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特許7495582ガラス被覆窒化アルミニウム粉末及びその製造方法並びに高分子成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ガラス被覆窒化アルミニウム粉末及びその製造方法並びに高分子成形体
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20240528BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C08K9/02
C08L101/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024034891
(22)【出願日】2024-03-07
【審査請求日】2024-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】岡村 寛志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124147(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235234(WO,A1)
【文献】特開2001-270788(JP,A)
【文献】特開平6-340443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C04B 35/581
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子の粒子表面がガラスで被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末であって、窒化アルミニウム粒子のD50が0.5~100μmであり、ガラス厚さが2~100nmであり、粒子表面のガラス被覆率が95%以上であるガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム粒子のD50が10μm未満である請求項1記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【請求項3】
前記ガラス厚さが10nm未満である請求項1記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
前記ガラス被覆率が100%である請求項1記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末をフィラーとして含む高分子材料で成形された高分子成形体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末のD50が相異なる少なくとも2種をフィラーとして含む高分子材料で成形された高分子成形体。
【請求項7】
前記高分子成形体が放熱部材である請求項5記載の高分子成形体。
【請求項8】
前記高分子成形体が放熱部材である請求項6記載の高分子成形体。
【請求項9】
窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させることにより、ガラス前駆体で粒子表面が被覆されたガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粉末を作製するガラス前駆体被覆工程と、
前記ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をガラス前駆体が溶融する温度以上に加熱してガラス前駆体をガラス化することにより、ガラスで粒子表面が被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末を作製する熱処理工程と
を含むガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス前駆体被覆工程が、前記混合液を空中に噴霧するスプレードライによるものである請求項9記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス前駆体被覆工程が、前記混合液を受け部材の面上に膜状又は分散状に広げて行うものである請求項9記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項12】
前記ガラス前駆体被覆工程と熱処理工程との間で、凝集したガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を解砕する解砕工程を行う請求項9記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をキャリアガスに分散させた状態で管状炉に連続的に投入して行うものである請求項9~12のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をロータリーキルンに連続的に供給して行うものである請求項9~12のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をさやに入れてローラーハースキルンに通して行うものである請求項9~12のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項16】
窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させるとともにガラス前駆体が溶融する温度以上に加熱することにより、ガラス前駆体がガラス化したガラスで粒子表面が被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末を作製するガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス被覆窒化アルミニウム粉末とそれを含む高分子成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム粉末は、その優れた熱伝導性を活かし、樹脂、グリース、接着剤、塗料などの材料に混合するフィラーとして利用されている。しかし、窒化アルミニウムは、当該混合前のみならず、当該混合後であっても条件次第では、大気中の水分によって熱伝導性の低い水酸化アルミニウムに変化するとともに、腐食性のアンモニアを発生させる。そこで、窒化アルミニウム粉末をガラス等で被覆することにより、耐水性の向上を図ることが検討されている。
【0003】
特許文献1には、窒化アルミニウム粒子と、d50が0.3~50μmであるガラスフリットとを混合し、その混合物を坩堝(るつぼ)に入れるか又はペレットに賦形してガラスフリットのガラス転移温度以上かつ2000℃以下の温度で熱処理し、窒化アルミニウム粒子に対してガラスフリットを被覆して被覆粒子を得、その被覆粒子を解砕して、d50が10~200μmのガラス被覆窒化アルミニウム粒子を製造する方法が開示されている。実施例のガラス被覆厚は10~660nmである。
【0004】
特許文献2には、d50が10~200μmである窒化アルミニウム粒子と、ガラス成分を含むd50が0.3~50μmの組成物粉との混合物をメカノケミカル法により剪断力を付与しながら混合し、その混合物を坩堝(るつぼ)に入れてガラス成分のガラス転移温度以上かつ2000℃以下の温度で熱処理し、その熱処理物を解砕して、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、窒化アルミニウム粒子を攪拌しながら有機シリコーン化合物を噴霧などで添加して乾式混合することにより、窒化アルミニウム粒子の表面を有機シリコーン化合物により覆い、その覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱して、珪素含有酸化物(シリカ又は珪素アルミ複合酸化物)被覆窒化アルミニウム粒子を製造する方法が開示されている。
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であり、珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率が15%以上100%以下であり、比表面積に対する珪素原子の含有量が特定の関係式を満たすとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6739669号公報
【文献】特許第6606628号公報
【文献】特許第7419938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,2の製造方法は、混合物を坩堝(るつぼ)に入れるか又はペレットに賦形して熱処理する、すなわち粒子どうしが接触している状態で熱処理するものであるから、ガラス融液が窒化アルミニウム粒子間に大きい毛管力で浸透し、粒子が凝集する。その凝集度合いは、窒化アルミニウム粒子が小径(例えばD50が0.5~5μm程度)であるほど、大きくなる。そのため、その後の解砕に相当量のエネルギーを投入しなければならず、その結果、被覆されたガラス層の剥離や破壊が起こり、ガラス被覆率が低下して、耐水性が低下するという問題がある。
【0008】
また、特許文献3の低エネルギーイオン散乱(LEIS)分析は、表層0.1nm程度の浅い領域の情報となるため、極僅かでもシリカ又は珪素アルミ複合酸化物が付着していると検出されるところ、被覆率は実施例6の88%が最大である。また、被覆率について「より好ましくは95%以下であり…(中略)…95%超えであると、熱伝導率が低下する場合があることが分った」との記載はあるが、95%超えの具体例は示されていない。よって、ほぼ完全(95%以上)な被覆は達成できていないと推認される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、粒子表面をほぼ完全にガラスで被覆した耐水性の高いガラス被覆窒化アルミニウム粉末と、該粉末をフィラーとして含む耐水性の高い高分子成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]窒化アルミニウム粒子の粒子表面がガラスで被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末であって、窒化アルミニウム粒子のD50が0.5~100μmであり、ガラス厚さが2~100nmであり、粒子表面のガラス被覆率が95%以上であるガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【0011】
