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  • 特許-脂肪酸カルシウム塩粒子および化粧料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】脂肪酸カルシウム塩粒子および化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20240528BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240528BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240528BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/02
A61Q1/02
A61Q1/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020033890
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134196
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】金丸 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西山 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 優花
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 真子
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186463(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C07C 53/00-53/50
C07C 51/00-51/64
C11C 1/00- 3/14
C11D 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12~22の脂肪酸カルシウム塩粒子であって、メジアン径が4.0μm~15.0μmであり、下記式(1)で表される粒度要約値AがA≦2.0の関係を満たし、かつ厚さ平均が350~800nmである脂肪酸カルシウム塩粒子。
粒度要約値A=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(但し、4.0≦D50≦15.0)
D10:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準におけるメジアン径(μm)
D90:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【請求項2】
前記炭素数12~22の脂肪酸がミリスチン酸である、請求項1に記載の脂肪酸カルシウム塩粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脂肪酸カルシウム塩粒子を含む化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂肪酸カルシウム塩粒子および当該脂肪酸カルシウム塩粒子が配合された化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸カルシウム塩は、化粧料用添加物として有用な金属石鹸の一種であり、皮膚への滑沢性や付着性の向上、顔料の分散剤などの目的で使用されてきた。
特許文献1には、複分解法により得られた炭素数6~24の脂肪酸カルシウム等であって、水に分散させた場合のpHがアルカリ性を示さない金属石鹸が記載されている。
特許文献2には、特定粒子径の金属石鹸微粒子を部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物と組み合わせることで、使用性、成型性、耐衝撃性に優れた固形粉末化粧料が得られることが記載されている。
特許文献3には、特定の粒度分布を有する金属石鹸微粒子を特定量使用することで成型性、耐衝撃性、持続性等に優れた固形粉末化粧料が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-186463号公報
【文献】特開2018-168145号公報
【文献】特開2000-169342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の金属石鹸は、使用性の点で改善の余地があった。
本発明は、使用性に優れる新規な金属石鹸および化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、粒子径、粒度要約値、厚さが特定の範囲にある脂肪酸カルシウム塩粒子が、使用性に優れることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の脂肪酸カルシウム塩粒子および化粧料に関する。
〔1〕炭素数12~22の脂肪酸カルシウム塩粒子であって、メジアン径が4.0~15.0μmであり、下記式(1)で表される粒度要約値AがA≦2.0の関係を満たし、かつ厚さ平均が350~800nmである脂肪酸カルシウム塩粒子。
粒度要約値A=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(但し、4.0≦D50≦15.0)
D10:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準におけるメジアン径(μm)
D90:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
〔2〕前記炭素数12~22の脂肪酸がミリスチン酸である、〔1〕に記載の脂肪酸カルシウム塩粒子。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の脂肪酸カルシウム塩粒子を含む化粧料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、使用性に優れた脂肪酸カルシウム塩粒子を提供することができる。
