(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 45/00 20060101AFI20240528BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C08L45/00
C08K7/06
(21)【出願番号】P 2021509295
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012210
(87)【国際公開番号】W WO2020196227
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2019057829
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 優規
(72)【発明者】
【氏名】鷺坂 功一
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-075914(JP,A)
【文献】特開平07-126434(JP,A)
【文献】特開2014-118525(JP,A)
【文献】特開2013-014687(JP,A)
【文献】特開2003-327836(JP,A)
【文献】特開平06-128474(JP,A)
【文献】特開平04-264162(JP,A)
【文献】特開2011-066170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおける、波数1560cm
-1~1600cm
-1の範囲内のピーク強度I
Gに対する波数1320cm
-1~1370cm
-1の範囲内のピーク強度I
Dの相対強度比(I
D/I
G)が0.6以下である炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選択される少なくとも一種であり、
表面抵抗値が1×10
2Ω~1×10
12Ωの範囲内
であり、射出成形用である、ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
顕微ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおける、波数1560cm
-1
~1600cm
-1
の範囲内のピーク強度I
G
に対する波数1320cm
-1
~1370cm
-1
の範囲内のピーク強度I
D
の相対強度比(I
D
/I
G
)が0.6以下である炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含み、
樹脂組成物中の前記炭素繊維のアスペクト比が20~33であり、
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選択される少なくとも一種であり、
表面抵抗値が1×10
2
Ω~1×10
12
Ωの範囲内である、ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維の相対強度比(I
D/I
G)が0.12以上である、請求項1又
は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素繊維のアスペクト比が10以上である、請求
項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物全体に対して、前記炭素繊維の含有量が1~50質量%である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ISO 178に準拠して測定した曲げ弾性率が3.5~8.0GPaである、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
顕微ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおける、波数1560cm
-1
~1600cm
-1
の範囲内のピーク強度I
G
に対する波数1320cm
-1
~1370cm
-1
の範囲内のピーク強度I
D
の相対強度比(I
D
/I
G
)が0.6以下である炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選択される少なくとも一種であり、
表面抵抗値が1×10
2
Ω~1×10
12
Ωの範囲内である、ことを特徴とする樹脂組成物を含む射出成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、低吸水性及び導電性が求められる電気電子分野に用いられる容器等の形成に好適に用いられる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造工程では、ウェハなどを搬送又は保管するために、樹脂組成物を用いて形成された半導体保管搬送用容器が使用されている。半導体ウェハなどの電子機器を保管搬送する容器に要求される性能としては、容器として機械的強度を有することと、容器内に保管される半導体などの電子部品を保護するために、静電気防止性及び低吸水性が求められる。静電気防止性を有する容器は、ごみや塵の吸着を抑制して、容器に収納する電子部品の回路破損等を抑制する。低吸水性を有する容器は、容器自体の水分の吸水や放出を抑制し、水分による容器に収納する電子部品の破損を抑制する。半導体集積回路の高密度化に伴い、容器に対する静電防止性及び低吸水性の要求はますます高まる傾向にある。
