており、解析点4(過大流量域)において、より小さくなっている。矢印Y13と矢印Y14とは、ラジアル荷重の動的成分を表している。ラジアル荷重の静的成分とは、回転軸14からのリサージュ図芯の偏芯量を意味する。ラジアル荷重の静的成分は、吐出し量が最高効率点より離れるほど大きくなり主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相に影響を与える。静的成分を小さくすることで、吐出し量に対する位相変化を小さくすることができるとともに、回転軸14を中心とした略真円形状の主板ラジアルとの相殺がしやすくなる。
【0104】
〈解析点1~4における比較例のラジアルリサージュ曲線について〉
まず、
図16を参照して、比較例の遠心ポンプ200の全体に作用するラジアル荷重について、解析点1~4における解析結果について説明する。
【0105】
図中において破線で示す円形状は、ラジアル荷重の最大値の大きさを示している。したがって、解析点4でラジアル荷重が最も大きくなり、次いで、解析点1、解析点3、解析点2の順にラジアル荷重の最大値が小さくなることがわかった。
【0106】
〈解析点1および4における比較例のラジアルリサージュ曲線について〉
まず、
図17を参照して、比較例の遠心ポンプ200の解析点1(部分流量域)における解析結果について説明する。
【0107】
主板のラジアルリサージュ曲線は、概して、X軸とY軸の交点(回転中心軸線O)を中心とする真円形状になった。主板のラジアルリサージュ曲線では、クローズド羽根車4の所定の基準角度(位相)からの回転角度が0度の位置を実線矢印により示し、基準角度からの回転角度が180度の位置を破線矢印により示している。なお、矢印の大きさは、ラジアル荷重の大きさを示している(矢印が大きい程、ラジアル荷重は大きい)。また、以下に示す他のラジアルリサージュ曲線においても、実線と破線との関係は同様である。
【0108】
主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアルリサージュ曲線は、Y方向の一方に偏った湾曲した円形状になった。主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアルリサージュ曲線は、主板のラジアルリサージュ曲線よりも、大きな部位を有する曲線となった。したがって、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の最大値は、主板に作用するラジアル荷重の最大値よりも大きくなった。
【0109】
全体のラジアルリサージュ曲線は、Y方向の一方に偏り、比較的小さな湾曲した形状になった。全体に作用するラジアル荷重の最大値は、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の最大値よりも小さくなった。
【0110】
次に、
図18を参照して、比較例の遠心ポンプ200の解析点4(過大流量域)における解析結果について説明する。
【0111】
主板のラジアルリサージュ曲線は、概して、回転中心軸線Oを中心とする真円形状になった。
【0112】
主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアルリサージュ曲線は、Y方向の他方に偏った湾曲した円形状になった。主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアルリサージュ曲線は、主板のラジアルリサージュ曲線よりも、大きな部位を有する曲線となった。したがって、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の最大値は、主板に作用するラジアル荷重の最大値よりも大きくなった。
【0113】
全体のラジアルリサージュ曲線は、Y方向の他方に偏り、比較的大きな湾曲した形状になった。全体に作用するラジアル荷重の最大値は、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)および主板に作用するラジアル荷重の最大値よりも大きくなった。
【0114】
なお、
図17では、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重(白丸でしめす解析点1)と、主板のラジアル荷重(黒丸で示す解析点1)とが互いに相殺されて、全体のラジアルリサージュ曲線が小さくなった。また、
図18では、主流部(主流部を形成する羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重(白四角でしめす解析点4)と、主板のラジアル荷重(黒四角で示す解析点4)とが互いに相殺できず、全体のラジアルリサージュ曲線が大きくなった。
【0115】
〈クローズド羽根車の所定回転角度において主板および主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の作用角度〉
図19を参照して、クローズド羽根車の所定回転角度において主板および主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の作用角度について説明する。説明は、遠心ポンプ100および200のそれぞれについて行う。
【0116】
遠心ポンプ100および200では、吐出し量が変化しても、主板に作用するラジアル荷重の作用位置は、ポンプ運転範囲の全体にわたって略変わらなかった。
【0117】
