(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】物理的安定性の向上および抗腫瘍効果の増強のためのミセルにおけるオリゴ乳酸コンジュゲートのステレオコンプレックス
(51)【国際特許分類】
A61K 47/59 20170101AFI20240528BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240528BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K47/59
A61K9/10
A61K31/513
A61K31/706
A61K31/7068
A61P35/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2020553619
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(86)【国際出願番号】 US2019025174
(87)【国際公開番号】W WO2019195164
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505098661
【氏名又は名称】ウイスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クウォン グレン エス.
(72)【発明者】
【氏名】タム ユ トン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/158499(WO,A1)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2014年,Vol.468,pp.142-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスであって、
各コンジュゲート中の前記オリゴ-L-乳酸および前記オリゴ-D-乳酸が、
10個の乳酸サブユニットを含み、
前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合して
おり、
前記ゲムシタビン誘導体が、シタラビン、エムトリシタビン、ラミブジン、ザルシタビン、アザシチジン、またはトロキサシタビンである、
前記ステレオコンプレックス。
【請求項2】
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートの、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートに対するモル比が、約2:1~約1:2の範囲である、請求項1に記載のステレオコンプレックス。
【請求項3】
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートの、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートに対するモル比が、約1:1である、請求項2に記載のステレオコンプレックス。
【請求項4】
水およびミセルを含む組成物であって、
前記ミセルが、
請求項1に記載のステレオコンプレックス
を含む、前記組成物。
【請求項5】
水およびミセルを含む組成物であって、
前記ミセルが、
請求項3に記載のステレオコンプレックス
を含む、前記組成物。
【請求項6】
前記ステレオコンプレックスの負荷が、前記ミセルの質量に対して約1重量%~約50重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記ステレオコンプレックスの負荷が、前記ミセルの質量に対して約1重量%~約50重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ステレオコンプレックスの濃度が、前記組成物中の前記水の体積に対して約0.6mg/mL~約40mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
前記ステレオコンプレックスの濃度が、前記組成物中の前記水の体積に対して約0.6mg/mL~約40mg/mLである、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記ミセルが、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ乳酸(PEG-b-PLA)コポリマーをさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項11】
前記ミセルが、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ乳酸(PEG-b-PLA)コポリマーをさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約35,000g/molであるか、前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(乳酸)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約15,000g/molであるか、またはそれらの組み合わせである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量が、約1,500g/mol~約14,000g/molであるか、前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(乳酸)ブロックの分子量が、約1,500g/mol~約7,000g/molであるか、またはそれらの組み合わせである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約35,000g/molであるか、前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(乳酸)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約15,000g/molであるか、またはそれらの組み合わせである、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスを含むtブタノール/水溶液を凍結乾燥させること
を含み、
各コンジュゲート中の前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、
10個の乳酸サブユニットを含み、
前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合して
おり、
前記ゲムシタビン誘導体が、シタラビン、エムトリシタビン、ラミブジン、ザルシタビン、アザシチジン、またはトロキサシタビンである、
請求項4~14のいずれか一項に記載の組成物を作製する方法。
【請求項16】
有効阻害量または致死量の請求項4~14のいずれか一項に記載の組成物を含む、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性のがん細胞を阻害するまたは死滅させるための薬学的組成物であって、
前記ゲムシタビン誘導体が、シタラビン、エムトリシタビン、ラミブジン、ザルシタビン、アザシチジン、またはトロキサシタビンである、前記薬学的組成物。
【請求項17】
有効量の請求項4~14のいずれか一項に記載の組成物を含む、がんの治療を必要とする対象においてがんを治療するための薬学的組成物であって
、
前記がんが、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性であ
り、
前記ゲムシタビン誘導体が、シタラビン、エムトリシタビン、ラミブジン、ザルシタビン、アザシチジン、またはトロキサシタビンである、前記薬学的組成物。
【請求項18】
前記がんが、卵巣がん、白血病、血管肉腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、膵がん、胆管癌、脳がん、神経膠腫、腺癌、肝細胞腫、および胆道がんからなる群から選択される、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記がんが、卵巣がん、乳がん、肺がん、膵がん、胆管癌、および胆道がんからなる群から選択される、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記がんが、肺がんまたは膵がんである、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
局所的に、鼻腔内に、全身的に、静脈内に、皮下に、腹腔内に、皮内に、眼内に、イオン泳動的に、経粘膜的に、または筋肉内に投与される、請求項17に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月2日に出願された米国仮特許出願第62/651,365号の利益および優先権を主張するものであり、その全開示は、あらゆる全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の支援に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたAI101157の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本技術は、概して、ゲムシタビンおよびそのゲムシタビン誘導体のオリゴ乳酸コンジュゲートおよびコンジュゲートのステレオコンプレックスに関する。コンジュゲートおよびコンジュゲートのステレオコンプレックスは、ゲムシタビンの標準製剤と比較して、がんの治療において優れた血漿安定性および/または増強された効果を提供するために、合成ミセルに製剤化され得る。
【背景技術】
【0004】
背景
ゲムシタビンは、様々ながんの治療において有用な強力な化学療法剤であり、以下に示す構造を有する。
【0005】
ゲムシタビンは、天然に存在するピリミジン、シチジンを模倣するように設計された高度に水溶性のヌクレオシド類似体である。細胞内に入ると、ゲムシタビンは、一連の翻訳後修飾が活性であることを必要とする。しかしながら、ゲムシタビンは、血漿中で不活性代謝産物2’,2’-ジフルオロデオキシウリジンに急速に脱アミノ化され、尿を介して急速に排泄される。血液中の治療レベルを増加させるために、ゲムシタビンは、短い半減期を克服するために高用量(約1000mg/m2)での投与を必要とする。
【発明の概要】
【0006】
概要
本技術は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲート、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲート、ならびに4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスを提供する。コンジュゲートまたはステレオコンプレックスは、典型的には、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノ基のアミド結合により結合し得る、2~20個の乳酸サブユニットを含む。任意の実施形態では、ステレオコンプレックス中のコンジュゲートは、7~20個の乳酸サブユニットを含み得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、本技術は、オリゴ乳酸ならびに血漿安定性および抗がん効果の増強を有するゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体のコンジュゲートおよびステレオコンプレックスを提供する。本明細書に提供されるコンジュゲートは、がんの治療に有用である薬学的組成物および薬剤として、ミセルに製剤化することができる。また、薬学的製剤および薬剤の調製におけるコンジュゲートの使用も提供される。
