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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】再帰性反射構造を含む通信デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240528BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H01Q1/38
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022559781
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 EP2020059201
(87)【国際公開番号】W WO2021197592
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503433420
【氏名又は名称】華為技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUAWEI TECHNOLOGIES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Huawei Administration Building, Bantian, Longgang District, Shenzhen, Guangdong 518129, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100132481
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 克豪
(74)【代理人】
【識別番号】100115635
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 郁大
(72)【発明者】
【氏名】ウラジミール レネッツ
(72)【発明者】
【氏名】アナ ディアズ ルビオ
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ クエスタ ソト
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ トレチャコフ
(72)【発明者】
【氏名】シューチェン ワン
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー クリプコフ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンネ イルヴォネン
(72)【発明者】
【氏名】アンティ カリライネン
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186942(JP,A)
【文献】国際公開第2010/125784(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0312347(US,A1)
【文献】国際公開第2019/120515(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103398(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/083457(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0032865(US,A1)
【文献】特開2013-255259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
H01Q 1/38
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システム(500)のための通信デバイス(100)であって、前記通信デバイス(100)は、
シャーシ(102)と、
ガラス層(104)と、
前記シャーシ(102)と前記ガラス層(104)との間の面(P)に沿って延びる誘電体層(106)と、
電波(120)を放射するように構成されたアンテナ素子(108)と、
前記誘電体層(106)の内部に延び、かつ前記アンテナ素子(108)に隣接して配置される再帰性反射構造(110)と
を含み、前記再帰性反射構造(110)は、前記面(P)と非平行な角度に前記電波(120)を反射するように構成され、前記再帰性反射構造(110)は、薄く平坦な構造を有する導電性フィルム(112)であり、前記導電性フィルム(112)は、容量性及び誘導性パターンを形成する、容量性素子(114a、114b、…、114n)及び誘導性素子(116a、116b、…、116n)を含む、
通信デバイス(100)。
【請求項2】
前記再帰性反射構造(110)は、前記誘電体層(106)内の、その延伸部に沿って不均一なインピーダンスを有する、
請求項1に記載の通信デバイス(100)。
【請求項3】
前記再帰性反射構造(110)は、前記アンテナ素子(108)と導電的に又は容量的に結合される、
