(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
E04B1/58 D
(21)【出願番号】P 2020045667
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-180535(JP,A)
【文献】特開平04-070438(JP,A)
【文献】特開2007-186893(JP,A)
【文献】特開2020-193431(JP,A)
【文献】国際公開第2019/204558(WO,A1)
【文献】特開2021-055260(JP,A)
【文献】特開2008-174932(JP,A)
【文献】特開2019-214881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向する第一プレートと、一対の対向する第二プレートと、を有する断面矩形の鋼管により形成される芯材と、
前記一対の対向する第一プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている木製で一対の拘束材と、前記一対の対向する第二プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設され、前記一対の拘束材に接続されている木製で一対の側材と、により形成される木製拘束体と、を有し、
前記拘束材には第一ボルト孔が開設され、
前記一対の側材において、前記第一ボルト孔に対応する位置には第二ボルト孔が開設され、該第二ボルト孔に直交する第三ボルト孔がさらに開設されており、
対応する前記第一ボルト孔と前記第二ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
複数の第三ボルト孔にそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
一対の対向する第一プレートと、一対の対向する第二プレートと、を有する断面矩形の鋼管により形成される芯材と、
前記一対の対向する第一プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている二つの第一拘束材と、前記一対の対向する第二プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている二つの第二拘束材と、を備え、該第一拘束材の一端と該第二拘束材の側面が矩形枠状に相互に接続されることにより形成される木製拘束体と、を有し、
前記第一拘束材と前記第二拘束材はいずれも、相互に直交する第四ボルト孔と第五ボルト孔を備え、
前記第一拘束材の前記第四ボルト孔と前記第二拘束材の前記第五ボルト孔が連通して第三ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第三ボルト孔ユニットにそれぞれ第三長ボルトが挿通されてナット締めされ、
前記第一拘束材の前記第五ボルト孔と前記第二拘束材の前記第四ボルト孔が連通して第四ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第四ボルト孔ユニットにそれぞれ第四長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記一対の
対向する第一プレートの端部と前記一対の
対向する第二プレートの端部にはそれぞれ、前記芯材の長手方向に延設する第一スリットと第二スリットが開設されており、
相互に直交する第三プレートと第四プレートにより形成され、その長手方向に直交する断面が十字状の端部補強材が、前記第一スリットに該第三プレートが挿通され、前記第二スリットに該第四プレートが挿通されることにより前記芯材の両端部と接合されており、
前記木製拘束体のうち、前記第三プレートと前記第四プレートに対応する位置には、該第三プレートと該第四プレートに干渉しない第三スリットが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記第三プレートと前記第三スリットの間、及び、前記第四プレートと前記第三スリットの間にそれぞれ隙間を有していることを特徴とする、請求項3に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記端部補強材の十字状の断面積に比べて、前記芯材の矩形枠状の断面積が小さいことを特徴とする、請求項3又は4に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記第一プレートと前記第二プレートの少なくとも一方には突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
そこで、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼製の芯材が木製の拘束材にて包囲された座屈拘束ブレースに対して、例えば大地震時に架構が大きく変形した際に、この変形に起因する、所謂、付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)が拘束材に作用し得る。この付加曲げモーメントが木製の拘束材に作用することにより、拘束材が破損に至る可能性が生じる。そして、拘束材が破損することにより、拘束材による芯材の座屈拘束機能が低下し、芯材が座屈に至り得る。特許文献1には、このような所謂付加曲げモーメントが拘束材に作用することを防止する措置についての言及がない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体に作用して破損することを解消できる座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
