(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】締付トルク管理具及び締付トルク管理具と締結具との組み合わせ
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20240528BHJP
B25B 23/143 20060101ALI20240528BHJP
B25B 23/153 20060101ALI20240528BHJP
F16B 31/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B25B23/14 610N
B25B23/14 640B
B25B23/143
B25B23/153
F16B31/02 Z
(21)【出願番号】P 2019178505
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000228442
【氏名又は名称】日本クロージャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 勝己
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204624(JP,A)
【文献】特開昭59-113307(JP,A)
【文献】実開平06-085918(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
B25B 23/143
B25B 23/153
F16B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂から一体に形成されており、下端面が開放された収納穴を規定する内周面と締結具のトルク付加正多角形外周面の相似形状である外周面とを有し、該収納穴を規定する内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面の辺面の各々に部分的に凹部を形成した形態であり、該凹部の所定部位には該凹部の底面から該外周面まで貫通する貫通開口が形成され或いは該外周面における該凹部に対応する領域には没入部が形成されており、更に該外周面の下端部には半径方向外方に延出する外側フランジ部が形成されており、該収納穴に少なくとも部分的に締結具を収納して該外周面に締付トルクを加えた時に、締付トルクが閾値を超えると
、該収納穴の該内周面が部分的に
締付回転方向の反対側に向かって変形されて締結具に対して空転する
と共に、該外周面における該貫通開口又は該没入部の締付回転方向に見て下流側に規定される部位が締付回転方向の反対側に向かって変形される、締付トルク管理具であって、
該外側フランジ部の半径方向外方への突出量は、該貫通開口或いは該没入部が形成されている領域において低減されている、ことを特徴とする締付トルク管理具。
【請求項2】
該外側フランジ部の外周縁は、該貫通開口或いは該没入部が形成されている領域において後退され、後退された部分以外は単一円形状の一部である、請求項1記載の締付トルク管理具。
【請求項3】
該後退された部分は凹円弧状である、請求項2記載の締付トルク管理具。
【請求項4】
該凹部の所定部位には該凹部の底面から該外周面まで貫通する貫通開口が形成されており、該貫通開口は下端まで延在している、請求項1から3までのいずれかに記載の締付トルク管理具。
【請求項5】
該貫通開口は該外側フランジ部の内周縁部にも延出している、請求項4記載の締付トルク管理具。
【請求項6】
該外周面における該凹部に対応する領域には没入部が形成されており、該没入部の下端は該外側フランジ部の上面と整合している、請求項1から3までのいずれかに記載の締付トルク管理具。
【請求項7】
該締結具の該トルク付加正多角形外周面は正六角形である、請求項1から6までのいずれかに記載の締付トルク管理具。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の締付トルク管理具と、該締付トルク管理具の該収納穴に少なくとも部分的に圧入された締結具との組み合わせ。
【請求項9】