【0003】
電子部品を搬送又は保管する容器は、樹脂組成物を用いて形成されたものが多い。静電気防止性を有する容器を形成するために、容器を形成する樹脂組成物中のマトリックス樹脂自体の導電性を改善したり、樹脂組成物に導電性の高い炭素フィラー等を含有させることによって、容器の静電防止性を改善していた。
【0004】
例えば特許文献1には、環状オレフィンホモポリマーと、繊維状導電フィラーと、エラストマーとを含有する樹脂組成物が開示されている。特許文献1に記載された樹脂組成物は、環状オレフィンホモポリマーを含むことによって、樹脂組成物からアウトガスが発生するのを抑制し、繊維状導電フィラーによって、機械的強度及び導電性を付与し、静電防止性を改善する。しかしながら、特許文献1に記載された樹脂組成物は、低吸水性を改善していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、導電性が求められる電気電子分野における容器等に好適に用いることができ、導電性を有するとともに、低吸水性を有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、ラマンスペクトルにおける相対強度比が特定の範囲の炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物により上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、顕微ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおける、波数1560cm-1~1600cm-1の範囲内のピーク強度IGに対する波数1320cm-1~1370cm-1の範囲内のピーク強度IDの相対強度比(ID/IG)が0.6以下である炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含み、表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内である、ことを特徴とする樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性が求められる電気電子分野における容器等の形成に好適に用いることができ、優れた導電性とともに、低吸水性を有する樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は、次に説明する実施形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、顕微ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおける、波数1560cm-1~1600cm-1の範囲内のピーク強度IGに対する波数1320cm-1~1370cm-1の範囲内のピーク強度IDの相対強度比(ID/IG)が0.6以下である炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含み、表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内である。
【0012】
炭素繊維
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、相対強度比(ID/IG)が0.6以下である炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む。前記炭素繊維が、樹脂組成物中に、表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内となるように含まれているため、樹脂組成物から形成した成形物は、導電性を有するだけでなく、吸水性を低減することができる。
顕微ラマン分光法により測定した炭素繊維のラマンスペクトルにおいて、波数1560cm-1~1600cm-1の範囲内に現れるピークは、炭素材料に共通して現れるピークであり、炭素繊維のグラファイト構造に由来するピークである。また、炭素繊維のラマンスペクトルにおいて、波数1320cm-1~1370cm-1の範囲内に現れるピークは、グラファイト構造の乱れや欠陥に由来するピークである。炭素繊維のラマンスペクトルにおいて、波数1560cm-1~1600cm-1の範囲内のピーク強度IGに対する波数1320cm-1~1370cm-1の範囲内のピーク強度IDの相対強度比ID/IGは、ラマン値(R値)と称される場合があり、炭素繊維の黒鉛化度と相関がある。黒鉛化度が大きいほど、ラマン値(R値)は、小さい値となる。黒鉛化度が大きいほど、結晶性が高く、天然黒鉛に近い結晶子の配列となる。炭素繊維の相対強度比ID/IGが、0.6を超えると、結晶性が低く、黒鉛化度が小さくなり過ぎて吸水率が高くなり、吸水性を低減することができない。炭素繊維の相対強度比ID/IGは、0.6以下であり、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、好ましくは0.12以上であり、より好ましくは0.13以上であり、さらに好ましくは0.14以上であり、よりさらに好ましくは0.15以上であり、特に好ましくは0.16以上である。炭素繊維の相対強度比ID/IGの数値が小さくなりすぎると、黒鉛化度が大きくなり、炭素繊維が硬くなり、熱可塑性樹脂と炭素繊維を混錬する際に炭素繊維が破断するおそれがある。