[本発明1001]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートであって、前記コンジュゲート中の前記オリゴ-L-乳酸が、2~20個の乳酸サブユニットを含み、かつ、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合している、前記4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲート。
[本発明1002]
前記オリゴ-L-乳酸が、7~20個の乳酸サブユニットを含む、本発明1001の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲート。
[本発明1003]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートであって、前記コンジュゲート中の前記オリゴ-D-乳酸が、2~20個の乳酸サブユニットを含み、かつ、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合している、前記4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲート。
[本発明1004]
前記オリゴ-D-乳酸が、7~20個の乳酸サブユニットを含む、本発明1003の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲート。
[本発明1005]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスを含む組成物であって、
各コンジュゲート中の前記オリゴ-L-乳酸および前記オリゴ-D-乳酸が、7~20個の乳酸サブユニットを含み、
前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合している、
前記組成物。
[本発明1006]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートの、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートに対するモル比が、約2:1~約1:2の範囲である、本発明1005の組成物。
[本発明1007]
水およびミセルを含む組成物であって、
前記ミセルが、
本発明1005もしくは本発明1006のいずれかの組成物、
本発明1001もしくは本発明1002のゲムシタビンもしくはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲート、または
本発明1003もしくは本発明1004のゲムシタビンもしくはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲート
を含む、前記組成物。
[本発明1008]
前記ステレオコンプレックスの負荷が、前記ミセルの質量に対して約1重量%~約50重量%である、本発明1007の組成物。
[本発明1009]
前記ステレオコンプレックスの濃度が、前記組成物中の前記水の体積に対して約0.6mg/mL~約40mg/mLである、本発明1007の組成物。
[本発明1010]
ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ乳酸(PEG-b-PLA)コポリマーをさらに含む、本発明1005~1009のいずれかの組成物。
[本発明1011]
前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約35,000g/molであるか、前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(乳酸)ブロックの分子量が、約1,000g/mol~約15,000g/molであるか、またはそれらの組み合わせである、本発明1010の組成物。
[本発明1012]
前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量が、約1,500g/mol~約14,000g/molであるか、前記PEG-b-PLAコポリマーのポリ(乳酸)ブロックの分子量が、約1,500g/mol~約7,000g/molであるか、またはそれらの組み合わせである、本発明1010または本発明1011の組成物。
[本発明1013]
本発明1001~1004のいずれかの、ゲムシタビンもしくはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲート、またはゲムシタビンもしくはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートを作製する方法であって、
遊離4-アミノ基を有するゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体を、カップリング剤、およびヒドロキシル基を有するオリゴ-L-乳酸またはヒドロキシル基を有するオリゴ-D-乳酸と接触させることを含み、
前記オリゴ-L-乳酸および前記オリゴ-D-乳酸が、2~20個の乳酸サブユニットを含む、
前記方法。
[本発明1014]
前記ヒドロキシル基が、以前は保護されているヒドロキシル基であった、本発明1013の方法。
[本発明1015]
前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、7~20個の乳酸サブユニットを含む、本発明1013の方法。
[本発明1016]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスを含む第1の組成物のtブタノール/水溶液を凍結乾燥させること
を含み、
各コンジュゲート中の前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、2~20個の乳酸サブユニットを含み、
前記オリゴ-L-乳酸または前記オリゴ-D-乳酸が、アミド結合によって前記ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合している、
本発明1005~1012のいずれかの組成物を作製する方法。
[本発明1017]
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性のがん細胞を阻害するまたは死滅させる方法であって、前記がん細胞を、有効阻害量または致死量の本発明1005~1012のいずれかの組成物と接触させることを含む、前記方法。
[本発明1018]
前記接触が、インビトロで行われる、本発明1017の方法。
[本発明1019]
がんの治療を必要とする対象においてがんを治療する方法であって、有効量の本発明1005~1012のいずれかの組成物を前記対象に投与することを含み、前記がんが、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性である、前記方法。
[本発明1020]
前記がんが、卵巣がん、白血病、血管肉腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、膵がん、胆管癌、脳がん(神経膠腫など)、腺癌、肝細胞腫、および胆道がんからなる群から選択される、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記がんが、卵巣がん、乳がん、肺がん、膵がん、胆管癌、および胆道がんからなる群から選択される、本発明1019または本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記がんが、肺がんまたは膵がんである、本発明1019~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記組成物が、局所的に、鼻腔内に、全身的に、静脈内に、皮下に、腹腔内に、皮内に、眼内に、イオン泳動的に、経粘膜的に、または筋肉内に投与される、本発明1019~1022のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態による、PEG-b-PLAミセルのo(LLA)
n-GEMおよびo(DLA)
n-GEMのステレオコンプレックスプロドラッグ:負荷、安定性、ならびに放出後のバックバイティングおよびエステラーゼによるプロドラッグ変換を示す。
【
図2】実施例による、o(LLA)
n-GEMおよびo(DLA)
n-GEMの合成スキームを示す。
【
図3A】実施例による、CH
3CNからの蒸発後の、o(LLA)
10-GEM、o(DLA)
10-GEM、および両方のプロドラッグのステレオコンプレックス混合物の粉末XRDプロファイルを示す。
【
図3B】実施例による、CH
3CNからの蒸発後の、o(LLA)
10-GEM、o(DLA)
10-GEM、および両方のプロドラッグのステレオコンプレックス混合物のDSCサーモグラムを示す。
【
図3C】実施例による、CH
3CNからの蒸発後の、o(LLA)
6-GEM、o(DLA)
6-GEM、および両方のプロドラッグのステレオコンプレックス混合物の粉末XRDプロファイルを示す。
【
図3D】実施例による、CH
3CNからの蒸発後の、o(LLA)
6-GEM、o(DLA)
6-GEM、および両方のプロドラッグのステレオコンプレックス混合物のDSCサーモグラムを示す。
【
図4】
図4Aおよび4Bは、実施例による、ステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルのAFM画像を示す。
【
図5】実施例による、5%および15%の負荷でのPEG-b-PLAミセルからのo(LLA)
6-GEM、o(LLA)
10-GEM、またはステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEMのインビトロ放出を示す(平均±SEM、n=3~4)。
【
図6】
図6Aは、実施例による、1:1のCH
3CN/10mMのPBS中、37℃、pH7.4で0~72時間インキュベートした後の、o(L+DLA)
10-GEMおよびそのバックバイティング変換生成物の物理的混合物の相対量を示す(平均±SD、n=3)。
図6Bは、実施例による、MilliQ水中、25℃、0~8週間インキュベートした後の、15%の負荷でのo(L+DLA)
10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルおよびその変換生成物の相対量を示す(平均±SD、n=3)。
【
図7A】実施例による、37℃で0~24時間インキュベーションした後の、ラット血漿中のGEMの相対量を示す(平均±SEM、n=3)。
【
図7B】実施例による、37℃で0~24時間インキュベーションした後の、ラット血漿中のo(L+DLA)
10-GEMの相対量を示す(平均±SEM、n=3)。
【
図7C】実施例による、37℃で0~24時間インキュベーションした後の、ラット血漿中の15%の負荷でのPEG-b-PLAミセル中のo(L+DLA)
10-GEMプロドラッグおよびその変換生成物GEMの相対量を示す(平均±SEM、n=3)。
【
図8】
図8Aは、実施例による、ヒトA549非小肺がん細胞に対する15%の負荷でのGEMおよびo(L+DLA)
10-GEMミセルのインビトロ細胞毒性を示す。
図8Bは、実施例による、PANC-1膵がん細胞に対する15%の負荷でのGEMおよびo(L+DLA)
10-GEMミセルのインビトロ細胞毒性を示す。5重複判定の平均±SEM。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、実施例による、A549非小細胞肺がん異種移植片モデルにおけるGEMおよびo(L+DLA)
10-GEMミセルのインビボ抗腫瘍効果を示す。マウスは、実施例により、GEM(10mg/kg)またはo(L+DLA)
10-GEMミセル(5%の負荷、10mg/kgのGEM当量)を、3週間、毎週、静脈内投与された(矢印によって示されるように)。
図9Aは、相対腫瘍体積を示す(平均±SEM、n=3~4、*:p<0.05)。
