(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ポジションセンサ
(51)【国際特許分類】
H01C 10/30 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
H01C10/30 M
(21)【出願番号】P 2020114578
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福井 輝美
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健
(72)【発明者】
【氏名】小野 友里恵
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-055900(JP,A)
【文献】特表平05-509440(JP,A)
【文献】米国特許第06617377(US,B2)
【文献】特開平03-233904(JP,A)
【文献】特開2002-141210(JP,A)
【文献】特開2004-079591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
単一の層構成を有し、前記基板上に円弧状に設けられた抵抗膜と、
前記抵抗膜の表面を摺動する摺動子と、を備えるポジションセンサであって、
前記抵抗膜は、少なくとも一部がカーボンファイバによって形成される炭素粉末を含み、
前記カーボンファイバの平均粒子径が
5μm以上8μm以下である、
ポジションセンサ。
【請求項2】
前記炭素粉末の質量に対する前記カーボンファイバの質量の割合が5%以上50%以下である、
請求項1に記載のポジションセンサ。
【請求項3】
前記炭素粉末の質量に対する前記カーボンファイバの質量の割合が5%以上10%以下である、
請求項2に記載のポジションセンサ。
【請求項4】
前記カーボンファイバの繊維径Dと、繊維長Lとの比L/Dが3以下である、
請求項1から
3の何れか一項に記載のポジションセンサ。
【請求項5】
前記抵抗膜の両端の間の角度をθ
0とし、前記抵抗膜の入力端から前記摺動子との間の角度をθ
1とし、前記抵抗膜の前記両端間に印加される全電圧をVinとし、前記抵抗膜の入力端から前記摺動子との間に印加される電圧をVとしたとき、
|V/(Vin×(θ
1/θ
0))-1|×100
で表される指標が、前記抵抗膜の全体に亘って2%以下である、
請求項1から
4の何れか一項に記載のポジションセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポジションセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ポジションセンサは、基板と、基板上に設けられる抵抗膜と、抵抗膜の表面を摺動する摺動子と、を含む。例えば、特許文献1には、熱硬化性樹脂中にカーボンブラックとカーボンファイバを分散させた抵抗膜を備えるポジションセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のポジションセンサでは、カーボンファイバを抵抗膜に添加することで耐摩耗性が向上する。しかしながら、本発明者らの鋭意検討の結果、抵抗膜が円弧状に形成されたポジションセンサ(ロータリポジションセンサ)の場合、カーボンファイバの抵抗膜への添加により、耐摩耗性の向上効果が得られる反面、リニアリティが悪化するという課題が明らかになった。ここで、リニアリティとは、摺動子の角度位置に対する検出電圧の線形的な相関の強さを示す指標である。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性と優れたリニアリティとを両立可能なポジションセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るポジションセンサは、基板と、単一の層構成を有し、基板上に円弧状に設けられた抵抗膜と、抵抗膜の表面を摺動する摺動子と、を備えるポジションセンサであって、抵抗膜は、少なくとも一部がカーボンファイバによって形成される炭素粉末を含み、カーボンファイバの平均粒子径が2μm以上8μm以下である。
【0007】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、炭素粉末の質量に対するカーボンファイバの質量の割合が5%以上50%以下であってもよい。
【0008】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の構成において、炭素粉末の質量に対するカーボンファイバの質量の割合が5%以上10%以下であってもよい。
【0009】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)の何れか1つに記載の構成において、カーボンファイバの平均粒子径が5μm以上8μm以下であってもよい。
【0010】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)の何れか1つに記載の構成において、カーボンファイバの繊維径Dと、繊維長Lとの比L/Dが3以下であってもよい。
