(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】補機ベルト用テンショナユニット
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20240528BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F02B67/06 A
(21)【出願番号】P 2020150385
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】田中 唯久
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044941(JP,A)
【文献】特開平08-338488(JP,A)
【文献】特開2003-240075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点軸を中心に揺動可能に支持される揺動アームと、
前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に揺動するように前記揺動アームで支持されたテンションプーリと、
前記支点軸を中心に揺動する前記揺動アームに対して移動しないように配置された第一ピンおよび第二ピンと、
前記揺動アームに取り付けられ、前記第一ピンから受ける反力で当該揺動アームを一方の揺動方向に付勢するように当該第一ピンを押すばねと、
前記第二ピンに接触するように前記揺動アームに取り付けられ、当該揺動アームの前記一方の揺動方向とは反対方向への揺動を緩衝する油圧ダンパと、を備え、
前記油圧ダンパが、前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に移動するように前記揺動アームに設けられたシリンダと、前記シリンダの内部を油圧室とリザーバ室とに区画するピストンと、前記第二ピンに当接するように前記ピストンに接続されたロッドと、を有し、
前記揺動アームの内部に副リザーバ室と、当該副リザーバ室と前記リザーバ室との間を連通する連通路とが形成されており、前記油圧室及び前記リザーバ室が作動油で満たされており、前記副リザーバ室に空気と作動油が上下二層に収容されている補機ベルト用テンショナユニットにおいて、
前記副リザーバ室が、前記支点軸よりも下方側に位置する部位から当該支点軸の周囲を通って上方側に向かって延びており、前記連通路が、前記支点軸よりも下方側の位置で前記副リザーバ室に開放して
おり、
前記副リザーバ室が、前記油圧ダンパに対して軸方向に隣接しており、前記連通路が、前記副リザーバ室と前記リザーバ室との間を軸方向に貫通しており、
前記副リザーバ室が、前記支点軸の軸心と直交する径方向に穴幅をもって当該穴幅よりも長く周方向に延びる長穴状に形成されていることを特徴とする補機ベルト用テンショナユニット。
【請求項2】
前記ばねと前記油圧ダンパが、前記支点軸に直交する同一平面上に配置されている請求項
1に記載の補機ベルト用テンショナユニット。
【請求項3】
前記副リザーバ室が、前記連通路に対して周方向両側で上方側に向かって延びている請求項
1又は2に記載の補機ベルト用テンショナユニット。
【請求項4】
支点軸を中心に揺動可能に支持される揺動アームと、
前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に揺動するように前記揺動アームで支持されたテンションプーリと、
前記支点軸を中心に揺動する前記揺動アームに対して移動しないように配置された第一ピンおよび第二ピンと、
前記揺動アームに取り付けられ、前記第一ピンから受ける反力で当該揺動アームを一方の揺動方向に付勢するように当該第一ピンを押すばねと、
前記第二ピンに接触するように前記揺動アームに取り付けられ、当該揺動アームの前記一方の揺動方向とは反対方向への揺動を緩衝する油圧ダンパと、を備え、
