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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両用表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20240528BHJP
   B60K 35/234 20240101ALI20240528BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/234
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022109534
(22)【出願日】2022-07-07
(65)【公開番号】P2024008035
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山瀬 孝文
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0012102(US,A1)
【文献】特開2019-196172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の乗員に虚像として視認させる表示情報を表示光として出射する表示器と、
前記表示器からの出射光について、前記乗員が偏光サングラスを使用していない偏光サングラス不使用モードと前記乗員が偏光サングラスを使用している偏光サングラス使用モードとで偏光方向を切り替えて出射させる偏光切替ユニットと、
前記偏光切替ユニットからの出射光を直接的又は間接的に受け、その出射光を前記乗員の虚像の視認可能範囲であるアイボックスに向けて反射させる反射体と、
前記表示器と前記偏光切替ユニットの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記偏光切替ユニットは、前記表示器の出射光の偏光方向を変えて出射させることが可能な波長板と、前記制御装置に駆動制御される電動モータを駆動源とし、前記偏光サングラス不使用モードでの偏光サングラス不使用位置と前記偏光サングラス使用モードでの偏光サングラス使用位置との間で前記波長板を回転させることが可能な駆動装置と、を備え、前記偏光サングラス不使用位置の前記波長板から主成分がS偏光成分の透過光を出射させる一方、前記偏光サングラス使用位置の前記波長板から主成分がP偏光成分の透過光を出射させ、
前記制御装置は、前記波長板を前記偏光サングラス不使用位置と前記偏光サングラス使用位置の内の何れか一方における前後の規定範囲内で回転させ、この一方の回転位置の前記波長板における透過光の主成分を前記アイボックスの位置で透過させる撮像装置の撮像情報から前記規定範囲内における前記波長板の一定回転角度毎の輝度値を検出し、それぞれの前記輝度値の中の最大輝度値となる前記波長板の回転角度を補正角度として設定することを特徴とした車両用表示装置。
【請求項2】
前記制御装置は、それぞれの前記輝度値の中に複数の最大輝度値が存在する場合、最大輝度値を示すそれぞれの回転角度の平均値を前記補正角度として設定することを特徴とした請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記波長板の一定回転角度毎の前記撮像情報における共通の定点画素の輝度値を検出することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両用表示装置。
【請求項4】
前記表示器には、静止画像を表示光として出射させることを特徴とした請求項3に記載の車両用表示装置。
【請求項5】
前記制御装置は、要求視認モードが前記偏光サングラス不使用モードのときに、前記波長板を前記偏光サングラス不使用位置に対して前記補正角度を加算した回転位置へと回転させ、要求視認モードが前記偏光サングラス使用モードのときに、前記波長板を前記偏光サングラス使用位置に対して前記補正角度を加算した回転位置へと回転させることを特徴とした請求項1又は2に記載の車両用表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、車室内の乗員に提供する情報を表示させる車両用表示装置が搭載されている。例えば、この車両用表示装置としては、表示情報に関わる出射光をウインドシールド又はコンバイナに向けて出射させ、この出射光をウインドシールド等から乗員に向けて反射させることによって、その表示情報を乗員に虚像として視認させる所謂ヘッドアップディスプレイ装置が知られている。この種の車両用表示装置においては、S偏光を主成分とする反射光がウインドシールド等から乗員に向けて反射される。