(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】プレキャスト床版とその敷設方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20240528BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
E04B5/02 C
E04G21/18 Z
(21)【出願番号】P 2020151859
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】兪 東延
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-133145(JP,A)
【文献】特開平06-101297(JP,A)
【文献】特開平10-008616(JP,A)
【文献】特開平06-299633(JP,A)
【文献】実開昭62-113207(JP,U)
【文献】実開昭58-081224(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/02 ー 5/08
E04B 5/43
E04B 1/58
E04G 21/14 ー 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形枠状に配設された梁の上に、水平移動が規制された姿勢で敷設されるプレキャスト床版であって、
相互に対向する二組の側面を有する平面視矩形の床版本体と、該床版本体の下面に取り付けられている係合治具とを有し、
前記床版本体の下面のうち、前記二組のぞれぞれの組における少なくとも一つの側面の近傍には、複数のインサートナットにより構成される一組のインサートナットユニットが設けられており、
前記係合治具は、前記床版本体の下面にボルト接合される取り付け片と、前記梁の側方に係合する係合片とを有し、該取り付け片には、前記インサートナットユニットの各インサートナットに対応するボルト孔を備えている複数組のボルト孔ユニットが設けられており、
一組の前記インサートナットユニットに対して、複数組のうちの一組の前記ボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることを特徴とする、プレキャスト床版。
【請求項2】
矩形枠状に配設された梁の上に、水平移動が規制された姿勢で敷設されるプレキャスト床版であって、
相互に対向する二組の側面を有する平面視矩形の床版本体と、該床版本体の下面に取り付けられている係合治具とを有し、
前記床版本体の下面のうち、前記二組のぞれぞれの組における少なくとも一つの側面の近傍には、複数のインサートナットにより構成されるインサートナットユニットが複数組設けられており、
前記係合治具は、前記床版本体の下面にボルト接合される取り付け片と、前記梁の側方に係合する係合片とを有し、該取り付け片には、前記インサートナットユニットの各インサートナットに対応するボルト孔を備えている一組のボルト孔ユニットが設けられており、
複数組のうちの一組の前記インサートナットユニットに対して、一組の前記ボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることを特徴とする、プレキャスト床版。
【請求項3】
前記係合片には、介錯ロープ用孔が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載のプレキャスト床版。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプレキャスト床版において、該プレキャスト床版が敷設される矩形枠状の二組の梁間距離に応じた前記インサートナットユニットと前記ボルト孔ユニットを選定し、対応する各インサートナットと各ボルト孔を位置合わせしてボルト接合することにより前記プレキャスト床版を製作し、矩形枠状の二組の梁を構成するそれぞれの組の梁に対して対応する前記係合治具を係合させながら前記プレキャスト床版を複数の梁の上に敷設することを特徴とする、プレキャスト床版の敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト床版とその敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の施工において、矩形枠状に組み付けられた複数の梁にプレキャスト床版(プレキャストコンクリート床版、PCa床版、PCaパネル)を敷設するに当たり、梁の所定位置にプレキャスト床版を敷設するための措置が講じられている。ここで、
図1と
図2A及び
図2Bを参照して、従来のプレキャスト床版の敷設方法の一例について説明する。
図1は、従来のプレキャスト床版の敷設方法の一例の概要を説明する図であり、
図2Aと
図2Bは順に敷設方法を詳細に説明する図である。
【0003】