請求項1又は2に記載の通信デバイス(100)。
【請求項4】
前記再帰性反射構造(110)の第1の端部は、前記アンテナ素子(108)と導電的に又は容量的に結合される、
請求項3に記載の通信デバイス(100)。
【請求項5】
前記再帰性反射構造(110)は、前記電波(120)の波長の半分より小さい、前記アンテナ素子(108)からの範囲(r)内に配置される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項6】
前記アンテナ素子(108)は、前記誘電体層(106)の前記面(P)と垂直又は平行に配置される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項7】
前記再帰性反射構造(110)は、前記電波(120)の波長の半分より小さい、前記誘電体層(106)の内部への延伸部を有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項8】
各容量性素子及び各誘導性素子のサイズは、前記電波(120)の波長の1/4より小さい、
請求項1~7のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項9】
前記容量性及び誘導性パターンは、非繰り返しパターンである、
請求項1~8のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項10】
前記容量性及び誘導性パターンは、グリッドパターンを形成する、
請求項1~9のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項11】
前記電波(120)は、横磁気偏波電波である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の通信デバイス(100)。
【請求項12】
無線通信システム(500)のための通信デバイス(100)を製作するための方法(200)であって、前記方法(200)は、
シャーシ(102)及びガラス層(104)を取得するステップ(202)と、
誘電体層(106)の内部へと延びる再帰性反射構造(110)を含み、かつ面(P)内に延びる前記誘電体層(106)を取得するステップ(204)であって、前記再帰性反射構造(110)は、前記面(P)に非平行な角度に電波(120)を反射するように構成される、ステップ(204)と、
前記シャーシ(102)と前記ガラス層(104)との間に前記誘電体層(106)を配置するステップ(206)と、
前記再帰性反射構造(110)に隣接してアンテナ素子(108)を配置するステップ(208)と、
前記アンテナ素子(108)を前記再帰性反射構造(110)に導電的に又は容量的に結合させるステップであって、前記再帰性反射構造(110)は、薄く平坦な構造を有する導電性フィルム(112)であり、前記導電性フィルム(112)は、容量性及び誘導性パターンを形成する、容量性素子(114a、114b、…、114n)及び誘導性素子(116a、116b、…、116n)を含む、ステップと、
を含む、方法(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信デバイスのアンテナ素子によって放射される電波を反射するための再帰性反射構造を含む通信デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近は、スマートフォンが、通信のためだけでなく、メディアアプリケーションのためにも、我々の日常活動において重要な役割を担っている。メディアアプリケーションは、例えば、オーディオ又はビデオコンテンツを処理すること、保持すること、又は伝送することを含みうる。スマートフォンは、小型であり、かつロバストフィーリングを与えるべきである一方、その価格は手頃なままにすべきである。1つのポピュラーな設計では、ガラスでカバーされ、強固な金属アロイフレームでフレーム付けされる全ディスプレイを含む。カメラ、バッテリ、及び集積回路などの他のコンポーネントは、ガラス下に配置される。さらに、メディアコンテンツの伝送のためのスマートフォンは、高いデータレートを要求する。ミリ波領域の波長に対応する20GHzを超える周波数が利用されることがある。スマートフォンガラス下へのアンテナ実装は厄介であり、特に高い周波数で、放射パターンの乱れ及びアンテナの利得減少を招くことがある。
【発明の概要】
【0003】
本発明の実施形態の目的は、従来の解決策の欠点及び問題を軽減又は解決する解決策を提供することにある。
【0004】
上記の及びさらなる目的は、独立請求項の構成要素によって解決される。本発明のさらに有利な実施形態が従属請求項において見つけ出すことができる。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、上述した目的及び他の目的は、無線通信システムのための通信デバイスで達成され、通信デバイスは、
シャーシと、
ガラス層と、
シャーシとガラス層との間の面に沿って延びる誘電体層と、
