(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】キャピラリーベースのイムノアッセイシステムを使用する複合糖質の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/561 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
G01N33/561
(21)【出願番号】P 2023532197
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 IB2021061115
(87)【国際公開番号】W WO2022113048
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-11-06
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】マニ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】クリーフトワース,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】リーバー,ベラ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ピアンタ,アンナリーサ
(72)【発明者】
【氏名】チャッカムカル,アニッシュ
(72)【発明者】
【氏名】グリップストラ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】カガボ,ダイアン
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221279(WO,A1)
【文献】特開2019-148564(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130578(WO,A1)
【文献】特開2007-017445(JP,A)
【文献】特開2009-143944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/49-33/98
G01N 1/00- 1/44
G01N 30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4つの複合糖質の混合物を含む試験試料中の複合糖質を分析する方法であって、
前記分析が、
●前記複合糖質の同定及び
●較正曲線に基づく前記複合糖質の絶対定量化を含み、
前記方法が、
(a)前記試験試料と較正試料のセットと、任意選択で
サイズ標準を含むラダー試料、及び任意選択で対照試料を提供することと、
(b)キャピラリーベースのイムノアッセイシステムを用いて、個々のキャピラリーにおいて、前記試験試料、前記較正試料、任意選択で前記ラダー試料、及び任意選択で前記対照試料を測定し、それによって各キャピラリーについてのデータセットを生成することと、
(c)少なくとも以下の機能、すなわち、
●
信号が積分される分子量範囲についての限界を受け取る、及び
●各キャピラリーについてバックグラウンド信号を計算する、及び
●各キャピラリーで発生した信号からバックグラウンド信号を差し引く、
を提供するコンピュータプログラムによって前記データセットを分析することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記複合糖質の測定が
、完全に分離されていないピークを含む広い信号をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合糖質が複合糖質ワクチンの成分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記複合糖質が
、担体タンパク質への多糖成分の酵素的コンジュゲーションによって生成されるバイオコンジュゲートである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記複合糖質が、1つの担体タンパク質と、前記担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖とを含み、
(i)前記担体タンパク質が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(EPA)の解毒された外毒素Aであり、且つ、
(ii)前記多糖が、O1A、O2、O4、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75からなる群から選択される大腸菌(Escherichia coli)O抗原である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多糖が1~100
個の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位が非修飾単糖及び/又は修飾単糖を
含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記試験試料が、
●緩衝剤、無機塩、糖アルコール、及び/又は非イオン性界面活性剤のうちの1つ以上を任意選択で含む水性マトリックス、
●任意選択で、担体タンパク質に結合していない多糖(「遊離PS」)、
●任意選択で非関連タンパク質、
を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記試験試料が、
9~20の複合糖
質を含み、前記複合糖質が
、多糖成分において異な
り、前記多糖成分が、O1A、O2、O4、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分析が、
●前記複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/若しくはテトラグリコシル化変異体の同定、並びに/又は
●較正曲線に基づく前記複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/又はテトラグリコシル化変異体の絶対定量化
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程
(a)が、以下の工程、すなわち、
(a1)前記複合糖質の濃度を0.01~0.50μgmL
-1の予想濃度に調整すること、
(a2)試料緩衝液、ジスルフィド架橋還元剤、及び1つ以上のマーカーから選択される1つ以上の補助試薬を前記試料に添加すること、
および
(a3
)前記試料を変性させること、
のうちの1つ以上
を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程
(b)が、以下の工程、すなわち、
(b1)分析マトリックスを
、前記イムノアッセイシステムのキャピラリーにロードすること、
(b2)前記試験試料、較正試料、任意選択のラダー試料、及び任意選択の対照試料を、前記イムノアッセイシステムの個々のキャピラリーにロードすること、
(b3)前記試料の成分を分離すること、
(b4)前記試料の成分を固定化すること、
(b5)前記複合糖質に結合するグリカン特異的一次抗体を適用すること、
(b6)前記一次抗体に結合し、且つ、検出可能な信号を生成する二次抗体を適用すること、
(b7)前記二次抗体が酵素に連結されている場合、前記酵素に対する基質を適用すること、
のうちの1つ以上
を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b6)において、前記検出可能な信号が、前記二次抗体が、化学発光反応、化学蛍光反応、又は着色若しくは蛍光生成物をもたらす化学反応を触媒することができ
る酵素に共有結合されることによって生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程
(c)が、以下の工程、すなわち、
(c1)工程b)で生成されたすべてのキャピラリーについての前記データセットを受け取ることと、
(c2)キャピラリーごとに前記バックグラウンドを同定することと、
(c3)前記個別バックグラウンド信号を前記対応するキャピラリーの測定信号から減算することと、
(c4)多糖特異的かつ調節可能な積分範囲にわたって前記バックグラウンド補正信号を積分することによって、キャピラリーごとの曲線下面積を得ることと、
(c5)既知の濃度を有する較正試料によって生成された信号に、非線形回帰を適用することによっ
て較正曲線を確立し、それによって、対応する較正試料の濃度に対する各信号について計算された曲線下面積をプロットすることと、
(c6)前記測定された曲線下面積を前記較正曲線と比較することによって、前記試験試料中の前記複合糖質の濃度を計算することと、
(c7)予め定義された合格基準との自動比較によって、前記計算された濃度の妥当性を評価することと、
のうちの1つ以上
を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な複合糖質組成物を同定及び定量するための分析方法に関し、特に、少なくとも4つの複合糖質を含む試料中の複合糖質の分析に関し、特に、複合糖質が、完全に分解されていないピークを含み得る広い信号の生成をもたらす場合の分析に関する。
【背景技術】
【0002】
複合糖質ベースの薬物におけるグリコシル化を理解し、測定し、制御するための満足のいくプログラムを実証するために、生物薬剤製造業者に対する規制当局の圧力が高まっている。しかしながら、複合糖質ワクチンなどの複雑な複合糖質組成物の分析、すなわち、そのような組成物内の個々の複合糖質の同定及び定量化は困難な作業である。このような分析は、通常、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は手動ドットブロットウェスタンなどの労働集約的な方法を含む。このような方法は、典型的には、大量の手作業を伴う。
【0003】
更に、頻繁に使用されるELISAは、各複合糖質の異なるグリコシル化変異体に関する情報を提供しない。
【0004】
最近の代替法は、キャピラリーベースのイムノアッセイ法、すなわち、キャピラリーウェスタンブロットであり、これは、試料調製工程を除いて完全に自動化され得る[例えば、RustandiらのApplications of an Automated and Quantitative CE-Based Size and Charge Western Blot for Therapeutic Proteins and Vaccines.2016.In:Tran N.,Taverna M.(eds)Capillary Electrophoresis of Proteins and Peptides:Methods and Protocols.Methods in Molecular Biology,vol 1466,pp.197-217を参照のこと]。このような方法は、手作業の量並びに全体的な分析時間を著しく減少させることができる。
【0005】
このような方法では、試料の異なる成分がキャピラリー内で分離され、特異的抗体によって検出される。
