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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】模様付固形化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20240528BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240528BHJP
   A45D 40/16 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q1/02
A45D40/16 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020003188
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021109852
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 康彦
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-082818(JP,A)
【文献】特開昭63-014710(JP,A)
【文献】特開平11-029439(JP,A)
【文献】特開昭63-014709(JP,A)
【文献】特開2011-032181(JP,A)
【文献】特開昭52-024984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
B01J 2/00
A45D40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模様付固形化粧料を、粉体の圧縮成形法によらずに製造する模様付固形化粧料の製造方法であって、
前記模様付固形化粧料は、複数の固形化粧料を含み、
複数の固形化粧料の配置によって生じたモザイクタイル状の模様を有する模様面を有しており、
前記模様面において、前記モザイクタイル状の模様の個々のタイルに相当する部分を形成する固形化粧料を独立配置化粧料としたとき、
複数の前記独立配置化粧料は、それぞれ、隣接する他の固形化粧料としての独立配置化粧料との境界部に、粉体を含む境界層を備えており、
前記製造方法は、
前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料とを接合させる接合工程を具備し、
前記接合工程は、
前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料のうち少なくとも一方の表面に前記粉体が付着した状態で、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を隣接させる配置工程、及び
前記配置工程の前、後又は該配置工程と同時に、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を軟化させる軟化工程
を備える、模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項2】
模様付固形化粧料を、粉体の圧縮成形法によらずに製造する模様付固形化粧料の製造方法であって、
前記模様付固形化粧料は、複数の固形化粧料を含み、
複数の固形化粧料の配置によって生じた海島構造の模様を有する模様面を有しており、
前記模様面において、前記海島構造の模様の個々の島部分に相当する部分を形成する固形化粧料を独立配置化粧料としたとき、
複数の前記独立配置化粧料は、隣接する他の固形化粧料との境界部に、粉体を含む境界層を備えており、
前記製造方法は、
前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料とを接合させる接合工程を具備し、
前記接合工程は、
前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料のうち少なくとも一方の表面に前記粉体が付着した状態で、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を隣接させる配置工程、及び
前記配置工程の前、後又は該配置工程と同時に、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を軟化させる軟化工程
を備える、模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項3】
模様付固形化粧料の厚み方向において前記独立配置化粧料に隣接する厚み方向隣接固形化粧料を有し、前記独立配置化粧料と前記厚み方向隣接固形化粧料との境界部に、粉体を含む厚み方向境界層を備える、請求項1又は2に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項4】
前記独立配置化粧料の、平面視における平均面積が、0.5mm以上1500mm以下である、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項5】
前記境界層における前記粉体を構成する粒子の粒径D50が0.01μm以上500μm以下である、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項6】
前記境界層における前記粉体を構成する粒子間に、前記独立配置化粧料又は前記他の固形化粧料の少なくとも一部が入り込んでいる、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項7】
前記独立配置化粧料が、前記他の固形化粧料と色が異なる固形化粧料を含む、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項8】
前記独立配置化粧料及び前記他の固形化粧料が、油性成分を40質量%以上含む、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項9】
前記独立配置化粧料及び前記他の固形化粧料が、20℃で液状の油性成分を18質量%以上含む、請求項1~8の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項10】
前記独立配置化粧料及び前記他の固形化粧料の融点が50℃以上である、請求項1~の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項11】
前記境界層に含まれる粉体のJIS K5101-13-1:2004に準拠した吸油量が5ml/100g以上500ml/100g以下である、請求項1~10の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項12】
