(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】堆肥製造方法及びそれに用いる制御装置、堆肥製造システム、並びに堆肥製造プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
C05F 17/00 20200101AFI20240529BHJP
C05F 17/70 20200101ALI20240529BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20240529BHJP
C05F 11/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C05F17/00
C05F17/70
C05F3/00
C05F11/00
(21)【出願番号】P 2023026960
(22)【出願日】2023-02-24
【審査請求日】2023-08-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590003722
【氏名又は名称】佐賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【氏名又は名称】古賀 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘文
(72)【発明者】
【氏名】本村 勇貴
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-167278(JP,A)
【文献】特開2012-229136(JP,A)
【文献】特開2006-335630(JP,A)
【文献】特開2003-251318(JP,A)
【文献】特開2000-325925(JP,A)
【文献】特開2010-070442(JP,A)
【文献】特開昭60-061097(JP,A)
【文献】特開平08-309317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C05F 1/00-17/02
C02F11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上になるように前記堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造方法であって、
前記堆肥材料の温度又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、
前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を有し、
前記通気制御ステップ
において、初期値を設定した後
では、前記環境情報の変化量のみに基づい
た、前記環境情報の値に依存しない一定の制御を行うことを特徴とする堆肥製造方法。
【請求項2】
前記環境情報として、前記堆肥材料の温度を使用し、
前記変化量取得ステップでは、前記温度の変化量を求める請求項1に記載の堆肥製造方法。
【請求項3】
前記通気制御ステップでは、
前記温度の変化量が第1閾値以上の場合、前記堆肥材料に対する通気量を増加し、
前記温度の変化量が第2閾値以下の場合、前記通気量を減少する請求項2に記載の堆肥製造方法。
【請求項4】
前記第1閾値及び前記第2閾値を、少なくとも前記堆肥材料の状態に基づいて決定する請求項3に記載の堆肥製造方法。
【請求項5】
前記堆肥材料の温度が60℃以上となるように通気を制御する請求項1に記載の堆肥製造方法。
【請求項6】
前記堆肥材料が、牛糞及び/又は豚糞である請求項1に記載の堆肥製造方法。
【請求項7】
前記通気制御ステップでは、前記初期値を、前記温度を基に決定する請求項2に記載の堆肥製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の堆肥製造方法に用いる制御装置であって、
前記変化量取得ステップを実行する変化量取得部と、前記通気制御ステップを実行する通気制御部と、を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の制御装置を備える堆肥製造システムであって、
前記堆肥材料を貯留して発酵を行う貯留部を備えた発酵設備と、前記環境情報を検出するセンサ装置と、前記制御装置から出力される情報に基づいて前記堆肥材料に対する通気を行う通気装置と、を更に備えることを特徴とする堆肥製造システム。
【請求項10】
堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上になるように前記堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造プログラムであって、
コンピュータに、
前記堆肥材料の温度又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、
前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を実行させ、
前記通気制御ステップ
において、初期値を設定した後
では、前記環境情報の変化量のみに基づい
た、前記環境情報の値に依存しない一定の制御を行わせることを特徴とする堆肥製造プログラム。
【請求項11】
請求項10に記載の堆肥製造プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥の製造において、堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜排泄物等の有機性廃棄物を好気性微生物の活動により分解・発酵させて有機肥料を作成する堆肥化では、好気性微生物が活動しやすい適正な環境条件を整える必要がある。環境条件として、栄養源、空気(酸素)、水分、温度等の種々の項目が挙げられるが、このうちの空気(酸素)は、堆肥化において必要不可欠な項目の1つである。好気性微生物は空気を利用して堆肥材料である有機性廃棄物を分解する酸化分解を行い、酸化反応による発酵熱を発生し、堆肥材料中の水分の蒸発を促進する。
【0003】
堆肥材料への空気の供給方法としては、発酵している堆肥を撹拌、混合することにより空気と均一に接触させる切り返しの他に、送風機(ブロア)等により堆肥材料に空気を送る(通気する)方法(以下、「通気方法」とする)等がある。