【0011】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)から(5)の何れか1つに記載の構成において、抵抗膜の両端の間の角度をθ0とし、抵抗膜の入力端から摺動子との間の角度をθ1とし、抵抗膜の両端間に印加される全電圧をVinとし、抵抗膜の入力端から摺動子との間に印加される電圧をVとしたとき、
|V/(Vin×(θ1/θ0))-1|×100
で表される指標が、抵抗膜の全体に亘って2%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の少なくとも一つの実施形態によれば、耐摩耗性と優れたリニアリティとを両立可能なポジションセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態に係るポジションセンサの構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るポジションセンサのリニアリティの算出方法を説明するための図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るポジションセンサの抵抗膜の断面を示す図である。
【
図4】参考例に係るポジションセンサのリニアリティとロータの回転角度との関係を示したグラフである。
【
図5】参考例に係るポジションセンサの抵抗膜を説明するための図である。
【
図6】抵抗膜の抵抗値の縦横比とカーボンファイバの平均粒子径との関係を示したグラフである。
【
図7】本開示の一実施形態に係るポジションセンサのリニアリティとロータの回転角度との関係を示したグラフである。
【
図8】抵抗膜の摩耗量とカーボンファイバの平均粒子径との関係を示したグラフである。
【
図9】本開示の一実施形態に係るカーボンファイバの外形形状を示す図である。
【
図10】抵抗膜を形成するバインダー樹脂、カーボンファイバ、及びカーボンブラックの配合量を示す表である。
【
図11】抵抗膜の摩耗量とカーボンファイバの添加割合との関係を示したグラフである。
【
図12】摺動子の摩耗量とカーボンファイバの添加割合との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の一実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態に係るポジションセンサ1の構成を概略的に示す概略構成図である。
図1に示すように、本開示の一実施形態に係るポジションセンサ1は、基板2と、抵抗膜4と、摺動子6と、を含む。
【0016】
図1に示す例示的な形態では、基板2は板形状を有しており、基板2を貫通する貫通孔10が形成されている。この基板2の貫通孔10には、スロットル軸のような回転軸12の端部に連結されるロータ16が挿通されている。ロータ16は、回転軸12の回転とともに回転軸12を中心として回転する。このロータ16は、摺動子6を保持するための摺動子保持部20を含む。摺動子保持部20は、ロータ16の外周面18からロータ16の径方向の外側に延びる。以下、ロータ16の周方向を「周方向」とする。また、ロータ16が回転することで描かれる円弧形状の軌跡の径方向(ロータ16の径方向)を「径方向」とする。
【0017】
摺動子6は、ロータ16の回転とともに摺動子保持部20が回転することで、抵抗膜4の表面5を摺動するように構成されている。
図1に示す例示的な形態では、摺動子6は、第1摺動子6A(6)と、第1摺動子6Aより径方向の内側に位置する第2摺動子6B(6)と、を含む。第1摺動子6Aは、ロータ16の回転によって後述する第1抵抗膜4Aの表面5A(5)を摺動する。第2摺動子6Bは、ロータ16の回転によって後述する第2抵抗膜4Bの表面5B(5)を摺動する。摺動子保持部20は、第1摺動子6Aと第2摺動子6Bとを電気的に接続している。
【0018】
基板2上には、スクリーン印刷のような所定の印刷方法を用いて円弧状の抵抗膜4が印刷されている。特に限定されないが、円弧状の抵抗膜4は、例えば、電源電極22からGND電極26に向かう方向とは直交する印刷方向Wに沿って印刷されることで形成される。本開示において、抵抗膜4は、基板2上に設けられる膜のうち摺動子6による摺動が可能な範囲Aに設けられる膜であって、摺動子6による摺動が不可能な範囲に設けられる膜を含まないものとする。抵抗膜4は周方向に沿って延びており、抵抗膜4の一端は、ロータ16の回転角度が最小のとき(回転角度θ1=0度)に基板2上に位置する摺動子6と接触し、抵抗膜4の他端は、ロータ16の回転角度が最大のとき(回転角度θ1=回転角度θ0)に基板2上に位置する摺動子6と接触する。
【0019】
図1に示す例示的な形態では、抵抗膜4は、第1抵抗膜4A(4)と、第1抵抗膜4Aより径方向の内側に位置する第2抵抗膜4B(4)と、を含む。第1抵抗膜4Aは、一端11が第1抵抗膜4Aに電圧を印加する電源電極22に電気的に接続され、他端13が基準電位(例えば0V)に設定されているGND電極26に電気的に接続されている。本開示では、第1抵抗膜4Aの一端11に摺動子6が接触しているときのロータ16の回転角度を0度とする。ロータ16の回転角度が0度から増加するにつれて、摺動子6が第1抵抗膜4Aの他端13に向かって移動する(第1抵抗膜4Aの表面5Aを摺動する)。ロータ16の回転角度が最大となると、摺動子6は第1抵抗膜4Aの他端13と接触する。
【0020】