電波を放射するように構成されたアンテナ素子と、
誘電体層の内部に延び、かつアンテナ素子に隣接して配置される再帰性反射構造とを含み、再帰性反射構造は、面と非平行な角度に電波を反射するように構成される。
【0006】
再帰性反射構造は、入射の角度と同じ反射の角度を有するように構成でき、反射メタサーフェス、異常反射メタサーフェス、又はビーム成形メタサーフェスとさらに称されることがある。
【0007】
再帰性反射構造がアンテナ素子に隣接して配置されることは、ここでは、再帰性反射構造とアンテナ素子との間の相互作用が、近接場と呼ばれ、かつ電波が波面を形成する前に発生することを意味すると理解できる。再帰性反射構造とアンテナ素子との間の距離は、例えば、電波の波長の半分より小さくてよい。
【0008】
誘電体層は、ここでは、通信デバイスのシャーシとガラス層との間に配置された様々なコンポーネントとして理解できる。誘電体層の上記コンポーネントは、通信デバイス内で、アンテナ素子の異なる位置に対して変わる。実施形態では、アンテナ素子は、通信デバイスの背面に配置されることがある。誘電体層の非限定的な例は、隣接するコンポーネント間の空気で満たされた隙間、スペーサとして利用される発泡体又はプラスチック構造、プリント回路基板の誘電体基板などを含むかもしれない。実施形態では、アンテナ素子が、通信デバイスのエッジとして配置されることがある。誘電体層の非限定的な例は、インサート成形、プラスチック部品、発泡体又はプラスチック構造、及びプリント回路基板の誘電体基板を含むかもしれない。さらなる実施形態では、アンテナ素子は、通信デバイスのディスプレイ面に配置されることがある。誘電体層の非限定的な例は、偏光フィルム、接着フィルム、有機発光ダイオード(OLED)基板、及び液晶(LC)フィルムを含むディスプレイの構造を含むかもしれない。
【0009】
第1の態様による通信デバイスの利点は、それが、ガラス層内及び背後で表面波へのアンテナエネルギーの寄生チャネリングを防止し、代わりに、放射を所望の方向に向けることにある。それによって、通信デバイス内のアンテナ素子の放射パターン及び利得が改善される。
【0010】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造は、誘電体層内の、その延伸部に沿って不均一なインピーダンスを有する。
【0011】
この実装形態の利点は、この実装形態が(例えば、半波長より小さい)小面積の再帰性反射構造を可能にする一方、表面波へのアンテナエネルギーの寄生チャネリングを防止し、それによって、放射パターンを改善することにある。
【0012】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造は、アンテナ素子と導電的に又は容量的に結合される。
【0013】
この実装形態の利点は、構造が、アンテナ素子の近接場によって強く励起され、ゆえに、所望の方向へと放射を効果的に反射することにある。
【0014】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造の第1の端部は、アンテナ素子と導電的に又は容量的に結合される。
【0015】
この実装形態の利点は、再帰性反射構造とアンテナ接地面との間の寄生チャネルが取り除かれることにある。再帰性反射構造がアンテナ素子と結合されるため、従って、その誘導モードの励起を許容しない。導波モードは、アンテナにとって寄生的であり、誘電体層に沿って誘導される非放射電磁(EM)エネルギーが、放射されるEMエネルギーを減少させる。従って、開示される実装形態は、誘電体層の内部の接地面に沿って伝播する波を取り除き、アンテナ効率をさらに改善する。
【0016】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造は、電波の波長の半分より小さい、アンテナ素子からの範囲r内に配置される。
【0017】
この実装形態の利点は、再帰性反射構造のフットプリントが最小化され、ガラスの下に配置された他のデバイスコンポーネントの性能を損なわないことである。
【0018】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、アンテナ素子は、誘電体層の面と垂直又は平行に配置される。
【0019】
この実装形態の利点は、再帰性反射構造が、異なる構成のアンテナで機能できることにある。例えば、概して誘電体層の面と平行なアンテナ開口は、ブロードサイドビームフォーミング放射を提供する。概して誘電体層の面と垂直なアンテナ開口は、エンドファイアビームフォーミング放射を提供する。
【0020】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造は、電波の波長の半分より小さい、誘電体層の内部への延伸部を有する。
【0021】
この実装形態の利点は、構造がコンパクトであり、ガラス層の下に配置された他のデバイスの性能を損なわないことである。
【0022】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、再帰性反射構造は、導電性フィルムである。
