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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】高耐摩耗性反射防止フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20190101AFI20240528BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240528BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240528BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240528BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20240528BHJP
【FI】
B32B7/02
B32B27/30 A
B32B27/30 D
B32B27/40
C08F290/06
G02B1/111
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020049907
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147540
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】木下 修平
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 将幸
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-095695(JP,A)
【文献】特開2008-169364(JP,A)
【文献】特開2008-156609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14;299/00-299/08
B32B 7/02
B32B 27/30
B32B 27/40
G02B 1/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方面に、ハードコート層、低屈折率層、トップコート層を有する反射防止フィルムであって、
(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]100質量部、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]15~100質量部、(c)光重合開始剤1~10質量部からなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を最外層に、前記トップコート層として有する反射防止フィルム。
【請求項2】
前記(a)は、以下の化学式(1)又は化学式(2)に示す化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【化1】

(式中、nは1~100の整数である。また、XはH又はCH である。)
【化2】

(式中、YはC2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルの表面等に適用される反射防止フィルムに関し、特に、優れた耐摩耗性効果を発現する反射防止フィルムに関する。また、本発明は、優れた耐摩耗性効果を発現する反射防止フィルムを得るための活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRT、プラズマディスプレイ、タッチパネル、屋外表示パネル、電光掲示板等の各種表示体又はガラスは、その表面を保護しながら反射防止性能を発現するために、支持体である熱可塑性樹脂フィルムの上にハードコート層や反射防止層等の硬化層を設けた反射防止フィルムが使用されている。この反射防止フィルムに求められる特性として、低反射率、高透過率、低ヘイズなどの光学的特性と、高硬度、耐擦傷性、耐薬品性、下地との密着性などの物理特性があげられる。近年、ユーザーからの要求として、布やフェルト地でフィルムを摩耗した際の耐性が求められることが多くなっている。
【0003】
反射防止フィルムのユーザーからの要求特性として、これまでは荷重をかけてスチールウールで往復させた際のフィルムの傷付きを評価する耐擦傷性が一般的であったが、近年、自動車向けのタッチパネル用途が増えており、実使用での耐久性が求められる傾向が強くなっており、実際にディスプレイをワイプすることを想定した耐摩耗性が求められている。耐擦傷性は相手材が硬度の高いスチールウールであり、傷付きを防ぐためには塗膜の弾性率を高くすること、硬度を高くすることが必要となる。それに対して、耐摩耗性は相手材が硬度の低い布やフェルト地であり、傷付きや塗膜剥がれを防ぐ方法は、耐擦傷性の方法とは異なる。またスチールウール耐擦傷試験の往復回数は10~300回で評価することが多いのに対し、耐摩耗試験の往復回数は500~10000回で評価することが多く、相手材は異なるがより多い回数に対する耐久性が必要となる。
【0004】
しかしながら、反射防止フィルムを構成する、従来、最外層となる低屈折率層は中空シリカなどの低屈折率のナノ粒子と多官能アクリレートなどのバインダー、およびフッ素系添加剤などから成るが、その強度が弱く、耐摩耗性を試験すると、傷付きや塗膜の剥離が生じる。一方、高強度となり得るシリカやジルコニアなどのナノ粒子と多官能アクリレートなどから成る層を最外層に用いた場合では、屈折率が高いため、得られる反射防止フィルムの反射率が高くなる。
すなわち、これまでの反射防止フィルムでは反射防止性能と耐摩耗性を両立した反射防止フィルムは得られておらず、この課題をクリアできる反射防止フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-85558
