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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】共役ジエンとエチレンとのコポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08L 47/00 20060101AFI20240528BHJP
   C08F 236/22 20060101ALI20240528BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20240528BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240528BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240528BHJP
【FI】
C08L47/00
C08F236/22
C08F236/04
C08K3/011
C08K3/013
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021534386
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 FR2019053052
(87)【国際公開番号】W WO2020128249
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】1873202
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】ラファキエール ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】モレソ エマ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107903349(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 47/00
C08F 236/22
C08F 236/04
C08K 3/011
C08K 3/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のエラストマー、補強充填剤および架橋系を含むゴム組成物であって、
前記エラストマーが、エチレンと式(I)
式(I):CH2=CR-CH=CH2
(式中、記号Rは3~20個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す)
の1,3-ジエンとのコポリマーを含み、前記コポリマーが、エチレン単位と1,3-ジエン単位とからなり、前記エチレン単位が前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の50モル%~95モル%の間に相当し、1,4配置の1,3-ジエン単位が前記1,3-ジエン単位の50モル%超に相当する、上記ゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン単位が、前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の少なくとも60モル%に相当する、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン単位が、前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の最大85モル%に相当する、請求項1~2のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記1,4配置の1,3-ジエン単位が前記1,3-ジエン単位の70モル%超に相当する、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記1,4-配置の1,3-ジエン単位の半分超が1,4-trans配置である、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記記号Rが非環式鎖を表す、請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記1,3-ジエンがミルセンまたはβ-ファルネセンである、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
コポリマーが統計コポリマーである、請求項1~7のいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
【請求項10】
エチレン単位とβ-ファルネセン単位からなり、前記エチレン単位が、前記エチレン単位および前記β-ファルネセン単位の50モル%~95モル%の間に相当し、1,4配置のβ-ファルネセン単位が前記β-ファルネセン単位の50モル%超に相当する、エチレンとβ-ファルネセンのコポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、エチレン単位が豊富な、タイヤ用ゴム組成物におけるエラストマーとして使用可能な、共役ジエンとエチレンとのコポリマーの分野である。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造において最も広く使用されているジエンエラストマーは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、特に天然ゴム、ならびに1,3-ブタジエンとスチレンとのコポリマーである。これらのエラストマーに共通する点は、エラストマー中のジエン単位の高いモル比率(一般的に50%を大幅に超える)であり、これによってエラストマーは、特にオゾン作用下での酸化に対する感受性を得ることができる。
これに反して、出願人は、特に酸化現象へのこれらの感受性を減少させる目的で、ジエン単位が比較的少ないエラストマーについて記載している。これらのエラストマーは、例えば、文献WO2007054223の中に記載されている。これらは、50モル%超のエチレン単位を含有する、1,3-ブタジエンとエチレンとのコポリマーである。これらのエラストマーは、エチレンが豊富なジエンエラストマーとして記載されている。