【0023】
この実装形態の利点は、パターン化された金属層として製造することが容易であることにある。
【0024】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、導電性フィルムは、固体導電性フィルムを含む。
【0025】
この実装形態の利点は、固体導電性フィルムの製造がコスト効率の良い設計を可能にすることにある。
【0026】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、導電性フィルムは、容量性及び誘導性パターンを形成する、容量性素子及び誘導性素子を含む。
【0027】
この実装形態の利点は、この配置が、再帰性反射構造のオペレーションに必要な表面インピーダンスの実現を可能にすることにある。この実装形態は、アンテナビーム成形の設計統合を可能にする。導電性フィルムは、面に非平行な角度に電波を反射するように構成できる。
【0028】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、各容量性素子及び各誘導性素子のサイズは、電波の波長の1/4より小さい。
【0029】
この実装形態の利点は、再帰性反射構造が、再帰性反射構造として動作するために必要とされる、不均一インピーダンス境界として機能することにある。このことは、非共振周波数応答を可能にする。それによって、電波は、放射源への反射なく、マルチバンドアンテナオペレーションの各周波数に対する空間内の所望の方向に反射される。
【0030】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、容量性及び誘導性パターンは、非繰り返しパターンである。
【0031】
この実装形態の利点は、表面波の伝播を禁止するだけの従来の周期的なストップバンド構造に代えて、再帰性反射構造が、波を所望の方向へと反射することが可能であることにある。この実装形態では、例えば、半波長より小さい短いセクションで、放射波への表面波近接場変換を実行する。
【0032】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、容量性及び誘導性パターンは、グリッドパターンを形成する。
【0033】
この実装形態の利点は、より長い構造のスーパーセルとして、容量性及び誘導性素子のいくつかのセットの繰り返しを許容し、性能をさらに向上させることにある。
【0034】
第1の態様による通信デバイスの実装形態において、電波は、横磁気(transverse magnetic)偏波電波である。
【0035】
この実装形態の利点は、この実装形態が、横磁気偏波電波を放射するアンテナに対して機能することにある。横磁気偏波電波は、デバイスカバーに沿う寄生表面波との最も強い結合を有し、従って、横磁気偏波電波を放射波に変換することは、アンテナの二重偏波ビームフォーミングを可能にする。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、上述した目的及び他の目的は、無線通信システムのための通信デバイスを製作するための方法で達成され、方法は、
シャーシ及びガラス層を取得するステップと、
誘電体層の内部に延びる再帰性反射構造を含み、かつ面内に延びる誘電体層を取得するステップであって、再帰性反射構造は、面に非平行な角度に電波を反射するように構成される、ステップと、
シャーシとガラス層との間に誘電体層を配置するステップと、
再帰性反射構造に隣接してアンテナ素子を配置するステップと、
アンテナ素子を再帰性反射構造に導電的に又は容量的に結合させるステップと、を含む。
【0037】
第2の態様による方法は、第1の態様による通信デバイスの実装形態に対応する実装形態に拡張することができる。ゆえに、方法の実装形態は、通信デバイスの対応する実装形態の特徴を含む。
【0038】
第2の態様による方法の利点は、第1の態様による通信デバイスの対応する実装形態のものと同じである。
【0039】
本発明の実施形態のさらなるアプリケーション及び利点が、以下の詳細な説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
添付図は、本発明の異なる実施形態を明確化し説明することを意図している。
【0041】
図1】本発明の実施形態による通信デバイスを模式的に示す。
図2a】本発明の実施形態による通信デバイス内の再帰性反射構造及びアンテナ素子を模式的に示す。
図2b】本発明の実施形態による通信デバイス内の再帰性反射構造及びアンテナ素子を模式的に示す。
図3a】本発明の実施形態による通信デバイス内の再帰性反射構造及びアンテナ素子を模式的に示す。
図3b】本発明の実施形態による通信デバイス内の再帰性反射構造及びアンテナ素子を模式的に示す。
図4a】再帰性反射構想及び横磁気モードベクトル及びそれらの投影を示す。
図4b】再帰性反射構想及び横磁気モードベクトル及びそれらの投影を示す。
図5】本発明の実施形態による再帰性反射構造モデルを示す。
図6a】本発明の実施形態によるインピーダンス離散化を示す。