遠心ポンプ200では、ポンプ運転範囲の所定の吐出し量までは、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重の位相が、主板のラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±30度の範囲内に収まった。しかしながら、遠心ポンプ200では、ポンプ運転範囲の所定の吐出し量(変化点)を超えると、吐出し量の変化に比例して、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重の位相が急激に変化した。したがって、遠心ポンプ200では、ポンプ運転範囲において、主流部のラジアル荷重の位相が、約140度の変動幅で大幅に変動した。
【0118】
したがって、遠心ポンプ200は、ポンプ運転範囲の所定の吐出し量(変化点)までの部分流量域では、主板のラジアル荷重と、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重とが、互いに相殺し合うことが分かった。また、遠心ポンプ200は、ポンプ運転範囲の所定の吐出し量(変化点)を超える過大流量域では、主板のラジアル荷重と、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重とが、互いに相殺しにくくなり、もしくは相殺できなくなり、全体のラジアル荷重が大きくなることが分かった。
【0119】
遠心ポンプ100では、ポンプ運転範囲において、遠心ポンプ200のように主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重の位相が大きく変わることはなかった。具体的には、ポンプ運転範囲において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相が、主板42のラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±15度の範囲内に収まった。なお、遠心ポンプ100では、ポンプ運転範囲の外に上記変化点が位置している。
【0120】
したがって、遠心ポンプ100は、ポンプ運転範囲の全体にわたり、主板42のラジアル荷重と、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重とが、互いに相殺し合うことが分かった。
【0121】
〈解析点1および4における主板ラジアル制御について〉
次に、
図20および
図21を参照して、遠心ポンプ100aおよび200の主板ラジアル制御について説明する。なお、本実施形態の遠心ポンプ100では、主流部ラジアル位相制御を行うことに加えて、主板ラジアル制御を行うように構成されており、主流部ラジアル位相制御を行わずに、主板ラジアル制御のみを行うものではない。そこで、以下では、主流部ラジアル位相制御を行わずに、主板ラジアル制御のみを行った遠心ポンプ100aについて参考例として説明する。
【0122】
図20に示すように、遠心ポンプ100aの主板42のラジアル荷重の大きさが、遠心ポンプ200の主板のラジアル荷重の大きさよりも大幅に小さくなった。また、遠心ポンプ100aの主板42のラジアル荷重の位相が、遠心ポンプ200の主板のラジアル荷重の位相から約15度ずれた位相となった。主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相が吐出し量によって大きく変化するため、解析点4ではラジアル荷重の方向が同じになり、主板42のラジアル荷重は、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重を相殺できないので、主板42のラジアル荷重は、小さくすることで全体のラジアル荷重を低減することが可能となる。
【0123】
図21に示すように、解析点4では、遠心ポンプ100aの全体のラジアル荷重の大きさの最大値が、遠心ポンプ200のラジアル荷重の大きさの最大値よりも小さくなった。また、解析点1では、遠心ポンプ100aの全体のラジアル荷重の大きさの最大値が、遠心ポンプ200のラジアル荷重の大きさの最大値よりも大きくなった。
【0124】
解析点1および4における遠心ポンプ100aの全体のラジアル荷重の大きさの最大値は、解析点1および4における遠心ポンプ200の全体のラジアル荷重の大きさの最大値よりも僅かに小さくなった。すなわち、遠心ポンプ100aのポンプ運転範囲における全体のラジアル荷重の大きさの最大値は、遠心ポンプ200よりも僅かに小さくなった。
【0125】
解析点1(部分流量域)と解析点4(過大流量域)との全体のラジアル荷重は、互いに、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)のラジアル荷重の位相が大きく変化する(異なる)ため、つまり、トレードオフの関係であるため、主板ラジアル制御による設計では限界があることがわかった。すなわち、解析点1(部分流量域)と解析点4(過大流量域)との全体のラジアル荷重の最大値は、主板ラジアル制御のみでは、一方を小さくしたとしても、他方が大きくなってしまうことがわかった。
【0126】
〈クローズド羽根車1回転当たりのラジアル作用位相の変化〉
次に、
図22~
図25を参照して、遠心ポンプ100および200のクローズド羽根車の1回転当たりのラジアル作用位相の変化について説明する。
図22~
図25では、横軸はクローズド羽根車の回転角度を示しており、縦軸はラジアル荷重が作用する位相を示している。なお、