該締結具は六角ナットである、請求項8記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット又はボルトの如き締結具を所要トルクで締め付けるための締付トルク管理具及びかかる締付トルク管理具と締結具との組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高速道路における遮音壁の取り付け、トンネル等の天井壁の取り付け或いは各種建造物における種々の部品の取り付けにおいては、周知の如くボルトとナットとの締結が多数使用されている。そして、かような締結においてはボルトに対してナット(通常は緩み止めナット)を、例えば呼び径M10の六角ナットの場合には17乃至24Nm程度であり、呼び径M24の六角ナットの場合は250乃至360Nm程度である、比較的大きな所要トルクで締め付けることが重要である。下記特許文献1には、ボルトに対してナットを或いはナットに対してボルトを所要トルクで締め付ける際に使用することができる締付トルク管理具が開示されている。かかる締付トルク管理具は、合成樹脂から一体に形成されており、締結具収納部と締付トルク付加部とを含んでいる。締結具収納部には下端面は開口されている収納穴が形成されており、この収納穴の内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応する正多角形内周面に部分的に凹部を形成した形態である。締付トルク付加部の外周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応している。締結具収納部の収納穴に少なくとも部分的に締結具を収納し、締付トルク付加部の外周面に適宜の自動又は手動締付具を係合せしめて締付トルクを加え、これによって締付トルク付加部及び締結具収納部を介して締結具に締付トルクを伝達せしめる。締結具に加えられるトルクが所定閾値を超えると、収納穴の内周面が変形されて締結具に対して締結具収納部が空転されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、上述したとおりの従来の締付トルク管理具には、特に管理すべきトルクの閾値が大きい場合、締結具収納部の各部肉厚と共にトルク付加部の各部の肉厚を相当大きく設定することが必要であり、それ故に製造に多量の材料が必要であり製造コストが増大するという問題があり、そしてまた成形の際に発生する傾向がある所謂ひけを回避するのが比較的困難であり且つ冷却に比較的長時間を要するため生産性が悪いという問題が存在する。
【0005】
上記問題を解決する締付トルク管理具として、本発明者等は、先に、特願2019-46850号明細書において、締結具収納部と締付トルク付加部とを別個に配設することに代えて、締結具を収納する収納穴を規定する部分自体の外周面を締付トルク付加部として利用する独特な形態の締付トルク管理具を提案した。かかる締付トルク管理具は、合成樹脂から一体に形成されており、下端面が開放された収納穴を規定する内周面と締結具のトルク付加正多角形外周面の相似形状である外周面とを有し、収納穴を規定する内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面に部分的に凹部を形成した形態であり、凹部の所定部位には凹部の底面から外周面まで貫通する貫通開口が形成され或いは外周面における凹部に対応する領域には没入部が形成されており、更に外周面の下端部には半径方向外方に延出する外側フランジ部が形成されており、収納穴に少なくとも部分的に締結具を収納して外周面に締付トルクを加えた時に、締付トルクが閾値を超えると収納穴の内周面が部分的に変形されて締結具に対して空転するようになる、ことを特徴とする。締結具に伝えらえる締付トルクが所定閾値を超えて締結具に対して締付トルク管理具が空転し始めた後にあっては、後述するとおり、締付トルク管理具は上記貫通開口或いは没入部の存在に起因して締付具から充分容易に離脱できる。
【0006】
然るに、本発明者等の経験によれば、本発明者等が先に提案した上記のとおりの締付トルク管理具も未だ充分に満足することができるものではなく、次のとおりの解決すべき問題が残留していることが判明した。即ち、管理すべきトルクの閾値が大きいと使用される締結具も大きくなるためその重さは比較的重量となり(締結具が呼び径M12の六角ナットである場合は15g程度であるが、締結具が呼び径M24の六角ナットである場合は150g程度にもなる)、それ故に、締付トルク管理具と締結具とが所要とおりに組み合わされた状態で落下し、締付トルク管理具の外側フランジ部における貫通開口或いは没入部が形成されている領域の外周縁が床面と衝突した場合には、上記衝突による衝撃の作用ベクトルの延長線上に貫通開口或いは没入部が位置することに起因して、上記領域の外周縁から締付トルク管理具の外周面に形成された貫通開口或いは没入部に向かって亀裂が生じることがある。