図9Bは、相対体重を示す(平均±SEM、n=3~4、*:p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
以下で定義されるように、以下の用語が全体を通して使用される。
【0010】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、要素を記載する文脈において、(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)「a」および「an」および「the」および同様の指示語などの単数形冠詞は、本明細書において別段の記載がないか、または文脈によって明確に矛盾することがない限り、単数形および複数形の両方を網羅するよう解釈されることになっている。本明細書の値の範囲の記載は、本明細書において別段の記載がない限り、この範囲内に入る各別個の値に対して、個々に言及する簡便法として働くと意図されるに過ぎず、各別個の値は、本明細書で個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法は全て、本明細書において別段の記載がない限り、または文脈によって明確に矛盾することがない限り、任意の好適な順序で実行することができる。本明細書で提供されるいずれかのおよび全ての例、または例示的な言語的表現(例えば、「など」)の使用は単に、実施形態をより良好に明らかにするよう意図されており、別段の記載がない限り、特許請求の範囲に制限を与えるものではない。本明細書におけるいかなる用語も、主張されていないいかなる要素も不可欠なものとして示すものと解釈されるべきではない。
【0011】
本明細書で使用される場合、数に関する「約」という用語は、通常、特に記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、数のいずれかの方向(より大きい、またはより小さい方向)に1%、5%、または10%の範囲内に含まれる数を含むと見なされる(そのような数が0%未満であるか、または可能な値の100%を超える場合を除く)。
【0012】
本技術は、本明細書に開示される化合物(薬物および/または薬物コンジュゲート)およびミセルの実施形態のうちのいずれか1つを含む薬学的組成物および薬剤、ならびに薬学的に許容される担体または1つ以上の賦形剤を提供する。組成物は、本明細書に記載の方法および治療において使用され得る。薬学的組成物は、有効量の本明細書に開示される本技術の化合物の実施形態のうちのいずれか1つを含み得る。任意の実施形態では、有効量は、対象に関連して決定され得る。「有効量」とは、所望の効果をもたらすために必要とされる化合物、コンジュゲート、ミセル、または組成物の量を指す。有効量の一例としては、がんまたは再狭窄などの心血管疾患の治療を含むがこれらに限定されない、治療的(薬学的)使用のための許容される毒性および生物学的利用能のレベルをもたらす量または投薬量が挙げられる。
【0013】
本明細書で使用される「対象」または「患者」は、ネコ、イヌ、げっ歯類、または霊長類などの哺乳動物である。典型的には、対象は、ヒトであり、好ましくは、ゲムシタビンまたはその誘導体に感受性のがん、すなわち、有効量のゲムシタビンまたはその誘導体を用いて治療することができるがんに罹患しているヒトである。「対象」および「患者」という用語は互換的に使用され得る。
【0014】
本明細書で使用される場合、「ゲムシタビン誘導体」は、ゲムシタビンのピリミジン/ヌクレオシド骨格を保持するが、少なくとも1つの修飾側鎖を含有する化合物である。他のゲムシタビン誘導体は、当業者に既知であり、シタラビン(AraC)、エムトリシタビン、ラミブジン、ザルシタビン、アザシチジン、およびトロキサシタビンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
「ステレオコンプレックス」という用語は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとを含む、立体選択的に会合した予め形成されたオリゴ乳酸コンジュゲートの組成物を指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、「ヒドロキシル保護基」は、-O-G基を指す。Gは、ヒドロキシル保護基である。ヒドロキシル保護基は、当業者に周知である。いくつかの実施形態では、ヒドロキシル保護基は、メトキシメチルエーテル(MOM)、メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、ベンジルオキシメチルエーテル(BOM)、テトラヒドロピラニルエーテル(THP)、ベンジルエーテル(Bn)、p-メトキシベンジルエーテル、トリメチルシリルエーテル(TMS)、トリエチルシリルエーテル(TES)、トリイソプロピルシリルエーテル(TIPS)、t-ブチルジメチルシリルエーテル(TBDMS)、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS)、o-ニトロベンジルエーテル、p-ニトロベンジルエーテル、トリチルエーテル、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸(Bz)、メチルカーボネート、アリルカーボネート(alloc)、ジメチルチオカルバメート(DMTC)、ベンジルカーボネート(Cbz)、t-ブチルカーボネート(Boc)、および9-(フルオロエニルメチル)カーボネート(Fmoc)からなる群から選択され得る。ヒドロキシル基官能性についての保護基の広範なリストは、Protective Groups in Organic Synthesis,Greene,T.W.、Wuts,P.G.M.,John Wiley & Sons,New York,NY(第3版、1999)に見出され得、その中に記載されている手順を使用して追加または除去することができ、本明細書に完全に記載されているかのように、あらゆる全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0017】
一態様では、本技術は、オリゴ-L-乳酸のゲムシタビンおよびゲムシタビン誘導体とのコンジュゲートを提供する。別の態様では、本技術は、オリゴ-D-乳酸のゲムシタビンおよびゲムシタビン誘導体とのコンジュゲートを提供する。別の態様では、本技術は、ステレオコンプレックスのゲムシタビンおよびゲムシタビン誘導体とのコンジュゲートを提供する。
【0018】
本技術のコンジュゲートおよびステレオコンプレックスでは、オリゴ乳酸は、乳酸の直鎖状ポリエステルであり得る。本技術のコンジュゲートおよびステレオコンプレックスでは、オリゴ乳酸は、アミド結合によってゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合していてもよい。そのようなコンジュゲートおよびステレオコンプレックスでは、オリゴ乳酸は、典型的には、2~20個の乳酸サブユニットを含む。本コンジュゲートおよびステレオコンプレックスが、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20個の乳酸サブユニット、または前述の値のうちのいずれか2つの間のサブユニットの範囲を有し得ることが、当業者に理解されるであろう。例えば、コンジュゲートおよびステレオコンプレックスは、7~20個の乳酸サブユニットを含み得る。任意の実施形態では、オリゴ-L-乳酸およびオリゴ-D-乳酸は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、または少なくとも7個の乳酸サブユニットをそれぞれ含み得る。
【0019】
任意の実施形態では、コンジュゲートおよびステレオコンプレックスは、式Iに示される構造を有し得、
式中、nは、各出現時に、個々に、2~20の整数、または終点を含む間の範囲(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20)である。任意の実施形態では、nは、各出現時に、7~20の整数、または終点を含む間の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、オリゴ乳酸はL-オリゴ乳酸であり得る。いくつかの実施形態では、オリゴ乳酸はD-オリゴ乳酸であり得る。
【0020】
本技術は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートと、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートとのステレオコンプレックスを含む、組成物を提供する。上記に示されるように、各コンジュゲート中のオリゴ-L-乳酸またはオリゴ-D-乳酸は、2~20個の乳酸サブユニットを含み得、および/または、アミド結合によってゲムシタビンもしくはゲムシタビン誘導体の4-アミノの窒素に結合し得る。オリゴ乳酸の長さは、上記に示されるように変化し得、例えば、オリゴ乳酸は、7~20個の乳酸残基を有し得る。ステレオコンプレックスでは、2つのコンジュゲートのモル比は、約1:1であり得る。しかしながら、ステレオコンプレックスを含む組成物は、2:1~1:2、例えば3:2、または2:3、または1:1の範囲の、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-L-乳酸コンジュゲートの、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体の4(N)-オリゴ-D-乳酸コンジュゲートに対するモル比を含み得る。
図1は、本技術の一実施形態について、ステレオコンプレックス、o(L+DLA)
n-GEM、およびそれらのミセルへの負荷を概略的に示す。
【0021】
任意の実施形態では、本技術のコンジュゲートは、遊離4アミノ基を有するゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体を、カップリング剤、ならびに2~20個の乳酸サブユニットおよびヒドロキシルを有するオリゴ乳酸と接触させることによって調製され得る。任意の実施形態では、ヒドロキシルは、保護されているヒドロキシル基であり得るか、または以前は保護されているヒドロキシル基であり得る。任意の実施形態では、ヒドロキシル基は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体と接触する前に脱保護され得る。任意の実施形態では、保護されているヒドロキシル基は、ベンジル保護基を含み得る。任意の実施形態では、ヒドロキシル基が脱保護される前に、オリゴ乳酸は、2~20個の乳酸サブユニットを有するベンジルオリゴ乳酸であり得る。ほんの一例として、
図2は、本コンジュゲートを作製する方法の例示的な実施形態を提供する。
図2では、ゲムシタビンは、好適な有機溶媒中のカップリング試薬を使用して、L-またはD-オリゴ乳酸中間体においてカルボキシルに結合している。好適なカップリング剤としては、DCCおよびEDCIなどのカルボジイミドが挙げられる。好適な有機溶媒としては、ハロゲン化溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム)、酢酸アルキル(例えば、酢酸エチル)、または他の極性非プロトン性溶媒(例えば、DMF、THF)が挙げられる。
【0022】
別の態様では、本技術は、水、ポリ乳酸含有ポリマー、および本明細書に記載の本技術の任意のゲムシタビン/ゲムシタビン誘導体オリゴ乳酸コンジュゲートから形成されるミセルの水性組成物を提供する。別の態様では、本技術は、水、ポリ乳酸含有ポリマー、および本明細書に記載の本技術のゲムシタビン/ゲムシタビン誘導体オリゴ乳酸コンジュゲートの任意のステレオコンプレックスから形成されるミセルの水性組成物を提供する。
【0023】