図22および
図23に示す遠心ポンプ200の結果では、主流部ラジアル位相制御を行っていない主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)、主板、主板以外の構成(全体から主板を除いた構成)の3つについての結果を示している。一方、
図24および
図25に示す遠心ポンプ100の結果では、主流部ラジアル位相制御を行った主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)、主板、主板以外の構成(全体から主板を除いた構成)の3つについての結果を示している。
【0127】
図22に示すように、遠心ポンプ200の解析点1では、回転軸の回転方向の全位相において、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置(二点鎖線)から、±90度の範囲(斜線領域)に収まった。なお、主流部(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重は、主板に作用するラジアル荷重に平行な二点鎖線により示す斜線上に位置するのが好ましい。なお、遠心ポンプ200の全体から主板を除いた構成も主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)と略同じ結果が得られた。すなわち、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重により、主板に作用するラジアル荷重を、全位相において相殺(弱める)することができた。
【0128】
図23に示すように、遠心ポンプ200の解析点4では、回転軸の回転方向の一部の位相において、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置(二点鎖線)から、±90度の範囲(斜線領域)に収まらなかった。すなわち、主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重により、主板に作用するラジアル荷重を相殺(弱める)することができない位相範囲があることがわかった。
【0129】
図24に示すように、遠心ポンプ100の解析点1では、遠心ポンプ200の解析点1と同様に、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重により、主板42に作用するラジアル荷重を、全ての位相において相殺(弱める)することができた。
【0130】
図25に示すように、遠心ポンプ100の解析点4では、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置(二点鎖線)から、±90度の範囲(斜線領域の一点鎖線で挟まれる範囲)に収まった。すなわち、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重により、主板42に作用するラジアル荷重を、全位相において相殺(弱める)することができた。
【0131】
さらに、遠心ポンプ100の解析点4では、回転軸14の回転方向の全ての位相において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置(二点鎖線)から、±45度の範囲(斜線領域の一点鎖線で挟まれる範囲)に収まった。
【0132】
なお、遠心ポンプ100の解析点4では、遠心ポンプ100の全体から主板42を除いた構成(側板41を含む)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置(二点鎖線)から、±60度の範囲(斜線領域の破線で挟まれる範囲)に収まった。
【0133】
主流部ラジアル位相制御により、要求されるポンプ運転範囲において、ポンプ性能を維持しつつ、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相の変化幅を主板42のラジアル荷重で相殺できる範囲に抑えられることが分かった。
【0134】
〈解析点1および4における遠心ポンプのラジアルリサージュ曲線について〉
図26~
図28を参照して、比較例の遠心ポンプ200と、主流部ラジアル位相制御を行った遠心ポンプ100とに作用するラジアル荷重について、解析点1および4における解析結果について説明する。
【0135】
図26に示すように、遠心ポンプ200の解析点1および4における主板に作用するラジアル荷重は、略同じ大きさとなった。遠心ポンプ100の解析点1および4における主板42に作用するラジアル荷重は、遠心ポンプ200よりも小さくなった。
【0136】
図27に示すように、遠心ポンプ100の解析点1における主流部を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重の最大値は、遠心ポンプ200の解析点1における主流部を形成するクローズド羽根車4の流路と羽根部に作用するラジアル荷重の最大値よりも大きくなった。一方、遠心ポンプ100の解析点4における主流部を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重の最大値は、遠心ポンプ200の解析点4における主流部(主流部を形成するクローズド羽根車の流路および羽根部)に作用するラジアル荷重の最大値よりも小さくなった。
【0137】