このため、乗員が偏光サングラスをかけているときには、その偏光サングラスでS偏光がカットされてしまうので、偏光サングラスをかけていないときと比較して、虚像の輝度が低下するなど、虚像の視認性が低下してしまう。例えば、下記の特許文献1に記載の車両用表示装置は、表示器の出射光の偏光方向を偏光サングラスの使用時と不使用時で切り替え、偏光サングラスの使用時に当該偏光サングラスの透過が可能な偏光成分の反射光を反射させる、という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-108088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用表示装置は、表示器の出射光の偏光方向を偏光サングラスの使用時と不使用時で切り替えるべく、その出射光が入射する波長板を電動モータで駆動して回転させる。このため、この車両用表示装置においては、その波長板の回転位置にずれが生じていると、偏光サングラス使用時の虚像の品質が低下してしまう可能性がある。例えば、車両用表示装置においては、波長板やこの波長板を回転させる駆動装置等の各種部品の公差ばらつき、これらの公差範囲内での組付けばらつきが存在するので、偏光サングラスの使用時と不使用時で最適な主成分を透過させていない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、虚像品質の低下を抑え得る車両用表示装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車室内の乗員に虚像として視認させる表示情報を表示光として出射する表示器と、前記表示器からの出射光について、前記乗員が偏光サングラスを使用していない偏光サングラス不使用モードと前記乗員が偏光サングラスを使用している偏光サングラス使用モードとで偏光方向を切り替えて出射させる偏光切替ユニットと、前記偏光切替ユニットからの出射光を直接的又は間接的に受け、その出射光を前記乗員の虚像の視認可能範囲であるアイボックスに向けて反射させる反射体と、前記表示器と前記偏光切替ユニットの動作を制御する制御装置と、を備え、前記偏光切替ユニットは、前記表示器の出射光の偏光方向を変えて出射させることが可能な波長板と、前記制御装置に駆動制御される電動モータを駆動源とし、前記偏光サングラス不使用モードでの偏光サングラス不使用位置と前記偏光サングラス使用モードでの偏光サングラス使用位置との間で前記波長板を回転させることが可能な駆動装置と、を備え、前記偏光サングラス不使用位置の前記波長板から主成分がS偏光成分の透過光を出射させる一方、前記偏光サングラス使用位置の前記波長板から主成分がP偏光成分の透過光を出射させ、前記制御装置は、前記波長板を前記偏光サングラス不使用位置と前記偏光サングラス使用位置の内の何れか一方における前後の規定範囲内で回転させ、この一方の回転位置の前記波長板における透過光の主成分を前記アイボックスの位置で透過させる撮像装置の撮像情報から前記規定範囲内における前記波長板の一定回転角度毎の輝度値を検出し、それぞれの前記輝度値の中の最大輝度値となる前記波長板の回転角度を補正角度として設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用表示装置においては、偏光サングラス不使用モードで波長板を補正前の偏光サングラス不使用位置のまま使用した場合、虚像の輝度が低下してしまうが、補正角度を加味した補正後の偏光サングラス不使用位置へと波長板の回転位置を補正することによって、高い輝度で虚像を表示させることができる。また、この車両用表示装置においては、偏光サングラス使用モードで波長板を補正前の偏光サングラス使用位置のまま使用した場合、虚像の輝度が低下してしまうが、補正角度を加味した補正後の偏光サングラス使用位置へと波長板の回転位置を補正することによって、高い輝度で虚像を表示させることができる。このように、本発明に係る車両用表示装置は、虚像品質の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の車両用表示装置について示す模式図である。
図2図2は、偏光切替ユニットを示す斜視図である。
図3図3は、偏光切替ユニットを別角度から見た斜視図である。
図4図4は、偏光切替ユニットを示す分解斜視図である。
図5図5は、実施形態の車両用表示装置の動作について説明するフローチャートである。
図6図6は、測光データの一例を示す説明図である。
図7図7は、補正前後の虚像の輝度変化について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る車両用表示装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
[実施形態]
本発明に係る車両用表示装置の実施形態の1つを図1から図7に基づいて説明する。
