(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】電解箔及び電池用集電体
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20240528BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C25D1/04 321
C25D1/00 Z
H01M4/66 A
H01M4/64 A
(21)【出願番号】P 2021552299
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036826
(87)【国際公開番号】W WO2021075253
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019189800
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 道雄
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 悠真
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0074107(KR,A)
【文献】特開平01-104792(JP,A)
【文献】特開2004-079523(JP,A)
【文献】特開2017-047466(JP,A)
【文献】特表2018-506641(JP,A)
【文献】特開2009-246120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0345677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 1/00
H01M 4/66
H01M 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni-Fe合金からなる電解箔であって、
前記電解箔の厚みが1.5μm~10μmであり、
前記電解箔は第1面と第2面を有し、前記第1面と前記第2面において、三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した値が0.5以下であることを特徴とする、
電解箔。
【請求項2】
前記電解箔の厚みが2.0μm~8.0μmである、請求項1に記載の電解箔。
【請求項3】
引張強さが720MPaを超える、請求項
1又は2に記載の電解箔。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか一項に記載の電解箔よりなる、電池用集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池などの集電体に特に好適に使用される電解箔と、電池用集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来使用されているリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の電池の高容量化には、集電体の薄型化が有効である。しかしながら、集電体を薄型化すると強度が低下してしまい、集電体の変形や破損の懸念が生じてしまうという課題もある。
【0003】
これに対して、集電体として薄い電解箔を提供する技術が開示されている。
例えば特許文献1では、リチウム化合物の形成能の低い金属材料からなる電解箔の少なくとも一面に、ニッケル塩及びアンモニウム塩を含むめっき浴を用いた電解めっきを施すことで、電解箔表面に硬質ニッケルめっき層を形成する技術が提案されている。
【0004】
また、例えば特許文献2では、負極集電体として用いられる銅箔に残留応力が少ないニッケルめっきを施すことで、銅の硫化物の生成を抑えて且つ導電性に優れた負極集電体を提供するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-197205号公報
【文献】特開2016-9526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献に記載の技術では、集電体としてある程度の強度は向上するが、少なくとも下記の点において改善の余地は未だにあると言える。
すなわち、近年の電池性能への要求は一段と高くなっており、集電体自体にも薄型化すればその分だけ活物質量を増加できることから、この集電体の薄型化に伴う製造時および取扱い時の破れや千切れなどを抑制できるだけの強度を有することが望まれている。
さらに、例えば負極の集電体については、炭素に代替し得るシリコン系,スズ系負極材料など新たな活物質の特性に追従可能な高い強度を具備することが希求されてきている。
さらには、二次電池の集電体として使用した際に、充放電を繰り返してもシワの発生や破れ・千切れ等が抑制でき、さらには、集電体の表面に塗布する活物質の剥離が抑制できる材料が望まれている。
また、集電体以外の用途においても、例えば放熱材や電磁波シールド材の用途等においても、薄型化した高強度な電解箔が望まれている。
【0007】
しかしながら上記した特許文献1や特許文献2では、ニッケル皮膜を用いて複層化する技術思想を開示するに留まっており、電池組み立て時におけるハンドリング性(取り扱い性)や、二次電池における充放電繰り返しの際の強度を高いレベルで実現するための具体的な構造についてまでは開示がない。
【0008】
本発明は、かような課題を解決することを鑑みてなされたものであり、薄型化に伴って懸念される製造時の破れや千切れを抑制でき、さらには、二次電池における充放電の繰り返しの際の充分な強度を備えた電解箔、及び電池用集電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の電解箔は、(1)厚みが1.5μm~10μmであり、第1面と第2面を有し、前記第1面と前記第2面において、三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した値が0.5以下であることを特徴とする、Ni-Fe合金層を含有する電解箔である。
上記(1)の電解箔において、(2)前記厚みが2μm~8μmであることが好ましい。
また、上記(1)又は(2)の電解箔において、(3)前記Ni-Fe合金層とは異なる種類の金属種からなる少なくとも一層の金属層が前記Ni-Fe合金層に積層されてなることが好ましい。
