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特許7495409改善された抗FLT3抗原結合タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】改善された抗FLT3抗原結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240528BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240528BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240528BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240528BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/02
A61K48/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K31/7088
A61K35/12
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/13 ZNA
C12P21/08
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021537507
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2019074268
(87)【国際公開番号】W WO2020053300
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】18193889.5
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19189566.3
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504385513
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュングスツェントルム シュティフトゥング デス エッフェントリッヒェンレヒツ
(73)【特許権者】
【識別番号】513008971
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン
【氏名又は名称原語表記】Eberhard Karls Universitaet Tuebingen
【住所又は居所原語表記】Geschwister-Scholl-Platz, 72074 Tuebingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ユン グンドラム
(72)【発明者】
【氏名】サリフ ヘルムト
(72)【発明者】
【氏名】フォクト ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ゼクリ-メトレフ ラティファ
(72)【発明者】
【氏名】プフリュグラー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エーネス イサベル
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502373(JP,A)
【文献】国際公開第2017/176760(WO,A2)
【文献】特表2012-505654(JP,A)
【文献】特表2008-518619(JP,A)
【文献】Molecular Therapy,2015年04月,23, 4,648-655
【文献】Frontiers in Bioscience,2008年,Vol.13,p.1619-1633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
またはEIDPSDSYTDYAQKFKDに記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、1つまたは2つの重鎖可変ドメイン;ならびに
(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)またはYASQSASに記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、1つまたは2つの軽鎖可変ドメイ
を含む、ヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)であって、
該1つまたは2つの重鎖可変ドメイン、および該1つまたは2つの軽鎖可変ドメインが、各々、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部分を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とし、
ABPが、抗体またはその抗原結合断片を含む、
該ABP。
【請求項2】
重鎖可変ドメインのヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGHV1-46*3を含むIGHV1-46由来し、かつ/または鎖可変ドメインのヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGKV3D-15に由来する、請求項1記載のABP。
【請求項3】
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 15、17、19、21、23もしくは76から選択されるアミノ酸配列含み; かつ/あるいは軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 16、18、20、22、24もしくは77から選択されるアミノ酸配列含む、請求項1または2記載のABP。
【請求項4】
重鎖可変領域において、アミノ酸16、18、19、20、22、48、57、60、69、70、75、76、78、80、81、87、および108位がSEQ ID NO: 15、17、19、21もしくは23のうちのいずれか1つと同様であり; かつ/または軽鎖可変領域において、アミノ酸49、55、および87位がSEQ ID NO: 16、18、20、22もしくは24のうちのいずれか1つと同様であり; ナンバリングがKabatシステムによるものである、請求項3記載のABP。
【請求項5】
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 21に記載されるアミノ酸配列に対してなくとも90%たは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 22に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項記載のABP。
【請求項6】
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 76に記載されるアミノ酸配列に対してなくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 77に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項記載のABP。
【請求項7】
重鎖可変領域が48Iを含み、かつ軽鎖可変領域が87Fを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、請求項1~6のいずれか一項記載のABP。
【請求項8】
軽鎖可変領域が49Kをみ、ナンバリングがKabatシステムによるものである、請求項7記載のABP。
【請求項9】
少なくとも1つまたは2つの抗体重鎖配列と、少なくとも1つまたは2つの抗体軽鎖配列とから構成される抗体またはその抗原結合断片であり、
該抗体重鎖配列および抗体軽鎖配列が、各々、以下の組み合わせV0~V5:
のうちの1つにおける可変領域配列を含む、
請求項1~8のいずれか一項記載のABP。
【請求項10】
50μM未満かつ50 nM超のkDでFLT3に結合する請求項1~9のいずれか一項記載のABP。
【請求項11】
FLT3を発現するヒト細胞に、10 nMより低くかつ0.5 nMより高いEC50で結合する、請求項1~10のいずれか一項記載のABP。
【請求項12】
FLT3を発現するヒト細胞に、5.5 nMより低くかつ4.5 nMより高いEC50で結合する、請求項1~11のいずれか一項記載のABP。
【請求項13】
エフェクター基を含み、かつ/または標識されている、請求項1~12のいずれか一項記載のABP。
【請求項14】
単離されており、かつ/または実質的に純粋である、請求項1~13のいずれか一項記載のABP。
【請求項15】
前記抗体またはその抗原結合断片が、モノクローナル抗体たはモノクローナル抗体の断片ある、請求項1~14のいずれか一項記載のABP。
【請求項16】
前記抗体が、メラ抗体またはヒトキメラ抗体である、請求項15記載のABP。
【請求項17】
前記抗体が、IgG、IgE、IgD、IgA、またはIgM免疫グロブリンある、請求項15または16記載のABP。
【請求項18】
Fab、Fab'-SH、Fv、scFv、およびF(ab')2からなるリストより選択される抗体断片である、請求項15~17のいずれか一項記載のABP。
【請求項19】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)を増加させるように修飾または操作されている、またはフコシル化されていない、請求項1~18のいずれか一項記載のABP。
【請求項20】
ヒトfms関連チロシンキナーゼ3(FLT3)に結合することができる第1の抗原結合ドメイン、および、ヒトCD3を含む、哺乳動物T細胞上に存在するFLT3以外の抗原に結合することができる第2の抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質(ABP)であって、該第1の抗原結合ドメインが、
(i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
またはEIDPSDSYTDYAQKFKDに記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、1つまたは2つの重鎖可変ドメイン;ならびに
(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)またはYASQSASに記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、1つまたは2つの軽鎖可変ドメイン
を含み、
該1つまたは2つの重鎖可変ドメインおよび該1つまたは2つの軽鎖可変ドメインが、各々、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部分を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とし、
該第1および第2の抗原結合ドメインが、抗体またはその抗原結合断片を含む、
該ABP。
【請求項21】
二重特異性であり、かつFLT3に結合する2つの結合部位と、ヒトCD3を含む、哺乳動物T細胞上に存在するFLT3以外の抗原に結合する2つの結合部位とを含む、請求項20記載のABP。
【請求項22】
FLT3以外の抗原に結合する2つの結合部位が、ヒトCD3に結合し、かつUCHT1抗CD3 scFv構築物またはSEQ ID NO: 14に示されるscFvを含む、請求項21記載のABP。
【請求項23】
2つの抗体重鎖配列および2つの抗体軽鎖配列を含み、
該抗体重鎖配列および抗体軽鎖配列が、各々、以下の組み合わせV0~V5:
のうちのいずれか1つにおけるアミノ酸配列を含む、
請求項22記載のABP。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項記載のABPをコードする配列、または請求項1~23のいずれか一項記載のABPの原結合断片単量体、重鎖、もしくは軽鎖をコードする配列含む、単離された核酸。
【請求項25】
請求項24記載の核酸と、
コードされたABP該ABP構成成分、または該ABPの抗体重鎖もしくは軽鎖細胞内での発現を可能にする、1つまたは複数のさらなる配列特徴と
を含む、核酸構築物(NAC)。
【請求項26】
請求項24記載の核酸または請求項25記載のNACを含む、組換え宿主細胞。
【請求項27】
(i)請求項1~23のいずれか一項記載のABPまたは(ii)請求項24記載の核酸もしくは請求項25記載のNAC、または(iii)請求項26記載の組換え宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体、安定剤および/もしくは賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項28】
請求項1~23のいずれか一項記載のABP請求項24記載の単離された核酸または請求項25記載のNAC、請求項26記載の組換え宿主細胞、および請求項27記載の薬学的組成物からなるリストより選択される、医薬における使用のための構成成分。
【請求項29】
T細胞を介したFLT3陽性腫瘍細胞の殺傷および/または増殖阻害を増強することにおける使用のためのものである、請求項28記載の成成分。
【請求項30】
ヒトFLT3を発現するヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強するための医薬であって、求項1~23のいずれか一項記載のABPまたは該ABPコードする請求項24記載の核酸を含み、T細胞もしくはナチュラルキラー(NK)細胞を含む免疫細胞の存在下で該細胞を該ABPまたは該核酸と接触させることによって、該ヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強する医薬
【請求項31】
請求項28記載の構成成分の治療的有効量含む、対象における増殖性障害の予防および/または処置のための医薬であって、該増殖性障害が、該増殖性障害に関連する細胞におけるFLT3の発現を特徴とする、該医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、改善されたFLT3結合親和性および/または抗腫瘍活性を有する、抗体などの、新規のヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)抗原結合タンパク質を提供する。本発明のFLT3抗体を、親FLT3抗体の変異によって作製し、結合アッセイにおいてインビトロで、ならびにマウス腫瘍モデルおよびヒト患者腫瘍サンプルにおいてインビボで試験した。本発明の抗体は、単一特異性構築物としてまたは二重特異性FLT3×CD3抗体形式で提供され、優れた標的親和性および/または腫瘍細胞殺傷を示す。本発明はまた、本発明の抗原結合タンパク質を産生するための方法、ならびにそれをコードする核酸、その発現のためのベクターおよび宿主細胞に関する。本発明はさらに、本発明のFLT3抗原結合タンパク質(ABP)を用いて白血病などの疾患を処置または診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
説明
1980年代に始まった科学的研究により、腫瘍関連抗原(TAA)およびT細胞受容体(TCR)/CD3複合体に向けられた二重特異性抗体が、T細胞を活性化し、活性化されたT細胞によるTAA発現腫瘍細胞の溶解をもたらしうることが確立された(Staerz et al. Nature 1985, 314:628-631(非特許文献1); Perez et al. Nature 1985, 316:354-356(非特許文献2); Jung et al. Proc Natl Acad Sci USA 1986, 83:4479-4483(非特許文献3))。Fc部分を介してFc受容体(FcR)に結合するCD3抗体は、望ましくない副作用としてT細胞活性化およびサイトカイン放出を誘導するのに非常に効率的であるので、FcR結合を抑止するためにおよび標的細胞がFcRを介したT細胞活性化ではなく制限された活性化を可能にするためにFc枯渇またはFc減弱二重特異性TAA×CD3抗体を構築することが最も重要である(Jung et al. Immunol Today 1988; 9:257-260(非特許文献4); Jung et al. Eur J Immunol 1991; 21:2431-2435(非特許文献5))。
【0003】
産業の質および量においてこの重要な前提条件を満たす二重特異性抗体の産生は、依然として手ごわい課題である。最近、ブリナツモマブと称される、CD19×CD3特異性を有する組換え二重特異性一本鎖(bssc)抗体が、ALLを有する患者の処置においてかなりの効率を実証し(Bargou et al. Science 2008, 321:974-977(非特許文献6))、FDAにより画期的新薬指定の下で承認を受けている。特に、この薬物は、その短い血清中半減期およびかなり高い毒性のため、数週間にわたり24時間の持続注入として適用される; 安全に適用できる用量は1患者および1日あたりおよそ30μgであり、これは、確立された単一特異性抗腫瘍抗体による処置に使われるものよりも10.000倍低い(Adams and Weiner. Nat Biotechnol 2005, 23:1147-57(非特許文献7))。結果として得られる薬物血清中濃度は、1 ng/ml未満である(Topp et al. J Clin Oncol 2011; 29:2493-2498(非特許文献8))。異なる二重特異性抗体を用いた初期の臨床試験でも観察された(Kroesen et al. Br J Cancer 1994; 70:652-661(非特許文献9); Tibben et al. Int J Cancer 1996; 66:477-483(非特許文献10))、この厳しい用量制限は、全身性サイトカイン放出をもたらす非特異的なT細胞活性化によるものである。明らかに、この現象は、TCR/CD3複合体を刺激する二重特異性抗体の最適な治療活性を抑止する。
【0004】
原理上は、非特異的なT細胞活性化とその結果生じる毒性の問題を制限する用量は、2つの異なる機構によってもたらされうる。T細胞活性化は、当然のことながら、標的細胞に制限されるわけではなく、つまり、二重特異性抗体構築物内の一価CD3エフェクター結合部位でさえ、抗体がそのターゲティング部分と結合する標的細胞の非存在下でもいくらかのT細胞活性化を誘導することができる。標的抗原を保有している細胞がこの現象を誘導することは必要とされないため、これは厳密な意味での非特異的な活性化に当たる。本発明者らは、異なる形式の異なるCD3抗体が用いられる場合に、およびT細胞活性化の共刺激を提供するリンパ腫細胞(SKW6.4)または内皮細胞(HUVEC)のような、ある特定の刺激バイスタンダー細胞(SBC)が添加される場合に、この現象は大幅に異なることに気付いた。したがって、二重特異性抗体の構築のために最小限の「非特異的な」T細胞活性化を誘導するCD3部分を選択する必要がある。
【0005】
二重特異性抗体によって標的とされるTAAは、完全に腫瘍特異的ではなく、正常なTAA発現細胞に結合するため、抗体を介したT細胞活性化を引き起こす。厳密な意味では、これは「間違った細胞」、つまり悪性細胞ではなく正常細胞であるにもかかわらず、抗原を発現する標的細胞によって誘導されるため、非特異的な活性化ではない。上記の二重特異性CD19×CD3抗体であるブリナツモマブは、その標的抗原CD19が正常なBリンパ球に発現されるため、確実にこの問題に直面している。明らかに、悪性組織のターゲティング抗原の特異性は、この種の非特異的なT細胞活性化を抑止するために重要である。fms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)は、幹細胞因子受容体(c-KIT)、マクロファージコロニー刺激因子受容体(FMS)および血小板由来成長因子受容体(PDGFR)を含む他のクラスIIIファミリーメンバーと相同性を共有する造血クラスIII受容体チロシンキナーゼタンパク質である。FLT3リガンドとの結合により、FLT3受容体はホモ二量体化を起こし、それによって膜近傍ドメイン中の特定のチロシン残基の自己リン酸化ならびにPI3K Akt、MAPKおよびSTAT5経路を介した下流の活性化を可能にする。FLT3はしたがって、正常な造血細胞の増殖、生存および分化を制御する際のシグナル伝達成分として重要な役割を果たす。
【0006】
ヒトFLT3は、CD34+CD38-造血幹細胞(HSC)においておよび樹状前駆細胞のサブセットにおいて発現される。FLT3発現は、CD34+CD38+CD45RA-CD123 骨髄球系共通前駆細胞(CMP)、CD34+CD38+CD45RA+CD123 顆粒球単球前駆細胞(GMP)、およびCD34+CD38+CD10+CD19- リンパ系共通前駆細胞(CLP)のような多能性前駆細胞においても検出することができる。興味深いことに、CD34+CD38-CD45RA-CD123- 巨核球赤芽球系前駆細胞(MEP)にはFLT3発現がほとんど存在しない。FLT3発現はしたがって、主に初期の骨髄系前駆細胞およびリンパ系前駆細胞に限定され、成熟が進んだ単球系細胞での発現は、ある程度のものである。急性骨髄性白血病(AML)および急性リンパ性白血病(ALL)では、FLT3は非常に高レベルで発現される。FLT3は、慢性期ではなく急性転化期の慢性骨髄性白血病(CML)においても発現される。全体として、FLT3はプレB ALL患者のおよそ98%およびAML患者の約90%において発現される。
【0007】
AML患者の15%~34%がFLT3/ITD変異を示し、小児では頻度が低く、高齢者では頻度が高い。FLT3/ITD変異を有する成人および小児AML患者はともに、予後が非常に不良であり(Rombouts WJ, Blokland I, Lowenberg B, Ploemacher RELeukemia. 2000 Apr; 14(4):675-83(非特許文献11))、それゆえFLT3は、AMLだけでなく、ALL療法の有望な標的である。変異したFLT3は構成的に活性化され、FLT3は、ras/MAPキナーゼ、STAT5、およびPI3キナーゼ/AKTを含む経路を通じてシグナルを伝達し、アポトーシスおよび分化の遮断に寄与し、増殖を刺激する。FLT3は、AMLとALLの両方の治療法のために抗体アプローチを介して標的とすることができる。FLT3に結合し、受容体へのFL結合を阻害する抗体が開発されている。Imclone抗体IMC-EB10は、第I相試験において再発AML患者で評価されたが、有効性の欠如のために試験は中断された(ClinicalTrials.gov識別子: NCT00887926(非特許文献12))。したがって、AMLの処置のための二重特異性抗体を含む第2世代モノクローナル抗体を評価する差し迫った必要性が残ったままである。
【0008】
真に単量体のCD3刺激によって誘導されるT細胞活性化に加えて、最近の論文では、二重特異性抗体のターゲティング部分を伴う非特異的活性化の代替機構が示唆されている; この部分がT細胞表面上の二重特異性抗体のエフェクター部分のクラスタリングを誘導する一本鎖断片からなる場合、強力なシグナル伝達が誘導されてT細胞枯渇を引き起こす可能性があり(Long et al. Nat Med 2015; 6:581(非特許文献13))、これは従来の、短時間インビトロアッセイではほとんど検出することができないが、インビボの効率に深刻な影響を与える。これらの所見は、キメラ抗原受容体をトランスフェクトされたT細胞(CAR T細胞)を用いてなされた。キメラT細胞受容体は、ターゲティング部分として一本鎖抗体を含む。Long et al. (2015)(非特許文献13)の結果は同様に、これらの試薬が、T細胞に結合すると、対応するCARをトランスフェクトされたT細胞と機能的に同等であるため、そのようなターゲティング部分を有する二重特異性抗体に当てはまる可能性が非常に高い。ほとんどの一本鎖抗体が多量体および凝集体を形成する傾向を有することは当分野において周知であり(Worn et al. J Mol Biol 2001, 305:989-1010(非特許文献14))、したがって、Long et al. (2015)(非特許文献13)により試験されたCARの1つを除く全てが、程度こそさまざまとはいえ、クラスタリングおよび強力なCD3シグナル伝達の現象を示した(Long et al. 2015(非特許文献13))のは驚くべきことではない。本明細書で概説する問題では、ターゲティング部分の多量体化およびターゲティング部分によるクラスタリングを抑止する二重特異性形式を必要とする。
【0009】
ほとんどの二重特異性形式は、分子量の低減およびCH3ドメインの欠如によって非常に短い血清中半減期(1~3時間)に悩まされる。したがって、原型的なブリナツモマブ抗体は、数週間にわたる持続的な24時間の静脈内注入により適用される。図1に図示されているIgGscなどの、血清中半減期の増加を伴うIgG全体に基づいた形式の使用は、二価C末端CD3結合部分によって誘導される非特異的な活性化が増加する可能性があるため、不適当と見なされてきた。
【0010】
上記に基づき、上で概説した問題の少なくとも1つに対処する、FLT3を標的とする改善されたABPが当技術分野において必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Staerz et al. Nature 1985, 314:628-631
【文献】Perez et al. Nature 1985, 316:354-356
【文献】Jung et al. Proc Natl Acad Sci USA 1986, 83:4479-4483
【文献】Jung et al. Immunol Today 1988; 9:257-260
【文献】Jung et al. Eur J Immunol 1991; 21:2431-2435
【文献】Bargou et al. Science 2008, 321:974-977
【文献】Adams and Weiner. Nat Biotechnol 2005, 23:1147-57
【文献】Topp et al. J Clin Oncol 2011; 29:2493-2498
【文献】Kroesen et al. Br J Cancer 1994; 70:652-661
【文献】Tibben et al. Int J Cancer 1996; 66:477-483
【文献】Rombouts WJ, Blokland I, Lowenberg B, Ploemacher RELeukemia. 2000 Apr; 14(4):675-83
【文献】ClinicalTrials.gov識別子: NCT00887926
【文献】Long et al. Nat Med 2015; 6:581
【文献】Worn et al. J Mol Biol 2001, 305:989-1010
【発明の概要】
【0012】
発明の簡単な説明
概して、簡単な説明として、本発明の主な局面は、以下のように記述することができる。
【0013】
