(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】SiC/SiC複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20240528BHJP
C04B 35/565 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C04B35/565
(21)【出願番号】P 2020102537
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑基
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-025178(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144638(WO,A1)
【文献】特開2011-149018(JP,A)
【文献】特開平04-228476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC繊維を含む骨材を、水と、角部を有するSiC粉砕粒子と、ポリカルボシラン粒子
のみによって構成されるスラリー、又は、水と、角部を有するSiC粉砕粒子と、ポリカルボシラン粒子と、分散剤のみによって構成されるスラリーに含浸させて含浸体を得る含浸工程と、
前記含浸体を乾燥させて乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥体を加熱し、焼成する焼成工程と、を有し、
前記焼成工程は、前記ポリカルボシラン粒子を溶融させるとともに重合させた後、隣り合う前記SiC粉砕粒子同士を結合するSiC前駆体の焼成体を得る工程であ
り、
前記ポリカルボシラン粒子の平均粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記スラリーの質量に対する前記ポリカルボシラン粒子の含有量は、5質量%以上30質量%以下であり、
前記スラリーの質量に対する前記SiC粉砕粒子の含有量は、10質量%以上70質量%以下であることを特徴とするSiC/SiC複合材の製造方法。
【請求項2】
前記ポリカルボシラン粒子を構成するポリカルボシランの数平均分子量は、800以上3500以下であることを特徴とする請求項
1に記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【請求項3】
前記SiC粉砕粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする請求項
1又は2に記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC繊維により強化されたSiC/SiC複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC/SiC複合材は、耐熱性、強度、靱性を備えているので、高温炉、原子炉、ガスタービンの部材など、様々な分野で利用が期待されている。
SiC/SiC複合材は、SiCからなる母材(マトリックス)と、SiC繊維を含む骨材とを組み合わせた部材である。母材として使用されるSiCは、耐熱性、強度を備えているものの、弾性率が高いという特徴を有しているため、脆い素材である。そこで、セラミックよりなる母材(マトリックス)に、骨材としてセラミック繊維を複合させることにより、セラミックの母材の弱点である脆性を改良した種々のSiC/SiC複合材が提案されている。
【0003】
このようなSiC/SiC複合材の製造方法の1つとして、ポリマー含浸法(PIP法:Polymer Infiltration and Pyrolysis)がある。PIP法とは、SiC繊維からなる骨材に、SiC前駆体を含浸し、焼成する方法である。PIP法によると、液状のSiC前駆体を骨材に含浸させるため、厚さがある骨材であっても液状のSiC前駆体を内部まで浸透させることができ、所望の厚さを有するSiC/SiC複合材を得ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程と、前記第1含浸工程の後に、SiC前駆体と有機溶媒とからなるSiC前駆体溶液を含浸し、乾燥、焼成する第2含浸工程と、を有することを特徴とするSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法が提案されている。上記特許文献1によると、簡単な方法で緻密なSiC繊維強化SiC複合材料(SiC/SiC複合材)を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SiC/SiC複合材が有する高い耐熱性は、SiC自体が有する耐熱性と、SiC/SiC複合材の表面に形成される薄い酸化膜(SiO2膜)の作用によるものである。このため、希薄な酸素雰囲気等のように、SiO2膜を形成させることができない環境下で製造されたSiC/SiC複合材については、耐酸化性を向上させるために、SiO2膜とは異なる耐環境性被膜を形成することにより性能の向上が図られている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術は、簡単な方法で緻密なSiC/SiC複合材が得られるものの、緻密性を向上させているため、その表面が滑らかとなっており、耐環境性被膜を形成した場合に、被膜とSiC/SiC複合材の表面との間で十分な密着性を得ることができない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑み、所望の強度を得ることができるとともに、表面に形成される被膜との密着性が優れたSiC/SiC複合材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、本発明に係る下記(1)のSiC/SiC複合材により達成される。
