(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20240528BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20240528BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240528BHJP
F16J 15/54 20060101ALI20240528BHJP
F16N 5/00 20060101ALI20240528BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16C33/78 Z
F16J15/54
F16N5/00
F16C43/04
(21)【出願番号】P 2020219022
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2020040331
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
(72)【発明者】
【氏名】里舘 貴之
(72)【発明者】
【氏名】安保 佳祐
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129872(JP,A)
【文献】特開2013-204679(JP,A)
【文献】特開2017-145918(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181752(WO,A1)
【文献】特開2010-230174(JP,A)
【文献】米国特許第06164832(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/16
F16C 33/78
F16J 15/54
F16N 5/00
F16C 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、
前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、
を備え、
前記グリースは、
前記内輪および前記外輪の共通軸線を中心に円周状に延び、前記内輪および前記外輪のうち一方に接触した第1環状部と、
前記共通軸線を中心に円周状に延び、前記第1環状部に前記軸方向の外側で連なるとともに前記シール部材に接触した第2環状部と、
を有する、
転がり軸受。
【請求項2】
前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、固定輪として設けられている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、前記外輪である、
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記シール部材は、前記内輪および前記外輪のうち前記一方に装着されている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記第2環状部は、前記第1環状部に対し、前記共通軸線を中心とする径方向で前記内輪および前記外輪のうち前記一方とは反対側に配置されている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記第1環状部は、一方の周端部から前記共通軸線を中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部に至ることで、前記軸方向から見て互いに重なる第1重畳部を有し、
前記第2環状部は、一方の周端部から前記共通軸線を中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部に至ることで、前記軸方向から見て互いに重なる第2重畳部を有し、
前記第2重畳部は、前記第1重畳部に対して前記共通軸線回りの周方向にずれた位置に配置されている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記転動体に対して前記軸方向で前記グリースとは反対側に配置された他のグリースをさらに備える、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項8】
回転可能に配置された回転体と、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記回転体と前記支持体との間に介在する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の転がり軸受と、
を備える回転機器。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法であって、
第1塗布位置で第1ノズルからグリースを吐出して前記第1環状部を形成する第1塗布工程と、
前記第1塗布位置とは異なる第2塗布位置で前記第1ノズルとは異なる第2ノズルからグリースを吐出して前記第2環状部を形成する第2塗布工程と、
を備える転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受として一対の軌道輪(内輪および外輪)の間にグリースを保持するものがある。この種の転がり軸受においては、グリースの抵抗がトルクを増大させる要因となる場合がある。ところで、転がり軸受においては、搭載される回転機器の省電力化を目的として低トルク化が望まれる。特にファンモータ等の各種モータで使用される小型の転がり軸受においては、低トルク化の要望が強い。
【0003】
