(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】チタン板
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20240529BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20240529BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 604
C22F1/00 606
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 651A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2022576262
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001764
(87)【国際公開番号】W WO2022157842
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】塚本 元気
(72)【発明者】
【氏名】國枝 知徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-270449(JP,A)
【文献】特開2017-190480(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175569(WO,A1)
【文献】特開2021-28408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Fe:0~0.500%、
O:0~0.400%、
N:0~0.050%、
C:0~0.080%、
H:0~0.013%、
Al:0~2.30%、
Cu:0~1.80%、
Nb:0~1.00%、
Si:0~0.50%、
Zr:0~0.50%、
Cr:0~0.50%、
Mo:0~0.50%、及び
Sn:0~1.50%、
を含み、残部Tiおよび不純物からなる化学組成を有し、
金属組織が、α相を含み、
前記α相の平均結晶粒径が100.0μm以下であり、
前記α相の結晶方位をオイラー角g={φ
1,Φ,φ
2}で示した場合の、展開指数を16、ガウス半値幅を5°として電子線後方散乱回折法の球面調和関数法を用いたTexture解析によって算出する結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0以下であり、
前記オイラー角で、φ
1:0~30°,Φ:30~90°,φ
2:0~60°で表現される方位群Aにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上であり、
前記オイラー角で、φ
1:30~60°,Φ:30~90°,φ
2:0~60°で表現される方位群Bにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上であり、
前記オイラー角で、φ
1:60~90°,Φ:30~90°,φ
2:0~60°で表現される方位群Cにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上である、
ことを特徴とするチタン板。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
O:0.030~0.200%、Fe:0.020~0.200%、の1種または2種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のチタン板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
Al:0.10~2.30%、及びCu:0.10~1.80%の1種または2種を含む、
ことを特徴とする、請求項2に記載のチタン板。
【請求項4】
前記化学組成が、質量%で、
Fe:0.100%以下、並びに
Nb:0.10~1.00%、Si:0.10~0.50%、及びZr:0.10~0.50%から選択される1種以上を含む
ことを特徴とする請求項3に記載のチタン板。
【請求項5】
前記化学組成が、質量%で、
Cr:0.05~0.50%、Mo:0.05~0.50%、及びSn:0.05~1.50%から選択される1種以上を含む
ことを特徴とする請求項3または4に記載のチタン板。
【請求項6】
前記α相の大きい方から5つの結晶粒の平均結晶粒径が250μm以下である、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のチタン板。
【請求項7】
前記α相の平均結晶粒径が、2.0~100.0μmである、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のチタン板。
【請求項8】
前記α相の平均結晶粒径が、8.0~100.0μmである、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のチタン板。
【請求項9】
圧延方向の全伸びと、板幅方向の全伸びとの比であるEl
RD/El
TDが、0.70~1.30である、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のチタン板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はチタン板、特に加工異方性が少なく、成形性に優れたチタン板に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン板は板式熱交換器などに使われる。板式熱交換器では高い熱交換率が求められるので、チタン板は、板式熱交換器に適用される場合、表面積を増やすべくプレス成形によって波状に加工される。そのため、熱交換器用のチタン板はプレス成形における優れた成形性が必要とされている。
【0003】
プレス成形時には、チタン板は、どの方向にも破断せずに十分かつ均一に伸びることが求められる。しかしながら、チタン板は通常、圧延方向である板長方向(RD)の機械的特性(強度、伸び)と、板面内でRDに直角方向である板幅方向(TD)の機械的特性(強度、伸び)とは異なっている(機械的異方性を有する)。これは、チタン板が通常、一方向のみに冷間圧延して製造されることで、冷間圧延により特定の方向に配向した集合組織が形成されるためである。板厚方向(板面に垂直な方向)については、以下、NDという。
この冷間圧延によって形成される集合組織は、その後焼鈍し、再結晶させても、特定の方位に配向した再結晶集合組織となるにとどまるので、組織的な異方性は解消しない。そのため、通常のチタン板では、焼鈍前、焼鈍後のいずれにおいても、組織的な異方性に由来する機械的な特性の異方性が存在する。
【0004】
チタン板の製造過程において、冷間圧延によって形成される集合組織についてさらに詳細に説明する。
通常の条件で一方向に冷間圧延し、α域温度で焼鈍して製造したチタン板については、hcp構造(六方晶)であるα粒のc軸([0001]方向に平行な軸)が、ND(板面に垂直な方向)からTD(板幅方向)に約35°程度傾斜した方位が、多く配向した集合組織を形成している。このような集合組織に起因し、通常のチタン板は加工異方性を有しており、これがチタン板の成形性を損なう原因となっている。
【0005】
特許文献1~7に開示されるように、チタン板の成形性を向上させる様々な取り組みがなされている。
【0006】
特許文献1、2には、強度と成形性とを向上させるために、チタン板のα相の結晶粒の粒径と、α相の結晶粒の結晶方位を結晶方位分布関数で表した三つの方位を有する結晶粒の面積の関係と、を特定の範囲とすることが記載されている。
特許文献1では、集合組織について、中間焼鈍条件(再結晶温度域で実施)、最終冷間圧延条件(最終冷間圧延の圧下率を20~87%とする)、冷間圧延後の最終焼鈍条件(焼鈍温度をβ変態点以上950℃未満とする)を制御している。最終焼鈍条件によってα粒の結晶粒径をも制御している。
