(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】梯子型耐力壁架構及び門型架構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240528BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240528BHJP
E04C 3/40 20060101ALI20240528BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
E04H9/02 321C
E04B1/24 F
E04C3/40
F16F15/02 L
(21)【出願番号】P 2020155527
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】前田 珠希
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-180690(JP,A)
【文献】特開2019-157518(JP,A)
【文献】特開2019-157519(JP,A)
【文献】特開2000-274107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04B 1/24
E04C 3/00 - 3/46
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に平行な二本の金属製の縦材と、
二本の前記縦材間において該縦材の長手方向に間隔を置いて配設され、それぞれの該縦材に接続されている複数の横材と、を有する梯子型耐力壁架構であって、
前記横材は、一つの金属製の繋ぎ材と、該繋ぎ材に接続されている一つの金属製のダンパーとを有し、
前記ダンパーの一端が一方の前記縦材に接続され、前記繋ぎ材の一端が他方の前記縦材に接続されていることを特徴とする、梯子型耐力壁架構。
【請求項2】
前記繋ぎ材はウエブプレートを有し、該ウエブプレートの広幅面が二本の前記縦材で形成される構面に平行に配設されており、
前記ウエブプレートは、前記ダンパーとの接続端から前記縦材との接続端に向かって、該ウエブプレートの高さが末広がり状に高くなっていることを特徴とする、請求項1に記載の梯子型耐力壁架構。
【請求項3】
前記繋ぎ材は、前記ウエブプレートと、該ウエブプレートの上下端に接続されるフランジプレートとを有することを特徴とする、請求項2に記載の梯子型耐力壁架構。
【請求項4】
梁と、該梁に接続される二つの請求項1乃至3のいずれか一項に記載の梯子型耐力壁架構と、を有する門型架構であって、
二つの前記梯子型耐力壁架構を構成するそれぞれの前記ダンパーが、対応する前記繋ぎ材よりも前記門型架構の内側に偏心配置されていることを特徴とする、門型架構。
【請求項5】
前記梯子型耐力壁架構を構成する二本の前記縦材はいずれも、前記梁に対してピン接合されており、該梯子型耐力壁架構が全体として該梁に対して剛接合されていることを特徴とする、請求項4に記載の門型架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梯子型耐力壁架構及び門型架構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄骨造の住宅では、角形鋼管等からなる柱と、H形鋼等の形鋼材からなる梁とが一次部材として軸組構造を形成し、この軸組構造に対してブレース内蔵型の耐力壁をはじめとする各種の耐力壁をバランスよく配置することにより、所定の耐震性が確保されている。
【0003】
軸組構造の住宅は、各構面が必要枚数の耐力壁を要することから、デザインの自由度が低くなり易く、従って狭小敷地や変形敷地における施工が困難になることが多い。そのため、軸組構造の構面内の適所に、細幅の耐力壁を配置する方法が適用される。ここで、細幅の耐力壁とは、通常の1P幅(Pはモジュールを示し、800mm乃至1100mmの間で、例えば910mm幅等、モジュール設計仕様により任意に設定可能)の耐力壁に対して、0.5P幅や0.25P幅の耐力壁のことである。
【0004】