1,3-ブタジエンとエチレンの、エチレンが豊富なコポリマーは結晶性であり、エチレンの含有量と共にこれらの結晶化度は増加する。コポリマーにおける結晶性部分の存在は、コポリマーがゴム組成物に使用される場合、問題となる可能性がある。コポリマーの結晶性部分の溶融はその剛性の低下を結果として生じるので、このようなコポリマーを含有し、タイヤに使用されるゴム組成物もまた、結晶性部分の融点と等しいまたはこれを上回る温度に曝された場合、すなわちタイヤの制動と加速を繰り返す段階がまさにそのような事例となり得、その剛性は低減する。よって、温度の関数としてのこの剛性の依存性は、タイヤの性能品質に無制御な変動をもたらし得る。その結晶化度が減少され、実際には消失されてさえいるような、エチレン単位が豊富なジエンポリマーが利用可能となることは有利である。
文献WO2007054224では、出願人は、結晶化度が減少した、エチレンが豊富なジエンコポリマーについて記載している。これらのコポリマーは、飽和6員環式炭化水素モチーフを追加的に含有する1,3-ブタジエンとエチレンのコポリマーである。しかし、ゴム組成物に導入されたこれらのコポリマーは、過剰に高い剛性をゴム組成物に付与する可能性がある。ゴム組成物の高い剛性は、エラストマーの同等に高い剛性に起因するものである。ゴム組成物の高い剛性は、それ自体によりゴム組成物がある特定の用途に不適切となり得るため、問題となる可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
エチレンが豊富なジエンエラストマーを合成するというその目標を追いながら、本出願人は、特にタイヤに使用するために、エチレン含有量と、剛性と、結晶化度との間で改善された妥協点を提示することにより、記述されている問題の解決を可能にする新規ポリマーを発見した。
【0004】
よって、本発明の第1の対象事項は、エチレンと式(I)
式(I):CH2=CR-CH=CH2
(式中、記号Rは3~20個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す)
の1,3-ジエンとのコポリマー、好ましくはエラストマーであって、エチレン単位と1,3-ジエン単位とを含み、エチレン単位がエチレン単位および1,3-ジエン単位の50モル%~95モル%の間に相当し、1,4配置の1,3-ジエン単位が1,3-ジエン単位の50モル%超に相当する、コポリマー、好ましくはエラストマーである。
本発明の別の対象は、本発明によるコポリマーを調製するための方法である。
本発明はまた、少なくとも1つの本発明によるコポリマー、補強充填剤および架橋系を含むゴム組成物であって、コポリマーがエラストマーであるゴム組成物に関する。
本発明はまた、本発明によるゴム組成物を含むタイヤに関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の明細書において、「a~bの間」という表現で表される任意の値の間隔は、「a」より大きく、「b」より小さい値の範囲を表す(すなわち、aとbの境界は除外される)のに対して、「a~bまで」という表現で表される任意の値の間隔は、「a」から「b」に及ぶ値の範囲を意味する(すなわち、aおよびbの厳密な境界を含む)。
他に指摘されていない限り、コポリマーへのモノマーの挿入から生じた単位の含有量は、コポリマーのすべてのモノマー単位に対するモルパーセンテージとして表現される。
明細書に記述されている化合物は、化石または生物を起源とするものであってよい。後者の場合、化合物は、バイオマスから部分的にもしくは完全に生成することができ、またはバイオマスから生成される再生可能な出発材料から得ることもできる。特にモノマーが関連する。
上で定義された、本発明の目的に対して有用な式(I)の1,3-ジエンは置換1,3ジエンであり、この1,3-ジエンは、重合した場合、式(1)で表される配置1,2の単位、式(2)で表される配置3,4の単位、およびそのtrans形態が以下の式(3)で表されている配置1,4の単位をもたらすことができる。1,4配置の1,3-ジエン単位は、cisまたはtransであるかに関わらず、分子式-(CH2-CR=CH-CH2)-で表すことができる。
【0006】
【化1】
これもまた周知であるように、エチレン単位は-(CH2-CH2)-モチーフの単位である。
【0007】
本発明によるコポリマーは、エチレンと式(I)の1,3-ジエンとのコポリマーであり、これは、コポリマーのモノマー単位が、エチレンと1,3-ジエンとの重合から生成した単位であることを意味する。よって、コポリマーは、エチレン単位と1,3-ジエン単位とを含む。本発明の必要条件に対して有用な1,3-ジエンは1つの化合物のみであり、すなわち式(I)の1,3-ジエンの1つのみ、または式(I)の1,3-ジエンの混合物であり、この混合物の1,3-ジエンは、記号Rで表される基が互いに異なる。
【0008】
本発明によるコポリマーは、50モル%~95モル%の間のエチレン単位を含むという主要な特徴を有する。言い換えると、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の50モル%~95モル%の間に相当する。好ましくは、本発明によるコポリマーにおいて、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の少なくとも60モル%に相当する。より優先的には、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の少なくとも70モル%に相当する。好ましくは、本発明によるコポリマーにおいて、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の最大90モル%に相当する。
本発明の1つの特定の実施形態によると、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の最大85モル%に相当する。
本発明の1つの優先的実施形態によると、本発明によるコポリマーにおいて、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の60モル%~90モル%、有利にはエチレン単位および1,3-ジエン単位の70モル%~90モル%に相当する。