前記独立配置化粧料が、前記他の固形化粧料と組成が異なる固形化粧料を含む、請求項1~11の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法
【請求項13】
前記軟化工程においては、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料のうちの少なくとも一方の表面に前記粉体が付着した状態で、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を軟化させる、請求項1~12の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項14】
前記軟化工程を、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を加熱することにより行う、請求項1~13の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項15】
前記接合工程のうち少なくとも配置工程を、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を型又は容器内に収容することにより行う、請求項14の何れか1項に記載の模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項16】
前記軟化工程を、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を前記型又は容器内に収容した状態を維持しながら行う、請求項15に記載の模様付固形化粧料の製造方法。
【請求項17】
前記軟化工程を、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を前記型又は容器内に収容する前に行う、請求項15に記載の模様付固形化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は模様付固形化粧料に関する。また本発明は、模様付固形化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで知られている固形化粧料は一般に、ファンデーションのように粉体を圧縮成形して浅底のトレイ内に収容した形態や、口紅のように室温で固体の組成物を所定形状に成形した形態のものが多い。加熱により化粧料組成物を溶融させ、所望の形状とした型内において冷却させて固化させることによって、所望の形状の固形化粧料を得る方法も行われている。
【0003】
固形化粧料に色や組成の異なる複数種類の部位を設け、それにより固形化粧料の意匠性を高めたり、目的に応じて固形化粧料の使用する部位を変えるか又は複数の部位を混合して使用できるようにしたものも提案されている。
例えば、特許文献1には、表面に不規則な色模様が形成された色模様付化粧料が記載されており、その製造方法として、粒状に形成した色の異なる複数種類の粒状固形化粧料を凹部内に充填した後、その粒状固形化粧料の集合体を加熱し、一部を溶融させて不規則な色模様を現出させた後冷却させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-286714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の色模様付化粧料は、その製造過程において、粒状固形化粧料の集合体を加熱し、その一部を溶融させて不規則な色模様を現出させている。そのため、色が異なる複数種類の粒状固形化粧料を用いても、粒状固形化粧料どうしの境界部において、異なる色どうしが不規則に混ざり合ってしまう。そのため、色が異なる部分が明瞭に区切られており意匠性に優れた模様付の固形化粧料を製造することは困難であった。
【0006】
本発明の課題は、意匠性に優れた模様付固形化粧料、及び意匠性に優れた模様付固形化粧料を、粉体の圧縮成形法によらずに製造することのできる模様付固形化粧料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の固形化粧料を含んでおり、固形化粧料として、平面視において他の固形化粧料に隣接する独立配置化粧料を少なくとも1つ有しており、該独立配置化粧料と前記他の固形化粧料との境界部に、粉体を含む境界層を備える、模様付固形化粧料を提供することにより、前記の課題を解決したものである。
【0008】
本発明は、前記の模様付固形化粧料の製造方法であって、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料とを接合させる接合工程を具備し、前記接合工程は、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料のうち少なくとも一方の表面に前記粉体が付着した状態で、前記独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料を隣接させる配置工程、及び該配置工程の前、後又は該配置工程と同時に、前記独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を軟化させる軟化工程を備える、模様付固形化粧料の製造方法を提供することにより、前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の模様付固形化粧料によれば、複数の固形化粧料が隣接しつつ明瞭に区切られた状態で存在する、意匠性に優れた模様付固形化粧料が提供される。
本発明の模様付固形化粧料の製造方法によれば、意匠性に優れる模様付固形化粧料を、粉体の圧縮成形法によらずに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の模様付固形化粧料の一実施形態を示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1に示す模様付固形化粧料の平面図、図2(b)は、図2(a)の一部の拡大平面図、図2(c)は、図2(a)のII-II模式断面図である。
図3図3(a)ないし(d)は、本発明の模様付固形化粧料の製造方法における前半の工程である、粒状の固形化粧料の形成工程を示す模式図である。
図4図4は、本発明の模様付固形化粧料の製造方法における後半の工程である、粒状の固形化粧料の接合工程を示す模式図である。
図5図5は、本発明の模様付固形化粧料の他の実施形態を示す平面図であり、図2(a)相当図である。
図6図6は、本発明の更に他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の模様付固形化粧料は、複数の固形化粧料を含んでおり、少なくとも一つの面に、複数の固形化粧料の配置によって生じたモザイクタイル状の模様を有している。以下、複数の固形化粧料の配置によって生じたモザイクタイル状の模様を有する面を、模様面2uともいう。