上記する細幅の耐力壁の一形態として、地震時のエネルギー吸収性に優れた耐力壁を形成することのできる梯子型耐力壁架構が提案されている。具体的には、相互に平行な二本の金属製の縦材と、二本の縦材間において縦材の長手方向に間隔を置いて配設され、それぞれの縦材に接続されている複数の横材と、を有する梯子型耐力壁架構である。この梯子型耐力壁架構において、横材は、二つの金属製のウエブプレートからなる繋ぎ部と、二つの繋ぎ部の間に配設されてそれぞれの繋ぎ部に接続されている金属製のダンパーとを有し、ダンパーとの接続端から縦材との接続端に向かってウエブプレートの高さが末広がり状に高くなっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の梯子型耐力壁架構をはじめとして、二本の縦材を有する梯子型耐力壁架構が建物の鉛直構面に組み込まれる場合、他方の縦材に比べて、一方の縦材に生じる軸力と曲げモーメントによる断面力(以下、複合断面力という)が大きくなる場合があり、当該一方の縦材を構成する鋼材(角形鋼管等)の断面を大きくする必要が生じる場合がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、二本の縦材を備える梯子型耐力壁架構に関し、一方の縦材に相対的に大きな複合断面力が生じることに起因して縦材の断面を大きくせざるを得ないといった課題を解消することのできる、梯子型耐力壁架構と、この梯子型耐力壁架構を備えた門型架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による梯子型耐力壁架構の一態様は、
相互に平行な二本の金属製の縦材と、
二本の前記縦材間において該縦材の長手方向に間隔を置いて配設され、それぞれの該縦材に接続されている複数の横材と、を有する梯子型耐力壁架構であって、
前記横材は、一つの金属製の繋ぎ材と、該繋ぎ材に接続されている一つの金属製のダンパーとを有し、
前記ダンパーの一端が一方の前記縦材に接続され、前記繋ぎ材の一端が他方の前記縦材に接続されていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、横材が一つの金属製の繋ぎ材と一つの金属製のダンパーとを有していることにより、建物の鉛直構面に梯子型耐力壁架構が組み込まれた際に、例えば作用する軸力が相対的に大きくなる一方の縦材にダンパーを接続し、他方の縦材に繋ぎ材を接続するように配置することで、一方の縦材に生じる曲げモーメントを低減し、複合断面力を小さくすることができる。このことにより、一方の縦材の断面を大きくすることを解消できる。すなわち、特許文献1に記載の梯子型耐力壁架構の横材においては、ダンパーの左右に繋ぎ材(特許文献1では繋ぎ部)があることから、ダンパーは横材において中央配置される形態であるのに対して、本態様の横材は一つのダンパーと一つの繋ぎ材により形成されていることから、ダンパーは一方の縦材側に偏心配置された形態である点で双方は大きく相違している。ここで、繋ぎ材は剛性を有するものが好ましく、剛性のある繋ぎ材によって、縦材(柱)の補剛効果を高めながら、地震時(もしくは大地震時)の水平力に起因するせん断力を横材を構成するダンパーに集中的に負担させることができる。
【0010】
ここで、縦材は角形鋼管等から形成できる。また、横材を構成する繋ぎ材は、鋼製プレート等から形成できる。さらに、ダンパーとしては、溝形鋼やH形鋼等の形鋼材の他、粘弾性ダンパーや粘性ダンパー、弾塑性ダンパーなど、各種のダンパーが適用できる。
【0011】
また、本発明による梯子型耐力壁架構の他の態様において、前記繋ぎ材はウエブプレートを有し、該ウエブプレートの広幅面が二本の前記縦材で形成される構面に平行に配設されており、
前記ウエブプレートは、前記ダンパーとの接続端から前記縦材との接続端に向かって、該ウエブプレートの高さが末広がり状に高くなっていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ダンパーの一端に接続される繋ぎ材が、ダンパー側から縦材側に向かって末広がり状に広幅面の高さが高くなるウエブプレートにて形成されていることから、柱の補剛効果が一層高められ、地震時の水平力に起因するせん断力を横材のダンパーにより一層集中的に負担させることが可能になる。特に、本態様においては、曲げモーメントが卓越する縦材と横材の接続部やその周辺の曲げ剛性が、横材を形成する金属製(特に鋼製)のウエブプレートの末広がり状の領域によって高められることにより、当該接続部やその周辺の曲げ耐力が向上し、縦材の曲げ変形を効果的に抑制することができる。ここで、「ウエブプレートの高さが末広がり状に高くなっている」形態としては、ウエブプレートの広幅面の上下の辺がともにテーパー状に末広がりとなる台形状を呈している形態や、ウエブプレートの広幅面の上辺と下辺が湾曲状の線形を有し、該湾曲状の線形が縦材との接続端に向かって該縦材の長手方向に漸近している形態などが含まれる。