図6b】本発明の実施形態によるインピーダンス離散化を示す。
図7a】本発明の実施形態による再帰性反射構造形状を示す。
図7b】本発明の実施形態による再帰性反射構造形状を示す。
図7c】本発明の実施形態による再帰性反射構造形状を示す。
図8】従来の通信デバイスについての及び本発明による通信デバイスについての指向性を示す。
図9a】本発明の通信デバイスについての指向性及び利得改善を示す。
図9b】本発明の通信デバイスについての指向性及び利得改善を示す。
図10】本発明の実施形態による通信デバイスのための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
従来のスマートフォンの層構造は、内部アンテナによって励起され、画面ガラス、及び画面ガラス下に配置される誘電体層を横切る表面波を招く。これらの表面波は、アンテナの放射パターンを強く歪め、その利得を低減させ、従って、避けるべきである。
【0043】
表面波抑制に対する従来の解決策は、容積及び表面の実装としてグループ化できる。容積の解決策は、層の材料の全体的な電気特性を変えることによって波抑制を実現する。波抑制に対する一般的な容積アプローチは、電磁バンドギャップ構造(EBG)、イプシロンネガティブ材料(ENG)、又はミューネガティブ材料(MNG)に基づくものである。表面解決策は、誘電体層内部の追加的なインターフェースの生成に基づくものである。そのような形状の変化は、誘電体層内を伝播することができる表面波の分散特性を変更する。
【0044】
より現実的な実装が漏洩波アンテナアプローチを利用して得られ、表面波伝播は、界面からエネルギーの一部を放射することによって減少する。
【0045】
上述した解決策は、アンテナそれ自体を考慮せず、異なる層の組み合わせとして、スマートフォン本体の性質のみを考慮している。アンテナ放射パターンそれ自体を変更することによって、より良い結果が達成されうる。このエリアにおける提案解決策は、多層化された回路基板内の複数の放射導体とダミー導体とによって適合されるアンテナデバイスと、基板上に配置されたフィルタセルによって囲まれているラジエータによって適合されるアンテナデバイスとを含む。
【0046】
従来の解決策は、制御された条件化で、波抑制又はアンテナ放射特性の向上に関して有望な結果を示した。残念なことに、各解決策に対して選択された仮定は、全ディスプレイ型スマートフォンのガラス下のアンテナによって課される制約とは相容れない。スマートフォン設計は、他のデバイス特性よりもディスプレイが優先される。ゆえに、ガラスの背後に位置する任意の構造は、ディスプレイ性能にほとんど若しくは全く影響を与えるべきではない。この条件には小型アンテナが必要となるが、表面波抑制のための従来の解決策を利用すると、それらが大きな面積を必要とするため、それは不可能である。
【0047】
加えて、従来の解決策のいくつかは、アンテナ又はディスプレイ性能を犠牲にせずに、ガラスの背後に配置することができない容積構造で実装される。いくつかの実装において、構造がガラスとシャーシとの間に収まらず、性能改善について何ら保証なく、スマートフォン寸法の変更を必要とする。構造設計は、実際の製造方法と互換性があるべきであることにも留意すべきである。しかし、容積構造の製造は、困難かつ高価であり、実際には、薄い平面シートの材料しか利用できない。
【0048】
要するに、表面波抑制のための従来の解決策は、理想的な条件下で良好な性能を約束する。しかし、これらの解決策の小型実装は可能ではなく、ゆえに、それらは、全ディスプレイ型スマートフォンに組み込まれるアンテナに適していない。
【0049】
本発明の目的は、上述した欠点に対処し、表面波を励起しうる電磁波を反射するように設計された
再帰性反射構造を利用する通信デバイス内のガラス層の背後に位置するアンテナの性能を改善することにある。再帰性反射構造は、ガラス層内及び背後で表面波へのアンテナエネルギーの寄生チャネリングを防止するように配置され、放射を所望の方向に向ける。それによって、通信デバイス内のアンテナの放射パターン及び利得が改善される。
【0050】
図1は、本発明の実施形態による無線通信システムのための通信デバイス100を模式的に示す。通信デバイス100は、シャーシ102と、ガラス層104と、誘電体層106とを含む。図1を参照すると、誘電体層106は、シャーシ102とガラス層104との間の面Pに沿って延びる。誘電体層106は、誘電体ディスプレイ又は誘電体スペーサとさらに称されることがある。
【0051】
通信デバイス100は、アンテナ素子108と、再帰性反射構造110とをさらに含む。アンテナ素子108は、電波120を放射するように構成される。実施形態において、電波120は、横磁気偏波電波であってよい。
【0052】
図1を参照すると、再帰性反射構造110は、誘電体層106の内部に延び、かつアンテナ素子108に隣接して配置される。実施形態において、再帰性反射構造110は、アンテナ素子108と導電的に又は容量的に結合されうる。例えば、再帰性反射構造110の第1の端部は、アンテナ素子108と導電的に又は容量的に結合されうる。
【0053】
