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  • 特許-シールド部材及びシールド電線 図1
  • 特許-シールド部材及びシールド電線 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】シールド部材及びシールド電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/18 20060101AFI20240528BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20240528BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20240528BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01B7/18 D
H01B7/00
H05K9/00 Q
H02G3/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020031116
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136139
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】本江 聡子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207760(JP,A)
【文献】特開2001-291435(JP,A)
【文献】特表2004-531898(JP,A)
【文献】特開2015-115125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/00
H05K 9/00
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の繊維が所定の編み方で複数本編み込まれて筒状に形成された筒状部と、
導電性の繊維からなり、全てが筒軸方向と略平行に、前記筒状部と共に編み込まれ、又は、前記筒状部に縫い付けられて延在したシールド部と、を備え、
前記筒状部の筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能とされており、
前記シールド部は、全ての導電性の繊維が筒軸方向と略平行に延在している
ことを特徴とするシールド部材。
【請求項2】
請求項1に記載のシールド部材と、
前記シールド部材の内側に配置された電線と、
を備えることを特徴とするシールド電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド部材及びシールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属線を編み込んで筒状に形成された編組をシールド部材として用いることが知られている。しかし、金属線からなるシールド部材は軽量化等の点で問題がある。そこで、繊維に対してめっきを施しためっき繊維を編み込んで筒状に形成された編組をシールド部材として用いることが提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-195304号公報
【文献】特開2012-174336号公報
【文献】特開2013-110053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載のようなシールド部材は、編組にコシがないため筒を広げる方向に開き難く、編組内に電線を通す作業がやり難いという問題がある。また、編組に自由度がないことから、電線の配索時に電線を曲げる際に曲げRに制限があった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、繊維を用いて軽量化を図りつつも、編組内に電線を通す作業のやり易さの向上と曲げに対する自由度の向上とを図ることができるシールド部材及びシールド電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシールド部材は、絶縁性の繊維が所定の編み方で複数本編み込まれて筒状に形成された筒状部と、導電性の繊維からなり、全てが筒軸方向と略平行に、前記筒状部を構成する前記絶縁性の繊維と共に編み込まれ、又は、前記筒状部に縫い付けられて延在したシールド部と、を備え、前記筒状部の筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能とされており、前記シールド部は、全ての導電性の繊維が筒軸方向と略平行に延在している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁性の繊維で形成される筒状部と導電性の繊維で形成されるシールド部とで構成されるため、導電性の繊維によってシールド機能を発揮しつつも全体を繊維で形成して軽量化を図ることができる。また、筒状部が所定の編み方で編み込まれ、全体として筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能とされているため、拡径によりシールド部材内に電線を通す作業のやり易さを向上できると共に、拡径可能な柔軟性により曲げに対する自由度の向上を図ることができる。従って、繊維を用いて軽量化を図りつつも、編組内に電線を通す作業のやり易さの向上と曲げに対する自由度の向上とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るシールド電線の構成を示す斜視図である。