【文献】特開2016-94669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐摩耗性を向上させる手法として、シリコン系、フッ素系添加剤を加えることで、塗膜の強度、塗膜表面の滑り性を上げて塗膜の傷や剥がれを防ぐ方法が知られている。
特許文献1のコーティング剤を用いた場合は、耐摩耗性を評価している記載はないものの、防汚性を付与するため、パーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレートが配合されているが、その配合量が少ないため、塗膜表面の滑り性が不足し、耐摩耗性が不足する課題を有する。また、ウレタンアクリレート系組成物との相溶性が悪くなり白化するという観点から、パーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレートを増やすことは塗膜外観において好ましくない。特許文献2の表面処理剤を用いた場合は、蒸着工程による表面処理であり、一般的な樹脂組成物から成る下地との密着性が悪く、耐摩耗試験においても塗膜剥がれが生じるという課題を有する。
【0007】
本発明の目的とするところは、上記のような課題を克服し、反射防止性能を維持しつつ、塗膜外観と耐摩耗性を両立させるための活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、および反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来の反射防止フィルムに(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]と(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]と(c)光重合開始剤を含み、かつ、十分な滑り性を付与するため、(a)と(b)の割合を(a)≧(b)となるようなトップコート層を従来の反射防止フィルムの最外層に設けることで、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕及び〔2〕である。
【0009】
〔1〕(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]100質量部、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]15~100質量部、(c)光重合開始剤1~10質量部からなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
〔2〕〔1〕に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を最外層に有する反射防止フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、反射防止性能を維持しつつ、塗膜外観と耐摩耗性を両立させるための活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、および反射防止フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<反射防止フィルム>
本発明の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの一方面に、(構成1)ハードコート層、低屈折率層、トップコート層、または(構成2)ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層、トップコート層、または(構成3)ハードコート層、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層、トップコート層が、この順に設けられてなる。以下に、この反射防止フィルムの構成要素について順に説明する。
また、本発明の反射防止フィルムは、上記層構成によって視感度反射率が異なるが、構成3の場合、視感度反射率は好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.6%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。また、耐摩耗試験において、好ましくは1000回以上変化なし、より好ましくは3000回以上変化なし、さらに好ましくは5000回以上変化なしである。
視感度反射率および耐摩耗性は下記実施例の項に示した測定方法で測定された値である。
【0012】
<透明基材フィルム>
本発明の反射防止フィルムに係る透明基材フィルムは、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムを使用できる。これらの中では、トリアセチルセルロース樹脂が好ましく挙げられる。ポリエステル樹脂からなるフィルムとしては東レ(株)製PETフィルム「ルミラーU-403」(商品名)、ポリカーボネート樹脂からなるフィルムとしては帝人化成(株)製ポリカーボネートフィルム「PC-2151」(商品名)、トリアセチルセルロース樹脂からなるフィルムとしては富士フイルム(株)製トリアセチルセルロースフィルム「フジタック」(商品名)、ノルボルネン系樹脂からなるフィルムとしてはJSR(株)製「ARTON」(商品名)、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムとしては日本ゼオン(株)製「ゼオノアフィルム」(商品名)(ZF14、ZF16)等が挙げられる。
透明基材フィルムの膜厚は通常25~400μmである。さらに透明基材フィルムの透過率は、全光線透過率測定において、好ましくは80%以上である。
【0013】
<ハードコート層>
ハードコート層は、従来より反射防止フィルム等に用いられる公知のものであれば特に限定されず、透明基材フィルム上に直接形成される層であり、透明基材フィルムの表面硬度を向上させることができる。ハードコート層の厚みは、0.5~15μmである。ハードコート層は、紫外線硬化型樹脂と光重合開始剤を含有するハードコート層用樹脂組成物(HC)を透明基材フィルムに直接塗布した後に、紫外線硬化させてなる硬化物からなる層である。
【0014】
