(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】PD-1およびTGFβを標的化する組換えタンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240528BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240528BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240528BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240528BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240528BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240528BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240528BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240528BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240528BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240528BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/52
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61K38/16
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2022523480
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 CN2020122242
(87)【国際公開番号】W WO2021078123
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-06-22
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522145605
【氏名又は名称】ナンチン リーズ バイオラブス カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】シアオチアン カン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン シアオ
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/014285(WO,A2)
【文献】国際公開第2020/006509(WO,A1)
【文献】特表2013-521311(JP,A)
【文献】特表2020-519289(JP,A)
【文献】国際公開第2017/037634(WO,A1)
【文献】特表2017-506217(JP,A)
【文献】特表2018-518454(JP,A)
【文献】ONCOIMMUNOLOGY,2018年,Vol.7, No.5, e1426519,p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
FSTA/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)TGFβに結合する、ヒトTGFβR2細胞外ドメインと、
b)PD-1に結合する、重
鎖と軽
鎖とを含む抗体と、を含む、組換え融合タンパク質であって、前記重
鎖が、
配列番号4のアミノ酸配列、または、配列番号4と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列を含み、前記軽
鎖が、
配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列を含み、前記ヒトTGFβR2細胞外ドメイン
のN末端が、リンカーを介して、前記抗体の重鎖のC末端に連結され、重鎖-リンカー-TGFβR2融合タンパク質を形成する、組換え融合タンパク質。
【請求項2】
前記TGFβR2細胞外ドメインが、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項3】
前記リンカーが、配列番号6、7、8または9のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項4】
前記重鎖-リンカー-TGFβR2融合タンパク質が、配列番号10、11、12または13のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列、または、それぞれ配列番号10、11、12または13と少なくとも90%の同一性を有し、同時にそれぞれ対応する配列番号10、11、12または13の3CDRを有するアミノ酸配列を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項5】
配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列を含む、軽鎖を含む、請求項
4に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項6】
1)配列番号10のアミノ酸配列、または、配列番号10と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;
2)配列番号11のアミノ酸配列、または、配列番号11と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;
3)配列番号12のアミノ酸配列、または、配列番号12と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;または、
4)配列番号13のアミノ酸配列、または、配列番号13と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;
から選択される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
請求項
7に記載の核酸を含むベクター。
【請求項9】
請求項
7に記載の核酸または請求項
8に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
適切な条件下で請求項
9に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、組換え融合タンパク質の製造方法。
【請求項11】
請求項1
0に記載の方法によって製造される組換え融合タンパク質。
【請求項12】
前記組換え融合タンパク質が、
配列番号13のアミノ酸配列、または、配列番号13と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、
配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む、
請求項
6に記載の組換え融合タンパク質と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項13】
前記組換え融合タンパク質が、
配列番号13のアミノ酸配列、または、配列番号13と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、
配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む、
TGFβおよび/またはPD-L1を過剰発現する疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1~
6若しくは1
1のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質または請求項1
2に記載の医薬組成物の使用。
【請求項14】
前記疾患が、結腸直腸(大腸)、乳房、卵巣、膵臓、胃、前立腺、腎臓、頸部、骨髄腫、リンパ腫、白血病、甲状腺、子宮内膜、子宮、膀胱、神経内分泌、頭頸部、肝臓、鼻咽頭、精巣、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、黒色腫、基底細胞皮膚癌、扁平上皮癌、隆起性皮膚線維肉腫、メルケル細胞癌、膠芽腫、神経膠腫、肉腫、中皮腫、および骨髄異形成症候群からなる群より選択される癌/腫瘍である、請求項1
3に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、PD-1およびTGFβを標的化する組換え融合タンパク質、ならびにその調製および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)によると、癌は世界で2番目に多い死因であり、2018年には約960万人が癌で死亡した。
【0003】
