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特許7495463スピン流磁化反転素子、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁化反転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】スピン流磁化反転素子、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁化反転方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/20 20230101AFI20240528BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240528BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20240528BHJP
   H10N 50/85 20230101ALI20240528BHJP
【FI】
H10N50/20
H01L29/82 Z
H10B61/00
H10N50/85
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022164291
(22)【出願日】2022-10-12
(62)【分割の表示】P 2021028881の分割
【原出願日】2016-11-25
(65)【公開番号】P2022185126
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2015232334
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016053072
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016056058
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016210531
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016210533
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-045196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0036415(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0213869(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0056060(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02833364(EP,A2)
【文献】国際公開第2015/116417(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0041934(US,A1)
【文献】特開2014-179618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/20
H01L 29/82
H10B 61/00
H10N 50/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化の向きが可変な第2強磁性金属層と、
前記第2強磁性金属層の面直方向に対して交差する方向に延在し、前記第2強磁性金属層に接合するスピン軌道トルク配線と、を備え、
前記スピン軌道トルク配線が、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号の非磁性の重金属を90%以上含むか、又は、前記重金属を0%より大きくかつ10%以下で含み、
前記スピン軌道トルク配線が3%以下の磁性金属を含む、スピン流磁化反転素子。
【請求項2】
前記スピン軌道トルク配線は、純スピン流を生成する材料からなる純スピン流生成部と、該純スピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなる低抵抗部とからなり、該純スピン流生成部の少なくとも一部が前記第2強磁性金属層と接している、請求項1に記載のスピン流磁化反転素子。
【請求項3】
前記スピン軌道トルク配線に含まれる重金属の濃度が低い場合、軽金属中に重金属の原子が無秩序に分散している、請求項1又は2のいずれかに記載のスピン流磁化反転素子。
【請求項4】
前記スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×10A/cm未満である、請求項1からのいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子と、前記第2強磁性金属層の前記スピン軌道トルク配線とは反対側に接合された非磁性層と、該非磁性層に接合された、磁化の向きが固定された第1強磁性金属層と、を備えた、磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項に記載の磁気抵抗効果素子を複数備えた磁気メモリ。
【請求項7】
前記スピン軌道トルク配線の電源に電流を印加した後に、前記磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加する、請求項に記載の磁気抵抗効果素子における磁化反転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン流磁化反転素子、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁化反転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子及び非磁性層として絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が知られている。一般に、TMR素子はGMR素子と比較して素子抵抗が高いものの、TMR素子の磁気抵抗(MR)比はGMR素子のMR比より大きい。そのため、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として、TMR素子に注目が集まっている。
【0003】
MRAMの書き込み方式としては、電流が作る磁場を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式や磁気抵抗素子の積層方向に電流を流して生ずるスピントランスファートルク(STT)を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式が知られている。
磁場を利用する方式では、素子サイズが小さくなると、細い配線に流すことができる電流では書き込みができなくなるという問題がある。
