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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】油圧バランサー及び成型装置
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/06 20060101AFI20240528BHJP
   B30B 1/26 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
B30B15/06 B
B30B1/26 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020162957
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055499
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田渡 正史
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-72753(JP,A)
【文献】特開2001-300778(JP,A)
【文献】特開2012-55932(JP,A)
【文献】特表2017-512657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/06
B30B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型装置のスライドにストローク方向の移動に抗する圧力を付与する油圧バランサーであって、
シリンダと、
前記シリンダ内で前記ストローク方向に移動可能に格納されたピストンと、
前記シリンダ内における、前記ピストンの前記ストローク方向の少なくとも一方の領域に充填され、前記領域に対して流出入可能とする作動油とを備え、
前記ピストンが前記ストローク方向における第1可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの前記作動油の流出入量が第1流量となり、
前記ピストンが前記ストローク方向における前記第1可動範囲よりも死点に近い第2可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの前記作動油の流出入量が前記第1流量よりも小さい第2流量となるように前記シリンダと前記ピストンとが構成された油圧バランサー。
【請求項2】
前記第2可動範囲は、前記第1可動範囲に対して前記成型装置の前記スライドにおける下死点側に位置する請求項1記載の油圧バランサー。
【請求項3】
前記第2可動範囲は、前記第1可動範囲に対して前記成型装置の前記スライドにおける下死点側と上死点側とにそれぞれ位置する請求項1記載の油圧バランサー。
【請求項4】
前記第2可動範囲は、前記死点を含み、当該死点より手前の、前記スライドのストローク幅の3分の1以下の範囲とする請求項1から3のいずれか一項に記載の油圧バランサー。
【請求項5】
前記シリンダ内における、前記ピストンの前記ストローク方向の一方の領域と他方の領域とを結ぶ前記作動油の油圧経路を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の油圧バランサー。
【請求項6】
前記ピストンの前記ストローク方向の少なくとも一方の領域に対して前記作動油の流出入を遮断した状態に切り替え可能な遮断部を備える請求項1から5のいずれか一項に記載の油圧バランサー。
【請求項7】
前記シリンダから流出する前記作動油を給排する油給排部を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の油圧バランサー。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の油圧バランサーを備える成型装置。
【請求項9】
前記スライドの移動止めを有する請求項8に記載の成型装置。
【請求項10】
前記スライドを上死点よりオーバーランさせて停止させる制御装置を備える請求項8又は9に記載の成型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧バランサー及び成型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成型装置としてのプレス装置は、上金型を上下動させるスライドと、下金型を固定保持するボルスタと、偏心部を有するエキセン軸と、エキセン軸の回転駆動を行う駆動機構と、エキセン軸の偏心部に一端部が連結されるコネクティングロッドと、コネクティングロッドの他端部をスライドに揺動可能に連結する連結ピンとを備えている。
そして、駆動機構がエキセン軸の回転駆動を行うと、エキセン軸の偏心部に連結されたコネクティングロッドは、他端部側の連結ピンを揺動支軸として一端部が周回運動を行う。その結果、コネクティングロッドの一端部側の周回運動における上下方向の変位が他端部側に伝達され、スライドが上下方向に沿った往復動作を行う。この上下方向に沿った往復動作における下死点位置において、上金型が下金型内のワークを加圧し、プレス加工を行っている。
【0003】
プレス装置において、スライドに上下方向に沿った往復動作を伝えるエキセン軸、コネクティングロッド、連結ピン等の各部材は、部材間の隙間を生じうる。例えば、エキセン軸とコネクティングロッド間に隙間が存在する場合、スライドが上死点に位置する状態では隙間が下側に生じ、スライドが下死点方向に移動し負荷が作用する状態では隙間が上側に生じ得る。
このような場合、スライドは下死点近傍において、隙間位置が下側から上側に移行し、その際に部材間での衝突を生じて騒音や衝撃が発生していた。