そこで転がり軸受のトルクを低減するために、転がり軸受の固定輪(多くの場合で外輪)における軸方向の端部や、この端部側に配置されるシール部材にグリースを塗布し、転動体(玉)および転動体を保持する保持器に接触するグリースの量の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の転がり軸受では、グリースは、外輪の転動体に接触する軌道面を避けた内周面に付着し、かつ、内輪の外周面に接触しないように、外輪の内周面側に偏って円環状に充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、グリースを軌道輪に円環状に塗布する方法として、ノズルからグリースを吐出しながらノズルと軌道輪とを相対回転させる方法がある。しかし、グリースを円環状に1周にわたって塗布すると、塗布直後からグリースが自重により徐々に崩れる場合がある。この場合、グリースが転動体および保持器に必要以上に接触し、転がり軸受のトルクが所望のトルクよりも大きくなる可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、低トルク化を達成できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の転がり軸受は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記グリースは、前記内輪および前記外輪の共通軸線を中心に円周状に延び、前記内輪および前記外輪のうち一方に接触した第1環状部と、前記共通軸線を中心に円周状に延び、前記第1環状部に前記軸方向の外側で連なるとともに前記シール部材に接触した第2環状部と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、所望の量のグリースを充填するにあたり、単一の環状部が形成されるようにグリースを塗布した場合と比較して、第1環状部および第2環状部が形成される分、第1環状部の体積を小さくできる。このため、グリースを塗布する際に第1環状部を第2環状部よりも先に形成することで、第1環状部の自重による崩れを生じ難くすることができる。また、第2環状部を設けることで、第2環状部がシール部材に支持されるとともに、第1環状部が内輪および外輪の一方だけでなく、第2環状部を介してシール部材にも支持される。このため、グリースが全体として自重により塗布直後の形状から崩れにくくなる。よって、グリースが転動体および保持器に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0009】
上記の転がり軸受において、前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、固定輪として設けられていてもよい。
【0010】
本発明によれば、グリースが固定輪に接触するので、転がり軸受の回転時にグリースに遠心力が作用することを抑制でき、グリースが塗布直後の形状から崩れることを抑制できる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0011】
上記の転がり軸受において、前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、前記外輪であってもよい。
【0012】
本発明によれば、転がり軸受の回転時にグリースが回転してグリースに遠心力が作用しても、外輪によってグリースの径方向の外側への変位が規制されるので、グリースを塗布直後の形状に保つことができる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0013】
上記の転がり軸受において、前記シール部材は、前記内輪および前記外輪のうち前記一方に装着されていてもよい。
【0014】
本発明によれば、内輪および外輪の一方、並びにシール部材が相対回転しないように設けられるので、両方に接触するグリースが攪拌されることを抑制できる。よって、グリースを塗布直後の形状に保つことができる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0015】
上記の転がり軸受において、前記第2環状部は、前記第1環状部に対し、前記共通軸線を中心とする径方向で前記内輪および前記外輪のうち前記一方とは反対側に配置されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、第1環状部および第2環状部が軸方向に並ぶ構成と比較して、第2環状部に対する径方向で内輪および外輪のうち一方側に第1環状部を配置するスペースが設けられ、第1環状部を軸方向のより外側に配置することができる。これにより、グリースが転動体および保持器に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0017】
上記の転がり軸受において、前記第1環状部は、一方の周端部から前記共通軸線を中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部に至ることで、前記軸方向から見て互いに重なる第1重畳部を有し、前記第2環状部は、一方の周端部から前記共通軸線を中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部に至ることで、前記軸方向から見て互いに重なる第2重畳部を有し、前記第2重畳部は、前記第1重畳部に対して前記共通軸線回りの周方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0018】
ここで、第1環状部の横断面の断面積は第1重畳部において他の部分よりも大きくなり、第2環状部の横断面の断面積は第2重畳部において他の部分よりも大きくなる。仮に第1重畳部および第2重畳部が周方向で同じ位置に配置されていると、第1重畳部および第2重畳部が重なる位置でグリースが広がりやすくなる。本発明によれば、第1重畳部および第2重畳部が互いに周方向にずれた位置に配置されるので、グリースが軸方向に広がって転動体および保持器に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0019】