堆肥化は好気性微生物による分解反応であり、必要な空気(酸素)の量は堆肥材料の種類や堆肥の発酵段階等により異なるので、通気方法において、適切な堆肥化を行うためには、堆肥化の条件や状況に応じて、供給する空気量(通気量)を調節する必要がある。
例えば、堆肥化の初期段階では、好気性微生物全体の活動が活発化するので、多くの通気量が必要であり、堆肥化の後期では、好気性微生物全体の活動が沈静化するので、必要な通気量は少なくて良い。また、送風機により通気する場合、通気量を適切に調節することにより、送風機を稼働させるための消費電力量の増加を抑制することができる。
【0004】
通気方法における通気量の調節方法として、堆肥材料の温度(以下、「堆肥温度」と記載する場合がある)を基にして通気量を調節する方法が提案されている。好気性微生物による分解反応により発酵熱が発生するので、堆肥温度は発酵の程度(好気性微生物全体の活動量)により変化する。そして、必要な通気量は発酵の程度に応じて変わるので、堆肥温度を基にすることにより、通気量を適切に調節することができることになる。
【0005】
例えば、特許文献1では、強制通気式の発酵槽を用いて都市ごみその他の有機性物の原料を堆肥化するために、原料の温度と単位時間当たりの温度変化量により通気量を制御する堆肥化装置の通気制御方法及び装置が提案されている。
発酵槽内の温度分布における高温部では低温部より多くの通気量を供給し、また、発酵速度が速い時には通気量を多くし、発酵速度が遅い時には通気量を少なくするように、温度パターンの変化及び変化量をパラメータにして通気量を制御している。このような制御を行うことにより、発酵を均一化でき、電力消費も少なくて済み、発酵速度の変動にも容易に追随できるとしている。
【0006】
特許文献2では、堆肥材料に通気することを含む堆肥の製造において、連続的または断続的に測定された堆肥材料の温度に基づいて決定された通気量で通気を行う堆肥製造方法及び装置が提案されている。
具体的な通気量は、堆肥材料の乾燥重量と温度に応じて予め定めた係数Aの積を堆肥材料の体積で除した値として算出される。この係数Aは、実験的に求められる係数で、70℃以下の温度域で、かつ温度が上昇している間は、温度の関数であり、70℃を超える温度では定数であり、70℃以下の温度域で、かつ温度が下降している間は定数であり、20℃以下の温度域でも定数である。このように通気量を算出することにより、通気量を、堆肥材料の発酵状況に応じた適切な通気量に制御することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭62-167278号公報
【文献】特許第5565773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
必要な通気量は、堆肥材料の種類や量、堆肥の堆積状態等(以下、これらを「堆肥情報」と総称する)によっても変わるので、堆肥温度を基に通気量を調節する場合、調節のための設定条件を堆肥情報に応じて変更しなければならない。設定条件は、通常、堆肥情報を固定して実験的に決定するので、設定条件を構成するパラメータが多い場合、設定条件の変更に工数がかかってしまう。
【0009】
特許文献1で提案の通気制御方法及び装置では、堆肥温度及びその変化量をパラメータとして通気量を制御しているので、堆肥情報が変わった場合、堆肥温度及びその変化量の2つのパラメータに対する設定条件を変更しなければならない可能性がある。特許文献2で提案の堆肥製造方法及び装置では、複数の温度域を設定し、温度域毎に係数Aを設定しているので、堆肥情報が変わった場合、温度域の設定と係数Aの設定それぞれを変更しなければならない可能性がある。
【0010】
本発明は上述のような事情によりなされたものであり、本発明の目的は、堆肥化の条件や状況に応じて通気を適切に調節することができると共に、堆肥情報の変更に効率的に対応可能な堆肥製造方法及びそれに用いる制御装置、堆肥製造システム、並びに堆肥製造プログラム及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上になるように前記堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造方法であって、
前記堆肥材料の温度及び/又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、
前記環境情報の変化量に基づいて、前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を有する堆肥製造方法。
<2> 前記環境情報として、前記堆肥材料の温度を使用し、
前記変化量取得ステップでは、前記温度の変化量を求める<1>に記載の堆肥製造方法。
<3> 前記通気制御ステップでは、
前記温度の変化量が第1閾値以上の場合、前記堆肥材料に対する通気量を増加し、
前記温度の変化量が第2閾値以下の場合、前記通気量を減少する<2>に記載の堆肥製造方法。
<4> 前記第1閾値及び第2閾値を、少なくとも前記堆肥材料の状態に基づいて決定する<3>に記載の堆肥製造方法。
<5> 前記堆肥材料の温度が60℃以上となるように通気を制御する<1>から<4>のいずれかに記載の堆肥製造方法。
<6> 前記堆肥材料が、牛糞及び/又は豚糞である<1>から<5>のいずれかに記載の堆肥製造方法。
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の堆肥製造方法に用いる制御装置であって、
前記変化量取得ステップを実行する変化量取得部と、前記通気制御ステップを実行する通気制御部と、を備える制御装置。
<8> <7>に記載の制御装置を備える堆肥製造システムであって、
前記堆肥材料を貯留して発酵を行う貯留部を備えた発酵設備と、前記環境情報を検出するセンサ装置と、前記制御装置から出力される情報に基づいて前記堆肥材料に対する通気を行う通気装置と、を更に備える堆肥製造システム。
【0013】
<9> 堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上になるように前記堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造プログラムであって、
コンピュータに、
前記堆肥材料の温度及び/又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、