これを回避するために、スライドに対して上方への圧力を付与する油圧シリンダ装置や作動油を一時的に貯留するアキュムレータ等を有するバランサーを搭載するプレス装置が知られている。バランサーは、例えば、油圧を利用してスライドに上方への支持圧を付与することで、部材を上方に寄せて、部材間での衝突による騒音や衝撃を抑制する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4343799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記プレス装置では、バランサーがスライドに対して常に圧力が付与される。バランサーの支持圧に抗してスライドの下降動作を行われるため、プレス装置のエネルギー効率の悪化の原因となっていた。
【0006】
また、スライドの上下ストロークが大きい場合やスライドのプレス動作が高速の場合、スライドの下死点におけるバランサーに作用する負荷が増大化する。例えば、大容量の特殊なアキュムレータを用いたバランサーにより支持圧を大きくしたプレス装置が知られている。しかし、大容量のアキュムレータは設計が難しく、調達が難しかった。
【0007】
本発明は、成型装置のエネルギー効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る油圧バランサーは、
成型装置のスライドにストローク方向の移動に抗する圧力を付与する油圧バランサーであって、シリンダと、前記シリンダ内でストローク方向に移動可能に格納されたピストンと、前記シリンダ内における、前記ピストンの前記ストローク方向の少なくとも一方の領域に充填され、前記領域に対して流出入可能とする作動油とを備え、前記ピストンが前記ストローク方向における第1可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの前記作動油の流出入量が第1流量となり、前記ピストンが前記ストローク方向における前記第1可動範囲よりも死点に近い第2可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの前記作動油の流出入量が前記第1流量よりも小さい第2流量となるように前記シリンダと前記ピストンとが構成されている。
【0009】
また、本発明にかかる成型装置は、上記構成の油圧バランサーを備える構成となっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成型装置のエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係るプレス装置のスライドの周辺の構成を示す図2のI-I線に沿った断面図である。
図2】プレス装置のスライドの周辺の構成を示す平面図である。
図3】油圧回路を含む油圧バランサーの全体構成図である。
図4】横軸を時間、縦軸をスライドのストローク、プレス時にスライドに加わる負荷、油圧バランサーがスライドに加える圧力の各々の変化を示した線図である。
図5】第2の実施形態に係る油圧バランサーの油圧回路を含む全体構成図である。
図6】第3の実施形態に係る油圧バランサーの油圧回路を含む全体構成図である。
図7】第4の実施形態に係る油圧バランサーの油圧回路を含む全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る油圧バランサー13を搭載したプレス装置10のスライド4の周辺の構成を示す図2のI-I線に沿った断面図、図2はプレス装置10のスライド4の周辺の構成を示す平面図である。
【0013】
[プレス装置:全体概略]
図1及び図2に示すように、成型装置としてのプレス装置10は、装置の全体構成を支持するフレーム2と、フレーム2の上部に位置するクラウン1と、上金型を保持して上下往復動作を行うスライド4と、スライド4の下方で下金型を保持するボルスタ及びベッド(いずれも図示略)とを備えている。
プレス装置10は、モータからクラッチ機構及びフライホィール(いずれも図示略)を介して回転駆動を行うクランク軸6を備え、当該クランク軸6には偏心部61が設けられている。このクランク軸6の偏心部61には、コネクティングロッド7の上端部が回転可能に連結され、当該コネクティングロッド7の下端部は、スライド4に設けられたスライドリストピン8に回転(揺動)可能に連結されている。
【0014】
これにより、クランク軸6が回転駆動を行うと、コネクティングロッド7の上端部は、偏心部61により周回運動を行う。一方、コネクティングロッド7は、下端部がスライドリストピン8を支軸として揺動可能であるため、コネクティングロッド7の上端部の周回運動における左右方向の変位はスライド4に伝達されず、周回運動の上下方向の変位のみがスライド4に伝達される。
従って、スライド4は、偏心部61の偏心量の二倍と等しいストロークで上下方向に沿った往復動作を行う。スライド4は、上下方向に沿った1ストロークの往復動作における下死点を通過する際に、上金型が下金型に最も近接して、上金型と下金型との間でワークのプレス加工を行う。
【0015】
スライド4の四隅には、四つのスライドギブ11がボルト等で、それぞれ固定されている。この四つのスライドギブ11には側方に突出した取付ボス12がそれぞれ形成されている。
一方、フレーム2の四隅には、四基の油圧バランサー13のシリンダ14が適宜の手段で固定されている。油圧バランサー13は、シリンダ14内にピストン15を擁し、ピストン15から下方に延出されたピストンロッド154の下端部がスライド4のスライドギブ11の取付ボス12に対して上方から連結されている。
また、各シリンダ14から流出する作動油を給排する油給排部としてのアキュムレータ20も取付バンド21等の適宜の手段で、フレーム2に取り付けられている。
【0016】
プレス装置10は、プレス動作の制御を行う制御装置90を備えている。プレス動作の際には、制御装置90は、スライド4の上死点近傍から下降動作を開始し、1ストロークの往復上下動を行って、プレス動作を行うように、モータ又はクラッチ機構に対して動作制御を行う。
このとき、制御装置90は、スライド4が1ストローク分の往復上下動を行った後に、上死点近傍でスライド4を停止させる。
