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特許7495652電着塗料組成物、皮膜、被覆物品、被覆電線およびプリント基板
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  • 特許-電着塗料組成物、皮膜、被覆物品、被覆電線およびプリント基板 図1
  • 特許-電着塗料組成物、皮膜、被覆物品、被覆電線およびプリント基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電着塗料組成物、皮膜、被覆物品、被覆電線およびプリント基板
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20240529BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20240529BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240529BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20240529BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20240529BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20240529BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240529BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20240529BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09D127/12
C08F20/18
C09D133/00
C09D5/44 B
C09D127/18
C09D5/03
H01B7/02 A
H01B7/02 Z
H05K1/05 A
H05K1/03 630G
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2023188345
(22)【出願日】2023-11-02
(65)【公開番号】P2024067024
(43)【公開日】2024-05-16
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022176619
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
(72)【発明者】
【氏名】門脇 優
(72)【発明者】
【氏名】長門 大
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荻田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】助川 勝通
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179209(JP,A)
【文献】特開2022-108653(JP,A)
【文献】国際公開第2022/050430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08F 20/18
H01B 7/02
H05K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物であって、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xの比誘電率が、2.0~2.2であり、前記パーフルオロ系高分子化合物Xのパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%以上であり、
前記メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、
前記電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%であり、
アルカリ金属含有量が、1質量ppm未満であり、
前記メタクリレート樹脂の中和物および有機溶媒を含有する溶液に、前記パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物を添加して、転相乳化させる製造方法により得られ
電着塗料組成物。
【請求項2】
パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物であって、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、
前記メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、
前記電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%であり、
アルカリ金属含有量が、1質量ppm未満であり、
前記メタクリレート樹脂の中和物および有機溶媒を含有する溶液に、前記パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物を添加して、転相乳化させる製造方法により得られ
電着塗料組成物。
【請求項3】
親水基を有する含フッ素化合物の含有量が、前記パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、50質量ppb以下である請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項4】
水をさらに含有する請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記メタクリレート樹脂が、カルボキシル基を有しており、前記メタクリレート樹脂の中和物が、カルボキシ基を有する前記メタクリレート樹脂を、アミン化合物により中和することにより得られる中和物である請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
前記メタクリレート樹脂の中和物の中和度が、50%以上である請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項7】
前記パーフルオロ系高分子化合物Xが、官能基を有しており、前記パーフルオロ系高分子化合物Xの官能基数が、炭素原子10個あたり、5~2000個である請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項8】
前記パーフルオロ系高分子化合物Xと前記メタクリレート樹脂の中和物との質量比が、10/90~90/10である請求項1または2に記載の電着塗料組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の電着塗料組成物から形成される皮膜。
【請求項10】
基材と、前記基材を被覆する皮膜とを備えており、
前記皮膜が、請求項1または2に記載の電着塗料組成物から形成される皮膜である
被覆物品。
【請求項11】
前記基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項10に記載の被覆物品。
【請求項12】
平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された皮膜とを備えており、
前記皮膜が、請求項1または2に記載の電着塗料組成物から形成される皮膜である
被覆電線。
【請求項13】
前記平角電線基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項12に記載の被覆電線。
【請求項14】
曲げ部を有する請求項12に記載の被覆電線。
【請求項15】
長尺電線である請求項12に記載の被覆電線。
【請求項16】
前記皮膜の外周に形成された被覆層をさらに備えており、
前記被覆層が、含フッ素高分子化合物Yを含む粉体塗料組成物から形成される層である
請求項12に記載の被覆電線。
【請求項17】
前記皮膜の外周に形成された被覆層をさらに備えており、
前記被覆層が、含フッ素高分子化合物Zの押出成形により形成される層である
請求項12に記載の被覆電線。
【請求項18】
含フッ素高分子化合物Yが、パーフルオロ系高分子化合物であり、
含フッ素高分子化合物Yの比誘電率が、2.0~2.2であり、
含フッ素高分子化合物Yの融点が、250~320℃である
請求項16に記載の被覆電線。
【請求項19】
含フッ素高分子化合物Yのメルトフローレートが、0.1~100g/10分である請求項16に記載の被覆電線。
【請求項20】
含フッ素高分子化合物Yが、官能基を有しており、官能基数が、炭素原子10個あたり、5~1000個である請求項16に記載の被覆電線。
【請求項21】
含フッ素高分子化合物Yが、官能基を有しており、官能基数が、炭素原子10個あたり、0~4個である請求項16に記載の被覆電線。
【請求項22】
基材と、前記基材を被覆する皮膜とを備えており、
前記皮膜が、請求項1または2に記載の電着塗料組成物から形成される皮膜である
プリント基板。
【請求項23】
前記基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項22に記載のプリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電着塗料組成物、皮膜、被覆物品、被覆電線およびプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂と電荷付与剤とを水分散してなる水分散型樹脂エマルジョンを導体上に電着し、乾燥、焼付けすることによって絶縁層を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、繊維状基材を重合した銅箔上に、フッ素樹脂の水性ディスパージョン中で熱分解性の良好なビニルモノマを乳化重合した液を電着塗料として、電着塗装により電着析出層を形成させ、加熱によりビニルポリマを分解揮発させ、絶縁皮膜を形成することを特徴とする低誘電率銅張り絶縁皮膜の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-298674号公報
【文献】特開昭61-042822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示では、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができ、割れの無い皮膜を得ることができる電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物であって、前記パーフルオロ系高分子化合物Xの比誘電率が、2.0~2.2であり、前記メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、前記電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%である電着塗料組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができ、割れの無い皮膜を得ることができる電着塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る曲げ部を有する被覆電線の正面図および上面図である。
図2図2は、一実施形態に係る曲げ部を有する被覆電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本開示の第1の電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物である。第1の電着塗料組成物において、パーフルオロ系高分子化合物Xの誘電率が、2.0~2.2であり、メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%である。
【0011】
従来、電着塗料組成物としては、特許文献1に記載のように、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂と電荷付与剤とを水分散してなる水分散型樹脂エマルジョンが知られている。特許文献1には、このような水分散型樹脂エマルジョンを用いることによって、充分な絶縁性能を有し、かつ長辺側における厚みが可及的に小さく、さらには耐熱性にも優れる絶縁層を備える平形絶縁電線を実現できることが記載されている。
【0012】
特許文献2には、被覆電線の皮膜を形成するために用いる電着塗料組成物ではないが、フッ素樹脂の水性ディスパージョン中で熱分解性の良好なビニルモノマを乳化重合した液を電着塗料とする技術が記載されている。フッ素樹脂の水性ディスパージョン中でビニルモノマを乳化重合するにあたっては、非イオン、アニオン、カチオンなどの界面活性剤が用いられる。界面活性剤は、たとえば、ラウリル硫酸エステルナトリウムなどである。
【0013】
しかしながら、界面活性剤に含まれる金属成分は、最終的に得られる皮膜中に残留し、皮膜の電気特性を悪化させる。したがって、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができ、割れの無い皮膜を得ることができる電着塗料組成物が求められる。
【0014】
本開示の第1の電着塗料組成物は、低い比誘電率を有するパーフルオロ系高分子化合物、および、高い酸価を有するメタクリレート樹脂を中和することにより得られるメタクリレート樹脂の中和物を含有する。このような電着塗料組成物は、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができるとともに、このような電着塗料組成物を基材に電着塗装することによって、基材上に割れの無い皮膜を得ることができることが見出された。さらに、得られる皮膜は、表面粗度が低く、基材と強固に接着し、比誘電率も低いものである。
【0015】
また、本開示の第2の電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物である。第2の電着塗料組成物において、パーフルオロ系高分子化合物Xが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%である。
【0016】
本開示の第2の電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物としてテトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含有しており、かつ、高い酸価を有するメタクリレート樹脂を中和することにより得られるメタクリレート樹脂の中和物を含有する。このような電着塗料組成物は、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができるとともに、このような電着塗料組成物を基材に電着塗装することによって、基材上に割れの無い皮膜を得ることができることが見出された。さらに、得られる皮膜は、表面粗度が低く、基材と強固に接着し、比誘電率も低いものである。
【0017】
以下に、本開示の電着塗料組成物に含まれる各成分について、詳細に説明する。
【0018】
(パーフルオロ系高分子化合物X)
本開示の電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xを含有する。本開示において、パーフルオロ系高分子化合物とは、高分子化合物を構成する全ての重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%以上である高分子化合物である。
【0019】
本開示において、パーフルオロモノマーとは、分子中に炭素原子-水素原子結合を含まないモノマーである。パーフルオロモノマーは、炭素原子及びフッ素原子の他、炭素原子に結合しているフッ素原子のいくつかが塩素原子で置換されたモノマーであってもよく、炭素原子の他、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、燐原子、硼素原子又は珪素原子を有するものであってもよい。パーフルオロモノマーとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたモノマーであることが好ましい。
【0020】
パーフルオロ系高分子化合物Xの比誘電率は、一層低い比誘電率を示す皮膜が得られることから、好ましくは2.0~2.2である。パーフルオロ系高分子化合物Xの比誘電率は、JIS-C-2138に準拠し、23℃±2℃、相対湿度50%、周波数1KHzにて測定することができる。
【0021】
パーフルオロ系高分子化合物Xとしては、パーフルオロ系フッ素樹脂が好ましい。本開示においてフッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フルオロプラスチックスである。フッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有するが、溶融加工性であっても、非溶融加工性であってもよい。
【0022】
パーフルオロ系高分子化合物Xとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、非溶融加工性のPTFEであってもよいし、溶融加工性のPTFEであってもよいが、非溶融加工性のPTFEが好ましい。一実施形態において、パーフルオロ系高分子化合物Xとして、比誘電率が2.0~2.2であるPTFEを用いることができる。
【0024】
非溶融加工性のPTFEは、通常、延伸性、フィブリル化特性および非溶融二次加工性を有する。非溶融二次加工性とは、ASTM D 1238及びD 2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、すなわち溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0025】
PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)単独重合体であってもよいし、TFE単位および変性モノマー単位を含有する変性PTFEであってもよい。本開示において、「変性PTFE」とは、得られる共重合体に溶融加工性を付与しない程度の少量の共単量体をTFEと共重合してなるものを意味する。共単量体としては特に限定されず、たとえば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等が挙げられる。共単量体が変性PTFEに付加されている割合は、その種類によって異なるが、たとえば、TFEと少量の共単量体との合計質量に対して、0.001~1質量%であることが好ましい。本開示において、PTFEを構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0026】