モザイクタイル状の模様は、様々な形状・色・大きさの固形化粧料、又はそれらの組合せにより、多様に形成されうる。例えば、模様面における固形化粧料の形状は、四角形又は三角形等の多角形状、円形又は楕円形等の閉じた曲線形状、花・動物・建造物等の具象的な形状、不定形等であってよい。複数の固形化粧料により全体として、規則的または不規則的な幾何学的形状、例えばハニカム形状又はポリオミノ形状等が形成されていてもよい。また、模様面における複数の固形化粧料の色は、1種であってもよいし、2種以上の色が組み合わさっていてもよい。また、模様面における複数の固形化粧料の大きさは、互いに同じであってもよいし、異なる大きさのものが組み合わさっていてもよい。
【0012】
「固形化粧料」とは、室温(25℃)において固体であり、室温よりも高い温度、例えば40℃~150℃に加熱したときに軟化又は溶融し得る性質を有する化粧料のことである。例えば油剤を含む油性化粧料や、寒天ゲルのような水性化粧料が、本発明にいう固形化粧料に包含される。粉体を圧縮成形してなる化粧料は、本発明にいう固形化粧料から除外される。
【0013】
本発明の模様付固形化粧料は、模様面2uに、平面視において他の固形化粧料に隣接する独立配置化粧料を少なくとも1つ、例えば複数有している。平面視とは、模様付固形化粧料における模様面2uを、その法線方向から視た状態を意味する。図1に示すように、模様付固形化粧料2が、不透明な容器3等の凹部に収容されている場合は、通常、該凹部の開口部側を向いた上面が、模様面2uである。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態に係る模様付固形化粧料2が示されている。図1に示す模様付固形化粧料2は、固形化粧料1として、平面視において他の固形化粧料に隣接する独立配置化粧料1A,1Bを複数有している。模様付固形化粧料2においては、図2(a)に示すように、模様面2uに位置する全ての固形化粧料1が、他の固形化粧料に隣接する独立配置化粧料1A,1Bである。独立配置化粧料は、模様面2uにおいて、モザイクタイル状の模様における個々のタイルに相当する部分を形成する固形化粧料であり、後述する粉体付きの粒状固形化粧料によって形成された部分であってよい。
【0015】
本発明の模様付固形化粧料は、独立配置化粧料と隣接する他の固形化粧料との境界部に、粉体を含む境界層を備えている。模様付固形化粧料2の模様面2uに位置する一つの独立配置化粧料1Pに着目して説明すると、独立配置化粧料1Pは、図2(b)に示すように、6個の固形化粧料1A,1Bと隣接している。そして、模様付固形化粧料2は、その独立配置化粧料1Pと、その周囲に位置する6個の固形化粧料1A,1Bのそれぞれとの間に、粉体11を含む境界層22を備えている。図1に示す模様付固形化粧料2においては、図2(a)に示すように、独立配置化粧料1Pを含む総ての固形化粧料1A,1Bが独立配置化粧料であり、独立配置化粧料1P以外の独立配置化粧料とそれに隣接する固形化粧料との間にも、独立配置化粧料1Pの場合と同様の態様で、粉体11を含む境界層22が存在している。粉体11を含む境界層22は、一部又は全部の独立配置化粧料について、独立配置化粧料とそれに隣接する少なくとも一つの固形化粧料との間に存在することが好ましく、一部又は全部の独立配置化粧料とそれと隣接する2以上の固形化粧料との間に存在することが好ましく、一部又は全部の独立配置化粧料とそれと隣接する全ての固形化粧料との間に存在することが更に好ましく、一部又は全部の独立配置化粧料について独立配置化粧料の周囲をその全周に亘って囲むように形成されていることが更に好ましい。
【0016】
本発明の模様付固形化粧料によれば、平面視において隣接する個々の固形化粧料1間に、粉体11を含む境界層22を備えることによって、模様面2uに、個々の固形化粧料1からなる部分が、粉体11を含む境界層22によって明瞭に仕切られた状態となって表れるため、モザイクタイル状の意匠性に優れた模様面を有するものとなっている。
【0017】
また図2(a)に示す模様付固形化粧料2のように、他の複数の固形化粧料と隣接する独立配置化粧料1A,1Bを設けた構成とすることにより、図5に示すように、独立配置化粧料1Cに隣接する固形化粧料が連続相を形成する場合に比して、模様面2uに表れるモザイクタイル状の模様をより多様性に富んだものとすることができる。
本発明の模様付固形化粧料は、模様の多様性の向上等の観点から、図2(a)に示す独立配置化粧料1Pのように周囲を他の複数の固形化粧料に囲まれた独立配置化粧料を、模様面2uに有することが好ましく、そのような独立配置化粧料を模様面2uに複数有することが更に好ましい。
【0018】
本発明の模様付固形化粧料に含まれる固形化粧料は、全てが同一組成の固形化粧料であってもよく、異なる組成の複数種類の固形化粧料でもよい。図2に示す模様付固形化粧料2は、相互に組成が異なり色が異なる複数種類の固形化粧料1A,1Bを含んでいる。より具体的には、相互に組成が異なり色が異なる第1の固形化粧料1Aと第2の固形化粧料1Bとを、それぞれ複数含んでいる。
このように、模様付固形化粧料2が、色が異なる複数種類の固形化粧料を含んでいると一層、意匠性に優れたものとなる。なお、色が異なるとは、通常の使用者にとって視覚的に色の印象が異なることを意味しており、組成が異なることで色が異なるほか、透明感(透明又は半透明である)等の質感が異なることによって異なる色の印象を与えることを含む。例えば、一方が色を有し、他方が無色又は透明(若しくは半透明)であることも、色が異なる態様の1つである。
また、模様付固形化粧料2が、組成が異なる複数種類の固形化粧料を含んでいると、材料の自由度が向上し、使用感や意匠性等を向上させることが容易である。模様付固形化粧料2は、組成が異なる固形化粧料を3種類以上含んでいてもよく、含まれる固形化粧料のなかに組成が同じ固形化粧料が存在しなくてもよい。組成が異なる固形化粧料には、配合された顔料のみが異なり他の組成が同一のものや、配合された顔料は同じであるが他の組成が異なるものも含まれる。
【0019】
また本発明の模様付固形化粧料は、図5に示すように、模様面2uに位置する、独立配置化粧料1Cと、該独立配置化粧料1Cに隣接する他の固形化粧料1Nとが、該他の固形化粧料1Nを連続相とする海島構造を形成しているものであってもよい。その場合であっても、独立配置化粧料1Cと固形化粧料1Nとの境界部に、粉体を含む境界層22を有することで、意匠性に優れた模様を有する模様面2uを形成可能である。
【0020】
また本発明の模様付固形化粧料は、図2(c)に示す模様付固形化粧料2のように、厚み方向Zにおいて、独立配置化粧料1A,1Bに隣接する厚み方向隣接固形化粧料1Dを有していてもよく、この場合、該独立配置化粧料1A,1Bのそれぞれと厚み方向隣接固形化粧料1Dとの境界部に、粉体を含む厚み方向境界層23を備えることが好ましい。