[2]前記窒化アルミニウム粒子のD50が10μm未満である[1]記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【0012】
[3]前記ガラス厚さが10nm未満である[1]又は[2]記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
【0013】
[4]前記ガラス被覆率が100%である[1]~[3]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末。
ガラス被覆率の測定は、TEM分析によるものとし、ガラス厚さが2nm未満の領域は耐水性の観点からは被覆不十分であることから実質的に被覆無しとみなすものとする。
【0014】
[5]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末をフィラーとして含む高分子材料で成形された高分子成形体。
【0015】
[6]前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末のD50が相異なる少なくとも2種をフィラーとして含む高分子材料で成形された高分子成形体。
【0016】
[7]前記高分子成形体が放熱部材である[5]記載の高分子成形体。
【0017】
[8]前記高分子成形体が放熱部材である[6]記載の高分子成形体。
【0018】
[9]窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させることにより、ガラス前駆体で粒子表面が被覆されたガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粉末を作製するガラス前駆体被覆工程と、
前記ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をガラス前駆体が溶融する温度以上に加熱してガラス前駆体をガラス化することにより、ガラスで粒子表面が被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末を作製する熱処理工程と
を含むガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0019】
[10]前記ガラス前駆体被覆工程が、前記混合液を空中に噴霧するスプレードライによるものである[9]記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0020】
[11]前記ガラス前駆体被覆工程が、前記混合液を受け部材の面上に膜状又は分散状に広げて行うものである[9]記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0021】
[12]前記ガラス前駆体被覆工程と熱処理工程との間で、凝集したガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を解砕する解砕工程を行う[9]~[11]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0022】
[13]前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をキャリアガスに分散させた状態で管状炉に連続的に投入して行うものである[9]~[12]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0023】
[14]前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をロータリーキルンに連続的に供給して行うものである[9]~[12]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0024】
[15]前記熱処理工程が、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をさやに入れてローラーハースキルンに通して行うものである[9]~[12]のいずれか一項に記載のガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0025】
[16]窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させるとともにガラス前駆体が溶融する温度以上に加熱することにより、ガラス前駆体がガラス化したガラスで粒子表面が被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末を作製するガラス被覆窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、粒子表面をほぼ完全にガラスで被覆した耐水性の高いガラス被覆窒化アルミニウム粉末と、該粉末をフィラーとして含む耐水性の高い高分子成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は実施例1におけるスプレードライを説明する模式図である。