【0006】
Hammらの[Analytical Biochemistry 2015,478:33-39]は、キャピラリーベースのイムノアッセイ法を用いた複合糖質ワクチン組成物内の個々の複合糖質の同定を記載している。しかしながら、彼らは、当該組成物内の複合糖質の定量化を報告しておらず、定量化を行う可能性を示唆しているにすぎない。したがって、この文献は、較正曲線を生成するための較正試料の測定についても記載していない。複合糖質ワクチン組成物内のすべての複合糖質の正確な定量化を達成するために、各個々の複合糖質に対応する全信号を正確に積分できることが必須である。したがって、この文献は、複合糖質についての同一性試験のみを開示している。したがって、完全に分解されていないピークを含む広い信号の生成をもたらす複合糖質の定量化を可能にするコンピュータプログラムも開示していない。更に、バイオコンジュゲートの分析は開示されていない。
【0007】
Minskerらの[Vaccine 2020,38:7155-7174]は、キャピラリーウェスタンブロットを用いた糖タンパク質の同定及び相対的定量化を記載している。この方法では、糖タンパク質のタンパク質成分を検出し、得られた信号を用いて糖タンパク質の相対存在量を決定する。したがって、この方法は、較正曲線の作成のための較正試料の測定も、目的の糖タンパク質の絶対定量化も含まない。更に、データ分析に関する詳細は提供されていない。代わりに、「すべての指定されていない設定がデフォルトベンダ推奨として適用された」と述べられている。
【0008】
Markelyらの[Biotechnology progress 2015,32(1):235-241]は、細胞培養中のシアリル化の相対的変化をモニターするための、糖タンパク質の異なるシアリル化形態の相対定量化のための等電点電気泳動イムノアッセイ法を記載している。したがって、この文献は、較正曲線の作成も、複合糖質の絶対定量化も記載していない。この論文におけるデータ分析は、製造業者のガイドラインに従ってCompassソフトウェアを使用して行った。
【0009】
しかしながら、一般に、広い信号、特に、完全に分解されていないピークを含む広い信号の生成をもたらす分析物の定量化は、依然として課題である[例えば、Castle et al.,J.Biol.Chem.2019、294(8):2642-2650の
図5Dを参照のこと]。
【0010】
いくつかの複合糖質は、現在利用可能なキャピラリーベースのイムノアッセイ法によって定量可能な狭い信号の生成をもたらし得るが、他のものはもたらさない。例えば、4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質を含む複合糖質は、モノ-、ジ-、トリ-又はテトラグリコシル化形態で存在することができる。そのような複合糖質は、例えばPglBオリゴサッカリルトランスフェラーゼを使用して、担体タンパク質への多糖成分の酵素的コンジュゲーションによって生成することができる[例えば、国際公開第2015/124769号、国際公開第2020/191082号、Poolman and Wacker,J.Infect.Dis.(2016)v.213(1),pp.6-13及びその中の参考文献を参照のこと]。そのような場合、すなわち、細胞中の担体タンパク質への多糖成分の酵素的コンジュゲーションでは、複合糖質は、バイオコンジュゲートとも呼ばれる。
【0011】
キャピラリーベースのイムノアッセイ法による分析の際にそのようなバイオコンジュゲートについて生成される信号は、典型的には広く、異なるグリコシル化状態に対応するいくつかのピーク、例えば、典型的には完全に分離されていない、すなわちベースライン分離されていないバイオコンジュゲートのモノ-、ジ-、トリ-又はテトラグリコシル化形態の混合物を含む。
【0012】
このような場合、現在利用可能なキャピラリーベースのイムノアッセイシステム、すなわち、ソフトウェア「Compass for SW version 3.1.7」と組み合わせたWes(商標)システム[Bio-techneから市販されている、https:www.proteinsimple.com/wes.html、2020年9月07日にアクセス]、試験試料についての信頼できる定量データを提供していない。
【0013】
したがって、既知のキャピラリーベースのイムノアッセイ法は、すべての複合糖質、特に、バイオコンジュゲートの場合に典型的であるような広い信号をもたらす複合糖質の同定及び絶対定量化には適していない。そのような広い信号は、100~500 kDa、典型的には200~400 kDaの分子量範囲に及び得る。その例は、規定された数のグリコシル化部位、例えば1~10個、例えば4個のグリコシル化部位を有する担体タンパク質を含むバイオコンジュゲートであり、グリカンは、限定された数の特異的グリコシル化部位、例えば1~10個、例えば1、2、3、又は4個のグリコシル化部位にコンジュゲートされている。特に、これは以下を含むバイオコンジュゲート及びそれらの混合物の場合である。
●4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質
●異なる大腸菌(Escherichia coli)O-抗原に対応する多糖成分。
【0014】
上記のように、グリカンが4などの限定された数の特異的グリコシル化部位に結合しているこのようなバイオコンジュゲートは、PglBオリゴサッカリルトランスフェラーゼを使用した担体タンパク質への多糖成分の酵素的コンジュゲーションによって生成することができる[例えば、国際公開第2015/124769号;国際公開第2020/191082号、Poolman and Wacker,J.Infect.Dis.(2016)v.213(1),pp.6-13及びその中の参考文献を参照のこと]。
【0015】
更に、密接に関連した複合糖質、すなわち、抗原の異なる血清型に対応するPS成分のみが異なる複合糖質の同定及び絶対定量化は、各複合糖質、特にバイオコンジュゲートに特有の課題である。キャピラリーベースのイムノアッセイ法によるそのような分析は、上記の複合糖質についてはまだ記載されていない。
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の目的は、従来技術のこれらの制限を緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、本発明について下記により詳細に説明する。本明細書において提供/開示される様々な実施形態、選好及び範囲は、随意に組み合わされ得ることが理解される。更に、特定の実施形態に応じて、選択された定義、実施形態又は範囲が適用されなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】WES(商標)システムに含まれるソフトウェア「Compass for SW version 3.1.7」のDropped Lines機能を使用した、実施例1に記載されるような、大腸菌(E.coli)O-抗原(血清型O6)に対応するEPA担体タンパク質及びPS成分を含む複合糖質の測定から得られた電気泳動図の分析。このタイプの面積計算は、垂直ドロップ法とも呼ばれる。Compassソフトウェアを使用した分析は、全信号領域を積分することができない(マークされた領域のみがCompassソフトウェアによって積分された)。Y軸は化学発光信号強度を表し、X軸はkDaで表される分子量(MW)を表す。
【
図2】本明細書に記載のコンピュータプログラムを使用した、実施例1に記載の大腸菌(E.coli)O-抗原(血清型O4)に対応するEPA担体タンパク質及びPS成分を含む複合糖質の分析から得られた電気泳動図の積分。Y軸は化学発光信号強度を表し、X軸はkDaで表される分子量(MW)を表す。 測定は、WES(商標)システムを使用して行った。積分範囲は、100及び480 kDaにおける2つの垂直な長方形によって示される。長方形の幅は、特定のキャピラリーについてのバックグラウンド信号を計算するための分子量ウィンドウを表す。バックグラウンド信号は、対応するキャピラリー内の分析物から生じる信号から自動的に差し引かれる。キャピラリー特異的バックグラウンド信号を計算するための積分範囲及び分子量ウィンドウの幅は、ユーザによって調節され得る。 A)4つの較正試料(1つの複製が示されている)の分析から得られた電気泳動図のオーバーレイ。これは、較正曲線を生成するために使用される。 B)10個の複合糖質を含む多価複合糖質ワクチン組成物における上記の複合糖質の分析の4つの複製のオーバーレイ。これにより、分析物の同一性の決定及び絶対定量化の技術的再現性が確認される。
【
図3】WES(商標)システムを使用したO25B O-EPAバイオコンジュゲートの3回の測定(三連)から得られた電気泳動図の分析。Y軸は化学発光信号強度を表し、X軸はkDaで表される分子量(MW)を表す。A~C:WES(商標)システムに含まれるソフトウェア「Compass for SW version 3.1.8」のDropped Lines機能(垂直ドロップ法とも呼ばれる)を使用したO25B-EPA三連測定の積分。Compassソフトウェアを使用する分析は、各測定に対して異なる積分範囲(マークされた領域)をもたらす。いずれの場合も、Compassソフトウェアは、信号の全領域を積分することができない。D~F:A~Cと同じO25B O-EPA三連測定の積分であるが、積分は本明細書に記載のコンピュータプログラムを使用して行った。積分範囲は、100及び570kDaにおける2つの垂直な長方形によって示される。長方形の幅は、特定のキャピラリーについてのバックグラウンド信号を計算するための分子量ウィンドウを表す。バックグラウンド信号は、対応するキャピラリー内の分析物から生じる信号から自動的に差し引かれる。信号の全領域の積分は再現可能な方法で実行される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に明記しない限り、以下の定義が本明細書において適用されるものとする。
本明細書で使用される場合、本発明の文脈(特に、特許請求の範囲の文脈)において、「a」、「an」、「the」という用語、並びに同様の用語の使用は、本明細書において別段の指示がない限り、又は文脈上明確に矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を包含すると解釈されるものとする。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「含む(including)」、「含有する(containing)」、及び「含む(comprising)」は、本明細書ではオープンな非限定的意味で用いられる。様々な実施形態、選好及び範囲は、随意に組み合わせられ得ることが理解される。
【0021】