前記環境情報の変化量に基づいて、前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を実行させる堆肥製造プログラム。
<10> <9>に記載の堆肥製造プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の堆肥製造方法及びそれに用いる制御装置、堆肥製造システム、並びに堆肥製造プログラム及び記録媒体によれば、環境情報の変化量のみに基づいて通気を制御しているので、堆肥化の条件や状況に応じて通気を適切に調節でき、堆肥情報の変更にも効率的に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る堆肥製造システムの構成例を示すブロック図である。
【
図6】溝に通気配管を嵌装した状態の例を示す図である。
【
図7】本発明に係る堆肥製造システムの動作例を示すフローチャートである。
【
図8】堆肥温度等の時間変化の例を示すグラフである。
【
図9】堆肥温度、酸素濃度等の時間変化の例を示すグラフである。
【
図10】堆肥材料内の水分の時間変化の例を示すグラフである。
【
図11】有機物分解率の時間変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上になるように前記堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造方法であって、前記堆肥材料の温度及び/又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、前記環境情報の変化量に基づいて、前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を有する堆肥製造方法(以下、「本発明の堆肥製造方法」と記載する場合がある。)に関する。
【0017】
本発明では、堆肥材料に空気を送る(通気する)通気方法を用いた堆肥化において、堆肥材料に空気を供給する際、堆肥材料を含む周囲環境に関する情報(環境情報)の変化量(例えば、所定時間当たりの変化量)に基づいた通気の制御(以下、「変化量通気制御」とする)を行う。
【0018】
上記環境情報は、堆肥材料の温度や堆肥材料の酸素濃度に関する情報である。例えば、環境情報として堆肥温度を使用し、堆肥温度が所定の大きさ以上に上昇した場合、通気量を増加させ、堆肥温度が所定の大きさ以上に低下した場合、通気量を減少させる。堆肥温度の変化量に基づいて、このように通気量を制御することにより、堆肥化の状況に応じて通気量を適切に調節することができる。
【0019】
即ち、堆肥化の初期段階では、好気性微生物の活動が活発化するので、多くの通気量(酸素量)が必要であるが、好気性微生物の活動の活発化により堆肥温度が上昇するので、それに合わせて通気量を増加させることができる。一方、堆肥化の後期では、好気性微生物の活動が沈静化するので、通気量は少なくて良いが、好気性微生物の活動の沈静化により堆肥温度が低下するので、それに合わせて通気量を減少させることができる。
【0020】
また、上述の変化量通気制御により、外気温が低い時期での過剰通気による発酵抑制を防ぎ、高温発酵を維持し、高品質な堆肥を製造することができる。
【0021】
本発明の堆肥製造方法において、堆肥温度を高温(好適には60℃以上)に維持して発酵させる高温発酵は、堆肥中の雑草種子の発芽抑制、病原菌等からの害の防止等による堆肥の高品質化、好気性微生物の活動促進等のメリットがある。高温発酵に適した堆肥温度は60℃以上が好ましい。ただし、温度が高すぎると好気性微生物の活性が低下する場合があるため、堆肥温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。
【0022】
高温発酵は、特に外気温が低くなる冬季において維持することが難しく、過剰通気の場合、例えば通気量を調節せず一定量としたときに必要な通気量を確保するために多くの通気量で通気する場合、通気により堆肥材料が冷却されるので、更に維持が困難となる。
しかし、本発明の堆肥製造方法によれば、堆肥温度の低下に合わせて通気量が減少するので、過剰通気を抑制し、それによる発酵抑制を防ぎ、高温発酵を維持することができる。
【0023】
なお、本発明は、上述の変化量通気制御を行う制御装置として実現しても良いし、制御装置に加え、堆肥温度等の環境情報を検出するセンサ装置等を備える堆肥製造システムとして実現しても良い。
すなわち、本発明の制御装置は、本発明の堆肥製造方法に用いる制御装置であって、変化量取得ステップを実行する変化量取得部と、通気制御ステップを実行する通気制御部と、を備える。本発明の堆肥製造システムは、上記制御装置と、堆肥材料を貯留して発酵を行う貯留部を備えた発酵設備と、環境情報を検出するセンサ装置と、制御装置から出力される情報に基づいて堆肥材料に対する通気を行う通気装置と、を備える。
【0024】
また、本発明は、堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上(好適には60℃以上)になるように堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造プログラムであって、コンピュータに、前記堆肥材料の温度及び/又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、前記環境情報の変化量に基づいて、前記堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を実行させる堆肥製造プログラム(以下、「本発明の堆肥製造方法」と記載する場合がある。)に関する。更に、本発明は、本発明の堆肥製造プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【0025】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略することがある。また、以下の説明における構成等は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。更に、以下では、本発明を実施するための主要な構成及び動作を中心にして説明しており、本発明を実施するために必要となる汎用的な処理、例えばデータの送受信処理等については説明を簡略又は省略している。
【0026】
図1に、本発明に係る制御装置を備える堆肥製造システムの構成例を示す。
