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特許7495390FGFR1変異陽性脳腫瘍を治療するための医薬組成物及び治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】FGFR1変異陽性脳腫瘍を治療するための医薬組成物及び治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240528BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021502074
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006464
(87)【国際公開番号】W WO2020171113
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/006265
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 洋
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晃敬
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108809(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008844(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008839(WO,A1)
【文献】SINGH, Devendra et al.,Transforming Fusions of FGFR and TACC Genes in Human Glioblastoma,Science,2012年09月07日,Vol. 337, Issue 6099,pp. 1231-1235,DOI: 10.1126/science.1220834
【文献】PATANI, Harshnira et al.,Landscape of activating cancer mutations in FGFR kinases and their differential responses to inhibit,Oncotarget,2016年03月16日,Vol. 7, No. 17,pp. 24252-24268,DOI: 10.18632/oncotarget.8132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、以下の(i)~(iv)
(i) FGFR1の546番目のアスパラギンが他のアミノ酸で置換された変異、
(ii) FGFR1の656番目のリジンが他のアミノ酸で置換された変異、
(iii) FGFR1の661番目のアルギニンが他のアミノ酸で置換された変異、
(iv) FGFR1-TACC1融合タンパク質又はFGFR1-TACC1融合遺伝子、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するFGFR1変異陽性脳腫瘍患者を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の546番目のアスパラギンがリジン又はアスパラギン酸に置換されたFGFR1変異を有する、請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の656番目のリジンが、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、又はメチオニンに置換されたFGFR1変異を有する、請求項記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の661番目のアルギニンが、プロリンに置換されたFGFR1変異を有する、請求項記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記脳腫瘍患者が、N546K、N546D、K656E、K656D、K656N、K656M、R661P、FGFR1-TACC1融合タンパク質及びFGFR1-TACC1融合遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種を有するFGFR1変異を有する、請求項記載の医薬組成物。
【請求項6】
脳腫瘍が膠芽腫、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、退形成性神経節膠腫、ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍、上衣腫、髄芽腫、脳幹神経膠腫、頭蓋咽頭腫、下垂体前葉腫瘍、褐色細胞腫、脊索腫、海綿芽細胞腫、頭頚部がん、脈絡叢乳糖腫、脈絡叢癌、乏突起神経膠腫、又は退形成性乏突起神経膠腫である、請求項1~5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が前記脳腫瘍患者に連日投与されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項8】
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が前記脳腫瘍患者に間歇投与されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記投与が以下の(i)~(v)のいずれかの投与スケジュールで投与される、請求項8記載の医薬組成物。
(i) 1週間で1サイクルの投与スケジュールであって、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おきに2回以上投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
