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特許7495428未熟児の液体ベースのインキュベーションのためのインキュベーションシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】未熟児の液体ベースのインキュベーションのためのインキュベーションシステム
(51)【国際特許分類】
   A61G 11/00 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
A61G11/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021558555
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020059012
(87)【国際公開番号】W WO2020201233
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】62/826,718
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501276430
【氏名又は名称】テクニーシェ・ユニバーシタイト・アイントホーベン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】オイ、スワン ギー
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ ボッセ、フランシスカス ニコラース
(72)【発明者】
【氏名】フェイス、ローレンティウス ミヒール ヘラルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ハウト-ファン デル ヤクト、 マリーケ ベアトリース
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル フェン、 ミルテ
(72)【発明者】
【氏名】デルブレシネ、フランシスカス レオナルドゥス マリー
(72)【発明者】
【氏名】オイ、パスカル
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02723660(US,A)
【文献】特表2018-527042(JP,A)
【文献】特表2019-500919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未熟児の液体ベースのインキュベーションのためのインキュベーションシステムであって、
―羊水を含む羊水容器を形成する内側チェンバと、
―前記内側チェンバを取り囲み、温度調整液を含む外側チェンバと、
―幼児の臍帯に接続される胎児接続ポートと、
―圧力、流れ、温度のうちの1つ以上を監視制御することにより透析と栄養物補給を制御するために、前記胎児接続ポートに接続された胎児制御ユニットと、
―前記内側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続された羊水循環ユニットと、
―前記外側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続され温度調整液制御ユニットと、
を備え、
前記羊水容器は、幼児を保つように構成され、当該幼児の成長に合わせて前記内側チェンバの容積を拡大することのできる柔軟な材料から作られ、
前記臍帯は、前記内側チェンバ内で、当該臍帯を介して幼児に透析と栄養補給を行うポートを与え、
前記羊水循環ユニットは、羊水を、当該内側チェンバの外部に設けられた浄化システムを通して前記内側チェンバから循環させるためのポンプを備え、
前記温度調整液制御ユニットは、温度調整液を、前記外側チェンバの外部に設けられた熱交換システムを通して前記外側チェンバから循環させるためのポンプを備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記羊水循環ユニットは、UV光源を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記羊水循環ユニットは、羊水浄化の監視のための1つ以上のセンサを備えることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記羊水循環ユニットは、羊水に栄養物および水を導入するための入口ポートをさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記外側チェンバの内部に、または前記外側チェンバに取り付けられて、1つ以上の刺激デバイスをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記1つ以上の刺激デバイスは、聴覚刺激デバイス、視覚刺激デバイスおよび触覚刺激デバイスの1つ以上の組を備えることを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記外側チェンバの内部に、または前記外側チェンバに取り付けられて、1つ以上のセンサをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記1つ以上のセンサは、マイクロ流体デバイスおよび/または容量性センサを備えることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記1つ以上のセンサは、カメラ、超音波画像化装置、心電計(ECG)、脳波計(EEG)、触覚センサデバイス、血液および/または羊水のための化学分析装置、およびこれらの組み合わせの中から選ばれることを特徴とする請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
体外膜型肺(ECMO)をさらに備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
幼児の臍帯に接続された、液体のための入力ポートアセンブリをさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未熟児の液体ベースのインキュベーションのためのインキュベーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
出産後の胎児は、子宮内生活から子宮外生活への移行を経験する。通常これは、循環器系および呼吸器系への生理学的変化である。超未熟児、すなわち妊娠期間が28週未満で生まれた未熟児の場合、その生理学的発達はこうした移行に耐えるのに十分ではない。従って、臍帯結紮、未熟な皮膚からの熱損失、呼吸補助の必要、循環変化の遅れといった様々な突発事態により、移行はしばしば合併症を伴う。従って、新生児集中治療室(NICU)の恩恵で予後が改善したとしても、依然として生き残った超未熟児の多くは永続的な合併症に苦しむだろう。
【0003】
出産前は、主に胎盤(すなわち母体と胎児とが共有する組織)を通しての「胎児生命維持」が実現されている。胎盤は、肺および腎臓として機能するだけでなく、栄養補給の役割も果たす。従って胎児の成熟度に関係なく、出産は必然的に胎児生理から新生児生理への移行を引き起こす。従って胎盤の機能は、機械的換気や非経口栄養といった生命維持システムによって説明される必要がある。近年こうした移行の影響を最大限緩和する先端技術を用いて新生児への集中的な措置が取られているが、依然として現在のインキュベータの状況は悪い。実際未熟児への機械的換気は、長期にわたる不健康状態の主要因となる。すなわち未熟児における主な課題は、新生児生理への移行が早すぎることにある。
【0004】
生後の心呼吸の変化は、最初の一呼吸および臍帯結紮(すなわち胎盤循環の切断)によって引き起こされる。後者は遅らせることができるのに対し、生後の非常に強い呼吸反射は容易に抑制することができない。肺胞が一旦空気で満たされると、移行を逆行することはできず、未熟児は生命維持から独立する。
【0005】
切迫早産のリスクのある胎児の場合、人工子宮、すなわち子宮内と同様の環境に移すことにより、こうした合併症を避けることができる。この液体ベースのインキュベータの中で、子宮外生活への移行を遅らせ容易化するという目標に向け、胎児心呼吸の生理が維持される。
【0006】
Partridgeらは、Semin Fetal Neonatal Med. 2017 Dec;22(6):404-409で、新生児成長のための子宮外環境を開示する。
【0007】
Usudaらは、Am J Obstet Gynecol. 2017 Oct;217(4):457.e1-457.e13で、胎児感染および炎症を治療し、同時に血行動態的に安定な子宮外環境治療の持続時間を1週間にまで延長する子宮外環境治療プラットフォームを開示する。
【0008】
Partridgeらは、Nat Commun. 2017 Apr 25;8:15112で、超未熟児の子羊を生理学的にサポートする子宮外システムを開示する。
【0009】
