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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/261 20110101AFI20240528BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20240528BHJP
   B60R 21/276 20060101ALI20240528BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60R21/261
B60R21/207
B60R21/276
B60N2/427
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019211628
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021079918
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浮田 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】福本 健二
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 智樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 征幸
(72)【発明者】
【氏名】勝田 信行
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-136595(JP,A)
【文献】特開2006-143045(JP,A)
【文献】特開2007-050835(JP,A)
【文献】特開2005-239129(JP,A)
【文献】実公昭49-007790(JP,Y1)
【文献】特開2004-136861(JP,A)
【文献】特開平10-086787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/00- 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に配置された車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグ装置であって、
異なる2方向からの衝撃に対応して前記車両用シートに配置され、複数のエアバッグをそれぞれ有する第1エアバッグ群及び第2エアバッグ群と、
前記車両用シートのうち前記乗員の臀部を支持するシートクッション内に配置され、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群に供給するガスを発生させるガス発生部と、
前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群のいずれかに前記ガスを供給するのを切り替える切替部と、
前記ガス発生部と前記切替部とを接続する主ガス経路と、
前記切替部と前記第1エアバッグ群とを接続する第1ガス経路と、
前記切替部と前記第2エアバッグ群とを接続する第2ガス経路と、
を備え、
前記第1エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグと、前記第2エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグとは、合計容積が異なっており、
前記第1エアバッグ群と前記第2エアバッグ群のうち前記合計容積が小さい方と前記切替部とを接続する前記第1ガス経路又は前記第2ガス経路には、経路内が所定圧以上になった場合に該経路内とその外部とを連通させるバルブが配置されている、
エアバッグ装置。
【請求項2】
前記第1エアバッグ群は、前記車両用シートのうち前記乗員の背部を支持するシートバック内に配置されており、
前記第2エアバッグ群を構成する前記複数のエアバッグのうちの少なくとも1つは、前記シートクッション内に配置されている、
請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記ガス発生部は、1個のガス発生器により構成されており
記第1ガス経路又は前記第2ガス経路の少なくともいずれか一方には、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群のいずれか一方に含まれる前記複数のエアバッグが前記切替部からの距離を異ならせて直列に接続されている、
請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記切替部は、前記シートクッション内に配置されたパイロ式バルブである、
請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記2方向からの衝撃のうち1方向からの衝撃は、前記車両の側面衝突により発生し、
前記第1エアバッグ群は、前記側面衝突の発生側に展開する第1サイドエアバッグと、該発生側と反対側に展開する第2サイドエアバッグと、を有し、
前記第1エアバッグ群は、前記第2エアバッグ群よりも前記合計容積が小さく、
前記第1ガス経路は、前記第2ガス経路よりも断面積が大きい、
請求項1から4のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに搭載されるエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の乗員を保護する技術が知られている。例えば、特許文献1には、車両用ドアと乗員の腰部との間に展開される腰部バッグと、車両用ドアと乗員の胸部との間に展開される胸部バッグと、腰部バッグ及び胸部バッグにガスを供給するインフレータが車両用シートに搭載された車両用サイドエアバッグ装置が記載されている。この車両用サイドエアバッグ装置は、車両の側面衝突時又は側面衝突予知時において、インフレータを作動させて腰部バッグ及び胸部バッグにガスを供給し、腰部バッグ及び胸部バッグを展開する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-201298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両においては、例えば、側面衝突又は正面衝突のように異なる2方向からの衝撃が生じる場合がある。しかしながら、例えば、特許文献1に記載された車両用サイドエアバッグ装置は、側面方向からの衝撃にのみ対応しているため、側面とは異なる方向から衝撃が生じた場合には乗員を保護することはできない。
