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特許7495669銅害防止剤、樹脂組成物、成形品、並びにシートおよびフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】銅害防止剤、樹脂組成物、成形品、並びにシートおよびフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20240529BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240529BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K3/01
C08J5/18 CES
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020566427
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001061
(87)【国際公開番号】W WO2020149299
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019004832
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】津田 隆
(72)【発明者】
【氏名】今堀 真
(72)【発明者】
【氏名】大野 康晴
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279423(JP,A)
【文献】特開2015-126019(JP,A)
【文献】特開2015-126018(JP,A)
【文献】特開2013-030504(JP,A)
【文献】特開2000-026768(JP,A)
【文献】特開昭62-112643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)の成分からなる樹脂組成物。
(A)α,β-不飽和カルボン酸およびその無水物、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種をグラフト反応させて変性されたポリオレフィン系樹脂 95~99.9質量%
(B)無機イオン交換体からなり、両イオン交換型のアルミニウム-マグネシウム-ジルコニウム系化合物を含む銅害防止剤 0.05~3.0質量%
(C)酸化防止剤 0.05~3.0質量%
【請求項2】
前記(A)成分が、構成単位としてプロピレンを50質量%以上含むポリオレフィン系樹脂である請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、35~75J/gの結晶化熱および5~25g/10分のメルトフローレイトを有するポリオレフィン系樹脂である請求項またはに記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が、フェノール系の連鎖停止剤、リン系の過酸化物分解剤および硫黄系の過酸化物分解剤からなる群から選択される少なくとも1種の酸化防止剤を含むものである、請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物を加工してなる成形品。
【請求項6】
請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物を加工してなるシートまたはフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅害防止剤、並びにこれを含有し、成形品またはシート若しくはフィルムに加工して各種部品の接着およびシールに好適に利用できる樹脂組成物に関するもので、特に高温で金属に接触する厳しい条件下でも優れた耐久性および耐酸化性を持つポリオレフィン系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂は、軽量でかつ成形加工性し易く、耐水性、耐油性、耐酸性および耐アルカリ性等の化学的安定性に優れた特長を持つ。
このため、ポリオレフィン系樹脂は成形品またはシート若しくはフィルム状に加工して各種部品の接着およびシールに使用されることが多い。
しかし接着およびシール用途で接触する部材が、銅を始めとする遷移金属(そのイオン化合物も含む)の場合、ポリオレフィン系樹脂は長時間接触すると、当該金属の触媒作用によって劣化し、外観・表面状態の不良および機械的強度の低下をもたらすことが知られている。このため前記金属と接触する用途においては、ポリオレフィン系樹脂に一般的な酸化防止剤の添加に加え、銅害防止剤または金属不活性化剤と呼ばれる化合物を配合することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1および2には、銅害防止剤を配合したオレフィン系樹脂組成物が開示されている。特許文献4および5には、ポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物が、耐金属劣化性に優れると説明されている。
特許文献3には、メタロセン系触媒を用いて得られるプロピレン系ポリマーに金属不活性化剤を配合し耐金属劣化性を改良した樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-325153号公報
【文献】特開2001-279782号公報
【文献】特開平9-255825号公報
【文献】特開平10-110069号公報