上記の転がり軸受において、前記転動体に対して前記軸方向で前記グリースとは反対側に配置された他のグリースをさらに備えていてもよい。
【0020】
本発明によれば、他のグリースが第1環状部および第2環状部に干渉してグリースが型崩れすることを避けつつ、他のグリースによって軸受に配置されるグリースの総量を増やすことができる。したがって、長寿命化が図られた軸受を提供できる。
【0021】
本発明の回転機器は、回転可能に配置された回転体と、前記回転体を回転可能に支持する支持体と、前記回転体と前記支持体との間に介在する上記の転がり軸受と、を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、低トルク化された転がり軸受を備えるので、支持体に対する回転体の回転抵抗を低減でき、回転機器の省電力化を達成することができる。
【0023】
本発明の転がり軸受の製造方法は、上記の転がり軸受の製造方法であって、第1塗布位置で第1ノズルからグリースを吐出して前記第1環状部を形成する第1塗布工程と、前記第1塗布位置とは異なる第2塗布位置で前記第1ノズルとは異なる第2ノズルからグリースを吐出して前記第2環状部を形成する第2塗布工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、各塗布位置におけるサイクルタイムを短縮できる。よって、軸受の製造効率を向上させることができる。また、軸受を回転させつつグリースを環状に塗布する製造方法において、ノズルを軸受に対して径方向に駆動する機構が不要となるので、グリースの塗布装置の構造を簡素化できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低トルク化を達成できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図3】第1実施形態に係るグリースの塗布方法を示すフローチャートである。
【
図4】グリースの塗布方法を説明する平面図である。
【
図5】グリースの塗布方法を説明する平面図である。
【
図7】グリースの塗布方法を説明する平面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線における断面図である。
【
図9】第2実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図10】第3実施形態の転がり軸受の断面図である。
【
図11】第4実施形態の転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0028】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態について
図1から
図8を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。なお
図1では、転がり軸受1の内部構成を見易くするために後述するシール部材50および充填グリース60それぞれの一部の図示を省略している。また
図2では、転がり軸受1が装着される部材を仮想線で示している。
【0029】
図1および
図2に示すように、転がり軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、充填グリース60と、を備えた玉軸受である。転がり軸受1は、ファンモータ等の回転機器2に設けられている。回転機器2は、共通軸線Oを中心に回転可能に形成されたシャフト3(回転体)と、固定的に設定されてシャフト3を回転可能に支持する筐体4(支持体)と、を備える。転がり軸受1は、シャフト3と筐体4との間に介在している。なお、以下では転がり軸受を単に軸受という場合がある。また、本実施形態では、軸受1に充填される前の状態のグリースを単にグリースと称し、グリースを塗布することにより軸受1に充填された状態のグリースを充填グリース60と称する。
【0030】
内輪10および外輪20は、それぞれの中心軸線が共通軸線O上に配置されるように、互いに同軸に配置されている。本実施形態では、共通軸線Oの延びる方向を軸方向といい、共通軸線Oに直交して共通軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、共通軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0031】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、シャフト3に外挿されるとともに、シャフト3に固定される。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、筐体4の凹部(または貫通孔)に嵌入されるとともに、筐体4に固定される。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。
【0032】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、外輪20は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。外輪20は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされた外輪本体21と、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出した突出部22と、を有する。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0033】