【0005】
また、車両内の空間を広くするために車両用シートの薄型化及び車両用シート内へのエアバッグ装置の配置も求められている。しかしながら、車両用シート内にエアバッグ装置を搭載しつつ車両用シートを薄型化する技術は提案されていない。
【0006】
本願開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、車両用シートを薄型化しつつ乗員を保護することが可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願開示のエアバッグ装置では、車両用シート内に配置される第1エアバッグ群又は第2エアバッグ群のいずれかにガスを供給するのを切り替える切替部を備える構成を採用した。このような構成により、エアバッグ装置は、乗員を保護するために展開が必要なエアバッグを展開させつつ車両用シートを薄型化することができる。
【0008】
具体的には、本願開示は、車両内に配置された車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグ装置であって、異なる2方向からの衝撃に対応して前記車両用シートに配置され、複数のエアバッグをそれぞれ有する第1エアバッグ群及び第2エアバッグ群と、前記車両用シートのうち前記乗員の臀部を支持するシートクッション内に配置され、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群に供給するガスを発生させるガス発生部と、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群のいずれかに前記ガスを供給するのを切り替える切替部と、を備える。
【0009】
本願開示のエアバッグ装置は、車両用シートに配置された第1エアバッグ群及び第2エアバッグ群と、シートクッション内に配置されたガス発生部及び切替部と、を備える。当該エアバッグ装置は、一の方向からの衝撃に対しては第1エアバッグ群に含まれるエアバ
ッグを展開することによって乗員を保護する。また、当該エアバッグ装置は、一の方向とは別の他方向からの衝撃に対しては第2エアバッグ群に含まれるエアバッグを展開することによって乗員を保護する。このため、当該エアバッグ装置は、異なる2方向からの衝撃に対して乗員を保護できる。また、当該エアバッグ装置は、衝撃の方向に応じて乗員保護に必要なエアバッグを展開すればよいため、各エアバッグは一方向の衝撃から乗員を保護できる程度の容積を有していればよく、複数のエアバッグによって乗員の保護する部位を割り当てており、各エアバッグの容積を小さくすることができる。また、エアバッグ装置は、各エアバッグの容積を小さくすることができるため、エアバッグの展開に必要なガス量を少なくすることができ、ガス発生部も小型化することができる。このため、エアバッグ装置は、各エアバッグ及びガス発生部を搭載する車両用シートを薄型化することができる。このように、当該エアバッグ装置は、車両用シートを薄型化しつつ乗員を保護できる。
【0010】
上記のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグ群は、前記車両用シートのうち前記乗員の背部を支持するシートバック内に配置されており、前記第2エアバッグ群を構成する前記複数のエアバッグのうちの少なくとも1つは、前記シートクッション内に配置されていてもよい。当該構成を備えるエアバッグ装置によれば、第1エアバッグ群に含まれる複数のエアバッグを折り畳むことによって嵩を低くしてシートバック内に配置することで、シートバックを薄型化することができる。
【0011】
上記のエアバッグ装置において、前記ガス発生部は、1個のガス発生器により構成されており、前記エアバッグ装置は、前記ガス発生部と前記切替部とを接続する主ガス経路と、前記切替部と前記第1エアバッグ群とを接続する第1ガス経路と、前記切替部と前記第2エアバッグ群とを接続する第2ガス経路と、を更に備え、前記第1ガス経路又は前記第2ガス経路の少なくともいずれか一方には、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群のいずれか一方に含まれる前記複数のエアバッグが前記切替部からの距離を異ならせて直列に接続されていてもよい。当該構成のエアバッグ装置によれば、乗員保護のために複数のエアバッグの展開順を設定することができる。このため、当該エアバッグ装置は、乗員を保護できる。
【0012】
上記のエアバッグ装置において、前記切替部は、前記シートクッション内に配置されたパイロ式バルブであってもよい。パイロ式バルブは、火薬の着火電流のみによって作動可能であり、ガスの流路を切り替えるバルブとして用いることができる。
【0013】
上記のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグと、前記第2エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグとは、合計容積が異なっており、前記第1エアバッグ群と前記第2エアバッグ群のうち前記合計容積が小さい方と前記切替部とを接続する前記第1ガス経路又は前記第2ガス経路には、経路内が所定圧以上になった場合に該経路内とその外部とを連通させるバルブが配置されていてもよい。1個のガス発生器で第1エアバッグ群又は第2エアバッグ群のいずれかにガスを供給する場合には、ガス発生器は、合計容積の大きい方のエアバッグ群に合わせてガスの供給量(ガスの発生量)が設定されている。このため、ガス発生器から合計容積の小さい方のエアバッグ群にガスが供給されると、当該エアバッグ群に含まれる各エアバッグに負荷が掛かってしまい好ましくない。そこで経路内が所圧力以上になった場合に過剰なガスを外部に排出するバルブをいずれかのガス経路に設けることによって、当該各エアバッグへの負荷を低減させることができる。