図28に示すように、遠心ポンプ100の解析点1における全体に作用するラジアル荷重の最大値は、遠心ポンプ200の解析点1における全体に作用するラジアル荷重の最大値よりも僅かに大きくなった。一方、遠心ポンプ100の解析点4における全体に作用するラジアル荷重の最大値は、遠心ポンプ200の解析点4における全体に作用するラジアル荷重の最大値よりも大幅に小さくなった。
【0138】
主流部ラジアル位相制御を行うことにより、主板42に作用するラジアル荷重と、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重との相殺量が増えるので、ラジアル荷重が大きくなる過大流量域側で全体に作用するラジアル荷重を大幅に小さくすることができる。このため、主流部ラジアル位相制御のみを行う場合には、
図21に示したように主板ラジアル制御のみを行う場合と比較して、ポンプ運転範囲における全体のラジアル荷重の最大値を小さくすることができ、遠心ポンプ100の振動を抑制することができる。
【0139】
〈主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御〉
図29および
図30を参照して、主流部ラジアル位相制御に加えて、主板ラジアル制御を行った場合のラジアルリサージュ曲線について説明する。
【0140】
図29に示すように、解析点1および4において、主流部ラジアル位相制御のみを行った場合と比較して、主板ラジアル制御をさらに行った場合には、主板42のラジアル荷重が大きくなった。また、主板42のラジアル荷重の位相は、略変わらなかった。解析点1および4において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相が大きく変化しないため、主板42のラジアル荷重とは方向が逆になるので、主板42のラジアル荷重を大きくする方が、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重と主板42のラジアル荷重との相殺量が増えて全体のラジアル荷重を低減することが可能である。
【0141】
図30に示すように、解析点1および4において、主流部ラジアル位相制御のみを行った場合と比較して、主板ラジアル制御をさらに行った場合には、全体のラジアル荷重を僅かに小さくすることができた。また、主板ラジアル制御をさらに行った場合には、全体のラジアル荷重の最大値を小さくすることができた。すなわち、遠心ポンプ100の振動をさらに小さくすることができた。なお、主流部ラジアル位相制御のみを行った場合と、主板ラジアル制御をさらに行った場合とを比較すると、ラジアルリサージュ曲線の形状は、略相似形状となった。
【0142】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0143】
本実施形態では、上記のように、要求されるポンプの運転範囲にわたり、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと、羽根部43に作用するラジアル荷重を主板42に作用するラジアル荷重の逆向き範囲に向けることができるので、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと、羽根部43に作用するラジアル荷重を、主板42に作用するラジアル荷重で効果的に相殺することができる。これにより、要求されるポンプの運転範囲にわたり、1枚羽根、または、1つの流路を有する遠心ポンプ100において、流体反力の大きさおよび向きが変化したとしても流体反力を減殺して(打ち消して)、水の反作用力の釣り合い(水力的バランス)を保つことができる。つまり、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと、羽根部43に作用するラジアル荷重と主板42に作用するラジアル荷重との合力の最大値を小さくすることができるので、遠心ポンプ100に作用するラジアル荷重の最大値を小さくすることができる。以上により、遠心ポンプ100の振動を抑制することができる。
【0144】
ここで、従来より、遠心ポンプの分野では、機械的バランス(空気中における羽根車の回転中心軸線に対する動的および静的な釣り合い)を確保するために、羽根車に不釣り合い質量を設けたり、羽根車から除肉をすることが一般的に行われていた。しかし、不釣り合い質量や、除肉を行うことに起因して水力的バランスを確保することが困難であった。すなわち、機械的バランスおよび水力的バランスの両方を確保することが困難であった。そこで、本実施形態では上記のように構成することにより、クローズド羽根車4の回転中心軸線Oに対する動的および静的な釣り合いを略変えることなく水力的バランスを確保することができる。すなわち、機械的バランスに略影響を及ぼすことなく(機械的バランスを略損なうことなく)水力的バランスを確保することができる。したがって、水力的バランスを確保することができるとともに、機械的バランスを確保(保持)することが可能となる。
【0145】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、遠心ポンプ本体(遠心ポンプ100)が使用される吐出し量の全範囲(ポンプ運転範囲の全範囲)に亘り、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±90度の範囲内に収まるような構造を有するように構成されている。これにより、遠心ポンプ本体(遠心ポンプ100)が使用される吐出し量の全範囲に亘り、遠心ポンプ100の振動をより確実に抑制することができる。