第2抵抗膜4Bは、ロータ16の回転角度に応じて発生する電圧を出力する出力電極24と電気的に接続されている。ポジションセンサ1は、この出力電極24から出力される検出電圧を検出することで、ロータ16の回転角度(例えば、スロットルバルブの開度)を検出可能に構成されている。
【0021】
ここで、ポジションセンサ1の検出精度に影響するポジションセンサ1のリニアリティについて説明する。リニアリティとは、摺動子6の角度位置に対する検出電圧の線形的な相関の強さを示す指標である。ポジションセンサ1のリニアリティは、ロータ16の回転角度(即ち、摺動子6の角度位置)に応じて線形的に変化する理想電圧に対する、出力電極24における検出電圧の差として表すことができる。ロータ16の回転角度によらず、リニアリティがゼロ又はゼロに近い値で維持される場合、ポジションセンサ1の検出精度は高いと評価できる。
【0022】
図2は、ポジションセンサ1のリニアリティの算出方法を説明するための図である。
図2に示すように、第1抵抗膜4Aの一端11と第1抵抗膜4Aの他端13と間の角度をθ
0とし、第1抵抗膜4Aの一端11(入力端)から第1摺動子6Aとの間の角度をθ
1(以下、ロータ16の回転角度θ
1とする)とし、第1抵抗膜4Aの両端間に印加される全電圧(定格電圧)をVinとし、第1抵抗膜4Aの一端11(入力端)から第1摺動子6Aとの間に印加される電圧(検出電圧)をVとする。リニアリティは、以下の式1で表すことができる。
V-Vin×(θ
1/θ
0) (式1)
【0023】
次に、良好なリニアリティを実現するために、
図3を参照して、本開示の一実施形態に係る抵抗膜4の構成について説明する。
図3に示すように、抵抗膜4は単一の層構成を有する。即ち、抵抗膜4には、抵抗膜4を膜厚方向に複数の領域に区画する境界線は存在しない。抵抗膜4は、上述のとおり、基板2上に一方向である印刷方向Wに沿って印刷することで設けられている(
図1参照)。
【0024】
また、抵抗膜4は、バインダー樹脂30、及び少なくとも一部がカーボンファイバ32によって形成される炭素粉末31を含んでいる。バインダー樹脂30は、抵抗膜4を形成するための樹脂成分であって、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラニン樹脂、アクリル樹脂などである。このような抵抗膜4は、抵抗膜4の質量に対してバインダー樹脂30の質量の割合が50%以上となるように構成されており、バインダー樹脂30が抵抗膜4の主成分となっている。また、抵抗膜4は、抵抗膜4の質量に対して炭素粉末31の質量の割合が15%以上45%以下となるように構成されている。
【0025】
炭素粉末31の少なくとも一部を構成するカーボンファイバ32は、例えば、市販のカーボンファイバを平均粒子径が2μm以上8μm以下となるように粉砕機で粉砕したものである。本実施形態では、炭素粉末31は、炭素粉末31の質量に対するカーボンファイバ32の質量の割合が5%以上50%以下となるように構成されている。カーボンファイバ32の平均粒子径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置でカーボンファイバ32を測定した場合におけるD50を意味する。
【0026】
また、
図3に示すように、炭素粉末31は、カーボンブラック34をさらに含んでいる。本実施形態では、炭素粉末31は、カーボンファイバ32及びカーボンブラック34によって構成されている。このカーボンブラック34は、特に限定されないが、ファーネス法、サーマル法、アセチレン法等によって形成される。尚、炭素粉末31は、カーボンブラック34とともに、又は、カーボンブラック34に代わって、カーボンナノチューブやグラフェンなどをさらに含んでもよい。また、炭素粉末31は、カーボンファイバ32及びカーボンブラック34に加えて、カーボンファイバ32及びカーボンブラック34以外の添加剤をさらに含んでもよい。
【0027】
図4は、参考例に係るポジションセンサのリニアリティを示したグラフであり、縦軸は参考例に係るポジションセンサのリニアリティを示し、横軸はロータの回転角度を示す。参考例に係るポジションセンサは、カーボンファイバの平均粒子径が12μmであるが、それ以外の構成は上述したポジションセンサ1の構成と同じである。
【0028】
本発明者らの知見によれば、基板上に円弧状に形成される抵抗膜にカーボンファイバを添加する場合、耐摩耗性の向上効果が得られる反面、リニアリティが悪化する問題が生じ得る。
図4に示すように、参考例に係るポジションセンサのリニアリティは、ロータの回転角度θ
1を0度から大きくしていくと、ゼロ以上の値からゼロ未満の値となるように小さくなっていく。このリニアリティの減少傾向は、ロータの回転角度θ
1がある程度の角度にまで達するまで継続する。さらにロータの回転角度θ
1が増加すると、今度は、リニアリティは増加傾向に転じる。このように、参考例に係るポジションセンサのリニアリティは、ロータの回転角度によって値の大きさがばらついており、ゼロ又はゼロに近い値で維持されていない。
【0029】
これは、本発明者らが鋭意検討した結果によれば、
図5に示すように、参考例に係るポジションセンサは、円弧状の抵抗膜04に含まれているカーボンファイバ032が印刷方向Wに沿って配向する傾向があるからと考えられる。このカーボンファイバ032の配向によって、円弧状の抵抗膜04は電圧に対する抵抗値について異方性を有する。つまり、ロータの回転角度が増加又は減少するにつれて、抵抗膜04の抵抗値が線形的に変化しない。このため、参考例に係るポジションセンサは、