【0011】
図1の符号1は、実施形態の車両用表示装置を示す。この車両用表示装置1は、車両(自動車等)の車室内の乗員に提供する情報を虚像表示させる所謂ヘッドアップディスプレイ装置である。
【0012】
この車両用表示装置1は、表示情報に係る投射光を車両のウインドシールド等で乗員に向けて反射させることによって、その表示情報の虚像を乗員に視認させる。ここで、ウインドシールドにおいては、P偏光成分がS偏光成分に比べて反射され難いので、乗員に向かう反射光の主成分がS偏光になる。一方、乗員が使う可能性のある偏光サングラスは、そのS偏光のカットを主目的とする。このため、偏光サングラスの使用時には、偏光サングラスの不使用時よりも虚像の輝度が低下してしまう。そこで、この車両用表示装置1は、次のように構成し、乗員が偏光サングラスを使用していないときと乗員が偏光サングラスを使用しているときとで虚像の輝度の差を小さくすることによって、偏光サングラス使用時の虚像の視認性を向上させる。
【0013】
車両用表示装置1は、車室内の乗員に虚像として視認させる表示情報を表示光として出射する表示器10と、この表示器10からの出射光について、乗員が偏光サングラスを使用していない偏光サングラス不使用モードと乗員が偏光サングラスを使用している偏光サングラス使用モードとで偏光方向を切り替えて出射させる偏光切替ユニット20と、この偏光切替ユニット20からの出射光を直接的又は間接的に受け、その出射光を乗員の虚像の視認可能範囲であるアイボックスEBに向けて反射させる反射体30と、を備える(図1)。更に、この車両用表示装置1は、その表示器10と偏光切替ユニット20の動作を制御する制御装置40を備える(図1)。
【0014】
この車両用表示装置1は、表示器10、偏光切替ユニット20及び制御装置40を内方に収容する筐体51と、この筐体51の開口を塞ぐ透明のカバー52と、を備える(図1)。筐体51は、カバー52を露出させた状態で車室内のインスツルメントパネルPiの中に収容される(図1)。この車両用表示装置1においては、偏光切替ユニット20からの出射光を直接的又は間接的にカバー52を介してインスツルメントパネルPiの外に出射させ、その先に存在している反射体30に投影させる。
【0015】
表示器10は、例えば、バックライトとしての光源(図示略)の出射光を裏面から入射させ、その裏面からの入射光に応じた表示光を表面から出射させるものとして構成されている。例えば、この表示器10としては、光透過型のTFT液晶(Thin Film Transistor Liquid Crystal Display)等が用いられる。この表示器10は、例えば、文字、数字、図形等の画像情報を表示情報として表示させる。制御装置40には、この表示器10を制御して、その表示情報の表示制御を実行させる。
【0016】
反射体30は、例えば、ウインドシールド(ここでは、フロントウインドシールドWf)そのものである。この場合には、反射体30としてのウインドシールド(フロントウインドシールドWf)が偏光切替ユニット20からの出射光を直接的又は間接的に受け、その出射光をウインドシールド(フロントウインドシールドWf)からアイボックスEBに向けて反射させる。
【0017】
また、この反射体30は、ウインドシールド(フロントウインドシールドWf)に対して設けられたものであってもよい。この反射体30は、反射面で偏光切替ユニット20からの出射光を直接的又は間接的に受けてアイボックスEBへと反射させ、かつ、車外からの光を乗員側に出射させるハーフミラーとして形成されている。例えば、この反射体30は、ウインドシールド(フロントウインドシールドWf)の曲面形状に沿わせたフィルム状に形成され、このウインドシールドの車室内側の壁面に接着剤で貼り付けられる。また、この反射体30は、ウインドシールド(フロントウインドシールドWf)の曲面形状に沿わせたフィルム状に形成され、合せガラスのウインドシールドの中に中間膜と共に封止されたものであってもよい。また、この反射体30は、ウインドシールド(フロントウインドシールドWf)の車室内側の壁面に塗布等でコーティングされた被膜であってもよい。
【0018】
また、この反射体30は、ウインドシールド(フロントウインドシールドWf)よりも乗員側に配置されたコンバイナであってもよい。
【0019】
偏光切替ユニット20は、表示器10の出射光の偏光方向を変えて出射させることが可能な波長板21と、偏光サングラス不使用モードでの偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用モードでの偏光サングラス使用位置との間で波長板21を回転させることが可能な駆動装置22と、を備える(図2から図4)。この偏光切替ユニット20は、波長板21からの出射光を反射体30に直接向かわせるものであってもよく、波長板21からの出射光を拡大ミラー等の反射部材で反射させて間接的に反射体30に向かわせるものであってもよい。
