(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】車両のドアトリム構造
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240529BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B60R13/02 B
B60J5/00 501A
(21)【出願番号】P 2020099357
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 航輝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】野上 貴司
(72)【発明者】
【氏名】安田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】二井 孝彰
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094714(JP,A)
【文献】特開2015-077929(JP,A)
【文献】特開平06-270680(JP,A)
【文献】特開2008-132825(JP,A)
【文献】特開2003-306110(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0194542(US,A1)
【文献】中国実用新案第201932087(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアの車内側に設けられたドアトリムに内装材が固定された車両のドアトリム構造であって、
前記内装材は、少なくとも車両前後方向端部が前記ドアトリムに固定され、
前記内装材には、上下方向に延びるリブが車両前後方向に間隔をおいて複数個並んで配置され、
複数の前記リブのうち、前記内装材の車両前後方向中間部に位置する第1のリブは、前記内装材の前記車両前後方向中間部の車両前方あるは車両後方に設けられた第2のリブに対して強度が低く設定され
るとともに、
前記内装材の前記車両前後方向中間部に、上下方向に延びる溝部を有し、
前記内装材の上端部には、車幅方向外方に向かって屈曲する鍔部を有し、
前記リブは、前記鍔部の内壁面を支持し、
前記溝部は、前記鍔部の端部まで延長して形成され、
前記鍔部の前記端部には、前記溝部の幅が拡張されて形成された切り欠き部を有する
ことを特徴とする車両のドアトリム構造。
【請求項2】
前記内装材は、前記車両前後方向中間部が前記ドアトリムの側方に隣接する座席に着座した乗員の肩部または胸部に面する位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のドアトリム構造。
【請求項3】
前記第1のリブは、前記第2のリブよりも突出高さが低く形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のドアトリム構造。
【請求項4】
前記溝部は、車両前後方向に隣接する複数の前記リブの間に備えられていることを特徴とする請求項
1または2に記載の車両のドアトリム構造。
【請求項5】
前記溝部は、車両前後方向に隣接する複数の前記リブの間に備えられていることを特徴とする請求項3に記載の車両のドアトリム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインナパネルに備えられた内装材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両のドアの車内側を構成するインナパネルには、内装材としてドアトリムが装着されている。ドアトリムは、樹脂で形成されている場合が多い。
【0003】
更に、見栄えを向上させるために、ドアトリムの一部に装飾板、所謂オーナメントパネルを備えた車両も増えている。例えば、特許文献1に開示された車両においては、オーナメントパネル(オーナメント)も樹脂で形成されており、サイドドアの後側上部、運転席や助手席に着座した乗員の側方に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両側突時には、電柱等の障害物がドアの外側方から車室内方側にドアを押し曲げたときに、板金部材で形成されたドアのアウタパネルやインナパネルが屈曲して衝撃を吸収する構造になっている。車両側突時にドアトリムは、インナパネルの屈曲に合わせて曲げられる。
【0006】
しかしながら、オーナメントパネルは、乗員が体を車外側に傾けたときに、肩部や胸部によって力を受ける機会が多いことから、ドアトリムの他の部位よりも強度が高い場合が多い。また、オーナメントパネルは、容易に交換できるように、比較的少ない個数のボルト等によって固定されている。