図2(c)に示す容器3が透明である場合や、図6に示すように、成形型5から取り出して製品とする場合、厚み方向に、異なる色や質感等を有する複数の固形化粧料を配置することで、主たる模様面2u以外の面2wにも模様を有する、すなわち立体的に模様面を有する、一層意匠性に優れた模様付固形化粧料が得られる。
【0021】
本発明の模様付固形化粧料における模様面に表れている独立配置化粧料1A,1B,1Cは、意匠性、粉体付きの粒状固形化粧料を用いて模様付固形化粧料2を製造する場合の製造のしやすさ等の観点から、平面視における平均面積が、好ましくは0.5mm以上であり、更に好ましくは1mm以上であり、一層好ましくは1.5mm以上であり、また好ましくは1500mm以下であり、更に好ましくは900mm以下であり、一層好ましくは400mm以下である。また独立配置化粧料1A,1B,1Cは、平面視における平均面積が好ましくは0.5mm以上1500mm以下であり、更に好ましくは1mm以上900mm以下であり、一層好ましくは1.5mm以上400mm以下である。「平均面積」とは、独立配置化粧料が1つである場合は、該独立配置化粧料の平面視における面積であり、独立配置化粧料が複数ある場合には、該独立配置化粧料の平面視における面積の算術平均値を意味する。
【0022】
境界層22,23に使用する粉体としては、固形化粧料どうしの融合が効果的に防止されるような大きさの粒子のものが好適に用いられる。例えば粉体を構成する粒子の大きさを、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表した場合、D50は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、1μm以上であることが一層好ましい。この大きさの粉体を用いることで、隣接する固形化粧料1どうしの融合を効果的に抑制可能な境界層22,23を形成し易くなる。また、D50は500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、160μm以下であることが一層好ましい。この大きさの粉体を用いることで、固形化粧料1に対して粉体が付着しやすくなるか、又は固形化粧料1どうしの接着性が確保されて模様付固形化粧料2の一体性が向上する。特にD50は0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.1μm以上300μm以下であることが更に好ましく、1μm以上160μm以下であることが一層好ましい。
【0023】
隣接する固形化粧料1どうしの接着性を確保しつつそれらの融合を効果的に抑制可能な境界層22,23が形成され易くなる観点から、粉体はその吸油量が5ml/100g以上であることが好ましく、15ml/100g以上であることが更に好ましく、20ml/100g以上であることが一層好ましい。また粉体の吸油量は、固形化粧料1の油性成分が過度に粉体に吸収されないようにする観点から、500ml/100g以下であることが好ましく、400ml/100g以下であることが更に好ましく、350ml/100g以下であることが一層好ましい。吸油量はJIS K5101-13-1:2004に準拠して測定される。
【0024】
境界層22,23に使用する粉体としては、化粧料に一般的に用いられるものと同様のものを特に制限なく用いることができる。例えばシリカ、マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス末、硫酸バリウム、カオリン、ベントナイト、ヘクトライト、ゼオライト、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びタルク等の無機粉体;ナイロン、ポリエチレン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー等のシリコーンエラストマー、ポリメタクリル酸メチル、ラウロイルリシン、シルクパウダー、セルロース末、及び各種ワックスパウダー等の有機粉体などの体質顔料:マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス、シリカ、アルミナ、タルク等の板状粉体等の表面を酸化チタン、酸化鉄、酸化ケイ素、紺青、酸化クロム、酸化スズ、水酸化クロム、金、銀、カルミン、赤色202号や黄色4号等の有機顔料等の着色剤で被覆したもの等、及びポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層末、ポリエチレンテレフタレート・アルミ蒸着末、ポリエチレンテレフタレート・金蒸着積層末等のフィルム原反を任意形状に断裁したもの等の光輝顔料:酸化チタン、酸化亜鉛、黄酸化鉄、ベンガラ、黒酸化鉄、紺青、群青、酸化クロム、水酸化クロム等の金属酸化物;マンガンバイオレット、チタン酸コバルト等の金属錯体;更にカーボンブラック等の無機顔料;赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色227号、赤色228号、赤色230号、赤色401号、赤色405号、赤色505号、橙色203号、橙色204号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色401号、青色1号、青色404号等の合成有機顔料;β-カロチン、カラメル、パプリカ色素等の天然有機色素などの着色顔料などを用いることができる。これらの粉体は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明の模様付固形化粧料を構成している固形化粧料1は、室温(25℃)において固体であり、且つ融点が好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは55℃以上であり、一層好ましくは60℃以上である。固形化粧料1がこの温度以上の融点を有することで、隣接する固形化粧料1どうしの融合(による意匠性低下)を効果的に抑制することができる。また、固形化粧料1はその融点が好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは120℃以下であり、一層好ましくは110℃以下である。固形化粧料1がこの温度以下の融点を有することで、隣接する固形化粧料1どうしの接着性をより容易に確保できる一方、固形化粧料1を短時間で溶解することができ、製造を容易化することができる。特に、固形化粧料1の融点は、好ましくは50℃以上150℃以下であり、更に好ましくは55℃以上120℃以下であり、一層好ましくは60℃以上110℃以下である。
【0026】
固形化粧料1は通常複数の物質を含む組成物から構成されている。この場合、固形化粧料1の融点とは、医薬部外品原料規格における一般試験法の第1法、第2法、又は第3法のいずれかにより測定される。いずれの方法を採用するかは、大きくは融点によって選択され、融点が80℃を超えるような高い場合には第1法を、これより融点が低い場合には第2法を、更に融点が低い場合には第3法を用いることができる。
【0027】