これに対して、スピントランスファートルク(STT)を利用する方式では、一方の強磁性層(固定層、参照層)が電流をスピン分極させ、その電流のスピンがもう一方の強磁性層(自由層、記録層)の磁化に移行され、その際に生じるトルク(STT)によって書き込み(磁化反転)が行われるが、素子サイズが小さくなるほど書き込みに必要な電流が小さくて済むという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】I.M.Miron,K.Garello,G.Gaudin,P.-J.Zermatten,M.V.Costache,S.Auffret,S.Bandiera,B.Rodmacq,A.Schuhl,and P.Gambardella,Nature,476,189(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
STTを用いたTMR素子の磁化反転はエネルギーの効率の視点から考えると効率的ではあるが、磁化反転をさせるための反転電流密度が高い。TMR素子の長寿命の観点からはこの反転電流密度は低いことが望ましい。この点は、GMR素子についても同様である。
従って、TMR素子及びGMR素子のいずれの磁気抵抗効果素子においても、この磁気抵抗効果素子に流れる電流密度を低減することが望まれる。
【0006】
近年、スピン軌道相互作用して生成された純スピン流を利用した磁化反転も応用上可能であると提唱されている(例えば、非特許文献1)。スピン軌道相互作用によって生じた純スピン流は、スピン軌道トルク(SOT)を誘起し、SOTの大きさにより磁化反転を起こすことができる。純スピン流は上向きスピンの電子と下向きスピン電子が同数で互いに逆向きに流れることで生み出されるものであり、電荷の流れは相殺されているため磁気抵抗効果素子を流れる電流としてはゼロである。この純スピン流だけで磁化反転させることができれば、電流はゼロなので磁気抵抗効果素子の長寿命化を図ることができる。あるいは、磁化反転にSTTも利用し、かつ、純スピン流によるSOTを利用することができれば、純スピン流によるSOTを利用する分、STTに使う電流を低減することができ、磁気抵抗効果素子の長寿命化を図ることができると考えられる。STT及びSOTを両方利用する場合も、SOTを利用する割合が高いほど、磁気抵抗効果素子の長寿命化を図ることができると考えられる。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、純スピン流による磁化反転を利用するスピン流磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。また磁気抵抗効果素子の磁化反転を純スピン流を利用して行う磁化反転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は、磁化の向きが固定された第1強磁性金属層と、磁化の向きが可変な第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層及び第2強磁性金属層に挟持された非磁性層とを有する磁気抵抗効果素子と、該磁気抵抗効果素子の積層方向に対して交差する方向に延在し、前記第2強磁性金属層に接合するスピン軌道トルク配線と、を備え、前記磁気抵抗効果素子と前記スピン軌道トルク配線とが接合する部分において、前記磁気抵抗効果素子に流れる電流と前記スピン軌道トルク配線に流れる電流が合流し、または、分配される。
【0010】
(2)上記(1)に記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の非磁性金属を含んでもよい。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線は、純スピン流を生成する材料からなる純スピン流生成部と、該純スピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなる低抵抗部とからなり、該純スピン流生成部の少なくとも一部が前記第2強磁性金属層と接していてもよい。
【0012】
(4)上記(1)~(3)に記載の磁気抵抗効果素子において、記スピン軌道トルク配線は、磁性金属を含んでもよい。
【0013】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線と前記第2強磁性金属層との間にキャップ層を有し、前記スピン軌道トルク配線と前記第2強磁性金属層とは前記キャップ層を介して接合されていてもよい。
【0014】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線は、前記第2強磁性金属層の側壁に接合する側壁接合部を有してもよい。
【0015】
(7)本発明の一態様に係る磁気メモリは、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0016】
(8)本発明の一態様に係る磁化反転方法は、上記(1)~(6)に記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×10A/cm未満とする。
【0017】
(9)本発明の一態様に係る磁化反転方法は、上記(1)~(6)に記載の磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線の電源に電流が印加した後に、前記磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加する。
【0018】
(10)本発明の一態様に係るスピン流磁化反転素子は、磁化の向きが可変な第2強磁性金属層と、前記第2強磁性金属層の面直方向に対して交差する方向に延在し、前記第2強磁性金属層に接合するスピン軌道トルク配線と、を備え、前記スピン軌道トルク配線は、純スピン流を生成する材料からなる純スピン流生成部と、該純スピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなる低抵抗部とからなり、該純スピン流生成部の少なくとも一部が前記第2強磁性金属層と接している。
【発明の効果】
【0019】
本発明の磁気抵抗効果素子によれば、磁気抵抗効果素子を流れる反転電流密度を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を模式的に示した斜視図である。
図2】スピンホール効果について説明するための模式図である。
図3】スピン軌道トルク配線の一実施形態を説明するための模式図であり、(a)は断面図であり、(b)は平面図である。
図4】スピン軌道トルク配線の他の実施形態を説明するための模式図であり、(a)は断面図であり、(b)は平面図である。
図5】スピン軌道トルク配線の他の実施形態を説明するための模式図であり、(a)は断面図であり、(b)は平面図である。
図6】スピン軌道トルク配線の他の実施形態を説明するための模式図であり、(a)は断面図であり、(b)は平面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子をyz平面で切断した断面模式図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子をyz平面で切断した断面模式図である。
図9】本発明の他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子をyz平面で切断した断面模式図である。