任意の実施形態では、ミセルは、ブロックコポリマー、PEG-b-PLA(PEG-PLAとしても知られている)を含み得る。ポリ(乳酸)ブロックは、(D-乳酸)、(L-乳酸)、(D、L-乳酸)、またはこれらの組み合わせを含み得る。PEG-b-PLAの様々な形態は、例えば、Polymer Source、Inc.、Montreal、Quebecから市販されているか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。任意の実施形態では、ポリ(エチレングリコール)ブロック(PEGブロック)の分子量は、約1,000~約35,000g/mol、または該範囲内の約500g/molの任意の増分であり得る。(特に明記しない限り、本明細書で言及される全てのポリマー分子量は、重量平均分子量であると理解される。)例えば、PEGブロックの分子量は、約1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000、31,000、32,000、33,000、34,000、35,000、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲であり得る。任意の実施形態では、ポリ(乳酸)ブロック(PLAブロック)の好適なブロックは、約1,000~約15,000g/mol、または該範囲内の約500g/molの任意の増分を有し得る。例えば、PLAブロックの分子量は、約1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、6,000、6,500、7,000、7,5000、8,000、8,500、9,000、9,500、10,000、10,500、11,000、11,500、12,000、12,500、13,000、13,500、14,000、14,500、15,000、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲であり得る。任意の実施形態では、PEGブロックは、メチル基(例えば、メトキシエーテル)などのアルキル基、または任意の好適な保護、キャッピング、またはブロッキング基で終結してもよい。任意の実施形態では、PEGブロックの分子量は、約1,000~約35,000g/molであってもよく、PLAブロックの分子量は、約1,000~約15,000g/mol、またはこれらの組み合わせであってもよい。任意の実施形態では、PEGブロックの分子量は、約1,500~約14,000g/molであってもよく、PLAブロックの分子量は、約1,500~約7,000g/mol、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0024】
任意の実施形態では、本技術のミセルは、様々なブロックサイズ(例えば、上記の範囲内のブロックサイズ)および様々な比のPEG-b-PLAポリマーを使用して調製され得る。例えば、PEG:PLA比は、約1:10~約10:1、または限定されないが1:5、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、および5:1を含む該範囲内の任意の整数比であり得る。例えば、PEG-PLAポリマーの数平均分子量(Ma)としては、約2K-2K、3K-5K、5K-3K、5K-6K、6K-5K、6K-6K、8K-4K、4K-8K、12K-3K、3K-12K、12K-6K、6K-12K(それぞれPEG-PLA)、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
1つの好適なPEG-PLAポリマーは、約1:1の比で約1~3kDa(例えば、約2Kダルトン)のブロックを含む。このブロックポリマーを使用すると、ミセル中の高レベルの薬物コンジュゲートの負荷をもたらした。PEG-PLA分子量のさらなる特定の例には、4.2K-b-1.9K、5K-b-10K、12K-b-6K、2K-b-1.8K、および以下の実施例に記載されているものが挙げられる。使用することができる他の好適な両親媒性ブロックコポリマーは、米国特許第4,745,160号(Churchillら)および同第6,322,805号(Kimら)に記載されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。薬物対ポリマー比は、約1:20~約2:1、または該範囲内の任意の整数比であってよい。好適な薬物-ポリマー比の具体例としては、約2:1、約3:2、約1.2:1、約1:1、約3:5、約2:5、約1:2、約1:5、約1:7.5、約1:10、約1:20、または前述の値のいずれかの間およびそれらを含む範囲が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本技術のミセルは、大量の、本明細書に記載されているコンジュゲートおよびステレオコンプレックスを含む、広範囲の量を負荷することができる。例えば、コンジュゲートおよびステレオコンプレックスの負荷は、ミセルの質量に対して約1重量%~約50重量%であってよい。ミセル中のコンジュゲートおよびステレオコンプレックスの負荷の例としては、ミセルの質量に対して、約1重量%、約2重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%、約10重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%、約35重量%、約40重量%、約45重量%、もしくは約50重量%、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲が挙げられる。任意の実施形態では、コンジュゲートおよびステレオコンプレックスの負荷は、約5重量%~約15重量%であってよい。
【0027】
ミセル中の各コンジュゲートおよびコンジュゲートのステレオコンプレックスの負荷は、濃度の観点から表すこともできる。例えば、各コンジュゲートおよびコンジュゲートのステレオコンプレックスの濃度は、組成物中の水の体積に対して、約0.5mg/mL~約40mg/mLであってもよい。本技術で得ることができる各コンジュゲート濃度の例としては、組成物中の水の体積に対して、約0.6mg/mL、約1mg/mL、約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約8mg/mL、約10mg/mL、約12mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、もしくは約40mg/mL、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲が挙げられる。任意の実施形態では、L-オリゴ乳酸コンジュゲートの濃度は、約1~約15mg/mL、もしくはさらに約2~約12mg/mLであってもよく、D-オリゴ乳酸コンジュゲートの濃度は、約1~約20mg/mL、もしくはさらに約1.5~約10mg/mLであってもよく、および/またはコンジュゲートのステレオコンプレックスの濃度は、約0.5~約15mg/mL、もしくはさらに約1~約10mg/mLであってもよい。
【0028】
ミセル中の各コンジュゲートおよびステレオコンプレックスの負荷は、負荷効率の観点から表すこともできる。例えば、各コンジュゲートおよびステレオコンプレックスの負荷効率は、ミセルの質量に対して約25重量%~約100重量%であってよい。ミセル中のコンジュゲートおよびコンジュゲートのステレオコンプレックスの負荷効率の例としては、ミセルの質量に対して、約30重量%、約35重量%、約40重量%、約45重量%、約50重量%、約55重量%、約60重量%、約65重量%、約70重量%、約75重量%、約80重量%、約85重量%、約90重量%、約95重量%、約99重量%、もしくは約100重量%、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲が挙げられる。任意の実施形態では、L-オリゴ乳酸コンジュゲートの負荷効率は、約80重量%~約90重量%を含む少なくとも約50重量%であってもよく、ステレオコンプレックスの負荷効率は、約90重量%~約100重量%を含む少なくとも約50重量%であってもよい。
【0029】
任意の実施形態では、本技術は、水と、PEG-b-PLAならびにL-オリゴ乳酸コンジュゲート、D-オリゴ乳酸コンジュゲート、および本明細書に記載のステレオコンプレックスのうちの少なくとも1つを含むミセルと、を含む組成物を提供する。任意の実施形態では、ミセルの質量に対して、L-オリゴ乳酸コンジュゲートの負荷の負荷は、約1重量%~約50重量%であってもよく、D-オリゴ乳酸コンジュゲートの負荷は、約1重量%~約50重量%であってよく、および/またはステレオコンプレックスの負荷は、約1重量%~約50重量%であってよい。任意の実施形態では、PEG-b-PLAのPEGブロックの分子量は、約1,500~約14,000g/molであってもよく、PEG-b-PLAのPLAブロックの分子量は、約1,500~約7,000g/mol、またはこれらの組み合わせであってもよい。このような組成物は、例えば、約1重量%~約50重量%、約1~約15mg/mL、または約2~約12mg/mLのL-オリゴ乳酸コンジュゲートのいずれか、約5重量%~約50重量%、約1~約20mg/mL、または約2~約10mg/mLのD-オリゴ乳酸コンジュゲートのいずれか、および/または約2重量%~約30重量%、約1~約15mg/mL、または約2~約15mg/mLのステレオコンプレックスのいずれかを含む、本明細書に記載のゲムシタビン負荷のいずれかを含み得る。任意の実施形態では、組成物は、L-オリゴ乳酸コンジュゲートのいずれか、D-オリゴ乳酸コンジュゲートのいずれか、本明細書に記載のステレオコンプレックスのいずれか、またはそれらの2つ以上の組み合わせを含み得る。
【0030】
溶媒中に臨界ミセル濃度(CMC)を超える量で存在する両親媒性ポリマーの両親媒性一本鎖は、ミセル、疎水性内部のコア-コロナ構造、および親水性外部またはシェルに凝集する。薬物またはコンジュゲートが負荷されたPEG-b-PLAミセルのプロトンNMR分光法の研究は、ミセルが水性環境で容易に形成される一方で、DMSOなどの有機溶媒中で分解することを示している。本ミセル組成物は、典型的には、有機溶媒を実質的に含まず、例えば、組成物の重量に基づいて、約2重量%未満のエタノール、ジメチルスルホキシド、ヒマシ油、およびヒマシ油誘導体(すなわち、クレモフォア(Cremophor)ELなどのポリエトキシル化カンファー化合物)である。任意の実施形態では、有機溶媒の量は、約1重量%未満、約0.5重量%未満、約0.1重量%未満であってもよく、または本質的に検出可能な量の有機溶媒を含まなくてもよい。
【0031】
PEG-b-PLAミセルは、このセクションで以下に記載されるように、ならびに以下の実施例で記載されるように調製され得る。本明細書に記載のミセルの組成物は、水と、ポリ乳酸含有ポリマーおよびゲムシタビンの薬物/薬物誘導体の組み合わせの混合物とを組み合わせることによって調製され得る。別の実施形態では、本明細書に記載のミセルの組成物は、水と、ポリ乳酸含有ポリマーおよび薬物/薬物誘導体コンジュゲート/本明細書に記載のコンジュゲートのステレオコンプレックスのうちの少なくとも1つの混合物とを組み合わせることによって調製され得る。任意の実施形態では、ポリ乳酸含有ポリマーは、PEG-b-PLAを含み得る。
【0032】
以下に示される手順は、例示に過ぎない。当業者によって容易に認識されるように、手順は、所望の調製規模に応じて変えることができる。この手順の利点の1つは、ミセル溶液の透析を必要としないことである。
【0033】
調製手順:凍結乾燥。一実施形態では、ミセル調製は、以下のように実施することができる。PEG-b-PLAミセルに負荷された、本明細書に記載の少なくとも1つのコンジュゲートまたはステレオコンプレックスは、tert-ブタノール-水混合物から凍結乾燥することによって調製することができる。例えば、2~20mgのPEG4000-b-PLA2200(Advanced Polymer Materials Inc.,Montreal,Canada)と、1.0mgの本明細書に記載のコンジュゲート(複数可)とを、1.0mLのtert-ブタノールに60℃で溶解し、続いて、激しく混合しながら、60℃で予熱した再蒸留水1.0mLを添加することができる。混合物を、ドライアイス/エタノール冷却浴で-70℃で凍結させる。次いで、凍結乾燥(lyophilization)を、実験全体を通して、100μBarで、-20℃の棚入口温度にて72時間、凍結乾燥機(freeze-dryer)棚上で行うことができる。次いで、凍結乾燥したケークを、0.9%の生理食塩水溶液1.0mLで60℃にて再水和し、遠心分離し、0.22μmの再生セルロースフィルターを通して濾過し、HPLCで分析することができる。いくつかの実施形態では、この手順は、オリゴ-L-乳酸コンジュゲートまたはオリゴ-D-乳酸コンジュゲートのミセルを調製するために使用される。いくつかの実施形態では、この手順は、ステレオコンプレックスのミセルを調製するために使用される。
