(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】監視用カメラの異常検知方法
(51)【国際特許分類】
H04N 7/18 20060101AFI20240528BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H04N7/18 D
B61L23/00 Z
(21)【出願番号】P 2020159192
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿籠 佑介
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳久
(72)【発明者】
【氏名】江頭 慶三
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智弘
【審査官】西島 篤宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028992(JP,A)
【文献】特開平07-160975(JP,A)
【文献】特開2011-150600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視範囲を撮影する監視用カメラにより所定の時間帯に撮影された画像データを処理して前記監視用カメラの状態の異常を検知する監視用カメラの異常検知方法であって、
判定対象の監視用カメラが所定の時刻に撮影した画像データを読み込む第1ステップと、
読み込まれた画像データを2次元フーリエ変換する第2ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像の平均明度値を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像と判定対象の監視用カメラの基準画像を2次元フーリエ変換した画像の差をとって平均明度値を算出する第4ステップと、
前記第3ステップで算出された平均明度値と前記第4ステップで算出された平均明度値との差を算出する第5ステップと、
前記第5ステップで算出された差の値が予め設定されたしきい値よりも小さい場合に前記監視用カメラの状態に異常があると判定する第6ステップと、
を含むことを特徴とする監視用カメラの異常検知方法。
【請求項2】
監視範囲を撮影する監視用カメラにより所定の時間帯に撮影された画像データを処理して前記監視用カメラの状態の異常を検知する監視用カメラの異常検知方法であって、
判定対象の監視用カメラが所定の時刻に撮影した画像データを読み込む第1ステップと、
読み込まれた画像データを2次元フーリエ変換する第2ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像の平均明度値を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像と判定対象の監視用カメラの基準画像を2次元フーリエ変換した画像の差をとって平均明度値を算出する第4ステップと、
前記第3ステップで算出された平均明度値と前記第4ステップで算出された平均明度値との差を算出する第5ステップと、
前記第2ステップから第5ステップまでの処理を複数の日の画像データに対して実行し、 前記第5ステップで算出された差の値が、途中から予め設定されたしきい値よりも小さくなった場合に前記監視用カメラの状態に異常があると判定する第6ステップと、
を含むことを特徴とする監視用カメラの異常検知方法。
【請求項3】
前記第6ステップにおいて異常ありと判定された場合に、異常ありと判定された監視用カメラに対して自動ピント合わせ実行の指令を送信する第7ステップさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の監視用カメラの異常検知方法。
【請求項4】
前記監視用カメラは、駅ホームまたは駅構内に設置された監視用カメラであり、前記しきい値は0.020であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の監視用カメラの異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視用カメラの異常を検知する技術に関し、例えば駅のプラットホーム(以下、駅ホームと称する)や駅構内等に設置された防犯カメラの映像異常の検知に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駅ホームや駅構内には、乗務員や駅係員の死角を補完し、利用者の安全を図る目的で監視用カメラ(防犯カメラ)が多数設置されるとともに、該監視用カメラの映像を映す液晶パネルなどからなるテレビモニタ装置が監視所等に設置され、安全確認に利用されている。