前記油圧ダンパが、前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に移動するように前記揺動アームに設けられたシリンダと、前記シリンダの内部を油圧室とリザーバ室とに区画するピストンと、前記第二ピンに当接するように前記ピストンに接続されたロッドと、を有し、
前記揺動アームの内部に副リザーバ室と、当該副リザーバ室と前記リザーバ室との間を連通する連通路とが形成されており、前記油圧室及び前記リザーバ室が作動油で満たされており、前記副リザーバ室に空気と作動油が上下二層に収容されている補機ベルト用テンショナユニットにおいて、
前記副リザーバ室が、前記支点軸よりも下方側に位置する部位から当該支点軸の周囲を通って上方側に向かって延びており、前記連通路が、前記支点軸よりも下方側の位置で前記副リザーバ室に開放しており、
前記副リザーバ室が、前記連通路に対して周方向両側で上方側に向かって延びていることを特徴とする補機ベルト用テンショナユニット。
【請求項5】
前記連通路が、前記副リザーバ室の上方側内壁面から距離を取った位置に開放している請求項
3又は4に記載の補機ベルト用テンショナユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として、オルタネータやウォータポンプ等のエンジン補機を駆動するベルトの張力保持に用いられる補機ベルト用テンショナユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機、たとえばオルタネータやカーエアコンやウォータポンプなどは、その回転軸がエンジンのクランクシャフトに補機ベルトで連結され、その補機ベルトを介して駆動される。この補機ベルトの張力を適正範囲に保つため、一般に、補機ベルト用テンショナユニットが使用される。
【0003】
補機ベルト用テンショナユニットとして、支点軸を中心に揺動可能に支持される揺動アームと、揺動アームが揺動したときに支点軸を中心に揺動アームと一体に移動するように揺動アームで支持されたテンションプーリと、揺動アームが揺動しても移動しないように配置された第一ピンおよび第二ピンと、揺動アームに取り付けられ、第一ピンから受ける反力で揺動アームを一方の揺動方向に付勢するように第一ピンを押すばねと、第二ピンに接触するように揺動アームに取り付けられ、揺動アームの前記一方の揺動方向とは反対方向への揺動を緩衝する油圧ダンパと、を備えることにより、補機ベルトに張力を付与する補機ベルト用テンショナユニットの取り付けスペースを小さくすることを重視したものが知られている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の補機ベルト用テンショナユニットでは、油圧ダンパとして、揺動アームが揺動したときに支点軸を中心に揺動アームと一体に移動するように揺動アームに設けられたシリンダと、シリンダに摺動可能に挿入され、シリンダの内部を油圧室とリザーバ室とに区画するピストンと、ピストンに一端が接続され、他端が第二ピンに当接するダンパロッドとを有するものが採用されている。その油圧ダンパとばねは、支点軸に直交する同一平面上に配置されている。揺動アームの内部には、リザーバ室に対して、シリンダの長手方向に直交する方向に隣接して位置する副リザーバ室と、副リザーバ室とリザーバ室の間を連通する連通路とが形成されている。油圧ダンパは、支点軸に対して上方側の位置に配置されている。また、副リザーバ室は、油圧ダンパに対して上方側に隣接し、かつ上方側に向かって突出している。連通路は、副リザーバ室の下端部と油圧ダンパのリザーバ室との間を上下方向に貫通している。油圧室とリザーバ室は、空気が存在しないように作動油で満たされている。副リザーバ室には、空気と作動油とが上下二層に収容されている。ピストンの移動によるシリンダ内の圧力変化は、副リザーバ室の空気層によって吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような補機ベルト用テンショナユニットは、揺動アームの取り付け角度や揺動時の傾斜によって揺動アームが水平に対して傾斜角度をもっても、副リザーバ室の空気が連通路、油圧ダンパのリザーバ室を経由して油圧室まで行かないように配置しなければならない。