【0007】
したがって、車両側突時にオーナメントパネルの固定部の一部が外れて、インナパネルとともにオーナメントパネルが曲がらずに、ドアにおける衝撃吸収性が低下する可能性がある。また、オーナメントパネルの固定部の一部が外れた際に、当該外れた部位が車内側に突出する可能性もある。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両側突時にオーナメントパネルを屈曲させて衝撃吸収性を向上させる車両のドアトリム構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の車両のドアトリム構造は、車両のドアの車内側に設けられたドアトリムに内装材が固定された車両のドアトリム構造であって、前記内装材は、少なくとも車両前後方向端部が前記ドアトリムに固定され、前記内装材には、上下方向に延びるリブが車両前後方向に間隔をおいて複数個並んで配置され、複数の前記リブのうち、前記内装材の車両前後方向中間部に位置する第1のリブは、前記内装材の前記車両前後方向中間部の車両前方あるは車両後方に設けられた第2のリブに対して強度が低く設定されるとともに、前記内装材の前記車両前後方向中間部に、上下方向に延びる溝部を有し、前記内装材の上端部には、車幅方向外方に向かって屈曲する鍔部を有し、前記リブは、前記鍔部の内壁面を支持し、前記溝部は、前記鍔部の端部まで延長して形成され、前記鍔部の前記端部には、前記溝部の幅が拡張されて形成された切り欠き部を有することを特徴とする。
【0010】
これにより、リブによって内装材の上下方向の強度を確保することができるが、内装材の車両前後方向中間部に位置する第1のリブの強度が、その前方あるいは後方に位置する第2のリブより強度が低く設定されているので、内装材の車両前後方向中間部における強度を低下させることができる。また、内装材は、少なくとも車両前後方向端部がドアトリムに固定されているので、車両側突時にドアトリムの屈曲とともに内装材を車両前後方向に屈曲させることができる。これにより、車両側突時に内装材の端部が外れて車内側に突出することを抑制するとともに、ドアの他の部材とともに内装材も屈曲して、衝撃吸収性を向上させることができる。
また、内装材の車両前後方向中間部において、車両側突時に内装材を前後方向に容易に屈曲させることができる。
また、鍔部の上面に例えば乗員が腕を載せて下方に向けて力が作用しても、内装材の強度を確保することができる。
また、車両側突時に溝部に沿って内装材を前後方向に更に容易に屈曲させることができる。
【0011】
好ましくは、前記内装材は、前記車両前後方向中間部が前記ドアトリムの側方に隣接する座席に着座した乗員の肩部または胸部に面する位置に配置されているとよい。
【0012】
これにより、乗員の肩部または胸部に向かって内装材が突出することを抑制するとともに、乗員の肩部または胸部付近におけるドアの衝撃吸収性を向上させることができる。
【0013】
好ましくは、前記第1のリブは、前記第2のリブよりも突出高さが低く形成されているとよい。
【0014】
これにより、第1のリブの強度を第2のリブの強度より低く設定することができる。したがって、内装材の車両前後方向中間部の強度を、その前方あるいは後方の部位の強度よりも低く設定することができる。
【0019】
好ましくは、前記溝部は、車両前後方向に隣接する複数の前記第リブの間に夫々備えられているとよい。
【0020】
これにより、リブを有する内装材の車両前後方向中間部に、溝部を容易に配置することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の車両のドアトリム構造によれば、車両側突時に内装材が車内側に突出することを抑制するとともに、ドアの他の部材とともに内装材も屈曲して、衝撃吸収性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態のドアトリム構造を採用した車両の左前ドアにおけるオーナメントパネルの位置を示す概略構造図である。
【
図2】本実施形態の左前ドア上部の縦断面図である。
【
図3】本実施形態のオーナメントパネルを含むドアトリムの形状を示す構造図である。
【
図4】本実施形態のオーナメントパネルの形状を示す背面図である。
【
図5】本実施形態のオーナメントパネルにおけるリブの形状を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した車両構造の実施形態を説明する。
【0028】
図1は本発明の実施形態のドアトリム構造を採用した車両の左前ドア1(ドア)におけるオーナメントパネル2(内装材)の位置を示す概略構造図である。
図2は、左前ドア上部の縦断面図である。