また、本発明によれば、上記脂肪酸カルシウム塩粒子を含むことで、使用性に優れた化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ミリスチン酸カルシウムの示差熱分析(DSC)による熱吸収グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は炭素数12~22の二価の脂肪酸カルシウム塩からなる。かかる粒子は、炭素数12~22の脂肪酸に対して一価のアルカリ化合物を反応させて得られた脂肪酸アルカリ化合物塩と、二価のカルシウム塩とを水溶液中で反応させる複分解法で調製することができる。
【0010】
脂肪酸アルカリ化合物塩の原料となる脂肪酸は、炭素数が12~22の脂肪酸であれば特に制限はない。すなわち、天然由来の脂肪酸および合成脂肪酸のいずれであってもよく、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、直鎖状および分岐状のいずれであってもよい。さらに、脂肪酸の構造中に水酸基、アルデヒド基、エポキシ基等の官能基が含まれていてもよい。脂肪酸としては直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
また、脂肪酸の炭素数が12以上であることで、化粧料に優れた使用性を付与することができる。一方、炭素数が22以下であることで、脂肪酸として工業的に入手が容易であり、また、得られる脂肪酸アルカリ化合物塩の水に対する溶解度が著しく低下しないため生産性が高い。脂肪酸の炭素数は、好ましくは12~18であり、より好ましくは14(すなわち脂肪酸カルシウムがミリスチン酸カルシウム)である。
【0011】
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストオレイン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ヒドロキシステアリン酸およびエポキシステアリン酸などが挙げられ、その中ではミリスチン酸が好ましい。混合脂肪酸を用いる場合は、脂肪酸におけるミリスチン酸含有量が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0012】
脂肪酸アルカリ化合物塩の原料となる一価のアルカリ化合物としては、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物、およびアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。脂肪酸アルカリ化合物塩としたときに水に対する溶解度が高い点から、好ましくはナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物である。
【0013】
本発明に用いる脂肪酸アルカリ化合物塩は、一価のアルカリ化合物と脂肪酸とを、一般に、脂肪酸の融点以上であり、かつ該脂肪酸が分解しない程度の温度、好ましくは100℃以下、より好ましくは50~100℃、さらに好ましくは60~95℃、特に好ましくは70~95℃で反応させて得られる。
【0014】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は、例えば、上記で得られた脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩とを水溶液中で反応させて得ることができる。カルシウム塩は、具体的には無機カルシウムと無機酸または有機酸との塩である。カルシウム塩としては、例えば塩化カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。特に、カルシウムの塩化物が水に対する溶解度が高く、効率的に脂肪酸アルカリ化合物塩と反応する点から好ましい。
【0015】
脂肪酸アルカリ化合物塩と二価のカルシウム塩との反応は、具体的には、カルシウム塩含有水溶液および脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液を別々に調製した後、これらを混合することにより行われる。例えば、脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液中にカルシウム塩含有水溶液を添加する、あるいは別の反応槽に両者を添加することによって行われる。
【0016】
脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液とカルシウム塩含有水溶液との混合に際しては、例えば脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液中に対してカルシウム塩含有水溶液を一度に投入すると、得られる脂肪酸カルシウム塩粒子の形状が不均一になり、粒度分布が広くなるおそれがある。したがって、本発明においては、脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液中に対してカルシウム塩含有水溶液を適度な速度で徐々に滴下することが好ましい。
【0017】
脂肪酸カルシウム塩製造時の脂肪酸アルカリ化合物塩の濃度は、脂肪酸カルシウム塩の生産性の点、および脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液または得られる脂肪酸カルシウム塩スラリーのハンドリング性の点から、通常、1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%である。脂肪酸アルカリ化合物塩の濃度が1質量%以上であれば、脂肪酸カルシウム塩の生産性が良好であり好ましい。20質量%以下であれば、脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液または得られる脂肪酸カルシウム塩スラリーの粘度が上昇せず、均一な反応を行うことが可能である。なお、カルシウム塩含有液中のカルシウム塩の濃度は、脂肪酸カルシウム塩の生産性の点、および脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液または得られる脂肪酸カルシウム塩スラリーのハンドリング性の点から、通常、10質量%~50質量%、好ましくは10質量%~40質量%である。