第1の局面において、本発明は、ヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)に関し、該ABPは、
(i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
に記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメイン、または、いずれの場合にも独立してCDRH1、CDRH2および/もしくはCDRH3が、それぞれSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメイン; ならびに
(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)に記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメイン、または、いずれの場合にも独立してCDRL1、CDRL2および/もしくはCDRL3が、それぞれSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメイン
を含み、該ABPは、該1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメインおよび該1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメインが、各々、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部分を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とする。
【0014】
第2の局面において、本発明は、fms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができ、かつFLT3への第1の局面のABPの結合と競合することができる、抗原結合タンパク質(ABP)またはその抗原結合断片に関する。
【0015】
第3の局面において、本発明は、ヒトfms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)抗原に結合することができる第1の抗原結合ドメインと、ヒト表面抗原分類3 (CD3)抗原に結合することができる第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗原結合タンパク質(ABP)に関し、該二重特異性ABPは、
a. 蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりFLT3陽性細胞への該二重特異性ABPの結合を分析することにより判定した場合に、10 nMより低いEC50でFLT3に結合し; かつ
b. 蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりCD3陽性細胞への該二重特異性ABPの結合を分析することにより判定した場合に、200 nMより低いEC50でCD3に結合する。
【0016】
第4の局面において、本発明は、第1もしくは第2の局面のABPをコードする配列、または第1もしくは第2の局面のABPの、重鎖もしくは軽鎖などの抗原結合断片もしくは単量体をコードする配列、あるいは第3の局面による二重特異性ABPをコードする配列を含む、単離された核酸に関する。
【0017】
第5の局面において、本発明は、第4の局面の核酸と、コードされた抗原結合タンパク質(ABP)もしくは二重特異性ABPまたは該ABPもしくは二重特異性ABPの構成成分(抗体重鎖もしくは軽鎖など)の細胞内での発現を可能にする1つまたは複数のさらなる配列特徴とを含む、核酸構築物(NAC)に関する。
【0018】
第6の局面において、本発明は、第4の局面の核酸または第2の局面による核酸構築物(NAC)を含む、組換え宿主細胞に関する。
【0019】
第7の局面において、本発明は、(i) 第1~第3の局面の抗原結合タンパク質(ABP)もしくは二重特異性ABP、または(ii) 第4の局面の核酸もしくは第5の局面によるNAC、または(iii) 第6の局面による組換え宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体、安定剤および/もしくは賦形剤を含む、薬学的組成物に関する。
【0020】
第8の局面において、本発明は、(i) 第1~第3の局面の抗原結合タンパク質(ABP)もしくは二重特異性ABP、または(ii) 第4の局面の核酸もしくは第5の局面によるNAC、または(iii) 第6の局面による組換え宿主細胞、および第7の局面による薬学的組成物からなるリストより選択される、医薬における使用のための構成成分に関する。
【0021】
第9の局面において、本発明は、ヒトFLT3を発現するヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強する方法に関し、該方法は、該細胞を、第1もしくは第2の局面の抗原結合タンパク質(ABP)、もしくは第3の局面による二重特異性ABP、または該ABPもしくは二重特異性ABPをコードする第4の局面による核酸と、T細胞もしくはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞の存在下で接触させ、それにより該ヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強する段階を含む。
【0022】
第10の局面において、本発明は、対象における増殖性障害の予防および/または処置のための方法に関し、該方法は、第8の局面において記載された構成成分の治療的有効量の対象への投与を含み; かつ該増殖性障害は、該増殖性障害に関連する細胞におけるヒトfms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)の発現によって特徴付けられる。
[本発明1001]
(i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
に記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメイン、または、いずれの場合にも独立してCDRH1、CDRH2および/もしくはCDRH3が、それぞれSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメイン; ならびに
(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)に記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメイン、または、いずれの場合にも独立してCDRL1、CDRL2および/もしくはCDRL3が、それぞれSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメイン
を含む、ヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)であって、
該1つ、好ましくは2つの、重鎖可変ドメイン、および該1つ、好ましくは2つの、軽鎖可変ドメインが、各々、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部分を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とする、該ABP。
[本発明1002]
重鎖可変ドメインのヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGHV1-46、好ましくはIGHV1-46*3に由来し、かつ/または重鎖可変ドメインのヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGKV3D-15に由来する、本発明1001のABP。
[本発明1003]
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 15、17、19、21、23もしくは76から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含み; かつ/あるいは軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 16、18、20、22、24もしくは77から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含む、本発明1001または1002のABP。
[本発明1004]
重鎖可変領域において、アミノ酸16、18、19、20、22、48、57、60、69、70、75、76、78、80、81、87、および108位がSEQ ID NO: 15、17、19、21もしくは23のうちのいずれか1つと同様であり; かつ/または軽鎖可変領域において、アミノ酸49、55、および87位がSEQ ID NO: 16、18、20、22もしくは24のうちのいずれか1つと同様であり; ナンバリングがKabatシステムによるものである、本発明1003のABP。
[本発明1005]
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 21に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 22に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、本発明1001~1004のいずれかのABP。
[本発明1006]
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 76に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 77に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、本発明1001~1004のいずれかのABP。
[本発明1007]
重鎖可変領域が48Iを含み、かつ軽鎖可変領域が87Fを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、本発明1001~1006のいずれかのABP。
[本発明1008]
軽鎖可変領域が49Kをさらに含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、本発明1007のABP。
[本発明1009]
少なくとも1つの、好ましくは2つの、抗体重鎖配列と、少なくとも1つの、好ましくは2つの、抗体軽鎖配列とから構成される抗体またはその抗原結合断片であり、
該抗体重鎖配列および抗体軽鎖配列が、各々、以下の組み合わせV0~V5:
のうちの1つにおける可変領域配列を含む、
本発明1001~1008のいずれかのABP。
[本発明1010]
50μM未満かつ50 nM超のk D でFLT3に結合する、好ましくは、1μM未満かつ300 nM超のk D でFLT3に結合する、本発明1001~1009のいずれかのABP。
[本発明1011]
FLT3を発現するヒト細胞に、10 nMより低くかつ0.5 nMより高いEC 50 で結合する、本発明1001~1010のいずれかのABP。
[本発明1012]
FLT3を発現するヒト細胞に、5.5 nMより低くかつ4.5 nMより高いEC 50 で結合する、本発明1001~1011のいずれかのABP。
[本発明1013]
エフェクター基を含み、かつ/または標識されている、本発明1001~1012のいずれかのABP。
[本発明1014]
単離されており、かつ/または実質的に純粋である、本発明1001~1013のいずれかのABP。
[本発明1015]
モノクローナル抗体などの抗体である、またはモノクローナル抗体の断片などの、抗体の断片である、本発明1001~1014のいずれかのABP。
[本発明1016]
前記抗体が、ヒトキメラ抗体などのキメラ抗体である、本発明1015のABP。
[本発明1017]
前記抗体が、IgG、IgE、IgD、IgA、またはIgM免疫グロブリン、好ましくはIgG免疫グロブリンである、本発明1015または1016のABP。
[本発明1018]
Fab、Fab'-SH、Fv、scFv、およびF(ab')2からなるリストより選択される抗体断片である、本発明1015~1017のいずれかのABP。
[本発明1019]
抗体依存性細胞傷害(ADCC)を増加させるように修飾または操作されている、好ましくはフコシル化されていない、本発明1001~1018のいずれかのABP。
[本発明1020]
哺乳動物T細胞上に存在する抗原および最も好ましくはヒトCD3などの、FLT3以外の抗原に結合する、1つまたは複数のさらなる抗原結合ドメインを含む、本発明1001~1019のいずれかのABP。
[本発明1021]
二重特異性であり、かつ好ましくは、FLT3に結合する2つの結合部位と、哺乳動物T細胞上に存在する抗原および最も好ましくはヒトCD3などの、FLT3以外の抗原に結合する、2つの結合部位とを含む、本発明1020のABP。
[本発明1022]
FLT3以外の抗原に結合する2つの結合部位が、ヒトCD3に結合し、かつ好ましくは、SEQ ID NO: 14に示されるscFvなどの、UCHT1抗CD3 scFv構築物を含む、本発明1021のABP。
[本発明1023]
2つの抗体重鎖配列および2つの抗体軽鎖配列を含み、
該抗体重鎖配列および抗体軽鎖配列が、各々、以下の組み合わせV0~V5:
のうちのいずれか1つにおけるアミノ酸配列を含む、
本発明1022のABP。
[本発明1024]
ヒトFLT3に結合することができ、かつFLT3への本発明1001~1023のいずれかのABPの結合と競合することができる、抗原結合タンパク質(ABP)またはその抗原結合断片。
[本発明1025]
ヒトfms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)抗原に結合することができる第1の抗原結合ドメインと、ヒト表面抗原分類3 (CD3)抗原に結合することができる第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗原結合タンパク質(ABP)であって、
a. 蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりFLT3陽性細胞への該二重特異性ABPの結合を分析することにより判定した場合に、10 nMより低いEC 50 でFLT3に結合し、かつ
b. 蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりCD3陽性細胞への該二重特異性ABPの結合を分析することにより判定した場合に、200 nMより低いEC 50 でCD3に結合する、
該二重特異性ABP。
[本発明1026]
0.5 nMより高いEC 50 でFLT3に結合する、本発明1025の二重特異性ABP。
[本発明1027]
表面プラズモン共鳴により測定した場合に、50μM未満のk D でFLT3に結合する、本発明1025または1026の二重特異性ABP。
[本発明1028]
1 nMより高いEC 50 でCD3に結合する、本発明1025~1027のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1029]
急性白血病に罹患している患者の白血病血液単核細胞の増殖および/または生存を、インビトロアッセイにおいて非関連対照と比較して50%以下に阻害する、本発明1025~1028のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1030]
2つを超えずかつ2つを下回らない第1の抗原結合ドメインと、2つの第2の抗原結合ドメインとを含む、本発明1025~1029のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1031]
抗体中の、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基が、欠けているまたは変異されている、本発明1025~1030のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1032]
第1の抗原結合ドメインが、本発明1001~1024のいずれかのABPまたはその抗原結合ドメインを含む、本発明1025~1031のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1033]
T細胞およびFLT3発現腫瘍細胞に結合する活性を有し、
好ましくは抗体が、FLT3およびCD3への結合によりFLT3発現腫瘍細胞へのT細胞の動員を増加させる、
本発明1025~1032のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1034]
第2の抗原結合ドメインがUCHT1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、本発明1025~1033のいずれかの二重特異性ABP。
[本発明1035]
本発明1001~1024のいずれかのABPをコードする配列、または本発明1001~1024のいずれかのABPの、重鎖もしくは軽鎖などの抗原結合断片もしくは単量体をコードする配列、あるいは本発明1025~1034のいずれかの二重特異性ABPをコードする配列を含む、単離された核酸。
[本発明1036]
本発明1035の核酸と、コードされたABPもしくは二重特異性ABPまたは該ABPもしくは二重特異性ABPの構成成分(抗体重鎖もしくは軽鎖など)の細胞内での発現を可能にする1つまたは複数のさらなる配列特徴とを含む、核酸構築物(NAC)。
[本発明1037]
本発明1035の核酸または本発明1036のNACを含む、組換え宿主細胞。
[本発明1038]
(i) 本発明1001~1034のいずれかのABPもしくは二重特異性ABP、または(ii) 本発明1035の核酸もしくは本発明1036のNAC、または(iii) 本発明1037の組換え宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体、安定剤および/もしくは賦形剤を含む、薬学的組成物。
[本発明1039]
本発明1001~1034のいずれかのABPまたは二重特異性ABP、本発明1035の単離された核酸または本発明1036のNAC、本発明1037の組換え宿主細胞、および本発明1038の薬学的組成物からなるリストより選択される、医薬における使用のための構成成分。
[本発明1040]
T細胞を介したFLT3陽性腫瘍細胞の殺傷および/または増殖阻害を増強することにおける使用のためのものである、本発明1039の使用のための構成成分。
[本発明1041]
増殖性疾患の診断、予防および/または処置における使用のためのものであり、
増殖性障害が、FLt3発現に関連しており、好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)もしくは急性リンパ芽球性白血病(ALL)などの白血病、または前立腺がん、結腸直腸がん、胃がん、肺がん、骨肉腫、乳がん、膵臓がん、もしくは扁平上皮がんから選択される固形がんより選択されるがんなどの、がんであり; 好ましくは該がんがAMLまたはALLなどの白血病である、
本発明1033~1034の使用のための構成成分。
[本発明1042]
ヒトFLT3を発現するヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強する方法であって、該細胞を、本発明1001~1024のいずれかのABP、もしくは本発明1025~1034のいずれかの二重特異性ABP、または該ABPもしくは二重特異性ABPをコードする本発明1035の核酸と、T細胞もしくはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞の存在下で接触させ、それにより該ヒト細胞に対する細胞媒介性免疫応答を増強する段階を含む、該方法。
[本発明1043]
本発明1039の構成成分の治療的有効量を対象に投与することを含む、対象における増殖性障害の予防および/または処置のための方法であって、該増殖性障害が、該増殖性障害に関連する細胞におけるFLT3の発現によって特徴付けられる、該方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
以下で、本発明の要素について記述する。これらの要素は特定の態様とともに記載されているが、それらはさらなる態様を作り出すために、任意の方法および任意の数で組み合わされてもよいことが理解されるべきである。さまざまに記述された例および好ましい態様は、本発明を明示的に記述された態様のみに限定するように解釈されるべきではない。本記述は、明示的に記述された態様の2つもしくはそれ以上を組み合わせる、または明示的に記述された態様の1つもしくはそれ以上を任意の数の開示されたおよび/もしくは好ましい要素と組み合わせる態様を支持および包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述されている全ての要素の任意の順列および組み合わせは、文脈がそうでないことを示す場合を除き、本出願の記述によって開示されていると見なされるべきである。
【0024】
第1の局面において、本発明に属する発明は、(i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
に記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、重鎖可変ドメイン、あるいは、いずれの場合にも独立してCDRH1、CDRH2および/もしくはCDRH3が、それぞれSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、またはSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03に対して少なくとも75%の配列同一性もしくは80%、好ましくは90%の配列同一性を有するCDRH1、CDRH2もしくはCDRH3配列を含む、重鎖可変ドメイン; ならびに(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)に記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、軽鎖可変ドメイン、あるいは、いずれの場合にも独立してCDRL1、CDRL2および/もしくはCDRL3が、それぞれSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、またはSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07に対して少なくとも75%の配列同一性もしくは少なくとも80%の配列同一性を有するCDRL1、CDRL2もしくはCDRL3配列を含む、軽鎖可変ドメインを含む、ヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)であって、該重鎖可変領域および該軽鎖可変領域が各々、ヒト可変領域フレームワーク配列を含むことを特徴とする、該ABPを提供する。好ましくは、該重鎖可変ドメインおよび該軽鎖可変ドメインは、各々、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部分を有する抗体フレームワーク領域を含む。
【0025】
本発明はまた、マウス抗体4G8のCDR領域がヒト抗体の重鎖および軽鎖のフレームワーク領域に挿入されることを意味する、CDRグラフティングにより本明細書において初めてヒト化された抗FLT3抗体4G8 (WO 2011/076922において完全に開示されたマウス抗FLT3抗体)のヒト化バージョンに由来する新規および高親和性かつ有効性の抗体構築物を提供する。しかしながら、その後、本発明のABPを得るために、ヒト化4G8抗体は形式、定常領域および可変領域が広範囲に変えられた。原理上は、いずれの可変ヒト軽鎖および/または可変重鎖も、CDRグラフティングの足場として機能することができる。本発明のヒト化抗体の1つの実例において、抗体4G8の軽鎖のCDR領域(つまりSEQ ID NO: 5~SEQ ID NO: 7のCDRループ)を、IMGT/LIGMデータベースにアクセッション番号M23090の下で寄託されているヒトκ軽鎖配列IGKV3-15*1の(可変ドメイン)に挿入することができる。Ichiyoshi Y., Zhou M., Casali P. A human anti-insulin IgG autoantibody apparently arises through clonal selection from an insulin-specific 'germ-line' natural antibody template. Analysis by V gene segment reassortment and site-directed mutagenesis' J. Immunol. 154(1):226-238 (1995)も参照されたい。本発明のヒト化抗体の別の実例において、抗体4G8の重鎖のCDR領域(つまりSEQ ID NO: 1~SEQ ID NO: 3のCDRループ)を、IMGT/LIGMデータベースにアクセッション番号L06612の下で寄託されている重鎖配列IGHV1-46*03の(可変ドメイン)に含めることができる(Watson C.T., et al. Complete haplotype sequence of the human immunoglobulin heavy-chain variable, diversity, and joining genes and characterization of allelic and copy-number variation. Am. J. Hum. Genet. 92(4):530-546 (2013)も参照のこと)。
【0026】