かような亀裂が生じることで締結具に対する締付トルク管理具の嵌合力は低下し、締結具が締付トルク管理具から落下する或いは締付トルク管理具が締結具の締付トルクを充分に管理することができなくなる虞がある。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、締付トルク管理具が落下して外側フランジ部の外周縁と床面とが衝突した場合であっても、かかる衝突による衝撃によって外側フランジ部の外周縁から締付トルク管理具の外周面に形成された貫通開口或いは没入部に向かって亀裂が生じることは防止される、新規且つ改良された締付トルク管理具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を加えた結果、先に提案した締付トルク管理具において、外側フランジ部の半径方向外方への突出量を、貫通開口或いは没入部が形成されている領域において低減させることによって、上記主たる技術的課題を達成することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する締付トルク管理具として、合成樹脂から一体に形成されており、下端面が開放された収納穴を規定する内周面と締結具のトルク付加正多角形外周面の相似形状である外周面とを有し、該収納穴を規定する内周面は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した正多角形内周面の辺面の各々に部分的に凹部を形成した形態であり、該凹部の所定部位には該凹部の底面から該外周面まで貫通する貫通開口が形成され或いは該外周面における該凹部に対応する領域には没入部が形成されており、更に該外周面の下端部には半径方向外方に延出する外側フランジ部が形成されており、該収納穴に少なくとも部分的に締結具を収納して該外周面に締付トルクを加えた時に、締付トルクが閾値を超えると、該収納穴の該内周面が部分的に締付回転方向の反対側に向かって変形されて締結具に対して空転すると共に、該外周面における該貫通開口又は該没入部の締付回転方向に見て下流側に規定される部位が締付回転方向の反対側に向かって変形される、締付トルク管理具であって、該外側フランジ部の半径方向外方への突出量は、該貫通開口或いは該没入部が形成されている領域において低減されている、ことを特徴とする締付トルク管理具が提供される。
【0010】
好ましくは、該外側フランジ部の外周縁は、該貫通開口或いは該没入部が形成されている領域において後退され、後退された部分以外は単一円形状の一部である。この場合には、該後退された部分は凹円弧状であるのが良い。好適には、該凹部の所定部位には該凹部の底面から該外周面まで貫通する貫通開口が形成されており、該貫通開口は下端まで延在している。この場合には、該貫通開口は該外側フランジ部の内周縁部にも延出しているのが良い。該外周面における該凹部に対応する領域には没入部が形成されており、該没入部の下端は該外側フランジ部の上面と整合しているのが好適である。該締結具の該トルク付加正多角形外周面は正六角形であるのが好ましい。
【0011】
本発明によれば、更に、上述したとおりの締付トルク管理具と、該締付トルク管理具の該収納穴に少なくとも部分的に圧入された締結具との組み合わせが提供される。典型的形態においては、該締結具は六角ナットである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の締付トルク管理具においては、外側フランジ部の半径方向外方への突出量が、貫通開口或いは没入部が形成されている領域において低減されていることに起因して、締付トルク管理具が落下して外側フランジ部の外周縁と床面とが衝突した場合であっても、かかる衝突によって外側フランジ部が床面から受ける衝撃の作用ベクトルの延長線上に上記貫通開口或いは没入部が存在することはないため、外側フランジ部の外周縁から上記貫通開口或いは没入部に向かって亀裂が生じることは防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された締付トルク管理具の好適実施形態の斜視図。
【
図2】
図1に示す締付トルク管理具の、一部を断面で示す正面図。
【
図3】
図1に示す締付トルク管理具の、一部を断面で示す右側面図。
【
図6】
図1に示す締付トルク管理具と締結具の典型例であるナットとの組み合わせの、一部を断面で示す正面図。
【
図9】
図6に示す組み合わせにおいて、ナットの締付トルクが閾値を超えてナットに対して締付トルク管理具が空転した後の状態を示す底面図。