【0010】
(1) SiC繊維を含む骨材と、角部を有するSiC粉砕粒子と、隣り合う前記SiC粉砕粒子同士を結合するSiC前駆体の焼成体と、を有し、
かさ密度が2.0g/cm3以上2.8g/cm3以下であり、
前記骨材、前記SiC粉砕粒子及び前記SiC前駆体の焼成体を除く領域に空隙部が形成されており、前記空隙部に前記SiC粉砕粒子の角部が突出していることを特徴とするSiC/SiC複合材。
【0011】
本発明のSiC/SiC複合材によれば、空隙部にSiC粉砕粒子の角部が突出しており、空隙部の表面積が増えるとともに、角部によるアンカー効果が得られるため、SiC/SiC複合材の表面に形成される耐環境性被膜との接合力を高めることができる。
また、かさ密度を適切に設定しているため、所望の強度を得ることができるとともに、空隙部の量も確保することができ、SiC/SiC複合材の表面に形成される耐環境性被膜との接合力を確保することができる。
【0012】
また、本発明に係るSiC/SiC複合材は、下記(2)であることが好ましい。
【0013】
(2) 前記空隙部は、断面視で鋭角に窪んだ凹部を有することを特徴とする(1)に記載のSiC/SiC複合材。
【0014】
空隙部が、断面視で鋭角に窪んだ凹部を有していると、SiC/SiC複合材の表面に耐環境性被膜を形成した際に、耐環境性被膜の材料が凹部に浸透するため、アンカー効果が得られ、SiC/SiC複合材の表面と耐環境性被膜との接合力をより一層向上させることができる。
【0015】
上記の目的は、本発明に係る下記(3)のSiC/SiC複合材の製造方法により達成される。
【0016】
(3) SiC繊維を含む骨材を、水と、角部を有するSiC粉砕粒子と、ポリカルボシラン粒子と、を含有するスラリーに含浸させて含浸体を得る含浸工程と、
前記含浸体を乾燥させて乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥体を加熱し、焼成する焼成工程と、を有し、
前記焼成工程は、前記ポリカルボシラン粒子を溶融させるとともに重合させた後、隣り合う前記SiC粉砕粒子同士を結合するSiC前駆体の焼成体を得る工程であることを特徴とするSiC/SiC複合材の製造方法。
【0017】
本発明のSiC/SiC複合材の製造方法によれば、SiC前駆体であるポリカルボシラン粒子がスラリーに溶解されていないため、含浸工程において、粒子の形態のまま、隣り合うSiC粉砕粒子同士が近接する接点において選択的に保持される。その後、焼成工程において、ポリカルボシラン粒子は粒子状のまま溶融し、重合してセラミック化する。そして、焼成後のSiC/SiC複合材においては、隣り合うSiC粉砕粒子同士をSiC前駆体の焼成体が強固に結合し、表面及び内部には複数の空隙部が生成される。また、空隙部には、ポリカルボシラン粒子によって覆われていないSiC粉砕粒子の角部が突出している。したがって、空隙部の表面積が増えるとともに、角部によるアンカー効果が得られるため、耐環境性被膜との接合力が優れたSiC/SiC複合材を製造することができる。
【0018】
また、本発明に係るSiC/SiC複合材の製造方法は、下記(4)~(8)であることが好ましい。
【0019】
(4) 前記ポリカルボシラン粒子を構成するポリカルボシランの数平均分子量は、800以上3500以下であることを特徴とする(3)に記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【0020】
ポリカルボシランの数平均分子量が上記範囲に調整されていると、流動性を制御することができるため、SiC前駆体の歩留まりを高められるとともに、SiCの粉砕粒子との接点部分を選択的に接合することができ、SiC/SiC複合材の強度を高めることができる。
【0021】
(5) 前記ポリカルボシラン粒子の平均粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする(3)又は(4)に記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【0022】
ポリカルボシラン粒子の平均粒子径が上記範囲に調整されていると、水に分散させやすくすることができ、均一なスラリーを容易に得ることができるとともに、含浸工程において、骨材の内部までスラリーを含浸させやすくすることができる。
【0023】
(6) 前記SiC粉砕粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする(3)~(5)のいずれか1つに記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【0024】
スラリーに含有されるSiC粉砕粒子の平均粒子径が上記範囲に調整されていると、少量の水で、骨材に含浸させやすい粘度のスラリーを得ることができ、焼成工程後の歩留まりを高めることができるとともに、含浸工程において、骨材の内部までスラリーを含浸させやすくすることができる。
【0025】
(7) 前記スラリーの質量に対する前記ポリカルボシラン粒子の含有量は、5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする(3)~(6)のいずれか1つに記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【0026】
スラリーの質量に対するポリカルボシラン粒子の含有量が上記範囲に調整されていると、隣り合うSiC粉砕粒子同士を充分な接合力で結合することができるとともに、SiCの粉砕粒子の角部を確実に露出させることができ、空隙部に向けて突出した角部が形成されやすくすることができる。