既知の子宮外システムは、主に超未熟児の延命を目標としており、子宮環境の完全な模擬を実現することは目標としていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、未熟児のインキュベーションのための改良されたインキュベーションシステム、特に液体ベースのインキュベーションシステムを与えることにある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、未熟児の液体ベースのインキュベーションのための改良されたインキュベーションシステムを与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの課題の少なくとも1つは、未熟児の液体ベースのインキュベーションのためのインキュベーションシステムによって解決される。このシステムは、
―羊水を含む羊水容器を形成する内側チェンバと、
―前記内側チェンバを取り囲み、温度調整液を含む外側チェンバと、
―幼児の臍帯に接続される胎児接続ポートと、
―圧力、流れ、温度のうちの1つ以上を監視制御することにより透析と栄養物補給を制御するために、前記胎児接続ポートに接続された胎児制御ユニットと、
―前記内側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続された羊水循環ユニットと、
―前記外側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続され温度調整液制御ユニットと、
を備え、
前記羊水容器は、幼児を保つように構成され、当該幼児の成長に合わせて前記内側チェンバの容積を拡大することのできる柔軟な材料から作られ、
前記臍帯は、前記内側チェンバ内で、当該臍帯を介して幼児に透析と栄養補給を行うポートを与え、
前記羊水循環ユニットは、羊水を、当該内側チェンバの外部に設けられた浄化システムを通して前記外側チェンバから循環させるためのポンプを備え、
前記温度調整液制御ユニットは、温度調整液を、前記内側チェンバの外部に設けられた熱交換システムを通して前記内側チェンバから循環させるためのポンプを備える。
【0013】
本発明に係るインキュベーションシステムは、未熟児の人工子宮として機能する。
【0014】
[用語の一覧]
以下は、本明細書および請求項で使われる記述内容を定義するものである。その他の以下で言及されない用語は、当該分野で一般に受容される意味を持つ。
【0015】
本明細書における「胎児」という用語は、本発明に係るシステム内でインキュベートされる胎児または幼児に関する。法律的には、幼児は母体の子宮から離れた瞬間に誕生する。しかし本発明に係るインキュベーションによれば、これは子宮外生活への完全な移行ではない。幼児は依然として胎児段階にあり、その生体機能および振る舞いは子宮内にいるときと同じである。従って「胎児」という用語は、本発明係るシステムが対象とする未熟児にも使われる。
【0016】
本明細書における「幼児」という用語は、生まれたばかりの子供、新生児または赤ん坊を意味する。幼児という用語は、胎児を含んでもよい。この用語は、ヒトの赤ん坊にも、他の生物の子供にも使える。好ましくは、幼児はヒトの赤ん坊である。
【0017】
本明細書における「未熟」「早産」または「未熟児」という用語は、胎児が完全に発達する前に誕生した赤ん坊に関する。これは通常、ヒトの赤ん坊の通常の妊娠期間が40週であるのに対し、37週より前に誕生することを意味する。
【0018】
本明細書における「羊水」または「AF」という用語は、羊膜腔に含まれる保護液を意味する。この液体は、成長する胎児のクッションとして機能する他、栄養、水その他の生物化学的物質の交換促進にも役立つ。本発明では、インキュベーションシステムの内側チェンバに存在する液体もまた羊水と呼ばれる。この液体は、人工的に作られた化合物である。本発明のインキュベーションシステムで使われるAFは、例えば、水、電解物、タンパク質、炭水化物、脂質、リン脂質、尿素などを含んでよい。
【0019】
本明細書における「栄養物」または「栄養物質」という用語は、幼児が生存、成長、発達するために使う化合物または物質を意味する。これらの栄養物は、臍帯および/または羊水を介して、本発明のインキュベーションシステム内の幼児に供給される。
【0020】
本明細書における「体外膜型肺(ECMO)」または「体外生命維持装置(ECLS)」という用語は、生命維持のための適切なガス交換および灌流を与えることにより、長期にわたりヒトの心臓機能および呼吸を補助する体外技術である。本明細書ではECMOは、肺にガスを供給することには使われず、幼児の臍帯循環に再流入する血液に酸素が人工肺を用いて供給されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図面には本発明の実施の形態が示される。同一または類似の要素には、同一の符号が付される。
図1】使用時における本発明に係るシステムの第1の実施の形態を模式的に示す。
図2】使用時における本発明に係るシステムの第2の実施の形態を模式的に示す。