【0146】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと、羽根部43の形状を変更(回転軸14の回転方向の全位相における接液面積や軸方向長さ、半径、回転方向に対する傾斜角度等をフルモデル解析のラジアル荷重の位相を指標として変更)することにより、回転軸14の回転方向の全位相において、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと、羽根部43)に作用するラジアル荷重の位相が、主板42に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±90度の範囲内に収まるような構造を有するように構成されている。これにより、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)のうち、クローズド羽根車4の回転によってクローズド羽根車4から吐出される流れによって発生するラジアル荷重の内、動的な成分を変動させることができる。このため、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)と主板42に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)とが効果的に相殺されるように調整することができる。
【0147】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、ボリュート形状の内部空間31の基礎円Jの直径D3が、羽根部43の外側直径D2の1.15倍以上1.25倍以下となるように形成されている。この値は一般的に設計される遠心ポンプの設計値より大きな値である。これにより、ポンプケーシング3の内部空間31が回転軸14の回転方向の全位相において一律に大きく形成されるので、内部空間31内の流れの流速差が小さくなり内部空間31内の圧力差を小さくすることができる。例えば、内部空間31の回転対称位置の断面積の比が3:5だったとしてその比は0.60だが、基礎円を大きくしたことにより断面積の比が4:6となればその比は約0.67となり差が縮まる。その結果、内部空間31内の圧力差により生ずる主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の静的成分を小さくすることができるので、吐出し量に対する主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重の位相変化を小さくすることができるとともに、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重を主板42に作用するラジアル荷重でより効果的に相殺することができる。
【0148】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、ポンプケーシング3の吐出口33から回転軸14の回転方向の上流側45度の位置において、ポンプケーシング3の内側面とボリュート状の内部空間31の基礎円Jとの間の距離Hが、吐出口33の直径の0.3倍以上0.4倍以下となるように形成されている。これにより、ポンプケーシング3の流路3aの吐出口33側が比較的大きく形成されるので、流路3aの吐出側の流速を遅くして圧力を上げることができ、吐出し量が多い範囲(過大流量域)において、より流路3a内の圧力差を小さくすることができる。その結果、内部空間31内の圧力差により生ずる主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の静的成分を小さくすることができるので、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路および羽根部43)に作用するラジアル荷重(半径方向荷重)の向き(位相)が大きく変化する過大流量域において、より吐出し量に対する主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重の位相変化を小さくすることができるとともに、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)のラジアル荷重と主板42に作用するラジアル荷重とをより効果的に相殺することができる。
【0149】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、回転軸14の回転中心軸線とポンプケーシング3の舌部34との間の距離Zが、羽根部43の外側直径D2の半分の1.1倍以上1.2倍以下となるように形成され、かつ、舌部34を内部空間31のボリュート形状の基礎円Jの内側に配置されている。その結果、内部空間31のボリュート形状の巻き始めから巻き終わりの間における圧力の漏れ(圧力損失)を抑制することができる。これにより、揚程の低下を抑制することができる。
【0150】
本実施形態では、上記のように、主流部5は、回転軸14の軸方向において、羽根部43の吸込口45側に配置される側板41を有するクローズド羽根車4の吸込口45からポンプケーシング3の吐出口33の中心位置までの距離Kが、吐出口33の直径の1.3倍以上1.5倍以下となるように形成されている。これにより、クローズド羽根車4の流路長さを比較的長く取ることができるので、水からクローズド羽根車4の流路内面に作用するラジアル荷重を相殺されやすくすることができる。
