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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020043380
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021143529
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055260(JP,A)
【文献】登録実用新案第3102331(JP,U)
【文献】特開2000-220211(JP,A)
【文献】特開2001-227192(JP,A)
【文献】特開2019-214881(JP,A)
【文献】特開2008-174932(JP,A)
【文献】特開2020-148032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0000228(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製で、相互に直交して長手方向の長さが同じ第一プレートと第二プレートとを備え、該第一プレートと該第二プレートがそれらの長手方向の全域に亘って相互に直交する断面が十字状の芯材と、
前記第一プレートの二つの広幅面に当接するように配設されている木製で一対の拘束材と、前記第一プレートの二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束材に接続されている木製で一対の側材と、により形成される木製拘束体と、を有し、
前記一対の拘束材の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
前記一対の側材と前記拘束材の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記拘束材のうち、前記第二プレートに対応する位置には溝条が設けられており、
前記溝条に前記第二プレートが収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記第一プレートの二つの広幅面にそれぞれ、前記第二プレートが接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記第一プレートは、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記第一プレートの前記広幅部の側面と前記側材の間に隙間を有していることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記第二プレートは前記第一プレートの端部まで延設しており、
前記第二プレートは、その長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記木製拘束体のうち、前記第二プレートの前記広幅部に対応する位置には該広幅部に干渉しないスリットが設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記第一プレートの前記狭幅部の側面と前記側材の壁面の間にスペーサーが介在しており、
前記スペーサーには、前記第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔が開設され、該ボルト孔に前記第一長ボルトが挿通されていることを特徴とする、請求項4又は請求項4に従属する請求項5に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
平面視において、前記スリットと前記第二プレートの前記広幅部との間に隙間を有していることを特徴とする、請求項5、又は請求項5に従属する請求項6に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項8】
前記第一プレートの前記狭幅部の周面から突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする、請求項4、請求項4に従属する請求項5乃至7のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
そこで、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4901491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼製の芯材が木製の拘束材にて包囲された座屈拘束ブレースに対して、例えば大地震時に架構が大きく変形した際に、この変形に起因する、所謂、付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)が拘束材に作用し得る。この付加曲げモーメントが木製の拘束材に作用することにより、拘束材が破損に至る可能性が生じる。そして、拘束材が破損することにより、拘束材による芯材の座屈拘束機能が低下し、芯材が座屈に至り得る。特許文献1には、このような所謂付加曲げモーメントが拘束材に作用することを防止する措置についての言及がない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体に作用して破損することを解消できる座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製で、相互に直交する第一プレートと第二プレートとを備え、その長手方向に直交する断面が十字状の芯材と、