ハードコート層用樹脂組成物(HC)は、加工時又は実使用時に発生する埃等の異物の付着を防ぐ目的で帯電防止剤を含んでいてもよい。そのような帯電防止剤としては、例えば4級アンモニウム塩系共重合体等が挙げられる。また、塗工性を向上させる目的でレベリング剤や耐候性を付与する目的で光安定化剤を含んでいてもよい。そのようなレベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、光安定化剤としては、ヒンダードアミン系の光安定化剤(HALS)等が挙げられる。
【0015】
ハードコート層用樹脂組成物(HC)には、ハードコート層の屈折率を調整するために必要に応じて金属酸化物等の屈折率調整剤が含有されていてもよい。屈折率調整に使用する金属酸化物は、屈折率を上昇する目的でハードコート層塗布液に添加するものであれば、その種類は特に限定されない。
【0016】
<中屈折率層>
反射防止性を向上するために、適宜、ハードコート層と高屈折率層の間に、ハードコート層より屈折率の高く、高屈折率より屈折率の低い中屈折率層を設けてもよい。中屈折率層は、中屈折率層用樹脂組成物を硬化させることにより形成される。
中屈折率層の屈折率は、ハードコート層、低屈折率層の屈折率より高く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.55~1.65の範囲であるのが好ましい。下限値としては好ましくは1.58以上である。上限値としては好ましくは1.62以下である。
中屈折率層の屈折率を上記範囲とすることで、中屈折率層と他の層との屈折率差から生じる干渉を抑制し、反射スペクトルをフラットにすることができるため、視感反射率を向上させることができる。
中屈折率層は、中屈折率層用樹脂組成物(M)をハードコート層の上に塗布した後に、紫外線硬化させてなる硬化物からなる層である。
【0017】
<中屈折率層用樹脂組成物(M)>
中屈折率層は、前記中屈折率層の屈折率の範囲において、従来より反射防止フィルム等に用いられる公知のものであれば特に限定されず、中屈折率層用樹脂組成物としては、ベースとなる有機材料に、屈折率調整用の無機材料を適宜添加したものを用いることができる。ベースとなる有機材料や屈折率調整用の無機材料としては、低屈折率層と同様のものを使用でき、これらの材料の組み合わせや配合バランスにより、求める屈折率に調整すればよい。
【0018】
<高屈折率層>
反射防止性を向上するために、適宜、中屈折率層またはハードコート層と低屈折率層の間に、ハードコート層より屈折率の高い高屈折率層を設けてもよい。高屈折率層は、高屈折率層用樹脂組成物を硬化させることにより形成される。
高屈折率層の屈折率は、ハードコート層、中屈折率層、低屈折率層の屈折率より高く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.55~1.80の範囲であるのが好ましい。下限値として好ましくは1.58以上であり、より好ましくは1.60以上である。上限値として好ましくは1.75以下であり、より好ましくは1.70以下である。
高屈折率層の屈折率を上記範囲とすることで、高屈折率層と他の層との屈折率差から生じる干渉を抑制し、反射スペクトルをフラットにすることができるため、視感反射率を向上させることができる。
【0019】
<高屈折率層用樹脂組成物(H)>
高屈折率層は、前記高屈折率層の屈折率の範囲において、従来より反射防止フィルム等に用いられる公知のものであれば特に限定されず、高屈折率層用樹脂組成物としては、ベースとなる有機材料に、屈折率調整用の無機材料を適宜添加したものを用いることができる。ベースとなる有機材料や屈折率調整用の無機材料としては、低屈折率層と同様のものを使用でき、これらの材料の組み合わせや配合バランスにより、求める屈折率に調整すればよい。
【0020】
高屈折率層、中屈折率層を構成する材料は、ハードコート層、低屈折率層と同じ材料で配合されることが、ハードコート層等との層間の密着性を高めることができるため、好ましい。
高屈折率層用樹脂組成物、中屈折率層用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分として各種添加剤を添加することができる。そのような添加剤としては、例えば、ハードコート層と同様の光重合開始剤、分散剤、界面活性剤、光安定化剤及びレベリング剤等の添加剤が挙げられる。
【0021】
<低屈折率層>
本発明の反射防止フィルムに係る低屈折率層は、前記のハードコート層、または高屈折率層上に設けられる層であり、低屈折率層用樹脂組成物(L)を硬化させることにより形成される。
低屈折率層の屈折率は、ハードコート層の屈折率より低く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.29~1.37の範囲であるのが好ましい。下限値としては好ましくは1.31以上であり、より好ましくは1.33以上である。上限値としては、好ましくは1.36以下であり、より好ましくは1.35以下である。
低屈折率層の屈折率がこの範囲内であれば、十分に吸湿防止性を備えた層を形成することができるとともに、十分な視感度反射率を得ることができる。
また、低屈折率層の厚みは、80~120nmである。
低屈折率層は、前記低屈折率層の屈折率の範囲において、従来より反射防止フィルム等に用いられる公知のものであれば特に限定されない。
【0022】
<低屈折率層用樹脂組成物(L)>
低屈折率層用樹脂組成物(L)は、光重合開始剤、紫外線硬化型樹脂、中空シリカ微粒子を含有するものである。
【0023】
また、低屈折率層は塗工性や防汚染性を向上させる目的で、レベリング剤を含んでいてもよい。そのようなレベリング剤としては、例えば、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンが挙げられる。レベリング剤を使用する場合は、その上限量は好ましくは5.0質量%である。また、従来の低屈折率層は、低屈折率層の防汚染性を向上させるため、パーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートを入れることがあるが、本発明の場合は低屈折率層にパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートを入れるとトップコート層の塗工性、密着性が低下するため、入れないことが好ましい。