特許文献2では、集合組織について、中間焼鈍条件(再結晶温度域で実施)、最終冷間圧延条件(最終冷間圧延の圧下率を20~87%とする)、冷間圧延後の最終焼鈍条件(焼鈍温度をβ相含有率が20%以上となる温度以上でβ変態点未満とする)を制御している。最終焼鈍条件と最終冷間圧延圧下率によってα粒の結晶粒径をも制御している。
【0007】
特許文献3には、強度と成形性とを向上させるために、チタン板のα相の結晶粒の粒径を特定の範囲とし、(0001)面の軸方位と特定の関係をなすα相の結晶粒の面積割合を、特定のものとすることが記載されている。特許文献3においては、チタン板の結晶方位、α相結晶粒の円相当直径を所定範囲とするために、最終焼鈍の昇温速度(10℃/s以上)、保持温度(β相のα相に対する面積率が50%となる温度以上で950℃未満)、保持時間(300秒以下)および冷却速度(10℃/s以上)を制御している。
【0008】
特許文献4には、強度の異方性を小さくするために、チタン板のα相の結晶粒の粒径を特定の範囲とし、耐力が最小となる方向の0.2%耐力をYSRとし、前記耐力が最小となる方向と直交する方向の0.2%耐力をYSTとしたときの比YST/YSRを1.17以下とすることが記載されている。特許文献4においては、最終の中間焼鈍後の最終冷間圧延率を20~87%とし、最終焼鈍の焼鈍温度をβ変態点(Tβ)以上950℃未満とすることにより、チタン板の結晶方位、α相結晶粒の円相当直径を制御している。
【0009】
特許文献5には、強度の異方性を小さくするために、チタン板のα相の結晶粒のアスペクト比を、平均値2.0以上、標準偏差0.70以上とし、円相当径を、平均値5μm以上100μm以下、最大値300μm以下とすることが記載されている。
【0010】
特許文献6には、熱間で異周速圧延することにより、エリクセン値が12.9以上で、圧延方向に対して90°と0°で引張り試験を行った際に得られるランクフォード値(r値)の差を平均rで割った値が0.72以下である面内異方性を有する、プレス成形用のチタン板材が記載されている。
【0011】
特許文献7には、所定の熱間圧延条件でクロス圧延を施すことにより得られる、0.2%耐力の異方性の小さいチタン材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本国特開2016-108652号公報
【文献】日本国特開2017-137561号公報
【文献】日本国特開2015-63720号公報
【文献】日本国特開2016-102237号公報
【文献】日本国特開2016-23315号公報
【文献】日本国特開2011-230171号公報
【文献】日本国特開昭63-130753号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】井上博史著「3次元結晶方位分布解析法とその進歩」再結晶・集合組織とその組織制御への応用 日本鉄鋼協会1999年3月 第297~299頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の通常方法で製造されたチタン板は、上述のとおり、c軸がNDからTDに約35°程度傾斜した方位を優先方位とする集合組織が形成され、機械的異方性を有している。これに対し、成形性を向上させる技術として、前述の特許文献1~7に示す各種方法が提案されてきた。
しかしながら、特許文献1~3に記載されるチタン板は、機械的異方性について検討されていない。また、特許文献4~7に記載されるチタン板は、強度の異方性については検討されているものの、伸びについての異方性は検討されていない。
【0015】
本発明者らが検討した結果、強度の異方性が小さい場合でも、伸びの異方性は必ずしも小さくならないことが分かった。例えば、従来材として、
図11Aに、冷間圧延により製造されたチタン板をα温度域で最終焼鈍(焼鈍温度800℃)したα焼鈍材について、S-Sカーブ(応力-歪曲線)を示す。
図11Aより明らかなように、RDとTDとの強度の異方性が小さい場合でも、必ずしも伸びの異方性が小さいものではない。冷間圧延により製造されたチタン板をβ変態点以上の温度で最終焼鈍(焼鈍温度920℃)したβ焼鈍材についても同様にS-Sカーブを確認したところ
図11Aと同様の結果が得られた。すなわち、RDとTDとの強度の異方性が小さい場合でも、必ずしも伸びの異方性が小さいものではないという結果が得られた。
【0016】
また、単純に板の異方性を低減するだけであるならば、特許文献6に記載された異周速圧延や特許文献7に記載されるようなクロス圧延により、c軸がNDにほぼ一致した集合組織(Φ≒0、φ1、φ2は任意)を発達させることができる可能性がある。しかしながら、これらの場合、伸びの異方性は改善されるものの、c軸がNDに配向するので、いずれの方向から引っ張ってもc軸に対して垂直に引っ張ることになり、耐力は最も低くなる。さらに、現実的にチタンの薄板を製造する際には、クロス圧延を施すにはコイルではなく切り板で圧延する必要があり、効率が悪い。また、異周速圧延では両ロールでの摩擦の方向が異なるので圧延板がカールしやすく、すべりも大きいので表面の性状が悪くなりやすい。そのため、特許文献6、7の技術では、実操業上、十分にチタン板の異方性を小さくすることができない。
【0017】
本開示では、上述の課題に鑑み、伸びが大きく、かつ伸びの異方性が小さいチタン板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本開示の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]本開示の一態様に係るチタン板は、質量%で、Fe:0~0.500%、O:0~0.400%、N:0~0.050%、C:0~0.080%、H:0~0.013%、Al:0~2.30%、Cu:0~1.80%、Nb:0~1.00%、Si:0~0.50%、Zr:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Mo:0~0.50%、及びSn:0~1.50%、を含み、残部Tiおよび不純物からなる化学組成を有し、金属組織が、α相を含み、前記α相の平均結晶粒径が100.0μm以下であり、前記α相の結晶方位をオイラー角g={φ1,Φ,φ2}で示した場合の、展開指数を16、ガウス半値幅を5°として電子線後方散乱回折法の球面調和関数法を用いたTexture解析によって算出する結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0以下であり、前記オイラー角で、φ1:0~30°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群Aにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上であり、前記オイラー角で、φ1:30~60°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群Bにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上であり、前記オイラー角で、φ1:60~90°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群Cにおける前記結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上である。
[2]上記[1]に記載のチタン板は、前記化学組成が、質量%で、O:0.030~0.200%、Fe:0.020~0.200%、の1種または2種を含んでもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載のチタン板は、前記化学組成が、質量%で、Al:0.10~2.30%、及びCu:0.10~1.80%の1種または2種を含んでもよい。