前記第一プレートの二つの広幅面に当接するように配設されている木製で一対の拘束材と、前記第一プレートの二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束材に接続されている木製で一対の側材と、により形成される木製拘束体と、を有し、
前記一対の拘束材の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
前記一対の側材と前記拘束材の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、第一プレートと第二プレートとを備えている断面が十字状の芯材の周囲において、一対の拘束材が複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、一対の側材がその間にある拘束材とともに複数の第二長ボルトをナット締めすることにより接合されていることから、一対の拘束材と一対の側材による拘束性の高い木製拘束体を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。また、相互に直交する第一長ボルトと第二長ボルトの双方がナット締めされて木製拘束体が形成されることにより、木製拘束体に補剛力が作用した際に、この補剛力に起因して拘束材や側材がその繊維直交方向に割裂破壊されることを効果的に防止できる。
【0011】
また、芯材がその長手方向に直交する断面が十字状を呈していることにより、芯材の高次座屈モードの波長が長くなり、それに伴って木製拘束体に作用する補剛力を小さくすることができ、このことに起因して木製拘束体の局部破壊を生じ難くすることができる。
【0012】
ここで、木製で一対の拘束材が「第一プレートの二つの広幅面に当接する」とは、拘束材と第一プレートとの間に隙間が無い状態を意味している。双方の間に隙間があると、芯材が圧縮力を受けた際に芯材がその長手方向に亘り波を打った態様で変形し得る。そして、この波の頂部が拘束材を内側から押圧することにより、作用する押圧力により拘束材が破損に至り得る。隙間(の高さ)が大きくなるに従い、芯材の変形量が大きくなり、拘束材に作用する押圧力が大きくなる。例えば従来の座屈拘束ブレースのように、鋼製の芯材の周囲に鋼製の拘束材が配設されている形態においては、芯材と拘束材の間に隙間が無い場合に、圧縮力を受けた芯材はそのポアソン比に応じて側方に膨らむように変形し、膨らんだ芯材が拘束材を内側から押圧して双方の界面に大きな摩擦力が生じたり、芯材で押圧された拘束材が破損に至り得るといった課題があった。
【0013】
それに対して、本態様の座屈拘束ブレースのように、芯材の周囲に木製拘束体が配設されていることにより、芯材(第一プレート)と拘束材の間に隙間がない場合に、芯材(第一プレート)が側方に膨らんで木製拘束体をその内側から押圧した際に、芯材(第一プレート)に対してヤング率の小さな木製拘束体は適度に変形して、押し込んできた芯材(第一プレート)を吸収することができる。すなわち、木製拘束体を適用する本態様においては、木製で一対の拘束材は、第一プレートの二つの広幅面に対して隙間無く当接することにより、拘束材の破損が抑止されながら、木製拘束体による高い拘束効果を期待することができる。
【0014】
また、一対の拘束材が複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、一対の側材がその間にある拘束材とともに複数の第二長ボルトをナット締めすることにより接合されていることにより、一対の拘束材と一対の側材の拘束性の高い木製拘束体を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。尚、拘束材と側材の当接面が接着剤により接合された上で、第二長ボルトにより締付けられていてもよい。このように拘束材と側材の当接面が接着剤により接合され、さらに第二長ボルトにより締付けられていることにより、拘束材と側材の当接面である接着面が第二長ボルトにて圧着され、拘束材と側材の接続強度がより一層高い木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0015】
また、本態様においては、一対の拘束材同士は一対の側材にて接続されて、四つの面材による閉合構造を有する木製拘束体が形成され、鋼製の芯材が木製拘束体にて包囲されている。この構成により、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、拘束材と側材は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材により形成されてもよい。
【0016】
さらに、本態様においては、木製拘束体が、一対の拘束材に対して一対の側材が接続される構成を有していることから、木製拘束体の加工が容易になる。例えば、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の二つの拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する加工を要する。これに対して、本態様の座屈拘束ブレースは、一対の拘束材に対して一対の側材を接続して木製拘束体を製作し、例えばこの木製拘束体の有する中空に芯材を挿通することにより座屈拘束ブレースを製作することができる。そのため、座屈拘束ブレースの製作がより一層容易になる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記拘束材のうち、前記第二プレートに対応する位置には溝条が設けられており、