図2図2は実施例1における熱処理を説明する模式図である。
図3図3は実施例1における(熱処理前の)解砕処理を説明する模式図である。
図4図4は比較例6のガラス被覆窒化アルミニウム粒子の倍率50万倍のTEM写真である。
図5図5は実施例1のガラス被覆窒化アルミニウム粒子の倍率135万倍のTEM写真である。
図6図6は実施例2のガラス被覆窒化アルミニウム粒子の倍率135万倍のTEM写真である。
図7図7は実施例5のガラス被覆窒化アルミニウム粒子の倍率50万倍のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1>原料の窒化アルミニウム粒子
原料の窒化アルミニウム粉子は、窒化アルミニウム以外の物質、例えば、製造方法由来の希土類化合物、カルシウム化合物等を含有していてもよいが、その量はできるだけ少ないほうがよい。含有量が多いと、ガラスに取り込まれた際のガラスの組成変化が大きくなり、それによりガラスの融点が上昇して溶融されにくくなったり、ガラス化範囲からはずれてガラス状にならなくなったりする。ガラス被覆率95%以上とするために、窒化アルミニウム以外の物質を0.5重量%以下に減らすことが好ましい。さらに好ましくは0.2重量%以下である。含有量を減らす方法としては、無機酸や有機酸を用いた溶出処理が知られている。
原料の窒化アルミニウム粉末の平均粒径(メジアン径)D50が、0.5μm以上であると凝集しにくいため使用しやすく、100μm以下であると高分子成形体を薄くしやすい。D50が10μm未満であると、ガラス前駆体被覆工程を前記スプレードライにより行いやすく、また、熱処理工程を前記キャリアガスに分散させた状態で行いやすい点で、好ましい。
【0029】
<2>ガラス
ガラスとしては、特に限定されないが、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、ビスマス系ガラス、錫-リン酸系ガラス、バナジウム系ガラス、鉛系ガラス等を例示できる。
ガラスは、SiO、Al及びBから選ばれる2成分以上を含有することが好ましい。
ガラスは、熱膨張係数を低減させるために、ZnO成分を含有することができる。
ガラスは、NaO、KOなどのアルカリ金属の酸化物を含有することができるが、耐湿性の観点からは、その含有量は少ない方が好ましい。
ガラスは、CaO、SrO、MgO、BaO、SnOなどの任意成分を含んでいてもよい。
【0030】
ガラス厚さが、2nm以上であると耐水性の観点からはガラスの被覆が十分となり、100nm以下であるとガラスの介在による熱伝導率の低下を抑制できる。ガラス厚さが10nm未満であると、ガラスの介在による熱伝導率の低下をさらに抑制できる点で好ましい。
【0031】
ガラス被覆率が95%以上であると、耐水性が向上する。ガラス被覆率が100%であると、耐水性がさらに向上する。
【0032】
<3>ガラス前駆体被覆工程
本発明におけるガラス前駆体被覆工程は、窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させるため、乾燥が急速に行われる。ガラス前駆体の被覆は、乾燥処理に伴って起こるガラス成分の各元素の塩の析出を急速に進行させることが肝要である。ガラス成分の各元素の塩の飽和溶解度はそれぞれ異なり、乾燥処理時には飽和溶解度の小さい順に析出していくこととなるが、乾燥処理に長時間をかけると析出後のガラス成分の各元素の分布状態の不均質性が高まる。従って、それを熱処理して均質な組成の溶融ガラスを得ようとすると、より高温でより長時間加熱保持する必要が出てくる。本発明によれば前記のとおり乾燥が急速に行われることで、析出後のガラス成分の各元素の分布状態の不均質性を小さくでき、低温・短時間の熱処理でも均質な組成の溶融ガラスが得られることから、エネルギーコストおよび生産効率の面で有利となる。
【0033】
ガラス前駆体被覆工程としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。
(ア)前記混合液を空中に噴霧するスプレードライによるもの。同方法は、原料の窒化アルミニウム粉末が、沈降しにくいD50が10μm未満である場合に適する。
(イ)前記混合液を受け部材の面上に膜状又は分散状に広げて行うもの。同方法は、原料の窒化アルミニウム粉末が、沈降しやすいD50が10μm以上である場合に適する。受け部材としては、特に限定されないが、PETフィルム、ガラス板、セラミック板等を例示できる。
【0034】
<4>解砕工程(必要時)
本発明におけるガラス前駆体被覆工程は、窒化アルミニウム粒子が1個1個分散しやすい。そして、例えばスプレードライ時に噴霧された液滴1個につき、窒化アルミニウム粒子1個が含まれているのが理想である。しかし、図3(a)に示すように、原料スラリーの固形分濃度や噴霧の条件によっては、1個の液滴に複数個の窒化アルミニウム粒子が含まれることがあり、乾燥後は複数個が集まった凝集粒子となる。その場合は、必要に応じて熱処理工程の前に解砕処理を行うことが好ましい。
図3(b)に示すように、粒子同士の結合部に存在していた、ガラス成分元素の混合塩は、解砕処理によってどちらかの粒子に多く持っていかれることが予想され、場合によっては窒化アルミニウム粒子の表面が露出してしまうことも考えられる。
