(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】オンライン診療システムおよび患者用アプリ
(51)【国際特許分類】
G16H 40/20 20180101AFI20240528BHJP
G06Q 50/22 20240101ALI20240528BHJP
【FI】
G16H40/20
G06Q50/22
(21)【出願番号】P 2022130084
(22)【出願日】2022-08-17
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】519423792
【氏名又は名称】ヘルスケアテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 展彦
(72)【発明者】
【氏名】浅井 望海
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 翔太
【審査官】中元 淳二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-301990(JP,A)
【文献】特開平11-347003(JP,A)
【文献】特開平09-135816(JP,A)
【文献】特開2009-129308(JP,A)
【文献】特開2020-155123(JP,A)
【文献】特開2020-190789(JP,A)
【文献】特許第6987417(JP,B2)
【文献】特開2008-217389(JP,A)
【文献】特開2008-234109(JP,A)
【文献】特開2022-034831(JP,A)
【文献】特開2021-113941(JP,A)
【文献】特開2019-185252(JP,A)
【文献】特開2007-148645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H10/00-80/00
G06Q50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
その予想疾患と同じ疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録があり、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録がある場合には、
前記第1の患者が前記予想疾患と同じ疾患で受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間と、前記第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間のうち、長い方を、前記第1の患者の予想診療時間と
し、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項2】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
その予想疾患と同じ疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録があり、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録はないが前記予想疾患以外の疾患の患者を診療した記録がある場合には、
前記第1の医師の診療時間の統計データと病院全体の診療時間の統計データに基づいて前記第1の医師の診療時間が平均的な診療時間に比べて長いか短いかの傾向を求め、
前記第1の患者が前記予想疾患と同じ疾患で受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間に対し、前記第1の医師の傾向を考慮した補正を掛けることにより、前記第1の患者の予想診療時間を求
め、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項3】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
その予想疾患と同じ疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録はないが前記予想疾患以外の疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録があり、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録がある場合
には、
前記第1の患者の診療時間の統計データと病院全体の診療時間の統計データに基づいて前記第1の患者の診療時間が平均的な診療時間に比べて長いか短いかの傾向を求め、
前記第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間に対し、前記第1の患者の傾向を考慮した補正を掛けることにより、前記第1の患者の予想診療時間を求
め、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項4】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
その予想疾患と同じ疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録はないが前記予想疾患以外の疾患で前記第1の患者が過去に受診した記録があり、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録はないが前記予想疾患以外の疾患の患者を診療した記録がある場合には、
前記第1の医師の診療時間の統計データと病院全体の診療時間の統計データに基づいて前記第1の医師の診療時間が平均的な診療時間に比べて長いか短いかの傾向を求め、
前記第1の患者の診療時間の統計データと病院全体の診療時間の統計データに基づいて前記第1の患者の診療時間が平均的な診療時間に比べて長いか短いかの傾向を求め、
前記予想疾患と同じ疾患に対する病院全体の診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間に対し、前記第1の医師の傾向または前記第1の患者の傾向を考慮した補正を掛けることにより、前記第1の患者の予想診療時間を求
め、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項5】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末
に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
前記第1の患者が過去に受診した記録がなく、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録がある場合には、
前記第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間を、前記第1の患者の予想診療時間と
し、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項6】
患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、
希望の日時を指定する第1の方法の受診申込と最も早く受診可能な時間枠が自動的に割り当てられる第2の方法の受診申込とを受付可能な受付手段と、
第1の患者から前記第2の方法の受診申込を受け付けた場合に、前記第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、
前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、
オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、
を有し、
前記診療時間推計手段は、
前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、
前記第1の患者が過去に受診した記録がなく、かつ、前記第1の患者の今回の診療を担当する第1の医師が前記予想疾患と同じ疾患の患者を診療した記録はないが前記予想疾患以外の疾患の患者を診療した記録がある場合には、
前記第1の医師の診療時間の統計データと病院全体の診療時間の統計データに基づいて前記第1の医師の診療時間が平均的な診療時間に比べて長いか短いかの傾向を求め、
前記予想疾患と同じ疾患に対する病院全体の診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間に対し、前記第1の医師の傾向を考慮した補正を掛けることにより、前記第1の患者の予想診療時間を求
め、
前記スケジューリング手段は、前記予約テーブルに新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠よりも後に控える、前記第2の方法の受診申込による予約のうち、予想診療時間が前記新規の空き枠内に収まるものの中で、受診申込の受付時刻が最も早いものを、前記新規の空き枠に移動させる、
オンライン診療システム。
【請求項7】