(ii)14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おき(ある投与日と次の投与日との間隔が1~3日)に4~7回投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
(iii) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第4日目、第8日目及び第11日目に投与される、投与スケジュール;
(iv) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第7日目、第9日目、第11日目及び第13日目に投与される、投与スケジュール;
(v) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第8日目、第10日目及び第12日目に投与される、投与スケジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGFR1変異陽性脳腫瘍を治療するための医薬組成物及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子(FGF;fibroblast growth factor)は幅広い組織で発現が見られ細胞の増殖分化を司る増殖因子の一つである。FGFの生理学的活性は、特異的な細胞表面受容体である線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR;fibroblast growth factor receptor)によって媒介される。FGFRは、受容体型のタンパク質チロシンキナーゼファミリーに属し、細胞外リガンド結合ドメイン、1回膜貫通ドメイン及び細胞内チロシンキナーゼドメインから構成されており、これまでに4種類のFGFRが同定されている(FGFR1、FGFR2、FGFR3及びFGFR4)。FGFRは、FGFの結合によって二量体を形成し、リン酸化により活性化される。受容体の活性化は、下流の特定のシグナル伝達分子の動員及び活性化を誘導し、生理機能を発現する。
【0003】
FGF/FGFRシグナル伝達の異常は、ヒトの各種癌との関連性について報告がある。ヒトの癌におけるFGF/FGFRシグナルの異常な活性化は、FGFRの過剰発現及び/又は遺伝子増幅、遺伝子変異、染色体の転座、挿入及び逆位、遺伝子融合、リガンドであるFGFの過剰産生によるオートクリン又はパラクリン機構等に起因するとされている(非特許文献1、2、3)。
【0004】
脳腫瘍においては、FGFR1のN546K、K656E,K656D、K656N又はK656Mなどの1アミノ酸置換突然変異やTACC1(transforming acidic coiled-coil containing protein 1)融合体が報告されており、このような遺伝子変異が癌化の原動力(driving force)となっている可能性が示唆されている(非特許文献4、5)。
【0005】
FGFR阻害効果を有する二置換ベンゼンアルキニル化合物が報告されており(特許文献1)、これらの化合物が特定のFGFR2変異を持つ癌に有効であること(特許文献2)、投与スケジュールとして間歇投与が有用であり得ること(特許文献3)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2013/108809パンフレット
【文献】国際公開WO2015/008844パンフレット
【文献】国際公開WO2015/008839パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Clin. Oncol.,24,3664-3671(2006)
【文献】Mol. Cancer Res.,3(12),655-667(2005)
【文献】Cancer Res.,70(5),2085-2094(2010)
【文献】Nat. Genet.,45(8),927-932(2013)
【文献】Science.,337(6099),1231-1235(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、FGFR1変異を有する脳腫瘍を治療するための医薬組成物及び当該医薬組成物を用いた治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンが、変異を有するFGFR1のリン酸化を阻害し、FGFR1変異を有する脳腫瘍に対して優れた抗腫瘍効果を有することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、次の〔1〕~〔23〕を包含する。
【0011】
〔1〕
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、FGFR1変異陽性脳腫瘍患者を治療するための医薬組成物。
〔2〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の546番目のアスパラギンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔3〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の546番目のアスパラギンがリジン又はアスパラギン酸に置換されたFGFR1変異を有する、〔2〕記載の医薬組成物。
〔4〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の656番目のリジンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔5〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の656番目のリジンが、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、又はメチオニンに置換されたFGFR1変異を有する、〔4〕記載の医薬組成物。