上記(3)の電解箔において、(4)前記Ni-Fe合金層の厚みが2.0μm~9.9μmであることが好ましい。
上記(3)又は(4)の電解箔において、(5)前記金属層の合計厚みが0.1μm~8.0μmであることが好ましい。
上記(3)~(5)のいずれかにおける電解箔において、(6)電解箔中における前記Ni-Fe合金層の厚みの割合が18~95%であることが好ましい。
上記(1)~(6)のいずれかにおける電解箔において、(7)引張強さが720MPaを超えることが好ましい。
なお、本発明における電池用集電体は、(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の電解箔よりなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚みを薄くした場合でも取り扱い時の破れや千切れを抑制可能な電解箔を提供することが可能となる。また、二次電池の集電体として使用した際にも、充放電の繰り返しに耐えうる十分な強度を備えた電解箔及び、電池用集電体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の合金電解箔の断面を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の合金電解箔を用いて作製した試験片を示す模式図である。
【
図3】本実施形態の積層電解箔を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪合金電解箔10≫
以下、本発明の電解箔を実施するための実施形態について説明する。
図1は、本発明の電解箔の一実施形態に係る合金電解箔を模式的に示した図である。なお本実施形態の合金電解箔は、電池負極の集電体に適用されるほか、電池正極の集電体にも適用され得る。電池の種類としては二次電池であっても一次電池であってもよい。
【0013】
本実施形態の合金電解箔10は、
図1に示されるように、第1面10aと第2面10bを有する。本実施形態の合金電解箔10は、Ni-Fe合金からなる。すなわち、本発明の電解箔はNi-Fe合金層を含有することを特徴とするものであるが、本実施形態の合金電解箔10は、その全体がNi-Fe合金層ということができる。
さらに、本実施形態の合金電解箔10は電解めっきにより形成される。具体的には、既知のNi-Fe合金めっき浴を用いて合金電解箔10を形成することが可能である。
なお、本実施形態の合金電解箔10は第1面と第2面を有するが、合金電解箔10製造時において、電解箔を支持する支持体(基材)に接していた面(基材面)を第1面10aとし、他方の面(電解面)を第2面10bとして説明する。
【0014】
本実施形態において、合金電解箔10のNi-Fe合金におけるNiとFeの割合(重量%)としては、Ni:Feが95:5~40:60であることが好ましい。この場合特に、合金電解箔10全体の強度を向上させるためには、Ni:Feが95:5~40:60であることが好ましく、Ni:Feが90:10~70:30であることがさらに好ましい。
一方でコストを重視する場合には、Ni:Feが80:20~50:50であることが好ましく、Ni:Feが70:30~53:47であることがさらに好ましい。
【0015】
本実施形態においては、光沢剤を添加しないNi-Fe合金めっき層(便宜的に「無光沢Ni-Fe合金めっき層」とも称する)であってもよいし、光沢剤(半光沢用の光沢剤も含む)を添加する光沢Ni-Fe合金めっき層であってもよい。
なお、上記した「光沢」又は「無光沢」は、目視外観上の評価に依拠しており厳密な数値での区分けは困難である。さらには後述する浴温などの他のパラメータに依っても光沢度合いが変化し得る。したがって、本実施形態で用いる「光沢」「無光沢」は、あくまでも光沢剤の有無に着目した場合の定義付けである。
【0016】
本実施形態の合金電解箔10は、第1面10aと第2面10bを有し、第1面10aと第2面10bの両面において、三次元表面性状パラメータSvを合金電解箔10の厚みで除した値が0.5以下であることを特徴とする。その理由としては以下のとおりである。
【0017】
すなわち、本実施形態の合金電解箔10は、二次電池の高容量化に伴って、集電体に使用する電解箔の薄型化の要請があるところ、これらの需要を満たすべく電解めっきにより高強度の合金箔を製造するものである。
【0018】
本発明者らは、薄型化に伴って懸念される製造時および取扱い時(電池組立時も含む)の破れや千切れを抑制でき、さらには、二次電池における充放電の繰り返しの際に体積変化の大きい活物質を使用した場合においても、シワや破れが抑制可能な電解箔を製造するため、鋭意検討を繰り返した。
その結果、高強度の電解箔としてNi-Fe合金電解箔を使用した場合、表面形状をコントロールすることにより、上記効果が得られることを見出し、本発明に想到したものである。
【0019】
本実施形態のNi-Fe合金電解箔の表面形状を表すパラメータとしては、具体的には、ISO 25178-2:2012に規定される面粗さのうち「最大谷深さ」(三次元表面性状パラメータSv)を適用するものとする。
すなわち、金属箔の引張強さは、理論的には厚さの影響を受けない値である。しかしながら実際上は、Ni-Fe合金電解箔において厚さを薄くした場合(具体的には10μm以下)には、引張強さは理論値よりも極端に低下する場合があることが本発明者らの研究により見出された。この理由のひとつとして、金属箔表面の凹凸等の影響を受けやすくなるためと本発明者らは考えた。
【0020】
特に、顕著に深い凹部や谷部の発生により、Ni-Fe合金電解箔の本来の引張強度を得ることができなくなる可能性があることを発見した。これは、Ni-Fe合金の場合、電解箔の厚さ方向において、
図1(b)に示されるように第1面10aと第2面10bとの距離tが特に短くなる箇所を有する場合には、当該箇所に応力が集中することにより発生する割れが、硬度の高いNi-Feでは、当該箇所を起点とした合金層全体に伝播する割れとなってしまうものと推測される。その結果、他の金属種に比べて破れや千切れが生じやすくなり、本来の強度より低い強度しか得られないと考えられる。また、この現象は特に8.0μm以下の電解箔で起こりやすいことも併せて発見した。なお、Niにおいては、厚さを薄くした場合においても、特に強度が変わらないことを確認した。
【0021】