本発明の別の特定の実施形態によると、本発明によるコポリマーにおいて、エチレン単位は、エチレン単位および1,3-ジエン単位の60モル%~85モル%、有利にはエチレン単位および1,3-ジエン単位の70モル%~85モル%に相当する。
【0009】
本発明によるコポリマーの別の主要な特徴はまた、1,4配置が50%を超える式(I)の1,3-ジエン単位をコポリマーが含むことである。言い換えると、1,4配置の1,3-ジエン単位は、1,3-ジエン単位の50モル%超に相当する。コポリマー中の1,3-ジエン単位100モル%に対する残りは、完全にまたは部分的に形成された1,2または3,4配置の1,3-ジエン単位である。好ましくは、1,4配置の1,3-ジエン単位は、1,3-ジエン単位の70モル%超に相当する。有利には、1,4配置の1,3-ジエン単位の半分超が1,4-trans配置のものであり、これは、1,4-trans配置の1,3-ジエン単位が、1,4配置の1,3-ジエン単位の50モル%超に相当することを意味する。
【0010】
本発明の必要条件に対して有用な式(I)の1,3-ジエンにおいて、記号Rで表される炭化水素鎖は直鎖または分枝鎖であることができ、この場合記号Rは直鎖または分枝鎖を表す。好ましくは、炭化水素鎖は非環式であり、この場合記号Rは非環式鎖を表す。式(I)において、記号Rで表される炭化水素鎖は飽和または不飽和であることができ、この場合記号Rは飽和または不飽和鎖を表す。好ましくは、記号Rは、6~16個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す。より優先的には、記号Rは不飽和の非環式鎖を表す。さらにより良いことには、記号Rは不飽和および分枝の非環式鎖を表す。有利には、1,3-ジエンはミルセンまたはβ-ファルネセンである。
本発明の1つの優先的実施形態によると、1,3-ジエンはミルセンである。
本発明の別の優先的実施形態によると、1,3-ジエンはβ-ファルネセンである。
本発明の実施形態のいずれか1つによると、本発明によるコポリマーは優先的にエラストマーである。
【0011】
本発明によるコポリマーは、少なくとも式(II)のメタロセンおよび式(III)の有機マグネシウム化合物
式(II):P(Cp)(Flu)Nd(BH4(1+y)-y-Nx
式(III):MgR12
(式中、Cpは式C54のシクロペンタジエニル基を意味し、Fluは式C138のフルオレニル基を意味し、
Pは、2つのCpとFlu基を架橋する基であり、ZR34基を表し、Zはケイ素または炭素原子を表し、R3およびR4は、同じでも異なっていてもよく、それぞれが1~20個の炭素原子を含むアルキル基、好ましくはメチルを表し、
yは整数であり、0と等しいまたは0より大きく、
xは整数であり、または整数ではなく、0と等しいまたは0より大きく、
Lは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるアルカリ金属を表し、
Nは、エーテルの分子、好ましくはジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランを表し、
1およびR2は、同じでも異なっていてもよく、炭素基を表す)
をベースとする触媒系の存在下でのエチレンと1,3-ジエンとの共重合を含む方法により調製することができる。
【0012】
触媒系は、出願WO2007054223に記載されている方法と類似の方法により慣例的に調製することができる。例えば、有機マグネシウム化合物およびメタロセンは、炭化水素溶媒中で、通常20~80℃の範囲の温度で、5~60分の期間反応させる。触媒系は一般的に、脂肪族炭化水素溶媒、例えば、メチルシクロヘキサン、または芳香族炭化水素溶媒、例えば、トルエン中で調製される。一般的に、その合成後、触媒系は、本発明によるコポリマーの合成のための方法において、この形態で使用される。
触媒系を調製するために使用されるメタロセンは、結晶性または非結晶性粉末の形態、さもなければ単結晶の形態であることができる。メタロセンは、モノマーまたはダイマー形態で提供することができ、これらの形態は、例えば、出願WO2007054224に記載されているような、メタロセンの調製方法に依存する。メタロセンは、特に、不活性および無水条件下で、希土類金属ホウ化水素を有する配位子のアルカリ金属の塩と、適切な溶媒、例えば、エーテル、例えばジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン中または当業者に公知の他の任意の溶媒中で反応させることにより、出願WO2007054223に記載されている方法と類似の方法により慣例的に調製することができる。反応後、メタロセンは、第2の溶媒中で、当業者に公知の技術、例えば、濾過または沈殿により、反応副産物から分離する。最後にメタロセンを乾燥させ、固体形態で単離する。
【0013】
有機金属化合物の存在下で行われる任意の合成のように、メタロセンおよび触媒系の合成は不活性雰囲気下、無水条件下で行われる。通常、反応は、無水溶媒および化合物から出発して、無水窒素またはアルゴン下で行われる。
好ましくは、メタロセンは式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)または(IIe)
式(IIa):[{Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)}2
式(IIb):[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)]
式(IIC):[Me2SiCpFluNd(μ-BH4)(THF)]
式(IId):[{Me2SiCpFluNd(μ-BH4)(THF)}2
式(IIe):[Me2SiCpFluNd(μ-BH4)]
(式中、記号Fluは、式C138のフルオレニル基を提示し、記号Cpは式C54のシクロペンタジエニル基を表す)
のメタロセンである。
【0014】
本発明の必要条件に対して有用な有機マグネシウム化合物は、式MgR12(式中、R1およびR2は、同じでも異なっていてもよく、炭素基を表す)の有機マグネシウム化合物である。炭素基は、1個または複数の炭素原子を含有する基を意味すると考えられている。好ましくは、R1およびR2は、2~10個の炭素原子を含有する。