PTFEは、標準比重(SSG)が2.280以下であることが好ましく、2.210以下であることがより好ましく、2.200以下であることがさらに好ましく、2.130以上であることが好ましい。SSGは、ASTM D 4895-89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定することができる。
【0027】
PTFEは、ピーク温度が333~347℃の範囲に存在することが好ましい。より好ましくは、335℃以上であり、また、345℃以下である。ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないPTFEについて示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0028】
パーフルオロ系高分子化合物Xとして、溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物を用いることもできる。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物は、メルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。一実施形態において、パーフルオロ系高分子化合物Xとして、比誘電率が2.0~2.2である溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物を用いることができる。
【0029】
パーフルオロ系高分子化合物Xのメルトフローレートは、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは70g/10分以下であり、好ましくは5g/10分以上であり、より好ましくは10g/10分以上である。
【0030】
パーフルオロ系高分子化合物Xのメルトフローレートは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0031】
パーフルオロ系高分子化合物Xの融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは230℃以上であり、さらに好ましくは250℃以上であり、より好ましくは320℃以下である。
【0032】
融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0033】
溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物Xとしては、なかでも、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0034】
TFE/FAVE共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位を含有する共重合体である。一実施形態において、パーフルオロ系高分子化合物Xとして、比誘電率が2.0~2.2であるTFE/FAVE共重合体を用いることができる。
【0035】
FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0036】
FAVEとしては、なかでも、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0037】
TFE/FAVE共重合体のFAVE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは1.0~30.0モル%であり、より好ましくは1.2モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、尚さらに好ましくは1.6モル%以上であり、特に好ましくは1.8モル%以上であり、より好ましくは3.5モル%以下であり、さらに好ましくは3.2モル%以下であり、尚さらに好ましくは2.9モル%以下であり、特に好ましくは2.6モル%以下である。
【0038】
TFE/FAVE共重合体のTFE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは99.0~70.0モル%であり、より好ましくは96.5モル%以上であり、さらに好ましくは96.8モル%以上であり、尚さらに好ましくは97.1モル%以上であり、特に好ましくは97.4モル%以上であり、より好ましくは98.8モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%以下であり、尚さらに好ましくは98.4モル%以下であり、特に好ましくは98.2モル%以下である。
【0039】
本開示において、共重合体中の各モノマー単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0040】
TFE/FAVE共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/FAVE共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.0モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0041】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0042】
TFE/FAVE共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、上記TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0043】
TFE/FAVE共重合体の融点は、好ましくは280~322℃であり、より好ましくは285℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは315℃以下である。融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0044】
TFE/FAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定できる。
【0045】
TFE/HFP共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位を含有する共重合体である。
【0046】
TFE/HFP共重合体のHFP単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは0.1~30.0モル%であり、より好ましくは0.7モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、より好ましくは10.0モル%以下である。
【0047】
TFE/HFP共重合体のTFE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは70.0~99.9モル%であり、より好ましくは90.0モル%以上であり、より好ましくは99.3モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%である。
【0048】
TFE/HFP共重合体は、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/HFP共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.9モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0049】
TFEおよびHFPと共重合可能な単量体としては、FAVE、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、FAVEが好ましい。
【0050】
TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは240℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは300℃未満であり、特に好ましくは280℃以下である。
【0051】
TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60~110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。
【0052】
含フッ素高分子化合物は、官能基を有していてもよい。
【0053】
官能基としては、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CFH基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(-C(=O)-)を含有する基である。カルボニル基含有基としては、たとえば、
カーボネート基[-O-C(=O)-OR(式中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]、
アシル基[-C(=O)-R(式中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]
ハロホルミル基[-C(=O)X、Xはハロゲン原子]、
ホルミル基[-C(=O)H]、
式:-R-C(=O)-R(式中、Rは、炭素原子数1~20の2価の有機基であり、Rは、炭素原子数1~20の1価の有機基である)で示される基、
式:-O-C(=O)-R(式中、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[-C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[-C(=O)OR(式中、Rは、炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[-C(=O)NR(式中、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[-C(=O)-O-C(=O)-]、
などをあげることができる。
【0055】
の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記Rの具体例としては、メチレン基、-CF-基、-C-基などがあげられ、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0056】
ヒドロキシ基は、-OHで示される基または-OHで示される基を含む基である。本開示において、カルボキシル基を構成する-OHは、ヒドロキシ基に含まない。ヒドロキシ基としては、-OH、メチロール基、エチロール基などが挙げられる。
【0057】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素-炭素二重結合を有する基である。オレフィン基としては、下記式:
-CR10=CR1112
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、-CF=CF、-CH=CF、-CF=CHF、-CF=CHおよび-CH=CHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0058】
イソシアネート基は、-N=C=Oで示される基である。
【0059】
また、官能基として、-CH基、-CFH基などの非フッ素化アルキル基または部分フッ素化アルキル基を挙げることもできる。
【0060】
パーフルオロ系高分子化合物Xの官能基数は、基材と一層強固に接着する皮膜を形成できることから、炭素原子10個あたり、5~2000個であることが好ましい。官能基の個数は、炭素原子10個あたり、より好ましくは50個以上であり、さらに好ましくは100個以上であり、特に好ましくは200個以上であり、より好ましくは1000個以下であり、さらに好ましくは800個以下であり、特に好ましくは700個以下であり、最も好ましくは500個以下である。
【0061】
また、パーフルオロ系高分子化合物Xの官能基数は、電気特性に優れる皮膜を形成できることから、炭素原子10個あたり5個未満であってよく、0~4個であってもよい。
【0062】
上記官能基は、パーフルオロ系高分子化合物Xの主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基であり、好適には主鎖末端に存在する。上記官能基としては、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONH、-OH、-CHOHなどが挙げられ、-CFH、-COF、-COOH、-COOCHおよび-CHOHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。-COOHには、2つの-COOHが結合することにより形成されるジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)が含まれる。
【0063】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0064】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0065】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0066】
【表1】
【0067】
なお、-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0068】
上記官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよく、-CFH、-COF、-COOH、-COOCHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0069】
上記官能基は、たとえば、パーフルオロ系高分子化合物Xを製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、パーフルオロ系高分子化合物Xに導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、パーフルオロ系高分子化合物Xの主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基がパーフルオロ系高分子化合物Xの側鎖末端に導入される。パーフルオロ系高分子化合物Xは、官能基を有する単量体に由来する単位を含有してもよい。
【0070】
官能基を有する単量体としては、特開2006-152234号に記載のジカルボン酸無水物基((-CO-O-CO-)を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー、国際公開第2017/122743号に記載の官能基(f)を有する単量体などが挙げられる。官能基を有する単量体としては、なかでも、カルボキシ基を有する単量体(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等);酸無水物基を有する単量体(無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等);水酸基またはエポキシ基を有する単量体(ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等)等が挙げられる。
【0071】
パーフルオロ系高分子化合物Xは、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0072】
(メタクリレート樹脂の中和物)
本開示の電着塗料組成物は、メタクリレート樹脂の中和物を含有する。メタクリレート樹脂としては、解重合性メタクリレート樹脂が好ましい。本開示において、解重合とは、樹脂を形成するポリマーが、加熱によりモノマーに分解することを意味する。
【0073】
電着塗料組成物中のメタクリレート樹脂の中和物は、水中でイオンを形成することで乳化能を示し、界面活性剤などを用いなくとも、パーフルオロ系高分子化合物Xとともに乳化粒子を形成して水中に安定して分散し、電着塗料組成物を調製することができる。また、メタクリレート樹脂の中和物はパーフルオロ系高分子化合物Xにアニオン性を付与し、パーフルオロ系高分子化合物Xの電着を円滑に進めさせる。さらに、メタクリレート樹脂としては、解重合性メタクリレート樹脂を用いる場合には、解重合性メタクリレート樹脂の中和物は、皮膜を形成する際の加熱により徐々に解重合して、割れの無い皮膜の形成を助ける。皮膜の形成が完了した後には、解重合性メタクリレート樹脂の多くが解重合し、一部の解重合性メタクリレート樹脂のみが皮膜中に残存する。解重合性メタクリレート樹脂の中和物は、非解重合性メタクリレート樹脂の中和物に比べて、皮膜中に残存しにくいことから、割れの無い皮膜の形成を円滑にし、さらには、皮膜の比誘電率を大きく低下させることもない。非解重合性メタクリレート樹脂の中和物を用いると、割れの無い皮膜を得ることが困難になるおそれがある。
【0074】
さらに、本開示においては、酸価が10mgKOH/g以上のメタクリレート樹脂を用いる。メタクリレート樹脂の酸価は、好ましくは15mgKOH/g以上であり、より好ましくは20mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは25mgKOH/g以上であり、特に好ましくは30mgKOH/g以上である。メタクリレート樹脂の酸価の上限は、たとえば、150mgKOH/g以下である。上記の範囲内の酸価を有するメタクリレート樹脂を用いることにより、金属成分を含有する界面活性剤などの材料を用いることなく、電着塗料組成物を容易に調製することができ、パーフルオロ系高分子化合物Xにアニオン性を付与することができ、割れの無い皮膜を得ることができる。
【0075】
メタクリレート樹脂の酸価は、メタクリレート樹脂を中和する前のメタクリレート樹脂の酸価である。メタクリレート樹脂の酸価は、JIS K5601に準拠して、電位差滴定法を用いて測定することができる。例えば、メタクリレート樹脂をキシレンとイソプロピルアルコールの混合溶剤に溶かした後、電位差滴定法により0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定して滴定曲線上の変曲点を終点とし、水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から算出することができる。メタクリレート樹脂の酸価は、また、メタクリレート樹脂の単量体組成から計算により求めることもできる。
【0076】
メタクリレート樹脂の中和物の一実施形態においては、メタクリレート樹脂に上記の酸価を与える程度の数の酸基であって、アルカリ化合物により中和された酸基を有している。酸基は、たとえば、カルボキシル基であり、アルカリ化合物は、たとえば、アミン化合物である。