上記推測に基づいて検討を繰り返した結果、本実施形態のNi-Fe合金電解箔の表面において、Sv(最大谷深さ)を電解箔の厚さとの関係において所定の値とすることにより、従来にはない高い引張強度を有する合金電解箔を得ることができるに至ったものである。
【0022】
上記趣旨に基づく本実施形態の合金電解箔10は、その表面(第1面10a及び第2面10b)における「Sv(最大谷深さ)[μm]/合金電解箔10の厚み[μm]」の値が、0.5以下であることを特徴とする。
Sv(最大谷深さ)/合金電解箔10の厚みの値が、0.5を超える場合には、合金電解箔の引張強度において必要とされる値を得ることができない可能性があり、好ましくない。より強度を安定させる(本来の強度を維持しやすい)という視点で、0.48以下が好ましく、より好ましくは0.46以下である。
【0023】
なお、本実施形態の合金電解箔10における三次元表面性状パラメータSvは、公知の非接触式の三次元表面粗さ測定装置等により求めることができる。
なお本実施形態の合金電解箔10において、第1面10a及び第2面10bにおけるSku(高さ分布のヒストグラムのとがり具合)、Sv[μm](最大谷深さ)、Sz[μm](最大高さ)、Sa[μm](算術平均高さ)、の各値は、以下の値を有することが好ましい。
Sku・・・7.2未満、より好ましくは6.0以下
Sv ・・・2.2未満、より好ましくは2.0以下
Sz ・・・4.7未満、より好ましくは4.0以下
Sa ・・・0.3未満、より好ましくは0.25以下
なお、本実施形態の合金電解箔10における三次元表面性状パラメータSku、Sv、Sz、Saを上記した値の範囲内に制御するためには、後述するようにめっき条件を制御する方法や、支持体の表面を研磨する方法、得られた合金電解箔の表面をエッチング処理や電解研磨などによって平滑化する方法等を挙げることが可能である。
【0024】
次に、本実施形態における合金電解箔10の厚みについて説明する。
本実施形態における合金電解箔10の厚みは、厚みが1.5μm~10μmであることを特徴する。2.0μm~8.0μmの厚みを有することがさらに好ましく、2.5μm~6.0μmであることが特に好ましい。10μmを超える厚みでは、そもそも薄型化による高容量化を目指す背景から設計思想に合わず、さらには公知の圧延箔等に対してコスト的なメリットが減退してしまう。一方で1.5μm未満の厚みでは、充放電に伴う影響に対して充分な強度を有することが困難となるばかりでなく、電池の製造時や取扱い時等に破れや千切れ・シワ等が発生する可能性が高くなってしまうからである。
【0025】
なお、本実施形態における「合金電解箔10の厚み」とは、重量法による厚み測定が好適である。またはマイクロメーターでの厚み測定も適用可能である。ただし、合金電解箔のSzが4.0μmを超える場合は、表面の凹凸の影響を受けてマイクロメーターでの厚みが異なる値となる可能性が高いため、重量法が望ましい。
なお、後述する積層電解箔AにおいてNi層を積層する場合には、重量法では密度と膜厚の特定が困難なため、マイクロメーターでの厚み測定が好ましい。
【0026】
なお本実施形態のNi-Fe合金電解箔10中の引張強さとしては、720MPaを超える値であることが好ましい。Ni-Fe合金電解箔10の引張強さが720MPa以下である場合、電池製造時の箔の千切れや破れなどが発生する可能性があり、ハンドリング性(取り扱い性)が低下するため好ましくない。また、二次電池の集電体に適用した際に、充放電の繰り返しによる体積膨張に追従できず破れを発生する可能性があるため好ましくない。
本実施形態においては、合金電解箔10の厚さが4μm以下であっても1000MPa以上の引張強さを達成できる。
【0027】
なお本実施形態において合金電解箔の引張強さは、例えば以下のように測定を行うことが可能である。株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断器(型式:SDL-200)により、JIS K6251に準じたカッター(型式:SDK-400)を用いて
図2に示すJIS K6251のダンベル4号形の金属片の打ち抜きを行う。そしてこの試験片で、金属試験片のJIS規格であるJIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行うことが可能である。
【0028】
なお、本実施形態のNi-Fe合金電解箔10中の結晶粒の大きさ(結晶粒径)としては、上述した「Sv(最大谷深さ)[μm]/合金電解箔10の厚み[μm]」の値が0.5以下となる限りにおいて特に制限はないが、例えば0.01μm~1μmであることが好ましい。なお、結晶粒径は断面観察による切断法やEBSDの結晶方位解析を用いて求めることが可能である。
【0029】
なお、本実施形態のNi-Fe合金電解箔10が製造される際には、チタン板或いはステンレス板等からなる支持体上に、Ni-Fe合金めっきが形成された後、上記支持体からめっき層を公知の方法により剥離することによりNi-Fe合金電解箔10が得られる。
なお支持体の具体的な材質としては、上記したチタン板或いはステンレス板に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない限度において他の公知の金属材を適用できる。
【0030】
Ni-Fe合金めっき浴としては、以下のような条件を挙げることができる。
[Ni-Fe合金めっき条件]
・浴組成
硫酸ニッケル六水和物:150~250g/L
硫酸鉄七水和物:5~100g/L
塩化ニッケル六水和物:20~50g/L
ホウ酸:20~50g/L
クエン酸ナトリウム(またはクエン酸三ナトリウム)1~15g/L
サッカリンナトリウム:1~10g/L
・温度:25~70℃
・pH:2~4
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:5~40A/dm2
【0031】
なお、上記の浴の温度に関して、25℃未満の場合には箔の粗度が著しく高くなるため好ましくない。また、層の析出ができない可能性があるため好ましくない。一方で70℃を超えた場合においても、箔の粗度が高くなってしまうため好ましくない。また、得られる層の引張強度が確保できないため好ましくない。
pHが2未満の場合は、箔の粗度が著しく高くなるため好ましくない。また、めっきの析出効率が下がるため好ましくない。一方でpHが4を超えると箔の粗度が高くなってしまうため好ましくない。また、得られる層にスラッジを巻き込む可能性があるため好ましくない。