図2図1に示したシールド部材の拡大平面図である。
図3図1に示したシールド部材を示す構成図であって、(a)は拡径前の様子を示し、(b)は拡径後の様子を示し、(c)は拡径前の編目の様子を示し、(d)は拡径後の編目の様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るシールド電線の構成を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係るシールド電線1は、外部より到達するノイズ等から内部の電線20を保護するものであって、シールド部材10と、シールド部材10の内側に配置された電線20とを備えて構成されている。図1において電線20は、絶縁電線21と、ドレン線22とを備えている。
【0011】
絶縁電線21は所定の対象に接続されて電力や信号等を送信するものであって、導体21aと絶縁体21bとを有している。導体21aは、例えば軟銅線、銅合金線、錫めっき軟銅線、錫めっき銅合金線、銀めっき軟銅線、及び銀めっき銅合金線等によって構成されている。また、絶縁体21bは、導体21aの外周に設けられるものであって、例えばPE(Polyethylene)、PP(Polypropylene)、PTFE(Polytetrafluoroethylene)、又は発泡させたPE、PP及びPTFE等が用いられている。
【0012】
ドレン線22は、シールド部材10によって遮断されたノイズをアースすべく端部がアース先に接続されたものである。このドレン線22は、絶縁体21bを有しない裸電線となっており、シールド部材10と導通状態となっている。ドレン線22についても絶縁電線21の導体21aと同様に、例えば軟銅線、銅合金線、錫めっき軟銅線、錫めっき銅合金線、銀めっき軟銅線、及び銀めっき銅合金線等によって構成されている。
【0013】
なお、図1において絶縁電線21の導体21a及びドレン線22は単線を想定しているが、これに限らず複数本の素線が撚られた撚線であってもよい。また、電線20の概念には金属板からなるバスバーについても含むものとする。
【0014】
図2は、図1に示したシールド部材10の拡大平面図である。図1及び図2に示すシールド部材10は、筒状部11と、シールド部12とを備えている。
【0015】
筒状部11は、絶縁性の繊維が所定の編み方で複数本編み込まれて筒状に形成されたものである。所定の編み方とは、例えば天竺編み、サーマル編み、ワッフル編み、鹿の子編み、フライス編み、及び、裏パイル編み等である。また、筒状部11を形成する絶縁性の繊維については、例えば破断時における引張強度が1GPa以上で破断時の伸び率が1%以上10%以下の抗張力繊維が採用されている。このような抗張力繊維としては、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、及びPBO繊維が挙げられる。
【0016】
シールド部12は、導電性の繊維からなり、少なくとも一部が筒軸方向と略平行(例えば筒軸方向に対して傾斜角度が5°以下)に延在配置されたものである。シールド部12を構成する導電性の繊維については、例えば上記した抗張力繊維に対してめっき処理を施しためっき繊維や、繊維自体が導電性を有する炭素繊維等が採用されてもよい。
【0017】
このようなシールド部12は、筒状部11を構成する絶縁性の繊維と共に編み込まれていてもよいし、筒状部11の形成後に筒状部11に対して縫い付けられてもよい。特に、筒状部11と共にシールド部12を編み込む場合、筒状部11を形成する絶縁性の繊維については動作するボビンに巻いておき、シールド部12を構成する導電性の繊維については編み込まれる方向に動かないボビンに巻いておく。そして、これらのボビンに巻かれる繊維を引き出して編み込んでいくことにより、筒状部11の形成と共に、筒軸方向に略平行に延びるシールド部12を編み込むことができる。
【0018】
なお、シールド部12については、一部が筒軸方向と略平行であればよく、一部を除く残部については筒軸と交差する方向(例えば筒軸方向に対して傾斜角度が5°超)に延在していてもよい。
【0019】
このようなシールド部材10は、絶縁性の繊維で形成される筒状部11と導電性の繊維で形成されるシールド部12とで構成されるため、導電性の繊維によってシールド機能を発揮しつつも全体を繊維で形成して軽量化を図ることができる。
【0020】
また、シールド部材10は、筒状部11の筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能に形成されている。上記したように、筒状部11は、天竺編み、サーマル編み、ワッフル編み、鹿の子編み、フライス編み、及び、裏パイル編み等の所定の編み方によって編み込まれている。これらの編み方であれば筒状部11自体が拡径し易くなり、このような編み方の筒状部11に対してシールド部12が設けられ、結果としてシールド部材10が筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能となっている。
【0021】
これにより、シールド部材10は筒を広げるように拡径することが可能となりシールド部材10内に電線21,22を通す作業のやり易さを向上できると共に、拡径可能な柔軟性により曲げに対する自由度の向上を図ることができる。
【0022】
ここで、本実施形態に係るシールド部材10は、全ての導電性の繊維(シールド部12)が筒軸方向と略平行に延在していることが好ましい。例えば全ての導電性の繊維が筒軸方向と略平行に延在している場合、筒状部11の筒径方向への拡径を阻害するように作用し難いからである。