【0007】
しかしながら、特許文献1の副リザーバ室は、支点軸に対して上方側に位置する油圧ダンパに隣接して上方側へ突出しているので、取り付けスペースのコンパクト化を考慮すると、副リザーバ室を深くして作動油の油面と連通路との間の高低差を大きくすることが困難である。このため、特許文献1の補機ベルト用テンショナユニットは、副リザーバ室から油圧室への空気混入を防止する上で揺動アームに許される傾斜角度の自由度が少ない点で改良の余地がある。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、テンションプーリを支持する揺動アームの傾斜角度が大きくても、揺動アームに形成した副リザーバ室の空気が当該揺動アームに取り付けた油圧ダンパの油圧室に混入することを防止可能な補機ベルト用テンショナユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、支点軸を中心に揺動可能に支持される揺動アームと、前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に揺動するように前記揺動アームで支持されたテンションプーリと、前記支点軸を中心に揺動する前記揺動アームに対して移動しないように配置された第一ピンおよび第二ピンと、前記揺動アームに取り付けられ、前記第一ピンから受ける反力で当該揺動アームを一方の揺動方向に付勢するように当該第一ピンを押すばねと、前記第二ピンに接触するように前記揺動アームに取り付けられ、当該揺動アームの前記一方の揺動方向とは反対方向への揺動を緩衝する油圧ダンパと、を備え、前記油圧ダンパが、前記支点軸を中心に前記揺動アームと一体に移動するように前記揺動アームに設けられたシリンダと、前記シリンダの内部を油圧室とリザーバ室とに区画するピストンと、前記第二ピンに当接するように前記ピストンに接続されたロッドと、を有し、前記揺動アームの内部に副リザーバ室と、当該副リザーバ室と前記リザーバ室との間を連通する連通路とが形成されており、前記油圧室及び前記リザーバ室が作動油で満たされており、前記副リザーバ室に空気と作動油が上下二層に収容されている補機ベルト用テンショナユニットにおいて、前記副リザーバ室が、前記支点軸よりも下方側に位置する部位から当該支点軸の周囲を通って上方側に向かって延びており、前記連通路が、前記支点軸よりも下方側の位置で前記副リザーバ室に開放している構成を採用したものである。
【0010】
上記構成によれば、副リザーバ室が揺動アームの支点軸よりも下方側に位置する部位から支点軸の周囲を通って上方側に向かって延びているので、支点軸の周囲を副リザーバ室の形成に活用して副リザーバ室を上方側へ拡大し、作動油を多く収容して油面を高くすることができる。その副リザーバ室と油圧ダンパのリザーバ室との間を連通する連通路が支点軸よりも下方側の位置で副リザーバ室に開放しているので、油面と連通路との間の高低差を大きくし、これにより、揺動アームの傾斜角度が大きくても、副リザーバ室のうち、連通路の開放位置よりも高い上部の領域に空気を留めて連通路に入りにくくすることができる。このように、上記構成によれば、揺動アームの傾斜角度が大きくても、副リザーバ室から油圧室への空気混入を防止することができる。
【0011】
具体的には、前記副リザーバ室が、前記油圧ダンパに対して軸方向に隣接しており、前記連通路が、前記副リザーバ室と前記リザーバ室との間を軸方向に貫通しているとよい。このようにすると、支点軸に直交する同一平面上に油圧ダンパと副リザーバ室とを配置することを避け、支点軸の周囲に大きな副リザーバ室を配置することができる。
【0012】
前記ばねと前記油圧ダンパが、前記支点軸に直交する同一平面上に配置されていることがより好ましい。このようにすると、支点軸に直交する同一平面上に油圧ダンパとばねと副リザーバ室とを配置することを避け、支点軸の周囲に大きな副リザーバ室を容易に配置することができる。
【0013】