【文献】特開平8-73677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に用いられる銅害防止剤および金属不活性化剤はポリオレフィン系樹脂への溶解性が低いため、成形品の表面にブリードアウトするという問題点があり、また高温で長期に渡る厳しい条件では化学的に変質して劣化防止効果を消失するという問題点があった。銅害防止剤は金属イオンにキレート化し安定化することによって、その触媒作用(劣化反応促進)を抑制する。しかし、一般に使用される銅害防止剤は加水分解性の化学構造を有するため、強酸性または強アルカリ性の環境では加水分解を受け、金属イオンへのキレート能力が消失し、劣化防止効果もなくなってしまう。金属不活性化剤も、強酸性または強アルカリ性の水が接触する環境下では、包含される樹脂組成物またはその成形品であるシート等からブリードアウトするという問題点があり、また化学的に変質して効果が短時間に消失してしまうという問題点があった。
【0006】
劣化促進の原因である金属イオンを捕捉する方法として、イオン交換樹脂を用いることも考えられる。しかし、一般に用いられるイオン交換樹脂は耐熱性が低いため、イオン交換樹脂を含む樹脂組成物を溶融成型する過程で高温に晒され、イオン交換機能を失ってしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、一般的に使用される銅害防止剤および金属不活性化剤が抱える課題、即ち包含される樹脂組成物およびシートからブリードアウトし易く、また強酸性または強アルカリ性の水が接触する環境下では、化学的に変質して効果が短時間に消失してしまうという問題点を解決する手段を検討した結果、特定の無機イオン交換体を使用することにより、酸またはアルカリの厳しい環境中でも長時間にわたり銅害防止効果を発揮することを発見し、これにより上記課題を解決するにいたった。
【0008】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
[1]無機イオン交換体からなる銅害防止剤。
[2]無機イオン交換体が、陽イオン交換型および/または両イオン交換型である[1]に記載の銅害防止剤。
[3]無機イオン交換体が、両イオン交換型のアルミニウム-マグネシウム-ジルコニウム系化合物を含むものである[1]または[2]に記載の銅害防止剤。
[4]下記(A)~(C)の成分からなる樹脂組成物。
(A)ポリオレフィン系樹脂 95~99.9質量%
(B)[1]~[3]のいずれか1つに記載の銅害防止剤 0.05~3.0質量%
(C)酸化防止剤 0.05~3.0質量%
[5]前記(A)成分が、構成単位としてプロピレンを50質量%以上含むポリオレフィン系樹脂である[4]に記載の樹脂組成物。
[6]前記(A)成分が、35~75J/gの結晶化熱および5~25g/10分のメルトフローレイトを有するポリオレフィン系樹脂である[4]または[5]に記載の樹脂組成物。
[7]前記(C)成分が、フェノール系の連鎖停止剤、リン系の過酸化分解剤および硫黄系の過酸化物分解剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含むものである[4]~[6]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[8][4]~[7]のいずれか1つに記載の樹脂組成物を加工してなる成形品。
[9][4]~[7]のいずれか1つに記載の樹脂組成物を加工してなるシートまたはフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る銅害防止剤は、その成分である無機イオン交換体が優れた銅害防止効果を持つのに加えて、成形品、シートおよびフィルム内に留まり、かつ強酸性または強アルカリ性の水が接触する環境下でも銅害防止剤としての効果が長続きする。その結果、高温で金属および強アルカリ性の水が接触する厳しい条件下でも優れた耐久性を発揮する樹脂組成物、並びにその成形品、シートおよびフィルムが得られた。
【0010】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る樹脂組成物は、銅害防止効果および耐久性に特に優れるため、遷移金属類と直接または間接的に接する成形部品として利用した時に特長を発揮する。ここで、遷移金属類とは、遷移金属、遷移金属化合物または遷移金属イオン化合物を意味する。
具体的な遷移金属としては、マンガン、チタン、鉄、コバルト、クロム、銅、バナジウム、ニッケル、ケイ素、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、イッテルビウム、エルビウム、ネオジウム、モリブデンおよびルテニウム等が挙げられる。本開示の樹脂組成物は、特にクロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅に対して耐金属劣化性の改良効果がより顕著となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の態様(本開示の銅害防止剤)を構成する原料成分等について以下に詳しく説明する。
(B)成分:無機イオン交換体からなる銅害防止剤
本開示の銅害防止剤(以下(B)成分とも称する。)を構成する無機イオン交換体は、銅害等金属との接触によって起きる樹脂劣化現象を防ぐための必須成分である。後述の本開示の樹脂組成物中では0.05~3.0質量%含有させる。
【0012】
一般に、無機イオン交換体には、陽イオン交換型、陰イオン交換型および両イオン交換型がある。
陽イオン交換型無機イオン交換体は陽イオン吸着サイトを有する無機化合物であり、代表例としては、リン酸ジルコニウム(層状および網目状)、五酸化アンチモン、並びにケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
陰イオン交換型無機イオン交換体は陰イオン吸着サイトを有する無機化合物であり、代表例としては、含水酸化チタン、含水酸化ジルコニウム、オキシ硝酸水酸化ビスマス、ハイドロキシアパタイトおよびハイドロタルサイト類化合物等が挙げられる。
両イオン交換型無機イオン交換体は陽イオン吸着サイトと陰イオン吸着サイトを同時に有する両イオン交換性の無機化合物であり、代表例としては、アンチモン-ビスマス系、ジルコニウム-ビスマス系およびアルミニウム-マグネシウム-ジルコニウム等が挙げられる。
また、陽イオン交換型と陰イオン交換型を併用して両イオン交換型とすることもできる。
【0013】