【
図10】
図6に示す組み合わせにおいて、ナットの締付トルクが閾値を超えてナットに対して締付トルク管理具が空転した後の状態を示す右側面図。
【
図11】本発明に従って構成された締付トルク管理具の他の好適実施形態を上方から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された締付トルク管理具の好適実施形態及びかかる実施形態と締結具の典型例であるナットとの組み合わせを示す添付図面を参照して、更に詳述する。
【0015】
図1乃至
図3を参照して説明すると、全体を番号2で示す締付トルク管理具は、適宜の合成樹脂、好ましくはポリカーボネート或いはアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)の如き比較的高強度の合成樹脂、から射出成形或いは圧縮成形によって一体に形成されている。かかる締付トルク管理具2は全体として筒形状であり、下端面が開放された収納穴4を規定する内周面6と締結具のトルク付加正多角形外周面の相似形状である外周面8とを有する。
【0016】
図1乃至
図3と共に
図5を参照して説明を続けると、収納穴4を規定する内周面6は、収納する締結具のトルク付加正多角形外周面に対応した仮想正多角形内周面の各辺面10に部分的に凹部12を形成した形態である。図示の実施形態においては、後述するとおり締結具は六角ナットであり、従って締結具のトルク付加正多角形外周面は正六角形であり、仮想正多角形内周面(
図5に二点鎖線で示す内周面)も正六角形である。凹部12の各々は各辺面10の中央部乃至これよりも幾分締付回転方向(
図5において反時計方向)に見て上流側に形成されており、底面12aと共に両側面、即ち上記締付回転方向に見て上流側に位置する上流面12b及び下流側に位置する下流面12cを有する。図示の実施形態においては、上流面12bは辺面10に対して外方に向かって上記締付回転方向に傾斜して延在し、下流面12cは辺面10に対して垂直に延在している。底面12aは、収納穴4の中心を中心とする円の一部をなす円弧形状部分12a-1と、上記締付回転方向に見て円弧形状部分12a-1の下流端から辺面10に対して内方に向かって上記締付回転方向に傾斜し下流面12cの径方向外側端に滑らかに接続される弧状部分12a-2とを含んでいる。底面12aの円弧形状部分12a-1と上流面12bとは、弧状境界面12dを介して滑らかに接続されている。底面12aの円弧形状部分12a-1と上流面12bとが形成する角度αは、鈍角であるのが好ましく、特に好ましくは100乃至160度程度である。
【0017】
凹部12の所定部位には凹部12の底面12aから外周面8まで貫通し、凹部12の下端から上端まで軸線方向に細長く延びる矩形状である貫通開口14が形成されている。貫通開口14は凹部12の下端から上端まで延在していることは必ずしも必要ではなく、凹部12の軸線方向の一部に形成することもできるが、後に更に言及する如く締付トルク管理具2が実際に使用される際には凹部12の軸線方向下部に塑性変形が生成される傾向がある故に、凹部12の少なくとも軸線下部に貫通開口14が形成されていることが好ましい。また、図示の実施形態においては、貫通開口14は外側フランジ部30の内周縁部にも延出している。所望ならば、矩形状の貫通開口14に代えて、例えば軸線方向上方に向かって周方向幅が漸次低減する三角形状乃至台形状等の適宜の形状の貫通開口を形成することもできる。
【0018】
上記収納穴4の内周面を規定する上記辺面10における上記締付回転方向(
図5において反時計方向)に見て上記凹部12の上流側に位置する部分10aには保持突出部が配設されている。保持突出部は、収納穴4の軸線方向(
図2及び
図3において上下方向、
図5において紙面に垂直な方向)に、好ましくは収納穴4の軸線に実質上平行に、延びるリブ16である。保持突出部即ちリブ16は6個の辺面10の部分10aの各々に形成されている。リブ16の各々は
図2及び
図3を参照することによって明確に理解される如く、収納穴4の上端から下端近傍まで収納穴4の軸線に実質上平行に延びている。リブ16の突出端部の横断面形状は、
図5に図示する如く半円形状であるのが好都合である。図示の実施形態においては、6個の辺面10の部分10aの全てにおいてリブ16を形成しているが、所望ならば、例えば1個おきに位置する3個の辺面10或いは直径方向に対向して位置する2個の辺面10のみにリブ16を形成することもできる。或いは、辺面10の各々において、軸線方向に間隔おいて又は周方向に間隔をおいて複数個のリブ16を形成することもできる。