【0017】
[油圧バランサー:全体概略]
図3は油圧回路16を含む油圧バランサー13の全体構成図であり、シリンダ14を断面で図示している。
油圧バランサー13は、前述したように、フレーム2の四隅のそれぞれに設けられている。
各油圧バランサー13は、シリンダ14と、当該シリンダ14内にストローク方向(上下方向)に移動可能に格納されたピストン15と、シリンダ14内における、ピストン15のストローク方向の両側となる下側領域Rd及び上側領域Ruに充填され、各領域Rd,Ruに対して流出入可能とする作動油と、下側領域Rdと上側領域Ruの間の作動油の流通を行う油圧回路16とを備えている。
【0018】
[油圧バランサー:シリンダ及びピストン]
シリンダ14は、その中心線を鉛直上下方向(以下、上下方向という)に向けた状態で前述したフレーム2に固定された略円筒体であり、上端部側は閉塞され、下端部側は開口されている。
ピストン15は、シリンダ14内部において、上下方向をストローク方向として往復可能に格納されている。ピストン15は、外周にオイルシールが設けられ、シリンダ14の内壁に対して高いシール性を維持しており、ピストン15とシリンダ14の隙間から下側領域Rdと上側領域Ruとの間の作動油の流通が行われないようになっている。
【0019】
シリンダ14の内部は、上端部から上下方向全長のおおむね三分の二程度の範囲までが内径が大きな拡径領域141となっており、それより下側は内径が小さな縮径領域142となっている(拡径領域141の内径rl>縮径領域142の内径rs)。ピストン15は、拡径領域141及び縮径領域142内を上下に移動可能に配置され、拡径領域141及び縮径領域142を前述した上側領域Ruと下側領域Rdとに区画する。
また、縮径領域142の開放端部(下端部)近傍には、後述するピストンロッド154に対するシール用のスリーブ143が設けられ、シリンダ14の下端部からの作動油の漏出が防止されている。
【0020】
ピストン15は、拡径領域141の内径に略等しい外径を有する大径部151と、大径部151の下側に設けられた縮径領域142の内径に略等しい外径を有する小径部152と、小径部152の下端部から下方に向かって外径が漸減的に縮小するテーパ部153と、テーパ部153の下側に設けられたテーパ部153よりさらに小径なピストンロッド154とを備え、これらが同心且つ一体的に構成されている。
ピストンロッド154は、縮径領域142の開放端部からシリンダ14の外部下方に延出されており、その下端部はスライド4に設けられた取付ボス12に固定的に連結されている。このため、スライド4とピストン15とは、同一のストローク方向に沿って連動してストローク動作を行う。
【0021】
シリンダ14には、縮径領域142の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第一の流通口144と、拡径領域141の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第二の流通口145と、拡径領域141の上端部からシリンダ14の外部に通じる作動油の第三の流通口146とが設けられている。
【0022】
[油圧バランサー:油圧回路]
以下、油圧回路16の各構成について説明する。
上記第一の流通口144は、そのシリンダ14の外部出口が第一の油圧経路161に接続されており、第二の流通口145は、そのシリンダ14の外部出口が第二の油圧経路162に接続されており、第三の流通口146は、そのシリンダ14の外部出口が第三の油圧経路163に接続されている。
第一~第三の油圧経路161,162,163は、前述したシリンダ14内における上側領域Ruと下側領域Rdの間の作動油の流通を行うための経路を構成する。
【0023】
第三の油圧経路163は、油圧供給源164に接続されており、当該油圧供給源164から第三の流通口146に到るまでの間に、切替弁165、逆止弁166、安全弁167、圧力計168、シャットオフバルブ169、アキュムレータ20が順番に設けられている。
以下、第三の油圧経路163において、油圧供給源164側を「上流側」、第三の流通口146側を「下流側」という。
【0024】
第一の油圧経路161は、逆止弁166よりも下流側であって安全弁167と同位置で第三の油圧経路163に接続されている。
第二の油圧経路162は、第一の油圧経路161よりも下流側であって圧力計168と同位置で第三の油圧経路163に接続されている。また、第二の油圧経路162は、第三の油圧経路163に至るまでの途中区間が二又に分岐しており、一方の分岐経路には逆止弁170、他方の分岐経路には絞り弁171が設けられている。
【0025】
油圧供給源164は、作動油の貯留部と油圧ポンプなどで構成されており、当該油圧供給源164は、四基の油圧バランサー13で共用することができる。
逆止弁166は、第三の油圧経路163において、油圧供給源164側への作動油の逆流を防止する。
圧力計168は、第三の油圧経路163内の作動油の圧力を検出し、前述した制御装置90に入力する。切替弁165は、常閉式であり、制御装置90が圧力計168によって第三の油圧経路163内の圧力が目標圧力を維持するように、必要時に切替弁165を開いて油圧供給源164から経路内へ作動油を供給する。
安全弁167は、常閉式であって、第三の油圧経路163内で予め定められた異常値となる高圧状態に至ると開放され、第三の油圧経路163内の作動油を図示しない貯留部に戻す。
【0026】
シャットオフバルブ169は、遮断部として機能し、手動操作に応じて作動油の流通と制止を切り替えることができる。前述したように、第一~第三の油圧経路161,162,163は、シリンダ14内の上側領域Ruと下側領域Rdの間の作動油の流通を行うが、シャットオフバルブ169が閉じられると、作動油の流通が阻止され、ピストン15をストローク方向について固定することができる。
【0027】