再帰性反射構造110は、アンテナ素子108によって放射された電波120を、面Pと非平行な角度に反射するように構成される。再帰性反射構造110の反射の角度は、入射の角度と同じ又は実質的に同じである。従って、再帰性反射構造110が電波120を反射する面Pに非平行な角度は、電波120が再帰性反射構造110へと入射する角度と同じである。ゆえに、再帰性反射構造110は、アンテナ素子108からの電波120をアンテナ素子108へと反射する有効境界として働く。
【0054】
再帰反射された電波の反射位相は、再帰性反射構造110のトポロジーを調整することによって操作することができる。本発明の実施形態によれば、再帰性反射構造110は、誘電体層106内の、その延伸部に沿って不均一なインピーダンスを有する。このようにして、入射表面波と反射放射波との間の所望の位相同期を保証することができる。再帰性反射構造110のトポロジーに関する、さらなる詳細について、図4図7を参照しながら以下で説明される。
【0055】
アンテナ素子108に近い近接場領域を利用することによって、再帰性反射構造110は、アンテナ素子108に対するビームフォーミング面として利用されうる。近接場領域は、電波の波長の半分までとして定義されることがある。ゆえに、再帰性反射構造110は、実施形態において、電波120の波長の半分より小さい、アンテナ素子108からの範囲r内に配置されうる。さらに、再帰性反射構造110は、電波120の波長の半分より小さい、誘電体層106の内部への延伸部を有しうる。
【0056】
本発明の実施形態によれば、再帰性反射構造110は、導電性フィルム112である。従って、再帰性反射構造110は、面Pに沿った主延伸部(extension)を持つ、誘電体層106の内部に延びる薄く平坦な構造であってよい。導電性フィルム112は、固体導電性フィルムを含んでもよいし、導電性フィルム112は、容量性及び誘導性パターンを形成する、容量性(capacitive)素子及び誘導性(inductive)素子を含んでもよい。
【0057】
導電性フィルム112が容量性素子及び誘導性素子を含む実施形態において、各容量性素子及び各誘導性素子のサイズは、電波120の波長の1/4より小さくてよい。ゆえに、容量性素子及び誘導性素子は、サブ波長間隔の容量性及び誘導性パターンを形成しうる。容量性及び誘導性パターンは、さらに、非繰り返しパターン、例えば、非周期的パターンであってよい。このようにして、周期性に起因する共振を防止することができる。さらに、容量性及び誘導性パターンは、グリッドパターンを形成してよい。容量性及び誘導性パターンは、以下でさらに説明されるように、例えば、リフレクタグリッドインピーダンス関数の離散値を利用して、グリッドインピーダンスストリップのグループとして設計されうる。
【0058】
アンテナ素子108は、誘電体層106の面Pに対して、垂直又は平行に、又は、他の適切な方向に配置されうる。図2a~図2bは、アンテナ素子108が誘電体層106の面Pに垂直に配置される実施形態を模式的に示す。図2a~図2bに示した実施形態において、アンテナ素子108は、単極子であり、再帰性反射構造110は、容量性及び誘導性パターンを形成する、容量性素子114a、114b、…、114n及び誘導性素子116a、116b、…、116nを含む導電性フィルム112である。導電性フィルム112とシャーシ/接地面102との間の容積を仕切る、アンテナ構造の金属素子があり、導電性フィルム112とシャーシ/接地面102との間に誘導される波の励起を防止する。例として、このことは、図2bに示すように、再帰性反射構造110の第1の端部110aでアンテナ素子108を導電的に結合することによって保証することができる。
【0059】
図3a~図3bは、アンテナ素子108が誘電体層106の面Pに平行に配置される実施形態を模式的に示す。図3a~図3bに示した実施形態において、アンテナ素子108は単極子であり、再帰性反射構造110は、固体導電性フィルム112である。再帰性反射構造110は、さらに、アンテナ素子108と導電的に結合される。導電性フィルム112とシャーシ/接地面102との間の容積を仕切る、アンテナ構造の金属素子があり、導電性フィルム112とシャーシ/接地面102との間に誘導される波の励起を防止する。例として、このことは、図3bに示すように、再帰性反射構造110の第1の端部110aでアンテナ素子108を導電的に結合することによって保証することができる。
【0060】
上述した実施形態は、アンテナ素子配置と、再帰性反射構造110のタイプとの可能な組み合わせのうちの2つの例である。但し、本発明の範囲を逸脱せずに、他の組み合わせが可能である。例えば、アンテナ素子108が誘電体層106の面Pに垂直に配置され、かつ再帰性反射構造110が固体導電性フィルムであってよいし、又は、アンテナ素子108が誘電体層106の面Pに平行に配置され、かつ再帰性反射構造110が、容量性及び誘導性パターンを形成する導電性フィルム112であってよい。
【0061】
再帰性反射構造110は、図4aに示すように、空間から入射する波の方向を変えて、入射波の源へと戻すことを可能にする。
【0062】