【0013】
本態様において、縦材の曲げ剛性が高められることは、ウエブプレートの末広がり状の領域により、縦材の剛域が広げられることでもある。このことにより、曲げによるウエブプレートの面外への変形等も抑制でき、大地震時の水平力によってウエブプレートを破損させることなく、この水平力に起因するせん断力をダンパーに集中的に負担させることができる。そのため、縦材と横材を形成するウエブプレートを曲げ降伏やせん断降伏させることなく、ダンパーをせん断変形させながら特に大地震時の地震エネルギーを効果的に吸収することが可能になる。これらのことより、特に大地震時において、梯子型耐力壁架構の構成部材を破損させることなく、この梯子型耐力壁架構が組み込まれた建物の鉛直構面に対して、高い耐震性能を付与することができる。
【0014】
また、本発明による梯子型耐力壁架構の他の態様において、前記繋ぎ材は、前記ウエブプレートと、該ウエブプレートの上下端に接続されるフランジプレートとを有することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、ウエブプレートの上下にフランジプレートが接続されることにより、繋ぎ材の曲げ剛性やせん断剛性が高められ、大地震時の水平力に起因するせん断力をダンパーに対してより一層集中的に負担させることができる。
【0016】
また、本発明による門型架構の一態様は、
梁と、該梁に接続される二つの前記梯子型耐力壁架構と、を有する門型架構であって、
二つの前記梯子型耐力壁架構を構成するそれぞれの前記ダンパーが、対応する前記繋ぎ材よりも前記門型架構の内側に偏心配置されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、二つの梯子型耐力壁架構を構成するそれぞれのダンパーが、対応する繋ぎ材よりも門型架構の内側に偏心配置されていることにより、相対的に軸力(圧縮力)が大きくなる内側の縦材に作用する、地震時の水平力に起因する曲げモーメントを低減することができる。このことにより、当該内側の縦材の断面力(複合断面力)を抑制することが可能になり、当該内側の縦材の断面を大きくすることを解消できる。
【0018】
また、本発明による門型架構の他の態様において、前記梯子型耐力壁架構を構成する二本の前記縦材はいずれも、前記梁に対してピン接合されており、該梯子型耐力壁架構が全体として該梁に対して剛接合されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、梯子型耐力壁架構を構成する二本の縦材が梁に対してピン接合されているとともに、二本の縦材が全体として梁に対して剛接合されていることにより、梁と縦材との接合に際してハイテンションボルト等を用いることなく、例えば中ボルトを用いた比較的容易な接合施工の下で、門型のラーメン架構を形成することができる。尚、本態様の門型架構は、比較的スパンの長い(開口幅の大きい)複数台の車両を収納するビルドインガレージ等に好適である。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の梯子型耐力壁架構とこの梯子型耐力壁架構を備えた門型架構によれば、二本の縦材を備える梯子型耐力壁架構の一方の縦材に相対的に大きな複合断面力が生じることに起因して、縦材の断面を大きくせざるを得ないといった課題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る梯子型耐力壁架構の一例の正面図である。
【
図2】(a)は、
図1のII部を拡大した斜視図であり、(b)は、
図2(a)のb-b矢視図である。
【
図3】実施形態に係る門型架構の一例の正面図である。
【