〔6〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の661番目のアルギニンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔7〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の661番目のアルギニンが、プロリンに置換されたFGFR1変異を有する、〔6〕記載の医薬組成物。
〔8〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1-TACC1融合タンパク質又はFGFR1-TACC1融合遺伝子を有する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔9〕
前記脳腫瘍患者が、N546K、N546D、K656E、K656D、K656N、K656M及びR661Pからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸変異、又はFGFR1-TACC1融合タンパク質若しくはFGFR1-TACC1融合遺伝子を有するFGFR1変異を有する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔10〕
脳腫瘍が膠芽腫、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、退形成性神経節膠腫、ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍、上衣腫、髄芽腫、脳幹神経膠腫、頭蓋咽頭腫、下垂体前葉腫瘍、褐色細胞腫、脊索腫、海綿芽細胞腫、頭頚部がん、脈絡叢乳糖腫、脈絡叢癌、乏突起神経膠腫、又は退形成性乏突起神経膠腫である、〔1〕記載の医薬組成物。
〔11〕
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の有効量を、FGFR1変異陽性脳腫瘍患者に投与する工程を含む、FGFR1変異陽性脳腫瘍の治療方法。
〔12〕
脳腫瘍の患者由来の試料中から、FGFR1タンパク質又はFGFR1遺伝子の変異を検出する工程、FGFR1タンパク質又はFGFR1遺伝子の変異が検出された患者に(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与する工程を含む、〔11〕に記載の方法。
〔13〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の546番目のアスパラギンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔11〕記載の方法。
〔14〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の546番目のアスパラギンが、リジン又はアスパラギン酸で置換されたFGFR1変異を有する、〔13〕記載の方法。
〔15〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の656番目のリジンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔11〕記載の方法。
〔16〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の656番目のリジンが、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、又はメチオニンに置換されたFGFR1変異を有する、〔15〕記載の方法。
〔17〕
FGFR1変異陽性脳腫瘍が、FGFR1の661番目のアルギニンが他のアミノ酸で置換された変異を有する、〔11〕記載の方法。
〔18〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1の661番目のアルギニンが、プロリンに置換されたFGFR1変異を有するFGFR1変異陽性脳腫瘍である、〔17〕記載の方法。
〔19〕
前記脳腫瘍患者が、FGFR1-TACC1融合タンパク質又はFGFR1-TACC1融合遺伝子を有する、〔11〕記載の方法。
〔20〕
前記脳腫瘍患者が、N546K、N546D、K656E、K656D、K656N、K656M及びR661Pからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸変異、又はFGFR1-TACC1融合タンパク質若しくはFGFR1-TACC1融合遺伝子を有するFGFR1変異を有する、〔11〕記載の方法。
〔21〕
脳腫瘍が膠芽腫、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、退形成性神経節膠腫、ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍、上衣腫、髄芽腫、脳幹神経膠腫、頭蓋咽頭腫、下垂体前葉腫瘍、褐色細胞腫、脊索腫、海綿芽細胞腫、頭頚部がん、脈絡叢乳糖腫、脈絡叢癌、乏突起神経膠腫、又は退形成性乏突起神経膠腫である、〔11〕記載の方法。
〔22〕
前記投与が連日投与又は間歇投与である、〔11〕記載の方法。
〔23〕
前記投与が以下の(i)~(v)のいずれかの投与スケジュールで投与される、〔11〕記載の方法。
(i) 1週間で1サイクルの投与スケジュールであって、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おきに2回以上投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
