(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】水処理装置、水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20240528BHJP
【FI】
C02F3/34 101D
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
(21)【出願番号】P 2019081132
(22)【出願日】2019-04-22
【審査請求日】2022-01-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名: 公益社団法人 日本水環境学会 刊行物名: 第53回 日本水環境学会年会講演集第666頁 発行年月日: 平成31年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 聖史
(72)【発明者】
【氏名】長野 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】荒木 信夫
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】増山 淳子
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-15744(JP,A)
【文献】特開2000-61485(JP,A)
【文献】特開平4-326991(JP,A)
【文献】特開2003-103288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/28-3/34
C02F3/02-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理装置であって、
複数の孔部により前記硝化菌を水中で留まらせる多孔体を水中内に保持する処理室と、
前記水槽内における前記硝化菌の活性が低下する水温よりも高く、前記硝化菌の活性を維持可能な温度で前記多孔体を内側から加温する加温体と、
前記水槽内の水を前記処理室へ導く給水部と、
前記処理室の水を前記水槽へ排出する排水部と
を有
し、
前記多孔体は、
前記加温体に巻き付けられており、
前記加温体は、
前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように前記多孔体を加温することを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記加温体は、
前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記多孔体を加温すること
を特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理装置であって、
複数の孔部により前記硝化菌を水中で留まらせる多孔体と、
前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記水槽内の水温よりも高い温度で前記多孔体を内側から加温する加温体と
を有
し、
前記多孔体は、
前記加温体に巻き付けられており、
前記加温体は、
前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように前記多孔体を加温することを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
前記加温体は、
前記多孔体の内側の温度が15度~30度の範囲内の温度になるように、15度~35度の範囲内の温度で前記多孔体を加温すること
を特徴とする請求項2又は3に記載の水処理装置。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の水処理装置と、
前記多孔体の温度、前記水槽内の水温、及び前記水槽内の水中アンモニア濃度の少なくともいずれかを検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記加温体が加温する温度を制御する制御部と
を有することを特徴とする水処理システム。
【請求項6】
水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理方法であって、
複数の孔部により前記硝化菌を水中で多孔体に留まらせる浄化工程と、
前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記水槽内の水温よりも高い温度で前記多孔体を内側から加温する加温工程と
を含
み、
前記加温工程は、
前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように、前記多孔体を巻き付けられた加温体が加温をすることを特徴とする水処理方法。
【請求項7】
前記加温工程は、
前記多孔体の内側の温度が15度~30度の範囲内の温度になるように、15度~35度の範囲内の温度で前記多孔体を加温すること
を特徴とする請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記多孔体の温度、前記水槽内の水温、及び前記水槽内の水中アンモニア濃度の少なくともいずれかを検出する検出工程と、