前記第1の患者のオンライン診療を設定した時間枠よりも前の時間枠で第2の患者のオンライン診療が実施され、且つ、前記第2の患者のオンライン診療が終了予定時刻を超過した場合に、前記スケジューリング手段は、前記第2の患者のオンライン診療の超過分による遅延を解消するために、前記第2の患者のオンライン診療の時間枠と前記第1の患者のオンライン診療の時間枠の間に存在する空き枠を短縮もしくは削除するか、または、前記第1の患者のオンライン診療を他の時間枠に移動させる、
請求項1
~6のいずれかに記載のオンライン診療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オンライン診療に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォンなどの情報通信機器の普及と、インターネットを基盤とするICT技術の進展を背景として、ビデオ通話などを利用し遠隔で診察や診断を行う「オンライン診療」が注目を集めている。特にここ数年は、新型コロナウィルス感染症の流行により、医療機関の受診が困難となった患者や宿泊療養施設の患者への医療提供手段として、オンライン診療の需要が高まっている。
【0003】
特許文献1には、オンライン診療の予約を行う際に、患者の端末上で問診の回答を入力させることにより、予約の効率化を図る方法が提案されている。さらに、特許文献1のシステムでは、医師が問診の回答を見て、専門外の症例、あるいは、自身の病院では対応できない重篤な疾患と判断した場合に、予約を拒否することができる機能を設けることによって、患者と医師のミスマッチを防止する工夫が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシステムでは、患者が病院の空き状況を確認しつつ、予約可能な時間枠のなかから希望の日時を指定して受診予約を行う方法(以下「日時指定予約」と呼ぶ。)が一般的である。日時指定予約は、患者側が病院の空き状況に合わせるため、病院側やシステム側で複雑なスケジュール調整が不要であり、運用が容易であるという利点がある。しかし、日時指定予約には次に述べるような課題も存在する。
【0006】
第一に、日時指定予約では、予約が埋まらない時間枠や直前の予約キャンセルが一定数出る可能性があり、これが稼働率の低下を招くおそれがある。通常の病院における外来診療では順番待ちに従って患者を診察していくため、もしキャンセルが出ても次の患者を繰り上げればよいが、オンライン診療の場合は診療開始時刻が予約により固定されているために、そのような柔軟なスケジューリングが困難である。
【0007】
第二に、日時指定予約は、計画的な受診を望んでいる患者や緊急性が高くない症状の患者には適しているが、「何時でも良いので早く受診したい」(以下「随時受診」と呼ぶ。)と望む患者のニーズには応えることができない。テレワークの普及により場所や時間の制約を受けない生活様式が一般化してきていることを鑑みると、オンライン診療サービスにおいても今後は随時受診のニーズが高まることが予想される。
【0008】
そこで本発明者らは、日時指定予約で埋まらなかった空き枠やキャンセルが発生した時間枠(つまり、医師が空いている時間)に、システム側で随時受診希望者の診療を自動で組み入れていくという方法の着想を得た。これにより、稼働率の向上を図るとともに、随時受診にも対応することができるため、日時指定予約が抱える2つの課題を同時に解決することができると考えられる。
【0009】
しかしながら、上記方法の検討を進める中で、新たな課題に直面した。具体例を挙げて
説明する。例えば、患者Aから随時受診の希望を受け付けたときに、直近の空き枠として14:00~14:10の10分間の空き枠が存在していたという状況を仮定する。単純には、患者Aの診療を14:00に設定すればよい。患者Aの診療が14:00~14:10の間に完了すれば、患者Aの希望を満たしつつ稼働率を最大化できるため、理想的である。問題となるのは、患者Aの診療が10分を超過してしまった場合である。疾患の種類によって診療時間の長短が変わり得るし、診療は患者と医師との対話で行われるため、終了時刻となったからといって話の途中で診療を終えることはできない。それゆえ、診療時間を超過するケースは少なからず発生し得る。もし、患者Aの診療が14:10までに終了しなかった場合、14:10に予め日時指定予約していた他の患者Bの診療を時間どおりに開始することができない。そして、患者Bの診療が後にずれ込むと、その後の予約も順に遅延する可能性もある。後から割り込んだ患者Aが原因で、先に日時指定予約していた患者Bの予定が影響を受けるのは、患者Bにとってみれば不合理である。もしこのような状況が頻発してしまうと、オンライン診療サービス全体の顧客満足の低下につながるおそれがあり、好ましくない。
【0010】
また、日時指定予約で埋まらなかった空き枠やキャンセルが発生した時間枠を流用するだけでは、随時受診の受け入れ数に限界があることも懸念される。例えば、日時指定予約の患者だけで全部の枠が埋まり、しかもキャンセルが発生しなければ、随時受診患者を一切受け入れることができない。オンライン診療サービスのメニューに「日時指定予約」と「随時受診」の2種類が用意されているにもかかわらず、随時受診が実質申し込めないとなれば、顧客満足の低下につながるであろうし、景品表示法違反のリスクもある。そこで、本発明者らは、予約診療が予定時刻よりも早く終了して医師に空き時間が発生した場合に、その空き時間を随時受診の受け入れに活用してはどうかとの着想を得た。しかしながら、そのようにして生まれる空き時間は非常に短時間であることが多いため、上述したような診療時間の超過や遅延を起こさないように随時受診を組み込むのは容易ではない。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、オンライン診療のスケジューリングを適切に行うための新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、患者の端末と医師の端末とをネットワークを介して接続しオンライン診療を可能にするオンライン診療システムであって、受診を希望する第1の患者の端末に質問を送信し、前記第1の患者の端末から前記質問に対する回答を受信する問診手段と、前記回答に基づいて前記第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計手段と、オンライン診療の予約が入っている時間枠である予約済枠とオンライン診療の予約が入っていない時間枠である空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、前記診療時間推計手段により推計された前記第1の患者の予想診療時間が収まる空き枠を選択し、前記選択した空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング手段と、を有するオンライン診療システムを含む。
【0013】
前記診療時間推計手段は、前記回答に基づいて前記第1の患者の疾患を予想し、その予想疾患に基づいて前記第1の患者の予想診療時間を推計してもよい。
【0014】
前記診療時間推計手段は、前記予想疾患の診療時間の統計データを、前記第1の患者の予想診療時間の推計に利用してもよい。
【0015】
前記診療時間推計手段は、前記第1の患者が過去に受診したときの診療時間の統計データを、前記第1の患者の予想診療時間の推計に利用してもよい。
【0016】
前記診療時間推計手段は、前記第1の患者の診療を担当する医師の診療時間の統計デー
タを、前記第1の患者の予想診療時間の推計に利用してもよい。
【0017】
前記診療時間推計手段は、前記第1の患者が過去に受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間、および、前記第1の患者の診療を担当する医師の診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間、を少なくとも含む複数の予想診療時間のうちから、最も長いものを、前記第1の患者の予想診療時間として選択してもよい。
【0018】
前記スケジューリング手段は、前記第1の患者のオンライン診療を設定した時間枠よりも前に、前記第1の患者のオンライン診療の予想診療時間が収まる新規の空き枠が発生した場合に、前記新規の空き枠に前記第1の患者のオンライン診療を移動させてもよい。
【0019】
前記第1の患者のオンライン診療を設定した時間枠よりも前の時間枠で第2の患者のオンライン診療が実施され、且つ、前記第2の患者のオンライン診療が終了予定時刻を超過した場合に、前記スケジューリング手段は、前記第2の患者のオンライン診療の超過分による遅延を解消するために、前記第2の患者のオンライン診療の時間枠と前記第1の患者のオンライン診療の時間枠の間に存在する空き枠を短縮もしくは削除するか、または、前記第1の患者のオンライン診療を他の時間枠に移動させてもよい。
【0020】
本発明は、患者の端末にインストールされる患者用アプリであって、前記患者の端末を、上記のオンライン診療システムに対し、受診申込の要求を送信する手段、前記オンライン診療システムから送信される質問を前記患者に提示する手段、前記質問に対する回答を前記患者から受け付け、前記回答を前記オンライン診療システムに送信する手段、および、前記オンライン診療システムの前記スケジューリング手段によって設定された前記患者のオンライン診療の時間枠に関する情報を、前記患者に提示する手段、として機能させるための患者用アプリを含む。