図3(c)に示すように、ガラス前駆体コート粉においてコート層に凹凸ができていたとしても、熱処理によりコート層を溶融させることによって、窒化アルミニウム粒子表面に濡れ拡がり、再び均質なコート層となる。粒子毎でコート厚さに若干の差が生じるが、平均すればほぼ設計どおりの厚さとなる。
【0035】
<5>熱処理工程
熱処理工程としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。
(ア)ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をキャリアガスに分散させた状態で管状炉に連続的に投入して行うもの。粒子どうしが接触しないため好ましい。同方法は、原料の窒化アルミニウム粉末が、キャリアガスで流動しやすいD50が10μm未満である場合に適する。
(イ)ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をロータリーキルンに連続的に供給して行うもの。同方法は、原料の窒化アルミニウム粉末が、キャリアガスで流動しにくいD50が10μm以上である場合に適する。
(ウ)ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子をさやに入れてローラーハースキルンに通して行うもの。同方法は、原料の窒化アルミニウム粉末が、キャリアガスで流動しにくいD50が10μm以上である場合に適する。
これらの方法により、急速加熱&冷却を実現できる。なお、(イ)及び(ウ)は、(ア)と異なり、粒子どうしが接触することとなるが、粒径が大きく、ガラス厚さも小さいので、ガラス溶融に伴う凝集はほぼ起こらない。
【0036】
<6>ガラス被覆窒化アルミニウム粉末の用途
ガラス被覆窒化アルミニウム粉末の用途としては、特に限定されないが、高分子材料、グリース、接着剤、塗料などの材料に混合するフィラーを例示できる。
【0037】
<7>高分子成形体
本発明の窒化アルミニウム粉末はフィラーとして高分子材料に充填することにより、熱伝導率が高い高分子成形体を作製し使用することができる。
また、ガラス被覆窒化アルミニウム粉末のD50が相異なる少なくとも2種を高分子材料に充填することにより、ガラス被覆窒化アルミニウム粉末の充填率が高くなるため、熱伝導率がさらに高い高分子成形体を作製することができる。
高分子材料としては、樹脂、ゴム、エラストマー等を例示できる。高分子成形体の用途としては、特に限定されないが、半導体等の発熱体の放熱部材等を例示できる。
【実施例
【0038】
次に、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ、図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
表1に示す比較例1~4の窒化アルミニウム粉末を用意し、比較例5,6及び実施例1~9のガラス被覆窒化アルミニウム粉末を作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
(比較例1)
比較例1は、被覆無しの窒化アルミニウム粉末であり、MARUWA社(本願出願人)製の「A-01-F」(D50=1.15μm、比表面積3.06m/g)である。
【0041】
(比較例2)
比較例2は、被覆無しの窒化アルミニウム粉末であり、同社製の「A-04-F」(D50=3.98μm、比表面積0.67m/g)である。
【0042】
(比較例3)
比較例3は、被覆無しの窒化アルミニウム粉末であり、同社製の「S-30」(D50=37.6μm、比表面積0.06m/g)である。
【0043】
(比較例4)
比較例4は、被覆無しの窒化アルミニウム粉末であり、同社製の「S-80」(D50=82.8μm、比表面積0.03m/g)である。
【0044】
(比較例5)
比較例5は、出発原料としての前記「A-01-F」に、次のように前記特許文献1の方法に準じてガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
(1)Si源としてSiO、B源としてB、Al源としてAl、Li源として炭酸リチウム、K源として炭酸カリウム、を用い、酸化物(SiO、B、Al、LiO、KO)換算でそれぞれ71.7mol%、24.8mol%、0.7mol%、2.5mol%、0.3mol%となるように配合して、ガラス溶融炉において溶融し、冷却後に乾式粉砕することにより、1次粒子径0.1μmのガラスフリットを作製した。
(2)前記「A-01-F」に(1)のガラスフリットを添加した。添加量は、AlN粉末の比表面積と狙いのガラス厚さに応じて調整した。本例の狙いのガラス厚さは9nmとした。
(3)(2)をポリプロピレン製の密閉容器に入れ、流動パラフィンと直径10mmのアルミナボールを加えて、乾式ボールミルで混合した。
(4)(3)を直径30mmの金型に充填し、10MPaの圧力で成形した。
(5)(4)の成形体をボックス炉(株式会社モトヤマ、スーパーバーンNLT-2025D)にて窒素中1350℃で30分間加熱した。