前記溝条に前記第二プレートが収容されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、拘束材のうち、第二プレートに対応する位置に溝条が設けられ、この溝条に第二プレートが収容されていることにより、断面が十字状の芯材が木製拘束体の内部に収容された座屈拘束ブレースを形成できる。ここで、芯材の長手方向に直交する断面において、第二プレートと溝条の間には、第二プレートの幅方向と高さ方向の双方に隙間が形成されるように、第二プレートと溝条の断面寸法が設定されるのがよい。
【0019】
例えば、第一プレートに対して第二プレートが隅肉溶接等にて接合される場合に、第二プレートと溝条の幅方向に隙間があることにより、第一プレートと第二プレートの接合隅角部から外側にはみ出す溶接部をこの隙間に収容しながら、第一プレートと木製拘束体(の拘束材)の当接姿勢を保持することができる。
【0020】
また、第二プレートの上下の端面と溝条の間において、高さ方向に隙間があることにより、第一プレートの広幅面に対して木製拘束体(の拘束材)を確実に当接させることができる。仮にこの高さ方向の隙間が無い場合、第二プレートの上下の端面に木製拘束体の溝条が引っ掛かり、第一プレートの広幅面に木製拘束体(の拘束材)が当接しない場合が生じ得る。
【0021】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記第一プレートの二つの広幅面にそれぞれ、前記第二プレートが接合されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、第一プレートの二つの広幅面に対してそれぞれ第二プレートが溶接等にて接合されることにより、加工性に優れ、接合強度の高い断面十字状の芯材を有する座屈拘束ブレースが得られる。例えば、鋼製の第一プレートの両広幅面に対して、当該第一プレートの広幅面の半分程度の幅の鋼製の第二プレートを隅肉溶接等にて接合することにより、芯材を加工することができる。
【0023】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一プレートは、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記第一プレートの前記広幅部の側面と前記側材の間に隙間を有していることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、芯材を構成する第一プレートがその長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有していて、広幅部の側面と木製拘束体を構成する側材の間に隙間を有していることにより、構面が大きく変形した場合においてもこの隙間にて芯材の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体に作用することを解消できる。例えば大地震時における構面の変形量は設計者の裁量に委ねられ、例えば層間変形角1/100の際の構面の変形量や層間変形角1/75の際の構面の変形量などに基づいて、座屈拘束ブレースの芯材の端部の変形量が算定される。そして、例えばこの算定された変形量よりも大きな隙間が設定されることにより、付加曲げモーメントが木製拘束体に作用することを解消できる。
【0025】
また、芯材が、その長手方向の中央側に狭幅部を有し、長手方向の端部側に広幅部を有することにより、中央側の狭幅部を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部に限定させることができる。さらに、広幅部と狭幅部の境界領域は芯材の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。このように、本態様においては、芯材に作用する付加曲げモーメントは芯材の広幅部と狭幅部の境界領域にて効果的に吸収し、芯材と木製拘束体の側材の間に設けられた隙間により、芯材に作用する付加曲げモーメントを木製拘束体の側材に作用させないようにすることができる。
【0026】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第二プレートは前記第一プレートの端部まで延設しており、
前記第二プレートは、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記木製拘束体のうち、前記第二プレートの前記広幅部に対応する位置には該広幅部に干渉しないスリットが設けられていることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、第二プレートが第一プレートの端部まで延設して芯材の端部においても断面十字状を呈していることから、芯材の第一プレートの広幅面が建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレースがガセットプレートに取り付けられる場合に、芯材が構面に平行な第一プレートの広幅面に直交する第二プレートを有することにより、芯材の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。このように断面十字状の芯材が取り付けられる構面のガセットプレートにおいては、ガセットプレートに対してフィンスチフナが取り付けられ、座屈拘束ブレースの芯材の第一プレートとガセットプレート、第二プレートとフィンスチフナがそれぞれスプライスプレートを介してハイテンションボルト等により接合される。本態様においては、第一プレートと同様に、第二プレートも中央側に狭幅部を有し、長手方向の端部側に広幅部を有することから、中央の狭幅部は木製拘束体の溝条に収容される。一方、端部側の広幅部は木製拘束体と干渉し得るが、木製拘束体において第二プレートの広幅面に対応する位置にスリットが設けられていることにより、木製拘束体と、芯材の第二プレートの端部側の広幅面との干渉が防止される。