【0151】
本実施形態では、上記のように、羽根部43の吸込口45側に配置される側板41を有するクローズド羽根車4の吸込口45(開口角度M)は、下流側に向けて狭まる45度以上75度以下(60度)のテーパ状に形成されている。これにより、クローズド羽根車4に水を十分に吸込可能に構成しつつ、吸込口を円錐形状にして余計なラジアル荷重を発生させないので、クローズド羽根車4の流路内面における水から受けるラジアル荷重の偏りを抑制することができる。
【0152】
本実施形態では、上記のように、回転軸14の軸方向に直交する方向における主板の外側面とポンプケーシング3との間の隙間G1が、2mm以下となるように形成されている。これにより、回転軸14の軸方向に直交する方向における主板42の外側面とポンプケーシング3との間の隙間G1を介して、オイルケーシングと主板42との間に水が到達するのを抑制することができる。その結果、オイルケーシングと主板42との間に水が到達することに起因する遠心ポンプの吐出し量の変化に対する主板42に作用するラジアル荷重の変化の影響を小さくすることができるので、要求されるポンプの運転範囲にわたって主板42に作用するラジアル荷重の大きさを安定させる(主板42に作用するラジアル荷重のラジアルリサージュ曲線をより真円形状に近づける)ことができる。その結果、遠心ポンプ100の全体に作用するラジアル荷重をより安定させることができる。
【0153】
本実施形態では、上記のように、主板42は、回転軸14の回転方向の全位相において、主板42に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相の少なくとも一方を変更することにより、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)および主板42に作用するラジアル荷重の合力の大きさを小さくするように形成されている。これにより、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相のみならず、主板42に作用するラジアル荷重の大きさおよび位相の少なくとも一方を変化させる(調整する)ことにより、主流部5(主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aおよび羽根部43)に作用するラジアル荷重を主板42に作用するラジアル荷重で効果的に相殺することができる。このため、回転軸14の回転方向の全位相において水の反作用力(ラジアル荷重)の釣り合いをより効果的に保つことができる。その結果、遠心ポンプ100の振動をより抑制することができる。
【0154】
本実施形態では、上記のように、主板42は、羽根部43側に凹む凹部42bを有し、凹部42bは、羽根部43の軸方向長さの0.25倍以上の深さに形成されている。これにより、遠心ポンプ100の振動をより抑制することができる。
【0155】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0156】
たとえば、上記第1実施形態では、
図1および
図3~
図8に示すように、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御のために、遠心ポンプ100を所定形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、回転軸の回転方向の全位相において、主流部5を形成するクローズド羽根車4の流路4aと羽根部43に作用するラジアル荷重の位相が、主板に作用するラジアル荷重の位相に対して180度ずれた軸対称位置から、±90度の範囲内に収まるような構造を有するように、遠心ポンプの主流部が構成されているならば、羽根車、ポンプケーシング、オイルケーシングなどの構成がいかなる形状に形成されていてもよい(いかなる構造を有していてもよい)。
【0157】
具体的には、
図31~
図36に示すように、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御のために、遠心ポンプ100とは異なる形状に遠心ポンプ300を形成してもよい。以下、遠心ポンプ300の具体的な構成、形状例を示す。なお、遠心ポンプ100と同様の構成、形状については説明を省略する。
【0158】
図31に示すように、遠心ポンプ300は、ポンプケーシング303と、クローズド羽根車304とを備えている。ポンプケーシング303の吐出口33の直径T2は、たとえば、80mmに設定される(
図33参照)。
図33に示すように、遠心ポンプ300は、平面視で(Z1側から見て)、線L22が線L12の下流側(反時計回り方向側)に配置され、羽根部343の巻き終わり角度F2が、約11.9度に設定される。また、遠心ポンプ300は、羽根部の外側直径D22が、たとえば、276mmに設定される。なお、クローズド羽根車304は、特許請求の範囲の「羽根車」の一例である。
【0159】
ここで、
図32を参照して、クローズド羽根車304の凹部342bに設けられる制御ウェイトWについて説明する。
【0160】
図32に示すように、機械的バランスを調整する目的、主板のラジアル荷重を制御する目的またはこれらの両方の目的のために、クローズド羽根車304に設けられた制御ウェイトWは、上端(オイルケーシング302(
図31参照)側)が、クローズド羽根車304の流路に沿って上方に向けて肉盛りされた凹部342bの形状の巻き上がり上端(オイルケーシング302側)よりも高さh(