図10】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を模式的に示した斜視図である。
図11】本発明の一実施形態に係るスピン流磁化反転素子を模式的に示した斜視図である。
図12】本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(磁気抵抗効果素子)
図1は、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子を模式的に示した斜視図である。
本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子100は、磁気抵抗効果素子20と、該磁気抵抗効果素子20の積層方向に対して交差する方向に延在し、磁気抵抗効果素子20に接合するスピン軌道トルク配線40とを有する。
図1を含めて以下では、スピン軌道トルク配線が磁気抵抗効果素子の積層方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
図1においては、磁気抵抗効果素子20の積層方向に電流を流すための配線30と、その配線30を形成する基板10と、キャップ層も示している。
以下、磁気抵抗効果素子20の積層方向をz方向、z方向と垂直でスピン軌道トルク配線40と平行な方向をx方向、x方向及びz方向と直交する方向をy方向とする。
【0023】
<磁気抵抗効果素子>
磁気抵抗効果素子20は、磁化の向きが固定された第1強磁性金属層21と、磁化の向きが可変な第2強磁性金属層23と、第1強磁性金属層21及び第2強磁性金属層23に挟持された非磁性層22とを有する。
第1強磁性金属層21の磁化が一方向に固定され、第2強磁性金属層23の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子20として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第1強磁性金属層の保持力は第2強磁性金属層の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第1強磁性金属層では反強磁性層との交換結合によって磁化の向きが固定される。
また、磁気抵抗効果素子20は、非磁性層22が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層22が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
【0024】
本発明が備える磁気抵抗効果素子としては、公知の磁気抵抗効果素子の構成を用いることができる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第1強磁性金属層の磁化の向きを固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。
第1強磁性金属層21は固定層や参照層、第2強磁性金属層23は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0025】
第1強磁性金属層21及び第2強磁性金属層23は、磁化方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。
【0026】
第1強磁性金属層21の材料には、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co-FeやCo-Fe-Bが挙げられる。
【0027】
また、より高い出力を得るためにはCoFeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、XYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoMnSiやCoMn1-aFeAlSi1-bなどが挙げられる。
【0028】
また、第1強磁性金属層21の第2強磁性金属層23に対する保磁力をより大きくするために、第1強磁性金属層21と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第1強磁性金属層21の漏れ磁場を第2強磁性金属層23に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0029】
さらに第1強磁性金属層21の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、第1強磁性金属層21は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0030】
第2強磁性金属層23の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feが挙げられる。
【0031】
第2強磁性金属層23の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第2強磁性金属層の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第2強磁性金属層23と非磁性層層22の界面で、第2強磁性金属層23に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第2強磁性金属層23の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第2強磁性金属層23の膜厚は薄い方が好ましい。
【0032】
非磁性層22には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層22が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al、SiO、MgO、及び、MgAl等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAlはコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層22が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0033】
また、第2強磁性金属層23の非磁性層22と反対側の面には、図1に示すようにキャップ層24が形成されていることが好ましい。キャップ層24は、第2強磁性金属層23からの元素の拡散を抑制することができる。またキャップ層24は、磁気抵抗効果素子20の各層の結晶配向性にも寄与する。その結果、キャップ層24を設けることで、磁気抵抗効果素子20の第1強磁性金属層21及び第2強磁性金属層23の磁性を安定化し、磁気抵抗効果素子20を低抵抗化することができる。
【0034】
キャップ層24には、導電性が高い材料を用いることが好ましい。例えば、Ru、Ta、Cu、Ag、Au等を用いることができる。キャップ層24の結晶構造は、隣接する強磁性金属層の結晶構造に合せて、fcc構造、hcp構造またはbcc構造から適宜設定することが好ましい。
【0035】