【0028】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一プレートの前記狭幅部の側面と前記側材の壁面の間にスペーサーが介在しており、
前記スペーサーには、前記第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔が開設され、該ボルト孔に前記第一長ボルトが挿通されていることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、芯材の第一プレートの中央側に狭幅部を設けたことにより狭幅部と側材の間に存在する比較的大きな隙間(芯材の端部側の広幅部と側材の間の隙間よりも大きな隙間)に対して、この隙間にスペーサーを介在させて隙間を閉塞することにより、芯材の第一プレートの強軸方向(第一プレートの広幅面に平行な方向)の座屈を防止することができる。既述するように、芯材の第一プレート及び第二プレートの中央側の狭幅部は塑性化領域であるが、芯材の第一プレートと側材の間にスペーサーを介在させることにより、芯材の第一プレートの強軸方向の座屈を抑制しながら、地震時等における振動エネルギーを芯材の狭幅部の塑性化によって効果的に吸収することができる。尚、スペーサーは、鋼製部材、木製部材のいずれを適用してもよい。
【0030】
また、スペーサーが第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔を有し、このボルト孔にも第一長ボルトが挿通されていることにより、スペーサーが芯材の長手方向に移動することが抑止される。一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサーは斜め下方に移動し易く、このスペーサーの移動によって斜め上方にはスペーサーの端部と第一プレートの広幅部の間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサーの存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、本態様によれば、このようなスペーサーの移動が解消され、スペーサーの移動に起因する強度上の弱部は生じない。
【0031】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、平面視において、前記スリットと前記第二プレートの前記広幅部との間に隙間を有していることを特徴とする。
【0032】
本態様によれば、スリットと第二プレートとの間に隙間が存在することにより、構面の変形に応じて芯材が伸縮した際に、この芯材の伸縮を隙間が吸収することができ、伸縮する芯材の第二プレートがスリットの壁面に接触して木製拘束体が破損に至るといった課題を解消することができる。ここで、この隙間の設定も設計者の裁量に委ねられ、設定された層間変形角に基づいて芯材の伸縮量が算定され、例えば隙間が芯材の伸縮量以上に設定される。尚、ここでの「隙間」は、スリットの長手方向の端部と第二プレートの間の隙間の他、スリットの側面と第二プレートの広幅面の間の隙間が含まれ、スリットの側面と第二プレートの広幅面の間の隙間としては、上記する芯材の第一プレートの広幅部の側面と側材の間の隙間と同じ隙間が設定できる。
【0033】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一プレートの前記狭幅部の周面から突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、芯材の第一プレートの狭幅部の周面から張り出す突起が木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることにより、木製拘束体の内部に差し込まれている芯材が木製拘束体の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材が木製拘束体の一方の端部に偏った際に、芯材が存在しない木製拘束体の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題を解消することができる。ここで、芯材の第一プレートの狭幅部の周面が左右の側面と、左右の側面に直交する上下の平面とを有する場合に、左右の側面からそれぞれ突起が張り出し、木製拘束体を構成する側材に開設されている係合孔に突起が係合する形態が適用できる。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体に作用して破損することを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例の斜視図である。
図3図2のIII-III矢視図である。
図4】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図5図4のV-V矢視図である。
図6図4のVI-VI矢視図である。
図7図4のVII方向矢視図である。
図8図4のVIII方向矢視図である。
図9】実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
図10】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0038】