本明細書において用いられる「抗原結合タンパク質」または「ABP」という用語は、標的抗原によって提示される、または標的抗原上に存在する1つまたは複数のエピトープのような、標的抗原に特異的に結合するタンパク質を意味する。本発明のABPの抗原はFLT3であり、または二重特異性分子の場合、FLT3およびCD3である。典型的には、抗原結合タンパク質は、抗体(またはその断片)、好ましくは二重特異性抗体である; しかしながら抗原結合タンパク質の他の形態も本発明によって想定される。例えば、ABPは、例えば、コンビナトリアルタンパク質デザインの方法を用いることによる結合機能を備えたものなどの、小さくて頑丈な非免疫グロブリン「足場」に由来する別の(非抗体)受容体タンパク質でありうる(Gebauer & Skerra, 2009; Curr Opin Chem Biol, 13:245)。そのような非抗体ABPの特定の例としては、プロテインAのZドメインに基づくアフィボディ分子(Nygren, 2008; FEBS J 275:2668); γ-Bクリスタリンおよび/またはユビキチンに基づくアフィリン(Ebersbach et al, 2007; J Mo Biol, 372:172); シスタチンに基づくアフィマー(Johnson et al, 2012; Anal Chem 84:6553); スルフォロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidcaldarius)由来のSac7dに基づくアフィチン(Krehenbrink et al, 2008; J Mol Biol 383:1058); 三重らせんコイルドコイルに基づくアルファボディ(Desmet et al, 2014; Nature Comms 5:5237); リポカリンに基づくアンチカリン(Skerra, 2008; FEBS J 275:2677); さまざまな膜受容体のAドメインに基づくアビマー(Silverman et al, 2005; Nat Biotechnol 23:1556); アンキリンリピートモチーフに基づくDARPin (Strumpp et al, 2008; Drug Discov Today, 13:695); FynのSH3ドメインに基づくフィノマー(Fynomer) (Grabulovski et al, 2007; J Biol Chem 282:3196); さまざまなプロテアーゼ阻害剤のクニッツドメインに基づくクニッツドメインペプチド(Nixon et al, Curr opin Drug Discov Devel, 9:261)ならびにフィブロネクチンの10番目のIII型ドメインに基づくセンチリンおよびモノボディ(Diem et al., 2014; Protein Eng Des Sel 27:419 doi: 10.1093/protein/gzu016; Koide & Koide, 2007; Methods Mol Biol 352:95)が挙げられる。本発明のABPの文脈において、ABPは、好ましくは、ヒトFLT3およびヒトCD3の抗原結合ドメインを含む二重特異性形式で提供される。
【0027】
本明細書において用いられる「相補性決定領域」(または「CDR」もしくは「超可変領域」)という用語は、抗体の軽鎖または重鎖の可変領域に見出される超可変領域または相補性決定領域(CDR)の1つまたは複数を広くいう。例えば:「IMGT」, Lefranc et al, 20003, Dev Comp Immunol 27:55; Honegger & Pluckthun, 2001, J Mol Biol 309:657, Abhinandan & Martin, 2008, Mol Immunol 45:3832, Kabat, et al. (1987): Sequences of Proteins of Immunological Interest National Institutes of Health, Bethesda, Mdを参照されたい。これらの表現には、Kabat et al (1983) Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept of Health and Human Servicesによって定義される超可変領域、または抗体の3次元構造の超可変ループ(Chothia and Lesk, 1987; J Mol Biol 196:901)が含まれる。各鎖におけるCDRはフレームワーク領域により近接して保持され、他の鎖からのCDRとともに、抗原結合部位の形成に寄与する。CDR内には、抗体-抗原相互作用においてCDRにより用いられる重要な接触残基を表す選択性決定領域(SDR)として記述されている選択されたアミノ酸が存在する。(Kashmiri, 2005; Methods 36:25)。
【0028】
「抗体」という用語は一般に、免疫グロブリンに基づくタンパク質性結合分子をいう。そのような抗体の典型的な例は、結合特異性を保持する免疫グロブリンの誘導体または機能的断片である。抗体および抗体断片の産生のための技法は、当技術分野において周知である。「抗体」という用語は、異なるクラス(すなわちIgA、IgG、IgM、IgDおよびIgE)ならびにサブクラス(IgG1、IgG2などのような)の免疫グロブリン(Ig's)も含む。また上記のように、抗体誘導体または分子の実例は、Fab断片、F(ab')2、Fv断片、一本鎖Fv断片(scFv)、ダイアボディまたはドメイン抗体を含む(Holt LJ et al., Trends Biotechnol. 21(11), 2003, 484-490)。したがって「抗体」という用語の定義は、キメラ抗体、一本鎖抗体およびヒト化抗体のような態様も含む。
【0029】
本明細書において用いられる「ABP」は、免疫グロブリンM、免疫グロブリンG、免疫グロブリンA、免疫グロブリンDまたは免疫グロブリンEの対応する天然ドメインに対して少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%または少なくとも約99%の配列同一性を有する配列を持つ1つまたは複数のドメインを保有しうる。この点に関して、本明細書において用いられる「約」または「およそ」という用語は、所与の値または範囲の10%の偏差内または5%内のような、20%の偏差内を意味することに留意されたい。
【0030】
本発明において用いられる「パーセント(%)配列同一性」は、本発明のポリペプチドの配列と当該の配列との相同性アライメント後の、これらの2つの配列のうちの長い方の残基の数に対しての、ペアワイズ同一残基の割合を意味する。パーセントアミノ酸配列同一性を判定する目的のためのアライメントは、当技術分野における技術の範囲内であるさまざまな方法において、例えば、BLAST、ALIGN、またはMegalign (DNASTAR)ソフトウェアのような公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するのに適したパラメータを判定することができる。本明細書において開示されるヌクレオチド配列についても同じことが当てはまる。
【0031】
「免疫グロブリン」は、本明細書において用いられる場合、典型的には、各およそ25 kDaの2つの軽(L)鎖および各およそ50 kDaの2つの重(H)鎖から構成される四量体グリコシル化タンパク質である。免疫グロブリンにおいてλおよびκと称される、2種類の軽鎖が見られうる。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは5つの主要なクラス: A、D、E、G、およびMに割り当てることができ、これらのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類されうる。IgM免疫グロブリンは5個の基本的なヘテロ四量体ユニットとJ鎖と呼ばれる追加のポリペプチドからなり、10個の抗原結合部位を含むが、IgA免疫グロブリンはJ鎖との組み合わせで、重合して多価集合体を形成できる2~5個の基本的な4鎖ユニットを含む。IgGの場合、4鎖ユニットは一般に約150,000ダルトンである。
【0032】
IgGクラスの免疫グロブリンでは、重鎖の中にいくつかの免疫グロブリンドメインがある。本明細書における「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、別個の三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。IgG抗体との関連で、IgGアイソタイプは各々、3個のCH領域を有する: KabatらのようにEUインデックスによれば「CH1」は118~220位をいい、「CH2」は237~340位をいい、「CH3」は341~447位をいう。本明細書における「ヒンジ」または「ヒンジ領域」または「抗体ヒンジ領域」または「免疫グロブリンヒンジ領域」または「H」とは、抗体の第1および第2の定常ドメイン間のアミノ酸を含む柔軟なポリペプチドを意味する。構造的に、IgG CH1ドメインはEU位置220位で終わり、IgG CH2ドメインは残基EU位置237位で始まる。したがって、IgGの場合、ヒンジは221位 (IgG1中ではD221)~236位 (IgG1中ではG236)を含むと本明細書において定義され、ここでナンバリングはKabatらのようにEUインデックスによるものである。本明細書において定義される、定常重鎖は、CH1ドメインのN末端からCH3ドメインのC末端までをいい、したがって118~447位を含み、ここでナンバリングはEUインデックスによるものである。
【0033】
「可変」という用語は、その配列において可変性を示す、かつ特定の抗体の特異性および結合親和性の決定に関与する免疫グロブリンドメインの部分(すなわち「可変ドメイン」)をいう。可変性は抗体の可変ドメイン全体に均等に分布していない; それは重鎖および軽鎖の各可変領域のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」、「HVR」または「HV」または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FR)と呼ばれる。天然に存在する重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、4個のFR領域を含み、主にβシート立体配置を取り、3個の超可変領域によって繋がっており、この3個の超可変領域は、βシート構造と繋がっている、場合によってはβシート構造の一部を形成している、ループを形成する。各鎖における超可変領域は、FRにより近接して保持され、他の鎖からの超可変領域とともに、抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.参照、以下参照)。一般に、天然に存在する免疫グロブリンは6個のCDR (以下参照); VH中の3個(CDRH1、CDRH2、CDRH3)、およびVL中の3個(CDRL1、CDRL2、CDRL3)を含む。天然に存在する免疫グロブリンにおいて、CDRH3およびCDRL3は6個のCDRの中で最も広範な多様性を呈し、特にCDRH3は、免疫グロブリンに微細特異性を付与するうえで独特の役割を果たすと考えられている。定常ドメインは、抗原結合に直接関与していないが、例えば、抗体依存性、細胞媒介性細胞傷害および補体活性化のような、さまざまなエフェクター機能を示す。
【0034】
「VH」(VHともいわれる)および「VL」(VLともいわれる)という用語は、免疫グロブリンのそれぞれ重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインをいうように本明細書において用いられる。免疫グロブリン軽鎖または重鎖可変領域は、3個の超可変領域によって中断された「フレームワーク」領域からなる。したがって「超可変領域」という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基をいう。超可変領域は「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基を含む。免疫グロブリンの可変部分には3個の重鎖および3個の軽鎖CDR (またはCDR領域)がある。したがって、本明細書において用いられる「CDR」は、全3個の重鎖CDR (CDRH1、CDRH2およびCDRH3)、または全3個の軽鎖CDR (CDRL1、CDRL2およびCDRL3)、または適切な場合、全ての重鎖および全ての軽鎖CDRの両方をいう。3個のCDRは軽鎖可変領域の結合特性を構成し、3個は重鎖可変領域の結合特性を構成する。CDRは、免疫グロブリン分子の抗原特異性を決定し、足場またはフレームワーク領域を含むアミノ酸配列によって分離される。正確な定義的CDRの境界および長さは、さまざまな分類およびナンバリングシステムに依存する。抗体の構造およびタンパク質折り畳みは、他の残基が抗原結合領域の一部と見なされ、当業者によってそのように理解されることを意味しうる。CDRは、免疫グロブリンの抗原またはエピトープへの結合のための接触残基の大部分を提供する。
【0035】
CDR3は典型的には、抗体結合部位内の分子多様性の最大の供給源である。例えば、H3は、2アミノ酸残基ほど短くても、26アミノ酸を超えていてもよい。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は、当技術分野において周知である。抗体構造の概説については、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, eds. Harlow et al., 1988を参照されたい。当業者は、各サブユニット構造、例えば、CH、VH、CL、VL、CDR、FR構造が、活性断片、例えば、抗原に結合するVH、VLもしくはCDRサブユニットの部分、すなわち抗原結合断片、または例えばFC受容体および/もしくは補体に結合しかつ/もしくは活性化するCHサブユニットの部分を含むと認識するであろう。CDRは典型的には、Sequences of Proteins of immunological Interest, US Department of Health and Human Services (1991), eds. Kabat et alに記述されているように、Kabat CDRをいう。抗原結合部位を特徴付けるための別の標準は、Chothiaによって記述されているように超可変ループを参照することである。例えば、Chothia, et al. (1992; J. MoI. Biol. 227:799-817; およびTomlinson et al. (1995) EMBO J. 14:4628-4638を参照されたい。さらに別の標準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより用いられるAbM定義である。一般に、例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains. In: Antibody Engineering Lab Manual (Ed.: Duebel, S. and Kontermann, R., Springer-Verlag, Heidelberg)を参照されたい。あるいは、Kabat CDRに関して記述された態様は、Chothia超可変ループに関してまたはAbM定義ループに関して同様に記述された関係を用いて実施することができる。
【0036】
対応する免疫グロブリンμ重鎖、γ重鎖、α重鎖、δ重鎖、ε重鎖、λ軽鎖またはκ軽鎖は、げっ歯類種を含む哺乳動物種、両生類、例えばカエル、ヒキガエル、サンショウウオもしくはイモリを含むサブクラス平滑両生亜綱(Lissamphibia)の両生類、または無脊椎動物種など、任意の種のものでありうる。哺乳動物の例としては、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハリネズミ、カモノハシ、アメリカナキウサギ、アルマジロ、イヌ、キツネザル、ヤギ、ブタ、ウシ、フクロネズミ、ウマ、コウモリ、ウッドチャック、オランウータン、赤毛猿、羊毛猿、マカク、チンパンジー、タマリン(ワタボウシタマリン)、マーモセットまたはヒトが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0037】
本明細書において言及される場合、免疫グロブリンは、典型的には、ジスルフィド結合によって連結された少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略される)および重鎖定常領域を有する。いくつかの態様において、重鎖定常領域は3個のドメインCH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1個のドメインCLを含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域に散在している、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができる。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用に関与する残基の大部分を含む。各VHおよびVLは、以下の順序: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に向かって配置された、3個のCDRおよび4個のFRを有する。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原のエピトープと相互作用する結合ドメインを含む。
【0038】
「フレームワーク領域」または「FR」残基は、超可変領域以外の可変ドメイン残基である。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。したがって「ヒトフレームワーク領域」は、天然に存在するヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域と実質的に(約85%またはそれ以上、通常は90~95%またはそれ以上)同一であるフレームワーク領域である。抗体のフレームワーク領域、つまり構成要素である軽鎖および重鎖のフレームワーク領域を組み合わせたものが、CDRの配置および整列に役立つ。CDRは抗原のエピトープへの結合に主に関与する。
【0039】
「Fab」、「Fab領域」、「Fab部分」または「Fab断片」という用語は、VH、CH1、VL、およびCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを定義すると理解される。Fabは、この領域を分離して、またはこの領域をABPとの関連で、ならびに完全長免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片をいうことができる。典型的には、Fab領域は抗体の軽鎖全体を含む。Fab領域は、免疫グロブリン分子の「アーム」を定義するものと解釈することができる。Fab領域は、そのIgのエピトープ結合部分を含む。天然に存在する免疫グロブリンのFab領域は、パパイン消化によりタンパク質分解断片として得ることができる。「F(ab')2部分」は、ペプシンで消化された免疫グロブリンのタンパク質分解断片である。「Fab'部分」は、F(ab')2部分のジスルフィド結合を還元した結果生じる生成物である。本明細書において用いられる場合、「Fab」、「Fab領域」、「Fab部分」または「Fab断片」という用語は、抗体アームのC末端を定義するヒンジ領域をさらに含みうる。このヒンジ領域は、ABPのアームがYを定義するものと解釈できる、完全長免疫グロブリン内のCH1ドメインのC末端に見られるヒンジ領域に対応する。ヒンジ領域という用語は、この領域で免疫グロブリンがいくらかの柔軟性を有するので、当技術分野において用いられる。本明細書において用いられる「Fab重鎖」は、VHおよびCH1を含むFab断片のその部分またはポリペプチドとして理解され、その一方で本明細書において用いられる「Fab軽鎖」は、VLおよびCLを含むFab断片のその部分またはポリペプチドとして理解される。
【0040】
「Fc領域」または「Fc断片」という用語は、天然配列Fc領域および変種Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように本明細書において用いられる。Fc部分は、抗体のエフェクター機能、例えば補体系の活性化およびNK細胞などの、Fc受容体を担持する免疫エフェクター細胞の活性化を媒介する。ヒトIgG分子において、Fc領域はCys226のN末端側のパパイン切断によって作製される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化しうるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226位のアミノ酸残基から、またはPro230位からそのカルボキシル末端まで伸びると定義されている。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムによる残基447位)は、例えば、ABPの生成もしくは精製中に、またはABPの重鎖をコードする核酸を組換え操作することにより除去されうる。天然配列Fc領域は、哺乳動物、例えばヒトまたはマウスIgG1、IgG2 (IgG2A、IgG2B)、IgG3およびIgG4を含む。Fc領域は、抗体のクラスに応じて、2つまたは3つの定常ドメインを含む。免疫グロブリンがIgGである態様において、Fc領域はCH2およびCH3ドメインを有する。
【0041】
「一本鎖可変断片」(scFv)という用語は、免疫グロブリンの重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域が10から約25アミノ酸の短いリンカーペプチドによって、一緒に融合されている抗体断片を定義するように本明細書において用いられる。リンカーは通常、柔軟性のためにグリシンが、および溶解性のためにセリンまたはスレオニンが豊富であり、VHのN末端をVLのC末端に繋げるか、VLのN末端を VHのC末端に繋げるかすることができる。scFv断片は特定の抗原結合部位を保持しているが、しかし免疫グロブリンの定常ドメインを欠いている。
【0042】
「抗原決定基」としても知られる「エピトープ」という用語は、抗体またはT細胞受容体が特異的に結合し、それによって複合体を形成する抗原の部分をいう。したがって「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合することができる任意の分子またはタンパク質決定基を含む。本明細書において記述されるABPの結合部位(パラトープ)は、標的構造に特有である、立体配座エピトープまたは連続エピトープに特異的に結合し/立体配座エピトープまたは連続エピトープと相互作用しうる。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または糖側鎖のような化学的に活性な表面分子基からなり、通常、特定の三次元構造特性、および特定の電荷特性を有する。いくつかの態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルのような化学的に活性な表面分子基を含み、ある特定の態様において、特定の三次元構造特性および/または特定の電荷特性を有しうる。ポリペプチド抗原に関して、立体配座エピトープまたは不連続エピトープは、一次配列において分離されているが、しかしポリペプチドが天然タンパク質/抗原に折り畳まれる場合に分子の表面上で一貫した構造に集合する、2個またはそれ以上の別個のアミノ酸残基の存在によって特徴付けられる(SeIa, M., Science (1969) 166, 1365-1374; Laver, W.G., et al. Cell (1990) 61, 553-556)。エピトープに寄与する2個またはそれ以上の別個のアミノ酸残基は、1つまたは複数のポリペプチド鎖の別々のセクションに存在しうる。これらの残基は、ポリペプチド鎖が三次元構造に折り畳まれてエピトープを構成する場合に、分子の表面に集まる。対照的に、連続または線状エピトープは、ポリペプチド鎖の単一の線状セグメントに存在する2個またはそれ以上の別個のアミノ酸残基からなる。
【0043】
本文脈における「特異的」、または「特異的結合」という用語は、「に向けられる」としても使用され、本発明によれば、抗体または免疫受容体断片が特定の抗原もしくはリガンドまたは特定の抗原もしくはリガンドのセットと特異的に相互作用および/または結合することができるが、しかし他の抗原またはリガンドに本質的には結合しないことを意味する。そのような結合は、「鍵と鍵穴の原理」の特異性によって例示されうる。一方の抗体のみが所与の時点でエピトープに結合できる、すなわち一方の抗体が他方の結合または調節効果を阻止するように抗体が交差競合する場合、抗体は「同じエピトープに結合する」と言われる。
【0044】
本明細書において用いられる「単離されたABP」という用語は、その自然環境の構成成分から特定されかつ分離され、および/または回収されたABPをいう。その自然環境の混入成分は、抗体の診断的または治療的使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含みうる。いくつかの態様において、ABPは、ローリー法によって判定されるように、99重量%超のような、95重量%を超える抗体に精製される。いくつかの態様において、抗体は、クマシーブルーまたは好ましくは銀染色を用い還元または非還元条件の下でのSDS-PAGEによって判断されるように均一に精製される。単離されたABPは、いくつかの態様において、抗体の自然環境の1つまたは複数の構成成分が存在していない状態で組換え細胞内に存在しうる。典型的には、単離された抗体は、少なくとも1つの精製段階によって調製される。
【0045】
本明細書において記述されるFLT3および/またはFLT3発現がん細胞に結合する本発明の(組換え) ABPは、任意の適当な組換え抗体形式で、例えばFv断片、scFv、ヒンジ領域を欠く一価抗体、ミニボディ、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片として用いられうる。本発明の組換えABPは、ヒトIgG定常領域のような定常ドメイン(領域)、CH1ドメイン(Fab断片がそうであるように)および/またはFc領域全体も含みうる。あるいは、本発明のABPは、好ましくは二重特異性形式での、完全長(全)抗体でもありうる。
【0046】
必要な成長経路の遮断を介した抗増殖、アポトーシスにつながる細胞内シグナル伝達、受容体の下方制御および/または代謝回転の増強、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)ならびに適応免疫応答の促進を含めて、抗体が細胞効果を媒介するいくつかの可能な機構がある(Cragg et al , 1999, Curr Opin Immunol 11 541-547, Glennie et al, 2000, Immunol Today 21 403-410)。抗体の効力はこれらの機構の組み合わせによる可能性があり、腫瘍学の臨床治療におけるそれらの相対的な重要性は、がんに依存しているようである。
【0047】
一部の抗体の活性に対するFcγRを介したエフェクター機能の重要性は、マウスにおいて(Clynes et al , 1998, Proc Natl Acad Sci U S A 95 652-656, Clynes et al , 2000, Nat Med 6 443-446,)、およびヒトでの臨床的効力と、FcγRIIIaの高(V158)または低(F158)親和性多型形態のそのアロタイプとの間で観察された相関から(Cartron et al , 2002, Blood 99 754-758, Weng & Levy, 2003, Journal of Clinical Oncology, 21 3940-3947)実証されている。これらのデータを総合すると、ある特定のFcγRへの結合のために最適化された抗体がエフェクター機能をより良好に媒介し、それにより患者において標的細胞をより効果的に破壊しうることが示唆される。したがって、抗体の抗腫瘍効力を増強するための有望な手段は、ADCC、ADCP、およびCDCのような細胞傷害性エフェクター機能を媒介するその能力の増強によるものである。さらに、抗体は、抗体が腫瘍細胞上のその標的に結合する場合に起こりうる増殖阻害またはアポトーシスシグナル伝達を介して抗腫瘍機構を媒介することができる。そのようなシグナル伝達は、FcγRを介して免疫細胞に結合した腫瘍細胞に抗体が提示されると増強されうる。それゆえ、FcγRに対する抗体の親和性の増大により、抗増殖効果の増強が引き起こされうる。