固形化粧料1は好ましくは、1種又は2種以上の油性成分からなる連続相を有する。場合によっては、固形化粧料1は連続相中に分散した顔料等の粉体成分を含む。
油性成分としては、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、合成ワックス等の合成炭化水素;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、サンフラワーワックス、水添ホホバ油、モクロウ等の植物系ワックス;ミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;シリコーンワックス、合成ミツロウ、合成モクロウ等の合成ワックス等のワックス;パルミチン酸デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸イヌリン、12-ヒドロキシステアリン酸、ジブチルラウロイルグルタミド、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ポリアミド樹脂等の油性ゲル化剤;ワセリン、ビニルレザーワックス、ヘキサ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、水添パーム油、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、オレイン酸フィトステリル、(エチルヘキサン酸/ステアリン酸/アジピン酸)グリセリル、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)、硬質ラノリン、還元ラノリン、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2等のペースト油;流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ミネラルオイル、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、ポリイソブチレン、ポリブテン、水添ポリイソブテン、水添ポリデセン等の直鎖又は分岐の炭化水素油;イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸トリシクロデカンメチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸イソブチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸2-ヘキシルデシル、コハク酸ジ2-へチルヘキシル、コハク酸ビスエトキシジグリコール、ラウリン酸ヘキシル、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸プロパンジオール、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、テトライソステアリン酸ジグリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、リンゴ酸オクチルドデシル、グリセリン脂肪酸エステル、ホホバ油、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ2-ヘチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシステアリン酸エチルヘキシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、トリメリト酸トリトリデシル、テトライソステアリン酸ジペンタエリスリチル、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、メトキシケイヒ酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ダイマー酸ジイソプロピル、炭酸プロピレン等のエステル油;ラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、トリメチルペンタフェニルトリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油;フルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルシリコーン、フッ素変性シリコーン等のフッ素油;フェノキシエタノール等が挙げられる。これらの油性成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
固形化粧料1(独立配置化粧料及び他の固形化粧料)は油性成分を40質量%以上含むことが、模様付固形化粧料2の使用感の点から好ましい。この観点から、固形化粧料1は油性成分を更に好ましくは50質量%以上、一層好ましくは55質量%以上含む。他方、固形化粧料1が油性成分を40質量%以上含むと、隣接する固形化粧料1どうしが接着しやすい反面、互いに融合しやすくなる。しかしながら、本発明においては、固形化粧料1どうしの境界部に、粉体11を含む境界層22,23を形成することにより、固形化粧料1どうしが互いの境界面において不規則に混ざり合うことが防止される。色、質感、又は使用感を調整する観点から、固形化粧料1は油性成分を好ましくは100質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、一層好ましくは98質量%以下含む。特に固形化粧料1は、油性成分を好ましくは40質量%以上100質量%以下、更に好ましくは50質量%以上99質量%以下、一層好ましくは55質量%以上98質量%以下含む。
【0029】
固形化粧料1(独立配置化粧料及び他の固形化粧料)は20℃で固体状である油性成分(例えば前記ワックス)を含むことが、固形化粧料1の保形性を高める観点から好ましい。固形化粧料1は、20℃で固体状である油性成分を3質量%以上含むことが保形性の観点から好ましく、20℃で固体状である油性成分を30質量%以下含むことが使用感の観点から好ましい。また、固形化粧料1は20℃で液状である油性成分(液状成分)を含むことが、固形化粧料1どうしの接着性を向上し、また模様付固形化粧料2の使用感を高める観点から、好ましい。この観点から、固形化粧料1は20℃で液状である油性成分を好ましくは18質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、一層好ましくは35質量%以上含む。模様付固形化粧料2の使用感を高める観点から、固形化粧料1は20℃で液状である油性成分を好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、一層好ましくは93質量%以下含む。特に固形化粧料1は、20℃で液状である油性成分を好ましくは18質量%以上97質量%以下、更に好ましくは25質量%以上95質量%以下、一層好ましくは35質量%以上93質量%以下含む。