一対の対向する第一プレートと、一対の対向する第二プレートと、を有する断面矩形の鋼管により形成される芯材と、
前記一対の対向する第一プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている木製で一対の拘束材と、前記一対の対向する第二プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設され、前記一対の拘束材に接続されている木製で一対の側材と、により形成される木製拘束体と、を有し、
前記拘束材には第一ボルト孔が開設され、
前記一対の側材において、前記第一ボルト孔に対応する位置には第二ボルト孔が開設され、該第二ボルト孔に直交する第三ボルト孔がさらに開設されており、
対応する前記第一ボルト孔と前記第二ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
複数の第三ボルト孔にそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、断面矩形の鋼管により形成される芯材の周囲において、一対の拘束材とその側方にある一対の側材がそれぞれ複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、側材においてはさらに複数の第二長ボルトがナット締めされることにより、一対の拘束材と一対の側材による拘束性の高い木製拘束体を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。また、相互に直交する第一長ボルトと第二長ボルトの双方がナット締めされて木製拘束体が形成されることにより、木製拘束体に補剛力が作用した際に、この補剛力に起因して拘束材や側材がその繊維直交方向に割裂破壊されることを効果的に防止できる。
【0011】
尚、第二長ボルトをナット締めすることなく、第一長ボルトのみをナット締めすることによっても、拘束材と側材を組み付けて木製拘束体を形成することはできるが、この場合は、拘束材にのみナット締めによる軸力が導入され、側材には軸力が導入されないことから、木製拘束体の全閉合断面(閉合方向)に軸力が導入された高剛性の木製拘束体を形成することができない。そこで、本態様においては、側材に第三ボルト孔を設け、第三ボルト孔に第二長ボルトを挿通してナット締めすることにより、側材にも軸力を導入し、拘束材と側材の双方に軸力が導入された木製拘束体を形成している。
【0012】
本態様においては、「拘束材」と「側材」を相互に入れ替えた構成であってもよい。この場合、上記構成は、「前記一対の対向する第一プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている木製で一対の側材と、前記一対の対向する第二プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設され、前記一対の側材に接続されている木製で一対の拘束材と、により形成される木製拘束体と、を有し、前記側材には第一ボルト孔が開設され、前記一対の拘束材において、前記第一ボルト孔に対応する位置には第二ボルト孔が開設され、該第二ボルト孔に直交する第三ボルト孔がさらに開設されており、対応する前記第一ボルト孔と前記第二ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、複数の第三ボルト孔にそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされている」のように置き換えることができる。
【0013】
ここで、「断面矩形の鋼管」とは、断面が正方形の鋼管と長方形の鋼管の双方を含んでいる。第一プレートと第二プレートの幅(芯材の長手方向に直交する方向の長さ)が同じ場合は断面正方形となり、第一プレートと第二プレートの幅が異なる場合は断面長方形となる。また、断面矩形の四つの隅角がR加工されている形態も、断面矩形に含まれるものとする。この鋼管には、角形鋼管の他、四面ボックス部材(四枚の平鋼による溶接組立箱形断面部材)、二つの溝形鋼による溶接組立箱形断面部材等が含まれる。芯材が断面矩形の鋼管にて形成されていることにより、芯材の高次座屈モードの波長が長くなり、それに伴って木製拘束体に作用する補剛力を小さくすることができ、このことに起因して木製拘束体の局部破壊を生じ難くすることができる。
【0014】
また、木製で一対の拘束材が「第一プレートの二つの広幅面に当接する」とは、拘束材と第一プレートとの間に隙間が無い状態を意味している。双方の間に隙間があると、芯材が圧縮力を受けた際に芯材がその長手方向に亘り波を打った態様で変形し得る。そして、この波の頂部が拘束材を内側から押圧することにより、作用する押圧力により拘束材が破損に至り得る。隙間(の高さ)が大きくなるに従い、芯材の変形量が大きくなり、拘束材に作用する押圧力が大きくなる。例えば従来の座屈拘束ブレースのように、鋼製でプレート状の芯材の周囲に鋼製の拘束材が配設されている形態においては、芯材と拘束材の間に隙間が無い場合に、圧縮力を受けた芯材はそのポアソン比に応じて側方に膨らむように変形し、膨らんだ芯材が拘束材を内側から押圧して双方の界面に大きな摩擦力が生じたり、芯材で押圧された拘束材が破損に至り得るといった課題があった。
