(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/06 20060101AFI20240529BHJP
B60C 17/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B60C9/06 B
B60C17/00 C
(21)【出願番号】P 2020029896
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義隆
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067059(JP,A)
【文献】特開2016-049926(JP,A)
【文献】特開平09-300908(JP,A)
【文献】特開昭55-110605(JP,A)
【文献】特開平11-291716(JP,A)
【文献】特開平10-244811(JP,A)
【文献】特開平08-118910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードコアと、タイヤ子午断面において、前記一対のビードコアそれぞれの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返された後、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側にサイドウォール部まで巻き上げられたカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたトレッド部とを有する自動二輪車用タイヤであって、
前記カーカス層は、積層された第1のカーカスおよび第2のカーカスを含み、
前記第1のカーカスと前記第2のカーカスとの間の、タイヤ赤道面を跨ぐ位置に設けられた補強ゴム層を含み、
前記補強ゴム層は、タイヤ内面に配置されず、
タイヤ子午断面において、前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記タイヤ赤道面から前記補強ゴム層の端部までのタイヤ幅方向の距離Wの比W/(TRW/2)が0.1以上であ
り、
タイヤ断面高さSHに対する、前記トレッド部の端部までの高さSLHの比SLH/SHが、0.55以上0.80以下である
自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記比W/(TRW/2)が0.9以下である
請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記補強ゴム層は、
前記トレッド部の端部より、タイヤ幅方向内側に設けられている請求項1または請求項2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記補強ゴム層は、
前記タイヤ赤道面がタイヤ内面に交差するトレッドセンターにおける、前記カーカス層のタイヤ径方向最外側の位置と、前記トレッド部の端部との間に設けられている請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記補強ゴム層は、タイヤ周方向に連続している請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記トレッド部のセンター領域におけるラジアスRcの比Rc/TRWが、0.45以上0.65以下である請求項1から
請求項5のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記第1のカーカスおよび前記第2のカーカスのうち、タイヤ赤道面上のタイヤ径方向外側のカーカスの内面から前記トレッド部の端部までのタイヤ径方向の距離Dに対する、前記タイヤ径方向外側のカーカスの内面から前記補強ゴム層のタイヤ幅方向の端部までのタイヤ径方向の距離Cの比C/Dが、0.03以上1.0以下である請求項1から
請求項6のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記補強ゴム層の最大ゲージは、0.8mm以上8.5mm以下である請求項1から
請求項7のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
前記タイヤ赤道面を中心とするタイヤ幅方向の両側の距離W/2以内に、前記補強ゴム層の最大ゲージの位置がある
請求項8に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項10】
前記補強ゴム層を構成するゴムの硬度は50以上90以下である請求項1から
請求項9のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項11】
前記トレッド部は溝を有し、