【0013】
炭素繊維は、炭素繊維自体のラマンスペクトルであっても、樹脂組成物中の炭素繊維のラマンスペクトルであっても、樹脂組成物から形成された例えばシート等の成形物中の炭素繊維のラマンスペクトルであっても、顕微ラマン分光法によって測定することができる。これらのラマンスペクトルから、特定の波数範囲内におけるピーク強度と他の特定の波数範囲内におけるピーク強度の相対強度比を測定することができる。炭素繊維のラマンスペクトルは、後述する実施例の方法で測定することができ、顕微ラマン分光測定法により、顕微レーザーラマン分光分析装置(例えば、製品名:DXR2顕微レーザーラマンMicroscope)を用いて測定することができる。例えば樹脂組成物からなるペレット又は成形物中の炭素繊維のラマンスペクトルを測定する場合、組成物中に含まれる樹脂のラマンスペクトルを予め測定し、次いでペレット又は成形物のラマンスペクトルを測定し、両者のラマンスペクトルの差分スペクトルから、炭素繊維のラマンスペクトルを測定し、このラマンスペクトルから相対強度比ID/IGを求めることができる。
【0014】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維などが挙げられる。炭素繊維は、黒鉛化の処理が比較的容易であり、所望のR値が得やすいため、ピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0015】
炭素繊維は、黒鉛化処理されたものであってもよい。黒鉛化処理には種々の手法を用いることができる。例えば、不活性雰囲気中、1500℃~3500℃で加熱する方法が挙げられる。一般的に、黒鉛化処理の温度が高いと黒鉛化度は高くなる。所望のR値を得やすいことから、黒鉛化処理の温度は、2000℃~3500℃の範囲内であることが好ましい。
【0016】
炭素繊維は、ハンドリング性向上の観点からサイジング剤で束ねられたものであってもよい。サイジング剤は、炭素繊維を樹脂に分散させて付着させ、又は、炭素繊維に添加して、繊維を収束させる収束剤である。サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。有機材料から発生するアウトガスを低減するために、サイジング剤の添加量は、炭素繊維全体量100質量%に対して、3質量%以下であることが好ましい。炭素繊維がサイジング剤で収束されたものである場合には、収束された炭素繊維の繊維長が3~6mmであることが好ましい。
【0017】
炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは3~15μmの範囲内であり、より好ましくは5~13μmの範囲内であり、さらに好ましくは7~12μmの範囲内である。炭素繊維の平均繊維径が3~15μmの範囲内であると、熱可塑性樹脂とともに混錬して樹脂組成物を得る際に、炭素繊維が破断しにくく、所望の表面抵抗値を有する成形物を形成することが可能となる。炭素繊維の平均繊維径は、光学顕微鏡にて、例えば10個の炭素繊維の短軸を測定し、その平均値から炭素繊維の平均繊維径を求めることができる。炭素繊維の平均繊維径は、カタログ値などの公知の値でもよく、測定値でもよい。
【0018】
炭素繊維の平均繊維長は、好ましくは1~10mmの範囲内であり、より好ましくは2~9mmの範囲内であり、さらに好ましくは3~8mmの範囲内であり、特に好ましくは3~7mmの範囲内である。炭素繊維の平均繊維長が1~10mmの範囲内であると、熱可塑性樹脂とともに混錬して樹脂組成物を得る際に、混錬し易く、また、炭素繊維が破断しにくく、所望の表面抵抗値を有する成形物を形成することが可能な樹脂組成物を得ることをできる。炭素繊維の平均繊維長は、光学顕微鏡にて、例えば10個の炭素繊維の長さを測定し、その平均値から求めた個数平均繊維長とすることができる。炭素繊維の平均繊維長は、カタログ値などの公知の値でもよく、測定値でもよい。
【0019】
樹脂組成物中の炭素繊維のアスペクト比は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上であり、好ましくは3000以下であり、より好ましくは2000以下である。炭素繊維のアスペクト比が10未満の場合には、樹脂組成物中で炭素繊維同士がネットワークを形成しにくく、十分な導電性を有する成形物を形成できない場合がある。アスペクト比は、光学顕微鏡を用いて、炭素繊維の平均繊維長と平均繊維径からアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を求めることができる。