また、キャップ層24には、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウムからなる群から選択されるいずれかを用いることが好ましい。詳細は後述するが、キャップ層24を介してスピン軌道トルク配線40と磁気抵抗効果素子20が接続される場合、キャップ層24はスピン軌道トルク配線40から伝播するスピンを散逸しないことが好ましい。銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
【0036】
キャップ層24の厚みは、キャップ層24を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。キャップ層24の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線40から伝播するスピンを磁気抵抗効果素子20に十分伝えることができる。
【0037】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線は、磁気抵抗効果素子の積層方向に対して交差する方向に延在する。スピン軌道トルク配線は、該スピン軌道トルク配線に磁気抵抗効果素子の積層方向に対して直交する方向に電流を流す電源に電気的に接続され、その電源と共に、磁気抵抗効果素子に純スピン流を注入するスピン注入手段として機能する。
スピン軌道トルク配線40は、第2強磁性金属層23に直接接続されていてもよいし、他の層を介して例えば、図1に示すようにキャップ層24を介して接続されていてもよい。
【0038】
スピン軌道トルク配線は、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線中に純スピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、純スピン流が生成される材料で構成される部分と純スピン流が生成されない材料で構成される部分とからなるもの等であってもよい。
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
【0039】
図2は、スピンホール効果について説明するための模式図である。図2に基づいてスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
【0040】
図2に示すように、スピン軌道トルク配線40の延在方向に電流Iを流すと、上向きスピンS(S1)と下向きスピンS(S2)はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
非磁性体(強磁性体ではない材料)では上向きスピンSの電子数と下向きスピンSの電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう上向きスピンSの電子数と下方向に向かう下向きスピンSの電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
これに対して、強磁性体中に電流を流した場合にも上向きスピン電子と下向きスピン電子が互いに反対方向に曲げられる点は同じであるが、強磁性体中では上向きスピン電子と下向きスピン電子のいずれかが多い状態であるため、結果として電荷の正味の流れが生じてしまう(電圧が発生してしまう)点で異なる。従って、スピン軌道トルク配線の材料としては、強磁性体だけからなる材料は含まれない。
【0041】
ここで、上向きスピンSの電子の流れをJ、下向きスピンSの電子の流れをJ、スピン流をJと表すと、J=J-Jで定義される。図2においては、純スピン流としてJが図中の上方向に流れる。ここで、Jは分極率が100%の電子の流れである。
図2において、スピン軌道トルク配線40の上面に強磁性体を接触させると、純スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込むことになる。
本発明では、このようにスピン軌道トルク配線に電流を流して純スピン流を生成し、その純スピン流がスピン軌道トルク配線に接する第2強磁性金属層に拡散する構成とすることで、従来のSTTを利用する磁気抵抗効果素子において強磁性金属層の磁化反転のアシスト手段あるいは主力手段として用いることもできるし、純スピン流によるSOTのみで強磁性金属層の磁化反転を行う新規の磁気抵抗効果素子において用いることもできる。
【0042】
磁化反転をアシストする方法としては、外部磁場を印加する方法、電圧を加える方法、熱を加える方法及び物質の歪みを利用する方法が知られている。しかしながら、外部磁場を印加する方法、電圧を加える方法及び熱を加える方法の場合、外部に新たに配線、発熱源等を設ける必要があり、素子構成が複雑化する。また、物質の歪みを利用する方法の場合、一旦生じた歪みを使用態様中に制御することが難しく、制御性よく磁化反転を行うことができない。
【0043】
スピン軌道トルク配線40は、非磁性の重金属を含んでもよい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。スピン軌道トルク配線40は、非磁性の重金属だけからなってもよい。
この場合、非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。スピン軌道トルク配線40は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流JSが発生しやすい。
【0044】
また、スピン軌道トルク配線40は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピン軌道相互作用が増強され、スピン軌道トルク配線40に流す電流に対するスピン流生成効率を高くできるからである。スピン軌道トルク配線40は、反強磁性金属だけからなってもよい。
スピン軌道相互作用はスピン軌道トルク配線材料の物質の固有の内場によって生じるため、非磁性材料でも純スピン流が生じる。スピン軌道トルク配線材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生した純スピン流が添加された磁性金属によって散乱されるため、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線における純スピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0045】
また、スピン軌道トルク配線40は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。スピン軌道トルク配線40は、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率で生成することができる。
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3,TlBiSe,BiTe,(Bi1-xSbTeなどが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率でスピン流を生成することが可能である。
【0046】
<基板>
基板10は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
【0047】