前記検出工程の検出結果に基づいて、前記多孔体を加温する温度を制御する制御工程と をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置、水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
淡水や海水により生物の養殖などを行う場合、微生物付着担体における硝化細菌(硝化菌)の硝化反応によって水処理することが有効となっている。また、従来技術として、さまざまな水処理装置が知られている。
【0003】
例えば、筒状の散水ろ床外筒の内方に多数のろ材が充填されることによって形成される散水ろ床と、気温より高い温度を有する温水が流れ散水ろ床を加温する加温通水管とを備えて、排水の硝化処理を行う循環式硝化脱窒システムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、第1空気排出口を有する第1非開放水槽内に、スクリーンと、スクリーンで支持されたろ材層と、被処理水をろ材層に散布する散布機構とを配置してなる散水ろ床と、第2空気排出口を有する第2非開放水槽内で流入水を好気的に処理する生物処理槽と、散水ろ床の第1空気流入口と、生物処理槽の第2空気排出口とを接続する連通管とを備えて、被処理水を処理する水処理システムが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、濾材上部ほぼ中央に撒布角調整可能な汚水散布用ノズルを上向きに設けて撒布流量を変動させながら汚水を散水し、濾材ユニットを適宜摺動して適切な濾材ユニット間隔を保って、濾材に汚泥が付着しないように引き上げ手段により濾材ユニット群下部と透水性網状物を上下する汚水処理装置が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
また、機械式濾過要素と生物学的濾過要素が相互往来空間内に収容され、濾過要素の上下には空間が存在し、隣接する機械式濾過要素と生物学的濾過要素の上の空間には空気が存在し、該養魚水槽タンク用濾過装置が作動中に流れる水は、機械式濾過要素が収容される相互往来空間から、生物学的濾過要素が収容される相互往来空間へと移動中に空気にさらされる養魚水槽タンク用濾過装置が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-15744号公報
【文献】特許第6117049号公報
【文献】特開2005-199182号公報
【文献】特許第4588029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水温を20度以下に保つ必要がある場合、硝化菌の硝化反応作用を利用しようとしても、微生物活性が低くなってしまい、処理水質が低下する。従来、処理水質の低下を防ぐためには、被処理水全量を20度以上に加温する必要があったが、被処理水全量を加温して、さらに水温を20度以下に戻す工程を加えることは、エネルギーがかかり過ぎて現実的ではない。また、気温が低温になることを考慮する場合には、微生物活性が低下する分、水処理装置の容量に余裕を持たせておく必要があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、水を浄化する微生物の活性が高まる温度よりも低い温度に水温を保つ必要がある場合にも、効率的に水を浄化することができる水処理装置、水処理システム及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様にかかる水処理装置は、水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理装置であって、複数の孔部により前記硝化菌を水中で留まらせる多孔体を水中内に保持する処理室と、前記水槽内における前記硝化菌の活性が低下する水温よりも高く、前記硝化菌の活性を維持可能な温度で前記多孔体を内側から加温する加温体と、前記水槽内の水を前記処理室へ導く給水部と、前記処理室の水を前記水槽へ排出する排水部とを有し、前記多孔体は、前記加温体に巻き付けられており、前記加温体は、前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように前記多孔体を加温することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様にかかる水処理装置は、前記加温体が、前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記多孔体を加温することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様にかかる水処理装置は、水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理装置であって、複数の孔部により前記硝化菌を水中で留まらせる多孔体と、前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記水槽内の水温よりも高い温度で前記多孔体を内側から加温する加温体とを有し、前記多孔体は、前記加温体に巻き付けられており、前記加温体は、