本開示の銅害防止剤としては、陽イオン交換型および/または両イオン交換型の無機イオン交換体が好ましく用いられ、両イオン交換型の無機イオン交換体がより好ましく用いられる。両イオン交換型の無機イオン交換体としては、アルミニウム-マグネシウム-ジルコニウム化合物を含む無機イオン交換体が更に好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様(本開示の樹脂組成物)を構成する原料成分等について以下に詳しく説明する。
(A)成分:ポリオレフィン系樹脂
本開示の樹脂組成物の主成分であるポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、非晶性ポリプロピレン、結晶性ポリプロピレンおよびポリ-4-メチルペンテン等の単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体およびエチレン-アクリル酸エステル共重合体等の共重合体、並びに塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレン等の各種重合体の変性体も使用できる。
【0015】
当該ポリオレフィン系樹脂(以下、「ポリオレフィン系樹脂(A)」と称する。)の中でも構成単位としてプロピレンを50質量%以上含むもの(以下、「ポリプロピレン系樹脂」と称する。)が好ましく用いられ、プロピレンは70質量%以上であることがより好ましい。プロピレンが50質量%以上含有すると、本発明の樹脂組成物の剛性および耐熱性が高くなるため好ましい。
【0016】
当該ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体または共重合体であり、共重合単位としては、エチレン、並びに1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンおよび4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンが挙げられる。共重合様式としてはランダム共重合体以外にブロック共重合体またはグラフト共重合体でもよい。
共重合体としては、具体的にはプロピレン-エチレンランダム共重合体が挙げられる。
また、当該ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンランダム共重合体等の混合物も挙げられる。
【0017】
本開示の樹脂組成物に力学特性、特に強靭性を付与したい場合は、当該ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンランダム共重合体の混合物であることが好ましい。この際のプロピレン-エチレンランダム共重合体の含有量は、当該混合物全体に対して5~40質量%が好ましく、プロピレン-エチレンランダム共重合体中の構成単位におけるエチレンが当該ランダム共重合体全体に対して0.1~20質量%含有することがより好ましい。
【0018】
当該ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、重合触媒を用いる公知の製造方法が挙げられる。重合触媒としてはチーグラー触媒およびメタロセン触媒等が挙げられ、重合方法としてはスラリー重合および気相重合等が挙げられる。ポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンランダム共重合体の混合物は、プロピレンの単独重合体とプロピレン-エチレンランダム共重合体を別途製造した後に混合する等により得られる。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂(A)は、接着性、印刷特性または混和性等の付与を目的として、溶融状態または溶液状態で、α,β-不飽和カルボン酸およびその無水物、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「α,β-不飽和カルボン酸(無水物)」という。)をラジカル発生剤の存在下でグラフト反応させて得られる変性されたポリオレフィン系樹脂であってもよい。
α,β-不飽和カルボン酸(無水物)としては、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アクリル酸およびメタクリル酸等が挙げられ、その誘導体としては、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。この中で、変性効果が高いことから、マレイン酸および無水マレイン酸が好ましく用いられる。
【0020】
変性されたポリオレフィン系樹脂におけるα,β-不飽和カルボン酸(無水物)またはその誘導体の含有量は、当該変性されたポリオレフィン系樹脂全体に対して0.01質量%~10質量%であることが好ましい。0.01質量%以上で変性効果が発揮され、10質量%以下でポリオレフィン系樹脂(A)の分子量低下が少なく、本開示の樹脂組成物の力学強度が維持される。
【0021】
グラフト反応の温度は、溶液の場合80~160℃、溶融反応の場合は150~300℃が好ましい。各々反応温度が下限値以上で反応率が高く、上限値以下で樹脂の分子量低下が少なく、本開示の樹脂組成物の機械的強度が維持される。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂(A)の質量平均分子量はポリスチレン換算で10,000~1,000,000が好ましく、50,000~300,000がより好ましい。分子量が10,000以上で機械的強度および耐久性が高くなり、1,000,000以下では溶融粘度が高過ぎず成形が容易となる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂(A)は、35~75J/gの結晶化熱を有することが好ましい。
結晶化熱が35J/g以上で剛性および耐熱性が高く、75J/g以下では樹脂が脆くならず、接触材料との密着性および接着性が良好である。
【0024】