【0048】
増強されたエフェクター機能を提供するために、FcγRへの選択的に増強された結合を有する抗体を改変することにおいて、いくらかの成功が達成された。エフェクター機能の最適化のための抗体工学は、アミノ酸修飾を用いて達成されている(例えば、米国特許出願US 2004-0132101または米国特許出願2006-0024298を参照のこと)。
【0049】
本発明のABPは、ヒトFLT3に結合することができる。「fms関連チロシンキナーゼ3」または「FLT3」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、ヒトFLT3の変種、アイソフォームおよび種相同体を含む。ヒトFLT3タンパク質はUniProtアクセッション番号P36888 (2018年9月9日付のバージョン)を有する。ヒトFLT3の遺伝子は第13染色体上に位置し、HGNC:3765 (www.genenames.org - 2018年9月9日付のHGNCバージョン)のHGNCアクセッションを有する。ヒトFLT 3は、CD135、FLK2、STK1という名称でも公知である。しかしながら、本発明の抗体は、ある特定の好ましい場合において、ヒト以外の種からのFLT3と交差反応しない可能性がある。
【0050】
エピトープを判定するために、当技術分野において公知の標準的なエピトープマッピング法が用いられうる。例えば、抗体に結合するFLT3断片(ペプチド) (例えば合成ペプチド)を用いて、候補抗体またはその抗原結合断片が同じエピトープに結合するかどうかを判定することができる。線状エピトープの場合、定義された長さ(例えば、8個またはそれ以上のアミノ酸)の重複ペプチドが合成される。ペプチドは、FLT3タンパク質配列の8アミノ酸断片ごとを網羅する一連のペプチドが調製されるように、1アミノ酸ずつずらすことができる。より大きなずれ、例えば、2または3アミノ酸を用いることにより、それだけ少ないペプチドを調製すればよい。さらに、より長いペプチド(例えば、9-、10-または11-mer)を合成してもよい。ペプチドの抗体または抗原結合断片への結合は、表面プラズモン共鳴(BIACORE)およびELISAアッセイを含む標準的な方法論を用いて判定することができる。立体配座エピトープの試験の場合、より大きなFLT3断片を用いることができる。質量分析を用いて立体配座エピトープを定義する他の方法が記述されており、これを行うことができる(例えば、Baerga-Ortiz et al., Protein Science 11:1300-1308, 2002およびその中で引用されている参考文献を参照のこと)。Current Protocols in Immunology, Coligan et al., eds., John Wiley & SonsのUnit 6.8 (「Phage Display Selection and Analysis of B-cell Epitopes」)およびUnit 9.8 (「Identification of Antigenic Determinants Using Synthetic Peptide Combinatorial Libraries」)などの、標準的な実験室参考図書においてエピトープ判定のためのさらに他の方法が提供されている。エピトープは、既知のエピトープに点突然変異または欠失を導入し、その後、1つまたは複数の抗体または抗原結合断片との結合を試験して、どの突然変異が抗体または抗原結合断片の結合を低減させるかを判定することにより確認することができる。
【0051】
いくつかの好ましい態様における本発明のABPはその第1の抗原結合ドメインにおいて、対立遺伝子IGHV1-46、好ましくはIGHV1-46*3のヒトフレームワーク領域を含む重鎖可変領域を含む。軽鎖内に、本発明のABPは、IGKV3D-15*01のフレームワークを有する可変領域を含む。いくつかの態様において、本発明の抗体は完全グラフトヒト化抗体であり、これはV0-V6で示され、それぞれSEQ ID NO: 76および77の重鎖および軽鎖可変ドメイン配列を含む。しかしながら、T細胞およびT細胞媒介性抗腫瘍細胞傷害の動員および活性化のための改善された結合親和性、結合力および/または活性を有するヒト化抗FLT3抗体の変異した変種を提供することが、本発明の1つの成果である。それゆえ、本発明によれば、FLT3特異的な第1の抗原結合ドメインにおける本発明のABPが好ましく、ABPは、Kabatナンバリングによる16、18、19、20、22、48、57、60、69、70、75、76、78、80、81、87、および108位から選択される1つまたは複数の位置に変異を有する重鎖可変領域を含む。最も好ましくは、変異はKabatナンバリングによるK16G、V18L、K19R、V20L、K22A、M48I、K57T、N60A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、およびT108Lの、いずれかの1つもしくはいずれかの組み合わせ、または全てである。さらに、本発明のABPはそのFLT3特異的な第1の抗原結合ドメインにおいて、49、87、および55、好ましくはY49K、I55A、およびY87Fから選択される1つまたは複数の変異を有する可変軽鎖配列をさらに含んでもよく、ここでナンバリングはKabatシステムによるものである。いくつかの態様において、その第1の抗原結合ドメインにおける本発明のABPは、重鎖可変配列変異、好ましくは、唯一の変異として、K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、K57T、N60A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、およびT108L、ならびに軽鎖可変配列変異I55Aを含んでもよく、または可変軽鎖領域中の変異を含まなくてもよい。あるいは本発明のABPは、K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、T108Lを、好ましくは唯一の変異として含んでもよく、軽鎖可変配列中の変異を含まなくてもよい。別の例は、抗FLT3結合ドメイン重鎖可変配列中の変異なし、および対応する軽鎖可変配列中のI55A変異を含むABPに関する。さらに好ましいのは、抗FLT3第1の抗原結合ドメインにおいて48位の変異、好ましくは48Iを有する重鎖可変配列、ならびに対応する軽鎖可変配列において変異49Kおよび87Fを含む本発明のABPである。ナンバリングはKabatシステムによる。
【0052】
本発明のさらに別の態様は、FLT3に向けられた第1の抗原結合ドメインにおいて抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含むABPに関し、ここで重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 15、17、19、21、23もしくは76から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含み; かつ/あるいは軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 16、18、20、22、24もしくは77から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含む。ここでそのようなアミノ酸置換は、好ましくは保存的置換である。最も好ましくは、軽鎖および重鎖は、以下の表1における本明細書において開示される抗体によって対合されたこれらのABP中である。さらに、本発明による好ましいABPは、重鎖可変領域において、SEQ ID NO: 15、17、19、21もしくは23のうちのいずれか1つに提供される通りのアミノ酸16、18、19、20、22、48、57、60、69、70、75、76、78、80、81、87、および108位を含み、かつ/または軽鎖可変領域において、SEQ ID NO: 16、18、20、22もしくは24のうちのいずれか1つに提供される通りのアミノ酸49、55、および87位を含み; ここでナンバリングはKabatシステムによるものである。
【0053】
本発明のいくつかの態様において、ABPの重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 21に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 22に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0054】
本発明のいくつかの態様において、重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 76に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 77に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0055】
本発明のいくつかの特定の態様において、重鎖可変領域が48Iを含み、かつ軽鎖可変領域が87Fを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、ABPが好ましい。さらにより好ましいのは、軽鎖可変領域がさらに49Kを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、本発明のABPである。
【0056】
本発明のABPは、本明細書において説明されるように、好ましくは、第2の抗原結合ドメインがCD3に結合する、好ましくは該第2の抗原結合ドメインが第1の抗体結合ドメインの重鎖に融合される、二重特異性分子である。第2の抗原結合ドメインは、SEQ ID NO: 14、25、26および27から選択される配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、SEQ ID NO: 14、25、26および27から選択される配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含む、scFv断片を含むことが好ましい。
【0057】
いくつかの態様における本発明によるABPは、SEQ ID NO: 28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74および78から選択される配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74および78から選択される配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの抗体重鎖を含み; かつ/あるいはSEQ ID NO: 29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75および79から選択される配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75および79から選択される配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの抗体軽鎖を含む、ABPでありうる。好ましい態様において、本発明のABPは、軽鎖および重鎖が以下の表1における本明細書において開示される抗体について示されるように対合されるという条件で、この段落において記述されるABPである。
【0058】
本発明のABPは、好ましくは、下記の配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、または下記の配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を各々が含む、1つ、好ましくは2つの、抗体重鎖および1つ、好ましくは2つの、抗体軽鎖を含む、ABPである:
a. 重鎖についてはSEQ ID NO: 28および軽鎖についてはSEQ ID NO: 29から選択される配列(抗体V1-V6);
b. 重鎖についてはSEQ ID NO: 30および軽鎖についてはSEQ ID NO: 31から選択される配列(抗体V2-V6);
c. 重鎖についてはSEQ ID NO: 32および軽鎖についてはSEQ ID NO: 33から選択される配列(抗体V3-V6);
d. 重鎖についてはSEQ ID NO: 34および軽鎖についてはSEQ ID NO: 35から選択される配列(抗体V4-V6);
e. 重鎖についてはSEQ ID NO: 36および軽鎖についてはSEQ ID NO: 37から選択される配列(抗体V5-V6);
f. 重鎖についてはSEQ ID NO: 38および軽鎖についてはSEQ ID NO: 39から選択される配列(抗体V1-V7);
g. 重鎖についてはSEQ ID NO: 40および軽鎖についてはSEQ ID NO: 41から選択される配列(抗体V2-V7);
h. 重鎖についてはSEQ ID NO: 42および軽鎖についてはSEQ ID NO: 43から選択される配列(抗体V3-V7);
i. 重鎖についてはSEQ ID NO: 44および軽鎖についてはSEQ ID NO: 45から選択される配列(抗体V4-V7);
j. 重鎖についてはSEQ ID NO: 46および軽鎖についてはSEQ ID NO: 47から選択される配列(抗体V5-V7);
k. 重鎖についてはSEQ ID NO: 48および軽鎖についてはSEQ ID NO: 49から選択される配列(抗体V1-V8);
l. 重鎖についてはSEQ ID NO: 50および軽鎖についてはSEQ ID NO: 51から選択される配列(抗体V2-V8);
m. 重鎖についてはSEQ ID NO: 52および軽鎖についてはSEQ ID NO: 53から選択される配列(抗体V3-V8);
n. 重鎖についてはSEQ ID NO: 54および軽鎖についてはSEQ ID NO: 55から選択される配列(抗体V4-V8);
o. 重鎖についてはSEQ ID NO: 56および軽鎖についてはSEQ ID NO: 57から選択される配列(抗体V5-V8);
p. 重鎖についてはSEQ ID NO: 58および軽鎖についてはSEQ ID NO: 59から選択される配列(抗体V1-V9);
q. 重鎖についてはSEQ ID NO: 60および軽鎖についてはSEQ ID NO: 61から選択される配列(抗体V2-V9);
r. 重鎖についてはSEQ ID NO: 62および軽鎖についてはSEQ ID NO: 63から選択される配列(抗体V3-V9);
s. 重鎖についてはSEQ ID NO: 64および軽鎖についてはSEQ ID NO: 65から選択される配列(抗体V4-V9);
t. 重鎖についてはSEQ ID NO: 66および軽鎖についてはSEQ ID NO: 67から選択される配列(抗体V5-V9);
u. 重鎖についてはSEQ ID NO: 68および軽鎖についてはSEQ ID NO: 69から選択される配列(抗体V6-V6);
v. 重鎖についてはSEQ ID NO: 70および軽鎖についてはSEQ ID NO: 71から選択される配列(抗体V6-V7);
w. 重鎖についてはSEQ ID NO: 72および軽鎖についてはSEQ ID NO: 73から選択される配列(抗体V6-V8);
x. 重鎖についてはSEQ ID NO: 74および軽鎖についてはSEQ ID NO: 75から選択される配列(抗体V6-V9)、
y. 重鎖についてはSEQ ID NO: 78および軽鎖についてはSEQ ID NO: 79から選択される配列(抗体V0-V6)。
【0059】
本開示の全体を通して、好ましい抗体可変鎖変種は、「Vx」または「Vx-Vy」という名称でいわれる。xが0、1、2、3、4、5、6、7、8、または9でありうる「Vx」という語句は、表1、または実施例のセクションにより本発明において開示される、特に実施例3において記述される、可変領域変種を示す。特に、ヒト化4G8 FLT3抗原結合ドメインは、変種0またはV0と示される。V0、V1、V2、V3、V4、V5、およびV6という用語は、本発明の抗体のFLT3結合部位の可変領域変種をいうことができる。他方、V6、V7、V8、およびV9という用語は、本発明の抗体(二重特異性)のCD3結合部位のある特定の変種をいう。「Vx-Vy」という用語は、本発明の好ましい二重特異性FLT3×CD3 ABPを記述するために本明細書において用いられ、式中でVxは抗FLT3結合部位変種を示し、Vyは抗CD3結合部位変種を示す。本文脈においてVxはV0、V1、V2、V3、V4、V5、およびV6の1つでありうる; 一方でVyはV6、V7 V8またはV9の1つでありうる。V6は、本発明の抗FLT3結合部位変種または抗CD3結合部位変種の両方の文脈において用いられうることを理解されたい。その用法は文脈から明らかであろう。変種の配列および全体的な構築物の命名法は、以下の表1からも明らかになる。
【0060】
上記ABP (a.)~(y.)の重鎖および軽鎖は、好ましくは互いに対合される。本発明の好ましいABPは、例えば、本開示の実施例のセクションにおいて提供されるデータにより、白血病がん細胞のT細胞媒介性の殺傷および/または増殖阻害を誘導するその能力によって選択される。例えば、V5-V9のような、ある特定の構築物は、組み合わせによる最高のFLT3およびCD3親和性を示す。V5-V9のCD3抗原結合ドメインまたはFLT3抗原結合ドメインのいずれかを含む各構築物は、この点に関して好ましいABPであり、いくつかの用途では、そのような強力なFLT3/CD3結合剤を必要としうる。しかしながら、わずかに低減した親和性を有するが、それゆえ、より良好な忍容性(ヒト化)または生物学的活性(抗がん活性)を有する抗体も、本発明の好ましい構築物として含まれる。それゆえ、上記のABP a.~x.は、全てが好ましく、特にV6-V6のFLT3 (第1の)抗原結合ドメインを含まない全てのヒト化変種が好ましい。
【0061】
次に、本発明の別の局面は、ヒトfms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)抗原に結合することができる第1の抗原結合ドメインと、ヒト表面抗原分類3 (CD3)抗原に結合することができる第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗原結合タンパク質(ABP)に関する。この局面について記述される二重特異性ABPは、好ましい態様において、本明細書において前述したABPの態様のいずれか1つまたは組み合わせを含みうる。本明細書において前述したABPは、その全ての態様において、以下で本明細書において記述される二重特異性ABPでありうる。
【0062】
ある特定の態様において、二重特異性ABPは、10 nMより低い、好ましくは9 nMより低い、より好ましくは8 nMより低い、より好ましくは7 nMより低い、より好ましくは6 nMより低い、または5.5 nMより低いEC50でFLT3に結合することが好ましい。あるいは、またはさらに、本発明の二重特異性ABPは、0.5 nMより高い、より好ましくは1 nMより高い、より好ましくは1.3 nMより高い、より好ましくは2 nMより高い、より好ましくは3 nMもしくは4 nMより高い、または4.5 nMより高いEC50でFLT3に結合する。さらにあるいは、またはさらに、本発明による二重特異性ABPは、10 nMより低くかつ0.5 nMより高い、より好ましくは9 nMより低くかつ1 nMより高い、好ましくは8 nMより低くかつ1.3 nMより高い、好ましくは7 nMより低くかつ3 nMより高い、好ましくは6 nMより低くかつ4 nMより高い、好ましくは5.5 nMより低くかつ4.5 nMより高いEC50でFLT3に結合する。FLT3への二重特異性ABPの結合のEC50は、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりFLT3陽性細胞への二重特異性ABPの結合を分析することにより判定され; 好ましくはここでFLt3陽性細胞はB細胞前駆体白血病細胞、好ましくはNALM-16細胞(DSMZにACC 680の下で寄託されている)であり; かつ/または好ましくはここで結合は蛍光標識二次抗体を用いて検出され; かつ/またはここで二重特異性ABPはフローサイトメトリーの前に約30分間FLT3陽性細胞とともにインキュベートされる。この態様において、本発明は、標的抗原結合分子へのある特定の好ましい結合親和性が、改善された治療効果に変換されうることが驚くべきことに発見された抗体に関する。この点において、実施例に示されるように、ある特定の抗体は、他の抗体と比較してFLT3に対する親和性が低いが、細胞毒性を媒介する効果が著しく改善されている。いくつかの好ましい局面および態様において、本明細書において開示されるそのような親和性「ウィンドウ」に入る抗体が好ましい。
【0063】
さらに、またはあるいは、本発明の二重特異性ABPは、50μM未満、より好ましくは20μM未満、より好ましくは10μM未満、より好ましくは5μM未満、より好ましくは1μM未満のkDでFLT3に結合し; かつ/または50 nM超、より好ましくは100 nM超、より好ましくは160 nM超、より好ましくは200 nM超、より好ましくは300 nM超のkDでFLT3に結合する。最も好ましくは、本発明の二重特異性ABPは、50μM未満かつ50 nM超、より好ましくは20μM未満かつ100 nM超、より好ましくは10μM未満かつ160 nM超、より好ましくは5μM未満かつ200 nM超、より好ましくは1μM未満かつ300 nM超のkDでのような、ある特定の好ましい範囲でFLT3に結合し; ここでkDは、例えば、実施例のセクションにおいて提供されるような、BIAcore親和性アッセイにおいて、表面プラズモン共鳴により測定されるものである。
【0064】
別の態様において、本発明による二重特異性ABPは、200 nMより低い、好ましくは90 nMより低い、より好ましくは50 nMより低い、より好ましくは20 nMより低い、より好ましくは15 nMより低いEC50でCD3に結合し、かつ/または1 nMより高い、好ましくは2 nMより高い、より好ましくは4.1 nMより高い、より好ましくは6 nMより高い、より好ましくは8 nMより高いEC50でCD3に結合し; かつ/またはいくつかの態様において、200 nMより低くかつ1 nMより高い、好ましくは200 nMより低くかつ2 nMより高い、より好ましくは90 nMより低くかつ4.1 nMより高い、より好ましくは20 nMより低くかつ6 nMより高い、より好ましくは15 nMより低くかつ8 nMより高いEC50でCD3に結合するABPのような、CD3結合に対するある特定の範囲の親和性が好ましい。CD3への二重特異性ABPの結合のEC50は、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりCD3陽性細胞への二重特異性ABPの結合を分析することにより判定され; 好ましくはここでCD3陽性細胞はT細胞白血病細胞、好ましくはJurkat細胞(DSMZにACC 282の下で寄託されている)であり; かつ/または好ましくはここで結合は蛍光標識二次抗体を用いて検出され; かつ/またはここで二重特異性ABPはフローサイトメトリーの前に約30分間CD3陽性細胞とともにインキュベートされる。
【0065】
あるいは、またはさらに、いくつかの態様において、本発明のABPは、ALLまたはAML細胞などの、ヒトFLT3を発現するがん細胞を殺傷する、またはその増殖を阻害するその能力によって特徴付けられる。ゆえに、本発明の文脈において好ましいのは、急性白血病に罹患している患者の白血病血液単核細胞の増殖および/または生存を、インビトロアッセイにおいて非関連対照と比較して、50%以下に、より好ましくは40%以下に、より好ましくは30%以下に、最も好ましくは25%以下に阻害する、本明細書において記述される二重特異性ABPである。本発明のそのような好ましい二重特異性ABPは、V3-V6、V3-V8、V3-V9、V4-V6、V4-V8、V4-V9、V5-V6、V5-V8、およびV5-V9、ならびに本明細書において開示されるその変種として例示されている。
【0066】
さらに、本発明のいくつかの態様は、FLT3への結合について、例えばFLT3への本発明の抗体の結合を競合的に阻害する、本発明のABPと競合するABPに関する。競合阻害を判定するために、当業者に公知の種々のアッセイを利用することができる。例えば、交差競合アッセイを用いて、抗体またはその抗原結合断片が、別の抗体またはその抗原結合断片によるFLT3への結合を競合的に阻害するかどうかを判定することができる。これらには、フローサイトメトリーまたは固相結合分析を利用した細胞に基づく方法が含まれる。固相または液相で、細胞の表面に発現されないFLT3分子について交差競合する抗体またはその抗原結合断片の能力を評価する他のアッセイも使用することができる。
【0067】
本発明によるABPは2つの鎖、いくつかの態様において軽鎖でありうる短い方の鎖、およびいくつかの態様において重鎖としても扱われうるメイン鎖を持ちうる。ABPは通常、これら2つの鎖の二量体である。
【0068】
本発明のABPは、好ましくは、二重特異性ABPでありうる。二重特異性ABPは、(i) 前記請求項のいずれか一項に定義される重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む、可変領域であって、該可変領域が、ヒトFLT3に結合することができる第1の抗原結合ドメインを含む、可変領域と、(ii) 第2の抗原結合ドメインを含む、ABPの重鎖可変領域および軽鎖可変領域とを含みうる。FLT3の結合部位は、好ましくは、本明細書において記述される本発明のFLT3結合抗体の結合部位であることを理解されたい。
【0069】
「二重特異性」または「二機能性」ABPは、2つの異なるエピトープ/抗原結合ドメイン(または「部位」)を有し、したがって2つの異なる標的エピトープに対する結合特異性を有するABPである。これらの2つのエピトープは、同じ抗原のエピトープであってもよく、または本発明において好ましいように、異なる抗原FLT3およびCD3のような、異なる抗原のエピトープであってもよい。
【0070】
「二重特異性ABP」は、重鎖および軽鎖のまたはメイン鎖およびより短い/より小さい鎖の第1の対によって定義される、2つまたはそれ以上の結合アームのうちの1つにより、1つの抗原またはエピトープに結合し、かつ重鎖および軽鎖のまたはメイン鎖およびより小さい鎖の第2の対によって定義される、第2のアームにおいて、異なる抗原またはエピトープに結合する、ABPでありうる。二重特異性ABPのそのような態様は、特異性およびCDR配列の両方において、2つの異なる抗原結合アームを有する。典型的には、二重特異性ABPは、結合する各抗原に対して一価であり、つまり、片方のアームだけでそれぞれの抗原またはエピトープに結合する。しかしながら、二重特異性抗体は二量体化または多量体化することもでき、これは本発明の文脈において好ましい。例えば、本明細書において記述される二量体IgGsc形式において、抗体は、各抗原に対して2つの結合部位を有しうる(図1)。二重特異性抗体は、第1の軽鎖可変領域および第1の重鎖可変領域によって定義される第1の結合領域、ならびに第2の軽鎖可変領域および第2の重鎖可変領域によって定義される第2の結合領域を有しうる、ハイブリッドABPでありうる。これらの結合領域の1つは、重鎖/軽鎖の対によって定義されうることが本発明により想定される。本発明の文脈において、二重特異性ABPは、メイン鎖およびより小さな鎖の可変領域によって定義される第1の結合部位、ならびにABPのメイン鎖に含まれるscFv断片の可変領域によって定義される第2の、異なる結合部位を持ちうる。