【0021】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を有するオンライン診療システムとして捉えてもよいし、同システムの予約装置またはスケジューリング装置として捉えてもよい。また、本発明は、オンライン診療システムを利用するための患者用アプリとして捉えてもよいし、その患者用アプリがインストールされた情報通信装置として捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含むオンライン診療システムの制御方法、オンライン診療システムの予約制御方法もしくはスケジューリング方法、またはオンライン診療方法などと捉えてもよい。さらに、本発明は、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オンライン診療のスケジューリングを適切に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1はオンライン診療システムの全体構成の模式図である。
【
図2】
図2はオンライン診療システム、患者端末、医師端末それぞれの機能構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は日時指定予約における患者端末の画面遷移の例を示す図である。
【
図4】
図4は随時受診申込における患者端末の画面遷移の例を示す図である。
【
図5】
図5は随時受診申込の処理の流れを示す図である。
【
図6】
図6は発熱の症状問診シナリオの例を示す図である。
【
図7】
図7は発疹の症状問診シナリオの例を示す図である。
【
図8】
図8は目の痒みの症状問診シナリオの例を示す図である。
【
図9】
図9は予約テーブルと随時受診申込者リストの例を示す図である。
【
図11】
図11は終了予定時刻よりも早く終了した場合の更新処理の流れを示す図である。
【
図13】
図13は終了予定時刻を超過して終了した場合の更新処理の流れを示す図である。
【
図15】
図15はケース1における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【
図16】
図16はケース2における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【
図17】
図17はケース3における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【
図18】
図18はケース4における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【
図19】
図19はケース5における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【
図20】
図20はケース6における診療時間の推計ロジックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を具体的に例示する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の一具体例にすぎず、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0025】
<オンライン診療システム>
図1を参照して、本発明の実施形態に係るオンライン診療システムの全体構成を説明する。
図1は、オンライン診療システムの全体構成の模式図である。
【0026】
オンライン診療システム1は、インターネットを利用したオンライン診療サービスを提供するシステムである。オンライン診療とは、いわゆる遠隔医療の一種であり、患者の保有する患者端末2と医師の保有する医師端末3の間をネットワークを介して接続し、医師による患者の診察・診断、患者への診断結果の伝達や処方などの行為をリアルタイムに実施することをいう。ビデオ通話を利用する形態が多いが、音声通話のみで実施する形態も可能であるし、メタバースのような仮想空間を利用する形態も想定し得る。
【0027】
オンライン診療システム1は、例えば、患者からの受診予約や受診申込の受け付け、診療のスケジューリング、医師への診療予定の連絡、診療履歴の管理、患者の情報の管理、医師および病院の情報の管理などの役割を担う。
【0028】
オンライン診療システム1の運営形態には、大別して、1つの病院ないし病院グループが自院の患者用にシステムを運営する形態と、プラットフォーム事業者が運営するシステムに複数の病院や医師が登録する形態の2種類が想定される。本発明はいずれの運営形態にも適用可能である。前者の運営形態の場合、オンライン診療システム1が電子カルテなどの院内システムと連携してもよい。後者の運営形態の場合、オンライン診療システム1が、患者に対して医師や病院をレコメンドしたりマッチングしたりするサービス、登録医師や登録病院に対して診療に関するメタデータやビッグデータを提供するサービスなどを実施してもよい。なお、医療法上は病床の数によって「病院」と「診療所」を区別しているが、本明細書では病院と診療所の区別は行わず、すべて「病院」と呼称する。
【0029】
オンライン診療システム1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU
(Graphics Processing Unit)、メモリ、ストレージ、通信装置などを具備する汎用のサーバコンピュータにより構成される。後述するオンライン診療システム1の機能は、ストレージに格納されたプログラムをメモリに展開し、CPUがプログラムを実行することにより、ソフトウェア的に実現される。ただし、すべてをソフトウェア的に実現するのでは
なく、その一部ないし全部の機能を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの回路によって実現してもよい。また、サーバコンピュータの物理的な構成は任意であり、分散コンピューティング、仮想コンピューティング、クラウドコンピューティングなどを利用した構成を採用してもよい。
【0030】
患者が利用する患者端末2は、例えば、CPU、メモリ、ストレージ、通信装置、ディスプレイ、入力装置、マイク、スピーカなどを具備する汎用の情報通信機器により構成される。具体的には、PC、スマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、スマートグラスなどを患者端末2として利用することができる。これらの情報通信機器を患者端末2として利用するためには、オンライン診療サービスの提供者から配布されるプログラム(患者用アプリ)を情報通信機器に事前にインストールする必要がある。後述する患者端末2の機能は、ストレージに格納された患者用アプリをメモリに展開し、CPUが患者用アプリを実行することにより、ソフトウェア的に実現される。
【0031】
医師が利用する医師端末3は、例えば、CPU、メモリ、ストレージ、通信装置、ディスプレイ、入力装置、マイク、スピーカなどを具備する汎用の情報通信機器により構成される。具体的には、PC、スマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、スマートグラスなどを医師端末3として利用することができる。これらの情報通信機器を医師端末3として利用するためには、オンライン診療サービスの提供者から配布されるプログラム(医師用アプリ)を情報通信機器に事前にインストールする必要がある。後述する医師端末3の機能は、ストレージに格納された医師用アプリをメモリに展開し、CPUが医師用アプリを実行することにより、ソフトウェア的に実現される。
【0032】
なお、
図1には、患者端末2と医師端末3が1台ずつしか描かれていないが、実際には、複数の患者端末2および複数の医師端末3がオンライン診療サービスを利用可能である。
【0033】
<機能構成>
図2に、オンライン診療システム1、患者端末2、医師端末3それぞれの機能構成を模式的に示す。
【0034】
オンライン診療システム1は、主な構成として、受診受付部10、問診処理部11、診療時間推計部12、スケジューリング部13、診療予定管理部14、履歴データ記憶部15、通知部16などの処理モジュールを有する。受診受付部10は、患者端末2から受診の申込を受け付ける機能である。申込の方法には、「日時指定予約」と「随時受診申込」の2つの方法が用意されている。問診処理部11は、受診申込をする患者に対して問診を行う機能である。問診処理部11は、予め用意されている問診シナリオに従って、患者端末2に順に質問を表示し、患者に回答を入力させるという方法により、自動で(つまり医師の手を介さずに)問診を行う。診療時間推計部12は、問診の回答に基づいて患者の診療に要する予想診療時間を推計する機能である。スケジューリング部13は、オンライン診療のスケジューリングを行う機能である。診療予定管理部14は、医師ごとまたは病院ごとの診療予定が記録された予約テーブルを記憶し管理する機能である。予約テーブルは、例えば、向こう数カ月分のカレンダーに、オンライン診療の予約が入っている時間枠(「予約済枠」と呼ぶ。)とオンライン診療の予約が入っていない時間枠(「空き枠」と呼ぶ。)の情報が記録されたものである。履歴データ記憶部15は、オンライン診療システム1を利用して行われたオンライン診療の過去の診療データを蓄積しているデータベースである。診療データには、例えば、患者、医師、病院、疾患、診療の実施日時、診療時間などの情報が記録されている。患者、医師、病院、疾患、診療時間など、さまざまな条件を組み合わせて履歴データ記憶部15に問い合わせることで、過去の診療データを抽出す