図1に示す例において、矩形枠状に組み付けられた梁20はいずれもH形鋼により形成され、各梁20はウエブ21と上フランジ22と下フランジ23とを有しており、各梁20の上フランジ22の所定位置に平面視矩形のプレキャスト床版10が敷設される。
図1において、相互に直交する態様で取り付けられている梁20Aと梁20Bは例えば建物の階間にある胴差であり、梁20Bに対して所定の間隔を置いて小梁である梁20C,20Dが取り付けられ、これらの梁20A,20C,20Dに対して梁20Bに対向する不図示の梁が取り付けられることにより、複数の梁が矩形枠状に組み付けられている。
【0004】
プレキャスト床版10は、平面視矩形の上面11及び下面12と、長さの異なる側面13,14とを有し、上面11に取り付けられている複数の吊り治具17に吊りワイヤ18が取り付けられ、不図示の重機により梁20の所定位置に吊り下ろされるようになっている。各梁20の上フランジ22の上面には帯状の防振材25が取り付けられており、さらに、プレキャスト床版10の敷設位置を規定するための位置決め用治具30が取り付けられている。
【0005】
図2Aと
図2Bに詳細に示すように、位置決め用治具30は横片31と縦片32とを有する山形鋼により形成され、横片31に開設されているボルト孔31aと梁20の上フランジ22に開設されているボルト孔22aが位置合わせされ、双方のボルト孔31a,22aにボルト35が挿通されることにより位置決め用治具30が上フランジ22の上面に取り付けられている。
図1に示す例では、梁20A,20B,20Cの各上フランジ22にプレキャスト床版10が敷設されるに際し、プレキャスト床版10の側面13,14の敷設位置を規定するための位置決め用治具30が、梁20A,20Bの各上フランジ22にそれぞれ複数(図示例では二つ)取り付けられている。
【0006】
図2Aと
図2Bは、プレキャスト床版10の側面14が位置決め用治具30に案内されながら上フランジ22の上面に敷設される状況を示している。
図2Aに示すように、プレキャスト床版10の側面14が位置決め用治具30の縦片32へX1方向に側方から近接するように移動され、
図2Bに示すように、プレキャスト床版10の側面14を縦片32に接触させた後、縦片32に沿ってプレキャスト床版10を上フランジ22の上面にある防振材25の上方へX2方向に吊り下ろすことにより、位置決め用治具30に案内されながらプレキャスト床版10が梁20の上フランジ22の所定位置に敷設される。図示を省略するが、先行して敷設されたプレキャスト床版10の側方に別途のプレキャスト床版を敷設する際には、隣接する双方のプレキャスト床版10の間に所定の隙間を確保した状態で後行のプレキャスト床版を敷設するべく、先行のプレキャスト床版10の上面と側面の隅角部に複数の隙間保持用治具(図示せず)を取り付けておき、隙間保持用治具にて所定の隙間を確保した状態で後行のプレキャスト床版が敷設される。
【0007】
以上で説明する梁の上フランジに対するプレキャスト床版の敷設方法は従来一般の敷設方法であるが、プレキャスト床版の納まり上、梁の上フランジの上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合には、複数の梁の上フランジの上面の所定位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することが極めて困難になるといった課題がある。また、上フランジの上面に位置決め用治具が取り付けられていない状態でのプレキャスト床版の敷設には手間のかかる調整が必要になり、場合によっては多種類の施工治具を要することから煩雑な敷設施工が余儀なくされるといった課題もある。
【0008】
ここで、特許文献1には、プレキャスト床版敷設時のかかり代調整方法において、作業員の個々の技量によって調整が不確実であるといった課題を解消できる、かかり代調整治具とこれを用いたかかり代調整方法が提案されている。具体的には、梁(ここでは梁型枠)上に載置されるプレキャスト床版の端部に平板状の治具本体片側の側面に当接させ、該治具本体を着脱自在に固定するための固定手段を該側面に有し、治具本体の下部に梁の上部から梁の内側にガイドしてプレキャスト床版の端部の端面位置をかかり代の範囲内で設定した位置に収めるテーパ部が設けられるとともに、治具本体の上部に隣接するプレキャスト床版の梁上に載置される端部を設定した位置にガイドするテーパ部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のかかり代調整治具を用いたかかり代調整方法では、梁の天端(例えば上フランジの上面)に位置決め用治具をボルト接合するものではないものの、かかり代調整治具を梁の天端から上方に突出させるように当該梁に取り付けた後にプレキャスト床版の敷設を行うことから、上記する課題、すなわち、梁の上フランジの上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合に、複数の梁の上フランジの上面の所定位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