アキュムレータ20は、第三の油圧経路163内において作動油が規定の圧力を超えると作動油の受け入れを行い、規定の圧力より低下すると受け入れた作動油を第三の油圧経路163に戻す働きを行う。
ピストン15は、ストローク動作を行うと、ストローク方向の位置によっては、上側領域Ruの作動油の流入出量と下側領域Rdの作動油の流入出量とが一致しない場合があり、そのような場合に、第三の油圧経路163内で過剰となる作動油を受け入れ、或いは、第三の油圧経路163内で不足となる作動油を戻す。
【0028】
第二の油圧経路162の逆止弁170は、第三の油圧経路163から第二の流通口145への作動油の流通を可能とし、逆方向の流通を阻止する。
第二の油圧経路162の絞り弁171は、第三の油圧経路163と第二の流通口145との間の作動油の流通に対して所定の流動抵抗を付与する。
つまり、第三の油圧経路163から第二の流通口145へ作動油が流通する場合には、逆止弁170を通じて抵抗なく作動油が移動し、第二の流通口145から第三の油圧経路163へ作動油が流通する場合には、絞り弁171を介して流動抵抗を受けながら作動油が移動する。
【0029】
[油圧バランサー:ピストンのストローク方向の位置と油圧回路の働きについて]
油圧バランサー13は、図3のように、スライド4から下方の荷重Wを受けており、ピストン15の小径部152の下端部がシリンダ14の縮径領域142の上端部に達していない状態で下降している場合には、下側領域Rd内の作動油は、主に、第一の油圧経路161から第三の油圧経路163を通じて上側領域Ruに移動する。この場合のシリンダ14内の作動油が受ける単位圧力当たりの流量を「第1流量」とする。
【0030】
この段階では、下側領域Rd内でピストン15は、大径部151の断面積(ストローク方向に垂直な断面積)からピストンロッド154の断面積を減じた面積に比例した流出量で作動油を下側領域Rdから排出し、大径部151の断面積に比例した流出量で作動油を上側領域Ru内に吸引するので、アキュムレータ20から足りない作動油が排出される。
【0031】
一方、油圧バランサー13において、図3の二点鎖線のように、ピストン15の小径部152の下端部がシリンダ14の縮径領域142の上端部に達してからは、大径部151の下側の拡径領域141内の作動油は縮径領域142側に移動することが困難で、第二の油圧経路162から第三の油圧経路163を通じて上側領域Ruに移動する。また、小径部152の下側の縮径領域142内の作動油は、第一の油圧経路161から第三の油圧経路163を通じて上側領域Ruに移動する。
このとき、拡径領域141内の作動油は、第二の油圧経路162の絞り弁171を通じて流通するので、作動油はシリンダ14内で受ける単位圧力当たりの流量が前述した「第1流量」よりも小さい「第2流量」となる。
【0032】
なお、「第1流量」及び「第2流量」における「単位圧力」とは、特定の圧力値を示すものではなく、「第1流量」及び「第2流量」において、同じ圧力を受けている場合の流量であることを示すものに過ぎない。
【0033】
「第2流量」で作動油が流通する場合、ピストン15に連結されたスライド4には、「第1流量」で作動油を排出していた場合よりも、下降動作に抗する上方への大きな圧力が付与される。
なお、この時、スライド4に付与される下降動作に抗する上方への圧力の大きさは、絞り弁171の単位圧力当たりの通過可能な流量によって決まる。
【0034】
また、「第2流量」で作動油が流通する場合には、下側領域Rd内でピストン15は、大径部151の断面積からピストンロッド154の断面積を減じた面積に比例した流出量で作動油を下側領域Rdから排出し、大径部151の断面積に比例した流出量で作動油を上側領域Ru内に吸引するので、アキュムレータ20から足りない作動油が排出される。
【0035】
油圧バランサー13は、スライド4がストローク範囲の下死点近傍に至る際の、コネクティングロッド7、クランク軸6、スライドリストピン8、スライド4等の間に生じ得る隙間等に起因して発生する部材間の衝突による騒音や衝撃を抑制するために設けられている。
このため、油圧バランサー13は、スライド4の下死点の手前の所定の範囲から下死点までの間に、下降動作に抗する上方への圧力を付与する。
【0036】
従って、スライド4が上死点に位置する場合に、ピストン15の大径部151の上端部がシリンダ14の拡径領域141の上端部よりも低位置となり、スライド4の下死点の手前の所定位置において、ピストン15の小径部152の下端部がシリンダ14の縮径領域142の上端部にストローク方向について合致し、スライド4の下死点において、ピストン15の大径部151の下端部がシリンダ14の第二の流通口145よりも高位置となるように設定されている。
なお、以下の説明では、ピストン15の小径部152の下端部がシリンダ14の縮径領域142の上端部に合致する位置を「転換点T」とする。
また、上記「スライド4の下死点の手前の所定位置」は、例えば、スライド4の下死点より手前であって、スライド4のストローク幅の3分の1以下の範囲内となる位置とすることが好ましい。
【0037】
また、スライド4が下死点を通過して上昇に転じると、油圧バランサー13では、ピストン15も上昇に転じる。この場合、転換点Tに達するまでは、第三の油圧経路163から第一の油圧経路161及び第二の油圧経路162を通じて下側領域Rd内に作動油が流入する。
このとき、第二の油圧経路162では、逆止弁170が設けられた経路から作動油が流通するので抵抗を受けず、第一の油圧経路161及び第二の油圧経路162により、「第1流量」にほぼ等しい流量で下側領域Rd内に作動油が流入する。
従って、スライド4は、油圧バランサー13から殆ど上昇に抗する圧力を受けることなく上昇を行う。
【0038】
また、この段階では、下側領域Rd内でピストン15は、大径部151の断面積(ストローク方向に垂直な断面積)からピストンロッド154の断面積を減じた面積に比例した流入量で作動油が下側領域Rdに流入し、大径部151の断面積に比例した流出量で作動油が上側領域Ruから排出されるので、第三の油圧経路163において過剰となる作動油がアキュムレータ20に蓄積される。