電流密度に関しては、5A/dm2未満の場合には、箔の粗度が高くなってしまうため好ましくない。また、生産効率が低下するおそれがあり好ましくない。40A/dm2を超えた場合には、めっきやけが生じるおそれがあるため好ましくない。
また、ピット防止剤を適量添加してもよい。
【0032】
本実施形態のNi-Fe合金電解箔10の製造方法としては、概ね以下のような工程を挙げることができる。
まず、めっき層が形成される支持体に研磨、清拭、水洗、脱脂、酸洗等の前処理を施した後、支持体を上記に例示しためっき浴に浸漬して、支持体上にNi-Fe合金めっき層を形成させる。形成されためっき層を乾燥させた後剥離してNi-Fe合金電解箔10を得る。
【0033】
上記工程において、支持体に施す前処理のうちの研磨について説明する。本実施形態のNi-Fe合金電解箔10を製造する際、めっき層を形成する支持体の表面形状は、めっき層に概ね転写されて合金電解箔10の一方の面(基材面)となる。また、合金電解箔10の面(電解面)の形状も、合金電解箔10の厚みが薄ければ薄いほど、支持体の表面形状が反映される可能性が高い。
【0034】
したがって、Ni-Fe合金電解箔10の三次元表面性状パラメータSvの値を上述した範囲とするためには、支持体の表面形状を制御することが好ましく、例えば表面粗度Saを制御することが好ましい。具体的には、支持体の表面粗度Saが0.14μm以下であることが好ましい。
【0035】
支持体の表面粗度Saを上記値とするためには、例えば、公知の手段を用いて支持体表面を研磨することにより達成可能である。ここで研磨方向は特に制限があるものではなく、支持体の巾方向又は長手方向等の特定の方向に研磨してもよいし、ランダムに研磨してもよい。
【0036】
支持体からのNi-Fe合金電解箔10の剥離前、または剥離後において、Ni-Fe合金電解箔10の最表層表面に、本発明の請求の範囲で規定する範囲内における粗化処理や防錆処理などを施してもよい。あるいは、カーボンコートなどの導電性付与のための公知の処理を施してもよい。
【0037】
なお本実施形態においては、Ni-Fe合金電解箔10の表面粗度(三次元表面性状)を制御する方法として、上述のようにめっき条件を制御する方法や支持体表面を研磨する方法を挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、Ni-Fe合金電解箔10そのものの表面をエッチング処理や電解研磨などによって平滑化する方法により、所望の三次元表面性状を得ることも可能である。
【0038】
なお、本実施形態では、支持体を用いて連続製造する方式(たとえばドラム式やロールtoロール方式)でNi-Fe合金を実施する例について説明したが、本発明はこの態様に限られず、例えば切り板を用いたバッチ式での製造も可能である。
【0039】
また本実施形態の合金電解箔は、上述のような構成を備えているため、以下のような効果を奏するものである。すなわち金属箔を集電体として製造する工程中において、乾燥温度が200℃以上(400℃以下)に到達する場合がある。本実施形態におけるNi-Fe合金電解箔は上記加熱温度帯においても一定の強度を維持するため、製造時および取扱い時(電池組立時や集電体として使用する際)の加熱における強度低下を抑制できる。
【0040】
≪積層電解箔A≫
次に本発明の他の実施形態として、積層電解箔Aについて説明する。
本実施形態における積層電解箔Aは
図3に示すように、Ni-Fe合金電解層10’と、前記Ni-Fe合金電解層10’とは異なる種類の金属種からなる少なくとも一層の金属層20を有する。すなわち本実施形態においては、Ni-Fe合金電解層10’のいずれか又は両面上に金属層20が積層されることが好ましい。金属層20の種類としては、Cu,Ni,Co,Fe等などが挙げられる。
これらの金属はリチウムイオン二次電池の負極の作動電位にてLiと反応しない金属であるため、リチウムイオン二次電池集電体用電解箔として好適に用いることができる。
【0041】
金属層20としてCuを用いた場合のメリットとして、Cuが既存のリチウムイオン二次電池材料として広く使用されており、リチウムイオン二次電池負極集電体材としての信頼性が高いことや、Cuの電気導電性が良いこと等が挙げられる。
また、金属層20としてNiを用いた場合のメリットとして、Niが耐硫性や強度に優れていること等が挙げられる。
【0042】
さらに積層電解箔Aは
図3に示すように、第1面10c及び第2面10dを有する。そして、第1面10cと第2面10dの両面において、三次元表面性状パラメータSvを積層電解箔Aの厚みで除した値が0.5以下であることを特徴とする。
【0043】
すなわち、本実施形態の積層電解箔Aは、Ni-Fe合金電解層10’と、Ni-Fe合金電解層10’とは異なる種類の金属種からなる金属層20とを含むものである。これらの金属種により、積層電解箔全体としての導電性、耐硫性、強度等を調整することができ、所望の性質を有するリチウムイオン二次電池負極集電体材としての積層電解箔を製造することが可能となる。
【0044】
本実施形態において積層電解箔A全体の厚みとしては、10μm以下であることを特徴とする。積層電解箔Aが10μmを超える厚みである場合、合金電解箔の場合と同様、薄型化による高容量化を目指す背景から設計思想に合わず、さらには公知の圧延箔等に対してコスト的なメリットが減退してしまう。なお、積層電解箔A全体の厚みの下限としては特に制限するものではないが、電池製造時の破れやシワの発生抑制の観点からは2μm以上であることがより好ましい。
なお、積層電解箔A中における金属層20は、
図3(a)に示されるようにNi-Fe合金電解層10’の両側に形成されていてもよいし、
図3(b)に示されるように片側だけに形成されていてもよい。また、金属層20の厚みについて、Ni-Fe合金電解層10’の両側において均等の厚みであってもよいし、厚みに差があってもよい。
積層電解箔A中における金属層20の厚みとしては、そのトータルの厚みとして、0.1μm~8.0μmであることが好ましい。一方で積層電解箔A中におけるNi-Fe合金電解層10’の厚みとしては、2.0μm~9.9μmであることが好ましい。