【0030】
油性成分が20℃で液状であるか否かは、各成分の安全データシート(SDS)・物理的状態に記載されている内容によって判定できる。固形化粧料1に20℃で液状である油性成分が上述の範囲で含まれていると、固形化粧料1の表面に該油性成分が存在しやすくなり、そのことに起因して固形化粧料1どうしが融合しやすくなってしまうという懸念がある。しかし本発明の模様付固形化粧料2では、固形化粧料1どうし間に、粉体11を含む境界層22,23が形成されているため、固形化粧料1の表面に上記液状の油性成分が存在しても、固形化粧料1どうしが互いの境界面において不規則に混ざり合うことが防止される。それにより、モザイクタイル状の模様を有する意匠性に優れた外観が得られる。
【0031】
固形化粧料1のうち境界層を除いたコア部に含まれる粉体成分としては、化粧料に従来用いられている各種のもの等を特に制限なく用いることができ、例えば着色顔料、光輝顔料及び体質顔料等の顔料を用いることができる。粉体成分は無機粉体でもよく、あるいは有機粉体でもよい。無機粉体と有機粉体とを併用してもよい。粉体成分を構成する粒子の形状に特に制限はなく、例えば球状、多面体状、フレーク状、紡錘状、繊維状、不定形、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0032】
固形化粧料1(独立配置化粧料及び他の固形化粧料)の硬度は、本発明の模様付固形化粧料2の使用感等に影響を与える要素の一つである。この観点から、また固形化粧料1どうしの接着性を向上する観点から、固形化粧料1の硬度は500g以下であることが好ましく、350g以下であることが更に好ましく、250g以下であることが一層好ましい。一方、固形化粧料1の硬度を好ましくは0.5g以上、更に好ましくは5g以上、一層好ましくは15g以上とすることで、固形化粧料1どうしの意図しない融合を抑制できる。これらの観点から、固形化粧料1の硬度は0.5g以上500g以下であることが好ましく、5g以上350g以下であることが更に好ましく、15g以上250g以下であることが一層好ましい。固形化粧料1の硬度は、固形化粧料1のうち境界層22,23を除いたコア部の硬度と同視できる。コア部の硬度は、その原料となる剤(組成物)を115℃にて加熱溶解し、それを樹脂製軟膏壺(直径30mm、高さ14mm)に高さ10mmまで充填した後、20℃で2時間冷却固化し、30℃で6時間以上静置した後でレオテック社製レオメーターを用いて、直径φ2mmの冶具にてtable speedが2mm/sの速さで冶具を深さ2mmまで針入させた時の最大値を読み取ることによって測定できる。
【0033】
固形化粧料1どうしの接着を強固なものとする観点から、境界層22,23における粉体を構成する粒子間に、境界層22,23を介して隣り合う独立配置化粧料又は他の固形化粧料の一部が入り込んでいることが好ましい。これにより、隣り合う固形化粧料1どうしの密着性が高まり、模様付固形化粧料2としての保形性が向上する。特に固形化粧料1の油性成分が適度に粒子間に入り込んでいることが好ましい。このような状態になっているか否かの確認には、例えば光学顕微鏡観察を用いることができる。
【0034】
次に、本発明の模様付固形化粧料の好適な製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、独立配置化粧料の粒状の原料としての粒状固形化粧料と、他の固形化粧料の原料とを接合させる接合工程を具備する。また、該接合工程は、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料のうち少なくとも一方の表面に粉体が付着した状態で、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料を隣接させる配置工程、及び該配置工程の前、後又は該配置工程と同時に、独立配置化粧料の粒状の原料と他の固形化粧料の原料の少なくとも一方を軟化させる軟化工程を備える。
接合工程における配置工程の一例として、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料の両方に粉体が付着した状態で、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料を隣接させる例について説明する。
先ず、予備工程として独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料に粉体が付着した粉体付粒状固形化粧料を、例えば以下のようにして製造する。
粉体付粒状固形化粧料の製造工程は、製造の対象である固形化粧料1の原料を複数の粒状に分割する工程を備えてよい。「分割」とは、固形化粧料1の原料のバルク体をそれよりも小さな複数の単位に分けることをいう。化粧料の原料を分割することで得られる粒状体の大きさは、固形化粧料1の大きさと実質的に同じである。つまり粒状体の大きさは、粒状体を平面上に載置したときの平均投影面積で表して、固形化粧料1の平均投影面積の範囲であることが好ましい。「平均投影面積」とは、10個以上の粒状体(又は固形化粧料)を対象として、該粒状体(又は固形化粧料)が、水平面上において最も安定した状態で載置された状態において該水平面に投影される面積の算術平均値を意味する。
【0035】
化粧料の原料を分割するには種々の手法を採用することが可能である。分割の手法としては例えば以下の(a)ないし(c)が挙げられる。
(a)原料が固形の塊状のものである場合には、公知の粉砕機等を用いて塊状の原料を粒状に分割することができる。
(b)原料が軟化可能なものである場合には、固形の原料を例えば加熱して軟化させ、軟化した該原料を所定の手段を用いて分割することができる。
(c)原料が液状化可能なものである場合には、固形の原料を軟化させるだけでなく液状化させ、液状化した原料を複数の液滴に分割することができる。つまり本発明において「液状化」は「軟化」の一態様である。
【0036】
上述の(c)の手法を採用する場合、液状化の具体的な方法としては以下の(c1)ないし(c3)が挙げられる。
(c1)化粧料の原料が熱によって溶融可能である場合には、該原料を加熱して溶融させて液状化させる。
(c2)化粧料の原料が溶媒に溶解可能である場合には、該原料を溶媒、例えば揮発性有機溶媒に溶解させて溶液となす。
(c3)化粧料の原料が外力によって結晶構造が変化し液状化可能である場合、例えばカードハウス構造、網目構造、アルキル鎖の結晶構造、又は分子同士の水素結合を有する油性固形物のような場合には、混練等によって外力を加えることで結晶構造を破壊して液状化させる。
【0037】
上述の(a)ないし(c)の手法のうち、原料が例えば油剤を含む固形物である場合には上述の(b)又は(c)の手法を採用することが簡便である。(c)の手法を採用する場合には、上述の(c1)ないし(c3)のうち、(c1)の手法を採用することが簡便である。