【0077】
メタクリレート樹脂は、たとえば、(メタ)アクリル酸エステル単位、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位、不飽和カルボン酸単位などを含有することができる。本開示において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0078】
メタクリレート樹脂の一実施形態においては、(メタ)アクリル酸エステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する。また、メタクリレート樹脂の一実施形態においては、(メタ)アクリル酸エステル単位、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する。
【0079】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、なかでも、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレートおよびn-ブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0080】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート、6-ヒドロキシヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、なかでも、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0081】
(メタ)アクリル酸エステル単位および水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、メタクリレート樹脂の中和物のガラス転移温度を調整し、電着塗料組成物に適切な造膜性を与える。(メタ)アクリル酸エステル単位および水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、たとえば、電着塗料組成物に要求される適切な造膜性を与えるように調整される。
【0082】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3-アリルオキシプロピオン酸、3-(2-アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニル、ウンデシレン酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0083】
不飽和カルボン酸単位は、メタクリレート樹脂に適切な酸価を付与する。不飽和カルボン酸単位の含有量は、たとえば、メタクリレート樹脂に対して、上記の範囲内の酸価を与えるように調整される。
【0084】
メタクリレート樹脂の一実施形態においては、カルボキシル基を有しており、好適には不飽和カルボン酸単位を含有する。メタクリレート樹脂がカルボキシル基を有している場合、メタクリレート樹脂の中和物としては、カルボキシ基を有するメタクリレート樹脂を、アミン化合物により中和することにより得られる中和物であることが好ましい。メタクリレート樹脂の中和物が、カルボキシ基を有するメタクリレート樹脂を、アミン化合物により中和することにより得られたものであると、金属成分を含有する界面活性剤などの材料を用いることなく、電着塗料組成物を一層容易に調製することができ、割れの無い皮膜を一層容易に得ることができる。さらには、メタクリレート樹脂の中和物の乳化能も向上することから、電着塗料組成物を後述する転相乳化により調製する場合には、パーフルオロ系高分子化合物Xを水性分散液中に極めて安定して分散させることができるようになり、金属成分を含有する界面活性剤などの材料を用いることなく、電着塗料組成物を一層容易に調製することができる。
【0085】
カルボキシ基を有するメタクリレート樹脂を中和するための用いるアミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンのいずれであってもよいが、第3級アミンが好ましい。また、アミン化合物としては、脂肪族アミンが好ましく、エチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルプロピルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンおよびジエチルエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。アミン化合物としては、なかでも、トリエチルアミンが好ましい。
【0086】
アミン化合物の使用量は、所望するメタクリレート樹脂の中和物の中和度によって決められる。メタクリレート樹脂の中和物の中和度は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下である。メタクリレート樹脂の中和物の中和度が上記範囲内にあると、金属成分を含有する界面活性剤などの材料を用いることなく、電着塗料組成物を一層容易に調製することができ、割れの無い皮膜を一層容易に得ることができる。さらには、メタクリレート樹脂の中和物の乳化能も向上することから、電着塗料組成物を後述する転相乳化により調製する場合には、パーフルオロ系高分子化合物Xを水性分散液中に極めて安定して分散させることができるようになり、金属成分を含有する界面活性剤などの材料を用いることなく、電着塗料組成物を一層容易に調製することができる。
【0087】
メタクリレート樹脂の中和物の中和度は、電位差滴定法により測定されるアミン価を酸価で除することにより測定することができる。例えば、メタクリレート樹脂にテトラヒドロフランを加えた後、電位差滴定法により0.1mol/L塩酸溶液で当量点まで滴定し、この滴定曲線上の変曲点をアミン価として、アミン価を酸価で除することにより中和度を算出することができる。メタクリレート樹脂の中和物の中和度は、また、メタクリレート樹脂の単量体組成、および、中和に用いるアミン化合物などの化合物の使用量から計算により求めることもできる。
【0088】
メタクリレート樹脂の中和物は、たとえば、上記した範囲内の酸価を与える含有量で不飽和カルボン酸単位を含有するメタクリレート樹脂を、上記した範囲内の中和度になるような使用量のアミン化合物を用いて、中和することにより得られるものであることが好適である。
【0089】
(電着塗料組成物)
本開示の電着塗料組成物は、メタクリレート樹脂の中和物および有機溶媒を含有する溶液に、パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物を添加して、転相乳化させる製造方法により製造することができる。このような製造方法により得られる電着塗料組成物を用いることにより、割れの無い皮膜を一層容易に得ることができる。
【0090】
メタクリレート樹脂の中和物を含有する溶液の有機溶媒としては、メタクリレート樹脂の中和物を溶解させることができる有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の酢酸エステルが挙げられる。
【0091】
転相乳化は、たとえば、溶液を撹拌しながら、溶液に水分散組成物を添加することにより、行うことができる。溶液および水分散組成物の温度は、常温(たとえば10~40℃)であってよい。
【0092】
電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有するものであり、水をさらに含有することが好ましい。
【0093】
電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有するものであり、有機溶媒をさらに含有することが好ましい。有機溶媒としては、メタクリレート樹脂の中和物を含有する溶液の有機溶媒として上述したものが挙げられる。
【0094】
電着塗料組成物の固形分濃度は、電着塗装による皮膜の形成を効率的に進める観点から、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0095】
電着塗料組成物中のパーフルオロ系高分子化合物Xとメタクリレート樹脂の中和物との質量比は、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは20/80以上であり、さらに好ましくは25/75以上であり、より好ましくは80/20以下であり、さらに好ましくは75/25以下である。
【0096】
電着塗料組成物中のアルカリ金属含有量は、好ましくは1質量ppm未満である。本開示の電着塗料組成物は、金属成分を含有する材料を用いることなく調製することができることから、従来の電着塗料組成物に比べて、アルカリ金属含有量を低減することができる。
【0097】
電着塗料組成物中のアルカリ金属含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法により測定することができる。
【0098】
本開示の電着塗料組成物は、塗装性、得られる皮膜の性質向上等を目的として、添加剤を含むものであってもよい。
【0099】
本開示の電着塗料組成物は、アニオン電着塗料組成物として好適に利用できる。
【0100】
(親水基を有する含フッ素化合物)
一実施形態において、親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減された電着塗料組成物を用いることができる。電着塗料組成物中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量を低減することによって、接触角が大きく、摩擦係数が小さい皮膜を得ることができる。この理由は明確ではないが、電着塗料組成物中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減されていると、電着塗料組成物中でのパーフルオロ系高分子化合物Xの分散安定性が適度に低く、したがって、皮膜の形成の際に、パーフルオロ系高分子化合物Xが他の成分よりも皮膜の表面に浮き上がりやすく、結果として、皮膜表面のパーフルオロ系高分子化合物Xの含有割合が高くなるためと推測される。
【0101】
親水基を有する含フッ素化合物には、重合の際に添加する含フッ素界面活性剤およびフルオロモノマーの重合により生成する親水基を有する含フッ素化合物が含まれる。
【0102】
含フッ素化合物が有する親水基としては、酸基などのアニオン性基が好ましく、たとえば、-NH、-POM、-OPOM、-SOM、-OSOM、-COOM(各式において、Mはカチオンを表す)が挙げられる。上記親水基としては、なかでも、-SOMまたは-COOMが好ましく、-COOMがより好ましい。
【0103】
電着塗料組成物中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0104】
電着塗料組成物中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量は、公知な方法で定量できる。例えば、LC/MS分析にて定量することができる。
まず、電着塗料組成物にメタノールを加え、抽出を行ない、得られた抽出液をLC/MS分析する。さらに抽出効率を高めるために、ソックスレー抽出、超音波処理等による処理を行ってもよい。得られた抽出液を適宜窒素パージで濃縮し、濃縮後の抽出液中の含フッ素化合物をLC/MS測定する。
得られたLC/MSスペクトルから、分子量情報を抜出し、候補となる親水基を有する含フッ素化合物の構造式との一致を確認する。
その後、確認された親水基を有する含フッ素化合物の5水準以上の含有量の水溶液を作製し、それぞれの含有量の水溶液のLC/MS分析を行ない、含有量と、その含有量に対するエリア面積と関係をプロットし、検量線を描く。
そして、検量線を用いて、抽出液中の親水基を有する含フッ素化合物のLC/MSクロマトグラムのエリア面積を、親水基を有する含フッ素化合物の含有量に換算することができる。
なお、得られた抽出液を窒素パージすることで濃縮できることから、測定方法の定量下限を下げることが出来る。
【0105】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、含フッ素界面活性剤を少なくとも含有する。含フッ素界面活性剤は、フルオロモノマーの重合の際に通常用いられる含フッ素界面活性剤であってよい。含フッ素界面活性剤として、典型的な化合物は、分子量1000g/mol以下、好ましくは800g/mol以下の含フッ素界面活性剤である。
【0106】
含フッ素界面活性剤は、少なくとも1個のフッ素原子を含有する界面活性剤であれば特に限定されず、従来公知の含フッ素界面活性剤を用いることができる。
【0107】
含フッ素界面活性剤としては、アニオン性含フッ素界面活性剤等が挙げられる。アニオン性含フッ素界面活性剤は、たとえば、アニオン性基を除く部分の総炭素数が20以下のフッ素原子を含む界面活性剤であってよい。
【0108】
上記含フッ素界面活性剤としてはまた、アニオン性部分の分子量が1000以下のフッ素を含む界面活性剤であってよい。
なお、上記「アニオン性部分」は、上記含フッ素界面活性剤のカチオンを除く部分を意味する。たとえば、後述する式(I)で表されるF(CFn1COOMの場合には、「F(CFn1COO」の部分である。
【0109】
上記含フッ素界面活性剤としてはまた、LogPOWが3.5以下の含フッ素界面活性剤が挙げられる。上記LogPOWは、1-オクタノールと水との分配係数であり、LogP[式中、Pは、含フッ素界面活性剤を含有するオクタノール/水(1:1)混合液が相分離した際のオクタノール中の含フッ素界面活性剤濃度/水中の含フッ素界面活性剤濃度比を表す]で表されるものである。
上記LogPOWは、カラム;TOSOH ODS-120Tカラム(φ4.6mm×250mm、東ソー(株)製)、溶離液;アセトニトリル/0.6質量%HClO水=1/1(vol/vol%)、流速;1.0ml/分、サンプル量;300μL、カラム温度;40℃、検出光;UV210nmの条件で、既知のオクタノール/水分配係数を有する標準物質(ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸及びデカン酸)についてHPLCを行い、各溶出時間と既知のオクタノール/水分配係数との検量線を作成し、この検量線に基づき、試料液におけるHPLCの溶出時間から算出する。
【0110】
上記含フッ素界面活性剤として具体的には、米国特許出願公開第2007/0015864号明細書、米国特許出願公開第2007/0015865号明細書、米国特許出願公開第2007/0015866号明細書、米国特許出願公開第2007/0276103号明細書、米国特許出願公開第2007/0117914号明細書、米国特許出願公開第2007/142541号明細書、米国特許出願公開第2008/0015319号明細書、米国特許第3250808号明細書、米国特許第3271341号明細書、特開2003-119204号公報、国際公開第2005/042593号、国際公開第2008/060461号、国際公開第2007/046377号、特開2007-119526号公報、国際公開第2007/046482号、国際公開第2007/046345号、米国特許出願公開第2014/0228531号、国際公開第2013/189824号、国際公開第2013/189826号に記載されたもの等が挙げられる。
【0111】
上記アニオン性含フッ素界面活性剤としては、下記一般式(N):
n0-Rfn0-Y (N
(式中、Xn0は、H、Cl又は及びFである。Rfn0は、炭素数3~20で、直鎖状、分枝鎖状または環状で、一部または全てのHがFにより置換されたアルキレン基であり、該アルキレン基は1つ以上のエーテル結合を含んでもよく、一部のHがClにより置換されていてもよい。Yはアニオン性基である。)で表される化合物が挙げられる。
のアニオン性基は、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-COOM、又は、-SOMであってよい。
Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。
上記金属原子としては、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)等が挙げられ、たとえば、Na、K又はLiである。
としては、H又はC1-10の有機基であってよく、H又はC1-4の有機基であってよく、H又はC1-4のアルキル基であってよい。
Mは、H、金属原子又はNR であってよく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR であってよく、H、Na、K、Li又はNHであってよい。
上記Rfn0は、Hの50%以上がフッ素に置換されているものであってよい。
【0112】
上記一般式(N)で表される化合物としてより具体的には、下記一般式(I)で表されるパーフルオロカルボン酸(I)、下記一般式(II)で表されるω-Hパーフルオロカルボン酸(II)、下記一般式(III)で表されるパーフルオロエーテルカルボン酸(III)、下記一般式(IV)で表されるパーフルオロアルキルアルキレンカルボン酸(IV)、下記一般式(V)で表されるパーフルオロアルコキシフルオロカルボン酸(V)、下記一般式(VI)で表されるパーフルオロアルキルスルホン酸(VI)、下記一般式(VII)で表されるω-Hパーフルオロスルホン酸(VII)、下記一般式(VIII)で表されるパーフルオロアルキルアルキレンスルホン酸(VIII)、下記一般式(IX)で表されるアルキルアルキレンカルボン酸(IX)、下記一般式(X)で表されるフルオロカルボン酸(X)、下記一般式(XI)で表されるアルコキシフルオロスルホン酸(XI)、下記一般式(XII)で表される化合物(XII)、下記一般式(XIII)で表される化合物(XIII)などが挙げられる。
【0113】
上記パーフルオロカルボン酸(I)は、下記一般式(I)
F(CFn1COOM (I)
(式中、n1は、3~13の整数であり、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)で表されるものである。
【0114】
上記ω-Hパーフルオロカルボン酸(II)は、下記一般式(II)
H(CFn2COOM (II)
(式中、n2は、4~15の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0115】
上記パーフルオロエーテルカルボン酸(III)は、下記一般式(III)
Rf-O-(CF(CF)CFO)n3CF(CF)COOM (III)
(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、n3は、0~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0116】
上記パーフルオロアルキルアルキレンカルボン酸(IV)は、下記一般式(IV)