【0019】
図1乃至
図5を参照して説明を続けると、上記外周面8は上述したとおり締結具のトルク付加正角形外周面の相似形状である。図示の実施形態においては、後述するとおり締結具は六角ナットであり、従って上記外周面8は正六角形であり、その大きさは締結具のトルク付加正多角形の1.2乃至1.6倍程度であるのが好都合である。上記収納穴4を規定する内周面6における辺面10の各々と外周面8における辺面18の各々とは角度的に整合されているのが好都合である。後述するとおり収納穴4に締結具を収納した状態で外周面8に付加するトルクが閾値を超えた時に収納穴4を規定している内周面6は変形するが、このとき、締結具の外周面角部が締付トルク管理具2の外周面8を超えて径方向外側に露出することで、締結具が締付具の内側において干渉し、これによって締結具が締付具によって直接締め付けられて、締結具に過剰なトルクが付加されてしまうことを確実に回避するために、内周面6における直径方向に対向する角(辺面10と辺面10の交差点)間の長さX1(
図5)は、外周面8における直径方向に対向する辺面18間の長さX2(
図4)よりも小さいことが望ましい。
【0020】
締付トルク管理具2の上端部には半径方向内方に延出する環状内側フランジ部20が形成されている。内側フランジ部20の内周面は円筒形状であり、締付トルク管理具2の上端には内側フランジ部20の内周面によって円形貫通穴22が規定されている。内側フランジ部20の内径は収納穴4の内径よりも小さく、従って収納穴4と内側フランジ部20との境界領域には下方を向いた円環状肩面23が規定されている。そして、円環状肩面23の外周縁部には、周方向に連続する環状突条24が形成されている。
【0021】
締付トルク管理具2の上端面25(内側フランジ部20の上面を含む)は締結具のトルク付加正多角形外周面に対応する外周縁を有し、その角部26の各々には半径方向に細長く延びる突条28が配設されている。角部26の各々において上端面25は水平に延在する内側領域25aと半径方向外側に向かって下方に傾斜する外側領域25bとを有し、突条28は上端面25の内側領域25a上を水平に延びる内側領域28aと上端面25の外側領域25b上を半径方向外方に向かって下方に傾斜して延びる外側領域28bとを有している。
【0022】
締付トルク管理具2の下端部には半径方向外方に延出した環状の外側フランジ部30が形成されている。本発明に従って構成される締付トルク管理具2にあっては、外側フランジ部30の半径方向外方への突出量は、貫通開口14が形成されている領域において低減されていることが重要である。図示の実施形態においては、外側フランジ部30の外周縁は、貫通開口14が形成されている領域において後退され(後退された部分を番号32で示す)、後退された部分32以外(かかる部分を番号34で示す)は
図4及び
図5において二点鎖線で示す単一円形状の一部である。上記後退された部分32は凹円弧状であり、かかる部分32とそれ以外の部分34とは滑らかに接続されている。図示の実施形態においては、上記後退された部分32は貫通開口14が形成されている領域とその周方向両側部とを含んだ状態で設定されているが、所望ならば、上記部分32は貫通開口14が形成されている領域と対応する部分のみ、つまり貫通開口14が形成されている領域に局所的に設定されるようにしてもよい。外側フランジ部30の上面及び締付トルク管理具2の下面(外側フランジ部30の下面を含む)は実質上水平な平面でよい。収納穴4の内周面下端部には面取加工が施されている。
【0023】
上述したとおりの締付トルク管理具2はそれ単独で市場に流通させることもできるが、
図6乃至
図8に示すとおり、締結具と組み合わせて市場に流通させるのが好都合である。
図6乃至
図8に示す実施形態においては、締結具の典型例として緩み止め六角ナット36が図示されている。かかる六角ナット36の外周面38は正六角形であり、六角ナット36の製作誤差が充分に小さい場合には締付トルク締結具2に形成されている収納穴4に関する上記仮想正六角形よりも若干大きい(換言すれば、締付トルク管理具2における収納穴4の仮想正六角形は六角ナット36の正六角形である外周面38よりも小さく設定されている)。そして、六角ナット36の主部、即ち下端部を除く部分、が収納穴4内に圧入される。六角ナット36の上面に形成されている円環形状部40は上記環状突条24の半径方向先端面によって規定される空間内に収納され、その上端縁が肩面23に当接される。そして、六角ナット36は、上記締付回転方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に見て上記凹部12の下流側に位置する部分10bと共にリブ16が六角ナット36の外周面38に圧接することによって収納穴4内に保持される(