本発明の1つの優先的実施形態によると、R1およびR2はそれぞれアルキル、優先的には、2~10個の炭素原子を含有するアルキルを表す。有機マグネシウム化合物は有利にはジアルキルマグネシウム化合物であり、さらにより良いことには、ブチルエチルマグネシウムまたはブチルオクチルマグネシウム、さらにより良いことにはブチルオクチルマグネシウムである。
本発明の実施形態のいずれか1つによると、有機マグネシウム化合物の、メタロセンを構成する金属Ndに対するモル比は好ましくは、1~100に及ぶ範囲、より好ましくは1より大きいまたは1と等しく、かつ10未満である。1~10未満に及ぶ値の範囲は特に高いモル質量のコポリマーを得るためにより好都合である。
【0015】
当業者はまた、重合および様々な化学反応を行うために、使用する装置(デバイス、反応器)に従い、重合条件および反応物質(触媒系、モノマーの構成物質)のそれぞれの濃度を適応させる。当業者には公知であるように、共重合ならびにモノマー、触媒系および重合溶媒の取扱いは、無水条件下および不活性雰囲気下で行われる。重合溶媒は通常脂肪族または芳香族炭化水素溶媒である。
【0016】
重合は好ましくは、溶液中で、連続的またはバッチ方式で行う。重合溶媒は芳香族または脂肪族炭化水素溶媒であってよい。重合溶媒の例として、トルエンおよびメチルシクロヘキサンが挙げられる。モノマーを、重合溶媒および触媒系を含有する反応器に導入することもできるし、または逆に、触媒系を、重合溶媒およびモノマーを含有する反応器に導入することもできる。共重合は通常、無水条件下および酸素の不在下で、任意での不活性ガスの存在下で行われる。重合温度は一般的に、30~150℃に及ぶ範囲、優先的には30~120℃の範囲内で変動する。好ましくは、共重合は一定のエチレン圧力で行われる。
重合は、重合媒体を冷却することにより停止することができる。ポリマーは、当業者に公知の従来の技術に従い、例えば、沈殿により、減圧下での溶媒の蒸発により、または水蒸気ストリッピングにより回収することができる。
本発明の実施形態のいずれか1つによると、1,3-ジエンおよびエチレンの、成長するポリマー鎖への組込みは、優先的にはランダムである。本発明によるコポリマーは有利にはランダムコポリマーである。
本発明によるコポリマーは、特にこれがエラストマーの場合、ゴム組成物で使用することができる。
本発明の別の対象であるゴム組成物は、本発明による少なくとも1つのエラストマー、補強充填剤および架橋系を含むという特徴を有する。
【0017】
架橋系は、硫黄、硫黄ドナー、過酸化物、ビスマレイミドまたはこれらの混合物に基づくことができる。架橋系は優先的には加硫系、すなわち硫黄に基づく系(または硫黄ドナーに基づく)および第1次加硫促進剤である。様々な公知の第2次加硫促進剤または加硫活性剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸もしくは同等な化合物、またはグアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)、さもなければ公知の加硫遅延剤をこの塩基加硫系に加えることができる。
【0018】
本発明の必要条件に対して有用な補強充填剤は、タイヤの製造に有用なゴム組成物を強化するその能力が公知の任意の種類の「補強用」充填剤、例えば、有機フィラー、例えば、カーボンブラック、補強用無機充填剤、例えば、シリカ(これらは公知の方式で、カップリング剤と併用される)、さもなければこれら2種の充填剤の混合物などを含むことができる。このような補強充填剤は通常、ミクロメートル未満、一般的には500nm未満、最も多くの場合、20~200nmの間、特により優先的には、20~150nmの間の平均サイズ(質量平均サイズ)のナノ粒子からなる。補強充填剤の含有量は、ゴム組成物の使用に従い当業者により調整される。
ゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物に使用されていることが公知の他の添加剤、例えば、可塑剤、オゾン防止剤または抗酸化剤をさらに含有することができる。
本発明によるゴム組成物は通常、当業者に周知の2つの連続相の調製を使用して適当なミキサーで製造される。第1相では130℃~200℃の間の最大温度までの高温での熱機械的作動または混練が行われ(「非生産」相)、これに続く第2相では、通常110℃未満、例えば40℃~100℃の間の低温まで機械的作動が行われ(「生産」相)、この第2相の最終加工相の間に架橋系が組み込まれる。
生の状態(架橋または加硫前)または硬化した状態(架橋または加硫後)のいずれかであることができる本発明によるゴム組成物は、タイヤ用の半完成品に使用することができる。
タイヤは、本発明の別の対象ではあるが、本発明の実施形態のいずれか1つで定義された、本発明によるゴム組成物を含む。
【0019】
要約すれば、本発明は、以下のモード1~23のいずれか1つに従い実行することができる:
モード1:エチレンと式(I)
式(I):CH2=CR-CH=CH2
(式中、記号Rは3~20個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す)
の1,3-ジエンとのコポリマーであって、エチレン単位と1,3-ジエン単位とを含み、エチレン単位がエチレン単位および1,3-ジエン単位の50モル%~95モル%の間に相当し、1,4配置の1,3-ジエン単位が1,3-ジエン単位の50モル%超に相当する、コポリマー。
モード2:エチレン単位が、エチレン単位および1,3-ジエン単位の少なくとも60モル%に相当する、モード1に記載のコポリマー。
モード3:エチレン単位が、エチレン単位および1,3-ジエン単位の少なくとも70モル%に相当する、モード1またはモード2に記載のコポリマー。
モード4:エチレン単位が、エチレン単位および1,3-ジエン単位の最大90モル%に相当する、モード1~3のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード5:エチレン単位が、エチレン単位および1,3-ジエン単位の最大85モル%に相当する、モード1~4のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0020】