複合糖質:「複合糖質」という用語は、当該技術分野において既知であり、特に、1つ以上の多糖(PS)に共有結合した化学物質を表す。そのような複合糖質は、生細胞における生物学的コンジュゲーション(「バイオコンジュゲート」又は「生物学的コンジュゲート」)によって得ることができ、又は多糖の化学的コンジュゲーション(「化学的」又は「合成」複合糖質)によって得ることができる。適切な化学物質には、タンパク質/ペプチド及び脂質が含まれ、対応する複合糖質は糖タンパク質及び糖脂質である。糖タンパク質の群から選択される複合糖質が、本発明の範囲内で特に好適である。上記のように、バイオコンジュゲートである複合糖質(すなわち、糖タンパク質のサブグループ)の同定及び絶対定量化は、先行技術の方法を使用すると特に困難である。しかしながら、バイオコンジュゲートは、本発明の文脈において特に好適な複合糖質である。
【0022】
より詳細には、糖タンパク質という用語は、「従来の糖タンパク質」及び「複合糖質ワクチン」を含む。
【0023】
従来の糖タンパク質では、例えば、「活性」原理がタンパク質部分により多く存在する抗体又はエリスロポエチンなどのタンパク質部分に重点が置かれ、グリカンは、例えば半減期において、又は他の特性を規定する際に役割を果たす。このような従来の糖タンパク質は、腫瘍学又は炎症性疾患などの薬学的適用において広範な使用が見出されている。
【0024】
複合糖質ワクチンでは、グリカンが関連抗原であり、タンパク質部分が単に所望のT細胞記憶免疫応答をもたらす担体として働くので、免疫応答が望まれるグリカン部分に重点が置かれる。したがって、複合糖質ワクチンは、上記の「従来の糖タンパク質」とは異なる。
【0025】
好ましい実施形態において、複合糖質は、複合糖質ワクチン組成物の一部である複合糖質ワクチンである。複合糖質ワクチンは、1つ以上のPS成分に連結された担体タンパク質を含み、このPS成分は、抗原(特に、細菌O-抗原)に対応する。バイオコンジュゲートは、化学的複合糖質とは対照的に、特に適切な複合糖質ワクチンとして最近出現した。
【0026】
本発明の範囲内で特に適しているのは、複合糖質ワクチン、より具体的にはバイオコンジュゲートの群から選択される糖タンパク質である。
【0027】
バイオコンジュゲート:この用語は上で考察されている。具体的には、バイオコンジュゲートは、宿主細胞中で調製された複合糖質であり、宿主細胞機構はグリカン及び担体タンパク質を産生し、グリカンを担体タンパク質に、例えばアスパラギン又はアルギニンのN結合を介して結合させる。バイオコンジュゲートを産生するための特に好ましい宿主細胞は大腸菌(E.coli)、好ましくは、以下をコードする核酸を含む。(i)担体タンパク質、(ii)オリゴサッカリルトランスフェラーゼ、例えばジェジュニN結合型グリコシル化を介して担体タンパク質中のグリコシル化コンセンサス配列(Asn-X-Ser(Thr)、式中、XはProを除く任意のアミノ酸であり得る)中のアスパラギン(Asn)残基にO-抗原多糖を共有結合させることができるPglB、及び(iii)rfb所望の血清型のO-抗原多糖の生成に関与する酵素をコードする遺伝子クラスター。異なるrfb遺伝子座を有する宿主細胞を作製することによって、例えば、異なる大腸菌(E.coli)又は赤痢菌(Shigella)血清型に由来するO-抗原多糖を含む、異なるバイオコンジュゲートを調製することができる。このような宿主細胞を培養することにより、宿主細胞のペリプラズム内で、rfb遺伝子座によってコードされるO-抗原多糖が共有結合している担体タンパク質を含むバイオコンジュゲートが産生される。そのような宿主細胞におけるバイオコンジュゲートの産生についてのより詳細な説明は、例えば、国際公開第2009/104074号、国際公開第2015/124769号、国際公開第2017/035181号、又は国際公開第2020/191082号に見出すことができる。特異的大腸菌(E.coli)O-抗原のバイオコンジュゲートの産生のためのPglBオリゴサッカリルトランスフェラーゼの最適化変異体は、国際公開第2020/191088号に記載されている。本発明は、そのような宿主細胞から産生されたバイオコンジュゲートの同定及び絶対定量化の新規且つ改善された方法に関する。バイオコンジュゲートの産生のための宿主細胞は、典型的には細菌細胞、好ましくはグラム陰性細菌細胞であり、好ましい実施形態において、宿主細胞は大腸菌(E.coli)である。
【0028】
特に有用なバイオコンジュゲートには、1つ以上の多糖が結合している担体タンパク質が含まれる。このようなバイオコンジュゲートは、例えば、バイオコンジュゲートの多糖に対する機能的免疫応答を誘導することを目的とする特定のワクチンの活性成分として使用される。本発明の実施形態では、当該バイオコンジュゲートは、1つの担体タンパク質及び当該担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖、好ましくは当該担体タンパク質に共有結合した1~4個の多糖を含む。
【0029】
本発明の実施形態では、バイオコンジュゲートは、担体タンパク質に共有結合した大腸菌(E.coli)O-抗原多糖を含有するコンジュゲーション生成物である。本発明の実施形態では、バイオコンジュゲートは、担体タンパク質に共有結合した赤痢菌(Shigella)O-抗原多糖を含有するコンジュゲーション生成物である。
【0030】
O-抗原という用語は、当該分野で既知であり、その通常の文脈で使用され、O連鎖と混同されるべきではない。典型的な実施形態において、O-抗原多糖は、担体タンパク質にN結合している。O-抗原多糖という用語は、一般に、細菌、例えば大腸菌(E.coli)などのLPS内に含有される反復グリカンポリマーを指す。大腸菌(E.coli)のO-抗原は、免疫原性反復オリゴ糖のポリマーであり(代表的には、1~40繰り返し単位、例えば、5~30繰り返し単位)、代表的には、血清型分類及び複合糖質ワクチン産生のために使用される。
【0031】
担体タンパク質:この用語は上で考察されている。本発明の特定の実施形態では、担体タンパク質は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の解毒された外毒素Aである(EPA;緑膿菌(P.aeruginosa)の外毒素A及び細胞外タンパク質A、又はEPAという用語は互換的に使用される)。このような実施形態において、EPAは、好ましくは1~10個、好ましくは2~4個のグリコシル化部位を含む。
【0032】
特定の実施形態では、EPAは、4つのグリコシル化部位を含む。特定の実施形態において、EPAは、配列番号1を有する、好ましくは配列番号2を有する4つのグリコシル化部位を含む。例えば、EPA担体タンパク質への様々な大腸菌(E.coli)O-抗原多糖のバイオコンジュゲーションの例、及びEPA担体タンパク質の代表的なアミノ酸の配列の説明については、国際公開第2015/124769号、国際公開第2017/035181号又は国際公開第2020/191082号を参照のこと。例えば、EPA担体タンパク質への赤痢菌(Shigella)O-抗原多糖のバイオコンジュゲーションの例の説明については、国際公開第2009/104074号を参照されたい。
【0033】
EPAについては、様々な解毒されたタンパク質変異体が文献に記載されており、担体タンパク質として使用することができる。例えば、解毒は、触媒的に必須の残基L552V及びΔE553を変異及び欠失させることによって達成することができる。
【0034】
1つの非限定的な好ましい実施形態において、本発明によるバイオコンジュゲートの担体タンパク質は、配列番号3を含む。
【0035】
4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質を含む複合糖質、特にバイオコンジュゲートは、モノ-、ジ-、トリ-又はテトラグリコシル化形態で存在することができる。
【0036】
多糖:「多糖」という用語は、当技術分野において既知であり、特に、直鎖又は分岐鎖のいずれかのグリコシド結合によって一緒に結合された単糖単位から構成されるポリマー炭水化物を表す。そのような多糖は、それらの繰り返し単位によって特徴付けられ、各繰り返し単位は、それらのそれぞれの単糖組成と共に記載される。当該繰り返し単位は、化学修飾(例えば、アミノ化、アミド化、スルホン化、アセチル化、リン酸化など)されていてもよい1つ以上の単糖を含む。当該繰り返し単位中に典型的に見出される単糖類は、3~7個の炭素原子を含有する環状又は直鎖状単糖類である。複合糖質ワクチンの特定の場合において、複合多糖は、特定の病原体の遺伝学によって定義される当該繰り返し単位を有する病原性種例えば、大腸菌(Escherichia coli)に由来する。したがって、繰り返し単位は、病原体の特異マーカー/識別子であり得る。
【0037】
したがって、用語「多糖成分」は、複合糖質の1つ以上のグリカン鎖(複数可)を示す。グリカンは、糖残基のモノマー又はポリマーであってよく、典型的には少なくとも3つの糖を含有し、直鎖又は分枝鎖であり得る。「グリカン」は、天然糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、アラビノース、リボース、キシロースなど)及び/又は修飾糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’-スルホN-アセチルグルコサミンなど)を含み得る。「グリカン」という用語は、糖残基のホモ及びヘテロポリマーを含む。用語「グリカン」はまた、複合糖質の(例えば、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質などの)グリカン成分も包含する。この用語は、開裂された又はそうでなければ複合糖質から放出されたグリカンを含む遊離グリカンも包含する。
【0038】
本明細書で使用される「O-アセチル化多糖」という用語は、繰り返し単位の1つ以上の単糖がアセチル化によって化学的に修飾されている多糖を指す。当該単糖類は、アセチル化されたそれらの存在するヒドロキシル基の1つ以上を有する。複合糖質ワクチンにおいて使用される病原体由来の繰り返し単位について、特定の単糖のO-アセチル化は、当該病原体に対する免疫応答を誘導するために必須であり得る。病原体由来多糖成分の非限定的な例を表1に示す。
【0039】
本明細書で使用される「血清型」という用語は、異なる細菌血清型に由来する異なる多糖鎖を有する複合糖質を指す。いくつかの大腸菌(E.coli)血清型由来のグリカンの例を以下の表1に示す。
【0040】
特定の実施形態では、複合糖質のPS成分は、大腸菌(E.coli)(Escherichia coli)の「O-抗原」の異なる血清型に対応する。
【0041】
「O-抗原」は、細菌性リポ多糖(LPS)の一部である。LPSは、脂質及びPS成分からなり、PS成分は、コア構造及び「O-抗原」に更に分けられる。更に、各O-抗原は、n個の繰り返し単位から構成され、ここで、nは、1~100、例えば、1~50、1~40、1~30、1~20、1~10、3~50、3~40、例えば少なくとも5、例えば5~40、5~30、例えば7~30、例えば7~25、例えば10~20、例えば5~20の繰り返し単位である。各繰り返し単位は、非修飾及び/又は修飾単糖を含む。
【0042】
非限定的な実施形態における「修飾単糖」という用語は、単糖のN-アセチル化、O-アセチル化、アミド化及び/又はアミノ化を含む。そのような修飾単糖は、同じ単糖において、1つ以上の修飾、特に1つ、2つ又は3つの上記修飾を含んでもよい。
【0043】