ることが可能である。通知部16は、患者端末2および医師端末3に通知を行う機能である。通知の手段は、メール、SMS(Short Message Service)、患者用アプリや医師用
アプリのメッセージ、自動音声による通話などを利用できる。
【0035】
患者端末2は、主な構成として、受診申込処理部20、ビデオ通話部21、通知処理部22などの処理モジュールを有する。受診申込処理部20は、オンライン診療システム1に対しオンライン診療の受診の申込を行う機能である。ビデオ通話部21は、医師端末3との間でビデオ通話によるオンライン診療を実行する機能である。ビデオ通話部21は、ビデオ通話以外に、音声通話やチャット(メッセージ交換)の機能を提供してもよい。通知処理部22は、オンライン診療システム1および医師端末3からの通知の表示や、通知に対する返信などを行うための機能である。
【0036】
医師端末3は、主な機能として、診療情報取得部30、ビデオ通話部31、通知処理部32などの処理モジュールを有する。診療情報取得部30は、オンライン診療システム1から、医師に割り当てられたオンライン診療の情報を取得する機能である。例えば、患者の氏名・性別・年齢、患者の問診の回答、患者の過去の診療データ、診療の実施予定日・開始予定時刻・終了予定時刻などの情報が取得可能であるとよい。ビデオ通話部31は、患者端末2と医師端末3との間でビデオ通話を行うための機能である。ビデオ通話部31は、ビデオ通話以外に、音声通話やチャット(メッセージ交換)の機能を提供してもよい。通知処理部32は、オンライン診療システム1および患者端末2からの通知の表示や、通知に対する返信などを行うための機能である。
【0037】
<日時指定予約と随時受診申込>
本実施形態のオンライン診療システム1は、「日時指定予約」と「随時受診申込」の2種類の受診申込方法を有している点に一つの特徴がある。「日時指定予約」は、患者がオンライン診療の空き状況を確認しつつ、予約可能な時間枠のなかから希望の日時を指定して受診予約を行う方法である。「随時受診申込」は、日時の指定を行わない申込方法であり、システム側で最も早く受診可能な時間枠を自動的に割り当てる方法である。
【0038】
前述のとおり、日時指定予約は、空き枠や直前の予約キャンセルによる稼働率低下と、すぐに受診したいと希望する患者のニーズに応えることができないという課題がある。そこで、オンライン診療システム1では、日時指定予約と随時受診申込を組み合わせることにより、日時指定予約が抱えるこれらの課題を解決する。
【0039】
図3および
図4を参照して、日時指定予約と随時受診申込の流れの違いを説明する。
図3は、日時指定予約における患者端末2の画面遷移の例を示す図であり、
図4は、随時受診申込における患者端末2の画面遷移の例を示す図である。なお、
図3および
図4に示す画面は、患者端末2の受診申込処理部20が、オンライン診療システム1の受診受付部10および問診処理部11と連携(データを授受)し、患者端末2のディスプレイに表示するものである。例えば、オンライン診療システム1側で生成された画面を受診申込処理部20がブラウズする方法や、オンライン診療システム1から受信したデータを利用して受診申込処理部20が表示画面を生成する方法など、実装方法はいずれでもよい。
【0040】
(1)日時指定予約
患者が患者用アプリを起動し、オンライン診療の受診申込を選択すると、受診申込処理部20からオンライン診療システム1に対し受診申込要求が送信され、患者端末2のディスプレイに
図3の診療科選択画面200が表示される。診療科選択画面200上で患者が希望する診療科を選択すると、申込方法選択画面201に切り替わる。申込方法選択画面201では、「日時指定予約」と「随時受診申込」のいずれかを選択可能である。患者が日時指定予約を選択すると、日時指定画面202に切り替わる。
【0041】
日時指定画面202では、向こう数か月分のオンライン診療の空き状況、すなわち、オンライン診療の予約が入っていない時間枠(空き枠)を確認することができる。この空き枠の情報は、オンライン診療システム1の診療予定管理部14が管理している予約テーブルから抽出されるものである。日時指定画面202上で患者が受診を希望する日および時間枠を選択すると、患者情報入力画面203に切り替わる。患者情報入力画面203では、患者の氏名、生年月日、性別、電話番号などを入力させる。
【0042】
以上で予約の受付が完了する。予約情報は診療予定管理部14に引き渡され、診療予定管理部14によって予約テーブルの更新が行われる。
【0043】
その後、必要に応じて、保険証の情報登録、医療証の情報登録、書類や薬の届け先住所の登録、問診などを行う。これらの情報登録や問診は、オンライン診療の受診日までに行えばよい。
【0044】
(2)随時受診申込
患者が患者用アプリを起動し、オンライン診療の受診申込を選択すると、受診申込処理部20からオンライン診療システム1に対し受診申込要求が送信され、患者端末2のディスプレイに
図4の診療科選択画面200が表示される。診療科選択画面200上で患者が希望する診療科を選択すると、申込方法選択画面201に切り替わる。申込方法選択画面201では、「日時指定予約」と「随時受診申込」のいずれかを選択可能である。患者が随時受診申込を選択すると、患者情報入力画面203に切り替わる。
【0045】
患者情報入力画面203では、患者の氏名、生年月日、性別、電話番号などを入力させる。患者情報の入力が完了すると、保険証確認画面210に切り替わる。患者が患者端末2のカメラで保険証を撮影するか、保険証の画像データをアップロードすることにより、保険証の情報が登録される。患者が医療証等を持っている場合には、保険証と同様にして、医療証等の情報を登録することができる。次に、住所入力画面211に遷移するので、患者は、現住所の情報と、書類や薬の届け先住所の情報を入力する。
【0046】
その後、問診画面212に切り替わり、問診処理部11による問診が実施される。問診では、症状や既往症などの一般的な質問に加え、患者の疾患を予想(推定)するための質問も行われる。問診が完了すると、オンライン診療システム1のスケジューリング部13が、予約テーブルを参照して直近の空き状況を確認し、患者のオンライン診療の開始時刻と担当医師を決定する(具体的な処理は後述する)。
【0047】
以上で随時受診申込の受付が完了し、受付完了画面213が患者端末2に表示される。受付完了画面213では、オンライン診療の開始時刻(ただし、画面には「呼び出し時刻目安」と表示される。)と担当医師の情報が患者に通知される。
【0048】
<随時受診申込のフロー>
図5を参照して、随時受診申込における患者端末2およびオンライン診療システム1の処理の詳細を説明する。
図5は、問診の開始から随時受診申込の受付完了までの処理の流れを示している。
【0049】
ステップS500において、オンライン診療システム1の問診処理部11は、ストレージから問診シナリオを読み込む。問診シナリオとは、質問の内容(テキスト)と回答に応じた質問の分岐を定義するデータである。ストレージには診療科別・症状別に複数種類の問診シナリオが予め用意されている。例えば、患者が内科の受診を希望している場合には、内科用の一般問診シナリオと内科系疾患用の症状問診シナリオが読み込まれる。
【0050】
ステップS501において、問診処理部11は、問診シナリオに従って患者端末2に質問を送信する。一般問診シナリオに含まれる質問は、例えば、現在の症状、症状が出始めた時期、体温、持病や既往症、服薬やアレルギーの有無、喫煙や飲酒の状況などである。症状問診シナリオに含まれる質問は、症状から患者の疾患を予想するための手掛かりを確認する質問である。
【0051】
【0052】
図6は、「発熱」という症状を出発点として「感冒(風邪)」という予想疾患名を導くための症状問診シナリオである。「発熱」症状がみられる状態において、「38度以上の高熱が続いていますか?」、「発熱の症状は5日以上ですか?」、「咳が止まらないまたは息苦しさを感じている状態ですか?」、「激しい頭痛や意識が遠のく感じがありますか?」の4つの質問すべてに「NO」という回答であった場合、「感冒(風邪)」という予想疾患名が出力される。4つの質問のいずれか1つでも「YES」という回答であった場合は、「感冒(風邪)」ではないと判定し、他の症状問診シナリオの質問に移行する。
【0053】
図7は、「発疹」という症状を出発点として「蕁麻疹」という予想疾患名を導くための症状問診シナリオである。「発疹」症状がみられる状態において、「発疹ができたのは最近ですか?」、「発疹は中心がふくれていますか?」、「発疹がある部分はかゆみますか?」、「発疹は手足や体幹など広い範囲にできていますか?」の4つの質問すべてに「YES」という回答であった場合、「蕁麻疹」という予想疾患名が出力される。4つの質問のいずれか1つでも「NO」という回答であった場合は、「蕁麻疹」ではないと判定し、他の症状問診シナリオの質問に移行する。
【0054】
図8は、「目の痒み」という症状を出発点として「アレルギー性結膜炎」という予想疾患名を導くための症状問診シナリオである。「目の痒み」症状がみられる状態において、「視力や視界など見え方に異常がありますか?」、「白目の部分が真っ赤に充血していますか?」、「身の回りで同様の症状の人がいますか?また最近プールにいったりしましたか?
