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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240528BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240528BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240528BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020105194
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195084
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】内野 義友輝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝文
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347209(JP,A)
【文献】特開2007-230275(JP,A)
【文献】特開2004-058745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0141584(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されていてステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生するモータと、
前記ステアリングホイールの回転を規制するストッパ機構と、
前記モータへの給電を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、定められた条件が成立するとき、前記モータの制御を通じて前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後、第2の動作端まで反転動作させる第1の処理と、
前記ステアリングホイールの反転動作の開始時点および終了時点における前記モータの回転角に基づき前記ステアリングホイールの中立位置を演算する第2の処理と、を実行することを含み、
前記制御装置は、前記第1の処理または前記第2の処理を実行する間、前記モータに供給される電流が電流しきい値以上であることを示す電流条件を含む動作端到達条件が成立するとき、前記第1の動作端または前記第2の動作端に達した旨判定する処理をさらに含み、
前記動作端到達条件は、前記ステアリングホイールの回転操作を通じて前記ステアリングシャフトに加わる操舵トルクがトルクしきい値以下であることを示すトルク条件を含む操舵装置。
【請求項2】
前記条件は、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したこと、および
車両電源が獲得された後に初めて車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替わったことを含む請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の処理を実行する場合、前記ステアリングホイールを前記第1の動作端まで動作させるとき、および前記第1の動作端から前記第2の動作端まで反転動作させるとき、前記ステアリングホイールの操舵角の目標値である目標操舵角を前記ストッパ機構によって決まる前記ステアリングホイールの操作範囲の限界値以上の角度に設定し、前記モータの回転角に基づき演算される操舵角を前記目標操舵角に追従させるように前記モータを制御する請求項1または請求項2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記条件が成立するとき、前記第1の処理の実行開始前に前記第1の処理を実行開始する旨を車載の報知装置を通じて報知する請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ方式の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。たとえば特許文献1の操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータを有する反力機構と、転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有する転舵機構とを備えている。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-252804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の操舵装置では、ステアリングホイールの操舵角に基づき転舵モータが制御される。また、操舵装置は、ステアリングホイールの操舵角に限界を設けるためのストッパ部材を有している。このため、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係を所定の舵角比に応じた位置関係に維持するためには、ステアリングホイールの中立位置と転舵輪の中立位置とを一致させたうえで動作させる必要がある。
【0005】