【0039】
油圧バランサー13は、上述したシリンダ14及びピストン15の構造により、ピストン15がストローク方向における第1可動範囲(上死点(スライド4の上死点と一致)から転換点Tまでの範囲)に位置するときに規定圧力当たりの作動油の流出入量が第1流量となり、ピストン15のストローク方向における第1可動範囲よりも下死点側に近い第2可動範囲(転換点Tから下死点(スライド4の下死点と一致)までの範囲)に位置するときに規定圧力当たりの作動油の流出入量が第1流量よりも小さい第2流量となるように構成されている。
【0040】
[プレス装置の動作]
プレス装置10のプレス加工時の動作を図1図4に基づいて説明する。図4は横軸を時間、縦軸をスライド4のストローク、プレス時にスライド4に加わる負荷、油圧バランサー13がスライド4に加える圧力の各々の変化を示した線図である。
【0041】
制御装置90は、モータ又はクラッチ機構を制御して、スライド4を上死点又は上死点を幾分通過した位置を起点として、スライド4のストローク動作を行う。一回のプレス動作につき、スライド4は、起点から下死点を通過して起点に戻るまでの一往復のストローク動作が行われる。
即ち、制御装置90は、スライド4が上死点より手前の位置で停止しないで上死点又は上死点を幾分通過した位置で停止するように制御を行っている。
【0042】
スライド4とその他の部材の隙間に起因する衝突による騒音や衝撃は、スライド4の負荷が増加する下死点又は下死点の手前の位置で生じる。
油圧バランサー13の転換点Tは、ピストン15の形状に応じて調整可能であり、スライド4の負荷の上昇が開始される位置かそれよりも幾分手前側に設定されており、図4の線図に示すように、スライド4の負荷の上昇よりも幾分早い時点で、油圧バランサー13による上方への圧力がスライド4に付与される。
油圧バランサー13によるスライド4に対する上方への圧力は、スライド4の下死点到達まで継続する。
そして、スライド4が下死点を通過すると、油圧バランサー13によるスライド4に対する圧力が減少する。
これにより、スライド4とその他の部材の隙間に起因する衝突が抑制され、騒音や衝撃も低減することができる。
【0043】
図4において、従来の油圧バランサーによるスライド4に対する圧力も線図で示している。この従来の油圧バランサーでは、アキュムレータにより作動油の排出圧力を利用して、スライド4に対する上方への圧力を付与している。このため、従来の油圧バランサーは、スライド4のストロークの全範囲でスライド4に対する上方への圧力が付与される構成となっている。従って、スライド4の下降開始から下死点近傍までのスライド4等の隙間に起因する衝突が生じない区間でも、スライド4に対する上方への圧力が駆動源に対して負荷となり、エネルギー効率を低下させている。
【0044】
これに対して、油圧バランサー13の場合には、転換点Tを適正に設定することで、スライド4等の隙間に起因する衝突が生じ得る区間に限定してスライド4に対する圧力を付与することができるので、不要な区間でスライド4に圧力を付与することを回避でき、スライド4の駆動源に対する負荷を低減し、エネルギー効率を向上させている。
【0045】
また、前述したように、制御装置90は、一回のプレス動作において、スライド4を上死点又は上死点を幾分通過した位置で停止し、次回のプレス動作を同位置から開始するように動作制御を行っている。
従来の油圧バランサーは、ストローク範囲の全体でスライド4に上方の圧力を付与するが、油圧バランサー13は、下死点周辺に限定してスライド4に圧力を付与している。
このため、スライド4を上死点又は上死点を幾分通過した位置でプレス動作を開始するように制御すると、従来の油圧バランサーは、スライド4の下降に抗する圧力を付与するため、駆動源の出力が大きい。一方、油圧バランサー13は、上死点又は上死点を幾分通過した位置では圧力を付与しないので、駆動源の出力を小さくすることが可能である。
【0046】
[第1の実施形態の技術的効果]
以上のように、プレス装置10の油圧バランサー13は、ピストン15が上死点から下死点に向かうストローク方向における第1可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの作動油の流出入量が第1流量となり、ピストン15の上死点から下死点に向かうストローク方向における第1可動範囲よりも下死点に近い第2可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの作動油の流出入量が前記第1流量よりも小さい第2流量となるようにシリンダ14とピストン15とが構成されている。
【0047】
このため、下死点側の第2可動範囲に限定してスライド4に上方への圧力を付与することができ、スライド4とその他の部材の衝突による騒音や衝撃を低減しつつ不要な範囲での圧力付与を回避することができるので、スライド4の駆動源に対する負荷を低減し、エネルギー効率を向上することが可能となる。
また、油圧バランサー13は、従来の油圧バランサーと異なり、駆動源の出力を小さくすることができるので、駆動源そのものの小型化を図ることが可能となる。
【0048】
また、油圧バランサー13は、従来の油圧バランサーと異なり、アキュムレータの排出圧力によりスライド4に対する上方への圧力を付与する構成ではなく、シリンダ14内の作動油の移動によって生じる圧力を付与する構成であるため、スライドの上下ストロークの拡大やスライドのプレス動作の高速化等の要求がある場合でも、大型のアキュムレータを不要とし、より簡易且つ製造が容易な構成からなる油圧バランサーを提供することが可能である。
【0049】
また、油圧バランサー13は、第2可動範囲(転換点Tから下死点までの範囲)が、ピストン15のストローク幅の下死点を含む3分の1以下の範囲としている。従って、スライド4とその他の部材の衝突を生じ得るスライド4のストローク範囲の区間を網羅しつつ、スライド4に対する圧力付与を行う範囲の適正化を図ることが可能である。