[実施形態に係る座屈拘束ブレース]
<芯材>
はじめに、図1を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
【0039】
芯材10は、細長でプレート状の平鋼により形成されている第一プレート11と、第一プレート11の二つの広幅面11cにおいて隅肉溶接等により溶接接合されている第二プレート12とにより形成され、その長手方向に直交する断面が十字状を呈している。
【0040】
第一プレート11の長手方向の中央側には、広幅面11cの幅が相対的に狭い狭幅部11bが設けられ、その長手方向の端部側には、広幅面11cの幅が相対的に広い広幅部11aが設けられている。尚、第一プレート11において、広幅面11cに直交する面は狭幅面11dである。
【0041】
一方、第二プレート12は第一プレート11の端部まで延設しており、第二プレートの長手方向の中央側には、広幅面12cの幅が相対的に狭い狭幅部12bが設けられ、その長手方向の端部側には、広幅面12cの幅が相対的に広い広幅部12aが設けられている。従って、芯材10は、中央側と端部側で十字断面の寸法が相違するものの、その全域に亘り断面が十字状を呈している。尚、第二プレート12の広幅面12cに直交する面が狭幅面12dとなっている。
【0042】
断面十字状の芯材10が、第一プレート11と第二プレート12のいずれにおいても、その長手方向の中央側に狭幅部11b、12bを有し、長手方向の端部側に広幅部11a、12aを有することにより、中央側の狭幅部11b、12bを塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11b、12bに限定させることができる。
【0043】
また、広幅部11a,12aにはそれぞれ、以下で説明するように、構面に設けられているガセットプレートやガセットプレートに取り付けられているフィンスチフナ(図9参照)にスプライスプレートを介してボルト接合されるためのボルト孔11e、12eが開設されている。芯材10を構成する第一プレート11の広幅面11cが建物の構面に平行に配設されるようにして、座屈拘束ブレース100がガセットプレートに取り付けられる場合、芯材10が構面に平行な第一プレート11の広幅面11cに直交する第二プレート12を有することにより、芯材10の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。
【0044】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0045】
第一プレート11の狭幅部11bの中央位置において、狭幅部11bの左右の側面(狭幅部11bの周面の一例)から鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部11bの側面に対して溶接等により接合されている。この突起15は、以下で説明する木製拘束体(図2参照)に開設されている係合孔に係合する。尚、突起15が狭幅部11bの上下の広幅面11cから張り出している形態であってもよく、この場合は、木製拘束体(図2参照)において拘束材21の対応する位置に係合孔が開設され、ここに突起15が係合する。
【0046】
第一プレート11の狭幅部11bの左右の側方に対して、細長の四角柱状のスペーサー16がX1方向に配設され、狭幅部11bの左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が以下に示す木製拘束体の内部に収容される。スペーサー16は、鋼製部材と木製部材のいずれであってもよい。また、スペーサー16は、円柱状等、図示例以外の形態であってもよい。尚、スペーサー16には、以下に示す第一長ボルトが挿通される複数(図示例は三つ)のボルト孔16aが、その長手方向に間隔を置いて開設されている。
【0047】
<木製拘束体>
次に、図2及び図3を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例について説明する。ここで、図2は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例の斜視図であり、図3は、図2のIII-III矢視図である。
【0048】
木製拘束体20は、一対の拘束材21と、一対の拘束材21を繋ぐ一対の側材22とを有し、一対の拘束材21の間の隙間25に芯材10の第一プレート11が配設されるようになっている。木製で一対の拘束材21は、第一プレート11の有する二つの広幅面11c(図1参照)に対向するように配設されており、一対の拘束材21に接続されている木製で一対の側材22は、芯材10の第一プレート11の狭幅面11d(図1参照)に対向するように配設されている。
【0049】
拘束材21と側材22はそれぞれ、ラミナ21'、22'が積層された集成材により形成されているが、その他、無垢材により形成されてもよく、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止できるように、木製拘束体20の断面積や断面剛性、ヤング率等が設定される。そして、このヤング率は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0050】
図3に明りょうに示すように、一対の拘束材21の対応する位置にはそれぞれ座ぐり溝21"を有する第一ボルト孔21aが開設されており、対応する二つの第一ボルト孔21aにより第一ボルト孔ユニット21bが形成されている。図2及び図3に示すように、図示例では、第一ボルト孔ユニット21bは、拘束材21の幅方向に二つ設けられ、拘束材21の長手方向に六つ設けられて、総計十二の第一ボルト孔ユニット21bがある。