ステアリングホイールの中立位置に対応する舵角中点情報は、たとえば操舵装置を組み立てる際に制御装置に記憶される。また、たとえばバッテリの交換作業を行う場合、車両からバッテリが取り外されたとき、制御装置に記憶されていた舵角中点情報が消去されることがある。この場合、バッテリの交換作業が完了した後、改めて舵角中点情報を制御装置に記憶させる必要がある。
【0006】
本発明の目的は、ステアリングホイールの中立位置を得ることができる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る操舵装置は、車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されていてステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生するモータと、前記ステアリングホイールの回転を規制するストッパ機構と、前記モータへの給電を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、定められた条件が成立するとき、前記モータの制御を通じて前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後、第2の動作端まで反転動作させる第1の処理と、前記ステアリングホイールの反転動作の開始時点および終了時点における前記モータの回転角に基づき前記ステアリングホイールの中立位置を演算する第2の処理と、を実行する。
【0008】
この構成によれば、定められた条件が成立するとき、ステアリングホイールの中立位置を得ることができる。
上記の操舵装置において、前記条件は、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したこと、および車両電源が獲得された後に初めて車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替わったことを含むようにしてもよい。
【0009】
この構成によれば、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したとき、車両の運転が開始する前にステアリングホイールの中立位置を得ることができる。
上記の操舵装置において、前記制御装置は、前記第1の処理を実行する場合、前記ステアリングホイールを前記第1の動作端まで動作させるとき、および前記第1の動作端から前記第2の動作端まで反転動作させるとき、前記ステアリングホイールの操舵角の目標値である目標操舵角を前記ストッパ機構によって決まる前記ステアリングホイールの操作範囲の限界値以上の角度に設定し、前記モータの回転角に基づき演算される操舵角を前記目標操舵角に追従させるように前記モータを制御するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、第1の処理を実行する際、ステアリングホイールをより確実に第1の動作端および第2の動作端へ動作させることができる。
上記の操舵装置において、前記制御装置は、前記条件が成立するとき、前記第1の処理の実行開始前に前記第1の処理を実行開始する旨を車載の報知装置を通じて報知するようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、第1の処理の実行開始前に第1の処理が実行開始されることが運転者に報知される。このため、第1の処理の実行を通じてステアリングホイールが回転する場合であれ、運転者の違和感を軽減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の操舵装置によれば、ステアリングホイールの中立位置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】操舵装置の一実施の形態を示す構成図。
図2】一実施の形態におけるステアリングホイールの背面図。
図3】一実施の形態におけるステアリングホイールの基準点の検出処理手順を示すフローチャート。
図4】(a),(b),(c)は、一実施の形態におけるステアリングホイールの基準点の検出処理の実行に伴うステアリングホイールの回転位置を示す背面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、操舵装置を具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、車両のステアリングホイール11に操舵反力を付与する反力ユニット20、および車両の転舵輪12,12を転舵させる転舵ユニット30を有している。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0015】
反力ユニット20は、ステアリングホイール11が連結されたステアリングシャフト21、反力モータ22、減速機構23、回転角センサ24、トルクセンサ25、および反力制御部27を有している。
【0016】
反力モータ22は、操舵反力の発生源である。反力モータ22としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ22は、減速機構23を介して、ステアリングシャフト21に連結されている。反力モータ22が発生するトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト21に付与される。
【0017】
回転角センサ24は反力モータ22に設けられている。回転角センサ24は反力モータ22の回転角θを検出する。