本実施形態の堆肥製造システム1は、牛や豚等からの家畜排泄物を対象とし、環境情報として堆肥温度を使用して、堆肥温度の変化量に基づいて通気量を調節する変化量通気制御を実行して、堆肥化を行う。堆肥製造システム1は、家畜排泄物からなる堆肥材料を貯留して好気性微生物による堆肥材料の発酵を行う発酵設備10、発酵設備10に貯留されている堆肥材料の温度(堆肥温度)を検出するセンサ装置20、堆肥材料に対する通気量を制御する制御装置30、及び堆肥材料に対する通気を行う通気装置40を備える。
【0027】
センサ装置20は、発酵設備10内の堆肥材料に挿入される形で発酵設備10と接続している。センサ装置20と制御装置30は通信ケーブル51で接続されており、制御装置30と通気装置40は通信ケーブル52で接続されており、それぞれ有線通信によりデータの送受信を行う。
【0028】
通気装置40は、発酵設備10の内部に設置されて堆肥材料に空気を供給する通気配管44と、通気配管44に空気を送入する送入管43を備え、送入管43及び通気配管44により発酵設備10と接続している。なお、センサ装置20と制御装置30、及び/又は、制御装置30と通気装置40は、無線通信によりデータの送受信を行っても良い。この場合、通信ケーブルは不要となる。
【0029】
発酵設備10は、堆肥舎として構成されており、堆肥材料を貯留する複数の貯留部11を備えている。
【0030】
図2は、貯留部11を正面から見た図である。本実施形態では、発酵設備10は2つの貯留部11a及び11bを備えている(以下、貯留部11a及び11bを区別せずに「貯留部11」とすることがある)。
貯留部11は、両側面及び背面がコンクリート壁で囲まれており、正面及び上面が開放された構造になっている。貯留部11a及び11bは、幅(
図2での左右方向の長さ)が約300cm、奥行が約270cmで、貯留部11aと11bを仕切るコンクリート壁の高さ(
図2での上下方向の長さ)が約200cmである。この貯留部11に、堆肥材料が約150cmの高さまで堆積される。貯留部11の上方には、雨雪を防ぐために、屋根(図示せず)が設けられている。
なお、貯留部の数は2つに限られず、発酵設備10は、それ以外の数の貯留部を備えても良く、貯留部のサイズも上記に限られない。
【0031】
貯留部11の底面には、通気装置40から延伸する通気配管44を嵌装するための溝12が設けられている。通気配管44がはみ出すことなく溝12に完全に嵌装されるように溝12の深さは設定されており、例えば深さは11~12cmになっている。溝12の幅も、通気配管44の大きさに合わせて設定されており、例えば11~12cmになっている。溝12は、通気配管44を上方より嵌装できるように、上面が開放されており、下面の形状は平面でも凹状の曲面等でも良い。
なお、溝12の深さ及び/又は幅は11~12cmより大きくても良いが、通気配管44が嵌装しやすく、通気配管44から送出する空気が堆肥材料に適切に供給されるような大きさが好ましい。
【0032】
溝12は、貯留部11の背面から側面に平行して、貯留部11の奥行と略同じ長さ(約270cm)で形成されている。貯留部11a及び11bそれぞれの底面に、約50cmの間隔で4つの溝12a、12b、12c及び12dが形成されている(以下、溝12a~12dを区別せずに「溝12」とすることがある)。溝12と接する貯留部11の背面には、送入管43を挿通するための孔が穿設されている。なお、溝12の数は4つに限られず、それ以外の数の溝を設けても良く、側面ではなく背面に平行して溝を設ける等としても良い。
【0033】
発酵設備10に貯留される堆肥材料には、必要に応じて、通気装置40による通気方法に加えて、切り返しによっても空気が供給されても良い。切り返しは、発酵している堆肥材料を取り崩し、撹拌して再堆積する等の操作で行われる。切り返しにより、堆積された状態で表層に位置した堆肥材料が内部に入ると同時に、内部に空気が入るので、堆積された堆肥材料全体を均一的に空気と接触させることができる。
【0034】
切り返しは、堆肥温度が上昇した後に低下した頃に行っても良いし、所定の間隔で行っても良い。本実施形態では、1週間の間隔で切り返しを行う。発酵設備10が堆肥切り返し機等の切り返し手段を備え、それを用いて切り返しを行っても良い。なお、切り返しを行わなくても適切な堆肥化が可能な場合等では、切り返しを行わなくても良い。
【0035】
センサ装置20は、堆肥温度を検出し、堆肥温度(信号)Tcを出力する。センサ装置20は、温度センサを備え、温度センサとして、シース型熱電対を使用する。
熱電対は2種類の異なる金属導体で構成され、ゼーベック効果を利用して温度を計測する温度センサで、シース型熱電対は、熱電対の素線を外気から遮断するために、金属の被覆と一対の熱電対素線の間に、粉末状の無機絶縁物を充填封入して加工したものである。所定の長さ(例えば30cm)の細い管の中に熱電対素線が封入されており、その管を堆肥材料に挿入することにより堆肥温度を計測する。
【0036】
なお、センサ装置20が複数の温度センサを備え、各温度センサで検出される堆肥温度の平均値等を堆肥温度Tcとして出力しても良い。また、温度センサとして、シース型熱電対ではなく、バイメタル式温度計等を使用しても良い。バイメタル式温度計は、熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせた構造であるバイメタルの性質を利用して温度を測る温度計で、バイメタルは温度変化によって曲がり方が変化する性質を有するので、その性質を利用して温度を測る。
【0037】
センサ装置20の温度センサは、堆積された堆肥材料に対して、貯留部11の底面から所定の高さ(例えば30cm)の位置に、水平方向に挿入される。なお、水平方向ではなく、鉛直方向等に、温度センサを挿入しても良い。
【0038】
センサ装置20は、所定の時間間隔(以下、「計測間隔」とする)で堆肥温度を計測して、堆肥温度Tcを出力する。堆肥温度Tcは、センサ装置20と制御装置30を接続する通信ケーブル51を介して、制御装置30に入力される。なお、センサ装置20は、計測間隔で堆肥温度Tcを出力するのではなく、その他のタイミング、例えば制御装置30からの要求(信号)に応じて出力するようにしても良い。
【0039】
制御装置30は、センサ装置20から出力される堆肥温度Tcを入力し、発酵設備10に貯留されている堆肥材料に対する通気量を堆肥温度の変化量に基づいて制御する変化量通気制御を行う。
【0040】