前記トレッド部のセンター領域から前記トレッド部のショルダー領域に向かうにしたがって、前記溝の深さは浅くなり、
前記溝の深さの最大値に対する前記溝の深さの最小値の比が0.3以上1.0未満である請求項1から
請求項10のいずれか1つに記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項12】
一対のビードコアと、タイヤ子午断面において、前記一対のビードコアそれぞれの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返された後、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側にサイドウォール部まで巻き上げられたカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたトレッド部とを有する自動二輪車用タイヤであって、
前記カーカス層は、積層された第1のカーカスおよび第2のカーカスを含み、
前記第1のカーカスと前記第2のカーカスとの間の、タイヤ赤道面を跨ぐ位置に設けられた補強ゴム層を含み、
前記補強ゴム層は、タイヤ内面に配置されず、
タイヤ子午断面において、前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記タイヤ赤道面から前記補強ゴム層の端部までのタイヤ幅方向の距離Wの比W/(TRW/2)が0.1以上であり、
前記トレッド部は溝を有し、
前記トレッド部のセンター領域から前記トレッド部のショルダー領域に向かうにしたがって、前記溝の深さは浅くなり、
前記溝の深さの最大値に対する前記溝の深さの最小値の比が0.3以上1.0未満である
自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車については、タイヤがパンクしても手押しによって移動することができる。パンクした場合における車両手押し性能を向上させた、自動二輪車用タイヤが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている自動二輪車用タイヤは、サイドウォール部に補強ゴム層を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている自動二輪車用タイヤについては、手押しによって車両すなわち自動二輪車を移動させる際、補強ゴム層の剥離を抑え、かつ、車両手押し性能を向上させることに関して改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、補強ゴム層の耐剥離性能を低下させずに、車両手押し性能を向上させることのできる自動二輪車用タイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある形態による自動二輪車用タイヤは、一対のビードコアと、タイヤ子午断面において、前記一対のビードコアそれぞれの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返された後、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側にサイドウォール部まで巻き上げられたカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたトレッド部とを有する自動二輪車用タイヤであって、前記カーカス層は、積層された第1のカーカスおよび第2のカーカスを含み、前記第1のカーカスと前記第2のカーカスとの間の、タイヤ赤道面を跨ぐ位置に設けられた補強ゴム層を含み、前記補強ゴム層は、タイヤ内面に配置されず、タイヤ子午断面において、前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記タイヤ赤道面から前記補強ゴム層の端部までのタイヤ幅方向の距離Wの比W/(TRW/2)が0.1以上であり、タイヤ断面高さSHに対する、前記トレッド部の端部までの高さSLHの比SLH/SHが、0.55以上0.80以下である自動二輪車用タイヤである。
【0007】
前記比W/(TRW/2)が0.9以下であることが好ましい。
【0008】
前記補強ゴム層は、前記トレッド部の端部より、タイヤ幅方向内側に設けられていることが好ましい。
【0009】
また、前記補強ゴム層は、前記タイヤ赤道面がタイヤ内面に交差するトレッドセンターにおける、前記カーカス層のタイヤ径方向最外側の位置と、前記トレッド部の端部との間に設けられていることが好ましい。
【0010】
前記補強ゴム層は、タイヤ周方向に連続していることが好ましい。
【0012】
前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記トレッド部のセンター領域におけるラジアスRcの比Rc/TRWが、0.45以上0.65以下であることが好ましい。