基板10の磁気抵抗効果素子20側の面には、下地層(図示略)が形成されていてもよい。下地層を設けると、基板10上に積層される第1強磁性金属層21を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。
【0048】
下地層は、絶縁性を有していることが好ましい。配線30等に流れる電流が散逸しないようにするためである。下地層には、種々のものを用いることができる。
例えば1つの例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti,Zr,Nb,V,Hf,Ta,Mo,W,B,Al,Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
【0049】
他の例として、下地層にはABOの組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
【0050】
他の例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
【0051】
他の例として、下地層には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
【0052】
また、下地層は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層の構成を工夫することにより磁気抵抗効果素子20の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
【0053】
<配線>
配線30は、磁気抵抗効果素子20の第1強磁性金属層21に電気的に接続され、図1においては、配線30とスピン軌道トルク配線40と電源(図示略)とで閉回路を構成し、磁気抵抗効果素子20の積層方向に電流が流される。
【0054】
配線30は、導電性の高い材料であれば特に問わない。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。
【0055】
図3図6は、スピン軌道トルク配線の実施形態を説明するための模式図であり、それぞれ、(a)は断面図であり、(b)は平面図である。
【0056】
本発明の磁気抵抗効果素子において、純スピン流によるSOTのみで磁気抵抗効果素子の磁化反転を行う構成(以下、「SOTのみ」構成ということがある)であっても、従来のSTTを利用する磁気抵抗効果素子において純スピン流によるSOTを併用する構成(以下、「STT及びSOT併用」構成ということがある)であっても、スピン軌道トルク配線に流す電流(以下、「SOT反転電流」ということがある。)は電荷の流れを伴う通常の電流であるため、電流を流すとジュール熱が発生する。
図3図6に示すスピン軌道トルク配線の実施形態は、上述の材料以外の構成によって、SOT反転電流によるジュール熱を低減する構成の例である。
【0057】
「STT及びSOT併用」構成において、本発明の磁気抵抗効果素子の磁化反転のために流す電流としては、STT効果を利用するために磁気抵抗効果素子に直接流す電流(以下、「STT反転電流」ということがある。)の他に、SOT効果を利用するためにスピン軌道トルク配線に流す電流(「SOT反転電流」)がある。いずれの電流も電荷の流れを伴う通常の電流であるため、電流を流すとジュール熱が発生する。
この構成においては、STT効果による磁化反転とSOT効果による磁化反転を併用するため、STT効果だけで磁化反転を行う構成に比べてSTT反転電流は低減されるが、SOT反転電流の分のエネルギーを消費することになる。
【0058】
純スピン流を生成しうる材料である重金属は、通常の配線として用いられる金属に比べて電気抵抗が大きい。
そのため、SOT反転電流によるジュール熱を低減する観点では、スピン軌道トルク配線はすべてが純スピン流を生成しうる材料だけからなるよりも、電気抵抗が小さい部分を有することが好ましい。すなわち、この観点では、スピン軌道トルク配線は純スピン流を生成する材料からなる部分(スピン流生成部)と、このスピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなる部分(低抵抗部)とからなるのが好ましい。
【0059】
スピン流生成部は、純スピン流を生成しえる材料からなっていればよく、例えば、複数種類の材料部分からなる構成等であってもよい。
低抵抗部は、通常の配線として用いられる材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。低抵抗部は、スピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなっていればよく、例えば、複数種類の材料部分からなる構成等であってもよい。
なお、低抵抗部において純スピン流が生成されても構わない。この場合、スピン流生成部と低抵抗部との区別は、本明細書中にスピン流生成部及び低抵抗部の材料として記載したものからなる部分はスピン流生成部または低抵抗部であるとして区別できる。また、純スピン流を生成する主要部以外の部分であって、その主要部より電気抵抗が小さい部分は低抵抗部として、スピン流生成部と区別できる。
【0060】
スピン流生成部は、非磁性の重金属を含んでもよい。この場合、純スピン流を生成しうる重金属を有限に含んでいればよい。さらにこの場合、スピン流生成部は、スピン流生成部の主成分よりも純スピン流を生成しうる重金属が十分少ない濃度領域であるか、または、純スピン流を生成しうる重金属が主成分例えば、90%以上であることが好ましい。この場合の重金属は、純スピン流を生成しうる重金属が最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の非磁性金属100%であることが好ましい。
ここで、スピン流生成部の主成分よりも純スピン流を生成しうる重金属が十分少ない濃度領域とは、例えば、銅を主成分とするスピン流生成部において、モル比で重金属の濃度が10%以下を指す。スピン流生成部を構成する主成分が上述の重金属以外からなる場合、スピン流生成部に含まれる重金属の濃度はモル比で50%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。これらの濃度領域は、電子のスピン散乱の効果が有効に得られる領域である。重金属の濃度が低い場合、重金属よりも原子番号が小さい軽金属が主成分となる。なお、この場合、重金属は軽金属との合金を形成しているのではなく、軽金属中に重金属の原子が無秩序に分散していることを想定している。軽金属中ではスピン軌道相互作用が弱いため、スピンホール効果によって純スピン流は生成しにくい。しかしながら、電子が軽金属中の重金属を通過する際に、軽金属と重金属の界面でもスピンが散乱される効果があるため重金属の濃度が低い領域でも純スピン流が効率よく発生させることが可能である。重金属の濃度が50%を超えると、重金属中のスピンホール効果の割合は大きくなるが、軽金属と重金属の界面の効果が低下するため総合的な効果が減少する。したがって、十分な界面の効果が期待できる程度の重金属の濃度が好ましい。
【0061】
また、上述のスピン軌道トルク配線が磁性金属を含む場合、スピン軌道トルク配線におけるスピン流生成部を反強磁性金属をからなるものとすることができる。反強磁性金属は重金属が最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の非磁性金属100%の場合と同等の効果を得ることができる。反強磁性金属は、例えば、IrMnやPtMnが好ましく、熱に対して安定なIrMnがより好ましい。