前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように前記多孔体を加温することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様にかかる水処理装置は、前記加温体が、前記多孔体の内側の温度が15度~30度の範囲内の温度になるように、15度~35度の範囲内の温度で前記多孔体を加温することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様にかかる水処理システムは、上述の水処理装置と、前記多孔体の温度、前記水槽内の水温、及び前記水槽内の水中アンモニア濃度の少なくともいずれかを検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記加温体が加温する温度を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様にかかる水処理方法は、水中に棲息する硝化菌を用いて水槽内の水を浄化する水処理方法であって、複数の孔部により前記硝化菌を水中で多孔体に留まらせる浄化工程と、前記水槽内の水温を20度よりも高くすることなく、前記多孔体の内側の温度が20度よりも低い場合に、前記水槽内の水温よりも高い温度で前記多孔体を内側から加温する加温工程とを含み、前記加温工程は、前記多孔体に吸収されている水の温度が、前記多孔体の表面の温度よりも高くなるように、前記多孔体を巻き付けられた加温体が加温をすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様にかかる水処理方法は、前記加温工程は、前記多孔体の内側の温度が15度~30度の範囲内の温度になるように、15度~35度の範囲内の温度で前記多孔体を加温することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様にかかる水処理方法は、前記多孔体の温度、前記水槽内の水温、及び前記水槽内の水中アンモニア濃度の少なくともいずれかを検出する検出工程と、前記検出工程の検出結果に基づいて、前記多孔体を加温する温度を制御する制御工程とをさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水を浄化する微生物の活性が高まる温度よりも低い温度に水温を保つ必要がある場合にも、効率的に水を浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態にかかる水処理システムの構成例を概略的に示す図である。
【
図2】一実施形態にかかる水処理装置の構成を示す図である。
【
図3】水処理装置内における温度の測定点を模式的に示す図である。
【
図4】導水管内を流れる温水の温度と、水槽に収容された海水の温度との関係を比較例とともに示すグラフである。
【
図5】導水管内を流れる温水の温度と、水槽に収容された海水の温度との関係を異なる測定点で示すグラフである。
【
図6】導水管内を流れる温水の温度と、多孔体内の海水温との関係を異なる測定点で示すグラフである。
【
図7】導水管内に流される水の最適な温度を考察するための比較例の実験結果を示すグラフである。
【
図8】水処理システムによる水処理の効果を示すグラフである。
【
図9】一実施形態にかかる水処理システムの変形例の構成を概略的に示す図である。
【
図10】水処理システムにおける第2制御例を示すフローチャートである。
【
図11】水処理システムにおける第3制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、水処理システムの一実施形態を、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、一実施形態にかかる水処理システム1の構成例を概略的に示す図である。
図1に示すように、水処理システム1は、水槽2、水処理装置3、ポンプ4及び温熱源5を有する。水処理システム1は、所定温度(例えば室温20度)の環境下に配置されてもよい。
【0022】
水槽2は、水処理システム1において処理の対象となる水を収容する。例えば、水槽2は、10Lの海水を収容し、魚介類などの海洋生物が養殖されている。この場合、水槽2内の海水は、海洋生物に起因するアンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素などを低減させるように処理される必要がある。なお、水槽2は、例えば1L当たりNaHCO3が1g、5M NaOH水溶液が0.2mL、人工海水粉末が34gの組成である人工海水を収容して実験が行われている。
【0023】
水処理装置3は、本体部30を有するリアクターである。本体部30は、給水部31及び排水部32が設けられている。給水部31は、水槽2が収容する海水をポンプ4の給水力によって本体部30内へ導く。排水部32は、本体部30内に導かれた海水を水槽2へ排出する。例えば、ポンプ4は、6L/minの海水を循環させる。また、水処理装置3は、散水ろ床であってもよい。
【0024】
また、本体部30には、導水管33が内部を貫通するように設けられている。導水管33は、温熱源5から供給される所定の温度の水を、図示しないポンプの給水力によって本体部30内に通すように設けられている。