図2は、
図1中に記載された左前ドア1のA-A部の断面図である。
図3は、本実施形態のオーナメントパネル2を含むドアトリム3の形状を示す構造図である。
図3は、オーナメントパネル2を含む左前ドア1のドアトリム3を車外側(車幅方向外側)から車内側(車幅方向内側)に向かって視た図である。
図4は、本実施形態のオーナメントパネル2の形状を示す背面図である。
図4は、オーナメントパネル2を車外側から車内側に向かって視た図である。
図5は、本実施形態のオーナメントパネル2におけるリブ21の形状を示す縦断面図である。
図5は、
図4中に記載されたオーナメントパネル2のB-B部の断面図である。
【0029】
なお、以下の説明では、左前ドア1ドアを閉じたときの状態での車両方向を用いて説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態のドアトリム構造は、車両の座席5の左側方に隣接する左前ドア1に採用されている。
【0031】
図2に示すように、本実施形態のドアトリム構造を採用した左前ドア1は、板金部材で形成され、外壁面を構成するアウタパネル6と、アウタパネル6から車内側に間隔をおいて配置されたインナパネル7を有している。
図1~3に示すように、更に、インナパネル7の車内側には、例えば樹脂の薄板部材で形成されたドアトリム3を有している。ドアトリム3は、左前ドア1の車内側の略全面を覆うように配置される。
【0032】
ドアトリム3の車両後方側の上部には、オーナメントパネル2が備えられている。オーナメントパネル2は、例えば樹脂で形成され、ドアトリム3の他の部位よりも厚い板厚の装飾板であり、車内側の面にウレタン等を挟んで皮革を張り付けて、外観や手触りの向上を図っている。オーナメントパネル2は、左前ドア1の側方に隣接する座席5に着座した乗員Mの肩部に面するように位置している。
【0033】
なお、本実施形態の座席5は、シートバック9の左前ドア1側の側部から前方に展開するサイドエアバッグ10を備えている。サイドエアバッグ10は、乗員Mの主に肩部、胸部、腹部、腰部と左前ドア1との間に展開する。
【0034】
図2、4、5に示すように、オーナメントパネル2は、上部が車幅方向外方に向かって、屈曲して、左前ドア1のウインドウガラス8の引き込み口13に向かって延びた上部鍔部12(鍔部)を有している。上部鍔部12は、左前ドア1の上部に位置するウインドウガラス8の引き込み口13から車内側を覆うように配置されている。
【0035】
オーナメントパネル2には、通常の車両使用時に乗員Mが車内側から押した際の強度を確保するために、横リブ20が設けられている。横リブ20は、オーナメントパネル2の上下方向中間部を例えば車外側に屈曲して凸状に形成された部位であり、オーナメントパネル2の前端から後端まで略前後方向に延びるように設けられている。
【0036】
また、オーナメントパネル2の上部には、上部鍔部12の強度を確保するために、上部リブ21(リブ)が設けられている。上部リブ21は、上部鍔部12の内壁面から立設し、互いに車両前後方向に略等間隔をおいて、複数設けられている。
【0037】
図5の斜線部に示すように、上部リブ21は、オーナメントパネル2の上部に設けられ、上部鍔部12の下面から下方に延び、上部鍔部12の上下方向の折り曲げ強度を向上させる機能を有している。
【0038】
本実施形態のオーナメントパネル2では、側方の座席5に着座した乗員Mの肩部に対面する位置である前後方向中間部の上部リブ21(第1のリブ21a)については、その車両前方あるいは車両後方に配置された上部リブ21(第2のリブ21b)よりも突出高さが低く設定されている。例えば
図5に示すように、第1のリブ21aは斜線部で示された箇所が削除されてオーナメントパネル2から略削除されており、第2のリブ21bでは斜線部で示された箇所を有する。
【0039】
また、オーナメントパネル2の隣り合う上部リブ21と上部リブ21との間には、上下方向に延びるスリット(溝部)25が設けられている。スリット25は、オーナメントパネル2の前後方向中間部付近に、隣接する上部リブ21の間に数か所設けられている。
【0040】
オーナメントパネル2の前後方向中間部のスリット25は、オーナメントパネル2の下端部に達するまで下方に延びている。オーナメントパネル2の後部に位置する第2のリブ21bの付近のスリット25については、オーナメントパネル2の上下方向中間部の横リブ20まで下方に延びている。
【0041】
更に、第1のリブ21aの付近のスリット25については、上部鍔部12の縁部に三角形状の切り欠き26(切り欠き部)が形成されている。
【0042】