【0020】
樹脂組成物中の炭素繊維の含有量は、樹脂組成物全体量(100質量%)に対して、好ましくは1~50質量%の範囲内であり、より好ましくは3~45質量%の範囲内であり、さらに好ましくは5~40質量%の範囲内であり、特に好ましくは10~35質量%の範囲内である。樹脂組成物中の炭素繊維の含有量が1~50質量%の範囲内であると、電気電子分野において使用する場合に、十分な導電性を有し、樹脂組成物から形成された成形物が所望の表面抵抗値を有し、例えば射出成形などの成形が容易となる。
【0021】
熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、例えばポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂、エチレンプロピレンゴム(EPR))等のオレフィン系エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂、エチレンプロピレンゴム(EPR))等のオレフィン系エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーよりなる群からなる少なくとも1種であることが好ましく、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂、エチレンプロピレンゴム(EPR))等のオレフィン系エラストマーよりなる群からなる少なくとも1種であることがより好ましく、環状オレフィンポリマー(COP)及び環状オレフィンコポリマー(COC)から選択される少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂は、低吸水性であり、寸法精度の高い成形物を形成することができ、成形性に優れる環状オレフィンポリマー(COP)及び環状オレフィンコポリマー(COC)から選択される少なくとも一種であることが好ましい。環状オレフィンポリマー(COP)は、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]-4-ドデセン等の環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物である。環状オレフィンコポリマー(COC)は、環状オレフィンとα-オレフィン等との付加共重合体又はその水素添加物、環状オレフィンと環状ジエンの付加重合体及びその水素添加物である。COPは、例えば、特開平1-168724号公報、特開平1-168725号公報に記載されているような環状オレフィンポリマーが挙げられる。COCは、特開昭60-168708号公報、特開平6-136057号公報、特開平7-258362号公報に記載されているような環状オレフィンコポリマーが挙げられる。COP及びCOCから選択される少なくとも一種の樹脂としては、例えば日本ゼオン株式会社製のZEONOR(登録商標)、ZEONEX(登録商標)、三井化学株式会社製のAPEL(登録商標)、APO(登録商標)等を使用することができる。
【0023】
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物全体量(100質量%)に対して、50~99質量%の範囲内であればよく、55~97質量%の範囲内でもよく、60~95質量%の範囲内でもよく、65~90質量%の範囲内でもよい。
【0024】
その他の添加物
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、目的を損ねない範囲で、任意の添加物を加えてもよい。添加物としては、例えば、ラマンスペクトルにおける相対強度比ID/IGが0.6を超える炭素繊維、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどの各種のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のナノカーボン、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維等の無機繊維状強化材、アラミド繊維、ポリイミド繊維、フッ素樹脂繊維等の有機繊維状強化材、マイカ、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン等の無機充填材、離型剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、防菌剤、着色剤、蛍光増白剤等が挙げられる。樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂及びラマンスペクトルにおける相対強度比ID/IGが0.6以下の炭素繊維以外の添加物の含有量は、添加物の種類によって異なるが、樹脂組成物全体量に対して10質量%以下でもよく、5質量%以下でもよく、3質量%以下でもよく、1質量%以下でもよい。