また、積層電解箔A中におけるNi-Fe合金電解層10’の厚みの割合としては、18~95%であることが好ましく、35~90%であることがより好ましい。特に、積層電解箔A全体の厚みが8.0μm以下の場合においては、Ni-Fe合金電解層10’の厚みの割合が40%以上であることが好ましく、さらに48%以上であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態において、「積層電解箔Aの厚み」とは、上記した「合金電解箔10の厚み」と同様、重量法による厚み測定が好適である。またはマイクロメーターでの厚み測定も適用可能である。ただし、金属層20としてNi層を積層する場合には、重量法では密度と膜厚の特定が困難なため、マイクロメーターでの厚み測定が好ましい。
【0046】
金属層20は、Ni-Fe合金電解層10’の第1面10c上に形成される金属種と第2面10d上に形成される金属種が同じ金属であっても異なる金属であってもよい。
【0047】
積層電解箔Aが製造される際には、チタン板或いはステンレス板等からなる支持体上に、順に、金属層20、Ni-Fe合金電解層10’、金属層20とめっきにて積層された後、上記支持体からめっき層(積層電解箔A)全体を剥離することにより積層電解箔Aが得られる。あるいは支持体上に、順に、金属層20及びNi-Fe合金電解層10’がめっきにて積層された後、上記支持体からめっき層(積層電解箔A)全体を剥離することにより積層電解箔Aを得てもよい。又は、支持体上に順に、Ni-Fe合金電解層10’及び金属層20がめっきにて積層された後、上記支持体からめっき層(積層電解箔A)全体を剥離することにより積層電解箔Aを得てもよい。
【0048】
なお、積層電解箔Aは3層構造に限られるものではなく、Ni-Fe合金電解層10’が含まれる限り、例えば4層構造や5層構造であってもよいし、それ以上の層数を有する積層電解箔であってもよい。
しかしながらコスト面や生産容易性の観点を鑑みると、「Cu/Ni-Fe合金/Cu」や「Ni/Ni-Fe合金/Ni」等の構成を有する積層電解箔とすることが好適である。
【0049】
なお、本実施形態の積層電解箔Aにおける三次元表面性状パラメータSvは、公知の非接触式の三次元表面粗さ測定装置等により求めることができる。
なお本実施形態の積層電解箔Aにおいて、第1面10c及び第2面10dにおけるSku(高さ分布のヒストグラムのとがり具合)、Sv[μm](最大谷深さ)、Sz[μm](最大高さ)、Sa[μm](算術平均高さ)、の各値は、以下の値を有することが好ましい。
Sku・・・7.2未満、より好ましくは6.0以下
Sv ・・・2.2未満、より好ましくは2.0以下
Sz ・・・4.7未満、より好ましくは4.0以下
Sa ・・・0.3未満、より好ましくは0.25以下
なお、本実施形態の積層電解箔Aにおける三次元表面性状パラメータSku、Sv、Sz、Saを上記した値の範囲内に制御するためには、後述するようにめっき条件を制御する方法や、支持体の表面を研磨する方法、得られた合金電解箔の表面をエッチング処理や電解研磨などによって平滑化する方法等を挙げることが可能である。
【0050】
次に本実施形態の積層電解箔Aの製造方法としては、たとえは以下のような方法を挙げることができる。
まず、めっき層が形成される支持体に研磨、清拭、水洗、脱脂、酸洗等の前処理を施した後、支持体をめっき浴に浸漬して、支持体上に金属層20を形成するためのめっき層を形成させる。次いで、その上にNi-Fe合金電解層10’を形成させるためのめっき浴、さらに金属層20を形成するためのめっき浴、に順に浸漬する。形成されためっき層を乾燥させた後、上記支持体からめっき層全体を公知の方法により剥離することにより、積層電解箔Aを得ることができる。
なお、支持体の表面粗度Saについては、上述のNi-Fe合金電解層10’の製造に際する際と同様、表面粗度Saが0.14μm以下であることが好ましい。
【0051】
また、支持体からの積層電解箔Aの剥離前、または剥離後において、三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した値が0.5以下である限りにおいて、積層電解箔Aの最表層表面に、本発明の請求の範囲で規定する範囲内における粗化処理や防錆処理などを施してもよい。あるいは、カーボンコートなどの導電性付与のための公知の処理を施してもよい。
なお本実施形態の積層電解箔Aの表面粗度(三次元表面性状)を制御する方法として、上述の合金電解箔と同様に、めっき条件を制御する方法や支持体表面を研磨する方法を採用することも可能であるし、積層電解箔Aそのものの表面をエッチング処理や電解研磨などによって平滑化する方法により、所望の三次元表面性状を得ることも可能である。
【0052】
金属層20を無光沢Cuめっき層とする場合、めっき条件の例を次に示す。
[無光沢Cuめっき条件]
・浴組成:硫酸銅を主成分とする公知の硫酸銅浴(下記に一例を記載)
硫酸銅五水和物:150~250g/L
硫酸:30~60g/L
塩酸(35%として):0.1~0.5ml/L
・温度:25~70℃
・pH:1以下
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:1~30A/dm2
【0053】
なお、上記の浴温度と電流密度との好ましい関係は以下のとおりである。
まず、浴温が25℃以上70℃以下の場合は、電流密度は1A/dm2以上であることが好ましい。この場合、電流密度が1A/dm2未満では、得られるCuの層において、析出面の表面粗度が高くなったり、十分な引張強度が得られにくいという問題がある。
【0054】
浴温が25℃以下の場合、電流密度は5~40A/dm2と適正範囲内であったとしても、めっきの析出効率が下がったり、得られるCuの層において十分な引張強度が得られにくいという問題があるため好ましくない。
一方で浴温が70℃を超える場合、電流密度は5~40A/dm2と適正範囲内であったとしても、得られるCuの層において析出面の表面粗度が高くなったり、十分な引張強度が得られにくいという問題があるため好ましくない。
【0055】
なお、pHが1を超える場合は、得られるCuの層において析出面の表面粗度が高くなったり、十分な引張強度が得られにくいという問題があるため好ましくない。
【0056】
なお、上記の無光沢Cuめっき浴に、光沢剤を1~20ml/L添加した場合、光沢Cuめっき浴とすることができる。光沢Cuめっきにおける光沢剤としては、公知の光沢剤が使用され、特に制限されるものではない。例えば、サッカリン、ナフタレンスルフォン酸ナトリウムなどの有機硫黄化合物や、ポリオキシ-エチレン付加物等の脂肪族不飽和アルコール、不飽和カルボン酸、ホルムアルデヒド、クマリンなどが挙げられる。