【0027】
(8) 前記スラリーの質量に対する前記SiC粉砕粒子の含有量は、10質量%以上70質量%以下であることを特徴とする(3)~(7)のいずれか1つに記載のSiC/SiC複合材の製造方法。
【0028】
スラリーの質量に対するSiC粉砕粒子の含有量が上記範囲に調整されていると、スラリーの粘度を下げることができ、骨材の内部までスラリーを含浸させやすくすることができるとともに、相対的にポリカルボシラン粒子の含有量を調整することができるので、マトリックス前駆体の歩留まりを高めることができるとともに、空隙部に突出する角部を十分に形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るSiC/SiC複合材によれば、空隙部にSiC粉砕粒子の角部が突出しており、空隙部の表面積が増えるとともに、角部によるアンカー効果が得られるため、SiC/SiC複合材の表面に形成される耐環境性被膜との接合力を高めることができる。
また、かさ密度を適切に設定しているため、所望の強度を得ることができるとともに、空隙部の量も確保することができ、SiC/SiC複合材の表面に形成される耐環境性被膜との接合力を確保することができる。
また、本発明に係るSiC/SiC複合材の製造方法によれば、ポリカルボシラン粒子が、粒子の形態のまま焼成され、隣り合うSiC粉砕粒子同士を強固に結合し、表面及び内部には複数の空隙部が生成される。また、空隙部には、ポリカルボシラン粒子によって覆われていないSiC粉砕粒子の角部が突出しているため、空隙部の表面積が増えるとともに、角部によるアンカー効果が得られ、耐環境性被膜との接合力が優れたSiC/SiC複合材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るSiC/SiC複合材の製造方法を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の骨材における隙間の様子を工程順に拡大して示す模式図である。
【
図3】
図3は、従来のSiC/SiC複合材の製造方法において、骨材における隙間の様子を工程順に拡大して示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真である。
【
図5】
図5は、比較例1に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、比較例2のSiC/SiC複合材の製造方法において、骨材における隙間の様子を工程順に拡大して示す模式図である。
【
図7】
図7は、比較例2に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者は、所望の強度を得ることができるとともに、表面に形成される被膜との密着性が優れたSiC/SiC複合材及びその製造方法を得るために鋭意検討を行った。その結果、SiC/SiC複合材の骨材を除くマトリックスの領域に空隙部を有し、この空隙部にSiC粉砕粒子の角部が突出していると、表面に被膜を形成した際に角部によりアンカー効果が得られ、被膜とSiC/SiC複合材の表面との密着性を向上させることができることを見出した。また、SiC/SiC複合材においては、かさ密度を適切に設定することにより、所望の強度を得ることができることを見出した。
【0032】
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下において、まず、本発明の実施形態に係るSiC/SiC複合材の製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、本願明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0033】
〔SiC/SiC複合材の製造方法〕
図1は、本発明の実施形態に係るSiC/SiC複合材の製造方法を模式的に示す断面図である。
図2は
図1の骨材における隙間の様子を工程順に拡大して示す模式図である。なお、
図2(a)~
図2(d)に示す模式図は、それぞれ
図1(a)~
図1(d)における骨材を除く領域に対応している。
【0034】
<骨材の準備>
図1(a)に示すように、骨材2を準備する。骨材2は、複数本のSiC繊維4を束ねたストランド5を、縦糸及び横糸として織り込むことにより織布6を形成し、得られた織布6を複数枚積層することにより構成されている。なお、
図2(a)に示すように、骨材2の内部には隙間2aを有する。
【0035】
<含浸工程>
次に、
図1(b)及び
図2(b)に示すように、骨材2をスラリー1aに含浸させ、隙間2aにスラリー1aが充填された含浸体3を得る。スラリー1aは、SiC粉砕粒子11と、粉末状のポリカルボシラン粒子12と、を水13に分散させてスラリー状にしたものである。なお、SiC粉砕粒子11はSiC粒子を粉砕することにより得られるものであり、粉砕によって角部11aが形成されている。また、ポリカルボシラン粒子12は、ポリカルボシランを主成分とし、アルミナ、SiO
2等を含有する粒子でも、ポリカルボシランのみからなる粒子でもよい。
本実施形態において、スラリー1aの質量に対するSiC粉砕粒子11の含有量は、例えば60質量%とし、その平均粒子径は、例えば0.6μmである。また、スラリー1aの質量に対するポリカルボシラン粒子12の含有量は、例えば20質量%とし、その平均粒子径は、例えば10μmであり、ポリカルボシランの数平均分子量は、例えば3500である。
【0036】