[4]上記[3]に記載のチタン板は、前記化学組成が、質量%で、Fe:0.100%以下、並びにNb:0.10~1.00%、Si:0.10~0.50%、及びZr:0.10~0.50%から選択される1種以上を含んでもよい。
[5]上記[3]または[4]に記載のチタン板は、前記化学組成が、質量%で、Cr:0.05~0.50%、Mo:0.05~0.50%、及びSn:0.05~1.50%から選択される1種以上を含んでもよい。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のチタン板は、前記α相の大きい方から5つの結晶粒の平均結晶粒径が250μm以下であってもよい。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のチタン板は、前記α相の平均結晶粒径が、2.0~100.0μmであってもよい。
[8]上記[1]~[6]のいずれかに記載のチタン板は、前記α相の平均結晶粒径が、8.0~100.0μmであってもよい。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載のチタン板は、圧延方向の全伸びと、板幅方向の全伸びとの比であるElRD/ElTDが、0.70~1.30であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示の上記態様によれば、伸び(以下、特に断りがない限り全伸びを示す)が大きく、伸びの異方性が小さいチタン板を提供することができる。このチタン板は、成形性に優れるので、プレス成形による複雑な形状のチタン製品の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】結晶方位を三次元で表現する、オイラー角による表記方法を説明する図である。
【
図2】従来材(α焼鈍材)の優先方位を三次元で表現する、オイラー角による表記方法を説明する図である。
【
図3】本開示のチタン板について、結晶方位分布関数ODFをオイラー角の空間内で等高線表示した図である。
【
図4】従来例(α焼鈍材)のチタン板について、結晶方位分布関数ODFをオイラー角の空間内で等高線表示した図である。
【
図5】従来例(β焼鈍材)のチタン板について、結晶方位分布関数ODFをオイラー角の空間内で等高線表示した図である。
【
図6】オイラー角の3次元表示において、方位群A~方位群Cの領域を説明する図である。
【
図7】本実施形態に係るチタン板について、各方位群でODFが最大値となる位置を含む領域のODFを等高線表示したものであり、(A)は方位群A、(B)は方位群B、(C)は方位群CでのODF最大値のポイントを含む。
【
図8】従来のチタン板について、各方位群でODFが最大値となる位置を含む領域のODFを等高線表示したものであり、(A)は方位群A、(B)は方位群B、(C)は方位群CでのODF最大値のポイントを含む。
【
図9】本実施形態に係るチタン板の品質指標を示す図であり、(A)はTD、RDの強度、(B)はTD、RDの全伸び、均一伸びを示した図である。
【
図10】本実施形態に係るチタン板の組織(等軸組織)を示す図である。
【
図11A】従来の冷間圧延により製造されたチタン板の焼鈍材のS-Sカーブを示す図である。
【
図11B】本実施形態に係るチタン板のS-Sカーブの一例を示す図である。
【
図12】最終焼鈍をβ変態点温度以上としたチタン板の組織(針状組織)を示す図である。
【
図13】本実施形態に係るチタン板の製造工程を示した図である。
【
図14】S-Sカーブから、流動応力を求める方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の一実施形態に係るチタン板(本実施形態に係るチタン板)について説明する。
【0022】
1.金属組織
<α相を含み、α相の平均結晶粒径が100.0μm以下である>
本実施形態に係るチタン板は、結晶組織においてα相が主たる結晶組織となっている。α相が主たる結晶組織とは、評価面全体に占めるα相分率が面積率で95%以上を意味する。この分率は好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上である。α相以外の残部組織には、β相、Ti2Cu、TiFe、Ti3Al、シリサイドが含まれる。
また、α相の平均結晶粒径は、100.0μm以下とする。α相の平均結晶粒径が100.0μmを超えると、特定の結晶方位の結晶粒の割合が大きくなって、伸びの異方性の原因となる。また、粗大な結晶粒の存在に起因して、成形時にシワが発生しやすい。α相の平均結晶粒径は、好ましくは90.0μm以下、より好ましくは80.0μm以下である。
一方、α相の平均結晶粒径の下限は限定されないが、平均結晶粒径を微細にする場合、冷間圧延の圧下率を高める必要があり、冷間圧延によって集合組織が発達しやすくなる。そのため、α相の平均結晶粒径を2.0μm以上としてもよく、5.0μm以上、または8.0μm以上としてもよい。
【0023】
α相の面積率は、以下の方法で求める。
α相は均一に分布するので、チタン板の金属組織を構成する各相の面積率は、チタン板の任意の断面において測定してよい。本開示では、例えばチタン板の板幅1/2位置(幅方向端部から板幅の1/2の位置:幅中央部)の板幅方向に垂直な面(L断面)を観察することにより測定する。具体的には、チタン板の板幅1/2位置のL断面を研磨して観察面とし、SEM(Scanning Electron Microscopy)/EPMA(Electron Probe Microanalyzer)により、500μm×500μmの視野で、1.0μmピッチ(ステップ:1.0μm)でFe及びCuの濃度分布を測定する。FeやCuはβ相もしくはTi2Cu部で濃化するため、これら元素の濃度が視野全体の平均の1.7倍以上の領域を、β相もしくはTi2Cu部とし、この領域の視野全体に対する面積率を、β相もしくはTi2Cuの面積率として算出する。また、これらの面積率を100%から減じたものをα相の面積率として算出する。
【0024】
α相は均一に分布するので、上記のα相の平均結晶粒径は、チタン板の任意の断面において測定してよい。例えばチタン板の板幅1/2位置の板幅方向に垂直な面(L断面)を観察することにより測定する。
具体的には、チタン板の板幅1/2位置のL断面を研磨して観察面とし、この面の全板厚×10mmの視野を、2.0μmピッチで、SEMでEBSDパターンを測定、解析し、方位差15°以上の境界を結晶粒界と認識し、この結晶粒界で囲まれた領域を結晶粒とする。平均結晶粒径は、この結晶粒の円相当径(円相当直径)の平均値を算術平均で評価する。この視野は結晶粒が約1000個以上存在するように設定することが好ましい。ただし、上記方法で得られた平均結晶粒径が5.0μm以下の場合は、精度向上のため、全板厚×1mmの視野を、0.5μmピッチで再度測定し、平均結晶粒径を求める。
【0025】
<α相の結晶方位をオイラー角g={φ1,Φ,φ2}で示した場合の結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0以下>
<方位群A(φ1:0~30°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)、方位群B(φ1:30~60°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)、方位群C(φ1:60~90°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)における結晶方位分布関数f(g)の最大値がそれぞれ1.0以上>
上述した特許文献6、7のように、従来、c軸がNDにほぼ一致した集合組織(Φ≒0、φ1、φ2は任意)を発達させることで伸びの異方性を改善することは検討されていた。しかしながら、これらの技術は、改善すべき課題があった。