【0015】
それに対して、本態様の座屈拘束ブレースのように、芯材の周囲に木製拘束体が配設されていることにより、芯材(第一プレート)と拘束材の間に隙間が無い場合に、芯材(第一プレート)が側方に膨らんで木製拘束体をその内側から押圧した際に、芯材(第一プレート)に対してヤング率の小さな木製拘束体は適度に変形して、押し込んできた芯材(第一プレート)を吸収することができる。すなわち、木製拘束体を適用する本態様においては、木製で一対の拘束材は、第一プレートの二つの広幅面に対して隙間無く当接することにより、拘束材の破損が抑止されながら、木製拘束体による高い拘束効果を期待することができる。
【0016】
また、本態様においては、側材も第二プレートに隙間無く当接している。このように、一対の拘束材が一対の第一プレートに隙間無く当接し、一対の側材が一対の第二プレートに隙間無く当接していることにより、木製拘束体の内部における芯材が、ブレースの長手方向に直交する方向へずれることを防止できる。従って、このようにずれを生じる場合に、ずれ防止用のスペーサーを芯材と木製拘束体の間に介在させるといった措置は不要になる。尚、拘束材と側材の当接面が接着剤により接合された上で、第一長ボルトにより締付けられていてもよい。このように拘束材と側材の当接面が接着剤により接合され、さらに第一長ボルトにより締付けられていることにより、拘束材と側材の当接面である接着面が第一長ボルトにて圧着され、拘束材と側材の接続強度がより一層高い木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0017】
また、本態様においては、一対の拘束材と一対の側材が相互に接続されて、四つの面材による閉合構造を有する木製拘束体が形成され、断面矩形の鋼管からなる芯材が木製拘束体にて包囲されている構成により、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、拘束材と側材は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材により形成されてもよい。
【0018】
さらに、本態様においては、木製拘束体が、一対の拘束材を挟んで一対の側材が接続される構成を有していることから、木製拘束体の加工が容易になる。例えば、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の二つの拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する加工を要する。これに対して、本態様の座屈拘束ブレースは、一対の拘束材に対して一対の側材を接続して木製拘束体を製作し、例えばこの木製拘束体の有する中空に芯材を挿通することにより座屈拘束ブレースを製作することができる。そのため、座屈拘束ブレースの製作がより一層容易になる。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
一対の対向する第一プレートと、一対の対向する第二プレートと、を有する断面矩形の鋼管により形成される芯材と、
前記一対の対向する第一プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている二つの第一拘束材と、前記一対の対向する第二プレートのそれぞれの広幅面に当接するように配設されている二つの第二拘束材と、を備え、該第一拘束材の一端と該第二拘束材の側面が矩形枠状に相互に接続されることにより形成される木製拘束体と、を有し、
前記第一拘束材と前記第二拘束材はいずれも、相互に直交する第四ボルト孔と第五ボルト孔を備え、
相互に直交する前記第一拘束材の前記第四ボルト孔と前記第二拘束材の前記第五ボルト孔が連通して第三ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第三ボルト孔ユニットにそれぞれ第三長ボルトが挿通されてナット締めされ、
相互に直交する前記第一拘束材の前記第五ボルト孔と前記第二拘束材の前記第四ボルト孔が連通して第四ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第四ボルト孔ユニットにそれぞれ第四長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、二つの第一拘束材と二つの第二拘束材を第三長ボルトと第四長ボルトをナット締めすることにより矩形枠状の木製拘束体を形成し、この木製拘束体にて断面矩形の鋼管からなる芯材を包囲することにより、一対の第一拘束材及び一対の第二拘束材による拘束性の高い木製拘束体を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。また、相互に直交する第三長ボルトと第四長ボルトの双方がナット締めされて木製拘束体が形成されることにより、木製拘束体に補剛力が作用した際に、この補剛力に起因して拘束材や側材がその繊維直交方向に割裂破壊されることを効果的に防止できる。
【0021】