制御装置30は、PLC(Programmable Logic Controller)として構成されており、通常のPLCが備える入力手段、出力手段、演算手段、記憶手段等を備えている。PLCは機器や設備等の制御を行う制御装置で、プログラムによりシーケンス制御(あらかじめ定められた順序又は手続きに従って制御の各段階を逐次進めていく制御)を行う。制御装置30では、ラダー方式で作成されたプログラム(ラダープログラム)を使用する。
【0041】
なお、制御装置30が使用するプログラムとして、ラダー方式以外の方式やプログラミング言語で作成されたプログラムを使用しても良く、制御装置30をPLC以外の汎用のコンピュータ等で構成しても良く、制御装置30での制御の一部又は全部をハードウェアで実現しても良い。
【0042】
制御装置30の構成例を
図3に示す。
図3には、主にプログラムで実現される構成要素を示している。
制御装置30は、変化量取得部31及び通気制御部32を備える。
【0043】
変化量取得部31は、センサ装置20から出力される堆肥温度Tcを入力し、堆肥温度の変化量を演算し、温度変化量(信号)dTcとして出力する。堆肥温度の変化量として、所定の時間間隔(以下、「制御間隔」とする)での堆肥温度Tcの差を算出する。
【0044】
例えば、30分間での堆肥温度Tcの差を温度変化量dTcとする。堆肥温度Tcは計測間隔で入力されるので、計測間隔と制御間隔が同じ場合は、変化量取得部31は、堆肥温度Tcを入力するたびに、その直前に入力した堆肥温度を直前堆肥温度Tcpとして保持しておき、それらの差(Tc-Tcp)を温度変化量dTcとする。計測間隔が制御間隔より短い場合、制御間隔に合致したタイミングの堆肥温度Tcを使用して、温度変化量dTcを算出する。
【0045】
なお、堆肥温度の変化量として、堆肥温度の差ではなく、堆肥温度が増減した割合等を使用しても良い。また、センサ装置20が複数の温度センサを備える場合、制御装置30が各温度センサで検出される堆肥温度を入力し、それらの堆肥温度の変化量の平均値等を温度変化量dTcとしても良い。
【0046】
通気制御部32は、温度変化量dTcに基づいて、通気量を決定し、通気量(信号)Amを情報として出力する。
通気量は、堆肥材料の単位体積当たりに単位時間に送出される空気の量として規格化し、例えば1立方メートル当たり1分間に送出する空気量(リットル)を通気量とする。
【0047】
通気制御部32は、通気量を、所定の幅で、段階的に変更する。例えば、通気量の範囲を10~160L/min/m3とし、所定の幅を10L/min/m3として、16段階(10、20、・・・、160L/min/m3)で通気量を変更する。以下では、通気量が最小の段階をレベル0とし、1段階上がる毎に、レベル2、レベル3、・・・とする。16段階の場合、通気量の段階はレベル0~レベル15となり、レベル0での通気量は10L/min/m3で、レベル15での通気量は160L/min/m3となる。通気制御部32は、各段階での通気量を定義した情報(以下、「レベル別通気量情報」とする)を予め保持している。
【0048】
通気制御部32は、温度変化量dTcに対して閾値を設定し、閾値判定で通気量の段階を決定し、レベル別通気量情報を用いて、決定した通気量の段階に応じた通気量Amを出力する。
【0049】
閾値として、温度変化量dTcが正数の場合、つまり堆肥温度が上昇した場合での閾値(第1閾値)Th1と、温度変化量dTcが負数の場合、つまり堆肥温度が低下した場合での閾値(第2閾値)Th2を設定する。そして、温度変化量dTcが閾値Th1以上の場合、通気量の段階を1つ上げ、温度変化量dTcが閾値Th2以下の場合、通気量の段階を1つ下げる。閾値として、例えば、閾値Th1に1.0℃、閾値Th2に―0.1℃を設定する。
なお、閾値は、少なくとも発酵装置10内の堆肥材料の状態(種類、量、熱容量、含水率、好気性微生物、等)に基づいて、予備実験により決定することができる。予備実験は、上述した堆肥製造システムを用いてもよく、上述した堆肥製造システムに準じた試験システム(例えば、上述した堆肥製造システムより少量の堆肥材料で堆肥製造条件を模擬できるもの)を用いてもよい。
【0050】
通気制御部32は、通気量の段階の初期値、即ち堆肥化開始時点での通気量の段階を、開始時点での堆肥温度Tcを基に決定する。例えば、開始時点での堆肥温度Tcが10℃未満の場合、通気量の段階をレベル1(20L/min/m3)とし、堆肥温度Tcが10℃以上20℃未満の場合、通気量の段階をレベル2(30L/min/m3)とし、堆肥温度Tcが20℃以上30℃未満の場合、通気量の段階をレベル3(40L/min/m3)とし、堆肥温度Tcが30℃以上の場合、通気量の段階をレベル4(50L/min/m3)とする。これら以外の設定で、通気量の段階の初期値を決定しても良い。
【0051】
なお、通気制御部32は、通気量に対して段階を設定するのではなく、閾値判定により通気量を変更する場合、その時点の通気量に対して所定の量(例えば10L/min/m3)の通気量を増減することにより、直接的に通気量を変更するようにしても良い。この場合、レベル別通気量情報は不要となり、堆肥化開始時点では通気量の段階ではなく通気量を決定することになる。また、通気制御部32は、通気量Amを段階的ではなく、連続的に変更しても良く、連続的に変更する場合、通気量Amを直線的にも曲線的にも変更して良い。通気量の段階の初期値は、堆肥温度Tcではなく、他の情報、例えば外気温等を基に決定しても良く、所定の時間間隔で、通気量の段階をリセットしても良い。
【0052】
通気装置40は、制御装置30から出力される通気量Amを入力し、発酵設備10に貯留されている堆肥材料に、通気量Amに応じた空気を送出する。
【0053】
通気装置40の構成例を
図4に示す。通気装置40は、駆動機41、送風機(ブロア)42、送入管43、通気配管44及び通信ケーブル45を備え、送風機42から送出される空気を発酵設備10内の堆肥材料に供給するために、駆動機41により送風機42を制御し、送風機42からの空気を、送入管43及び通気配管44を介して、堆肥材料に送出する。
【0054】
駆動機41は、インバータを備え、入力する通気量Amに応じて、送風機42を駆動するための制御信号Scを出力する。インバータは、直流又は交流を任意の周波数及び電圧の交流に変換することができるので、送風機42から通気量Amに対応する空気を送出させるために、通気量Amに応じた電力が制御信号Scとして送風機42に出力される。
【0055】