また、前記副リザーバ室が、前記支点軸の軸心と直交する径方向に穴幅をもって当該穴幅よりも長く周方向に延びる長穴状に形成されていることがより好ましい。このようにすると、支点軸の周囲で揺動アームを格別に径方向に拡張せずとも、副リザーバ室を上方側へ拡大することができる。
【0014】
また、前記副リザーバ室が、前記連通路に対して周方向両側で上方側に向かって延びているとよい。このようにすると、副リザーバ室の周方向両側の上部領域に空気を収容して、ピストンの移動によるシリンダ内の圧力変化を吸収するのに必要な空気収容量を確保しつつ、作動油の油面を高くし、これにより、油面と連通路との間の高低差を稼ぐことができる。
【0015】
より好ましくは、前記連通路が、前記副リザーバ室の上方側内壁面から距離を取った位置に開放しているとよい。このようにすると、揺動アームが揺動する際、作動油に浮かぶ空気が副リザーバ室の上方側内壁面沿いに移動したとしても、連通路に入りにくくなる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、テンションプーリを支持する揺動アームの傾斜角度が大きくても、揺動アームに形成した副リザーバ室の空気が当該揺動アームに取り付けた油圧ダンパの油圧室に混入することを防止可能な補機ベルト用テンショナユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施形態に係る補機ベルト用テンショナユニットを示す正面図
【
図2】
図1の補機ベルト用テンショナユニットを有するベルト伝動装置を示す正面図
【
図3】
図1の補機ベルト用テンショナユニットの下面図
【
図5】
図1の補機ベルト用テンショナユニットの支点軸の周囲を分解状態で示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一例としての実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図2に、この発明の実施形態の補機ベルト用テンショナユニット1を用いたベルト伝動装置の例を示す。このベルト伝動装置は、クランクシャフト2に取り付けられたクランクプーリ3と、クランクプーリ3に巻き掛けられたベルト4と、ベルト4を介してクランクプーリ3に連結されたオルタネータ5およびウォータポンプ6と、ベルト4を押してベルト4に張力に張力を付与する補機ベルト用テンショナユニット1とを有する。ここで、オルタネータ5及びウォータポンプ6は自動車の補機であり、ベルト4は、クランクシャフト2の回転を補機(オルタネータ5およびウォータポンプ6)に伝達する補機ベルトである。
【0020】
図1、
図3、
図4に示すように、補機ベルト用テンショナユニット1は、エンジンブロック7に取り付けられるブラケット10と、ブラケット10に対して揺動可能に支持された揺動アーム20と、揺動アーム20に取り付けられたテンションプーリ30とを備える。
【0021】
図5に示すように、ブラケット10には、複数の貫通孔11が形成されている。貫通孔11は、
図3に示すようにブラケット10をボルト8でエンジンブロック7に固定するためのものである。
【0022】
揺動アーム20は、
図1、
図4に示すように、支点軸40を中心に揺動可能に支持されている。テンションプーリ30は、揺動アーム20が揺動したときに支点軸40を中心に揺動アーム20と一体に移動するように揺動アーム20で支持されている。テンションプーリ30の外周には、ベルト4が巻き掛けられる。
【0023】
ここで、支点軸40の軸心に沿った方向を軸方向という。支点軸40の軸心を中心とした円周方向を周方向といい、その軸心に対して直交する方向を径方向という。また、エンジンブロック7から遠い側を軸方向前側とし、エンジンブロック7に近い側を軸方向後側とする。
【0024】
図4、