Rf(CHn4RfCOOM (IV)
(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rfは、直鎖状又は分岐状の炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基、n4は、1~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0117】
上記アルコキシフルオロカルボン酸(V)は、下記一般式(V)
Rf-O-CYCF-COOM (V)
(式中、Rfは、炭素数1~12のエーテル結合及び/又は塩素原子を含み得る直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、Y及びYは、同一若しくは異なって、H又はFであり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0118】
上記パーフルオロアルキルスルホン酸(VI)は、下記一般式(VI)
F(CFn5SOM (VI)
(式中、n5は、3~14の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0119】
上記ω-Hパーフルオロスルホン酸(VII)は、下記一般式(VII)
H(CFn6SOM (VII)
(式中、n6は、4~14の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0120】
上記パーフルオロアルキルアルキレンスルホン酸(VIII)は、下記一般式(VIII)
Rf(CHn7SOM (VIII)
(式中、Rfは、炭素数1~13のパーフルオロアルキル基であり、n7は、1~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0121】
上記アルキルアルキレンカルボン酸(IX)は、下記一般式(IX)
Rf(CHn8COOM (IX)
(式中、Rfは、炭素数1~13のエーテル結合を含み得る直鎖状または分岐鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、n8は、1~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0122】
上記フルオロカルボン酸(X)は、下記一般式(X)
Rf-O-Rf-O-CF-COOM (X)
(式中、Rfは、炭素数1~6のエーテル結合及び/又は塩素原子を含み得る直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、Rfは、炭素数1~6の直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0123】
上記アルコキシフルオロスルホン酸(XI)は、下記一般式(XI)
Rf-O-CYCF-SOM (XI)
(式中、Rfは、炭素数1~12のエーテル結合を含み得る直鎖状または分枝鎖状であって、塩素を含んでもよい、部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、Y及びYは、同一若しくは異なって、H又はFであり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。
【0124】
上記化合物(XII)は、下記一般式(XII):
【化1】
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なってもよく、H、F及び炭素数1~6のエーテル結合を含み得る直鎖状または分岐鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基であり、Rf10は、炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、Lは連結基であり、Yはアニオン性基である。)で表されるものである。
は、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-SOM、又は、COOMであってよい(式中、Mは上記定義したものである。)。
Lとしては、たとえば、単結合、炭素数1~10のエーテル結合を含みうる部分又は完全フッ素化されたアルキレン基が挙げられる。
【0125】
上記化合物(XIII)は、下記一般式(XIII):
Rf11-O-(CFCF(CF)O)n9(CFO)n10CFCOOM (XIII)
(式中、Rf11は、塩素を含む炭素数1~5のフルオロアルキル基であり、n9は、0~3の整数であり、n10は、0~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるものである。化合物(XIII)としては、CFClO(CFCF(CF)O)n9(CFO)n10CFCOONH(平均分子量750の混合物、式中、n9およびn10は上記定義したものである。)が挙げられる。
【0126】
上述したように上記アニオン性含フッ素界面活性剤としては、カルボン酸系界面活性剤、スルホン酸系界面活性剤等が挙げられる。
【0127】
含フッ素界面活性剤は、1種の含フッ素界面活性剤であってもよいし、2種以上の含フッ素界面活性剤を含有する混合物であってもよい。
【0128】
含フッ素界面活性剤は、好ましくはメチレン基(-CH-)、より好ましくはC-H結合を有しない。
【0129】
含フッ素界面活性剤の疎水基が有するH原子の数は、好ましくは0または1であり、より好ましくは0である。疎水基および親水基を有する含フッ素界面活性剤の疎水基の炭素数は、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~20であり、さらに好ましくは6~12である。疎水基は、通常、含フッ素界面活性剤の分子構造のうち、上述した「アニオン性基を除く部分」を構成する。親水基としては、Yのアニオン性基として例示した基が挙げられる。含フッ素界面活性剤は、疎水基に結合する炭素原子がすべてフッ素原子により置換された飽和フッ素化界面活性剤であってよい。
【0130】
含フッ素界面活性剤としては、上述したアニオン性含フッ素界面活性剤のなかでも、一般式(N)で表される化合物、一般式(N)で表される化合物、一般式(N):
Rfn4-O-(CYn1F)CF-Y (N
(式中、Rfn4は、炭素数1~12のエーテル結合を含み得る直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、Yn1は、H又はFであり、pは0又は1であり、Yは、上記定義したものである。)で表される化合物、及び、一般式(N):
【化2】
(式中、Xn2、Xn3及びXn4は、同一若しくは異なってもよく、H、F、又は、炭素数1~6のエーテル結合を含んでよい直鎖状または分岐鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、ただし、Xn3及びXn4の両方がHになることはない。Rfn5は、炭素数1~3のエーテル結合を含み得る直鎖状または分岐鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキレン基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、Lは連結基であり、Yは、上記定義したものである。但し、Xn2、Xn3、Xn4及びRfn5の合計炭素数は18以下である。)で表される化合物が挙げられる。
【0131】
含フッ素界面活性剤としては、上述したアニオン性含フッ素界面活性剤のなかでも、一般式(I)で表されるパーフルオロカルボン酸(I)、一般式(II)で表されるω-Hパーフルオロカルボン酸(II)、一般式(III)で表されるパーフルオロエーテルカルボン酸(III)、一般式(IV)で表されるパーフルオロアルキルアルキレンカルボン酸(IV)、一般式(V)で表されるパーフルオロアルコキシフルオロカルボン酸(V)、一般式(VI)で表されるパーフルオロアルキルスルホン酸(VI)、一般式(VII)で表されるω-Hパーフルオロスルホン酸(VII)、一般式(VIII)で表されるパーフルオロアルキルアルキレンスルホン酸(VIII)、一般式(X):Rf-O-Rf-O-CF-COOM
(式中、Rfは、炭素数1~6のエーテル結合及び/又は塩素原子を含み得る直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、Rfは、炭素数1~6の直鎖状または分枝鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、Mは、上記定義したものである。)で表されるフルオロカルボン酸(X)、一般式(XI):Rf-O-CYFCF-SO
(式中、Rfは、炭素数1~12のエーテル結合を含み得る直鎖状または分枝鎖状であって、塩素を含んでもよい、部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、Yは、H又はFであり、Mは、上記定義したものである。)で表されるアルコキシフルオロスルホン酸(XI)、一般式(XII):
【化3】
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なってもよく、H、F及び炭素数1~6のエーテル結合を含み得る直鎖状または分岐鎖状の部分または完全フッ素化されたアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、ただし、X及びXの両方がHになることはなく、Rf10は、炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、Lは連結基であり、Yはアニオン性基である。)
で表される化合物(XII)、および、一般式(XIII):Rf11-O-(CFCF(CF)O)n9(CFO)n10CFCOOM
(式中、Rf11は、塩素を含む炭素数1~5のフルオロアルキル基(ただし、-CH-を有するものを除く)であり、n9は、0~3の整数であり、n10は、0~3の整数であり、Mは、上記定義したものである。)で表される化合物(XIII)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0132】
電着塗料組成物が、親水基を有する含フッ素化合物として、含フッ素界面活性剤を少なくとも含有する場合、電着塗料組成物中の含フッ素界面活性剤の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0133】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、パーフルオロエーテルカルボン酸を含有する。パーフルオロエーテルカルボン酸としては、下記の一般式(III)で表される化合物(III)が好ましい。
一般式(III):Rf-O-(CF(CF)CFO)n3CF(CF)COOM
(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、n3は、0~3の整数であり、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)
【0134】
電着塗料組成物が、親水基を有する含フッ素化合物として、パーフルオロエーテルカルボン酸を少なくとも含有する場合、電着塗料組成物中のパーフルオロエーテルカルボン酸の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0135】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H1)で表される化合物を含有する。
一般式(H1):[X-Rf-Ai+
(式中、Xは、H、Cl、Br、FまたはI、Rfは、直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、または、少なくとも1個の酸素原子により中断された直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、Aは酸基、Mi+は価数iを有するカチオン、iは1~3の整数を表す)
【0136】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H2)で表される化合物を含有する。
一般式(H2):[Cn-12n-1COO]M
(式中、nは4~14の整数、Mはカチオンを表す。)
【0137】
一般式(H2)で表される化合物(パーフルオロアルカン酸)は、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどを変性モノマーとして用いた場合に、重合中に形成されることが知られている(国際公開第2019/161153号参照)。
【0138】
電着塗料組成物が、親水基を有する含フッ素化合物として、一般式(H2)で表される化合物を少なくとも含有する場合、電着塗料組成物中の一般式(H2)で表される化合物の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0139】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H3)で表される化合物を含有する。
一般式(H3):[R-O-L-CO ]M
(式中、Rは、直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、または、少なくとも1個の酸素原子により中断された直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、Lは、直鎖若しくは分枝鎖の非フッ素化、部分フッ素化または完全フッ素化アルキレン基、Mはカチオンを表す。)
【0140】
電着塗料組成物が、親水基を有する含フッ素化合物として、一般式(H3)で表される化合物を少なくとも含有する場合、電着塗料組成物中の一般式(H3)で表される化合物の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0141】
電着塗料組成物の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、一般式(H4)で表される化合物を含有する。
一般式(H4):H-Rfn0-Y
(式中、Rfn0は、炭素数3~20で、直鎖状、分枝鎖状または環状で、一部または全てのHがFにより置換されたアルキレン基であり、該アルキレン基は1つ以上のエーテル結合を含んでもよく、一部のHがClにより置換されていてもよい。Yはアニオン性基である。)
【0142】
一般式(H4)で表される化合物としては、以下のいずれかの一般式で表される化合物が挙げられる。
一般式:[H-(CFCO ]M
(式中、mは3~19の整数、Mはカチオンを表す。)
一般式:[H-(CFm2-(CF(CF))m3-CO ]M
(式中、m2は1~17の整数、m3は1~9の整数、Mはカチオンを表す。ただし、m2およびm3は3≦(m2+2×m3)≦19を満たすように選択され、各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)
【0143】
電着塗料組成物が、親水基を有する含フッ素化合物として、一般式(H4)で表される化合物を少なくとも含有する場合、電着塗料組成物中の一般式(H4)で表される化合物の含有量は、パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは50質量ppb以下であり、より好ましくは45質量ppb以下であり、好ましくは0質量ppb超である。
【0144】
親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減された電着塗料組成物は、パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物であって、親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減された水分散組成物を製造し、それを電着塗料組成物の原料として用いることによって調製することができる。
【0145】
水分散組成物中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量は、たとえば、含フッ素界面活性剤、重合開始剤および水性媒体の存在下に、フルオロモノマーを重合することにより、パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水性分散液を作製するとともに、水性分散液に対して、比較的多量のラジカル発生剤を添加し、熱処理をすることにより調整することができる。
【0146】
親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減された水分散組成物は、たとえば、
反応器内で、含フッ素界面活性剤、重合開始剤および水性媒体の存在下に、フルオロモノマーを重合することにより、パーフルオロ系高分子化合物Xを含有する水性分散液を作製し、
前記水性分散液を作製した後、前記反応器内に残留する前記フルオロモノマーを前記反応器内から除去するか、および、前記反応器内の前記水性分散液を回収して前記反応器とは異なる容器に収容するかの少なくともいずれか一方の操作を実施し、
前記水性分散液に、重合に用いた含フッ素界面活性剤のモル量に対して、5モル倍以上の量に相当するラジカル発生剤を添加し、
前記ラジカル発生剤を含有する前記水性分散液に対して熱処理をする
製造方法により、製造することができる。
【0147】
(フルオロモノマーの重合)
上記の製造方法においては、まず、反応器内で、含フッ素界面活性剤、重合開始剤および水性媒体の存在下に、フルオロモノマーを重合することにより、パーフルオロ系高分子化合物Xを含有する水性分散液を調製する。
【0148】
フルオロモノマーの重合は、反応器に、フルオロモノマー、含フッ素界面活性剤、重合開始剤、水性媒体および必要に応じて他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行うことができる。重合反応開始後に、目的に応じて、フルオロモノマー、重合開始剤、含フッ素界面活性剤、連鎖移動剤などを追加添加してもよい。フルオロモノマーの重合方法は、特に限定されないが、乳化重合法が好ましい。
【0149】
(含フッ素界面活性剤)
フルオロモノマーの重合に用いる含フッ素界面活性剤としては、本開示の電着塗料組成物が含有し得る含フッ素界面活性剤が挙げられ、同様のものが好ましく用いられる。
【0150】
含フッ素界面活性剤の添加量としては、水性媒体に対して、好ましくは10質量ppm~10質量%であり、より好ましくは100質量ppm以上であり、さらに好ましくは300質量ppm以上であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0151】
(重合開始剤)