本発明の実施形態によれば、再帰性反射構造110は、以下の境界条件を介して定義される、表面インピーダンスを調整して、入射波と反射波との間の所望の位相同期を調整することができるメタサーフェスとして実装することができる。
【0063】
【数1】
【0064】
ここで、Et及びHtは、合計の、即ち、入射+反射の、電場及び磁場の接線(tangential)成分であり、
【0065】
【数2】
【0066】
は、面に垂直な単位ベクトルである。従って、所望の再帰反射効果を提供するには、電場及び磁場の両方の接線成分を定義することが重要である。
【0067】
場の所望の偏波のため、再帰性反射構造110は、磁場の垂直成分がない横磁気(TM)偏波用に設計されうる。図4bに示した座標定義に基づいて、入射及び反射磁場の接線成分は、次のように記述することができる。
【0068】
【数3】
【0069】
ここで、
【0070】
【数4】
【0071】
は、反射係数(
【0072】
【数5】
【0073】
は、反射係数の位相である)であり、θiは、入射角である。TM波の電場成分を見つけるために、場
【0074】
【数6】
【0075】
の時間高調波依存性を持つアンペールの法則
【0076】
【数7】
【0077】
が利用され、ε0は、真空であると仮定される背景媒体の誘電率である。従って、接線電場は、以下のようになる。
【0078】
【数8】
【0079】
式(1)を利用し、合計の磁場及び電場の接線成分が反射場及び入射場(それぞれ、
【0080】
【数9】
【0081】
及び
【0082】
【数10】
【0083】
)の和であることを知れば、再帰性反射構造110をモデル化する表面インピーダンスは、
【0084】
【数11】
【0085】
となり、ここで、
【0086】
【数12】
【0087】
は、メタサーフェスによって導入される位相勾配である。再帰性反射構造110に必要な位相勾配は、周波数依存の表面インピーダンスをもたらす。位相勾配の定義から、再帰性反射構造110の周期は、以下のように計算される。
【0088】
【数13】
【0089】
入射角が減少すると周期が増加し、ゼロ角度の限界、即ち、垂直入射では、再帰性反射構造110は、通常の均一な鏡に退化する。いずれの場合も、小型の再帰性反射構造110は、アンテナ近くの場に反応するだろうし、従って、表面インピーダンスの1周期だけが必要とされる。
【0090】
通信デバイス100では、図5a~図5cに示すように、基準としてガラス面を利用して再帰性反射構造110のインピーダンスを作成する方がより都合が良くなる。誘電体層106の内部に位置する再帰性反射構造110は、その両側で接線磁場の不連続性を導入するだろうグリッドインピーダンスZgとしてモデル化することができる。
【0091】
電磁場は、再帰性反射構造110表面に対して角度θiで再帰性反射構造110へと伝播する(図5a参照)。垂直成分
【0092】
【数14】
【0093】
及び接線成分
【0094】
【数15】
【0095】
を有する入射電磁場係数
【0096】
【数16】
【0097】
は、厚さd3を持つガラスカバー層、ガラスカバー層と導電性パターン112層d2との間の誘電体層、導電性パターン112のグリッドインピーダンスZg、及び、導電性パターン112と接地面d1との間の誘電体層を有する、多層の再帰性反射構造110表面で反射される。誘電体層Z1、Z2、Z3のインピーダンス、及びグリッドインピーダンスZg図5b)は、再帰性反射構造110(図5c)をモデル化する表面インピーダンスZsに変換されうる。
【0098】
多層構造がガラス面上で再帰反射器として振る舞うことを保証するためには、式(6)で定義される表面インピーダンスの振る舞いを模倣する必要がある。図5bに示すように、伝送線路アプローチを利用して、多層システムの入力インピーダンスを計算し、所望の値に等しくすることができる。必要なグリッドインピーダンスの結果式は、表面インピーダンス及び多層システムの他のパラメータの関数として、以下のように記述することができる。
【0099】
【数17】
【0100】
ここで、
【0101】
【数18】
【0102】
及び
【0103】
【数19】
【0104】
であり、n∈[1,2,3]は、誘電体層を番号付ける。
【0105】
図6aは、グリッド及び表面インピーダンス形状の離散化を示す。グリッド及び表面インピーダンスの両方が、x方向に面に沿った連続関数であることに留意することが重要である。この問題は、有限サイズの要素のセットとして再帰性反射構造110が実現されるため、表面実装に関して厄介なことになりうる。従って、再帰性反射構造110は、図6bに模式的に表されているように、一定のグリッドインピーダンス値を持つストリップに離散化され、連続関数を階段的定数近似で置き換える。性能と複雑さとの間の良好なトレードオフは、適切な数の離散値を選択することで達成することができる。
【0106】