癌は実際には異常な細胞の成長と分裂を伴う疾患群である。癌細胞は非常に「スマート」であり、宿主の免疫監視を回避するためのいくつかのメカニズムを開発した。例えば、それらは高レベルの膜タンパク質PD-L1およびPD-L2を発現させ、これら2つはT細胞の表面でPD-1に結合し、T細胞の枯渇を誘導する(Oscar Arrieta et al.,(2017)Oncotarget 8(60):101994-102005)。癌細胞はまた、CD8+T細胞およびNK細胞における活性化免疫受容体NKG2Dの発現を減少させ、NKG2DリガンドMICAの発現を抑制することにより、細胞傷害性リンパ球およびNK細胞による細胞死を阻止するために形質転換成長因子β(TGFβ)の発現、より一般的にはTGFβ1を増加させる(Masato Morikawa et al.,(2016)Cold Spring Harb Perspect Biol 8:a021873;Joan Massague(2008)Cell 134(2):215-230);Paul Spear et al.,(2013)Cancer Immun.13:8。
【0004】
癌の早期診断と適切な治療に向けた取り組みが行われており、癌に関連する全体的な死亡率は低下している。癌治療の現在の選択肢には、手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、標的療法、免疫療法などがある。これらの中で、免疫療法は、免疫応答を増幅させることで免疫系が癌と戦うのを助ける治療法の一種である。免疫療法は、まだ手術、化学療法、放射線療法のように広く使用されていないが、近年ではかなりの成功を収めている。免疫療法では、抗体などの免疫抑制経路を標的化する医薬品が使用される。
PD-1
【0005】
CD279としても知られるPD-1は、細胞表面受容体である。それは、PD-L1とPD-L2の2つのリガンドを有する。PD-L1の発現は、LPSおよびGM-CSF治療に反応してマクロファージおよび樹状細胞でアップレギュレートされ、TCRおよびB細胞受容体シグナル伝達時にT細胞およびB細胞でアップレギュレートされ、PD-L1 mRNAは、マウスの心臓、肺、胸腺、脾臓および腎臓で検出される(Freeman GJ et al.,(2000)Journal of Experimental Medicine 192(7):1027;Yamazaki T et al.,(2002)Journal of Immunology 169(10):5538-5545)。PD-L1は腫瘍細胞にも発現している。PD-L2はより制限された発現プロファイルを持っている。
【0006】
PD-L1またはPD-L2と結合すると、PD-1は免疫系をダウンレギュレートし、T細胞の炎症活性を抑制することにより自己寛容を促進する。免疫系に対するPD-1の阻害効果は、自己免疫疾患を予防することができる。一方、癌細胞における局所的なPD-L1発現の増加は、免疫系がこれらの細胞を殺すことを妨げる可能性がある。Opdivo(登録商標)(BMS)やKeytruda(登録商標)(Merck)などの数種類の抗PD-1抗体は、単独で、または他の抗腫瘍剤と組み合わせて、臨床癌治療に使用できることが証明されている。
TGFβ
【0007】
形質転換成長因子β(TGFβ)は、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3の3つの哺乳類アイソフォームを持つ二機能性サイトカインである。TGFβは、他の因子と複合体を形成し、TGFβ受容体に結合して下流の基質および調節タンパク質を活性化するセリン/スレオニンキナーゼ複合体を形成する。TGFβシグナル伝達は、ほとんどの細胞型において強力な増殖阻害活性を主に伝達する。例えば、TGFβはTリンパ球および胸腺細胞の増殖を阻害する。TGFβはまた、特定の条件下で一部の細胞の増殖を刺激する。例えば、TGFβはIL-2と組み合わせて、Treg細胞の分化を誘導する。癌細胞は高レベルのTGFβ1を発現させて免疫機能を抑制し、同時にコア経路成分の突然変異不活性化またはシグナル伝達経路の腫瘍抑制アームの喪失により、TGFβの腫瘍抑制作用を無効にする。
【0008】
TGFβ受容体であるTGFβR1とTGFβR2は、どちらもTGFβ1に対して高い親和性を持っている。TGFβR2は、C末端プロテインキナーゼドメインとN末端エクトドメインとからなる膜貫通型タンパク質である。エクトドメインは、9つのβ鎖を含むコンパクトな折り畳みと、6つの鎖内ジスルフィド結合のネットワークによって安定化された単一のヘリックスとからなる。TGFβR2のT細胞特異的発現は、マウスに接種された黒色腫または胸腺腫の増殖(成長)を防ぐことができる。
複数の分子を標的化する治療
【0009】
単一の腫瘍関連抗原または単一の免疫抑制経路を標的化する医薬品は、治療効果が限られていることが時々見られる。例えば、抗VEGF抗体Avastin(登録商標)は、癌細胞の増殖をある程度阻害することが証明されているが、癌細胞を排除することはできない。さらに、承認された抗PD-L1抗体であるアベルマブ(BAVENCIO)の全奏効率はわずか33%である。
【0010】
そのため、臨床試験や臨床治療では、薬剤を通常、他の治療薬と組み合わせて投与し、その結果、癌細胞などの標的細胞を攻撃するいくつかの方法がある。あるいは、二重特異性または多重特異性抗体/タンパク質などの2つ以上の標的結合特異性を有する単一分子薬物を開発して、複数の分子を標的化する治療を可能にすることができる。例えば、EMD Seronoは、非小細胞肺癌や胆道癌などの複数の固形癌の治療のために、TGFβR2の細胞外ドメインに結合した抗PD-L1抗体を含む二重特異性融合タンパク質M7824を開発した。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、1)TGFβに結合し得る、TGFβR2またはその断片、および2)PD-1に結合する、抗体またはその抗原結合断片を含む組換え融合タンパク質を開示する。組換え融合タンパク質は、腫瘍微小環境においてTGFβを捕捉して免疫細胞の増殖と機能に対する阻害効果を低減し、また、腫瘍細胞に対するPD-L1と免疫細胞に対するPD-1の相互作用を遮断し、PD-1媒介性の阻害シグナルによる免疫細胞に対しるチェックを解除する。2つの免疫抑制経路を標的化することにより、本開示の組換え融合タンパク質は、腫瘍細胞に対する免疫応答を増強する。
【0012】
本開示のTGFβR2は、ヒトTGFβR2であり得る。本開示のTGFβR2断片は、TGFβR2細胞外ドメインであり得る。いくつかの実施形態において、本開示の組換え融合タンパク質は、配列番号1に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むTGFβR2細胞外ドメインを含み、該TGFβR2細胞外ドメインがTGFβに結合する。
【0013】
本開示のPD-1に結合する抗体は、ヒトまたはヒト化抗PD-1抗体であり得る。いくつかの実施形態において、本開示のPD-1に結合する抗体は、配列番号2に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、を含み、必要に応じてヒトIgG1、IgG4重鎖定常領域およびヒトカッパ軽鎖定常領域を有し、前記抗体がPD-1に結合し、PD-1-PD-L1相互作用を遮断する。一実施形態において、PD-1に結合する抗体は、配列番号4に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号5に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖と、を含み、前記抗体がPD-1に結合し、PD-1-PD-L1相互作用を遮断する。抗原結合断片は、scFv、Fab、F(ab’)2またはFv断片であり得る。
【0014】
TGFβR2またはその断片は、リンカーを介して抗体またはその抗原結合断片に連結され得る。リンカーは、約5~30アミノ酸残基のペプチドであり得る。一実施形態において、リンカーは、10~30アミノ酸残基のペプチドである。別の実施形態において、リンカーは、10~20アミノ酸残基のペプチドである。リンカーは、配列番号6、7、8または9に示されるアミノ酸配列を有するものであり得る。
【0015】
本開示の組換え融合タンパク質は、重鎖または軽鎖のN末端またはC末端の抗PD-1抗体に連結されたTGFβR2断片を含み得る。
【0016】
本開示の組換え融合タンパク質は、重鎖定常領域のC末端の抗PD-1抗体にリンカーを介して連結されたTGFβR2細胞外ドメインを含み得る。いくつかの実施形態において、TGFβR2細胞外ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。抗PD-1抗体は、配列番号4の重鎖および配列番号5の軽鎖可変領域を含む。リンカーは、配列番号6、7、8または9に示されるアミノ酸配列を含む。抗PD-1重鎖-リンカー-TGFβR2細胞外ドメインは、配列番号10、11、12または13のアミノ酸配列を含む。
【0017】
本開示の組換え融合タンパク質は、TGFβおよびPD-1の両方への結合能力を維持し、従来技術の二重特異性融合タンパク質M7824と比較して、優れたPD-L1-PD-1遮断活性および他の薬理学的性質を示す。
【0018】
一実施形態において、本願は、
a)ヒトTGFβR2断片と、
b)重鎖および軽鎖を含む抗体と、を含み、
ヒトTGFβR2断片が重鎖のC末端に連結されている、組換え融合タンパク質を提供する。
【0019】
一実施形態において、本願は、
a)ヒトTGFβR2断片と、
b)重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む(Fab’)2と、を含み、