モード6:1,4配置の1,3-ジエン単位が、1,3-ジエン単位の70モル%超に相当する、モード1~5のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード7:1,4-配置の1,3-ジエン単位の半分より多くが、1,4-trans配置である、モード1~6のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード8:記号Rが6~16個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す、モード1~7のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード9:記号Rが非環式鎖を表す、モード1~8のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード10:記号Rが直鎖または分枝鎖を表す、モード1~9のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0021】
モード11:記号Rが飽和または不飽和鎖を表す、モード1~10のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード12:Rが不飽和非環式鎖を表す、モード1~11のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード13:1,3-ジエンがミルセンまたはβ-ファルネセンである、モード1~12のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード14:コポリマーがランダムコポリマーである、モード1~13のいずれか1つに記載のコポリマー。
モード15:コポリマーがエラストマーである、モード1~14のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0022】
モード16:少なくとも式(II)のメタロセンおよび式(III)の有機マグネシウム化合物
式(II):P(Cp)(Flu)Nd(BH4(1+y)-y-Nx
式(III):MgR12
(式中、Cpは、式C54のシクロペンタジエニル基を意味し、Fluは式C138のフルオレニル基を意味し、
Pは2つのCpとFlu基を架橋する基であり、ZR34基を表し、Zはケイ素または炭素原子を表し、R3およびR4は、同じでも異なっていてもよく、それぞれが1~20個の炭素原子を含むアルキル基、好ましくはメチルを表し、
yは整数であり、0と等しいまたは0より大きく、
xは整数であり、または整数ではなく、0と等しいまたは0より大きく、
Lは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるアルカリ金属を表し、
Nは、エーテルの分子、好ましくはジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランを表し、
1およびR2は、同じでも異なっていてもよく、炭素基を表す)
をベースとする触媒系の存在下でのエチレンと1,3-ジエンとの重合を含む、モード1から15のいずれか1つに記載のコポリマーを調製するための方法。
モード17:メタロセンが、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)または(IIe)
式(IIa):[{Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)}2
式(IIb):[Me2SCpiFluNd(μ-BH42Li(THF)]
式(IIC):[Me2SiCpFluNd(μ-BH4)(THF)]
式(IId):[{Me2SiCpFluNd(μ-BH4)(THF)}2
式(IIe)[Me2SiCpFluNd(μ-BH4)]
(Cpは式C54のシクロペンタジエニル基を意味し、Fluは式C138のフルオレニル基を意味する)
のメタロセンである、モード16に記載の方法。
モード18:R1およびR2が2~10個の炭素原子を含有する、モード16および17のいずれか1つに記載の方法。
モード19:R1およびR2がアルキルをそれぞれ表す、モード16~18のいずれか1つに記載の方法。
モード20:R1およびR2が2~10個の炭素原子を含有するアルキルをそれぞれ表す、モード19に記載の方法。
【0023】
モード21:有機マグネシウム化合物がジアルキルマグネシウム化合物、好ましくはブチルエチルマグネシウムまたはブチルオクチルマグネシウム、より優先的にはブチルオクチルマグネシウムである、モード16~20のいずれか1つに記載の方法。
モード22:モード15に記載の少なくとも1つのコポリマー、補強充填剤および架橋系を含む、ゴム組成物。
モード23:モード22に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
本発明の上記の特徴、さらにその他は、非限定的例示として付与されている本発明のいくつかの実施例の以下の記載を読むことで、より明確に理解されることになる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕エチレンと式(I)
式(I):CH 2 =CR-CH=CH 2
(式中、記号Rは3~20個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す)
の1,3-ジエンとのコポリマーであって、エチレン単位と1,3-ジエン単位とを含み、前記エチレン単位が前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の50モル%~95モル%の間に相当し、1,4配置の1,3-ジエン単位が前記1,3-ジエン単位の50モル%超に相当する、コポリマー。
〔2〕前記エチレン単位が、前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも70モル%に相当する、前記〔1〕に記載のコポリマー。