(ii)14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おき(ある投与日と次の投与日との間隔が1~3日)に4~7回投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
(iii) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第4日目、第8日目及び第11日目に投与される、投与スケジュール;
(iv) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第7日目、第9日目、第11日目及び第13日目に投与される、投与スケジュール;
(v) 14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第8日目、第10日目及び第12日目に投与される、投与スケジュール。
【0012】
本発明は、以下の態様にも関する。
・FGFR1陽性脳腫瘍の治療のための、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩。
・FGFR1陽性脳腫瘍の治療のための、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の使用。
・FGFR1陽性脳腫瘍の医薬組成物を製造するための、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、FGFR1変異陽性脳腫瘍に対し、優れた抗腫瘍効果を奏する腫瘍治療を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、FGFR1変異陽性脳腫瘍患者を治療するための医薬組成物、及び当該医薬組成物を用いたFGFR1変異陽性脳腫瘍の治療方法に関する。
【0015】
(S)-1-(3-(4-アミノ-3-((3,5-ジメトキシフェニル)エチニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(以下、「化合物1」と称す)は、下記の構造を有する二置換ベンゼンアルキニル化合物であり、特に限定するものではないが、例えば国際公開WO2013/108809号に記載の製造方法に基づき合成することができる。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明において、化合物1はそのまま、又は薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。化合物1の薬学的に許容される塩としては、特に限定するものではないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸との付加塩、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸との付加塩、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、エチルアミン塩、アルギニン塩等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0018】
本発明において「FGFR1」とは、ヒト又は非ヒト哺乳動物のFGFR1を含み、好ましくはヒトFGFR1である。ヒトFGFR1のGene IDは2260である。また、FGFR1タンパク質は、そのスプライシングバリアントであるアイソフォームを含み、ヒト由来のものであれば、例えば、GenPeptアクセッション番号NP_075598で示されるアミノ酸配列(配列番号1)からなるポリペプチドが挙げられる。
【0019】
本発明において「TACC1」とは、ヒト又は非ヒト哺乳動物のTACC1を含み、好ましくはヒトTACC1である。ヒトTACC1のGene IDは6867である。また、TACC1タンパク質は、そのスプライシングバリアントであるアイソフォームを含み、ヒト由来のものであれば、例えば、GenPeptアクセッション番号NP_001116296で示されるアミノ酸配列(配列番号2)からなるポリペプチドが挙げられる。
【0020】
本発明において「FGFR1変異」とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、546番目のアスパラギン、656番目のリジン及び661番目のアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列からなるFGFR1タンパク質若しくは当該アミノ酸配列をコードするFGFR1遺伝子、又はFGFR1とTACC1が融合したアミノ酸配列からなるFGFR1-TACC1融合タンパク質若しくは当該アミノ酸配列をコードするFGFR1-TACC1融合遺伝子を意味する。「他のアミノ酸」は、Ala、Cys、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、Tyrから選ばれ、かつ、元のアミノ酸を除く19種のアミノ酸を意味する。
【0021】
546番目のアスパラギンが他のアミノ酸で置換されたFGFR1としては、リジンに置換されたN546K、又はアスパラギン酸に置換されたN546Dが好ましい。656番目のリジンが他のアミノ酸で置換されたFGFR1としては、グルタミン酸に置換されたK656E、アスパラギン酸に置換されたK656D、アスパラギンに置換されたK656N、又はメチオニンに置換されたK656Mが好ましく、K656E、又はK656Dがより好ましい。661番目のアルギニンが他のアミノ酸で置換されたFGFR1としては、プロリンに置換されたR661Pが好ましい。
【0022】