図3】使用時における本発明に係るシステムの第3の実施の形態を模式的に示す。
図4】使用時における本発明に係るシステムの第4の実施の形態を模式的に示す。
図5】本発明に係るインキュベーションシステムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[図面の詳細な説明]
図1は、内側チェンバ150、外側チェンバ140、胎児接続ポート110、胎児制御ユニット160、羊水循環ユニット130および温度調整液制御ユニット120を示す。
【0023】
内側チェンバ150は、羊水を含む羊水容器を形成する。この容器は、幼児を保つように構成され、当該幼児の成長に合わせて内側チェンバの容積を拡大することのできる柔軟な材料から作られる。
【0024】
内側チェンバ(人工子宮)は、幼児の成長とともに伸びるので、幼児は実際の子宮と人工子宮との間でほとんど違和感を覚えない。柔軟な材料からなる子宮は、一方では幼児の移動数を最小化し、他方では幼児に対し実際の触感をフィードバックするようにデザインされる。これは、四肢/筋肉の正常な成長に資すると考えられる。
【0025】
外側チェンバ140は、内側チェンバを取り囲み、温度調整液を含む。
【0026】
温度調整液は水を含む、または水からなる。
【0027】
システムはセンサ171、172を内部に含むか、またはセンサ171、172が外側チェンバに取り付けられる。センサは、内側チェンバに結び付けられる。すべてのセンサ171、172の機能は、当該センサに隣接するものの機能に対応する。センサは、マイクロ流体デバイスおよび/または容量性センサを含んでもよい。センサまたはその例は、カメラ(360度視野)、超音波画像化装置、心電計(ECG)、脳波計(EEG)、呼吸動作を監視するための触覚センサ、栄養、呼吸および腎臓機能を監視するための血液および/または羊水用の化学分析装置などであってもよい。
【0028】
一方でシステムの生命維持機能を微調整し、他方で意思決定の指針とするために、こうした専用の監視機能が胎児の成長および健康を評価するために使われてもよい。
【0029】
システムは1つ以上のシミュレーションデバイスを内部に含むか、こうしたシミュレーションデバイスが外側チェンバに取り付けられてもよい。こうしたシミュレーションデバイスは、聴覚シミュレーションデバイス、視覚シミュレーションデバイスまたは触覚シミュレーションデバイスであってもよい。母親その他の家族がいない状態で、外部からシステムに与えられる動きを通して、刺激(音を奏でるオーディオスピーカ、日周リズムを模擬する制御された照明など)が与えられてもよい。これはチェンバ内チェンバのデザインである。すなわち内側チェンバは子宮を模擬し、外側チェンバは制御された環境下で聴覚、視覚および触覚刺激を与える(各図面において、外側チェンバに関連するテキストを参照)。外側チェンバは温度制御機能を備えるが(各図面の加熱素子を参照)、主な温度制御は羊水循環内の血液温度制御によって行われる。内側チェンバは、汚染を防ぐために常に注ぎ足される羊水を含む。
【0030】
内側チェンバは子宮の表現である。外側チェンバは、各幼児に応じた局所刺激および測定を可能とする装置である(これは母体の環境と見ることができる)。各幼児は独自の内側チェンバおよび外側チェンバを持ち、刺激は個別化することができる。
【0031】
温度調整液制御ユニット120は、内側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続されたポンプであって、温度調整液を、当該内側チェンバの外部に設けられた熱交換システムを通して当該内側チェンバから循環させるためのポンプを備える。
【0032】
外側チェンバに接続された加熱素子が与えられる。この加熱素子は、温度調整液(例えば水)を加熱する機能を持つ。これにより外側チェンバは(従って内側チェンバも)定温に保たれる。外側チェンバの温度を制御することは、内側チェンバの温度を制御することより安全である。
【0033】
外側チェンバに接続されたポンプが与えられる。このポンプは、加熱される水の定常的な流れを生成する、すなわち外側チェンバを一定温度に保つものとして機能する。
【0034】
内側チェンバの入口ポート/出口ポートに接続されたポンプであって、羊水を、当該内側チェンバの外部に設けられた浄化システムを通して当該内側チェンバから循環させるためのポンプを備えた羊水循環ユニット130が与えられる。
【0035】
内側チェンバに接続されたポンプが与えられる。このポンプは、水(AF)の浄化と濾過を目的に、羊水(AF)の定常的な流れを生成するものとして機能する。
【0036】
膜浄化システムが与えられる。この膜浄化システムは、AF内に存在すべきでない物質をAFから浄化するものとして機能する。
【0037】