特定の実施形態では、修飾単糖は、O-アセチル化及び/又はN-アセチル化単糖、具体的には、1つのO-アセチル化又はN-アセチル化を含む単糖である。
【0044】
本発明の実施形態において、好適な繰り返し単位は、マンノース、ラムノース、グルコース、フコース、ガラクトース、修飾マンノース、修飾ラムノース、修飾グルコース、修飾フコース、及び修飾ガラクトースからなる群から選択される単糖を含む。
【0045】
大腸菌(E.coli)O-抗原多糖の非限定的且つ例示的な構造を以下の表1に示す。各大腸菌(E.coli)O-抗原多糖についての単一の繰り返し単位を示す。この表において、各nは独立して1~100の整数、例えば1~50、1~40、1~30、1~20、1~10、3~50、3~40、5~30、例えば少なくとも5、例えば5~40、例えば7~30、例えば7~25、例えば10~20、例えば5~20であるが、場合によっては1~2であってもよい。
【0046】
【0047】
大腸菌(E.coli)の様々な血清型は、O抗原の糖組成が異なる。しかし、同じ血清型分類内で、O-抗原は、繰り返し単位の数及びアセチル化の程度が異なり得る。
【0048】
試料:試料という用語は当技術分野で既知である。それは、任意選択で希釈後に分析システムに供給され得る任意の材料を含む。本明細書で使用される場合、「試験試料」という用語は、分析される試料に関する。試験試料は、少なくとも1つの複合糖質、好ましくはバイオコンジュゲートを、他の成分、典型的には少なくとも4つの複合糖質、好ましくはバイオコンジュゲート、及び1つ以上の他の成分の混合物と共に含む。そのような試料は、特に、(i)複合糖質の製造バッチ(製造過程のバッチ及び放出/貯蔵された製造バッチを含む)、(ii)多価ワクチンを含む医薬組成物などの、複数の複合糖質を含む組成物を含む。
【0049】
好適な試験試料は、複合糖質に加えて、(i)水性マトリックス、(ii)任意選択で、担体タンパク質に結合していない多糖(本明細書では「遊離PS」)、(iii)任意選択で非関連タンパク質、(iv)任意選択で多糖を含まない担体タンパク質を含む。水性マトリックス(i)は、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝剤)、無機塩(例えば、NaCl)、糖アルコール(例えば、D-ソルビトール)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)のうちの1つ以上を含有し得る。非関連タンパク質(iii)は、10%までのプロセス関連不純物(例えば、宿主細胞タンパク質)を含み得る。一実施形態において、試験試料は、少なくとも4個及び最大20個の複合糖質、例えば少なくとも4個及び最大12個の複合糖質、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、又は12個の複合糖質を含む。ある特定の実施形態において、試験試料は、4、9又は10個の複合糖質を含む。
【0050】
用語「較正試料」という用語は、分析される既知濃度の複合糖質を含む試料に関する。したがって、較正試料のセットは、段階的な濃度の複合糖質を有する多数の較正試料に関する。較正試料のセットの濃度範囲はまた、試験試料内の複合糖質の予想濃度をカバーする。そのような較正試料のセットは、試験試料内の複合糖質の絶対定量化のための較正曲線を確立するのに適している。
【0051】
「対照試料」という用語は、意図された分析を行うためのキャピラリーベースのイムノアッセイシステムの適合性の検証のために分析される既知濃度の複合糖質を含む試料に関する。このような対照試料は、システム適合性対照(SSC)としても知られている。そのような対照試料は、適切な緩衝剤(例えば、試験試料と同じ緩衝剤)などの追加の成分を含み得るが、1つの複合糖質のみを含み、したがって、典型的には試験試料とは異なる。典型的には、対照試料中の複合糖質の濃度は、試験試料中よりも高い。
【0052】
「ラダー試料」又は単に「ラダー」という用語は、サイズ標準を含む試料に関する。そのようなサイズ標準は既知であり、典型的には、既知の分子量のタンパク質又は修飾タンパク質の混合物を含む。適切なラダー試料は、66 kDa~440 kDaの範囲にわたる分子量を有するビオチン化タンパク質の混合物を含む。
【0053】
キャピラリーベースのイムノアッセイ:イムノアッセイという用語は、一般に、試料内の特定の成分の同定及び/又は定量化のために抗体が使用される分析方法を指す。アッセイがキャピラリー中で行われる場合、この方法はキャピラリーベースのイムノアッセイと呼ばれる。詳細な情報は、例えば、MoserらのElectrophoresis 2008,29(16):3279-3295から得ることができ、これは参照により組み込まれる。あるいは、抗体による検出をアプタマーで置き換えてもよい。本発明の範囲内で、キャピラリーベースのイムノアッセイは、自動化されたキャピラリーベースのウェスタンブロットをいう。このようなキャピラリーベースのウェスタンブロットを行うためのシステムは、当該分野で既知であり、市販されている。特定の例は、Bio-TechneのWes(商標)システムである。https://www.proteinsimple.com/wes.htmlを参照のこと、2020年9月07日にアクセス。このシステムは、いくつかの複合糖質の分析のために使用されている[例えば、RustandiらのApplications of an Automated and Quantitative CE-Based Size and Charge Western Blot for Therapeutic Proteins and Vaccines.In:Tran N.,Taverna M.(eds)Capillary Electrophoresis of Proteins and Peptides.Methods in Molecular Biology,vol 1466を参照のこと]。しかしながら、現在利用可能な方法は、完全に分離されていないピークを含む広い信号の生成をもたらすものを含む、複合糖質、特にバイオコンジュゲートの同定及び絶対定量化である、本発明の目的を達成するのに適していない。上述したように、そのような複合糖質の例は、4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質と、請求項5(ii)に列挙されている大腸菌(E.coli)O-抗原に対応するPS成分とを含む複合糖質である。
【0054】
複合糖質の同定及び/又は絶対定量化:上述したように、分析は、複合糖質、特にバイオコンジュゲートの同定及び絶対定量化を含む。原則として、複合糖質の同定及び定量化の両方は、全体としての複合糖質又は当該複合糖質の個々の成分、すなわち担体タンパク質及び/又はPS成分のいずれかに関連し得る。決定的な態様は、複合糖質を検出するために適用される一次抗体の選択である(例えば、一次抗体は、PS成分又は担体タンパク質を認識し得る)。次いで、一次抗体の定常領域(Fc)は、較正曲線に基づいて複合糖質の絶対定量化のために使用され得る検出可能な信号を生成することができる二次抗体によって認識され得る。
【0055】
本発明に関連して、特に、PS成分の同定及び絶対定量化が関連する。したがって、複合糖質のPS成分に特異的に結合する一次抗体が使用される。したがって、好ましい実施形態において、複合糖質の同定及び絶対定量化は、複合糖質のPS成分の同定及び絶対定量化を指す。
【0056】
したがって、以下の工程(a1)において言及される複合糖質の濃度は、PS成分の濃度を指す。例えば、0.100μg mL-1の複合糖質濃度は、試料中の担体タンパク質の量とは無関係に、0.100μg mL-1のPS成分の濃度を指す(上述のように、1つ以上の多糖が担体タンパク質に共有結合している)。それにもかかわらず、担体タンパク質に関する複合糖質の同定及び絶対定量化も可能である。この場合、当該担体タンパク質に特異的に結合する一次抗体を使用することができる。
【0057】
本明細書を通して、以下を含むいくつかの略語が使用される。
大腸菌(E.coli)大腸菌(Escherichia coli)
EPA緑膿菌(P.aeruginosa)の解毒された外毒素A
Fc抗体の定常領域
HRP西洋ワサビペルオキシダーゼ
LPSリポ多糖
PS多糖
SSCシステム適合性制御
【0058】
上記の略語は、当該分野において一般的である。
【0059】
本発明は、少なくとも4つの複合糖質の混合物を含む試験試料中の複合糖質を分析するための方法に関し、分析は、当該複合糖質の同定及び当該複合糖質の定量化の両方を含む。本発明の方法は、
(a)試験試料と、較正曲線を確立するためを確立するための較正試料のセットと、任意選択でラダー試料、及び任意選択で対照試料を提供することと、
(b)キャピラリーベースのイムノアッセイシステムを用いて、個々のキャピラリーにおいて、当該試験試料、当該較正試料、任意選択で当該ラダー試料、及び任意選択で当該対照試料を測定し、それによって各キャピラリーについてのデータセットを生成することと、
(c)少なくとも以下の機能、すなわち、
●積分のための限界を受け取る、及び
●各キャピラリーについてバックグラウンド信号を計算する、及び
●各キャピラリーで発生した信号からバックグラウンド信号を差し引く、を提供するコンピュータプログラムによって当該データセットを分析することと、を含む。
【0060】
より正確には、用語「同定」は、当該複合糖質のPS成分に基づく複合糖質の同定に関し、用語「定量化」は、較正曲線に基づく当該複合糖質の絶対定量化に関する。
【0061】
本明細書で使用される用語「限界を受け取る」は、「分子量範囲限界を受け取る」、すなわち、信号が積分される分子量範囲についての限界を受け取ることに関する。上記で概説したように、このような積分の限界は、例えば、100~500kDa(例えば、積分の限界は100kDa~500kDa)、典型的には200~400kDaの分子量範囲に及び得る。この方法は、最初に適切な試料を参照し、続いて個々の方法工程を参照して、以下で更に詳細に説明される。
試験試料:広範囲の試料が、本発明の文脈において使用され得る。定量可能な複合糖質はまた、完全に分離されていないピークを含む広い信号の生成をもたらし、したがって現在利用可能なキャピラリーベースのイムノアッセイ法によって定量可能でない複合糖質を含む。そのような広い信号は、例えば、50~600kDa、好ましくは100~500kDa、典型的には200~400kDaの分子量範囲に及び得る。そのような広い信号の例を
図1~3に示す。例えば、
図1に示す信号は、約370kDaの分子量範囲に及ぶ、すなわち、信号は、約80kDaで始まり、約450kDaで終わる。この場合、WES(商標)システムに含まれるCompassソフトウェアは、全信号領域を確実に積分することができない。このような分析方法は、密接に関連する複合糖質の混合物、すなわち、多糖成分のみが異なる複合糖質、特にバイオコンジュゲートにも適用することができる。
【0062】