トルクセンサ25は、ステアリングシャフト21における減速機構23とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。トルクセンサ25は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト21に加わる操舵トルクTを検出する。
【0018】
反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θに基づきステアリングシャフト21の回転角である操舵角θを演算する。反力制御部27は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θ(以下、「モータ中点」という。)を基準とする回転数をカウントしている。反力制御部27は、モータ中点を原点として回転角θを積算した角度である積算角を演算し、この演算される積算角に減速機構23の回転速度比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングホイール11の操舵角θを演算する。ちなみに、モータ中点は舵角中点情報として反力制御部27に記憶されている。
【0019】
反力制御部27は、車両の電源スイッチがオフされるとき、その直前の操舵角θの値を記憶する。また、反力制御部27は、バッテリが接続された状態である場合、車両の電源スイッチがオフされている期間における反力モータ22の回転量(回転数)を検出する。反力制御部27は、電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、電源スイッチがオフされている期間に検出された反力モータ22の回転量を使用して反力制御部27への電力供給が遮断される直前の操舵角θを補正することにより、正しい操舵角θを演算する。
【0020】
反力制御部27は、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。反力制御部27は、トルクセンサ25を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力および操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。反力制御部27は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θと目標操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θを使用して反力モータ22をベクトル制御する。
【0021】
転舵ユニット30は、転舵シャフト31、転舵モータ32、減速機構33、ピニオンシャフト34、回転角センサ35、および転舵制御部36を有している。
転舵シャフト31は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト31の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して左右の転舵輪12,12が連結されている。
【0022】
転舵モータ32は転舵力の発生源である。転舵モータ32としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ32は、減速機構33を介してピニオンシャフト34に連結されている。ピニオンシャフト34のピニオン歯34aは、転舵シャフト31のラック歯31aに噛み合わされている。転舵モータ32が発生するトルクは、転舵力としてピニオンシャフト34を介して転舵シャフト31に付与される。転舵モータ32の回転に応じて、転舵シャフト31は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って移動する。転舵シャフト31が移動することにより転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0023】
回転角センサ35は転舵モータ32に設けられている。回転角センサ35は転舵モータ32の回転角θを検出する。
転舵制御部36は、転舵モータ32の駆動制御を通じて転舵輪12,12を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオンシャフト34の回転角θを演算する。また、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される目標操舵角を使用してピニオンシャフト34の目標回転角を演算する。ただし、ピニオンシャフト34の目標回転角は、所定の舵角比を実現する観点に基づき演算される。転舵制御部36は、ピニオンシャフト34の目標回転角と実際の回転角θとの差を求め、当該差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θを使用して転舵モータ32をベクトル制御する。
【0024】
<ストッパ機構>
図2に示すように、反力ユニット20は、ストッパ機構40を有している。ストッパ機構40は、ステアリングホイール11の操舵角θに限界を設けるためのものである。ストッパ機構40は、ステアリングホイール11の1回転(360°)を超える回転を規制する。ちなみに、図2はステアリングホイール11をその裏面側から見た図である。
【0025】
ストッパ機構40は、第1の規制部材41、および第2の規制部材42を有している。