【0034】
一旦調製されると、ミセル-コンジュゲートまたはミセル-ステレオコンプレックス組成物は、冷蔵下で、好ましくは約5℃未満の温度で長期間保存することができる。約-20℃~約4℃の温度は、ほとんどのミセル-コンジュゲートおよびミセル-ステレオコンプレックス組成物の保存に好適な条件であることが見出されている。例えば、本発明のコンジュゲート負荷ミセルの水溶液は、約4℃で保存され得る。本明細書に記載の凍結乾燥ミセル組成物は、-20℃で長期間保存し、その後再水和することができる。褐色ガラスバイアルまたは他の不透明な容器を使用してミセル組成物を光から保護すると、組成物の有効寿命をさらに延ばすことができる。
【0035】
任意の実施形態では、本技術は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性のがん細胞を阻害する、または死滅させる方法を提供する。任意の実施形態では、方法は、細胞を、有効阻害量または致死量の本明細書に記載の組成物のいずれかと接触させることを含み得る。任意の実施形態では、接触させることは、インビトロまたはインビボで行われ得る。ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体に感受性のがんに罹患している哺乳動物に、有効量の本明細書に記載のミセル組成物を投与することを含む治療方法も提供される。ゲムシタビン感受性のがんの例としては、卵巣がん、白血病、血管肉腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、膵がん、胆管癌、脳がん(神経膠腫など)、腺癌、肝細胞腫、および胆道がんが挙げられる。任意の実施形態では、がんは、肺がんまたは膵がんであり得る。
【0036】
本明細書に記載の本技術の実施形態のいずれかでは、薬学的組成物は、単位剤形に包装されてもよい。単位剤形は、がんの治療に有効である。一般に、本技術の組成物を含む単位投薬量は、患者の考慮事項に応じて変化する。そのような考慮事項には、例えば、年齢、プロトコル、病態、性別、疾患の程度、禁忌、併用療法などが含まれる。これらの考慮事項に基づく例示的な単位投与量はまた、当業者によって調整または修正され得る。例えば、本技術の化合物を含む患者の単位投与量は、1×10-4g/kg~1g/kg、好ましくは1×10-3g/kg~1.0g/kgで変化し得る。本技術の化合物の投与量はまた、0.01mg/kg~100mg/kg、または好ましくは0.1mg/kg~10mg/kgで変化し得る。
【0037】
ゲムシタビンまたはゲムシタビン誘導体のコンジュゲート/ステレオコンプレックスを含有するミセル組成物は、本明細書に記載されるように調製され、がんおよび心血管疾患を治療するために使用され得る。本明細書に記載のコンジュゲート、ステレオコンプレックス、および組成物は、再狭窄またはがん、例えば、卵巣がん、白血病、血管肉腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、膵がん、胆管癌、脳がん(神経膠腫など)、腺癌、肝細胞腫、もしくは胆道がんを治療する製剤および薬剤を調製するために使用され得る。そのような組成物は、例えば、顆粒、粉末、錠剤、カプセル、シロップ、坐剤、注射剤、乳剤、エリキシル剤、懸濁液、または溶液の形態でもよい。本発明の組成物は、例えば、非経口、直腸、経鼻、経膣投与による、または移植されたマトリックスまたはリザーバを介する、または再狭窄のための薬物被覆ステントまたはバルーンベースの送達による、様々な投与経路用に製剤化できる。非経口または全身投与には、限定されないが、皮下、静脈内、腹腔内、および筋肉内注射が含まれる。以下の剤形は、例として与えられ、本技術を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0038】
注射可能な剤形は、一般に、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して調製され得る溶液または水性懸濁液もしくは水中油型懸濁液を含む。注射可能な形態は、溶媒または希釈剤で調製される溶液相または懸濁液の形態であり得る。許容される溶媒またはビヒクルとしては、滅菌水、リンゲル液、または等張生理食塩水溶液が含まれる。
【0039】
注射の場合、薬学的製剤および/または薬剤は、上述の適切な溶液で再構成するのに好適なフィルムまたは粉末であってもよい。これらの例には、限定されないが、凍結乾燥、回転乾燥、もしくは噴霧乾燥粉末、アモルファス粉末、顆粒、沈殿物、または微粒子が含まれる。注射の場合、製剤は、安定剤、pH調整剤、界面活性剤、生物学的利用能調整剤、およびこれらの組み合わせを任意選択で含んでもよい。任意の実施形態では、注射可能な製剤は、等張剤(例えば、NaClおよび/またはデキストロース)、緩衝液(例えば、リン酸塩)および/または保存剤を含む。
【0040】
上述の代表的な剤形に加えて、薬学的に許容される賦形剤および担体は一般に当業者に既知であり、したがって本技術に含まれる。そのような賦形剤および担体は、例えば、“Remingtons Pharmaceutical Sciences”Mack Pub.Co.,New Jersey(1991)に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
本技術の製剤は、以下に記載されるように、短時間作用性、速放性、長時間作用性、および持続放出性であるように設計され得る。したがって、薬学的製剤は、制御放出用または徐放用に製剤化することもできる。
【0042】
特定の投薬量は、対象の疾患の病態、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および食事、投与間隔、投与経路、排泄率、および遊離薬物/コンジュゲートの組み合わせに応じて調節することができる。有効量を含む上記の剤形のいずれも、十分に日常的な実験の範囲内であり、したがって、十分に本技術の範囲内である。ほんの一例として、このような投薬量は、有効量の遊離薬物/コンジュゲートを患者に投与するために使用することができ、約10mg/m2、約20mg/m2、約30mg/m2、約40mg/m2、約50mg/m2、約75mg/m2、約100mg/m2、約125mg/m2、約150mg/m2、約200mg/m2、約250mg/m2、約300mg/m2、または前述の値のいずれか2つの間およびそれらを含む範囲を挙げることができる。このような量は、本明細書に記載されるように非経口的に投与することができ、5分、10分、20分、30分、45分、1時間、2時間、3時間、5時間、10時間、12時間、15時間、20時間、24時間、または前述の値のいずれかの間およびそれらを含む範囲を挙げることができるが、これらに限定されない時間にわたって行うことができる。投与の頻度は、例えば、1日ごと、2日ごと、3日ごと、1週間ごと、10日ごと、2週間ごとに1回、または前述の頻度のいずれかの間およびそれらを含む範囲で変動し得る。
【0043】
本明細書に記載の示される病態の各々について、試験対象は、プラセボ治療を受けた対象または他の好適な対照対象と比較して、対象の障害によって引き起こされた、またはそれに関連する1つ以上の症状(複数可)において、10%、20%、30%、50%以上の減少、最大75~90%、または95%以上の減少を示す。
【0044】
関連する実施形態では、対象を治療する方法が提供され、この方法は、がんまたは心血管疾患に罹患している対象への、本技術の組成物の実施形態のいずれか1つの投与を伴う。この方法では、がんは、卵巣がん、白血病、血管肉腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、膵がん、胆管癌、脳がん(神経膠腫など)、腺癌、肝細胞腫、または胆道がんであり得る。
【0045】
方法の実施形態のいずれかにおいて、方法は、薬学的組成物の投与を含むことができ、薬学的組成物は、本技術の遊離薬物もしくはコンジュゲートを含有するコンジュゲートまたはミセルの実施形態のいずれか1つならびに薬学的に許容される担体を含む。
【0046】
本技術のコンジュゲートおよびミセル組成物、その薬学的組成物、誘導体、代謝産物、プロドラッグ、ラセミ混合物、または互変異性体の調製または使用により、本技術の利点を示し、当業者をさらに補助するために、本明細書において実施例が提供される。遊離薬物/コンジュゲート/ステレオコンプレックスがイオン化可能なゲムシタビンまたはその誘導体の遊離薬物/コンジュゲート/ステレオコンプレックスを含む限り、薬学的に許容される塩などの塩も使用することができる。本技術の好ましい態様をより完全に示すために、本明細書において実施例も提示される。実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本技術の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。実施例は、上記の本技術の変形形態、態様または態様(複数可)のいずれかを含むか組み込むことができる。上記の変形、態様または態様(複数可)は、各々、本技術のいずれかまたは全ての他の変形、態様または態様(複数可)をさらに含むか、または組み込むこともできる。
【実施例】
【0047】
本技術は、以下の実施例によってさらに例示されるが、決して限定するものとして解釈されるべきではない。
【0048】
実施例1:実験材料および方法
材料。全ての化学物質はSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入し、受け取ったままの状態で使用した。分析グレードの有機溶媒および他の全ての試薬は、Fisher Scientific(Pittsburgh,PA)から購入した。ゲムシタビン(GEM)は、LC Laboratories(Woburn,MA)から購入した。PEG-b-PLAは、Advanced Polymer Materials Inc.(Montreal,Canada)から購入し、PEGおよびPLAのMnは、それぞれ4,000および2,200g/molであり、PDIは、1.05であった。A549ヒト肺腺癌細胞およびPANC-1膵臓腺癌細胞は、ATCC(Manassas,VA)から購入し、10%のウシ胎児血清(FBS)、100IU/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、および2mMのL-グルタミンを補充した、それぞれRPMI 1640培地およびDMEM中で、5%のCO2のインキュベータにおいて、37℃で培養した。ヘパリン化スプラーグドーリー(Sprague-Dawley)ラット血漿およびヒトプール血漿は、Innovative Research Inc.(Novi,MI)から購入した。
【0049】