一実施形態では、複合糖質は、1つの担体タンパク質と、当該担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖とを含み、好ましくは、当該担体タンパク質は、4つのグリコシル化部位を有する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の解毒された外毒素A(EPA)である。
【0063】
一実施形態では、複合糖質は、1つの担体タンパク質と、当該担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖とを含み、当該多糖は、大腸菌(E.coli)O-抗原であり、好ましくはO1A、O2、O4、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75抗原からなる群から選択される。
【0064】
一実施形態において、複合糖質は、1つの担体タンパク質と、当該担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖とを含み、当該複合糖質は、大腸菌(E.coli)中のオリゴサッカリルトランスフェラーゼ(PglBなど)を用いた担体タンパク質へのPS成分の酵素的コンジュゲーションによって生成される。それによる複合糖質は、「バイオコンジュゲート」と呼ばれ、この実施形態において、担体タンパク質及びPS成分が化学的に結合されている複合糖質とは異なる。
【0065】
特定の実施形態では、当該多糖は、1~100個、好ましくは3~30個、より好ましくは5~20個の繰り返し単位を含む。当該繰り返し単位は、非修飾単糖及び/又は修飾単糖を含む。特に、修飾単糖は、O-アセチル化及び/又はN-アセチル化単糖、例えば、1つのO-アセチル化又はN-アセチル化を含む単糖である。
【0066】
試験試料は、追加の成分を含んでもよく、典型的には追加の成分を含む。一実施形態では、試験試料は、緩衝剤、無機塩、糖アルコール、及び/又は非イオン性界面活性剤のうちの1つ以上を任意選択で含む水性マトリックスを更に含む。任意選択で、試料は、担体タンパク質に結合していない多糖(「遊離PS」)を更に含む。任意選択で、試料は、非関連タンパク質、例えば宿主細胞タンパク質を更に含む。任意選択で、試料は、多糖を含まない担体タンパク質を更に含む。
【0067】
特定の実施形態において、試験試料は、多数の異なる複合糖質、好ましくは4~20個、例えば4~10個の複合糖質を含む。具体的な実施形態では、試料は、4、9又は10個の複合糖質を含み、当該複合糖質は、上に列挙した大腸菌(Escherichia coli)多糖成分が異なる。
【0068】
好ましい実施形態において、試験試料は、それを必要とする被験体における直接使用に適合された多価ワクチン組成物である。
【0069】
上記を考慮すると、本発明の方法はまた、本明細書に記載されるキャピラリーベースのイムノアッセイ法によって、当該複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-又はテトラグリコシル化変異体及びそれらの混合物の同定及び/又は定量化を可能にする。したがって、本発明はまた、当該分析が、当該複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/若しくはテトラグリコシル化変異体並びにそれらの混合物の同定並びに/又は当該複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/若しくはテトラグリコシル化変異体並びにそれらの混合物の定量化を含む方法を提供する。
【0070】
上記のように、用語「同定」は、より正確には、当該複合糖質のPS成分に基づく複合糖質の同定に関し、用語「定量」は、より正確には、較正曲線に基づく当該複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/又はテトラグリコシル化変異体の絶対定量化に関する。
【0071】
工程a:試料を分析装置に提供することは、それ自体既知である。試験試料中の複合糖質の濃度は、広範囲にわたって変化してもよく、必要であれば、以下に概説する工程(a1)において適合される。好ましい実施形態において、工程(a)は、以下の工程(a1)、(a2)及び/又は(a3)のうちの1つ以上を、好ましくは示す順序で、更に含む。
【0072】
一実施形態において、これは、(a1)複合糖質の濃度を0.01~0.50μg mL-1の予想濃度に調整することを含む。上で概説したように、複合糖質の濃度は、複合糖質のPS成分の濃度に関する。当業者には、この工程は任意選択であり、例えば、複合糖質の濃度が既にこの範囲にあると予想される場合、この工程は必要ないことは明らかであろう。
【0073】
一実施形態では、これは、(a2)試料緩衝液、ジチオスレイトールなどのジスルフィド架橋還元剤、及び既知の分子量を有する蛍光タンパク質マーカーなどの1つ以上のマーカーから選択される1つ以上の補助試薬を試料に添加することを含む。当該マーカーは、各キャピラリー内の分子量基準として使用することができ、個々のキャピラリー間の電気泳動移動における差異を説明するために使用される。
【0074】
一実施形態において、これは、(a3)加熱プログラムを適用し、それによって試料を変性させることを含む。適切な加熱プログラムの例は、それぞれの試料を95℃で5分間加熱することである。
【0075】
工程b:キャピラリーベースのイムノアッセイ法による試料の測定は、それ自体既知である。好ましい実施形態において、工程(b)は、以下の工程(b1)~(b7)のうちの1つ以上を、好ましくは示される順序で、更に含む。
【0076】
一実施形態では、これは、(b1)分析マトリックスを当該イムノアッセイシステムのキャピラリーにロードすること、好ましくは、当該分析マトリックスはサイズ排除マトリックスであり、好ましくは、当該サイズ排除マトリックスは、異なる孔径を有する少なくとも2つのマトリックス成分(スタッキング及び分離マトリックス)を含む。
【0077】
好ましい実施形態において、複合糖質は、それらのサイズ/分子量に基づいて分離される。したがって、好ましい実施形態では、イムノアッセイシステムによる複合糖質の同定及び絶対定量化は、サイズベース/分子量ベースのイムノアッセイシステムによる複合糖質の同定及び絶対定量化に関する。それらのサイズ/分子量ベースの複合糖質の分析は、それらの等電点に基づく複合糖質の分析(例えば、等電点電気泳動イムノアッセイ)とは異なる。
【0078】
一実施形態では、これは、(b2)試験試料、較正試料、任意選択のラダー試料、及び任意選択の対照試料を、当該イムノアッセイシステムのキャピラリーにロードすることを含む。
【0079】
一実施形態において、これは、(b3)好ましくは各成分の分子量に従って、当該試料の成分を分離することを含む。この分離は、当該イムノアッセイシステムのキャピラリー中の分析マトリックス中で行われる。
【0080】
一実施形態において、これは、(b4)当該試料の成分を、例えば光化学架橋によって固定化することを含む。
【0081】
一実施形態において、これは、(b5)当該複合糖質に結合するグリカン特異的一次抗体を適用することを含む。グリカン特異的抗体は、複合糖質のPS部分に結合し、所与のPS構造に特異的である。それらはそれ自体既知であり、商業的供給源から得ることができるか、又は既知の標準的な技術によって調製することができる。それらはモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。
【0082】
一実施形態において、これは、(b6)一次抗体に結合し、且つ、検出可能な信号を生成する二次抗体を適用することを含む。二次抗体は、例えば、一次抗体の定常領域(Fc)に結合し得る。当該検出可能な信号を生成するための様々な可能性(工程b6)は、当業者に周知である。例えば、当該信号は、工程(b6)において、化学発光反応、化学蛍光反応、又は着色若しくは蛍光生成物をもたらす化学反応を触媒することができる酵素に共有結合した二次抗体を適用することによって生成することができる。このような酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼである。
【0083】
しかしながら、検出可能な信号が他の手段によっても生成され得ることは当業者には明らかである。例えば、当該二次抗体(工程b6)は、Alexa Fluor、Alexa Fluor Plus、IRDye、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Cy3、Cy5、アロフィコシアニン(APC)、テトラメチルローダミン、DyLight、Texas Red、Texas Red-X、フィコエリスリン(R-PE)、Qdot、3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-hydroxycumarin又はパシフィックオレンジ色素などの蛍光色素に連結することができる。
【0084】
別の可能性は、工程(b5)において、ビオチンに連結された一次抗体を適用することである。この場合、検出可能な信号は、工程(b6)において、二次抗体を適用する代わりに、HRPに連結されたストレプトアビジンタンパク質を適用することによって生成され得る。上述したように、工程(b7)において、HRPの基質が適用される。
【0085】
別の可能性は、工程(b6)において、金ナノ粒子に連結された二次抗体を適用することである。
【0086】
一実施形態において、これは、(b7)二次抗体が酵素に連結されている場合、当該酵素に対する基質を適用することを含む。好ましい実施形態において、当該二次抗体は、酵素西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に連結される。検出可能な信号は、工程(b7)において基質を適用することによって生成される。好ましい実施形態において、基質はルミノール/過酸化物混合物である。
【0087】
工程c:コンピュータプログラムによるデータの分析は既知である。しかしながら、上述し、
図1、3及び表3~5に示すように、現在の標準的なデータ分析方法は不十分であり、信頼できる定量化を可能にしない。
【0088】
上記プロトコルに従うことによって、この欠点は解決される。好ましい実施形態において、工程c)は、以下の工程、
(c1)工程b)で生成されたすべてのキャピラリーについてのデータセットを受け取ることと、
(c2)キャピラリーごとにバックグラウンドを同定することと、
(c3)個別バックグラウンド信号を対応するキャピラリーの測定信号から減算することと、
(c4)血清型特異的且つ手動で調節可能な積分範囲にわたってバックグラウンド補正信号を積分することによって、キャピラリーごとの曲線下面積を得ることと、
(c5)既知の濃度を有する較正試料によって生成された信号に非線形回帰を適用することによって較正曲線を確立し、それによって、対応する較正試料の濃度に対する各信号について計算された曲線下面積をプロットすることと、
(c6)測定された曲線下面積を較正曲線と比較することによって、試験試料中の複合糖質の濃度を計算することと、
(c7)予め定義された合格基準との自動比較によって、計算された濃度の妥当性を評価することと、のうちの1つ以上を、好ましくは示される順序で、更に含む。
【0089】