TGFβR2断片が前記重鎖可変領域のC末端に連結されている、組換え融合タンパク質を提供する。
【0020】
一実施形態において、本願は、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片およびヒトTGFβR2断片を含み、前記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2の重鎖可変領域および配列番号3の軽鎖可変領域の6CDRを含む、組換え融合タンパク質を提供する。
【0021】
一実施形態において、本願は、TGFβR2細胞外ドメインが、配列番号1のアミノ酸配列、または、配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。
【0022】
一実施形態において、本願は、抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列、または、配列番号2と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号2の3CDRを有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号3のアミノ酸配列、または、配列番号3と少なくとも90%の同一性を有し、同時に配列番号3の3CDRを有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む、組換え融合タンパク質を提供する。
【0023】
一実施形態において、本願は、重鎖が、配列番号4のアミノ酸配列、または、配列番号4と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列を含み、軽鎖が、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。
【0024】
一実施形態において、本願は、2つのペプチドを含み、第1のペプチドがヒト抗PD-1抗体の重鎖、リンカーおよびTGFβRII細胞外ドメインを含み、第2のペプチドがヒト抗PD-1抗体の軽鎖を含む、組換え融合タンパク質を提供する。
【0025】
一実施形態において、本願は、以下から選択される組換え融合タンパク質を提供する:
1)配列番号10のアミノ酸配列、または、配列番号10と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;
2)配列番号11のアミノ酸配列、または、配列番号11と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;
3)配列番号12のアミノ酸配列、または、配列番号12と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質;または、
4)配列番号13のアミノ酸配列、または、配列番号13と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号4の3CDRを有するアミノ酸配列と、配列番号5のアミノ酸配列、または、配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、同時に配列番号5の3CDRを有するアミノ酸配列と、を含む組換え融合タンパク質。
【0026】
さらなる実施形態において、本願は、2つのペプチドを含み、第1のペプチドが配列番号10に示されるアミノ酸配列を含み、第2のペプチドが配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。好ましくは、第1のペプチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなり、第2のペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸からなる。
【0027】
さらなる実施形態において、本願は、2つのペプチドを含み、第1のペプチドが配列番号11に示されるアミノ酸配列を含み、第2のペプチドが配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。好ましくは、第1のペプチドは、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなり、第2のペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸からなる。
【0028】
さらなる実施形態において、本願は、2つのペプチドを含み、第1のペプチドが配列番号12に示されるアミノ酸配列を含み、第2のペプチドが配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。好ましくは、第1のペプチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなり、第2のペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸からなる。
【0029】
さらなる実施形態において、本願は、2つのペプチドを含み、第1のペプチドが配列番号13に示されるアミノ酸配列を含み、第2のペプチドが配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質を提供する。好ましくは、第1のペプチドは、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなり、第2のペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸からなる。
【0030】
一態様において、本発明の組換え融合タンパク質をコードする核酸分子、ならびに該核酸を含む発現ベクターおよび該発現ベクターを含む宿主細胞もまた提供される。
【0031】
別の態様において、発現ベクターを含む宿主細胞を用いて組換え融合タンパク質を調製する方法もまた提供され、この方法は、(i)宿主細胞において組換え融合タンパク質を発現させるステップ、および(ii)宿主細胞から組換え融合タンパク質を分離(単離)するステップを含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、本発明の組換え融合タンパク質と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、少なくとも1つのアジュバントをさらに含み得る。
【0033】
別の態様において、本発明は、TGFβおよび/またはPD-L1の過剰発現によって引き起こされる疾患を治療する方法を提供し、この方法は、それを必要とする患者または被験体に、本発明の組換え融合タンパク質または本発明の医薬組成物の治療有効量を投与することを含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、TGFβおよび/またはPD-L1の過剰発現によって引き起こされる疾患を治療するための医薬組成物の製造における組換え融合タンパク質の使用を提供する。
【0035】
一実施形態において、本発明の方法は、癌/腫瘍の成長を阻害するためのものである。癌または腫瘍は、結腸直腸(大腸)、乳房、卵巣、膵臓、胃、前立腺、腎臓、頸部、骨髄腫、リンパ腫、白血病、甲状腺、子宮内膜、子宮、膀胱、神経内分泌、頭頸部、肝臓、鼻咽頭、精巣、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、黒色腫、基底細胞皮膚癌、扁平上皮癌、隆起性皮膚線維肉腫、メルケル細胞癌、膠芽腫、神経膠腫、肉腫、中皮腫、および骨髄異形成症候群からなる群より選択され得る。
【0036】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および例から明らかになるであろうが、限定的であると解釈されるべきではない。この出願を通じて引用されたすべての参考文献、GenBankエントリ、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本開示の例示的な組換え融合タンパク質の構造の概略図である。
【0038】
【
図2】融合タンパク質Trap-13、Trap-14(左)およびTrap-15(右)のヒトPD-1への結合活性を示す図である。
【0039】
【
図3】融合タンパク質Trap-13(左)、Trap-14、Trap-15(右)のヒトTGFβ1への結合活性を示す図である。
【0040】
【
図4】TGFβ-TGFβR相互作用に対するTrap-15の遮断活性を示す図である。
【0041】
【
図5】PD-L1-PD-1相互作用に対するTrap-15の遮断活性を示す図である。
【0042】
【
図6】Trap-15がヒトPBMCを刺激してIFNγを放出できることを示す図である。
【0043】
【
図7】Trap-15がADCC効果を誘導しないことを示す図である。
【0044】
【
図8】Trap-15がCDC効果を誘導しないことを示す図である。
【0045】
【
図9】Trap-15が腫瘍増殖(腫瘍成長)を有意に抑制できることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