図8においては、締結具即ち六角ナット36が収納穴4内に圧入されたことに圧入されたことによってリブ16は弾性乃至塑性変形されている)。而して、適宜の合成樹脂から射出成形或いは圧縮成形される締付トルク管理具2の製作公差は比較的小さく、従って収納穴4の内周面の製作誤差は比較的小さいのに対して、六角ナット36の製作公差は比較的大きく、従って六角ナット36の外周面38の製作誤差は比較的大きいが、収納穴4の内周面に対する六角ナット36の外周面38の比較的大きな製作誤差が収納穴4の内周面の所要部分に形成されているリブ16の弾性乃至塑性変形によって補償される。それ故に、収納穴4内に六角ナット36を圧入するのに必要な力が過大或いは過小になることが可及的に回避される。
図6と
図7を比較参照することによって明確に理解されるとおり、六角ナット36の外周面38とトルク管理具2の内周面6とは、角部において両者は密着するが、辺面部、更に詳しくはトルク管理具2おいて凹部12が形成されている部位において両者は離隔する。
【0024】
上述したとおり、締付トルク管理具2は六角ナット36の如き締結具と組み合わせて市場に流通させるのが好都合である。ここで、締付トルク管理具が大型の締結具と組み合わされた場合、かかる組み合わせは比較的重量となり落下すると締付トルク管理具は床面から相当な大きさの衝撃を受ける。本発明の締付トルク管理具2においては、外側フランジ部30の半径方向外方への突出量が、貫通開口14が形成されている領域において低減されていることに起因して、締付トルク管理具2が落下して外側フランジ部30の外周縁と床面とが衝突した場合であっても、かかる衝突によって外側フランジ部30が床面から受ける衝撃の作用ベクトルの延長線上に貫通開口14が存在することはないため、外側フランジ部30の外周縁から貫通開口14に向かって亀裂が生じることは防止される。これにより、締付トルク管理具2と締結具(六角ナット36)とが所要とおりに組み合わされた状態で落下して締付トルク管理具2の外側フランジ部30の外周縁と床面とが衝突した場合に、外側フランジ部30の外周縁から上記貫通開口14に向かって亀裂が生じて締結具(六角ナット36)に対する締付トルク管理具2の嵌合力が低下し、締結具(六角ナット36)が締付トルク管理具2から落下する或いは締付トルク管理具2が締結具(六角ナット36)の締付トルクを充分に管理することができなくなることが可及的に防止される。
【0025】
上述したとおりの締付トルク管理具2の使用様式について説明すると、締付トルク管理具2に六角ナット36が既に組み合わされている場合には、その六角ナット36を締結すべきボルトの軸部42(
図6及び
図7)に被嵌する(締付トルク管理具2に六角ナット36が組み合わされていない場合には、ボルトに仮締結した六角ナット36を締付トルク管理具2の収納穴4に収納する)。次いで、
図6及び
図7に二点鎖線で示す如く、自動又は手動締付具のソケット44(ソケット44の内周面は締付トルク管理具2の外周面に対応した六角筒形状である)を締付トルク管理具2の外周面8に嵌合する。この際には、ソケット44の下端を締付トルク管理具2の外側フランジ部30の上面に当接せしめることによって、ソケット44を締付トルク管理具2に対して充分容易に所要とおりに位置させることができる。しかる後に、締付具のソケット44を締結方向(
図4において時計方向、
図5において反時計方向)に回転する。ソケット44から締付トルク管理具2に加えられるトルクは六角ナット36に伝えられ、これによって六角ナット36がボルトの軸部42に締め付けられる。ボルトの軸部42に対して六角ナット36が軸線方向に相対的に比較的長い距離に渡って進行する場合には、
図6及び
図7に二点鎖線で図示する如く、ボルトの軸部42が締付トルク管理具2の内側フランジ部20によって規定されている貫通穴22を貫通して上方に移動する。
【0026】
六角ナット36に伝えられる締付トルクが所定閾値を超えると、