【0057】
また、金属層20を無光沢Niめっき層とする場合、めっき条件の例を次に示す。無光沢Niめっきの条件は次に示す公知のワット浴又はスルファミン酸浴を使用することができる。
【0058】
[無光沢Niめっき(ワット浴)条件]
・浴組成:公知のワット浴(下記に一例を記載)
硫酸ニッケル六水和物:200~350g/L
塩化ニッケル六水和物:20~50g/L
ホウ酸(又はクエン酸):20~50g/L
・温度:25~70℃(好ましくは30~40℃)
・pH:3~5
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:1~40A/dm2(好ましくは8~20A/dm2)
【0059】
なお、上記の浴温度と電流密度との好ましい関係は以下のとおりである。
まず、浴温が25℃以上45℃以下の場合は、電流密度は5~20A/dm2であることが、Ni層としての引張強度を高くすることができるため好ましい。この場合、電流密度が20A/dm2を超えるとNiめっきの皮膜が形成されないという問題が生じる。一方で、電流密度が5A/dm2未満では、得られるNiの層において、析出面の表面粗度が高くなることにより箔切れを起こす可能性が高くなったり、十分な強度が得られにくいという問題がある。
【0060】
浴温が45℃を超えて70℃以下の場合、電流密度は3~10A/dm2であることがNi層としての引張強度を高くすることができるため好ましく、3~6A/dm2であることが上記と同様の理由によりさらに好ましい。電流密度が3A/dm2未満であると、得られるNiの層において、析出面の表面粗度が高くなることにより箔切れを起こす可能性が高くなったり、生産性が極端に低下するため好ましくない。一方で、電流密度が10A/dm2を超えると形成されるNi層の強度が得られにくい可能性がある。
【0061】
また、pHが3未満の場合は、めっきの析出効率が下がるため好ましくない。一方でpHが5を超えると得られる層にスラッジを巻き込む可能性があるため好ましくない。
【0062】
なお、上記の無光沢Niめっき浴に、光沢剤を0.1~20ml/L添加した場合、光沢Niめっき浴とすることができる。光沢Niめっきにおける光沢剤としては、公知の光沢剤が使用され、特に制限されるものではない。例えば、サッカリン、ナフタレンスルフォン酸ナトリウムなどの有機硫黄化合物や、ポリオキシ-エチレン付加物等の脂肪族不飽和アルコール、不飽和カルボン酸、ホルムアルデヒド、クマリンなどが挙げられる。また、無光沢Niめっき浴または光沢剤を添加した浴に対し、ピット防止剤を適量添加してもよい。
光沢Niめっきとした場合には特に、めっき条件として、浴温30~60℃、電流密度5~40A/dm2であることが好ましい。その理由としては、上記の無光沢Niめっき浴の場合と同じである。
【0063】
[無光沢Niめっき(スルファミン酸浴)条件]
・浴組成:公知のスルファミン酸ニッケルめっき浴(下記に一例を記載)
スルファミン酸ニッケル:150~300g/L
塩化ニッケル六水和物:1~10g/L
ホウ酸:5~40g/L
・温度:25~70℃
・pH:3~5
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:5~30A/dm2
また、上記した公知の光沢剤などをめっき浴に添加して光沢Niめっき又は半光沢Niめっきとしてもよい。また、ピット防止剤を適量添加してもよい。
【0064】
なお、本実施形態では、支持体を用いて連続製造する方式(たとえばドラム式やロールtoロール方式)で積層電解箔Aを製造する例について説明したが、本発明はこの態様に限られず、例えば切り板を用いたバッチ式での製造も可能である。また、本実施形態の積層電解箔AにおけるNi-Fe合金電解層10’の製造方法は、上述したNi-Fe合金電解箔10と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0065】
≪実施例≫
以下に、実施例を挙げて本発明について、より具体的に説明する。なお、実施例中において記載する厚みは狙い値であって、厚み(総厚)の実測値は表中に表示した。
まず、実施例における測定方法について記載する。
【0066】
[引張強さの測定]
得られた合金電解箔又は積層電解箔において、以下のように引張強さの測定を行った。まず、株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断器(型式:SDL-200)により、JIS K6251-4に準じたカッター(型式:SDK-400)を用いて金属片の打ち抜きを行った。次に、この試験片で、金属試験片のJIS規格であるJIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行った。試験片の模式図を
図2に示す。
なお引張試験の装置としては引張試験機(ORIENTEC製 万能材料試験機 テンシロンRTC-1350A)を用いた引張試験により、機械的強度(引張強さ)を測定した。また測定条件としては、室温で、引張速度10mm/minの条件で行った。
【0067】
[厚さの測定]
得られた合金電解箔又は積層電解箔において、実施例1~17及び比較例は重量法により厚みの測定を行い、実施例18~25はマイクロメーターにより厚みの測定を行った。
重量法による厚みの測定方法は以下のとおりである。得られた合金電解箔をφ49mmとなるように打抜いた。次に打抜いた合金電解箔を、島津製作所社製ICP発光分光分析装置ICPE-9000を用いて定量することで,単位面積当たりの各種金属の重量を測定し、各々の金属の密度と比較することで膜厚を算出した。
なお、積層電解箔における層構成は断面画像により確認を行った。
【0068】
[表面形状の測定]
得られた合金電解箔又は積層電解箔において、支持体に接していた面(基材面)を10a、他方の面(電解面)を10bとし、それぞれの面の表面形状を測定した。具体的には、オリンパス社製レーザー顕微鏡OLS5000を用いて、Sku(高さ分布のヒストグラムのとがり具合)、Sv[μm](最大谷深さ)、Sz[μm](最大高さ)、Sa[μm](算術平均高さ)、の各値を計測した。その上で、Sv[μm]/総厚[μm]を算出した結果を表2に示す。
【0069】
<実施例1>