ここで、「第一拘束材の一端と第二拘束材の側面が矩形枠状に相互に接続されることにより形成される木製拘束体」とは、第一拘束材の一端が第二拘束材の端部の側面に接続されることにより、断面L形の拘束材が形成され、このように形成された二つの断面L形の拘束材が相互に接続されることにより、矩形枠状の木製拘束体が形成されることを意味している。この木製拘束体においては、第三長ボルトと第四長ボルトが相互に矩形枠状の木製拘束体の各拘束材の内部に配設され、ナット締めされる。例えば、芯材が断面正方形の鋼管により形成される場合は、第一拘束材と第二拘束材はいずれも同じ寸法の拘束材により形成でき、したがって、四つの同じ拘束材により木製拘束体が形成されることから、木製拘束体の加工性が良好になり、加工に要するコスト削減に繋がる。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記一対の第一プレートの端部と前記一対の第二プレートの端部にはそれぞれ、前記芯材の長手方向に延設する第一スリットと第二スリットが開設されており、
相互に直交する第三プレートと第四プレートにより形成され、その長手方向に直交する断面が十字状の端部補強材が、前記第一スリットに該第三プレートが挿通され、前記第二スリットに該第四プレートが挿通されることにより前記芯材の両端部と接合されており、
前記木製拘束体のうち、前記第三プレートと前記第四プレートに対応する位置には、該第三プレートと該第四プレートに干渉しない第三スリットが設けられていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、断面矩形の芯材の第一プレートと第二プレートにそれぞれスリット(第一スリットと第二スリット)が開設され、各スリットに断面が十字状の端部補強材を形成する第三プレートと第四プレートが挿通され、例えば隅肉溶接等にて芯材と端部補強材が接合されることにより、芯材の端部における構面内方向及び構面外方向の剛性をともに高めることができる。芯材の端部に接続される断面十字状の端部補強材は、構面のガセットプレート等に取り付けられる。このガセットプレートにおいては、ガセットプレートに対してフィンスチフナが取り付けられ、座屈拘束ブレースの有する端部補強材の第三プレートとガセットプレート、第四プレートとフィンスチフナがそれぞれスプライスプレートを介してハイテンションボルト等により接合される。そして、木製拘束体のうち、端部補強材の第三プレートと第四プレートに対応する位置にそれぞれ第三スリットが設けられていることにより、第三プレート及び第四プレートと木製拘束体の干渉を防止することができる。
【0024】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記第三プレートと前記第三スリットの間、及び、前記第四プレートと前記第三スリットの間にそれぞれ隙間を有していることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、第三プレートと第三スリットの間、及び、第四プレートと第三スリットの間にそれぞれ隙間が存在することにより、構面の変形に応じて芯材や端部補強材が伸縮や変形した際に、この端部補強材の伸縮や変形を隙間にて吸収することができ、端部補強材の第三プレートや第四プレートが木製拘束体の第三スリットの壁面に接触して、木製拘束体が破損に至るといった問題は生じない。
【0026】
例えば大地震時における構面の変形量は設計者の裁量に委ねられ、例えば層間変形角1/100の際の構面の変形量や層間変形角1/75の際の構面の変形量などに基づいて、座屈拘束ブレースの芯材の端部にある端部補強材の変形量や伸縮量が算定される。そして、例えばこの算定された変形量や伸縮量よりも大きな隙間が設定されることにより、付加曲げモーメントが第三スリットを介して木製拘束体に作用することを解消できる。
【0027】
尚、ここでの「隙間」は、第三スリットの長手方向の端部と第三プレートや第四プレートの間の隙間と、第三スリットの側面と第三プレート及び第四プレートの広幅面の間の隙間の双方が含まれる。
【0028】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記端部補強材の十字状の断面積に比べて、前記芯材の矩形枠状の断面積が小さいことを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、端部補強材の十字状の断面積に比べて芯材の矩形枠状の断面積が小さいことにより、端部補強材に比べて芯材の軸剛性を低く設定することができ、例えば芯材における端部補強材の近傍領域を、塑性化し易い塑性化領域とすることができる。さらに、この塑性化領域を、芯材における端部補強材の近傍に限定させることができる。
【0030】
また、芯材における端部補強材の近傍領域が断面積の変化する変化領域であることから、芯材に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。このように、本態様においては、芯材に作用する付加曲げモーメントが芯材における端部補強材の近傍領域にて効果的に吸収され、端部補強材と木製拘束体の間に設けられた隙間により、芯材に作用する付加曲げモーメントを木製拘束体に作用させないようにすることができる。
【0031】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一プレートと前記第二プレートの少なくとも一方には突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする。
【0032】
