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特許7495379鋸ベルトの残余寿命を予測する方法およびベルト鋸機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】鋸ベルトの残余寿命を予測する方法およびベルト鋸機
(51)【国際特許分類】
   B23D 55/00 20060101AFI20240528BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240528BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B23D55/00 A
G01M99/00 Z
B23Q17/09 B
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021100177
(22)【出願日】2021-06-16
(65)【公開番号】P2022000324
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】10 2020 116 150.6
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592234090
【氏名又は名称】コイロ ベズィッツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー エーデーファウ-ディーンストライストゥングス コマンデイトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】アルミン・シュトルツァー
(72)【発明者】
【氏名】ゼンケ・フロリアン・クレッバー
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093469(JP,A)
【文献】特開2005-219160(JP,A)
【文献】特開2005-081450(JP,A)
【文献】特開2003-340684(JP,A)
【文献】特開平06-226528(JP,A)
【文献】特開平03-221355(JP,A)
【文献】特開平01-257510(JP,A)
【文献】特開昭61-279422(JP,A)
【文献】特公平05-025609(JP,B2)
【文献】欧州特許出願公開第00376257(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/229870(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018118369(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第105094077(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 45/00-65/04
G01M 99/00
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト鋸機における鋸ベルト(5)の残余寿命を予測する方法であって、
前記ベルト鋸機において緊張された前記鋸ベルト(5)の挙動または特性が、前記ベルト鋸機の運転中に少なくとも1つのセンサ装置によって監視され、
前記センサ装置のセンサ信号に基づいて確定された、前記鋸ベルト(5)の挙動または特性の経時的変化が、ベルト破断の時点に関する診断のために使用される、方法において、
前記少なくとも1つのセンサ装置により前記鋸ベルト(5)の挙動または特性を、前記鋸ベルト(5)と作用接続する、前記ベルト鋸機の構成部材における変化を検知することによって間接的に監視し、
前記センサ装置により、前記鋸ベルト(5)用の緊張装置(8)における距離変化が監視され、進行した距離区間が、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な所定の絶対限界値に達する場合、または距離変化が、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な所定の相対限界値に達する場合、警報指示または診断が生成され、
および/または、
前記センサ装置により、ベルト案内装置(7)における張力の変化または前記ベルト案内装置(7)の弾性変形の変化が監視され、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、前記変化に対する所定の相対限界値に達する際、および/または、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、前記弾性変形または張力の所定の絶対限界値に達する際に、警報指示または診断が生成され、