【0018】
脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩との反応は、脂肪酸アルカリ化合物塩の溶解度を考慮して、当業者が通常行う温度条件下で行われる。好ましくは50~100℃、より好ましくは60~95℃である。反応温度が50℃以上であれば、脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩との反応率が良好である。
【0019】
脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩との反応時に脂肪酸カルシウム塩スラリーを安定化させて、脂肪酸カルシウム塩の生産性を向上させる目的で、ポリアルキレングリコール系エーテル、特にオキシプロピレンブロックがオキシエチレンブロックで挟まれた構造(EO-PO-EO)を有するトリブロックエーテルを脂肪酸カルシウム塩スラリー中に存在させることが好ましい。脂肪酸カルシウム塩スラリー中におけるポリアルキレングリコール系エーテルの含有量は、通常、脂肪酸アルカリ化合物塩100質量部に対して0.01質量部~5質量部、好ましくは0.05質量部~2質量部である。なお、ポリアルキレングリコール系エーテルは、一価のアルカリ化合物と脂肪酸とを反応させる前に反応系に存在させてもよく、また脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩との反応の前に反応系に存在させてもよい。
【0020】
この方法によって、1脱水機、フィルタープレスなどで分離して含水率下げた脂肪酸カルシウム塩ケーキを得る。含水率を下げた脂肪酸カルシウム塩ケーキについて、回転乾燥機、気流乾燥装置、通気式棚段乾燥機、噴霧式乾燥機、流動層型乾燥装置などにより乾燥させる。
本発明においては、脂肪酸カルシウム塩ケーキの乾燥は、生成する脂肪酸カルシウム塩の含有水蒸散ピークトップ温度(α℃)に対して、(α-40)℃≦α≦(α+5)℃で乾燥することが必要である。ここで、含有水蒸散ピークトップ温度とは、脂肪酸カルシウム塩に含有している上記乾燥で除去することができない残留水が脱離し始める温度範囲のピークのトップピークことであり、例えば、図1のミリスチン酸カルシウムの示差熱分析(DSC)による熱吸収グラフにおいて、含有水蒸散ピークトップ温度は110.3℃である。具体的な乾燥温度は、得られる脂肪酸カルシウム塩の種類により異なるが、例えばミリスチン酸カルシウムの場合、115℃以下である。115℃よりも高い温度で乾燥処理すると、微細粒子同士の凝着が起こり、粒子の厚さが大きくなりやすい。一方、70℃よりも低い温度で乾燥処理すると、乾燥性が低下し、化合物中に多量の水分が残る。
【0021】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は、粒度分布が狭いことで、化粧料中に均一に存在させることが可能となり、本発明の作用効果(特に化粧料の感触向上)をより安定して発現させやすい。具体的には、脂肪酸カルシウム塩粒子の下記式(1)で表される粒度要約値Aを2.0以下にする。
粒度要約値A=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(但し、4.0≦D50≦15.0)
D10:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準におけるメジアン径(μm)
D90:脂肪酸カルシウム塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【0022】
本発明において粒度要約値Aはマイクロトラックレーザー回折法により測定した粒子径から算出される。粒度要約値Aが2.0以下であることで、化粧料中に存在する脂肪酸カルシウム塩粒子の粒子径が均一となり、化粧料の分散性が良好であり、生産性が低下せず、目的とする感触を有する化粧料を製造できる。粒度要約値Aは0.5≦A≦1.8の関係を満たすことがより好ましい。0.5≦A≦1.8の関係を満たす場合、本発明の作用効果がさらにより安定して得られる。粒度要約値Aが0.5以上であれば、歩留まりが低下せず工業的に安定して製造することができる。
なお、上記式(1)において粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%積算径(D10)、50%メジアン径(D50;メジアン径)、90%積算径(D90)(μm)とする。
粒度要約値Aの調整は、脂肪酸アルカリ化合物塩の濃度、脂肪酸アルカリ化合物塩とカルシウム塩との反応時の温度、カルシウム塩含有水溶液を脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液に滴下する際の滴下速度をそれぞれ適宜調整することによって行うことができる。また、粒度分布が広い、つまり粒度要約値Aの値が大きいものについては、後処理において、100メッシュ、200メッシュ、330メッシュ等の篩を用いて分級することによって行うことができる。
【0023】
ここで使用するマイクロトラックレーザー回折法は、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して、粒度分布を求める方法である。本発明においては、脂肪酸カルシウム塩粒子が溶解しない有機溶媒、例えばエタノール、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒を循環させたところに試料をそのまま投入する湿式による測定とする。また、本発明における測定対象は粒子径0.1μm~200μmの範囲であり、上記の式(1)で表される値を粒度要約値Aとした。なお、本発明においては、例えば日機装株式会社製のマイクロトラックMT-3000を用いて測定することができる。
