(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】移動評価装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20240528BHJP
【FI】
G16H50/80
(21)【出願番号】P 2020201265
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】植田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】大岸 智彦
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/173842(WO,A1)
【文献】特開2020-154857(JP,A)
【文献】特開2020-008969(JP,A)
【文献】特開2020-177354(JP,A)
【文献】ジゼット ファティ シェントルク,外5名,“COVID-19 RISK ASSESSMENT IN PUBLIC TRANSPORT USING AMBIENT SENSOR DATA AND WIRELESS COMMUNICATIONS”,Bulletin of Natural Sciences Research [online],Vol. 10, No. 2,2020年,p.43-50,[令和6年1月19日検索],インターネット<https://pdfs.semanticscholar.org/8c1a/6f43fee53bbb9810e4af9c8bc6f739d75262.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通機関による人の移動を評価する移動評価装置において、
移動する人が滞在することになる環境の二酸化炭素濃度を推定する手段と、
移動する人が滞在することになる環境の混雑度を推定する手段と、
各環境の二酸化炭素濃度及び混雑度の推定結果に基づいて、移動する人の感染症への感染リスクを評価する手段とを具備
し、
前記評価する手段は、同一環境の感染リスクを、混雑度が相対的に高いほど高くなり、二酸化炭素濃度が相対的に低いほど低くなる評価値に基づいて評価することを特徴とする移動評価装置。
【請求項2】
前記評価する手段は、混雑度が相対的に高い場合に、二酸化炭素濃度が相対的に高い場合より、二酸化炭素濃度が相対的に低い場合をより低リスクと評価し、
混雑度が相対的に低い場合に、二酸化炭素濃度が相対的に低い場合より、二酸化炭素濃度が相対的に高い場合をより高リスクと評価することを特徴とする請求項1に記載の移動評価装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素濃度を推定する手段および混雑度を推定する手段は、時間的および場所的の少なくとも一方で分散した複数の環境の二酸化炭素濃度および混雑度をそれぞれ推定することを特徴とする請求項1
または2に記載の移動評価装置。
【請求項4】
前記環境が、移動する人が乗車前に滞在する乗車前環境、乗車中に滞在する乗車中環境および降車後に滞在する降車後環境を
含み、
前記評価する手段は、移動する人が乗車前に滞在する乗車前環境、乗車中に滞在する乗車中環境および降車後に滞在する降車後環境のそれぞれについて、移動する人の感染症への感染リスクを評価することを特徴とする請求項1
ないし3のいずれかに記載の移動評価装置。
【請求項5】
前記乗車前環境、乗車中環境および降車後環境を、移動する人が乗降車できる位置ごとに細分化し、
前記感染リスクを評価する手段は、前記乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の前記乗降車できる位置ごとに感染リスクを評価することを特徴とする請求項
4に記載の移動評価装置。
【請求項6】
前記環境ごとに現在の二酸化炭素濃度の推定結果に基づいて指定時刻の二酸化炭素濃度を予測する手段と、
前記環境ごとに現在の混雑度の推定結果に基づいて指定時刻の混雑度を予測する手段とを具備し、
前記感染リスクを評価する手段は、指定時刻ごとに予測された各環境の二酸化炭素濃度及び混雑度に基づいて移動の感染リスクを評価することを特徴とする請求項1
または2に記載の移動評価装置。
【請求項7】
出発地から目的地への各交通機関による移動を前記感染リスクの評価結果に基づいて案内する手段を更に具備したことを特徴とする請求項1ないし
6のいずれかに記載の移動評価装置。
【請求項8】