緊張装置(8)において進行した距離区間および/またはベルト案内装置(7)の弾性変形または前記ベルト案内装置(7)における張力の所定の絶対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式かつ同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、距離区間または弾性変形または張力のうちの小さい方の値として求められ、前記値より小さい場合には規定の確率でベルト破断は発生せず
および/または、
ベルト案内装置(7)における張力の変化または前記ベルト案内装置(7)の弾性変形の変化に対する所定の相対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式および同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、変化の小さい方の値として求められ、前記値より小さい場合には規定の確率でベルト破断は発生しない、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記センサ装置として、前記鋸ベルト(5)の伸びを間接的に検出する装置が使用される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサ装置として、少なくとも1つの変位センサ(9)、または力測定センサが使用される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記センサ装置として、前記緊張装置(8)の、位置発生器を備える電気モータとして構成された駆動部が使用される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
距離変化の所定の相対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式および同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、変化の大きい方の値として求められ、前記値より大きい場合には規定の確率でベルト破断は発生しない、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2つの回転ホイール(3,4)の周りを周回し、これら回転ホイールの間に緊張された鋸ベルト(5)と、前記鋸ベルト(5)用の緊張装置(8)であって、前記回転ホイール(3,4)の少なくとも1つに作用し、前記回転ホイール(3,4)間の間隔を変化することによって前記鋸ベルト(5)の緊張を実質的に一定に保持する緊張装置と、を備えるベルト鋸機において、
前記鋸ベルト(5)と直接または間接的に接続された、前記ベルト鋸機の構成部材における変化を検知するためのセンサ装置であって、請求項1からの少なくとも一項に記載の方法を実施するためのセンサ装置と、検知された値を評価し、警報指示または診断を生成するための評価ユニットと、を備え、
前記センサ装置は、前記鋸ベルト(5)用の前記緊張装置(8)における距離変化を監視するように構成されており、前記評価ユニットは、前記センサ装置から、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、進行した距離区間の所定の絶対限界値に達したこと、または、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、前記距離変化の所定の相対限界値に達したことが通知される際に、警報指示または診断を生成する手段を含み、
および/または、
前記センサ装置は、ベルト案内装置(7)における張力の変化、または前記ベルト案内装置(7)の弾性変形の変化を監視するように構成されており、前記評価ユニットは、前記センサ装置から、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、前記変化に対する所定の相対限界値に達したこと、および/または、到達されると前記鋸ベルト(5)の特定の最小残余寿命を統計的に仮定することが可能な、弾性変形ないし張力の所定の絶対限界値に達したことが通知される際に、警報指示または診断を生成する手段を含み、
緊張装置(8)において進行した距離区間および/またはベルト案内装置(7)の弾性変形または前記ベルト案内装置(7)における張力の所定の絶対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式かつ同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、距離区間または弾性変形または張力のうちの小さい方の値として求められ、前記値より小さい場合には規定の確率でベルト破断は発生せず、
および/または、
ベルト案内装置(7)における張力の変化または前記ベルト案内装置(7)の弾性変形の変化に対する所定の相対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式および同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、変化の小さい方の値として求められ、前記値より小さい場合には規定の確率でベルト破断は発生しない、ことを特徴とするベルト鋸機。