【0025】
樹脂組成物
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、ラマンスペクトルにおける相対強度比ID/IGが0.6以下の炭素繊維を、例えば熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混錬装置又は二軸混錬押出機を用いて混錬又は溶融混錬し、樹脂組成物を製造することができる。樹脂組成物を製造する際に、熱可塑性樹脂を溶融する温度は、樹脂の種類によって適宜設定すればよく、例えば200~400℃の範囲内とすることができる。得られた樹脂組成物は、必要に応じて例えばペレタイザーを使用してペレット状の樹脂組成物を製造してもよい。
【0026】
表面抵抗値
本発明の実施形態に係る樹脂組成物の表面抵抗値は、1×102Ω~1×1012Ωの範囲内である。樹脂組成物の表面抵抗値は、樹脂組成物を例えばシート状に成形し、このシートの表面抵抗値を測定することができる。樹脂組成物は、例えば130トンの射出成形機によって、100mm×100mm×厚さ2mmのシートに成形することができる。本発明の実施形態に係る樹脂組成物の表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内であれば、十分な導電性を有し、ラマンスペクトルの相対強度比ID/IGが0.6以下の炭素繊維によって吸水率が低くなり、樹脂組成物によって、導電性と低吸水率を有する成形物を形成することができる。また、本発明の実施形態に係る樹脂組成物の表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内であれば、十分な導電性を有するため、静電気防止性が高く、塵やほこりの吸着が抑制されるので、電気電子分野において、例えば半導体の搬送収納容器を形成するために、最適な樹脂組成物を提供することができる。樹脂組成物の表面抵抗値は、好ましくは1×103Ω~1×1011Ωの範囲内であり、より好ましくは1×104Ω~1×1010Ωの範囲内である。樹脂組成物の表面抵抗値が1×102Ω未満であると、放電電流が大きすぎて、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成した容器に収納した半導体素子を破壊するおそれがある。樹脂組成物の表面抵抗値が1×1012Ωを超えると、表面抵抗値が高すぎて、導電性が低く、優れた静電防止性を発揮し難くなる。表面抵抗値の測定は、後述する実施例の測定方法により測定した。
【0027】
表面抵抗値の測定装置として、表面抵抗値が1×104Ω未満である場合には、例えばミリオームハイテスタ3540(日置電機株式会社製)を用い、クリップ型リード9287-10(日置電機株式会社製)を用いて測定することができる。
【0028】
表面抵抗値の測定装置として、表面抵抗値が1×104Ω以上である場合には、例えばハイレスタUP(ダイヤインスツルメント社製)を用い、UAプローブ(2深針プローブ、プローブ間距離20mm、プローブ先端直径2mm)用いて測定することができる。
【0029】
吸水率
本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いた成形物の吸水率が、好ましくは0.042%未満であり、より好ましくは0.041%以下であり、さらに好ましくは0.040%以下である。本発明の実施形態に係る樹脂組成物からなる成形物の吸水率が0.042%未満と低吸水性であると、例えば樹脂組成物からなる容器は、容器自体の水分の吸水や放出が抑制され、水分による容器に収納する電子部品の破損を抑制することができ、電気電子分野において好適に利用することができる。吸水率を測定するための成形物は、例えば130トン射出成形機(例えば住友重機械工業株式会社製)により、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成された100mm×100mm×厚さ2mmのシートを用いることができる。樹脂組成物から形成した成形物の吸水率は、後述する実施例の測定方法により測定することができる。具体的には、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を、130トン射出成形機を用いて100mm×100mm×厚さ2mmのシートサンプルを形成し、このシートサンプルを80℃の水中で5時間浸漬した後、室温に保った水中に入れて5分間おき、シートサンプルの表面の水を拭き取り、次いでエアーガンで表面の水分を吹き飛ばした後測定した重量と、水に浸漬前の重量の差を、水に浸漬前の乾燥重量で除した割合を吸水率として測定できる。
【0030】
曲げ弾性率