【0025】
なお、温熱源5は、水槽2が収容している海水よりも高温である所定の温度の水を収容するようにされている。例えば、温熱源5から供給される水は、導水管33内を流れるときに導水管33の表面を15度~35度にすることができるように、所定の温度が設定されている。
【0026】
例えば、温熱源5から供給される水は、導水管33の表面温度を硝化菌の活性が最も高まる20度~30度にするように温度が設定され、硝化菌の活性が著しく低下しない15度にするように温度が設定されてもよい。ここで、導水管33内を流れる水は、水槽2において養殖される海洋生物の種類、数、及び設定されるべき最適水温などに応じて、水槽2に収容される海水よりも高い温度に設定される。ただし、温熱源5から供給される水の温度と、水槽2が収容している海水の温度との差は、水槽2内の海水温の上昇を抑えるように、所定値以下に設定される。
【0027】
具体例として、水槽2が収容する海水の温度を20度に保つ場合、温熱源5から供給される水は、導水管33の表面温度を25度程度にするように温度が設定される。また、水槽2が収容する海水の温度を15度に保つ場合、温熱源5から供給される水は、導水管33の表面温度を20度程度にするように温度が設定される。また、水槽2が収容する海水温を10度に保つ場合、温熱源5が収容している水は、導水管33の表面温度を15度程度にするように温度が設定される。また、水槽2が収容する海水温を9度に保つことも可能である。
【0028】
図2は、水処理装置3の構成を示す図である。上述したように、水処理装置3は、本体部30に対して給水部31、排水部32及び導水管33が設けられている。本体部30は、例えば内径が56mm、高さが560mmにされた筒状の部材であり、内部に水を処理する処理室34が形成されている。ここで、処理室34の有効容積は、例えば約1.2Lとなるようにされている。
【0029】
導水管33は、例えば内径が8mmにされた厚さ1mm程度のステンレスパイプである。また、導水管33は、本体部30に対して長手方向に貫通しており、処理室34内に収容されている部分の周りに多孔体35が巻き付けられている。つまり、処理室34は、多孔体35を海水中に保持している。
【0030】
そして、導水管33は、処理室34内の海水よりも温度が高い水が流されることによって周囲の温度を上昇させる加温体となる。例えば、導水管33内を流れる水は、10L/minなどに設定されるが、水槽2内の海洋生物の種類や数によって流量が変更される。加温体は、温水が内部に流される導水管33に替えて、多孔体35内に配置されるヒータであってもよい。
【0031】
多孔体35は、例えば縦500mm、横95mm、厚さ15mmのスポンジであり、複数の孔部により硝化菌を水中で留まらせ、棲息させることができるようにされている。多孔体35の目開きは、例えば0.5~2mm程度である。なお、硝化菌は、水温が20度~30度程度で生物反応を行う活性が高くなるが、15度程度でも活性を著しく低下しないことが知られている。
【0032】
また、多孔体35と海水の接触効率を高めるために、導水管33と多孔体35表面の隙間をさらに狭めてもよい。また、導水管33は、アンモニア負荷に応じて長くし屈曲されて多孔体35が少ないスペースにより多く配置される形状にされてもよい。なお、水処理システム1を用いた実験においては、海洋生物に替えて、アンモニアを水槽2へ流入させて水処理を行っている。
【0033】
次に、水処理装置3内の温度と、水槽2が収容する海水の温度との関係について説明する。
【0034】
図3は、水処理装置3内における温度の測定点を模式的に示す図である。以下、多孔体35の導水管33が接している測定点を多孔体35の中心点Aとする。また、多孔体35の内部(例えば導水管33から1cm離れた位置)の測定点を内部点Bとし、多孔体35の外側表面の測定点を表面点Cとする。
【0035】
図4は、導水管33内を流れる温水の温度と、水槽2に収容された海水の温度との関係を比較例とともに示すグラフである。ここでは、水処理装置3は、導水管33に多孔体35が設けられているが、比較例では、多孔体35が設けられていないものとする。
【0036】
図4に示すように、導水管33内に流れる水の温度を20度から35度まで変化させたとき、多孔体35が有る場合には水槽2内の海水温の上昇が2度程度となるように抑えられている。一方、多孔体35がない場合には水槽2内の海水温の上昇が8度以上となっている。
【0037】
図5は、導水管33内を流れる温水の温度と、水槽2に収容された海水の温度との関係を異なる測定点で示すグラフである。
図5に示すように、導水管33内に流れる水の温度を20度から35度まで変化させたとき、多孔体35の中心点Aの温度が28度まで上昇しても、多孔体35の表面点Cの温度は26度以下となっている。このとき、水槽2内の海水温は、さらに低く2度程度の上昇に抑えられている。
【0038】
図6は、導水管33内を流れる温水の温度と、多孔体35内の海水温との関係を異なる測定点で示すグラフである。
図6に示すように、導水管33内に流れる水の温度を20度から35度まで変化させたとき、多孔体35の中心点Aの温度と、多孔体35の内部点Bは、いずれもほぼ同じように28度まで上昇している。
【0039】