そこで、本発明者らは、検討を行った。その結果、従来とは逆の思想に基づき、一方向に配向した特定の組織の割合が少なく、ランダムに様々な方向に配向した組織を混在させることで、十分な伸びを有しつつ、伸びの異方性が低減されることを想到した。これは、組織をランダムとすることにより、方位依存性が小さくなるとともに、様々な方向に配向した各組織において、多くの双晶系が活動できることで伸び(全伸び)が増加するためであると考えられる。
【0026】
本実施形態では、集合組織における結晶方位を三次元で表現するため、オイラー角による表記方法を用いる。オイラー角による表記方法(Bungeの表記方法)は、試料座標系(板材の座標系)として、互いに直交する関係にある、RD、TDおよびNDの3本の座標軸を考える。そして、結晶座標系(チタンのα相の場合は、hcp組織の方向に基づく座標系)として、互いに直交する関係にあるX軸、Y軸およびZ軸の3本の座標軸を考える。Z軸は[0001]方向である。X軸を[10-10]方向(柱面の法線方向)にとる場合と[1-210]方向にとる場合がある。ここでは、X軸を[1-210]方向とする。この場合、Y軸は[10-10]方向(柱面の法線方向)となる。X軸としていずれの方位を採用したとしても、得られる結果は同一である。オイラー角による表記方法では、
図1(A)のように、試料座標系と結晶座標系とが一致した状態(X軸はRDと一致し、Y軸はTDと一致し、Z軸はNDと一致)をまず考える。そこから、
図1(B)に示したように、結晶座標系をZ軸回りにφ
1°回転させ(X’、Y’、Z)、次いで
図1(C)に示すようにφ
1°回転後のX(X’)軸回りにΦ°回転させる(X’、Y”、Z’)。最後に
図1(D)に示すように、φ
1°回転とΦ°回転の後のZ(Z’)軸回りにφ
2°(図示なし)回転させる(X”、Y'''、Z’)。これらのφ
1°、Φ°、φ
2°の3つの角度を用いて、結晶粒の結晶方位(c軸の方向など)を規定する。チタン板の主相の組織であるα相の結晶組織については、六方晶であることから、φ
1(0~90°)、Φ(0~90°)、φ
2(0~60°)により表記できる。
【0027】
従来の通常方法で製造されたチタン板の一般的な集合組織である、c軸がNDからTDに約35°程度傾斜した方位を、オイラー角による表記方法に基づいて、さらに概念的に説明する。c軸がTDに35°程度傾斜した方位を、オイラー角による表記方法に基づいて表記すると、Φ=35°、φ
1=0°、φ
2:任意、となる。さらに、[10-10]方向がRDを向いた方位に限定すると、φ
2=0°が優先方位となる。
図2に、当該従来材の優先方位を三次元で表現したオイラー角による表記図を示す。
【0028】
c軸がTDに35°程度傾斜した組織を、TDに引っ張った場合と、RDに引っ張った場合では、主すべり面である{10-10}面や双晶面である{11-22}面や{10-12}面と、引張方向とのなす角が異なることとなる。すべり面や双晶面と引張方向との角度が異なるということは、同じ力で引っ張ったとしても、当然、すべりや双晶の度合い(変形量)は変化する。そのため、TDとRDには、機械的特性に異方性が生じるのである。
【0029】
多結晶体の結晶方位分布は、前述のオイラー角(φ1、Φ、φ2)を用いた関数f(φ1、Φ、φ2)で表され、この関数のことを結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function、ODF)と呼んでいる。
結晶方位(φ1、Φ、φ2)をgとすると、ODFはf(g)と表現できる。方位gおける微小方位空間dgに含まれる結晶粒の体積をdVとすると、全結晶粒の体積Vに対する体積率はf(g)を用いて“dV/V=f(g)dg”で表されるので、f(g)がわかれば、ある方位をもつ結晶粒の存在量を知ることができる。方位密度を表すf(g)の値は、ランダムな方位をもつ場合に1である(非特許文献1参照)。
【0030】
結晶方位分布関数(ODF)は、電子線後方散乱回折(Electron BackScattered Diffraction Pattern:EBSD)法にて求めることができる。検査面に走査電子顕微鏡(SEM)で電子線を走査しながら電子線後方散乱回折(EBSD)法にてEBSDパターンを測定、解析し、コンピュータ上での計算により、板表面に対する角度に変換することにより、各測定点における結晶方位のオイラー角(φ1、Φ、φ2)を得る。計測した視野内の測定点のデータに基づいて、ODF(f(φ1、Φ、φ2))を算出することができる。
【0031】
本実施形態では、結晶方位分布関数(ODF)は以下の方法で求める。
α相は均一に分布するので、チタン板の任意の断面において結晶方位分布関数測定してよい。例えば、チタン板の板幅1/2位置の板幅方向に垂直な面(以下「L断面」ともいう。)を研磨して測定面とし、この面の全板厚×10mmの視野に、5.0μmピッチ(ステップ5.0μm)で、走査電子顕微鏡(SEM)で電子線を走査しながら電子線後方散乱回折(EBSD)法にてEBSDパターンを測定、解析し、コンピュータ上での計算により、チタンのα相結晶について、
図1の板表面に対する角度に変換することにより、各測定点のオイラー角を得る。上記の条件で測定したデータについて、TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア
TM(version 8.1.0)を用いて、α相のODFを算出する。ODFの算出には、電子線後方散乱回折(EBSD)法の球面調和関数法を用いたTexture解析を用いる(展開指数=16、ガウス半値幅=5°)。その際に、圧延変形の対称性を考慮し、板厚方向、圧延方向、板幅方向それぞれに対して線対称となるように、計算を行う。
【0032】
α相を主相とするチタン板の変形特性は、hcp構造をとるα相を構成する各α結晶粒の配向方向に依存する。また、f(g)の最大値が大きいチタン板は、機械的異方性、特に伸びの異方性が大きい。そのため、本実施形態に係るチタン板においては、チタンのα相の結晶方位をオイラー角g={φ1,Φ,φ2}で示した場合の結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0以下とする。主相であるα相のf(g)の最大値が14.0以下であるので、組織がランダムとなり、チタン板の機械的特性の異方性を小さくすることができる。さらに、c軸がいろいろな方向を向いているので、クロス圧延材よりは耐力を高くすることができる。結晶方位分布関数f(g)の最大値は、好ましくは12.0以下、10.0以下、より好ましくは9.0以下である。
【0033】
本実施形態に係るチタン板の集合組織について、φ
1(0~90°)、Φ(0~90°)、φ
2(0~60°)の3次元の方位分布関数f(φ
1、Φ、φ
2)を、2次元の紙面に表記したものを
図3に示す。
図3では、特定のφ
2におけるf(g)を横軸:φ
1(0~90°)、縦軸:Φ(0~90°)空間において等高線で表現し、φ
2を0°から5°ピッチで55°まで選択し、1枚の図面にまとめている。
図3中のf(g)の等高線の値の表記について、欄外に小数以下3桁の数値で示している。図中に引き出し線とともに記載した数値は、便宜上小数以下1桁に丸めた数値を記載している。これらの点は、以下の
図4、5、7、8も同様である。
図3において、f(φ
1、Φ、φ
2)の最大値は以下のように求めた。即ち、φ
2を1°ずつ区切った断面を作成し、それぞれの断面におけるf(g)の最大値を調べ、その中で最も大きかった値を採用した。f(φ
1、Φ、φ
2)が最大になるのは、φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°の位置であり、当該位置でのf(g)の最大値は7.0であった。
【0034】
一方、従来材として、冷間圧延により製造されたチタン板をα温度域で最終焼鈍(焼鈍温度800℃)したα焼鈍材(c軸がTDに約35°程度傾斜した方位を優先方位とする集合組織を有する)の集合組織を、
図3と同じ要領で、φ