「FGFR1-TACC1融合タンパク質」とは、FGFR1タンパク質のN末端部分と、TACC1のC末端部分とが融合しているタンパク質を意味する。「FGFR1タンパク質のN末端部分と、TACC1のC末端部分とが融合しているタンパク質」とは、FGFR1タンパク質のキナーゼドメインを含むN末端部分と、TACC1のtransforming acidic coiled-coil(TACC)ドメインの一部又は全部を含むC末端部分とが融合しているタンパク質であり、好ましくは、FGFR1タンパク質のキナーゼドメインを含むN末端部分と、TACC1のTACCドメインの全部を含むC末端部分とが融合しているタンパク質であり、より好ましくはFGFR1タンパク質のキナーゼドメインを含むN末端部分と、TACC1のTACCドメインの全部を含むC末端部分とが融合しているタンパク質であり、かつ融合点の配列としてTSNQGLLE配列(配列番号6)を含むタンパク質であり、より好ましくは配列番号1で表されるFGFR1の1-764番目のアミノ酸配列を有するタンパク質と、配列番号2で表されるTACC1の162-395番目のアミノ酸配列を有するタンパク質とが融合しているタンパク質である(配列番号3)。
【0023】
また、「FGFR1-TACC1融合遺伝子」とは、FGFR1-TACC1融合タンパク質を構成するアミノ酸配列をコードする遺伝子を意味する。
【0024】
FGFR1変異として、好ましくはN546K、N546D、K656E、K656D、K656N、K656M及びR661Pからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸変異を有するアミノ酸配列からなるタンパク質若しくは当該アミノ酸配列をコードする遺伝子、又はFGFR1-TACC1融合タンパク質若しくはFGFR1-TACC1融合遺伝子であり、より好ましくはN546K、N546D、K656E、K656D及びR661Pからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸変異を有するアミノ酸配列からなるタンパク質若しくは当該アミノ酸配列をコードする遺伝子、又はFGFR1-TACC1融合タンパク質若しくはFGFR1-TACC1融合遺伝子である。
【0025】
また、あるFGFR1アイソフォームにおける変異において、アミノ酸の欠失や挿入によって、配列番号1で示されるアミノ酸の位置とは異なる場合であっても、配列番号1で示されるアミノ酸の位置に相当する位置の変異と同様であると解される。そのため、例えば、配列番号1で表されるFGFR1における656番目のリジンは、NP_001167538で示されるアミノ酸配列(配列番号5)からなるFGFR1においては、687番目のリジンに相当する。そのため、例えば、「K656E」は、配列番号1で表されるFGFR1の656番目のリジンがグルタミン酸に変異していることを意味するが、NP_001167538で示されるアミノ酸配列からなるFGFR1においては、687番目のアミノ酸に相当する位置であるため、NP_001167538で示されるアミノ酸配列からなるFGFR1における「K687E」は配列番号1で表されるFGFR1における「K656E」に相当する。なお、あるFGFR1アイソフォームのあるアミノ酸が、配列番号1で示されるアミノ酸のどの位置に相当するアミノ酸であるかどうかは、例えば、BLASTのMultiple Alignmentにより確認することができる。
【0026】
「FGFR1タンパク質のキナーゼドメインを含むN末端部分と、TACC1のTACCドメインの全部を含むC末端部分とが融合しているタンパク質であり、かつ融合点の配列としてTSNQGLLE配列を含むタンパク質」とは、FGFR1タンパク質のキナーゼドメインを含むN末端部分のC末端のアミノ酸配列がTSNQであるタンパク質と、TACC1のTACCドメインの全部を含むC末端部分のN末端のアミノ酸配列がGLLEであるタンパク質が融合したタンパク質である。このようなタンパク質としては、例えば、配列番号1で表されるFGFR1の1-764番目のアミノ酸配列を有するタンパク質と、配列番号2で表されるTACC1の162-395番目のアミノ酸配列を有するタンパク質とが融合したタンパク質(配列番号3)やGenPeptアクセッション番号NP_075594で表されるFGFR1の1-673番目のアミノ酸配列を有するタンパク質と、配列番号2で表されるTACC1の162-395番目のアミノ酸配列を有するタンパク質とが融合したタンパク質(配列番号4)が挙げられる。
【0027】
本発明において「FGFR1変異陽性脳腫瘍」とは、FGFR1変異を有する脳腫瘍である。対象となる脳腫瘍は特に限定されないが、例えば、膠芽腫、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、退形成性神経節膠腫、ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍、上衣腫、髄芽腫、脳幹神経膠腫、頭蓋咽頭腫、下垂体前葉腫瘍、褐色細胞腫、脊索腫、海綿芽細胞腫、頭頚部がん、脈絡叢乳糖腫、脈絡叢癌、乏突起神経膠腫、退形成性乏突起神経膠腫などの脳腫瘍が挙げられ、好ましくは膠芽腫、毛様細胞性星細胞腫、ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍、上衣腫、又は脳幹神経膠腫である。これらの脳腫瘍には、原発性に限らず、再発、又は転移性も含まれる。
【0028】
本発明において、FGFR1変異は、当業者に周知の方法で検出することが可能である。例えば、FGFR1遺伝子の変異の検出は、サザンブロッティング法、PCR法、DNAマイクロアレイ法、シークエンス解析法などの通常慣用の検出方法が挙げられる。また、FGFR1タンパク質の変異の検出は、FGFR1変異に特異的に結合する抗体を用いた手法(ELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫染色法など)、マススペクトル分析などの通常慣用の検出方法が挙げられる。FGFR1変異に特異的に結合する抗体は、市販品を使用すること、又は通常慣用の方法で作製することが可能である。
【0029】