突出部22の内周面には、径方向の外側に向かって窪む外輪転動面23が形成されている。外輪転動面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、突出部22の内周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪転動面23は、突出部22の内周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の内周面のうち外輪転動面23を除く部分は、一定の内径で軸方向に延びている。突出部22は、軸方向を向いた一対の端面22aを備える。各端面22aは、径方向および周方向の双方向に平行に延びている。
【0034】
外輪本体21は、突出部22の各端面22aの外周縁から外輪20の開口縁まで延びる一対の内周面21aを有する。各内周面21aにおける軸方向の内側に位置する部分は、軸方向の外側に位置する部分よりも径方向の外側に位置している。
【0035】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、内輪10は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪転動面11が形成されている。内輪転動面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪転動面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成され、外輪転動面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の内周面のうち内輪転動面11を除く部分は、一定の外径で軸方向に延びている。
【0036】
複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。複数の転動体30は、外輪転動面23と内輪転動面11との間に配置され、外輪転動面23および内輪転動面11によって転動可能に支持される。
【0037】
保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、共通軸線Oを中心として配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して軸方向の他方に配置された本体部41と、本体部41から軸方向の一方に立ち上がる複数組の一対の爪部42と、を備える。一対の爪部42は、1つの転動体30を回転可能に保持する。一対の爪部42は、本体部41から先端に向かって互いの距離が接近するように円弧状に立ち上がっている。保持器40は、内輪10および外輪20に干渉しないように、内輪10および外輪20に対して隙間をあけて配置されている。本実施形態では、保持器40の全体は、外輪20の突出部22の一対の端面22aよりも軸方向の内側に位置している。
【0038】
シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、共通軸線Oを中心として配置されている。シール部材50は、外輪20に装着されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から重なる基部51と、基部51の内周縁から軸方向の外側に延びた段差部52と、段差部52における軸方向外側の端縁から径方向の内側に張り出したカバー部53と、基部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びた係止部54と、を備える。シール部材50は、平面視で少なくとも転動体30の中心を跨ぐように径方向に延びている。本実施形態では、カバー部53は、平面視で転動体30の中心に重なっている。ただし、段差部52が基部51の内周縁から軸方向の外側かつ径方向の内側に延びて、平面視で転動体30の中心に重なっていてもよい。カバー部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定されている。
【0039】
充填グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。充填グリース60は、内輪10と外輪20との間の環状の空間のうち、転動体30に対する軸方向の片側のみに配置されている。本実施形態では、充填グリース60は、転動体30に対する軸方向の一方に配置されている。つまり、充填グリース60は、軸方向で転動体30を挟んで保持器40の本体部41とは反対側に配置されている。充填グリース60は、平面視で円環状に配置され、共通軸線Oと同軸に配置されている。充填グリース60は、固定輪として設けられた外輪20に接触しているとともに、回転輪として設けられた内輪10から離間している。また、充填グリース60は、転動体30および保持器40から離間している。ただし、充填グリース60は、転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよい。
【0040】
充填グリース60は、外輪20に接触した第1環状部61と、第1環状部61に連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部62と、を備える。第1環状部61および第2環状部62は、グリースが2回に分けて塗布されることで形成される。第1環状部61は、共通軸線Oを中心に円周状に延びている。第1環状部61は、外輪20の突出部22の内周面のうち外輪転動面23よりも軸方向の外側の箇所に接触している。第2環状部62は、共通軸線Oを中心に円周状に延びている。第2環状部62は、軌道輪のうち第1環状部61が接触する外輪20から離間している。第2環状部62は、第1環状部61に対し、径方向で外輪20とは反対側(すなわち径方向の内側)に配置されている。具体的には、平面視で第2環状部62の外周縁が第1環状部61の外周縁よりも径方向の内側に位置し、かつ第2環状部62の内周縁が第1環状部61の内周縁よりも径方向の内側に位置している。第2環状部62は、第1環状部61に軸方向の外側で連なって一体化している。第2環状部62は、第1環状部61の全周に亘って連なっている。第2環状部62は、シール部材50のうち軸方向の内側を向く面に接触することで、シール部材50に支持されている。本実施形態では、第2環状部62は、シール部材50のカバー部53の内面に接触している。