することが極めて困難であるといった課題を解消することはできない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、梁の上フランジの上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合であっても、複数の梁の上フランジの上面の所定位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することのできる、プレキャスト床版とその敷設方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明によるプレキャスト床版の一態様は、
矩形枠状に配設された梁の上に、水平移動が規制された姿勢で敷設されるプレキャスト床版であって、
相互に対向する二組の側面を有する平面視矩形の床版本体と、該床版本体の下面に取り付けられている係合治具とを有し、
前記床版本体の下面のうち、前記二組のぞれぞれの組における少なくとも一つの側面の近傍には、複数のインサートナットにより構成される一組のインサートナットユニットが設けられており、
前記係合治具は、前記床版本体の下面にボルト接合される取り付け片と、前記梁の側方に係合する係合片とを有し、該取り付け片には、前記インサートナットユニットの各インサートナットに対応するボルト孔を備えている複数組のボルト孔ユニットが設けられており、
一組の前記インサートナットユニットに対して、複数組のうちの一組の前記ボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、平面視矩形の床版本体の下面のうち、例えば相互に直交する二つの側面の近傍にそれぞれ、複数のインサートナットにより構成される一組のインサートナットユニットが設けられ、梁の側方に係合する係合治具の備える取り付け片にインサートナットユニットの各インサートナットに対応するボルト孔を備えている複数組のボルト孔ユニットが設けられ、一組のインサートナットユニットに対して、複数組のうちの一組のボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることにより、直交する梁の側方に床版本体の下面に取り付けられている係合治具を係合させながらプレキャスト床版を複数の梁の上に精緻に敷設することが可能になる。ここで、「水平移動が規制された姿勢で敷設される」とは、プレキャスト床版の水平移動が完全に規制される(水平移動不可)形態と、若干の水平移動が許容されるものの殆ど水平移動できない形態の双方を含んでいる。また、「複数組のうちの一組のボルト孔ユニットが位置合わせされ」とは、係合治具の取り付け片には、梁の複数の規格寸法に応じた複数組のボルト孔ユニットが設けられており、その中で、施工対象の梁の規格寸法に応じた一組のボルト孔ユニットが選定されてインサートナットユニットと位置合わせされることを意味している。例えば、矩形枠状に配設された複数の梁がいずれもH形鋼により形成される場合において、対向する一対の梁の芯間距離に応じて床版本体の幅が設定されるが、適用される梁の規格寸法に応じて、対向する一対の梁のフランジ間距離(実際の梁間距離)は相違することになる。一方、本態様のプレキャスト床版は、その床版本体の下面に取り付けられている係合治具の係合片を梁の例えば上フランジの側面に係合させることにより敷設位置が規定されることから、施工対象の梁の規格寸法に応じたボルト孔ユニットが選定されることが必要になる。
【0014】
本態様では、複数種の規格寸法の梁に応じた複数組のボルト孔ユニットを備える係合治具が床版本体の下面に取り付けられていることにより、複数種の規格寸法の梁からなる平面架構の各梁の所望位置にプレキャスト床版を敷設することができる。H形鋼からなる梁の場合、H-125×125,H-150×150等、多数の規格寸法が存在するが、適用可能性のある複数種の規格寸法に対応するボルト孔ユニットを取り付け片に設けておけばよい。
【0015】
また、平面視矩形(矩形には、長方形と正方形が含まれる)の床版本体のうち、相互に直交する二つの側面の近傍にそれぞれ、少なくとも一つの係合治具が取り付けられていることにより、各係合治具が相互に直交する二つの梁の上フランジの側面に係合されることになり、結果として、矩形枠状に組み付けられた複数の梁のうち、二本乃至四本の梁の各上フランジの所望位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することができる。尚、より一層安定的に各梁の上フランジに係合治具を係合させるには、床版本体のうち、相互に直交する二つの側面の近傍にそれぞれ、二つの係合治具が取り付けられている(よって、計四つの係合治具が取り付けられている)形態が好ましい。
【0016】
また、本発明によるプレキャスト床版の他の態様は、矩形枠状に配設された梁の上に、水平移動が規制された姿勢で敷設されるプレキャスト床版であって、