【0020】
この偏光切替ユニット20は、偏光サングラス不使用位置の波長板21から主成分がS偏光成分の透過光を出射させる一方、偏光サングラス使用位置の波長板21から主成分がP偏光成分の透過光を出射させる。つまり、この偏光切替ユニット20は、波長板21の回転位置が偏光サングラス不使用位置のときに、主成分がS偏光成分の投射光を反射体30に投射させる一方、波長板21の回転位置が偏光サングラス使用位置のときに、主成分がP偏光成分の投射光を反射体30に投射させる。
【0021】
そこで、波長板21には、回転位置が偏光サングラス不使用位置のときに、反射体30に投射させる投射光(偏光切替ユニット20からの出射光)の主成分がS偏光成分となるように、入射してきた表示器10の出射光を透過させる。そして、この波長板21には、回転位置が偏光サングラス使用位置のときに、反射体30に投射させる投射光(偏光切替ユニット20からの出射光)の主成分がP偏光成分となるように、入射してきた表示器10の出射光を透過させる。
【0022】
波長板21は、この種の技術分野で周知のものであり、ここでは1/2波長板を用いる。
【0023】
この波長板21は、例えば、表示器10の出射光がS偏光の場合、速軸を表示器10の出射光の偏光方向に一致させた回転位置を偏光サングラス不使用位置とする。この波長板21においては、回転位置が偏光サングラス不使用位置のときに、表示器10の出射光をその偏光方向のまま透過させる。このため、反射体30には、波長板21の回転位置が偏光サングラス不使用位置のときに、S偏光成分を主成分とする投射光が偏光切替ユニット20から出射される。
【0024】
この波長板21は、その偏光サングラス不使用位置から45度回転させることによって、速軸が表示器10の出射光の偏光方向に対して45度ずれるので、入射してきた表示器10の出射光をその2倍の角度(90度)分だけ回転させてP偏光の透過光として出射させる。このため、反射体30には、波長板21を偏光サングラス不使用位置から45度回転させたときに、P偏光成分を主成分とする投射光が偏光切替ユニット20から出射される。よって、この波長板21は、偏光サングラス不使用位置から45度回転させた回転位置を偏光サングラス使用位置とする。
【0025】
また、波長板21は、表示器10の出射光の主成分がS偏光成分ではない場合、偏光サングラス不使用位置での配置を次のものに替えてもよい。この波長板21は、速軸を表示器10の出射光の偏光方向に対して所定角度θずらし、その2倍の角度(2θ)分だけ表示器10の出射光の偏光方向を回転させてS偏光の透過光を出射させる回転位置を偏光サングラス不使用位置とする。このため、反射体30には、波長板21の回転位置が偏光サングラス不使用位置のときに、S偏光成分を主成分とする投射光が偏光切替ユニット20から出射される。
【0026】
この波長板21は、その偏光サングラス不使用位置から45度回転させることによって、速軸が表示器10の出射光の偏光方向に対してθ+45度ずれるので、入射してきた表示器10の出射光をその2倍の角度(2θ+90度)分だけ回転させてP偏光の透過光として出射させる。このため、反射体30には、波長板21を偏光サングラス不使用位置から45度回転させたときに、P偏光成分を主成分とする投射光が偏光切替ユニット20から出射される。よって、この波長板21は、偏光サングラス不使用位置から45度回転させた回転位置を偏光サングラス使用位置とする。
【0027】
つまり、この波長板21は、そのどちらに偏光サングラス不使用位置が設定されたとしても、偏光サングラス不使用位置で主成分がS偏光成分の投射光を偏光切替ユニット20から反射体30に向けて出射させる。このため、この車両用表示装置1は、偏光サングラスをかけていない乗員に虚像を視認させることができる。そして、この波長板21は、その偏光サングラス不使用位置から偏光サングラス使用位置へと45度回転させることによって、主成分がP偏光成分の投射光を偏光切替ユニット20から反射体30に向けて出射させる。このため、この車両用表示装置1は、偏光サングラスをかけている乗員に虚像を視認させることができる。
【0028】
駆動装置22は、制御装置40に駆動制御される電動モータ23(図2から図4)を駆動源とするものであり、波長板21をその平面(表示器10の出射光が入射する平面、その入射光が透過して出射する平面)に直交する回転軸の軸周りに回転させる。この駆動装置22は、電動モータ23の出力トルクを波長板21に伝達させる動力伝達機構24(図4)と、波長板21の周縁部を回転自在に保持する保持機構25(図2から図4)と、を備える。
【0029】