〔3〕前記エチレン単位が、最大90%に相当する、前記〔1〕または〔2〕に記載のコポリマー。
〔4〕前記エチレン単位が、前記エチレン単位および前記1,3-ジエン単位の最大85モル%に相当する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔5〕前記1,4配置の1,3-ジエン単位が前記1,3-ジエン単位の70モル%超に相当する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔6〕前記1,4-配置の1,3-ジエン単位の半分超が1,4-trans配置である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔7〕前記記号Rが非環式鎖、好ましくは不飽和非環式鎖を表す、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔8〕前記1,3-ジエンがミルセンまたはβ-ファルネセンである、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔9〕コポリマーがランダムコポリマーである、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のコポリマー。
〔10〕前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のコポリマーを調製するための方法であって、少なくとも式(II)のメタロセンおよび式(III)の有機マグネシウム化合物
式(II):P(Cp)(Flu)Nd(BH 4 (1+y)- y -N x
式(III):MgR 1 2
(式中、Cpは、式C 5 4 のシクロペンタジエニル基を意味し、Fluは式C 13 8 のフルオレニル基を意味し、
Pは、2つのCpとFlu基を架橋する基であり、ZR 3 4 基を表し、Zはケイ素または炭素原子を表し、R 3 およびR 4 は、同じでも異なっていてもよく、それぞれが1~20個の炭素原子を含むアルキル基、好ましくはメチルを表し、
yは整数であり、0と等しいまたは0より大きく、
xは整数であり、または整数ではなく、0と等しいまたは0より大きく、
Lは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるアルカリ金属を表し、
Nは、エーテルの分子、好ましくはジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランを表し、
1 およびR 2 は、同じでも異なっていてもよく、炭素基を表す)
をベースとする触媒系の存在下でのエチレンと前記1,3-ジエンとの重合を含む、方法。
〔11〕前記メタロセンが、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)または(IIe)
式(IIa):[{Me 2 SiCpFluNd(μ-BH 4 2 Li(THF)} 2
式(IIb):[Me 2 SCpiFluNd(μ-BH 4 2 Li(THF)]
式(IIC):[Me 2 SiCpFluNd(μ-BH 4 )(THF)]
式(IId):[{Me 2 SiCpFluNd(μ-BH 4 )(THF)} 2
式(IIe):[Me 2 SiCpFluNd(μ-BH 4 )]
(式中、Cpは式C 5 4 のシクロペンタジエニル基を意味し、Fluは式C 13 8 のフルオレニル基を意味する)を有する、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕R 1 およびR 2 がそれぞれアルキル、好ましくは2~10個の炭素原子を含有するアルキルを表す、前記〔10〕および〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕前記有機マグネシウム化合物がブチルエチルマグネシウムまたはブチルオクチルマグネシウム、好ましくはブチルオクチルマグネシウムである、前記〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の少なくとも1つのコポリマー、補強充填剤および架橋系を含むゴム組成物であって、コポリマーがエラストマーである、ゴム組成物。
〔15〕前記〔14〕に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
【実施例
【0024】
1)ポリマーの合成:
本発明によるコポリマーの合成において、使用される1,3-ジエンは、ミルセンまたはβ-ファルネセン、すなわち式(I)の1,3-ジエンであり、Rは、以下の式を有する、それぞれ6個の原子および11個の炭素原子を有する炭化水素基である:
ミルセンでは、Rは式CH2-CH2-CH=CMe2に対応する、
β-ファルネセンでは、Rは式CH2-CH2-CH=CMe-CH2-CH2-CH=CMe2に対応する。
【0025】
すべての試薬は、メタロセン[{Me2SiFlu2Nd(μ-BH42Li(THF)}]および[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)](出願WO2007054224およびWO2007054223に記載の手順に従い調製)を除いて商業的に得たものである。
ブチルオクチルマグネシウムBOMAG(ヘプタン中20%、C=0.88モル.l-1)は、Chemturaから供給され、不活性雰囲気下で、シュレンク管内に貯蔵される。N35等級のエチレンは、Air Liquideから供給され、事前の精製なしで使用する。ミルセン(純度≧95%)はSIGMA-Aldrichから入手する。Β-ファルネセン(純度:90~95%)は1717 CheMallを介して入手する。
【0026】
1.1 エチレンと1,3-ブタジエンとのコポリマー:本発明に従うものではない例1。
以下の手順に従いポリマーを合成する:
助触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)、次いでメタロセン[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)]を300mlのトルエンを含有する500mlガラス反応器に加える。アルキル化時間は10分間であり、反応温度は20℃である。触媒系の構成物質のそれぞれの量は表1に出ている。続いて、表1に示されているそれぞれの割合に従いモノマーを加える。エチレン(Eth)および1,3-ブタジエン(Bde)は気体混合物の形態である。重合を80℃で一定のエチレン圧力4バールで行う。重合反応物を冷却により停止し、反応器を脱気し、10mlのエタノールを加える。抗酸化剤をポリマー溶液に加える。オーブン内、真空下で一定の質量まで乾燥させることによりコポリマーを回収する。表2はポリマーのミクロ構造およびその特性を示している。
【0027】
1.2 エチレンと1,3-ブタジエンとのコポリマー:本発明に従うものではない例2。
以下の手順に従いポリマーを合成する:
300mlのメチルシクロヘキサンを含有する500mlガラス反応器に、助触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)を加え、次いでメタロセン[Me2Si(Flu)2Nd(μ-BH42Li(THF)]を加える。アルキル化時間は10分間であり、反応温度は20℃である。触媒系の構成物質のそれぞれの量は表1に出ている。続いて、表1に示されているそれぞれの割合に従いモノマーを加える。エチレン(Eth)および1,3-ブタジエン(Bde)は気体混合物の形態である。重合を80℃で一定のエチレン圧力4バールで行う。重合反応物を冷却により停止し、反応器を脱気し、10mlのエタノールを加える。抗酸化剤をポリマー溶液に加える。オーブン内、真空下で一定の質量まで乾燥させることによりコポリマーを回収する。表2はポリマーのミクロ構造およびその特性を示す。
【0028】
1.3 エチレンとミルセンとのコポリマー:本発明に従う例3~5。
以下の手順に従いポリマーを合成する:
80℃で、メチルシクロヘキサン、エチレンおよびミルセンを表3に示された割合で含有する反応器内に、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)を加えて、反応器内の不純物を中和し、次いで触媒系を加える(表3を参照)。この時点で、反応温度を80℃に調節し、重合反応を開始する。重合反応は一定の圧力8バールで生じる。重合全体を通して、反応器にはエチレンおよびミルセンを表3で定義された割合で供給する。冷却、反応器の脱気およびエタノールの添加により重合反応を停止する。抗酸化剤をポリマー溶液に加える。オーブン内、真空下で一定の質量まで乾燥させることによりコポリマーを回収する。触媒系は予め形成された触媒系である。この触媒系は、メチルシクロヘキサン中で、表3に示された含有量でのメタロセン、[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)]、助触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)、および予備成形モノマー、1,3-ブタジエンから調製する。この触媒系は、特許出願WO2018100279のセクションIIによる調製方法に従い調製する。
ポリマーのミクロ構造およびその特性が表4に示されている。
【0029】
1.4 エチレンとβ-ファルネセンとのコポリマー:本発明に従う例6~7。
以下の手順に従いポリマーを合成する:
300mlのメチルシクロヘキサンを含有する500mlガラス反応器に、助触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)、次いでメタロセン[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)]を加える。アルキル化時間は10分間であり、反応温度は20℃である。触媒系の構成物質のそれぞれの量は表5に出ている。続いて、70%のβ-ファルネセン供給原料を反応器に加えてから、気体エチレンを注入し、残りの30%を反応器に65%変換率で導入する。重合を80℃で一定のエチレン圧力4バールで行う。冷却、反応器の脱気および10mlのエタノールの添加により重合反応を停止する。抗酸化剤をポリマー溶液に加える。オーブン内、真空下で一定の質量まで乾燥させることによりコポリマーを回収する。ポリマーのミクロ構造およびその特性が表6に示されている。
【0030】
2)ポリマーのミクロ構造の判定:
エチレンと1,3-ミルセンとのコポリマーおよびエチレンとβ-ファルネセンとのコポリマーのミクロ構造のスペクトル特性評価および測定を核磁気共鳴(NMR)分光法で行う。
分光器:これらの測定には、Bruker cryo-BBFO z-grad 5mmプローブを備えたBruker Avance III HD 400MHz分光器を使用する。
【0031】
実験:傾斜角30°でラジオ周波数パルスを使用して1H実験を記録し、繰返し回数は128であり、リサイクル遅延は5秒である。HSQC(異核種単一量子コヒーレンス(Heteronuclear Single Quantum Coherence))およびHMBC(異核種単一量子相関(Heteronuclear Multiple-Bond Correlation))1H-13CNMR相関実験を、繰返し回数128回および増加回数128回で記録する。実験は25℃で行う。
試料の調製:25mgの試料を1mlの重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解する。
試料の較正:1Hおよび13C化学シフト軸は、溶媒(CHCl3)のプロトン化した不純物に関して、δ1H=7.2ppmおよびδ13C=77ppmで較正する。
【0032】
エチレンと1,3-ミルセンとのコポリマーに対するスペクトル帰属(Chem 1を参照されたい):
表示Chem 1において、記号R1およびR2は単位のポリマー鎖への結合点を表す。表示Chem 1において、1,3-ジエンA、BおよびCの挿入形態の信号が、記録された異なるスペクトル上に観察された。S.Georgesら(S. Georges, M. Bria, P. Zinck and M. Visseaux, Polymer, 55 (2014), 3869-3878)によると、形態Cに特徴的な-CH=基No.8”の信号は-CH=基No.3と同一の1Hおよび13C化学シフトを示す。