計装。プロトン核磁気共鳴(1H NMR)データは、25℃の温度に制御されたVarian Unity-Inova 2チャネル500MHz NMR分光計(Palo Alto,CA)で記録した。化学シフト(δ)は、CDCl3の7.26ppmでの残留プロトン化溶媒共鳴と比較して、百万分率(ppm)で報告した。質量分析データは、ウィスコンシン大学マディソン校の化学学部の化学計装センターにあるWaters LCT(ESI-TOF)(Waters Corp.,Milford,MA)を使用して得た。サンプルは、10mMのNH4OAc/CH3CN溶液から噴霧した。逆相HPLC(RP-HPLC)分析は、LC-20ATポンプ、SIL-20AC HTオートサンプラー、CTO-20ACカラムオーブン、およびSPD-M20Aダイオードアレイ検出器を装備したShimadzu Prominence HPLC system(Shimadzu,Kyoto,Japan)を使用して実施した。サンプルを、Waters Symmetry Shield(商標)RP18カラム(4.6mm×250mm、5μm、100Å)で分離した。典型的な実験では、10μLのサンプルを、0.8mL/分の流速、25℃のカラム温度、およびGEMの場合は270nmで、およびo(LA)n-GEMの場合は300nmでのUV検出波長で注入した。o(LA)n-GEM変換生成物の分離は、溶媒Aとして100%のCH3CNを含む有機相と、溶媒Bとして0.1%のギ酸を含有する100%のmilliQ水を含む水相を用いた勾配モードで行った。勾配溶離を以下のように使用した:0分、20%の溶媒Aおよび80%の溶媒B;30分、68%の溶媒Aおよび32%の溶媒B;および平衡のための35分。PEG-b-PLAミセルの流体力学的直径は、Zetasizer Nano-ZS(Malvern Instruments Inc.,Malvern,England)を使用して動的光散乱(DLS)により、25℃で、検出角度173°および光源としてのHe-Neイオンレーザー(4mW、633nm)を用いて測定した。測定前に、PEG-b-PLAミセル溶液をmilliQ水またはPBS(10mM、pH7.4)で希釈して、PEG-b-PLAのレベルを約0.1mg/mLにし、各サンプル1mLを使い捨ての定寸キュベット(BrandTech Scientific Inc.,Essex,CT)に置いた。キュムラント法を使用して相関関数を曲線当てはめし、PEG-b-PLAミセルのz平均直径および多分散指数(PDI)を、ストークスアインシュタイン方程式および相関関数の勾配からそれぞれ計算した。全ての測定は、三通りで行った。ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルの形態(morphology)を、雲母に50.0mg/mLでポリマーを吸着させた後、ACモードで原子間力顕微鏡(AFM)を使用して観察した。ミセルは、Infinity Bioscope(Asylum Research,Santa Barbara,CA)のAC40バイオレバーを使用して、milliQ水中で画像化した。
【0050】
単分散ベンジルオリゴ(L-乳酸)n(Bn-o(LLA)n)またはベンジルオリゴ(D-乳酸)n(Bn-o(DLA)n)の合成。多分散系の合成は、以前に報告された手順に変更を加えたものに従って、スズ(II)-エチルヘキサノエート(Sn(Oct)2)で開始した(De Jong,S.J.et al.,Macromolecules,1998,31(19):6397-6402を参照)。例えば、平均重合度が8の場合、環状L-ラクチドまたは環状D-ラクチドを、4:1のモル比でベンジルアルコールと混合した。混合物を、溶融するまで130℃で撹拌した。その後、トルエン中の0.01当量のSn(Oct)2(100mg/mL)を添加した。混合物を130℃で4時間撹拌し、室温まで放冷して、多分散系Bn-o(LLA)nまたはBn-o(DLA)nを得た。単分散系Bn-o(LLA)6、Bn-o(LLA)10、Bn-o(DLA)6、またはBn-o(DLA)10を、C18逆相カラムクロマトグラフィーを使用するCombiFlash Rf 4xシステムで分画した。0.1%のギ酸中のアセトニトリルおよび0.1%のギ酸中の水の勾配溶離を適用した。精製した生成物を減圧下で濃縮して、無色の液体を得た。(収率:Bn-o(LLA)6の場合8.3%、Bn-o(DLA)6の場合8.0%、Bn-o(LLA)10の場合6.7%、およびBn-o(DLA)10の場合7.9%)。Bn-o(LLA)6のESI-TOF:C25H32O13[M+Na]+のm/z計算値:558.2181、実測値558.2179;Bn-o(DLA)6のESI-TOF:C25H32O13[M+Na]+のm/z計算値:558.2181、実測値558.2178;Bn-o(LLA)10のESI-TOF:C37H48O21[M+Na]+のm/z計算値:846.3026、実測値846.3027;Bn-o(DLA)10のESI-TOF:C37H48O21[M+Na]+のm/z計算値:846.3026、実測値846.3023。
【0051】
オリゴ(L-乳酸)
n-ゲムシタビン(o(LLA)
n-GEM)またはオリゴ(D-乳酸)
n-ゲムシタビン(o(DLA)
n-GEM)の合成。o(LLA)
n-GEMまたはo(DLA)
n-GEMは、o(LLA)
nまたはo(DLA)
n上のカルボン酸基とゲムシタビン分子上のアミン基とをアミド化することにより調製した。一般に、Bn-o(LLA)
nまたはBn-o(DLA)
nの直接水素化は、活性炭上のパラジウム(10重量%)で達成され、以前公開された報告に従ってo(LLA)
nまたo(DLA)
nを得た(収率:約90~99%、Takizawa,K.et al.,J.Polym.Sci.A Polym.Chem.,2008,46:5977-5990を参照)。続いて、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)(1.5当量)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(1.5当量)を、乾燥DMF中のo(LLA)
nまたはo(DLA)
nの溶液(1当量)に添加し、アルゴン下で、室温で2時間撹拌した。GEM(1当量)を乾燥DMFに溶解し、上記の混合物に滴加した。反応混合物を、アルゴン下で、室温で24時間撹拌した。粗生成物を酢酸エチルで希釈し(20倍)、0.5%(w/v)の塩酸、飽和NaHCO
3、およびブライン溶液で洗浄した。次いで、有機層を採取し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過した。溶媒を減圧下で除去し、得られた濃縮物を、ヘキサンおよび酢酸エチルの勾配溶離を使用するCombiFlash Rf 4xシステムを介して精製した。精製した生成物を減圧下で濃縮して、白色固体を得た(収率:o(LLA)
6-GEMの場合80%、o(DLA)
6-GEMの場合63%、o(LLA)
10-GEMの場合87%、およびo(DLA)
10-GEMの場合74%)。
【0052】
ステレオコンプレックスo(LLA)10-GEMおよびo(DLA)10-GEMの形成および特性評価。示差走査熱量測定(DSC)測定を、TA Q2000示差走査熱量計を使用して、約5~10mgの材料を含む圧着アルミニウムパンで実行した。サンプルを冷却し、50ml/分のN2パージ下で10K/分で加熱した。粉末X線回折(PXRD)パターンを、Bruker D8 Advance回折計(Bruker,Billerica,MA)を使用して、0.02°のステップサイズおよび1秒の積分時間で、2から40°2θまで室温で収集した。o(LLA)10-GEMおよびo(DLA)10-GEMのステレオコンプレックスを調製するために、等量のo(LLA)10-GEM(4mg)およびo(DLA)10-GEM(4mg)を最初に、ガラスバイアル中の100μLのアセトニトリルに溶解し、30秒間撹拌した。次いで、この溶液をDSC基板またはシリコンウェーハ上に配置し、70℃で12時間真空乾燥して、固体を得た。
【0053】
ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM、o(LLA)10-GEM、またはo(LLA)6-GEMを含有するPEG-b-PLAミセルの調製および特性評価。ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM、o(LLA)10-GEM、またはo(LLA)6-GEM負荷PEG-b-PLAミセルを、tert-ブタノール-水混合物から凍結乾燥して調製した(Fournier,E.et al.,Pharm.Res.,2004,21(6):962-968を参照)。典型的な実験では、1.0mgのo(LLA)10-GEMと、1.0mgのo(DLA)10-GEMと、10.0mgまたは20.0mgのPEG-b-PLAとを、1.0mLのtert-ブタノールに60℃で溶解し、続いて、激しく混合しながら、60℃で予熱した再蒸留水1.0mLを添加した。混合物をドライアイス/エタノール冷却浴で-70℃で2時間凍結させた。次いで、凍結乾燥を、VirTis AdVantage Pro凍結乾燥機(SP Scientific,Gardiner,NY)を使用して、実験全体を通して-20℃の棚入口温度で100μBarで72時間実行した。その後、凍結乾燥したケークを、1.0mLのMilliQ水または0.9%の生理食塩水溶液で60℃で再水和し、遠心分離し、0.2μmのフィルターを使用して濾過した。上清中の薬物含有量を、RP-HPLCによって特性評価した。同様の方法を用いて、o(LLA)6-GEMまたはo(LLA)10-GEMを負荷したPEG-b-PLAミセルを調製した。
【0054】
pH7.4のCH3CN/PBS混合物におけるステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMプロドラッグの変換。o(LLA)10-GEM(1.0mg/mL)とo(DLA)10-GEM(1.0mg/mL)との混合物を最初に、CH3CNとPBS(10mM、pH7.4)との1:1(v/v)混合物に溶解し、1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、温度調整された水浴(GCA Corporation,IL)で37℃でインキュベートした(Tam,Y.T.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2016,138:8674-8677を参照)。10μLの溶液を所定の時点で取り出し、90μLのCH3CNで希釈後、RP-HPLC分析を行った。同様に、CH3CNとPBS(10mM、pH7.4)との1:1(v/v)混合物中のo(LLA)6-GEMまたはo(LLA)10-GEMの変換を、RP-HPLCによって測定した。一次定数を、o(LLA)10-GEMとo(DLA)10-GEM、o(LLA)10-GEMまたはo(LLA)6-GEMの混合物の分解速度について計算した。各実験を3回評価し、平均値と標準偏差で報告した。
【0055】
ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルの水中での安定性。ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルを凍結乾燥により調製し(2.0mg/mL)、MilliQ水で再水和した。水中でのステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセルの安定性を、室温で監視した。10μLの溶液を所定の時点で取り出し、90μLのCH3CNで希釈後、RP-HPLC分析を行った。
【0056】
ラット血漿中のステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM負荷PEG-b-PLAミセル、o(LLA)10-GEMとo(DLA)10-GEMとの混合物、およびGEMの安定性。ラット血漿中のステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM負荷PEG-b-PLAミセル、o(LLA)10-GEMとo(DLA)10-GEMとの混合物、およびGEMの安定性を、ヘパリン化スプラーグドーリーラット血漿(Innovative Research Inc.,Novi,MI)を使用して決定した。凍結血漿サンプルを、使用前に37℃で5分間インキュベートした。ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセルまたはGEMの原液を、水中で2.0mg/mLに調製した。100μLのステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセルまたはGEM水溶液を、900μLの血漿サンプルに添加し、最終濃度を0.2mg/mLにした。o(LLA)10-GEMとo(DLA)10-GEMの混合物については、DMSO中で4.0mg/mLの原液を調製した。10μLのDMSO中の混合物を、990μLの血漿サンプルに添加し、最終濃度を0.04mg/mLにした。サンプルを、温度を調整した水浴(GCA Corporation,IL)内で37℃でインキュベートした。所定の時間間隔(0、0.5、1、2、4、および24時間)で、50μLの血漿サンプルを回収し、0.1%のギ酸を含有する100μLのアセトニトリルで希釈した。沈殿したサンプルを13,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清をRP-HPLCで分析した。