ここで示す駆動装置22においては、電動モータ23にステッピングモータを用い、その出力トルクを動力伝達機構24としての歯車群を介して波長板21に伝達させる。その動力伝達機構24は、電動モータ23の出力軸に同心上に配置された平歯車状のピニオンギヤ24Aと、波長板21の周縁部に配置され、ピニオンギヤ24Aに噛み合わされたラック24Bと、を備える(図4)。
【0030】
保持機構25は、波長板21の周縁部を周方向に亘って囲う環状の第1ガイド部材25A及び環状の第2ガイド部材25Bと、この第1ガイド部材25A及び第2ガイド部材25Bを介して波長板21を回転自在に保持する第1保持部材25C及び第2保持部材25Dと、を備える(図2から図4)。
【0031】
第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bは、互いに組み付けた状態で波長板21の周縁部を挟み込んで保持する環状部材であり、波長板21の双方の平面を露出させる。この第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bは、その内の少なくとも一方に、波長板21の回転軸に対する平行軸上に配置された円柱状のガイド突起25aを有する(図2から図4)。保持機構25においては、その平行軸上で互いに逆向きに突出させた一対のガイド突起25aを波長板21の回転方向に間隔を空けて複数組(ここでは、4組)設ける。例えば、その一対のガイド突起25aは、第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bの内の何れか一方の環状の主体から互いに逆向きに突出させた円柱状の突起であり、それぞれの環状の主体に対して周方向に間隔を空けて複数組設ける。また、例えば、その一対のガイド突起25aは、第1ガイド部材25Aの環状の主体から突出させた円柱状の突起とこれとは逆向きに第2ガイド部材25Bの環状の主体から突出させた円柱状の突起であり、それぞれの環状の主体に対して周方向に間隔を空けて複数組設ける。ここでは、第1ガイド部材25Aに全てのガイド突起25aを設けている。
【0032】
ここで、ラック24Bは、この第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bの内の何れか一方の周縁部に設ける。このラック24Bは、第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bの内の何れか一方の主体の周縁部に対して一体になって形成されたものであってもよく、別部品として成形されたものをその周縁部に固定してもよい。ここでは、第1ガイド部材25Aの一部分として、この第1ガイド部材25Aの環状の主体の周縁部に対してラック24Bが一体になって形成されている(図4)。
【0033】
第1保持部材25Cと第2保持部材25Dは、互いに組み付けた状態で第1ガイド部材25A及び第2ガイド部材25Bを介して波長板21を回転自在に保持する。また、この第1保持部材25Cと第2保持部材25Dは、波長板21の双方の平面を露出させたまま、第1ガイド部材25A及び第2ガイド部材25Bを回転自在に保持する。
【0034】
第1保持部材25Cは、波長板21と第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bを収容し且つ回転自在に保持する収容部材として成形される。ここで示す第1保持部材25Cには、動力伝達機構24についても収容させ且つ作動自在に保持させる。第2保持部材25Dは、波長板21を露出させたまま第1保持部材25Cの開口を覆うカバー部材の如きものであり、波長板21と第1ガイド部材25Aと第2ガイド部材25Bを回転自在に保持する。電動モータ23は、この第2保持部材25Dに固定されている。
【0035】
第1保持部材25Cは、一対のガイド突起25aの内の一方を収容し且つ案内する貫通孔状又は溝状のガイドレール25bを一対のガイド突起25a毎に有する(図2及び図4)。これと同じように、第2保持部材25Dは、一対のガイド突起25aの内の他方を収容し且つ案内する貫通孔状又は溝状のガイドレール25bを一対のガイド突起25a毎に有する(図3及び図4)。ここで示すガイドレール25bは、貫通孔状に形成されている。波長板21の回転軸の軸方向で向かい合う一対のガイドレール25bは、波長板21を偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置との間で回転させる際に、その回転軌跡に沿って一対のガイド突起25aを案内する。
【0036】
ここで示す一対のガイド突起25aと一対のガイドレール25bは、その組み合わせ毎に、ガイドレール25bの一端から他端まで少なくとも偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置との間の回転角度以上(つまり、少なくとも45度以上)の角度で回転させ得るものとして形成されている。