羊水循環ユニットは、AFの浄化のために、1つ以上のセンサおよびUV光源を備える。UV光源は、AF内に存在するすべての潜在バクテリアを滅菌するものとして機能する。UVに接続されたセンサが与えられる。このセンサは、浄化レベルおよびバクテリアの滅菌状態をチェックするものとして機能する。
【0038】
羊水循環ユニットは、羊水に栄養および水を導入するための入口ポートを備える。
【0039】
栄養補給と水補給に隣接するセンサは、羊水への栄養補給のレベルを監視する。
【0040】
胎児接続ポート110は、幼児の臍帯に接続される。この臍帯は、内側チェンバ内で臍帯を介して当該幼児に透析と栄養補給を行うためのポートを与える。このポートは酸素および/または医薬品を供給してもよい。
【0041】
臍帯は、赤ん坊と胎児循環とを接続する。
【0042】
胎児制御ユニットは、圧力、流れ、温度を監視制御することにより透析および栄養物補給を制御するための、胎児接続ポートに接続される。
【0043】
胎児制御ユニットは、胎盤循環ブロックを備える。胎盤循環ブロックと胎児循環との関係は、現実のものと同様である。すなわち、臍帯のみを介した完全な生理的循環が実現する。
【0044】
胎児制御ユニットは、当該幼児の臍帯と接続するように構成された、液体のための入口ポートアセンブリを備える。液体および医薬品を胎盤側から直接供給するために、人工胎盤に接続された、静脈内流体および医薬品のための部品が与えられる。
【0045】
モニタ、圧力、流れおよび温度ブロックが与えられる。これらはすべて、人工胎盤循環ブロックに接続される。モニタは、胎盤流動(従ってその内容物)における血圧、血流および血液温度に関する情報を与える。圧力、流れおよび温度は、臍帯内または胎児制御ユニット内の血液と、胎児制御ユニット内の調整器との両方に接続される。
【0046】
胎児制御ユニットは、体外膜型肺(ECMO)を備える。与えられた酸素メータは、人工胎盤循環ブロックに接続される。酸素メータは、酸素補給量を生理学的範囲内に調整するために、血液中の酸素レベルを測定する機能を持つ。この調整は、酸素タンクおよび空気タンクに接続されたガス混合器によって行われる。
【0047】
胎盤循環に接続された透析ユニットが与えられる。血液に加えられる血液希釈剤と、排出ドレイン(左側)および処理水のための入口(右側)を備えた透析フィルタと、泡トラップと、が与えられる。
【0048】
図2は、本発明に係るシステムの第2の実施の形態を模式的に示す。
【0049】
この実施の形態は、前述の実施の形態と似るが、ドナーの胎盤を使う点で異なる。従ってこの実施の形態では、ECMOが必要である。さらに、幼児の臍帯に接続するように構成された、液体のためのさらなる入口ポートアセンブリを備えたシステムが与えられる。液体および医薬品を胎盤側から直接供給するために、胎児循環ブロックに接続された、静脈内流体および医薬品のための部品が与えられる。医薬品および液体のうち、あるものは胎盤側を介して供給され、別のものは胎児循環内に直接供給される必要がある。
【0050】
模式図の左側にさらなるブロックが与えられる。このブロックは、モニタ、圧力、流れおよび温度を含む。このブロックはまた、胎児循環ブロックおよび人工胎盤循環ブロックに接続される。これらの機能は、前述の胎盤モニタのためのモニタ、圧力、流れおよび温度の機能と同様であるが、本実施の形態での機能は胎児循環を目的とする。
【0051】
透析ユニットは存在しない。この機能は、胎盤(ドナーの胎盤であっても、人工胎盤であってもよい)によって果たされる。
【0052】
図3は、本発明に係るシステムの第3の実施の形態を模式的に示す。
【0053】
この実施の形態は、第2の実施の形態と似るが、人工胎盤を使う点で異なる。従ってこの実施の形態では、人工胎盤循環ブロック内にポンプが存在する。このポンプは、胎盤循環内に血流を生成するものとして機能する。通常は母体の心臓がこの役割を果たすが、孤立した胎盤の場合はこれは当てはまらない。
【0054】
図4は、本発明に係るシステムの第4の実施の形態を模式的に示す。
【0055】
この実施の形態は、第3の実施の形態と似る。全体的な換気のために、内側チェンバに接続されたポンプと膜浄化システムとの間に、追加的な部品が与えられる。この部品は、酸素と二酸化炭素とを換気するものとして機能する。この換気により、幼児は羊水を通して酸素を獲得し、二酸化炭素を排出することができる。
【0056】