相互に対向する二組の側面を有する平面視矩形の床版本体と、該床版本体の下面に取り付けられている係合治具とを有し、
前記床版本体の下面のうち、前記二組のぞれぞれの組における少なくとも一つの側面の近傍には、複数のインサートナットにより構成されるインサートナットユニットが複数組設けられており、
前記係合治具は、前記床版本体の下面にボルト接合される取り付け片と、前記梁の側方に係合する係合片とを有し、該取り付け片には、前記インサートナットユニットの各インサートナットに対応するボルト孔を備えている一組のボルト孔ユニットが設けられており、
複数組のうちの一組の前記インサートナットユニットに対して、一組の前記ボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることを特徴とする。
【0017】
本態様は、床版本体が複数組のインサートナットユニットを備えている形態であり、複数組のうちの一組のインサートナットユニットに対して、一組のボルト孔ユニットが位置合わせされ、ボルト接合されていることにより、直交する梁の側方に床版本体の下面に取り付けられている係合治具を係合させながらプレキャスト床版を複数の梁の上に精緻に敷設することが可能になる。
【0018】
また、本発明によるプレキャスト床版の他の態様において、前記係合片には、介錯ロープ用孔が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、床版本体の下面に係合治具が取り付けられ、係合治具の係合片が下方に突出し、係合片に介錯ロープ用孔が設けられていることにより、係合治具に対して介錯ロープを容易に取り付けることができ、取り付けられた介錯ロープを介してプレキャスト床版を複数の梁の所望位置に引き寄せることができる。
【0020】
また、本発明によるプレキャスト床版の敷設方法の一態様は、
前記プレキャスト床版において、該プレキャスト床版が敷設される矩形枠状の二組の梁間距離に応じた前記インサートナットユニットと前記ボルト孔ユニットを選定し、対応する各インサートナットと各ボルト孔を位置合わせしてボルト接合することにより前記プレキャスト床版を製作し、矩形枠状の二組の梁を構成するそれぞれの組の梁に対して対応する前記係合治具を係合させながら前記プレキャスト床版を複数の梁の上に敷設することを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、梁の規格寸法に応じた床版本体のインサートナットユニットと係合治具のボルト孔ユニットを位置合わせし、双方をボルト接合することにより製作されたプレキャスト床版を複数の梁の上に敷設することにより、直交する梁の側方に床版本体の下面に取り付けられている係合治具を係合させながらプレキャスト床版を複数の梁の上に精緻に敷設することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明のプレキャスト床版とその敷設方法によれば、梁の上フランジの上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合であっても、複数の梁の上フランジの上面の所定位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来のプレキャスト床版の敷設方法の一例の概要を説明する図である。
【
図2A】従来のプレキャスト床版の敷設方法を詳細に説明する図である。
【
図2B】
図2Aに続き、従来のプレキャスト床版の敷設方法を詳細に説明する図である。
【
図3】第1の実施形態に係るプレキャスト床版の一例の分解斜視図である。
【
図4】第1の実施形態に係るプレキャスト床版を構成する係合治具の一例を説明する図であって、(a)は、係合治具の斜め後方から見た斜視図であり、(b)は、
図4(a)のb方向矢視図であり、(c)は、
図4(a)のc方向矢視図である。
【
図5】実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法の一例の概要を説明する図である。
【
図6A】実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法を詳細に説明する図である。
【
図6B】
図6Aに続き、実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法を詳細に説明する図である。
【
図7】梁にプレキャスト床版が敷設された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係るプレキャスト床版とその敷設方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[第1の実施形態に係るプレキャスト床版]
はじめに、
図3及び
図4を参照して、第1の実施形態に係るプレキャスト床版の一例について説明する。ここで、
図3は、実施形態に係るプレキャスト床版の一例の分解斜視図である。また、
図4は、実施形態に係るプレキャスト床版を構成する係合治具の一例を説明する図であって、