【0071】
二重特異性ABPを作製する方法、例えば、2つの異なるモノクローナル抗体の化学的コンジュゲーションまたは例えば、2つの抗体断片の、例えば、2つのFab断片の化学的コンジュゲーションは、当技術分野において公知である。あるいは、二重特異性ABPは、親抗体を産生するハイブリドーマの融合によるクアドローマ技術によって作製される。H鎖およびL鎖のランダムな組み合わせにより、10種の異なる抗体構造の潜在的な混合物が生成され、そのうちの1つだけが所望の結合特異性を有する。
【0072】
本発明の二重特異性ABPは、各標的に関してモノクローナル抗体(mAb)として作用することができる。いくつかの態様において、抗体はキメラであるか、ヒト化されているか、または完全にヒトのものである。二重特異性ABPは、例えば、二重特異性タンデム一本鎖Fv、二重特異性Fab2、または二重特異性ダイアボディでありうる。
【0073】
本発明のABPに含まれるドメインに基づいて、本発明の二重特異性ABPは、Fab断片を含んでもよく、これは概して、ヒンジ領域、CH2ドメインおよび一本鎖Fv断片を含みうる。そのような二重特異性ABPは「Fabsc」-ABPと称され、国際特許出願WO 2013/092001において初めて記述された。より具体的には、本明細書で用いられる「Fabsc」形式ABPは、典型的には、CH2ドメインのN末端に連結されたFab断片のC末端にあり、そのなかでC末端が順にscFv断片のN末端に連結されている、ヒンジ領域を概して含む、Fab断片を有する本発明の二重特異性ABPをいう。そのような「Fabsc」はCH3ドメインを、含まないか、または本質的に含まない。この文脈において、「含まない」または「本質的に含まない」は、ABPが完全長CH3ドメインを含まないことを意味する。それは好ましくは、ABPがCH3ドメインの10個またはそれ以下、好ましくは5個またはそれ以下、好ましくは3個またはさらにそれ以下のアミノ酸を含むことを意味する。Fabsc形式ABPの実例が図1Aに示されており、Fabsc形式ABPの別の実例が図12に示されている。例示的な態様(この点に関して図1Aも参照のこと)において、本発明のFabsc ABPは、Kabatナンバリング[EUインデックス]による、ヒンジ領域の配列226位のシステイン残基および/またはヒンジドメインの1つの配列229位のシステイン残基によって形成されるジスルフィド結合により二量体化する能力を欠くCH2ドメインを含みうる。したがって、これらの態様において、配列226位および/または配列229位のシステイン残基は、例えば、セリン残基によって除去または置換されている。さらに、またはあるいは、本発明の「Fabsc」ABPはまた、「Fc減弱」CH2ドメイン(ヒンジ領域を含む)を持ちうる。この「Fc減弱」は、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメイン中の選択されたアミノ酸残基の少なくとも1つを欠失および/または置換する(変異させる)ことによって達成される。例示的な態様において、欠けているまたは変異されている、Fc受容体への結合を媒介することができるヒンジ領域またはCH2ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基は、配列228、230、231、232、233、234、235、236、237、238、265、297、327、および330位 (EUインデックスによる配列位置のナンバリング)からなる群より選択される。実例において、そのようなFc減弱ABPは、アミノ酸228位の欠失、アミノ酸229位の欠失、アミノ酸230位の欠失、アミノ酸231位の欠失、アミノ酸232位の欠失、アミノ酸233位の欠失、置換Glu233→Pro、置換Leu234→Val、アミノ酸234位の欠失、置換Leu235→Ala、アミノ酸235位の欠失、アミノ酸236位の欠失、アミノ酸237位の欠失、アミノ酸238位の欠失、置換Asp265→Gly、置換Asn297→Gln、置換Ala327→Gln、および置換Ala330→Ser (EUインデックスによる配列位置のナンバリング、この点では、例えば、国際特許出願WO 2013/092001の図1Oおよび図1Pも参照のこと)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を含みうる。例えば腫瘍細胞に対して、T細胞を活性化する二重特異性抗体の場合、T細胞の望ましくない非特異的な活性化につながりうるFc受容体保有細胞への抗体の結合を防ぐために、Fc減弱が望まれうる。
【0074】
ColomaおよびMorrisonの刊行物(Nat Biotechnol 15:159-63, 1997)によれば、本発明の二重特異性ABPはまた、概してCH2ドメインのC末端に配置された、CH3ドメインを持ちうる。そのような分子は、本明細書において「IgGsc」形式ABPともいわれ、典型的には、CH2ドメインのN末端に連結されたFab断片のC末端にあり、そのなかでC末端が順に、典型的には、CH3ドメインのN末端に連結されており、そのなかでC末端が順に、典型的には、scFv断片のN末端に連結されている、ヒンジ領域を概して含む、Fab断片を有する本発明の二重特異性ABPを意味する。IgGsc形式ABPの実例が図1に示されている。そのような二重特異性ABP形式は、本発明の文脈において好ましい。
【0075】
抗体形式FabscおよびIgGscにはともに、N末端ターゲティング部分がそれぞれ「生理学的」FabまたはFab2領域からなり、それによって分子のこの部分での一本鎖部分の使用を回避するという共通点がある。これらの形式が標的細胞拘束性T細胞活性化に用いられる場合には、FcRを介した活性化を防ぐために、Fc受容体(FcR)結合の減弱が利用されうる(要望されるまたは必要とされる場合)。これは、例えば、上記に、同じく国際特許出願WO 2013/092001におよびArmour et al. Eur J Immunol 1999; 29:2613に記述されているように分子のCH2ドメインの中に規定かつ周知の変異を導入することによって達成することができる。したがって、本発明のIgGsc ABPも、Fc受容体への結合を媒介することができるヒンジ領域またはCH2ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基が欠けているまたは変異されているCH2ドメイン(ヒンジ領域を含む)を持ちうる。上記で説明されたように、CH2およびヒンジ領域中のこの残基は、それぞれ、配列228、230、231、232、233、234、235、236、237、238、265、297、327、および330位 (EUインデックスによる配列位置のナンバリング)からなる群より選択されうる。しかしながら、IgGsc分子中のCH3ドメインの存在により、2つの個別の分子がCH3ドメインを介し(自発的に)ホモ二量体化して、四価分子を形成する(この点では図1Bを再度参照のこと)。したがって、ヒンジ領域の配列226位および/または配列229位のシステイン残基を欠失または変異させる必要はない。したがって、本発明のそのような四量体IgGsc ABPは、Kabatナンバリング[EUインデックス]にしたがって、各ヒンジドメインの1つの配列226位および/または配列229位のシステイン残基を持ちうる。
【0076】
FLT3結合および/または白血病がん細胞への結合を媒介するCDR領域のセットを含む二重特異性ABPの上記の開示と一致して、本発明のABPは、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞上の受容体に特異的に結合する第2の結合部位を含みうる。免疫細胞に存在するこの受容体は、免疫細胞を活性化することができるか、または免疫細胞の免疫応答を刺激することができる受容体でありうる。誘発された免疫応答は、好ましくは、細胞傷害性免疫応答でありうる。そのような適当な受容体は、例えば、CD3、抗原特異的T細胞受容体(TCR)、CD28、CD16、NKG2D、Ox40、4-1 BB、CD2、CD5、プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1)およびCD95でありうる。特に好ましいのは、第2の結合部位がCD3、TCRまたはCD16に結合するABPである。最も好ましいのは、第2の結合部位がCD3に特異的に結合するABPである。1つの好ましいABPは、抗CD3抗体OKT3の抗原結合部位に対応する第2の結合部位を含む。抗体OKT3の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、例えば、Arakawa et al J. Biochem. 120, 657-662 (1996)ならびに国際特許出願WO 2015/158868 (WO 2015/158868の配列表中のSEQ ID NOS: 17および18を参照のこと)においても記述されている。別の好ましいABPは、抗CD3抗体UCHT1の抗原結合部位に対応する第2の結合部位を含む。ヒト化UCHT1抗体のVHおよびVL配列は、国際特許出願WO 2013/092001に記述されている。本発明において用いることができるCD3結合ABPの他の例としては、ヒトおよびコモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus oedipus)またはリスザル(Saimiri sciureus) CD3ε鎖のエピトープに結合することができる欧州特許2 155 783 B1または欧州特許EP 2 155 788 B1に記述されているABPが挙げられる。
【0077】
したがって、本発明の二重特異性ABPは、本明細書において記述されるFab断片およびscFv断片を含むIgGsc分子のような二重特異性ABPでありうる。この分子において、第1の結合部位はFLT3に結合することができ、本明細書において記述されるFab (またはIgGsc形式の文脈においては二価FLT3 F(ab)2)断片に含まれることができ、第2の結合部位(免疫受容体に結合しうる)はCD3に特異的に結合するscFvのような、scFv断片に含まれることができる。あるいは、FLT3に結合する第1の結合部位は一本鎖Fv断片に含まれ、第2の結合部位(CD3に結合しうる)はFab断片に含まれる。
【0078】
いくつかの態様において、本発明の二重特異性ABPはそれ自体では、CD3への結合のような、結合により、免疫細胞、例えばT細胞を活性化しない。代わりに、両方の結合部位、例えば FLT3特異的結合部位およびCD3特異的結合部位は、T細胞の受容体および標的がん細胞のFLT3に結合する場合にだけ、前者は活性化受容体を架橋し、特定の標的細胞を殺傷するようにエフェクター細胞をトリガーしうる。本発明の二重特異性ABPの存在下および非存在下でのリンパ球による標的細胞を殺傷する能力を評価するための標準的な機能アッセイ法をセットアップして、結合する受容体を活性化するABPの能力を評価および/またはスクリーニングすることができる。
【0079】
本発明のいくつかの態様において、二重特異性ABPは第2の抗原結合ドメインとして、UCHT1またはその変種のような、抗CD3抗体のscFvを含み、これは、例えば本出願においてSEQ ID NO: 14、および25~27に開示されている。
【0080】
これに関連して、ABPが1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含みうることは本発明の範囲内であることに留意されたい。核酸またはポリペプチドに関する「変異した」、「変異体」および「変異」という用語は、「天然に」存在するまたは「親」(参照が提供されている場合)に存在する核酸またはポリペプチドと比較して、すなわち野生型を定義するために採取することができる参照配列と比較して、それぞれ、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換、欠失、または挿入をいう。例えば、親4G8分子の広範な変異変化によって得られる、および本明細書において記述される本発明のABPの可変ドメインは、親配列と見なされうる。
【0081】
これに関して、「位置」という用語は、本発明によって用いられる場合、本明細書において示されるアミノ酸配列内のアミノ酸の位置を意味することを理解されたい。この位置は、類似している天然配列、例えば天然に存在しているIgGドメインまたは鎖の配列に関連して示されうる。本明細書において用いられる「対応する」という用語はまた、位置が、必ずしも先行するヌクレオチド/アミノ酸の数によって決定されるわけではないまたは決定されるとは限らないことを含む。したがって、置換されうる本発明による所与のアミノ酸の位置は、抗体鎖中の他の場所でのアミノ酸の欠失または付加のために変化しうる。
【0082】
したがって、本発明による「対応する位置」の下では、アミノ酸は、示された数が異なりうるが、それでも同様の隣接アミノ酸を持ちうることが理解されるべきである。交換、欠失または付加されうるアミノ酸はまた、「対応する位置」という用語によって包含される。所与のアミノ酸配列中のアミノ酸残基が、天然に存在する免疫グロブリンドメインまたは鎖のアミノ酸配列中の特定の位置に対応するかどうかを判定するために、当業者は、当技術分野において周知の手段および方法、例えば、手動によるか、Basic Local Alignment Search Toolを表すBLAST2.0もしくはClustalWのようなコンピュータプログラムまたは配列アライメントを生成するのに適した任意の他の適当なプログラムを用いることによるかのいずれかの、アライメントを用いることができる。
【0083】
いくつかの態様において、置換(または置き換え)は保存的置換である。保存的置換は、一般に、変異されるアミノ酸にしたがって記載された以下の置換であり、それぞれに、保存的であると見なすことができる1つまたは複数の置き換えが続く: Ala → Gly、Ser、Val; Arg → Lys; Asn → Gln、His; Asp → Glu; Cys → Ser; Gln → Asn; Glu → Asp; Gly → Ala; His → Arg、Asn、Gln; Ile → Leu、Val; Leu → Ile、Val; Lys → Arg、Gln、Glu; Met → Leu、Tyr、Ile; Phe → Met、Leu、Tyr; Ser → Thr; Thr → Ser; Trp → Tyr; Tyr → Trp、Phe; Val → Ile、Leu。他の置換も許容され、経験的に、または他の既知の保存的もしくは非保存的置換にしたがって判定することができる。さらなる方向付けとして、以下の8群は各々、互いの保存的置換を定義するために通常利用できるアミノ酸を含む。
- アラニン(Ala)、グリシン(Gly);
- アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu);
- アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln);
- アルギニン(Arg)、リジン(Lys);
- イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、バリン(Val);
- フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp);
- セリン(Ser)、スレオニン(Thr); および
- システイン(Cys)、メチオニン(Met)
【0084】
そのような置換が生物学的活性の変化をもたらすなら、以下のような、またはアミノ酸クラスに関して以下にさらに記述されるような、より実質的な変化を導入することができ、所望の特性について生成物をスクリーニングすることができる。そのようなより実質的な変化の例は以下である: Ala → Leu、Ile; Arg → Gln; Asn → Asp、Lys、Arg、His; Asp → Asn; Cys → Ala; Gln → Glu; Glu → Gln; His → Lys; Ile → Met、Ala、Phe; Leu → Ala、Met、ノルロイシン; Lys → Asn; Met → Phe; Phe → Val、Ile、Ala; Trp → Phe; Tyr → Thr、Ser; Val → Met、Phe、Ala。
【0085】
いくつかの態様において、本発明によるABPは、システイン残基を介した二量体化を防ぐためにまたはFc機能を調節するために変異されている、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個または18個のアミノ酸残基を含む、1個または複数個のアミノ酸残基を含む(上記参照)。これらの態様のいくつかにおいて、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメインおよび/またはヒンジ領域の1つまたは複数のアミノ酸残基が、変異されている。存在する場合、Fc受容体への結合を媒介することができる1つまたは複数のアミノ酸残基は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体媒介性細胞傷害(CDC)を活性化することができるアミノ酸残基でありうる。いくつかの態様において、Fc受容体への結合を媒介することができる各アミノ酸残基は、配列をIgGなどの免疫グロブリンにおける対応する天然ドメインの配列と比較する場合には概して、別のアミノ酸によって置換されている。いくつかの態様において、Fc受容体への結合を媒介することができるそのようなアミノ酸残基は、IgGなどの免疫グロブリンにおける対応する天然ドメインの配列と比べて概して、欠失されている。
【0086】
いくつかの態様において、1つまたは複数の変異されている、例えば、置換または欠失されているアミノ酸残基は、226、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、265、297、327、および330位の1つに位置しているアミノ酸である。この場合も先と同様に、用いられるアミノ酸のナンバリングは、Kabatナンバリング[EUインデックス]による配列位置に対応する。対応するアミノ酸欠失は、例えば、アミノ酸228位、概してIgG中ではプロリンの欠失、アミノ酸229位、概してIgG中ではシステインの欠失、アミノ酸230位、概してIgG中ではプロリンの欠失、アミノ酸231位、概してIgG中ではアラニンの欠失、アミノ酸232位、概してIgG中ではプロリンの欠失、アミノ酸233位、概してIgG中ではグルタミン酸の欠失、アミノ酸234位、概してIgG中ではロイシンの欠失、アミノ酸235位、概してIgG中ではロイシンの欠失、アミノ酸236位、概してIgG中ではグリシンの欠失、アミノ酸237位、概してIgG中ではグリシンの欠失、アミノ酸238位、概してIgG中ではプロリンの欠失、およびアミノ酸265位、概してIgG中ではアスパラギン酸の欠失でありうる。対応するアミノ酸置換は、例えば、アミノ酸226位、概してIgG中ではシステインの置換、アミノ酸228位、概してIgG中ではプロリンの置換、アミノ酸229位、概してIgG中ではシステインの置換、アミノ酸230位、概してIgG中ではプロリンの置換、アミノ酸231位、概してIgG中ではアラニンの置換、アミノ酸232位、概してIgG中ではプロリンの置換、アミノ酸233位、概してIgG中ではグルタミン酸の置換、アミノ酸234位、概してIgG中ではロイシンの置換、アミノ酸235位、概してIgG中ではロイシンの置換、アミノ酸265位、概してIgG中ではアスパラギン酸の置換、アミノ酸297位、概してIgG中ではアスパラギンの置換、アミノ酸327位、概してIgG中ではアラニンの置換、およびアミノ酸330位、概してIgG中ではアラニンの置換でありうる。各置換は、置換Cys226→Ser、置換Cys229→Ser、置換Glu233→Pro、置換Leu234→Val、置換Leu235→Ala、置換Asp265→Gly、置換Asn297→Gln、置換Ala327→Gln、置換Ala327→Gly、および置換Ala330→Serの1つでありうる。上記から解釈することができるように、いくつかの態様において、ヒンジ領域中の226および229位のシステイン残基の1つまたは2つが、別のアミノ酸に置き換えられ、例えば、セリン残基に置き換えられている。それにより、別のメイン鎖とのジスルフィド結合の形成を防ぐことができる。さらに、また以下で説明されるように、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメイン中の選択されたアミノ酸残基を欠失させるおよび/または置換する(変異させる)ことにより、本発明のABPに、抗体依存性、細胞媒介性細胞傷害および補体固定という点で活性をほとんどまたは全く持たせないようにすることができる。
【0087】
抗体の別のタイプのアミノ酸変種は、ABPの元のグリコシル化パターン(存在する場合)を変化させる。変化させるとは、抗体に見られる1つもしくは複数の炭水化物部分を欠失させること、および/または抗体に存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。抗体のグリコシル化は、典型的には、N結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合をいう。Xがプロリン以外の任意のアミノ酸である、トリペプチド配列アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニンは、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合の認識配列である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在が、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。O結合型グリコシル化とは、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの1つがヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニンに結合することをいうが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンが用いられてもよい。抗体へのグリコシル化部位の付加は、好都合には、上記のトリペプチド配列(N結合型グリコシル化部位の場合)の1つまたは複数を含むように、アミノ酸配列を変化させることによって達成される。変化は、元の抗体の配列への1つまたは複数のセリンまたはスレオニン残基の付加または置換(O結合型グリコシル化部位の場合)によっても行われうる。
【0088】
本発明の文脈で、いくつかの態様において、免疫グロブリンのFc領域を表す、本発明のABPのメイン鎖の部分は、典型的には、Fc受容体への結合に関して、不活性であるか、または少なくとも本質的に影響が少ない。前述のように、これは、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメイン中の選択されたアミノ酸残基の少なくとも1つを欠失させるおよび/または置換する(変異させる)ことにより達成される。そのような分子は、本明細書において「Fc減弱」ABPまたは「Fcko」ABPともいわれる。Fc断片の一部、すなわち、CH2ドメイン、および存在する場合、CH3ドメインを表すと解釈することができる本発明による抗体鎖の部分は、したがって、例えば、エフェクター機能のような特定の生物学的機能を提供することなく「足場」を定義しうる。しかしながら、本発明において、この足場は既知のABPと比較して、本発明のABPの精製、生産効率および/または安定性に関して有意な利点を提供しうることが見出された。
【0089】
いくつかの態様において、このFc対応部分の認識、およびしたがって所与のFc受容体へのこのFc対応部分の結合は、天然に存在する免疫グロブリンのFc領域よりも約2倍、約5倍、約8倍、約10倍、約12倍、約15倍、約20倍またはそれ以下である。いくつかの態様において、このFc対応部分は、Fc受容体に結合するその能力を完全に欠いている。解離定数の決定を含めて、抗体のFc受容体への結合は、表面プラズモン共鳴のような標準的な技法を用いて、例えばBiacore(商標)測定を用いて当業者により容易に判定されうる。生体分子結合を測定する他の任意の方法を同様に用いることができ、それは、例えば、分光的、光化学的、測光的または放射線学的手段に依存しうる。対応する検出方法の例は、それぞれ蛍光相関分光法、光化学的架橋、および光活性または放射性標識の使用である。これらの方法のいくつかは、電気泳動またはHPLCのような、さらなる分離技法を含みうる。
【0090】
必要とされる場合、上記で説明されたように、アミノ酸残基の置換または欠失がこの趣旨で実行されうる。適当な変異は、例えばArmour et al. (Eur. J. Immunol. [1999] 29, 2613-2624)から得ることができる。抗体鎖の配列への変異のさらに適当な位置は、FcγRIIIとヒトIgG1 Fc断片との間の複合体について公開されている結晶構造データから得ることができる(Sondermann et al., Nature [2000] 406, 267-273)。「Fc減弱」のレベルまたは結合親和性の喪失を評価するために上記のように結合親和性を測定することに加えて、Fc受容体への結合を媒介する能力(の欠如)を機能的に評価することも可能である。1つの標的としてCD3に結合するABPの場合、例えば、細胞上のそのようなCD3結合ABPの分裂促進性を通じて結合を評価することが可能である。分裂促進性は、単球などの補助細胞上のFc受容体へのCD3抗体の結合によって媒介される。CD3に対する1つの結合部位を有する本発明のABPが分裂促進効果を示さないのに対し、機能的Fc部分を有する親モノクローナル抗CD3抗体がT細胞において強力な有糸分裂を誘導する場合、有糸分裂の欠如のため、本発明のABPは、Fc結合の能力を欠いており、したがって「Fcノックアウト」分子と見なされうることが明らかである。抗CD3媒介性の分裂促進性を評価する方法の実例は、Davis, Vida & Lipsky (J.Immunol (1986) 137, 3758)により、およびCeuppens, JL, & van Vaeck, F (J.Immunol. (1987) 139, 4067、またはCell. Immunol. (1989) 118, 136を参照のこと)により記述されている。抗体の分裂促進性を評価するためのアッセイのさらに例示となる適当な例は、Rosenthal-Allieri et al. (Rosenthal-Allieri MA, Ticcioni M, Deckert M, Breittmeyer JP, Rochet N, Rouleaux M, and Senik A, Bernerd A, Cell Immunol. 1995 163(1):88-95)およびGrosse-Hovest et al. (Grosse-Hovest L, Hartlapp I, Marwan W, Brem G, Rammensee H-G, and Jung G, Eur J Immunol. [2003] May;33(5):1334-1340)により記述されている。さらに、Fc結合の欠如は、Fc部分の1つまたは複数の周知のエフェクター機能を媒介する本発明のABPの能力によって評価することができる。