【0024】
<トップコート層>
本発明の反射防止フィルムに係るトップコート層は、前記の低屈折率層上に設けられる層であり、トップコート層用樹脂組成物(TP)(本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)を硬化させることにより形成される。
トップコート層の屈折率は、ハードコート層の屈折率より低く、低屈折率層の屈折率よりも高く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.38~1.52の範囲であるのが好ましい。下限値としては好ましくは1.40以上である。上限値としては、好ましくは1.50以下である。
また、トップコート層の厚みは5~30nmであり、下限値としては好ましくは7nm以上である。上限値としては、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは15nm以下である。
トップコート層の屈折率および膜厚がこの範囲内であれば、十分に吸湿防止性を備えた層を形成することができるとともに、十分な視感度反射率および耐摩耗性を得ることができる。
【0025】
<トップコート層用樹脂組成物(TP)(本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)>
トップコート層用樹脂組成物(TP)は、下記の(a)~(c)を含有する。
(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]
(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]
(c)光重合開始剤
【0026】
(a)成分は、フィルムの表面に滑り性を付与するための化合物であり、(b)成分は、トップコート層のバインダーとしての機能を有する化合物である。重合官能基数が高いと下地との密着性が高くなるため、下地側に配向し、重合官能基数が低いと下地との密着性が低く、トップコート層の表面に配向する。(a)成分は、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基は1~3個であり、(b)成分は、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基は4個以上であることから、(a)成分がトップコート層の表面側、(b)成分が下地側に配向する。そして、(a)成分のフッ素を含有する官能基は、フィルムの表面に滑り性を付与するものである。また、(b)成分のフッ素を含有する官能基は、(a)成分との相溶性を高めるための構造であり、フィルムの白濁を抑制し、外観を向上するという機能を有するものである。
【0027】
<(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]>
本発明に用いるトップコート層用樹脂組成物(TP)は、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]を含有させることで、反射防止フィルムに滑り性を発現させることができる。
(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]とは、C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖と、1分子あたり(メタ)アクリレート基を1~3個有する化合物であれば特に限定されない。好ましくは、ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートである。
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖とは、炭素原子数2~7個の炭化水素基の水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖とは、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルにおける水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、パーフルオロポリエチレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリエチレングリコール鎖、パーフルオロポリプロピレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリプロピレングリコール鎖等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖の繰り返し単位数としては、好ましくは1~100である。
【0028】
(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]の例として、特に限定されないが、(メタ)アクリレート基を2個有する2官能性のものが好ましく挙げられる。具体的には、下記化学式(1)で示されるものや下記化学式(2)に示されるものが挙げられる。
【0029】
【化1】
(式中、nは1~100の整数である。また、XはH又はCHである。)
【0030】
【化2】
(式中、YはC2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を表す。)
【0031】
(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]としては、具体的には、ダイキン工業(株)製オプツールDAC-HP、DIC(株)製メガファックRS-75、信越化学(株)製KY-1203、KY-1207等が挙げられる。
【0032】
<(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]>