図5に示すように、ブラケット10は、軸方向に直交する平板部12を有する。平板部12には、平板部12を軸方向に貫通する軸孔13が形成されている。揺動アーム20には、軸孔13に軸方向に対向する軸孔21が形成されている。平板部12の軸孔13の板面と、支点軸40と、揺動アーム20との間には、筒状の滑り軸受51,52が嵌合している。支点軸40は、その軸部に滑り軸受51,52を通し、その軸部を軸孔21に通して軸孔13に圧入することにより、ブラケット10に固定されている。滑り軸受51,52は、揺動アーム20を支点軸40の外周及びブラケット10に対して周方向に回動可能に支持すると共に、支点軸40の頭部とブラケット10と揺動アーム20との間に作用する軸方向荷重を支持する。
【0025】
テンションプーリ30は、揺動アーム20と軸方向に対向して配置されている。揺動アーム20には、テンションプーリ30に対する対向面からテンションプーリ30の側に突出するプーリ軸22が設けられている。プーリ軸22は、支点軸40と径方向に対向する位置にある。支点軸40とプーリ軸22との間に所定の径方向距離が設けられている。支点軸40は、揺動アーム20の長手方向の一端側を通り、プーリ軸22は、揺動アーム20の長手方向の他端側に配置されている。この対向配置を実現するため、プーリ軸22の突出方向は、ブラケット10に対する支点軸40の突出方向(軸方向前側)とは逆の方向(軸方向後側)に設定されている。
【0026】
テンションプーリ30は、プーリ31と、転がり軸受32とを有する。転がり軸受32の内輪は、プーリ軸22の外周に嵌合されている。転がり軸受32の外輪は、プーリ31の内周に一体化されている。転がり軸受32の内輪は、ボルト33でプーリ軸22に固定されている。ボルト33は、プーリ軸22に形成されたねじ孔にねじ込まれている。これにより、転がり軸受32は、テンションプーリ30をプーリ軸22に対して回転可能に支持する状態となり、テンションプーリ30が揺動アーム20に取り付けられている。
【0027】
図6に示すように、揺動アーム20の内部には、ばね60と油圧ダンパ70が取り付けられている。
【0028】
ばね60として、圧縮コイルばねが採用されている。ばね60は、支点軸40の周囲に複数設けられている。揺動アーム20の支点軸40の周囲には、ばね60を収容する第一凹部23が形成されている。第一凹部23は、周方向に間隔をおいて複数形成されている。第一凹部23に収容されたばね60の一端は、第一凹部23の内面で支持され、ばね60の他端は、筒状キャップ61を介して第一ピン80を押している。
【0029】
第一ピン80は、揺動アーム20が揺動しても移動しないように配置されている。筒状キャップ61は、第一凹部23内に設けられたガイドスリーブ62で摺動可能に支持されている。第一ピン80は、
図5に示すようにブラケット10に形成されたピン孔14に圧入することによってブラケット10に固定されている。
図6に示すように、第一ピン80は、ブラケット10の平板部12の軸方向前面に対して軸方向前方に突出した状態に設けられ、その突出部分が第一凹部23に挿入された状態となっている。
【0030】
第一ピン80は、複数のばね60に対応して複数設けられている。すなわち、複数の第一ピン80は、ばね60の個数と同一個数設けられ、それらの第一ピン80が支点軸40の周囲に周方向に間隔をおいて配置されている。ここで、ばね60は、第一ピン80から受ける反力で揺動アーム20を一方の揺動方向に付勢している。第一ピン80から見てばね60のある側の周方向(図では左回転方向)が、ばね60による揺動アーム20の付勢方向となり、ばね60の付勢力によって、
図2のテンションプーリ30がベルト4を押さえ付けられる。
【0031】
図6に示すように、油圧ダンパ70とばね60は、支点軸40に直交する同一平面上に位置するよう揺動アーム20に組み込まれている。油圧ダンパ70は、揺動アーム20が揺動したときに支点軸40を中心に揺動アーム20と一体に移動するように揺動アーム20に設けられた筒状のシリンダ71と、シリンダ71に摺動可能に挿入され、シリンダ71の内部を油圧室72とリザーバ室73とに区画するピストン74と、ピストン74に一端が接続され、他端が第二ピン90に当接するロッド75とを有する。第二ピン90は、揺動アーム20が揺動しても移動しないように配置されている。
【0032】
図6、