2を0°から5°ピッチで55°まで選択し、1枚の図面にまとめたのが
図4である。この従来例において、f(φ
1、Φ、φ
2)が最大になるのは、φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°の位置であり、当該位置でのf(g)の最大値は14.6であった。
また、冷間圧延により製造されたチタン板をβ変態点以上の温度で最終焼鈍(焼鈍温度920℃)した従来例(β焼鈍材)の集合組織を、
図3、
図4と同じ要領で、φ
2を0°から5°ピッチで55°まで選択し、1枚の図面にまとめたのが
図5である。この例において、f(φ
1、Φ、φ
2)が最大になるのは、φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°の位置であり、当該位置でのf(g)の最大値は51.0であった。
【0035】
前記f(g)が14.0以下であっても、優先方位に近しい方位範囲に結晶方位が集中している可能性もある。
本実施形態に係るチタン板は、上記規定に加えて、方位群A(φ1:0~30°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)、方位群B(φ1:30~60°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)、方位群C(φ1:60~90°,Φ:30~90°,φ2:0~60°)における結晶方位分布関数f(g)の最大値をそれぞれ1.0以上とする。方位群A、方位群B、方位群Cのいずれにおいても、結晶方位分布関数f(g)の最大値がそれぞれ1.0以上である場合、c軸が様々な方向に配向しており、結晶方位がランダムとなり、異方性が低減する。
方位群A、方位群B、方位群Cは、それぞれ、板面内でTDから30°以内、30°から60°、60°から90°の方向に向かって、c軸がNDから30°以上傾いている方位群を示している。すなわち、これらの方位群におけるf(g)の最大値が1.0以上であれば、それぞれの方向に対してc軸が傾いている方位が一定量以上存在することを意味する。
【0036】
図6に、{φ
1,Φ,φ
2}の空間を3次元の立体空間として表現した場合の、その中における方位群A、方位群B、方位群Cの領域を図示している。
【0037】
また、
図7、
図8に、本実施形態に係るチタン板と、従来例(c軸がTDに約35°程度傾斜した方位を優先方位とする集合組織)のチタン板とについて、方位群A、方位群B、方位群Cのそれぞれにおいてf(g)が最大値となった領域のODFを図示する。(φ
1、Φ、φ
2)全領域でf(g)が最大になるポイントと、方位群Aでf(g)が最大になるポイントは同じであった。
図7(本実施形態に係るチタン板)、
図8(従来例のチタン板)、それぞれ、(A)(B)(C)の3つの図を図示している。いずれも、φ
2を特定の角度に固定し、(φ
1:0~90°,Φ:0~90°)の範囲内でのf(g)の分布を等高線で図示したものである。(A)は方位群A内、(B)は方位群B内、(C)は方位群C内でf(g)が最大になった位置のφ
2を選択している。そして、各図中に、方位群A、方位群B、方位群Cそれぞれにおいてf(g)が最大値となったポイントを図示している。
【0038】
図7から明らかなように、本開示のチタン板においては、方位群A(φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°、f(g)の最大値7.0)、方位群B(φ
1=52°、Φ=44°、φ
2=40°、f(g)の最大値2.8)、方位群C(φ
1=72°、Φ=60°、φ
2=15°、f(g)の最大値2.7)のいずれにおいても、結晶方位分布関数f(g)の最大値が1.0以上である。
それに対して
図8に示すように、比較例のチタン板においては、方位群A(φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°、f(g)の最大値14.6)、方位群B(φ
1=30°、Φ=30°、φ
2=30°、f(g)の最大値3.0)のf(g)の最大値は1.0以上であったが、方位群C(φ
1=60°、Φ=90°、φ
2=30°、f(g)の最大値0.9)の最大値は1.0未満であった。
【0039】
図11Bに、本実施形態に係るチタン板のS-Sカーブの一例を示す。本実施形態に係るチタン板では、
図11BのS-Sカーブで示されるように、従来チタン板(
図11A)に対し、伸び(全伸び)及び流動応力の異方性は少ない。
【0040】
<α相の結晶粒径が大きい方から5つの結晶粒の、平均結晶粒径が250μm以下である>
本実施形態に係るチタン板では、主相であるα相に含まれる各結晶粒のうち、大きい方から5つの結晶粒の結晶粒径(円相当径)を平均した場合に、250μm以下であることが好ましい。大きい方から5つの結晶粒の平均結晶粒径が250μm以下である場合には、粗大粒の存在によるシワの発生を抑制することができる。
【0041】
大きい方から5つの結晶粒の平均結晶粒径は、上述したα相の平均結晶粒径の測定と同じ要領で視野中の結晶粒径の測定を実施し、大きい方から5つの結晶粒の円相当径を平均することで得られる。(同一の粒径の結晶粒が複数ある場合、それぞれを1つの結晶粒として個数をカウントする。)
【0042】
2.化学組成
次に、本実施形態に係るチタン板の化学組成について説明する。以下、各元素の含有量に関する%は、質量%である。また、「~」を挟んで示される範囲は、その両端の値を下限及び上限として含む。
本実施形態に係るチタン板は、Fe:0~0.500%、O:0~0.400%、N:0~0.050%、C:0~0.080%、H:0~0.013%、を含み、残部がTi及び不純物からなる化学組成を有してもよいし、さらに上記のTiの一部に代えて、さらに任意元素であるAl、Cu、Nb、Si、Zr、Cr、Mo、Snの1種以上を含む化学組成を有していてもよい。
不純物とは、原料や製造工程から混入し得る元素であり、例示すれば、Cl、Na、Mg、Ca、Ta、Vが挙げられる。これらの元素は、本実施形態に係るチタン板の作用効果を阻害しない限り許容できる。それぞれの不純物を0.1質量%未満に制限し、さらに不純物の総量を0.5質量%以下に制限すれば問題ないレベルである。また、上述した任意元素は、不純物として含まれていてもよい。
【0043】
任意元素を含まない場合の化学組成は、日本工業規格 JIS H4600(2007年)「チタン及びチタン合金―板及び条」の工業用純チタン(1種~4種)の規格に相当する。純チタン板は、合金元素が低いので、成形することが容易である。
一方で、強度や耐酸化性を向上させる場合、上述した任意元素を後述する範囲で含有させることが好ましい。任意元素は必ずしも含まなくてよいので、下限は0%である。
【0044】
Fe:0~0.500%
Fe含有量が多くなりすぎると、β域での中間焼鈍後にβ相が残留し、その後の冷延で双晶が形成しにくくなることで、所望の集合組織を得られなくなる。そのため、Fe含有量を0.500%以下とする。集合組織の制御の観点から、Fe含有量は、好ましくは0.350%以下であり、より好ましくは0.250%以下であり、さらに好ましくは0.200%以下、一層好ましくは0.150%以下である。また、Fe含有量が0.100%超であると耐酸化性が低下することが懸念される。そのため、耐酸化性を考慮する場合、Fe含有量は、0.100%以下であることが好ましい。
Fe含有量は0%でもよいが、Feはチタン中に含まれ得る元素であり、Fe含有量を0.001%未満にしようとすると精錬コストが大きくなるので、Fe含有量を0.001%以上としてもよい。また、Feは0.2%耐力を向上させる効果を有する元素でもある。この効果を得る場合、Fe含有量は、好ましくは0.020%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。
【0045】
O:0~0.400%