【0038】
上述した手法を採用して化粧料の原料を分割することで複数の粒状体が得られる。この粒状体は固体であり得るか又は液体であり得る。本製造方法は、この粒状体の表面に粉体を付着させる工程を備える。図3(a)及び(b)には粒状体10に粉体11を付着させる工程が示されている。
【0039】
図3(a)に示すとおり、容器12内には粉体11が充填されている。粉体11は、例えばアンカー翼等の撹拌手段(撹拌装置)13によって撹拌されるようになっている。粉体11の直上には、化粧料の原料の分割装置14が配置されている。分割装置14は、例えば化粧料の固形原料を粉砕する装置、化粧料の固形原料を軟化させ、軟化した該原料を分割する装置、又は化粧料の固形原料を加熱によって溶融させ液状化し、液状化した原料を液滴に分割する装置であり得る。分割装置14によって複数の粒状体10に分割された化粧料の原料は、撹拌手段13によって流動状態になっている粉体11中に供給される。
【0040】
図3(b)に示すとおり、粒状体10が粉体11に供給された後も粉体11の撹拌を引き続き継続する。粉体11の撹拌によって粒状体10は粉体中への分散が促進され、粒状体10の表面に粉体11が付着する。
【0041】
上述の(a)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させる時点において、粒状体10は硬化している。
上述の(b)又は(c)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させる時点において、粒状体10は硬化していてもよく、あるいは硬化していなくてもよい。換言すれば、化粧料の原料を軟化させ分割した後のいずれかの工程において、分割によって得られた粒状体10を硬化させることができる。化粧料の原料を軟化させる場合における「硬化」とは、軟化した化粧料の原料が、軟化する前の固さに向けて戻ることをいう。したがって、化粧料の固形原料を加熱によって溶融させ液状化させ、液状化した原料を液滴に分割してなる粒状体を「固化」させることは「硬化」の一態様である。
【0042】
粒状体10を硬化させる手段は、粒状体10の状態に応じて適切に選択すればよい。
例えば化粧料の原料を加熱によって軟化させた後に分割を行い粒状体10を得た場合には、粒状体10を冷却することで粒状体10を硬化させることが可能である。
化粧料の原料を加熱によって溶融させて液状化させ、液状化した原料を液滴に分割して粒状体を得た場合にも、粒状体10を冷却することで粒状体10を硬化させる(固化させる)ことが可能である。
化粧料の原料を例えば揮発性有機溶媒に溶解させて溶液となし、該溶液を液滴に分割して粒状体10を得た場合には、粒状体10から揮発性有機溶媒を揮発させて除去することで固形分を残留させ、粒状体10を硬化させることが可能である。
化粧料の原料が例えばカードハウス構造、網目構造、アルキル鎖の結晶構造、又は分子同士の水素結合を有する油性固形物のような場合には、原料に対して混練等の外力を加えることで流動体となっている粒状体10を、加熱により軟化、又は融解させて液状化させた後に冷却することで、硬化させることが可能である。
【0043】
粒状体10を硬化させたものが、上述のコア部である。つまり、上述の(b)又は(c)の手法を用いる場合において粒状体10とは、化粧料の原料を分割して得られたものであり、且つ硬化する前の状態のものである。したがって粒状体10には、溶融液や溶液の状態のものも包含される。
なお、上述の(a)の手法を用いる場合において、粒状体10とは、化粧料の原料を分割して得られたものであり、且つ硬化した状態のものである。
【0044】
粒状体10を硬化させるタイミングと、粒状体10の表面に粉体11を付着させるタイミングとは、粒状体10の性質等に応じて適切に設定が可能である。例えば(i)未硬化の状態にある粒状体10の表面に粉体11を付着させた後に、粒状体10を硬化させることができる。あるいは(ii)粒状体10を硬化させた後に、粒状体10の表面に粉体11を付着させることができる。あるいは(iii)未硬化の状態にある粒状体10の表面に粉体11を付着させつつ、粒状体10を硬化させることができる。
【0045】
上述した(i)ないし(iii)の態様のうち、(i)又は(iii)の態様を採用すると、粒状体10の内部へ粉体11が入り込みやすくなるので、粉体11を粒状体10へ比較的強固に付着させることが可能となる。一方、(ii)の態様を採用すると、粒状体10の内部へ粉体11が入り込み難くなるので、粒状体10への粉体11の付着は比較的弱いものとなる。
【0046】
以上の工程によって粒状体10の表面に粉体11を付着させることができる。上述の(a)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させることで、粉体付の粒状固形化粧料1’が得られる。上述の(b)又は(c)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させ、且つ粒状体10を硬化させることで、粉体付の粒状固形化粧料1’が得られる。粒状固形化粧料1’が得られたら、その後、付加的な工程として固形化粧料の冷却を行うことができる。冷却を行うことで粉体の付着を一層確実なものとすることができる。冷却は例えば自然冷却であってもよく、あるいは強制冷却であってもよい。
自然冷却する場合、コア部の表面に粉体が付着してなる化粧料、つまり固形化粧料を室温下に静置すればよい。
強制冷却する場合には、固形化粧料に気体を吹き付けたり、固形化粧料を冷蔵庫内に載置したり、固形化粧料を冷媒に接触させたりすればよい。
【0047】
粒状体10の表面に粉体11を付着させた後、固形化粧料の冷却に先立ち、又は冷却後に、又は冷却と同時に、コア部の表面に固着していない粉体11を除去することができる。コア部の表面に固着していない粉体とは、固形化粧料を例えば搬送するときに加わる振動等の外力によってコア部から脱落する程度にコア部に弱く固着しているか、又はコア部に全く固着していない粉体のことである。
【0048】
粉体の除去工程の一例が図3(c)及び(d)に示されている。詳細には、図3(c)に示すとおり、上方が開口した受け容器15を用意し、受け容器15の開口部をフィルタ部材16で覆う。フィルタ部材16としては、粉体11を通過させるが、固形化粧料1は通過させない程度の目開きを有する篩を用いることができる。フィルタ部材16を受け容器15に設置した状態下に、複数の固形化粧料1が分散してなる粉体11をフィルタ部材16上に供給する。これによってフィルタ部材16による篩がけが行われ、図1(d)に示すとおり固形化粧料1がフィルタ部材16上に残存するとともに、粉体11がフィルタ部材16を通過して受け容器15内に集められる。このようにして粉体11が除去される。
【0049】