なお、本発明において、結晶化熱とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、200℃から毎分10℃の速度で30℃まで降温する過程で生ずる発熱ピークの面積から計算される値である。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂(A)の融点は、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上である。融点が140℃以上で本発明の樹脂組成物の剛性および耐熱性が高くなる。
なお、この際の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用い、一度180℃で数分保持したのち0℃まで冷却し、その後毎分10℃で200℃まで昇温する過程で生ずる吸熱ピーク頂点の温度である。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂(A)は、5~25g/10分のメルトフローレイトを有することが好ましい。メルトフローレイトが5g/10分以上で溶融粘度が高すぎず成形が容易となり、生産性が高く、25g/10分以下で強度、耐久性および耐熱性が良好となる。
【0027】
本発明において、メルトフローレイトは、JIS K7210:2014に基づき樹脂温度230℃、荷重2.16kgで測定した値である。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂(A)には、オレフィン以外の共重合単位およびポリオレフィン以外の樹脂成分を、40質量%以内の範囲内で含んで構わない。
オレフィン以外の共重合単位としては、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンおよびフッ化ビニリデン等が挙げられる。
ポリオレフィン以外の樹脂成分としては、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸(アルキルエステル)、ポリメタクリル酸(アルキルエステル)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびその水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物、並びにスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物等が挙げられる。
【0029】
(C)成分:酸化防止剤
本開示の樹脂組成物に含まれる酸化防止剤は、酸化反応による樹脂劣化現象を防ぐための必須成分であり、樹脂組成物では0.05~3.0質量%含有させる。
一般に酸化防止剤は作用機構の違いから、連鎖停止剤および過酸化物分解剤に分類でき、両者が共存することによってより安定した酸化防止効果が発揮される。
【0030】
連鎖停止剤は、熱または酸素によって材料分子内に発生したラジカルを捕捉して連鎖反応を止め、酸化を防ぐ機能を持つ。連鎖停止剤としては、フェノール類および芳香族アミン類等が挙げられる。
連鎖停止剤の具体例としては、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、テトラキス[メチレン-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、1,3,5-トリス2[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアネート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオビス-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデン-ビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)およびトコフェロール類等が挙げられる。
【0031】
過酸化物分解剤は、酸化反応とラジカル補足反応で生成したハイドロパーオキシドを分解(還元)して安定な化合物に変え、新たな連鎖開始を防ぐ。リン系および/または硫黄系の過酸化物分解剤が好ましく用いられる。
【0032】
リン系過酸化物分解剤の具体例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリステアリルソルビトールトリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ジフェニレンジホスホナイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)メチルホスファイト、2-(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-5-エチル-5-ブチル-1,3,2-オキサホスホリナン、2,2’,2’’-ニトリロ[トリエチル-トリス(3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル)ホスファイトおよびそれらの混合物等が挙げられる。
【0033】
硫黄系過酸化物分解剤の具体例としては、ネオペンタンテトライルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、トリデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’-チオジプロピオネートおよびビス[2-メチル-4-(3-n-アルキル(C12~C14)チオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0034】
連鎖停止剤および過酸化物分解剤は組み合わせて用いることが好ましく、中でもフェノール系連鎖停止剤、並びにリン系および/または硫黄系過酸化物分解剤を組み合わせることが好ましい。
【0035】
その他の成分