本発明においてFGFR1変異を検出するための「試料」とは、生体試料(例えば、細胞、組織、臓器、体液(血液、リンパ液等)、消化液、尿)のみならず、これらの生体試料から得られる核酸抽出物(ゲノムDNA抽出物、mRNA抽出物、mRNA抽出物から調製されたcDNA調製物やcRNA調製物等)やタンパク質抽出物も含む。また、前記試料は、ホルマリン固定処理、アルコール固定処理、凍結処理又はパラフィン包埋処理が施してあるものでもよい。前記生体試料としては、生体から採取したものを使用することができる。好ましくは悪性腫瘍患者由来の試料であり、より好ましくは腫瘍細胞に由来するFGFR1変異タンパク質又は遺伝子を含み得る試料であり、より好ましくはFGFR1変異陽性脳腫瘍細胞を含み得る試料である。また、生体試料の採取方法は、生体試料の種類に応じて適宜選択することができる。変異FGFR1(タンパク質又は遺伝子)が脳腫瘍患者から検出できれば、脳腫瘍はFGFR1変異陽性脳腫瘍と判断できる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、化合物1又はその薬学的に許容される塩を含有する。
【0031】
化合物1又はその薬学的に許容される塩を有効成分として製剤中に含有せしめる場合、必要に応じて薬学的担体と配合し、予防又は治療目的に応じて各種の投与形態を採用可能である。投与形態として、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられるが、経口剤が好ましい。経口剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、シロップ剤等の形態とすることができ、特に限定するものではない。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。製剤又は医薬組成物には、投与形態によって、また必要に応じて適切な賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤等の担体を添加することができる。
【0032】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき化合物1又はその薬学的に許容される塩の量は、これを適用すべき患者の症状により、或いはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では0.05~1000mg、注射剤では0.01~500mg、坐剤では1~1000mgとするのが望ましい。
【0033】
また、化合物1又はその薬学的に許容される塩の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人(体重60kg)1日あたり化合物1又はその薬学的に許容される塩として約1~1000mgであり、好ましくは1日あたり約10~500mgであり、より好ましくは1日あたり約10~300mgである。
【0034】
なお、化合物1又はその薬学的に許容される塩の1日あたりの投与量を連日投与する場合、その投与量は、例えば、1日あたり化合物1又はその薬学的に許容される塩として約1~200mgであり、好ましくは1日あたり2~100mgであり、より好ましくは1日あたり4~50mgであり、さらに好ましくは1日あたり4~20mgであり、さらに好ましくは1日あたり4、8、12、16又は20mgであり、さらに好ましくは1日あたり20mgである。
【0035】
なお、化合物1又はその薬学的に許容される塩の1日あたりの投与量を間歇投与する場合、その投与量は、例えば、1日あたり化合物1又はその薬学的に許容される塩として約2~1000mgであり、好ましくは1日あたり10~500mgであり、より好ましくは1日あたり20~200mgであり、さらに好ましくは1日あたり50~160mgであり、さらに好ましくは1日あたり52、56、60、64、68、72,76、80、88、96、100、104、108、112、116、120、124、128、132,136、140、144、148、152、156又は160mgであり、さらに好ましくは1日あたり60、80、100、120、140又は160mgであり、さらに好ましくは1日あたり100、120、140又は160mgである。
【0036】

また、化合物1又はその薬学的に許容される塩の投与スケジュールは、連日投与、又は間歇投与が挙げられる。
【0037】
本明細書において、「連日投与」とは、例えば、21日間連続して投与するスケジュールを1サイクルとした投与スケジュールが挙げられ、1サイクルが終了する毎に休薬期間を設けてもよい。
【0038】
本明細書において「間歇投与」とは、1週間に2回以上かつ投与間隔(ある投与日と次の投与日との間隔の日数)を1日以上空ける条件を満たす限り、特に限定されない。
例えば、1週間で1サイクルの投与スケジュールであって、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おき(ある投与日と次の投与日との間隔が1~3日)に2回以上投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、1サイクル当り1~3日おき(ある投与日と次の投与日との間隔が1~3日)に4~7回投与され、当該サイクルが1回又は2回以上繰り返して実施される、投与スケジュール;
14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第4日目、第8日目及び第11日目に投与される、投与スケジュール;
14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第7日目、第9日目、第11日目及び第13日目に投与される、投与スケジュール;
14日間で1サイクルの投与スケジュールであって、1サイクルに含まれる14日間のうち、化合物1又はその薬学的に許容される塩が、第1日目、第3日目、第5日目、第8日目、第10日目及び第12日目に投与される、投与スケジュール等が挙げられる。