モチーフA、BおよびCに特徴的な信号の化学シフトが表7に提示されている。モチーフA、BおよびCは、3,4配置、1,2配置およびtrans-1,4配置の単位にそれぞれ対応する。
Topspinソフトウェアを使用して、1D 1H NMRスペクトルの積分から定量化を行った。
異なるモチーフの定量化に対する積算信号は、以下の通りである。
エチレン:4つのプロトンに対応する1.2ppmでの信号。
全ミルセン:6つのプロトンに対応する信号No.1(1.59ppm)。
形態A:2つのプロトンに対応する信号No.7(4.67ppm)。
形態B:1つのプロトンに対応する信号No.8’(5.54ppm)。
ミクロ構造の定量化は、以下の通りモルパーセンテージ(モル%)で行う:モチーフのモル%=モチーフの1H積分*100/Σ(各モチーフの1H積分)。
【0033】
エチレンとβ-ファルネセンとのコポリマーに対するスペクトル帰属(Chem 2を参照されたい):
Chem 2の表示において、記号R1およびR2は単位のポリマー鎖への結合点を表す。表示Chem 2において、ファルネセンAおよびBの挿入形態の信号が、記録された異なるスペクトル上に観察された。形態Cに特徴的な-CH=基No.11”の信号は、-CH=基No.3およびNo.7と同一の1Hおよび13C化学シフトを示す。モチーフA、BおよびCに特徴的な信号の化学シフトが表8に提示されている。モチーフA、BおよびC(Chem 2)は、3,4配置、1,2配置およびtrans-1,4配置の単位にそれぞれ対応する。
Topspinソフトウェアを使用して、1D 1H NMRスペクトルの積分から定量化を行った。
異なるモチーフの定量化に対する積算信号は、以下の通りである。
エチレン:4つのプロトンに対する-CH2-CH2-(1.19ppmで)の信号、
全ファルネセン:9つのプロトンに対する、No.1、13基に割り当てられた信号(この信号はファルネセンのすべての挿入形態に共通している)、
形態A:2つのプロトンに対する、この形態に特異的な信号No.14、
形態B:1つのプロトンに対する、この形態に特異的な信号No.11。
形態Cの割合は直接到達可能ではないが、No.3、7、11”基に割り当てられた信号から計算することができる。
ミクロ構造の定量化を以下の通りモルパーセンテージ(モル%)で行う:単位のモル%=単位の1H積分×100/Σ(各単位の1H積分)
【0034】
3)ポリマー剛性の判定(生の状態):
測定は、Anton Paar モデルMCR301レオメーターで、制御された形状(1.5mm~3mmの間の厚さおよび22mm~28mmの間の直径)の円柱状試験試料を用いて、剪断モードで行う。固定された温度(10Hzでの温度スイープの間のエラストマーのガラス転移の推移の終点に対応する)で、0.01Hz~100Hzに及ぶ周波数範囲にわたり、試料を正弦剪断応力に供する。試料のゴム状平坦領域の剛性として選択された剛性値とは、C. Liu, J. He, E. van Ruymbeke, R. Keunings and C. Bailly, Evaluation of different methods for the determination of the plateau modulus and the entanglement molecular weight, Polymer, 47 (2006), 4461-4479に記載の方法によると、損失弾性率G”がその最小値に到達する周波数に対する剛性率G’の値である。
【0035】
4)ポリマーの結晶化度の判定:
Standard ISO 11357-3:2011を使用して、示差走査熱量測定(DSC)で使用されるポリマーの溶融および結晶化の温度およびエンタルピーを決定する。ポリエチレンの基準エンタルピーは277.1J/gである(Handbook of Polymer, 4th Edition, J。Brandrup, E. H. Immergut and E. A. Grulke, 1999による)。
【0036】
5)結果:
例1(対照)では、エチレンが豊富であり、メタロセン[Me2SiCpFluNd(μ-BH42Li(THF)]の存在下で、エチレンと1,3-ブタジエンとの重合により合成したジエンコポリマーは、高い結晶化度(31%)を有し、このためこのコポリマーはある特定の使用に不適切となり得る。
例2(本発明に従うものではない)では、メタロセン[Me2Si(Flu)2Nd(μ-BH42Li(THF)]の存在下で合成した、エチレンが豊富なジエンコポリマーは環式モチーフを有する。コポリマーは対照と同等のエチレン含有量を含有するが、結晶性ではない。それにもかかわらず、このコポリマーは比較的高い剛性を有し、このためこのコポリマーは一部の使用に不適切となり得る。
【0037】
1,3-ブタジエンの代わりにミルセンを使用することによって、非常に高いエチレン含有量を有しながら、ずっと低い結晶化度のコポリマーを得ることが可能となる。実際に、例3では、コポリマーは、例1および2(それぞれ73%および71%)より高いエチレン含有量(77%)を有するにもかかわらず、0%近くの結晶化度と、生の状態で例1および2の剛性よりずっと低い剛性との両方を示す。
【0038】
ミルセンの代わりにβ-ファルネセンを使用することによって、エチレンとミルセンとのコポリマーと同じ剛性のコポリマーを得ることが可能となるが、この結果は、β-ファルネセンの場合、より高いエチレン含有量に対して得られている。実際に、例6および7のエチレン単位含有量は、例4および5のエチレン単位含有量より高く、その一方で結晶化度および生の状態での剛性は実質的には同じである。
【0039】
要約すれば、1,3-ブタジエンを、式CH2=CR-CH=CH2(式中、Rは、3~20個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す)の1,3-ジエン、例えば、ミルセンまたはβ-ファルネセンで置き換えることにより、エチレン含有量と、結晶化度と、剛性との間の妥協点が改善された状態で、エチレンが豊富なジエンポリマーを合成することおよびエチレンが豊富なジエンコポリマーのゴム組成物における応用分野を拡大することが可能となる。
【0040】
【化2】
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】