本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いた曲げ試験片のISO 178に準拠して測定した曲げ弾性率は、好ましくは3.5~8.0GPaの範囲内であり、より好ましくは4.0~7.5GPaの範囲内であり、さらに好ましくは4.2~7.0GPaの範囲内である。本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いた曲げ試験片の曲げ弾性率が3.5~8.0GPaの範囲内であれば、十分な耐衝撃性を得ることができ、例えば樹脂組成物からなる容器は、容器内に収納する電子部品などの破損を抑制することができる。曲げ弾性率を測定するための曲げ試験片は、例えば130トン射出成形機(例えば住友重機械工業株式会社製)により、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成された80mm×10mm×厚さ4mmの曲げ試験片を用いることができる。
【0031】
放電電流
本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いた成形物の放電電流は、好ましくは2.4A未満であり、より好ましくは2.3A以下であり、さらに好ましくは2.2A以下であり、好ましくは0.2A以上であり、より好ましくは0.5A以上である。本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いた成形物の放電電流が2.4A未満であれば、一時に放電する電流が大きすぎて、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成した容器に収納した半導体素子を破壊することなく、適度に静電気を放電でき、ごみや塵の吸着を抑制して、容器に収納する電子部品の回路破損等を抑制することができる。放電電流の測定は、後述する実施例の方法によって測定することができる。放電電流を測定するための成形物は、例えば130トン射出成形機(例えば住友重機械工業株式会社製)により、本発明の実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成された100mm×100mm×厚さ2mmのシートを用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法及び評価方法は次のとおりである。
【0033】
(A)熱可塑性樹脂
環状オレフィンポリマー:商品名:ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製
(B)炭素繊維
(B-1)炭素繊維:カーボンファイバー(平均繊維径10μm、平均繊維長6mm、引張弾性率631GPa、カタログ値)。
(B-2)炭素繊維:カーボンファイバー(平均繊維径10μm、平均繊維長6mm、引張弾性率796GPa、カタログ値)。
(B-3)炭素繊維:カーボンファイバー(平均繊維径11μm、平均繊維長6mm、引張弾性率900GPa、カタログ値)。
(B-4)炭素繊維:カーボンファイバー(平均繊維径11μm、平均繊維長6mm、引張弾性率185GPa、カタログ値)。
(B-5)炭素繊維:カーボンファイバー(平均繊維径8μm、平均繊維長6mm、引張弾性率220GPa、カタログ値)。
【0034】
実施例1~4、比較例1~3
表1に示す配合で、(A)熱可塑性樹脂と(B)炭素繊維を二軸押出機(製品名:PCM-45、L/D=32(L:スクリュー長さ。D:スクリュー直径)、株式会社池貝製)を使用して、バレル温度260℃、スクリュー回転数100rpmにて、溶融混錬し、冷却後、切断して、実施例1~4及び比較例1~3の樹脂組成物からなるペレットを製造した。(B)炭素繊維を過度に破断しないために、スクリューの根本(L/D=0)から投入された(A)熱可塑性樹脂がL/D=12に設置されたニーディングエレメントに溶融された後、L/D=20から(B)炭素繊維を投入した。
実施例4のみ、(A)熱可塑性樹脂と(B)炭素繊維をスクリューの根本(L/D=0)から投入した。
得られた樹脂組成物のペレットを90℃の乾燥機内で5時間乾燥した。
乾燥後の樹脂組成物のペレットを用いて、130トン射出成形機(製品名:SE130D、住友重機械工業株式会社製)を使用して、100mm×100mm×厚さ2mmのシートサンプル及び曲げ弾性率試験用の試験片(ISO規格、80mm×10mm×厚さ4mm、曲げ試験片)を製造した。130トン射出成形機のシリンダ温度を260℃とし、金型温度を60℃とした。
【0035】
(1)炭素繊維のラマンスペクトルにおける相対強度比ID/IG
シートサンプルに含まれる(B)炭素繊維の顕微ラマン分光法によるラマンスペクトルを測定した。
装置名;DXR2顕微レーザーラマン Microscope(Termo Fisher SCIENTIFIC社製)
レーザー波長:532nm
レーザー出力レベル:1.0mW
グレーティング:900lines/mm
ベースラインは左端:2100~1800cm-1、右端:1100~600cm-1の範囲で最もラマンスペクトルにおけるピーク強度が低い波数位置をベースラインの端とした。各実施例及び比較例の樹脂組成物から得られたシートサンプルのラマンスペクトルから波数1560cm-1~1600cm-1の範囲内のピーク強度IGに対する波数1320cm-1~1370cm-1の範囲内のピーク強度IDの相対強度比ID/IGを求めた。結果を表1に示す。
【0036】
(2)炭素繊維のアスペクト比