図4】門型架構を構成する梁に作用する鉛直荷重による内側縦材と外側縦材の荷重分担の概要を説明する図である。
【
図5】地震時の水平力によって梯子型耐力壁架構に生じる曲げモーメントを示す図であり、(a)は、比較例の門型架構の構成と門型架構の曲げモーメント図であり、(b)は、実施例の門型架構の構成と門型架構の曲げモーメント図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る梯子型耐力壁架構の一例と、この梯子型耐力壁架構を備えた門型架構の一例について添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係る梯子型耐力壁架構]
はじめに、
図1及び
図2を参照して、実施形態に係る梯子型耐力壁架構の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る梯子型耐力壁架構の一例の正面図である。また、
図2(a)は、
図1のII部を拡大した斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のb-b矢視図である。
【0024】
梯子型耐力壁架構10は、相互に平行な二本の縦材1と、二本の縦材1間において縦材1の長手方向に間隔を置いて配設され、それぞれの縦材1に接続されている複数の横材4(図示例は3本)とを有する。梯子型耐力壁架構10の幅B1は、例えば0.5P幅(Pはモジュールを示し、例えば910mm幅等)や0.25P幅の細幅である。
【0025】
縦材1は角形鋼管から形成され、下端には基礎に固定されるベースプレート1aが角形鋼管に溶接等により固定されている。
【0026】
横材4は、鋼製のウエブプレートを少なくとも含む一つの繋ぎ材3と、繋ぎ材3に接続されている鋼製のダンパー2とを有する。横材4を形成する繋ぎ材3は当て板5aに溶接にて接続され、当て板5aは一方の縦材1Aに溶接にて接続されている。また、ダンパー2は別途の当て板5bに溶接にて接続され、当て板5bは他方の縦材1Bに溶接にて接続されている。このように、縦材1間において上下方向に間隔を置いて配設される複数の横材4は、綴り材と称することもできる。また、縦材1は、組立柱と称することもできる。尚、本明細書において、「溶接」とは、開先溶接(完全溶け込み溶接、部分溶け込み溶接)や隅肉溶接など、接続部に要求される強度や接合態様(剛接続、ピン接続)に応じて選択される適宜の溶接を示す。
【0027】
図2に示すように、繋ぎ材3は、ウエブプレート3aと、ウエブプレート3aの上下端において、ウエブプレート3aの左右側方に張り出すようにして溶接にて接続されているフランジプレート3bとを有する。ウエブプレート3aは、二本の縦材1で形成される構面に広幅面が平行に配設される。また、
図1及び
図2に示すように、ウエブプレート3aの広幅面の形状は、ダンパー2との接続端から縦材1との接続端に向かって、ウエブプレート3aの高さが末広がり状に高くなっている。図示例は、ウエブプレート3aの広幅面の上下の辺がともにテーパー状に末広がりとなる台形状を呈している。台形状の上底(平行な辺のうちの短辺)に、ダンパー2の端部の接続プレート2aが溶接にて接続される。また、繋ぎ材3のフランジプレート3bのフランジ幅は、例えば縦材1を形成する角形鋼管の幅と同程度かそれ以下に設定されているのが好ましい。尚、適用される繋ぎ材は、フランジプレートが無く、ウエブプレートのみを有する形態であってもよい。
【0028】
図示例のダンパー2は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、横材4の長手方向に直交する断面の形状がΣ形を成す、鋼材からなるダンパーである。このようなΣ形のダンパー2(Σ形デバイス)は、中央に斜材(鉛直材と水平材の中間材)を有していることから、この斜材が、鉛直材の備える鉛直剛性と、水平材の備える水平方向への変形性能の双方の性能を有することになる。そのため、大地震時の過大な水平力に対して強さとしなやかさで地震エネルギーを効果的に吸収することができる。特に、鋼材を曲げ加工等して断面形状をΣ形としたダンパーであることから、粘弾性ダンパーや粘性ダンパー、弾塑性ダンパーといった各種ダンパーと比べてその製作コストは格段に廉価になる。
【0029】