【0041】
第1環状部61および第2環状部62のそれぞれは、ノズルから吐出したグリースを円周状に360°以上塗布することにより形成されている。第1環状部61および第2環状部62のそれぞれは、平面視で間欠部が形成されないように全周に亘って連続的に延びている。第1環状部61は、一方の周端部61aから共通軸線Oを中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部61bに至っている。これにより、第1環状部61は、一方の周端部61aおよび他方の周端部61bを含み平面視で互いに重なる第1重畳部63を有する。第1重畳部63の周方向における長さは、十分に小さいことが望ましい。例えば、第1重畳部63の周方向における長さは、平面視で第1環状部61の幅と同程度に設定される。第2環状部62は、一方の周端部62aから共通軸線Oを中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部62bに至っている。これにより、第2環状部62は、一方の周端部62aおよび他方の周端部62bを含み平面視で互いに重なる第2重畳部64を有する。第2重畳部64の周方向における長さは、十分に小さいことが望ましい。例えば、第2重畳部64の周方向における長さは、平面視で第2環状部62の幅と同程度に設定される。第2重畳部64の少なくとも一部は、第1重畳部63に対して周方向で同じ位置に配置され、第1重畳部63に連なっている。
【0042】
次に、本実施形態の軸受1の製造方法として、グリースの塗布方法について説明する。
図3は、第1実施形態に係るグリースの塗布方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態のグリースの塗布方法は、第1塗布工程S10と、第2塗布工程S20と、を備える。
【0043】
図4、
図5および
図7は、グリースの塗布方法を説明する平面図である。
図6は、
図5のVI-VI線における断面図である。
図8は、
図7のVIII-VIII線における断面図である。
図4に示すように、第1塗布工程S10は、シール部材50が外輪20に取り付けられていない状態で行う。すなわち、内輪10と外輪20との間の環状の空間が軸方向に開放され、転動体30および保持器40が露出した状態でグリースが塗布される。
【0044】
図5および
図6に示すように、第1塗布工程S10では、図示しないノズルを外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルからグリースG1を吐出する。この際、吐出したグリースG1が外輪20の突出部22の内周面における軸方向の端部に接触するようにノズルの位置を調整する。ノズルを外輪20に相対回転させながらグリースG1を吐出するので、グリースG1は円弧状に延在する。外輪20に付着したグリースG1は、吐出開始点に相当する始端71から360°以上延び、吐出終了点に相当する終端72に至る。これにより、第1重畳部63を有する第1環状部61が形成される。
【0045】
図7および
図8に示すように、第2塗布工程S20では、ノズルを第1塗布工程S10における位置からずらした上で、再度ノズルを外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルからグリースG2を吐出する。この際、吐出したグリースG2が第1環状部61に軸方向の外側かつ径方向の内側から接触し、塗布されたグリースG2が第1環状部61よりも軸方向の外側に突出するようにノズルの位置を調整する。第1環状部61に接触したグリースG2は、吐出開始点に相当する始端73から360°以上延び、吐出終了点に相当する終端74に至る。この際、第2塗布工程S20におけるグリースG2の始端73は、第1塗布工程S10におけるグリースG1の始端71と周方向で同じ位置に位置している。また、第2塗布工程S20におけるグリースG2の終端74は、第1塗布工程S10におけるグリースG1の終端72と周方向で同じ位置に位置している。これにより、第2重畳部64を有する第2環状部62が形成される。
【0046】
以上により、グリースの塗布が完了する。その後、内輪10と外輪20との間の環状の空間にシール部材50を軸方向の外側から挿入し、シール部材50を外輪20に装着する。この際、第2塗布工程S20で塗布されたグリースがシール部材50のカバー部53に接触し、
図2に示す状態となる。
【0047】
上述したように、第1環状部61および第2環状部62は、互いに異なる工程で吐出されたグリースにより形成されている。このため、第1環状部61の横断面の輪郭のうち外輪20または第2環状部62に接触していない部分は、第1環状部61に重なる位置を中心として円弧状または楕円弧状に延びている。また、第2環状部62の横断面の輪郭のうちシール部材50または第1環状部61に接触していない部分は、第2環状部62に重なる位置を中心として円弧状または楕円弧状に延びている。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態の軸受1は、共通軸線Oを中心に円周状に延び、外輪20に接触した第1環状部61と、共通軸線Oを中心に円周状に延び、第1環状部61に軸方向の外側で連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部62と、を有する充填グリース60を備える。この構成によれば、所望の量のグリースを充填するにあたり、単一の環状部が形成されるようにグリースを塗布した場合と比較して、第1環状部61および第2環状部62が形成される分、第1環状部61の体積を小さくできる。このため、グリースを塗布する際に第1環状部61を第2環状部62よりも先に形成することで、第1環状部61の自重による崩れを生じ難くすることができる。また、第2環状部62を設けることで、第2環状部62がシール部材50に支持されるとともに、第1環状部61が外輪20だけでなく第2環状部62を介してシール部材50にも支持される。このため、充填グリース60が全体として自重により塗布直後の形状から崩れにくくなる。よって、充填グリース60が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1の低トルク化を達成できる。