【0014】
上記のエアバッグ装置において、前記2方向からの衝撃のうち1方向からの衝撃は、前記車両の側面衝突により発生し、前記第1エアバッグ群は、前記側面衝突の発生側に展開する第1サイドエアバッグと、該発生側と反対側に展開する第2サイドエアバッグと、を
有し、前記第1エアバッグ群は、前記第2エアバッグ群よりも前記合計容積が小さく、前記第1ガス経路は、前記第2ガス経路よりも断面積が大きくてもよい。当該構成を備えるエアバッグ装置において、第1サイドエアバッグを側面衝突の発生側に展開させ、第2サイドエアバッグを当該発生側と反対側に展開させる。また、第1エアバッグ群に含まれる複数のエアバッグの合計容積は、第2エアバッグ群に含まれる複数のエアバッグの合計容積よりも小さい。第1エアバッグ群を展開させる場合と第2エアバッグ群を展開させる場合とでガス発生部から供給されるガスの容積を変更することはできないため、第1エアバッグ群の合計容積を第2エアバッグ群の合計容積より小さくし、第1サイドエアバッグを第2エアバッグ群の各エアバッグよりも短時間で展開できる。また、第1ガス経路は、第2ガス経路よりも断面積を大きくすることによって単位時間当たりのガスの流量を大きくすることができるため、短時間で多量のガスを供給でき、第1エアバッグ群に含まれる各エアバッグを相対的に短時間で展開できる。なお、ここでの断面積はガスの流れ方向に直交する方向での断面の面積である。
【0015】
ここで、上記のエアバッグ装置において、前記ガス発生部は、第1ガス発生器と第2ガス発生器を含んで構成されており、前記切替部は、前記2方向のうちいずれの方向からの衝撃を受けたことを示す情報に基づいて、前記第1ガス発生器又は前記第2ガス発生器を独立して作動させる制御部であり、前記エアバッグ装置は、前記第1ガス発生器と前記第1エアバッグ群とを接続する第1ガス経路と、前記第2ガス発生器と前記第2エアバッグ群とを接続する第2ガス経路と、を更に備え、前記第1ガス経路又は前記第2ガス経路の少なくともいずれか一方には、前記第1エアバッグ群又は前記第2エアバッグ群のいずれか一方に含まれる前記複数のエアバッグが前記第1ガス発生器又は前記第2ガス発生器からの距離を異ならせて直列に接続されていてもよい。
【0016】
当該構成のように、エアバッグ装置は、2つのガス発生器を備えていてもよい。これにより、エアバッグ装置は、車両が異なる2方向の両方向からの衝撃を受けた場合に第1エアバッグ群及び第2エアバッグ群の両方を展開させることができるため、車両が当該両方向からの衝撃を受けた場合においても乗員を保護できる。
【0017】
上記のエアバッグ装置において、前記2方向からの衝撃のうち1方向からの衝撃は、前記車両の側面衝突により発生し、前記第1エアバッグ群は、前記側面衝突の発生側に展開する第1サイドエアバッグと、該発生側と反対側に展開する第2サイドエアバッグと、を有し、前記第1エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグの合計容積は、前記第2エアバッグ群に含まれる前記複数のエアバッグの合計容積よりも小さく、前記第1ガス経路は、前記第2ガス経路よりも断面積が大きく、前記第1ガス発生器は、前記第2ガス発生器よりも発生させるガスの容積が小さくてもよい。当該構成を備えるエアバッグ装置によれば、第1エアバッグ群に含まれる各エアバッグを第2エアバッグ群に含まれる各エアバッグよりも相対的に短時間で展開し、乗員を保護できる。
【発明の効果】
【0018】
本願開示の技術によれば、車両用シートを薄型化しつつ乗員を保護することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1に係るエアバッグ装置が配置された車両用シートの外観斜視図である。
図2】実施形態1に係るエアバッグ装置が備えるパイロ式バルブの断面図(その1)である。
図3】実施形態1に係るエアバッグ装置が備えるパイロ式バルブの断面図(その2)である。
図4】実施形態1に係るエアバッグ装置が備えるパイロ式バルブの断面図(その3)である。
図5】実施形態2に係るエアバッグ装置が配置された車両用シートの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本願開示に係るエアバッグ装置の実施形態について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
<実施形態1>
図1は、本実施形態に係るエアバッグ装置が搭載された車両用シート1の外観斜視図である。なお、本明細書において、車両用シート1の前後方向(奥行方向)、左右方向(幅方向)、上下方向(高さ方向)の各方向は、車両用シート1に着座した乗員(着座者)から見た、前後、左右、上下の各方向を基準として説明する。
【0022】
車両用シート1は、車両の乗員が着座するシートである。車両用シート1は、乗員の臀部を支持するシートクッション2と、乗員の背部を支持するシートバック3とを備える。シートバック3は、シートクッション2に対して傾倒可能にシートクッション2に接続されている。また、車両用シート1は、シートバック3の上端部に取り付けられ、乗員の頭部を支持するヘッドレスト4を備える。なお、ヘッドレスト4は、シートバック3と一体的に形成されていてもよいし、シートバック3に固定されていてもよいし、シートバック3から取り外し可能であってもよい。
【0023】