(6)(5)の成形体をジェットミルで解砕処理して、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなる窒化アルミニウム粉末を得た。
【0045】
(比較例6)
比較例6は、前記「A-04-F」に酸を用いて窒化アルミニウム以外の不純物の溶出処理を行ったもの、を出発原料粉末にして、次のように特許文献1の方法に準じてガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
(1)Si源としてSiO、B源としてB、Al源としてAl、を用い、それぞれ73.4mol%、25.4mol%、1.2mol%となるように配合して、ガラス溶融炉において溶融し、冷却後に乾式粉砕することにより、1次粒子径0.1μmのガラスフリットを作製した。
(2)前記出発原料粉末に(1)のガラスフリットを添加した。添加量は、AlN粉末の比表面積と狙いのガラス厚さに応じて調整した。本例の狙いのガラス厚さは9nmとした。
その後は、比較例5の(3)~(6)と同じようにして、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなる窒化アルミニウム粉末を得た。
【0046】
(実施例1)
実施例1は、出発原料としての前記「A-01-F」に、次のようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
(1)Si源としてテトラアルコキシシランを変性して水溶性にしたもの、B源としてホウ酸、Al源として硝酸アルミニウム九水和物、Li源として硝酸リチウム、K源として硝酸カリウム、を用い、酸化物(SiO、B、Al、LiO、KO)換算でそれぞれ71.7mol%、24.8mol%、0.7mol%、2.5mol%、0.3mol%となるように配合して(比較例5と同一組成)、アルコールに溶解させた。
(2)(1)で使用したアルコールと同じものを分散媒として用い、「A-01-F」のスラリーを調製した。固形分濃度は10vol%とした。分散媒へ「A-01-F」を投入後に超音波による分散処理を行った。
(3)(2)に(1)を加えて撹拌した。添加量は、AlN粉末の比表面積と狙いのガラス厚さに応じて調整した。本実施例での狙い厚さは9nmとした。
(4)(3)を、図1に示すように、スプレードライヤー(ビュッヒ製、B-290)で霧状に噴霧し加熱乾燥して粉体化し、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を得た。乾燥温度は220℃とし、乾燥ガスには窒素を使用した。
(5)(4)のガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を、図3(b)に示すように、乾式ジェットミル(日本ニューマチック工業製、PJM-80)で解砕処理した。粉砕圧は0.1MPaとした。
(6)(5)のガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を、図2に示すように、窒素をキャリアガスとして管状炉の中へ連続的に供給することでガラス被覆窒化アルミニウム粒子を得た。キャリアガス流量と炉心管内径から計算される炉内滞留時間が30秒~2分程度になるよう、キャリアガス量を調整した。炉内へ供給されたガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子が、ガラスを形成する複合酸化物の融点以上に加熱されるよう、炉内の最高温度を1350℃にした。炉内でガラス前駆体が融液となっている時間は5~20秒程度であり、炉外に粒子が出てくると、融液は急冷されてガラス化し、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子となる。
【0047】
(実施例2)
実施例2は、前記「A-04-F」に酸を用いて窒化アルミニウム以外の不純物の溶出処理を行ったもの、を出発原料粉末にして、次のようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
(1)Si源としてテトラアルコキシシランを変性して水溶性にしたもの、B源としてホウ酸、Al源として硝酸アルミニウム九水和物、を用い、酸化物(SiO、B、Al)換算でそれぞれ73.4mol%、25.4mol%、1.2mol%となるように配合して(比較例6と同一組成)、アルコールに溶解させた。
(2)(1)で使用したアルコールと同じものを分散媒として用い、前記出発原料粉末のスラリーを調製した。固形分濃度は10vol%とした。分散媒へ前記出発原料粉末を投入後に超音波による分散処理を行った。
(3)(2)に(1)を加えて撹拌した。狙い厚さは3nmとした。
(4)(3)を、図1に示すように、スプレードライヤーで粉体化し、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を得た。乾燥温度は150℃とし、乾燥ガスには窒素を使用した。
(5)(4)のガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を、実施例1と同様に加熱してガラス被覆窒化アルミニウム粒子を得た。炉内の最高温度は1500℃とした。
【0048】
(実施例3)