」、「花粉症やアトピー性皮膚炎、喘息などアレルギー性の病気を持っていますか?」の4つの質問すべてに「NO」という回答であった場合、「アレルギー性結膜炎」という予想疾患名が出力される。4つの質問のいずれか1つでも「YES」という回答であった場合は、「アレルギー性結膜炎」ではないと判定し、他の症状問診シナリオの質問に移行する。
【0055】
図5に戻り、処理の説明を続ける。ステップS550において、患者端末2の受診申込処理部20は、オンライン診療システム1から質問のデータを受信すると、問診画面212(
図4)をディスプレイに表示し、患者に質問を提示する。患者は、入力装置(例えばタッチパネル)を操作して、質問に対する回答を入力する。ステップS551において、受診申込処理部20は、患者から受け付けた回答をオンライン診療システム1に送信する。なお、1つの問診画面にすべての質問が収まりきらない場合には、質問の進行に応じて問診画面が切り替わる。
【0056】
ステップS502において、オンライン診療システム1の問診処理部11は、患者端末2から問診の回答を受信する。受信した回答データはメモリまたはストレージに格納され、後段の処理に供される。
【0057】
ステップS503において、診療時間推計部12は、まず、問診の回答に基づいて患者の疾患を予想する。具体的には、診療時間推計部12は、患者によって入力された問診の
回答を、症状問診シナリオ(
図6~
図8)に当てはめ、予想疾患名を得る。ここでは、
図6の症状問診シナリオを用いて「感冒(風邪)」という予想疾患名が得られた想定で、以降の説明を続ける。
【0058】
ステップS504において、診療時間推計部12は、診療予定管理部14に問合せ、本日診療を行っている医師のなかから、予想疾患「感冒(風邪)」の診療に対応可能な医師を選択する。なお、予想疾患に対応可能な医師が複数いる場合には、担当医師の候補を複数選択してもよい。
【0059】
ステップS505において、診療時間推計部12は、ステップS503で得られた予想疾患に基づいて、患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する。このとき、診療時間推計部12は、予想疾患の診療時間の統計データ、患者が過去に受診したときの診療時間の統計データ、および、患者の診療を担当する医師の診療時間の統計データのうち少なくとも1つ以上の統計データを利用して、患者の予想診療時間を推計するとよい。疾患の種類、患者の性格や属性、担当医師の性格やスキルなどが診療時間の長短に影響し得るからである。なお、担当医師の候補が複数いる場合には、候補ごとに予想診療時間を推計し、その中から最短の予想診療時間と担当医師の組合せを採用してもよい。診療時間推計処理の詳細は後述する。
【0060】
ステップS506において、スケジューリング部13は、診療予定管理部14の予約テーブルを参照し、担当医師の空き枠(オンライン診療の予約が入っていない時間枠)の情報を取得する。そして、スケジューリング部13は、担当医師の空き枠のうち、ステップS505で推計された予想診療時間が収まるもの(つまり、予想診療時間以上の時間幅の空き枠)を選択し、その空き枠に患者のオンライン診療を設定する。
【0061】
図9は、医師Xの予約テーブル90の例を示している。10:00~10:15は患者P1のオンライン診療の予約が入っている予約済枠91である。また、10:15~10:30には患者P2の予約済枠92、10:35~10:45には患者P3の予約済枠93、11:00~11:15には患者P4の予約済枠94が設定されている。10:30~10:35に5分間の空き枠95、10:45~11:00に15分間の空き枠96が存在し、11:15以降も空き枠97となっている。例えば、9:30に患者P5から随時受診申込を受け付け、患者P5の予想疾患が「感冒(風邪)」、その予想診療時間が「8.5分」であったと仮定する。スケジューリング部13は、予約テーブル90の空き枠95,96,97のうちから予想診療時間「8.5分」以上の長さの枠を選択する。
図9の例では、空き枠96と空き枠97が8.5分よりも長い。このように予想診療時間が収まる空き枠が複数存在する場合には、スケジューリング部13は、それらの空き枠96,97のうち開始時刻の早い空き枠を優先的に選択するとよい。「できる限り早く受診したい」という患者P5の要求を満たすためである。
図9の例の場合、10:45~11:00の空き枠96が選択される。
【0062】
ステップS507において、スケジューリング部13は、患者の随時受診申込に関する情報を随時受診申込者リスト98(
図9)に追加する。随時受診申込者リスト98は、本日、随時受診申込を行った患者の情報が記述されるリストである。記述される項目は、少なくとも、患者を一意に特定する情報(患者ID、患者名など)、随時受診申込を受け付けた時刻、予想診療時間を含む。
図9の例では、随時受診申込者リスト98に、患者P2と患者P5の情報が記述されている。すなわち、オンライン診療が予定されている患者P1~P5のうち、患者P1,P3,P4の3名が日時指定予約であること、患者P2とP5の2名が随時受診申込であり、患者P2の方が早く申込を行っていること、などがわかる。
【0063】
ステップS508において、スケジューリング部13は、ステップS506で設定したオンライン診療の開始時刻と担当医師の情報を患者端末2に送信する。
【0064】
以上で随時受診申込の受付が完了し、受付完了画面213が患者端末2に表示される(ステップS552)。受付完了画面213では、オンライン診療の診療開始時刻(ただし、確定した予約ではないため、画面には「呼び出し時刻目安」と表示される。)と担当医師の情報を確認することができる。
【0065】
<オンライン診療>
図10を参照して、患者と医師の間のオンライン診療の流れを説明する。オンライン診療の流れに関しては、日時指定予約の場合と随時受診申込の場合とで違いはない。以下、11:00~11:20に予約されているオンライン診療の処理を例にとり、説明を行う。
【0066】
ステップS600において、オンライン診療システム1の通知部16は、診療開始時刻である11:00の所定時間前(例えば10分前の10:50)になると、患者の患者端末2と医師の医師端末3の双方に診療通知メッセージを送信する。診療通知メッセージには、予約の内容が記述されているとともに、オンライン診療のビデオ通話を開始するためのハイパーリンク(以下「ビデオ通話リンク」と呼ぶ。)が記述されている。また、医師端末3に送信される診療通知メッセージには、患者の診療情報(例えば、問診データ、過去の診療データ、電子カルテなど)をダウンロードするためのハイパーリンク(以下「ダウンロードリンク」と呼ぶ。)が掲載されてもよい。
【0067】
ステップS610において、医師が医師端末3を操作して、診療通知メッセージに掲載されたダウンロードリンクをクリックすると、診療情報取得部30が患者の問診データや過去の診療データや電子カルテなどをダウンロードすることができる。
【0068】
ステップS611において、医師が医師端末3を操作して、診療通知メッセージに掲載されたビデオ通話リンクをクリックすると、患者の患者端末2にビデオ通話の呼び出しがかかる。ステップS620において、患者がビデオ通話に応答すると、患者端末2と医師端末3との間のオンライン診療が開始される。
図10のグレー領域がオンライン診療(ビデオ通話)が行われている期間を示している。なお、本実施形態では医師側から発呼する運用を想定しているが、患者側から発呼できるようにしてもよい。
【0069】
ステップS612では、医師端末3の通知処理部22が、患者とのビデオ通話を開始した旨の記録をオンライン診療システム1に連絡する。
【0070】
患者と医師はビデオ通話を利用することにより、お互いの顔を見ながらの対話が可能となる。医師は、必要に応じて問診データ、過去の診療データ、電子カルテなどを確認しつつ、患者から症状などをヒアリングする。オンライン診療が終了したら、医師側からビデオ通話を切断する(ステップS613)。ステップS614では、医師端末3の通知処理部22が、患者とのビデオ通話を終了した旨の記録をオンライン診療システム1に連絡する。ステップS615において、医師が医師端末3を操作して診療の記録を入力すると、その情報がオンライン診療システム1の履歴データ記憶部15や院内システムの電子カルテなどに送られる。
【0071】
ステップS601において、オンライン診療システム1が医師の医師端末3からビデオ通話を終了した旨の記録を受信すると、スケジューリング部13が医師の予約テーブルの更新処理を行う(詳しくは後述する)。
【0072】
なお、オンライン診療の終了後に、薬の処方や購入を行う機能に遷移したり、次回の診療の日時指定予約を行う機能に遷移してもよい。
【0073】
<予約テーブルの更新処理>
オンライン診療の終了後に行われる予約テーブルの更新処理(