【0013】
前記第1のカーカスおよび前記第2のカーカスのうち、タイヤ赤道面上のタイヤ径方向外側のカーカスの内面から前記トレッド部の端部までのタイヤ径方向の距離Dに対する、前記タイヤ径方向外側のカーカスの内面から前記補強ゴム層のタイヤ幅方向の端部までのタイヤ径方向の距離Cの比C/Dが、0.03以上1.0以下であることが好ましい。
【0014】
前記補強ゴム層の最大ゲージは、0.8mm以上8.5mm以下であることが好ましい。
【0015】
前記タイヤ赤道面を中心とするタイヤ幅方向の両側の距離W/2以内に、前記補強ゴム層の最大ゲージの位置があることが好ましい。
【0016】
前記補強ゴム層を構成するゴムの硬度は50以上90以下であることが好ましい。
【0017】
前記トレッド部は溝を有し、前記トレッド部のセンター領域から前記トレッド部のショルダー領域に向かうにしたがって、前記溝の深さは浅くなり、前記溝の深さの最大値に対する前記溝の深さの最小値の比が0.3以上1.0未満であることが好ましい。
また、本発明のある形態による自動二輪車用タイヤは、一対のビードコアと、タイヤ子午断面において、前記一対のビードコアそれぞれの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返された後、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側にサイドウォール部まで巻き上げられたカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたトレッド部とを有する自動二輪車用タイヤであって、前記カーカス層は、積層された第1のカーカスおよび第2のカーカスを含み、前記第1のカーカスと前記第2のカーカスとの間の、タイヤ赤道面を跨ぐ位置に設けられた補強ゴム層を含み、前記補強ゴム層は、タイヤ内面に配置されず、タイヤ子午断面において、前記トレッド部のタイヤ幅方向の幅TRWに対する、前記タイヤ赤道面から前記補強ゴム層の端部までのタイヤ幅方向の距離Wの比W/(TRW/2)が0.1以上であり、前記トレッド部は溝を有し、前記トレッド部のセンター領域から前記トレッド部のショルダー領域に向かうにしたがって、前記溝の深さは浅くなり、前記溝の深さの最大値に対する前記溝の深さの最小値の比が0.3以上1.0未満である自動二輪車用タイヤである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補強ゴム層の耐剥離性を低下させずに、車両手押し性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る自動二輪車用タイヤの子午断面図である。
【
図2】
図2は、補強ゴム層の厚みの変化の例を示す概念図である。
【
図3】
図3は、補強ゴム層の厚みの変化の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。なお、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。また、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0021】
(自動二輪車用タイヤ)
図1は、本実施形態に係る自動二輪車用タイヤ100(以下、適宜、タイヤ100と呼ぶ)の子午断面図である。以下の説明において、タイヤ径方向とは、タイヤ100の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、上記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、上記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ100の上記回転軸に直交するとともに、タイヤ100のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあってタイヤ100のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0022】
図1において、本実施形態に係るタイヤ100は、一対のビード部1と、カーカス層2と、一対のビードコア3と、インナーライナ4と、トレッド部5と、サイドウォール部6とを備える。ビード部1は、ビードコア3を含む。カーカス層2は、2枚以上のカーカスを含む。本例のカーカス層2は、2枚のカーカスすなわち第1のカーカス21と、第2のカーカス22とを含む。カーカス層2は3枚以上のカーカスを含んでいてもよい。カーカス層2が3枚以上のカーカスを含む場合、隣接する2枚のカーカスが第1のカーカス21、第2のカーカス22である。第1のカーカス21、第2のカーカス22は、いずれも、複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆された構造になっている。カーカスコードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。インナーライナ4は、カーカス層2の内腔側に設けられる。サイドウォール部6は、ビード部1とトレッド部5との間の領域である。