フルオロモノマーの重合に用いる重合開始剤としては、重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とするパーフルオロ系高分子化合物Xの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0152】
上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0153】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類、ジt-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類などが代表的なものとしてあげられる。
【0154】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ素酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。サルファイト類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0155】
(水性媒体)
フルオロモノマーの重合に用いる水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、たとえば、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0156】
水性媒体としては、フルオロモノマーの重合を円滑に進めることができ、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率の低下も抑制できることから、水のみを含有する水性媒体、または、水およびフッ素非含有有機溶媒のみを含有する水性媒体が好ましく、水のみを含有する水性媒体がより好ましい。
【0157】
水性媒体中の水の含有量は、フルオロモノマーの重合を円滑に進めることができ、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率の低下も抑制できることから、水性媒体の質量に対して、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99.0%以上であり、尚さらに好ましくは99.5%以上であり、特に好ましくは99.9%以上であり、100%であってよい。
【0158】
(連鎖移動剤)
上記の製造方法において、さらに、連鎖移動剤の存在下に、フルオロモノマーを重合することができる。連鎖移動剤を用いることによって、重合速度、分子量を調整することができる。連鎖移動剤としては、たとえばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチルなどのエステル類のほか、イソペンタン、メタン、エタン、プロパン、メタノール、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素などの各種ハロゲン化炭化水素、シクロヘキサンなどがあげられる。
【0159】
連鎖移動剤の使用量は、通常、供給されるフルオロモノマー全量に対して、1~50,000質量ppmであり、好ましくは1~20,000質量ppmである。連鎖移動剤の使用量は、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率をできる限り低下させないように、フルオロモノマーの重合中に全て消費し尽くされ、パーフルオロ系高分子化合物Xを含有する水性分散液に残留しない量であることが好ましい。したがって、連鎖移動剤の使用量は、供給されるフルオロモノマー全量に対して、より好ましくは10,000質量ppm以下であり、さらに好ましくは5,000質量ppm以下であり、尚さらに好ましくは1,000質量ppm以下であり、特に好ましくは500質量ppm以下であり、最も好ましは200質量ppm以下である。
【0160】
上記連鎖移動剤は、重合開始前に一括して反応容器中に添加してもよいし、重合開始後に一括して添加してもよいし、重合中に複数回に分割して添加してもよいし、また、重合中に連続的に添加してもよい。
【0161】
(その他の添加剤)
フルオロモノマーの重合において、緩衝剤、pH調整剤、安定化助剤、分散安定剤などの添加剤を用いることができる。また、フルオロモノマーの重合において、ラジカル捕捉剤、分解剤を添加し、重合速度、分子量の調整を行うこともできる。また、フルオロモノマーの重合において、フッ素非含有アニオン性界面活性剤、フッ素非含有非イオン性界面活性剤、フッ素非含有カチオン性界面活性剤などを用いてもよい。
【0162】
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系オイル、フッ素系溶剤、シリコーンオイルなどが好ましい。安定化助剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定化助剤としては、パラフィンワックスがより好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で液体でも、半固体でも、固体であってもよいが、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、通常40~65℃が好ましく、50~65℃がより好ましい。
【0163】
安定化助剤の使用量は、使用する水性媒体の質量基準で0.1~12質量%が好ましく、0.1~8質量%がより好ましい。安定化助剤は十分に疎水的で、重合後に水性分散液と完全に分離されて、コンタミ成分とならないことが望ましい。
【0164】
(重合条件)
フルオロモノマーの重合は、通常の圧力および温度で行うことができる。通常、重合温度は、5~120℃であり、重合圧力は、0.05~10MPaGである。重合温度、重合圧力は、モノマーの種類、目的とするパーフルオロ系高分子化合物Xの分子量、反応速度などによって適宜決定される。
【0165】
(重合により得られる水性分散液)
フルオロモノマーの重合により、パーフルオロ系高分子化合物Xを含有する水性分散液が得られる。重合上りの水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xの含有量は、通常、水性分散液に対して、8~50質量%である。
【0166】
フルオロモノマーを重合することにより得られる水性分散液には、パーフルオロ系高分子化合物X以外に、親水基を有する含フッ素化合物として、フルオロモノマーを重合する際に用いた含フッ素界面活性剤が含まれることが通常である。また、フルオロモノマーを重合することにより得られる水性分散液には、パーフルオロ系高分子化合物X以外に、フルオロモノマーの重合により生成する親水基を有する含フッ素化合物が含まれることがある。
【0167】
重合により得られる水性分散液中の親水基を有する含フッ素化合物として、典型的な化合物は、分子量1000g/mol以下の親水基を有する含フッ素化合物である。上記の製造方法によれば、最終的に、分子量1000g/mol以下の親水基を有する含フッ素化合物の含有量が低減された水分散組成物を製造することができる。
【0168】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、重合の際に添加した含フッ素界面活性剤を含有する。重合の際に添加した含フッ素界面活性剤については、フルオロモノマーの重合に用いる含フッ素界面活性剤として上述したとおりである。
【0169】
重合により得られる水性分散液中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量は、水性分散液に対して、200質量ppb以上であってよく、300質量ppb以上であってよく、400質量ppb以上であってよく、10質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよい。
【0170】
重合により得られる水性分散液中の、フルオロモノマーを重合する際に用いた含フッ素界面活性剤の含有量は、水性分散液に対して、200質量ppb以上であってよく、300質量ppb以上であってよく、400質量ppb以上であってよく、10質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよい。
【0171】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、パーフルオロエーテルカルボン酸を含有する。パーフルオロエーテルカルボン酸としては、下記の一般式(III)で表される化合物(III)が好ましい。
一般式(III):Rf-O-(CF(CF)CFO)n3CF(CF)COOM
(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、n3は、0~3の整数であり、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)
【0172】
重合により得られる水性分散液が、親水基を有する含フッ素化合物として、パーフルオロエーテルカルボン酸を少なくとも含有する場合、重合により得られる水性分散液中のパーフルオロエーテルカルボン酸の含有量は、水性分散液に対して、200質量ppb以上であってよく、300質量ppb以上であってよく、400質量ppb以上であってよく、10質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよい。
【0173】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H1)で表される化合物を含有する。
一般式(H1):[X-Rf-Ai+
(式中、Xは、H、Cl、Br、FまたはI、Rfは、直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、または、少なくとも1個の酸素原子により中断された直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、Aは酸基、Mi+は価数iを有するカチオン、iは1~3の整数を表す)
【0174】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H2)で表される化合物を含有する。
一般式(H2):[Cn-12n-1COO]M
(式中、nは4~14の整数、Mはカチオンを表す。)
【0175】
一般式(2)で表される化合物(パーフルオロアルカン酸)は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などをフルオロモノマーとして用いた場合に、重合中に形成されることが知られている(国際公開第2019/161153号参照)。
【0176】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、下記の一般式(H3)で表される化合物を含有する。
一般式(H3):[R-O-L-CO ]M
(式中、Rは、直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、または、少なくとも1個の酸素原子により中断された直鎖若しくは分枝鎖の部分フッ素化若しくは完全フッ素化脂肪族基、Lは、直鎖若しくは分枝鎖の非フッ素化、部分フッ素化または完全フッ素化アルキレン基、Mはカチオンを表す。)
【0177】
重合により得られる水性分散液の一実施形態においては、親水基を有する含フッ素化合物として、一般式(H4)で表される化合物を含有する。
一般式(H4):H-Rfn0-Y
(式中、Rfn0は、炭素数3~20で、直鎖状、分枝鎖状または環状で、一部または全てのHがFにより置換されたアルキレン基であり、該アルキレン基は1つ以上のエーテル結合を含んでもよく、一部のHがClにより置換されていてもよい。Yはアニオン性基である。)
【0178】
一般式(H4)で表される化合物としては、以下のいずれかの一般式で表される化合物が挙げられる。
一般式:[H-(CFCO ]M
(式中、mは3~19の整数、Mはカチオンを表す。)
一般式:[H-(CFm2-(CF(CF))m3-CO ]M
(式中、m2は1~17の整数、m3は1~9の整数、Mはカチオンを表す。ただし、m2およびm3は3≦(m2+2×m3)≦19を満たすように選択され、各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)
【0179】
(フルオロモノマーの除去または水性分散液の回収)
上記の製造方法においては、重合により水性分散液を作製した後、水性分散液に対してラジカル発生剤を添加する前に、(a)反応器内に残留するフルオロモノマーを反応器内から除去するか、および、(b)反応器内の水性分散液を回収して反応器とは異なる容器に収容するかの少なくとも一方の操作を実施することができる。特に、反応器内のフルオロモノマーを除去する方法を用いると、重合で用いた同一の反応器内でその後の工程を行うことができ、水分散組成物の生産性が向上することから好ましい。
【0180】
水性分散液を調製した後、反応器の内容物の攪拌を停止してから、フルオロモノマーの除去または水性分散液の回収を行うと、その後の操作が容易になったり、フルオロモノマーの重合を円滑に停止できたりすることから好ましい。
【0181】
反応器内からフルオロモノマーを除去する方法は特に限定されない。水性分散液を調製した後、所望により反応器の内容物の攪拌を停止し、反応器内の圧力が常圧になるまで排気することにより、フルオロモノマーを反応器から除去してもよいし、反応器内の圧力を0.0MPaG未満まで低下させることにより、フルオロモノマーを反応器から除去してもよいし、反応器内に不活性ガスを供給することにより、反応器内のフルオロモノマーを窒素ガスなどの不活性ガスにより置換してもよい。また、反応器内のフルオロモノマーの全量を反応させて、パーフルオロ系高分子化合物Xに変換することにより、結果としてフルオロモノマーを反応器から除去してもよい。反応器内に残留するフルオロモノマーの反応器内からの除去は、フルオロモノマーの重合反応を十分に停止させる程度に行うことができれば、僅かな量のフルオロモノマーが反応器内に残留してもよい。除去したフルオロモノマーは、公知の手段により回収することができる。回収したフルオロモノマーを、フルオロポリマーを製造するために再利用してもよい。
【0182】
反応器内からフルオロモノマーを除去する方法として、水性分散液を調製した後、所望により反応器の内容物の攪拌を停止し、反応器内の圧力を0.0MPaG未満まで低下させ、次に反応器内に不活性ガスを供給する方法も好適である。反応器内の減圧と不活性ガスの供給とを複数回繰り返してもよい。
【0183】
常温を超える温度でフルオロモノマーの重合を行った場合は、反応器内からフルオロモノマーを除去する前に、または、反応器内からフルオロモノマーを除去した後に、反応器を冷却してもよい。排気や窒素置換などの手段によりフルオロモノマーを反応器内から除去する場合、特に液状の未反応のフルオロモノマーが反応器内に残留する可能性があるが、反応器を冷却することにより、未反応のフルオロモノマーの反応の進行を十分に抑制できる。
【0184】
反応器内の水性分散液を回収して、重合に用いた反応器とは異なる容器に収容する方法は特に限定されない。たとえば、水性分散液を調製した後、所望により反応器の内容物の攪拌を停止し、反応器を開放して、反応器内の水性分散液を他の容器に注いでもよいし、水性分散液を調製した後、所望により反応器の内容物の攪拌を停止し、反応器と他の容器とを接続する配管を介して水性分散液を反応器から他の容器に供給してもよい。
【0185】
フルオロモノマーの重合反応を停止させるために、重合停止剤(ラジカル捕捉剤)を添加してもよい。
【0186】
重合停止剤としては、重合系内の遊離基に付加もしくは連鎖移動した後に再開始能力を有しない化合物が用いられる。具体的には、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に連鎖移動反応を起こし、その後単量体と反応しない安定ラジカルを生成するか、あるいは、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に付加反応を起こして安定ラジカルを生成するような機能を有する化合物が用いられる。一般的に連鎖移動剤と呼ばれるものは、その活性は連鎖移動定数と再開始効率で特徴づけられるが連鎖移動剤の中でも再開始効率がほとんど0%のものが重合停止剤と称される。重合停止剤としては、たとえば、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、キノン化合物、テルペン、チオシアン酸塩、および、塩化第二銅(CuCl)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。芳香族ヒドロキシ化合物としては、非置換フェノール、多価フェノール、サリチル酸、m-またはp-のサリチル酸、没食子酸、ナフトール等が挙げられる。上記非置換フェノールとしては、о-、m-またはp-のニトロフェノール、о-、m-またはp-のアミノフェノール、p-ニトロソフェノール等が挙げられる。多価フェノールとしては、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシン、ナフトレゾルシノール等が挙げられる。芳香族アミン類としては、о-、m-またはp-のフェニレンジアミン、ベンジジン等が挙げられる。上記キノン化合物としては、ハイドロキノン、о-、m-またはp-のベンゾキノン、1,4-ナフトキノン、アリザリン等が挙げられる。チオシアン酸塩としては、チオシアン酸アンモン(NHSCN)、チオシアン酸カリ(KSCN)、チオシアン酸ソーダ(NaSCN)等が挙げられる。上記重合停止剤としては、なかでも、キノン化合物が好ましく、ハイドロキノンがより好ましい。
【0187】
(ラジカル発生剤)
上記の製造方法においては、(a)および(b)の少なくとも一方の操作を実施した後、水性分散液に対して熱処理をする前に、水性分散液に対して、重合に用いた含フッ素界面活性剤のモル量に対して、5モル倍以上の量に相当するラジカル発生剤を添加する。比較的多量のラジカル発生剤を添加することによって、親水基を有する含フッ素化合物の含有量を十分に低減することができる。
【0188】
ラジカル発生剤を添加する水性分散液は、反応器内に残る水性分散液であってもよいし、反応器から回収して別の容器に収容した水性分散液であってもよい。
【0189】
ラジカル発生剤としては、熱処理の際の温度で分解して、ラジカルを発生させることができる化合物であれば特に限定されない。ラジカル発生剤としては、水性分散液中にラジカルを容易に拡散させることができることから、水溶性ラジカル発生剤が好ましい。
【0190】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、酸化剤と還元剤との組み合わせなどが挙げられ、無機過酸化物、有機過酸化物および酸化剤と還元剤との組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0191】