例えば、駆動機41が、送風機42の規格や特性等に基づいて通気量に対応する周波数を定義した情報を予め保持し、通気量Amを入力したら、その情報を用いて、適切な周波数を決定する。そして、決定された周波数に応じた制御信号Scを出力する。制御信号Scは、通信ケーブル45を介して、送風機42に入力される。駆動機41のインバータは、パルス幅を変えることにより出力を可変とするPWM(Pulse Width Modulation)方式で変調を行うが、他の方式で変調を行っても良い。
【0056】
なお、周波数の決定を、駆動機41ではなく、制御装置30で行っても良い。この場合、制御装置30は、通気量Amではなく、通気量Amに対応する周波数を、通気装置40に出力することになる。また、通気量に対応して周波数を定義するのではなく、通気量の段階に対応して周波数を定義しても良い。この場合、制御装置30は、通気量Amではなく、通気量の段階を、通気装置40に出力することになる。
【0057】
送風機42は、外気(空気)を吸引し、羽根車の回転運動等により空気を圧縮して、送出する。送風機42は、入力される制御信号Scに応じて回転運動等の強さが変わることにより、適切な通気量(通気量Am)の空気を送出する。
【0058】
送入管43は、両端が開口した管で、一方の端部が送風機42の吐出口(空気を送出する口)に嵌着しており、他方の端部が通気配管44の端部に嵌着している。送入管43により、送風機42から送出される空気が、通気配管44に流入する。
【0059】
通気配管44は、発酵設備10の貯留部11の底面に設けられた溝12に嵌装され、通気配管44から送出する空気が、通気配管44の上に貯留される堆肥材料に供給される。貯留部11に貯留される堆肥材料全体に空気が供給されるように、通気配管44の長さは、貯留部11の奥行に応じた長さになっており、例えば、貯留部11の奥行が270cmの場合、通気配管44の長さは約260cmとなっている。通気配管44の外径は、通気量が多い場合でも少ない場合でも適切に堆肥材料に空気が供給されること等を考慮して設定する。例えば、本実施形態では、通気配管44の外径は10cmとなっている。
【0060】
通気配管44は、一方の端部が開口し、他方の端部が閉口した管で、開口している端部は、送入管43の端部と嵌着している。また、通気配管44には、軸方向(長手方向)に一定の間隔で配置された通気孔46が、2列に平行して穿設されている。
【0061】
図5は、通気孔46が穿設された面から見た通気配管44の閉口した端部の拡大図である。
図5に示されるように、通気配管44の側面に、W1の間隔で軸方向に穿設された通気孔46の2つの列が、W2の間隔を空けて設けられている。通気孔46の直径並びに間隔の大きさW1及びW2は、通気配管44のサイズ(外径、長さ)や通気量等を考慮して、適宜設定される。本実施形態では、通気孔46の直径は5mm、間隔の大きさW1及びW2はそれぞれ10cm及び4cmとなっている。なお、
図5では通気孔46は周方向でも並んだ配置で穿設されているが、周方向ではズレた配置で穿設されていても良い。また、通気配管44の列は1列でも3列以上でも良い。
【0062】
通気配管44の上に堆肥材料が堆積されるので、通気配管44は堆積される堆肥材料の重量に耐えられる強度を有する素材で形成されている。
例えば、通気配管44として、塩ビ管(硬質ポリ塩化ビニル管)を使用する。塩ビ管は合成樹脂であるポリ塩化ビニルで生成された配管素材で、軽量性、耐衝撃性、耐薬品性、耐食性等を有しており、下水道管、電線管、土木用等、広範囲の分野で使用されている。塩ビ管は大きく分けてVP管とVU管があるが、通気配管44としては、厚肉であるVP管が好適である。なお、通気孔46が穿設可能で、堆肥材料の重量に耐えられる強度を有する素材で形成されていれば、塩ビ管以外の管、例えばポリエチレン管等を通気配管44として使用しても良い。
【0063】
通気配管44は、発酵設備10の貯留部11の底面に設けられた溝12に嵌装される。
図6に、溝12に通気配管44を嵌装した状態の例を示す。通気配管44は溝12に嵌装されるので、溝12に対向する通気配管44の側面は見えない状態となるが、
図6では溝12は鉛直方向に切断した断面として示してある。
【0064】
図6に示されるように、通気配管44は、貯留部11の背面に穿設された孔に挿通された送入管43の端部と嵌着し、通気孔46が下向きになるように、溝12に嵌装されている。
通気孔46を上向きにした場合、堆肥材料から漏出する水分により通気孔46が閉塞されるおそれがあるので、それを防止するために、通気孔46を下向きにする。配管詰まりの対策としては、例えば、
図6に示されるように、鋸屑60等を通気配管44の上に重置しても良い。
【0065】
通気孔46から送出する空気が堆肥材料に到達するように、通気配管44と溝12の底面との間には間隙が形成されている。例えば、5mmの間隙が形成されるように、通気配管44を溝12に嵌装する。送入管43を介して通気配管44に流入した空気は、通気孔46から送出され、通気孔46から送出された空気は、溝12の底面から側面に沿って流れ、堆肥材料に到達する。
【0066】
なお、本実施形態において、センサ装置20の温度センサを挿入する高さ、制御装置30における変化量取得部31での制御間隔並びに通気制御部32での閾値Th1及びTh2等は適宜変更可能であるが、実験等により適切な値を設定する。上記で例示した温度センサの高さの30cm、制御間隔の30分、閾値Th1の1.0℃、閾値Th2の―0.1℃は、後述の実施例で使用した堆肥製造システムを用いた予備実験により得られた値である。
【0067】
このような堆肥製造システム1の構成において、その動作例を
図7のフローチャートを参照して説明する。なお、エラーが発生した場合の動作等の汎用的な動作の説明は省略する。
【0068】
堆肥化の動作を開始したら、センサ装置20は、発酵設備10に貯留されている堆肥材料の堆肥温度Tcを検出し、制御装置30に出力する(ステップS10)。
【0069】
制御装置30では、堆肥温度Tcが変化量取得部31及び通気制御部32に入力され、変化量取得部31は、入力された堆肥温度Tcを直前堆肥温度Tcpとして保持する(ステップS20)。
通気制御部32は、入力された堆肥温度Tcを基に、通気量の段階を決定する(ステップS30)。即ち、堆肥温度Tcが10℃未満の場合、通気量の段階をレベル1とし、堆肥温度Tcが10℃以上20℃未満の場合、通気量の段階をレベル2とし、堆肥温度Tcが20℃以上30℃未満の場合、通気量の段階をレベル3とし、堆肥温度Tcが30℃以上の場合、通気量の段階をレベル4とする。