本開示の樹脂組成物には、実用するに当たって、その他の成分として、ポリオレフィン系樹脂(A)以外の樹脂成分、充てん剤、補強用繊維および各種添加剤等を添加してもかまわない。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂(A)以外の樹脂成分としては、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンおよびポリエーテルエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチック;ポリアセタール、ポリブチレンテレフチレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、6ナイロンおよび66ナイロン等の汎用エンジニアリングプラスチック;並びに、ポリスチレン、アクリル樹脂およびポリ塩化ビニル等の汎用プラスチックが挙げられる。
【0037】
充てん剤としては、タルク、マイカ、クレイ、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、シリカ、ガラスビーズ、窒化アルミニウムム、窒化ホウ素、アルミナおよび酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
補強用繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、セルロース、ナノセルロースおよび金属繊維、並びにこれらのフレークおよびウィスカ等が挙げられる。
【0039】
各種添加剤としては、離型剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、造核剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、発泡剤および酸化防止剤等が挙げられる。
【0040】
樹脂組成物の製造
本開示の樹脂組成物の製造方法としては、例えば次の方法が挙げられる。
上記の(A)~(C)成分および必要に応じてその他の成分を、押出機、バンバリーミキサーまたは熱ロール等で溶融混錬し、ダイスヘッドのノズル孔より押出されたストランドを水等で冷却固化し、ペレット状に切断する等の方法で製造できる。溶融混練の温度は、170~300℃が好ましく、より好ましくは180~270℃であり、混練時間は、1~30分が好ましく、より好ましくは3~15分である。また、(A)~(C)成分およびその他の成分の混練は同時に行ってもよく、分割して行ってもよい。
【0041】
成形品の製造
このようにして得られた樹脂組成物は、従来公知の方法、例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、多層押出成形、異形押出成形または中空成形により、用途に応じた各種形状の成形品とすることができる。接着およびシール用途に好適なシートまたはフィルムを製造する場合は、例えば単軸押出機で溶融状態にしたのちTダイのスリットから押出し、ロールを通して所定厚みのシート状に成型し、冷却して巻き取れる方法等が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
なお、以下において「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0043】
製造例1(無水マレイン酸変性プロピレン共重合体の製造)
二軸スクリュ押出機((株)日本製鋼所製 TEX25α-III)に、プロピレン・α-オレフィン共重合体(三井化学(株)製 タフマーXM-7090)100質量部、無水マレイン酸 5質量部およびパーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日本油脂(株)製)0.8質量部を投入し、以下の条件で混錬して、無水マレイン酸変性プロピレン共重合体(MAH-PP)を得た。得られた重合体は、滴定により測定した無水マレイン酸量が約0.7%、結晶化熱は61.6J/g、メルトフローレイト(2.16kg荷重、230℃)は約15g/10分であった。
なお、前記押出機の運転条件は次のとおりの。
シリンダー温度 170~190℃
スクリュ回転数 150rpm
【0044】
比較例1~3および実施例1~3
製造例1の無水マレイン酸変性プロピレン共重合体(MAH-PP)、市販の銅害防止剤、無機イオン交換体、並びに酸化防止剤(連鎖停止剤、リン系過酸化物分解剤および硫黄系過酸化物分解剤)を、表1に示した配合組成で混合し、製造例1と同じ押出機を使用して樹脂温度約180℃で溶融混錬し、ストランドを水冷後ペレタイザーでカットして樹脂組成物のペレットを得た。使用原料および略号は次の通りである。
【0045】
・銅害防止剤:(株)ADEKA製 商品名「アデカスタブCDA-1」(2-Hydroxy-N-1H-1,2,4-triazol-3-ylbenzamide) 略号「CDA-1」
・銅害防止剤:BASFジャパン(株)製 商品名「Irganox MD 1024」(N,N'-Bis[3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionyl]hydrazine) 略号「MD-1024」
・無機イオン交換体:東亞合成(株)製 商品名「IXEPLAS-A1」(アルミニウム-マグネシウム-ジルコニウム系の両イオン交換型、微粒子タイプ標準グレード) 略号「無機イオン交換体A1」
・連鎖停止剤:(株)ADEKA製 商品名「アデカスタブAO-330」(1,3,5-tris(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenylmethyl)-2,4,6-trimethylbenzene) 略号「AO-330」
・リン系過酸化物分解剤:BASFジャパン(株)製 商品名「Irgafos168」(Tris(2,4-ditert.-butylphenyl)phosphite) 略号「I-168」
・硫黄系過酸化物分解剤:(株)ADEKA製 商品名「アデカスタブAO-412S」(2,2-Bis[[3(dodecylthio)-1-oxopropoxy]methyl]propane-1,3-diyl bis[3-(dodecylthio)propionate]) 略号「AO-412S」