ところで、監視用カメラは、走行する列車の振動等によって向き(監視方向)がずれたりピントがずれたりすることで映像が不鮮明になるなどの異常が発生することがあるが、従来は定期的に行われる点検時や駅係員が気づいた時点で故障申告が行なわれており、申告を受けてから装置の修理または調整を行うという事後保全体制が一般的であった。
【0003】
そのため、監視用カメラに映像異常が発生した場合に、正常な状態に復帰するまでの期間が長くなる。また、従来の監視用カメラの映像異常の発見は、係員がモニタの映像を目で見て判断することに依存しているとともに、1つの駅ごとに監視用カメラが何10台も設置されているため、監視用カメラの映像異常の発見には比較的長い時間と労力がかかってしまう課題があった。
【0004】
なお、従来、監視用カメラの異常を検出する方法に関する発明としては、例えば特許文献1に開示されているものがある。
特許文献1に記載されているカメラの異常検出方法は、監視用カメラが一日一回撮影した画像データの一週間分の平均値を経年劣化用基準画像データとし、経年劣化用基準画像データを毎日一回更新し、更新時点とは別の時点で監視用カメラが撮影した画像データと経年劣化用基準画像データとの差異を算出し、当該差異が経年劣化用しきい値の範囲外であれば、監視用カメラに異常があるとして通知するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-300547号公報
【文献】特開2017-207339号公報
【文献】特開2020-61651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載されている発明は、一週間分の平均値を経年劣化用基準画像データとし、この基準画像データと別の時点で監視用カメラが撮影した画像データとの差異を算出し、予め設定したしきい値と比較するものであるため、1週間のような比較的短い期間内に画像が急に劣化することがあるような対象物には有効であるが、長期間をかけてカメラの画角が徐々にずれたりピントずれが徐々に進行して劣化したりする画像を検知する場合には適用できないという課題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載されている発明は、監視対象としてエレベータ設備を想定しており、エレベータ設備は比較的周囲環境変化が少ないので、上記方法が有効である。しかし、本発明が対象とする駅ホームや駅構内の監視用カメラが設置される環境は、利用者や列車が移動あるいは走行したり、昼と夜、晴れの日と雨の日のように明るさが大きく変化したりする環境である。そのため、特許文献1の発明のように、単に一週間分の平均値を経年劣化用基準画像データとしたのでは、正確に異常の発生を検出することができないという課題がある。
【0008】
さらに、画像処理により劣化を検出する技術として、カメラが撮影した画像データをフーリエ変換して解析する技術もある(例えば特許文献2)。しかし、従来のフーリエ変換による解析技術は、橋梁等の撮影対象の劣化を検出することに向けてなされたもので、カメラ自身における異常の検出に向けられたものではない。
一方、カメラずれのようなカメラ自身における異常を検出するシステムに関する発明として、例えば特許文献3に記載されているものがある。しかし、特許文献3の発明は、車両等の移動体に搭載されたカメラの異常検出に関するもので、判定処理に用いる撮影画像の撮影場所の候補地を抽出する抽出部を備えることを特徴としているとともに、フーリエ変換を利用するものでもない。
【0009】
本発明の目的とするところは、監視用カメラの異常を目視に依存することなく、画像処理で自動的に検知することが可能な監視用カメラの異常検知方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、周囲環境が大きく異なる駅ホームや駅構内に設置されている多数の監視用カメラの異常を検知することができる監視用カメラの異常検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、
監視範囲を撮影する監視用カメラにより所定の時間帯に撮影された画像データを処理して前記監視用カメラの状態の異常を検知する監視用カメラの異常検知方法であって、
判定対象の監視用カメラが所定の時刻に撮影した画像データを読み込む第1ステップと、
読み込まれた画像データを2次元フーリエ変換する第2ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像の平均明度値を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像と判定対象の監視用カメラの基準画像を2次元フーリエ変換した画像の差をとって平均明度値を算出する第4ステップと、
前記第3ステップで算出された平均明度値と前記第4ステップで算出された平均明度値との差を算出する第5ステップと、