本態様によれば、芯材の第一プレートと第二プレートの少なくとも一方から張り出す突起が木製拘束体に開設されている係合孔に係合していることにより、木製拘束体の内部に差し込まれている芯材が木製拘束体の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材が木製拘束体の一方の端部に偏った際に、芯材が存在しない木製拘束体の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題を解消することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束体に作用して破損することを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図であって、芯材の端部に端部補強材が取り付けられる前の状態を示す図である。
【
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図であって、芯材の端部に端部補強材が取り付けられている状態を示す図である。
【
図3】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例の縦断面図であって、木製拘束体を形成する拘束材と側材をともに示す図である。
【
図5】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の他例の縦断面図であって、木製拘束体を形成する第一拘束材と第二拘束材をともに示す図である。
【
図6】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
【
図10】実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
【
図11】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0036】
[実施形態に係る座屈拘束ブレース]
<芯材>
はじめに、
図1及び
図2を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図であって、芯材の端部に端部補強材が取り付けられる前の状態を示す図であり、
図2は、芯材の端部に端部補強材が取り付けられている状態を示す図である。
【0037】
芯材10は、一対の対向する第一プレート11と、一対の対向する第二プレート12とを有する、断面矩形(図示例は断面正方形)の鋼管により形成される。ここで、図示例の芯材10は断面正方形の角形鋼管により形成されているが、芯材はその他、断面長方形であってもよいし、四枚の平鋼による溶接組立箱形断面部材(四面ボックス部材)や、二つの溝形鋼による溶接組立箱形断面部材等であってもよい。
【0038】
一対の第一プレート11の両端部と一対の第二プレート12の両端部にはそれぞれ、芯材10の長手方向に延設する第一スリット14と第二スリット15が開設されている。
【0039】
芯材10の両端部には、断面が十字状の端部補強材18が取り付けられる。端部補強材18は、鋼製の第四プレート17と二つの第三プレート16とにより形成され、第四プレート17の二つの広幅面の中央にそれぞれ、当該第四プレート17に直交するように第三プレート16が溶接接合されている。
【0040】
第一プレート11の第一スリット14に第三プレート16がX1方向に挿通され、第二プレート12の第二スリット15に第四プレート17がX1方向に挿通されることにより、
図2に示すように、芯材10の両端部に端部補強材18が取り付けられる。より詳細には、
図2において、第一スリット14と第三プレート16の嵌り込みラインに沿って隅肉溶接が行われ、同様に第二スリット15と第四プレート17の嵌り込みラインに沿って隅肉溶接が行われることにより、芯材10と端部補強材18が溶接接合される。
【0041】
以下で詳説するが、端部補強材18の断面積D1は、芯材の断面積D2よりも大きく設定されている。鋼製の端部補強材18の十字状の断面積D1に比べて鋼製の芯材10の矩形枠状の断面積D2が小さいことにより、双方のヤング率が同じ場合に、端部補強材18に比べて芯材10の軸剛性を低く設定することができ、例えば芯材10における端部補強材18の近傍領域(断面寸法が変化する領域)を塑性化し易い領域(塑性化領域A)とすることができる。そして、この塑性化領域Aを、芯材10における端部補強材18の近傍に限定させることができる。
【0042】
また、端部補強材18を形成する第三プレート16と第四プレート17にはそれぞれ、以下で説明するように、構面に設けられているガセットプレートやガセットプレートに取り付けられているフィンスチフナ(
図10参照)にスプライスプレートを介してボルト接合されるためのボルト孔16a、17aが開設されている。芯材10を構成する第一プレート11の広幅面が建物の構面に平行に配設されるようにして、座屈拘束ブレース100の芯材10が端部補強材18を介してガセットプレートに取り付けられる場合、芯材10が構面に平行な第一プレート11の広幅面に直交する第二プレート12を有する断面矩形の鋼管にて形成され、芯材10の端部に断面十字状の端部補強材18が取り付けられていることにより、芯材10の端部においては、構面内方向に加えて構面外方向の剛性も高められる。
【0043】
芯材10や端部補強材18は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0044】
一対の第一プレート11の中央位置には、鋼製で円柱状の突起13が張り出している(
図1及び
図2には、一方の第一プレート11の突起13のみを図示)。突起13は、第一プレート11の広幅面に対して溶接等により接合されている。この突起13は、以下で説明する木製拘束体20(
図4参照)の拘束材21に開設されている係合孔21aに係合する。尚、突起13が第二プレート12の広幅面から張り出している形態であってもよく、この場合は、木製拘束体20(