【0023】
図1においては、左右一対のビード部1、1に2枚のカーカス21、22が装架されている。タイヤ100は、ビード部1、1におけるビードコア3,3の廻りにカーカス21、22のそれぞれの端部がタイヤ内側から外側に折り返して巻き上げたターンアップ構造を有する。カーカス21および22において、それぞれのカーカスコードがタイヤ周方向に対して90度未満の角度で傾斜しているバイアス構造をなしている。このためサイドウォール部6,6では巻き上げられる前のカーカス21、22と巻き上げられた後のカーカス21、22との4枚が重なってそれぞれのカーカス21、22のカーカスコードが互いに交差するクロスプライ構造をなしている。また、トレッド部5では、2枚のカーカス21、22が重なってそれぞれのカーカスコードが互いに交差する。タイヤ100は、図示しないリムにリム組みされる。
【0024】
トレッド部5は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、タイヤ100のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面がタイヤ100の輪郭となる。トレッド部5の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、溝5Mが設けられている。
【0025】
(ショルダー部の肩落ち量)
タイヤ子午断面において、リム径相当の位置ROからトレッド部5の端部51までの距離をSLHとする。タイヤ断面高さSHに対する、距離SLHの比SLH/SHが、0.52以上0.80以下であることが好ましい。比SLH/SHが0.52未満であると、距離SLHが小さく、タイヤパンク時のトレッド部の変形量が大きくなり、車両手押し性能(以下、手押し性能と略称することがある)が悪化するため好ましくない。比SLH/SHが0.80を超えると、距離SLHが大きく、ショルダー部のゲージが厚くなり、耐剥離性能が低下するため好ましくない。
【0026】
タイヤ断面高さSHは、リム径相当の位置ROからトレッド部5の頂部までの高さである。また、タイヤ断面高さSHは、タイヤの外径とリム径との差の1/2に等しい。タイヤ断面高さSH、距離SLHは、以下の条件によって測定する。すなわち、タイヤ100を正規リムに組んだ後、正規内圧に設定し、24時間放置後、再び空気圧を0kPaに戻した状態でタイヤ断面高さSH、距離SLHを測定する。以下の各項目についても同様の条件で測定する。
【0027】
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。例えば、正規内圧は、250kPaである。
【0028】
(トレッド部のラジアス)
ここで、トレッド部5のタイヤ幅方向の幅をTRWとした場合に、タイヤ赤道面CLを中心とし、トレッド部5のタイヤ幅方向の幅TRWの50%(すなわちTRW/2に相当)の領域をセンター領域Wcと定義する。また、センター領域Wcのタイヤ幅方向の両外側の領域をショルダー領域Wsと定義する。トレッド部5のセンター領域WcにおけるラジアスをRc、トレッド部5のタイヤ幅方向の幅をTRWとした場合に、比Rc/TRWは0.45以上0.65以下であることが好ましい。比Rc/TRWが0.45未満であると、トレッド部5のセンター領域WcにおけるラジアスRcが小さく、タイヤパンク時のトレッド部5の変形量が大きくなる。その場合、車両手押し性能が悪化するため好ましくない。比Rc/TRWが0.65を超えると、トレッド部5のセンター領域WcにおけるラジアスRcが大きくなる。その場合、ショルダー領域Wsのゲージが厚くなり、耐剥離性能が低下するため好ましくない。
【0029】
(補強ゴム層)
図1において、タイヤ100は、補強ゴム層7を備えている。補強ゴム層7は、トレッド部5の両方の端部51、51の間の範囲内において、第1のカーカス21と第2のカーカス22との間に設けられる。本実施形態において、また、補強ゴム層7は、タイヤ赤道面CLを跨ぐ位置に設けられている。補強ゴム層7は、トレッド部5のタイヤ内腔側に設けられている。補強ゴム層7は、トレッド部5の端部51、51より、タイヤ幅方向内側、すなわちタイヤ赤道面CL側に設けられている。トレッド部5のタイヤ内腔側に補強ゴム層7を設けることにより、内圧が無充填状態においてもトレッド部5のバックリングを抑止できる。
【0030】