梯子型耐力壁架構10に対して地震時の水平力が作用した際には、縦材1と横材4のいずれにおいても、双方の接合部となる端部に大きな曲げモーメントが生じ得る。例えば、希にしか発生しない大地震時において、各部材に生じる曲げモーメントの大きさは一般の地震時に比べて格段に大きくなることから、縦材は過度に曲げ変形して塑性域に至り得る。梯子型耐力壁架構10では、横材4を形成する繋ぎ材3が縦材1との接続部に向かって末広がり状に広幅面の高さが高くなっていることにより、縦材1と横材4の接合部の剛域が広くなる。このように縦材1においてウエブプレート3aとの接続部からの剛域が広がることにより、縦材1における曲げスパンが短くなり、縦材1の曲げ剛性が高められる。
【0030】
また、ウエブプレート3aが縦材1との接続部に向かって末広がり状を呈していることにより、ウエブプレート3aの曲げ剛性も高められ、作用する地震時の水平力に起因するウエブプレート3aの面外への変形等も抑制される。このことにより、大地震時の水平力によってウエブプレート3aを破損させることなく、この水平力に起因するせん断力をダンパー2に集中的に負担させることが可能になる。これらのことから、梯子型耐力壁架構10では、縦材1とウエブプレート3aを曲げ降伏やせん断降伏させることなく、ダンパー2を集中的にせん断変形させながら、大地震時の地震エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0031】
図1及び
図2から明らかなように、縦材1に向かって末広がり状のウエブプレート3aの上下辺の傾斜角度を所望に調整することにより、縦材1の剛域を自由に調整することができる。ウエブプレート3aの上下辺の水平方向からの傾斜角度を大きくするにつれてウエブプレート3aの広幅面の面積が広くなり、縦材1の剛域も広くなるが、一方で、ウエブプレート3aの材料コストは上昇する。従って、ウエブプレート3aの材料コストと縦材1及び横材4の補剛効果の双方を勘案して、ウエブプレート3aの広幅面の面積(上下辺の傾斜角度)を設定するのが好ましい。
【0032】
尚、図示を省略するが、ウエブプレートの形状は、図示例のテーパー状の形態の他にも、湾曲状の線形を有し、この湾曲状の線形が縦材1との接続端に向かって縦材1の長手方向に漸近している形態であってもよい。この形態では、ウエブプレートの上下辺の湾曲状の線形に相補的な平面形状(湾曲状)を示す上下のフランジプレートが取り付けられる。このような形状のウエブプレートを有する繋ぎ材によれば、ウエブプレートの広幅面の面積を広くし過ぎることなく、縦材1との接続部の剛域を広くすることができる。
【0033】
[実施形態に係る門型架構]
次に、
図3乃至
図5を参照して、梯子型耐力壁架構10が組み込まれた実施形態に係る門型架構の一例について説明する。ここで、
図3は、実施形態に係る門型架構の一例の正面図である。
【0034】
門型架構40は、梁20と、梁20の両端下方に接合される二つの梯子型耐力壁架構10とを有する。幅B1が0.5P幅や0.25P幅の細幅の梯子型耐力壁架構10を有する門型架構40の中央スパンの幅B2は、梁20の両端が梯子型耐力壁架構10により支持されていることから、例えば6m乃至8m程度の長幅に設定できる。このような開口面積の広い門型架構40は、鉄骨造の建物の主構造の鉛直構面に適用できる他、例えば複数台の車両を収納するビルドインガレージに適用できる。
【0035】
図3に示すように、門型架構40においては、二つの梯子型耐力壁架構10を構成するそれぞれの横材4の有するダンパー2が内側縦材1Bに接合されており、従って外側縦材1Aに接合されている繋ぎ材3よりも門型内側に偏心配置されている。
【0036】
梯子型耐力壁架構10の縦材1の上端には例えばエンドプレート(図示せず)が固定されており、エンドプレートと梁20は、複数の中ボルト11を介してピン接合されている。このように、一本の縦材1は梁20とピン接合されるものの、梯子型耐力壁架構10を構成する二本の縦材1と梁20は剛接合されたものと同様の効果、すなわち、梁20の端部が二本の縦材1で拘束される効果を有し、従って、門型架構40は門型のラーメン架構となる。
【0037】