【0050】
また、油圧バランサー13は、シリンダ14内における、ピストン15のストローク方向の下側領域Rd(一方の領域)と上側領域Ru(他方の領域)とを結ぶ作動油の第一~第三の油圧経路161,162,163を備えているので、下側領域Rdと上側領域Ruとの間で作動油を循環させることができ、アキュムレータ20側への作動油の流通量を低減することができ、小型のアキュムレータ20を使用することが可能である。
【0051】
また、油圧バランサー13は、ピストン15の上側領域Ru及び下側領域Rdに対して作動油の流出入を遮断した状態に切り替え可能なシャットオフバルブ169を備えているので、メンテナンスや金型等の部材の交換等の作業の際に、スライド4を任意の位置で固定することができる。
また、図1に示す符号24のように、スライド4の下側に配置して、スライド4の下降移動を規制する移動止めを設けてもよい。この移動止め24は。スライド4の下側のいずれかの位置に置いて下降を規制可能な強度を有するものであれば構造については限定されない。移動止め24は、アクチュエーターを用いてスライド4の下降を規制可能な位置と下降を妨げない位置とに位置切り替え可能としても良いし、作業者が所定の位置に設置又は除去する構成としても良い。
【0052】
また、油圧バランサー13は、シリンダ14から流出する作動油を給排するアキュムレータ20を備えるので、シリンダ14内の上側領域Ruの作動油の流入出量と下側領域Rdの作動油の流入出量とが異なる場合でも、作動油を吸収して安定した動作を維持することが可能である。
【0053】
また、プレス装置10は、スライド4を上死点又は上死点を幾分通過した位置にオーバーランさせて停止させる制御装置90を備えている。従来の油圧バランサーでは上死点手前で停止させるのも許容しているため、仮に上死点手前で停止した場合、この位置から起動させると一旦スライドを上昇させた後、上死点を通過させて下降することになる。従って、最も加速度の大きい上死点を通過することになると共にバランサー力に抗して作動させるため、加振力が大きくなる。一方、油圧バランサー13を設けるプレス装置10の場合には、上死点又は上死点を幾分通過した位置で停止させると共に同位置で起動するため、起動時に加速度の最も大きい上死点を通過せず、更にスライド4の移動に抗する圧力が付与されないので、プレスに作用する加振力を小さくすることが可能である。
【0054】
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図5は本発明の第2の実施形態に係る油圧バランサー13Aの油圧回路16Aを含む全体構成図である。
以下の説明では、油圧バランサー13Aについて、油圧バランサー13と異なる点について主に説明し、実質的に同一の構成については同符号を付して重複する説明は省略する。
【0055】
油圧バランサー13Aは、スライド4の取付ボス12を下側から支えて、下降するスライド4に抗して上方への圧力を付与する構成となっている。
即ち、油圧バランサー13Aは、ピストン15Aの上端部がシリンダ14Aから外部(上方)に突出し、当該ピストン15Aの上端部が取付ボス12の下側から固定的に連結され、圧力付与を行う。このため、シリンダ14内には作動油が流入出する上側領域Ruが存在せず、下側領域Rdのみに対して作動油の流入出が行われる。
【0056】
上記シリンダ14Aは、中心軸が鉛直上下方向に平行な状態でプレス装置のフレームに固定支持され、シリンダ14Aの上端が開放され、下端が閉塞されている。シリンダ14Aは、内部に拡径領域141と縮径領域142とを備え、拡径領域141の上端部は開放され、縮径領域142の下端部は閉塞されている。
また、拡径領域141の開放端部近傍には、ピストン15Aに対するシール用のスリーブ143Aが設けられ、シリンダ14Aの上端部からの作動油の漏出が防止されている。
【0057】
ピストン15Aは、大径部151と小径部152とテーパ部153とを有し、テーパ部153の下端部にピストンロッドは設けられていない。
シリンダ14Aには、縮径領域142の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第一の流通口144と、拡径領域141の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第二の流通口145とが設けられている。
【0058】
油圧回路16Aは、前述した油圧回路16と比較した場合、第三の油圧経路163Aがアキュムレータ20を終端としている点のみが異なっている。
【0059】
上記油圧バランサー13Aでは、スライド4が上死点に位置する場合に、ピストン15Aの大径部151の下端部がシリンダ14Aの拡径領域141の下端部よりも高位置となり、転換点Tにおいてピストン15Aの小径部152の下端部がシリンダ14Aの縮径領域142の上端部にストローク方向について合致し、スライド4の下死点において、ピストン15Aの大径部151の下端部がシリンダ14Aの第二の流通口145よりも高位置となるように設定されている。
【0060】
この油圧バランサー13Aは、プレス動作時において、スライド4が上死点を幾分通過した起点から下降を開始すると、第一の油圧経路161から下側領域Rd内の作動油が外部に排出され、第三の油圧経路163Aを通じてアキュムレータ20内に流入する。
そして、スライド4の下降に伴い、ピストン15Aが転換点Tに到達すると、縮径領域142内の作動油は第一の油圧経路161から排出されるが、拡径領域141内であって下側領域Rd内の作動油は第二の油圧経路162から排出される。従って、絞り弁171により大きな流動抵抗が生じ、下降するスライド4に抗する圧力が付与される。