O含有量が多くなりすぎると双晶変形が抑制され、上述した集合組織を得ることができない。そのため、O含有量を0.400%以下とする。双晶抑制の観点から、O含有量は、好ましくは0.350%以下であり、より好ましくは0.250%以下であり、さらに好ましくは0.200%以下であり、一層好ましくは0.150%以下である。O含有量は0%でもよいが、Oはチタン中に含まれ得る元素であり、O含有量を0.001%未満にしようとすると精錬コストが大きくなるので、O含有量を0.001%以上としてもよい。また、Oは、0.2%耐力を向上させる元素でもある。上記効果を得るためには、O含有量を、0.020%以上とすることが好ましい。O含有量は、より好ましくは0.030%以上である。
【0046】
N:0~0.050%
C:0~0.080%
H:0~0.013%
N含有量、C含有量、H含有量が過剰になると、伸びが低下する。そのため、N含有量を0.050%以下、C含有量を0.080%以下、H含有量を0.013%以下とする。C含有量は、好ましくは0.050%未満である。
これらの元素の含有量は0%でもよいが、N含有量を0.0001%未満、C含有量を0.0001%未満、H含有量を0.00001%未満とするには、著しく製錬コストがかかる。そのため、N含有量を0.0001%以上、C含有量を0.0001%以上、及び/または、H含有量を0.00001%以上としてもよい。N含有量を0.001%以上、C含有量を0.001%以上、及び/または、H含有量を0.001%以上としてもよい。
【0047】
Al:0~2.30%
Alは0.2%耐力を向上させる元素であり、Al含有量が多いほど0.2%耐力は大きくなる。そのため、含有させてもよい。0.2%耐力向上効果を得るためには、Al含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。
一方、Al含有量が多くなりすぎると特定の双晶系の活動が抑制され、伸びが低下する。双晶抑制の観点から、Al含有量は、2.30%以下とする。Al含有量は、好ましくは2.00%以下であり、より好ましくは1.95%、さらに好ましくは1.60%である。
【0048】
Cu:0~1.80%
Cuは双晶変形を抑制することなく、0.2%耐力を向上させる元素であり、Cu含有量が多いほど0.2%耐力は大きくなる。そのため、含有させてもよい。0.2%耐力向上効果を得るためには、Cu含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。
一方、Cu含有量が多くなりすぎるとTi2Cuが析出し、伸びが低下する。Ti2Cu析出の観点から、Cu含有量は、好ましくは1.80%以下であり、より好ましくは1.60%以下であり、さらに好ましくは1.50%以下、より一層好ましくは1.20%以下である。
【0049】
0.2%耐力を向上させる場合、Al:0.10%以上、2.30%以下、及びCu:0.10%以上、1.80%以下の1種または2種を含むことが好ましい。
【0050】
Nb:0~1.00%
Nbは耐酸化性を向上させる元素であり、高温での使用が見込まれる場合等には、含有させてもよい。耐酸化性向上効果を得る場合、Nb含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。
一方、Nb含有量が多くなりすぎると、β域での中間焼鈍後にβ相が残留し、その後の冷延で双晶が形成しにくくなる。この場合、求める集合組織にならない可能性がある。そのため、集合組織の制御の観点から、Nb含有量は、1.00%以下とする。Nb含有は、好ましくは0.85%以下、より好ましくは0.80%以下である。
【0051】
Si:0~0.50%
Siは耐酸化性を向上させる元素であり、高温での使用が見込まれる場合等には、含有させてもよい。耐酸化性向上効果を得る場合、Si含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。
一方、Si含有量が多くなりすぎると、シリサイドが析出し、伸びが低下する可能性がある。そのため、Si含有量は、0.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下である。
【0052】
Zr:0~0.50%
Zrは耐酸化性を向上させる元素であり、高温での使用が見込まれる場合等には、含有させてもよい。耐酸化性向上効果を得る場合、Zr含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。
一方、Zr含有量が多くなりすぎると、粒成長が大きく抑制され、結晶粒が微細化し、伸びが低下する可能性がある。そのため、Zr含有量は、0.50%以下とする。Zr含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下である。
【0053】
耐酸化性を向上させる場合、Nb:0.10~1.00%、Si:0.10~0.50%、及びZr:0.10~0.50%から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0054】
Cr:0~0.50%
Crは0.2%耐力を向上させる元素である。そのため、含有させてもよい。0.2%耐力向上効果を得る場合、Cr含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。
一方、Cr含有量が多くなりすぎると、β域での中間焼鈍後にβ相が残留し、その後の冷延で双晶が形成しにくくなる。この場合、求める集合組織にならない可能性がある。そのため、集合組織の制御の観点から、Cr含有量は、0.50%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下である。
【0055】
Mo:0~0.50%
Moは0.2%耐力を向上させる元素である。そのため、含有させてもよい。0.2%耐力向上効果を得る場合、Mo含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%である。
一方、Mo含有量が多くなりすぎると、β域での中間焼鈍後にβ相が残留し、その後の冷延で双晶が形成しにくくなる。この場合、求める集合組織にならない可能性がある。そのため、集合組織の制御の観点から、Mo含有量は、0.50%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下である。
【0056】
Sn:0~1.50%
Snは0.2%耐力を向上させる元素である。そのため、含有させてもよい。0.2%耐力向上効果を得る場合、Sn含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。
一方、Sn含有量が多くなりすぎると、粒成長が大きく抑制され、結晶粒が微細化し、伸びが低下する可能性がある。そのため、Sn含有量は、1.50%以下とする。Sn含有量は、好ましくは1.30%以下、より好ましくは1.10%以下、さらに好ましくは1.00%以下である。
【0057】
0.2%耐力を向上させる場合、Cr:0.05~0.50%、Mo:0.05~0.50%、及びSn:0.05~1.50%から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0058】
本実施形態に係るチタン板は、冷間圧延板を最終焼鈍した冷延焼鈍板であることが好ましい。また、最終焼鈍後に、テンションレベラーやスキンパスなどにより調質された板であってもかまわない。また、薄板であることが好ましく、板厚は1.5mm以下が好ましい。より好ましくは、板厚が1.2mm以下、さらに好ましくは、1.0mm以下、一層好ましくは、板厚が0.8mm以下の薄板である。
【0059】
3.特性
本実施形態に係るチタン板は、十分な伸びを有し、伸びの異方性が小さい。
例えば、RD(圧延方向)およびTD(板幅方向)に引っ張った際の伸び(全伸び)がいずれも20%以上であることが好ましい。