スラリー1aを骨材2の内部まで含浸させる方法としては、骨材2を真空雰囲気下に配置し、骨材2の内部のガスを除いた後、加圧によりスラリー1aを骨材2の内部まで浸透させる減圧加圧含浸法を使用することが好ましい。減圧加圧含浸法を適用することにより、骨材2の内部に容易に隙間なくスラリー1aを含浸させることができる。
【0037】
<乾燥工程>
次に、
図1(c)及び
図2(c)に示すように、得られた含浸体3を、例えば1℃/分の昇温速度で昇温した後、80℃の温度で3時間加熱することにより、骨材2に含浸されたスラリー1a中の水13を蒸発させて乾燥体7を得る。乾燥体7における骨材2を除く領域は、SiC粉砕粒子11とポリカルボシラン粒子12の混合体1bが存在し、その他の領域には空隙部14となっている。
乾燥工程における加熱条件としては、水13を蒸発させることができる温度であれば特に限定されず、例えば、80~150℃の温度で1~10時間の加熱温度とすることできる。
【0038】
<焼成工程>
次に、
図1(d)及び
図2(d)に示すように、乾燥体7を、例えば200℃/時間の昇温速度で1200℃まで昇温させた後、1時間保持し、ポリカルボシラン粒子12を焼成することにより、SiC/SiC複合材8を製造することができる。この焼成工程により、ポリカルボシラン粒子12は溶融するとともに重合し、隣り合うSiC粉砕粒子11同士を結合するSiC前駆体の焼成体12aとなって、空隙部14を有するSiCマトリックス1cが形成される。また、この焼成工程により得られたSiC/SiC複合材8には、空隙部14が形成される。更に、空隙部14においては、SiC粉砕粒子11の角部11aが露出して突出しており、断面視で鋭角に窪んだ凹部14aが形成されている。
【0039】
続いて、本実施形態に係るSiC/SiC複合材の製造方法による効果をより詳細に説明するため、従来のSiC/SiC複合材の製造方法について、
図3を参照して以下に説明する。なお、
図3は、従来のSiC/SiC複合材の製造方法において、骨材における隙間の様子を工程順に拡大して示す模式図である。
図3において、上記
図2に示す実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。
【0040】
<骨材の準備>
骨材を準備する。骨材の構成については、上記実施形態と同様であり、
図3(a)に示すように、隙間2aを有している。
【0041】
<含浸工程>
次に、
図3(b)に示すように、真空加圧含浸によって、スラリーを骨材に含浸させて、含浸体を得る。なお、スラリーとしては、キシレンにポリカルボシランを溶解させた溶解液23と、SiC粉砕粒子11とを混合させたものを使用する。上記実施形態と同様に、SiC粉砕粒子11は角部11aを有している。
【0042】
<乾燥工程>
次に、
図3(c)に示すように、含浸体を上記実施形態と同様の方法にて乾燥させる。この乾燥工程において、骨材の内部からキシレンガスからなる気泡24が発生し、これに伴って高粘度の溶解液23aが生成され、これが骨材の外部に噴出する。
【0043】
<硬化工程>
次に、
図3(d)に示すように、骨材内部に含浸された溶解液23中のポリカルボシランを硬化させ、硬化体を得る。これにより、ポリカルボシランは硬化したSiC前駆体23bとなる。
【0044】
<焼成工程>
次に、
図3(e)に示すように、上記実施形態における焼成工程と同様にして、硬化体を焼成する。これにより、SiC前駆体23bはセラミック化し、SiCマトリックス25が形成され、SiC/SiC複合材を得る。
【0045】
このように、従来の製造方法では、スラリーとしてキシレンにポリカルボシランを溶解させた溶解液23と、SiC粉砕粒子11とを混合させたものを使用している。そして、この溶解液23はSiC粉砕粒子11の角部11aを覆った状態で、硬化工程においてゲル化するため、得られるSiC/SiC複合材において、SiC粉砕粒子11の角部11aは、SiCマトリックス25に覆われている。
また、乾燥工程において発生した気泡24は、その後の硬化工程及び焼成工程において残存した状態でマトリックス化するため、得られたSiC/SiC複合材において、気泡24は略球面になっている。
【0046】
その結果、得られたSiC/SiC複合材の表面はほぼ平滑になっており、この表面に耐環境性被膜を形成した際に、SiC/SiC複合材と耐環境性被膜との密着性は悪く、被膜が剥離しやすい状態となっている。
本発明において、耐環境性被膜とは、耐熱性を有する被膜や、耐酸化性を有する被膜など、種々の機能を有する被膜をいい、その機能は特に限定されない。
【0047】
これに対し、本実施形態では、水13と、角部11aを有するSiC粉砕粒子11と、ポリカルボシラン粒子12と、を含有するスラリー1aを使用しており、ポリカルボシラン粒子12はスラリー1aに溶解されていない。したがって、SiCマトリックスの前駆体であるポリカルボシラン粒子12は、粒子の形態のまま骨材2の隙間2aに含浸された後、隣り合うSiC粉砕粒子11同士が近接する接点において選択的に保持される。
すなわち、従来の製造方法によると、ポリカルボシランがキシレンに溶解された状態で骨材に含浸されるので、ポリカルボシランがSiC粉砕粒子11の表面全体を覆うが、本実施形態では、ポリカルボシラン粒子12がSiC粉砕粒子11の表面全体を濡らすことがない。
【0048】
そして、乾燥工程後の焼成工程において、SiC粉砕粒子11同士が近接する接点で保持された粒子状のポリカルボシラン粒子12は、粒子状のまま溶融し、重合してセラミック化することにより、SiC前駆体の焼成体12aとなる。その結果、焼成後のSiC/SiC複合材8においては、隣り合うSiC粉砕粒子11同士をSiC前駆体の焼成体12aが強固に結合し、表面及び内部には複数の空隙部14が生成される。また、空隙部14には、ポリカルボシラン粒子12によって覆われていないSiC粉砕粒子11の角部11aが突出しており、表面積が広くなっている。