【0046】
得られたペレットを、卓上用プレス機を用いて約180℃でプレスし、厚み約200μmのフィルム状試料を得た。市販の銅箔と重ね合わせて160℃でプレスし、銅害試験用の金属接触試料を得た。
【0047】
<銅害試験>
前記金属接触試料を加速劣化試験として120℃の乾燥器内に20週間まで保持し、1週ごとにフィルムの外観観察とIR測定(ATR法)により劣化状態を追跡した。ATRにおいては、スペクトルの1715cm-1のカルボニル基吸収ピークの、1460cm-1のCHピークに対するピーク比で評価した。ピーク比は徐々に増加するが、ある時点で試料の一部が顕著に劣化し(ピーク比>0.5)、その後劣化部位が試料全体に広がった。
この試料の一部の劣化(ピーク比>0.5)を確認した時間を劣化開始時間(週)とし、結果を表1に示した。
【0048】
<アルカリ液浸漬試験>
銅害試験とは別に、(a)市販の銅害防止剤および(b)無機イオン交換体の耐アルカリ性を調べるため、アルカリ浸漬試験を実施した。浸漬用アルカリ溶液は、48%KOH水溶液を使用した。フッ素樹脂製の容器に当該アルカリ溶液を入れ、ここに厚み約200μmの前記フィルム状試料を浸漬し、キャップを絞めて90℃の乾燥器内に保管し、1週間後と5週間後の試料を取り出して、フィルム内の銅害防止剤の残存量を下記の方法で定量した。残存率を表1に示した。
【0049】
(a)市販の銅害防止剤の分析方法
各サンプルについて下記の要領で、前処理を行い、フォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフ分析機(LC/PDA)に供し、205nmの波長を用いて絶対検量線法で定量を行った。
【0050】
(1)前処理
1)6mLバイアル瓶にサンプルを細かく切って10mg精秤した。
2)そこへ、クロロホルム1.0gを量り取った。
3)蓋が緩まないようにシールテープで固定し、15分間超音波抽出を行った。
4)上澄みを0.45μmフィルターでろ過した。
5)1.5mL ASバイアル瓶にろ液を100μL採取し、HPLC用アセトニトリルを0.9mL加えてよく振り混ぜて、LC/PDAに供した。
【0051】
(2)標準液の調整
1)10mLメスフラスコに各標品100mLを精秤した。
2)クロロホルムでメスアップした(10000ppm溶液を調整)。
3)10mLメスフラスコに10000ppm溶液を5mL採取し、アセトニトリルでメスアップした(5000ppm)。
4)同様に、25,50,100,500,1000,2000,5000ppm溶液を調整し、LC/PDAに供して検量線を作成した。
【0052】
(3)LC/PDA測定条件
装置:(株)島津製作所製 LC-20Aシリーズ
カラム:Xbridge C18 (2.1mm×150mm,3.5μm)
ガードカラム:Inertsil(登録商標)ODS-3(1.5mmID×10mm)
カラム温度:40℃
溶離液:水/アセトニトリル =40/60-0/100(5-30分)
流速:0.3mL/分
検出器:PDA(200-400nm) (定量:205nm)
試料 注入量:5μL
【0053】
(b)無機イオン交換体の分析方法
アルカリ浸漬前後のIXEPLAS-A1のCuイオン捕捉容量の変化、およびアルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウム含有量を分析により求めた。
・Cuイオン捕捉試験
1)30mLのポリ容器に、IXEPLAS-A1 0.3gを入れ、0.05Mの硫酸銅水溶液を15mL投入し、密栓して室温で20時間浸透した。
2)口径0.2mLのメンブランフィルターでろ過し、ろ液中のCuイオン濃度をICP発光分析により測定し、Cu捕捉容量(残存量)を調べた。残存率を表1に示した。
・アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム成分分析
IXEPLAS-A1を1:1硝酸とフッ化水素酸で溶解し、溶液中のアルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウム濃度をICP発光分析により測定し、アルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウム含有量を調べた。
【0054】
銅害試験の結果から、次のことが分かった。
・比較例1~3と実施例1の比較から、無機イオン交換体A1は、市販の代表的な銅害防止剤であるCDA-1およびMD-1024と同等の銅害防止効果がある。
・実施例1と実施例2の比較から、無機イオン交換体A1の添加量を増やせば、銅害防止効果も向上する。
・実施例1と実施例3の比較から、過酸化物分解剤はリン系、硫黄系ともに有効である。
【0055】
また、アルカリ液浸漬試験の結果から、次のことが分かった。
市販の銅害防止剤が短時間で、銅イオン捕捉容量が消失または失活するのに対し、無機イオン交換体IXEPLAS-A1は全く減少しなかった。
また、無機イオン交換体IXEPLAS-A1は、アルカリ浸漬前後でのアルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウム含有量に変化はなく、強アルカリ性の厳しい環境でも安定に銅害防止効果を発揮できることが証明された。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の樹脂組成物、並びにこれを加工してなる成形品並びにシートおよびフィルムは、特に遷移金属類と直接的または間接的に接する用途に好適に用いられる。例えば、金属導体または光ファイバーを樹脂成形品で被覆した電線・ケーブル、自動車機構部品、自動車外装品、自動車内装品、給電用成形基板、光源反射用光反射板、固体メタノール電池用燃料ケース、金属パイプ用断熱材、車両用断熱材、燃料電池配水管、加飾成形品、水冷用タンク、ボイラー外装ケース、プリンターのインク周辺部品・部材、水配管、継ぎ手等の成形部品、二次電池電アルカリ蓄電池槽、並びに層状電池のガスケットシール材等が挙げられる。