また、RD(圧延方向)に引っ張った際の伸びElRDと、TD(板幅方向)に引っ張った際の伸びElTDの比(ElRD/ElTD)が1.0に近いほど異方性が小さいことになる。本実施形態に係るチタン板は、RD(圧延方向)に引っ張った際の伸びElRDと、TD(板幅方向)に引っ張った際の伸びElTDの比(ElRD/ElTD)が、0.70~1.30であることが好ましい。(ElRD/ElTD)は、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上、一層好ましくは0.85以上である。また、(ElRD/ElTD)は、より好ましくは1.25以下であり、さらに好ましくは、1.20以下である。
【0060】
また、本実施形態に係るチタン板は、異方性の観点で、RD(圧延方向)およびTD(板幅方向)に引っ張った際の、S-Sカーブにおける全伸び(破断時)のうち小さい方の歪の1/4の位置、1/2の位置、3/4の位置のそれぞれにおいて、流動応力の比がそれぞれ0.90~1.10であることが好ましい。
【0061】
引張試験は、JIS Z2241(1998年)「金属材料引張試験方法」に準じて、JIS Z2201(1998年)「金属材料引張試験片」に規定された13B号試験片を用い、RD、TDの伸びを測定する。具体的には、標点間距離を50mmとし、ひずみ速度は2%ひずみまでは0.5%/min、それ以降は30%/minとし、破断まで引っ張る。
また、S-Sカーブにおける全伸び(破断時)までの歪の小さい方の1/4の位置、1/2の位置、3/4の位置のそれぞれにおいて、流動応力の比は、以下の方法で求める。例えば、引張試験において、RD、TDに対して
図14に示すようなS-Sカーブが得られた場合、RD、TDの全伸びのうち、小さい方の歪を求める(
図14ではTDのひずみであり0.420)。この歪の1/4の位置(0.105)、1/2の位置(0.210)、3/4の位置(0.315)において、RD、TDのそれぞれの流動応力を求める。各位置において、RDの流動応力をTDの流動応力で除して、流動応力比を求める。
【0062】
4.製造方法
次に、本実施形態に係るチタン板の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係るチタン板は、製造方法に依らず、上述した特徴を有していれば、その効果が得られるが、以下の工程を含む製造方法によれば、安定して製造できるので好ましい。
(I)溶解工程、(II)分塊工程、(III)熱間圧延工程、(IV)冷間圧延工程、(V)最終焼鈍工程。
以下、各工程について説明する。
【0063】
[溶解工程]
所定の純度に製造したチタン原料を、公知の方法で溶解し、所定の鋳塊とする。具体的には、真空アーク溶解法(VAR法)や、電子ビーム溶解法(EB法)が適用できる。
【0064】
[分塊工程]
公知の分塊圧延や、鍛造でスラブ形状に加工する。
【0065】
[熱間圧延工程]
公知の方法で行う。
たとえば、スラブを700~1000℃に加熱し、圧延率60~98%で圧延し、熱間圧延板を得る。この際、β変態点温度超に加熱すると、スケール形成が激しくなるので、加熱温度はβ変態点温度以下とすることが好ましい。
【0066】
[熱延板焼鈍工程]
熱間圧延工程後、冷間圧延前には、必要に応じて焼鈍(熱延板焼鈍)を施してもよい。この場合、600℃以上、β変態点温度以下に保持し、一定時間焼鈍を行う。
β変態点温度は、状態図から取得することができる。状態図は、例えばCALPHAD(Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry)法により取得することができ、例えば、そのためにThermo-Calc Sotware AB社の統合型熱力学計算システムであるThermo-Calcおよび所定のデータベース(TI3)を用いることができる。
【0067】
本実施形態に係るチタン板を製造する際に、最も特徴的であるのは、冷間圧延工程と冷間圧延工程中の中間焼鈍と、最終焼鈍工程との条件の組み合わせである。そのため、冷間圧延工程の中でも、最終冷間圧延の条件と、最終冷間圧延の直前の中間焼鈍(以下、「最終中間焼鈍」という。)の条件とは所定の条件とする。本実施形態に係るチタン板の製造工程の、冷間圧延、最終中間焼鈍、最終冷間圧延、最終焼鈍の工程を、
図13に模式的に示す。
【0068】
[冷間圧延工程]
最終中間焼鈍までの冷間圧延は、公知の条件で行えばよい。冷間圧延の各パスの間に中間焼鈍を施してもよい。
【0069】
・最終中間焼鈍の加熱温度:β変態点温度以上
最終中間焼鈍(中間焼鈍のうち、最終の焼鈍)において、β変態点温度以上に加熱すると、α相が一度β相に変態し、冷却時にα相に変態するので、集合組織がランダム化する。その結果、チタン板の異方性を小さくすることができる。加熱温度がβ変態点温度未満であると、最終製品において、結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0を超えてしまう。その結果、チタン板の異方性が大きくなる。そのため、最終中間焼鈍の加熱温度をβ変態点温度以上とする。
一方、酸化防止の観点からは、最終中間焼鈍の温度は、1000℃以下であることが好ましい。
また、酸化防止の観点から焼鈍時間は、0~10minが好ましい。ここで焼鈍時間0minとは焼鈍温度に到達直後に冷却を開始する場合である。
【0070】
・最終冷間圧延:圧延率が5~50%
最終冷間圧延の圧延率(最終中間焼鈍後、最終焼鈍までに行う冷間圧延の圧下率)が5~50%であると、すべり変形に加えて双晶変形が活発に活動し、集合組織がランダム化する。最終冷間圧延の圧延率が5%を下回ると、その後の焼鈍で粗大な針状の未再結晶粒が残存し、結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0を超えてしまう。また、平均結晶粒径も100.0μmを超えてしまう。一方、最終冷間圧延の圧延率が50%を超えると双晶があまり発生せず、すべり変形による特定の方位への配向が強まり、最終焼鈍後にも、特定の方位への配向がみられ、最終製品において、結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0を超えてしまう。その結果、チタン板の異方性が大きくなる。そのため、最終冷間圧延において、圧延率は5%以上、50%以下とする。最終冷間圧延において、圧延率は、好ましくは10%以上、40%以下である。
この圧延率の冷間圧延は1パスで行ってもよいし、複数パスで行ってもよい。すなわち、最終中間焼鈍と、最終焼鈍との間で行われる冷間圧延(パス間の焼鈍なし)の総圧延率が所定の圧延率となっていればよい。
最終冷間圧延前の時点で結晶方位をランダムにすると、最終的によりランダム化するので、中間焼鈍をβ域(β変態点以上の温度)で行い、方位をばらつかせることが好ましい。
【0071】
[最終焼鈍工程]
・加熱温度:475℃以上、β変態点温度以下
最終焼鈍において、加熱温度が475℃を下回ると、再結晶が完了せず異方性が大きくなる。そして、伸びが低下する可能性がある。そのため、最終焼鈍の加熱温度は475℃以上とする。
一方、加熱温度がβ変態点温度を超えると、組織が針状組織となり、粗大な結晶粒が形成され、結晶方位分布関数f(g)の最大値が14.0を超えてしまう。また、成形時にシワが発生しやすくなる。そのため、加熱温度をβ変態点温度以下とする。
最終焼鈍の加熱時間は、特に制限されるものではないが、確実に再結晶させるという組織の安定性の観点からは、0.5min以上とすることが好ましい。一方、結晶粒の粗粒化を防止するという観点からは480min以下とすることが好ましい。
【0072】
上記製造方法によれば、製品の結晶方位がばらつき、集合組織がランダム化し、強度や伸びの異方性が小さくなる。
【実施例】
【0073】