本発明に用いるトップコート用樹脂組成物(TP)は、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]を含有させることで、下地である低屈折率層との密着性および(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]との相溶性を発現させることができる。
【0033】
(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]とは、C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖と、ウレタン結合と、1分子あたり(メタ)アクリロイル基を4個以上有するオリゴマーであれば特に限定されない。
【0034】
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖とは、炭素原子数2~7個の炭化水素基の水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖とは、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルにおける水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、パーフルオロポリエチレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリエチレングリコール鎖、パーフルオロポリプロピレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリプロピレングリコール鎖等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖の繰り返し単位数としては、好ましくは1~100である。
【0035】
ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、1分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機イソシアネートと、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体とのウレタン化反応によって得ることができるウレタン変性(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。ウレタン結合を有さず、パーフルオロアルキル鎖を有する多官能(メタ)アクリレートオリゴマーでは、ウレタン結合の効果として予想される柔軟性、下地との密着性が不足し、耐摩耗試験において傷付きや塗膜剥がれが生じる。1分子あたりのウレタン結合の数は特に限定されないが、例えば(メタ)アクリロイル基の数と同数のものが挙げられる。
【0036】
1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、3個以下であると塗膜のバインダーとしての効果が十分に得られず、下地の密着性が確保できず、耐摩耗試験において塗膜剥がれが生じる。1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数が4個以上、好ましくは5個以上、さらに好ましくは6個以上のオリゴマーが挙げられる。(メタ)アクリロイル基の数の上限は、特に制限されないが、例えば、30個以下であり、好ましくは20個以下であり、より好ましくは15個以下である。
【0037】
(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]の分子量は小さいと塗膜にした際にブリードアウトし、塗膜の白化、下地との密着性低下の可能性があるため、オリゴマーの分子量は、好ましくは、1000以上、10000以下であり、より好ましくは、1500以上、7000以下である。
【0038】
(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]としては、具体的には、大成ファインケミカル(株)製8UA-600、三菱ケミカル(株)製紫光UT-AF320、UT-6578等が挙げられる。
【0039】
本発明に用いるトップコート層用樹脂組成物(TP)において、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]の含有量は、成分(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]を100質量部として、15~100質量部である。下限値としては、好ましくは20質量部以上であり、より好ましくは25質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。上限値としては、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
本発明のトップコート層用樹脂組成物(TP)において、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]の含有量が15質量部未満では、トップコート層の下地に対する密着性が不足し、耐摩耗試験において塗膜剥がれが生じる。一方、100質量部を超えると、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]の含有量が少なくなり、塗膜表面の滑り性が不足し、耐摩耗試験において傷付きが生じる。
【0040】
<(c)光重合開始剤>
本発明のトップコート層に含まれる光重合開始剤(c)としては、紫外線により重合反応を開始可能であるものであればその種類は特に限定されない。光重合開始剤(c)として好ましくは、220~400nmの波長の光を吸収するものであり、より好ましくは最大吸収波長が300~350nmの範囲にないものである。光重合開始剤として、220~400nmの波長の光を吸収するものであれば、硬化時のオゾンの発生を抑制でき、光重合開始能の発現が不足することを抑制することができる。
【0041】