前記案内する手段は、感染リスクがより高い移動の運賃をより高くする動的価格設定を行うことを特徴とする請求項
7に記載の移動評価装置。
【請求項9】
前記案内する手段は、感染リスクがより高い移動の運賃をより安くする動的価格設定を実行することを特徴とする請求項
7に記載の移動評価装置。
【請求項10】
交通機関による人の移動をコンピュータが評価する移動評価方法において、
移動する人が滞在することになる環境の二酸化炭素濃度を推定し、
移動する人が滞在することになる環境の混雑度を推定し、
各環境の二酸化炭素濃度及び混雑度の推定結果に基づいて、移動する人の感染症への感染リスクを評価
し、
前記評価では、同一環境の感染リスクを、混雑度が相対的に高いほど高くなり、二酸化炭素濃度が相対的に低いほど低くなる評価値に基づいて評価することを特徴とする移動評価方法。
【請求項11】
交通機関による人の移動を評価する移動評価プログラムにおいて、
移動する人が滞在することになる環境の二酸化炭素濃度を推定する手順と、
移動する人が滞在することになる環境の混雑度を推定する手順と、
各環境の二酸化炭素濃度及び混雑度の推定結果に基づいて、移動する人の感染症への感染リスクを評価する手順と、をコンピュータに実行させ
、
前記評価する手順は、同一環境の感染リスクを、混雑度が相対的に高いほど高くなり、二酸化炭素濃度が相対的に低いほど低くなる評価値に基づいて評価することを特徴とする移動評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通機関による人の移動を評価する移動評価装置、方法およびプログラムに係り、特に、ウイルスや細菌への感染リスクを指標に人の移動を評価する移動評価装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや細菌への感染を回避する生活習慣として、いわゆる三密(密閉、密接、密集)の回避が提唱されている。目的地へ公共交通機関を使って移動する場合を考えると、(1) 各交通機関への乗車前に一時的に滞在することになる「乗車前環境」、(2) 乗車してから降車するまでの「乗車中環境」、および(3) 降車後に一時的に滞在することになる「降車後環境」において特に三密が生じ易い。換言すれば、乗車前環境、乗車中環境および降車後環境において三密を避けることができれば公共交通機関を利用した安全な移動を実現できる。
【0003】
非特許文献1には、料金、時間、道路の混雑具合などに基づいて目的地までの経路や移動手段を選択する技術が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、地図上でエリアやターミナル駅周辺の混雑度を確認できる「混雑レーダー」など、現在や今後の混雑状況を確認できるさまざまな「混雑予報」機能を提供するスマートフォン用のアプリケーションとして「Yahoo! MAP」(登録商標)が紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Luis Barreto ; Antonio Amaral ; Sara Baltazar, "Urban Mobility Digitalization: Towards Mobility as a Service (MaaS)," 2018 International Conference on Intelligent Systems (IS)
【文献】https://map.yahoo.co.jp/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では三密回避を目的とした経路選択が行えない。非特許文献2によれば密集や密接は回避できるが密閉を回避できない。このため、非特許文献1,2では交通機関で移動する人の感染リスクを正確に評価できない。
【0007】
一方、感染リスク対策としてエアロゾル感染の予防が提唱されている。エアロゾル感染の予防には三密回避が望ましいが、同様に混雑する密集環境であっても換気が十分な環境と不十分な環境とでは感染リスクが大きく異なる。また、同様の三密環境を比べても空調などで空気が循環する環境では循環しない環境よりも感染リスクが高まることが報告されており、このような環境でも換気が十分であれば感染リスクを低く抑えられる。
【0008】
しかしながら、非特許文献1,2では密集環境の換気状態を把握できないので、密集環境はその換気状態にかかわらず画一的に全て感染リスクの高い環境とみなさなければならず、交通機関で移動する人の感染リスクを正確に評価することができなかった。