【請求項7】
前記ベルト鋸機の構成部材における変化を検知するための前記センサ装置は、前記鋸ベルト(5)の伸びを間接的に検出するためのセンサ装置である、ことを特徴とする請求項に記載のベルト鋸機。
【請求項8】
前記センサ装置は、少なくとも1つの変位センサ(9)、または力測定センサを含む、ことを特徴とする請求項6又は7に記載のベルト鋸機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による、ベルト鋸機における鋸ベルトの残余寿命を予測する方法、並びに少なくとも2つの回転ホイールの周りを周回し、回転ホイールの間に緊張された鋸ベルトと、鋸ベルト用の緊張装置であって、回転ホイールの少なくとも1つに作用し、回転ホイール間の間隔を変化させることによって鋸ベルトの緊張を実質的に一定に保持する緊張装置と、を備えるベルト鋸機に関する。
【背景技術】
【0002】
本形式の方法は、鋸機内に緊張された鋸ベルトの挙動または選択された特性を、鋸機の運転中に少なくとも1つのセンサ装置によって監視することにより、ベルト鋸機の鋸ベルトの残余寿命を予測することを可能にする。鋸ベルトの挙動または選択された特性の経時的変化を、センサ装置の測定信号に基づいて確定することができ、このような変化は、ベルト破断の確率的時点または最早期の時点を診断するために使用される。
【0003】
本形式のベルト鋸機では、十分な鋸引き結果を達成できるようにするため、周回する鋸ベルトを緊張させなければならない。少なくとも2つの、典型的にはちょうど2つの回転ローラの周りを周回する鋸ベルトは、調節可能な回転ホイールによって緊張される。すなわち、鋸ベルトが回転ホイールに掛けられた後、鋸ベルトを緊張するために調節可能な回転ホイールが外側に向かって動かされる。とりわけ金属鋸の場合、ベルト張力は、加工物の切断抵抗が高いため、比較的に大きな機械的張力に曝されざるを得ない。
【0004】
運転中に鋸ベルトは、回転ホイール周りでの鋸ベルトの変向の際に、とりわけ曲げ交互負荷のため、緊張下で大きな機械的負荷に曝される。加工物における所望の鋸引き断面は、回転ホイールの軸に対して通常は平行ではないため、鋸ベルトは、回転ホイールから到来すると、切断面に回転して入り、切断領域を通過した後、再び切断面から回転して出なければならない。後者は、ベルト案内部によって行われるが、このベルト案内部には付加的な曲げ交互負荷が発生する。
【0005】
鋸ベルトの機械的負荷は、時間とともに材料疲労を引き起こし、この材料疲労は、ベルト材料の微細クラックに現れる。微細クラックは、時間とともに数および長さが増大し、主に負荷下での鋸ベルトの破断に至る。
【0006】
鋸引き過程中のベルト破断は、特に回避すべきである。なぜなら、負荷下でのベルト破断の場合には事故の危険性が特に高く、加工物が損傷を受け、破断した鋸ベルトを切断チャネルから除去することができなくなるからである。したがって鋸引き過程の開始前に鋸ベルトが、金属鋸の場合は典型的には数分の、しかし時には1時間から2時間続く次の鋸引き過程を、ベルト破断することなく完了できるか否かを診断する必要がある。
【0007】
鋸ベルトの残余寿命を予測することの必要性は、自動鋸引き運転の場合はさらに格段に高くなる。例えば、無人で鋸引きが行われる夜間シフトの開始時のベルト破断は、これにより製造の長い停止状態が引き起こされるため、それだけで大きな損害の原因となり得ることが明らかである。
【0008】
鋸ベルトの残余寿命を、典型的な鋸ベルト寿命および既に実行された鋸引き過程に基づいて予測することでは、経験上有用な結果をほとんど得られない。なぜなら、製造公差があるため、ベルト寿命のばらつきが同一形式の鋸ベルト中でも大きいからである。
【0009】
鋸ベルトの可視のクラックを定期的に点検することも、特にそのために製造を中断しなければならないため、現実的ではないことが判明している。
【0010】
したがって特許文献1では、ベルト鋸機における鋸ベルトの残余寿命を、鋸機内に緊張された鋸ベルトの振動挙動を、鋸機の運転中に誘導性、容量性、接触式、または光学的センサによって監視することにより予測することが提案された。ベルト破断前のしばらくの間、選択された周波数領域内で鋸ベルトの振動運動が強まったと感じられ、振動挙動の当該変化を識別すると、差し迫ったバンド破断に対する警報信号がトリガされる。
【0011】
とりわけ、運転中の鋸ベルトの振動挙動は、多数の種々異なる要因および周辺条件によって影響を受ける。したがって、ベルト振動の振幅変化から鋸ベルトの残余寿命がどのように予測されるかは、簡単には再現できない。検出すべき材料疲労に起因する振動作用には、別の原因による振動と振動変化とが重畳される。
【0012】