一方、梯子型耐力壁架構10を形成する各縦材1の下端のベースプレート1aがコンクリート製の基礎30上に載置され、ベースプレート1aに開設されているボルト孔(図示せず)に対して、基礎30から上方に突設したアンカーボルト31が挿通され、ナット締めされることにより、梯子型耐力壁架構10が基礎30に対して固定されている。
【0038】
ここで、
図4及び
図5を参照して、門型架構40を構成する各梯子型耐力壁架構10において、ダンパー2が門型内側に偏心配置されていることによって奏される効果について説明する。ここで、
図4は、門型架構を構成する梁に作用する鉛直荷重による内側縦材と外側縦材の荷重分担の概要を説明する図である。また、
図5は、地震時の水平力によって梯子型耐力壁架構に生じる曲げモーメントを示す図であり、
図5(a)は、比較例の門型架構の構成と門型架構の曲げモーメント図であり、
図5(b)は、実施例の門型架構の構成と門型架構の曲げモーメント図である。
【0039】
図4には、門型架構40の梁20の中央に鉛直荷重P1が作用しているケースを示している。作用する鉛直荷重P1は、左右の梯子型耐力壁架構10に二分されることになるが、本発明者等による構造解析によると、梯子型耐力壁架構10においては、内側縦材1Bの分担する荷重P2が外側縦材1が分担する荷重P3に比べて格段に大きくなることが分かっている。また、場合によっては、外側縦材1Aには、
図4の点線で示すように引き抜き荷重P3'が作用することもある。
【0040】
以上のことから、常時(地震時以外の平時)においては、梯子型耐力壁架構10のうち、外側縦材1Aに比べて内側縦材1Bには大きな軸力(圧縮力)が生じている。
【0041】
一方、地震時には、
図5(a)、(b)に示すように門型架構40A,40に対して水平力Hが作用することになる。ここで、
図5(a)の左図は、比較例の門型架構40Aの右側半分を示しており、梁20を支持する梯子型耐力壁架構10Aを構成する横材4Aは、中央にあるダンパー2と、その左右にある繋ぎ材3とを有している。
【0042】
図5(a)に示す比較例の門型架構40Aにおいては、梯子型耐力壁架構10Aの横材4Aにおいて、ダンパー2が横材4Aの中央に配置されていることから、その右図の曲げモーメント図に示すように、内側縦材1Bと外側縦材1Aに生じる曲げモーメント(最大曲げモーメント)はいずれもM1となる。
【0043】
図4を参照して説明したように、外側縦材1Aに比べて格段に大きな圧縮力が生じている内側縦材1Bに対して、地震時には外側縦材1Aと同様の曲げモーメントM1がさらに生じることから、内側縦材1Bにおけるそれらの複合断面力は大きくなる傾向にあり、内側縦材1Bの断面(柱断面)を大きくせざるを得ない状況となり得る。
【0044】
これに対し、
図5(b)に示す実施例の門型架構40においては、外側縦材1Aにのみ剛域を広げる繋ぎ材3が接続されていることにより、内側縦材1Bに生じる曲げモーメントM2に比べて、外側縦材1Aに生じる曲げモーメントM3を大きくすることができる。換言すれば、
図5(a)で示す内側縦材1Bの曲げモーメントM1の一部を、外側縦材1Aの曲げモーメントにシフトさせることができる。
【0045】
このように、ダンパー2が門型架構40の内側に偏心配置されることにより、内側縦材1Bに生じる曲げモーメントを低減することができ、内側縦材1Bにおける複合断面力を抑制することが可能になる。このことにより、内側縦材1Bの断面(柱断面)を大きくせざるを得ない状況を解消することができる。
【0046】
このように、内側縦材1Bの曲げモーメントM1の一部が外側縦材1Aの曲げモーメントにシフトされることから、外側縦材1Aの曲げモーメントM3は大きくなるが、
図1を参照して説明したように、外側縦材1Aにおいては剛域が広げられ、従って、外側縦材1Aにおける剛域外の応力照査位置における曲げモーメントは、曲げモーメントM3よりも格段に小さくなっている。このことにより、外側縦材1Aにおいても断面(柱断面)を大きくせざるを得ない状況は生じ難い。
【0047】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0048】
1:縦材
1A:外側縦材(縦材)
1B:内側縦材(縦材)
2:ダンパー
3:繋ぎ材
3a:ウエブプレート
3b:フランジプレート
4:横材
10:梯子型耐力壁架構
11:中ボルト
12:アンカーボルト
20:梁
30:基礎
40:門型架構