また、上述のスピン軌道トルク配線がトポロジカル絶縁体を含む場合、スピン軌道トルク配線におけるスピン流生成部をトポロジカル絶縁体からなるものとすることができる。トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3,TlBiSe,BiTe,(Bi1-xSbTeなどが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は高効率でスピン流を生成することが可能である。
【0062】
スピン軌道トルク配線で生成された純スピン流が実効的に磁気抵抗効果素子に拡散していくためにはスピン流生成部の少なくとも一部が第2強磁性金属層に接触している必要がある。キャップ層を備える場合には、スピン流生成部の少なくとも一部がキャップ層に接触している必要がある。図3図6に示すスピン軌道トルク配線の実施形態はすべて、スピン流生成部は少なくとも一部が第2強磁性金属層に接触した構成である。
【0063】
図3に示す実施形態では、スピン軌道トルク配線40は、第2強磁性金属層との接合部40’がすべてスピン流生成部41からなり、スピン流生成部41が低抵抗部42A、42Bに挟まれた構成である。
【0064】
ここで、スピン流生成部と低抵抗部とが電気的に並列に配置する場合には、スピン軌道トルク配線に流れる電流はスピン流生成部及び低抵抗部の抵抗の大きさの逆比の割合に分かれてそれぞれの部分を流れることになる。
SOT反転電流に対する純スピン流生成効率の観点で、スピン軌道トルク配線に流れる電流がすべてスピン流生成部を流れるようにするためには、スピン流生成部と低抵抗部とが電気的に並列に配置する部分がなく、すべて電気的に直列に配置するようにする。
図3図6に示すスピン軌道トルク配線は、磁気抵抗効果素子の積層方向からの平面視で、スピン流生成部と低抵抗部とが電気的に並列に配置する部分がない構成であり、(a)で示す断面を有する構成の中で、SOT反転電流に対する純スピン流生成効率が最も高い構成の場合である。
【0065】
図3に示すスピン軌道トルク配線40は、そのスピン流生成部41が磁気抵抗効果素子20の積層方向から平面視して第2強磁性金属層23の接合部23’を含むように重畳し、かつ、その厚さ方向はスピン流生成部41だけからなり、電流の流れる方向に低抵抗部42A、42Bがスピン流生成部41を挟むように配置する構成である。図3に示すスピン軌道トルク配線の変形例として、スピン流生成部が磁気抵抗効果素子の積層方向から平面視して第2強磁性金属層の接合部に重なるように重畳し、それ以外は図3に示すスピン軌道トルク配線と同じ構成がある。
【0066】
図4に示すスピン軌道トルク配線40は、そのスピン流生成部41が磁気抵抗効果素子20の積層方向から平面視して第2強磁性金属層23の接合部23’の一部に重畳し、かつ、その厚さ方向はスピン流生成部41だけからなり、電流の流れる方向に低抵抗部42A、42Bがスピン流生成部41を挟むように配置する構成である。
【0067】
図5に示すスピン軌道トルク配線40は、そのスピン流生成部41が磁気抵抗効果素子20の積層方向から平面視して第2強磁性金属層23の接合部23’を含むように重畳し、かつ、その厚さ方向には第2強磁性金属層側からスピン流生成部41と低抵抗部42Cが順に積層し、電流の流れる方向に低抵抗部42A、42Bがスピン流生成部41及び低抵抗部42Cが積層する部分を挟むように配置する構成である。図5に示すスピン軌道トルク配線の変形例として、スピン流生成部が磁気抵抗効果素子の積層方向から平面視して第2強磁性金属層の接合部に重なるように重畳し、それ以外は図5に示すスピン軌道トルク配線と同じ構成がある。
【0068】
図6に示すスピン軌道トルク配線40は、スピン流生成部41が第2強磁性金属層側の一面全体に形成された第1スピン流生成部41Aと、第1スピン流生成部の上に積層され、磁気抵抗効果素子20の積層方向から平面視して第2強磁性金属層23の接合部23’を含むように重畳し、かつ、その厚さ方向はスピン流生成部だけからなる第2スピン流生成部41Bと、電流の流れる方向に第2スピン流生成部41Bを挟むように配置する低抵抗部42A、42Bとからなる構成である。図6に示すスピン軌道トルク配線の変形例として、第2スピン流生成部が磁気抵抗効果素子の積層方向から平面視して第2強磁性金属層の接合部を重なるように重畳し、それ以外は図6に示すスピン軌道トルク配線と同じ構成がある。
図6に示す構成では、スピン流生成部41と低抵抗部42とが接する面積が広いため、スピン流生成部41を構成する原子番号の大きい非磁性金属と低抵抗部42を構成する金属との密着性が高い。
【0069】
本発明の磁気抵抗効果素子は公知の方法を用いて製造することができる。以下、図3図6に図示した磁気抵抗効果素子の製造方法について説明する。
まず、磁気抵抗効果素子20例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。磁気抵抗効果素子20がTMR素子の場合、例えば、トンネルバリア層は第1強磁性金属層上に最初に0.4~2.0nm程度のアルミニウム、及び複数の非磁性元素の二価の陽イオンとなる金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
磁気抵抗効果素子20の成膜及び形状の形成を行った後、スピン流生成部41を最初に形成することが好ましい。これはスピン流生成部41から磁気抵抗効果素子20に純スピン流の散乱をできるだけ抑制できる構造にすることが高効率化に繋がるからである。
磁気抵抗効果素子20の成膜及び形状の形成を行った後、加工後の磁気抵抗効果素子20の周囲をレジスト等で埋めて、磁気抵抗効果素子20の上面を含む面を形成する。この際、磁気抵抗効果素子20の上面を平坦化することが好ましい。平坦化することで、スピン流生成部41と磁気抵抗効果素子20の界面におけるスピン散乱を抑制することができる。
次に、平坦化した磁気抵抗効果素子20の上面にスピン流生成部41の材料を成膜する。成膜はスパッタ等を用いることができる。
次に、スピン流生成部41を作製したい部分にレジストまたは保護膜を設置し、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて不要部を除去する。
次に、低抵抗部42を構成する材料をスパッタ等で成膜し、レジスト等を剥離することで、スピン軌道トルク配線40が作製される。スピン流生成部41の形状が複雑な場合は、レジストまたは保護膜の形成と、スピン流生成部41の成膜を複数回に分けて形成してもよい。
【0070】
図7は、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子をyz平面で切断した断面模式図である。
図7に基づいて、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子100の作用について説明する。
【0071】