腫瘍成長(腫瘍増殖)の2つ以上の薬理を標的化する、主に3つの異なるアプローチがある。最も一般的には、2つ以上の異なる薬剤のカクテルが、患者に投与され得る。この選択肢は、可能な薬剤組み合わせと、異なる用量に関して最大の柔軟性を可能にするが、それは、(a)錠剤数の負担増大および個々の薬剤の異なる投与スケジュールに起因する、患者の治療に対する潜在的な遵守不良、(b)薬剤と薬剤の相互作用のための可能な不適合性、および(c)薬剤副作用のリスク増大に悩まされる。これらの問題は、特に癌などの慢性疾患の治療において、治療の有効性を低下させ、治療目的の達成を妨害し得る。
【0047】
第2のアプローチは、単回投与剤形中における薬剤の固定用量組み合わせの使用に依存する。このアプローチは、錠剤数の負担を低下させ、改善された患者コンプライアンスをもたらす。固定用量組み合わせの不都合は、主に、活性成分間の可能な用量比の選択が限られることであり、最小限の副作用で最大効力を得るために、個々の患者を適切に滴定することがより困難になる。さらに、組み合わせ中の構成成分の異なる薬物動態特性は、個々の標的において薬力学効果に複雑な時間的ミスマッチをもたらすかもしれず、その結果、全体的な効力が損なわれる。
【0048】
第3のアプローチは、単一化合物中で2つ以上の薬理を組み合わせる、多機能性薬剤の使用である。このような多機能性化合物の設計および検証は、より複雑であり、分子内の標的機能の最適な比率についてかなりの研究を要するが、一体化された薬物動態が、分子標的における調和のとれた薬力学活性をもたらすことができる。多機能性分子はまた、その他の薬剤との固定用量組み合わせに適していてもよく、それによって3つまたは4つにさえ至る薬理が単一丸薬中で組み合わされて、有効性をさらに高めることができる。
【0049】
本発明者らは、TGFβに結合するTGFβRIIまたはTGFβRII断片と、PD-1に結合する抗体またはその抗原結合部分とを含む、新規な組換え多機能融合タンパク質を発明した。この組換え融合タンパク質は、腫瘍微小環境においてTGFβを捕捉し、これにより免疫細胞の増殖と機能に対するTGFβの阻害効果を低減し、さらにPD-L1-PD-1相互作用を遮断して、PD-1媒介性の阻害シグナルによる免疫細胞に対するチェックを解除し、免疫細胞による癌細胞死滅を促進する。
【0050】
本明細書において使用されるように、特許請求の範囲および/または本明細書において「含む」という用語と併せて使用される場合、「1」または「1個」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、また、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、「1つまたは複数」の意味とも一致する。
【0051】
「含む」、「有している」、「有する」、「できる」、「含有する」という用語およびそれらの変形体は、本明細書で使用するとき、追加の作用または構造の可能性を妨げないオープンエンドの移行句、用語または単語であることが意図される。本開示はまた、明示的に規定されているかどうかにかかわらず、本明細書に示されている実施形態または要素を「含む」、「からなる」および「から本質的になる」他の実施形態を考慮する。
【0052】
「約」または「略」という用語は、当業者により判定された特定の値が、値をどのように測定または判定するかによってある程度左右される、許容な可能な誤差範囲内にあること、すなわち、測定システムの限界を意味する。あるいは、「約」は、所定の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、さらに好ましくは最大1%の範囲を意味することができる。
【0053】
用語「TGFβRII」または「TGFβ受容体II」とは、野生型ヒトTGFβ受容体2型アイソフォームA配列(例えば、NCBI参照配列(RefSeq)受託番号NP_001020018のアミノ酸配列)を有するポリペプチド、または野生型ヒトTGFβ受容体2型アイソフォームB配列(例えば、NCBI RefSeq受託番号NP_003233のアミノ酸配列)を有するポリペプチドを指す。TGFβRIIは、野生型配列のTGFβ結合活性の少なくとも0.1%、0.5%、1%、5%、10%、25%、35%、50%、75%、90%、95%、または99%を保持し得る。「TGFβ結合能を有するTGFβRIIの断片」とは、TGFβ結合活性を保持する、NCBI参照配列(RefSeq)受託番号NP_001020018またはNCBI参照配列(RefSeq)受託番号NP_003233の任意の一部分を意味する。
【0054】
本明細書において、用語「抗体」は、全抗体及びそのいずれかの抗原結合断片(即ち、「抗原結合部分」)又は一本鎖を含む。全抗体は、ジスルフィド結合によって互いに結合された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(ここで、VHと略される)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(ここで、VLと略される)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、CLの1つのドメインから構成される。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存的な領域が散在する領域にさらに細分化することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置される3つのCDR及び4つのFRで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、宿主組織又は因子(免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む)への免疫グロブリンの結合を媒介できる。
【0055】
抗体の「抗原結合部分」または抗体の「抗原結合断片」という用語は、本願を通して交換可能に使用され、それぞれ単に「抗体部分」または「抗体断片」と呼ばれることも可能である。抗体の「抗原結合部分」との用語に含まれる結合断片の例には、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインから構成される一価断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド橋により結合された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(iii)VH及びCH1ドメインから構成されるFd断片、(iv)単一アームのVL及びVHドメインから構成されるFv断片、(v)VHドメイ
ンから構成されるdAb断片(Wardet al.,(1989)Nature 341:544-546)、(vi)分離された相補性決定領域(CDR)、並びに(vii)単一の可変ドメイン及び2つの定常ドメインを含む重鎖可変領域であるナノボディを含む。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、組換え法により、それらを単一タンパク質鎖にすることができる合成リンカーを用いて結合することができる。前記単一タンパク質鎖において、VL及びVHがペアになって一価分子(一本鎖Fv(scFv)として知られている。例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照)を形成する。このような一本鎖抗体も抗体の「抗原結合部分」との用語に含まれることが意図されている。これらの断片は、当業者に知られている従来の技術を使用して得られ、断片は、インタクト抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。
【0056】
用語「融合タンパク質」とは、本明細書で最も広い意味で使用され、1つ以上のペプチドを含む。「融合タンパク質」の例は免疫複合体であるが、これに限定されない。「免疫複合体」は、サイトカインを含むがこれに限定されない、1つ以上の異種分子に結合した抗体である。一実施形態において、本発明の融合タンパク質は、抗PD-1抗体とTGFβRIIとを含む免疫複合体である。
【0057】
本開示の融合タンパク質に含まれる2つの主成分は、TGFβRIIまたはTGFβRII断片、およびその抗PD-1抗体または抗原結合部分である。当業者は、上記の2つの構成要素を選択するための多くの設計上の選択肢があることを認識するであろう。非ヒト動物由来のタンパク質またはペプチドの強い免疫原性がアレルギーおよび他の有害作用を引き起こす可能性があるため、好ましくは、ヒト由来の配列がヒトの癌治療に使用される。しかしながら、適切な場合にはヒト化された他の動物性タンパク質またはペプチドもまた、異なる適用目的に基づいて本発明において使用され得る。
【0058】
TGFβRIIはヒトTGFβRIIであってもよく、融合タンパク質を比較的小さいサイズで構築するには、TGFβRII細胞外ドメインが好ましい。TGFβRII細胞外ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0059】
本開示の融合タンパク質における抗PD-1抗体は、PCT/CN2019/087287に詳細に記載されており、重鎖定常領域を改変して、抗体依存性細胞傷害(antibody dependent cell-mediated cytotoxicity;ADCC)および補体依存性細胞傷害(complement dependent cytotoxicity;CDC)を排除する。
【0060】