【0024】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は、体積基準におけるメジアン径(D50)が4.0~15.0μmである。かかる粒子径であることで使用感触は良好である。脂肪酸カルシウム塩粒子のメジアン径は、5.0~12.0μmが好ましく、6.0~10.0μmがより好ましい。なお、粒子径は上記した粒度要約値Aと同様にマイクロトラックレーザー回折法により測定できる。
【0025】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は、粒子の厚さ平均が350~800nmである。かかる厚さであることで、化粧料への温和な混合条件(製造方法)でも解れやすくなり、化粧料として肌へ均一に塗布しやすくなるとともに塗布後の感触も向上させることが可能となる。また、厚さ平均が350nm以上であると、化粧料へ添加時に脂肪酸カルシウム塩粒子のハンドリング性が良好であり、作業性が低下するおそれがない。粒子の厚さ平均は、400~700nmがより好ましい。400~700nmを満たせば本発明の作用効果がさらにより安定して得られる。
なお、粒子の厚さとは、脂肪酸カルシウム塩粒子において最も面積の大きい面を正面としたときの、側面の長さの値である。
【0026】
上記特定の厚さの脂肪酸カルシウム塩粒子を得るには、複分解反応で別々に調製したカルシウム塩含有水溶液および脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液を混合する際に、脂肪酸アルカリ化合物塩含有水溶液中にカルシウム塩含有水溶液を徐々に滴下することが好ましい。滴下速度は、単位時間あたり0.005~0.8モル/モルが好ましく、0.01~0.5モル/モルがさらに好ましい。かかる滴下速度で混合することで、穏和にアルカリとカルシウムの交換反応を進行させることができ、適度な厚さを有する脂肪酸カルシウム塩粒子を得ることができる。この速度が0.005モル/モル以上であることで、粒子の厚さが薄くならず、所望の厚さを有する脂肪酸カルシウム塩粒子を得ることができる。一方、単位時間あたりの滴下速度が0.8モル/モル以下であることで、均一な脂肪酸カルシウム塩粒子の形状となり、粒子が所望の厚さになるため、粒度も不揃いとならず良好である。
尚、滴下するカルシウム塩の単位「モル/モル」は、脂肪酸アルカリ化合物1モルに対する滴下するカルシウム塩のモル数である。
【0027】
また、本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子の形状は特に限定されないが、板状であることが好ましい。
【0028】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子を使用しうる化粧料としては、洗顔クリーム、化粧水、マッサージクリーム、乳液、モイスチャークリームなどのスキンケア化粧品、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、口紅、ほほ紅、などのメイクアップ化粧料、入浴剤、日焼け止めクリーム、デオドラントスプレーなどのボディケア化粧品、シャンプー、リンス、ヘアリキッド、ヘアカラーなどのヘアケア化粧品などが挙げられる。
また、本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子に加え、その他の公知の化粧料原料として、有機顔料、無機顔料、香料、油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、シリコーン油、非イオン、アニオン、カチオン、両性などの界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを使用することができる。
【実施例
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0030】
〔脂肪酸カルシウム塩粒子の調製〕
(実施例1)
3Lセパラブルフラスコにミリスチン酸(日油(株)社製NAA-142)250g、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール・ブロックエーテル(日油株式会社製、商品名:プロノン♯104)を1.25gおよび水2500gを仕込み、90℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を87.0g加え、同温度(90℃)にて1時間攪拌し、ミリスチン酸ナトリウム塩水溶液を得た。その後、90℃に保持したまま、35質量%塩化カルシウム水溶液174.5gを30分かけてミリスチン酸ナトリウム塩水溶液に滴下した[滴下速度:0.39(モル/モル)]。滴下終了後、90℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られた混合脂肪酸カルシウム塩水溶液スラリーに水1500gを加え、65℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキについて通気式棚段乾燥機を用いて80℃で乾燥して、ミルで解砕してミリスチン酸カルシウム塩粒子を得た。
【0031】
(実施例2)
3Lセパラブルフラスコにミリスチン酸(日油(株)社製NAA-142)250g、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール・ブロックエーテル(日油株式会社製、商品名:プロノン♯104)を1.25gおよび水2500gを仕込み、80℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を87.0g加え、同温度(90℃)にて1時間攪拌し、ミリスチン酸ナトリウム塩水溶液を得た。その後、80℃に保持したまま、35質量%塩化カルシウム水溶液174.5gを40分かけてミリスチン酸ナトリウム塩水溶液に滴下した[滴下速度:0.29(モル/モル)]。滴下終了後、80℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られた混合脂肪酸カルシウム塩水溶液スラリーに水1500gを加え、65℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキについて気流燥機を用いて107℃で乾燥して、ミルで解砕してミリスチン酸カルシウム塩粒子を得た。