第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21を車体に支持するステアリングコラム43に固定されている。第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21の半径方向に沿って延びている。第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21の回転方向において互いに反対側に位置する第1の規制面41aおよび第2の規制面41bを有している。第1の規制面41aおよび第2の規制面41bは、ステアリングシャフト21の半径方向においてステアリングシャフト21に近づくほど互いに近接するように傾斜している。第1の規制部材41は、ステアリングホイール11の中立位置(操舵角θ=0°)に対応して設けられる。
【0026】
第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の外周面に固定されている。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21におけるステアリングホイール11側の端部の近傍に位置している。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の回転中心軸に直交する方向に沿って延びている。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の回転方向において第1の規制部材41に当接可能とされている。したがって、ステアリングホイール11は、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する第1の規制位置と、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する第2の規制位置との間を移動する。
【0027】
第1の規制面41aと第2の規制面41bとのなす角度がたとえば20°に設定されている場合、第2の規制部材42は、ステアリングホイール11の中立位置を起点として、ステアリングホイール11が左操舵方向(図2中の時計方向)へ向けて170°だけ回転するタイミングで第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する。第2の規制部材42は、ステアリングホイール11の中立位置を起点として、ステアリングホイール11が右操舵方向(図2中の反時計方向)へ向けて170°だけ回転するタイミングで第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する。すなわち、ステアリングホイール11の操作範囲は、ステアリングホイール11の中立位置を基準として±170°、トータルとして340°の範囲に制限される。
【0028】
ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係は、定められた舵角比に応じた位置関係に維持される。たとえば、ステアリングホイール11がその操作範囲の全域にわたって操作されたとき、転舵輪12,12もその転舵範囲の全域にわたって転舵する。ここでは、ステアリングホイール11の操作範囲が360°未満の範囲に制限されているため、ステアリングホイール11を1回転させることなく転舵輪12,12をその転舵範囲の全域にわたって転舵させることが可能である。すなわち、ステアリングホイール11の持ち替え操作を行う必要がない。
【0029】
ここで、たとえばバッテリの交換作業を行う場合、車両からバッテリが取り外されたとき、反力制御部27に電力が供給されなくなる。このため、反力制御部27に記憶されていた舵角中点情報が消失する。そこで、反力制御部27は、新たにバッテリが取り付けられた後、初めて電源スイッチがオンされたとき、改めて舵角中点情報を設定する。
【0030】
つぎに、反力制御部27による舵角中点の設定処理手順を図3のフローチャートに従って説明する。このフローチャートの処理は、定められた実行開始条件が成立するときに実行開始される。ただし、この実行開始条件には、バッテリの交換作業が完了した場合など、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したこと、および車両電源が獲得された後に初めて電源スイッチがオフからオンへ切り替えられることを含む。
【0031】
なお、操舵角θは、ステアリングホイール11がその中立位置を基準として左操舵方向へ向けて回転する場合には負の値、右操舵方向へ向けて回転する場合には正の値となる。また、ステアリングホイール11の操作範囲は、ストッパ機構40により中立位置を基準として±170°の範囲内に制限される。
【0032】
図3のフローチャートに示すように、反力制御部27は、ステアリングホイール11を左回転させるべく、第1の目標操舵角θs1 を設定する(ステップS101)。反力制御部27は、電源スイッチがオンされた時点の反力モータ22の回転角θに基づきステアリングホイール11の初期位置として現在の操舵角θを演算し、この演算される操舵角θからステアリングホイール11の1回転に相当する360°を減算した値を第1の目標操舵角θs1 として設定する。また、反力制御部27は、ステアリングホイール11の初期位置としての操舵角θの値を一時的に記憶する。
【0033】
たとえば初期位置としての操舵角θの値が「-10°」であるとき、第1の目標操舵角θs1 は「-370°」となる。