本開示において、TGFβRII細胞外ドメインは、いくつかの実施形態において、部分的にADCCおよびCDCの排除を目的として、重鎖または重鎖定常領域のC末端に連結されている。他の実施形態において、TGFβRII細胞外ドメインは、重鎖または軽鎖(可変領域)のN末端、あるいは、軽鎖または軽鎖定常領域のC末端に連結され得る。ADCCおよびCDCを減少させるために抗体の重鎖定常領域を除去または改変してもよいが、重鎖定常領域を除去するとヒト体内の融合タンパク質の半減期を短縮し得る。
【0061】
必要に応じて、TGFβRII細胞外ドメインと抗PD-1抗体との間にリンカーを使用してもよい。リンカーは主にスペーサーとして機能する。リンカーは、ペプチド結合によって一緒に連結されたアミノ酸、好ましくはペプチド結合によって連結された5~30個のアミノ酸から構成されてもよく、前記アミノ酸は、天然に存在する20個のアミノ酸から選択される。これらのアミノ酸のうちの1つ以上は、当業者が理解するようにグリコシル化され得る。一実施形態において、5~30個のアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、セリン、およびリジンから選択され得る。一実施形態において、リンカーは、グリシンおよびアラニンなどの立体障害のないアミノ酸の大部分で構成される。例示的なリンカーは、ポリグリシン(特に(Glys、(Gly)8)、ポリ(Gly-Ala)、およびポリアラニンである。以下の実施例に示される1つの例示的な適切なリンカーは、-(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3-などの(Gly-Ser)である。リンカーは非ペプチドリンカーでもあり得る。例えば、-NH-、-(CH2)s-C(O)-などのアルキルリンカーであって、s=2~20のものを使用できる。これらのアルキルリンカーはさらに、低級アルキル(例えば、C1-4)、低級アシル、ハロゲン(例えば、CI、Br)、CN、NH2、フェニルなどの非立体障害基によって置換され得る。
【0062】
また、本発明は、組換え融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子、および組換え二機能性融合タンパク質を発現させる発現ベクターを提供する。ベクターの例としては、プラスミド、ウイルスベクター、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、形質転換能を有する人工染色体(TAC)、哺乳類人工染色体(MAC)、およびヒト人工染色体(HAEC)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明は、上記発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされ得る。適切な宿主細胞には、大腸菌、酵母および他の真核生物が含まれる。好ましくは、大腸菌、酵母または哺乳動物細胞株(COSまたはCHOなど)が使用される。
【0064】
他の態様において、本開示は、薬学的に許容される担体と共に製剤化された本発明の1つ以上の抗体を含む医薬組成物を提供する。この組成物は、他の抗体及び薬物などの1つ以上の追加の薬学的有効成分を任意に含有してもよい。本発明の医薬組成物はまた、例えば、別の免疫刺激剤、抗がん剤、抗ウイルス剤又はワクチンとの併用療法で投与することができる。
【0065】
医薬組成物は、任意の数の賦形剤を含み得る。使用できる賦形剤には、担体、界面活性剤、増粘剤及び乳化剤、固体バインダー、分散及び懸濁助剤、可溶化剤、着色剤、香味剤、コーティング剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、保存料、等張剤、及びそれらの組み合わせが含まれる。適切な賦形剤の選択と使用は、Gennaro,ed.,Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Ed.(Lippincott Williams&Wilkins 2003)に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
医薬組成物中の主要なビヒクルまたは担体は、本質的に水性または非水性のいずれかであり得る。例えば、適切なビヒクルまたは担体は、注射用の水、生理食塩水、または人工脳脊髄液であり得、注射時に一般的な他の材料で補充されることがある。例えば、ビヒクルまたは担体は、中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンと混合された生理食塩水であり得る。他の例示的な医薬組成物は、トリスバッファーまたは酢酸バッファーを含み、これらは、ソルビトールまたはその適切な代替物をさらに含み得る。本発明の一実施形態において、所望の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態の任意の製剤剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,supra)と混合することにより、貯蔵用の組成物を調製することができる。さらに、治療用組成物を、スクロースなどの適切な賦形剤を用いて凍結乾燥物として配合することができる。
【0067】
好ましくは、前記医薬組成物は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄及び表皮投与(例えば、注射及び注入による)に適している。投与経路に応じて、活性化合物は、酸の作用及びそれを不活性化する可能性のある他の自然条件から保護するために材料でコーティングすることができる。本明細書で使用される「非経口投与」という用語は、通常は注射による、経腸及び局所投与以外の投与様式を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、胸骨内注射及び注入を含むがこれらに限定されない。或いは、本発明の抗体は、局所、表皮及び粘膜投与経路などの非腸管外経路を介して、例えば鼻腔内、経口、膣内、直腸内、舌下及び局所的に投与することができる。
【0068】
医薬組成物は、滅菌水溶液及び分散液の形態であり得る。それらはまた、マイクロエマルジョン、リポソーム、及び高薬物濃度に適した他の秩序構造に製剤化することができます。
【0069】
担体材料と組み合わせて単一剤形を生成することができる有効成分の量は、治療される被験体及び特定の投与経路に応じて異なり、一般的に、治療効果を奏する組成物の量である。一般的には、有効成分と薬学的に許容される担体の合計100%に対して、有効成分の量は、約0.01%から約99%、好ましくは約0.1%から約70%、最も好ましくは約1%から約30%である。
【0070】
投与計画は、最適な望ましい反応(例えば、治療反応)を提供するために調整される。例えば、治療状況の緊急性によって経時的に分割された用量で投与してもよいか、又は用量を比例的に減少及び増加させてもよい。投与の容易さ及び投与量の均一性の観点から、投与単位形態で非経口組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される用量単位形態は、治療される被験体の単位用量として適した物理的に別個の単位を指す。各単位は、必要な医薬品担体に関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含む。あるいは、抗体を徐放性製剤として投与してもよく、この場合、投与頻度を減少させる必要がある。
【0071】
融合タンパク質の投与については、投与量は宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には0.01~5mg/kgの範囲である。例えば、投与量は、0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重、10mg/kg体重又は1-10mg/kgであり得る。例示的な治療計画は、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1か月に1回、3か月に1回及び3~6か月に1回の投与を伴う。本発明の融合タンパク質に関する好ましい投与量レジメンには、腹腔内投与による3mg/kg体重または6mg/kg体重が含まれ、抗体は、以下の投薬スケジュールのいずれかを用いて投与される: (i)4週間に1回で6回後、3か月に1回、(ii)3週間に1回及び(iii)3mg/kg体重で1回後、1mg/kg体重で3週間に1回のうちの1種により同時に与えられる、(vi)6mg/kg体重で1週間に1回投与。いくつの方法では、投与量は、血漿抗体濃度が約1~1000μg/ml、いくつの方法では約25~300μg/mlとなるように調整される。
【0072】
本発明の融合タンパク質の「治療有効用量」は、好ましくは、疾患症状の重症度の低下、疾患の症状のない期間の頻度と時間の増加、又は疾患の苦痛による障害若しくは障害の予防をもたらす。例えば、腫瘍を有する被験体の治療のために、「治療有効用量」は、治療されていない被験体と比較して腫瘍の成長を、好ましくは少なくとも約 40%、より好ましくは少なくとも約 60%、さらにより好ましくは少なくとも 80%、よりさらに好ましくは少なくとも 約99%阻害する。治療的化合物の治療的有効量は、被験体の腫瘍サイズを減少させるか、又は症状を改善することができる。被験体は、典型的にはヒト、他の哺乳動物であり得る。
【0073】