それに加えて、鋸機内に緊張された鋸ベルトの振動挙動を鋸機の運転中に監視するためのセンサは、過酷な環境条件のため故障しやすく、頻繁なメンテナンスが必要であり、また高価な特製品でなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】独国特許出願公開第102018118369号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明の基礎とする課題は、請求項1の上位概念による、ベルト鋸機において鋸ベルトの残余寿命を予測する方法、並びに請求項10の上位概念によるベルト鋸機を提案することであり、これらは、鋸機内に緊張された鋸ベルトの挙動または特性の監視を別のやり方で可能にし、その際に頑強かつ複雑でないセンサ系により実現可能であるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、請求項1の特徴を備える方法、並びに請求項10の特徴と備えるベルト鋸機によって解決される。
【0016】
本発明の方法の好ましい実施形態は請求項2から9に見出され、本発明のベルト鋸機の有利な発展形態は請求項11から15に記載されている。
【0017】
本発明によれば、ベルト鋸機において鋸ベルトの残余寿命を予測する方法のために、これまでのように、鋸機内に緊張された鋸ベルトの挙動または選択された特性が、鋸機の運転中に少なくとも1つのセンサ装置によって監視され、センサ装置のセンサ信号に基づいて確定された、鋸ベルトの挙動または特性の経時的変化が、ベルト破断の時点に関する診断のために使用される。従来技術では、鋸ベルトの特性(振動挙動)が、ベルト破断の時点に関する診断を行うためにセンサ装置によって直接監視されるが、本発明によれば、鋸ベルトの間接的な監視が行われる。すなわち、鋸機の、鋸ベルトと作用接続している構成部材が監視され、これは、鋸機のそのような構成部材において変化を少なくとも1つのセンサ装置によって検知することにより行われる。そして対応する測定データから、鋸ベルトの挙動または選択された特性を推定することができる。
【0018】
鋸ベルトの挙動または特性を運転中に監視するこの新規のコンセプトは、頑強であり複雑でないセンサ系の使用を可能にする。このことは、鋸ベルトの振動挙動を直接監視する場合には不可能である。しかしとりわけ、本発明のアプローチは、ベルト破断の診断あるいは鋸ベルトの残余寿命の予測に対して一義的なデータベースを可能にする。なぜなら、鋸ベルトの挙動性または特性を間接的に監視することができ、これに対しては、鋸ベルトの振動挙動に対するよりも格段に少ない要因しか作用しないからである。
【0019】
少なくとも2つの回転ホイールの周りを周回し、これら回転ホイールの間に緊張された鋸ベルトと、鋸ベルト用の緊張装置であって、回転ホイールの少なくとも1つに作用し、回転ホイール間の間隔が変化することによって鋸ベルトの緊張を実質的に一定に保持する緊張装置と、を備える本発明のベルト鋸機は、本発明により、鋸ベルトと直接または間接的に作用接続する、鋸機の構成部材における変化を検知するためのセンサ装置を含み、これによりこのセンサ装置は、本発明の方法を実施するのに適する。検知された測定値を評価し、警報指示を生成または診断を出力するための評価ユニットも同様に、本発明のベルト鋸機の一部である。
【0020】
本発明の方法を実現するための特に有利な可能性は、鋸ベルトの伸びを間接的に検出し監視することである。出願人の実験は、特定の形式および特定の寸法の鋸ベルトが、確かに異なる速度で伸びることを示すが、ベルト破断までの伸びの大きさは、それぞれベルト張力を一定に保つ場合には、伸び速度のばらつきよりも格段に狭い範囲にある。したがって伸びの限界値を同定するためには、特定の形式の鋸ベルトによるいくつかの実験で十分であり、限界値に達すると、高い確率でベルト破断が所定の時間インターバル内で発生し、あるいは限界値以下ではベルト破断が高い確率で予想されない。特定の形式の鋸ベルトの全寿命における通常のばらつきは、これに重大な影響を及ぼさない。このばらつきは、本発明によれば±50%の範囲内にあるので、本発明の診断は大きな利点を提供する。
【0021】
特に有利には、鋸ベルトの伸びを、本発明によれば間接的に、鋸ベルト用の緊張装置における距離変化を介して監視あるいは検知することができる。鋸ベルトは伸びた際に、回転ローラを緊張装置によって増大的にさらに外側に移動することによって再緊張されるから、緊張装置におけるこの距離変化を、例えば安価で頑強な変位センサ、とりわけ少なくとも1つのロータリエンコーダ、伸線エンコーダまたは歪みゲージにより単に監視するだけで十分である。緊張装置が電動的に調節される場合、位置発生器を備える電気モータとして構成された駆動部をセンサ装置として使用することもでき、その結果、緊張装置における距離変化を、付加的なセンサ系なしで、電気モータの位置発生器を使用することにより監視することができる。
【0022】
別の特に好ましい本発明の方法の実現では、ベルト案内装置の監視が行われ、ベルト案内装置における張力の変化、又はベルト案内装置の弾性変形が検知される。
【0023】
ベルト案内装置は、冒頭に記載したように、鋸ベルトを鋸引き領域の前後で捩るので、緊張された鋸ベルトの相応の復帰力を吸収しなければならない。鋸ベルトの復帰力の変化は、出願人の実験が示すように、差し迫ったベルト破断を示唆することができる。これは通常、復帰力の変化が加速する場合、すなわち鋸ベルトの捩じれ応力が加速的に減少する場合である。