【0091】
上記のように、システイン残基の置換または欠失は、潜在的または既存のジスルフィド結合の導入または除去を含めて、1つまたは複数のジスルフィド結合を導入または除去するために実行されうる。それにより本発明によるABPのメイン鎖と低い方の重量/短い方の長さの鎖との間の連結が、確立され、強化されまたは無効化されることを含めて、制御されうる。1つまたは複数のシステイン残基を導入または除去することにより、ジスルフィド架橋が導入または除去されうる。実例として、本発明による四量体ABPは概して、2つの二量体ABPを連結する1つまたは複数のジスルフィド結合を有する。そのようなジスルフィド結合の1つは、典型的には、第1の二量体ABPのメイン鎖中のシステインおよび第2の二量体ABPのヒンジ領域中のシステインによって定義される。これに関して、いくつかの態様において、本発明による抗体は、Kabatナンバリング[EUインデックス]によるヒトIgG免疫グロブリンの配列と比べて、別のアミノ酸残基による、226および/または229位の天然システイン残基のアミノ酸置換を含みうる。
【0092】
アルギニン、アスパラギン、セリン、スレオニンまたはチロシン残基のようなアミノ酸残基の置換または欠失も、抗体のグリコシル化パターンを改変するために実行されうる。実例として、IgG分子はCH2ドメインのAsn297に単一のN結合型二分枝炭水化物を有する。血清からのIgGまたはハイブリドーマもしくは操作された細胞においてエクスビボで産生されたIgGの場合、IgGはAsn297連結炭水化物に関して不均一である。ヒトIgGの場合、コアオリゴ糖は典型的にはGlcNAc2Man3GlcNAcからなり、外側の残基の数が異なっている。
【0093】
示されている通り、抗原/エピトープの結合に加えて、免疫グロブリンは、免疫グロブリンのFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列変種Fc領域)に起因する生物学的活性であるさらなる「エフェクター機能」を有することが知られており、免疫グロブリンアイソタイプによって異なる。抗体エフェクター機能の例としては、Clq結合および補体依存性細胞傷害(CDC); Fc受容体結合; 抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC); 食作用; 細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御; ならびにB細胞活性化が挙げられる。抗体のエフェクター機能を発揮することには、一般にエフェクター細胞を動員することが含まれる。いくつかの免疫グロブリンエフェクター機能は、抗体のFc領域に結合するFc受容体(FcR)によって媒介される。FcRは、免疫グロブリンアイソタイプに対するその特異性によって定義される; IgG抗体のFc受容体は、FcγR、IgEの場合FcεR、IgAの場合FcαRなどといわれる。本発明のABPがFc結合の能力を欠いているかどうかを評価するために、CDCまたはADCCのようなこれらのエフェクター機能(またはそのようなエフェクター機能の喪失)のいずれかを用いることができる。
【0094】
これに関連して、「Fc受容体」または「FcR」という用語は、受容体、一般に抗体のFc領域に結合することができるタンパク質を定義することに留意されたい。Fc受容体は生物の免疫系のある特定の細胞、例えばナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、および肥満細胞の表面に見られる。インビボFc受容体は、感染細胞に固定化されているか、または侵入する病原体に存在している免疫グロブリンに結合する。それらの活性は、食細胞または細胞傷害性細胞を刺激して、抗体媒介性食作用または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害により微生物、または感染細胞を破壊する。フラビウイルスのような一部のウイルスは、抗体依存性感染増強として知られる機構により、Fc受容体を用いて細胞へのその感染を補助する。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-92 (1991); Capel et al., Immunomethods 4: 25-34 (1994); およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126: 330-41 (1995)に概説されている。
【0095】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解をいう。古典的補体経路の活性化は、補体系の第1成分(Clq)が、同族の抗原に結合している(適切なサブクラスの)抗体に結合することによって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1997)に記述されている、CDCアッセイ法が実施されうる。
【0096】
「補体系」という用語は、不活性な前駆体(プロタンパク質)として一般に循環している、血液中に見られる、補体因子と呼ばれる、いくつかの小さなタンパク質をいうように当技術分野において用いられる。この用語は、細菌のような病原体、および抗原-抗体複合体を生物から除去する抗体および食細胞の能力を「補完」する、この不変かつ適応性のない系の能力をいう。補体因子の例は、C1qならびに2つのセリンプロテアーゼC1rおよびC1sを含む複合体C1である。複合体C1はCDC経路の構成成分である。C1qは、およそ460,000の分子量および6つのコラーゲン性の「茎」が6つの球状の頭部領域に接続されているチューリップの花束に例えられる構造を有する六価分子である。補体カスケードを活性化するには、C1qはIgG1、IgG2またはIgG3の少なくとも2つの分子に結合する必要がある。
【0097】
「抗体依存性細胞傷害」またはADCCは、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびマクロファージなどの、ある特定の細胞傷害性細胞に存在する、Fc受容体(FcR)に結合した免疫グロブリン分子が、これらの細胞傷害エフェクター細胞に、抗原を担持している標的細胞に特異的に結合させ、続いて細胞毒素で標的細胞を殺傷することを可能とする細胞傷害の形態をいう。抗体は細胞傷害性細胞を「武装」させ、この機構による標的細胞の殺傷に必要とされる。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRlIおよびFcγRIIIを発現する。造血細胞でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-92 (1991) 464頁の表3にまとめられている。関心対象の分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記述されているような、インビトロADCCアッセイ法が実施されうる。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞を含むが、これらに限定されることはない。いくつかの態様において、関心対象の分子のADCC活性はインビボで、例えば、Clynes et al., PNAS USA 95: 652-656 (1998)に開示されるような動物モデルで評価されうる。
【0098】
本発明のABPは、例えば、細菌宿主(原核生物系)、または酵母、真菌、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞などの真核生物系での発現により、任意の既知かつ十分に確立された発現系および組換え細胞培養技術を用いて産生されうる。例えば、本発明のABPは、「IgGsc」形式において用いられる場合、ABPは、(もちろん) Coloma and Morrison (Nat Biotechnol 15:159-63, 1997)によって記述されるようにまたは本出願の実施例の項に記述されるように産生することができる。同様に、「Fabsc」形式において利用される本発明のABPは、国際特許出願WO 2013/092001に記述されるように、または実施例の項において本明細書で記述されるように産生することができる。本発明のABPはまた、ヤギ、植物またはヒト免疫グロブリン遺伝子座の大きな断片を有し、マウス抗体産生が欠損している操作されたマウス系統XENOMOUSEトランスジェニックマウスのようなトランスジェニック生物において産生されうる。抗体はまた、化学合成によって産生されうる。
【0099】
本発明の組換えABPの産生の場合、典型的には、抗体をコードするポリヌクレオチドを単離し、さらなるクローニング(増幅)または発現のためにプラスミドのような複製可能なベクターに挿入する。適当な発現系の実例はグルタミン酸シンテターゼ系(Lonza Biologicsによって販売されているような)であり、宿主細胞は、例えばCHOまたはNS0である。抗体をコードするポリヌクレオチドは、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定される。用いられうるベクターは、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、そのプラスミドが典型的な態様であるミニ染色体を含む。一般に、そのようなベクターは、発現を促進するために軽鎖および/または重鎖ポリヌクレオチドに機能的に連結されたシグナル配列、複製起点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーターおよび転写終結配列をさらに含む。軽鎖および重鎖をコードするポリヌクレオチドを別々のベクターに挿入し、同じ宿主細胞にトランスフェクトしてもよく、または所望とされる場合、宿主細胞へのトランスフェクションのために重鎖と軽鎖の両方を同じベクターに挿入することができる。例えば、両方の鎖を、Skerra, A. (1994) Use of the tetracycline promoter for the tightly regulated production of a murine antibody fragment in Escherichia coli, Gene 151, 131-135、またはSkerra, A. (1994) A general vector, pASK84, for cloning, bacterial production, and single-step purification of antibody Fab fragments, Gene 141, 79-8に記述されているようにジシストロン性オペロンの制御下に配置し、機能的かつ正しく折り畳まれたABPをもたらすように発現させることができる。したがって、本発明の1つの局面によれば、本発明の抗体またはその抗原結合断片の軽鎖および/または重鎖をコードするベクターを構築するプロセスが提供され、この方法はベクターに、本発明のABPの軽鎖および/または重鎖のいずれかをコードするポリヌクレオチドを挿入する段階を含む。
【0100】
組換え技法を用いる場合、ABPは細胞内に、細胞膜周辺腔中に産生され、または培地中に直接分泌されうる(Skerra 1994, 上記も参照のこと)。抗体が細胞内に産生される場合、第1段階として、宿主細胞または溶解した断片のいずれかの、粒子状の残屑が、例えば、遠心分離または限外ろ過により除去される。Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992)には、大腸菌(E coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順が記述されている。抗体は、任意の酸化環境においても産生されうる。そのような酸化環境は、大腸菌のようなグラム陰性細菌の周辺質により、グラム陽性細菌の細胞外環境中にまたは真核細胞(昆虫または哺乳動物細胞などの動物細胞を含む)の小胞体の内腔中に提供される可能性があり、通常、構造的ジスルフィド結合の形成に好ましい。しかしながら、大腸菌のような宿主細胞の細胞質ゾル中に本発明のABPを産生することも可能である。この場合、ポリペプチドは、可溶性かつ折り畳まれた状態で直接得られ、または封入体の形態で回収され、その後、インビトロで復元されうる。さらなる選択肢は、酸化性細胞内環境を有する特定の宿主株の使用であり、これによりしたがって、細胞質ゾルにおけるジスルフィド結合の形成が可能とされうる(Venturi M, Seifert C, Hunte C. (2002) “High level production of functional antibody Fab fragments in an oxidizing bacterial cytoplasm.” J. Mol. Biol. 315, 1-8)。
【0101】
細胞によって産生されたABPは、任意の従来の精製技術、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、および親和性クロマトグラフィーを用いて精製することができ、親和性クロマトグラフィーが1つの好ましい精製技法である。ABPは、CH1またはCLドメインのような定常ドメインに特異的かつ可逆的に結合するタンパク質/リガンドを用いた親和性精製によって精製されうる。そのようなタンパク質の例は、プロテインA、プロテインG、プロテインA/GまたはプロテインLのような免疫グロブリン結合細菌タンパク質であり、プロテインL結合は、κ軽鎖を含むABPに制限されている。κ軽鎖を有する抗体の精製のための代替方法は、ビーズ結合抗κ抗体(KappaSelect)の使用である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAを用いて、抗体を精製することができる(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3について推奨される(Guss et al., EMBO J. 5: 15671575 (1986))。本発明の特定のABPに用いられる精製方法の選択は、当業者の知識の範囲内である。
【0102】
本発明のABPの鎖の1つに1つまたは複数の親和性タグを装備することも可能である。親和性タグ、例えばStrepタグ(登録商標)またはStrepタグ(登録商標)II (Schmidt, T.G.M. et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 753-766)、mycタグ、FLAG(商標)タグ、His6タグまたはHAタグにより、組換えABPの容易な検出およびまた単純な精製が可能とされる。
【0103】
ここから本発明の核酸に目を向けると、本発明による抗体の1つまたは複数の鎖をコードする核酸分子は、一本鎖、二本鎖またはそれらの組み合わせのような、任意の可能な立体配置の任意の核酸でありうる。核酸は、例えば、DNA分子、RNA分子、ヌクレオチド類似体を用いてまたは核酸化学を用いて作製されたDNAまたはRNAの類似体、ロックされた核酸分子(LNA)、およびタンパク質核酸分子(PNA)を含む。DNAまたはRNAは、ゲノムまたは合成由来のものであってよく、一本鎖または二本鎖であってよい。そのような核酸は、例えばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA合成DNA、DNAおよびRNAの共重合体、オリゴヌクレオチドなどでありうる。各核酸はさらに、非天然ヌクレオチド類似体を含み、かつ/または親和性タグもしくは標識に連結されうる。
【0104】
いくつかの態様において、本発明による抗体のメイン鎖および/またはより小さい鎖などの鎖をコードする核酸配列は、プラスミドのようなベクターに含まれる。置換または欠失が抗体鎖に含まれる場合、抗体の天然ドメインまたは領域と比較して、例えば免疫グロブリンの配列に含まれる、各天然ドメイン/領域のコード配列を、突然変異誘発の開始点として用いることができる。選択されたアミノ酸位置の突然変異誘発の場合、当業者は、部位特異的突然変異誘発のためのさまざまな確立された標準方法を自由に使える。一般的に使用される技法は、所望の配列位置に縮重した塩基組成を持つ合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いるPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)による変異の導入である。例えば、コドンNNKまたはNNS (ここでN = アデニン、グアニンまたはシトシンまたはチミン; K = グアニンまたはチミン; S = アデニンまたはシトシン)の使用は、突然変異誘発中に全20種のアミノ酸に加えてamber停止コドンの組み込みを可能とするが、コドンVVSは、アミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valがポリペプチド配列の選択された位置に組み込まれることを排除するため、組み込まれる可能性のあるアミノ酸の数を12種に制限する; コドンNMS (ここでM = アデニンまたはシトシン)の使用は、例えば、アミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valが選択された配列位置に組み込まれることを排除するため、選択された配列位置で可能性のあるアミノ酸の数を11種に制限する。この点に関して、セレノシステインまたはピロリジンのような他のアミノ酸(通常の20種の天然アミノ酸以外)のコドンもABPの核酸に組み込まれうることに留意されたい。Wang, L., et al. (2001) Science 292, 498-500、またはWang, L., and Schultz, P.G. (2002) Chem. Comm. 1, 1-11によって記述されているように、他の異常アミノ酸、例えばo-メチル-L-チロシンまたはp-アミノフェニルアラニンを挿入するために、通常は停止コドンとして認識されるUAGのような「人工」コドンを用いることも可能である。
【0105】
例えばイノシン、8-オキソ-2'デオキシグアノシンまたは6 (2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-3,4-ジヒドロ-8H-ピリミン-ド-1,2-オキサジン-7-オンのような、塩基対特異性が低下したヌクレオチド構成要素の使用(Zaccolo et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603)は、選択した配列セグメントへの変異の導入のための別の選択肢である。さらなる可能性は、いわゆるトリプレット突然変異誘発である。この方法は、コード配列への組み込みのために、各々が1つのアミノ酸をコードする異なるヌクレオチドトリプレットの混合物を用いる(Virnekas B, et al., 1994 Nucleic Acids Res 22, 5600-5607)。
【0106】
本発明による抗体のメイン鎖および/またはより小さい鎖などの鎖をコードする核酸分子は、任意の適当な発現系を用いて、例えば適当な宿主細胞または無細胞系で発現させることができる。得られたABPは、選択および/または単離によって濃縮されうる。好ましくは、本発明の核酸は、ベクター/プラスミドのような遺伝子構築物との関連で提供される。
【0107】
さらに提供されるのは、核酸のシステム、または本発明のそのような核酸を含む構築物であり、ここで本発明のシステムは、本発明のABPの1つの単量体を各々がコードする本発明の少なくとも2つの核酸、例えば重鎖配列をコードする1つの核酸、および軽鎖配列をコードするもう1つの核酸を含む。
【0108】
いくつかの態様において、本発明のABPのポリペプチドは、インビボまたはインビトロでの発現のために核酸によってコードされうる。したがって、いくつかの態様において、本発明のABPをコードする単離された核酸が提供される。いくつかの態様において、核酸は、本発明のABPの1つの部分もしくは単量体(例えば抗体の2つの(重および軽)鎖の一方)をコードし、および/または別の核酸は、本発明のABPの別の部分もしくは単量体(例えば抗体の2つの鎖の他方)をコードする。そのような核酸は組み合わせて、または一緒にシステムとして提供されうる。いくつかの態様において、核酸は、2つまたはそれ以上のABPポリペプチド鎖、例えば、少なくとも2つの抗体鎖をコードする。複数のABP鎖をコードする核酸は、少なくとも2つの鎖配列間の核酸切断部位を含むことができ、2つもしくはそれ以上の鎖配列間の転写もしくは翻訳開始部位をコードすることができ、および/または2つもしくはそれ以上のABP鎖間のタンパク質分解標的部位をコードすることができる。
【0109】
さらに、本発明の1つのさらなる局面は、本明細書において開示されるABPまたはABPの一部もしくは単量体をコードする核酸を含むベクター(発現ベクターなど)を提供する。例えば、ABPが多量体タンパク質であるいくつかの態様において、核酸は、抗原構築物の単一のポリペプチド鎖のみをコードする。それゆえ、そのような抗原結合構築物を発現するために、本発明の発現ベクターは、組み合わせてABP全体を発現する、ABPの別個の部分または単量体を各々がコードする2つまたはそれ以上の核酸を含みうる。類似的に、抗原結合構築物の一部または単量体のみをコードする核酸を含む本発明の発現ベクターは、ABPの別個の部分または単量体を各々がコードする本発明の他の別個の発現ベクターと組み合わせて用いられうる。他の態様において、核酸は、本発明のABPの複数のポリペプチド鎖をコードする。いくつかの態様において、発現ベクターは、哺乳動物発現用のpcDNA3.1(商標)/myc-His (-) Version Aベクター(Invitrogen, Inc.)またはその変種を含む。pcDNA3.1発現ベクターは、哺乳動物発現用CMVプロモーターならびに哺乳動物(ネオマイシン)および細菌(アンピシリン)の両方の選択マーカーを特徴とする。いくつかの態様において、発現ベクターはプラスミドを含む。いくつかの態様において、ベクターはウイルスベクター、例えばレトロウイルスまたはアデノウイルスベクターを含む。態様において、ベクターはコスミド、YAC、またはBACを含む。
【0110】
別の関連する局面において、本発明は、本発明の1つまたは複数の核酸を含む細胞(宿主細胞および/または組換え宿主細胞など)に関する。好ましくは、そのような細胞は、該核酸によってコードされるABP (またはその構成成分)を発現することができる。例えば、本発明のABPが2つの別個のポリペプチド鎖(例えばIgGの重鎖および軽鎖)を含むなら、本発明の細胞は、そのようなABPの重鎖をコードする(かつ発現することができる)第1の核酸ならびにそのようなABPの軽鎖をコードする(かつ発現することができる)第2の核酸を含んでもよく; あるいは、細胞は、そのようなABPの両方の鎖をコードする単一の核酸を含んでもよい。これらの方法で、本発明のそのような細胞は、本発明の機能的ABPを発現することができるであろう。本発明の(宿主)細胞は、本明細書の他の箇所に記述されるように、特に細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である場合、哺乳動物、原核生物または真核生物の宿主細胞のうちの1つでありうる。
【0111】
そのような局面の、ある特定の態様において、(宿主)細胞はヒト細胞である; 特に、それは特定の個体からサンプリングされたヒト細胞(例えば、自家ヒト細胞)でありうる。そのような態様において、そのようなヒト細胞は、本発明の核酸を導入するために、インビトロで増殖および/または操作することができる。特定の個体からの操作されたヒト細胞の有用性は、治療で用いるためなど、そのような操作されたヒト細胞の集団をヒト対象に再導入することを含めて、本発明のABPを産生することでありうる。ある特定のそのような使用において、操作されたヒト細胞は、それが最初にサンプリングされたのと同じヒト個体に、例えば自家ヒト細胞として、導入されうる。
【0112】
そのような操作の対象となるヒト細胞は、体内の任意の生殖細胞または体細胞種のものでありうる。例えば、ドナー細胞は、生殖細胞、または線維芽細胞、B細胞、T細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、上皮細胞、表皮細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経細胞、グリア細胞、星状細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞、メラノサイト、造血細胞、マクロファージ、単細胞、および単核細胞からなる群より選択される体細胞でありうる。ドナー細胞は、体内の任意の臓器または組織から得ることができる; 例えば、それは、肝臓、胃、腸、肺、膵臓、角膜、皮膚、胆嚢、卵巣、精巣、腎臓、心臓、膀胱、および尿道からなる群より選択される臓器からの細胞でありうる。
【0113】
本発明はまた、本発明のABPと、任意で、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物を提供する。
【0114】
本発明によるABPは、タンパク性薬物に対して治療的に有効である任意の非経口のまたは非経口でない(経腸)経路を介して投与することができる。例えば、非経口の適用方法は、例えば注射液、輸液またはチンキ剤の形態での、皮内、皮下、筋肉内、気管内、鼻腔内、硝子体内または静脈内注射および注入技法、ならびに例えばエアロゾル混合物、スプレイまたは粉末の形態での、エアロゾル注入(installation)および吸入を含む。エアロゾルの吸入(鼻腔内投与にも用いることができる)または気管内注入のいずれかによる肺薬物送達に関する概要は、例えばJ.S. Patton et al. The lungs as a portal of entry for systemic drug delivery. Proc. Amer. Thoracic Soc. 2004 Vol. 1 pages 338-344によって与えられている。非経口でない送達モードは、例えば、経口的に、例えば、丸薬、錠剤、カプセル、溶液もしくは懸濁液の形態で、または直腸に、例えば坐剤の形態である。本発明のABPは、必要に応じて、従来の非毒性の薬学的に許容される賦形剤または担体、添加剤および媒体を含む製剤で全身的または局所的に投与することができる。
【0115】