ちなみに、ステップS101において、ステアリングホイール11の初期位置から減算する角度は、ステアリングホイール11の初期位置がどの位置であっても可動側の第2の規制部材42を固定側の第1の規制部材41に到達させる観点に基づき設定される。たとえば、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する第2の規制位置P2から第1の規制面41aに当接する第1の規制位置P1に到達できればよい。このため、ステアリングホイール11の初期位置から減算する角度は360°でなくてもよく、ストッパ機構40によって決まるステアリングホイール11の操作範囲以上の角度であればよい。
【0034】
つぎに、反力制御部27は、操舵角θを第1の目標操舵角θs1 に追従させるべく、操舵角θのフィードバック制御を実行する(ステップS102)。
反力制御部27は、ステアリングホイール11と一体的に回転する第2の規制部材42が第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する第1の規制位置P1に達したかどうかを判定する(ステップS103)。
【0035】
反力制御部27は、4つの条件A1~A4のすべてか成立するとき、第2の規制部材42が第1の規制位置P1に達した旨判定する。
(A1)I≧Ith
ただし、「I」は反力モータ22へ供給される電流の絶対値である。「Ith」は電流しきい値である。電流しきい値Ithは、第2の規制部材42が第1の規制位置P1に達した以降、反力モータ22の負荷増大に伴う反力モータ22の電流の増大を検出する観点に基づき設定される。
【0036】
(A2)T≦Tth
ただし、「T」は操舵トルクである。「Tth」はトルクしきい値であって、運転者によってステアリングホイール11が操作されていない状態であることを検出する観点に基づき設定される。
【0037】
(A3)ω≦ωth
ただし、「ω」は操舵角速度である。「ωth」は角速度しきい値であって、運転者によってステアリングホイール11が操作されていない状態であることを検出する観点に基づき設定される。
【0038】
(A4)t≧tth
ただし、「t」は3つの条件A1~A3が成立している時間である。「tth」は時間しきい値であって、たとえば瞬間的に3つの条件A1~A3が成立する場合、第2の規制部材42が第1の規制位置P1に達した旨誤って判定することを抑制する観点に基づき設定される。
【0039】
反力制御部27は、第2の規制部材42が第1の規制位置P1に達していない旨判定されるとき(ステップS103でNO)、先のステップS102へ処理を移行する。反力制御部27は、第2の規制部材42が第1の規制位置P1に達した旨判定されるとき(ステップS103でYES)、そのときの操舵角θの増減値(もしくは初期位置と操舵角θとの差分)を第1のエンド角θend1として一時的に記憶する(ステップS104)。
【0040】
図4(a)に示すように、たとえば初期位置としての操舵角θの値が「-10°」であるとき、第1のエンド角θend1は「-160°」となる。これは、ステアリングホイール11の操作範囲がストッパ機構40によってステアリングホイール11の中立位置(θ=0°)を基準として±170°の範囲に制限されるからである。ここでは、ステアリングホイール11が「-10°」を起点(すなわち0°)として「-170°」に達する位置まで回転するため、反力制御部27はステアリングホイール11の回転がストッパ機構40によって規制されるときの位置を「-160°」と認識する。
【0041】
つぎに、反力制御部27は、ステアリングホイール11を右回転させるべく、第2の目標操舵角θs2 を設定する(ステップS105)。反力制御部27は、ステアリングホイール11の初期位置として記憶されている操舵角θにステアリングホイール11の1回転に相当する360°を加算した値を第2の目標操舵角θs2 として設定する。
【0042】
たとえば初期位置としての操舵角θの値が「-10°」であるとき、第2の目標操舵角θs2 は「350°」となる。
ちなみに、ステップS105において、ステアリングホイール11の初期位置に加算する角度は、先のステップS101においてステアリングホイール11の初期位置から減算する角度と同様に360°でなくてもよく、ストッパ機構40によって決まるステアリングホイール11の操作範囲以上の角度であればよい。
【0043】
つぎに、反力制御部27は、操舵角θを第2の目標操舵角θs2 に追従させるべく、操舵角θのフィードバック制御を実行する(ステップS106)。
つぎに、反力制御部27は、ステアリングホイール11と一体的に回転する第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する第2の規制位置P2に達したかどうかを判定する(ステップS107)。
【0044】
反力制御部27は、第2の規制部材42が第2の規制位置P2に達していない旨判定されるとき(ステップS107でNO)、先のステップS106へ処理を移行する。反力制御部27は、第2の規制部材42が第2の規制位置P2に達した旨判定されるとき(ステップS107でYES)、そのときの操舵角θの増減値(もしくは初期位置と操舵角θとの差分)を第2のエンド角θend2として一時的に記憶する(ステップS108)。
【0045】
図4(b)に示すように、たとえば初期位置としての操舵角θの値が「-10°」であるとき、第2のエンド角θend2は「180°」となる。ここでは、ステアリングホイール11が「-170°」から「-10°」へ至り、その後「-10°」を起点(すなわち0°)として「170°」に達する位置まで回転する。このため、反力制御部27はステアリングホイール11の回転がストッパ機構40によって規制されるときの位置をステアリングホイール11の実際の回転量である「180°」と認識する。