また、車両用シート1は、乗員を車両用シート1に対して拘束するシートベルト5を備える。シートベルト5は、乗員の右肩から左下腹部に延伸して当該乗員の上半身を拘束するショルダーベルト5Aと、乗員の右下腹部から左下腹部に延伸して当該乗員の下腹部を拘束するラップベルト5Bとを有する。また、車両用シート1は、シートバック3の右上部に固定されたリトラクタ6を備える。リトラクタ6は、シートベルト5の不使用時にシートベルト5を巻き取って収納する。また、車両用シート1は、シートクッション2の右側部に固定され、ラップベルト5Bの末端を車両用シート1に対して固定する固定部7と、シートベルト5に対して摺動可能に取り付けられたアンカー部(不図示)と、車両用シート1の左側部に固定され、当該アンカー部を固定するバックル部(不図示)と、を備える。シートベルト5の使用時には当該アンカー部が当該バックル部に固定される。なお、アンカー部に対して、右上方がショルダーベルト5Aとなり、右側がラップベルト5Bとなる。
【0024】
本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両内に配置された車両用シート1に着座する乗員を保護するために車両用シート1に搭載される。具体的には、本実施形態に係るエアバッグ装置は、異なる2方向からの衝撃に対応して車両用シート1に配置され、複数のエアバッグをそれぞれ有する第1エアバッグ群8及び第2エアバッグ群9を備える。
【0025】
第1エアバッグ群8は、車両の側面方向からの衝撃に対応して設置されている。第1エアバッグ群8は、第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bを有する。第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bは、シートバック3内に格納されている。本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両が側面衝突を起こして当該車両の側面方向から衝撃が生じた場合に第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bにガスを供給してこれらを展開し乗員を保護する。第1サイドエアバッグ8Aはシートバッ
ク3の右側に配置されており、第2サイドエアバッグ8Bはシートバック3の左側に配置されている。また、本実施形態において、車両用シート1は車両の右側に配置されており、第1サイドエアバッグ8Aはガスの供給によって乗員の腰部と車体側面との間に展開して乗員の腰部を保持し、当該腰部が当該車体側面に衝突するのを抑制する。一方、第2サイドエアバッグ8Bは、ガスの供給によって、車両用シート1に着座する乗員と、当該車両用シート1の左側に設置されている隣の車両用シートに着座する隣の乗員との間に展開して、当該隣の乗員の頭部が当該乗員に衝突するのを抑制する。
【0026】
第2エアバッグ群9は、車両の正面方向からの衝撃に対応して設置されている。第2エアバッグ群9は、車両が正面衝突を起こして車両の正面方向からの衝撃に対して乗員を保護するためのシートエアバッグ9A及びシートベルトエアバッグ9Bを有する。シートエアバッグ9Aはシートクッション2内に格納されており、シートベルトエアバッグ9Bは、シートベルト5のラップベルト5B内に格納されている。第2エアバッグ群9を構成する複数のエアバッグのうちの少なくとも1つは、シートクッション2内に配置されている。本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両が正面衝突を起こした場合にシートエアバッグ9A及びシートベルトエアバッグ9Bにガスを供給してこれらを展開し乗員を保護する。シートエアバッグ9Aは、ガスの供給によってシートクッション2内で展開し、乗員の大腿部を持ち上げ、乗員の臀部が前方に移動するのを抑制する。これにより、シートエアバッグ9Aは、乗員の身体が車両用シート1のシートクッション2から滑り、ダッシュボードの下に潜り込むサブマリン現象を抑制する。シートベルトエアバッグ9Bは、ガスの供給によって乗員の胸部から腹部の前方に展開して乗員が車両用シート1の前方に配置された構造物等に衝突するのを抑制する。なお、シートベルトエアバッグ9Bは、ショルダーベルト5A内に格納されており、展開時に乗員の頭部から胸部が当該構造物に衝突するのを抑制してもよい。
【0027】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9に供給するガスを発生させるガス発生器10を備える。ガス発生器10は、シートクッション2内に格納されている。ガス発生器10はガス発生部の一例であり、本実施形態においてガス発生部は1個のガス発生器10により構成されている。ガス発生器10は、金属で形成されおり、点火器(不図示)と、その内部に形成された燃焼室に充填され、当該点火器により燃焼されるガス発生剤(不図示)と、を有する。ガス発生器10は、ガス発生剤を燃焼させることによってガスを発生させる。本実施形態に係るエアバッグ装置は、ガス発生器10により発生させたガスを第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9に供給することで各エアバッグを展開させる。なお、ガス発生器10は、圧縮空気とガス発生剤が内部に封入されて、圧縮ガス及び燃焼ガスを供給するハイブリッド式や、圧縮ガスのみからなるストアード式であってもよい。
【0028】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9のいずれかにガスを供給するのを切り替えるパイロ式バルブ11を備える。本実施形態において、パイロ式バルブ11は、切替部の一例である。パイロ式バルブ11は、瞬間的に大きな運動エネルギーを得られる。パイロ式バルブ11は、火薬を着火させる電流のみによって作動可能であり、電磁弁と比較すると小さい電力で作動する。なお、切替部に電磁弁が用いられていてもよい。また、パイロ式バルブ11の詳細な構成ついては後述する。
【0029】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、ガス発生器10とパイロ式バルブ11とを接続する主ガス経路12と、パイロ式バルブ11と第1エアバッグ群8とを接続する第1ガス経路13と、パイロ式バルブ11と第2エアバッグ群9とを接続する第2ガス経路14とを備える。主ガス経路12はシートクッション2内に配置され、第1ガス経路13及び第2ガス経路14はシートクッション2からシートバック3にかけてそれらの内部に配