【0037】
この偏光切替ユニット20においては、偏光サングラス不使用位置を波長板21の回転位置の原点とする。例えば、ここでは、ガイド突起25aがガイドレール25bの一端側に配置されているときの波長板21の回転位置を原点とする。
【0038】
制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードであるのか偏光サングラス使用モードであるのかに応じて、駆動装置22の電動モータ23を駆動制御し、波長板21の回転位置制御を行う。例えば、制御装置40は、乗員による要求視認モード切替スイッチの切替操作、要求視認モード設定釦の押下操作又はタッチ操作等に伴う要求視認モードの切替指令信号に基づいて、偏光サングラス不使用モード又は偏光サングラス使用モードへの要求視認モードの切替指令があったと判断し、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードであるのか偏光サングラス使用モードであるのかの判定を行う。
【0039】
この制御装置40は、偏光サングラス不使用モード又は偏光サングラス使用モードへの要求視認モードの切替指令があったときに、電動モータ23に励磁電流を供給して、その要求視認モードの回転位置に波長板21を回転させる。この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードのときに、駆動装置22の電動モータ23を駆動制御して、波長板21を偏光サングラス不使用位置に回転させる。また、この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス使用モードのときに、駆動装置22の電動モータ23を駆動制御して、波長板21を偏光サングラス使用位置に回転させる。
【0040】
ところで、この車両用表示装置1において、偏光切替ユニット20は、複数の部品が組み付けられたものであり、それぞれの部品の公差ばらつきやそれぞれの部品の公差範囲内での組付けばらつきが存在する。また、この車両用表示装置1においては、表示器10と偏光切替ユニット20との間にも公差範囲内での組付けばらつきが存在する。このため、この車両用表示装置1においては、公差ばらつきの範囲内ではあるが、波長板21の回転位置が設計値に対してずれていると、偏光サングラス不使用位置で最大輝度のS偏光が偏光切替ユニット20から出射されておらず、かつ、偏光サングラス使用位置で最大輝度のP偏光が偏光切替ユニット20から出射されていない可能性もある。
【0041】
そこで、この車両用表示装置1は、波長板21の回転位置の位置ずれの補正を行えるよう構成する。この車両用表示装置1は、車両の製造時又はメンテナンス時等に波長板21の回転位置の補正角度を求めておき、波長板21を偏光サングラス不使用位置又は偏光サングラス使用位置へと実際に回転させる際に、その補正角度を反映させる。
【0042】
具体的に、制御装置40には、補正角度を求める際に、波長板21を偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置の内の何れか一方における前後の規定範囲内で回転させる。例えば、制御装置40は、偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置の内の何れか一方を中心とする前後の規定範囲内であり、その中心から規定範囲の半分の角度で波長板21を一方に向けて回転させたり、その中心から規定範囲の半分の角度で波長板21を他方に向けて回転させたりする。ここで例示する制御装置40は、その規定範囲の一方から他方に向けて一方向に波長板21を回転させる。
【0043】
ここで、この補正角度算出時に云う偏光サングラス不使用位置(原点)と偏光サングラス使用位置は、車両が組み上がった際の回転位置のことであり、設計値通りの位置出しができている場合もあれば、その設計値からの位置ずれが生じている場合もある。このため、一対のガイド突起25aと一対のガイドレール25bは、偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置との間の回転角度(ここでは、45度)、補正角度算出時の規定範囲の回転角度及び公差積み上げの最大値分の回転角度の合算値以上の角度で波長板21を回転させ得るものとして形成しておく。例えば、ここでは、補正角度算出時の規定範囲の回転角度を30度(つまり、偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置の内の何れか一方から片側15度)とし、公差積み上げの最大値分の回転角度を2度とする。この場合、一対のガイド突起25aと一対のガイドレール25bは、ガイドレール25bの一端から他端まで波長板21を77度(45度+30度+2度)以上回転させ得るものとして形成しておく。