【0057】
インビトロ放出試験。ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM、o(LLA)10-GEM、またはo(LLA)6-GEM負荷PEG-b-PLAミセルを、pH7.4の10mMのPBS溶液で、0.5mg/mLに希釈した。Slide-A-Lyzer(商標)透析カセットとMWCO 20K(ThermoFisher,Waltham,MA)を使用して、2.5mLの希釈ミセル溶液を負荷した。3つの透析カセットを、37℃のCorning Hotplate Stirrer(Corning Inc.,Corning,NY)上の4LのPBS溶液(10mM、pH7.4)中に置いた。0、1、2、3、6、9、24、48、72、120、168、216、312、および504時間の時点で、100μLのサンプルを透析カセットから回収し、カセットに100μLの新しいPBS溶液(10mM、pH7.4)を補充した。シンク条件を概算するために、2、6、24、72、および168時間で外部培地を4Lの新しい緩衝液に交換した。PEG-b-PLAミセル中のステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEM、o(LLA)10-GEM、またはo(LLA)6-GEMの薬物定量化を、RP-HPLCで決定した。薬物放出の累積パーセントを計算し、半薬物放出を一次速度式に従って計算した。
【0058】
インビトロ細胞傷害性試験。GEM、または15%の負荷でのステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセルの、ヒトA549非小肺がん細胞およびPANC-1膵がん細胞に対する細胞傷害性を、CellTiter-Blue(登録商標)細胞生存率アッセイ(Promega,Madison,WI)によって検討した。A549細胞を、1,500細胞/100μL/ウェルの播種密度で96ウェルプレートに播種し、RPMI 1640培地で培養し、またはPANC-1細胞を、5,000細胞/100μL/ウェルの播種密度で96ウェルプレートに播種し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、37℃で5%のCO2インキュベータ内で24時間培養した。PBS溶液(10mM、pH7.4)中の、GEM、または15%の負荷でのステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセルを、ウェルに添加し、1~10,000nMの最終濃度を達成した。培地中の希釈PBSで培養した細胞を対照として使用した。薬物処理した細胞を、37℃の5%のCO2インキュベータ内に72時間置いた。各ウェルの培地を吸引し、無血清RPMI 1640またはDMEM中の20%(v/v)のCellTiter-Blue試薬100μLを添加し、5%のCO2雰囲気中で、37℃にて1.5時間インキュベートした。蛍光強度を、SpectraMax M2プレートリーダー(Molecular Devices,San Jose,CA)によって、それぞれ560nmおよび590nmで、励起および発光させて測定した。半最大阻害薬濃度(IC50)を、Windows用のGraphPad Prismバージョン5.00(GraphPad Software,La Jolla,CA)を使用して決定した。
【0059】
インビボ抗腫瘍効果試験。全ての動物実験は、実験動物の管理および使用に関する施設内およびNIHガイダンス(institutional and NIH guidance for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って、ウィスコンシン大学マディソン校の施設内動物の管理および使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee in University of Wisconsin-Madison)によって承認されたプロトコルの下で行われた。ウィスコンシン大学マディソン校の医学部および公衆衛生部の実験動物資源から、6~8週齢の雌の胸腺欠損ヌードマウス(各20~25g)を入手した。マウスは、水および食物に自由にアクセスできる換気されたケージに収容され、腫瘍細胞注射の前に1週間順応させた。A549細胞(100μLの無血清RPMI 1640培地中、2×106細胞)を、トリプシン処理後にサブコンフルエントな培養物から採取し、各マウスの右側腹部に皮下注射した。腫瘍の体積が約200~400mm3に達したとき、マウスを、ランダムに3つの処置群(n=3~4/群)に分けた:10mg/kgでのGEM、10mg/kgのGEM相当量での5%負荷のステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMミセル、および生理食塩水対照。薬物を、尾静脈を介して、週3回投与した。体重および腫瘍体積を、試験の過程全体にわたって監視した。腫瘍の体積は、式:V=(a×b2)/2を使用して計算し、式中、Vは腫瘍の体積であり、aは腫瘍の長さであり、bは腫瘍の幅である。
【0060】
統計分析。5%の有意水準でのスチューデントt検定を、統計分析に使用した。全てのデータ分析は、Windows用のGraphPad Prismバージョン5.00(GraphPad Software,La Jolla,CA)を使用して実行した。
【0061】
実施例2:o(LLA)
n-GEM、o(DLA)
n-GEM、またはステレオコンプレックスo(L+DLA)
n-GEMの合成
単分散系o(LLA)
nまたはo(DLA)
nを、開始剤としてベンジルアルコールおよび触媒としてスズ(II)-エチルヘキサノエート(Sn(Oct)
2)を使用して、環状L-ラクチドまたは環状D-ラクチドのいずれかの開環重合(ROP)、それに続く分別および直接水素化によって合成した。4-(N)位置でのo(LLA)
nまたはo(DLA)
nと、GEMとのアミド結合によるカップリングは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)によって媒介され、o(LLA)
n-GEM、およびo(DLA)
n-GEMプロドラッグ(n=6または10)をもたらした(
図2)。化学構造は、
1H NMR分光法および電子噴霧質量分析によって裏付けられた。
【0062】
o(LLA)
n-GEMおよびo(DLA)
n-GEMのステレオコンプレックス形成を調査するために、アセトニトリル(CH
3CN)に溶解する前に、両方のプロドラッグをガラスバイアル中で同じ質量比で混合した。次に、得られた溶液を真空オーブン内い70℃で12時間入れて、溶媒を完全に除去した。粉末X線回折(PXRD)(
図3Aならびに3C)および示差走査熱量測定(DSC)(
図3Bならびに3D)を使用して、プロドラッグの各鏡像異性体型と比較した場合の、異なる回折パターンおよび融解転移(T
m)の特定により、結晶性ステレオコンプレックスの形成を確認した。n=10のとき、広い回折パターンおよびDSC融解吸熱がないことから明らかなように、o(LLA)
10-GEMおよびo(DLA)
10-GEMは、両方とも非晶質である。対照的に、o(LLA)
10-GEMとo(DLA)
10-GEMの1:1混合物は、12.0°、20.8°、および23.9°に3つの明確な結晶性ピークを示し、これは、結晶性PLAステレオコンプレックスの形成に特有の回折シグネチャである(Ikada,Y.et al.,Macromolecules,1987,20:904-906を参照)。結晶性ステレオコンプレックスの存在は、117.8℃の融解吸熱によってさらに証明された。興味深いことに、広い回折ピークおよび融解吸熱がないことから明らかなように、n=6の場合、o(LLA)
6-GEMとo(DLA)
6-GEMとの等しい質量比をブレンドした後、結晶性ステレオコンプレックスを形成することはできない(
図3Cおよび3D)。
【0063】
実施例3:o(LLA)n-GEM、o(DLA)n-GEM、またはステレオコンプレックスo(L+DLA)n-GEMを含有するPEG-b-PLAミセルの特性評価
PEG-b-PLAミセルへのo(LLA)6-GEM、o(LLA)10-GEM、またはステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMの組み込みは、tert-ブタノール-水混合物からの凍結乾燥によって達成された。表1に示すように、o(LLA)6-GEMとo(LLA)10-GEMとの両方がPEG-b-PLAに成功裏に組み込まれ、平均流体力学的直径が約30nmで約7%の薬物負荷を含むミセルを形成した。
【0064】
(表1)o(LLA)
6-GEMとo(LLA)
10-GEM、およびステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEM負荷PEG-b-PLAミセルの物理化学的特性評価(平均±SD、n=3)
a)1.0mgのo(LLA)
6-GEMまたはo(LLA)
10-GEMおよび10.0mgのPEG
4000-b-PLA
2200を使用した。
b)1.0mgのo(LLA)
10-GEM、1.0mgのo(DLA)
10-GEMおよび20.0mgのPEG
4000-b-PLA
2200を使用した。
c)1.0mgのo(LLA)
10-GEM、1.0mgのo(DLA)
10-GEMおよび10.0mgのPEG
4000-b-PLA
2200を使用した。
d)配合物を、25℃でMilliQ水中に分散させた。
【0065】
理論に束縛されることを望むものではないが、プロ部分としてo(LLA)nをGEMに導入すると、PEG-b-PLAミセルのPLAコアにおけるGEMの互換性を高めることができると考えられている。しかしながら、ミセル内のo(LLA)6-GEMまたはo(LLA)10-GEMの負荷は、物理的安定性の向上を示さず、それぞれ24時間未満または1時間未満で沈殿した。対照的に、ステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMを含有するPEG-b-PLAミセルは、優れた物理的安定性を示し、粒径に実質的な変化はなく、薬物沈殿は168時間を超えて生じなかった。興味深いことに、5.4%および15.3%のPEG-b-PLAミセルにステレオコンプレックスo(L+DLA)10-GEMを組み込むと、流体力学的直径が、それらの非複合対化対応物と比べて、それぞれ30nmから約140nmおよび約200nmに増加した。
【0066】
o(L+DLA)
10-GEMミセルの形態を、原子間力顕微鏡(AFM)を使用してさらに検討した。
図4Aおよび4Bは、ステレオコンプレックス化ミセルの予想外の細長い構造を示している。ジブロックコポリマーを含有する他のミセルと比べて、この径の明確な違いは、ステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEMプロドラッグが、コポリマーのコアブロック間の直接ステレオコンプレックス化の代わりに、PEG-b-PLAミセルのコア内に負荷されることである。
【0067】
図5は、PEG-b-PLAミセルからのo(LLA)
6-GEMおよびo(LLA)