【0049】
このように構成されたSiC/SiC複合材8においては、その表面に耐環境性被膜を形成した際に、SiC/SiC複合材8の表面及び表面近傍における空隙部14に耐環境性被膜の材料が侵入する。このとき、空隙部14の内表面と耐環境性被膜との間で広い接触面積を得ることができるとともに、空隙部14の内部における角部11aによるアンカー効果が得られる。したがって、SiC/SiC複合材8の表面と耐環境性被膜との密着性を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、空隙部14において、断面視で鋭角に窪んだ凹部14aが形成される。
このような凹部14aが形成されていると、SiC/SiC複合材8の表面に耐環境性被膜を形成した際に、耐環境性被膜の材料が空隙部14の凹部14aに浸透するため、角部11aと同様に、凹部14aによるアンカー効果が得られ、SiC/SiC複合材8の表面と耐環境性被膜との接合力を向上させることができる。
【0051】
続いて、本実施形態の製造方法において使用することができるスラリー1a、スラリー1a中のSiC粉砕粒子11及びポリカルボシラン粒子12、骨材2を構成するSiC繊維4並びに骨材2の形態について、以下に詳細に説明する。
【0052】
(スラリー1a)
スラリー1aは、水13と、SiC粉砕粒子11と、ポリカルボシラン粒子12と、を混合し、分散させることによって得られるものである。ポリカルボシラン粒子12を水に分散させスラリー状にしているため、分子量の大きなポリカルボシランを使用してもスラリー1aの粘度が上がりにくいうえに、温度や濃度による粘度への影響が小さく、骨材2にスラリー1aを安定して含浸させることができる。
【0053】
本実施形態において、スラリー1aの質量に対するSiC粉砕粒子11の含有量は特に限定されないが、例えば10質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。
スラリー1aの質量に対するSiC粉砕粒子11の含有量を70質量%以下とすることにより、スラリー1aの粘度を下げることができ、骨材2の内部までスラリー1aを含浸させやすくすることができる。一方、スラリー1aの質量に対するSiC粉砕粒子11の含有量を10質量%以上とすることにより、焼成により重量が減少するポリカルボシラン粒子12の含有量を減らすことができるので、マトリックス前駆体の歩留まりを高めることができるとともに、空隙部14に突出する角部11aを十分に形成することができる。
【0054】
また、本実施形態において、スラリー1aの質量に対するポリカルボシラン粒子12の含有量は特に限定されないが、例えば5質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
スラリー1aの質量に対するポリカルボシラン粒子12の含有量を5質量%以上とすることにより、隣り合うSiC粉砕粒子11同士を充分な接合力で結合することができる。一方、スラリー1aの質量に対するポリカルボシランの含有量が30質量%以下であると、SiC粉砕粒子11の角部11aを確実に露出させることができ、空隙部14に向けて突出した角部11aが形成されやすくすることができる。
【0055】
(SiC粉砕粒子11)
スラリー1aに含有されるSiC粉砕粒子11の平均粒子径は特に限定されないが、例えば0.1μm以上10.0μm以下の平均粒子径を有するSiC粉砕粒子11を使用することが好ましい。SiC粉砕粒子11の平均粒子径が0.1μm以上であると、その比表面積を小さくすることができるため、少量の水13で、骨材2に含浸させやすい粘度のスラリー1aを得ることができ、焼成工程後の歩留まりを高めることができる。
一方、SiC粉砕粒子11の平均粒子径が10.0μm以下であると、含浸工程において、骨材2を構成するSiC繊維4にトラップされることなく、骨材2の内部までスラリー1aを含浸させやすくすることができる。
なお、SiC粉砕粒子11の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて測定することができる。
【0056】
(ポリカルボシラン粒子12)
スラリー1a中のポリカルボシラン粒子12を構成するポリカルボシランの数平均分子量は特に限定されないが、例えば800以上3500以下の数平均分子量を有するポリカルボシランを使用することが好ましい。ポリカルボシランの数平均分子量が800以上であると、加熱してポリカルボシランが流動し始めても、骨材2の外部に流出するほど流動性が発現しないので、SiC前駆体の歩留まりを高められるとともに、SiC粉砕粒子11との接点部分を選択的に接合することができる。
一方、ポリカルボシランの数平均分子量が3500以下であると、加熱して溶融した際に、隣り合うSiC粉砕粒子11を接合するのに十分な流動性を確保できるため、SiC粉砕粒子11同士を強固に接合し、SiC/SiC複合材8の強度を高めることができる。
なお、数平均分子量は、キシレンを溶媒としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて分析することができる。
【0057】
また、本実施形態において、ポリカルボシラン粒子12の平均粒子径は特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下の平均粒子径を有するポリカルボシラン粒子12を使用することが好ましい。ポリカルボシラン粒子12の平均粒子径が1μm以上であると、水13に分散させやすくすることができ、均一なスラリー1aを容易に得ることができる。一方、ポリカルボシラン粒子12の平均粒子径が100μm以下であると、含浸工程において、骨材2を構成するSiC繊維4にトラップされることなく、骨材2の内部までスラリー1aを含浸させやすくすることができる。