さらに、スライド4が下死点を通過すると、アキュムレータ20内に蓄積された作動油がシリンダ14A内に戻される。この場合には、絞り弁171を介さずに第一の油圧経路161及び第二の油圧経路162を作動油が通過するので、スライド4に圧力が付与されず、円滑に上昇させることができる。
【0061】
この油圧バランサー13Aも、ピストン15Aが上死点から下死点に向かうストローク方向における第1可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの作動油の流出入量が第1流量となり、ピストン15Aの上死点から下死点に向かうストローク方向における第1可動範囲よりも下死点に近い第2可動範囲に位置するときに単位圧力当たりの作動油の流出入量が前記第1流量よりも小さい第2流量となるようにシリンダ14Aとピストン15Aとが構成されている。
このため、油圧バランサー13Aは、前述した油圧バランサー13と同一の技術的効果を得ることが可能である。
【0062】
なお、この油圧バランサー13Aは、スライド4の下降当初からアキュムレータ20に作動油が流入するので、アキュムレータ20の排出圧がスライド4に作用している。しかし、油圧バランサー13Aは、スライド4の下死点近傍で付与する圧力は、専ら、絞り弁171を通過する作動油から得る構造なので、アキュムレータ20は、排出圧力が小さいものを使用することが出来るため、スライド4のストローク範囲の全域における下方への圧力付与によるエネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0063】
[第3の実施形態]
以下、本発明の第3の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図6は本発明の第3の実施形態に係る油圧バランサー13Bの油圧回路16Bを含む全体構成図である。
以下の説明では、油圧バランサー13Bについて、油圧バランサー13と異なる点について主に説明し、実質的に同一の構成については同符号を付して重複する説明は省略する。
【0064】
油圧バランサー13Bは、ピストンロッド154,154Bが上下に延出されているので、スライド4の取付ボス12を上側と下側のいずれから支えることも可能となっている。
なお、ピストンロッド154,154Bは、いずれか一方のみを設ける構成としても良い。
【0065】
上記油圧バランサー13Bのシリンダ14Bは、中心軸が鉛直上下方向に平行な状態でプレス装置のフレームに固定支持され、シリンダ14Bの上端と下端がそれぞれ開放されている。シリンダ14Bは、内部に中央に拡径領域141を備え、その下側と上側とに縮径領域142,142Bを備えている。
縮径領域142の下端部と縮径領域142Bの上端部は開放されている。
また、縮径領域142の下端部側の開放端部と縮径領域142Bの上端部側の開放端部とには、それぞれシール用のスリーブ143,143Bが設けられている。
【0066】
ピストン15Bは、大径部151の下側に小径部152とテーパ部153とピストンロッド154とを有し、さらに、大径部151の上側に小径部152B、その上側にテーパ部153B、その上側にピストンロッド154Bとを有しており、これらが同心且つ一体的に形成されている。
なお、小径部152Bの外径は、小径部152と等しく、縮径領域142Bの内径に略等しくなっている。
また、テーパ部153Bは、テーパ部153と外径が等しく且つ上方に向かって縮径している。
ピストンロッド154Bは、ピストンロッド154と外径が等しくなっている。
なお、小径部152Bと小径部152、テーパ部153Bとテーパ部153、ピストンロッド154Bとピストンロッド154は、いずれも外径が等しいことは必須ではないので、各々の外径は異なっていても良い。
【0067】
シリンダ14Bには、縮径領域142の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第一の流通口144、拡径領域141の下端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第二の流通口145、拡径領域141の上端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第三の流通口146、縮径領域142Bの上端部内周からシリンダ14の外部に通じる作動油の第四の流通口147Bが設けられている。
【0068】
油圧回路16Bは、前述した油圧回路16と比較した場合、第三の流通口146に接続される第三の油圧経路163Bは、第三の流通口146の手前で途中区間が二又に分岐しており、一方の分岐経路には逆止弁173B、他方の分岐経路には絞り弁174Bが設けられている。
また、第四の流通口147Bと第三の油圧経路163Bとを接続する第四の油圧経路172Bが設けられている。
【0069】
上記油圧バランサー13Bでは、スライド4が上死点を幾分通過する位置から下降を開始し、下死点を通過するまでの動作は、油圧バランサー13と同一である。
そして、スライド4が上昇を開始すると、上側領域Ru内の作動油は、第四の油圧経路172Bから排出される。ピストン15Bは、大径部151の上側と下側とで断面積がほぼ等しいので、下側領域Rdからの作動油の流入出量と上側領域Ruからの作動油の流入出量とがほぼ一致し、アキュムレータ20には殆ど流入出されないので、より容量が小さいものを使用することができる。
【0070】
そして、スライド4が上死点近傍に達して、小径部152Bの上端部が上側の縮径領域142Bの下端部とストローク方向について合致した高さに至ると、縮径領域142B内の作動油は、第四の油圧経路172Bから排出されるが、拡径領域141内であって上側領域Ru内の作動油は、第三の油圧経路163Bの絞り弁174Bを通じて排出される。このため、スライド4の上死点近傍において、上昇に抗して圧力が付与される。
【0071】