図7a~図7cは、再帰性反射構造110が6つの要素に離散化された実施形態による再帰性反射構造110を示す。要素は、例えば、蛇行スロットトポロジーに基づいて製造することができる。図7aは、蛇行スロットに基づく再帰性反射構造110の1つの要素を示す。各要素は、それらの間のギャップ又はスロット114aによって分離された2つの金属パッチ116a、116bを含む。グリッドインピーダンスZgは、スロットギャップの長さA及び幅wを変えることによって調整されうる。図7bは、y軸に沿った再帰性反射構造110の形状を示し、その形状は、所望の再帰反射機能を実現するように設計されている。
【0107】
図7cは、誘電体層106内部の再帰性反射構造110の位置を示す。再帰性反射構造110は、この出願において、ガラス層104の下の誘電体層106の中央に位置する。
【0108】
表1は、厚さ0.5mm及び比誘電率5.5を有するガラスを考慮し、入射角θi=85°を持つ再帰性反射構造110についての最適値を示し、誘電体層106は、比誘電率2.7を持つ1.0mmスラブとして特徴付けられた。
【0109】
【表1】
【0110】
図7cに示した実施形態では、表1で与えられた必要な最適インピーダンス値は、離散化されたストリップのいずれもが共振に近い動作を必要とせず、さらに、再帰性反射構造110が容量性グリッド素子のみを利用していることを明らかにする。それによって、再帰性反射構造110は、狭い周波数帯域内の共振領域でのみ動作することができる他の従来の構造よりも広い周波数帯域で動作することができる。
【0111】
サイズに関して、提案された再帰性反射構造110は、その長さが式6の1位相周期に低減されるため、好適な小型解決策である。上で論じたシナリオでは、再帰性反射構造110の長さが約5.2mmであり、29GHzの基準周波数で半波長より小さく、一方で、各素子は、全長の1/6を占める。素子の長さは、より多くの離散化ポイントが利用される場合、適切な製造方法を利用して、さらに低減することができる。
【0112】
本発明による再帰性反射構造110により、誘電体層106内部の表面波の伝播を遮断することが可能であるだけでなく、図8に示すように、さらに、このエネルギーが所望の方向に向け直されうる。図8は、次の2つのシナリオについて29GHzでの指向性を示す。第1のシナリオ802は、表面波抑制のための構造を持たない通信デバイスについての指向性を示し、第2のシナリオ804は、誘電体層106の中央に本発明による追加的な再帰性反射構造110を持つ同じ通信デバイスについての指向性を示す。方向90°でガラスの下を伝播する表面波は、再帰性反射構造110によって抑制され、ガラスの上面上の関心領域、即ち、方向0°に向け直されることに留意されたい。
【0113】
異なる周波数については、再帰性反射構造110は、図9a~図9bから理解することができるように、一貫した改善を示す。図9aは、再帰性反射構造110の指向性改善を示し、図9bは、再帰性反射構造110の利得改善を示す。再帰性反射構造110は、約3dBの平均指向性改善と、約5dBの利得改善を提示しうる。
【0114】
本発明は、さらに、説明された実施形態のいずれかによる通信デバイス100を製造するための方法に関する。図10は、方法200のフローチャートを示し、方法200は、シャーシ102及びガラス層104を取得するステップ202と、誘電体層106の内部に延びる再帰性反射構造110を含み、かつ面P内に延びる誘電体層106をさらに取得するステップ204とを含み、再帰性反射構造110は、面Pに非平行な角度に電波120を反射するように構成される。方法200は、シャーシ102とガラス層104との間に誘電体層106を配置するステップ206と、再帰性反射構造110に隣接してアンテナ素子108を配置するステップ208とをさらに含む。方法200は、アンテナ素子108を再帰性反射構造110に導電的に又は容量的に結合させるステップ210をさらに含む。
【0115】
本明細書の通信デバイス100は、ユーザデバイス、ユーザ機器(UE)、モバイル局、モノのインターネット(IoT)デバイス、センサデバイス、無線端末、及び/又はモバイル端末と表記されることがあり、まれにセルラ無線システムとも称される無線通信システムにおいて無線で通信することが可能でありうる。UEは、携帯電話、セルラ電話、コンピュータタブレット、又は無線機能を持つラップトップとさらに称されることがある。このコンテキストにおけるUEは、例えば、ポータブル、ポケット格納可能な、ハンドヘルド、コンピュータ搭載の、又は車載のモバイルデバイスであってよく、無線アクセスネットワークを介して、他の受信機又はサーバなどの他のエンティティと音声及び/又はデータの通信が可能である。UEは、IEEE802.11準拠のメディアアクセス制御(MAC)及び物理レイヤ(PHY)インターフェースから無線メディア(WM)までを含む任意のデバイスである、局(STA)であることができる。UEは、3GPP関連のLTE及びLTEアドバンスト、WiMAX及びその発展型、及び新無線などの第5世代無線技術における通信のために構成されることもある。
【0116】
最後に、本発明は、上述した実施形態に限定されず、添付の独立請求項の範囲内の全ての実施形態にも関連し組み込まれることを理解すべきである。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図8
図9a
図9b
図10