図4(a)は、係合治具の斜め後方から見た斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)のb方向矢視図であり、
図4(c)は、
図4(a)のc方向矢視図である。
【0026】
図示するプレキャスト床版60は、平面視矩形の広幅面である上面41及び下面42と、相互に対向する二組の側面43,44とを有する床版本体40と、床版本体40の下面42に取り付けられる複数(図示例は四つ)の係合治具50とを有する。
【0027】
プレキャスト床版60は乾式の床版であり、ALC(軽量気泡コンクリート、Autoclaved Light weight Concrete)床版(ALCパネル)や、プレキャストコンクリート床版(PCa床版、PCaパネル)が適用される。
【0028】
床版本体40の下面42のうち、相互に直交する側面43,44の近傍ラインS1、S2上においてそれぞれ、二つのインサートナット46が所定の間隔を置いて埋設されることにより、一組のインサートナットユニット45A,45Bが設けられている。図示例では、各近傍ラインS1、S2上においてそれぞれ、二つのインサートナットユニット45A,45Bが設けられている。尚、図示例以外にも、各近傍ラインS1、S2上においてそれぞれ、一つのインサートナットユニット45A,45Bが設けられている形態であってもよい。
【0029】
各インサートナットユニット45に対して、梁20に係合される係合治具50が位置合わせされ、双方がボルト接合されるようになっている。
図4(a)に示すように、係合治具50は、床版本体40の下面42にボルト接合される取り付け片51と、梁20の側方(例えば上フランジ22の側面)に係合する係合片52とを有する山形鋼により形成される。
【0030】
図示例4(b)に示すように、取り付け片51には、床版本体40の下面42にあるインサートナットユニット45の各インサートナット46に対応する複数(図示例は二つ)のボルト孔54を備えている、複数組(図示例は四組)のボルト孔ユニット53が設けられている。
【0031】
プレキャスト床版60が敷設される矩形枠状に配設された複数の梁20は一般に、
図1に示すH形鋼により形成されるが、プレキャスト床版60を構成する係合治具50の係合片52が、各梁20の上フランジ22の側面に係合されるようになっている。矩形枠状に配設された複数の梁20において、対向する一対の梁20の芯間距離に応じて床版本体40の幅が設定されるが、適用される梁20(H形鋼)の規格寸法に応じて、対向する一対の梁20のフランジ間距離(実際の梁間距離)は相違することになる。一方、プレキャスト床版60は、床版本体40の下面42に取り付けられている係合治具50の係合片52を梁20の上フランジ22の側面に係合させることにより敷設位置が規定されることから、取り付け片51において、施工対象の梁20の規格寸法に応じた位置にボルト孔ユニット53が設けられている必要がある。
【0032】
そこで、
図4(b)に示すように、係合治具50の取り付け片51には、複数種(図示例は四種類)の規格寸法の梁20に応じた四組のボルト孔ユニット53A乃至53Dが設けられている。また、係合片52には介錯ロープ用孔55が設けられている。施工現場において適用可能性のあるH形鋼の規格寸法として、H-125×125,H-150×150,H-175×175,H-200×200の四種類があるとした場合に、各規格寸法に応じたラインL1乃至L4上にそれぞれ、対応するボルト孔ユニット53A乃至53Dが設けられる。図示例では、係合片52に最も近いラインL1にあるボルト孔ユニット53AがH-200×200に対応するボルト孔ユニットであり、係合片52から最も遠いラインL4にあるボルト孔ユニット53DがH-125×125に対応するボルト孔ユニットとなる。また、その他、ラインL2にあるボルト孔ユニット53BがH-175×175に対応するボルト孔ユニットであり、ラインL3にあるボルト孔ユニット53CがH-150×150に対応するボルト孔ユニットとなる。
【0033】
各ボルト孔ユニット53を構成する二つのボルト孔54の間の間隔はインサートナットユニット45を構成する二つのインサートナット46の間の間隔と同一に設定されている。図示を省略するが、床版本体40の各側面43,44には、敷設対象の梁20の規格寸法が表示されており、かつ、係合治具50の取り付け片51には、各ボルト孔ユニット53A乃至53Dに対して対応する梁の規格寸法が表示されているのが好ましい。
【0034】
プレキャスト床版の製作者(組立者)は、床版本体40に表示されている梁20の規格寸法に応じたボルト孔ユニット53を選定し、各インサートナットユニット45の二つのインサートナット46に対して、選定されたボルト孔ユニット53の二つのボルト孔54をそれぞれ位置合わせし、対応するインサートナット46とボルト孔54にボルトをねじ込むことにより、床版本体40の下面42のうち、敷設対象の梁20の規格寸法に応じた位置に係合治具50が取り付けられているプレキャスト床版60が製作される。