なお、固形化粧料として、上述のように分割して得られたものをそのまま用いるのではなく、型を用いて成形したものを用いてもよい。例えば、内表面に粉体が存在する型を用意し、この型内に軟化させた固形化粧料の原料を供給してこれを硬化させることで、型の形状に沿った所望の形状の粒状固形化粧料を形成してもよい。この場合、型の内表面の粉体が、粒状固形化粧料の表面に付着する。
【0050】
以上の方法により得られた粉体付きの粒状の固形化粧料1’は、図4に示すように、独立配置化粧料の粒状の原料として使用される。また、同一のバルク体、又は異なる組成若しくは同一の組成の他のバルク体を用いて同様にして製造された粉体付きの粒状の固形化粧料1’は、独立配置化粧料と隣接させる他の固形化粧料として使用される。
そして、配置工程として、独立配置化粧料の粒状の原料と前記他の固形化粧料の原料は、加熱可能な容器3や型5に収容され、次いで、軟化工程として、それらは、適宜の加熱装置により加熱される。図4に示す加熱装置4は、例えば内部に電熱線ヒーターが内蔵されており、所定の温度に加熱可能である。
【0051】
独立配置化粧料の粒状の原料及び前記他の固形化粧料の原料は、所定の温度に加熱されて一方又は両方が軟化した状態で互いに押し付けられたり、所定の温度に加熱されて一方又は両方が溶融した状態で互いに接触したりすることによって、接合されて一体化される。これにより、模様付固形化粧料2が得られる。なお、上述の一方又は他方を軟化させる工程は、独立配置化粧料の粒状の原料と他の固形化粧料の原料の両方を加熱することにより行ってもよいし、いずれか一方を加熱することにより行ってもよい。
【0052】
図5に示す模様付固形化粧料は、例えば、前記他の固形化粧料の原料として、粒状とされていないバルク体を、加熱可能な容器3や型5に収容して軟化させた状態で、独立配置化粧料の粒状の原料を載置し、更に加熱することによって得られる。なお、独立配置化粧料の粒状の原料の表面に粉体を付着させる代わりに、又はこれとともに、粒状とされていないバルク体の表面に粉体を付着させることとしてもよい。
【0053】
図6に示すように、所望の形状の凹部を有する型5や容器を使用することによって、所望の平面視形状や所望の立体形状を有する模様付固形化粧料を製造することも可能である。また、組み合わさることで内部に凹部を形成する複数の割り型を使用して、所望の立体形状を有する模様付固形化粧料を製造してもよい。この場合、例えば、独立配置化粧料の粒状の原料等を供給する前に、凹部の内表面に粉体が存在する状態としておけば、凹部の内表面に沿って成形される模様付固形化粧料の表面に粉体が付着する。これにより、凹部から模様付固形化粧料を取り出しやすくなり、又は模様付固形化粧料が他の物と結合することが抑制される。
【0054】
固形化粧料どうしの不規則な溶融混合をより効果的に防止するためには、固形化粧料の原料を軟化させる程度や溶融させる程度をコントロールすればよい。固形化粧料どうしの不規則な溶融混合を防止する観点から、固形化粧料の原料の加熱温度は、固形化粧料の融点に対して、5℃から50℃高い温度であることが好ましく、10℃から40℃高い温度であることがより好ましい。
【0055】
本実施態様の製造方法によれば、固形化粧料の表面に付着させた粉体により、模様付固形化粧料において、固形化粧料どうしの境界部に、粉体を含む境界層を容易に形成させることができ、上述したモザイクタイル状の模様面を有する模様付固形化粧料を効率的に製造することができる。
接合工程のうち配置工程では、固形化粧料の原料の表面に粉体が付着した状態で原料を隣接させることで、容易に、粉体を含む境界層を形成しつつ、各固形化粧料を配置して任意の模様面を形成することができる。また、各固形化粧料の配置変更による模様面の変更も容易であり、模様付固形化粧料を簡便に製造することができる。
接合工程のうち軟化工程では、固形化粧料の原料の表面に粉体が付着した状態でいずれかの原料を軟化させることで、容易に、粉体を含む境界層を形成しつつ、原料同士を接合させることができる。原料を加熱する場合には、簡便に、原料を軟化させることができる。
また接合工程のうち少なくとも配置工程は、上述のように、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料を型又は容器内に収容することにより行うことが、成形性や所望の形状への加工性等の観点から好ましい。
前記軟化工程は、上述のように、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料を型又は容器内に収容した状態を維持しながら行うことが、成形性や所望の形状への加工性等の観点から好ましい。
なお、前記の軟化工程は、独立配置化粧料の粒状の原料及び他の固形化粧料の原料を型又は容器内に収容する前に行うこともできる。このように収容前に予め原料を軟化させることで、型又は容器内への原料の収容の容易化を図ることができる。
【0056】
本発明の模様付固形化粧料は、化粧筆や化粧料パフ、指等の塗布手段に付着させ、該塗布手段を用い口唇、瞼、頬、手の平や甲等の任意の部位に付着して使用することができるし、塗布手段を用いず直接対象部位に使用することもできる。模様付固形化粧料を塗布手段を用いて使用する際には、1つの固形化粧料を塗布手段で拭き取り、それを肌に塗布しても良いし、所望により2以上の固形化粧料を纏めて拭き取り、それを肌に塗布しても良い。上述の化粧方法を首尾よく効率的に行うことを目的として、本発明の模様付固形化粧料と、模様付固形化粧料の収容が可能な容器と、該固形化粧料を肌に塗布するための塗布具とを有する化粧料セットを用いることが好ましい。
【0057】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に制限されない。例えば、模様付固形化粧料の模様面2uは、平坦な面に限られず、凸曲面や凹凸を有する面、所望の形状に突出した部分を有する面等であってもよい。また模様付固形化粧料内において相隣接する固形化粧料1は隙間なく密着していなくてもよく、相隣接する固形化粧料1どうしが一部に隙間を有する状態で互いに接触していてもよい。
また上述の実施形態においては粉体11の撹拌手段13としてアンカー翼を例示したが、粉体11中での粒状体10の形状が損なわれない限りアンカー翼以外の撹拌手段を用いてもよい。また振動の付与により粉体11を撹拌してもよい。また、粉体11を噴霧することで、固形化粧料の原料の表面に粉体11を付着させてもよい。上述の実施形態においては、粒状の固形化粧料1’と粉体11との分離に用いるフィルタ部材16として篩を例示したが、篩以外のフィルタ部材を用いて粒状の固形化粧料1’と粉体11とを分離してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 固形化粧料
2 模様付固形化粧料
2u 模様面
1A,1B,1C 独立配置化粧料
22 境界層
23 厚み方向境界層
10 固形化粧料の原料(粒状体)
11 粉体
12 容器
13 撹拌手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6