置されている。ガス発生器10から供給されるガスは主ガス経路12を通じてパイロ式バルブ11に移動する。パイロ式バルブ11は、第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9のいずれかにガスを供給するのを切り替えることができる。第1エアバッグ群8には第1ガス経路13を通じてガスが供給され、第2エアバッグ群9には第2ガス経路14を通じてガスが供給される。本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両の側面方向から衝撃が生じた場合には第1エアバッグ群8の第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bを展開し、車両の正面方向から衝撃が生じた場合には第2エアバッグ群9のシートエアバッグ9A及びシートベルトエアバッグ9Bを展開する。これにより、エアバッグ装置は、側面衝突又は正面衝突のいずれが発生した場合においても乗員を保護できる。
【0030】
次いで、第1ガス経路13に対する第1エアバッグ群8の接続態様と、第2ガス経路14に対する第2エアバッグ群9の接続態様について説明する。第1ガス経路13には、第1エアバッグ群8に含まれる第1サイドエアバッグ8Aと第2サイドエアバッグ8Bとがパイロ式バルブ11からの距離を異ならせて直列に接続されている。なお、ここでの距離は第1ガス経路13に沿った距離のことである。本実施形態では、パイロ式バルブ11に対して、第1ガス経路13に沿った距離が近い方から第1サイドエアバッグ8A、第2サイドエアバッグ8Bの順で第1ガス経路13に接続されている。このため、本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両に側面方向(図1における右側方向)からの衝撃が生じた場合において、先ず第1サイドエアバッグ8Aを展開させ、次いで第2サイドエアバッグ8Bを展開させることができる。エアバッグ装置は、車両用シート1に着座する乗員の腰部を保持するために第1サイドエアバッグ8Aを先に展開させ、次いで隣の乗員の頭部が当該乗員に衝突するのを抑制するために第2サイドエアバッグ8Bを展開させる。これにより、本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両用シート1に着座している乗員を保護できる。
【0031】
第2ガス経路14には、第2エアバッグ群9に含まれるシートエアバッグ9Aとシートベルトエアバッグ9Bとがパイロ式バルブ11からの距離を異ならせて直列に接続されている。なお、ここでの距離は第2ガス経路14に沿った距離のことである。本実施形態では、パイロ式バルブ11に対して、第2ガス経路14に沿った距離が近い方からシートエアバッグ9A、シートベルトエアバッグ9Bの順で第2ガス経路14に接続されている。具体的には、第2ガス経路14は、パイロ式バルブ11とシートエアバッグ9Aを接続する上流側ガス経路14Aと、シートエアバッグ9Aとシートベルトエアバッグ9Bを接続する下流側ガス経路14Bと、を有する。第2エアバッグ群9にガスが供給される場合には、上流側ガス経路14Aを通じてシートエアバッグ9Aにガスが供給され、シートエアバッグ9Aを介して下流側ガス経路14Bにガスが送られる。そして、下流側ガス経路14Bからシートベルトエアバッグ9Bにガスが供給される。本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両に正面方向からの衝撃が生じた場合において、先ずシートエアバッグ9Aを展開させ、次いでシートベルトエアバッグ9Bを展開させる。これにより、エアバッグ装置は、車両に正面方向からの衝撃が生じた場合にシートエアバッグ9Aをシートベルトエアバッグ9Bよりも先に展開させて乗員の臀部を固定して当該乗員が前方に移動するのを抑制する。なお、第2エアバッグ群9においては、パイロ式バルブ11に対して距離の近い方からシートベルトエアバッグ9B、シートエアバッグ9Aの順で第2ガス経路14に接続されていてもよい。この場合において、エアバッグ装置は、車両に正面方向からの衝撃が生じた場合にシートベルトエアバッグ9Bをシートエアバッグ9Aより先に展開させて乗員の胸部から腹部を先に保持してもよい。
【0032】
なお、主ガス経路12、第1ガス経路13及び第2ガス経路14は、例えば、所定の金属で形成されているが、ゴム等の可撓性部材により形成されていてもよいし、車両用シート1のフレームパイプが用いられていてもよい。また、第1ガス経路13におけるシートクッション2とシートバック3の接続部分はゴム等の可撓性部材で形成されてシートバッ
ク3が初期位置から傾倒された場合であっても各ガス経路が断線するのが防止されている。
【0033】
また、第1エアバッグ群8において、第1サイドエアバッグ8Aは、車体の側面側に配置されているため側面衝突の発生側に展開し、第2サイドエアバッグ8Bは、当該発生側と反対側に展開する。また、第1エアバッグ群8に含まれる第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bの合計容積は、第2エアバッグ群9に含まれるシートエアバッグ9A及びシートベルトエアバッグ9Bの合計容積よりも小さい。これは、車両側面と乗員との間隔と、当該乗員とその前方の構造物との間隔では、車両側面と乗員との間隔の方が相対的に狭く、車両側面と乗員の間で展開する第1サイドエアバッグ8Aは、第2エアバッグ群9の各エアバッグよりも迅速に展開させる必要があるからである。第1エアバッグ群8を展開させる場合と第2エアバッグ群9を展開させる場合とでガス発生器10から供給されるガスの容積を変更することはできないため、第1エアバッグ群8の合計容積を第2エアバッグ群9の合計容積より小さくし、第1サイドエアバッグ8Aを第2エアバッグ群9の各エアバッグよりも短時間で展開可能にできる。
【0034】