前記第5ステップで算出された差の値が予め設定されたしきい値よりも小さい場合に前記監視用カメラの状態に異常があると判定する第6ステップと、
を含むようにしたものである。
【0011】
上記のような方法によれば、監視用カメラが設置時に撮影した画像を基準画像とし判定時に撮影した画像をそれぞれフーリエ変換し、変換後の画像の平均明度値を算出するという従来にない処理を行うことによって、異常のある画像と異常のない画像を区別できるようにし、それによって監視用カメラの異常を目視に依存することなく、画像処理で自動的に検知することができる。
【0012】
また、本出願の他の発明は、
監視範囲を撮影する監視用カメラにより所定の時間帯に撮影された画像データを処理して前記監視用カメラの状態の異常を検知する監視用カメラの異常検知方法であって、
判定対象の監視用カメラが所定の時刻に撮影した画像データを読み込む第1ステップと、
読み込まれた画像データを2次元フーリエ変換する第2ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像の平均明度値を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで2次元フーリエ変換された画像と判定対象の監視用カメラの基準画像を2次元フーリエ変換した画像の差をとって平均明度値を算出する第4ステップと、
前記第3ステップで算出された平均明度値と前記第4ステップで算出された平均明度値との差を算出する第5ステップと、
前記第2ステップから第5ステップまでの処理を複数の日の画像データに対して実行し、 前記第5ステップで算出された差の値が、途中から予め設定されたしきい値よりも小さくなった場合に前記監視用カメラの状態に異常があると判定する第6ステップと、
を含むようにしたものである。
【0013】
上記のような方法によれば、フーリエ変換画像の平均明度値と差分の平均明度値数日分のデータを取得し、数日分のデータの傾向に基づいて監視用カメラの状態の異常の有無を判定するため、監視用カメラの異常をより正確に検知することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記第6ステップにおいて異常ありと判定された場合に、異常ありと判定された監視用カメラに対して自動ピント合わせ実行の指令を送信する第7ステップをさらに有するようにする。
かかる方法によれば、ピントずれによる撮影画像の異常があった場合には、対応するカメラに対して自動ピント合わせ実行指令(コマンド)が送信されるため、カメラの設定状態の確認や調整の作業に要する担当者の負担を軽減することができる。
【0015】
ここで、前記監視用カメラは、駅ホームまたは駅構内に設置された監視用カメラであり、前記しきい値は0.020であるようにする。
これにより、周囲環境が大きく異なる駅ホームや駅構内に設置されている多数の監視用カメラの異常の有無を、共通のしきい値を用いて検知することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る異常検知方法によれば、監視用カメラの異常を目視に依存することなく、画像処理で自動的に検知することができる。また、周囲環境が大きく異なる駅ホームや駅構内に設置されている多数の監視用カメラの異常を検知することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は監視用カメラの基準画像を2次元フーリエ変換したものを示す図、(B)は判定対象の監視用カメラの画像(比較画像)を2次元フーリエ変換したものを示す図である。
【
図2】監視エリアの複数箇所に設置されている監視用カメラについて、基準画像と比較画像をそれぞれフーリエ変換した結果を示す図である。
【
図3】映像異常が見られた複数のカメラの画像について、基準画像をフーリエ変換した画像の平均明度値と、基準画像と比較画像をフーリエ変換した画像の差(引き算値)の平均明度値を算出した結果を示す図である。
【
図4】(A)は正常な画像について基準画像の変換後明度値の経時変化および基準画像と比較画像をフーリエ変換した画像の差(引き算値)の経時変化を示す図、(B)は異常な画像について基準画像の変換後明度値の経時変化および基準画像と比較画像をフーリエ変換した画像の差(引き算値)の経時変化を示す図である。
【
図5】他の正常なカメラについて基準画像のフーリエ変換後明度値の経時変化および基準画像と比較画像をフーリエ変換した画像の差(引き算値)の経時変化を示す図である。
【
図6】ある駅の異なる箇所に設置されている40台のカメラについて、差分を算出した結果を示す図である。
【
図7】複数のカメラについて差分の経時変化を示す図である。
【
図8】本発明に係る監視用カメラの異常検知方法を適用する異常検知システムの構成例を示すシステム構成図である。
【