図7に示すように磁気抵抗効果素子100には2種類の電流がある。一つは、磁気抵抗効果素子20をその積層方向に流れ、スピン軌道トルク配線40及び配線30に流れる電流I(STT反転電流)である。図7においては、電流Iはスピン軌道トルク配線40、磁気抵抗効果素子20、配線30の順に流れるものとする。この場合、電子は配線30、磁気抵抗効果素子20、スピン軌道トルク配線40の順に流れる。
もう一つは、スピン軌道トルク配線40の延在方向に流れる電流I(SOT反転電流)である。
電流Iと電流Iとは互いに交差(直交)するものであり、磁気抵抗効果素子20とスピン軌道トルク配線40とが接合する部分(符号24’は磁気抵抗効果素子20(キャップ層24)側の接合部を示し、符号40’はスピン軌道トルク配線40側の接合部を示す)において、磁気抵抗効果素子20に流れる電流とスピン軌道トルク配線40に流れる電流が合流し、または、分配される。
【0072】
電流Iを流すことより、第1強磁性金属層(固定層)21の磁化と同じ方向を向いたスピンを有する電子が第1強磁性金属層(固定層)21からスピンの向きを維持したまま、非磁性層22を通過し、この電子は、第2強磁性金属層(自由層)23の磁化M23の向きを第1強磁性金属層(固定層)21の磁化M21の向きに対して反転して平行にするようにトルク(STT)を作用する。
【0073】
一方、電流I図2に示す電流Iに対応する。すなわち、電流Iを流すと、上向きスピンSと下向きスピンSがそれぞれスピン軌道トルク配線40の端部に向かって曲げられ純スピン流Jが生じる。純スピン流Jは、電流Iの流れる方向と垂直な方向に誘起される。すなわち、図におけるz軸方向やx軸方向に純スピン流Jが生じる。図7では、第2強磁性金属層23の磁化の向きに寄与するz軸方向の純スピン流Jのみを図示している。
【0074】
スピン軌道トルク配線40に図の手前側に電流Iを流すことにより生じた純スピン流Jは、キャップ層24を介して第2強磁性金属層23に拡散して流れ込み、流れ込んだスピンは第2強磁性金属層23の磁化M23に影響を及ぼす。すなわち、図7では、-x方向に向いたスピンが第2強磁性金属層23に流れ込むことで+x方向に向いた第2強磁性金属層23の磁化M23の磁化反転を起こそうとするトルク(SOT)が加わる。
【0075】
以上の通り、第1電流経路Iに流れる電流によって生じるSTT効果に、第2電流経路Iに流れる電流によって生じた純スピン流JによるSOT効果が加わって、第2強磁性金属層23の磁化M23を磁化反転させる。
【0076】
STT効果のみで第2強磁性金属層23の磁化を反転させようとする(すなわち、電流Iのみに電流が流れる)と、磁気抵抗効果素子20には所定の電圧以上の電圧を印加する必要がある。TMR素子の一般的な駆動電圧は数V以下と比較的小さいが、非磁性層22は数nm程度の非常に薄い膜であり、絶縁破壊が生じることがある。非磁性層22に通電を続けることで、確率的に非磁性層の弱い部分(膜質が悪い、膜厚が薄い等)が破壊される。
【0077】
これに対して、本発明の「STT及びSOT併用」構成の場合の磁気抵抗効果素子は、STT効果の他に、SOT効果を利用する。これにより、磁気抵抗効果素子に印加する電圧を小さくすることができ、かつスピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度も小さくすることができる。磁気抵抗効果素子に印加する電圧を小さくすることで、素子の長寿命化を図ることができる。またスピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度を小さくすることで、エネルギー効率が著しく低下することを避けることができる。
【0078】
スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×10A/cm未満であることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きすぎると、スピン軌道トルク配線に流れる電流によって熱が生じる。熱が第2強磁性金属層に加わると、第2強磁性金属層の磁化の安定性が失われ、想定外の磁化反転等が生じる場合がある。このような想定外の磁化反転が生じると、記録した情報が書き換わるという問題が生じる。すなわち、想定外の磁化反転を避けるためには、スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きくなりすぎないようにすることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×10A/cm未満であれば、少なくとも発生する熱により磁化反転が生じることを避けることができる。
【0079】
図8は、本発明の他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示すものである。
図8に示す磁気抵抗効果素子200において、スピン軌道トルク配線50は磁気抵抗効果素子20の積層方向に備えた上面接合部51(上述のスピン軌道トルク配線40に相当)の他に、第2強磁性金属層23の側壁に接合する側壁接合部52を有する。
【0080】
スピン軌道トルク配線50に電流を流すと、上面接合部51で生成される純スピン流Jに加えて、側壁接合部52で純スピン流J’が生成される。
従って、純スピン流Jが磁気抵抗効果素子20の上面からキャップ層24を介して第2強磁性金属層23に流れ込むだけでなく、純スピン流J’が第2強磁性金属層23の側壁から流れ込むので、SOT効果が増強される。
【0081】
図9は、本発明の他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示すものである。
図9に示す磁気抵抗効果素子300では、基板10側にスピン軌道トルク配線40を有する。この場合、固定層である第1強磁性金属層23と自由層である第2強磁性金属層24の積層順が図1に示す磁気抵抗効果素子100とは逆になる。
このように、本発明の磁気抵抗効果素子は、この構成のようにトップピン構造であってもよいし、図1に示したようなボトムピン構造であってもよい。
【0082】
図9に示す磁気抵抗効果素子300では、基板10、スピン軌道トルク配線40、第2強磁性金属層23、非磁性層22、第1強磁性金属層21、キャップ層24、配線30の順で積層される。第2強磁性金属層23は、第1強磁性金属層21よりも先に積層されるため、格子歪等の影響を受ける可能性が磁気抵抗効果素子100より低い。その結果、磁気抵抗効果素子300では、第2強磁性金属層23の垂直磁気異方性を高められている。第2強磁性金属層23の垂直磁気異方性が高まると、磁気抵抗効果素子のMR比を高めることができる。
【0083】
図10は、図1に示した磁気抵抗効果素子100において、磁気抵抗効果素子20の積層方向に電流を流す第1電源110と、スピン軌道トルク配線40に電流を流す第2電源120とを示したものである。
【0084】
第1電源110は、配線30とスピン軌道トルク配線40とに接続される。第1電源110は磁気抵抗効果素子100の積層方向に流れる電流を制御することができる。
第2電源120は、スピン軌道トルク配線40の両端に接続されている。第2電源120は、磁気抵抗効果素子20の積層方向に対して直交する方向に流れる電流である、スピン軌道トルク配線40に流れる電流を制御することができる。
【0085】