また、第1エアバッグ群8と第2エアバッグ群9のうち合計容積が小さい方である第1エアバッグ群8とパイロ式バルブ11とを接続する第1ガス経路13には、当該経路内が所定圧以上になった場合に当該経路内とその外部とを連通させるバルブ15が配置されている。バルブ15には、例えば、電磁弁が用いられる。バルブ15は、第1ガス経路13内に配置された圧力センサ(不図示)が所定圧力以上になったことを検知した場合に、制御回路によって制御されて開放される。当該制御回路は、例えば、後述するECU16である。この場合、当該圧力センサはECU16に電気的に接続されている。本実施形態のように、1個のガス発生器10で第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9のいずれかにガスを供給する場合には、ガス発生器10は、合計容積の大きい方の第2エアバッグ群9に合わせてガスの供給量が設定されている。このため、ガス発生器10から合計容積の小さい方の第1エアバッグ群8にガスが供給されると、第1エアバッグ群8に含まれる各エアバッグに負荷が掛かってしまい好ましくない。そこで経路内が所圧力以上になった場合に過剰なガスを外部に排出するバルブ15を第1ガス経路13に設けることによって、当該各エアバッグへの負荷を低減させることができる。また、バルブ15に代えて、第1ガス経路13内が所定圧力以上になった場合に開口する脆弱部を第1ガス経路13に形成してもよい。
【0035】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置において、第1ガス経路13は、第2ガス経路14よりも断面積が大きく形成されている。なお、ここでの断面積はガスの流れ方向に直交する方向での断面の面積である。ガス経路の断面積を大きくするほど単位時間当たりのガスの流量を大きくすることができるため、短時間で多量のガスを供給でき、当該ガス経路に接続されたエアバッグを相対的に短時間で展開できる。本実施形態では、第1ガス経路13を第2ガス経路14よりも断面積が大きくなるように形成することによって、第1エアバッグ群8に含まれる各エアバッグを展開する場合には第2エアバッグ群9に含まれる各エアバッグを展開する場合よりも短時間で各エアバッグを展開できる。
【0036】
次に、図2図4を用いて、パイロ式バルブ11について説明する。図2図4は、パイロ式バルブ11の軸方向で切断した断面図である。図2及び図3は、第1エアバッグ群8にガスを供給する状態のパイロ式バルブ11を示し、図4は、第2エアバッグ群9にガスを供給する状態のパイロ式バルブ11を示している。
【0037】
パイロ式バルブ11は、金属で形成されて中空円柱形状を有するシリンダ111を有する。シリンダ111は、筒状の周壁部111Bと、周壁部111Bの軸方向一端部を塞ぐ頂面部111Aと、周壁部111Bの軸方向の他端部を塞ぐ底面部111Cとを有し、そ
の内部に内部空間が形成されている。なお、図3は、パイロ式バルブ11の断面を示す斜視図であり、シリンダ111の内部空間を図示するために頂面部111Aの図示を省略している。周壁部111Bにはガス入口112が形成されている。また、周壁部111Bであってガス入口112と周壁部111Bの軸を挟んで反対側には第1ガス出口113及び第2ガス出口114が形成されている。第1ガス出口113は頂面部111A側に形成され、第2ガス出口114は底面部111C側に形成されている。
【0038】
ガス入口112には主ガス経路12が接続されており、ガス発生器10から供給されたガスがガス入口112を介してシリンダ111の内部空間に導入される。また、第1ガス出口113には第1ガス経路13が接続されており、第2ガス出口114には第2ガス経路14の上流側ガス経路14Aが接続されている。第1エアバッグ群8にガスが供給される場合には、ガスは第1ガス出口113から第1ガス経路13に向かって移動する。第2エアバッグ群9にガスが供給される場合には、ガスは第2ガス出口114から第2ガス経路14に向かって移動する。
【0039】
パイロ式バルブ11は、金属で形成され、シリンダ111の内部空間内でその軸方向に移動可能であるピストン115を有する。ピストン115は、頂面部111A側に配置されて周壁部111Bの内径より僅かに径が小さい拡径部115Aと、底面部111C側に配置されて拡径部115Aよりも径の小さい縮径部115Bと、を有する。また、パイロ式バルブ11は、シリンダ111の内部空間に配置され、底面部111Cに溶接で固定された筒状の内筒部材116を有する。内筒部材116とシリンダ111との各中心軸は一致しており、内筒部材116内にはピストン115の縮径部115Bが配置されている。内筒部材116の内径は縮径部115Bの径よりも僅かに大きく、内筒部材116内を縮径部115Bがシリンダ111の軸方向に移動可能となる。また、内筒部材116には、連通孔116A、116Bが形成されている。連通孔116A、116Bは、図4に示す状態においてガス入口112から第2ガス出口114へのガスの流路を形成するために設けられている。
【0040】
また、パイロ式バルブ11には内筒部材116の底面部111C側に開口部が形成されており、当該開口部には点火器117が嵌め込まれている。パイロ式バルブ11は、底面部111Cに溶接された金属製の固定部118を点火器117に対してかしめることによって点火器117を固定している。
【0041】
パイロ式バルブ11は、ピストン115が水平方向に移動するように図1に示すシートクッション2内に配置されている。図2に示すように、パイロ式バルブ11は、作動前においては、ピストン115が樹脂製のシェアピン119によって周壁部111Bに固定されている。パイロ式バルブ11が図2及び図3に示す作動前の状態では、縮径部115Bが点火器117に当接する位置で静止しており、ガス入口112から第2ガス出口114への経路が拡径部115Aによって遮断され、ガス入口112から第1ガス出口113にガスが移動するガスの流路が形成される。また、パイロ式バルブ11が作動前の状態では、連通孔116A、116Bがピストン115の縮径部115Bによって閉塞されている。
【0042】
点火器117に着火電流が流れると点火器117が作動してシリンダ111の軸方向頂面部111A側に向かう衝撃波が生じる。これによってピストン115が頂面部111A側に移動する。図4は、パイロ式バルブ11が作動した後の状態を示している。パイロ式バルブ11は、図4に示す作動後の状態では、拡径部115Aが頂面部111Aに当接する位置で静止しており、第1ガス出口113が拡径部115Aにより閉塞され、ガス入口112から連通孔116A、116Bを介して第2ガス出口114にガスが移動するガスの流路が形成される。