実施例3は、狙い厚さを6nmに変えた以外は、実施例2と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0049】
(実施例4)
実施例4は、狙い厚さを9nmに変えた以外は、実施例2と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0050】
(実施例5)
実施例5は、狙い厚さを15nmに変えた以外は、実施例2と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0051】
(実施例6)
実施例6は、狙い厚さを30nmに変えたこと、およびスラリーの固形分濃度を5vol%にした以外は、実施例2と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0052】
(実施例7)
実施例7は、前記「S-30」に分級を施して、D50が20.5μmで、比表面積が0.11m/gの粉末とし、さらに酸を用いて窒化アルミニウム以外の不純物の溶出処理を行ったもの、を出発原料粉末にして、次のようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
(1)Si源としてテトラアルコキシシランを変性して水溶性にしたもの、B源としてホウ酸、Al源として硝酸アルミニウム九水和物、Na源として硝酸ナトリウム、K源として硝酸カリウム、を用い、酸化物(SiO、B、Al、NaO、KO)換算でそれぞれ83.1mol%、11.5mol%、1.3mol%、3.8mol%、0.3mol%となるように配合して、アルコールに溶解させた。
(2)前記出発原料粉末に(1)を添加し、自転公転ミキサーでペースト状に調製した。(1)の添加量は、窒化アルミニウム粉末の比表面積と狙いのガラス厚さに応じて調整した。本実施例での狙い厚さは9nmとした。
(3)厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上に、フィルムアプリケータを用いて、厚さが0.5mmになるように塗布した。
(4)(3)を220℃に加熱した乾燥機に入れて溶媒を除去して粉体化し、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を得た。
(5)(4)のガラス被覆窒化アルミニウム粒子をさやに充填し、窒素気流中でトップ温度1350℃に加熱したローラーハースキルンに通すことで、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子を得た。炉内滞留時間は30分とし、うちガラスを形成する複合酸化物の融点以上に加熱される時間が10分以下になるよう、炉内の温度プロファイルを調整した。
【0053】
(実施例8)
実施例8は、出発原料粉末として前記「S-30」に酸を用いて窒化アルミニウム以外の不純物の溶出処理を行ったもの、を用いた以外は、実施例7と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0054】
(実施例9)
実施例9は、出発原料粉末として前記「S-80」に酸を用いて窒化アルミニウム以外の不純物の溶出処理を行ったもの、を用いた以外は、実施例7と同じようにガラス被覆した窒化アルミニウム粉末である。
【0055】
[ガラス被覆窒化アルミニウム粉末の特性]
1.平均粒径(メジアン径)D50
0.1質量%のピロリン酸ナトリウム水溶液50mlに、各例のガラス被覆窒化アルミニウム粉末(比較例1~4は被覆無し)0.5gを投入し、株式会社日本精機製作所製の型式US-300Eを使用して出力80%で3分間分散させたものを、株式会社島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置、型式SALD-2200を使用して、体積基準の粒度分布を測定した。そのD50[μm]を表1に示す。
【0056】
2.ガラス厚さ
D50[μm]±40%の粒子30個のTEM観察を行った。1つの粒子につき、倍率500,000~2,000,000の写真を45°ずつ回転させて8か所撮影し、各写真の中央部のガラス厚さを測定し、全ての測定値の平均を求めた。このガラス厚さ[μm]を表1に示す。
なお、観察用サンプルは、必要に応じて樹脂に包埋し集束イオンビーム(FIB)加工などで薄片化処理を行った。実際の観察は、日本電子株式会社の電界放出型透過電子顕微鏡JEM-2100Fで行った。加速電圧は200kVである。
また、ガラス層とAlN粒子との境界は、結晶格子像の有無(ガラス層はアモルファスのため結晶格子像が見えない)、もしくは元素分析にてガラス成分(本願の場合は、主にSi)の検出の有無、により判別した。図4は比較例6、図5は実施例1、図6は実施例2、図7は実施例5の各TEM写真であり、加入した白色破線は窒化アルミニウム粒子表面とガラスとの境界を示している。
【0057】
3.ガラス被覆率
上述のTEM写真を用いて、ガラス厚さが2nm未満の領域は耐水性の観点からは被覆不十分であることから実質的に被覆無しとみなして、ガラス被覆率を算出した。このガラス被覆率を表1に示す。
比較例5,6は、熱処理後の解砕によってガラス被覆の剥離や破壊が起こったため、ガラス被覆率が65%以下と低かった。