医薬組成物は、インプラント、経皮パッチ、及びマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤であり得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、colLAGen、ポリオルトエステル、ポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用できる。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0074】
治療用組成物は、(1)無針皮下注射装置(例えば、米国特許第5,399,163、5,383,851、5,312,335、5,064,413、4,941,880、4,790,824及び4,596,556号)、(2)微量注入ポンプ(米国特許第4,487,603号)、(3)経皮デバイス(米国特許第4,486,194号)、(4)点滴装置(米国特許第4,447,233及び4,447,224号)、及び(5)浸透デバイス(米国特許第4,439,196及び4,475,196号)などの医療機器により投与することができる。これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0075】
特定の実施形態において、本発明のヒトモノクローナル抗体は、生体内での適切な分布が確保されるように製剤化することができる。例えば、本発明の治療用抗体が血液脳関門を通過することを確保するために、リポソームに製剤化することができ、特定の細胞及び器官への選択的輸送を促進する標的化部分をさらに含んでもよい。例えば、米国特許第4,522,811、5,374,548、5,416,016及び5,399,331号。
【0076】
本発明の組換え融合タンパク質をコードする核酸分子、またはその誘導体を被験体に直接導入する、インビボ遺伝子治療もまた想定される。例えば、本発明の組換え融合タンパク質をコードする核酸配列を、アデノ随伴ウイルスベクターなどの適切な送達ベクターを伴うまたは伴わない核酸構築物の局所注射を介して、標的細胞内に導入する。代替のウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびパピローマウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。ウイルスベクターの物理的な転移は、所望の核酸構築物、または所望の核酸配列を含有する他の適切な送達ベクターの、局所的な注射;リポソーム媒介転移;直接注射(裸のDNA);または微粒子銃(遺伝子銃)によってインビボで達成され得る。
【0077】
本開示の組成物は、単独で、または他の治療薬と組み合わせて使用して、それらの治療効果を増強するか、または潜在的な副作用を減少させることができる。
【0078】
本発明の別の目的は、上記の組換え融合タンパク質およびそれを含む医薬組成物を調製する方法を提供することである。一実施形態において、この方法は、(1)タンパク質コード化ポリヌクレオチド分子を提供するステップと、(2)(1)のポリヌクレオチド分子を含む発現ベクターを構築するステップと、(3)(2)の発現ベクターを用いて適切な宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換し、該宿主細胞を培養してタンパク質を発現させるステップと、(4)タンパク質を精製するステップと、を含む。調製は、通常の熟練した職人による周知の技術を用いて行うことができる。
【0079】
本発明の別の目的は、有効量の前述の医薬組成物を、それを必要とする患者または被験体に投与することを含む、本発明の組換え融合タンパク質または本発明の医薬組成物を用いて癌を治療する方法を提供することである。一実施形態において、医薬組成物は、結腸直腸(大腸)、乳房、卵巣、膵臓、胃、前立腺、腎臓、頸部、骨髄腫、リンパ腫、白血病、甲状腺、子宮内膜、子宮、膀胱、神経内分泌、頭頸部、肝臓、鼻咽頭、精巣、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、黒色腫、基底細胞皮膚癌、扁平上皮癌、隆起性皮膚線維肉腫、メルケル細胞癌、膠芽腫、神経膠腫、肉腫、中皮腫、および骨髄異形成症候群を含むがこれらに限定されない、TGFβおよび/またはPD-L1過剰発現腫瘍または癌を治療するために使用される。
【0080】
次に、本発明を以下の非限定的な例でさらに説明する。
実施例
【0081】
以下の実施例では、本開示の4つの例示的な融合タンパク質、Trap-12、Trap-13、Trap-14およびTrap-15を調製し、試験した。リンカーを介して2つのTGFβRII細胞外ドメインに融合した1つの抗PD-1抗体を含む、融合タンパク質の概略図を
図1に示す。
【0082】
Trap-12は、配列番号10の2つのポリペプチドおよび配列番号5の2つのポリペプチドによって形成された。Trap-13は、配列番号11の2つのポリペプチドおよび配列番号5の2つのポリペプチドによって形成された。Trap-14は、配列番号12の2つのポリペプチドおよび配列番号5の2つのポリペプチドを含有している。Trap-15は、配列番号13の2つのポリペプチドおよび配列番号5の2つのポリペプチドを含有している。
実施例1.Trap-12、Trap-13、Trap-14およびTrap-15を発現させるベクターの構築
【0083】
重鎖-リンカー-TGFβRII細胞外ドメインをコードするヌクレオチド酸(それぞれ配列番号10、11、12および13に示されるアミノ酸)および軽鎖(配列番号5に示されるアミノ酸)を、GENEWIZにより合成し、それぞれ発現ベクターpcDNA3.1にクローン化した。
実施例2.タンパク質の発現と精製
【0084】
実施例1で構築されたベクターを、ExpiCHO発現システム(ThermoFisher)を製造者の指示に従って用いて、CHO-S細胞にコトランスフェクトした。培養上清を12日目に採取し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(GE healthcare)で精製した。
実施例3.PD-1に結合した例示的な融合タンパク質
【0085】
融合タンパク質のヒトPD-1への相対的結合能力を決定するためにELISAアッセイを行った。
【0086】
ヒトPD-1タンパク質(ACRObiosystems、カタログ番号PD1-H5221)を、4℃、25ng/ウェルで一晩インキュベートすることにより、PBS(Hyclone、カタログ番号SH30256.01)中の96ウェルプレートに固定化した。次いで、プレートを、PBS中の1%BSAと37℃で1時間インキュベートすることにより遮断した。遮断後、プレートをPBST(0.05%Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。段階希釈した融合タンパク質(Trap-13、Trap-14およびTrap-15)、陽性コントロールとしての抗PD-1抗体(PCT/CN2019/087287に開示の抗体21F12-1F6であり、本明細書では抗ヒトPD-1とも呼ばれ、それぞれ配列番号14および5のアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖を有する)、および陰性コントロールとしての自社製の抗TIM3抗体(本明細書ではヒトIgGコントロールとも呼ばれ、PCT/CN2019/082318に開示の抗体TIM3-6.12である)を、結合バッファー(0.05%Tween20および0.5%BSAを含むPBS)中で調製し、固定化PD-1タンパク質と37℃で1時間インキュベートした。結合後、プレートをPBSTで3回洗浄し、結合バッファー中に1/20000希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトF(ab’)
2抗体(Jackson Immuno Research、カタログ番号109-035-097)とともに37℃で1時間インキュベートした。再度洗浄し、TMB(ThermoFisher、カタログ番号34028)で15分間発色させた後、1MH
2SO
4で停止させた。各プレートウェルには、各ステップで50μLの溶液を含有していた。450nm~620nmでの吸光度を測定し、ヒトPD-1に結合する融合タンパク質に対するEC
50値および結合曲線を、
図2に示した。
【0087】
データは、本開示の融合タンパク質がPD-1結合能力を維持し、抗体21F12-1F6とほぼ同等のEC50値を有することを示した。
実施例4.TGFβ1に結合した例示的な融合タンパク質
【0088】
融合タンパク質のヒトTGFβ1への相対的結合能力を決定するためにELISAアッセイを行った。
【0089】
ヒトTGFβ1タンパク質(Novoprotein Inc.、カタログ番号CA59)を、4℃、10ng/ウェルで一晩インキュベートすることにより、PBS(Hyclone、カタログ番号SH30256.01)の96ウェルプレートに固定化した。次いで、プレートを、PBS中の1%BSAと37℃で1時間インキュベートすることにより遮断した。遮断後、プレートをPBST(0.05%Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。段階希釈した融合タンパク質(Trap-13、Trap-14およびTrap-15)、陽性コントロールとしてのヒトTGFβR2-hFc(ACRObiosystems、カタログ番号TG2-H5252)、および陰性コントロールとしての抗TIM3抗体を結合バッファー(0.05%Tween20および0.5%BSAを含むPBS)中で調製し、固定化ヒトTGFβ1タンパク質と37℃で1時間インキュベートした。結合後、プレートをPBSTで3回洗浄し、結合バッファー中に1/20000希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research、カタログ番号109-035-098)とともに37℃で1時間インキュベートし、再度洗浄し、TMB(ThermoFisherカタログ番号34028)で15分間発色させた後、1MH