自動二輪車用タイヤ100において、トレッド部5のタイヤ赤道面CLに近いタイヤ赤道面CLを跨ぐ位置は、接地時に変形が大きい。そこで、タイヤ赤道面CLを跨ぐ位置に補強ゴム層7を配置することにより、トレッド部5の剛性を高め、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させる。補強ゴム層をタイヤ内面に配置すると、カーカス層内側のゴムゲージが不均一になる場合があり、その場合は補強ゴム層の端部からの剥離が発生することがある。そこで、カーカス層間すなわち第1のカーカス21と第2のカーカス22との間に補強ゴム層7を配置することで剥離を防止しつつ車両手押し性能を向上させる。カーカス層2に含まれるカーカスが3枚以上である場合、より内腔寄りの2枚のカーカス間に補強ゴム層7を配置することがより好ましい。補強ゴム層7を適切な位置に設けることにより、補強ゴム層7が剥離することを抑えることができる。すなわち、耐剥離性能が低下しないようにすることができる。
【0031】
補強ゴム層7は、カーカス層2のタイヤ幅方向の最大幅位置P2よりタイヤ径方向外側に設けられている。補強ゴム層7は、赤道面CLがタイヤ内面に交差するトレッドセンターにおける、カーカス層2のタイヤ径方向最外側の位置PO2と、トレッド部5の端部51との間に設けられていることが好ましい。この位置に補強ゴム層7を設けることにより、トレッド部5の接地面の剛性を保ち、手押し性能が向上する。
【0032】
また、補強ゴム層7は、タイヤ周方向に連続して設けられていることが好ましい。補強ゴム層7が途切れることなくタイヤ周方向に連続して設けられていることにより、トレッド部5の接地面の剛性を保ち、手押し性能が向上する。補強ゴム層7が不連続または断続的に設けられていてもよい。
【0033】
タイヤ子午断面において、タイヤ赤道面CLから、補強ゴム層7の端部71までのタイヤ幅方向の距離をWとした場合、トレッド部5のタイヤ幅方向の幅TRWに対して、比W/(TRW/2)が0.1以上であり、0.9以下であることが好ましい。補強ゴム層7の端部72についても同様である。
【0034】
トレッド部5の、接地時に変形が大きいタイヤ赤道面CLを跨ぐ位置に補強ゴム層7を配置することにより、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。比W/(TRW/2)が0.1未満であると、車両手押し性能を向上させる効果が小さくなるため好ましくない。また、比W/(TRW/2)が0.9を超えても車両手押し性能をさらに向上させる効果が期待できない。
【0035】
ここで、タイヤ子午断面において、カーカス21およびカーカス22のうち、タイヤ赤道面CL上のタイヤ径方向外側のカーカス22の内面からトレッド部5の端部51までのタイヤ径方向の距離を距離Dとする。また、タイヤ径方向外側のカーカス22の内面から補強ゴム層7のタイヤ幅方向の端部71までのタイヤ径方向の距離を距離Cとする。このとき、距離Dに対する距離Cの比C/Dが、0.03以上1.0以下であることが好ましい。
【0036】
トレッド部5の、接地時に変形が大きいタイヤ赤道面CLを跨ぐ位置に補強ゴム層7を配置することにより、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。比C/Dが0.03未満であると、車両手押し性能を向上させる効果が小さくなるため好ましくない。また、比C/Dが1.0を超えても車両手押し性能をさらに向上させる効果が期待できない。
【0037】
(補強ゴム層の最大ゲージ)
タイヤ子午断面において、補強ゴム層7の最も厚い場所のゲージすなわち最大ゲージGamaxは、0.8mm以上8.5mm以下であることが好ましい。最大ゲージGamaxは、2.0mm以上4.0mm以下であることがより好ましい。
【0038】
補強ゴム層7の最大ゲージGamaxが上記範囲を満たすことで、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。最大ゲージGamaxが上記範囲より小さいと、トレッド部5の剛性が低下し、タイヤパンク時の車両手押し性能が低下するため好ましくない。また、最大ゲージGamaxが上記範囲より大きいと、カーカス層2が厚くなることで剛性と車両手押し性能とが低下するため好ましくない。
【0039】
ここで、タイヤ子午断面において、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向の両側の、それぞれ距離W/2の範囲内に、補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置があることが好ましい。つまり、タイヤ赤道面CLを中心とするタイヤ幅方向の両側の距離W/2以内の距離Wの範囲に、補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置があることが好ましい。接地時に変形が大きいタイヤ赤道面CLを跨ぐ位置に補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置があることにより、補強ゴム層7の耐剥離性能を向上でき、かつ、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。