【0009】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、環境の換気状態を二酸化炭素濃度で代表し、交通機関で移動する人の感染リスクを二酸化炭素濃度と混雑度とに基づいて評価する移動評価装置、方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、交通機関による人の移動を評価する移動評価装置において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0011】
(1) 交通機関で移動する人が滞在することになる環境の二酸化炭素濃度および混雑度を推定し、各環境の二酸化炭素濃度及び混雑度の推定結果に基づいて感染リスクを評価するようにした。
【0012】
(2) 時間的および場所的に分散した複数の環境の二酸化炭素濃度および混雑度を推定するようにした。
【0013】
(3) 移動する人が乗車前に滞在する乗車前環境、乗車中に滞在する乗車中環境および降車後に滞在する降車後環境の二酸化炭素濃度および混雑度を推定するようにした。
【0014】
(4) 前記乗車前環境、乗車中環境および降車後環境を、移動する人が乗降車できる位置ごとに更に細分化して感染リスクを評価するようにした。
【0015】
(5) 環境ごとに現在の二酸化炭素濃度および混雑度に基づいて将来の指定時刻の二酸化炭素濃度および混雑度を予測するようにした。
【0016】
(6) 出発地から目的地への各交通機関による移動を感染リスクの評価結果に基づいて案内する手段を更に具備した。
【0017】
(7) 案内する移動の運賃に感染リスクに基づく動的価格設定を適用するようにした。
【発明の効果】
【0018】
(1) 交通機関で移動する人が滞在することになる環境の二酸化炭素濃度および混雑度に基づいて感染リスクを評価するようにしたので、混雑度が低くても二酸化炭素濃度が高い環境を換気が不十分な高リスク環境と評価できる一方、混雑度が高くても二酸化炭素濃度が低い環境を換気が十分な低リスク環境と評価できるので、交通機関で移動する人の感染リスクを正確に評価できるようになる。
【0019】
(2) 時間的および場所的に分散した複数の環境の二酸化炭素濃度および混雑度を推定するようにしたので、時間的および場所的に分散した複数の環境に滞在することになる移動の感染リスクを正確に評価できるようになる。
【0020】
(3) 移動する人が乗車前に滞在する乗車前環境、乗車中に滞在する乗車中環境および降車後に滞在する降車後環境の二酸化炭素濃度および混雑度を推定するようにしたので、ベットタウンの通勤時間帯のように下り列車の混雑度が上り列車に比べて十分に低いために下り列車での移動が低リスクと評価され得るケースでも、出発駅や到着駅が混雑していれば高リスクと評価されるので適切な感染リスク管理が可能になる。
【0021】
(4) 乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の感染リスクを、移動する人が乗降車できる位置ごとに評価するので、移動する人が実際に滞在する環境の二酸化炭素濃度および混雑度を正確に推定できるようになる。
【0022】
(5) 環境ごとに現在の二酸化炭素濃度および混雑度に基づいて将来の指定時刻の二酸化炭素濃度および混雑度を予測できるので、移動する人が一時的に滞在することになる環境の二酸化炭素濃度および混雑度の正確な予測が可能になる。
【0023】
(6) 出発地から目的地への各交通機関による移動を感染リスクの評価結果に基づいて案内する手段を更に具備したので、感染リスクの低い移動を案内できるようになる。
【0024】
(7) 案内する移動の運賃に対して感染リスクに基づく動的価格設定を適用するようにしたので、感染リスクがより高い移動にはより高い値付けを行えば、交通インフラ全体として三密が時間的、場所的に分散されるようになる。また、感染リスクがより低い移動により高い値付けを行えば、安全性に見合った運賃での移動を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る移動評価システムの機能ブロック図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る移動評価システムの機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係る移動評価システムの機能ブロック図である。
【