図31参照)だけ低く形成されている。すなわち、制御ウェイトWの上端は、凹部342bの最も浅くなっている部位よりも低い位置に形成されている。このように構成することで、制御ウェイトWによってクローズド羽根車304の回転投影面積が大きくなることが抑制されるので、クローズド羽根車304の回転に伴って発生する揚水に寄与しない不要な軸動力を低減できる。なお、制御ウェイトWにより、クローズド羽根車304の回転中心軸線Oに対する動的および静的な釣り合いを確実に確保して、遠心ポンプ300の振動を一層抑制することができる。
【0161】
機械的バランスを調整する目的、主板のラジアル荷重を制御する目的またはこれらの両方の目的のために、クローズド羽根車304に設けられた制御ウェイトWは、回転方向に対する上流側が、クローズド羽根車304の流路に沿って肉盛りされた凹部342bの形状に接続されている。これにより、クローズド羽根車304の回転に伴って円周方向に移動する液体が衝突する面が制御ウェイトWに形成されないので、クローズド羽根車304の回転に伴って発生する揚水に寄与しない不要な軸動力を低減することができる。
【0162】
機械的バランスを調整する目的、主板のラジアル荷重を制御する目的またはこれらの両方の目的のために、クローズド羽根車304に設けられた制御ウェイトWは、内径側形状が回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が増加するように形成されている。これにより、クローズド羽根車304の回転に伴って円周方向に移動する液体が、制御ウェイトWの内径側形状に衝突しない。その結果、クローズド羽根車304の回転に伴い発生する揚水に寄与しない不要な軸動力を低減することができる。
【0163】
ここで、
図37に示す比較例としての従来のクローズド羽根車に設けられたバランスウェイトについて説明する。まず、
図32および
図37に示す円形状の二点鎖線は、同一半径およびクローズド羽根車の回転に伴って円周方向に移動する液体を表している。
図37では、一点鎖線で囲まれた範囲において、バランスウェイトの内径側形状が回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が減少している。このため、クローズド羽根車の回転に伴って円周方向(二点鎖線の延びる方向)に移動する液体が、バランスウェイトの内径側形状に衝突する。
【0164】
図32に示すように、機械的バランスを調整する目的、主板のラジアル荷重を制御する目的またはこれらの両方の目的のために、クローズド羽根車304に設けられた制御ウェイトWは、内径側形状とボス部で構成される溝が円周方向に60度以上(望ましくは90度以上)にわたって形成されている。これにより、クローズド羽根車304の流路に沿って肉盛りされた凹部342bの形状の回転方向に対する上流端(
図32の一点鎖線で囲まれた範囲)への液体の衝突量を減少させることができる。その結果、クローズド羽根車304の回転に伴って発生する揚水に寄与しない不要な軸動力を低減することができる。
【0165】
また、
図39(
図32に対応する図)に示す第1変形例の他の例のクローズド羽根車304aのように、制御ウェイトW1が設けられていてもよい。具体的には、制御ウェイトW1の外径側形状は、クローズド羽根車304aの回転方向に対する上流側から下流側に向かって半径が減少するよう形成されている。また、制御ウェイトW1は、外径側形状と凹部の外側面で構成される溝が円周方向に60度以上(望ましくは90度以上)にわたって形成されていている。なお、クローズド羽根車304aは、特許請求の範囲の「羽根車」の一例である。
【0166】
また、上記第1実施形態では、遠心ポンプにクローズド羽根車を設けた例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、
図38(A)および(B)に示すように、遠心ポンプ400aおよび400bに、それぞれ、セミオープン羽根車404aおよび404bを設けてもよい。なお、
図38(A)に示す遠心ポンプ400aは、汚物用の水中スクリューポンプである。また、
図38(B)に示す遠心ポンプ400aは、汚物用の水中カッターポンプである。なお、セミオープン羽根車404aおよび404bは、特許請求の範囲の「羽根車」の一例である。
【0167】
また、上記第1実施形態では、隙間G1を2mm以下に形成し、隙間G2を2mmよりも大きく形成した例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、隙間G2を2mm以下に形成してもよい。この場合には、隙間G1を2mmよりも大きく形成してもよい。
【0168】
また、本発明では、主流部ラジアル位相制御および主板ラジアル制御の両方を行うことにより形成された遠心ポンプではなく、主流部ラジアル位相制御のみを行うことにより形成された遠心ポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0169】
2、302 オイルケーシング
3、303 ポンプケーシング
3a 流路
4、304、304a クローズド羽根車(羽根車)
4a 流路
5 主流部
14 回転軸
31 内部空間
33 吐出口
34 舌部
41 側板
42 主板
42b、342b 凹部
43 羽根部
44 ボス部
100、300、400a、400b 遠心ポンプ
404a、404b セミオープン羽根車(羽根車)
J 基礎円
W、W1 制御ウェイト