【0040】
ところで、補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置は、1箇所に限らず、最大ゲージGamaxである範囲が連続していてもよい。
図2および
図3は、補強ゴム層7の厚みの変化の例を示す概念図である。
【0041】
図2の場合、補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置は、1箇所である。
図2に示すように、補強ゴム層7の厚みは、最大ゲージGamaxの位置から、端部71に向かって徐々に低下する。また、補強ゴム層7の厚みは、最大ゲージGamaxの位置から、端部72に向かって徐々に低下する。補強ゴム層7の最大ゲージGamaxの位置は、端部71から端部72までの中央位置であってもよいし、中央位置でなくてもよい。
【0042】
図3の場合、補強ゴム層7の最大ゲージGamaxである範囲H7が連続している。
図3に示すように、補強ゴム層7の厚みは、最大ゲージGamaxである範囲H7の端部の位置から、端部71に向かって徐々に低下する。また、補強ゴム層7の厚みは、最大ゲージGamaxである範囲H7の端部の位置から、端部72に向かって徐々に低下する。範囲H7の位置は、端部71から端部72までの中央位置であってもよいし、中央位置でなくてもよい。
【0043】
なお、カーカス層2が3枚以上のカーカスを含む場合において、各カーカス間に、補強ゴム層を備えても良い。すなわち、複数の補強ゴム層を備えていてもよい。その場合、補強ゴム層の合計ゲージは、赤道面上において2.0mm以上12.0mm以下であることが好ましい。
【0044】
(補強ゴム層の物性など)
補強ゴム層7を構成するゴムの硬度は50以上90以下であることが好ましい。補強ゴム層7を構成するゴムの硬度が上記範囲を満たすことで、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。補強ゴム層7を構成するゴムの硬度が上記範囲より小さいと、トレッド部5の剛性が低下し、タイヤパンク時の車両手押し性能が低下するため好ましくない。また、補強ゴム層7を構成するゴムの硬度が上記範囲より大きいと補強ゴム層が剥離しやすくなるため好ましくない。
【0045】
上記における硬度はJIS-A硬さであり、JIS K-6253に準拠して、Aタイプのデュロメータを用いて温度20℃の条件にて測定されるデュロメータ硬さである。
【0046】
ところで、トレッド部5は溝5Mを有することが好ましい。また、トレッド部5の赤道線CL付近のセンター領域Wcからトレッド部5のショルダー領域Wsに向かうにしたがって、溝5Mの深さMDは浅くなることが好ましい。そして、溝5Mの深さMDの最大値に対する溝5Mの深さMDの最小値の比が0.3以上1.0未満であることが好ましい。自動二輪車用のタイヤは、通常、トレッド部5のセンター領域Wcにおいて摩耗しやすい。そのため、摩耗速度が遅いショルダー領域Wsにおいて溝5Mの深さMDを浅くすることによって、トレッド部5の剛性を高め、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。なお、溝5Mの深さMDは、例えば、1mm以上10mm以下である。
【0047】
上述したように、カーカス層2は積層された複数のカーカス21、22それぞれのカーカスコードがタイヤ周方向に対して90度未満の角度で傾斜しているバイアス構造を有する。特に、トレッドセンター領域Wcのラジアスが小さいバイアスタイヤに補強ゴム層7を設けることにより、タイヤパンク時の車両手押し性能の向上の効果を発揮できる。
【0048】
また、上記の実施形態は、自動二輪車に限らず、自動三輪車のタイヤについても適用できる。すなわち、1つの前輪および2つの後輪を有する自動三輪車、2つの前輪および1つの後輪を有する自動三輪車に、補強ゴム層7を設けてもよい。これらの補強ゴム層を設けることにより、自動三輪車のタイヤについても、耐剥離性能を損なうことなく、タイヤパンク時の車両手押し性能を向上させることができる。
【0049】
(まとめ)
自動二輪車は、タイヤに内圧を充填していない状態でも手押しによる移動が可能という四輪自動車とは異なる特徴がある。しかし、車両の手押しによる移動が可能であるとはいえ、内圧を充填していない状態では、車両を押し難いという課題があった。また、補強ゴム層を配置することで車両の押し易さ向上に繋がるが、その配置や厚さによっては、押し心地が悪化し、手押し性能が低下する懸念もある。そこで、上記のように適切な位置に補強ゴム層を設けることにより、タイヤの空気圧が充填されない状態でのタイヤの潰れ量を低減し、車両の手押し性能、補強ゴム層の耐剥離性能を改善した自動二輪車用タイヤを実現できる。