なお、ポリカルボシラン粒子12の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて測定することができる。
【0058】
なお、本発明において使用することができるスラリー1aは、SiC粉砕粒子11とポリカルボシラン粒子12と水13のみによって構成されていてもよいが、更に分散剤を含有していてもよい。スラリー1aが分散剤を含有することにより、SiC粉砕粒子11及びポリカルボシラン粒子12を水13に混合したときに、均一に分散させることができる。
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリリン酸アミノアルコール、縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム、ポリエチレングリコール等のほかポリウレタン系、アクリル系分散剤等が挙げられる。
【0059】
また、スラリー1aには、水13以外の液体が含有されていてもよいが、本発明においては、空隙部14にSiC粉砕粒子11の角部11aを突出させることが重要であり、角部11aがSiCマトリックスによって覆われないようにするため、ポリカルボシラン粒子12を溶解させない液体を選択することができる。
【0060】
(SiC繊維)
SiC繊維4の太さは、特に限定されないが、例えば平均径が7.5~15μmのものを使用することができる。SiC繊維4の太さが7.5μm以上であると、表面に傷又は欠陥等があっても、強度の低下を防止することができ、高い強度のSiC繊維4が得られる。一方、SiC繊維4の太さが15μm以下であると、曲げたときに表面に発生する引張応力を小さくすることができるため、高い強度のSiC繊維4を得ることができる。
【0061】
さらに、本発明においては、骨材2を形成する繊維として、上記SiC繊維4だけでなく、表面にコーティング層を有するSiC繊維を使用してもよい。コーティング層としては、炭素層、BN層などのように、SiCと異なる成分からなるコーティング層のほか、SiCと異なる成分からなるコーティング層の上に更にSiCからなるコーティング層がSiC繊維の表面に形成されていてもよい。
【0062】
これらのコーティング層は、どのような方法で形成されていてもよく、特に限定されないが、例えばCVI(気相成長含浸)法や、SiC繊維を溶媒で薄められた希薄な前駆体に含浸させた後、乾燥、硬化、焼成する方法により形成することができる。コーティング層を形成するために前駆体を用いる場合は、マトリックスを形成するほどの含浸量を確保する必要はない。このようなコーティング層を用いると、骨材の形状をあらかじめ固定することができる。また、異なる成分のコーティング層を形成すると、SiC繊維とマトリックスとの一体化を防止することができる。
【0063】
(骨材)
本実施形態において使用することができる骨材2の形態としては特に限定されず、種々の形態の骨材2を用いることができる。例えば、SiC繊維4を複数本束ねて形成されたストランドを織り込むことにより得られるクロス(織布6)、上記ストランドをマンドレルに巻回することにより得られるフィラメントワインディング体、及び上記ストランドを組紐状に編んだブレーディング体等の連続繊維を使用した骨材のほか、短繊維を積層させることにより得られる抄造体、不織布及びマット等を骨材として利用することができる。
織布6は、どのような織り方であってもよく、平織、綾織、朱子織、3D織など特に限定されない。
【0064】
ストランド1本あたりのSiC繊維4の本数は特に限定されないが、例えば100~10000本とすることができる。上記範囲であると、適度なストランドの太さとなるので、これを使用して、例えば織布6を形成した場合に、所望の厚さにすることができる。
【0065】
〔SiC/SiC複合材〕
本発明は、上記実施形態に係るSiC/SiC複合材の製造方法により得られるSiC/SiC複合材にも関する。
上述の通り、SiC/SiC複合材8は、SiC繊維を含む骨材2と、角部11aを有するSiC粉砕粒子11と、隣り合うSiC粉砕粒子11同士を結合するSiC前駆体の焼成体12aと、を有する。また、SiC粉砕粒子11及びSiC前駆体の焼成体12aを除く領域に空隙部14が形成されており、この空隙部14にSiC粉砕粒子11の角部11aが突出している。
【0066】
上記SiC/SiC複合材8の構成により得られる効果については、上記SiC/SiC複合材8の製造方法において記載した効果と同様である。すなわち、空隙部14に角部11aが露出しており、空隙部14に向かって角部11aが突出していることにより、空隙部14の表面積が増えるとともに、角部11aによるアンカー効果が得られるため、SiC/SiC複合材8の表面に形成される耐環境性被膜との接合力を高めることができる。
【0067】
また、本発明においては、SiC/SiC複合材8のかさ密度を適切に設定することが重要である。SiC/SiC複合材8のかさ密度とSiCの真密度との差は、SiC/SiC複合材8の空隙部14の量に相当する。すなわち、かさ密度が大きいほど、緻密なSiC/SiC複合材であることを表す。
SiC/SiC複合材のかさ密度が2.0g/cm3未満であると、緻密性が低下することによって強度が低下し、高温用の炉部材、構造材料として使用することが困難となる。一方、かさ密度が2.8g/cm3を超えると、空隙部14の量が減少し、SiC/SiC複合材の表面への耐環境性被膜の接合力を高める効果が得られなくなる。
したがって、SiC/SiC複合材8のかさ密度は2.0g/cm3以上2.8g/cm3以下とする。
【0068】