図10のステップS601)には次の2種類の処理がある。一つ目は、オンライン診療が終了予定時刻よりも早く終了した場合の更新処理であり、二つ目は、オンライン診療が終了予定時刻を超過した場合の更新処理である。
【0074】
(1)終了予定時刻よりも早く終了した場合の更新処理
図11および
図12を参照して、終了予定時刻よりも早く終了した場合の更新処理の流れを説明する。
図11は、終了予定時刻よりも早く終了した場合の更新処理のフローチャートである。
図12は、予約テーブルと随時受診申込者リストの一例である。医師Xの予約テーブルに、予約1(11:00~11:20、患者P1)、予約2(11:25~11:40、患者P2)、予約3(11:40~12:00、患者P3)、予約4(12:00~12:10、患者P4)の4つの予定が設定されている状況において、予約1の患者P1の診療が11:10に終了した場合を例にとり、更新処理の流れを説明する。ここで、予約1(患者P1)と予約2(患者P2)は日時指定予約、予約3(患者P3)と予約4(患者P4)は随時受診申込であるものとする。また、患者P5からも随時受診申込を受けているが、現在のところ空き枠がないために、患者P5には時間枠が未だ設定されていない。すなわち、患者P5は「空き待ち」というステイタスである。
【0075】
ステップS700において、オンライン診療システム1のスケジューリング部13は、予約1の診療が11:10に終了したことを検知する。予定の時刻11:20よりも10分早く終了したことになる。すると、ステップS701において、スケジューリング部13は、予約1の次に入っている予約2の診療開始時刻を取得する。本例の場合、次の予約2の診療開始時刻は11:25である。
【0076】
スケジューリング部13は、予約1の終了時刻から予約2の開始時刻までの時間枠、すなわち、11:10~11:25の時間枠を、新規の空き枠に設定する(ステップS702)。そして、新規の空き枠の時間幅が所定値以上の場合には(ステップS703のYES)、ステップS705に進み、当該空き枠に随時受診を組み入れる処理を行う。他方、新規の空き枠の時間幅が所定値未満の場合には(ステップS703のNO)、ステップS704に進み、当該空き枠に予約不可フラグを設定する。「所定値」は最短の診療時間が収まる程度の長さ(例えば5分間)に設定されるとよい。予約不可フラグが付された時間枠は、随時受診の設定対象から除外される。非常に短い空き枠に無理に診療を組み入れると、診療時間の超過や遅延が発生する可能性が高い。予約不可フラグはそのようなリスクを回避するための工夫である。
【0077】
上記の例では、新規の空き枠の時間幅は15分であり、所定値(5分)よりも長いため、ステップS705へと進む。スケジューリング部13は、随時受診申込者リストを読み込み、申込受付時刻が最も早いものから順に予想診療時間と新規の空き枠の時間幅とを比較する。そして、予想診療時間が新規の空き枠内に収まるものが見つかったら、その診療を新規の空き枠に移動させる。
図12の例では、予約3の患者P3は予想診療時間が20分間であり、新規の空き枠の時間幅(15分)に収まらない。それゆえ、スケジューリング部13は、予想診療時間が10分間の患者P4の診療を新規の空き枠に移動させる。さらに、患者P4の診療が移動したことで、予約4の時間枠(12:00~12:10)が空くため、空き待ち状態であった患者P5の診療が空いた時間枠に設定される。診療開始時刻(呼び出し時刻目安)が変更になったことは、患者P4、P5にそれぞれ通知される(ステップS706)。
【0078】
以上述べた更新処理によって、患者P4は、より早い時刻にオンライン診療を受診できるようになるため、顧客満足を向上することができる。他方、オンライン診療サービスの提供者側にとっても、空いた時間枠を埋めるように自動でスケジュールの最適化が行われるため、稼働率を高めることができるというメリットがある。
【0079】
なお、ここでは、診療が終了予定時刻よりも早く終了した場合を想定したが、診療予約が直前でキャンセルとなり、その分の空き枠が発生した場合にも、同様のロジックで更新処理を行えばよい。
【0080】
(2)終了予定時刻を超過した場合の更新処理
図13および
図14を参照して、終了予定時刻を超過した場合の更新処理の流れを説明する。
図13は、終了予定時刻を超過した場合の更新処理のフローチャートである。
図14は、予約テーブルの一例である。予約テーブル14Aでは、予約1(11:00~11:15、患者P1)、予約2(11:15~11:30、患者P2)、予約3(11:30~11:45、患者P3)、予約4(11:45~12:00、患者P4)、予約5(12:15~12:30、患者P5)が設定されている。このうち、予約1(患者P1)、予約2(患者P2)、予約4(患者P4)、予約5(患者P5)が日時指定予約であり、予約3(患者P3)は随時受診申込であるものとする。12:00~12:15は空き枠である。この状況において、予約1の患者P1の診療が11:20に終了した場合(つまり、5分超過した場合)を例にとり、更新処理の流れを説明する。
【0081】
ステップS800において、オンライン診療システム1のスケジューリング部13は、予約1の診療が11:20に終了したことを検知する。予定の時刻11:15よりも5分超過したため、5分間の遅延が発生することとなる。
【0082】
ステップS801~S803のループ処理において、スケジューリング部13は、予約テーブル14Aから後続の時間枠を1つずつ選択していく。つまり、初回は予約2の時間枠が選択され、以降、予約3の時間枠→予約4の時間枠→空き枠→予約5の時間枠の順に選択されていく。ステップS801で選択された時間枠を以下「対象枠」と呼ぶ。
【0083】
ステップS802において、スケジューリング部13は、対象枠が、日時指定予約/随時受診申込/空き枠のいずれであるか判別し、処理を分岐させる。日時指定予約である場合、スケジューリング部13は、対象枠に設定された日時指定予約の開始時刻と終了時刻をそれぞれ遅延時間分(本例の場合5分間)ずつ繰り下げ(ステップS803)、再びステップS802に戻る。随時受診申込である場合、スケジューリング部13は、対象枠の随時受診申込を他の時間枠に移動させる(ステップS804)。これにより、対象枠は空き枠となる。対象枠が空き枠である場合(ステップS804により対象枠が空き枠に変更された場合を含む。)、スケジューリング部13は、空き枠を遅延時間分短縮するか空き枠を削除し(ステップS805)、ループ処理を抜ける。なお、「空き枠を削除」とは、空き枠に予約を設定できないようにすることであり、具体的には、該当する時間枠に予約不可フラグを付加することである。
【0084】
予約テーブル14Aの場合、まず対象枠として予約2の時間枠が選択され(ステップS802)、予約2の診療時間が11:15~11:30から11:20~11:35に繰り下げられる(ステップS803)。次に対象枠として予約3の時間枠が選択される(ステップS802)。予約3は随時受診申込であるため、予約3の診療は12:00~12:15の空き枠に移される(ステップS804)。そして、予約3が移動したことにより空き枠となった11:30~11:45の時間枠は、遅延時間分だけ短縮され、11:35~11:45の空き枠として残る(ステップS805)。以上の調整の結果、予約2の
診療開始は遅れるものの、予約4および予約5については予定通り診療を実施することが可能となる。このように、随時受診申込の時間枠を他に移動させる方法で遅延時間をキャンセルすることによって、日時指定予約の時間枠に与える影響を可及的に小さくしつつ、遅延調整を行うことができる。
【0085】
別の例として、
図14の予約テーブル14Bの場合の遅延調整について説明する。予約テーブル14Bと予約テーブル14Aとの違いは、予約2と予約3の間に10分間の空き枠が存在する点と、予約3が日時指定、予約4が随時受診である点である。予約テーブル14Bの場合、まず対象枠として予約2の時間枠が選択され(ステップS802)、予約2の診療時間が11:15~11:30から11:20~11:35に繰り下げられる(ステップS803)。次に対象枠として空き枠が選択される(ステップS802)。空き枠は10分間であり、遅延時間は5分間であるから、遅延時間分だけ空き枠を短縮すると残りは5分となり、オンライン診療を設定できる余裕がない。したがって、短縮後の空き枠(11:35~11:40)には予約不可フラグが付される(ステップS805)。以上の調整の結果、予約2の診療開始は遅れるものの、予約3、予約4および予約5については予定通り診療を実施することが可能となる。このように、空き枠を短縮ないし削除する方法で遅延時間をキャンセルすることによって、日時指定予約の時間枠および随時受診申込の時間枠に与える影響を可及的に小さくしつつ、遅延調整を行うことができる。
【0086】