【0044】
制御装置40は、次のような撮像装置(カメラ等)70の撮像情報に基づいて補正角度を求める。この撮像装置70とは、偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置の内の何れか一方の回転位置の波長板21における透過光の主成分をアイボックスEBの位置で透過させる設定が為されたものである。つまり、この撮像装置70は、アイボックスEBの位置に配置される。そして、この撮像装置70は、例えば、偏光サングラス不使用位置と偏光サングラス使用位置の内の一方の回転位置の波長板21における透過光の主成分を透過させる一方、その内の他方の回転位置の波長板21における透過光の主成分を透過させない設定が為されている。例えば、この撮像装置70としては、波長板21を偏光サングラス不使用位置の前後の規定範囲内で回転させる場合、S偏光を透過させるS偏光透過設定のフィルタ等が搭載されたものを用いる。また、例えば、この撮像装置70としては、波長板21を偏光サングラス使用位置の前後の規定範囲内で回転させる場合、P偏光を透過させるP偏光透過設定のフィルタ等が搭載されたものを用いる。
【0045】
制御装置40は、この撮像装置70の撮像情報から規定範囲内における波長板21の一定回転角度毎の輝度値を検出し、それぞれの輝度値の中の最大輝度値となる波長板21の回転角度を補正角度として設定する。
【0046】
ここで、この制御装置40は、波長板21の一定回転角度毎の撮像情報における共通の定点画素の輝度値を検出し、それぞれの輝度値の中の最大輝度値となる波長板21の回転角度を補正角度として設定することが望ましい。その位置ずれ判定用の定点画素については、撮像情報にて少なくとも1つ設定しておく。例えば、この場合、表示器10には、単色ベタ画像等の静止画像を表示光として出射させる。
【0047】
また、この制御装置40は、それぞれの輝度値の中に複数の最大輝度値が存在する場合、最大輝度値を示すそれぞれの回転角度の平均値を補正角度として設定する。
【0048】
以下に、この制御について図5のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
制御装置40は、波長板21の回転位置制御指令を電動モータ23に対して行う(ステップST1)。
【0050】
この例示では、波長板21を原点(偏光サングラス不使用位置)から測光開始位置まで回転させ、かつ、この測光開始位置から波長板21を偏光サングラス使用位置側の他端の測光完了位置に向けて回転させるための回転位置制御指令を行う。ここでは、原点(偏光サングラス不使用位置)から偏光サングラス使用位置とは逆側に15度回転させた波長板21の位置を測光開始位置とする(図6)。そして、ここでは、偏光サングラス使用位置から偏光サングラス不使用位置とは逆側に15度回転させた波長板21の位置を測光完了位置とする(図6)。
【0051】
また、この例示では、波長板21を測光開始位置から測光完了位置に向けて一定回転角度(ここでは、1度)毎に回転させるための回転位置制御指令を行う。この回転位置制御指令は、波長板21を測光開始位置から測光完了位置に向けて一定回転角度毎に回転させ続けるものであってもよく、波長板21を一定回転角度毎に停止させるものであってもよい。ここでは、波長板21を一定回転角度回転させてから停止させ、回転再開指令を電動モータ23に送ってから波長板21を再び一定回転角度回転させ始める。
【0052】
続いて、この制御装置40は、撮像装置70の撮像情報を受信し(ステップST2)、この撮像情報における定点画素の輝度値を検出する(ステップST3)。例えば、制御装置40は、波長板21が測光開始位置に到達した時点から撮像装置70の撮像情報を受信し始める。制御装置40は、例えば、波長板21の回転位置が一定回転角度毎に変わる度に撮像装置70の撮像情報を受信する。
【0053】
この制御装置40は、波長板21の原点に対する相対的な回転角度(以下、「相対回転角度」という。)の情報と、この相対回転角度での撮像情報における定点画素の輝度値の情報と、を例えばRAM(Random Access Memory)に保存する(ステップST4)。例えば、制御装置40は、その輝度値を指数化してRAMに保存する(図6)。ここでは、波長板21が測光開始位置のときの輝度値を100とし、これに対する相対的な値を一定回転角度毎に保存する。
【0054】
この制御装置40は、波長板21が測光完了位置に到達したのか否かを判定し(ステップST5)、波長板21が測光完了位置に到達していなければ、ステップST2に戻る。ここでは、波長板21が測光完了位置に到達していなければ、波長板21の回転再開指令を電動モータ23に対して行い(ステップST6)、ステップST2に戻る。