なお、SiC/SiC複合材8のかさ密度を上記範囲に調整する方法としては、スラリー1a中におけるSiC粉砕粒子11の含有量、及びポリカルボシランの含有量を調整する方法等を利用することができる。
【0069】
更に、本実施形態において、SiC/SiC複合材8に形成された空隙部14は、断面視で鋭角に窪んだ凹部14aを有していることが好ましい。凹部14aにより得られる効果は上述の通りであり、SiC/SiC複合材8の表面に耐環境性被膜を形成した際に、耐環境性被膜の材料が凹部14aに浸透するため、アンカー効果が得られ、SiC/SiC複合材8の表面と耐環境性被膜との接合力を向上させることができる。
【0070】
上述した本実施形態に係るSiC/SiC複合材を製造する方法としては、上述の本実施形態に係る製造方法を利用することができるが、所望の構造を得ることができれば、製造条件は特に限定されない。
【実施例】
【0071】
以下に、本実施形態に係るSiC/SiC複合材の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
図1及び
図2に示す実施形態に係る製造方法により実施例1のSiC/SiC複合材を製造するとともに、従来の製造方法により比較例1及び比較例2のSiC/SiC複合材を製造した。実施例1、比較例1及び比較例2の製造方法及び製造条件を下記表1に示す。
なお、下記表1において、乾燥工程、硬化工程及び焼成工程の欄には、それぞれの工程の条件と、その工程後に得られる部材の構成を示している。
【0073】
【0074】
<実施例1>
(骨材の準備)
図1(a)に示すように、SiC繊維4を束ねたストランド5を織り込むことにより織布6を作製し、得られた織布6を8枚積層して、70mm×70mm×2mmである骨材2を形成した。SiC繊維4としては、平均径が10μmのものを使用し、1本のストランド5は800本のSiC繊維4を束ねることにより作製した。
なお、SiC繊維4の表面には、SiCからなるコーティング層をCVI法により形成した。これらのコーティング層は、積層した後に形成されているため、織布6は8枚重なった状態でバラバラにならないように接合され、板状の形状が保持されている。
【0075】
(含浸工程)
図1(b)及び
図2(b)に示すように、真空加圧含浸法を使用し、得られた骨材2に、表1に示すスラリーAを含浸させ、骨材2の隙間に充填し、含浸体を得た。分散剤としては、アニオン系分散剤を使用した。また、SiC粉砕粒子の平均粒子径は0.6μmであり、ポリカルボシラン粒子の平均粒子径は10μm、数平均分子量は3500であった。更に、真空加圧含浸法における加圧力は0.9MPaとした。
【0076】
(乾燥工程)
図1(c)及び
図2(c)に示すように、得られた含浸体を乾燥器に入れ、上記表1に示す条件で乾燥させることにより、骨材の内部にSiC粉砕粒子と、ポリカルボシラン粒子とが充填された乾燥体を得た。なお、このとき、骨材内部からの吹き出しは確認されなかった。
【0077】
(焼成工程)
図1(d)及び
図2(d)に示すように、得られた乾燥体を上記表1に示す条件で焼成した後、室温まで自然放冷し、かさ密度が2.32g/cm
3であるSiC/SiC複合材を得た。
【0078】
図4は、実施例1に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真であり、スケールの10目盛りが5μmである。
図4に示すように、実施例1のSiC/SiC複合材においては、隣り合うSiC粉砕粒子11同士をSiC前駆体の焼成体12aが結合し、空隙部14が形成されており、空隙部14にはSiC粉砕粒子11の角部11aが突出していた。また、空隙部14には、鋭角に窪んだ凹部14aも形成されていた。
これは、SiC前駆体であるポリカルボシラン粒子が粉状であり、溶媒などで希釈されていないため、SiC前駆体が焼成された際に、その焼成体がSiC粉砕粒子11の表面を覆うように形成されなかったからであると考えられる。
実施例1のSiC/SiC複合材は、上記のような構成を有しているため、表面に耐環境性被膜等を形成した場合に、SiC/SiC複合材と耐環境性被膜との間に強固な接合力を得ることができると考えられる。
【0079】
<比較例1>
比較例1では、実施例1の水に代えて、キシレンを使用し、SiC前駆体であるポリカルボシランを溶液の形態で骨材内部に含浸させている。また、実施例1の乾燥工程と焼成工程との間に、ポリカルボシランの流動性を低下させ、ゲル化させる硬化工程を実施している。以下、実施例1との相違点を中心に、比較例1の製造条件について
図3を参照して説明する。
【0080】
(含浸工程)
図3(a)及び
図3(b)に示すように、実施例1と同じ骨材2に、上記表1に示す含浸液Aを含浸させ、含浸体を得た。なお、含浸液はポリカルボシランがキシレンに溶解しており、SiC粉砕粒子が分散したものを使用した。SiC粉砕粒子の平均粒子径は0.6μmであった。
【0081】
(乾燥工程)
次に、
図3(c)に示すように、含浸体を実施例1と同様の方法で乾燥させ、乾燥体を得た。乾燥の際に、骨材2の内部から発生したキシレンのガスからなる気泡24が生成されるとともに、気泡24に押し出されて、吹き出しが確認された。これは、乾燥に伴ってキシレン溶液中のポリカルボシランの濃度が上昇し、粘度が上がることによって気泡24が壊れにくくなり、ガスの圧力で押し出されやすくなったと考えられる。また、この乾燥工程により、高濃度の溶解液23aが生成され、ポリカルボシランがバインダ状となった。
【0082】
(硬化工程)
次に、
図3(d)に示すように、上記表1に示す条件で骨材内部に含浸されたポリカルボシランを硬化させ、硬化体を得た。硬化工程では、ゲル化の進行と軟化が拮抗して起こるプロセスであるが、最終的にはゲル化が進行し、硬化したSiC前駆体23bが生成されることにより完結する。軟化の方が先に進んでしまうと、溶媒から発生するガスの圧力で骨材内部から押し出されてしまうので、軟化とゲル化のバランスを見ながらゆっくり加熱し、吹き出さないように硬化させた。