【0035】
プレキャスト床版60においては、平面視矩形の床版本体40のうち、相互に直交する二つの側面43,44の近傍にそれぞれ、少なくとも一つの係合治具50が取り付けられていることにより、各係合治具50が相互に直交する二つの梁20の上フランジ22の側面に係合されることになる。そのため、矩形枠状に組み付けられた複数の梁20のうち、二本乃至四本の梁20の各上フランジ22の所望位置にプレキャスト床版60を精緻に敷設することができる。特に、図示例のように、床版本体40のうち、相互に直交する二つの側面43,44の近傍にそれぞれ二つの係合治具50が取り付けられていることにより、より一層安定的に各梁20の上フランジ22の上面にプレキャスト床版60を敷設することができる。
【0036】
プレキャスト床版60を適用することにより、床版本体40の下面42に取り付けられている複数の係合治具50を梁20の上フランジ22の側面に係合させながらプレキャスト床版60を複数の梁20の所定位置に敷設することができるため、梁20の上フランジ22の上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合であっても、複数の梁20の上フランジ22の上面の所定位置にプレキャスト床版60を精緻に敷設することが可能になる。また、現場において適用可能性のある複数種の規格寸法の梁20が存在する場合であっても、係合治具50の取り付け片51に複数の規格寸法の梁20に対応するボルト孔ユニット53が設けられていることから、敷設対象の規格寸法の梁20に応じたボルト孔ユニット53を選定して床版本体40に設けられているインサートナットユニット45とボルト接合することにより、適用される規格寸法の梁20に対応したプレキャスト床版60を臨機に製作することが可能になる。
【0037】
また、プレキャスト床版60では、床版本体40の下面42に対して係合片52が下方に突出した態様で係合治具50が取り付けられ、下方に突出する係合片52に介錯ロープ用孔55が設けられていることにより、係合片52に対して介錯ロープ19(
図5参照)を容易に取り付けることができ、取り付けられた介錯ロープ19を介してプレキャスト床版60を複数の梁20の所望位置に引き寄せることが可能になる。
【0038】
[第2の実施形態に係るプレキャスト床版]
次に、第2の実施形態に係るプレキャスト床版の一例を、当該プレキャスト床版を直接説明する図面を参照せずに説明する。尚、説明の理解を容易とするべく、
図3及び
図4を適宜参照するものとする。
【0039】
第2の実施形態に係るプレキャスト床版は、第1の実施形態に係るプレキャスト床版60と異なり、
図3に示す床版本体40の下面42のうち、相互に直交する側面43,44の近傍ラインS1、S2上においてそれぞれ、二つのインサートナット46で一組のインサートナットユニットが複数組設けられている形態である。近傍ラインS1、S2上にはそれぞれ、二つのインサートナットユニットが設けられるが、各インサートナットユニットが複数種の規格寸法の梁20に応じた複数組のインサートナットユニットを備えている。例えば、
図4に示す係合治具50と同様に四種の規格寸法の梁20に対応する形態では、近傍ラインS1、S2上においてそれぞれ、四組のインサートナットユニット×二組(計十六個のインサートナット)が設けられることになる。
【0040】
一方、第2の実施形態に係るプレキャスト床版に適用される係合治具の取り付け片には、二つのボルト孔からなる一組のボルト孔ユニットのみが設けられていればよい。
【0041】
第2の実施形態に係るプレキャスト床版によっても、床版本体40の下面42に取り付けられている複数の係合治具50を梁20の上フランジ22の側面に係合させながらプレキャスト床版を複数の梁20の所定位置に敷設することができるため、梁20の上フランジ22の上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合であっても、複数の梁20の上フランジ22の上面の所定位置にプレキャスト床版を精緻に敷設することが可能になる。また、現場において適用可能性のある複数種の規格寸法の梁20が存在する場合であっても、床版本体40の下面42に複数の規格寸法の梁20に対応するインサートナットユニット45が設けられていることから、敷設対象の規格寸法の梁20に応じたインサートナットユニット45を選定して係合治具50に設けられているボルト孔ユニット53とボルト接合することにより、適用される規格寸法の梁20に対応したプレキャスト床版を臨機に製作することが可能になる。
【0042】
[実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法]
次に、
図5乃至
図7を参照して、実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法の一例について説明する。ここで、