【0024】
ベルト案内装置における張力またはベルト案内装置の弾性変形の変化も、変位センサ、とりわけ少なくとも1つの歪みゲージ、または力測定センサにより非常に容易に監視することができ、これらは全て簡単かつ頑強な測定値発生器である。
【0025】
したがって鋸ベルトと作用接続する、鋸機の種々の構成部材を監視することにより、鋸ベルトの種々の特性を間接的に監視することができ、とりわけ伸びを、好ましくは緊張装置またはその駆動機構の監視により、または捩じれ応力を、好ましくはベルト案内装置の張力および/または弾性変形の監視により監視することができる。ここでは、距離変化、張力変化または弾性変形に対する絶対限界値が存在し、それらに達すると、特定の最小残余寿命を統計的に前提とすることができることが判明した。その他に、検知された構成部材には変化の相対限界値が存在する。すなわち、変化の増大速度に対する限界値であり、この限界値に達すると、同様に鋸ベルトの特定の最小残余寿命を前提とすることができる。この関連性は、鋸ベルトの伸びにおいても、その捩じれ応力の減少においても観察される。
【0026】
この点で、本発明のセンサ装置により、鋸ベルト用の緊張装置における距離変化を監視できるので、一定のベルト張力があるため鋸ベルトの伸びに対応する、進行した距離変化が所定の絶対限界値に達すると、または距離変化が所定の相対限界値に達すると、警報指示が発生される。この警報指示は直接出力することができ、または鋸機ないしオペレータの電子的データ処理部で診断のためにさらに処理することができる。
【0027】
本発明のセンサ装置は、択一的にまたは追加的に、ベルト案内装置の張力の変化またはベルト案内装置の弾性変形の変化を監視し、鋸ベルトの捩じれ応力の減少を識別することもできる。変化に対する所定の相対限界値において、および/または弾性変形あるいは張力が所定の絶対限界値に達する場合、さらに警報指示を発生することができ、この警報指示は、それとして出力されるか、または診断を出力できるようにするためベルト鋸機またはオペレータのEDV(電子的データ処理部)に出力される。
【0028】
緊張装置において進行した距離変化および/またはベルト案内装置の弾性変形またはベルト案内装置における張力の所定の絶対限界値は、好ましくは一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式かつ同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、距離区間または弾性変形または張力のうちの小さい方の値として求められ、この値より小さいと、規定の、例えば90%の確率でベルト破断は発生しない。
【0029】
対応して、距離変化の所定の相対限界値、またはベルト案内装置における張力の変化またはベルト案内装置の弾性変形の変化に対する所定の相対限界値は、一定のベルト張力におけるアイドリング運転でのベルト破断までの、同じ形式かつ同じ寸法の鋸ベルトによる一連の実験によって、形式および寸法固有に、変化の小さい方の値として求められ、この値より小さい場合、規定の、例えば90%の確率でベルト破断は発生しない。
【0030】
添付図面に基づき、本発明の方法並びに本発明に従って装備されたベルト鋸機に関する実施例を以下に記載し、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】ベルト鋸機の概略図である。
図2図1のベルト鋸機の緊張装置の概略図である。
図3図1のベルト鋸のベルト案内装置の概略図である。
図4】複数の同一形式の鋸ベルトを用いた実験の、ベルト鋸機の緊張装置で測定された測定曲線を示す図である。
図5】複数の同一形式の鋸ベルトを用いた実験の、ベルト案内装置において測定された測定線図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、鋸下部1と鋸上部2とを備えるベルト鋸機を概略的に示し、鋸下部1には鋸引すべき加工物が載置され、鋸上部2は、鋸下部1に対して相対的に上方および下方に可動である。鋸上部2には2つの回転ホイール3,4、すなわち固定の回転ホイール3と、この場合は水平に可動の回転ホイール4とが配置されており、これらのうちの少なくとも1つが駆動される。これら回転ホイール3,4の周りに鋸ベルト5が張られている。鋸引き運動を実行するために、鋸ベルトは、2つの回転ホイールの3,4の周りを周回する。
【0033】
鋸ベルト5が鋸上部2の沈下により加工物に当たる鋸引き領域6では、鋸ベルト5が2つのベルト案内装置7によって、回転ホイール3,4の軸に対して平行であり、ここでは水平に配向されている周回運動面から、ここでは垂直に配向されている切断面に回転される。調節可能な回転ホイール4にも、ベルト案内装置7にも、本発明のセンサ装置が設けられており、以下に詳細に説明する。
【0034】