上記油圧バランサー13Bは、上昇するスライドのストローク方向について、上死点側にも、小径部152Bの上端部が上側の縮径領域142Bの下端部とストローク方向について合致した高さに至る位置から上死点までの間にも第2可動範囲が設けられ、当該第2可動範囲では、絞り弁174Bにより作動油の流入出量が第1流量よりも小さい第2流量となるように構成されている。
このため、スライド4の上死点近傍において、上昇に抗して圧力が付与され、スライド4のブレーキを補助して、適正な目標位置にスライド4を停止させることが可能となる。
【0072】
[第4の実施形態]
以下、本発明の第4の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図7は本発明の第4の実施形態に係る油圧バランサー13Cの油圧回路16Cを含む全体構成図である。
以下の説明では、油圧バランサー13Cについて、油圧バランサー13と異なる点について主に説明し、実質的に同一の構成については同符号を付して重複する説明は省略する。
【0073】
上記油圧バランサー13Cのシリンダ14Cは、拡径領域141と縮径領域142とを備え、さらに、拡径領域141の底面部に有底円形穴状の補助領域148Cが形成されている。この補助領域148Cの上端部は開放されており、鉛直上下方向に沿って形成されている。
【0074】
ピストン15Cは、大径部151、小径部152、テーパ部153、ピストンロッド154を有し、さらに、大径部151の下面に丸棒状の補助ピストン155Cを有している。補助ピストン155Cは、小径部152よりもストローク方向の長さが短くなっている。
補助ピストン155Cと補助領域148Cは、平面視で配置が一致しており、補助ピストン155Cの外径と補助領域148Cの内径とが略等しく、補助ピストン155Cを補助領域148Cに挿入可能となっている。
シリンダ14Cには、補助領域148Cの下端部からシリンダ14の外部に通じる作動油の第五の流通口149Cが設けられている。
【0075】
油圧回路16Cは、前述した油圧回路16と比較した場合、第五の流通口149Cに接続される第五の油圧経路175Cが設けられている。当該第五の油圧経路175Cは、途中区間が二又に分岐しており、一方の分岐経路には逆止弁176C、他方の分岐経路には絞り弁177Cが設けられている。
【0076】
上記油圧バランサー13Cでは、スライド4が上死点を幾分通過する位置から下降を開始し、下死点手前の転換点Tにおいて、ピストン15Cの小径部152の下端部が縮径領域142の上端部に達してスライド4の下降動作に抗する圧力が付与される。
さらに、スライド4が下降すると第二転換点T2において、補助ピストン155Cの下端部が補助領域148Cの上端部に挿入され、補助領域148C内の作動油が絞り弁177Cを通じて排出され、スライド4の下降動作に抗するさらなる圧力が付与される。
その後、下死点を通過したスライド4は、逆止弁170,176Cを通じて作動油がシリンダ14C内に流入するので、上昇するスライド4に抗する圧力が生じることなく上昇する。
【0077】
上記油圧バランサー13Cは、補助ピストン155Cと補助領域148Cを設けることで、下降するスライド4に対して、下死点に到達するまでに二段階で下降するスライド4に抗して圧力を付与することが可能となる。
これにより、漸増的にスライド4に抗して圧力を付与することで、スライド4の勢いを漸減的に減少させて、スライド4とその他の部材の衝突をより効果的に回避し、騒音や衝撃をさらに低減することが可能となる。
【0078】
なお、油圧バランサー13Cでは、補助ピストン155Cを小径部152よりも短くして、小径部152に遅れて補助領域148Cに挿入させる構成を例示したが、補助ピストン155Cを小径部152よりも長くして、小径部152よりも先に補助領域148Cに挿入させる構成としても良い。
また、長さが異なる複数の補助ピストン155C及び補助領域148Cを設け、さらに、多段階的にスライド4に抗する圧力を付与する構成としても良い。
【0079】
[その他]
上記各実施形態では、スライド4のストローク方向が上下方向に平行である場合を例示したが、ストローク方向については任意に変更可能である。その場合、スライド4の下死点とは、一対の金型を互いに接近させる方の死点を示すものとする。
なお、上記実施形態では、各油圧バランサーをプレス装置に適用した例を示したが、これに限定されない。例えば、上記各油圧バランサーは、スライドが往復動作を行う射出成型装置等の他の成型装置にも適用可能である。このような成型装置の場合には、スライドの死点到達時に金型が閉じた状態で成型が行われるが、拘束での金型の衝突を回避し、金型の保護を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
2 フレーム
4 スライド
6 クランク軸
7 コネクティングロッド
8 スライドリストピン
10 プレス装置(成型装置)
11 スライドギブ
12 取付ボス
13,13A,13B,13C 油圧バランサー
14,14A,14B,14C シリンダ
141 拡径領域
142,142B 縮径領域
144 第一の流通口
145 第二の流通口
146 第三の流通口
147B 第四の流通口
148C 補助領域
149C 第五の流通口
15,15A,15B,15C ピストン
16,16A,16B,16C 油圧回路
20 アキュムレータ(油給排部)
61 偏心部
90 制御装置
151 大径部
152,152B 小径部
154,154B ピストンロッド
155C 補助ピストン
161 第一の油圧経路
162 第二の油圧経路
163,163A,163B 第三の油圧経路
164 油圧供給源
165 切替弁
166 逆止弁
167 安全弁
168 圧力計
169 シャットオフバルブ(遮断部)
170,176C 逆止弁
171 絞り弁
172B 第四の油圧経路
173B 逆止弁
174B 絞り弁
175C 第五の油圧経路
176C 逆止弁
177C 絞り弁
Rd 下側領域
Ru 上側領域
T 転換点
T2 第二転換点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7