220~400nmの波長の光を吸収する光重合開始剤としては、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。なかでも、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。これらは、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明に用いるトップコート層用樹脂組成物(TP)において、(c)光重合開始剤の含有量は、成分(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]を100質量部として、1~10質量部である。下限値としては、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上である。上限値としては、好ましくは8質量部以下であり、より好ましくは6質量部以下である。
本発明のトップコート層用樹脂組成物(TP)において、(c)光重合開始剤の含有量が1質量部未満では、トップコート層の硬化が不十分となり、耐摩耗試験で傷付きが生じる。一方、(c)光重合開始剤の含有量が10質量部を超えると、光重合開始剤が不必要に多くなり好ましくない。
【0043】
<各層の形成>
ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層及びトップコート層の形成方法は特に限定されず、例えばドライコーティング法、ウェットコーティング法等の塗布方法により、各層用組成物を適宜溶剤で希釈して調製した各塗液を熱可塑性透明基材フィルムの一方面に、順に塗布し、硬化させる方法を採用することができる。塗布方法としては、生産性や生産コストの面より、特にウェットコーティング法が好ましい。ウェットコーティング法は公知の方法でよく、例えばロールコート法、ダイコート法、スピンコート法、そしてディップコート法等が代表的なものとして挙げられる。これらの中では、ロールコート法等、連続的に塗膜を形成できる方法が生産性の点より好ましい。形成された塗膜は、加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射によって硬化反応を行うことにより硬化被膜を形成することができる。
【実施例
【0044】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(ハードコート層用樹脂組成物(HC)の調製)
紫外線硬化型樹脂として三菱ケミカル(株)製紫光UV-7600Bを95質量部と、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製Omnirad184を5質量部混合し、固形分濃度が40質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合してハードコート層用樹脂組成物(HC)を得た。
【0046】
(中屈折率層用樹脂組成物(M)の調製)
金属酸化物微粒子として酸化チタン微粒子分散液(CIKナノテック(株)製、RTTPGMWT20%-H30)を固形分換算で25質量部、活性エネルギー線硬化型樹脂としてウレタンアクリレートオリゴマー(分子量1400、60℃における粘度が2500~4500Pa・s、三菱ケミカル(株)製、紫光UV7600B)70質量部、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製Omnirad907を5質量部混合し、固形分濃度が3質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を等量ずつ加え、混合することで中屈折率層用樹脂組成物(M)を得た。
【0047】
(高屈折率層用樹脂組成物(H)の調製)
金属酸化物微粒子として酸化チタン微粒子分散液(CIKナノテック(株)製、RTTPGMWT20%-H30)を固形分換算で70質量部、活性エネルギー線硬化型樹脂としてウレタンアクリレートオリゴマー(分子量1400、60℃における粘度が2500~4500Pa・s、三菱ケミカル(株)製、紫光UV7600B)25質量部、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製Omnirad907を5質量部混合し、固形分濃度が3質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を等量ずつ加え、混合することで高屈折率層用樹脂組成物(H)を得た。
【0048】
<低屈折率層用樹脂組成物(L)作製の前準備>
(重合性二重結合をもつ含フッ素化合物の前駆体の製造)
四つ口フラスコにパーフルオロ-(1,1,9,9-テトラハイドロ-2,5-ビスフルオロメチル-3,6-ジオキサノネノール)(AEHI)104部とビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11部を入れた。そして、その中空部を窒素置換した後、窒素気流下20℃で24時間撹拌して高粘度の固体を得た。得られた固体をジエチルエーテルに溶解させたものをパーフルオロヘキサンに注ぎ、分離後に真空乾燥させて、無色透明のAEHI重合体を得た。
【0049】
このAEHI重合体を19F-NMR(核磁気共鳴スペクトル)、H-NMR、IR(赤外線吸収スペクトル)により分析した結果、側鎖末端に水酸基を有する含フッ素ポリマーであることが確認できた。GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により測定した数平均分子量は72,000、質量平均分子量は118,000であった。
【0050】
(重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(F1)の製造)
前記のAEHI重合体5部とメチルエチルケトン(MEK)43部、ピリジン1部を四つ口フラスコ中に仕込み、5℃以下に氷冷した。そして、窒素気流下で撹拌しながらα-フルオロアクリル酸フルオライド1部をMEK9部に溶解したものを10分間かけて滴下した。これにより、重合性二重結合をもつ含フッ素化合物F1の溶液を得た。F1は下記化学式(3)で表される構造を有する。