そして、通気制御部32は、レベル別通気量情報を用いて、決定した通気量の段階に応じた通気量Amを、通気装置40に出力する(ステップS40)。
【0070】
通気装置40では、駆動機41が通気量Amを入力し、通気量Amに対応する周波数を決定し、決定された周波数に応じた電力を制御信号Scとして送風機42に出力する(ステップS50)。
【0071】
送風機42は、入力された制御信号Scに基づいた通気量の空気を送出し、送出された空気は、送入管43及び通気配管44を介して、発酵設備10の貯留部11に貯留された堆肥材料に供給される(ステップS60)。
【0072】
センサ装置20は、計測間隔が経過したら、堆肥材料の堆肥温度Tcを検出し、制御装置30に出力する(ステップS70)。
【0073】
制御装置30では、堆肥温度Tcが変化量取得部31に入力される。変化量取得部31は、入力された堆肥温度Tcが制御間隔に合致したタイミングのデータの場合(ステップS80)、堆肥温度Tcと保持していた直前堆肥温度Tcpの差(Tc-Tcp)を求め、温度変化量dTcとして通気制御部32に出力し(ステップS90)、堆肥温度Tcを直前堆肥温度Tcpとして保持する(ステップS100)。堆肥温度Tcが制御間隔に合致したタイミングのデータではない場合(ステップS80)、変化量取得部31は、上記のステップS90及びS100の動作は行わず、次の堆肥温度Tcの入力の待ち状態となる。
【0074】
通気制御部32は、温度変化量dTcに基づいて通気量Amを求める。
通気制御部32は、温度変化量dTcが閾値Th1以上の場合(ステップS110)、通気量の段階を1つ上げ(ステップS120)、温度変化量dTcが閾値Th2以下の場合(ステップS130)、通気量の段階を1つ下げる(ステップS140)。それら以外の場合、通気量の段階はそのままとする。そして、通気制御部32は、レベル別通気量情報を用いて、決定した通気量の段階に応じた通気量Amを、通気装置40に出力する(ステップS150)。
【0075】
なお、ステップS120には、通気量の段階が通気量最大の段階であり、それ以上段階を上げることができない場合は、通気量の段階は上げない動作が含まれており、ステップS140には、通気量がゼロとなっており、通気量の段階を下げることができない場合は、通気量の段階は下げない動作が含まれている。
【0076】
通気量Amを入力した通気装置40は、ステップS50及びS60と同じ動作により、発酵設備10の貯留部11に貯留された堆肥材料に空気を供給する(ステップS160、S170)。
【0077】
上記のステップS70~S170の動作が、計測間隔で繰り返し行われる。
堆肥化は、切り返しを行っても堆肥温度が高温まで上昇しない、所定の期間(例えば3カ月)が経過した、等(ステップS180)により終了し、堆肥化の終了とともに、堆肥製造システム1の動作も終了する。
【0078】
なお、上述の動作において、ステップS20とステップS30、ステップS90とステップS100、ステップS110~S120とステップS130~S140等の順番は、それぞれ適宜変更可能である。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記形態において明示的に開示されていない事項、例えば送風機のサイズ等は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【0080】
本実施形態に対して、例えば以下のような変形が可能である。
堆肥製造システム1は、環境情報として堆肥温度を使用し、堆肥温度の変化量に基づいて変化量通気制御を実行して、堆肥化を行っているが、環境情報として堆肥材料内の酸素量を使用して、酸素量の変化量に基づいて変化量通気制御を実行して、堆肥化を行うことも可能である。
好気性微生物は、空気中の酸素を使用して堆肥材料を発酵させ、堆肥材料の発酵による発酵熱で堆肥温度が上昇するので、堆肥材料中の酸素量と堆肥温度は密接に関係している。よって、堆肥温度の代わりに酸素量を使用して、変化量通気制御を行うことができる。この場合、センサ装置は、発酵設備の貯留部に貯留された堆肥材料の酸素量(酸素濃度)を検出する。センサ装置は、酸素計(酸素濃度計)を備え、堆積された堆肥材料に酸素計を挿入して、酸素量を計測する。
【0081】
堆肥製造システム1は、堆肥材料に対して常時通気しており、通気量の増減により変化量通気制御を行っているが、通気量の増減ではなく、通気する時間を調節することにより変化量通気制御を行うことも可能である。即ち、堆肥材料に対して常時通気するのではなく、通気する時間と通気しない時間を設定し、両方の時間を調節することにより変化量通気制御を行う。多くの通気量が必要な場合は、通気する時間を長くし、少ない通気量で良い場合は、通気しない時間を長くする。この場合、制御装置は、通気量を通気装置に出力するのではなく、通気装置が通気をする時間を調節するための情報(例えば、通気する時間等)を出力することになる。
【0082】
堆肥製造システム1は、発酵設備10の貯留部11の底面に設けられた溝12に嵌装された通気配管44を用いて通気を行っているが、堆積された堆肥材料の上方及び/又は側方から、更には堆積された堆肥材料の内部から空気を供給するようにして通気を行っても良い。
【0083】
また、堆肥製造システム1は、牛や豚等からの家畜排泄物を対象として堆肥化を行っているが、汚泥物、食品廃棄物等の他の有機性廃棄物を対象とした堆肥化も可能である。
【0084】
上述の実施形態はシステム又は装置としての形態で説明されているが、本発明は、方法又はプログラムとしての形態を取ることも可能である。また、本発明の堆肥製造プログラムは制御装置30に格納されているが、本発明の堆肥製造プログラムを外部のコンピュータが読み取り可能な記憶媒体に格納し、外部のコンピュータを介して、堆肥製造システムを操作するように構成してもよい。また、発酵設備、センサ装置、通気装置の全て又は一部を既存の設備及び/又は市販の装置を使用して構成しても良い。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
図1~7に示した本発明の実施形態に係る堆肥製造システム1に準じた構成を備えた堆肥製造システムを用いて、以下の条件で堆肥化の実験(以下、「通気制御による実験」とする)を行った。
・堆肥材料として牛糞を使用する。