図4】本発明の第4実施形態に係る移動評価システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る公共の交通機関を対象とした移動評価システムを含む移動案内システムの主要部の構成を示した機能ブロック図である。
【0027】
このようなシステムは、CPU,ROM,RAM,バス,インタフェース等を備えた汎用のコンピュータやサーバに各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいはアプリケーションの一部をハードウェア化またはソフトウェア化した専用機や単能機としても構成できる。
【0028】
本発明は、交通機関として列車、バス、タクシー、船舶、飛行機、陸空両用車、陸水両用車あるいはドローン(一人乗り・二人乗り・それ以上)等の各種移動体の利用を想定するが、ここでは列車による移動をウイルスや細菌への感染リスクを根拠に評価する場合を例にして説明する。
【0029】
また、本実施形態では交通機関により移動する人が滞在あるいは遭遇することで感染リスクが生じ得る環境として、特に「乗車前環境」、「乗車中環境」および「降車後環境」に注目し、各環境での感染リスクの可能性に基づいて各移動を評価する。
【0030】
乗車前環境とは、移動する人が各交通機関への乗車に備えて一時的に滞在する環境であり、列車であれば乗車駅のプラットホームや改札に至るコンコースが該当し、バスであれば乗車する停留所、航空機であれば出発ロビー、ドローンであれば離陸場所の各環境が該当する。
【0031】
乗車中環境とは、移動する人が乗車中に一時的に滞在する環境であり、各交通機関の車内環境が該当する。
【0032】
降車後環境とは、移動する人が各交通機関から降車した際に一時的に滞在する環境であり、列車であれば降車駅のプラットホームや改札に至るコンコースが該当し、バスであれば降車する停留所、航空機であれば到着ロビー、ドローンであれば着陸場所の各環境が該当する。
【0033】
各感染リスク環境には二酸化炭素濃度を計測するCO2センサ11および人の混雑度を計測する混雑度センサ12が設けられている。CO2センサ11は電柱に設置した通信用のリモートラジオヘッド(RRH)にその機能を追加することで実現できる。あるいはCO2センサ機能に外部との通信が可能な通信機能を付加し、各環境に設置しても良い。さらには移動する人が携帯するスマートフォン等のモバイル端末がCO2センサ機能を備える場合には当該機能を利用しても良い。
【0034】
前記混雑度センサ12としては光電センサを利用できる。混雑度は、光電センサの検知エリアを横切った人数をカウントし、カウント数を定員数や環境の広さで除することで求められる。あるいはカメラ画像に基づいて人物を認識する方法を採用しても良い。さらには専用センサを設けることなく、移動する人が携帯するスマートフォン等のモバイル端末から位置情報を収集することで単位面積当たりの人数を計算し、これにモバイル端末の携帯率等を反映して混雑度を計算する方法を採用しても良い。
【0035】
本実施形態では、乗車駅および降車駅のプラットホーム等ならびに各列車内にセンサ11,12が設けられている。各センサ11,12の検知結果はネットワーク経由で移動評価サーバ1へ定期的に送信される。
【0036】
移動評価サーバ1において、CO2濃度推定部101は各CO2センサ11の検知信号に基づいて、その設置場所ごとに各環境のCO2濃度を推定する。混雑度推定部102は混雑度センサ12の検知信号に基づいて、その設置場所ごとに各環境の混雑度を推定する。感染リスク推定部103は前記CO2濃度および混雑度の推定結果に基づいて、各交通機関を利用した移動での感染リスクを推定する。
【0037】
履歴データベース(DB)3には、乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の各CO2濃度および混雑度の過去の推定結果が履歴情報として、時間的および場所的な識別情報と紐付いて蓄積されている。例えば、各駅の乗車前環境および乗車環境の履歴情報は駅名およびカレンダ情報(時間帯,月,日,曜日,平日/休日の別等)と紐付いて蓄積されている。乗車中環境の履歴情報は列車の走行位置およびカレンダ情報と紐付いて蓄積されている。
【0038】
前記感染リスク推定部103は、履歴DB3に蓄積された履歴情報に基づいて予測モデルM1,M2を構築して定期的に更新する。予測モデルM1はCO2濃度の履歴情報を適宜に学習することで時間的、場所的の少なくとも一方で分散する環境ごとに現在のCO2濃度から将来のCO2濃度を予測する予測モデルであり、現在のCO2濃度の推定結果を当該予測モデルM1に適用することで指定場所の指定時刻におけるCO2濃度を予測する。