図4参照)において側材22の対応する位置に係合孔が開設され、ここに突起13が係合する。
【0045】
<木製拘束体>
次に、
図3及び
図4を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例について説明する。ここで、
図3は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の一例の縦断面図であって、木製拘束体を形成する拘束材と側材をともに示す図であり、
図4は、木製拘束体の一例の斜視図である。
【0046】
木製拘束体20は、一対の拘束材21と一対の側材22とを有する。拘束材21と側材22はそれぞれ、ラミナ21'、22'が積層された集成材により形成されている。尚、拘束材21と側材22は、集成材以外にも無垢材により形成されてもよく、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止できるように、木製拘束体20の断面積や断面剛性、ヤング率等が設定される。そして、このヤング率は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0047】
拘束材21には第一ボルト孔23が開設されている。一方、一対の側材22において、第一ボルト孔23に対応する位置には第二ボルト孔24が開設され、第二ボルト孔24に直交する第三ボルト孔25がさらに開設されている。
【0048】
図3に示すように、一対の拘束材21の両端部を一対の側材22がX2方向に挟み込むように配設され、第一ボルト孔23とその両側の第二ボルト孔24により第一ボルト孔ユニット26が形成される。第二ボルト孔24には座ぐり溝24'が設けられており、第一ボルト孔ユニット26に第一長ボルト31が挿通され、座ぐり溝24'において、座金32を介して第一長ボルト31の先端の螺子溝にナット33が締め付けられる。
【0049】
一方、側材22に設けられている第三ボルト孔25にも座ぐり溝25'が設けられており、第三ボルト孔25に第二長ボルト34が挿通され、座ぐり溝25'において、座金35を介して第二長ボルト34の先端の螺子溝にナット36が締め付けられる。
【0050】
一対の拘束材21と一対の側材22が正方形枠状に組み付けられることにより、中央には断面正方形の芯材10が収容される中央開口27が形成される。尚、拘束材21と側材22の当接面には、予め接着剤が塗布され、接着剤が硬化する前に第一長ボルト31をナット33にて締め付ける加工が行われる。
【0051】
ここで、接着剤には、ウレタン系接着剤とエポキシ系接着剤等があるが、拘束材21と側材22の当接面に接着剤を塗布した後、接着剤が硬化する前に第一長ボルト31をナット33にて締め付ける加工を行うことを可能とするべく、硬化までにある程度の時間を要する(例えば24時間程度)ウレタン系接着剤を適用するのが好ましい。接着剤が硬化することにより形成される接着面は、第一長ボルト31がナット33にて締め付けられる締付け力により強固に圧着される。
【0052】
このように、一対の拘束材21とその側方にある一対の側材22がそれぞれ複数の第一長ボルト31をナット締めすることにより接合され、側材22においてはさらに複数の第二長ボルト34がナット締めされることにより、正方形枠状の閉合方向に軸力が導入され、一対の拘束材21と一対の側材22による拘束性の高い木製拘束体20を形成することができる。
【0053】
図4に示すように、木製拘束体20は、その長手方向に間隔を置いて、複数本の第一長ボルト31と第二長ボルト34によりその全体が一体に組み付けられる。また、木製拘束体20の両端部には、断面正方形の中央開口27の各面の中央位置において、外側に張り出す計四つの第三スリット28が設けられている。以下で詳説するように、各第三スリット28には、端部補強材18を形成する第三プレート16と第四プレート17が隙間を有した状態(第三スリット28に接しない状態)で挿入されるようになっている。
【0054】
一対の拘束材21には、その長手方向の中央位置において、芯材10の有する突起13が係合する係合孔21aが開設されている。芯材10の有する突起13が木製拘束体20に開設されている係合孔21aに係合することにより、木製拘束体20の内部に差し込まれている芯材10が木製拘束体20の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材10が木製拘束体20の一方の端部に偏った際に、芯材10が存在しない木製拘束体20の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題は生じない。
【0055】
次に、
図5を参照して、木製拘束体の他例を示す。ここで、
図5は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束体の他例の縦断面図であって、木製拘束体を形成する第一拘束材と第二拘束材をともに示す図である。
【0056】
図示する木製拘束体20Aは、一対の第一拘束材21Aと、一対の第二拘束材21Bとを有し、第一拘束材21Aの一端21aが第二拘束材21Bの側面21bに当接されるように双方をX2方向に配設し、それらが相互に矩形枠状に接続されることにより形成される。
【0057】
図示する第一拘束材21Aと第二拘束材21Bは同寸法の拘束材であり、従って、木製拘束体20Aは
図3及び
図4に示す木製拘束体20と同様に正方形枠状を呈し、その中央に正方形断面の中央開口27を備える。
【0058】