これに対し、実施例1~9は、ガラス被覆率が95%以上であった。
【0058】
4.85℃耐水時間
(1)ポリプロピレン製の密閉容器に蒸留水(林純薬工業株式会社、GRグレード、pH5.5~6.0)を10g秤量した。
(2)(1)に粉末1gを添加して超音波バスに入れ、3分間の分散処理を行った。
(3)85℃の恒温槽(エスペック株式会社、PHP-2J)に入れ、容器内の水のpHが9以上になるまでの時間を計測した。最長500hまで実施した。この85℃耐水時間[h]を表1に示す。
比較例1~4は、85℃耐水時間が1時間未満と短く、比較例5,6でも、85℃耐水時間がさほど改善されていない。
これに対し、実施例1~9は、耐水性が著しく改善された。特に実施例1,3~9は、ガラス被覆率が100%であったため、耐水性が更に改善された。
【0059】
[樹脂成形体の作製(応用例1~8)]
表2に示す応用例1~8の樹脂成形体を、次のように作製した。
【0060】
【表2】
【0061】
(1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(株式会社ADEKA、EP-4901H)、イミダゾール型硬化剤(株式会ADEKA、EH-2021)、分散剤、及び希釈溶剤PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)からなる樹脂組成物を、自転公転ミキサー(株式会社シンキー、ARV-200)で2分間混練した。自転速度は1000rpmで公転速度は2000rpmとした。
(2)(1)の樹脂組成物に、各例のガラス被覆窒化アルミニウム粉末(比較例1~4は被覆無し)のD50が相異なる少なくとも2種を表2に示す所定の割合で配合したものを、硬化後に75vol%もしくは80vol%になるようにフィラーとして添加して、2分間混錬した。その後に50Torrの減圧条件で2分間混錬しながら脱泡処理した。
(3)(2)の粉末配合樹脂組成物を、厚さ0.05mmのPET製のフィルム2枚の上に、フィルムアプリケータを用いて、厚さが0.8mmになるように塗布した。
(4)(3)を90℃で30分間乾燥して希釈溶剤を除去した。
(5)(4)の粉末配合樹脂組成物からなる2枚のシートを、PET基材と接していない面同士が向かい合うように重ね合わせ、120℃×10MPa×30分の条件で熱プレスして縦5cm×横5cm×厚さ0.7mmの樹脂成形体シートを得た。
【0062】
[樹脂複合体の特性]
1.熱伝導率
上記の方法で得られた樹脂成形体シートから縦1cm×横1cmのサンプルを3枚切り出し、熱拡散率をフラッシュ法(NETZSCH製LFA-467を使用)で測定した。測定値にシートの比熱と密度を掛け合わせて、熱伝導率を算出し、3枚の平均値を採用した。この熱伝導率[W/(mK)]を表2に示す。
応用例6はガラス被覆が無いため熱伝導率が高いのに対して、応用例1~3はガラス被覆が有ってもガラス厚さが小さいため熱伝導率は同等に高く、応用例4,5はガラス厚さがやや大きいことで熱伝導率が若干低下しているが用途により実用になる。
同様に、応用例8はガラス被覆が無いため熱伝導率が高いのに対して、応用例7はガラス被覆が有ってもガラス厚さが小さいため熱伝導率は同等に高い。
【0063】
2.耐水試験(95℃耐水時間)及び耐水試験後の熱伝導率変化
(1)容量100mLのポリプロピレン製の密閉容器に蒸留水(林純薬工業株式会社、GRグレード、pH5.5~6.0)を90g秤量した。
(2)(1)に、樹脂成形体シートから切り出した縦1cm×横1cmのサンプルを3枚投入した。
(3)(2)を95℃の恒温槽(エスペック株式会社、PHP-2J)に入れ、容器内の水のpHが8以上になるまでの時間を計測した。最長1000hまで実施した。この95℃耐水時間[h]を表2に示す。
(4)pHが8以上もしくは1000h経過後のサンプルの熱伝導率を測定し、耐水性試験前の測定値からの変化率を算出した。この熱伝導率変化率[%]を表2に示す。
応用例6,8はガラス被覆が無いため、95℃耐水時間が短く、熱伝導率変化率(低下)が大きい。
これに対し、応用例1~5,7はガラス被覆が有るため、95℃耐水時間、熱伝導率変化率ともに著しく改善された。
【0064】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【要約】
【課題】粒子表面をほぼ完全にガラスで被覆した耐水性の高いガラス被覆窒化アルミニウム粉末と、該粉末をフィラーとして含む耐水性の高い高分子成形体を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子の粒子表面がガラスで被覆されたガラス被覆窒化アルミニウム粒子からなるガラス被覆窒化アルミニウム粉末であって、窒化アルミニウム粒子のD50が0.5~100μmであり、ガラス厚さが2~100nmであり、粒子表面のガラス被覆率が95%以上である。窒化アルミニウム粒子とガラス前駆体とを含む混合液を霧状に又は面上に広げた状態で乾燥させることにより、ガラス前駆体被覆窒化アルミニウム粒子を作製し、加熱してガラス前駆体をガラス化することにより、ガラス被覆窒化アルミニウム粒子を作製する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7