図7に示すように、揺動アーム20には、油圧ダンパ70を収容する第二凹部24が形成されている。第二凹部24の大部分は、第一凹部23と同一円周上に位置する。第二凹部24は、その同一円周の中心を通らない一本の弦に沿った方向(弦方向)の一端側で閉塞し、他端側で開口した穴状に形成されている。第二凹部24の閉塞端部は、その同一円周上から弦方向に突出している。油圧ダンパ70は、支点軸40よりも下方側に配置されている。ここで、下方向は、重力方向に相当し、
図1、
図2における下方向に相当する。
【0033】
シリンダ71は、一端が開口し、他端が閉塞した有底筒状に形成されている。シリンダ71は、第二凹部24に嵌め込まれ、第二凹部24の内周に圧入したウェアリング76で第二凹部24内に固定されている。ウェアリング76の内周は、ロッド75の外周を摺動可能に支持している。また、第二凹部24には、ロッド75を摺動可能に貫通させるオイルシール77が組み込まれている。
【0034】
ピストン74は、シリンダ71の長手方向に摺動可能にシリンダ71内に収容されている。ピストン74には、油圧室72とリザーバ室73間に連通する油路を開閉するチェックバルブ78が設けられている。チェックバルブ78は、リザーバ室73側から油圧室72側への作動油の流れのみを許容する。ピストン74とシリンダ71の摺動面間には、微小なリーク隙間が形成されている。油圧室72には、油圧室72の容積が拡大する方向にピストン74を押すダンパスプリング79が組み込まれている。
【0035】
第二ピン90は、ブラケット10に固定されている。ブラケット10には、第二ピン90を圧入して固定するためのピン孔15が形成されている。揺動アーム20の第二凹部24には、第二ピン90を第二凹部24内に挿入するための貫通口が形成されている。第二ピン90は、ブラケット10の平板部12の軸方向前面に対して軸方向前方に突出した状態に設けられ、その突出部分にロッド75の先端が当接している。
【0036】
図6に示すように、第二ピン90から見て油圧ダンパ70のある側の周方向(図では左回転方向)が、第二ピン90から見てばね60のある側の周方向(図では左回転方向)と同じ方向となるように、油圧ダンパ70と第二ピン90が配置されている。これにより、油圧ダンパ70は、ばね60が揺動アーム20を付勢する方向とは反対の揺動方向(
図2においてテンションプーリ30がベルト4から離れる右回転方向)の揺動アーム20の揺動を緩衝するようになっている。
【0037】
図1に示すように、揺動アーム20の傾斜角度θは、支点軸40の軸心O
1と、テンションプーリ30の回転中心O
2とを結ぶ平面と、水平面とが成す角度である。その平面は、
図1においてIV-IV線の切断面に相当し、その水平面は、
図1において作動油(Oil)の油面に相当し、傾斜角度θは、軸心O
1から回転中心O
2を見たときの俯角又は仰角に相当する。傾斜角度θは、揺動アーム20の取り付け角度と、ベルト伝動装置の運転時に揺動アーム20が支点軸40を中心として回転した角度との合成で決まる。揺動アーム20の取り付け角度は、ベルト4から張力が作用しない場合に揺動アーム20が自ずと落ち着いたときの傾斜角度θに相当する。
図1に描いた揺動アーム20の傾斜角度θは、
図2に示すベルト伝動装置における揺動アーム20の取り付け角度に相当している。
【0038】
ベルト伝動装置の運転時、ベルト4の張力が小さくなると、ばね60(
図6参照)の付勢力によって、揺動アーム20が左回転方向に揺動し、ベルト4の弛みを吸収する。このとき、
図6、
図7に示すピストン74がダンパスプリング79の付勢力によって油圧室72の容積が拡大する方向に移動する。また、チェックバルブ78が開き、リザーバ室73から油圧室72に作動油が流れる。
【0039】
一方、
図2に示すベルト4の張力が大きくなると、そのベルト4の張力によって、揺動アーム20が右回転方向に揺動し、ベルト4の緊張を吸収する。このとき、
図6、
図7に示すピストン74が油圧室72の容積を縮小する方向に移動するので、チェックバルブ78が閉じ、前述のリーク隙間を通って油圧室72からリザーバ室73に作動油が流れ、その作動油の粘性抵抗によってダンパ作用を生じる。