真空アーク溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)にて表1、表2に示す化学組成を有するチタン合金インゴットを製造した後、分塊圧延または鍛造により厚さ150mm×幅800mm×長さ5000mmのスラブを製造した。次に、その後、これらのスラブを850℃に加熱し、熱間圧延を行い、表1、表2に示す成分組成を有する厚さ4.0mmのチタン板素材を準備した。一部のチタン板素材には、780℃、2minの条件で熱延板焼鈍を行った。このチタン板素材に、表1、表2に示す条件で、冷間圧延、最終中間焼鈍、最終冷間圧延、最終焼鈍を行って、板厚0.5mmのチタン板(冷延焼鈍板)を製造した。
【0074】
【0075】
【0076】
得られたチタン板に対し、チタン板の板幅の1/2位置の板幅方向に垂直な面(L断面)を観察面とし、上述した方法で、α相の面積率、α相の平均結晶粒径、α相の大きい方から5つの結晶粒の平均結晶粒径を測定した。
【0077】
また、α相の結晶方位をオイラー角g={φ1,Φ,φ2}で示した場合の結晶方位分布関数f(g)とその最大値とを、チタン板の板幅の1/2位置の板幅方向に垂直な面(L断面)を観察面とし、前述の方法で求めた。
また、前記オイラー角で、φ1:0~30°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群A、φ1:30~60°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群B、φ1:60~90°,Φ:30~90°,φ2:0~60°で表現される方位群Cにおける結晶方位分布関数f(g)の最大値を前述の方法で求めた。
【0078】
また、得られたチタン板から、JIS Z2201(1998年)「金属材料引張試験片」に規定された13B号試験片を採取し、JIS Z2241(1998年)「金属材料引張試験方法」に準じて、引張試験を行い、RD、TDの伸び(ElRD、ElTD)を測定した。具体的には、標点間距離を50mmとし、ひずみ速度は2%ひずみまでは0.5%/min、それ以降は30%/minとし、破断まで引っ張り、破断後に破面を突き合わせて、標点間距離(引張前は50mm)の変化量を測定し、全伸びを求めた。また、異方性は、ElRD/ElTDの値で評価した。
【0079】
また、得られたチタン板から、さらに、JIS Z2201(1998年)「金属材料引張試験片」に規定された13B号試験片を採取し、JIS Z2241(1998年)「金属材料引張試験方法」に準じて、引張試験を圧延方向にひずみ速度30%/minでひずみ量20%まで行い、その後、外観を確認し、目視にて、シワの発生を評価した。ここでいうシワとは、塑性変形に伴い生じる凹凸に起因した肌荒れである。具体的には、表面を観察し、目視で顕著なシワが確認されたものをシワありと判定した。
【0080】
また、一部の例について、伸びを測定するためにRD(圧延方向)およびTD(板幅方向)に引っ張った際の、S-Sカーブにおける全伸び(破断時)までの歪の1/4の位置、1/2の位置、3/4の位置のそれぞれにおいて、流動応力の比を求めた。
【0081】
結果を表3、表4に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
本開示例である1~36については、RD、TDのいずれにおいても全伸びが20%以上であり、かつEl
RD/El
TDの値も十分に1.00に近く、異方性が小さくなった。例えば発明例6のチタン板のオイラー角の3次元での結晶方位分布関数f(g)は、
図3、
図7で示されるものとなった。
図3から、オイラー角の3次元での空間内で、f(g)が局所的に高くなる傾向を示さず、分散していることが分かる。その結果としてf(g)の最大値は、φ
1=0°、Φ=35°、φ
2=0°に出現し、当該位置でのf(g)の最大値は7.0であった。この発明例6の組織を分析したところ、
図10に示したような、平均結晶粒径65μmの等軸組織となった。その結果、RD、TDのどちらの方向の伸びも高く、強度も含めて機械的異方性が解消されていることが確認された(
図9)。
【0085】
それに対し、比較例101では、最終中間焼鈍の温度が低いためf(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、その結果、ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。
比較例102では、最終冷間圧延の圧延率が低いため未再結晶粒が残存した組織となり、f(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となった。その結果、ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。また、平均結晶粒径が100.0μmを超えており、変形時にシワが発生した。
比較例103では、最終冷間圧延の圧延率が高いためf(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、その結果ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。
比較例104では、最終焼鈍の温度が低いため未再結晶粒が残存したとの組織となり、その結果、ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。
比較例105、109では、最終焼鈍の温度が高いため、粗大な組織を含む円形度が小さな針状組織となった。その結果、f(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、ElRD/ElTDの値も大きくなった。また、シワが発生した。
比較例106では、最終中間焼鈍を施しておらず、最終冷間圧延にあたる冷間圧延率が高いため、方位群Cのf(g)の最大値が1.0を下回った。その結果ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。
比較例107では、最終中間焼鈍を施しておらず、最終冷間圧延にあたる冷間圧延率が高いため、f(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、その結果ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。また、最終焼鈍温度が高く、α相が平均円形度の小さな針状組織となり、その結果、シワが発生した。
比較例108では、最終中間焼鈍の温度が低いためf(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、その結果ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。また、最終焼鈍温度が高く、α相が平均円形度の小さな針状組織となり、その結果、シワが発生した。
比較例110では、最終冷間圧延を行わなかったことで、f(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となった。また、ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。また、α相が平均円形度の小さな針状組織であり、その結果、シワが発生した。
比較例111では、最終焼鈍を行わなかった。その結果、伸びが低下するとともに、ElRD/ElTDの値も大きくなった。
比較例112はFeの含有量が上限を超えており、f(g)の最大値が14.0を超えた配向の強い組織となり、その結果ElRD/ElTDの値も大きく、チタン板の異方性が大きかった。
比較例113はOの含有量か上限を超えており、方位群Cのf(g)の最大値が1.0未満となり、伸びも低下した。
【0086】
比較例114は、Al含有量が上限を超えており、伸びが低下した。
比較例115は、Cu含有量が上限を超えており、伸びが低下した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示によれば、伸びが大きく、伸びの異方性が小さいチタン板を提供することができる。このチタン板は、成形性に優れるので、プレス成形による複雑な形状のチタン製品の製造に有用である。