図9に図示する如く、収納穴4の内周面、特に締付回転方向に見て凹部12よりも下流側の部位(更に詳しくは締付回転方向に見て上流側の辺面10と下流側の辺面10との境界領域から上流側の辺面10の凹部12よりも下流側の部位)が締付回転方向とは反対側へ向かって押圧されて変形され、六角ナット36に対して締付トルク管理具2が空転するようになり、かくしてボルトに対して六角ナット36が所要締付トルクで締結される。六角ナット36に対して締付トルク管理具2が空転し始めた際には、六角ナット36の外周面角部が収納穴4の凹部12の上流面12bに激しく衝突することがあるが、図示の実施形態においては凹部12の底面12a(さらに詳しくはその円弧形状部分12a-1)と上流面12bとが鈍角を形成している故に、六角ナット36の外周面角部から凹部12の上流面12bに加えられる力が適宜に緩衝乃至消失される。加えて、締付トルク管理具2の外周面8に被嵌されたソケット44が締付トルク管理具2の補強材部材として機能する。かくして、締付トルク管理具2に亀裂が生成され或いは締付トルク管理具2が破損されてしまうことが可及的に回避される。上述したとおりにして締付トルク管理具2の収納穴4の内周面6が変形される際には、外周面8も変形されるが、外周面8の変形は変形抵抗が小さい部位、即ち貫通開口14が形成されている部位に集中的に生成され、
図10に図示する如く貫通開口14の締付回転方向に見て下流側を規定している部位が締付回転方向の反対側に向かって変形されて貫通開口14の幅が低減される。本発明者等の経験によれば、貫通開口14の幅の低減は主として貫通開口14の軸線方向下部において発生、換言すれば外周面8における変形は主として貫通開口14の軸線方向下部に対応して発生する。従って、貫通開口14は凹部12の少なくとも軸線方向下方に形成されていることが好ましい。更に、本実施形態の締付トルク管理具2においては、外周面8の半径方向外側に向かって広がらんとする傾向が、貫通開口14の存在に起因して外周面8が周方向に向かって変形することによって充分に抑制され、外周面8における変形は貫通開口14が形成されている部位において集中的に生成される故に、外周面8が締付具のソケット44の内周面に齧り付くことが可及的に回避される。従って、六角ナット36に対して締付トルク管理具2が空転し始めた後においては
、締付具のソケット44から締付トルク管理具2を充分容易に離脱することができる。
【0027】
図11は、本発明に従って構成された締付トルク管理具の他の好適実施形態を図示している。
図11に図示する締付トルク管理具102においては、上述した締付トルク管理具2における貫通開口14に代えて、外周面108における凹部112に対応する領域(即ち、上述した締付トルク管理具2において貫通開口14が形成されている部位)に没入部114を形成し、壁厚を局部的に低減せしめている。上述した締付トルク管理具2における貫通開口14の場合と同様に、没入部114は対応する凹部112の底面に対応して形成されており、凹部112の下端から上端まで軸線方向に細長く延びる矩形状である。図示の実施形態においては、没入部114の下端は外側フランジ部130の上面と整合している。本実施形態の締付トルク管理具102にあっては、外側フランジ部130の半径方向外方への突出量が、没入部114が形成されている領域において低減されていることが重要である。つまり、本実施形態においても後退された部分132が設けられている。
図11に図示する締付トルク管理具102の上述した構成(即ち没入部114)以外の構成は、上述した締付トルク管理具2の構成と実質上同一であり、本実施形態の締付トルク管理具102においても上述した締付トルク管理具2と同様の作用効果が得られる。即ち、本実施形態の締付トルク管理具においても、外側フランジ部130の半径方向外方への突出量が、没入部114が形成されている領域において低減されていることに起因して、締付トルク管理具102が落下して外側フランジ部130の外周縁と床面とが衝突した場合であっても、かかる衝突によって外側フランジ部130が床面から受ける衝撃の作用ベクトルの延長線上に没入部114が存在することはないため、外側フランジ部130の外周縁から没入部114に向かって亀裂が生じることは防止される。
【符号の説明】
【0028】
2:締付トルク管理具
4:収納穴
6:内周面
8:外周面
10:内周面の辺面
12:凹部
12a:凹部の底面
14:貫通開口
18:外周面の辺面
20:内側フランジ部
30:外側フランジ部
32:後退された部分
34:後退された部分以外の部分
36:六角ナット
42:ボルトの軸部
44:締付具のソケット
102:締付トルク管理具
104:収納穴
106:内周面
108:外周面
114:没入部
132:後退された部分