本発明の1つの態様において、医薬物は哺乳動物に、特にヒトに非経口的に投与される。例えば、対応する投与方法は、例えば注射液、輸液またはチンキ剤の形態での、皮内、皮下、筋肉内、気管内または静脈内注射および注入技法、ならびに例えばエアロゾル混合物、スプレイまたは粉末の形態での、エアロゾル注入(installation)および吸入を含むが、これらに限定されることはない。比較的短い血清中半減期を有する化合物の場合、静脈内および皮下注入および/または注射の組み合わせが最も好都合でありうる。薬学的組成物は、水溶液、水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンでありうる。
【0116】
これに関連して、Meidan VM and Michniak BB 2004 Am. J. Ther. 11(4): 312-316に記述されているように、経皮送達技術、例えばイオントフォレーシス、ソノフォレーシスまたはマイクロニードル増強送達を本明細書において記述されるABPの経皮送達に用いることもできることに留意されたい。例えば、非経口でない送達モードは、例えば丸薬、錠剤、カプセル、溶液もしくは懸濁液の形態での、経口投与、または例えば坐剤の形態での、直腸投与である。本発明のABPは、さまざまな従来の非毒性の薬学的に許容される賦形剤または担体、添加剤、および媒体を含む製剤で全身的または局所的に投与することができる。
【0117】
適用されるABPの投与量は、望ましい予防効果または治療応答を達成するために、広い制限内で変化しうる。それは、例えば、選択された標的に対するABPの親和性、およびインビボでのABPとリガンドとの間の複合体の半減期に依存するであろう。さらに、最適な投与量は、ABPまたはそのコンジュゲートの生体内分布、投与様式、処置される疾患/障害の重症度および患者の医学的状態に依存するであろう。例えば、局所塗布用の軟膏に用いられる場合、高濃度のABPを用いることができる。しかしながら、要望される場合、ABPはまた、持続放出性製剤、例えば、PolyActive(商標)またはOctoDEX(商標)のような、リポソーム分散液またはハイドロゲルに基づく重合体ミクロスフェアで投与されうる(Bos et al., Business Briefing: Pharmatech 2003: 1-6を参照のこと)。利用可能な他の持続放出性製剤は、例えば、PLGAに基づく重合体(PR pharmaceuticals)、PLA-PEGに基づくハイドロゲル(Medincell)およびPEAに基づく重合体(Medivas)である。
【0118】
したがって、本発明のABPは、薬学的に許容される成分および確立された調製方法を用いて組成物に製剤化することができる(Gennaro, A.L. and Gennaro, A.R. (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA)。薬学的組成物を調製するために、薬学的に不活性な無機または有機賦形剤を用いることができる。例えば丸薬、粉末、ゼラチンカプセルまたは坐剤を調製するために、例えば、ラクトース、タルク、ステアリン酸およびその塩、脂肪、ワックス、固体または液体ポリオール、天然油および硬化油を用いることができる。使用前に溶液またはエアロゾル混合物中に再構成するための溶液、懸濁液、エマルジョン、エアロゾル混合物または粉末の作製に適した賦形剤は、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、およびそれらの適当な混合物ならびに植物油を含む。
【0119】
薬学的組成物はまた、例えば、充填剤、結合剤、湿潤剤、流動促進剤、安定剤、保存料、乳化剤、およびさらにデポー効果を達成するための溶媒または可溶化剤または薬剤などの、添加剤を含みうる。後者は、融合タンパク質がリポソームおよびマイクロカプセルなどの、徐放性もしくは持続放出性または標的送達システムに組み込まれうるということである。
【0120】
製剤は、細菌保持フィルタによるろ過を含む多くの手段によって、または使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌媒体に溶解もしくは分散することができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。
【0121】
ABPは、疾患の処置または予防に適しており、それらに用いられうる。したがって、いくつかの態様において、本発明によるABPは、障害または疾患のような医学的状態を処置および/または予防する方法において用いられうる。また、本発明のABPは、疾患の処置において用いることができる。処置または予防される疾患は、増殖性疾患でありうる。そのような増殖性疾患は、好ましくは腫瘍またはがんでありうる。本発明のABPがFLT3に結合する能力により、このABPは、野生型または変異型FLT3の両方のFLT3を発現する細胞からなるがんを処置するために用いることができる。本発明の処置に関して、がんは、急性リンパ球性がん、急性骨髄性白血病(AML)、肺胞横紋筋肉腫、膀胱がん(例えば、膀胱がん腫)、骨がん、脳腫瘍(例えば、髄芽細胞腫)、乳がん、肛門、肛門管または肛門直腸のがん、眼のがん、肝内胆管のがん、関節のがん、首、胆嚢または胸膜のがん、鼻、鼻腔または中耳のがん、口腔のがん、外陰がん、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性がん、結腸がん、食道がん、頸部がん、線維肉腫、消化管カルチノイド腫瘍、頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮がん)、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、腎臓がん、喉頭がん、白血病、液性腫瘍、肝臓がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がんおよび肺腺がん)、リンパ腫、中皮腫、肥満細胞腫、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭がん、非ホジキンリンパ腫、B慢性リンパ性白血病、毛細胞白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、およびバーキット(Burkiht's)リンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、腹膜、網および腸間膜がん、咽頭がん、前立腺がん、直腸がん、腎がん、皮膚がん、小腸がん、軟部組織がん、固形腫瘍、滑膜肉腫、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、ならびに尿管がんのいずれかを含む、任意のがんでありうる。好ましくは、がんはFLT3の発現によって特徴付けられる。最も好ましくは、がんはAMLまたはALLなどの、FLT3陽性白血病である。
【0122】
融合タンパク質で処置される対象は、ヒトまたは非ヒト動物でありうる。そのような動物は、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、ブタ、ウシ、ウサギ、マウス、ラット、霊長類、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、またはウマ、最も好ましくはヒトである。
【0123】
本発明のABPはまた、本明細書において記述される疾患のような、疾患の診断において用いられうる。ABPは、この目的のために、適当な検出可能なシグナリング標識で標識されうる。そのような標識されたABPは、FLT3レベル、または白血病などのがん、または上記のがんのいずれか、または対象の検出もしくは定量化を可能としうる。インビボでの使用の指定がある場合、検出可能なシグナリング標識は、好ましくはインビボで検出可能である。
【0124】
標識されたABPは、免疫撮像技法において用いられうる。次に、検出可能なシグナリング標識は、例えば、診断に利用される免疫画像化技法、例えば、ガンマカメラ撮像技法/SPECTの場合はガンマ放射性核種(またはガンマ放出体)、それぞれ、MRIまたはPET撮像技法の場合は金属または陽電子放射体に基づいて選択されうる。これに関連して、本開示の1つまたは複数の検出可能なシグナリング標識は、ガンマカメラ撮像可能剤、PET撮像可能剤およびMRI撮像可能剤、例えば、放射性核種、蛍光剤、発蛍光団、発色団、色原体、リン光剤(phosphorescer)、化学発光体および生物発光体を含む。
【0125】
適当な検出可能なシグナリング標識は、放射性核種でありうる。該放射性核種は、3H、14C、35S、99Tc、1231、1251、131I、mIn、97Ru、67Ga、68Ga、72As、89Zrおよび201T1からなる群より選択されうる。
【0126】
適当な検出可能なシグナリング標識はまた、フルオロフォアまたは発蛍光団でありうる。該フルオロフォアまたは発蛍光団は、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、フルオレスカミン、フルオレセイン誘導体、オレゴングリーン(Oregon Green)、ローダミングリーン(Rhodamine Green)、ロドルグリーン(Rhodol Green)またはテキサスレッド(Texas Red)からなる群より選択されうる。
【0127】
標識されたABPは、検出可能なシグナリング標識に直接的または間接的にカップリングされうる。例えば、ABPは、直接的に(例えばABPのチロシン残基を介して)または間接的に(例えばリンカーを介して-金属キレート剤として)検出可能なシグナリング標識にカップリングされうる。いくつかの他の態様において、ABPは、使用の時点および場所で検出可能なシグナリング標識に(インビトロまたはインビボのいずれかで)カップリングすることができる分子にカップリングされうる。
【0128】
検出可能なシグナリング標識は、ABPにカップリングされた1つまたは複数のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)残基を通じてABPに結合されうる。
【0129】
また、本発明によって企図されるのは、本明細書において定義される疾患を検出または診断するインビトロの方法である。そのような方法は、対象から得られたサンプルを、本発明の好ましくは標識されたABPと接触させる段階を含みうる。サンプルは、血液、尿または脳脊髄液のサンプルでありうるが、好ましくは、液体サンプルまたは生検サンプルでありうる。検出または診断される疾患は、好ましくは、ALLまたはAMLなどの白血病である。
【0130】
本明細書において用いられる「[本]発明の」、「本発明による(in accordance with the invention)」、「本発明による(according to the invention)」などの用語は、本明細書において記述および/または主張される本発明の全ての局面および態様をいうように意図される。
【0131】
本明細書において用いられる場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」および「からなる(consisting of)」の両方を包含すると解釈されるべきであり、両方の意味が具体的に意図され、ゆえに本発明により個別に開示されている態様が具体的に意図される。本明細書において用いられる場合、「および/または」は、その他のものを有するまたは有しない、2つの特定の特徴または構成成分の各々の具体的開示と解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、各々が本明細書において個別に記載されているかのように、(i) A、(ii) Bならびに(iii) AおよびBの各々の特定の開示と解釈されるべきである。本発明の文脈において、「約」および「およそ」という用語は、当業者が当該の特徴の技術効果を依然として確実にするために理解する精度の間隔を示す。この用語は典型的には、示された数値から±20%、±15%、±10%、および例えば±5%の偏差を示す。当業者によって理解されるように、所与の技術効果の数値に対する特定のそのような偏差は、技術効果の性質に依存するであろう。例えば、自然的または生物学的技術効果は、一般に、人工的または工学的技術効果の場合よりもそのような偏差が大きい可能性がある。当業者によって理解されるように、所与の技術効果の数値に対する特定のそのような偏差は、技術効果の性質に依存するであろう。例えば、自然的または生物学的技術効果は、一般に、人工的または工学的技術効果の場合よりもそのような偏差が大きい可能性がある。単数名詞を参照するときに不定冠詞または定冠詞、例えば「1つの(a)」、「1つの(an)」または「その(the)」が用いられる場合、これは、何か他のものが具体的に記載されていない限り、複数のその名詞を含む。
【0132】
特定の問題または環境への本発明の教示の適用、および本発明の変形またはそれに対する追加の特徴(さらなる局面および態様など)の包含は、本明細書に含まれる教示に照らして当業者の能力の範囲内であることが理解されるべきである。
【0133】
文脈が別段の指示をしない限り、上記の特徴の記述および定義は、本発明の特定の局面または態様に限定されず、記述される全ての局面および態様に等しく適用される。
【0134】
本明細書において引用される全ての参考文献、特許、および刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0135】
上記を考慮して、本発明はまた、以下の項目に示す態様に関することが理解されよう。
項目1: ヒトfms様チロシンキナーゼ3 (FLT3)抗原に結合することができる第1の抗原結合ドメインと、ヒト表面抗原分類3 (CD3)抗原に結合することができる第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗原結合タンパク質(ABP)。
【0136】
項目2: 10 nMより低い、好ましくは9 nMより低い、より好ましくは8 nMより低い、より好ましくは7 nMより低い、より好ましくは6 nMより低い、または5.5 nMより低いEC50でFLT3に結合する、項目1の二重特異性ABP。
【0137】
項目3: 0.5 nMより高い、より好ましくは1 nMより高い、より好ましくは1.3 nMより高い、より好ましくは2 nMより高い、より好ましくは3 nMもしくは4 nMより高い、または4.5 nMより高いEC50でFLT3に結合する、項目1または2の二重特異性ABP。
【0138】
項目4: 10 nMより低くかつ0,5 nMより高い、より好ましくは9 nMより低くかつ1 nMより高い、好ましくは8 nMより低くかつ1,3 nMより高い、好ましくは7 nMより低くかつ3 nMより高い、好ましくは6 nMより低くかつ4 nMより高い、好ましくは5,5 nMより低くかつ4,5 nMより高いEC50でFLT3に結合する、項目1~3のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0139】
項目5: FLT3への二重特異性ABPの結合のEC50が、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりFLT3陽性細胞への二重特異性ABPの結合を分析することにより判定され; 好ましくはここでFLt3陽性細胞がB細胞前駆体白血病細胞、好ましくはNALM-16細胞(DSMZにACC 680の下で寄託されている)であり; かつ/または好ましくはここで結合が蛍光標識二次抗体を用いて検出され; かつ/またはここで二重特異性ABPがフローサイトメトリーの前に約30分間FLT3陽性細胞とともにインキュベートされる、項目2~4のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0140】
項目6: 50μM未満、より好ましくは20μM未満、より好ましくは10μM未満、より好ましくは5μM未満、より好ましくは1μM未満のkDでFLT3に結合する、項目1~5のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0141】
項目7: 50 nM超、より好ましくは100 nM超、より好ましくは160 nM超、より好ましくは200 nM超、より好ましくは300 nM超のkDでFLT3に結合する、項目1~5のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0142】
項目8: 50μM未満かつ50 nM超、より好ましくは20μM未満かつ100 nM超、より好ましくは10μM未満かつ160 nM超、より好ましくは5μM未満かつ200 nM超、より好ましくは1μM未満かつ300 nM超のkDでFLT3に結合する、項目1~5のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0143】
項目9: kDが例えばBIAcore親和性アッセイにおいて、表面プラズモン共鳴により測定されるものである、項目6~8のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0144】
項目10: 200 nMより低い、好ましくは90 nMより低い、より好ましくは50 nMより低い、より好ましくは20 nMより低い、より好ましくは15 nMより低いEC50でCD3に結合する、項目1~9のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0145】
項目11: 1 nMより高い、好ましくは2 nMより高い、より好ましくは4.1 nMより高い、より好ましくは6 nMより高い、より好ましくは8 nMより高いEC50でCD3に結合する、項目1~10のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0146】
項目12: 200 nMより低くかつ1 nMより高い、好ましくは200 nMより低くかつ2 nMより高い、より好ましくは90 nMより低くかつ4.1 nMより高い、より好ましくは20 nMより低くかつ6 nMより高い、より好ましくは15 nMより低くかつ8 nMより高いEC50でCD3に結合する、項目1~11のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0147】
項目13: CD3への二重特異性ABPの結合のEC50が、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置を用いてフローサイトメトリーによりCD3陽性細胞への二重特異性ABPの結合を分析することにより判定され; 好ましくはここでCD3陽性細胞がT細胞白血病細胞、好ましくはJurkat細胞(DSMZにACC 282の下で寄託されている)であり; かつ/または好ましくはここで結合が蛍光標識二次抗体を用いて検出され;かつ/またはここで二重特異性ABPがフローサイトメトリーの前に約30分間CD3陽性細胞とともにインキュベートされる、項目10~12のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0148】
項目14: 急性白血病に罹患している患者の白血病血液単核細胞の増殖および/または生存を、インビトロアッセイにおいて非処理対照と比較して、50%以下に、より好ましくは40%以下に、より好ましくは30%以下に、最も好ましくは25%以下に阻害する、項目1~13のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0149】
項目15: 2つの第1の抗原結合部位を含む、項目1~14のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0150】
項目16: 2つの第2の抗原結合部位を含む、項目1~15のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0151】
項目17: 抗体または抗体変種である、項目1~16のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0152】
項目18: 抗原結合ドメインが、抗体重鎖可変ドメインと抗体軽鎖可変ドメインとから構成される、項目17の二重特異性ABP。
【0153】
項目19: 各単量体中に、
(i) 重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む可変領域を含み、該可変領域が第1の抗原結合部位を含む、N末端Fab断片;
(ii) 第2の抗原結合部位を含むC末端scFv断片
を含み、ここで(i)および(ii)がCH2およびCH3ドメインによって接続されている、四価かつホモ二量体の二重特異性抗体
である、項目1~18のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0154】
項目20: 抗体中の、Fc受容体への結合を媒介することができるCH2ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基が、欠けているまたは変異されている、項目17~19のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0155】
項目21: 第2の抗原結合部位が、C末端からN末端の方向に、抗体重鎖可変ドメインおよび抗体軽鎖可変ドメインを含む、項目1~20のいずれか1つの二重特異性ABP。
【0156】
項目22: (i) SEQ ID NO: 01 (SYWMH)に記載されるCDRH1領域、
に記載されるCDRH2領域、およびSEQ ID NO: 03 (AITTTPFDF)に記載されるCDRH3領域を含む、重鎖可変ドメイン、あるいは、いずれの場合にも独立してCDRH1、CDRH2および/もしくはCDRH3が、それぞれSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、またはSEQ ID NO: 01、SEQ ID NO: 02、もしくはSEQ ID NO: 03に対して少なくとも75%の配列同一性もしくは80%、好ましくは90%の配列同一性を有するCDRH1、CDRH2もしくはCDRH3配列を含む、重鎖可変ドメイン; ならびに(ii) SEQ ID NO: 05 (RASQSISNNLH)に記載されるCDRL1領域、SEQ ID NO: 06 (YASQSIS)に記載されるCDRL2領域、およびSEQ ID NO: 07 (QQSNTWPYT)に記載されるCDRL3領域を含む、軽鎖可変ドメイン、あるいは、いずれの場合にも独立してCDRL1、CDRL2および/もしくはCDRL3が、それぞれSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07と比較して、3個もしくは2個以下、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有する配列を含む、またはSEQ ID NO: 05、SEQ ID NO: 06、もしくはSEQ ID NO: 07に対して少なくとも75%の配列同一性もしくは少なくとも80%の配列同一性を有するCDRL1、CDRL2もしくはCDRL3配列を含む、軽鎖可変ドメインを含む、ヒトfms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3)に結合することができるABPであって、該重鎖可変領域および該軽鎖可変領域が各々、ヒト可変領域フレームワーク配列を含むことを特徴とする、該ABP。
【0157】
項目23: 項目1~21のいずれか1つの二重特異性ABPであり、
項目22における(i)および(ii)のCDR領域が、第1の抗原結合ドメインに含まれる、
項目22のABP。
【0158】
項目24: 重鎖可変ドメインのヒトフレームワーク配列が、IGHV1-46、好ましくはIGHV1-46*3に由来し、かつ/または重鎖可変ドメインのヒトフレームワーク配列が、IGKV3D-15に由来する、項目22または23のいずれかのABP。
【0159】
項目25: 重鎖可変領域が、以下の変異: K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、M48I、K57T、N60A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、およびT108Lのうちのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、項目24のABP。
【0160】
項目26: 軽鎖可変領域が、以下の変異: Y49K、Y87F、およびI55Aのうちのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせを含み、ナンバリングがKabatシステムによるものである、項目24または25のABP。
【0161】
項目27: 重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 15、17、19、21もしくは23から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含み; かつ/あるいは軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 16、18、20、22もしくは24から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、これらの配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含む、項目1のABP。
【0162】
項目28: 重鎖可変領域において、アミノ酸16、18、19、20、22、48、57、60、69、70、75、76、78、80、81、87、および108位がSEQ ID NO: 15、17、19、21もしくは23のうちのいずれか1つと同様であり; かつ/または軽鎖可変領域において、アミノ酸49、55、および87位がSEQ ID NO: 16、18、20、22もしくは24のうちのいずれか1つと同様であり; ナンバリングがKabatシステムによるものである、項目27のABP。
【0163】
項目29: 少なくとも1つの、好ましくは2つの、第2の抗原結合ドメインを含み、
該第2の抗原結合ドメインがCD3に結合し、好ましくは該第2の抗原結合ドメインが第1の抗体結合ドメインの重鎖に融合されている、
項目1~28のいずれか1つのABP。
【0164】
項目30: 第2の抗原結合ドメインが、
SEQ ID NO: 14、25、26および27から選択される配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、いずれの場合にも独立して、SEQ ID NO: 14、25、26および27から選択される配列と比較して10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個以下、好ましくは3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を任意で有するアミノ酸配列を含む、scFv断片
を含む、項目29のABP。
【0165】