工程(c1)において、工程(b)で生成されたデータセットがコンピュータによって受信される。
【0090】
工程(c2)において、積分範囲の開始前に各キャピラリーについて測定された信号から積分範囲の終了後に測定された信号へ線形回帰を適用することによって、各キャピラリーのバックグラウンドが同定される。
【0091】
典型的には、当業者は、複数のキャピラリーにわたる平均バックグラウンド信号又は1つの参照キャピラリーからの参照バックグラウンド信号を同定し、各キャピラリーから当該参照又は平均バックグラウンド信号を差し引くことで十分であると予想するであろう。しかし、驚くべきことに、各キャピラリーについて個別バックグラウンド信号を同定すると、結果の精度が改善されることが見出された。理論に束縛されることを望むものではないが、これは、1つのキャピラリーにおいて生成された検出可能な信号と、隣接するキャピラリーにおいて生成された信号との干渉に起因し得る。
【0092】
この工程は、後で詳しく説明する。
【0093】
第1の工程において、信号積分の限界が設定され、それによって積分範囲が定義される。
【0094】
第2の工程において、積分範囲の開始前(平均データポイントP1)に第1の調節可能な分子量ウィンドウ内で測定された少なくとも3つのデータポイント、好ましくはすべてのデータポイントからの平均、及び積分範囲の終了後(平均データポイントP2)に第2の調節可能な分子量ウィンドウ(バックグラウンド信号を計算するための範囲)内で測定された少なくとも3つのデータポイント、好ましくはすべてのデータポイントからの平均が計算される。
【0095】
分子量ウィンドウ:
第1及び第2のウィンドウの開始及び幅は、個別に選択することができる。一例として、第1のウィンドウは、X1=「積分範囲の一部である最低X軸値」からX2=X1-「第1の調節可能な分子量ウィンドウ[kDa]の幅」までの範囲に及び得る。第2のウィンドウは、X3=「積分範囲の一部である最高X軸値」からX4=X3+「第2の調節可能な分子量ウィンドウ[kDa]の幅」までの範囲に及び得る。
【0096】
調節可能な分子量ウィンドウの適切な幅は10kDaである。それにもかかわらず、分子量ウィンドウの幅はまた、第1のウィンドウ及び第2のウィンドウの各々が少なくとも3つのデータポイントを含む限り、10kDaの所定の値から逸脱するように、例えば8kDa又は13kDaに調整されてもよい。
【0097】
データポイント:
一実施形態では、それぞれの平均データポイントP1及びP2は、それぞれの第1又は第2の分子量ウィンドウ内の少なくとも3つのデータポイントの信号強度(y軸)の平均及びこれらのデータポイントにおける分子量(X軸)の平均からなる。
【0098】
別の実施形態では、それぞれの平均データポイントP1及びP2はそれぞれ、それぞれの第1又は第2の分子量ウィンドウ内の少なくとも3つのデータポイントの信号強度(y軸)の平均、及び積分範囲の開始又は終了時における分子量からなる。
【0099】
第3の工程において、上で計算された平均データポイントP1とP2との間で線形回帰が実行される。
【0100】
工程(c3)において、上で計算された線形回帰直線から得られる、各特定の分子量におけるバックグラウンド信号は、各特定の個々の分子量における対応する全信号、すなわち各分子量においてキャピラリー内で検出された信号と対応する分子量でのバックグラウンド信号との差から差し引かれる。
【0101】
工程(c4)において、バックグラウンド補正信号は、第1の工程である、(c2)において設定された積分のための限界の間で積分される。当該積分により、各分析物の曲線下面積が得られる。Wes(商標)システムに含まれるCompassソフトウェアは、積分の限界を受け取ってこれらの限界内で全信号領域を確実に積分するオプションを提供しない。驚くべきことに、本明細書に記載の複合糖質、特にバイオコンジュゲートの場合、Wes(商標)システムに含まれるCompassソフトウェアは、全信号領域の信頼できる積分を提供できないことが見出された(
図1、3、及び表3~5を参照のこと)。
【0102】
工程(c5)において、較正曲線は、工程b)において較正試料によって生成された信号に非線形回帰を適用することによって確立される。較正曲線は、対応する較正試料の濃度に応じて各信号について計算された曲線下面積を含む。好ましくは、特に式:ln(面積)=Aln(濃度)^2+B ln(濃度)+Cに従って、二次効果を有する双対数回帰モデルを適用して較正曲線を確立する。
【0103】
Wes(商標)システムに含まれるCompassソフトウェアは、そのようなモデルに基づいて較正曲線を確立するオプションを提供しないが、代わりに線形回帰モデル又は4パラメータロジスティック(4PL)曲線モデルを使用する。しかしながら、驚くべきことに、二次効果を有する双対数回帰モデルに基づいて較正曲線を確立することにより、結果の精度が改善されることが見出された。
【0104】
工程(c6)において、試験試料中の複合糖質の濃度は、試験試料について測定された曲線下面積を較正曲線と比較することによって計算される。
【0105】
工程(c7)において、計算された濃度の妥当性は、予め定義された合格基準との自動比較によって評価される。予め定義された合格基準の例は以下の通りである。
●較正曲線の決定係数(R2)、例えばR2≧0.85、例えばR2≧0.90
●較正試料の変動係数、例えばCV≦30%、例えばCV≦25%
●試験試料内の複合糖質についての変動係数、例えばCV≦25%、例えばCV≦20%
●試験試料内の対照試料の変動係数、例えばCV≦25%、例えばCV≦20%
●対照試料について計算された濃度の対照試料の既知濃度に対する相対差、例えば
([計算濃度]-[既知濃度])/[既知濃度]≦35%
【0106】
したがって、前述の欠点は、データ分析における2つの特徴の組合せによって解決される。
第1の特徴は、各キャピラリーについてのバックグラウンド信号の計算、及びそのキャピラリー内の複合糖質によって生成される信号からの当該バックグラウンド信号の減算である。バックグラウンド信号はキャピラリー間で変動し、したがって、各キャピラリーにおいて考慮されない限り、定量化の再現性を低下させる。
第2の特徴は、信号積分の限界を受け取る可能性である。これらの限界は、典型的にはユーザによって設定される。こうして計算された濃度は、予め定義された合格基準と自動的に比較される。これにより、試験試料が予め定義された合格基準に適合するかどうかを評価することが可能になる。
【0107】
以下の本発明の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって定められる点を理解されたい。
【0108】
実施例1:本発明の方法によるO-EPAバイオコンジュゲートの分析
I.参照物質の調製
大量の糖タンパク質試料を製造バッチから直接得て、等分し、適切に保存した(例えば、-80℃)。異なる特徴付け工程を、当該糖タンパク質試料の解凍アリコートに対して行った。
【0109】
使用した試験試料は、血清型O1A、O2、O4、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75の大腸菌(E.coli)O-抗原の1つに対応するPS成分に共有結合している4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質を各々含む、10の異なる複合糖質(各々がバイオコンジュゲートであり、10の異なるバイオコンジュゲートを含む組成は、例えば国際公開第2020/191082号に記載されている)を含む複合糖質ワクチンであった。4つのグリコシル化部位の存在のために、複合糖質の各々は、同じ血清型のモノ-、ジ-、トリ-若しくはテトラグリコシル化変異体、又はそれらの混合物として存在した。以下の実施例は、10の異なるO-EPAバイオコンジュゲートの上述の混合物中に存在する大腸菌(E.coli)血清型O4に対応するPS成分を含むO-EPA複合糖質の同定及び絶対定量化に言及するが、他の血清型にも同様に適用可能であった(
図1は大腸菌(E.coli)血清型O6に関連し、
図2は大腸菌(E.coli)血清型O4に関連し、
図3は大腸菌(E.coli)血清型O25Bに関連し、表2、4及び5は、異なる大腸菌(E.coli)血清型に対応する9個又は10個のいずれかの複合糖質を含む複合糖質ワクチン組成物からの結果を示す。
【0110】
1)参照物質の正確な同一性の決定。目的の複合糖質の多糖鎖に対する特異性について選択及び試験された特異抗体を用いて、標準的なウェスタンブロットプロトコルに従った。任意選択で、担体タンパク質の正確な同一性は、担体タンパク質に対する特異抗体を使用して決定される。
【0111】
2)参照材料内の総多糖含量の決定。単糖への全酸加水分解を行い、続いて以下の指示に従ってイオンクロマトグラフィー及びパルス電流滴定検出(IC-PAD)によって分析した。
【0112】
参照材料のアリコートを、最終濃度1.8Mのトリフルオロ酢酸(TFA)を使用して120℃で2時間加水分解した。最適な加水分解条件(温度、TFA濃度及び時間)は、多糖の出発濃度に応じて変化し得る。最適条件は、絶対定量化のために標的とされる単糖分子の更なる分解を伴わずに、多糖鎖からすべての単糖を定量的に放出することを実証しなければならない。
【0113】
加水分解後、試料を室温まで冷却し、次いでSpeedVacを用いて30℃で一晩乾燥させた。乾燥試料をH2O(MilliQグレード)に完全に再懸濁し、HPLCバイアルに移した。市販の単糖(この場合はN-アセチルグルコサミン、GlcNAc)を使用して較正標準のセットを調製した。定量化のための標的単糖が、上述の加水分解工程の間に修飾を受ける(例えば、N-アセチルグルコサミンがグルコサミンに変わる)場合、適切な単糖(例えば、グルコサミン)を使用しなければならず、あるいは、上述の加水分解手順を較正標準のセットに対しても実施しなければならない。
【0114】
次いで、パルス電流測定検出器(PAD)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上の使い捨て金電極を備えたイオンクロマトグラフィーシステム(例えば、Dionex ICS-5000)を調製した。Dionex CarboPac PA1分析カラム(4×250mm)を、Dionex CarboPac PA1ガードカラム(4×50mm)と組み合わせて使用した。システムを溶出液A(試料溶出のために16mM NaOH)及び溶出液B(カラム洗浄のために500mM NaOH)で平衡化した。以下の機器方法/勾配プロファイルを使用して、試料及び較正標準のセットを順次注入した。
-0~24分、100%溶出液A、1mL/分の流速(溶出)
-25~32分、100%溶出液B、1mL/分の流速(洗浄)
-33~60分、100%溶出液A、1mL/分の流速(再平衡化)
【0115】
標的単糖に応じて、これらの勾配は最適化される必要があり得る。
【0116】
測定された較正セットからの曲線下面積を使用して較正曲線を得て、次いで未知の試料を定量した。任意選択で、標的単糖の量を使用して、複合糖質試料中の繰り返し単位/多糖の絶対量(μg/mL)を逆算することもできる。
【0117】