無機過酸化物としては、水溶性無機過酸化物が好ましい。無機過酸化物としては、過酸化水素、過塩素酸塩、過ホウ酸塩、過リン酸塩、過炭酸塩、過硫酸塩などが挙げられ、過硫酸塩が好ましい。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、過硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0192】
有機過酸化物としては、水溶性有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシドなどのパーオキシジカーボネートが挙げられる。
【0193】
ラジカル発生剤として、酸化剤と還元剤との組み合わせて用いることができる。酸化剤と還元剤とを組み合わせて用いることにより、酸化剤と還元剤とのレドックス反応によってラジカル発生剤からラジカルを発生させることができるので、熱処理の際の温度を低下させることができる。
【0194】
酸化剤としては、過硫酸塩、有機過酸化物、過マンガン酸カリウム、三酢酸マンガン、セリウム硝酸アンモニウムなどが挙げられる。還元剤としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、シュウ酸等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。酸化剤の分解速度を上げるため、銅塩、鉄塩を添加することも好ましい。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
【0195】
酸化剤と還元剤との組み合わせとしては、たとえば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過硫酸アンモニウム/重亜硫酸塩/硫酸鉄、三酢酸マンガン/シュウ酸、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸、臭素酸塩/重亜硫酸塩などが挙げられ、過マンガン酸カリウム/シュウ酸が好ましい。酸化剤と還元剤との組み合わせを用いる場合は、酸化剤または還元剤のいずれかをあらかじめ水性分散液に添加し、ついでもう一方を連続的または断続的に加えてもよい。
【0196】
ラジカル発生剤の添加量は、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率を一層向上させることができることから、重合に用いた含フッ素界面活性剤のモル量に対して、好ましくは5モル倍以上であり、より好ましくは10モル倍以上であり、好ましくは1000モル倍以下であり、より好ましくは500モル倍以下であり、さらに好ましくは100モル倍以下である。
【0197】
ラジカル発生剤の添加方法は、特に限定されない。ラジカル発生剤をそのまま水性分散液に添加してもよいし、ラジカル発生剤を含有する溶液を調製し、溶液を水性分散液に対して添加してもよい。また、水性分散液を攪拌しながらラジカル発生剤を添加してもよいし、ラジカル発生剤を添加した後、水性分散液を攪拌してもよい。
【0198】
ラジカル発生剤を添加する水性分散液の温度は、特に限定されず、フルオロモノマーを重合した後の水性分散液の温度であってもよいし、フルオロモノマーを重合した後の水性分散液を冷却することにより到達した温度であってもよいし、熱処理の温度であってもよい。すなわち、ラジカル発生剤を水性分散液に対して添加した後、熱処理のために水性分散液を加熱してもよいし、熱処理のための温度まで水性分散液を加熱した後、ラジカル発生剤を水性分散液に対して添加してもよい。
【0199】
(熱処理)
上記の製造方法においては、ラジカル発生剤を添加した水性分散液(ラジカル発生剤を含有する水性分散液)に対して、熱処理をする。比較的多量のラジカル発生剤を含有する水性分散液に対して熱処理をすることによって、水性分散液中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量を驚くほど低減することができる。
【0200】
熱処理をする前に、水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xの含有量を調整してもよい。パーフルオロ系高分子化合物Xの含有量の調整は、濃縮、希釈などの公知の方法により行うことができる。
【0201】
熱処理に供する水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xの含有量は、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率を損なうことなく、高い生産性でパーフルオロ系高分子化合物Xを含有する水性分散液を製造できることから、水性分散液の質量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。パーフルオロ系高分子化合物Xの含有量の上限は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0202】
熱処理に供する水性分散液中の、重合の際に添加した含フッ素界面活性剤の含有量は、水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xの質量に対して、好ましくは500質量ppm以上であり、より好ましくは1000質量ppm以上であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0203】
熱処理に供する水性分散液中の、フルオロモノマーの重合により生成する親水基を有する含フッ素化合物の含有量は、水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xの質量に対して、好ましくは500質量ppb以上であり、さらに好ましくは1000質量ppb以上であり、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下である。
【0204】
熱処理に供する水性分散液中の親水基を有する含フッ素化合物の含有量(重合の際に添加した含フッ素界面活性剤の含有量とフルオロモノマーの重合により生成する親水基を有する含フッ素化合物の含有量との合計量)は、水性分散液中のパーフルオロ系高分子化合物Xに対して、好ましくは500質量ppm以上であり、より好ましくは1000質量ppm以上であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0205】
熱処理の温度は、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率を一層向上させることができることから、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは45℃以上であり、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは90℃以下である。ラジカル発生剤を添加した水性分散液に対して熱処理をする場合、熱処理の温度は、ラジカル発生剤が分解してラジカルが発生する温度(分解温度)以上が好ましい。
【0206】
水性分散液の熱処理において、水性分散液を所望の温度以上に維持できるのであれば、必ずしも水性分散液を加熱する必要はない。たとえば、フルオロモノマーを重合する温度が十分に高く、得られる水性分散液の温度も十分に高い場合には、得られる水性分散液が冷却される前に、熱処理を開始することができる。しかしながら、熱処理の温度の制御が容易になることから、反応器内からのフルオロモノマーの除去または反応器内の水性分散液の回収の前後で水性分散液を冷却し、該水性分散液を上記の温度範囲にまで加熱し、一定の期間その温度を維持することが好ましい。熱処理に供する水性分散液の温度は、たとえば、30℃以下であってよい。
【0207】
水性分散液を加熱しながら熱処理を行う場合の加熱手段は特に限定されない。たとえば、水性分散液を収容した容器を恒温槽に設置して加熱してもよいし、ヒータを備える容器に水性分散液を収容し、ヒータにより水性分散液を加熱してもよい。
【0208】
熱処理の圧力は、特に限定されず、常圧であってよい。たとえば、熱処理の温度が比較的高く、水性分散液の沸騰を抑制する必要がある場合には、熱処理の圧力は、常圧を超える圧力であってもよい。
【0209】
熱処理の時間は、親水基を有する含フッ素化合物の除去効率を一層向上させることができることから、好ましくは15分以上であり、より好ましくは30分以上であり、さらに好ましくは60分以上であり、好ましくは1200分以下であり、より好ましくは900分以下であり、さらに好ましくは600分以下である。
【0210】
水性分散液を攪拌しながら熱処理を行ってもよい。
【0211】
(皮膜および被覆物品)
本開示の電着塗料組成物を用いて、皮膜を形成することができる。本開示の電着塗料組成物から形成される皮膜は、割れが無く、表面粗度が低く、比誘電率も低い。
【0212】
電着塗料組成物から形成される皮膜は、たとえば、基材上に形成することができる。基材と、本開示の電着塗料組成物から形成される皮膜とを備える被覆物品においては、皮膜に割れが無く、皮膜の表面粗度が低く、皮膜の比誘電率も低く、さらには、基材と皮膜とが強固に接着している。
【0213】
基材を形成する材料としては、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属などが挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。基材は、金属材料とともに、他の材料を含んでもよい。
【0214】
また、基材は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、銀、ニッケルなどの材料により構成することができ、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されたものが好ましい。
【0215】
皮膜の膜厚は、好ましくは2~100μmであり、より好ましくは5μm以上であり、より好ましくは70μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0216】
皮膜の比誘電率は、好ましくは2.0~2.4であり、より好ましくは2.3以下である。
【0217】
被覆物品としては、フライパン、圧力鍋、鍋、グリル鍋、炊飯釜、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー、金型、レンジフード等の厨房用品;練りロール、圧延ロール、コンベア、ホッパー等の食品工業用部品;オフィースオートメーション(OA)用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、鋳型;合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;工業用コンテナ(特に半導体工業用);のこぎり、やすり等の工具;アイロン、鋏、包丁等の家庭用品;金属箔;被覆電線;プリント基板;食品加工機、包装機、紡織機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;パイプ、バルブ、ベアリング等の自動車部品;雪かきシャベル;すき;シュート等が挙げられる。
【0218】
被覆物品としては、なかでも、被覆電線またはプリント基板が好ましい。
【0219】
(被覆電線)
本開示の電着塗料組成物を用いて、被覆電線を被覆する皮膜を形成することができる。被覆電線は、たとえば、電線基材と、平角電線基材の外周に形成された皮膜とを備えている。本開示の電着塗料組成物から形成される皮膜を備える被覆電線においては、皮膜に割れが無く、皮膜の表面粗度が低く、皮膜の比誘電率も低く、さらには、基材と皮膜とが強固に接着している。
【0220】
被覆電線の一実施形態においては、平角電線基材と、平角電線基材の外周に形成されており、電着塗料組成物から形成される皮膜とを備えている。
【0221】
平角電線基材の形状は、その断面が略長方形の平角線の形状であれば特に限定されない。平角電線基材の断面の角部は直角であってもよいし、平角電線基材の断面の角部が丸みを有していてもよい。また、平角電線基材は、全体の断面が略長方形であれば、単線、集合線、撚線などであってよいが、単線であることが好ましい。
【0222】
平角電線基材としては、導電材料から構成されるものであれば特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、銀、ニッケルなどの材料により構成することができ、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されたものが好ましい。また、銀めっき、ニッケルめっきなどのめっきを施した平角電線基材を用いることもできる。銅としては、無酸素銅、低酸素銅、銅合金などを用いることができる。
【0223】
平角電線基材の断面の幅は1~75mmであってよく、平角電線基材の断面の厚さは0.1~30mmであってよい。平角電線基材の外周径は、6.5mm以上であってよく、200mm以下であってよい。また、幅の厚さに対する比は、1超30以下であってよい。
【0224】
平角電線基材の面粗さSzは、平角電線基材と皮膜とが一層強固に密着することから、好ましくは0.2~12μmであり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以下である。
【0225】
平角電線基材の面粗さは、エッチング処理、ブラスト処理、レーザー処理などの表面処理方法により、平角電線基材を表面処理することにより調整することができる。また、表面処理により、平角電線基材の表面に凹凸を設けてもよい。凸部から凸部の凹凸間距離は小さいほど好ましく、たとえば、5μm以下である。また、凹凸の大きさは、たとえば、未加工面に対する凸部を切断した時の1つあたりの凹部面積が1μm以下である。凹凸形状は、クレーター型の単一な凹凸形状でもよく、アリの巣状に枝分かれしているものでもよい。
【0226】
平角電線基材等の基材上の皮膜は、基材に電着塗料組成物を電着塗装することにより、形成することができる。電着塗装は、たとえば、電着塗料組成物に基材を浸漬させ、基材を陽極として通電することにより、行うことができる。電着塗装の条件は、基材の種類などに応じて、適宜選択される。たとえば、電着塗料組成物の温度を10~40℃とし、電圧を50~500Vとし、通電時間を1~10分間とすることができる。
【0227】
電着塗装後、基材上に析出した皮膜を水洗してもよい。電着塗装後、基材上に析出した皮膜を焼き付け乾燥させる。乾燥は、1回行ってもよいし、複数回行ってもよい。たとえば、低温で予備乾燥をした後、高温で焼き付け乾燥をしてもよい。
【0228】
本開示の電着塗料組成物は、メタクリレート樹脂の中和物を含有する。したがって、乾燥条件として、皮膜を基材に焼き付けることができ、なおかつ、電着塗料組成物中のメタクリレート樹脂の中和物の一部のみが皮膜中に残存する条件を選択することが好ましい。このような条件を選択することによって、割れが無く、表面粗度が低く、基材と強固に接着し、比誘電率も低い皮膜が得られる。
【0229】
乾燥温度は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは350℃以上である。乾燥温度の上限は、基材の酸化および皮膜の劣化を抑制する観点から、400℃以下であってよい。乾燥時間は、好ましくは5分間以上であり、より好ましくは10分間以上である。乾燥時間の上限は、基材の酸化および皮膜の劣化を抑制する観点から、60分間以下であってよい。
【0230】
乾燥を、無酸素下で行うことにより、基材の酸化を抑制することができる。酸素下で基材上に析出した皮膜を乾燥させると、基材が破損することがある。乾燥は、たとえば、酸素ガスを多くても1質量%しか含まない不活性ガス中で行うことができる。不活性ガスとして、たとえば、窒素ガスを用いることができる。
【0231】
(被覆電線の被覆層)
本開示の被覆電線は、皮膜の外周に形成された被覆層をさらに備えることができる。被覆層は、塗料組成物から形成される塗膜、または、押出成形用組成物から形成される押出物であってよい。被覆層は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
【0232】
塗料組成物は、液状塗料組成物または粉体塗料組成物であってよいが、比較的厚い被覆層を容易に形成できることから、粉体塗料組成物が好ましい。
【0233】
粉体塗料組成物として、含フッ素高分子化合物Yの粉体を含有する粉体塗料組成物を用いることができる。本開示においては、粉体塗料組成物が、含フッ素高分子化合物Yの粉体のみを含有する場合であっても、すなわち、粉体塗料組成物が複数の成分を含有しない場合であっても、「粉体塗料組成物」との用語を用いる。
【0234】
塗料組成物から形成される層は、塗料組成物を皮膜の外周に塗布することにより、形成することができる。
【0235】
粉体塗料組成物の塗布により層を形成する方法としては特に限定されず、たとえば、静電塗装、流動浸漬塗装などの方法が挙げられる。
【0236】
粉体塗料組成物を塗布したのち、得られた塗布膜を焼成することにより、層を形成してもよい。焼成は、従来公知の方法により行うことができるが、含フッ素高分子化合物Yの融点もしくは硬化温度以上の温度で5~60分間行うことが好ましい。焼成は、塗料組成物を塗布する毎に行ってもよいし、塗料組成物を複数回塗布して複数の層(塗布膜)を形成させた後に行ってもよい。
【0237】
押出成形用組成物として、含フッ素高分子化合物Zを含む組成物を用いることができる。本開示においては、押出成形用組成物が、含フッ素高分子化合物Zのみを含有する場合であっても、すなわち、押出成形用組成物が複数の成分を含有しない場合であっても、「押出成形用組成物」との用語を用いる。
【0238】
含フッ素高分子化合物Z(押出成形用組成物)を押し出すことにより層を形成する方法として、押出成形法を用いる。たとえば、押出機を用いて、含フッ素高分子化合物を加熱して溶融させ、溶融した状態の含フッ素高分子化合物を皮膜上に押し出して、層を形成することができる。
【0239】
押出機の種類は特に限定されず、また、押出機が備えるスクリューの形状も特に限定されない。たとえば、押出機バレル30mmφでL/D24、スクリューはフルフライト、圧縮比2.8、押出の温度条件は、ホッパー下をC1、順にC2、C3、C4とシリンダーの温度を調整し、ヘッド、ダイ、ダイスの各部の温度を調整する。ダイ形状は、クロスヘッドで押出に対して、垂直に電線が挿入され含フッ素高分子化合物が被覆される。ダイ/チップに関しては所望の形状の平角電線基材、被覆厚みに合わせて、調整されたものを使用する。チュービングダイ、プレッシャーダイ等、使い分けることも可能である。押出被覆後の樹脂の冷却は、空冷、水冷、保温冷却と所望する含フッ素高分子化合物の物性、電線物性を考慮し制御することができる。
【0240】