【0043】
このように、パイロ式バルブ11は、点火器117によってピストン115を移動させることにより、ガス発生器10からのガスを第1ガス経路13又は第2ガス経路14のいずれか一方に導入することができる。なお、パイロ式バルブ11が作動したとき、図4の状態から図2の状態にピストン115が逆行しないよう、ピストンの固定手段を設けてもよい。
【0044】
また、図1に示すように、本実施形態に係るエアバッグ装置のガス発生器10及びパイロ式バルブ11の各点火器は、エアバッグ装置制御用のECU(Electronic Control Unit)16に電気的に接続されている。ECU16には、車両に搭載されて正面衝突を検知するセンサ17及び車両に搭載されて側面衝突を検知するセンサ18が電気的に接続されている。ECU16は、センサ17が側面衝突を検知した場合、又はセンサ18が正面衝突を検知した場合に、エアバッグ装置に制御信号を送信する。この制御信号は、具体的には、ガス発生器10及びパイロ式バルブ11の各点火器の着火電流である。本実施形態に係るエアバッグ装置は、ECU16からの制御信号に基づいて、側面衝突時にはガス発生器10を作動させてガスを第1エアバッグ群8に供給し、正面衝突時にはガス発生器10及びパイロ式バルブ11を作動させてガスを第2エアバッグ群9に供給する。これによってエアバッグ装置は、側面衝突時と正面衝突時のいずれにおいても乗員を保護できる。なお、センサ17、18は、車両の衝突を予知するプリクラッシュセンサ等であってもよく、この場合には、実際に衝突が生じる前に第1エアバッグ群8又は第2エアバッグ群9が展開する構成としてもよい。
【0045】
このように、本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両用シート1に配置された第1エアバッグ群8及び第2エアバッグ群9と、シートクッション2内に配置されたガス発生器10及びパイロ式バルブ11と、を備える。エアバッグ装置は、折り畳むことによって嵩を低くできる第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bをシートバック3内に配置し、ガス発生器10とパイロ式バルブ11をシートクッション2内に配置することで、シートバック3を薄型化することができる。また、車両の正面衝突時に、車両用シート1の後方の車両用シートに着座している乗員が慣性力によって前方に移動してシートバック3に衝突したとしても、相対的に固い金属製のガス発生器10やパイロ式バルブ11がシートバック3に配置されていないので、当該乗員の負傷程度を最小限に抑えることができる。また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、衝撃の方向に応じて乗員保護に必要なエアバッグを展開すればよいため、各エアバッグは一方向の衝撃から乗員を保護できる程度の容積を有していればよく、各エアバッグの容積を小さくすることができる。また、エアバッグ装置は、必要な保護部位を独立したエアバッグで保護するので、各エアバッグの容積を小さくすることができる。よって、エアバッグの展開に必要なガス量を少なくすることができ、ガス発生器10も小型化することができる。このため、エアバッグ装置は、各エアバッグ及びガス発生器10を搭載する車両用シート1を薄型化することができる。本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両用シート1を薄型化しつつ乗員を保護できる。
【0046】
<実施形態2>
次に、実施形態2に係るエアバッグ装置について図5を用いて説明する。図5は、本実施形態に係るエアバッグ装置が搭載された車両用シート1の外観斜視図である。図5において、上述した実施形態1と実質的に同一の構成については同じ符号を付してその説明は省略する。
【0047】
本実施形態に係るエアバッグ装置は、第1ガス発生器20と第2ガス発生器21を備える。本実施形態において、ガス発生部は、第1ガス発生器20と第2ガス発生器21を含んで構成されている。第1ガス発生器20は第1エアバッグ群8にガスを供給するために設けられている。第2ガス発生器21は第2エアバッグ群9にガスを供給するために設けられている。第1ガス発生器20及び第2ガス発生器21はシートクッション2内に配置されている。なお、第1ガス発生器20及び第2ガス発生器21は、上記実施形態1におけるガス発生器10と同様ものを用いることができる。
【0048】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、側面方向又は正面方向のうちいずれの方向からの衝撃を受けたことを示す情報に基づいて、第1ガス発生器20又は第2ガス発生器21を独立して作動させる制御部22を備える。制御部22は、シートクッション2内に配置されており、ECU16と、第1ガス発生器20及び第2ガス発生器21の各点火器とに電気的に接続されている。本実施形態において、制御部22は切替部の一例である。
【0049】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、第1ガス発生器20と第1エアバッグ群8とを接続する第1ガス経路23と、第2ガス発生器21と第2エアバッグ群9とを接続する第2ガス経路24と、を備える。第1ガス経路23には、第1エアバッグ群8に含まれる第1サイドエアバッグ8Aと第2サイドエアバッグ8Bとが第1ガス発生器20からの距離を異ならせて直列に接続されている。なお、ここでの距離は第1ガス経路23に沿った距離のことである。第1ガス発生器20に対して、第1ガス経路23に沿った距離が近い方から第1サイドエアバッグ8A、第2サイドエアバッグ8Bの順で第1ガス経路23に接続されている。このため、本実施形態に係るエアバッグ装置は、上記実施形態1と同様に、車両に側面方向からの衝撃が生じた場合において、先ず第1サイドエアバッグ8Aを展開させ、次いで第2サイドエアバッグ8Bを展開させることができる。