以上の遅延調整の結果、診療開始時刻が変更になった患者に対しては、通知部16から変更後の診療開始時刻(呼び出し時刻目安)が通知される(ステップS806)。
【0087】
<診療時間の推計処理の例>
診療時間推計部12による予想診療時間の推計処理の具体例について説明する。
【0088】
オンライン診療システム1の履歴データ記憶部15には、オンライン診療の過去の診療データが蓄積されている。診療データには、例えば、患者、医師、病院、疾患、診療の実施日時、診療時間などの情報が記録されている。本実施形態の診療時間推計部12は、履歴データ記憶部15から取得可能な過去の診療データを活用することによって、予想診療時間の高精度な予測を実現する。
【0089】
「患者A」から随時受診申込があり、問診の結果、「予想疾患V」、「担当医師X」と決定されたと想定する。患者Aおよび医師Xの診療履歴の有無によって活用できるデータが異なるため、以下、場合分けして説明する。
【0090】
(ケース1)
ケース1は、患者Aが疾患Vで受診したことがあり、医師Xが疾患Vの診療を行ったことがある、というケースである。
【0091】
ケース1では、診療時間推計部12は、患者Aが疾患Vで受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間と、医師Xが疾患Vの診療を行ったときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間のうち長い方を採用する。
【0092】
図15にケース1の推計ロジックの一例を示す。患者Aの受診履歴から、患者Aが過去に疾患Vでオンライン診療を受けたことが4回あるという情報が得られる。診療時間推計部12は、この4回分の実績診療時間の平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を患者Aの統計データに基づく予想診療時間とする。他方、医師Xの診療履歴から、医師Xが過去に疾患Vのオンライン診療を7回実施したことがあるという情報が得られる。診療時間推計部12は、この7回分の実績診療時間の平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を医師Xの統計データに基づく予想診療時間とする。
図15の例では、患者A
の統計データに基づく予想診療時間が9.7分、医師Xの統計データに基づく予想診療時間が13.4分であるため、最終的に、患者Aの予想診療時間は13.4分と求まる。
【0093】
(ケース2)
ケース2は、患者Aが疾患Vで受診したことがあり、医師Xは疾患Vの診療を行ったことはないが他の疾患の診療を行ったことがある、というケースである。
【0094】
ケース2では、医師Xの疾患Vの診療履歴が無い。そこで、医師Xの全疾患に関する診療時間の統計データと、病院全体の全疾患に関する診療時間の統計データに基づいて、医師Xの診療時間が全体平均に比べて長いか短いかの傾向を得る。そして、患者Aが疾患Vで受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間をベース値とし、これに医師Xの診療時間の傾向を考慮した補正を掛けることで、最終的な予想診療時間を求める。これにより患者Aと医師Xの傾向や特性を考慮した推計が可能となる。
【0095】
図16にケース2の推計ロジックの一例を示す。患者Aの受診履歴から、患者Aが過去に疾患Vでオンライン診療を受けたことが4回あるという情報が得られる。診療時間推計部12は、この4回分の実績診療時間の平均および標準偏差を計算し、「平均+2σ」を予想診療時間のベース値とする。この例ではベース値は9.7分と求まる。他方、診療時間推計部12は、医師Xの診療履歴に基づいて、医師Xの全疾患に関する診療時間の平均を計算し、病院全体の平均に対する比から、補正係数を求める。医師Xが全体平均に比べて診療時間が長くなる傾向にあると係数は1より大きくなり、短い傾向にあると係数は1より小さくなる。この例では、医師Xの平均診療時間が10.4分、病院全体の平均診療時間が9.5分であり、補正係数は10.4/9.5=1.096と求まる。そして、診療時間推計部12は、ベース値に補正係数を乗算し、最終的に、患者Aの予想診療時間は9.7×1.096=10.7分と求まる。
【0096】
なお、病院全体の統計データを算出する際に利用する診療データは、医師Xが所属する病院で蓄積された診療データだけでもよいし、他の病院(例えば、病院グループ、連携医療機関など)で蓄積された診療データや、オンライン診療システム1に蓄積された多数の登録病院の診療データなどを利用してもよい。あるいは、論文等のエビデンスに基づくデータを利用してもよい。他のケースでの推計ロジックについても同様である。
【0097】
(ケース3)
ケース3は、患者Aは疾患Vで受診したことはないが他の疾患で受診したことがあり、医師Xは疾患Vの診療を行ったことがある、というケースである。
【0098】
ケース3では、患者Aの疾患Vでの受診履歴が無い。そこで、患者Aの全疾患に関する診療時間の統計データと、病院全体の全疾患に関する診療時間の統計データに基づいて、患者Aの診療時間が全体平均に比べて長いか短いかの傾向を得る。そして、医師Xが疾患Vを診療したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間をベース値とし、これに患者Aの診療時間の傾向を考慮した補正を掛けることで、最終的な予想診療時間を求める。これにより患者Aと医師Xの傾向や特性を考慮した推計が可能となる。
【0099】
図17にケース3の推計ロジックの一例を示す。医師Xの診療履歴から、医師Xが過去に疾患Vのオンライン診療を3回実施したことがあるという情報が得られる。診療時間推計部12は、この3回分の実績診療時間の平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を予想診療時間のベース値とする。この例ではベース値は15.3分と求まる。他方、診療時間推計部12は、患者Aの受診履歴に基づいて、患者Aの全疾患に関する診療時間の平均を計算し、病院全体の平均に対する比から、補正係数を求める。患者Aが全体平均に比べて診療時間が長くなる傾向にあると係数は1より大きくなり、短い傾向にあると係
数は1より小さくなる。この例では、患者Aの平均診療時間が6.9分、病院全体の平均診療時間が9.5分であり、補正係数は6.9/9.5=0.724と求まる。そして、診療時間推計部12は、ベース値に補正係数を乗算し、最終的に、患者Aの予想診療時間は15.3×0.724=11.1分と求まる。
【0100】
(ケース4)
ケース4は、患者Aは疾患Vで受診したことはないが他の疾患で受診したことがあり、医師Xは疾患Vの診療を行ったことはないが他の疾患の診療を行ったことがある、というケースである。
【0101】
ケース4では、患者A、医師Xともに、疾患Vの診療の履歴が無い。そこで、全患者の疾患Vでの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間をベース値とし、これに患者Aまたは医師Xの傾向や特性を考慮した補正を掛けることで、最終的な予想診療時間を求める。これによりある程度妥当な時間を見積もることができる。
【0102】
図18にケース4の推計ロジックの一例を示す。診療時間推計部12は、オンライン診療サービスに蓄積された全ての患者の診療データから、疾患Vでの実績診療時間を抽出し、その平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を予想診療時間のベース値とする。この例ではベース値は12.3分と求まる。他方、診療時間推計部12は、患者Aの受診履歴に基づいて、患者Aの全疾患に関する診療時間の平均を計算し、病院全体の平均に対する比から、第1の補正係数を求める。また、診療時間推計部12は、医師Xの診療履歴に基づいて、医師Xの全疾患に関する診療時間の平均を計算し、病院全体の平均に対する比から、第2の補正係数を求める。診療時間推計部12は、患者Aの傾向を反映した第1の補正係数と、医師Xの傾向を反映した第2の補正係数のうち、大きい方を採用する。この例では、第1の補正係数が0.724、第2の補正係数が1.095であるため、第2の補正係数が採用される。そして、診療時間推計部12は、ベース値に補正係数を乗算し、最終的に、患者Aの予想診療時間は12.3×1.095=13.5分と求まる。
【0103】
(ケース5)
ケース5は、患者Aに受診履歴がなく(初診)、医師Xは疾患Vの診療を行ったことがある、というケースである。
【0104】
ケース5では、患者Aのデータが一切なく、患者Aの傾向や特性を把握することができない。したがって、医師Xの疾患Vの診療時間の統計データのみから予想診療時間を推計する。
【0105】