【0046】
つぎに、反力制御部27は、先のステップS104,S108において記憶された第1のエンド角θend1および第2のエンド角θend2に基づき、操舵角θの中点θs0を演算する(ステップS109)。反力制御部27は、次式(B)で表されるように、第1のエンド角θend1と第2のエンド角θend2との和の2分の1の値を操舵角θの中点θs0として算出する。
【0047】
θs0=(θend1+θend2)/2 …(B)
たとえば初期位置としての操舵角θの値が「-10°」である場合、第1のエンド角θend1は「-160°」、第2のエンド角θend2は「180°」となる。このため、操舵角θの中点θs0の値は、「10°」となる。ちなみに、この演算される操舵角θの中点θs0は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θであるモータ中点に対応する。
【0048】
反力制御部27は、ステップS109において演算される操舵角θの中点θs0、およびこの操舵角θの中点θs0に対応するモータ中点を舵角中点情報として記憶する(ステップS110)。
【0049】
つぎに、反力制御部27は、ステアリングホイール11を操舵角θの中点θs0に対応する位置へ移動させるべく、第3の目標操舵角θs3 を演算する(ステップS111)。反力制御部27は、先のステップS110で記憶した操舵角θの中点θs0の値を第3の目標操舵角θs3 として設定する。
【0050】
つぎに、反力制御部27は、操舵角θを第3の目標操舵角θs3 に追従させるべく、操舵角θのフィードバック制御を実行する(ステップS112)。
つぎに、反力制御部27は、操舵角θが第3の目標操舵角θs3 に一致したかどうかを判定する(ステップS113)。反力制御部27は、操舵角θが第3の目標操舵角θs3 に一致していない旨判定されるとき(ステップS113でNO)、先のステップS112へ処理を移行する。反力制御部27は、操舵角θが第3の目標操舵角θs3 に一致した旨判定されるとき(ステップS113でYES)、処理を終了する。
【0051】
図4(c)に示すように、ステアリングホイール11の回転位置は、操舵角θの真の中点θs0に至る。
以上で、舵角中点の設定処理が完了となる。
【0052】
ちなみに、舵角中点の設定が完了した後、反力制御部27は転舵輪12の転舵角θに対する同期制御を実行する。同期制御とは、ステアリングホイール11の回転位置を転舵輪12の転舵位置に合わせるための制御をいう。反力制御部27は、転舵制御部36を通じてピニオンシャフト34の回転角θを取得し、ステアリングホイール11の操舵角θが所定の舵角比に応じたピニオンシャフト34の回転角θ、すなわち転舵輪12の転舵角θに対応する角度となるように反力モータ22を動作させる。ステアリングホイール11と転舵輪12との位置関係が所定の舵角比に応じた位置関係に維持されるため、運転者は違和感なくステアリングホイール11を操舵することができる。
【0053】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)反力制御部27は、定められた条件が成立するとき、反力モータ22の制御を通じてステアリングホイール11を第1の動作端(第1のエンド角θend1に対応する位置)まで動作させた後、第2の動作端(第2のエンド角θend2に対応する位置)まで反転動作させる。この後、反転動作の開始時点における反力モータ22の回転角である第1のエンド角θend1、および反転動作の終了時点における反力モータ22の回転角である第2のエンド角θend2に基づきステアリングホイール11の中立位置、すなわち操舵角θの中点θs0を演算する。このため、定められた条件が成立するとき、ステアリングホイール11の中立位置を得ることができる。
【0054】
(2)定められた条件は、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したこと、および車両電源が獲得された後に初めて車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替わったことを含む。このため、車両電源が消失した状態から車両電源が獲得された状態へ遷移したとき、車両の運転が開始される前にステアリングホイール11の中立位置を得ることができる。
【0055】
(3)反力制御部27は、ステアリングホイール11を第1の動作端まで動作させるとき、および第1の動作端から第2の動作端まで反転動作させるとき、ステアリングホイール11の目標操舵角(θs1 ,θs2 )をストッパ機構40によって決まるステアリングホイール11の操作範囲の限界値(ここでは、±170°)以上の角度に設定する。そして、反力制御部27は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θを目標操舵角(θs1 ,θs2 )に追従させるように反力モータ22を制御する。このため、ステアリングホイール11をより確実に第1の動作端および第2の動作端へ動作させることができる。
【0056】