【0039】
予測モデルM2は、混雑度の履歴情報を適宜に学習することで時間的、場所的の少なくとも一方で分散する環境ごとに現在の混雑度から将来の混雑度を予測する予測モデルを予め構築し、現在の混雑度の推定結果を当該予測モデルM2に適用することで指定場所の指定時刻における混雑度を予測する。
【0040】
前記感染リスク推定部103は、乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の環境ごとにCO2濃度が高いほど、また混雑度が高いほど感染リスク評価値V1,V2,V3がより高くなる評価関数f1,f2,f3を、例えば次式(1)-(3)のように定義する。
【0041】
V1(乗車前環境)=f1 (CO2濃度,混雑度) (1)
V2(乗車中環境)=f2 (CO2濃度,混雑度) (2)
V3(降車後環境)=f3 (CO2濃度,混雑度) (3)
【0042】
そして、各評価関数f1,f2,f3にCO2濃度および混雑度の各予測結果を適用することで各環境の感染リスク評価値V1,V2,V3を求め、これらの重み付け和、関数計算またはマップ計算等により各移動の感染リスク評価値Vを求める。
【0043】
例えば、a駅を時刻t1に出発してb駅へ時刻t2に到着する移動の感染リスク評価であれば、現在時刻t0におけるa駅(乗車前環境)のCO2濃度および混雑度の各推定結果を指定時刻t1と共に予測モデルM1,M2にそれぞれ適用することで、将来の時刻t1におけるa駅のCO2濃度および混雑度が予測される。
【0044】
また、現在時刻t0におけるb駅(降車後環境)のCO2濃度および混雑度の各推定結果を指定時刻t2と共に予測モデルM1,M2にそれぞれ適用することで、将来の時刻t2におけるb駅のCO2濃度および混雑度が予測される。
【0045】
さらに、現在時刻t0における駅ab間(乗車中環境)のCO2濃度および混雑度の各推定結果を指定時刻t1-t2と共に予測モデルM1,M2にそれぞれ適用することで、将来の時刻t1-t2における列車内のCO2濃度および混雑度が予測される。
【0046】
そして、前記乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の各CO2濃度および混雑度に関する予測結果結果に基づいて、a駅を時刻t1に出発してb駅へ時刻t2に到着する移動の感染リスクが評価される。
【0047】
移動案内サーバ2は、サービスの利用者がスマートフォンやPCを用いて、あるいは6G通信で出現する五感を用いたUIや現在開発中のBrain-Machine-Interfaceを用いて、出発地、目的地、出発時刻または到着時刻、経由地等の移動条件を入力、あるいはBMI経由でBrainから直接入力すると、当該移動条件に合致し、利便性のより高い移動を応答する。
【0048】
ここで、従来の移動案内サービスは交通費、所要時間、乗換回数等の利便性を指標に複数の好ましい移動方法を応答したが、本実施形態では移動評価サーバ1から取得した各移動の感染リスク評価値を更に考慮し、感染リスクのより低い移動を応答する。
【0049】
例えば、拠点Aから拠点Bを経由して拠点Cへ向かう移動案内において、交通費、所要時間、乗換回数等の利便性指標で最も評価の高い移動が、拠点AB間をJR線、拠点BC間をメトロ線とするものであっても、拠点BC間のメトロ線の感染リスクが高い場合には拠点BC間を私鉄線とする別の移動を最優先に応答する。
【0050】
本実施形態によれば、感染リスクを評価する指標として、混雑度に加えてCO2濃度を採用するので、混雑度が低くてもCO2濃度が高い環境を換気が不十分な高リスク環境と評価できる一方、混雑度が高くてもCO2濃度が低い環境を換気が十分な低リスク環境と評価できる。したがって、交通機関による移動を実環境の感染リスクに基づいて正確に評価できるようになる。
【0051】
また、本実施形態によれば時間的および場所的に分散した複数の環境のCO2濃度および混雑度を推定するので、時間的および場所的に分散した複数の環境に滞在することになる移動の感染リスクを正確に評価できるようになる。
【0052】
さらに、本実施形態では乗車中環境に加えて乗車前環境や降車後環境の感染リスクも評価するので、ベットタウンの通勤時間帯のように下り列車の混雑度が上り列車に比べて十分に低いために下り列車での移動が低リスクと評価され得るケースでも、出発駅や到着駅が混雑していれば高リスクと評価されるので適切なリスク管理が可能になる。
【0053】