図5は、実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法の一例の概要を説明する図である。また、
図6Aと
図6Bは順に、実施形態に係るプレキャスト床版の敷設方法を詳細に説明する図であり、
図7は、梁にプレキャスト床版が敷設された状態を示す図である。
【0043】
図5に示す例において、矩形枠状に組み付けられた梁20はいずれもH形鋼により形成され、各梁20はウエブ21と上フランジ22と下フランジ23とを有しており、各梁20の上フランジ22の所定位置に平面視矩形のプレキャスト床版60が敷設される。
図5において、相互に直交する態様で取り付けられている梁20Aと梁20Bは例えば建物の階間にある胴差であり、梁20Bに対して所定の間隔を置いて小梁である梁20C,20Dが取り付けられ、これらの梁20A,20C,20Dに対して梁20Bに対向する不図示の梁が取り付けられることにより、複数の梁が矩形枠状に組み付けられている。
【0044】
プレキャスト床版60は、床版本体40の上面41に取り付けられている複数の吊り治具17(
図1参照)に吊りワイヤ18が取り付けられ、不図示の重機により梁20の所定位置に吊り下ろされるようになっている。各梁20の上フランジ22の上面には、帯状の防振材25(
図1参照)が取り付けられている。
【0045】
プレキャスト床版60を構成する各係合治具50においては、敷設対象の各梁20A、20B、20C等の規格寸法に応じたボルト孔ユニット53が選定され、床版本体40の下面42に設けられている各インサートナットユニット45の二つのインサートナット46に対して、選定されたボルト孔ユニット53の二つのボルト孔54をそれぞれ位置合わせし、対応するインサートナット46とボルト孔54にボルト48をねじ込むことにより、床版本体40の下面42のうち、敷設対象の梁20の規格寸法に応じた位置に係合治具50が取り付けられているプレキャスト床版60が製作されている。尚、対向する梁20A,20Cの規格寸法が相互に異なる場合であっても、各梁20A,20Bの上フランジ22の所定位置に床版本体40が敷設されるように、係合治具50において好適なボルト孔ユニット53が選定され、インサートナットユニット45にボルト接合される。
【0046】
吊りワイヤ18にて吊持された状態のプレキャスト床版60を所定の位置に引き寄せるに際しては、床版本体40の下面42において下方に突出する態様で取り付けられている係合治具50の係合片52の介錯ロープ用孔55に介錯ロープ19を取り付け、介錯ロープ19を作業員が引っ張ることにより、プレキャスト床版60を複数の梁20の所望位置に引き寄せる。
【0047】
図6Aに示すように、プレキャスト床版60の床版本体40の側面43が梁20へX3方向に側方から近接するように移動され、
図6Bに示すように、床版本体40の下面42にボルト接合されている係合治具50の係合片52と、梁20の上フランジ22の側面22bとを位置合わせした後、上フランジ22の側面22bに沿ってプレキャスト床版60を上フランジ22の上面にある防振材25の上方へX4方向に吊り下ろすことにより、
図7に示すように、二つの係合片52に案内されながらプレキャスト床版60の床版本体40の下面42が、梁20の上フランジ22の所定位置に敷設される。尚、
図7は、一つの梁20の上フランジ22の上面に床版本体40が敷設されている状態を示しているが、実際には、例えば
図1に示す三本の梁20A,20B,20Cの各上フランジ22に対して、プレキャスト床版60は水平移動が規制された姿勢で敷設される。
【0048】
図示するプレキャスト床版の敷設方法によれば、プレキャスト床版60を適用することにより、梁20の上フランジ22の上面に位置決め用治具を取り付けることが困難もしくは不可能な場合であっても、複数の梁20の上フランジ22の上面の所定位置にプレキャスト床版60を精緻に敷設することが可能になる。尚、図示を省略するが、先行して敷設されたプレキャスト床版60の側方に別途のプレキャスト床版60を敷設する際には、隣接する双方のプレキャスト床版60の間に所定の隙間を確保した状態で後行のプレキャスト床版60を敷設するべく、先行のプレキャスト床版60の上面と側面の隅角部に複数の隙間保持用治具(図示せず)を取り付けておき、隙間保持用治具にて所定の隙間を確保した状態で後行のプレキャスト床版60が敷設される。
【0049】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0050】
17:吊り治具
18:吊りワイヤ
19:介錯ロープ
20,20A,20B,20C,20D:梁
21:ウエブ
22:上フランジ
22a:ボルト孔
22b:側面
23:下フランジ
40:床版本体
41:上面
42:下面
43,44:側面
45,45A,45B:インサートナットユニット
46:インサートナット
48:ボルト
50:係合治具
51:取り付け片
52:係合片
53,53A,53B,53C,53D:ボルト孔ユニット
54:ボルト孔
55:介錯ロープ用孔
60:プレキャスト床版