【0050】
また、第2ガス経路24には、第2エアバッグ群9に含まれるシートエアバッグ9Aとシートベルトエアバッグ9Bとが第2ガス発生器21からの距離を異ならせて直列に接続されている。なお、ここでの距離は第2ガス経路24に沿った距離のことである。本実施形態では、第2ガス発生器21に対して近い方からシートエアバッグ9A、シートベルトエアバッグ9Bの順で第2ガス経路14に接続されている。具体的には、第2ガス経路24は、第2ガス発生器21とシートエアバッグ9Aを接続する上流側ガス経路24Aと、シートエアバッグ9Aとシートベルトエアバッグ9Bを接続する下流側ガス経路24Bと、を有する。第2エアバッグ群9にガスが供給される場合には、上流側ガス経路24Aを通じてシートエアバッグ9Aにガスが供給され、シートエアバッグ9Aを介して下流側ガス経路24Bにガスが送られる。そして、下流側ガス経路24Bからシートベルトエアバッグ9Bにガスが供給される。本実施形態に係るエアバッグ装置は、上記実施形態1に係るエアバッグ装置と同様に、車両が正面衝突を起こした場合において、先ずシートエアバッグ9Aを展開させ、次いでシートベルトエアバッグ9Bを展開させる。
【0051】
なお、第1ガス経路23及び第2ガス経路24は、例えば、所定の金属で形成されているが、ゴム等の可撓性部材により形成されていてもよいし、車両用シート1のフレームパイプが用いられていてもよい。また、第1ガス経路23におけるシートクッション2とシートバック3の接続部分はゴム等の可撓性部材で形成されてシートバック3が初期位置から傾倒された場合であっても各ガス経路が断線するのが防止されている。
【0052】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置において、第1ガス経路23は、第2ガス経路24よりも断面積が大きく形成されている。なお、ここでの断面積はガスの流れ方向に直交する方向での断面の面積である。エアバッグ装置は、第1ガス経路23を第2ガス経路24よりも断面積が大きくなるように形成することによって、第1エアバッグ群8に含まれる各エアバッグは、第2エアバッグ群9に含まれる各エアバッグよりも短時間で展開できる。
【0053】
ECU16は、センサ17、18からの検知信号に基づいて車両が側面方向又は正面方向若しくはその両方向から衝撃を受けたことを判定し、制御部22に側面方向又は正面方向若しくはその両方向から衝撃を受けたことを示す情報を送信する。制御部22は、当該情報に基づいて、第1ガス発生器20又は前記第2ガス発生器21のいずれか一方又は両方を作動させることができる。例えば、車両が側面方向からの衝撃を受けたとECU16が判定してその情報を制御部22が受信した場合には、制御部22は第1エアバッグ群8の各エアバッグを展開させるために第1ガス発生器20を作動させる。また、車両が正面方向からの衝撃を受けたとECU16が判定してその情報を制御部22が受信した場合には、制御部22は第2エアバッグ群9の各エアバッグを展開させるために第2ガス発生器21を作動させる。更に、車両が側面方向及び正面方向の両方向からの衝撃を受けたとECU16が判定し、その情報を制御部22が受信した場合には、制御部22は第1エアバッグ群8の各エアバッグ及び第2エアバッグ群9の各エアバッグ両方を展開させるために第1ガス発生器20及び第2ガス発生器21を作動させる。なお、第1エアバッグ群8と第2エアバッグ群9を同時に展開させるか、又はいずれのエアバッグ群を先に展開させるかによって第1ガス発生器20と第2ガス発生器21の作動タイミングを決定してもよいし、後から展開させる方のエアバッグ群の展開タイミングに基づいて当該エアバッグ群にガスを供給するガス発生器の作動タイミングを決定してもよい。
【0054】
このように、本実施形態に係るエアバッグ装置は、例えば、車両が多重衝突を起こした場合であって、側面方向及び正面方向の両方向からの衝撃を受けた場合に第1エアバッグ群8及び第2エアバッグ群9の両方を展開させることができる。このため、エアバッグ装置は、側面方向及び正面方向の両方向からの衝撃を受けた場合においても乗員を保護できる。
【0055】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両用シート1に配置された第1エアバッグ群8及び第2エアバッグ群9と、シートクッション2内に配置された第1ガス発生器20、第2ガス発生器21及び制御部22と、を備える。エアバッグ装置は、折り畳むことによって嵩を低くできる第1サイドエアバッグ8A及び第2サイドエアバッグ8Bをシートバック3内に配置し、第1ガス発生器20、第2ガス発生器21及び制御部22をシートクッション2内に配置することで、シートバック3を薄型化することができる。このように、本実施形態に係るエアバッグ装置は、車両用シート1を薄型化しつつ乗員を保護できる。
【0056】
<その他の実施例>
以上、本願発明の実施形態について説明したが、上述した種々の実施形態は可能な限り組み合わせることができる。また、第2エアバッグ群9に含まれる複数のエアバッグの方の合計容積を第1エアバッグ群8に含まれる複数のエアバッグの方の合計容積を小さくしてもよい。この場合には、第2ガス経路14にバルブ15が配置されていてもよいし、第2ガス経路14、24は、第1ガス経路13、23よりも断面積が大きくなるように形成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 シートバック
4 ヘッドレスト
5 シートベルト
6 リトラクタ
7 固定部
8 第1エアバッグ群
9 第2エアバッグ群
10 ガス発生器
11 パイロ式バルブ
12 主ガス経路
13 第1ガス経路
14 第2ガス経路
15 バルブ
16 ECU
17 センサ
18 センサ
20 第1ガス発生器
21 第2ガス発生器
22 制御部
23 第1ガス経路
24 第2ガス経路
111 シリンダ
112 ガス入口
113 第1ガス出口
114 第2ガス出口
115 ピストン
116 内筒部材
117 点火器
118 固定部
図1
図2
図3
図4
図5