図9】本発明に係る監視用カメラの異常検知方法における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】異常検知処理手順の変形例を示すフローチャートである。
【
図11】複数の異常なカメラの画像に基づいて算出した撮影画像のフーリエ変換後明度値の経時変化および基準画像と比較画像をフーリエ変換した画像の差(引き算値)の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に先立って、本発明者らは、カメラの撮影画像データを用いて駅ホームや駅構内に設置されている監視用カメラのピントずれや画角ずれ、レンズの汚れなどカメラ自身の異常を検出できないか検討した。
先ず、駅ホームや駅構内に設置されている監視用カメラにより撮影された画像の特徴として、画像内に利用者や列車など移動物が映り込むことが多いこと、昼と夜、晴れの日と雨の日のように時間や季節、天候によって明度が大きく変化すること、カメラの設置個所によって平均明度が異なることがあげられる。そこで、列車が走行しておらず駅利用者もいない夜間や早朝の時間帯(例えばAM1:30~AM4:30)にカメラにより撮影された画像データを用いることとした。
【0019】
次に、撮影画像データを2次元フーリエ変換することで、異常を検出できないか検討した。先ず、最終調整後の監視用カメラの正常な画像データを基準画像として2次元フーリエ変換したものと、同一の監視用カメラの画像データのうち人の目で異常があると判断できた画像データを比較画像として2次元フーリエ変換したものを用意して比較した。
図1(A),(B)にその結果の一例を示す。
図1の画像は130万ピクセルのデジタルカメラカメラで撮影した画像を変換したもので、このうち(A)は基準画像を2次元フーリエ変換したものを、(B)は判定対象としての比較画像を2次元フーリエ変換(以下、単にフーリエ変換と称する)したものを示す。なお、(A),(B)における横軸と縦軸の単位は周波数である。
【0020】
図1の(A)と(B)を比較すると、(A)の方が(B)よりも周波数成分が多いことが分かる。また、それぞれ画像の平均明度値(以下、明度値と称する)を算出したところ、(A)の基準画像の明度値は0.073、(B)の比較画像の明度値は0.023で、差異があることが分かった。そこで、他の箇所に設置されている複数の監視用カメラについても、基準画像と比較画像をそれぞれフーリエ変換してみた。
図2にその結果を示す。
図2において、横軸はカメラ番号、縦軸は各画像の明度値であり、●印は基準画像の明度値をプロットしたもの、▲印は比較画像(異常のあるカメラの画像の明度値)をプロットしたものである。
【0021】
図2より、異常のあるカメラの画像の明度値は正常なカメラの画像(基準画像)の明度値よりも低くなることが分かった。つまり、撮影画像をフーリエ変換して得られた明度値からカメラの異常の有無を判定できる可能性があることが分かった。
しかし、監視用カメラが設置されている環境はカメラごとに異なるため、正常なカメラの画像のフーリエ変換後の明度値(基準値)も、カメラの設置場所によって大きく異なっており、異常の有無の判定のためのしきい値をカメラごとに設定する必要があるという煩雑さがある。また、明度値の低下から、異常のうちピントずれやレンズ汚れは検知できるが、画角ずれは検知できないことが分かった。
【0022】
そこで、カメラの最終調整後の撮影画像をフーリエ変換した画像と点検時の画像をフーリエ変換した画像の差をとって明度値(以下、引き算値と称する)を算出したところ、映像異常のあるカメラの値(引き算値)は、正常なカメラの引き算値よりも高くなることが分かった。
図3に、映像異常が見られた複数のカメラの画像について、上記基準値とフーリエ変換画像の差の明度値を算出した結果(引き算値)を示す。以下、正常な滋養体のカメラの引き算値を基準値と呼ぶこととする。
【0023】
図3において、横軸はカメラ番号、縦軸は明度値であり、△印は異常のあるカメラの引き算値をプロットしたもの、○印は基準値をプロットしたものである。
図3より、異常があるとフーリエ変換画像の差の明度値(引き算値)は上昇していることから、検知可能であることが分かる。しかし、この場合も、基準値がカメラによって大きく異なっており、異常の有無の判定のためのしきい値をカメラごとに設定する必要がある。ただし、画角ずれによる異常も検知できる可能性があることが分かった。
【0024】
次に、上記引き算値の経時変化を追いかけてみた。その結果、正常なカメラのフーリエ変換した画像の明度値および引き算値は、
図4(A)に示すように、日が経過してもそれほど変化しないのに対し、異常なカメラは、
図4(B)に▲印と▼印で示すように、日が経過するに従って、撮影画像をフーリエ変換した画像の明度値は減少傾向にある一方、引き算値は、△印と▽印で示すように増加傾向にあり、両者の差分は小さくなる(0.010)ことを見出した。