II.キャピラリーベースのイムノアッセイシステムでの分析
分析(同定及び絶対定量化)される試験試料は、複合糖質ワクチンの製造バッチから直接得た。同じ複合糖質種、すなわち、同じPS成分(この場合、大腸菌(E.coli)O4抗原多糖)及び同じ担体タンパク質(この場合、配列番号3を有する解毒されたEPA)を反映する参照材料を、上記のように調製した。上記のように、試験試料は、大腸菌(E.coli)血清型O1A、O2、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B及びO75に対応する9つの更なるO-EPAバイオコンジュゲートを更に含んでいた。
【0118】
測定は、ソフトウェア「Compass for SW version 3.1.7」を備えたWES(商標)システム(Bio-Techne)を用いて行った。
【0119】
1.試験試料、較正試料及び対照試料の濃度の調整
試験試料、較正試料及び対照試料内に存在するO4O-EPAバイオコンジュゲートの濃度を、Bio-Techne(カタログ番号042-195)によって提供される0.1×試料緩衝液(SB)を使用してそれぞれの標的濃度に希釈した。試験試料について、予想濃度は、個々の複合糖質を多価複合糖質ワクチン組成物に組み合わせる前に、個々の複合糖質の製造バッチについて測定した濃度から計算した。
【0120】
血清型O4の大腸菌(E.coli)O-抗原に対応するPS成分に共有結合した4つのグリコシル化部位を有するEPA担体タンパク質(配列番号3)を含むバイオコンジュゲートについては、以下の希釈を行った。
(i)較正曲線は、異なるPS濃度を有する4つの較正試料から生成したものである(0.200、0.155、0.110、及び0.065μg/mL)。各較正試料を三連で調製した。
(ii)試験試料、すなわち複合糖質ワクチンバッチを、0.150μg/mLのPS濃度(大腸菌(E.coli)O4多糖)に希釈した。試験試料を四連で調製した。
(iii)対照試料(SSC)を0.100μg/mLのPS濃度に希釈した。対照試料を三連で調製した。
【0121】
較正試料及び試験試料の最適な希釈は、各複合糖質について個々に評価されなければならない。上記希釈は、O4O-EPAバイオコンジュゲートの同定及び絶対定量化に最適であることが見出された。
【0122】
2.蛍光マーカー及びビオチン化ラダーの調製
蛍光マーカー及びビオチン化ラダーは、Bio-Techne(カタログ番号PS-FL03-8)から入手した。2つの蛍光マーカーを各キャピラリーに含め、個々のキャピラリー間の電気泳動移動における差異を説明するために使用した。蛍光マーカーは57kDa及び280kDaに移動した。ビオチン化ラダーは、既知の分子量の多数のタンパク質を含み、別のキャピラリーで分析した。ラダーを、分析される複合糖質のサイズ基準として使用した。ビオチン化ラダー内のタンパク質の分子量は、66kDa~440kDaの範囲に及んだ。蛍光マーカー及びビオチン化ラダーを、製造業者の指示に従って調製した。
(i)蛍光マーカーを、400 mMのDTTを補充した10×試料緩衝液(カタログ番号042-195)に再懸濁して、5×蛍光マスターミックスを作製した。
(ii)ビオチン化ラダーを脱イオン水に再懸濁した。
【0123】
3.キャピラリーベースのイムノアッセイシステム用のアッセイプレートにロードするための試験試料、較正試料及び対照試料の調製
(i)希釈された試験試料、較正試料及び対照試料の各々の(i)4.8μLを、各々1.2μLの5X蛍光マスターミックスと混合した
(ii)タンパク質を5分間95℃でインキュベートした。
(iii)混合物を5分間氷上でインキュベートすることにより冷却した。
(iv)混合物を短時間ボルテックスし、スピンダウンし、5μLをアッセイプレートの別々の区画にロードした。このアッセイプレートの1つの区画には、分離マトリックス3、スタッキングマトリックス2、スプリットランニングバッファー3及びマトリックス除去バッファー(Bio-Techne、カタログ番号SM-W006)を予め充填しておいた。この区画は、販売者によって既に封止されていた。
【0124】
4.アッセイプレートにロードするための抗体及び基質の調製
(i)O4-EPA複合糖質(大腸菌(E.coli)O-抗原、血清型O4)のPS成分に特異的な一次ラットモノクローナル抗体を、抗体希釈剤2(Bio-Techne、カタログ番号042-203)で希釈して、最終濃度を0.05 mg/mLとした。
(ii)二次抗ラットHRP抗体(Biolegend、カタログ番号405405)を抗体希釈剤2中に1:100の比で希釈した。
(iii)検出モジュール(Bio-Techne、カタログ番号DM-003)に供給した15μLのルミノール-S試薬と15μLの過酸化物試薬とを混合してキャピラリー#1の基質を調製した。
(iv)220μLのルミノール/エンハンサー試薬と、Clarity(商標)ウェスタンECL基質キット(BioRad、カタログ番号170-5060)で供給される220μLの過酸化物試薬とを混合してキャピラリー#2-25の基質を調製した。
(v)抗体(10μL/ウェル)及び基質(15μL/ウェル)を、工程3(iv)で調製したアッセイプレートの別々の区画にロードした。
(vi)洗浄緩衝剤(Bio-Techne、カタログ番号042-202)を、製造業者の指示に従ってアッセイプレートの別々の区画に添加した(500μL/区画)。
(vii)アッセイプレートを蓋で覆い、1100×gで5分間、室温で遠心分離して、液体がすべてのウェルの底にあることを確実にした。
【0125】
5.アッセイプレートをWES(商標)システムにロードし、測定を開始する
この工程では、工程4(vii)の後に得られたアッセイプレートを、WES(商標)機器(Bio-Techne)にロードして分析を開始した。
(i)キャピラリーウェスタンシステム及びその関連コンピュータのスイッチを入れた。機器の光信号がパルスを停止した後、システムは使用の準備ができ、WES(商標)システムと共に提供されたCompassソフトウェアを開始した。
(ii)「新しい実行」ウィンドウをCompassソフトウェアで開き、以下のパラメータを選択した。アッセイタイプとして「サイズ」、サイズ範囲として「66~440 kDa」、及びカートリッジとして「25」。
(iii)キャピラリーカートリッジ(Bio-Techne、カタログ番号SM-W006)を適切なホルダーに挿入し、内部の光がオレンジ色から青色に変化し、カートリッジが適切に挿入されたことを示した。
(iv)アッセイプレートの蓋を取り外した後、蒸発シールをベンチ上にしっかりと保持することによってプレートから注意深く剥がした。気泡が分離マトリックスウェル中に存在する場合、そのような気泡は、清浄な針を使用して除去することができる(この場合は不要であった)。
(v)予め充填されたアッセイプレートをプレートホルダー上に置き、機器のドアを閉じ、Compassソフトウェアからアッセイ実行を開始した。
【0126】
6.データ分析
(i)Compassソフトウェアにおいて、蛍光マーカー(57及び280 kDa)の正確な位置を検証した。蛍光マーカーに対応する信号がソフトウェアによって誤って割り当てられた場合、信号の位置は、「標準ではない」又は「標準を強制する」を選択することによって、それぞれ57及び280 kDaに補正することができる(この場合は不要であった)。
(ii)データセットは、以下を選択することによってCompassソフトウェアからエクスポートされた。→エクスポートスペクトル→テキストフォーマット(スペクトルを含む新しいフォルダは、ランが保存された同じフォルダに自動的に作成された)。
(iii)データセット(Sample Plots Raw.txt)を本発明の方法のコンピュータプログラムにインポートして、データを分析した。
(iv)試料ID、血清型、使用した機器及び分析の日付を入力した。
(v)積分範囲(100~480 kDa)及び相対ベースライン評価範囲(分子量ウィンドウ:10 kDa;90~100 kDa及び480~490 kDa)を入力した。
(vi)較正試料によって生成された信号に、式:ln(面積)=Aln(濃度)^2+B ln(濃度)+Cに従って、二次効果を有する双対数回帰モデルを用いた双対数を適用することによって較正曲線を確立した。較正曲線は、対応する較正試料の濃度に応じて各信号について計算された曲線下面積を含んでいた。試験試料中の複合糖質の濃度を、試験試料について測定された曲線下面積を較正曲線と比較することによって計算した。この比較は、較正曲線の基礎となる上述の回帰関数の反転によって行った。当該回帰関数の当該反転は2つの結果を生じる。最も可能性の高い結果、すなわち試験試料内の複合糖質の予想される含有量により近い結果が選択される。
【0127】
工程(v):キャピラリー特異的バックグラウンド信号をコンピュータプログラムにより計算し、このキャピラリー内で測定された全信号から差し引いた。
【0128】
上記と同様に、複合糖質ワクチン内に存在する他の9つのバイオコンジュゲート(各バイオコンジュゲートは、血清型O1A、O2、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75の大腸菌(E.coli)O-抗原多糖の1つに共有結合した配列番号3を有する解毒されたEPAを含む)の濃度を、対応する抗体を使用して決定した。
【0129】
この特定の実施例の結果は以下の通りであった(工程II、3における希釈を考慮に入れた)。
【0130】
【0131】
実施例2:先行技術及び本発明の方法によるO25BO-EPAバイオコンジュゲートの比較分析
9つの異なるバイオコンジュゲートを含む複合糖質ワクチン組成物の2つのバッチ(各バイオコンジュゲートは、血清型O1A、O2、O4、O6A、O15、O16、O18A、O25B、及びO75の大腸菌(E.coli)O-抗原多糖のうちの1つに共有結合した配列番号3を有する解毒されたEPAを含む)を、先行技術(Compass Softwareを備えたWes(商標))及び本発明の方法に従ってO25B O-EPAバイオコンジュゲート濃度に関して分析した。
【0132】
上記の手順(Wes(商標)システムの異なるキャピラリーにおける並行分析、希釈はO25B O-EPAバイオコンジュゲートに最適であることが見出された)に従って4つのO25B複合糖質較正試料(0.080、0.063、0.045、0.028μg/mLPS成分に基づく濃度)に基づいて較正曲線を確立した。上記較正試料の各々を、独立して調製した三連(表3においてa~cとして示される反復)で測定した。市販のCompassソフトウェア(先行技術)及び本明細書に記載のコンピュータプログラム(本発明の方法)の両方を使用して、各試料の全信号領域を分析した。両方の方法に従って得られたAUC及び三連測定に基づく変動係数(CV)を、以下の表3に示す。0.063μg/mlのO25B O-EPA較正試料の三連に対応する電気泳動図を
図3に示す(A~C:Compassソフトウェアによる積分、D~F:本明細書に記載のコンピュータプログラムによる積分)。
【0133】
図3及び表3の両方から以下のことが分かる。
(i)従来技術の方法によるAUCは、全信号領域の不完全な積分に起因して、本発明の方法によるAUCよりも低い。