・堆肥材料を約150cmの高さまで堆積して、3つの温度センサを、貯留部11の底面から120cm、60cm及び30cmの高さの位置にそれぞれ挿入し(以下、位置が高い順に「センサ1」、「センサ2」及び「センサ3」とする)、センサ3をセンサ装置20の温度センサとして使用する。
・制御間隔を30分として、30分間での堆肥温度の差を温度変化量とする。
・温度変化量に対する閾値Th1及び閾値Th2を、それぞれ1.0℃及び―0.1℃とする(予備試験により決定)。
・1週間に1回の割合で切り返しを行う。
・冬季(12月末~4月中旬)に堆肥化を行う。
【0087】
また、比較のために、堆肥材料、堆肥材料の高さ、切り返しのタイミング及び堆肥化の時期を上記の条件に合わせ、100L/min/m3の通気量の空気を常時堆肥材料に供給する実験(以下、「慣行通気による実験」とする)を並行して行った。発酵設備が備える2つの貯留部の内、一方の貯留部11aで通気制御による実験を行い、他方の貯留部11bで慣行通気による実験を行った。
【0088】
堆肥化を開始してから5週間での堆肥温度の時間変化を
図8に示す。
図8(A)は慣行通気による実験の結果を示すグラフであり、
図8(B)は通気制御による実験の結果を示すグラフである。
センサ1、センサ2及びセンサ3で計測された堆肥温度に加えて、
図8(A)及び(B)には気温の時間変化を示しており、更に
図8(B)には通気量も示している。
図8の横軸は期間(単位:週)であり、
図8(A)の縦軸は温度(単位:℃)、
図8(B)の縦軸は温度及び通気量(単位:L/min/m
3)である。
【0089】
図8(A)に示されるように、慣行通気による実験では、堆肥化開始後に堆肥温度の急上昇と大幅な低下があり、その後、切り返しの実施により好気性微生物の活動が活性化して堆肥温度が上昇するときがあるが、全体的には堆肥温度は低下している。
慣行通気による実験では、常時100L/min/m
3の通気量の空気を堆肥材料に供給しているので、必要以上の通気量を通気する過剰通気となってしまい、センサ2及びセンサ3で計測の堆肥温度では気温よりも低くなっているときがあるように、堆肥温度が、通気を行わない場合よりも大きく低下していると推測される。
【0090】
これに対して、通気制御による実験では、
図8(B)に示されるように、堆肥化開始後に堆肥温度の急上昇はあるが、その程度は慣行通気による実験の場合より抑えられている。これは、堆肥温度の急上昇により、
図8(B)に示されるように通気量も急激に増加し、堆肥材料が冷却され、堆肥温度の上昇が抑えられたものと推測される。そして、堆肥温度の急上昇から低下への転換により、通気量が減少し、過剰通気が抑えられ、それに伴い、堆肥温度が再度上昇したものと推測される。
その後、切り返しの実施により一時的に堆肥温度が急低下するが、堆肥温度は急激に回復する。これは、切り返し実施時点では通気量はゼロになっているので、好気性微生物の活動により堆肥温度が急上昇したものと推測される。そして、堆肥温度の急上昇により通気が行われるが、堆肥温度の低下により再度通気量がゼロとなり、過剰通気が抑えられ、堆肥温度の低下も抑えられている。このようにして、通気制御による実験では、高温発酵が維持される。
【0091】
図9に、堆肥化期間を伸ばした実験での堆肥温度の時間変化及び堆肥材料内の酸素濃度の時間変化を示す。
図8の場合と同様に、
図9(A)は慣行通気による実験の結果を示すグラフで、
図9(B)は通気制御による実験の結果を示すグラフであり、縦軸には酸素濃度(単位:%)が加えられている。
【0092】
慣行通気による実験においては、
図9(A)に示されるように、堆肥化の後半の期間では、堆肥温度の変化は、気温と略同期したような変化になっている。これは、好気性微生物の活動が沈静化したためと推測され、このような状態において、堆肥化の前半と同じ通気量で通気するのは、消費電力量の増加等の不必要なコストがかかることになる。酸素濃度は、堆肥化期間を通じて大きな変化はなく、大気中と同程度の高水準で推移している。
【0093】
これに対して、通気制御による実験では、
図9(B)に示されるように、10週目までは堆肥温度は全体として緩慢に低下し、それ以降は全体として緩やかに上昇している。通気量は、5週目以降、略ゼロとなっているので、この間の堆肥温度の変化は、切り返しのみを行った一般的な堆肥化の場合と同じ変化になっているものと推測される。酸素濃度は、堆肥温度が上昇するときには低下している。これは、堆肥温度上昇により好気性微生物の活動が活発化したためと推測される。
【0094】
通気制御による実験及び慣行通気による実験における堆肥材料内の水分(含水率)の時間変化及び有機物分解率の時間変化を、
図10及び
図11にそれぞれ示す。横軸は期間(単位:週)であり、縦軸は、
図10では水分(単位:%)、
図11では有機物分解率(単位:%)である。
【0095】
図10に示されるように、通気制御による実験での水分の変化(低下)は、慣行通気による実験の場合に比べて、緩やかになっており、適切な堆肥化が行われていることがわかる。
有機物分解率についても、
図11に示されるように、通気制御による実験での有機物分解率が、慣行通気による実験の場合より高い状態で推移しており、適切な堆肥化が行われていることがわかる。
【0096】
なお、通気制御による実験を夏季(7月下旬~9月上旬)に行った場合でも、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0097】
1 堆肥製造システム
10 発酵設備
11、11a、11b 貯留部
12、12a、12b、12c、12d 溝
20 センサ装置
30 制御装置
31 変化量取得部
32 通気制御部
40 通気装置
41 駆動機
42 送風機
43 送入管
44 通気配管
45、51、52 通信ケーブル
46 通気孔
60 鋸屑
【要約】
【課題】堆肥化の条件や状況に応じて通気を適切に調節することができると共に、堆肥情報の変更に効率的に対応可能な堆肥製造方法及びそれに用いる制御装置、堆肥製造システム、並びに堆肥製造プログラム及び記録媒体を提供する。
【解決手段】堆肥の製造において、堆肥材料が所定の温度以上(好適には60℃以上)になるように堆肥材料に対する通気を少なくとも制御する堆肥製造方法であって、前記堆肥材料の温度及び/又は酸素濃度に関する情報である環境情報の変化量を求める変化量取得ステップと、環境情報の変化量に基づいて、堆肥材料に対する通気を制御する通気制御ステップと、を有する。
【選択図】
図3