(4)ステアリングホイール11と転舵輪12,12との動力伝達を分離したいわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置10において、反力ユニット20を動作させることによりステアリングホイール11の中立位置を演算する。このため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との動力伝達が分離されていない電動パワーステアリング装置(EPS)とは異なり、舵角中点の設定処理の際に転舵輪12,12を含めた車両系全体を動作させる必要がない。したがって、より小さいモータトルクを発生させることによって、ステアリングホイール11の中立位置を演算することができる。
【0057】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θを使用したが、操舵装置10として操舵角センサを有する構成が採用される場合、この操舵角センサを通じて検出される操舵角θを使用してもよい。
【0058】
・本実施の形態において、舵角比は製品仕様などに応じて適宜の値に設定される。舵角比は、たとえば「θ:θ=1:1」でもよいし「θ:θ=1:3」でもよい。
図1に二点鎖線で示すように、たとえば車室内に報知装置28が設けられる場合、反力制御部27は、報知装置28を通じて舵角中点の設定処理の実行状態を報知するようにしてもよい。たとえば、反力制御部27は、舵角中点の設定処理の実行開始条件が成立するとき、報知装置28を通じて舵角中点の設定処理を実行開始する旨報知し、この後、舵角中点の設定処理を実行開始するようにしてもよい。また、反力制御部27は、舵角中点の設定処理を実行開始してから実行完了するまでの期間、舵角中点の設定処理の実行中である旨報知装置28を通じて報知するようにしてもよい。また、反力制御部27は、舵角中点の設定処理が完了したとき、その旨報知装置28を通じて報知するようにしてもよい。ちなみに、報知装置28による報知動作としては、たとえば文字によるメッセージを表示させたり、音声によるメッセージを発したりすることが挙げられる。このようにすれば、舵角中点の設定処理の実行開始に伴い運転者の操舵とは関係なしにステアリングホイール11が回転する場合であれ、このステアリングホイール11の回転が舵角中点の設定処理が実行されていることによるものであることが報知装置28を通じて運転者の視覚あるいは聴覚に訴えて報知される。このため、運転者に与える違和感が低減される。
【0059】
・本実施の形態では、舵角中点の設定処理の際、ステアリングホイール11を左回転させた後、右回転させるようにしたが、ステアリングホイール11を右回転させた後、左回転させてもよい。
【0060】
・反力制御部27は、舵角中点の設定処理の実行を通じてステアリングホイール11を回転させる際、単位時間当たりのステアリングホイール11の回転量を一定量に維持するようにしてもよい。このようにすれば、ステアリングホイール11の急回転が抑制されるため、運転者の違和感を軽減することができる。
【0061】
・本実施の形態では、ストッパ機構40によってステアリングホイール11の操作範囲を常に1回転未満に制限するようにしたが、舵角中点の設定処理を実行するときだけストッパ機構40を機能させるようにしてもよい。この場合、たとえば第1の規制部材41をステアリングコラム43に対して相対的に移動可能に設ける。そのうえで、第1の規制部材41を第2の規制部材42の回転軌跡内に位置する係合位置と、第2の規制部材42の回転軌跡外に位置する退避位置との間を移動可能に設ける。
【0062】
・本実施の形態では、バッテリの交換後、最初に電源スイッチがオンされたときに舵角中点の設定処理を実行するようにしたが、たとえばバッテリの交換作業の有無にかかわらず、電源スイッチがオンされる度に舵角中点の設定処理を実行するようにしてもよい。
【0063】
・本実施の形態では、ステアリングホイール11の中立位置に対応する操舵角θの中点θs0を反力ユニット20の動作の基準点としたが、転舵輪12の転舵角θと対応付けることができるのであれば、ステアリングホイール11の中立位置から外れた位置に対応する操舵角θを反力ユニット20の動作の基準点としてもよい。
【0064】
・本実施の形態において、反力制御部27および転舵制御部36を単一の制御装置として構成してもよい。
・本実施の形態では、車両の操舵装置10として、ステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達が分離されたいわゆるリンクレス構造を採用した例を挙げたが、クラッチによりステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達を分離可能とした構造を採用してもよい。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が連結される。
【0065】
<他の技術的思想>
つぎに、本実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記制御装置は、前記第1の処理および前記第2の処理の実行を通じて前記ステアリングホイールを回転させる際、単位時間当たりの前記ステアリングホイールの回転量を一定量に維持すること。このようにすれば、ステアリングホイールの急回転が抑制される。このため、運転者の違和感を軽減することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…操舵装置
11…ステアリングホイール
12…転舵輪
21…ステアリングシャフト
22…反力モータ(モータ)
27…反力制御部(制御装置)
28…報知装置
40…ストッパ機構
θend1…第1のエンド角(第1の動作端)
θend2…第2のエンド角(第2の動作端)
図1
図2
図3
図4