【0049】
また、充填グリース60が接触する軌道輪である外輪20は固定輪として設けられている。この構成によれば、充填グリース60が固定輪に接触するので、軸受1の回転時に充填グリース60に遠心力が作用することを抑制でき、充填グリース60が塗布直後の形状から崩れることを抑制できる。したがって、軸受1の低トルク化を達成できる。
【0050】
シール部材50は、充填グリース60が接触する軌道輪である外輪20に装着されている。この構成によれば、外輪20およびシール部材50が相対回転しないように設けられるので、両方に接触する充填グリース60が攪拌されることを抑制できる。よって、充填グリース60を塗布直後の形状に保つことができる。したがって、軸受1の低トルク化を達成できる。
【0051】
第2環状部62は、第1環状部61に対し、径方向で外輪20とは反対側に配置されている。この構成によれば、第1環状部および第2環状部が軸方向に並ぶ構成と比較して、第2環状部62の径方向外側に第1環状部61を配置するスペースが設けられ、第1環状部61を軸方向のより外側に配置することができる。これにより、充填グリース60が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1の低トルク化を達成できる。
【0052】
ここで、本実施形態ではシール部材50の外周縁が外輪20の内周面に係止されている。従来のように単一の環状部が形成されるようにグリースが配置された構成において、グリースが自重により崩れて転動体および保持器に必要以上に接触することを避けるために、仮にグリースを転動体から軸方向の外側により離れた位置に配置すると、グリースがシール部材に押し潰されてシール部材の外周縁と外輪との隙間から漏出する可能性がある。本実施形態によれば、第1環状部61よりも軸方向の外側に位置する第2環状部62が第1環状部61を挟んでシール部材50の外周縁とは反対側に配置されるので、第2環状部62がシール部材50の外周縁と外輪20との隙間から漏出することを抑制できる。したがって、軸受1のグリースの漏出を抑制できる。
【0053】
そして、本実施形態の回転機器2は、上述した軸受1を備えるので、筐体4に対するシャフト3の回転抵抗を低減でき、回転機器2の省電力化を達成できる。
【0054】
なお、本実施形態の軸受1の製造方法において、第1塗布工程S10および第2塗布工程S20でグリースを吐出するノズルを共用しているが、この方法に限定されない。第1塗布工程S10で用いる第1ノズルと、第2塗布工程S20で用いる第2ノズルとをそれぞれ用意してもよい。この場合、第1塗布工程S10および第2塗布工程S20を互いに異なる塗布位置で行うことが望ましい。すなわち、第1塗布工程S10を第1塗布位置で行い、第1塗布工程S10を終えた軸受を第2塗布位置に搬送し、第2塗布位置で第2塗布工程S20を行う。また、第2塗布工程S20が行われている際に、第1塗布位置では次の軸受に第1塗布工程S10を行ってもよい。この方法によれば、各塗布位置におけるサイクルタイムを短縮できる。よって、軸受1の製造効率を向上させることができる。また、軸受を回転させつつグリースを環状に塗布する製造方法において、ノズルを軸受に対して径方向に駆動する機構が不要となるので、グリースの塗布装置の構造を簡素化できる。
【0055】
[第2実施形態]
本発明に係る第2実施形態について
図9を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0056】
図9は、第2実施形態に係る転がり軸受の平面図である。なお
図9では、軸受1Aの内部構成を見易くするためにシール部材50の図示を省略している。
図1に示す第1実施形態では、充填グリース60の第2重畳部64は、第1重畳部63に対して周方向で同じ位置に配置されている。これに対して
図9に示す第2実施形態では、充填グリース60の第2重畳部64は、第1重畳部63に対して周方向にずれた位置に配置されている。第2重畳部64は、第1実施形態と同様の第2塗布工程において、グリースの始点および終点を第1重畳部63に対して周方向にずらすことにより形成されている。
【0057】
ここで、第1環状部61の横断面の断面積は、第1重畳部63において他の部分よりも大きくなる。また、第2環状部62の横断面の断面積は、第2重畳部64において他の部分よりも大きくなる。仮に第1重畳部63および第2重畳部64が周方向で同じ位置に配置されていると、第1重畳部63および第2重畳部64が重なる位置で充填グリース60が広がりやすくなる。本実施形態によれば、第1重畳部63および第2重畳部64が互いに周方向にずれた位置に配置されるので、充填グリース60が軸方向に広がって転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Aの低トルク化を達成できる。
【0058】
[第3実施形態]
本発明に係る第3実施形態について
図10を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0059】
図10は、第3実施形態の転がり軸受の断面図である。