すなわち、多孔体35に吸収されている水の温度は、多孔体35の中心点A及び内部点Bにおいてほぼ同じであるため、導水管33内を流れる水の温度を設定することにより、多孔体35の孔部に留まっている硝化菌それぞれを活性が高い状態に保つことが可能である。同時に、水槽2内の海水温の上昇を抑えることも可能となっている。
【0040】
例えば、水処理システム1は、多孔体35の孔部に留まっている硝化菌の周囲の温度を硝化菌の活性が高くなる温度まで昇温させても、水槽2内の海水温を20度以下に保つことが可能である。
【0041】
図4~
図6に示す結果は、導水管33内に流れる水の温度を20度から35度まで変化させたときであるが、硝化菌の活性は15度程度の水温でも著しく低下せず保たれることが知られている。水槽2の水温が15度程度で、導水管33内に流れる水の温度を15度にし、多孔体35の内側の温度を15度にしてもよい。導水管33内に流れる水の温度を15度よりあげていくことで、硝化菌の活性が高まるようになる。
【0042】
図7は、導水管33内に流される水の最適な温度を考察するための比較例の実験結果を示すグラフである。
図7に示すように、例えば水槽2内の海水温が21~27度程度に保たれている場合、導水管33内に温水が流されても流されなくても、水処理装置3によるアンモニアの除去量に大きな差はみられない。すなわち、水処理システム1は、硝化菌の活性が高くなる温度よりも水槽2内の水温が低い場合に有効である。
【0043】
図8は、水処理システム1による水処理の効果を示すグラフである。
図8に示すように、水処理システム1は、水槽2内の海水温を20度以下に保つとき、導水管33内の温水を流した場合(温水有り)と、導水管33内に温水を流さなかった場合(温水なし)とでは、アンモニア態窒素(NH
4-N)及び亜硝酸態窒素(NO
2-N)の処理量に差がある。
【0044】
温水なしの場合、水槽2内の海水温が低いときにアンモニア態窒素の濃度が高くなっている。また、温水なしの場合、亜硝酸態窒素は、相対的に濃度が高く、温度が低くなると濃度が高くなる割合も大きくなっている。
【0045】
温水有りの場合、アンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素のいずれも水槽2内の海水温が低くなると濃度が上昇する傾向があるが、相対的に濃度が低く抑えられており、上昇する割合も小さくなっている。
【0046】
このように、水処理システム1は、水処理装置3内で硝化菌の活性を高めることができるので、水を浄化する微生物の活性が高まる温度よりも低い温度に水槽2内の水温を保つ必要がある場合にも、効率的に水を浄化することができる。
【0047】
次に、水処理システム1の変形例(水処理システム1a)について説明する。
【0048】
図9は、水処理システム1aの構成例を概略的に示す図である。
図9に示すように、水処理システム1aは、水槽2、水処理装置3a、ポンプ4a,40、温度センサ61~64、アンモニアセンサ70及び制御部8を有する。なお、水槽2は、
図1に示したものと実質的に同一である。
【0049】
水処理装置3aは、本体部30aを有するリアクターである。また、水処理装置3aは、水槽2内に配置されたポンプ4aの給水力によって水槽2が収容する海水を本体部30a内へ導く給水部と、本体部30a内に導かれた海水を水槽2へ排出する排水部が設けられている。
【0050】
本体部30aは、内部に複数の導水管33aが貫通させられている。導水管33aそれぞれは、図示しない温熱源(
図1参照)から供給される所定の温度の水を、ポンプ40の給水力によって本体部30a内に形成された処理室34aに通すように設けられている。
【0051】
導水管33aは、例えばステンレスパイプである。また、導水管33aそれぞれは、処理室34a内に収容されている部分の周りに多孔体35aが巻き付けられている。そして、導水管33aそれぞれは、処理室34a内の海水よりも温度が高い水が流されることによって周囲の温度を上昇させる加温体となる。加温体は、温水が内部に流される導水管33aに替えて、多孔体35a内に配置されるヒータであってもよい。
【0052】
多孔体35aは、例えばスポンジであり、複数の孔部により硝化菌を水中で留まらせ、棲息させることができるようにされている。多孔体35aの目開きは、例えば0.5~2mm程度である。
【0053】
温度センサ61は、温熱源からポンプ40が水処理装置3aに向けて供給する水の温度を検出する検出部である。温度センサ62は、水処理装置3a内を通って温熱源へ戻される水の温度を検出する検出部である。温度センサ63は、多孔体35aの内部の温度を検出する検出部である。温度センサ64は、水槽2内の海水温を検出する検出部である。アンモニアセンサ70は、水槽2内のアンモニア態窒素(アンモニア濃度)などを検出する検出部である。
【0054】
制御部8は、図示しないCPU及びメモリを含み、水処理システム1aを構成する各部を制御する。
【0055】
次に、水処理システム1aにおいて制御部8が行う3つの制御例について説明する。
【0056】
第1制御例として、制御部8は、温度センサ63が検出する多孔体35aの内部の温度に基づいて、ポンプ40のオン・オフを制御する。これにより、水処理システム1aは、水処理装置3a内で硝化菌の活性を高めることができるので、水を浄化する微生物の活性が高まる温度よりも低い温度に水槽2内の水温を保つ必要がある場合にも、効率的に水を浄化することができる。