項目31: SEQ ID NO: 28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、および74から選択される配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、および74から選択される配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの抗体重鎖を含み; かつ/あるいはSEQ ID NO: 29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、および75から選択される配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、および75から選択される配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの抗体軽鎖を含む、項目27または28のABP。
【0166】
項目32: 下記の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、または下記の配列と比較して20個、15個、10個、9個、8個、7個、6個、4個以下、好ましくは3個もしくは2個、好ましくは1個以下のアミノ酸置換、欠失もしくは挿入を有するアミノ酸配列を各々が含む、1つ、好ましくは2つの、抗体重鎖および1つ、好ましくは2つの、抗体軽鎖を含む、項目31のABP:
a. 重鎖についてはSEQ ID NO: 28および軽鎖についてはSEQ ID NO: 29から選択される配列;
b. 重鎖についてはSEQ ID NO: 30および軽鎖についてはSEQ ID NO: 31から選択される配列;
c. 重鎖についてはSEQ ID NO: 32および軽鎖についてはSEQ ID NO: 33から選択される配列;
d. 重鎖についてはSEQ ID NO: 34および軽鎖についてはSEQ ID NO: 35から選択される配列;
e. 重鎖についてはSEQ ID NO: 36および軽鎖についてはSEQ ID NO: 37から選択される配列;
f. 重鎖についてはSEQ ID NO: 38および軽鎖についてはSEQ ID NO: 39から選択される配列;
g. 重鎖についてはSEQ ID NO: 40および軽鎖についてはSEQ ID NO: 41から選択される配列;
h. 重鎖についてはSEQ ID NO: 42および軽鎖についてはSEQ ID NO: 43から選択される配列;
i. 重鎖についてはSEQ ID NO: 44および軽鎖についてはSEQ ID NO: 45から選択される配列;
j. 重鎖についてはSEQ ID NO: 46および軽鎖についてはSEQ ID NO: 47から選択される配列;
k. 重鎖についてはSEQ ID NO: 48および軽鎖についてはSEQ ID NO: 49から選択される配列;
l. 重鎖についてはSEQ ID NO: 50および軽鎖についてはSEQ ID NO: 51から選択される配列;
m. 重鎖についてはSEQ ID NO: 52および軽鎖についてはSEQ ID NO: 53から選択される配列;
n. 重鎖についてはSEQ ID NO: 54および軽鎖についてはSEQ ID NO: 55から選択される配列;
o. 重鎖についてはSEQ ID NO: 56および軽鎖についてはSEQ ID NO: 57から選択される配列;
p. 重鎖についてはSEQ ID NO: 58および軽鎖についてはSEQ ID NO: 59から選択される配列;
q. 重鎖についてはSEQ ID NO: 60および軽鎖についてはSEQ ID NO: 61から選択される配列;
r. 重鎖についてはSEQ ID NO: 62および軽鎖についてはSEQ ID NO: 63から選択される配列;
s. 重鎖についてはSEQ ID NO: 64および軽鎖についてはSEQ ID NO: 65から選択される配列;
t. 重鎖についてはSEQ ID NO: 66および軽鎖についてはSEQ ID NO: 67から選択される配列;
u. 重鎖についてはSEQ ID NO: 68および軽鎖についてはSEQ ID NO: 69から選択される配列;
v. 重鎖についてはSEQ ID NO: 70および軽鎖についてはSEQ ID NO: 71から選択される配列;
w. 重鎖についてはSEQ ID NO: 72および軽鎖についてはSEQ ID NO: 73から選択される配列;
x. 重鎖についてはSEQ ID NO: 74および軽鎖についてはSEQ ID NO: 75から選択される配列;
ここで重鎖および軽鎖は互いに対合されている。
【0167】
項目33: 項目1~32のいずれか1つのABPの結合と競合することができるヒトFLT3に結合することができる、ABPまたはその抗原結合断片。
【0168】
項目34: T細胞およびFLT3発現腫瘍細胞に結合する活性を有し、
好ましくは抗体が、FLT3およびCD3への結合によってFLT3発現腫瘍細胞へのT細胞の動員を増加させる、
項目1~33のいずれか1つのABP。
【0169】
項目35: 第2の結合ドメインを含む抗体分子の重鎖可変領域および軽鎖可変領域が、UCHT1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域である、項目1~34のいずれか1つのABP。
【0170】
項目36: 定常重鎖領域CH1~CH3を含み、
Fc受容体への結合を媒介することができるヒトCH2ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基が、欠けているまたは変異されている、
項目1~35のいずれか1つのABP。
【0171】
項目37: 四量体抗体分子またはホモ二量体かつ四価の抗体分子である、項目1~36のいずれか1つのABP。
【0172】
項目38: 項目1~37のいずれか1つのABPをコードする、または項目1~37のいずれか1つのABPの抗原結合断片もしくは単量体をコードする、単離された核酸。
【0173】
項目39: 項目38の核酸を含む、組換え宿主細胞。
【0174】
項目40: (i) 項目1~37のいずれか1つのABP、または(ii) 項目38の核酸、または(iii) 項目39の組換え宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体、安定剤および/もしくは賦形剤を含む、薬学的組成物。
【0175】
項目41: 項目1~37のいずれか1つのABP、項目38の単離された核酸、項目39の組換え宿主細胞、および項目40の薬学的組成物からなるリストより選択される、医薬における使用のための構成成分。
【0176】
項目42: 医薬における使用が、FLt3発現に関連する増殖性障害の処置における使用である、項目41の使用のための構成成分。
【0177】
項目43: T細胞を介したFLT3陽性腫瘍細胞の殺傷および/または増殖阻害を増強することにおける使用のためのものである、項目41または42の使用のための構成成分。
【0178】
項目44: 増殖性疾患の診断、予防および/または処置における使用のためのものであり、
該増殖性疾患が、好ましくはがんであり、該がんが、急性骨髄性白血病(AML)もしくは急性リンパ芽球性白血病(ALL)などの白血病、または前立腺がん、結腸直腸がん、胃がん、肺がん、骨肉腫、乳がん、膵臓がん、もしくは扁平上皮がんから選択される固形がんより選択され; 好ましくはがんがAMLまたはALLなどの白血病である、
項目41~43のいずれか1つの使用のための構成成分。
【0179】
項目45: 前記がんが、FLT3を発現する腫瘍細胞に関連する、項目44の使用のための構成成分。
【図面の簡単な説明】
【0180】
図は以下を示す。
【0181】
図1】本発明において記述される二重特異性FLT3×CD3抗体変種の構築に用いられたFc減弱IgGsc形式を図示する。FLT3抗原結合ドメインの変種(V1~V5)は、異なる厳密性を有する置換戦略を用いるCDRグラフティングによるFLT3抗体4G8のV領域のヒト化から開始して得られた。異なるCD3抗原結合ドメイン(V6~V9)の作製について、UCHT1 scFv配列を用いた。
図2】CC-2の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を示す。A: FLT3 (4G8)×CD3 (ヒト化hUCHT1)二重特異性IgGsc形式抗体分子の重鎖配列(SEQ ID NO: 68)。重鎖は4G8のマウス重鎖(HC)可変領域、IgG1 CH1ドメイン、IgG1ヒンジ領域、修飾IgG1 CH2ドメイン、IgG1 CH3ドメイン、およびヒト化CD3 (UCHT1)一本鎖Fv断片を含む。B: FLT3 (4G8)×CD3 (ヒト化hUCHT1)のκ軽鎖のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 69)を示す。この軽鎖はSEQ ID NO: 68の重鎖構築物を完全なものにし、それぞれキメラ4G8×UCHT1 IgGscおよびFabsc分子を形成する(図1参照)。
図3】可溶性組換えFLT3タンパク質への異なるCC-2変種の結合を図示する。プロテインAでコーティングされたBiacoreチップに各抗体変種を固定化し、Biacore X機器(GE Healthcare)を用いてHisタグ付き組換えFLT3タンパク質(Sino Biologicals)の結合を判定した。示されているのは、FLT3抗原結合ドメインのさまざまな変異変種(V1~V5)の結果である。
図4】FLT3を発現するNalm16細胞へのCC-2変種の結合を示す。EC50計算値が、図3中の対応するバーに示されている。FLT3抗原結合ドメインの変異変種(V1~V5)を試験した。
図5】本発明のさまざまな異なるCC-2構築物を用いたAML患者の血液サンプルからの白血病細胞の枯渇を図示する。示されているのは、FLT3抗原結合ドメインの変異変種(V1~V5)の比較である。図3のBiacoreの結果および図4のフローサイトメトリーEC50の値も示されている。
図6】CD3を発現するJurkat細胞へのCC-2変種の結合を示す。EC50計算値が、図5中の対応するバーに示されている。CD3抗原結合ドメインの変異変種(V7~V9)を試験した。
図7】本発明のさまざまな異なるCC-2構築物を用いたAML患者の血液サンプルからの白血病細胞の枯渇を図示する。示されているのは、CD3抗原結合ドメインの変異変種(V7~V9)の比較である。図6のフローサイトメトリーEC50の値も示されている。
図8】フローサイトメトリーアッセイにおけるさまざまなCC-2変種によるT細胞活性化および芽細胞低減の結果を図示する。用いたCC2変種は、そのFLT3抗原結合ドメインおよびCD3抗原結合ドメインの両方が異なる(用いた抗体はV6-V6 (V6); V6-V9 (V9); V4-V6 (V4)である)。A: CD4陽性細胞の低減; B: CD8陽性細胞の低減; C: 芽細胞カウント。
図9】フローサイトメトリーアッセイにおけるCC-2のさまざまな変種によるNALM16白血病細胞の枯渇を図示する。用いたCC2変種は、そのFLT3抗原結合ドメインおよびCD3抗原結合ドメインの両方が異なる(用いた抗体はV6-V6 (V6); V6-V8 (V8); V4-V6 (V4); V6-V7 (V7)である)。
図10】原発性AML (A)またはALL (B)を移植した免疫不全NSGマウスにおけるインビボでのCC-2変種4の抗白血病活性を図示する。例として、FLT3抗原結合ドメインV4 (V4-V6)を有するCC-2変種が示されている。
図11】単一特異性抗FLT3抗体変種の抗体依存性細胞傷害(ADCC)を図示する。示されているのは、2時間のBATDA-ユーロピウム細胞傷害アッセイにより測定された、表示のFLT3構築物またはFc対照(各5μg/ml)の存在下での同種異系ポリクローナルナチュラルキラー細胞(pNKC)によるFLT3+白血病細胞(SEM; DSMZ番号ACC 546)の特異的溶解である。
【0182】
本発明のABPは全て、配列表および以下の表1に記述されている。
【0183】
【実施例
【0184】
本発明の、ある特定の局面および態様をこれより、例によって、ならびに本明細書において記載される説明、図および表を参照して例示する。本発明の方法、使用および他の局面のそのような例は、代表的なものにすぎず、本発明の範囲をそのような代表的な例のみに限定するものと解釈されるべきではない。
【0185】
例は次の通りである。
【0186】
実施例1: 組換え二重特異性FLT3×CD3 ABP (CC-2)の産生
4G8抗FLT3抗体をIgGsc形式の組換え二重特異性ABPの構築に用い(図1)、つまり、マウスFLT3抗体4G8の可変ドメインを以下の順序でCD3抗体UCHT1のヒト定常領域および可変領域に融合した。軽鎖の場合はVL-CLおよび重鎖の場合はVH-CH1-CH2mod-CH3-scFv(UCHT1) (図1参照)。これらのABPにおいて、FLT3結合部位はFab2断片として存在するが、CD3結合部位はscFv断片として存在する(この場合も図1参照)。FcR結合を無効化するために、以下の修飾をヒンジ領域およびCH2ドメインに導入した(EUインデックス): E233P; L234V; L235A; ΔG236; D265G;; A327Q; A330S (この点に関しては国際特許出願WO 2013/092001も参照のこと)。構築物を国際特許出願WO 2013/092001にも記述されているように、pcDNA3.1 (InVitrogen, Thermo Fisher)に由来する発現ベクターにクローニングし、CHO細胞へ一過性にトランスフェクトした。プロテインA樹脂(GE Health Care Freiburg, Germanyから購入した)を用いた親和性クロマトグラフィーにより、トランスフェクトされた細胞の上清からABPを精製した。得られたマウスFLT3×CD3二重特異性抗体をV6-V6と表す。
【0187】
実施例2: ヒト化4G8抗体の作製
抗体4G8の軽鎖のCDR領域(つまりSEQ ID NO: 5~SEQ ID NO: 7のCDRループ)を、IMGT/LIGMデータベースにアクセッション番号M23090の下で寄託されているヒトκ軽鎖配列IGKV3-15*01の(可変ドメイン)にグラフティングすることによって4G8抗FLT3抗体をヒト化した。Ichiyoshi Y., Zhou M., Casali P. A human anti-insulin IgG autoantibody apparently arises through clonal selection from an insulin-specific 'germ-line' natural antibody template. Analysis by V gene segment reassortment and site-directed mutagenesis' J. Immunol. 154(1):226-238 (1995)も参照されたい。さらに、抗体4G8の重鎖のCDR領域(つまりSEQ ID NO: 01~SEQ ID NO: 03のCDRループ)を、IMGT/LIGMデータベースにアクセッション番号L06612の下で寄託されている重鎖配列IGHV1-46*03の(可変ドメイン)に含めた(Watson C.T., et al. Complete haplotype sequence of the human immunoglobulin heavy-chain variable, diversity, and joining genes and characterization of allelic and copy-number variation. Am. J. Hum. Genet. 92(4):530-546 (2013)も参照のこと)。得られたヒト化4G8を、本発明の変異分析/バリエーションの基礎として用いた。
【0188】
実施例3: 二重特異性FLT3×CD3 ABP (CC-2)の本発明の変種の作製
ヒト化4G8のFLT3結合ドメインの複数の変種(V1~V5)を作製した。さらに、ヒト化CD3抗体UCHT1に由来するCD3結合ドメインscFvの複数の公開された変種(V7~V9)を、本発明のFLT3結合ドメイン変種とのさまざまな組み合わせで用いた。そのようなヒト化4G8変種の使用を望ましい特定の技術効果を有する以下の好ましい変異変種が同定された(CDRには下線が引かれ、変異は、変種0またはV0として示されるヒト化4G8 FLT3抗原結合ドメインに存在する対応する重鎖および軽鎖に対して示されている)。
【0189】
ヒト化4G8 FLT3可変領域変種1 (V1)
重鎖可変領域:
変異: K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、K57T、N60A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、T108L
軽鎖可変領域:
変異: K49Y、I55A
【0190】
ヒト化4G8 FLT3可変領域変種2 (V2)
重鎖可変領域:
変異: K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、K57T、N60A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、T108L
軽鎖可変領域:
【0191】
ヒト化4G8 FLT3可変領域変種3 (V3)
重鎖可変領域:
変異: 48I
軽鎖可変領域:
変異: K49Y、I55A
【0192】
ヒト化4G8 FLT3可変領域変種4 (V4)
重鎖可変領域:
変異: 48I
軽鎖可変領域:
変異: 49K、87F
【0193】
ヒト化4G8 FLT3可変領域変種5 (V5)
重鎖可変領域:
変異: K16G、V18L、K19R、V20L、K22A、M69I、T70S、T75K、S76N、V78L、M80L、E81Q、S87A、T108L
軽鎖可変領域:
【0194】
ヒト化UCHT1 CD3 scFv変種1 (V7)
変異: N60A、Q61D、K62S、D65G、K73D
【0195】
ヒト化UCHT1 CD3 scFv変種2 (V8)
変異: K73D
【0196】
ヒト化UCHT1 CD3 scFv変種3 (V9)
変異: 軽鎖-重鎖の交換(VL-VH→VH-VL):
【0197】
上記の変種を用いて、上記の表1に示されているように、二重特異性ABPバージョンを作製した。
【0198】
実施例4: ヒト化4G8のFLT3抗原結合ドメイン変種の結合親和性
図3では、上記のような異なるFLT3結合ドメイン変種V1~V5の結合を、可溶性組換えFLT3タンパク質を用いその解離定数について試験した。各抗体変種をプロテインAでコーティングされたBiacoreチップに固定化し、Hisタグ付き組換えFLT3タンパク質(Sino Biologicals)の結合を、Biacore X機器(GE Healthcare)を用いて判定した。結果を表2に示す。
【0199】
【0200】
さらに、抗体の結合親和性をまた、細胞上に発現されるその標的への抗体の結合を用いて試験した。分析されているのは、FLT3を発現しているNalm16細胞(図4)またはCD3を発現しているJurkat細胞(図6)へのCC-2変種の結合である。変種V1~V9 (V6はV6-V6である)は、上記のインサート配列を用いたCHO細胞の一過性トランスフェクション後に作製された。プロテインA親和性クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって抗体を精製した。V1~V5には、上記のFLT3抗体の異なる変種および同一のCD3結合抗体(およそ10 nMのEC50でCD3に結合するUCHT1変種)が含まれている。V6~V9には、およそ1 nMのEC50でFLT3に結合する親4G8抗体および異なるUCHT1変種が含まれている。FLT3およびCD3への抗体結合を測定するために、NALM16 (FLT3+)およびJurkat (CD3+)細胞を各変種とともに30分間インキュベートし、洗浄し、ヤギ抗ヒトFcγ特異的およびPE結合二次抗体(Jackson Immuno Research)で染色し、再度洗浄し、フローサイトメトリー(FACSCalibur, BD Biosciences)によって分析した。
【0201】
結論:
図3および4に示されるように、変種5は、表面プラズモン共鳴(Biacore)およびフローサイトメトリーによりそれぞれ測定した場合、FLT3、次にV4に対して最も高い結合親和性を有する。
【0202】
実施例5: 異なるFLT3結合またはCD3結合ドメイン変種のAML患者の血液サンプルからの白血病細胞の枯渇
末梢血単核細胞(PBMC)を、急性白血病を有する患者から密度勾配遠心分離により得て、1μg/mlの表示のCC-2変種とともに5日間インキュベートし、FACSCanto-II (BD Biosciences)を用いてフローサイトメトリーにより分析した。CD33、CD34またはCD117に対する抗体を用いて白血病細胞を同定した。細胞数の較正のため、定義された量の相殺(compensation)ビーズ(BD Biosciences)をすべてのサンプルに添加した。2名の異なるドナーからの細胞を用いた3回(V4、V5、V6、V9)および2回(V3)の独立した実験からデータを得た。全ての値は、関連のない特異性を有する対照IgGsc抗体で得られたデータに関連していた。FLT3結合変種の結果を図5に示し、CD3結合変種の結果を図7に示す。
【0203】
結論:
抗白血病活性は、当初、二重特異性分子の両側の親和性値に従う。FLT3に対して非常に活性かつ親和性なのは、変種V5である。しかしながら、驚くべきことに、親和性の低い変種V4は、他の変種と同様に白血病細胞に対してかなり良好な細胞傷害性を有し、ある特定の用途に対しては抗FLT3抗体に対するより低い親和性範囲が選択されうるということを示唆している。CD3結合部分についても同様の結果が見られた。
【0204】
T細胞活性および芽細胞低減を、図8および9における異なる抗体濃度について分析した。患者MM2のPBMC調製物を得て、表示された濃度のCC-2変種とともにインキュベートした。5日後、T細胞活性化および白血病細胞の枯渇をフローサイトメトリーによって評価した(図8)。Nalm16細胞を2:1のE:T比で表示濃度のCC-2変種とともに3日間インキュベートし、次にフローサイトメトリーによって分析した(図9)。
【0205】
実施例6: インビボでの本発明のABPの抗白血病活性
本発明のCC-2変種のインビボ適用を試験するために、FLT3およびCD3結合の好ましい変種を、免疫不全マウスモデルでのその治療可能性について試験した(図10)。免疫不全NSGマウスに原発性AML(左)またはALL(右)細胞を移植した。7日目に、CC-2 (V4-V6)または対照抗体とともにPBMCを注射し、10日目にbsAb処置を繰り返した。17日目の時点で、骨髄における白血病負荷(比 hCD45+/mCD45+細胞)をフローサイトメトリーによって判定した。
【0206】
結論:
この実験は、V4のような親和性の低いCC2変種に対してさえも治療の可能性を実証するものである。
【0207】
本明細書において例示的に記述される本発明は、本明細書において具体的に開示されていない、任意の要素、制限がない状態で適当に実践されうる。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、広範かつ非限定的に読み取られなければならない。さらに、本明細書において利用される用語および表現は、限定ではなく記述の用語として用いられており、そのような用語および表現を用いることで、示され記述された特徴またはその一部分の任意の等価物を除外する意図はなく、主張される本発明の範囲内でさまざまな修正が可能であることを認識されたい。したがって、本発明を例示的な態様および任意の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書において開示され、そのなかで具体化された本発明の修正および変形は、当業者に依ることもあり、そのような修正および変形は、本発明の範囲内であると考えられるものと理解されるべきである。
【0208】
実施例7: 単一特異性IgG形式でのヒト化4G8変種
本発明の作製された抗体変種の優位性を試験するために、新しい可変ドメイン配列を単一特異性抗FLT3ヒトIgG形式にクローニングした。このため、各可変重鎖および軽鎖配列を単一特異性ヒトIgG形式にクローニングした。このため、抗体遺伝子をヒト細胞での発現のためにコドン最適化し、5'および3'末端のNheIおよびNot制限部位を用いてデザインした。遺伝子を合成し、次いで標準的な手順にしたがって哺乳動物発現ベクターにクローニングした。配列検証に続いて、Plasmid Plus精製キット(Qiagen)を用い、トランスフェクションに十分な量のプラスミドを調製した。
【0209】
HEK 293 (ヒト胎児腎臓293)哺乳動物細胞を、一過性トランスフェクションに最適な段階まで継代した。発現ベクターを細胞に一過性にトランスフェクトし、さらに細胞を6日間培養した。
【0210】
4000 rpmでの遠心分離により培養物を回収し、0.22 mmフィルタでろ過した。精製の第1段階は、400 mMイミダゾールを含むPBSを用いた溶出を伴うニッケル親和性クロマトグラフィーによって実施した。精製の第2段階は、PBS (リン酸緩衝生理食塩水) pH 7.2中での溶出を伴うサイズ排除クロマトグラフィーによって実施した。抗体濃度をUV分光法によって判定し、抗体を必要に応じて濃縮した。抗体の純度を、SDS-PAGE (ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)およびHPLC (高性能液体クロマトグラフィー)によって判定した。0.2 ml/分にてPBS中で実行されるMabPacサイズ排除カラムを用いAgilent 1100シリーズ機器にてHPLCを実施した。
【0211】
作製された4G8変種の優位性を解明するために、V4変種の重鎖および軽鎖可変ドメイン配列(それぞれSEQ ID NO: 21および22に示される可変ドメイン重鎖および軽鎖配列)を有する単一特異性IgGを、ADCCアッセイにおいて親(マウス) IgG V6 (それぞれSEQ ID NO: 4および8に示される可変ドメイン重鎖および軽鎖配列)ならびにFc対照と比較した。このため、既述(Schmiedel BJ et al. Int J Cancer 2011; 128: 2911-2922; Fujisaki H et al. Cancer Res 2009; 69: 4010-4017)のようにSt Jude's Children's Research Hospitalから入手したK562-41BBL-IL15フィーダー細胞との非プラスチック接着性PBMCのインキュベーションによってpNKCを作製した。既述(Baessler T et al. Cancer Res 2009: 69: 1037-1045)のようにBATDA-ユーロピウム殺傷を実施した。この結果を図11に示す。
【0212】
図11のデータは、表示されたエフェクター:標的比での1名のpNKCドナーの例示的な結果を示している。V6 FLT3単一特異性IgG抗体変種と比較してV4の優れた溶解速度を、この実験の設定で観察することができ、したがって親4G8抗体と比較して本発明の変種の改善された治療可能性を実証するものであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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