【0023】
図3は、図1に示したシールド部材10を示す構成図であって、(a)は拡径前の様子を示し、(b)は拡径後の様子を示し、(c)は拡径前の編目の様子を示し、(d)は拡径後の編目の様子を示している。
【0024】
より詳細にシールド部12は、筒径方向に筒状部11の網目を跨ぐことなく、配置されていることが好ましい。まず、図3(a)に示すように、例えば自然状態において筒状部11が断面真円となる筒を形成している。この状態から、拡径方向に筒状部11が広げられると断面が楕円形となる筒形状に変形し、筒の長径方向に筒状部11が引き延ばされた状態となる。
【0025】
上記のような様子を編目単位で観察すると、図3(c)から図3(d)に示すように変化する。すなわち、図3(c)に示すように、シールド部12が筒状部11の筒軸方向に並ぶ編目に沿って配置されている場合、図3(d)に示すようにシールド部材10が拡径されても理想的にはシールド部12の位置が変化することなく、拡径を阻害するように作用しないこととなる。
【0026】
これに対して、図3(c)に示すように、シールド部12’が筒状部11の隣接する編目にまたがって配置されている場合、図3(d)に示すようにシールド部材10が拡径されると、シールド部12’が筒径方向に引き延ばされるようになって拡径を阻害するように作用することとなる。
【0027】
以上より、シールド部12は筒軸方向に対して平行であると編目のまたがりが少なくなることから、全ての導電性の繊維(シールド部12)が筒軸方向と略平行に延在していることが好ましく、更には筒軸方向に並ぶ編目に沿って配置されていることが好ましいといえる。
【0028】
このようなシールド部材10において低周波側のシールド効果についてはシールド部材10の抵抗に依存する。シールド部材10の抵抗値は、(1本のシールド部12の抵抗値)/(シールド部12の本数)によって表すことができる。ここで、シールド部12の単位長さあたりの抵抗値をR(Ω/m)とし、シールド部材10におけるシールド部12の打数をN(本)とし、シールド部12の長さをL(m)とした場合、(シールド部材10の抵抗値)=LR/N=aXR/Nと表すことができる。
【0029】
なお、図3(a)及び図3(b)に示すように、Xは拡径前のシールド部材10の長さであり、Yは拡径前のシールド部材10の直径である。aはシールド部材10の拡径後の長さ方向の伸縮率であり、bはシールド部材10の拡径後の径方向の伸縮率である。
【0030】
また、上記シールド部材10において高周波側のシールド効果についてはシールド部材10の密度に依存し、(シールド部12の表面積)/(電線20の表面積)によって表すことができる。
【0031】
本実施形態に係るシールド部材10については、上記のような観点から、低周波域及び高周波域におけるシールド性能を定めることができる。
【0032】
次に、本実施形態に係るシールド部材10の作用を説明する。
【0033】
まず、本実施形態に係るシールド部材10内には電線20が通される。この作業が行われる際、シールド部材10の径を広げる方向に力が加えられる。ここで、本実施形態に係るシールド部材10は筒状部11が特定の編み方によって編み込まれており、シールド部12が筒状部11に設けられた状態において1.5倍以上に拡径可能である。よって、シールド部材10を広げて電線20を通す作業を行い易くすることができる。
【0034】
次いで、電線20が通されたシールド部材10(すなわちシールド電線1)が車両内に配索される。この際、シールド電線1は、車両形状に合わせて適宜箇所で屈曲されて配置される。ここで、シールド部材10は1.5倍以上に拡径可能であることから、屈曲箇所においても柔軟に曲がり、曲げRの制限が少ない。
【0035】
このようにして、本実施形態に係るシールド部材10及びシールド電線1によれば、絶縁性の繊維で形成される筒状部11と導電性の繊維で形成されるシールド部12とで構成されるため、導電性の繊維によってシールド機能を発揮しつつも全体を繊維で形成して軽量化を図ることができる。また、筒状部11が所定の編み方で編み込まれ、全体として筒径方向に対して1.5倍以上に拡径可能とされているため、拡径によりシールド部材10内に電線20を通す作業のやり易さを向上できると共に、拡径可能な柔軟性により曲げに対する自由度の向上を図ることができる。従って、繊維を用いて軽量化を図りつつも、編組内に電線20を通す作業のやり易さの向上と曲げに対する自由度の向上とを図ることができる。
【0036】
また、シールド部12は、全ての導電性の繊維が筒軸方向と略平行に延在しているため、導電性の繊維が筒状部11の筒径方向への拡径を阻害するように作用し難くすることができる。
【0037】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、周知及び公知の技術を組み合わせてもよい。
【0038】
例えば、上記実施形態において筒状部11については、天竺編み等の編み方で編み込まれているが、これに限らず、シールド部12が設けられた状態であって1.5倍以上に拡径可能であれば他の編み方であってもよい。
【0039】
加えて、シールド部材10を構成するシールド部12の少なくとも一部が筒径方向に編目にまたがることなく配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 :シールド電線
10 :シールド部材
11 :筒状部
12 :シールド部
20 :電線
図1
図2
図3