図4(A),(B)には、正常と異常それぞれ2台のカメラについての算出結果を示したが、他のカメラについても経時変化に関して上記と同様な傾向があることが分かった。
【0025】
図5に、他の正常な4台のカメラについての算出結果を示す。
図5において、黒塗りの印はフーリエ変換した画像の明度値を、白抜きの印は引き算値をプロットしたものである。
図4(A)と同様に、日が経過してもそれほど変化しないことが分かる。
そこで、フーリエ変換した画像の明度値とフーリエ変換した画像の引き算値との差分に着目した。
図6には、ある駅の異なる箇所に設置されている40台のカメラについて、上記差分を算出した結果を示す。
図6において、横軸はカメラ番号、縦軸は差分であり、●印は異常のあるカメラの差分をプロットしたもの、○印は正常な画像のカメラの差分をプロットしたものである。
図6においては、差分値0.020をしきい値に設定すれば、85%以上の確率で異常のあるカメラを検知できることが分かる。
【0026】
ただし、上記差分には、夜間作業が実施された際の照明による工事車両や作業者等の映り込みによる誤差が生じるおそれがある。そこで、各カメラの撮影画像のフーリエ変換画像もしくは引き算値、差分を日々算出して記憶装置に蓄積し、
図7に示すように、変化の様子を監視して異常を検知することが考えられる。
図7の場合、カメラ#2の差分値が途中からしきい値0.020よりも小さくなって複数日にわたって継続しているので、異常ありと判定する。図示しないが、仮に差分が1日だけあるいは数日だけしきい値よりも小さくなってその後に再びしきい値よりも大きくなった場合には、夜間作業等が影響したと考えられるので、異常なしと判定する。
【0027】
本発明は、上記のような検証結果に基づいてなされたものである。以下、本発明の一実施形態について説明する。
図8には、本発明に係る監視用カメラの異常検知方法が適用される異常検知システムの構成例が示されている。
図8に示されているように、本実施形態の異常検知システムにおいては、複数の駅A,B……Xに、各々がIPアドレスを有するネットワークカメラからなる監視用カメラ11a,11b……が駅ホームや駅構内に設置されている。各駅の監視用カメラ11a,11b……は、データリンク層のレイヤ2のスイッチとなるスイッチングハブ12A,12B……12Xにそれぞれに接続され、スイッチングハブ12A,12B……12Xは通信ネットワーク21に接続されている。
【0028】
上記監視用カメラ11a,11b……には、外部からの指令により自動ピント合わせを実行する機能を備えたものを使用するのが良い。また、各駅A,B……Xには、上記スイッチングハブ12A,12B……12Xに接続され監視用カメラ11a,11b……により撮影された画像を表示可能な監視用モニタ13A,13B……13Xと、監視用カメラ11a,11b……の撮影画像を解析したり監視用カメラ11a,11b……に指令を与えたりするパーソナルコンピュータなどからなる操作端末14A,14B……14Xと、各駅の監視用カメラ11a,11b……により撮影された画像データを記憶するネットワークレコーダ15A,15B……15Xが設けられている。
【0029】
さらに、上記通信ネットワーク21にはレイヤ3のスイッチとなるスイッチングハブ22が接続され、上位の通信ネットワーク23を介して本社や各支社、指令所、保守個所などに設置されているレイヤ2のハブ24A,24B,24c,24Dとデータ通信可能に接続されている。また、ハブ24A,24B,24C,24Dには閲覧用端末25A,25B,25C,24Dに接続されており、各駅に設置された操作端末14A,14B……14Xにより解析された監視用カメラ11a,11b……の状態を、閲覧用端末25A,25B,25C,24Dにおいて表示できるように構成されている。
【0030】
次に、各駅の操作端末14A,14B……14Xにおいて実行される監視用カメラ11a,11b……の撮影画像を解析方法について説明する。
図9には、各駅の操作端末14A,14B……14Xに格納された撮影画像を解析するためのプログラムによる処理手順のフローチャートが示されている。なお、各駅の操作端末14A,14B……14Xの記憶装置には、それぞれの駅に設置されている監視用カメラ11a,11b……の設置後の比較的条件の良い日の所定時刻(例えばAM3:00)に撮影された画像データを基準画像として選択しフーリエ変換した画像データと、予め設定された異常判定のためのしきい値が記憶されている。
【0031】
図9に示す処理が開始されると、先ずネットワークレコーダに記憶されている各カメラの着目する日の所定時刻(例えばAM3:00)の画像データを読み出す(ステップS1)。続いて、読み出された画像データをフーリエ変換し、ここでフーリエ変換画像の平均明度値を算出する(ステップS2)。次に、対応するカメラの基準画像データを読み出してフーリエ変換を行い、フーリエ変換画像の明度値を算出する(ステップS3)。次に、基準画像のフーリエ変換画像とステップS2で算出したフーリエ変換画像との引き算を行なってその明度値を算出する(ステップS4)。