オーナメントパネル2は、例えばボルトによってドアトリム3(オーナメントパネル2以外の部位)に数か所固定されている。少なくとも、オーナメントパネル2の前端部と後端部30は、例えばボルトによってドアトリム3に強固に固定されている。
【0043】
以上のように形成されたオーナメントパネル2を有するドアトリム3について、例えば電柱に左前ドア1が側突した場合での、各部の形状変化について説明する。
【0044】
例えば、上下方向に延びる円柱状の電柱に、左前ドア1の前後方向中間部が側突した場合には、電柱が左前ドア1を車内側に向かって押し、左前ドア1のアウタパネル6及びインナパネル7が車内側に屈曲する。このとき、板金部材のアウタパネル6及びインナパネル7は、電柱の外形に沿って円弧状に屈曲する。また、薄板状のドアトリム3についてもインナパネル7に沿って屈曲するが、オーナメントパネル2は、ドアトリム3よりも厚板状であるため、ドアトリム3よりも曲がり難い。
【0045】
本実施形態におけるドアトリム構造では、オーナメントパネル2の前端部と後端部がドアトリム3にボルト等で強固に固定されているので、電柱等の側突時にアウタパネル6、インナパネル7、ドアトリム3が屈曲した際にドアトリム3からオーナメントパネル2の一部(例えば後端部30)が外れずに、ドアトリム3とともに屈曲する。これにより、側突時にオーナメントパネル2が屈曲することで左前ドア1全体における衝撃吸収性を向上させることができる。
【0046】
また、オーナメントパネル2は、隣接する座席5に着座した乗員Mの肩部付近に設けられている。更に本実施形態の車両では座席5のシートバック9にサイドエアバッグ10が設けられ、車両衝突時にシートバック9と左前ドア1との間に展開する。例えば側突時にオーナメントパネル2の後端部30が外れてしまった場合には、オーナメントパネル2は前端部の支持部を中心にして後部がシートバック9側に向かって短時間で突出してしまう。したがって、側突時において、車内側に突出したオーナメントパネル2によってサイドエアバッグ10の展開が妨げられる可能性がある。
【0047】
これに対して、本実施形態では、側突時にドアトリム3からオーナメントパネル2が外れずにドアトリム3とともに屈曲して、オーナメントパネル2の車内側への突出が抑えられ、サイドエアバッグ10の展開領域を確保することができる。
【0048】
また、オーナメントパネル2の上端部には、車幅方向外方に向かって屈曲する上部鍔部12を備えており、この上部鍔部12の上に乗員が肘等を載せることができる。そして、オーナメントパネル2には、上下方向に延び、前後方向に間隔をおいて配置された複数の上部リブ21が設けられているので、通常使用時でのオーナメントパネル2の強度を確保することができる。
【0049】
一方、オーナメントパネル2の車両前後方向中間部では、上部リブ21(第1のリブ21a)の突出高さが抑えられているので、側突時にオーナメントパネル2の車両前後方向中間部で屈曲し易くなる。
【0050】
また、オーナメントパネル2の車両前後方向中間部に、上下方向に延びるスリット25が設けられているので、側突時にこのスリット25に沿ってオーナメントパネル2が更に屈曲し易くなる。
【0051】
なお、スリット25は前後方向に並ぶ複数の上部リブ21の間に配置され、オーナメントパネル2の車両前後方向中間部にも設けられているので、特にこのオーナメントパネル2の車両前後方向中間部のスリット25によって、側突時にオーナメントパネル2の車両前後方向中間部が屈曲し易くなる。
【0052】
また、オーナメントパネル2の車両前後方向中間部のスリット25については、上部鍔部12の縁部まで延びるとともに当該縁部においてスリット25の幅が拡張された三角形状の切り欠き26を設けているので、側突時にこのスリット25に沿って更にオーナメントパネル2を屈曲し易くすることができる。
【0053】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、オーナメントパネル2の車両前後方向中間部の上部リブ21である第1のリブ21aが、その前後の上部リブ21である第2のリブ21bよりも突出高さが抑えられているが、第1のリブ21aを完全に削除してもよい。
【0054】
また、オーナメントパネル2の詳細な形状については、適宜変更することができる。また、車両の右前ドアや後部ドアに本発明を適用することができる。
【0055】
本発明は、ドアトリムにオーナメントパネルを有する車両のドアに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 左前ドア(ドア)
2 オーナメントパネル(内装材)
3 ドアトリム
5 座席
10 サイドエアバッグ
12 上部鍔部(鍔部)
21 上部リブ(リブ)
21a 第1のリブ
21b 第2のリブ
25 スリット(溝部)
26 切り欠き(切り欠き部)
M 乗員