図4に示したようなリニアリティになると考えられる。
【0030】
図6は、抵抗膜4の抵抗値の縦横比とカーボンファイバ32の平均粒子径との関係を示したグラフであり、縦軸である抵抗膜4の抵抗値の縦横比は、印刷方向Wに印刷したときの抵抗膜4の抵抗値と印刷方向Wとは直交する方向に印刷したときの抵抗膜4の抵抗値との比を示す。
【0031】
図4に示したリニアリティの問題の解決策について本発明者らが鋭意検討をした結果、
図6に示すように、カーボンファイバ32の平均粒子径を8μm以下とすることで、抵抗膜4の抵抗値の縦横比の値が1又は1に近い値となり、抵抗膜4の抵抗値の異方性を抑制できることを見出した。つまり、円弧状の抵抗膜4が印刷法によって形成される場合であっても、円弧状の抵抗膜4に含まれるカーボンファイバ32の印刷方向Wに沿った配向を抑制できることを見出した。
【0032】
よって、カーボンファイバ32の平均粒子径を8μm以下とすることで、摺動子6が接触する円弧状の抵抗膜4の任意の位置において、理想電圧と検出電圧との差を小さくすることができる。そして、
図7に示すように、本実施形態によれば、カーボンファイバ032の平均粒子径が12μmである参考例の場合と比較して、ロータ16の回転角度の全体に亘って、優れたリニアリティ(ゼロ又はゼロに近い値)を有するポジションセンサ1を実現することができる。また、カーボンファイバ32の平均粒子径を2μm以上とすることで、摺動子6が抵抗膜4の表面5を摺動することによる抵抗膜4の摩耗を抑制することができる。このように、カーボンファイバ32の平均粒子径を2μm以上8μm以下に設定することで、耐摩耗性と優れたリニアリティとを両立可能なポジションセンサ1を実現可能である。
【0033】
また、本実施形態では、上述したように炭素粉末31の質量に対するカーボンファイバ32の質量の割合を5%以上としているので、カーボンファイバ32による抵抗膜4の耐摩耗性の向上効果を得ることができる。また、上述したように炭素粉末31の質量に対するカーボンファイバ32の質量の割合を50%以下としているので、基板2に対する抵抗膜4の密着性を高い状態で維持することができる。
【0034】
図8は、抵抗膜4の摩耗量とカーボンファイバ32の平均粒子径との関係を示したグラフである。本発明者らが鋭意検討した結果、
図8に示すように、カーボンファイバ32の平均粒子径が5μmより小さくなると、抵抗膜4の摩耗量が増加し、抵抗膜4の耐摩耗性が悪化することを見出した。幾つかの実施形態では、カーボンファイバ32の平均粒子径が5μm以上8μm以下である。このような構成によれば、抵抗膜4の摩耗をさらに抑制することができる。
【0035】
図9は、本開示の一実施形態に係るカーボンファイバ32の外形形状を示す図である。幾つかの実施形態では、カーボンファイバ32の繊維径D(太さ)と、繊維長L(長さ)との比L/D(アスペクト比)が3以下である。アスペクト比は、例えば、
図9に示すように、カーボンファイバ32を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、SEM画像に撮像されたカーボンファイバ32(抵抗膜4に添加されているカーボンファイバ32も含む)の繊維径D及び繊維長Lを実測することで算出される。
【0036】
このような構成によれば、抵抗膜4が印刷法によって形成される場合であっても、抵抗膜4に含まれるカーボンファイバ32の印刷方向に沿った配向を抑制できる。このため、摺動子6が接触する抵抗膜4の任意の位置において、理想電圧と検出電圧との差を小さくし、優れたリニアリティを有するポジションセンサ1を実現することができる。
【0037】
幾つかの実施形態では、式2で表される指標が、抵抗膜4の全体に亘って2%以下である。
|V/(Vin×(θ1/θ0))-1|×100 (式2)
【0038】
このような構成によれば、摺動子6による摺動が可能な範囲Aの全体に亘って(
図1参照)、リニアリティをゼロ又はゼロに非常に近い値で維持することになるので、非常に優れたリニアリティを有するポジションセンサ1を実現することができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、炭素粉末31の質量に対するカーボンファイバ32の質量の割合が5%以上10%以下である。本発明者らが鋭意検討した結果、炭素粉末31の質量に対するカーボンファイバ32の質量の割合が10%を超えると、摺動子6の耐摩耗性が悪化することを見出した。上述の構成によれば、良好な抵抗膜4の耐摩耗性及び、良好な摺動子6の耐摩耗性を同時に満たすことができる。
【0040】
(実施例)
図10は、抵抗膜4に含まれるバインダー樹脂30、カーボンファイバ32、及びカーボンブラック34の配合量を示す表である。
図10に示す配合表に従って、実施例1~実施例7のそれぞれに係る抵抗膜4を形成している。
図10中における「カーボンファイバの添加割合」(以下、添加割合)は、炭素粉末31の質量(カーボンファイバ32の質量にカーボンブラック34の質量を加算した質量)に対するカーボンファイバ32の質量の割合を示す。
【0041】
<実施例1>