【0039】
本発明は、また、化合物1又はその薬学的に許容される塩の有効量を、FGFR1陽性脳腫瘍の患者に投与する工程を含む、FGFR1陽性脳腫瘍の治療方法を提供する。
【0040】
本発明は、また、以下の(1)及び(2)の工程を含む、FGFR1陽性脳腫瘍の治療方法に関する:
(1)患者由来の試料中から、FGFR1タンパク質又はFGFR1遺伝子の変異を検出する工程、
(2)上記(1)の工程において、FGFR1タンパク質又はFGFR1遺伝子の変異が検出された患者に、化合物1又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与する工程。
【0041】
上記の治療方法において、FGFR1タンパク質又はFGFR1遺伝子の変異が検出された患者は、化合物1又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与する化学療法が十分な治療効果を示すと予測される。ここで、「治療効果」は、腫瘍縮小効果、再発・転移抑制効果、延命効果、固形腫瘍における応答評価基準(RECIST Version1.1)の指針などにより評価することができる。また、FGFR1の機能阻害の活性(例えば、FGFR1リン酸化を指標とした阻害活性)の程度により治療効果を推定することができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。本発明は実施例により十分に説明されているが、当業者により種々の変更や修飾が可能であろうことは理解される。したがって、そのような変更や修飾が本発明の範囲を逸脱するものでない限り、それらは本発明に包含される。
【0043】
実施例1:インビトロにおける化合物1によるFGFR1の1アミノ酸置換突然変異体またはTACC1融合体に対する阻害活性の評価
【0044】
1-1 FGFR1点突然変異体またはTACC1融合体発現ベクターの構築
FGFR1ベクターはORIGENE社より購入したFGFR1(NM_023110)Human Tagged ORF Clone(FGFR1野生型(WT)発現ベクター)を用い、各変異体(N546K、N546D、K656E、K656D、K656N、K656M及びR661P)の発現用ベクターは、前記ベクターをテンプレートとして、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて構築した。また、FGFR1-TACC1融合体(配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質)の発現用ベクターは、前記ベクターとORIGENE社より購入したTACC1(NM_001122824)Human Tagged ORF Clone(TACC1野生型発現ベクター)をテンプレートとしてIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて構築した。
【0045】
1-2 FGFR1リン酸化を指標としたFGFR1阻害活性測定
ヒト胎児腎細胞HEK293Tを、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地にて培養し、細胞を常法により回収後、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地に懸濁し、Lipofectamine3000 Reagent(ThermoFisherSCIENTIFIC)を用いたリポトランスフェクション法を用いて、上記で示したFGFR1野生型、点突然変異体またはTACC1融合体発現ベクターをそれぞれ細胞に導入し、96ウェルプレートに1ウェルあたり1.5×10個/100μLで播種した。
【0046】
薬液として、Vehicle(DMSO)群、各希釈系列(化合物1は3000nMを最大終濃度とし、1000、300、100、30、10、3、1、0.3nMまでの9濃度の希釈系列、AZD4547、BGJ398、JNJ42756493は10000nMを最大終濃度とし、3000、1000、300、100、30、10、3、1、0.3nMまでの10濃度の希釈系列)の化合物1、AZD4547、BGJ398(Chemietek)及びJNJ42756493(Sundia)を準備した。播種した細胞を37℃、5% COで24時間インキュベートしたのち、薬液を含む培地を11μL添加し、さらに1時間インキュベートした。
【0047】
FGFR1の自己リン酸化能に対する機能阻害は、Human Phospho-FGF R1 DuoSet IC ELISA(R&D SYSTEMS)を用いて実施した。キットに付属の細胞溶解液にProtease inhibitor(Roche)およびPhosphatase inhibitor(Roche)を添加し、それを用いて細胞を溶解し、キットのプロトコルに従い実験を実施し、各ウェルに対してプレートリーダー(SpectraMAX384,Molecular Devices)で比色定量を行った。薬剤添加ウェルの相対的なFGFR1のリン酸化率は、次式に従い、コントロール群を100%とした場合の比率として算出した。なお、実験は2連(1処理群につき21・2ウェル)で行い、2ウェルの各データの平均値を解析に用いた。
【0048】
【数1】
【0049】
IC50値(50%阻害濃度)は、コントロール群に対して50%阻害を達成する濃度として算出した。
【0050】
FGFR1野生型、1アミノ酸置換突然変異体またはTACC1融合体を発現させた293T細胞株において、化合物1は下記のような阻害活性を示した(表1、2)。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【配列表】
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