【0050】
(実施例)
本実施例では、条件が異なる複数種類の自動二輪車用タイヤについて、車両を押したときの手押し性能、補強ゴム層の耐剥離性能について評価した。タイヤサイズ90/90-12 54Jの自動二輪車タイヤを、正規リムにリム組みし、試験車両に装着した。本実施例では、ETRTO記載の標準リムが用いられた。
【0051】
車両の手押し性能については、モニターによる押し心地(フィーリング)の官能評価を行った。タイヤを車両に装着し、内圧が無充填状態(0kPa)で、車両を手押しにて100m移動させた際の、押し心地の官能評価を行った。手押し性能は、後述する従来例を基準(100)とした指数評価を行った。数値が大きいほど押し易く、手押し性能が良好である。
【0052】
耐剥離性能に関する評価には、室内ドラム試験機が用いられた。自動二輪車用タイヤを規格空気圧(250kPa)、かつ、規格荷重(2.08kN)とし、速度80km/hにて走行した。故障するまでの走行時間を測定した。そして、この測定結果に基づいて後述する比較例を基準(100)とした指数評価を行った。この評価は、数値が大きいほど好ましい。この評価において、指数の値が「98」以上であれば、耐剥離性能は確保されている、とみなすことができる。
【0053】
表1から表4に示す実施例1から実施例28の自動二輪車用タイヤは、トレッド部5のタイヤ内腔側のカーカス層2の間(第1のカーカス21と第2のカーカス22との間、表中の「L」)の、タイヤ赤道面を跨ぐ位置に、補強ゴム層を含む自動二輪車用タイヤである。また、表1から表4に示す実施例1から実施例28の自動二輪車用タイヤにおいて、補強ゴム層の配置領域はトレッド領域のみであり、補強ゴム層はタイヤ周方向に連続している。
【0054】
表1から表4に示す実施例1から実施例28の自動二輪車用タイヤは、補強ゴム層を有し、比W/(TRW/2)が0.10以上0.90以下であるものとそうでないもの、比SLH/SHが0.52以上0.80以下であるものとそうでないもの、比Rc/TRWが0.45以上0.65以下であるものとそうでないもの、比C/Dが0.03以上1.00以下であるものとそうでないもの、補強ゴム層の最大ゲージGamax[mm]が0.8mm以上8.5mm以下であるものとそうでないもの、最大ゲージの位置がタイヤ赤道面からW/2内であるもの(表中の「A」)、または、タイヤ赤道面からW/2外であるもの(表中の「B」)、補強ゴム層のゴムの硬度が50以上90以下であるものとそうでないもの、溝の深さがセンター領域において深いもの(表中の「AA」)、または、ショルダー領域において深いもの(表中の「BB」)、溝の深さの最大値に対する溝5Mの深さMDの最小値の比が0.3以上1.0未満であるものとそうでないもの、である。
【0055】
表1において、従来例のタイヤは、補強ゴム層を有しておらず、比SLH/SHが0.52、比Rc/TRWが0.45、センター領域の溝深さよりもショルダー領域の溝深さの方が大きい、自動二輪車用タイヤである。
【0056】
表1において、比較例のタイヤは、センター領域のタイヤ内面に補強ゴム層を設けており(表中の「I」)、比SLH/SHが0.52、比Rc/TRWが0.45、センター領域の溝深さよりもショルダー領域の溝深さの方が大きい、自動二輪車用タイヤである。
【0057】
表1から表4に示す実施例1から実施例28を参照すると、補強ゴム層を有し、比W/(TRW/2)が0.10以上0.90以下である場合、比SLH/SHが0.52以上 0.80以下である場合、比Rc/TRWが0.45以上0.65以下である場合、比C/Dが0.03以上1.00以下である場合、補強ゴム層の最大ゲージGamax[mm]が0.8mm以上8.5mm以下である場合、最大ゲージの位置がタイヤ赤道面からW/2内である場合、補強ゴム層のゴムの硬度が50以上90以下である場合、溝の深さがセンター領域において深いもの(表中の「AA」)、溝の深さの最大値に対する溝5Mの深さMDの最小値の比が0.3以上1.0未満である場合に、良好な結果が得られることがわかる。補強ゴム層7を設けることによって、自動二輪車用タイヤの重量が増加するものの、内圧が無充填状態においてもトレッド部5のバックリングを抑止でき、耐剥離性能を低下させずに、車両手押し性能を向上させることができる。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【符号の説明】
【0062】
1 ビード部
2 カーカス層
3 ビードコア
4 インナーライナ
5 トレッド部
5M 溝
6 サイドウォール部
7 補強ゴム層
21、22 カーカス
100 自動二輪車用タイヤ
CL タイヤ赤道面
Wc センター領域
Ws ショルダー領域