【0051】
そして、一対の拘束材21の間の隙間25に芯材10の第一プレート11が配設された際に、スペーサー16に開設されている各ボルト孔16aが各第一ボルト孔ユニット21bに対応する位置に位置決めされており、このボルト孔16aも第一ボルト孔ユニット21bを形成する。第一ボルト孔ユニット21bに対して第一長ボルト31が挿通され、ナット33にて締付けられるようになっている。より具体的には、第一ボルト孔ユニット21bを形成する一方の第一ボルト孔21aの座ぐり溝21"に座金32が配設され、座金32を介して第一長ボルト31が第一ボルト孔ユニット21bに挿通され、他方の第一ボルト孔21aの座ぐり溝21"に座金34が配設され、座金34から外側に張り出した第一長ボルト31の先端の螺子溝にナット33が締付けられるようになっている。
【0052】
一方、一対の側材22と拘束材21の対応する位置には、それぞれ第二ボルト孔22a、21cが開設されており、対応する第二ボルト孔22a、21cにより第二ボルト孔ユニット22bが形成されている。第二ボルト孔ユニット22bは、第一ボルト孔ユニット21bと干渉しない位置に設けられており、図示例では、側材22の幅方向に二つ設けられ、側材22の長手方向に七つ設けられて、総計十四の第二ボルト孔ユニット22bがある。
【0053】
そして、各第二ボルト孔ユニット22bに第二長ボルト41が挿通され、ナット43にて締付けられるようになっている。より具体的には、第二ボルト孔ユニット22bを形成する一方の第二ボルト孔22aの座ぐり溝22"に座金42が配設され、座金42を介して第二長ボルト41が第二ボルト孔ユニット22bに挿通され、他方の第二ボルト孔22aの座ぐり溝22"に座金44が配設され、座金44から外側に張り出した第二長ボルト41の先端の螺子溝にナット43が締付けられる。
【0054】
また、第二長ボルト41をナット43にて締め付けるに当たり、拘束材21と側材22の当接面には、接着剤が塗布され、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工が行われる。
【0055】
ここで、接着剤には、ウレタン系接着剤とエポキシ系接着剤等があるが、拘束材21と側材22の当接面に接着剤を塗布した後、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工を行うことを可能とするべく、硬化までにある程度の時間を要する(例えば24時間程度)ウレタン系接着剤を適用するのが好ましい。接着剤が硬化することにより形成される接着面は、第二長ボルト41がナット43にて締め付けられる締付け力により強固に圧着される。
【0056】
このように、一対の拘束材21同士が、複数の第一長ボルト31をナット33にて締付けることにより拘束され、一対の側材22と拘束材21が、接着面を介して第二長ボルト41をナット43にて締付けることにより拘束されることで、拘束材21と側材22が強固に接合された閉合構造の木製拘束体20が形成される。
【0057】
図3に明りょうに示すように、拘束材21には、隙間25に連通する溝条26が設けられており、水平に延設する隙間25と、その中心位置において上下に延設する二つの溝条26とにより、断面十字状の開口が形成される。既述するように、隙間25には芯材10の第一プレート11が収容され、上下の溝条26にはそれぞれ上下の第二プレート12が収容される。
【0058】
左右の側材22には、その長手方向の中央位置において、芯材10の有する突起15が係合する係合孔22cが開設されている。芯材10の有する突起15が木製拘束体20に開設されている係合孔22cに係合することにより、木製拘束体20の内部に差し込まれている芯材10が木製拘束体20の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材10が木製拘束体20の一方の端部に偏った際に、芯材10が存在しない木製拘束体20の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題は生じない。
【0059】
さらに、スペーサー16が第一ボルト孔ユニット21bを構成するボルト孔16aを有し、このボルト孔16aにも第一長ボルト31が挿通されることにより、スペーサー16が芯材10の長手方向に移動することが抑止される。以下、図9を参照して説明するように、一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサー16は斜め下方に移動し易く、このスペーサー16の移動によって斜め上方にはスペーサー16の端部と芯材10の第一プレート11の広幅部11aの間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサー16の存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、図示するようにスペーサー16のボルト孔16aに第一長ボルト31が挿通されることにより、このようなスペーサー16の移動が解消され、スペーサー16の移動に起因した強度上の弱部は生じない。
【0060】
拘束材21の端部のうち、隙間25に芯材10の第一プレート11が収容され、溝条26に芯材10の第二プレート12が収容された際に、第二プレート12の端部側の広幅部12aに対応する位置には、第二プレート12の広幅部12aに干渉しないスリット24が設けられている。
【0061】
<座屈拘束ブレース>