被覆電線に対して、熱処理をしてもよい。熱処理は、被覆層を形成した後であれば、冷却の前に行ってもよいし、冷却の後に行ってもよい。熱処理の温度は、通常、含フッ素高分子化合物のガラス転移点以上であり、好ましくは含フッ素高分子化合物の融点から10~15℃低い温度である。
【0241】
一実施形態において、被覆層は、押出成形法によって押出成形用組成物から形成される押出物である。押出物は、塗料組成物から形成される塗膜よりも厚みが大きい層を容易に形成することができる。たとえば、押出物の厚み(押出成形用組成物から形成される層の厚み)は90μm以上であってよく、塗膜の厚み(塗料組成物から形成される層の厚み)は90μm未満であってよい。
【0242】
含フッ素高分子化合物Yを含む塗料組成物から形成される塗膜の厚みは、好ましくは5~100μmであり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは75μm以上であり、より好ましくは90μm未満である。
【0243】
含フッ素高分子化合物Zを含む押出成形用組成物の押出成形により形成される層の厚みは、好ましくは25~400μmであり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは75μm以上であり、尚さらに好ましくは90μm以上であり、より好ましくは290μm以下であり、さらに好ましくは240μm以下である。
【0244】
被覆層の比誘電率は、好ましくは2.0~2.4であり、より好ましくは2.3以下である。
【0245】
粉体塗料組成物に含まれる含フッ素高分子化合物Yとしては、ポリテトラフルオロエチレン、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/FAVE/HFP共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0246】
粉体塗料組成物に含まれる含フッ素高分子化合物Yとしては、なかでも、パーフルオロ系高分子化合物が好ましい。パーフルオロ系高分子化合物として、パーフルオロ系高分子化合物Xとして説明した高分子を用いることができる。含フッ素高分子化合物Yとしては、溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物が好ましく、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0247】
押出成形用組成物に含まれる含フッ素高分子化合物Zとしては、ポリテトラフルオロエチレン、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/FAVE/HFP共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0248】
押出成形用組成物に含まれる含フッ素高分子化合物Zとしては、なかでも、パーフルオロ系高分子化合物が好ましい。パーフルオロ系高分子化合物として、パーフルオロ系高分子化合物Xとして説明した高分子を用いることができる。含フッ素高分子化合物Zとしては、溶融加工性のパーフルオロ系高分子化合物が好ましく、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0249】
塗料組成物、押出成形用組成物および被覆層は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、有機・無機系の各種顔料、銅害防止剤、気泡防止剤密着付与剤、潤滑剤、加工助剤、着色剤、リン系安定剤、潤滑剤、離型剤、摺動材、紫外線吸収剤、染顔料、補強材、ドリップ防止剤、充填材、硬化剤、紫外線硬化剤、難燃剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0250】
本開示の被覆電線は、たとえば、LAN用ケーブル、USBケーブル、Lightningケーブル、HDMIケーブル、QSFPケーブル、航空宇宙用電線、地中送電ケーブル、海底電力ケーブル、高圧ケーブル、超電導ケーブル、ラッピング電線、自動車用電線、ワイヤーハーネス・電装品、ロボット・FA用電線、OA機器用電線、情報機器用電線(光ファイバケーブル、LANケーブル、HDMIケーブル、ライトニングケーブル、オーディオケーブル等)、通信基地局用内部配線、大電流内部配線(インバーター、パワーコンディショナー、蓄電池システム等)、電子機器内部配線、小型電子機器・モバイル配線、可動部配線、電気機器内部配線、測定機器類内部配線、電力ケーブル(建設用、風力/太陽光発電用等)、制御・計装配線用ケーブル、モーター用ケーブル等に好適に使用できる。
【0251】
本開示の被覆電線は、巻回されて、コイルとして使用することができる。本開示の被覆電線およびコイルは、モータ、発電機、インダクターなどの電気機器または電子機器に好適に用いることができる。また、本開示の被覆電線およびコイルは、車載用モータ、車載用発電機、車載用インダクターなどの車載用電気機器または車載用電子機器に好適に用いることができる。
【0252】
被覆電線は、長尺電線であってもよいし、短尺電線であってもよいし、図1に示すような曲げ部を有する被覆電線であってもよい。
【0253】
一実施形態に係る曲げ部を有する被覆電線は、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角電線基材と、平角電線基材の外周に形成された皮膜とを備えている。曲げ部を有する被覆電線は、たとえば、ステータコアまたはロータコアに形成されたスロットに挿入するセグメントコイルとして好適に使用することができる。たとえば、セグメントコイルとして、曲げ部を有する被覆電線をスロットに挿入し、各被覆電線の端部を接合することによりコイルを形成することができる。
【0254】
図1は、一実施形態に係る曲げ部を有する被覆電線体の正面図および上面図である。図2は、一実施形態に係る曲げ部を有する被覆電線の断面図である。図1に示す曲げ部を有する被覆電線100は、回転電機のコアの各スロットに挿入することによりコイルを形成するための樹脂被覆導体(セグメントコイル)である。樹脂被覆導体100は、所定の長さの樹脂被覆導体を、フラットワイズ方向にU字状に曲げることにより構成される。図2に示すように、樹脂被覆導体100は、平角電線基材21と、平角電線基材21の外周に形成された皮膜22とを備えている。
【0255】
図1に示すように、樹脂被覆導体100は、略U字形状を有しており、湾曲部11と、湾曲部11の両端から伸びるスロット挿入部12とから構成されている。湾曲部11とスロット挿入部12とを繋ぐ部分には、平角電線基材をエッジワイズ方向に曲げることにより形成される肩部13aおよび13bが形成されている。また、湾曲部11には、平角電線基材をエッジワイズ方向に曲げることにより形成される凸形状部14、および、平角電線基材をフラットワイズ方向に曲げることにより形成されるクランク形状部15が形成されている。
【0256】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0257】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物であって、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xの比誘電率が、2.0~2.2であり、
前記メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、
前記電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%である
電着塗料組成物が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
パーフルオロ系高分子化合物Xおよびメタクリレート樹脂の中和物を含有する電着塗料組成物であって、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、
前記メタクリレート樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上であり、
前記電着塗料組成物の固形分濃度が、10~70質量%である
電着塗料組成物が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
親水基を有する含フッ素化合物の含有量が、前記パーフルオロ系高分子化合物Xに対して、50質量ppb以下である第1または第2の観点による電着塗料組成物が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
水をさらに含有する第1~第3のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
前記メタクリレート樹脂の中和物および有機溶媒を含有する溶液に、前記パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物を添加して、転相乳化させる製造方法により得られる第1~第4のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
前記メタクリレート樹脂が、カルボキシル基を有しており、前記メタクリレート樹脂の中和物が、カルボキシ基を有する前記メタクリレート樹脂を、アミン化合物により中和することにより得られる中和物である第1~第5のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
前記メタクリレート樹脂の中和物の中和度が、50%以上である第1~第6のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xが、官能基を有しており、前記パーフルオロ系高分子化合物Xの官能基数が、炭素原子10個あたり、5~2000個である第1~第7のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
アルカリ金属含有量が、1質量ppm未満である第1~第8のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
前記パーフルオロ系高分子化合物Xと前記メタクリレート樹脂の中和物との質量比が、10/90~90/10である第1~第9のいずれかの観点による電着塗料組成物が提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
第1~第10のいずれかの観点による電着塗料組成物から形成される皮膜が提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
基材と、前記基材を被覆する皮膜とを備えており、
前記皮膜が、第1~第10のいずれかの観点による電着塗料組成物から形成される皮膜である
被覆物品が提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
前記基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である第12の観点による被覆物品が提供される。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された皮膜とを備えており、
前記皮膜が、第1~第10のいずれかの観点による電着塗料組成物から形成される皮膜である
被覆電線が提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
前記平角電線基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である第14の観点による被覆電線が提供される。
<16> 本開示の第16の観点によれば、
曲げ部を有する第14の観点による被覆電線が提供される。
<17> 本開示の第17の観点によれば、
長尺電線である第14の観点による被覆電線が提供される。
<18> 本開示の第18の観点によれば、
前記皮膜の外周に形成された被覆層をさらに備えており、
前記被覆層が、含フッ素高分子化合物Yを含む粉体塗料組成物から形成される層である
第14の観点による被覆電線が提供される。
<19> 本開示の第19の観点によれば、
前記皮膜の外周に形成された被覆層をさらに備えており、
前記被覆層が、含フッ素高分子化合物Zの押出成形により形成される層である
第14の観点による被覆電線が提供される。
<20> 本開示の第20の観点によれば、
含フッ素高分子化合物Yが、パーフルオロ系高分子化合物であり、
含フッ素高分子化合物Yの比誘電率が、2.0~2.2であり、
含フッ素高分子化合物Yの融点が、250~320℃である
第18の観点による被覆電線が提供される。
<21> 本開示の第21の観点によれば、
含フッ素高分子化合物Yのメルトフローレートが、0.1~100g/10分である第18の観点による被覆電線が提供される。
<22> 本開示の第22の観点によれば、
含フッ素高分子化合物Yが、官能基を有しており、官能基数が、炭素原子10個あたり、5~1000個である第18の観点による被覆電線が提供される。
<23> 本開示の第23の観点によれば、
含フッ素高分子化合物Yが、官能基を有しており、官能基数が、炭素原子10個あたり、0~4個である第18の観点による被覆電線が提供される。
<24> 本開示の第24の観点によれば、
基材と、前記基材を被覆する皮膜とを備えており、
前記皮膜が、第1~第10のいずれかの観点による電着塗料組成物から形成される皮膜である
プリント基板が提供される。
<25> 本開示の第25の観点によれば、
前記基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である第24の観点によるプリント基板が提供される。
【実施例
【0258】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0259】
実施例に示す諸性状は、以下の方法により測定した。
【0260】
(パーフルオロ系高分子化合物X、含フッ素高分子化合物Yおよび含フッ素高分子化合物Zの官能基数)
高分子化合物を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置FT-IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、高分子化合物における炭素原子10個あたりの官能基数Nを算出した。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0261】
参考として、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0262】
【表2】
【0263】
(樹脂酸価)
解重合性メタクリレート樹脂をキシレンとイソプロピルアルコールの混合溶剤に溶かした後、電位差滴定法により0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定して滴定曲線上の変曲点を終点とし、水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から算出した。
【0264】
(解重合性メタクリレート樹脂の中和度)
解重合性メタクリレート樹脂にテトラヒドロフランを加えた後、電位差滴定法により0.1mol/L塩酸溶液で当量点まで滴定し、滴定曲線上の変曲点をアミン価とした。このアミン価を酸価で除することにより、中和度を算出した。
【0265】
(高分子化合物の比誘電率)
JIS-C-2138に準拠し、23℃±2℃、相対湿度50%、周波数1KHzにて測定した。
【0266】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0267】
(電着塗料組成物中のアルカリ金属含有量)
誘導結合プラズマ質量分析法により、電着塗料組成物に含まれるアルカリ金属含有量を測定した。
【0268】
(皮膜の膜厚)
ケット科学研究所社製膜厚計LZ-373により、皮膜の膜厚を測定した。目視で皮膜に割れが認められたものについては膜厚を測定せず、「割れあり」と表記した。
【0269】
(皮膜の表面粗度)
テーラーホブソン社製表面粗さ測定機サートロニックDUOIIにより、皮膜の表面粗度Raを測定した。目視で皮膜に割れが認められたものについては膜厚を測定せず、「割れあり」と表記した。
【0270】
(皮膜と基材との密着強度)
AGS-Jオートグラフ(50N)(島津製作所社製)を用いて、皮膜と基材との密着強度を測定した。長軸方向に50mm略平行に2本、その両端を短軸方向に皮膜に直角に切り込み、端を10cm剥離させ、上部チャックに挟んだ。導体は長面方向が水平になるよう下部に固定した。引張方向に装置を動かしたとき、その縦方向の移動距離に応じて横方向に連動して動く治具を用い、剥離した皮膜が常に長面方向の導体と垂直になるよう角度を調整した。30mm剥離させるまでに100mm/minで引っ張った時の引張応力を測定し、その最大点応力を密着強度とした。目視で皮膜に割れが認められたものについては密着強度を評価せず、「割れあり」と表記した。
【0271】
(皮膜の比誘電率)
HIOKI社製LCRハイテスタ3522-50を用い、静電容量を得て下記の式より比誘電率を算出した。目視で皮膜に割れが認められたものについては比誘電率を評価せず、「割れあり」と表記した。
C=Ca+Cb
(式中、Cは皮膜の単位長さ当たりの静電容量(pf/m)で、平坦部の静電容量Caと角曲部の静電容量Cbの合成である。)
Ca=(ε/ε)×2×(L+L)/T
Cb=(ε/ε)×2πε/Log{(r+T)/r}/r
(式中、εは真空の誘電率、銅板の長辺L、短辺L、Tは皮膜の厚みである。)
【0272】
解重合性メタクリレート樹脂Aの製造:
窒素雰囲気下で液温70℃を保ちながら撹拌中のイソプロピルアルコール(335g)中に、モノマーとしてメタクリル酸メチル(1.44g)、n-メタクリル酸ブチル(123.13g)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(13.92g)、メタクリル酸(11.51g)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(1.5g)を3時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後は液温70℃を保って撹拌を2時間継続した。こうして、樹脂酸価:50mgKOH/g、固形分:30質量%である、解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。
【0273】
解重合性メタクリレート樹脂Bの製造:
窒素雰囲気下で液温70℃を保ちながら撹拌中のイソプロピルアルコール(335g)中に、モノマーとしてメタクリル酸メチル(7.03g)、n-メタクリル酸ブチル(122.15g)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(13.92g)、メタクリル酸(6.9g)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(1.5g)を3時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後は液温70℃を保って撹拌を2時間継続した。こうして、樹脂酸価:30mgKOH/g、固形分:30質量%である、解重合性メタクリレート樹脂Bの溶液を得た。