図19にケース5の推計ロジックの一例を示す。医師Xの診療履歴から、医師Xが過去に疾患Vのオンライン診療を7回実施したことがあるという情報が得られる。診療時間推計部12は、この7回分の実績診療時間の平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を予想診療時間とする。この例では、患者Aの予想診療時間は13.4分と求まる。
【0106】
(ケース6)
ケース6は、患者Aに受診履歴がなく(初診)、医師Xは疾患Vの診療を行ったことはないが他の疾患の診療を行ったことがある、というケースである。
【0107】
ケース6では、患者Aのデータが一切なく、患者Aの傾向や特性を把握することができない。また、医師Xについても、疾患Vの診療の履歴が無い。そこで、全患者の疾患Vでの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間をベース値とし、これに医師Xの傾向や特性を考慮した補正を掛けることで、最終的な予想診療時間を求める。
【0108】
図20にケース6の推計ロジックの一例を示す。診療時間推計部12は、オンライン診療サービスに蓄積された全ての患者の診療データから、疾患Vでの実績診療時間を抽出し、その平均および標準偏差σを計算し、「平均+2σ」を予想診療時間のベース値とする。この例ではベース値は12.3分と求まる。他方、診療時間推計部12は、医師Xの診療履歴に基づいて、医師Xの全疾患に関する診療時間の平均を計算し、病院全体の平均に対する比から、補正係数を求める。この例では、医師Xの平均診療時間が10.4分、病院全体の平均診療時間が9.5分であり、補正係数は10.4/9.5=1.096と求まる。そして、診療時間推計部12は、ベース値に補正係数を乗算し、最終的に、患者Aの予想診療時間は12.3×1.096=13.5分と求まる。
【0109】
(その他のケース)
ケース1~6以外の場合は、予想診療時間の推計に利用可能なデータが無い。したがって、予想診療時間は固定値(例えば15分)とする。
【0110】
<本実施形態のまとめ>
本実施形態に係るオンライン診療システム1の主な特徴を以下に記す。
【0111】
オンライン診療システム1は、受診を希望する第1の患者の患者端末2に質問を送信し、患者端末2から質問に対する回答を受信する問診処理部11と、その回答に基づいて第1の患者のオンライン診療に要する予想診療時間を推計する診療時間推計部12と、予約済枠と空き枠とを管理する予約テーブルを参照して、推計した予想診療時間が収まる空き枠を選択し、その選択した空き枠に第1の患者のオンライン診療を設定するスケジューリング部13と、を備える。本システム1は、受診の希望を受け付けたときに、予約テーブル上の空き枠を探してオンライン診療を組み入れる、いわゆる随時受診申込の機能を有するので、日時指定予約のみの構成に比べて、稼働率の向上を図ることが期待できる。また、随時受診を希望する患者のニーズに応えることができるため、サービスの利用機会を増やし、サービス全体としての顧客満足度を向上することができる。さらに、オンライン診療システム1は、患者の問診結果から予想診療時間を推計し、その予想診療時間が収まる空き枠を選んで診療のスケジューリングを行う。したがって、随時受診を組み込むことに起因する診療時間の遅延や日時指定予約者への影響を可及的に抑制し、日時指定予約と随時受診申込の円滑なハイブリッド運用が実現できる。
【0112】
診療時間推計部12は、問診の回答に基づいて第1の患者の疾患を予想し、その予想疾患に基づいて予想診療時間を推計する。診療時間に影響を与える要因はいくつかあるが、その中でも、疾患の種類は診療時間の長短に最も影響が大きいと考えられる。したがって、問診の回答から疾患を予想するという手順を採用することにより、ある程度の確度・信頼度で診療時間を推計することが可能となり、より妥当なスケジューリングが実現できる。
【0113】
診療時間推計部12は、予想疾患の診療時間の統計データを、予想診療時間の推計に利用する。これにより、診療時間の推計の確度および信頼度を向上することができる。なお、上記の例では、統計データとして「平均+2σ」を計算したが、他の統計データ、例えば、平均、分散、標準偏差、中間値、最頻値、最小値、最大値などを用いてもよい。なお、上記の例のように「+2σ」のマージンを持たせ、診療時間を長めに見積もることにより、診療時間の超過による遅延発生のリスクを下げることができる。ただし、稼働率の最大化を優先するのであれば、マージンを小さくし、「平均」や「平均+σ」を予想診療時間として用いてもよい。
【0114】
診療時間推計部12は、第1の患者が過去に受診したときの診療時間の統計データを予想診療時間の推計に利用する。患者の傾向や特性を考慮することにより、診療時間の推計
の確度および信頼度を一層向上することができる。
【0115】
また、診療時間推計部12は、第1の患者の診療を担当する医師の診療時間の統計データを予想診療時間の推計に利用する。医師の傾向や特性を考慮することにより、診療時間の推計の確度および信頼度を一層向上することができる。
【0116】
また、診療時間推計部12は、第1の患者が過去に受診したときの診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間、および、第1の患者の診療を担当する医師の診療時間の統計データを利用して推計した予想診療時間、を少なくとも含む複数の予想診療時間のうちから、最も長いものを、予想診療時間として選択する(
図15)。複数の方法で求めた予想診療時間を比較考量することで、より妥当な予想診療時間を得ることができる。また、診療時間を長めに見積もることにより、診療時間の超過による遅延発生のリスクを下げることができる。
【0117】
スケジューリング部13は、第1の患者のオンライン診療を設定した時間枠よりも前に、予想診療時間が収まる新規の空き枠が発生した場合に、その新規の空き枠に第1の患者のオンライン診療を移動させる(
図12)。このようなスケジュールの更新を行うことにより、第1の患者は、より早い時刻にオンライン診療を受診できるようになるため、顧客満足を向上することができる。他方、オンライン診療サービスの提供者側にとっても、予約診療が予定時刻よりも早く終了することで生まれた短い空き時間を埋めるように自動でスケジュールの最適化が行われるため、稼働率を高めることができるというメリットがある。
【0118】
第1の患者のオンライン診療を設定した時間枠よりも前の時間枠で第2の患者のオンライン診療が実施され、且つ、第2の患者のオンライン診療が終了予定時刻を超過した場合に、スケジューリング部13は、第2の患者のオンライン診療の超過分による遅延を解消するために、第2の患者のオンライン診療の時間枠と第1の患者のオンライン診療の時間枠の間に存在する空き枠を短縮もしくは削除するか(
図14の予約テーブル14Bの更新)、または、第1の患者のオンライン診療を他の時間枠に移動させる(
図14の予約テーブル14Aの子往診)。このように、空き枠を短縮もしくは削除する方法や随時受診申込の時間枠を他に移動させる方法で遅延時間をキャンセルすることによって、日時指定予約の時間枠に与える影響を可及的に小さくしつつ、遅延調整を行うことができる。
【0119】
なお、上記実施形態で説明した予想診療時間の推計アルゴリズムはあくまで一具体例であり、他の推計アルゴリズムを採用し得ることは言うまでもない。例えば、上記実施形態では過去の実績診療時間の「平均+2σ」を予想診療時間として用いたが、予想診療時間の推計に用いる数式や関数やパラメータは任意に設計できる。例えば、単純な算術平均の代わりに、移動平均、加重平均、中間値などを用いてもよい。あるいは、指数平滑法や回帰分析を利用して、過去の実績診療時間から予想診療時間を推計してもよい。また、予想診療時間(予測値)と実際に診療にかかった時間(実測値)の間に誤差があった場合には、予測値と実測値の間の誤差を基に(つまり誤差を小さくする方向に)、予想診療時間の推計に用いる数式や関数やパラメータを最適化(ファインチューニング)してもよい。また、医師や患者の傾向に基づく補正方法として、上記実施形態では全体平均との乖離率を用いているが、この補正に用いる数式や関数やパラメータも任意に設計してよいし、予測値と実測値の間の誤差を基に、補正に用いる数式や関数やパラメータを最適化してもよい。なお、予想診療時間の推計に用いるパラメータ、および、医師や患者の傾向に基づく補正に用いるパラメータとしては、診療時間に影響を与える因子であればいかなるパラメータを用いてもよい。一例を挙げれば、年齢、性別、職業、基礎疾患の有無などのパラメータを診療時間の推計に利用してもよい。なお、予想診療時間の推計処理、および/または、数式や関数やパラメータの最適化作業に、AI(人工知能)を利用してもよい。
【符号の説明】
【0120】
1:オンライン診療システム
2:患者端末
3:医師端末