次に、図4乃至図8を参照して、これまでに説明した芯材10と木製拘束体20にて形成される、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図4は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図5乃至図8はそれぞれ、図4のV-V矢視図、図4のVI-VI矢視図、図4のVII方向矢視図、及び図4のVIII方向矢視図である。
【0062】
座屈拘束ブレース100において、一対の拘束材21の間の隙間25に芯材10の第一プレート11が収容され、それぞれの拘束材21に設けられている溝条26に芯材10の第二プレート12が収容されることにより、断面十字状の芯材10が木製拘束体20の内部に配設される。そして、第二プレート12の端部側にある広幅部12aが木製拘束体20の端部から張出すようにしてその全体が構成されており、外側に張り出している第一プレート11の広幅部11aと第二プレート12の広幅部12aの有するボルト孔11e、12eが外部に臨んでいる。
【0063】
図5に示すように、芯材10は、第一プレート11に対してその幅方向の中央位置において第二プレート12が隅肉溶接にて溶接されており、第一プレート11と第二プレート12の接合隅角部から溶接部Yが外側にはみ出している。
【0064】
まず、芯材10がその長手方向に直交する断面が十字状を呈していることにより、芯材10の高次座屈モードの波長が長くなり、それに伴って木製拘束体20に作用する補剛力を小さくすることができ、このことに起因して木製拘束体20の局部破壊を生じ難くすることができる。
【0065】
一対の拘束材21はそれぞれ、第一プレート11の二つの広幅面に当接しており、第二プレート12と溝条26の間には、左右の幅方向に隙間G2が設けられ、上下の高さ方向に隙間G1が設けられている。芯材10の第一プレート11と拘束材21が隙間無く当接していることにより、芯材10が長手方向に圧縮力を受けて側方に膨らみ、木製拘束体20をその内側から押圧した際に、芯材10に対してヤング率の小さな木製拘束体20(の拘束材21)は適度に変形し、押し込んできた芯材10を吸収することができる。そのため、拘束材21の破損が抑止されながら、木製拘束体20による高い拘束効果を期待することができる。
【0066】
また、第二プレート12と溝条26の幅方向に隙間G2があることにより、第一プレート11と第二プレート12の接合隅角部から外側にはみ出す溶接部Yをこの隙間G2に収容しながら、第一プレート11と木製拘束体20(の拘束材21)の当接姿勢を保持することができる。
【0067】
さらに、第二プレート12の上下の端面と溝条26の間において、高さ方向に隙間G1があることにより、第一プレート11の広幅面11cに対して木製拘束体20(の拘束材21)を確実に当接させることができる。仮にこの高さ方向の隙間G1が無い場合、第二プレート12の上下の端面に木製拘束体20の溝条26が引っ掛かり、第一プレート11の広幅面11cに拘束材21が当接しない場合が生じ得る。
【0068】
一対の拘束材21の間の隙間25に芯材10の第一プレート11が配設され、上下の溝条26に第二プレート12が配設され、一対の拘束材21とスペーサー16に対して複数の第一長ボルト31が挿通されてナット33にて締付けられ、一対の側材22と拘束材21に対して第二長ボルト41が挿通されてナット43にて締付けられることにより、座屈拘束ブレース100が形成される。
【0069】
座屈拘束ブレース100によれば、一対の拘束材21と一対の側材22が複数の第一長ボルト31と第二長ボルト41をナット締めすることによって強固に閉合されてなる木製拘束体20により、断面十字状の芯材10が包囲されている構成を有することから、座屈強度の高い座屈拘束ブレースとなる。さらに、鋼製の芯材10が木製拘束体20にて包囲されていることにより、座屈拘束ブレース100を木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与えない。
【0070】
例えば図6に示すように、図示する座屈拘束ブレース100において、木製拘束体20の隙間25内には、第一プレート11の左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が収容され、第一プレート11の側面から側方に張り出す突起15が係合孔22aに係合されている。
【0071】
図4図6及び図7に示すように、芯材10の第一プレート11の広幅部11aの側面(狭幅面11d)と木製拘束体20の側材22の間には、幅t1の隙間G3が設けられている。また、図4及び図8に示すように、第二プレート12の広幅部12aと木製拘束体20の拘束材21の有するスリット24の間には、第二プレート12の長手方向に幅t2であり、第二プレート12の側方に幅t1の隙間G4が設けられている。このように、第一プレート11の広幅部11aの側面と木製拘束体20の側材22の間に隙間G3を有していることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G3にて芯材10の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体20に作用することを解消できる。一方、スリット24と第二プレート12との間に隙間G4が存在することにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G4が吸収することができ、伸縮する芯材10(の第二プレート12の広幅部12a)がスリット24の壁面に接触して木製拘束体20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0072】