【0051】
【化3】
【0052】
(低屈折率層用樹脂組成物(L1)の調製)
(h)中空シリカ微粒子として日揮触媒化成工業製「スルーリア4320」(アクリル修飾中空シリカ微粒子、平均粒子径60nm)50質量部、(g)活性エネルギー線硬化型樹脂として重合性二重結合をもつ含フッ素化合物F1を50質量部、(f)光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製Omnirad907を5質量部、シリコン添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、BYKUV-3550)8質量部、アルミナ添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、NANOBYKUV-3601)0.5質量部を混合し、固形分が4質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)とイソプロピルアルコール(IPA)を等量ずつ加え、混合することで低屈折率層用樹脂組成物(L1)を得た。
【0053】
(低屈折率層用樹脂組成物(L2)の調製)
(h)中空シリカ微粒子として日揮触媒化成工業製「スルーリア4320」(アクリル修飾中空シリカ微粒子、平均粒子径60nm)50質量部、(g)活性エネルギー線硬化型樹脂として重合性二重結合をもつ含フッ素化合物F1を50質量部、(f)光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製Omnirad907を5質量部、シリコン添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、BYKUV-3570)8質量部、アルミナ添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、NANOBYKUV-3601)0.5質量部、含フッ素アクリル化合物(ダイキン工業(株)製、商品名「オプツールDAC-HP」)8質量部を混合し、固形分が4質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)とイソプロピルアルコール(IPA)を等量ずつ加え、混合することで低屈折率層用樹脂組成物(L2)を得た。
【0054】
(トップコート層用樹脂組成物(TP1~TP11)の調製)
トップコート層用樹脂組成物(TP)は、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]、または(a’)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性されたシラン化合物と、(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]、または(b’)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[フッ素原子を有さない、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]、または(b’’)多官能アクリレート[フッ素原子を有さない、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]と、(c)光重合開始剤を下記表1に示す組成のように混合し、固形分濃度が0.4質量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)とイソプロピルアルコール(IPA)を等量ずつ加え、混合することでトップコート層用樹脂組成物(TP1~TP11)を得た。なお、表1中に示す各具体的材料は、次の通りである。
【0055】
(a):ダイキン工業(株)製「オプツールDAC-HP」(商品名)(パーフルオロポリエーテルを有する(メタ)アクリレート)
(a’):信越化学工業(株)製「KY-1900」(商品名)(フッ素系防汚コーティング剤、パーフルオロポリエーテルを有するシランカップリング剤)
(b):三菱ケミカル(株)製「紫光UT-6578」(商品名)、分子量:2500~3500、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4~20個
(b’):三菱ケミカル(株)製「紫光1700B」(商品名)、分子量:2000、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:10個
(b’’):日本化薬(株)製「DPHA」(商品名)(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、分子量:578、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:6個
(c):IGM Resins B.V.社製「Omnirad907」(I-907)
【0056】
【表1】
【0057】
(反射防止フィルムの調製と性能評価)
実施例1~5、比較例1~7で作製した反射防止フィルムの層構成は下記表2に示す通りである。透明基材フィルムとして厚さ60μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上にハードコート層用樹脂組成物(HC)をグラビアコート法にて、乾燥膜厚5.0μmになるよう塗布した。乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、ハードコート層を形成した。
【0058】
次いで、このハードコート層上に屈折率層用樹脂組成物(M)を、乾燥時の厚さが86nmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJの紫外線を照射し、中屈折率層用樹脂組成物を硬化させて中屈折率層を形成した。この中屈折率層の屈折率は1.60であった。
【0059】