【0040】
図1、
図4、
図7に示すように、揺動アーム20の内部には、リザーバ室73に対して、シリンダ71の長手方向に直交する方向に隣接して位置する副リザーバ室25と、副リザーバ室25とリザーバ室73との間を連通する連通路26とが形成されている。
【0041】
図1に示すように、油圧室72とリザーバ室73は、空気が存在しないように作動油で満たされている。副リザーバ室25には、空気と作動油とが上下二層に収容されている。
【0042】
図7に示すように、副リザーバ室25は、油圧ダンパ70に対して軸方向前側に隣接した部位で軸方向前側に向かって開放した穴状に形成されている。
図1、
図4、
図7に示すように、副リザーバ室25の内周に圧入されたボアキャップ100により、副リザーバ室25が密封されている。ボアキャップ100は、揺動アーム20の軸方向前側の端面をボアキャップ100の周囲の複数個所で加締めることにより、揺動アーム20に対して抜け止めされている。
【0043】
連通路26は、
図1に示すように、支点軸40よりも下方側の位置で、
図7に示すように、副リザーバ室25とリザーバ室73との間を軸方向に貫通している。
【0044】
副リザーバ室25は、
図1に示すように、径方向に穴幅をもって当該穴幅よりも長く周方向に延びる長穴状に形成されている。副リザーバ室25の内周のうち、周方向の両端部間を繋ぐ上下両側の内壁面は、それぞれ円孤面状になっている。
図7に示すように、副リザーバ室25の穴底面は、一定の深さになっている。なお、
図7において作動油の図示を省略している。
【0045】
副リザーバ室25は、
図1に示すように、支点軸40よりも下方側に位置する部位から支点軸40の周囲を通って上方側に向かって延びている。連通路26に対して副リザーバ室25の周方向一方側の部位は上方側に向かって周方向に延びる一方、連通路26に対して副リザーバ室25の周方向他方側の部位も上方側に向かって周方向に延びている。支点軸40の軸心O
1回りの角度で考えると、副リザーバ室25は、180°の範囲に亘っている。連通路26は、副リザーバ室25の周方向の全長を二等分する中央位置に開放している。
【0046】
副リザーバ室25に収容された作動油の量は、揺動アーム20の取り得る揺動範囲で作動油の油面と連通路26との間に高低差を残せるように設定されている。この高低差は、ベルト4の張力変動の際に揺動アーム20が揺動しても、副リザーバ室25に収容された空気が連通路26の開放位置よりも高い上部の領域に留まるようにするためのものである。空気は、副リザーバ室25の周方向両側の上部領域に収容されている。
【0047】
連通路26は、副リザーバ室25の上方側内壁面から距離dを取った位置に開放している。揺動アーム20が支点軸40を中心として左回転又は右回転する際、仮に、副リザーバ室25の作動油に浮かぶ空気が副リザーバ室25の上側内壁面沿いに
図1の右側から左側へ又は
図1の左側から右側へ移動したとしても、前述の距離dが設けられているため、移動する空気が連通路26まで届かない。
【0048】
仮に、揺動アーム20の傾斜角度θが大きな仰角又は俯角になり、副リザーバ室25に収容された空気の全量が副リザーバ室25の周方向片側に移動したとしても、その空気は、連通路26の開放位置よりも高い上部領域に留まり、連通路26まで届かない。
【0049】
このように、補機ベルト用テンショナユニット1は、副リザーバ室25が支点軸40よりも下方側に位置する部位から支点軸40の周囲を通って上方側に向かって延びており、連通路26が支点軸40よりも下方側の位置で副リザーバ室25に開放していることにより、支点軸40の周囲を副リザーバ室25の形成に活用して副リザーバ室25を上方側へ拡大し、作動油を多く収容して油面を高くし、その油面と連通路26との間の高低差を大きくし、これにより、揺動アーム20の傾斜角度θが大きくても、連通路26の開放位置よりも高い副リザーバ室25の上部領域に空気を留めて連通路26に入りにくくすることができる。すなわち、補機ベルト用テンショナユニット1は、テンションプーリ30を支持する揺動アーム20の傾斜角度θが大きくても、揺動アーム20に形成した副リザーバ室25の空気が揺動アーム20に取り付けた油圧ダンパ70の油圧室72(