上述のように、磁気抵抗効果素子20の積層方向に流れる電流はSTTを誘起する。これに対して、スピン軌道トルク配線40に流れる電流はSOTを誘起する。STT及びSOTはいずれも第2強磁性金属層23の磁化反転に寄与する。
【0086】
このように、磁気抵抗効果素子20の積層方向と、この積層方向に直行する方向に流れる電流量を2つの電源によって制御することで、SOTとSTTが磁化反転に対して寄与する寄与率を自由に制御することができる。
【0087】
例えば、デバイスに大電流を流すことができない場合は磁化反転に対するエネルギー効率の高いSTTが主となるように制御することができる。すなわち、第1電源110から流れる電流量を増やし、第2電源120から流れる電流量を少なくすることができる。 また、例えば薄いデバイスを作製する必要があり、非磁性層22の厚みを薄くせざる得ない場合は、非磁性層22に流れる電流を少なくことが求められる。この場合は、第1電源110から流れる電流量を少なくし、第2電源120から流れる電流量を多くし、SOTの寄与率を高めることができる。
【0088】
第1電源110及び第2電源120は公知のものを用いることができる。
【0089】
上述のように、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子によれば、STT及びSOTの寄与率を、第1電源及び第2電源から供給される電流量により自由に制御することができる。そのため、デバイスに要求される性能に応じて、STTとSOTの寄与率を自由に制御することができ、より汎用性の高い磁気抵抗効果素子として機能することができる。
【0090】
(磁気メモリ)
本発明の磁気メモリ(MRAM)は、本発明の磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0091】
(磁化反転方法)
本発明の一態様に係る磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×10A/cm未満とするものである。
スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きすぎると、スピン軌道トルク配線に流れる電流によって熱が生じる。熱が第2強磁性金属層に加わると、第2強磁性金属層の磁化の安定性が失われ、想定外の磁化反転等が生じる場合がある。このような想定外の磁化反転が生じると、記録した情報が書き換わるという問題が生じる。すなわち、想定外の磁化反転を避けるためには、スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きくなりすぎないようにすることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×10A/cm未満であれば、少なくとも発生する熱により磁化反転が生じることを避けることができる。
【0092】
本発明の一態様に係る磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、スピン軌道トルク配線の電源に電流を印加した後に、磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加するものである。
アシスト工程と磁化反転工程は、同時に行ってもよいし、アシスト工程を事前に行った後に磁化反転工程を加えて行ってもよい。すなわち、図7に示す磁気抵抗効果素子200においては、第1電源110と第2電源120から電流を同時に供給してもよいし、第2電流120から電流を供給後に、加えて第1電源110から電流を供給してもよいが、SOTを利用した磁化反転のアシスト効果をより確実に得るためには、スピン軌道トルク配線の電源に電流が印加した後に、磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加することが好ましい。すなわち、第2電流120から電流を供給後に、加えて第1電源110から電流を供給することが好ましい。
【0093】
(スピン流磁化反転素子)
図11に、本発明の一実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。図11(a)は平面図であり、図11(b)は図11(a)のスピン軌道トルク配線2の幅方向の中心線であるX-X線で切った断面図である。
本発明の一態様に係るスピン流磁化反転素子は、図1に示すスピン流磁化反転素子101は、磁化の向きが可変な第2強磁性金属層1と、第2強磁性金属層1の面直方向である第1方向(z方向)に対して交差する第2方向(x方向)に延在し、第2強磁性金属層1の第1面1aに接合するスピン軌道トルク配線2と、を備える。
ここで、スピン軌道トルク配線2と第2強磁性金属層1との接合は、「直接」接合してもよいし、上述したようにキャップ層のような「他の層を介して」接合してもよく、スピン軌道トルク配線2で発生した純スピン流が第2強磁性金属層1に流れ込む構成であれば、スピン軌道トルク配線と第1強磁性金属層との接合(接続あるいは結合)の仕方に限定はない。
【0094】
スピン軌道トルク配線2は、図12に示すように、純スピン流を生成する材料からなる純スピン流生成部2Aと、該純スピン流生成部よりも電気抵抗が小さい材料からなる低抵抗部2Bとからなり、該純スピン流生成部の少なくとも一部が第2強磁性金属層1と接する構成にすることができる。
図12に示す構成は、図3に示したスピン軌道トルク配線の構成を本発明のスピン流磁化反転素子に適用した例である。本発明のスピン流磁化反転素子に図4図6に示したスピン軌道トルク配線の構成を適用することができる。
【0095】
本発明のスピン流磁化反転素子の適用例として、主に磁気抵抗効果素子を挙げることができる。従って、本発明のスピン流磁化反転素子が備える構成要素において、上述の磁気抵抗効果素子等の構成要素と同等のものはすべて適用することができる。
【0096】
また、本発明のスピン流磁化反転素子の用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、スピン流磁化反転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができるし、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印可する磁場をスピン流磁化反転素子に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1…第2強磁性金属層、2…スピン軌道トルク配線、10…基板、20…磁気抵抗効果素子、21…第1強磁性金属層、22…非磁性層、23…第2強磁性金属層、23’…接合部(第2強磁性金属層側)、24…キャップ層、24’…接合部(キャップ層側)、30…配線、40、50、51、52…スピン軌道トルク配線、40’…接合部(スピン軌道トルク配線側)、41、41A、41B…スピン流生成部、42A、42B、42C…低抵抗部、100,200,300…磁気抵抗効果素子、101…スピン流磁化反転素子、I…電流、S1…上向きスピン、S2…下向きスピン、M21,M23…磁化、I…第1電流経路、I…第2電流経路、110…第1電源、120…第2電源
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