図10に示す第3実施形態では、軸受1Bは、充填グリース60に加えて、他のグリース65を備える。他のグリース65は、転動体30に対して軸方向で充填グリース60とは反対側に配置されている。つまり、他のグリース65は、転動体30に対して軸方向で保持器40の本体部41と同じ側に配置されている。他のグリース65は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。他のグリース65は、内輪10と外輪20との間の環状の空間に配置されている。他のグリース65は、内輪10および外輪20のうち充填グリース60の接触対象(本実施形態では外輪20)に接触している。他のグリース65は、充填グリース60と同様に、内輪10および外輪20の一方に接触し、他方から離間している。他のグリース65は、転動体30および保持器40から離間している。他のグリース65は、共通軸線Oを中心に円周状に延びている。他のグリース65は、外輪20の突出部22の内周面のうち外輪転動面23よりも軸方向の外側の箇所に接触している。
【0060】
ただし、他のグリースの構成は、上記構成に限定されない。他のグリースは、内輪10に接触し、かつ外輪20から離間していてもよい。また、他のグリースは、転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよい。さらに、他のグリースは、円周状に延びていなくてもよい。例えば、他のグリースは、円弧状に延びていてもよいし、周方向に沿って点状に配置されていてもよい。
【0061】
本実施形態によれば、他のグリース65が充填グリース60に干渉して充填グリース60が型崩れすることを避けつつ、他のグリース65によって軸受1Bに配置されるグリースの総量を増やすことができる。したがって、長寿命化が図られた軸受1Bを提供できる。
【0062】
[第4実施形態]
本発明に係る第4実施形態について
図11を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0063】
図11は、第4実施形態の転がり軸受の断面図である。
図11に示す第4実施形態では、軸受1Cは、充填グリース60に加えて、他のグリース66を備える。他のグリース66は、保持器40に支持されている。他のグリース66は、保持器40のうち、爪部42を挟んで転動体30とは反対側で、一対の爪部42の間のポケットに配置されている。図示の例では、他のグリース66は、保持器40の本体部41に接触しているが、爪部42に接触していてもよい。他のグリース66は、転動体30および充填グリース60から離間している。なお他のグリース66は、保持器40の全てのポケットに配置されていてもよいし、一部のポケットのみに配置されていてもよい。
【0064】
本実施形態によれば、他のグリース66によって軸受1Cに配置されるグリースの総量を増やすことができる。したがって、長寿命化が図られた軸受1Cを提供できる。
【0065】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。そして、充填グリース60が固定輪である外輪20に接触している。しかし、充填グリースが接触する軌道輪は、固定輪でなくてもよい。すなわち、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、充填グリースが固定輪である内輪に接触していてもよい。また、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、充填グリースが回転輪である外輪に接触していてもよい。この場合、充填グリースは外輪とともに回転するが、充填グリースに遠心力が作用しても外輪によってグリースの径方向の外側への変位が規制されるので、充填グリースを塗布直後の形状に保つことができる。ただし、充填グリースは、内輪および外輪のうちシール部材が取り付けられる軌道輪に接触していることが望ましい。
【0066】
また、上記実施形態では、第1塗布工程S10におけるグリースの吐出と、第2塗布工程S20におけるグリースの吐出と、を分けて行っている。しかしながら、第1塗布工程S10におけるグリースの吐出と、第2塗布工程S20におけるグリースの吐出と、を連続して行ってもよい。これによって充填グリースの第1環状部における一方の周端部と第2環状部における他方の周端部とが互いに連なっていてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、充填グリース60の第1環状部61および第2環状部62の体積比については特に限定されない。例えば第1環状部61および第2環状部62それぞれの横断面の断面積が互いに等しくてもよいし、互いに相違していてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、充填グリース60が2つの環状部61,62を有しているが、3つ以上の環状部を有していてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、回転機器としてファンモータを例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器としてハードディスクドライブのスピンドルモータおよびスイングアームの少なくともいずれか一方に本発明を適用してもよい。
【0070】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態の軸受1Aに、第3実施形態の他のグリース65、または第4実施形態の他のグリース66を配置してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B,1C…転がり軸受 2…回転機器 3…シャフト(回転体) 4…筐体(支持体) 10…内輪 20…外輪 30…転動体 50…シール部材 60…充填グリース(グリース) 61…第1環状部 62…第2環状部 63…第1重畳部 64…第2重畳部 65…他のグリース O…共通軸線