【0274】
解重合性メタクリレート樹脂Cの製造:
窒素雰囲気下で液温70℃を保ちながら撹拌中のイソプロピルアルコール(335g)中に、モノマーとしてメタクリル酸メチル(13.67g)、n-メタクリル酸ブチル(104g)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(13.92g)、メタクリル酸(18.41g)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(1.5g)を3時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後は液温70℃を保って撹拌を2時間継続した。こうして、樹脂酸価:80mgKOH/g、固形分:30質量%である、解重合性メタクリレート樹脂Cの溶液を得た。
【0275】
電着塗料組成物Aの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにPTFE(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり18個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PTFE粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Aを得た。
【0276】
電着塗料組成物Bの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Bを得た。
【0277】
電着塗料組成物Cの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにFEP(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり625個)粒子の水分散組成物(固形分:20質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、FEP粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Cを得た。
【0278】
電着塗料組成物Dの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=30/70(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Dを得た。
【0279】
電着塗料組成物Eの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=70/30(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Eを得た。
【0280】
電着塗料組成物Fの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Bの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Bの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Bの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Fを得た。
【0281】
電着塗料組成物Gの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Cの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Cの溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Cの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Fを得た。
【0282】
電着塗料組成物Hの製造:
非解重合性アクリル樹脂の溶液(三井化学社製アルマテックスWA911、樹脂酸価48mgKOH/g)に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された非解重合性アクリル樹脂の溶液を得た。さらに撹拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/アクリル樹脂=50/50(質量%)となるようにPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個)粒子の水分散組成物(固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と非解重合性アクリル樹脂の中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Hを得た。
【0283】
電着塗料組成物Jの製造:
解重合性メタクリレート樹脂粒子の水分散組成物(日本触媒社製アクリセットTF-300、固形分:40質量%、樹脂酸価0.5mgKOH/g)に、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるようにPTFE(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり18個)粒子の水分散組成物(固形分:60質量%)と純水を混合して、固形分15質量%である電着塗料組成物Jを得た。
【0284】
電着塗料組成物Kの製造:
PTFE(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり18個)粒子の水分散組成物(固形分:60質量%)20kg、イオン交換水10kg、ラウリル硫酸ナトリウム6gを加え、窒素雰囲気下で30分間撹拌し、70℃に昇温し、過硫酸アンモニウム6g、亜硫酸水素ナトリウム2gを純水20gに溶解させた液を加え、直ちにメチルメタクリレート600gを30分かけて滴下した。さらに、滴下終了後は液温70℃を保って撹拌を2時間継続し、解重合性メタクリレート樹脂D(樹脂酸価:0.4mgKOH/g)の粒子の水分散組成物を得た。次に純水を添加し、PTFE粒子と解重合性メタクリレート樹脂Dの粒子が混合された、固形分20質量%である電着塗料組成物Kを得た。
【0285】
実施例1~7、比較例1~3
電着塗料組成物A~H、J、Kを用い、液温25℃、印加電圧150V、120秒間の条件で銅板上に電着塗装を実施した。これを100℃で20分間予備乾燥を行った後に、窒素置換された無酸素雰囲気下の乾燥炉内において380℃で20分間加熱して、皮膜を得た。この皮膜の性状を評価した。
【0286】
実施例8
実施例2で得られた皮膜の上に、含フッ素高分子化合物YとしてPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個、MFR:27g/10min)の粉体塗料組成物からなる被覆層を形成し、皮膜および被覆層(表3において皮膜および被覆層を合わせて「皮膜」と表記する)の性状を評価した。
【0287】
実施例9
実施例2で得られた皮膜の上に、含フッ素高分子化合物YとしてPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり2個,MFR:28g/10min)の粉体塗料組成物からなる被覆層を形成し、皮膜および被覆層(表3において皮膜および被覆層を合わせて「皮膜」と表記する)の性状を評価した。
【0288】
実施例10
実施例2で得られた皮膜の上に、含フッ素高分子化合物ZとしてPFA(比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり55個,MFR:12g/10min)を押し出すことにより、被覆層を形成し、皮膜および被覆層(表3において皮膜および被覆層を合わせて「皮膜」と表記する)の性状を評価した。
【0289】
実験例1
電着塗料組成物Bを用い、液温25℃、印加電圧150V、120秒間の条件で銅板上に電着塗装を実施した。これを100℃で20分間予備乾燥を行った後に、外気が導入された酸素存在下の乾燥炉内において380℃で20分間加熱して、皮膜を得た。ところが、銅板の酸化が進行しており、銅板に割れが認められた。
【0290】
以上の結果を表3に示す。
【0291】
【表3】
【0292】
表3中、「同時乳化粒子」とは、メタクリレート樹脂(アクリル樹脂)および有機溶媒を含有する溶液に、パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物を添加して、転相乳化させる製造方法により得られる電着塗料組成物中のパーフルオロ系高分子化合物の粒子およびメタクリレート樹脂(アクリル樹脂)の粒子を意味する。
【0293】
表3中、「混合粒子」とは、メタクリレート樹脂(アクリル樹脂)および水を含有する水分散組成物と、パーフルオロ系高分子化合物Xおよび水を含有する水分散組成物とを混合することにより得られる電着塗料組成物中のパーフルオロ系高分子化合物の粒子およびメタクリレート樹脂(アクリル樹脂)の粒子を意味する。
【0294】
表3中の各記載は次のポリマーを表しており、各ポリマーの詳細な特性は上述したとおりである。
パーフルオロ系高分子化合物X
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、比誘電率:2.2、官能基数:18個/C10
PFA(1):テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、比誘電率:2.2、官能基数:220個/C10
FEP:テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、比誘電率:2.2、官能基数:625個/C10
【0295】
メタクリレート樹脂(アクリル樹脂)
メタクリレート樹脂A:解重合性メタクリレート樹脂、樹脂酸価:50mgKOH/g
メタクリレート樹脂B:解重合性メタクリレート樹脂、樹脂酸価:30mgKOH/g
メタクリレート樹脂C:解重合性メタクリレート樹脂、樹脂酸価:80mgKOH/g
アクリル樹脂E:非解重合性アクリル樹脂、三井化学社製アルマテックスWA911、樹脂酸価:48mgKOH/g
メタクリレート樹脂F:解重合性メタクリレート樹脂、日本触媒社製アクリセットTF-300、樹脂酸価:0.5mgKOH/g
メタクリレート樹脂D:解重合性メタクリレート樹脂、樹脂酸価:0.4mgKOH/g
【0296】
含フッ素高分子化合物Y
PFA(3):テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり220個、MFR:27g/10min
PFA(4):テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり2個,MFR:28g/10min
【0297】
含フッ素高分子化合物Z
PFA(5):テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、比誘電率:2.2、官能基数:炭素原子10個あたり55個,MFR:12g/10min
【0298】
<親水基を有する含フッ素化合物の測定>
0.水性分散液または水分散組成物からの親水基を有する含フッ素化合物の抽出
水性分散液5.0gを秤量し、メタノールを10g加え、円筒ろ紙に流しいれ、抽出溶媒としてメタノールが全量で150gになるようソックスレー抽出を行い、得られた抽出液を250mlになるようにメタノールで定容し、親水基を有する含フッ素化合物を含む抽出液を得た。
【0299】
<パーフルオロエーテルカルボン酸Aの測定>
1.パーフルオロエーテルカルボン酸Aの検量線
濃度既知のパーフルオロエーテルカルボン酸Aのメタノール標準溶液を5水準調製し、液体クロマトグラフ質量分析計(Agilent,Ultivo トリプル四重極LC-MS)を用いて測定を行った。それぞれの濃度範囲において、メタノール標準溶液濃度とピークの積分値から一次近似を用い、検量線を作成した。
【0300】
測定機器構成とLC-MS測定条件
【表4】
【0301】
MRM測定パラメータ
【表5】
【0302】
2.水性分散液または水分散組成物に含まれるパーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量
液体クロマトグラフ質量分析計を用い、パーフルオロエーテルカルボン酸Aを測定した。測定溶液中のパーフルオロエーテルカルボン酸A量が検量線内に収まるように、抽出液をメタノールで適宜希釈し、測定溶液を調製した。測定溶液についてMRM法を用いてパーフルオロエーテルカルボン酸Aのピーク面積を求め検量線よりパーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量を求めた。
【0303】
<一般式(H2)で表される化合物の含有量>
一般式(H2)で表される化合物の含有量は同じ炭素数の直鎖パーフルオロカルボン酸の検量線により求めた。
【0304】
1.パーフルオロカルボン酸の検量線
濃度既知のパーフルオロブタン酸、パーフルオロペンタン酸、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸、パーフルオロデカン酸、パーフルオロウンデカン酸、パーフルオロドデカン酸、パーフルオロトリデカン酸、パーフルオロテトラデカン酸のメタノール標準溶液を5水準調製し、液体クロマトグラフ質量分析計(Agilent,Ultivo トリプル四重極LC-MS)を用いて測定を行った。それぞれの濃度範囲において、メタノール標準溶液濃度とピークの積分値から一次近似を用い、検量線を作成した。
【0305】
測定機器構成とLC-MS測定条件
【表6】
【0306】
MRM測定パラメータ
【表7】
【0307】
3.水性分散液または水分散組成物に含まれる一般式(H2)で表される化合物の含有量
液体クロマトグラフ質量分析計を用い、検量線から、抽出液に含まれる炭素数nの一般式(H2)で表される化合物の含有量を測定した。抽出液について、MRM法により一般式(H2)で表される親水基を有する含フッ素化合物のピーク面積を求め、水性分散液または水分散組成物に含まれる一般式(H2)で表される親水基を有する含フッ素化合物の含有量を求めた。
【0308】
MRM測定パラメータ
【表8】
【0309】
合成例1
国際公開第2021/045228号の合成例1に記載された方法により、分子量1000以下であるパーフルオロエーテルカルボン酸Aの白色固体Aを得た。
【0310】
製造例1
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3750gの脱イオン水及び含フッ素界面活性剤として5.49gの合成例1で得られた白色固体Aを入れた。次いで、反応器の内容物を60℃まで加熱しながら、吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に6.9gの塩化メチレン及び27gのパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)を加えた後、1.3MPaGの圧力となるまでTFEを加えた。20gの脱イオン水に溶解した990mgの過硫酸アンモニウム(APS)開始剤を反応器に注入した。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり、重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて、圧力を1.3MPaG一定となるように保った。重合開始後、100gのTFEに対して4gのPPVEとなるように連続的に加えた。反応で消費したTFEが約1600gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体(PFA)水性分散液を得た。
【0311】
調製例1
製造例1で得られたPFA水性分散液を別の反応器内に入れ、反応器の内容物を80℃まで加熱し、ラジカル発生剤として、30.3gの過硫酸アンモニウム(重合に用いた含フッ素界面活性剤のモル量に対して、10モル倍の量)を添加した。その後、80℃のまま3時間保持し、熱処理されたPFAを含有する水分散組成物を得た。
【0312】
次に、製造例1で得られた水性分散液または調製例1で得られた水分散組成物を含有する電着塗料組成物の実施形態について実施例をあげて説明する。
【0313】
電着塗料組成物Bの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに攪拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるように、調製例1で得られた水性分散液(PFAの比誘電率:2.2、PFAの官能基数:炭素原子10個あたり220個、PFAに対する親水基を有する含フッ素化合物の含有量:42質量ppb、固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Bを得た。
【0314】
電着塗料組成物Lの製造:
解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液に、中和度80%となるようにトリエチルアミンを添加して、中和された解重合性メタクリレート樹脂Aの溶液を得た。さらに攪拌しながら、パーフルオロ系高分子化合物/メタクリレート樹脂=50/50(質量%)となるように製造例1で得られた水性分散液(PFAの比誘電率:2.2、PFAの官能基数:炭素原子10個あたり220個、PFAに対する親水基を有する含フッ素化合物の含有量:551質量ppb、固形分:30質量%)と純水を添加することにより転相乳化を実施し、PFA粒子と解重合性メタクリレート樹脂Aの中和物粒子とが乳化された、固形分15質量%である電着塗料組成物Lを得た。
【0315】
実施例11、実験例2
電着塗料組成物B(実施例11)、電着塗料組成物L(実験例2)を用い、液温25℃、印加電圧150V、120秒間の条件で銅板上に電着塗装を実施した。これを100℃で20分間予備乾燥を行った後に、窒素置換された無酸素雰囲気下の乾燥炉内において380℃で20分間加熱して、皮膜を得た。この皮膜について、以下の要領で接触角と摩擦係数を測定した。
【0316】
<接触角>
協和界面科学社製接触角計CA-DT型を用い、水、および、n-セタンに対する接触角を測定した。
【0317】
<摩擦係数>
新東科学社製表面性試験機HEIDON Type38を用い、(ボール圧子)を荷重(1kg)で押し当て、600mm/分の速度で移動させた際の静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。
【0318】
以上の結果を表9に示す。
【0319】
【表9】
図1
図2