樹脂組成物のペレットを260℃でヒートプレスした直径30mm×厚さ0.05mmの薄片を光学顕微鏡(製品名:OPTIPHOT-2、Nicon社製)を使用して画像解析し、10個の炭素繊維の長軸と短軸を測定し、長軸の平均値を平均繊維長とし、短軸の平均値を平均繊維径とした。結果を表1に示す。
【0037】
(3)表面抵抗値
(3-1)サンプルシートの表面抵抗値が1×104Ω未満である場合には、ミリオームハイテスタ3540(日置電機株式会社製)を使用し、クリップ型リード9287-10(日置電機株式会社製)を使用して測定した。シートサンプルに、1~2mmφ程度の大きさで銀ペーストを塗布して電極を形成し、この電極にクリップ型リードを接続して表面抵抗値を測定した。印加電圧は以下のようにして測定した。
(3-2)サンプルシートの表面抵抗値が1×104Ω以上である場合には、ハイレスタUP(ダイヤインスツルメント社製)を使用し、UAプローブ(2深針プローブ、プローブ間距離20mm、プローブ先端直径2mm)を使用して測定した。シートサンプルに、UAプローブのコンタクトピン先端に導電ゴム(体積低効率:5Ω・cm)を導電性接着剤で取り付けて、シートサンプル表面との接触を安定させて測定した。UAプローブに導電性ゴムを取り付けることにより、測定対象表面の粗さ等に起因する接触面積の変動が少なくなるため、表明抵抗値を正確かつ安定して測定することができる。結果を表1に示す。
表面抵抗値:1×104Ω未満の場合は、印加電圧:1V
表面抵抗値:1×104Ω以上1×1010Ω未満の場合は、印加電圧:10V
表面抵抗値:1×1010Ω以上1×1014Ω未満の場合は、印加電圧:100V
【0038】
(4)吸水率
シートサンプルを90℃の乾燥機で24時間乾燥させた。乾燥後、デシケータに入れて室温(25℃±5℃)まで冷却し、シートサンプルの重量W1(g)を測定した。
次に、シートサンプルを80℃の脱イオン水中に5時間浸漬した後、室温(25℃±5℃)の温度に維持した脱イオン水中に入れて5分間冷却し、シートサンプルを脱イオン水中から取り出し、シートサンプルの表面を拭き取り、エアーガンで表面の水分を吹き飛ばした後、速やかにシートサンプルの重量W2(g)を測定した。
80℃の脱イオン水に浸漬する前のシートサンプルの重量W1から浸漬後のシートサンプルの重量W2を差し引いて、80℃の脱イオン水に浸漬する前のシートサンプルの重量W1で除した割合を吸水率として求めた。具体的には、下記式(1)により吸水率を求めた。結果を表1に示す。
吸水率(%)=(W1-W2)/W1×100 (1)
【0039】
(5)曲げ弾性率
ISO 178に準拠して、各実施例及び比較例の樹脂組成物から形成した曲げ弾性率試験用の試験片を、万能試験機(製品名:TISY-2600、TISY社製)を使用して測定した。結果を表に示す。
【0040】
(6)放電電流
チャージプレートモニター(MODEL700A、ヒューグルエレクトロニクス社製)に、射出成形したサンプル(100mm×100mm×厚さ2mm)を置き、チャージプレート上のサンプルに1000Vを印加したのち、20pFの静電容量でグランドからフロートさせた。次に、終端をグランドに接続した銅ワイヤーをサンプルに接触して放電させ、ナノ秒オーダーで振幅を伴う電流が発生し、次第に減衰した。このとき最も高い電流値を放電電流とした。放電電流を、電流プローブ(CT-1、Tektronix社製)及びデジタルオシロスコープ(製品名:LC584A、レクロイ社製)で測定した。測定は1つのシートサンプルについて、10回繰り返し、放電電流の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
実施例1~4の樹脂組成物を用いて射出成形機により形成したシートは、ラマンスペクトルにおける相対強度比ID/IGが0.6以下である炭素繊維と、環状ポリオレフィンポリマーを含み、射出成形機で形成したシートの表面抵抗値が1×102Ω~1×1012Ωの範囲内であり、吸水率が0.040%以下に低下し、低吸水性を有するとともに、優れた導電性を有していた。実施例1~4の樹脂組成物を用いて形成シートの曲げ弾性率は、3.5~8.0GPaの範囲内であり、十分な耐衝撃性を得ていた。また、実施例1~4の樹脂組成物を用いて形成シートの放電電流は、0.2A以上2.4A未満の範囲内であり、適度に静電気を放電でき、ごみや塵の吸着を抑制して、容器に収納する電子部品の回路破損等を抑制することができる。
【0043】
比較例1の樹脂組成物を用いて射出成形機により形成したシートは、表面抵抗値が低く、放電電流が大きくなりすぎた。比較例2及び3は、炭素繊維の相対強度比ID/IGが0.6を超えており、表面抵抗値は1×102Ω~1×1012Ωの範囲内であるものの、吸水率を低減することができず、放電電流も実施例1~4の樹脂組成物を用いて形成シートよりも高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂組成物は、低吸水性及び導電性が要求される技術分野、例えば電気電子分野において、半導体発光素子などの電子部品の包装材、容器等の材料として好適に利用することができる。