さらに、移動の感染リスクを移動案内に適用すれば、乗換を含む交通機関による移動を交通費や所要時間といった利便性のみならず感染リスクも考慮して評価できるので、各利用者に対して安全で利便性の高い移動を案内できるようになる。
【0054】
図2は、本発明の第2実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、第1実施形態と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0055】
第1実施形態では感染リスクの高い環境として乗車前環境、乗車中環境および降車後環境に注目したが、本実施形態では更に、移動する人が交通機関に乗降車できる位置に注目し、乗車前環境、乗車中環境および降車後環境を人が乗降車できる位置に対応した狭い環境に細分化して感染リスクを評価できるようにした。
【0056】
乗降車できる位置とは、交通機関に人が乗車したり降車したりできる具体的な位置であり、列車であれば乗降車する車両や乗降車するドアである。タクシーやドローンであれば、乗車場所(所定のタクシー乗場や任意の交差点、建物、ランドマーク等の場所や降車場所である。
【0057】
本実施形態を列車に適用する場合、
図2に示したように、CO2センサ11および混雑度センサ12を車両ごとに設け、更にプラットホームの各ドアの対応位置ごとに設ければ良い。タクシーへ適用する場合は、乗降場所となることが多い交差点、タクシー乗り場、建物、ランドマーク等にCO2センサ11および混雑度センサ12を設ければ良い。
【0058】
前記感染リスク推定部103は、前記乗車前環境、乗車中環境および降車後環境の前記乗降車できる位置に対応した狭い環境ごとに感染リスクを推定する。前記移動評価サーバ1は、乗降車できる位置ごとに移動の感染リスクを評価する。
【0059】
本実施形態によれば、移動する人が乗降車する具体的な位置ごとに感染リスクを評価できるので、タクシーのように任意の位置で乗り降りできる交通機関にあっては、所望の乗降車位置の感染リスクが高いと推定される場合には少し離れた場所で乗り降りすることで、多少の不便と引き換えに感染リスクを低下させることができるようになる。
【0060】
また、列車では階段や改札口までの距離に応じて、車両やドアごとにCO2濃度や混雑度が大きく異なることがあるが、このように乗降車位置に応じて感染リスクが大きく異なる交通機関を利用する場合も、感染リスクのより低い具体的な乗降車位置を案内できるようになる。
【0061】
図3は、本発明の第3実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、上記の各実施形態と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0062】
本実施形態は、前記移動評価サーバ1に移動案内サーバ2の機能を実現する移動案内部104を実装し、移動評価のみならず当該移動評価の結果に基づく移動案内まで単独で実現する移動評価サーバ4を構成した点に特徴がある。
【0063】
本実施形態によれば、移動評価サーバ4はサービスの利用者が入力した出発地、目的地、出発時刻または到着時刻、経由地等の移動条件に基づいて、移動する人の感染リスクがより低く、利便性のより高い移動案内を単独で提供できるようになる。
【0064】
図4は、本発明の第4実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、上記の各実施形態と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0065】
上記の各実施形態では、固定的な運賃体系のもとで感染リスクがより低く、利便性のより高い移動を高く評価して利用者に案内するものとして説明したが、本実施形態では動的価格設定部105を設け、感染リスクの評価値に基づく動的価格設定(ダイナミックプライシング)を導入した点に特徴がある。
【0066】
動的価格設定部105は、サービスの利用者に案内する移動について、感染リスクがより高い移動にはより高い値付けを行う。これにより交通インフラ全体として三密が時間的、場所的に分散されるようになる。
【0067】
あるいは上記とは正反対に、感染リスクがより低い移動により高い値付けを行うようにしても良い。これにより安全性に見合った運賃での移動を提供できるようになる。
【符号の説明】
【0068】
1,4…移動評価サーバ,2…移動案内サーバ,3…履歴DB,11…CO2センサ,12…混雑度センサ,101…CO2濃度推定部,102…混雑度推定部,103…感染リスク推定部,104…移動案内部,105…動的価格設定部