また、図6に示すように、第一プレート11の広幅部11aと狭幅部11bの境界領域Aは、芯材10の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材10に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる付加曲げ吸収エリアとなっている。このように、芯材10に作用する付加曲げモーメントを、芯材10の第一プレート11の広幅部11aと狭幅部11bの境界領域Aにて効果的に吸収し、芯材10と木製拘束体20の側材22の間に設けられた隙間G3により、芯材10に作用する付加曲げモーメントを木製拘束体20の側材22に作用させないようにすることができる。
【0073】
さらに、芯材10の第一プレート11の中央側に狭幅部11bを設けたことにより、狭幅部11bと側材22の間に存在する比較的大きな隙間G5(芯材10の第一プレート11の端部側の広幅部11aと側材22の間の隙間G3よりも大きな隙間)に対して、スペーサー16を介在させて隙間G5を閉塞することにより、芯材10の第一プレート11の強軸方向(第一プレート11の広幅面11cに平行な方向)の座屈を防止することができる。そのため、座屈拘束ブレース100の全体座屈が抑制され、座屈拘束ブレース100の圧縮耐力が向上することにより、座屈拘束ブレース100が組み込まれた架構とこの架構を含む建築物に対して優れた耐震補強効果を付与できる。
【0074】
<架構への座屈拘束ブレースの適用例>
次に、図9及び図10を参照して、架構への座屈拘束ブレースの適用例について説明する。ここで、図9は、実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、図10は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC:Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。
【0075】
図9に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある二つの隅角部には、平鋼により形成されるガセットプレートGPが取付けられている。ガセットプレートGPの表面には、該表面に直交するようにフィンスチフナFSが溶接にて接合されている。柱Cの柱芯L1と梁Bの梁芯L2の交点Oに対して、フィンスチフナFSの芯L3が交差するようにしてフィンスチフナFSがガセットプレートGPに接合される。そして、座屈拘束ブレース100も、対角位置にある双方の交点Oを通る線状に配設される。
【0076】
ガセットプレートGPと芯材10の第一プレート11の広幅部11aは、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合され、フィンスチフナFSと第二プレート12は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合される。
【0077】
図10に示すように、大地震時において構面が変形することにより、座屈拘束ブレース接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0078】
【数1】
【0079】
座屈拘束ブレース100によれば、芯材10の第一プレート11の広幅部11aの側面と木製拘束体20の側材22の間に幅t1の隙間G3が設けられていることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G3にて芯材10の変形を吸収し、付加曲げモーメントが木製拘束体20に作用することを解消できる。また、芯材10の第二プレート12と木製拘束体20の拘束材21の有するスリット24の間において、第二プレート12の長手方向に幅t2であり、第二プレート12の側方に幅t1の隙間G4が設けられていることにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G4が吸収することができ、伸縮する芯材10の第二プレート12の広幅部12aがスリット24の壁面に接触して、木製拘束体20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0080】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0081】
10:芯材
11:第一プレート
11a:広幅部
11b:狭幅部
11c:広幅面
11d:狭幅面
11e:ボルト孔
12:第二プレート
12a:広幅部
12b:狭幅部
12c:広幅面
12d:狭幅面
12e:ボルト孔
15:突起
16:スペーサー
16a:ボルト孔
20:木製拘束体
21:拘束材(集成材)
21':ラミナ
21":座ぐり溝
21a:第一ボルト孔
21b:第一ボルト孔ユニット
21c:第二ボルト孔
22:側材(集成材)
22':ラミナ
22":座ぐり溝
22a:第二ボルト孔
22b:第二ボルト孔ユニット
22c:係合孔
24:スリット
25:隙間
26:溝条
31:第一長ボルト
32:座金
33:ナット
34:座金
41:第二長ボルト
42:座金
43:ナット
44:座金
100:座屈拘束ブレース
G1,G2、G3:隙間
A:付加曲げ吸収エリア(境界領域)
Y:溶接部
S:架構(構面)
C:柱
B:梁
GP:ガセットプレート
FS:フィンスチフナ
SP:スプライスプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10