【0055】
制御装置40は、波長板21が測光完了位置まで到達した場合、ステップST4でRAMに保存した情報から最大輝度値の相対回転角度を読み込む(ステップST7)。そして、この制御装置40は、その最大輝度値の相対回転角度が複数存在しているのか否かの判定を行う(ステップST8)。
【0056】
制御装置40は、最大輝度値の相対回転角度が1つしか無ければ、ステップST10に進み、この相対回転角度を補正角度としてRAMに保存する。一方、この制御装置40は、最大輝度値の相対回転角度が複数存在している場合、最大輝度値を示すそれぞれの相対回転角度の平均値を算出し(ステップST9)、ステップST10に進んで、この平均値を補正角度としてRAMに保存する。この例示では、最大輝度値の相対回転角度が複数存在しているので(+9度~+12度)、その平均値(+10.5度)を補正角度に設定している(図6)。
【0057】
制御装置40は、このようにして設定された補正角度の情報を用いて、要求視認モードに応じた波長板21の回転位置制御を行う。
【0058】
この車両用表示装置1においては、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードのときに、実際の取付位置の偏光切替ユニット20で波長板21を補正前の偏光サングラス不使用位置へと回転させた場合、設計値通りに取り付けられていると推定した偏光切替ユニット20で波長板21を補正前の偏光サングラス不使用位置へと回転させた場合と比較して、虚像の輝度が低下する(図7)。しかしながら、この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードのときに、波長板21を偏光サングラス不使用位置に対して補正角度を加算した回転位置へと回転させる。つまり、この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス不使用モードのときに、補正前の偏光サングラス不使用位置に対して補正角度を加算した補正後の偏光サングラス不使用位置へと波長板21を回転させる。よって、この車両用表示装置1においては、偏光サングラス不使用モードのときの虚像の輝度を高めることができる(図7)。
【0059】
また、この車両用表示装置1においては、要求視認モードが偏光サングラス使用モードのときに、実際の取付位置の偏光切替ユニット20で波長板21を補正前の偏光サングラス使用位置へと回転させた場合、設計値通りに取り付けられていると推定した偏光切替ユニット20で波長板21を補正前の偏光サングラス使用位置へと回転させた場合と比較して、虚像の輝度が低下する(図7)。しかしながら、この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス使用モードのときに、波長板21を偏光サングラス使用位置に対して補正角度を加算した回転位置へと回転させる。つまり、この制御装置40は、要求視認モードが偏光サングラス使用モードのときに、補正前の偏光サングラス使用位置に対して補正角度を加算した補正後の偏光サングラス使用位置へと波長板21を回転させる。よって、この車両用表示装置1においては、偏光サングラス使用モードのときの虚像の輝度を高めることができる(図7)。
【0060】
この例示では、補正前の原点(偏光サングラス不使用位置)が0度であり、補正角度(+10.5度)を加味して、+10.5度が補正後の原点(偏光サングラス不使用位置)として設定される。また、この例示では、補正前の偏光サングラス使用位置が45度であり、補正角度(+10.5度)を加味して、+55.5度が補正後の偏光サングラス使用位置として設定される。
【0061】
以上示したように、この車両用表示装置1においては、偏光サングラス不使用モードで波長板21を補正前の偏光サングラス不使用位置のまま使用した場合、虚像の輝度が低下してしまうが、補正後の偏光サングラス不使用位置へと波長板21の回転位置を補正することによって、高い輝度で虚像を表示させることができる。また、この車両用表示装置1においては、偏光サングラス使用モードで波長板21を補正前の偏光サングラス使用位置のまま使用した場合、虚像の輝度が低下してしまうが、補正後の偏光サングラス使用位置へと波長板21の回転位置を補正することによって、高い輝度で虚像を表示させることができる。このように、本実施形態の車両用表示装置1は、虚像品質の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 車両用表示装置
10 表示器
20 偏光切替ユニット
21 波長板
22 駆動装置
23 電動モータ
30 反射体
40 制御装置
70 撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7