【0083】
(焼成工程)
次に、
図3(e)に示すように、得られた硬化体を実施例1と同様の条件で焼成することにより、SiCマトリックス25を形成した後、室温まで自然放冷し、かさ密度が2.25g/cm
3であるSiC/SiC複合材を得た。
【0084】
図5は、比較例1に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真である。
図5に示すように、比較例1のSiC/SiC複合材においては、乾燥工程において発生した気泡24は、その後の硬化工程及び焼成工程において残存した状態でマトリックス化するため、得られたSiC/SiC複合材において、略球面状の気泡24が形成された。また、SiC粉砕粒子11の角部11aはSiCマトリックス25で覆われており、気泡24において、実施例1に示すような角部11aは突出していない。
これは、SiC前駆体であるポリカルボシランがキシレンに溶解された溶液として骨材に含浸されており、溶液がSiC粉砕粒子の表面を覆った状態を経て、焼成されたからであると考えられる。
そして、このようにして得られた比較例1のSiC/SiC複合材は、表面が滑らかであるため、表面に耐環境性被膜等を形成した場合に、SiC/SiC複合材と耐環境性被膜との間で十分な接着性を得ることができない。
【0085】
<比較例2>
比較例2では、含浸工程を2回に分けて行った点で、実施例1と異なる。1回目の含浸工程では、骨材に水とSiCの粉砕粒子とを含むスラリーを含浸させ、2回目の含浸工程では、乾燥体に、SiC前駆体であるポリカルボシランを有機溶媒に溶解させた含浸液を含浸させている。また、比較例2は、2回目の乾燥工程と焼成工程との間に、ポリカルボシランの流動性を低下させ、ゲル化させる硬化工程を実施している。以下、実施例1との相違点を中心に、比較例2の製造条件について、
図6を参照して説明する。
【0086】
(含浸工程)
図6(a)及び
図6(b)に示すように、実施例1と同じ骨材2を準備し、骨材2の隙間2aに、上記表1に示す比率で水13とSiC粉砕粒子11とが混合されたスラリーBを含浸させ、含浸体を得た。分散剤としてはアニオン系分散剤を使用した。また、SiC粉砕粒子の平均粒子径は0.6μmであった。
【0087】
(乾燥工程)
次に、
図6(c)に示すように、含浸体を実施例1と同様の方法で乾燥させ、乾燥体を得た。乾燥の際に、骨材2に含浸されたスラリーB中の水分だけを取り除くことができ、骨材からスラリーが噴き出すことはなかった。なお、SiC粉砕粒子11を除く領域に空隙部14が形成された。
【0088】
(含浸工程(2回目))
次に、
図6(d)に示すように、上記乾燥体に、上記表1に示す含浸液B(溶解液23)を含浸させ、含浸体を得た。
【0089】
(乾燥工程(2回目))
次に、
図6(e)に示すように、2回目の含浸工程により得られた含浸体を実施例1と同様の条件で乾燥させ、乾燥体を得た。このとき、溶解液23中のキシレンがガスとなり、気泡24が生成されるとともに、高濃度の溶解液23aが生成され、ポリカルボシランがバインダ状となった。また、骨材2に含浸された含浸液Bの吹き出しが少量発生した。
【0090】
(硬化工程)
次に、
図6(f)に示すように、上記表1に示す条件で骨材内部に含浸されたポリカルボシランを硬化させ、硬化体を得た。硬化工程では、ゲル化の進行と軟化が拮抗して起こるプロセスであるが、最終的にはゲル化が進行し、硬化したSiC前駆体23bが生成されることにより完結する。軟化の方が先に進んでしまうと、溶媒から発生するガスの圧力で骨材内部から押し出されてしまうので、軟化とゲル化のバランスを見ながらゆっくり加熱し、吹き出さないように硬化させた。
【0091】
(焼成工程)
次に、
図6(g)に示すように、得られた硬化体を実施例1と同様の条件で焼成することにより、SiCマトリックス25を形成した後、室温まで自然放冷し、かさ密度が2.31g/cm
3であるSiC/SiC複合材を得た。
【0092】
図7は、比較例2に係る製造方法により得られたSiC/SiC複合材の断面を示す図面代用写真である。
図7に示すように、比較例2のSiC/SiC複合材においても、比較例1と同様に、略球面状の気泡24が形成された。また、SiC粉砕粒子11の角部11aはSiCマトリックス25で覆われており、気泡24において、実施例1に示すような角部11aは突出していない。
これは、SiC前駆体であるポリカルボシランがキシレンに溶解された溶液として骨材に含浸されており、溶液がSiC粉砕粒子11の表面を覆った状態を経て、焼成されたからであると考えられる。
そして、このようにして得られた比較例2のSiC/SiC複合材についても、表面が滑らかであるため、表面に耐環境性被膜等を形成した場合に、SiC/SiC複合材と耐環境性被膜との間で十分な接着性を得ることができない。
【0093】
なお、実施例1のSiC/SiC複合材のかさ密度は2.32g/cm3であり、比較例1及び比較例2のSiC/SiC複合材のかさ密度とほとんど変わらない値となった。このことから、本発明の製造方法により得られたSiC/SiC複合材は、従来のSiC/SiC複合材と同様に緻密性が高く、優れた強度を有していることがわかった。
【符号の説明】
【0094】
1a スラリー
2 骨材
3 含浸体
4 SiC繊維
5 ストランド
6 織布
7 乾燥体
8 SiC/SiC複合材
9,24 気泡
11 SiC粉砕粒子
11a 角部
12 ポリカルボシラン粒子
12a SiC前駆体の焼成体
13 水
14 空隙部
14a 凹部
25 SiCマトリックス