第一拘束材21Aと第二拘束材21Bはいずれも、相互に直交する第四ボルト孔41と第五ボルト孔42を備えている。相互に直交する第一拘束材21Aの第四ボルト孔41と第二拘束材21Bの第五ボルト孔42が連通して第三ボルト孔ユニット43が形成される。そして、第四ボルト孔41と第五ボルト孔42にはそれぞれ座ぐり溝41'、42'が設けられており、第三ボルト孔ユニット43に第三長ボルト37Aが挿通され、座ぐり溝42'において、座金38Aを介して第三長ボルト37Aの先端の螺子溝にナット39Aが締め付けられる。
【0059】
一方、相互に直交する第一拘束材21Aの第五ボルト孔42と第一拘束材21Aの第四ボルト孔41が連通して第四ボルト孔ユニット44が形成される。そして、第四ボルト孔ユニット44に第四長ボルト37Bが挿通され、座ぐり溝42'において、座金38Bを介して第四長ボルト37Bの先端の螺子溝にナット39Bが締め付けられる。
【0060】
尚、木製拘束体20Aの製作においても、第一拘束材21Aの端部21aと第二拘束材21Bの側面21b(双方の当接面)には、予め接着剤が塗布され、接着剤が硬化する前に第三長ボルト37Aがナット39Aにて締め付けられ、第四長ボルト37Bがナット39Bにて締め付けられる加工が行われる。
【0061】
<座屈拘束ブレース>
次に、
図6乃至
図9を参照して、これまでに説明した芯材10及び端部補強材18と木製拘束体20にて形成される、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図6は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、
図7乃至
図9はそれぞれ、
図6のVII-VII矢視図、
図6のVIII-VIII矢視図、及び
図6のIX-IX矢視図である。
【0062】
座屈拘束ブレース100において、木製拘束体20の有する断面正方形の中央開口27に断面正方形の鋼管からなる芯材10が収容され、中央開口27の各面の中央位置において外側に張り出す四つの第三スリット28に、端部補強材18を形成する第三プレート16と第四プレート17が隙間を有した状態で挿入されることにより、座屈拘束ブレース100が形成される。ここで、芯材10を形成する一対の拘束材21の広幅面に設けられている突起13が、木製拘束体20を形成する一対の拘束材21に設けられている係合孔21aに係合することにより、芯材10と木製拘束体20の長手方向への相対移動が抑止される。
【0063】
木製拘束体20の両端部から端部補強材18の一部が外側に張り出しており、第三プレート16と第四プレート17の有するボルト孔16a、17aが外部に臨んでいる。
【0064】
まず、芯材10において、その長手方向に直交する断面が正方形枠状を呈していることにより、芯材10の高次座屈モードの波長が長くなり、それに伴って木製拘束体20に作用する補剛力を小さくすることができ、このことに起因して木製拘束体20の局部破壊を生じ難くすることができる。
【0065】
図7に示すように、芯材10の第一プレート11と第二プレート12はいずれも、木製拘束体20の中央開口27の壁面に隙間無く当接している。このように、芯材10が木製拘束体20の内部に隙間無く配設されていることにより、例えば芯材10の第一プレート11に圧縮力が作用して側方に膨らみ、木製拘束体20をその内側から押圧した際に、第一プレート11に対してヤング率の小さな木製拘束体20は適度に変形して、押し込んできた第一プレート11を吸収することができる。すなわち、木製拘束体20を適用する座屈拘束ブレース100においては、木製で一対の拘束材21と側材22がそれぞれ、第一プレート11と第二プレート12の二つの広幅面に対して隙間無く当接することにより、拘束材21や側材22の破損が抑止されながら、木製拘束体20による高い拘束効果を期待することができる。
【0066】
図8に示すように、端部補強材18を形成する第三プレート16と第四プレート17は、隅肉溶接による溶接部Yを介して相互に接続されている。また、第一スリット14と第三プレート16の嵌り込み箇所も、隅肉溶接による溶接部Yを介して相互に接続され、同様に第二スリット15と第四プレート17の嵌り込み箇所も、隅肉溶接による溶接部Yを介して相互に接続されることにより、芯材10と端部補強材18が相互に接続されている。
【0067】
図8に示すように、木製拘束体20の第三スリット28に第三プレート16と第四プレート17が挿入された状態において、第三スリット28と第三プレート16及び第四プレート17の間には、その左右及び上下において幅t1の隙間G1が設けられている。
【0068】
さらに、
図9に示すように、第三スリット28の長手方向の端部と第三プレート16及び第四プレート17の間には、幅t2の隙間G2が設けられている。
【0069】
このように、第三プレート16と第三スリット28の間、及び、第四プレート17と第三スリット28の間にそれぞれ隙間G1、G2が存在することにより、構面の変形に応じて芯材10や端部補強材18が変形や伸縮した際に、この端部補強材18の変形や伸縮を隙間G1,G2が吸収することができる。このことにより、端部補強材18の第三プレート16や第四プレート17が木製拘束体20の第三スリット28の壁面に接触して、木製拘束体20が破損に至るといった問題は生じない。尚、芯材10や端部補強材18の変形量や伸縮量に応じて隙間G1の幅t1と隙間G2の幅t2が設定されることから、幅t1と幅t2は異なる幅に設定される場合もあるし、同じ値に設定される場合もある。
【0070】