(ii)従来技術によるより低い分析精度(より高いCV)、信号を積分するための偶発的な失敗(より低い再現性)を含む個々の測定のより高い偏差。
【0134】
【0135】
表3に示す結果に基づいて、以下のいずれかに従って標準曲線を確立した。
a)Compassソフトウェアで提供される線形モデル(代替的に、Compassソフトウェアで提供されるのは「4パラメータロジスティックモデル」であるが、これはデータセットに適していなかった)、又は
b)式:ln(面積)=Aln(濃度)^2+Bln(濃度)+C(本発明の方法)による、二次効果を有する双対数回帰モデル。
【0136】
次に、上記の9つの異なるバイオコンジュゲートを含む複合糖質ワクチン組成物の2つのバッチ(各バイオコンジュゲートは、血清型O1A、O2、O4、O6A、O15、O16、O18A、O25B、及びO75の大腸菌(E.coli)O-抗原多糖のうちの1つに共有結合した配列番号3を有する解毒されたEPAを含む)を、上記のようにWes(商標)システムで四連で測定した(表4においてa~dとして示される反復)。試験試料を、大腸菌(E.coli)O 25 B PS成分に基づいて0.063μg/mlのO25B O-EPA標的濃度に希釈した。Compassソフトウェア(従来技術)又は本明細書に記載のコンピュータプログラムのいずれかを使用して、全信号積分を行った。
【0137】
次に、上記の9価複合糖質ワクチン組成物内に存在するO25B O-EPAバイオコンジュゲートの絶対定量化を、以下に基づいて行った。
a)Compassソフトウェア(従来技術)を使用して得られた上記較正曲線又は
b)本明細書に記載のコンピュータプログラムを使用して得られた上記較正曲線(本発明の方法)。
【0138】
上記と同様にして、O25B O-EPAバイオコンジュゲート対照試料(システム適合性対照、SSC)を並行して(別々のキャピラリー)測定し、先行技術の方法又は本発明の方法に従って分析した。
【0139】
結果(希釈を考慮した)を表4に示す。
【0140】
【0141】
表4から、先行技術の方法(Compassソフトウェア)は、複合糖質ワクチン組成物のバッチ及び対照試料の両方についてO25B O-EPAバイオコンジュゲートの信頼できる絶対定量化を提供することができなかったが、本発明の方法は、試験試料のバッチ及び対照試料の両方について正確なデータを提供したことが分かる。
【0142】
上記と同様に、上記の9価複合糖質ワクチン組成物のバッチ1内に存在する他のO-EPAバイオコンジュゲートも、先行技術(Compassソフトウェア)及び本発明の方法に従って分析した。結果(独立した三連の平均)を以下の表5に示す。
【0143】
【0144】
先行技術による分析は、9価複合糖質組成物中に存在するO-EPAバイオコンジュゲートのいくつかに関する正確なデータを提供し得るが、先行技術の方法は、他のバイオコンジュゲート(例えば、O6A、O18A及びO25B O-EPAバイオコンジュゲート)に関する信頼できる絶対定量化を提供することができない。いくつかの場合(O18A及びO25B O-EPAバイオコンジュゲート)、Compassソフトウェアは、実際、意味のあるデータを全く提供できない。
【0145】
しかしながら、本発明の方法は、特に困難なO18A及びO25B O-EPAバイオコンジュゲートを含むすべてのバイオコンジュゲートに対して信頼できる絶対定量化を提供した。
【0146】
バイオコンジュゲートの同定は、PS特異的抗体がバイオコンジュゲートの各々に結合した際に検出可能な信号が発生することによって首尾よく達成された。
【0147】
配列の説明:
配列番号1(グリコシル化コンセンサス配列)
Asn-X-Ser(Thr)、式中、XはProを除く任意のアミノ酸であり得る
配列番号2(最適化グリコシル化コンセンサス配列)
Asp(Glu)-X-Asn-Z-Ser(Thr)、式中、X及びZはProを除く任意のアミノ酸から独立して選択される
配列番号3(4つのN結合型グリコシル化コンセンサス配列を含むEPA担体タンパク質)
【表6】
なお、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]少なくとも4つの複合糖質の混合物を含む試験試料中の複合糖質を分析する方法であって、
前記分析が、
●前記複合糖質の同定及び
●較正曲線に基づく前記複合糖質の絶対定量化を含み、
前記方法が、
(a)前記試験試料と較正試料のセットと、任意選択でラダー試料、及び任意選択で対照試料を提供することと、
(b)キャピラリーベースのイムノアッセイシステムを用いて、個々のキャピラリーにおいて、前記試験試料、前記較正試料、任意選択で前記ラダー試料、及び任意選択で前記対照試料を測定し、それによって各キャピラリーについてのデータセットを生成することと、
(c)少なくとも以下の機能、すなわち、
●積分のための限界を受け取る、及び
●各キャピラリーについてバックグラウンド信号を計算する、及び
●各キャピラリーで発生した信号からバックグラウンド信号を差し引く、
を提供するコンピュータプログラムによって前記データセットを分析することと、
を含む、方法。
[2]前記複合糖質の測定が、広い信号、特に完全に分離されていないピークを含む広い信号をもたらす、上記[1]に記載の方法。
[3]前記複合糖質が複合糖質ワクチンの成分である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記複合糖質が、バイオコンジュゲート、特に、好ましくは大腸菌(E.coli)におけるPglBオリゴサッカリルトランスフェラーゼ系を使用して、担体タンパク質への多糖成分の酵素的コンジュゲーションによって生成されるバイオコンジュゲートである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記複合糖質が、1つの担体タンパク質と、前記担体タンパク質に共有結合した1つ以上の多糖とを含み、
(i)前記担体タンパク質が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(EPA)の解毒された外毒素Aであり、且つ、
(ii)前記多糖が、O1A、O2、O4、O6A、O8、O15、O16、O18A、O25B又はO75からなる群から選択される大腸菌(Escherichia coli)O抗原である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記多糖が1~100個、好ましくは3~30個、より好ましくは5~20個の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位が非修飾単糖及び/又は修飾単糖を含み、前記修飾単糖が特にO-アセチル化及び/又はN-アセチル化単糖である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記試験試料が、
●緩衝剤、無機塩、糖アルコール、及び/又は非イオン性界面活性剤のうちの1つ以上を任意選択で含む水性マトリックス、
●任意選択で、担体タンパク質に結合していない多糖(「遊離PS」)、
●任意選択で非関連タンパク質、
を更に備える、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記試験試料が、多数の異なる複合糖質、好ましくは4~20の複合糖質、好ましくは4~10の複合糖質、例えば4、9又は10の複合糖質を含み、前記複合糖質が、上記[5(ii)]に記載の多糖成分において異なる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記分析が、
●前記複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/若しくはテトラグリコシル化変異体の同定、並びに/又は
●較正曲線に基づく前記複合糖質のモノ-、ジ-、トリ-及び/又はテトラグリコシル化変異体の絶対定量化
を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記工程a)が、以下の工程、すなわち、
(a1)前記複合糖質の濃度を0.01~0.50μgmL
-1
の予想濃度に調整すること、
(a2)試料緩衝液、ジスルフィド架橋還元剤、及び1つ以上のマーカーから選択される1つ以上の補助試薬を前記試料に添加すること、
(a3)好ましくは熱を加えることによって、前記試料を変性させること、
のうちの1つ以上を、好ましくは示される順序で、更に含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記工程b)が、以下の工程、すなわち、
(b1)分析マトリックスを、好ましくはサイズ排除マトリックスを含む分析マトリックスを、前記イムノアッセイシステムのキャピラリーにロードすること、
(b2)前記試験試料、較正試料、任意選択のラダー試料、及び任意選択の対照試料を、前記イムノアッセイシステムの個々のキャピラリーにロードすること、
(b3)前記試料の成分を分離すること、
(b4)前記試料の成分を固定化すること、
(b5)前記複合糖質に結合するグリカン特異的一次抗体を適用すること、
(b6)前記一次抗体に結合し、且つ、検出可能な信号を生成する二次抗体を適用すること、
(b7)前記二次抗体が酵素に連結されている場合、前記酵素に対する基質を適用すること、
のうちの1つ以上を、好ましくは示される順序で、更に含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]工程(b6)において、前記検出可能な信号が、前記二次抗体が、化学発光反応、化学蛍光反応、又は着色若しくは蛍光生成物をもたらす化学反応を触媒することができる西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素に共有結合されることによって生成される、上記[11]に記載の方法。
[13]前記工程c)が、以下の工程、すなわち、
(c1)工程b)で生成されたすべてのキャピラリーについての前記データセットを受け取ることと、
(c2)キャピラリーごとに前記バックグラウンドを同定することと、
(c3)前記個別バックグラウンド信号を前記対応するキャピラリーの測定信号から減算することと、
(c4)多糖特異的かつ調節可能な積分範囲にわたって前記バックグラウンド補正信号を積分することによって、キャピラリーごとの曲線下面積を得ることと、
(c5)既知の濃度を有する較正試料によって生成された信号に、非線形回帰を適用することによって、好ましくは、二次効果を有する双対数回帰モデルを適用することによって、較正曲線を確立し、それによって、対応する較正試料の濃度に対する各信号について計算された曲線下面積をプロットすることと、
(c6)前記測定された曲線下面積を前記較正曲線と比較することによって、前記試験試料中の前記複合糖質の濃度を計算することと、
(c7)予め定義された合格基準との自動比較によって、前記計算された濃度の妥当性を評価することと、
のうちの1つ以上を、好ましくは示される順序で、更に含む、上記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。