【0032】
(実施例3)
3Lセパラブルフラスコにミリスチン酸(日油(株)社製NAA-142)250gおよび水2500gを仕込み、80℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を87.0g加え、同温度(90℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ化合物塩水溶液を得た。その後、80℃に保持したまま、35質量%塩化カルシウム水溶液174.5gに30分かけてミリスチン酸ナトリウム塩水溶液を滴下した[滴下速度:0.39(モル/モル)]。滴下終了後、80℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られた混合脂肪酸カルシウム塩水溶液スラリーに水1500gを加え、65℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキについて気流燥機を用いて100℃で乾燥して、ミルで解砕してミリスチン酸カルシウム塩粒子を得た。
【0033】
(比較例1)
5Lガラス製フラスコにミリスチン酸(日油(株)社製NAA-142)を250gおよび水3000gを仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温し、次いで同温度で水酸化カルシウム43gを30分かけて加え、終了後、90℃に昇温し、1時間攪拌を継続して、ミリスチン酸カルシウムスラリーを得た。このミリスチン酸カルシウムスラリーを60℃まで冷却した後、吸引濾過機を使用して濾過した後に、得られたケーキについて通気式棚段乾燥機を用いて80℃で乾燥して、ミルで粉砕してミリスチン酸カルシウム塩粒子を得た。
【0034】
(比較例2)
5Lステンレスビーカーを2つ用意し、1つにミリスチン酸ナトリウム5.0質量%を含有する水溶液4500g、もう一つに塩化カルシウム2.3質量%を含有する水溶液4500gを仕込み、両方を85℃に調製した。2つの水溶液を15Lステンレスビーカーに一気に一括混合させて、1分間攪拌した後、吸引濾過機を使用して濾過した後に、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキについて気流燥機を用いて120℃で乾燥して、ミルで粉砕してミリスチン酸カルシウム塩粒子を得た。
【0035】
実施例1~3および比較例1~2のミリスチン酸カルシウム塩粒子について、メジアン径、粒度要約値A〔体積基準における10%積算径D10(μm)、体積基準におけるメジアン径D50(μm)、体積基準における90%積算径D90(μm)から算出した値〕、粒子の厚さを、それぞれ以下の装置を用い、上述の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
(1)粒度要約値A、メジアン径
試料を100mlガラスビーカーに2.0g採取し、ノニオン系界面活性剤(例;日油株式会社製ノニオンNS-210)を3~5ml滴下してスパチュラで馴染ませた。次いで、精製水を20ml加え、超音波により分散させて、100mlにして測定試料とした。試料を粒度分布測定装置(機器名「マイクロトラックMT-3000」日機装株式会社製)に供給して測定した(原理:レーザー回折・散乱法)。
測定する粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%径(D10)、50%径(D50;メジアン径)、90%径(D90)(μm)として求めた。得られたD10、D50、D90から、粒度要約値Aを求めた。
【0037】
(2)粒子の厚さ
粒子の厚さは走査型電子顕微鏡を用いて以下の方法により測定した。脂肪酸カルシウム塩粒子をカーボン両面テープに接着させた後、蒸着法により粒子表面に白金粒子を被覆した試料を、加速電圧1.0kV、倍率2000倍にて観察し、任意の粒子について厚さを計測した。任意の10粒子に対し厚さの測定を行った結果の平均値を表1に示す。
【0038】
〔使用性評価〕
本発明により得られた脂肪酸カルシウム塩粒子を、下記基準に基づき使用感触等について評価した。結果を表1に示す。
(なめらかさ)
2名の専門パネラーとし、脂肪酸カルシウム塩粒子を肌に塗布した時のなめらかさについて下記のように判定し、〇または◎の場合になめらかさが良好であると評価した。
◎:非常に滑らかである
〇:滑らかである
△:あまり滑らかでない
(付着性)
2名の専門パネラーとし、脂肪酸カルシウム塩粒子を肌に塗布した時の肌への付着性について下記のように判定し、〇または◎の場合に肌へのつき(付着性)が良好であると評価した。
◎:付着性が非常に高い
〇:付着性が高い
△:付着性がやや低い
(透明感)
2名の専門パネラーとし、脂肪酸カルシウム塩粒子を肌に塗布した時の透明感について下記のように判定し、〇または◎の場合に透明感が良好であると評価した。
◎:透明感が非常に高い
〇:透明感が高い
△:透明感がやや低い
×:透明感が低い
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、メジアン径、粒度要約値、粒子の厚さが特定範囲にある実施例1~3の脂肪酸カルシウム塩粒子は、なめらかさ、付着性、透明感のいずれの項目においても良好な結果となり、使用性に優れることが分かる。これに対し、メジアン径、粒度要約値、粒子の厚さが特定範囲を満たさない比較例1~2の脂肪酸カルシウム塩粒子は、なめらかさ、付着性、透明感のいずれかの項目において基準を満たさない結果となった。
【0041】
<処方例:アイシャドウ>
下記表2に、本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子を配合したアイシャドウの処方例を示す。
【0042】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の脂肪酸カルシウム塩粒子は、なめらかさ、皮膚への付着性、透明感といった使用性に優れることから、ファンデーションやアイシャドウ等の化粧料用添加剤として好適である。
図1