図2は、図1の詳細を示し、鋸ベルト5用の調節可能な回転ホイール4と、付属の緊張装置8とが示されている。緊張装置は、ここではピストンシリンダユニットから構成されており、調節可能な回転ホイール4を液圧的に外側に移動させ、所定の液圧により保持し、それにより鋸ベルト5は一定の張力で緊張される。鋸ベルト5が伸びると、回転ホイール4は、緊張装置8に作用する液圧により鋸ベルト5の張力が再び目標値に達するまで後調節される。
【0035】
緊張装置8、正確に言えばピストンシリンダユニットには、変位センサ9が存在し、この変位センサは、例えば伸線エンコーダとして構成することができ、シリンダを回転ホイール4の軸と接続し、回転ホイール4が再緊張される際に進む距離の大きさを監視する。再調節運動の平均速度の変化も、このようにして監視することができるであろう。
【0036】
図3は、図1の鋸機の2つのベルト案内装置7の一方の詳細図である。このベルト案内装置7は、2つのベルト案内ローラ10および保持プレート11から構成されており、ベルト案内ローラ10は、鋸ベルト5の側面上を転動し、鋸ベルト5を捩るのに必要な力をこれに伝達し、保持プレート11にはベルト案内ローラ10が保持され、支承されている。ベルト案内ローラ10により生じる捩れに対抗する鋸ベルト5の復帰力により、トルクMが保持プレート11に作用し、このトルクは、保持プレート11の僅かな弾性変形を引き起こす。とりわけ鋸ベルト5の捩じれ応力の減少、すなわちトルクMの減少に起因する、この変形の変化は、ここでは歪みゲージとして構成され、保持プレート11に取り付けられた変位センサ9によって検知することができる。
【0037】
図4は、複数の測定曲線の線図を示し、各測定曲線が1つの実験を示す。鋸ベルト5の張力を一定に保った際の、調節可能な回転ホイール4の調節の距離が時間軸上にプロットされている。新品状態の複数の鋸ベルトが、同一の鋸機に、あるいは2つの回転ホイール3,4に掛けられ、緊張され、その後、回転ホイール4の調節距離がゼロにセットされた。次に、鋸ベルト5がアイドリング運転され、すなわち鋸引く加工物なしでベルト破断まで鋸機で運転された。
【0038】
図4から分かるように、それぞれ同一の鋸機状に掛けられた同じ形式かつ同じ寸法、ここでは背の高さが54mmの鋸ベルトであるにもかかわらず、ベルト破断までの鋸ベルトの寿命は、約20時間から約80時間まで大きくばらついた。しかし本発明によれば、ベルト破断は常に、これが20時間後であろうが、30時間後であろうが、調節可能な回転ホイール4が少なくとも1.5mmの距離を移動した後に初めて生じることが認識された。
【0039】
したがって、非常に安価で頑強であり、1mmの10分の1までだけを正確に測定すればよい変位センサにより、ベルト破断の最早期の時点について診断を行うことが可能である。本例では、進行した距離区間の絶対限界値を1.4から1.5mmとして使用すれば、高い確率で次の2~3時間以内はベルト破断を危惧する必要がないと診断することができる。
【0040】
図5には、測定値の測定線図が示されている。これら測定値は、ベルト案内装置7の保持プレート11にある、歪みゲージとして構成された変位センサ9で検出されたものであり、保持プレート11における張力に相当するフォームファクタに変換されている。このフォームファクタは、時間単位で時間軸上にプロットされている。ここでも、同じ形式かつ同じ寸法の複数の鋸ベルトが再び同一のベルト鋸機上で新品状態からバンド破断までアイドリングで運転された。
【0041】
図5から分かるように、フォームファクタの値は、ベルト破断の約1~3時間前に大きく上昇する。これは、フォームファクタに対して絶対限界値を規定するのに使用することができ、この絶対限界値より上では、ベルト破断が次の1~3時間内に生じる可能性が非常に高い。択一的にまたは補充的に、張力の変化の相対限界値を規定することもでき、この相対限界値はさらに、フォームファクタ、ひいては保持プレート11における張力が加速的に変化し、1~3時間以内にベルト破断が予想されることを示す。
【0042】
したがって本発明によれば、鋸機での運転時に鋸ベルトの特性または挙動を監視し、ベルト破断が差し迫るまで、まだどれだけの時間があるかを推定し、これによりベルト破断の時点についての診断を可能にするために、鋸ベルトを直接検知することはまったく不要であることが認識された。むしろ、鋸ベルトが作用接続している、鋸機の構成部材における変化を検知するにはEQで十分である。
【0043】
さらに本発明の枠内で、高い確率で差し迫るベルト破断と、鋸ベルトの伸びの増大またはその捩じれ応力の減少との単純な関係が鋸機の運転中に識別され、鋸ベルトのこの特性は、鋸ベルトと作用接続する構成部材において間接的に識別することができる。したがって本発明によれば、鋸ベルトを面倒でエラーに脆弱なセンサ系によって直接監視することは、もはや不要である。
【符号の説明】
【0044】
1 鋸下部
2 鋸上部
3 回転ホイール(固定)
4 回転ホイール(調節可能)
5 鋸ベルト
6 鋸引き領域
7 ベルト案内装置
8 緊張装置
9 変位センサ
10 ベルト案内ローラ
11 保持プレート
F 力
M トルク
図1
図2
図3
図4
図5