2SO
4で停止させた。450nm~620nmでの吸光度を測定した。ヒトTGFβ1に結合する融合タンパク質に対するEC
50値と結合曲線を、
図3に示した。
【0090】
データは、ヒトTGFβ1に結合した本開示の融合タンパク質がヒトTGFβR2-hFcと類似のEC50値を有することを示唆した。
実施例5.PD-1およびTGFβ1に対する例示的な融合タンパク質の結合親和性
【0091】
ヒトPD-1、カニクイザルPD-1、ヒトTGFβ1およびラットTGFβ1に対するTrap-15の動態結合活性を、ForteBio Octet RED96を用いてバイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry:BLI)により測定された。
【0092】
AHCバイオセンサー(ForteBio、カタログ番号18-5060)をランニングバッファー(1X PBS Hyclone、カタログ番号SH30256.01、0.02%Tween20、pH7.0)に事前に浸し、ランニングバッファーに100秒間浸してベースラインを確立した後、バイオセンサーに0.8nMTrap-15をロードするまで、ランニングバッファー中の5μg/mLのTrap-15を有するウェルに浸した。ベースラインバランスのために、バイオセンサーをランニングバッファーに100秒間浸した。次に、バイオセンサーを、ランニングバッファーにて400nM、200nM、100nM、50nM、25nM、12.5nM、および6.25nMで段階希釈したヒトPD-1(Acrobiosystems、カタログ番号PD1-H5221)またはカニクイザルPD-1(Acrobiosystems、カタログ番号PD1-C5223)を有するウェルに200秒間浸し、次いで、ランニングバッファーに600秒間浸した。
【0093】
AHCバイオセンサー(ForteBio、カタログ番号18-5060)をランニングバッファー(1X PBS Hyclone、カタログ番号SH30256.01、0.02%Tween20、pH7.0)に事前に浸し、ランニングバッファーに100秒間浸してベースラインを確立した後、バイオセンサーに1.2nM Trap-15をロードするまで、ランニングバッファー中の20μg/mLのTrap-15を有するウェルに浸した。ベースラインバランスのために、バイオセンサーをランニングバッファーに100秒間浸した。次に、バイオセンサーを、ランニングバッファーにて100nM、50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、3.12nM、および1.56nMで段階希釈したヒトTGFβ1(Sinobiological、Cat.10804-HNAC)およびラットTGFβ1(Novoprotein,Cat.CK33)を有するウェルに60秒間浸し、次いで、ランニングバッファーに600秒間浸した。
【0094】
結合曲線および解離曲線を、Octet評価ソフトウェアを用いて1:1ラングミュア結合モデルに適合させた。Ka、KdおよびKDの値を決定し、以下の表1にまとめた。
【0095】
データは、Trap-15が4つのタンパク質に高い親和性で結合することを示した。
【表1】
実施例6.TGFβ-TGFβR相互作用を遮断した例示的な融合タンパク質
【0096】
TGFβタンパク質は細胞表面のTGFβ受容体に結合し、シグナル伝達カスケードを開始して、SMAD2およびSMAD3のリン酸化と活性化を引き起こし、SMAD4と複合体を形成する。次に、SMAD複合体は核に移行し、核内のSMAD結合要素(SBE)に結合して、TGFβ/SMAD応答性遺伝子の転写と発現を引き起こす。TGFβ-TGFβR相互作用の遮断に関する本開示の融合タンパク質の活性を、これに基づいて試験した。
【0097】
293T細胞をpGL4.48[luc2P/SBE/Hygro](Promega、カタログ番号E367A)で、LipofectamineTM2000試薬(Invitrogen、カタログ番号11668027)を用いてトランスフェクトした後、限界希釈することにより、安定した細胞株293T/SBE-luc2Pを調製した。得られた細胞を、10%FBS(Gibco、カタログ番号10099141)および85μg/mLハイグロマイシンB(Gibco、カタログ番号10687010)を含有するDMEM(Gibco、カタログ番号11995065)で培養した。
【0098】
10%FBS含有DMEM中の293T/SBE-luc2P細胞を、96ウェルプレート(Corning、カタログ番号3917)、50000細胞/ウェルにロードした。10%FBSおよび1.2ng/ml TGFβ1タンパク質(Sino、10804-HNAC)を有するDMEMで、段階希釈したTrap-15およびコントロール抗体(M7824、US2015/0225483A1に記載、配列番号15の重鎖-リンカー-TGFβR断片および配列番号16の軽鎖を有する)を、それぞれRTで約30分間インキュベートし、その後、293T/SBE-luc2P細胞を含有する96ウェルプレートに60μl/ウェルで添加した。プレートを、37℃、5%CO2インキュベーターで16~18時間インキュベートした。次に、60μl/ウェルの上清を廃棄し、60μl/ウェルのOne-GloTM試薬(Promega、カタログ番号E6130)をアッセイプレートに添加した。発光プレートリーダー(Tecan、F200)を用いて発光を測定した。
【0099】
IC
50値は、GraphPad Prismによって適合した阻害剤の用量反応可変勾配(4つのパラメーター)で決定され、用量依存曲線を
図4に示した。
【0100】
結果は、Trap-15の遮断活性がM7824とほぼ同等であることを示した。
実施例7.PD-1-PD-L1相互作用を遮断した例示的な融合タンパク質
【0101】
PD-1を発現するJurkat-NFAT-PD-1エフェクター細胞を、PD-L1を発現するCHO-OKT3-PD-L1標的細胞と共培養すると、PD-1-PD-L1相互作用によりTCR-NFAT媒介発光はほとんど観察されない。PD-1-PD-L1相互作用が遮断されると発光が見られる。したがって、PD-1-PD-L1相互作用の遮断に関する本開示の融合タンパク質の活性を、Jurkat-NFAT-PD-1レポーター遺伝子アッセイで試験した。
【0102】
チャイニーズハムスター卵巣上皮CHO-K1細胞株(ATCC、カタログ番号CCL-61)を、37℃、5%CO2の加湿インキュベーター内で10%FBS含有F-12K培地において維持した。ヒトPD-L1をコードする核酸分子(配列番号17に示されるNP_054862.1のアミノ酸)を含むベクターと、OKT3-scFvをコードする核酸分子(配列番号18に示されるアミノ酸配列)を含むベクターとを、ポリエチレンイミン(MW25kDa、Polyscience、カタログ番号23966-2)を用いてCHO-K1細胞にコトランスフェクトし、ヒトPD-L1およびOKT3-scFvを安定的に発現するCHO-OKT3-PD-L1細胞株クローンを、限界希釈により得た。
【0103】
エレクトロポレーションにより、Jurkat細胞株(中国科学院のセルバンク(上海、中国)、クローンE6-1)に、配列番号19のヒトPD-1およびpGL4.30[luc2P/NFAT-RE/Hygro](Promega、カタログ番号E848A)をコードする核酸分子を含むベクターをコトランスフェクトすることにより、Jurkat-NFAT-PD-1細胞株を調製し、ヒトPD-1およびNFATを安定的に発現するクローンを、限界希釈により得た。
【0104】
1%FBS含有RPMI 1640培地(Gibco、カタログ番号22400089)で段階希釈したTrap-15およびM7824を、96ウェルプレート(Corning、カタログ番号3917)に60μl/ウェルで播種した。次に、プレートに、1%FBS含有RPMI 1640培地に、30000個のJurkat-NFAT-PD1細胞と20000個のCHO-OKT3-PD-L1細胞とを含有する60μl/ウェルの細胞懸濁液を加え、37℃、5%CO
2のインキュベーターで16~18時間インキュベートした。その後、60μl/ウェルのOne-Glo
TM試薬(Promega、カタログ番号E6130)をアッセイプレートに添加し、発光プレートリーダー(Tecan、F200)を用いて発光を測定した。EC
50値を計算し、用量依存曲線を
図5に示した。
【0105】
データは、Trap-15がPD-1-PD-L1相互作用においてM7824よりも優れた遮断活性を持っていることを示唆した。
実施例8.Trap-15はヒトTGFβ1に拮抗し、PBMC機能を再活性化した
【0106】
免疫抑制因子TGFβ1の存在下でTrap-15がヒトPBMC機能を再活性化できるかどうかを決定するために、細胞ベースアッセイを行った。
【0107】