図7参照)に混入するのを防止することができる。
【0050】
また、補機ベルト用テンショナユニット1は、副リザーバ室25が油圧ダンパ70に対して軸方向に隣接しており、連通路26が副リザーバ室25とリザーバ室73との間を軸方向に貫通していることにより(
図7参照)、支点軸40に直交する同一平面上に油圧ダンパ70と副リザーバ室25とを配置することを避け(
図6、
図7参照)、支点軸40の周囲に大きな副リザーバ室25を配置することができる(
図1、
図7参照)。
【0051】
さらに、補機ベルト用テンショナユニット1は、ばね60と油圧ダンパ70が支点軸40に直交する同一平面上に配置されていることにより(
図6参照)、その同一平面上にばね60と油圧ダンパ70と副リザーバ室25とを配置することを避け(
図4、
図6、
図7参照)、支点軸40の周囲に大きな副リザーバ室25を容易に配置することができる(
図1、
図7参照)。
【0052】
また、補機ベルト用テンショナユニット1は、副リザーバ室25が支点軸40の軸心と直交する径方向に穴幅をもって当該穴幅よりも長く周方向に延びる長穴状に形成されていることにより、支点軸40の周囲で揺動アーム20を格別に径方向に拡張せずとも(
図3~
図7参照)、副リザーバ室25を上方側へ拡大することができる(
図1参照)。
【0053】
また、補機ベルト用テンショナユニット1は、副リザーバ室25が連通路26に対して周方向両側で上方側に向かって延びていることにより、副リザーバ室25の周方向両側の上部領域に空気を収容して、ピストン74の移動によるシリンダ71内の圧力変化を吸収するのに必要な空気収容量を確保しつつ(
図1、
図7参照)、作動油の油面を高くし、油面と連通路26との間の高低差を稼ぐことができる。
【0054】
また、補機ベルト用テンショナユニット1は、連通路26が副リザーバ室25の上方側内壁面から距離dを取った位置に開放していることにより、揺動アーム20が揺動する際、作動油に浮かぶ空気が副リザーバ室25の上方側内壁面沿いに移動したとしても、連通路26に入りにくくなる。
【0055】
この実施形態では、副リザーバ室25が支点軸40の周囲の半周に延びる例を示したが、副リザーバ室25の形状及び容積と連通路26との位置関係は、
図2に示すベルト伝動装置の運転時、支点軸40を中心として揺動アーム20に許容可能な揺動範囲で
図1に示す副リザーバ室25内の空気を連通路26の開放位置よりも高い上部領域に留めることができるように設定すればよい。例えば、周方向全周に連続する円環状の穴部として副リザーバ室を形成し、さらに多量の作動油を収容して油面を高くすることも可能である。
【0056】
また、テンションプーリ30を支点軸40、油圧ダンパ70及びばね60と径方向に対向する位置に配置した例を示したが(
図3~
図5参照)、支点軸40の周囲のうち、副リザーバ室25を形成しない残りの角度領域にプーリ軸を配置し、テンションプーリをばね等と軸方向に対向させることも可能である。
【0057】
また、揺動アーム20に支点軸40を通し、ブラケット10に支点軸40を固定したが、支点軸を揺動アーム又はブラケットと一体に形成してもよい。支点軸40と揺動アーム20とブラケット10間の支持を担う滑り軸受51,52に代えて、転がり軸受を採用することも可能である。
【0058】
また、ブラケット10を省略し、エンジンブロック7に直接に支点軸、第一ピン、第二ピンを設けることも可能である。
【0059】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 補機ベルト用テンショナユニット
20 揺動アーム
25 副リザーバ室
26 連通路
30 テンションプーリ
40 支点軸
60 ばね
70 油圧ダンパ
71 シリンダ
72 油圧室
73 リザーバ室
74 ピストン
75 ロッド
80 第一ピン
90 第二ピン