酸素補給、透析および栄養補給のためには、実際の胎盤が使われてもよい(体外ヒト胎盤灌流モデル)。実際の胎盤の場合は、図3および4の灰色のブロックの「人工胎盤循環」が「実際の胎盤循環」に置き換えられてもよい。子宮内環境から人工子宮環境への迅速かつスムーズな移行のために、胎盤として予めドナーの胎盤が用意されてもよい。しかし胎盤は、(健康であれば)当該胎児の生物学的な母親のものであることが望ましい。胎盤は、後で人工胎盤に置き換えられてもよい。胎盤は、(好ましくは母親の血液を含む)独立した循環回路を用いてもよい。この循環回路は、生理的な流れおよび血液値(二酸化炭素および酸素)を与えるために、成人用のECMOに(同様に、図1および5の中央に示される「酸素メータ」およびガスボトルを備えた「ガス混合器」に)接続される。この循環回路はさらに、胎盤の母体側血液から代謝老廃物が確実に除去されるように、成人用の透析に(同様に、図1および5に示される「透析液排出ドレイン」および「フィルタ」に)接続される。栄養物が、胎盤の母親側に流入する血液を介して、非経口栄養として補給される(これは共通に「静脈内輸液および薬剤」と示される)。
【0057】
図5は、本発明に係るインキュベーションシステムの模式図である。これは、安全な環境に置かれた幼児を表し、監視および心呼吸の要請が当該幼児と干渉しないことを示す。幼児は、酸素、栄養物、熱および羊水を供給され、胎児心呼吸循環を失うことなく、体外生命維持装置および人工胎盤を用いて老廃物および二酸化炭素が除去される。
【0058】
[実施の形態の説明]
本発明に係るシステムのある実施の形態では、羊水循環ユニットは、UV光源膜浄化システムをさらに備える。
【0059】
別の実施の形態では、羊水循環ユニットは、羊水浄化の監視のための1つ以上のセンサを備える。
【0060】
別の実施の形態では、羊水循環ユニットは、羊水内に栄養物と水を導入するための入口ポートを更に備える。
【0061】
ある実施の形態では、システムは、外側チェンバの内部に(または外側チェンバに取り付けられた)1つ以上の刺激デバイスをさらに備える。特定の実施の形態では、1つ以上の刺激デバイスは、聴覚刺激デバイス、視覚刺激デバイスおよび触覚刺激デバイスの1つ以上の組を備える。
【0062】
聴覚刺激の例は、会話、歌声、家族の音(音楽演奏、家族の交流など)といった家庭の音や、腸雑音、心拍音といった母体の生理的な音を含む。聴覚刺激デバイスは、オーディオスピーカを備えてもよい。
【0063】
視覚刺激の例は、日周リズムを模擬するための光および闇を含む。視覚刺激デバイスは、制御された照明を備えてもよい。
【0064】
触覚刺激の例は、徒歩、スポーツ、着席、就寝といった母体の運動を含む。触覚刺激デバイスはまた、呼吸、「妊娠期間中の」ブラクストン・ヒックス収縮や人工子宮から新生児生活に移行する前の陣痛などの子宮収縮を含む。
【0065】
別の実施の形態では、システムは、外側チェンバの内部に(または外側チェンバに取り付けられた)1つ以上のセンサをさらに備える。特定の実施の形態では、1つ以上のセンサは、マイクロ流体デバイスおよび/または容量性センサを備える。ある実施の形態では、1つ以上のセンサは、カメラ、超音波画像化装置、心電計(ECG)、脳波計(EEG)、触覚センサデバイス、血液および/または羊水のための化学分析装置、およびこれらの組み合わせの中から選ばれる。
【0066】
別の実施の形態では、システムは、体外膜型肺(ECMO)をさらに備える。
【0067】
別の実施の形態では、システムは、幼児の臍帯に接続された、液体のための入力ポートアセンブリをさらに備える。
【0068】
ある実施の形態では、システムの1つ以上の部品はコンピュータで実行される。システムは、プロセッサ、メモリシステムおよび/または本発明に係るシステムを操作するためのコントローラを備えてもよい。コンピュータプログラムは、適切な媒体(例えば、他のハードウェアとともに(あるいは他のハードウェアの一部である)与えられた光記憶装置媒体や個体媒体など)に記憶/流通されてもよいし、他の形(例えば、インターネット経由その他の優先もしくは無線通信システム)で流通されてもよい。請求項に記載されたいくつかの事項の機能が、シングルプロセッサユニットその他のユニットを用いて実現されてもよい。
【0069】
当業者が図面、明細書および添付の請求項を読めば、請求項に記載の発明を実現するにあたり、前述の実施の形態以外の様々な変形が可能であることを理解するだろう。請求項において、「備える」という用語は他の要素やステップを排除するものでなく、単数形の冠詞「a」「an」は複数を排除するものでもない。ある種の量が異なる独立請求項に記載されているからといって、これらの量の組み合わせが有利に使えないというわけではない。請求項に含まれるいかなる符号も、発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
本発明の範囲は、添付の請求項で定義される。1つ以上の本発明の目的は、添付の請求項によって実現される。
図1
図2
図3
図4
図5