実施例1に係る抵抗膜4は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を10g、カーボンブラック34を190g含んでいる。つまり、実施例1に係る添加割合は5%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、7.3μmである。
【0042】
<実施例2>
実施例2に係る抵抗膜4は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を20g、カーボンブラック34を180g含んでいる。つまり、実施例2に係る添加割合は10%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、7.3μmである。
【0043】
<実施例3>
実施例3に係る抵抗膜4は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を30g、カーボンブラック34を170g含んでいる。つまり、実施例3に係る添加割合は15%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、7.3μmである。
【0044】
<実施例4>
実施例4に係る抵抗膜4は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を50g、カーボンブラック34を150g含んでいる。つまり、実施例4に係る添加割合は25%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0045】
<実施例5>
実施例5に係る抵抗膜4は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を100g、カーボンブラック34を100g含んでいる。つまり、実施例5に係る添加割合は50%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0046】
<実施例6>
実施例6に係る抵抗膜は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を150g、カーボンブラック34を50g含んでいる。つまり、実施例6に係る添加割合は75%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0047】
<実施例7>
実施例7に係る抵抗膜は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を200g、カーボンブラック34を0g含んでいる。つまり、実施例7に係る添加割合は100%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0048】
次に比較例として形成した抵抗膜について説明する。
【0049】
<比較例1>
比較例1に係る抵抗膜は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を0g、カーボンブラック34を200g含んでいる。つまり、比較例1に係る添加割合は0%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0050】
<比較例2>
比較例2に係る抵抗膜は、バインダー樹脂30を300g、カーボンファイバ32を30g、カーボンブラック34を170g含んでいる。つまり、比較例2に係る添加割合は15%である。また、カーボンファイバ32の平均粒子径は、2μmである。
【0051】
図11は、抵抗膜4の摩耗量と添加割合との関係を示したグラフである。抵抗膜4の摩耗量は、例えば、外径0.2mmのダイヤモンド針を、荷重140g、摺動回数1000回で抵抗膜4の表面5を摺動する前後の抵抗膜4の膜厚の差である。
【0052】
本発明者らが鋭意検討した結果、
図10及び
図11に示すように、添加割合が0%以上5%未満では抵抗膜の摩耗量が非常に多く、ポテンショメータの検出性能が速やかに損なわれる可能性がある。添加割合が5%以上になると、抵抗膜4の摩耗量が抑制されている。添加割合が10%を超えると、抵抗膜4はほとんど摩耗しなくなる。
【0053】
図12は、摺動子6の摩耗量と添加割合との関係を示したグラフである。摺動子6の摩耗量は、例えば、ロータ16を回転駆動させるモータの作動速度を4Hz、作動振幅を80degで設定し、摺動子6によって抵抗膜4の表面5を雰囲気温度が25℃の環境下で600万回、雰囲気温度が120℃の環境下で120万回、雰囲気温度が-30℃の環境下で120万回摺動することで摩耗した摺動子6の長さである。
【0054】
本発明らが鋭意検討した結果、
図10及び
図12に示すように、添加割合が増加するにつれて摺動子6の摩耗量も増加する。また、本発明者らは、添加割合を10%以下とすることで、摺動子6が抵抗膜4に対して良好な耐摩耗性を有し、摺動子6の劣化を抑制できることを見出した。
【0055】
以上、本開示の一実施形態に係るポジションセンサ1について説明したが、本開示は上記の形態に限定されるものではなく、本開示の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 ポジションセンサ
2 基板
4 抵抗膜
5 抵抗膜の表面
6 摺動子
31 炭素粉末
32 カーボンファイバ