支持体上に、Ni-Fe合金めっきを形成した。具体的には、まず、合金電解箔がその上面に形成される支持体としてTi材を用い、当該Ti材の表面に対して研磨を行い、Ti材の表面粗度Saを表1の値となるようにした。研磨の方向は、Ti材の長手方向(連続製造の際の進行方向、縦方向)に概ね平行に行った。このTi材に対して7wt%硫酸を用いて酸洗及び水洗などの公知の前処理を施した。次いで前処理したTi材を以下に示すNi-Fe合金めっき浴に含浸・電析し、電解箔として厚さ2.0μmのNi-Fe合金電解めっき層をTi材上に形成した。
【0070】
[Ni-Fe合金めっき条件]
・浴組成
硫酸ニッケル六水和物:230g/L
硫酸鉄七水和物:20g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
クエン酸三ナトリウム:10g/L
サッカリンナトリウム:5g/L
ピット防止剤:1ml/L
・温度:60℃
・pH:2.5
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:30A/dm2
なお、Ni-Fe合金めっき中のNi割合は、86.9wt%で、Fe割合は13.1wt%あった。このFe割合を求めるためのNi量およびFe量の測定は、実施例1のNi-Fe合金層を溶解させてICP発光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により行った。
なお、上記割合について、表1における表記は便宜上「86.9NiFe」とする。以下の実施例においても同様とする。
【0071】
次いで、上記のように形成しためっき層を充分に乾燥させた後に、Ti材からこのめっき層を剥離して合金電解箔を得た。
【0072】
<実施例2>
Ni-Fe合金めっき条件を以下のとおりにした以外は、実施例1と同様に行った。
[Ni-Fe合金めっき条件]
・浴組成
硫酸ニッケル六水和物:200g/L
硫酸鉄七水和物:50g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
クエン酸三ナトリウム:10g/L
サッカリンナトリウム:5g/L
ピット防止剤:1ml/L
・温度:60℃
・pH:2.5
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:10A/dm2
なお、Ni-Fe合金めっき中のNi割合は、60.8wt%で、Fe割合は39.2wt%あった。このFe割合を求めるためのNi量およびFe量の測定は、実施例2のNi-Fe合金層を溶解させてICP発光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により行った。
なお、上記割合について、表1における表記は便宜上「60.8NiFe」とする。以下の実施例においても同様とする。
【0073】
<実施例3>
合金電解箔の厚さを4μmとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
<実施例4>
合金電解箔の厚さを4μmとした以外は、実施例2と同様に行った。
【0075】
<実施例5>
合金電解箔がその上面に形成される支持体としてのTi材の表面粗度Saの値を表1のとおりとした以外は、実施例3と同様に行った。
【0076】
<実施例6>
合金電解箔がその上面に形成される支持体をSUS316L材の表面粗度Saの値を表1のとおりとした以外は、実施例3と同様に行った。
【0077】
<実施例7>
合金電解箔がその上面に形成される支持体としてのSUS316L材の表面粗度Saの値を表1のとおりとし、当該SUS316L材の表面の研磨の方向を横方向とした以外は、実施例6と同様に行った。
【0078】
<実施例8>
合金電解箔の厚さを10μmとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
<実施例9>
合金電解箔の厚さを10μmとした以外は、実施例2と同様に行った。
【0080】
<実施例10>
支持体上に順に無光沢Cuめっき層、Ni-Fe合金めっき層、無光沢Cuめっき層、の3層のめっき層を形成し、積層電解箔を作成した。
具体的にはまず、実施例と同様にして準備した支持体としてのTi材を以下に示す無光沢Cuめっき浴に含浸し、電解箔として厚さ1μmの無光沢Cuめっき層をTi材上に形成した。
【0081】
[無光沢Cuめっき条件]
・浴組成:硫酸銅200g/Lを主成分とする硫酸銅めっき浴
硫酸銅五水和物:200g/L
硫酸:45g/L
・温度:35℃
・pH:1以下
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:10A/dm2
【0082】
次いで、無光沢Cuめっき層が形成されたTi材を、実施例1と同様の以下に示すNi-Fe合金めっき浴に含浸させることで、無光沢Cuめっき層上に厚さ2μmのNi-Fe合金めっき層を形成した。
【0083】
次いで、無光沢Cuめっき層及びNi-Fe合金めっき層が形成されたTi材をさらに無光沢Cuめっき浴に含浸した。そして、3層目の金属層として厚さ1μmの無光沢Cuめっき層を形成した。
次いで、上記のように形成した三層のめっき層を充分に乾燥させた後に、Ti材からこのめっき層を剥離して積層金属箔を得た。
【0084】
<実施例11>
Ni-Fe合金めっき条件を実施例2と同様にした以外は、実施例10と同様に行った。
【0085】
<実施例12>
Ni-Fe合金めっき層の厚さを8μmとした以外は、実施例10と同様に行った。
【0086】
<実施例13>
無光沢Cuめっき層の厚さを3μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを4μmとした以外は、実施例10と同様に行った。
【0087】
<実施例14>
無光沢Cuめっき層の厚さを4μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを2μmとした以外は、実施例10と同様に行った。
【0088】
<実施例15>
Ni-Fe合金めっき層の厚さを8μmとした以外は、実施例11と同様に行った。
【0089】
<実施例16>
無光沢Cuめっき層の厚さを3μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを4μmとした以外は、実施例11と同様に行った。
【0090】
<実施例17>