ヒトPBMCを健康なドナーから採取した。PBMCを、Lymphoprep密度勾配試薬(StemCell Tenchnologies)を含有するSepMate-50チューブ(StemCell Technologies)で分離した。96ウェルプレート(Corning、カタログ番号3799)に対して、PBS中の0.5μg/mL機能グレードの抗CD3(eBioscience、カタログ番号16-0037-85)を4℃で一晩コーティングした。翌日、コーティングされたプレートをDPBSバッファー(Hyclone、カタログ番号SH30256.01)で2回洗浄した。1×10
5/ウェルのPBMCをプレートに加えた。段階希釈したTrap-15、M7824、抗PD-1抗体(抗体21F12-1F6)およびIgGコントロール(陰性コントロールIgG)(重鎖:配列番号22;軽鎖:配列番号23)を、ヒトTGFβ1(SinoBiological、カタログ番号10804-HNAC)と別々に混合してプレートに加え、プレート中のTGFβ1の最終濃度は5ng/mLであった。37℃で72時間細胞培養した後、上清を回収し、ELISAキット(R&D Systems、カタログ番号DY285B)を用いてIFNγレベルをテストした。結果を
図6に示した。
【0108】
結果は、Trap-15がPD-1とTGFβ1の両方を遮断し、PBMCを再活性化し、用量依存的にIFNγレベルを上昇させることができることを示した。驚いたことに、M7824はこのアッセイシステムでは何の効果も示さなかった。
実施例9.Trap-15は抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導しなかった
【0109】
ADCC効果を消失させるためにTrap-15のFc領域を変異させる。PD-1を発現するCHO-K1/PD-1に対して抗体依存性細胞傷害(ADCC)アッセイを行い、Trap-15がADCC効果を有するかどうかを確認した。ヒトPD-1(配列番号19)をコードする核酸配列を含むベクターをCHO-K1細胞株にトランスフェクトすることにより、PD-1を発現するCHO-K1/PD-1細胞を調製した。ヒトPD-1を安定的に発現するクローンを、限界希釈によって得た。
【0110】
PD-1を発現するCHO-K1/PD-1細胞を、ウェル当たり10000個細胞の密度で播種し、アッセイバッファー(フェノールレッドを含有しないMEM培地(Gibco、カタログ番号41061-029)+1%FBS)中で30分間、100nMまたは10nMのTrap-15またはIgG4コントロール(重鎖:配列番号24;軽鎖:配列番号25)とプレインキュベートした。健康なドナーからのPBMCエフェクター細胞を添加して、10:1、25:1、または50:1のE/T(エフェクター細胞PBMC/標的細胞CHO-K1/PD-1)比で、ADCC効果を開始した。Raji細胞に対するリツキシマブのADCC効果を内部コントロールとして使用して、アッセイの質を確実なものとした。37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて24時間インキュベートした後、細胞上清を回収し、Viability/Cytotoxicity Multiplex Assay Kit(Dojindo、カタログ番号CK17)を使用して検出した。OD490nmでの吸光度をF50(Tecan)で読み取った。細胞溶解のパーセンテージを、以下の式に従って計算した。
細胞溶解%=100×(ODサンプル-OD標的細胞+エフェクター細胞)/(OD最大放出-OD最小放出)。
データをGraphpad Prismによって分析した。
【0111】
図7に示すデータは、Trap-15がCHO-K1/PD-1標的細胞に対してADCC効果を誘導しないことを示した。
実施例10.Trap-15は補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導しなかった
【0112】
CDC効果を消失させるためにTrap-15のFc領域を変異させる。PD-1を発現するCHO-K1/PD-1細胞に対して補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイを行い、Trap-15がCDC効果を有するかどうかを確認した。PD-1を発現するCHO-K1/PD-1細胞を、ウェル当たり5000個細胞の密度で播種し、アッセイバッファー(フェノールレッドフリーMEM培地+1%FBS)中で30分間、段階希釈したTrap-15およびIgGコントロール(重鎖:配列番号22;軽鎖:配列番号:23)、(50μg/mLから開始し、7つの濃度ポイントに5倍希釈した)とプレインキュベートした。プレートに次いで、健康なドナーからの血漿を最終濃度20v/v%で添加して、CDC効果を開始した。37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて4時間インキュベートした後、細胞にCell Counting-Lite2.0 Luminescent Cell Viability Assay試薬(Vazyme)を加え、RLUデータをF200(Tecan)で読み取った。細胞溶解のパーセンテージを、以下の式に従って計算した。
細胞溶解%=100×(1-(RLUサンプル-RLUバックグラウンド)/(RLU細胞+正常なヒト血漿-RLUバックグラウンド))。
【0113】
図8に示すデータは、Trap-15がCHO-K1/PD-1発現PD-1標的細胞に対してCDC効果を誘導しないことを示した。
実施例11.MC38-OVAモデルに対するTrap-15の抗腫瘍効果
【0114】
MC38-OVA腫瘍モデルを有するhPD-1ノックインマウスにおいてTrap-15のインビボでの有効性を試験した。この試験では、ヒトPD-1細胞外部分ノックインマウスC57BL/6J-Pdcd1em1(PDCD1)Smoc(Shanghai Model Organisms Center, Inc)を用いた。
【0115】
MC38細胞には、レトロウイルス形質導入を用いて、オボアルブミン(AAB59956)をコードする核酸が形質導入された。続いて、限界希釈によって細胞をクローン化した。OVAタンパク質を高度に発現するクローンをMC38-OVA細胞株として選択した。
【0116】
5~6週間のC57BL/6J-Pdcd1
em1(PDCD1)Smocマウスにそれぞれ1×10
6MC38-OVA細胞を皮下移植し、前記マウスを、平均腫瘍容積が約80mm
3(長さ×幅
2/2)に達した0日目にランダムに群に分けた。0日目、3日目、7日目、10日目、14日目、および17日目には、マウスに10mg/kgのTrap-15、ニボルマブ(重鎖:配列番号20;軽鎖:配列番号21)およびPBSをそれぞれ腹腔内投与した。試験中、週に2回キャリパー測定により腫瘍容積をモニタリングした。データを以下の表2と
図9に示した。
【0117】
単剤療法としてのTrap-15による治療は、PBS群と比較して有意な腫瘍増殖阻害をもたらした。Trap-15の阻害効果はニボルマブよりも優れている。
【表2】
実施例12.例示的な融合タンパク質の熱安定性
【0118】
この実施例では、Trap-13、Trap-14、およびTrap-15の熱安定性をテストした。簡単に説明すると、融合タンパク質を40℃で2週間保存し、0日目、7日目、および14日目にテストを行った。タンパク質の純度をサイズ排除クロマトグラフィーで測定した。特に、100mMリン酸ナトリウム+100mM Na2SO4、pH7.0をランニングバッファーとして用いて、20μgの融合タンパク質をTSKG3000SWXLカラムに注入した。すべての測定はAgilent 1220 HPLCで行われた。OpenLABソフトウェアを使用してデータを分析し、表3にまとめた。
【0119】
結果は、Trap-13、Trap-14およびTrap-15が、高温での2週間の保管中に比較的安定していることを示した。
【表3】
【0120】
本開示のシーケンスを以下にまとめる。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0121】
本発明は、1つ以上の実施形態に関連して上記で説明されてきたが、本発明はそれらの実施形態に限定されず、説明は、添付の特許請求項の精神と範囲内に含まれる、すべての選択肢、修正および均等物をカバーすることを意図していることを理解すべきであろう。本明細書で引用されているすべての参照文献は、参照によりその全体がさらに組み込まれる。
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.a)TGFβに結合する、ヒトTGFβR2細胞外ドメインまたはその断片と、
b)PD-1に結合し、かつ、配列番号2を含む重鎖可変領域の3CDRと配列番号3を含む軽鎖可変領域の3CDRとを含む、抗体またはその抗原結合断片と、を含む、組換え融合タンパク質であって、前記ヒトTGFβR2細胞外ドメインが、リンカーを介して、前記抗体の重鎖のC末端に連結され、重鎖-リンカー-TGFβR2融合タンパク質を形成し、前記TGFβR2細胞外ドメインが、配列番号1のアミノ酸配列を含み、配列番号2を含む前記重鎖可変領域の3CDRが、SYYIH、VINPSGGSTTYAQKFQGおよびGSYSSGWDYYYYYGMDVであり、配列番号3を含む前記軽鎖可変領域の3CDRが、RSSQSLLHSQGYNYLD、LGSNRASおよびMQALQTPWTであり、そして前記リンカーが、配列番号6、7、8または9のアミノ酸配列を含む、組換え融合タンパク質。
【配列表】