【0057】
図10は、水処理システム1aにおける第2制御例を示すフローチャートである。
図10に示すように、水処理システム1aは、温度センサ63が多孔体35aの内部温度を検出し、アンモニアセンサ70が水槽2のアンモニア濃度を検出する(S100)。
【0058】
制御部8は、アンモニアセンサ70が検出したアンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下であるか否かを判定する(S102)。制御部8は、アンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下であると判定した場合には、S100の処理に戻る。また、制御部8は、アンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下でないと判定した場合には、S104の処理に進む。
【0059】
次に、制御部8は、温度センサ63が検出した温度が設定温度範囲内であるか否かを判定する(S104)。制御部8は、温度が設定温度範囲内でないと判定した場合には、S106の処理に進む。また、制御部8は、温度が設定温度範囲内であると判定した場合には、S108の処理に進む。
【0060】
S106の処理において、制御部8は、導水管33a内を流れる水が多孔体35a内の海水温を所定の温度範囲内にするように加温するために、ポンプ40を動作させ、S100の処理に戻る。このとき、制御部8は、ポンプ4aも動作させる。
【0061】
S108の処理において、制御部8は、導水管33a内に水が流れないように、ポンプ40を停止させることによって加温を停止させ、S100の処理に戻る。
【0062】
図11は、水処理システム1aにおける第3制御例を示すフローチャートである。
図11に示すように、水処理システム1aは、温度センサ61,62がそれぞれ温水温度を検出し、アンモニアセンサ70が水槽2のアンモニア濃度を検出する(S200)。
【0063】
制御部8は、アンモニアセンサ70が検出したアンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下であるか否かを判定する(S202)。制御部8は、アンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下であると判定した場合には、S200の処理に戻る。また、制御部8は、アンモニア濃度が設定アンモニア濃度以下でないと判定した場合には、S204の処理に進む。
【0064】
次に、制御部8は、温度センサ61が検出した温度(水処理装置3aへの入口温度)と、温度センサ62が検出した温度(水処理装置3aからの出口温度)との差を算出し、算出した差に基づく判定を行う(S204)。制御部8は、多孔体35aの周囲の温度が下がった状態で、算出した温度の差が0に近い値となっている場合には、S206の処理に進む。また、制御部8は、多孔体35aの周囲の温度が上昇させられている状態で、算出した温度の差が所定の差となっている場合には、S207の処理に進む。
【0065】
S206の処理において、制御部8は、導水管33a内を流れる水が多孔体35a内の海水温を所定の温度範囲内にするように加温するために、ポンプ40を動作させ、S200の処理に戻る。このとき、制御部8は、ポンプ4aも動作させる。
【0066】
制御部8は、所定時間が経過するまで現在の制御状態を維持する制御を行う(S207)。
【0067】
S208の処理において、制御部8は、導水管33a内に水が流れないように、ポンプ40を停止させることによって加温を停止させ、S200の処理に戻る。
【0068】
このように、水処理システム1aは、水処理装置3a内で硝化菌の活性を高めることができるので、水を浄化する微生物の活性が高まる温度よりも低い温度に水槽2内の水温を保つ必要がある場合にも、効率的に水を浄化することができる。
【0069】
また、導水管33aは、多孔体35aの内側の温度が15度~30度の範囲内の温度になるように、15度~35度の範囲内の温度で多孔体35aを加温するように水が流されてもよい。また、導水管33は、水槽2内の水温を20度よりも高くすることなく、多孔体35の内側の温度が20度よりも低い場合に、多孔体35を加温するように水が流されることにしてもよい。
【0070】
また、水処理システム1aは、導水管33a内を流れる水と、水槽2内の海水との温度差及びエネルギー差によって自ずと水槽2内の海水温が20度を超えないように設計されてもよい。また、水処理システム1aは、各検出部の少なくともいずれかの検出結果に基づいて水槽2内の海水温が20度を超えないように制御されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,1a・・・水処理システム、2・・・水槽、3,3a・・・水処理装置、4,4a,40・・・ポンプ、5・・・温熱源、30,30a・・・本体部、31・・・給水部、32・・・排水部、33,33a・・・導水管、34,34a・・・処理室、35,35a・・・多孔体、61~64・・・温度センサ、70・・・アンモニアセンサ、8・・・制御部