また、端部補強材18の十字状の断面積D1に比べて、芯材10の正方形枠状の断面積D2が小さく設定されている。
【0071】
部材の軸剛性は、部材の有するヤング率Eと断面積Dの積で表すことができるが、端部補強材18と芯材10を同様の鋼材にて形成する(双方のヤング率Eが同じ)場合において、断面積D1に比べて断面積D2が小さく設定されていることにより、端部補強材18に比べて芯材10の軸剛性を低く設定することができる。そして、このことにより、芯材10における端部補強材18の近傍領域を塑性化し易い塑性化領域A(
図2参照)とすることができ、さらには、塑性化領域Aを芯材10における端部補強材18の近傍に限定させることができる。
【0072】
また、芯材10における端部補強材18の近傍領域が断面積の変化する変化領域であることから、芯材10に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。このように、座屈拘束ブレース100においては、芯材10に作用する付加曲げモーメントが芯材10における端部補強材18の近傍領域にて効果的に吸収され、端部補強材18と木製拘束体20の間に設けられた隙間G1、G2により、芯材10に作用する付加曲げモーメントを木製拘束体20に作用させないようにすることができる。
【0073】
座屈拘束ブレース100によれば、一対の拘束材21と一対の側材22が複数の第一長ボルト31と第二長ボルト34をナット締めすることによって強固に閉合されてなる木製拘束体20により、正方形断面の芯材10が包囲されている構成を有することから、座屈強度の高い座屈拘束ブレースとなる。さらに、鋼製の芯材10が木製拘束体20にて包囲されていることにより、座屈拘束ブレース100を木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与えない。
【0074】
<架構への座屈拘束ブレースの適用例>
次に、
図10及び
図11を参照して、架構への座屈拘束ブレースの適用例について説明する。ここで、
図10は、実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、
図11は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC:Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。
【0075】
図10に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある二つの隅角部には、平鋼により形成されるガセットプレートGPが取付けられている。ガセットプレートGPの表面には、該表面に直交するようにフィンスチフナFSが溶接にて接合されている。柱Cの柱芯L1と梁Bの梁芯L2の交点Oに対して、フィンスチフナFSの芯L3が交差するようにしてフィンスチフナFSがガセットプレートGPに接合される。そして、座屈拘束ブレース100も、対角位置にある双方の交点Oを通る線状に配設される。
【0076】
ガセットプレートGPと端部補強材18の第四プレート17は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合され、フィンスチフナFSと端部補強材18の第三プレート16は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合される。
【0077】
図11に示すように、大地震時において構面が変形することにより、座屈拘束ブレース接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0078】
【0079】
座屈拘束ブレース100によれば、芯材10に取り付けられている端部補強材18と木製拘束体20の間に、幅t1の隙間G1や幅t2の隙間G2が設けられていることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G1、G2にて芯材10及び端部補強材18の変形や伸縮を吸収することができる。そのため、付加曲げモーメントが木製拘束体20に作用して木製拘束体20が破損するといった問題は生じない。
【0080】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0081】
10:芯材
11:第一プレート
12:第二プレート
13:突起
14:第一スリット
15:第二スリット
16:第三プレート
16a:ボルト孔
17:第四プレート
17a:ボルト孔
18:端部補強材
20,20A:木製拘束体
21:拘束材(集成材)
21A:第一拘束材(集成材)
21B:第二拘束材(集成材)
21a:係合孔
22:側材
22':ラミナ
23:第一ボルト孔
24:第二ボルト孔
24':座ぐり溝
25:第三ボルト孔
25':座ぐり溝
26:第一ボルト孔ユニット
27:中央開口
28:第三スリット
31:第一長ボルト
32:座金
33:ナット
34:第二長ボルト
35:座金
36:ナット
37A:第三長ボルト
37B:第四長ボルト
38A,38B:座金
39A,39B:ナット
41:第四ボルト孔
42:第五ボルト孔
43:第三ボルト孔ユニット
44:第四ボルト孔ユニット
100:座屈拘束ブレース
G1、G2:隙間
A:付加曲げ吸収エリア(塑性化領域)
Y:溶接部
D1:端部補強材の断面積
D2:芯材の断面積
S:架構(構面)
C:柱
B:梁
GP:ガセットプレート
FS:フィンスチフナ
SP:スプライスプレート