さらに、この中屈折率層上に高屈折率層用樹脂組成物(H)を、乾燥時の厚さが142nmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJの紫外線を照射し、高屈折率層用樹脂組成物(H)を硬化させて高屈折率層を形成した。この高屈折率層の屈折率は1.80であった。
【0060】
この高屈折率層、またはハードコート層上に低屈折率層用樹脂組成物(L1)を乾燥時の厚さが89nm(比較例7のみ99nm)となるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJの紫外線を照射し、低屈折率層用樹脂組成物を硬化させて低屈折率層を形成した。この低屈折率層の屈折率は1.34であった。
【0061】
最後に、この低屈折率層上にトップコート層用樹脂組成物を乾燥時の厚さが10nmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJの紫外線を照射し、トップコート層用樹脂組成物を硬化させてトップコート層を形成した。
【0062】
比較例6は上記の塗布方法とは異なり、表面処理剤KY-1900を真空蒸着し(処理条件は、圧力:2.0×10-2Pa、加熱温度:700℃)、25℃、湿度50%の雰囲気下で24時間硬化させて硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成した。
【0063】
<反射防止フィルムの評価>
本発明の反射防止フィルムは、優れた塗膜外観、反射防止性能、視感度反射率、耐摩耗性を有する反射防止フィルムである。塗膜外観は、著しい白化、ムラ、スジ、ハジキ等がないものである。反射防止性能は視感度反射率で評価することができ、実施例に記載した試験方法により得られる値が、0.5%以下であれば良好であり、好ましくは0.2%以下である。耐摩耗性は、実施例に記載した試験方法において、3000往復でも傷または剥がれが生じないものが良好であり、好ましくは10000往復でも傷または剥がれが生じないものである。
<塗膜外観>
各層を塗工、UV硬化して得られた反射防止フィルム表面を目視で観察し、以下の○、×で評価した。
○:著しい白化、ムラ、スジ、ハジキ等がない
×:容易に視認できる著しい白化、ムラ、スジ、ハジキ等がある
<視感度反射率>
反射防止性能は、視感度反射率にて評価した。すなわち、測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(日本分光(株)製、製品名:V-760DS)により、光の波長380nm~780nmの5°、-5°正反射スペクトルを測定した。得られる380nm~780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で想定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率(%)とした。
<耐摩耗性>
反射防止フィルム表面を研磨スティック(商品名TABER 1/4’’研磨材 H1(Felt)、6.35mm径)に1kgfの荷重をかけて、ストローク幅25mm、速度1300mm/minで一定回数往復摩耗したあとの表面を目視で観察し、以下の4段階で評価した。
◎:10000往復でも傷または剥がれなし。
○:3000往復~10000往復で傷または剥がれ発生。
△:100往復~3000往復で傷または剥がれ発生。
×:100往復以下で傷または剥がれ発生。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示した実施例1~5の結果より、本発明の反射防止フィルムは視感度反射率0.1%の反射防止性能を有し、かつ、十分な耐摩耗性を有することがわかった。実施例1~5と比較例7を比較すると、トップコートの有無では反射防止フィルムの視感度反射率は変化がないことがわかった。
【0066】
表2に示した結果より、比較例1は(b’)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[フッ素原子を有さない、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]を用いているため、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]との相溶性が悪く、塗膜が白化し、また耐摩耗性もあまり向上しなかった。比較例2では(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]が200質量部と多く、塗膜の外観、下地との密着性は確保されるものの、塗膜表面の滑り性が不足し、傷が生じるため、十分な耐摩耗性は得られなかった。比較例3、5は、(b’)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[フッ素原子を有さない、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]、または(b’’)多官能アクリレート[フッ素原子を有さない、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]を用いているが、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]が1、または3質量部と少ないため、塗膜外観は問題ないが、比較例2と同様、塗膜表面の滑り性が不足し、十分な耐摩耗性は得られなかった。
【0067】
比較例4では(b)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:4個以上]が10質量部と少なく、下地の低屈折率層との密着性が悪く、また耐摩耗性も向上しなかった。比較例6は蒸着法によってトップコート層を形成しているが、下地の低屈折率層との密着が悪く、また耐摩耗性も向上しなかった。比較例7ではトップコート層を設けず、低屈折率層に(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート[1分子あたりの(メタ)アクリロイル基:1~3個]が含有されているが、8質量部と少なく、塗膜表面の滑り性が不足し、十分な耐摩耗性は得られなかった。