10-GEMの放出が、インビトロで比較的速く、t
1/2が、それぞれ約0.8時間および約4時間であることを示している。これは、GEMの親水性に起因し、PEG-b-PLAミセルの疎水性ミセルコアに対する薬物の分配の減少をもたらし、したがって薬物放出が速くなる。対照的に、ステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEMは、PEG-b-PLAミセルから5.4%および15.3%で徐々に放出され、どちらも最初の3日間の約60時間でt
1/2となり、その後3週間を通してより遅い放出速度となる(
図5)。これらのデータは、ステレオコンプレックスo(L+DLA)
10-GEMが、優れた物理的安定性および持続的な薬物放出を示す、予期しない円筒形態のPEG-b-PLAミセルに安定して負荷されたことを示している。
【0068】
オリゴ乳酸コンジュゲートの分解は、乳酸ラクトイルを段階的な鎖末端切断で切断する、アセトニトリルとリン酸緩衝生理食塩水との混合液(1:1v/vのCH
3CN/PBS)におけるo(LA)
nの最後から2番目のエステル結合の末端ヒドロキシル基の分子内バックバイティング反応によって引き起こされる。o(L+DLA)
10-GEMのバックバイティング反応速度は、PLAステレオコンプレックスの相互作用が強いために遅くなると予想されていたが、o(L+DLA)
10-GEM(λ
max=300nm)の変換は、1:1v/vのCH
3CN/PBSでの同様なバックバイティング反応速度を有することが見出され、o(LA)
8-PTXの約7.3時間に対して約6.6時間のt
1/2であった(
図6A)(Tam,Y.T.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2016,138:8674-8677を参照)。対照的に、PEG-b-PLAミセルにおけるo(L+DLA)
10-GEMの分解は著しく遅く、約630時間でのt
1/2であった(
図6B)。PEG-b-PLAミセルにおけるo(L+DLA)
10-GEMの優れた安定性は、バックバイティングを阻害する可能性がある、PEG-b-PLAミセルのPLAコアにおけるo(LLA)
10とo(DLA)
10プロ部分との間の安定したステレオコンプレックス化に原因し得る。しかしながら、o(L+DLA)
10-GEMをCH
3CN/PBS混合物に溶解した場合、o(L+DLA)
10-GEMの完全な溶解化、したがってバックバイティング変換が続くために、ステレオコンプレックス化は形成されなかった。
【0069】
GEMはシチジンデアミナーゼのような代謝酵素による血漿中の脱アミノ化の影響を受けやすく、薬理学的に不活性になる。理論に束縛されることを望むものではないが、GEMの4-(N)の位置にプロ部分の結合を導入すると、脱アミノ化部位が不明瞭になり、したがってGEMの代謝安定性が向上すると考えられている。その結果、PEG-b-PLAミセルにおける、o(L+DLA)
10-GEMの代謝安定性、およびo(L+DLA)
10-GEMのGEMとの比較を、ラットの血漿において検討した。
図7Aは、GEMが血漿中で安定ではなく、37℃での血漿中で24時間のインキュベーション後に、50%未満の無傷のGEMが検出された。驚くべきことに、o(L+DLA)
10-GEMの分解は血漿中で非常に急速であり、最初のサンプリング時点で分解種と約20%GEMのランダムな分布を生成し、バックバイティングに加えて、壊れやすいアミド結合およびエステラーゼの寄与を示唆した(
図7B)。o(L+DLA)
10-GEMがPEG-b-PLAミセルに負荷された場合、o(L+DLA)
10-GEMはステレオコンプレックス化により追加の安定性を獲得し、GEMを24時間にわたって血漿中の唯一の主要な分解種としてゆっくり生成した(
図7C)。特に、分解中間体は試験全体を通して生成されなかったことから、PEG-b-PLAミセルにおけるo(L+DLA)
10-GEMの安定したステレオコンプレックス化は、o(LLA)
nおよびo(DLA)
nのエステラーゼ分解を潜在的に防止することができることを示している。
【0070】
実施例4:ステレオコンプレックス化o(L+DLA)
n-GEMミセルのインビトロおよびインビボ抗がん活性
o(L+DLA)
10-GEMミセルの生物活性をインビトロ細胞生存率アッセイで評価し、GEMと比較して半最大阻害濃度(IC
50)をテストした。GEMが非小細胞肺がん(NSCLC)および膵がんのための第一選択治療として使用されたため、CellTiter-Blueアッセイを使用して、ヒトA549 NSCLC細胞株およびPANC-1膵がん細胞株を検討した。GEMは、それぞれ約1.1μMおよび約9.2μMで、A549(
図8A)およびPANC-1(
図8B)細胞に対して比較的低いIC
50値を有した。対照的に、o(L+DLA)
10-GEMミセルは、72時間のインキュベーション後、A549(
図8A)およびPANC-1(
図8B)細胞でGEMよりも細胞傷害性が低く、IC
50値は、それぞれ、約12.7μMおよび約97.9μMであった。インビトロ細胞傷害性データは、PEG-b-PLAミセルにおけるo(L+DLA)
10-GEMステレオコンプレックスの高い安定性および細胞傷害性の低下につながるミセルからの著しく遅いプロドラッグ放出のさらなる裏付けとなる証拠を提供した。
【0071】
インビボでのo(L+DLA)
10-GEMミセルの抗腫瘍効果を検証するために、皮下A549異種移植片を担持するマウスを通常の生理食塩水、GEM、またはGEMの10mg/kgに相当するo(L+DLA)
10-GEMミセルで、週3回のIV注射により処置した。特に、o(L+DLA)
10-GEMミセルの投与は、GEMまたは生理食塩水対照と比較して、有意な腫瘍増殖阻害を示した(
図9A)。興味深いことに、GEMで処置されたマウスの腫瘍は、生理食塩水対照よりも速い速度で増殖し、GEMが有効ではなかったことを示した(
図9A)。o(L+DLA)
10-GEMミセルの最初の投与後に体重のわずかな減少が記録されたが、全ての処置群間で有意差は観察されなかった(
図9B)。10mg/kgでのGEMの送達は、マウスの皮下腫瘍に対しては一般的に無効である。一般に、GEMの代謝不安定性に起因して、皮下腫瘍を有するマウスの腫瘍増殖を阻害するには、100mg/kgのGEMが必要である。マウスのスクアレノイルGEMナノアセンブリの報告された最大耐量(MTD)(20mg/kg)は、GEM(100mg/kg)の5分の1であった。この試験のインビボでの有効性の結果は、これらの所見によって裏付けられる。比較的低用量のGEM(10mg/kg)が使用されたが、o(L+DLA)
10-GEMミセルは、インビボで強力な抗腫瘍効果を示し、PEG-b-PLAミセルにおける安定したo(L+DLA)
10-GEMステレオコンプレックス化が、薬物作用のためにGEMを腫瘍部位に効果的に送達することができることを示唆している。
【0072】
等価物
ある特定の実施形態を例示かつ説明したが、当業者は、前述の明細書を読んだ後、本明細書に記載の本技術のコンジュゲートおよびミセルもしくはその誘導体、プロドラッグ、または薬学的組成物に変更、等価物の置換、および他の種類の変更をもたらすことができる。上記の各態様および実施形態は、他の態様および実施形態のいずれかまたは全てに関して開示されたそのような変形形態または態様もそこに含むかまたは組み込むことができる。
【0073】
本技術はまた、本技術の個別の態様の単一の例示として意図される、本明細書に記載の特定の態様に関して限定されるべきではない。当業者には明らかであるように、その意図および範囲から逸脱することなく、本技術の多くの変更および変形形態が行われ得る。本技術の範囲内の機能的に同等の方法は、本明細書に列挙されたものに加えて、前述の説明から当業者に明らかとなる。このような修正および変形は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。本技術が、特定の方法、コンジュゲート、試薬、化合物、組成物、標識化合物、または生物系に限定されず、これらは当然のことながら変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用する用語は、単に特定の態様を説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。したがって、本明細書は、添付の特許請求の範囲、その中の定義、およびそれらのいずれの等価物によってのみ示される本技術の広さ、範囲、および意図によってのみ例示とみなされることが意図される。
【0074】
本明細書で実例として説明される実施形態は、本明細書に具体的には開示されていないいかなる要素以上の要素、制限以上の制限の不在下でも好適に実施され得る。したがって、例えば、「を含んでいる(comprising)」、「を含んでいる(including)」、「を含有している(containing)」などの用語は、広範にかつ制限なしで読まれることになっている。さらに、本明細書で採用される用語および表現は、説明の用語として使用されており、制限の用語として使用されてはおらず、このような用語および表現の使用において、示されおよび説明される特徴またはその部分のいかなる等価物も除外することを意図するものではなく、特許請求された技術の範囲内で種々の変更が可能であることが認識される。さらに、「から本質的になる」という語句は、具体的に引用される複数の要素、および特許請求される技術の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響しない追加の要素を含むよう理解されることになっている。「からなる」という語句は、指定されていないいかなる要素も除外する。
【0075】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュグループに関して記載されている場合、当業者は、本開示がまた、マーカッシュグループのメンバーの任意の個別のメンバーまたはサブグループの観点から記載されることを認識するであろう。一般的な開示に含まれるより狭い種および亜属のグループ分けの各々も、本発明の一部を形成する。これには、削除された材料が本明細書に具体的に列挙されているかどうかに関係なく、属から任意の主題を除去する条件または否定的な制限を伴う本発明の一般的な説明が含まれる。
【0076】
当業者には理解されるように、いずれかのおよび全ての目的のために、特に書面による説明を提供する観点から、本明細書に開示される全ての範囲は、いずれかのおよび全ての可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせをも包含する。いかなる列挙された範囲も、少なくとも等しい半分、1/3、1/4、1/5、1/10などへと分解される同じ範囲を十分に説明および可能にするものとして容易に認識することができる。非限定例として、本明細書で考察される各範囲は、下位の1/3、中間の1/3、および上位の1/3などへと容易に分解されることができる。また、当業者によって理解されることになっているように、「最高」、「少なくとも」、「より大きな」、「より小さな」、およびこれらに類するものなどの言葉は全て、列挙された数を含み、先に考察した下位範囲へと後に分解することができる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるように、範囲は各々の個別の部材を含む。
【0077】
全ての刊行物、特許出願、発行された特許、および本明細書で参照される他の文書(例えば、ジャーナル、記事、および/または教科書)は、各々の個別の刊行物、特許出願、発行された特許、または他の文書が、その全体が参照によって組み込まれるように具体的かつ個別的に示されるように、参照によって本明細書に組み込まれる。参照によって組み込まれる本文に含まれる定義は、本開示における定義と矛盾する範囲で除外される。
【0078】
他の実施形態は、そのような特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の全範囲と共に、以下の特許請求の範囲に記載される。