無光沢Cuめっき層の厚さを4μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを2μmとした以外は、実施例11と同様に行った。
【0091】
<実施例18>
支持体上に順に無光沢Niめっき層、Ni-Fe合金めっき層、無光沢Niめっき層、の3層のめっき層を形成し、積層電解箔を作成した。
具体的にはまず、実施例1と同様にして準備した支持体としてのTi材を以下に示す無光沢Niめっき浴に含浸し、電解箔として厚さ1μmの無光沢Niめっき層をTi材上に形成した。
【0092】
[無光沢Niめっき条件]
・浴組成:ワット浴
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
ピット防止剤:1ml/L
・温度:60℃
・pH:4.5
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:10A/dm2
【0093】
次いで、無光沢Niめっき層が形成されたTi材を、実施例1と同様の以下に示すNi-Fe合金めっき浴に含浸させることで、無光沢Niめっき層上に厚さ2μmのNi-Fe合金めっき層を形成した。
【0094】
次いで、無光沢Niめっき層及びNi-Fe合金めっき層が形成されたTi材をさらに無光沢Niめっき浴に含浸した。そして、3層目の金属層として厚さ1μmの無光沢Niめっき層を形成した。
次いで、上記のように形成した三層のめっき層を充分に乾燥させた後に、Ti材からこのめっき層を剥離して積層金属箔を得た。
【0095】
<実施例19>
Ni-Fe合金めっき条件を実施例2と同様にした以外は、実施例18と同様に行った。
【0096】
<実施例20>
Ni-Fe合金めっき層の厚さを8μmとした以外は、実施例18と同様に行った。
【0097】
<実施例21>
無光沢Niめっき層の厚さを3μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを4μmとした以外は、実施例18と同様に行った。
【0098】
<実施例22>
無光沢Niめっき層の厚さを4μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを2μmとした以外は、実施例18と同様に行った。
【0099】
<実施例23>
Ni-Fe合金めっき層の厚さを8μmとした以外は、実施例19と同様に行った。
【0100】
<実施例24>
無光沢Niめっき層の厚さを3μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを4μmとした以外は、実施例19と同様に行った。
【0101】
<実施例25>
無光沢Niめっき層の厚さを4μmとし、Ni-Fe合金めっき層の厚さを2μmとした以外は、実施例19と同様に行った。
【0102】
<実施例26>
実施例9と同様の条件により得た合金電解箔に対して、表1Aに示される焼鈍条件(温度及び時間)による熱処理を行い、合金電解箔の焼鈍材を得た。
【0103】
<実施例27>
実施例9と同様の条件により得た合金電解箔に対して、表1Aに示される焼鈍条件(温度及び時間)による熱処理を行い、合金電解箔の焼鈍材を得た。
【0104】
<実施例28>
Ni-Fe合金めっきにおける電流密度を5A/dm2とした以外は、実施例9と同様に行った。
【0105】
<実施例29>
Ni-Fe合金めっきにおける電流密度を20A/dm2とした以外は、実施例9と同様に行った。
【0106】
<実施例30>
Ni-Fe合金めっきにおける電流密度を30A/dm2とした以外は、実施例9と同様に行った。
【0107】
<比較例1>
合金電解箔がその上面に形成される支持体としてのTi材の表面粗度Saの値を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0108】
<比較例2>
実施例1と同様にして準備した支持体としてのTi材を、実施例19と同様の無光沢Niめっき浴に含浸し、電解箔として厚さ4μmの無光沢Niめっき層をTi材上に形成した。形成した無光沢Niめっき層を充分に乾燥させた後に、Ti材からこのめっき層を剥離して電解金属箔を得た。
【0109】
<比較例3>
無光沢Niめっき層の厚さを10μmとした以外は、比較例2と同様に行った。
【0110】
<比較例4>
実施例1と同様にして準備した支持体としてのTi材を、実施例11と同様の無光沢Cuめっき浴に含浸し、電解箔として厚さ10μmの無光沢Cuめっき層をTi材上に形成した。形成した無光沢Cuめっき層を充分に乾燥させた後に、Ti材からこのめっき層を剥離して電解金属箔を得た。
【0111】
<比較例5>
比較例4と同様の条件により得た電解金属箔に対して、表1Aに示される焼鈍条件(温度及び時間)による熱処理を行い、電解金属箔の焼鈍材を得た。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
各実施例は、好ましい引張強さ等の特性を備えていることが確認された。一方で比較例1においては、引張強さの観点において目的を達成することができなかったことが確認された。
【0116】
また、比較例2乃至比較例4によれば、各々同じ厚さのNi-Fe合金電解箔の実施例の結果と比較した場合、Ni-Fe合金電解箔の方が引張強さの点において好ましいことが確認された。
さらに実施例26~27と比較例5の結果の対比によれば、例えば二次電池製造時における乾燥目的のため等の熱処理工程を経た場合においても、本実施形態の合金電解箔が好ましい引張強さを維持することが可能であることが確認された。
【0117】
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
また、上記した実施形態と実施例における合金電解箔及び積層電解箔は主として電池用集電体に用いられるものとして説明したが、本発明の合金電解箔及び積層金属箔として集電体に限られず、例えば、放熱材や電磁波シールド材など他の用途にも適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明したように、本発明の積層金属箔、電池用集電体および電池は、自動車や電子機器など広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0119】
10 Ni-Fe合金電解箔
10’ Ni-Fe合金電解層
10a 第1面
10b 第2面
10c 第1面
10d 第2面
20 金属層
A 積層電解箔