【0032】
続いて、ステップS2で算出したフーリエ変換画像の平均明度値とステップS4の引き算した値との差分を算出する(ステップS5)。それから、着目する日の翌日以降の画像データについて上記ステップS1~S5の処理を繰り返して、数日分のフーリエ変換画像の明度値と差分の明度値を取得する(ステップS6)。なお、「数日」は連続した複数日でも良いし、1日おきあるいは2日おきのように、とびとびの複数日でも良い。
【0033】
次に、ステップS6で取得した数日分のデータの傾向を把握する(ステップS7)。そして、フーリエ変換画像の明度値が減少傾向にあり、かつ差分の明度値が増加傾向にあって、それらの明度値差が、所定のしきい値(例えば0.020)よりも小さくなったか否か判定する(ステップS8)。ここで、所定のしきい値よりも小さくなっていない(No)と判定した場合には、判定対象のカメラは正常であるので、映像異常なしを出力して次のカメラの判定へ移行する(ステップS9)。
【0034】
一方、ステップS8で、明度値差が所定のしきい値よりも小さくなっている(Yes)と判定した場合には、判定対象のカメラは異常であるので、カメラに異常が発生していることを知らせる情報を表示するなどして映像異常検知を出力して次のカメラの判定へ移行する(ステップS10)。
図10には、上記撮影画像の異常検知方法の変形例の処理手順のフローチャートが示されている。この変形例の処理手順は、ステップS9までは
図8の処理手順と同じある。
【0035】
本変形例(
図10)における処理と
図9の処理手順との差異は、
図10ではステップS8で、明度値差が所定のしきい値よりも小さくなっている(Yes)と判定した場合には、ステップS10’で、対応するカメラに対して自動ピント合わせを指示する指令(コマンド)を送信し、その後、そのカメラの画像データを取得して表示させ(ステップS11)、指令送信前の画像と比較して画像が改善しているか否か判定し(ステップS12)、改善しているときは異常なしとする(ステップS9)一方、画像が改善していない場合には、担当部署へカメラの調整を指示する(ステップS13)ようにしている点にある。
【0036】
以上のように、上記実施形態の撮影画像の異常検知方法によれば、監視用カメラの異常を目視に依存することなく、画像処理で自動的に検知することができる。また、変形例の撮影画像の異常検知方法によれば、検知した異常がピントずれによる異常であった場合には、対応するカメラに対して自動ピント合わせ指令(コマンド)が送信されるため、カメラの設置状態の確認や調整の作業に要する担当者の負担を軽減することができる。なお、自動ピント合わせ指令を送信しても画像が改善されない場合には、異常の原因がピントずれではなく、遠隔操作では調整できないので、担当部署が作業員を派遣してカメラの調整が実行されることとなる。
【0037】
図11には、画像に異常が見られた複数台のカメラについてピント調整を行なった直後の所定時刻に撮影された画像のうち4台のカメラの画像について、フーリエ変換した画像の明度値と前述の引き算値を算出した結果を、調整日以前の日に撮影された画像についてフーリエ変換した画像の明度値と前記引き算値を算出した結果と共に示す。
図11において、黒塗りの印はフーリエ変換した画像の明度値を、白抜きの印は引き算値をプロットしたものである。また、1/22の日の引き算値は、1/17の日の撮影画像を基準画像として算出したものである。
図11より、調整前は差分が小さかったものが調整後の差分は大きくなっており、
図4(B)と逆の傾向が見られることから、上記実施形態の異常検知方法が有効であることが分かる。
【0038】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態の画像異常検知方法のフローチャート(
図9、
図10)においては、ステップS7で、数日分のデータの傾向を把握するようにしているが、このステップは省略して次のステップS8のしきい値判定処理へ進んで、1日のデータに基づいて判定を行うようにしても良い。
また、上記実施形態では、駅ホームや駅構内に設置されている監視用カメラの異常を検知する場合を例にとって説明したが、本発明は駅ホームや駅構内に設置されている監視用カメラの異常検知に限定されず、監視用カメラシステム一般に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
11 監視用カメラ
12 スイッチングハブ(L2スイッチ)
13 監視用モニタ
14 操作端末
15 ネットワークレコーダ
21,23 通信ネットワーク
22 スイッチングハブ(L3スイッチ)
24 スイッチングハブ(L2スイッチ)
25 閲覧用端末