(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】パラミロン系樹脂、成形用材料および成形体、並びにパラミロン系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
C08B37/00 Q
C08B37/00 C
(21)【出願番号】P 2022519639
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017596
(87)【国際公開番号】W WO2021225172
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020082878
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 環境省 CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業(藻類バイオマスの効率生産と高機能性プラスチック化による協働低炭素化技術開発)産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】志村 緑
(72)【発明者】
【氏名】田中 修吉
(72)【発明者】
【氏名】位地 正年
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218566(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077340(WO,A1)
【文献】特開2018-141904(JP,A)
【文献】特開2017-101177(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013232(WO,A1)
【文献】SHIBAKAMI Motonari, et al.,Thermoplasticization of euglenoid beta-1,3-glucans by mixed esterification,Carbohydrate Polymers,2014年,Vol.105,p.90-96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分、及び/又は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロン系樹脂であって、
前記パラミロンの重量平均分子量が140000超~220000の範囲にあり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.5以下であり、前記パラミロン中のタンパク質含有量が、0.22質量%~5.0質量%であり、かつ、
前記長鎖成分による置換度(DS
Lo)と前記短鎖成分による置換度(DS
Sh)が、以下の式(S1)、式(L1)および式(T1)を満たす、パラミロン系樹脂。
1.7 ≦ DS
Sh ≦ 2.8 (S1)
0 ≦ DS
Lo ≦ 0.4 (L1)
2.1 ≦ DS
Lo+DS
Sh ≦ 2.8 (T1)
【請求項2】
以下の式(S2)および式(L2)を満たす、請求項1に記載のパラミロン系樹脂。
1.7 ≦ DS
Sh <2.8 (S2)
0 < DS
Lo ≦ 0.4 (L2)
【請求項3】
以下の式(S3)および(L3)を満たす、請求項1または2に記載のパラミロン系樹脂。
1.9 ≦ DS
Sh ≦ 2.4 (S3)
0.18 ≦ DS
Lo ≦ 0.4 (L3)
【請求項4】
以下の式(S4)および式(L4)を満たす、請求項1に記載のパラミロン系樹脂。
2.1 ≦ DS
Sh ≦ 2.8 (S4)
DS
Lo = 0 (L4)
【請求項5】
さらに、下記式(T2)を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
5≦ DS
Sh/DS
Lo ≦ 25 (T2)
【請求項6】
パラミロン中の色素の含有量が20μg/g以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
【請求項7】
前記長鎖成分がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分である、請求項1~3、5および6のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂を含む成形用材料。
【請求項9】
請求項8に記載の成形用材料を用いて形成された成形体。
【請求項10】
培養された
ユーグレナを有機溶媒で処理して、有機溶媒に
不溶な成分として、パラミロンを含む固形分を得る分離工程と、
前記固形分を界面活性剤で処理して第1のパラミロンを得る界面活性剤処理工程と、
前記第1のパラミロンを、酸またはアルカリにより加水分解して第2のパラミロンを得る加水分解工程と、
前記第2のパラミロンのヒドロキシ基をアシル化するアシル化工程と、
を含み、
前記第2のパラミロンが、重量平均分子量が140000超~220000の範囲にあり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.5以下であり、かつ、前記第2のパラミロン中のタンパク質含有量が、0.22質量%~5.0質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラミロン系樹脂、成形用材料および成形体、並びにパラミロン系樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物成分を原料とするバイオプラスチックは、石油枯渇対策や温暖化対策に寄与できるため、包装、容器、繊維などの一般製品に加え、電子機器、自動車等の耐久製品への利用も開始されている。
【0003】
しかし、通常のバイオプラスチックは、デンプン等の食用成分を原料としているため、将来の食料不足への懸念から、非食用の植物成分を原料とする新しいバイオプラスチックの開発が求められている。
【0004】
非食用の植物成分としては、木材や草木の主要成分であるセルロースが代表的であり、これを利用したバイオプラスチックが開発され、一部製品化されている。
【0005】
セルロースは、木材等に含まれるリグニンやヘミセルロースを、薬剤を用いて除くことで得られる。または、綿はほぼセルロースでできているため、このまま用いることができる。セルロースは、β-1,4グルコースが重合した高分子であるが、ヒドロキシ基に由来する水素結合によって強力な分子間力を持つため熱可塑性がない。また、特殊な溶媒を除き、溶媒溶解性も低い。さらに、親水性基であるヒドロキシ基を多く有するため吸水性が高く、耐水性が低い。
【0006】
このため、セルロースのヒドロキシ基の水素原子をアセチル基等の短鎖アシル基で置換してセルロースの分子間力を下げ、さらに可塑剤を添加することで熱可塑性が付与されている。さらに、アセチル基のような短鎖有機基だけでは熱可塑性や耐水性は不十分である場合は、短鎖有機基に加えて、より炭素数の多い長鎖有機基をセルロースに導入することが行われる場合もある。導入された長鎖有機基が疎水性の内部可塑剤として機能し、セルロース誘導体の熱可塑性や耐水性が改良される。
【0007】
セルロース以外の非食用成分の植物原料として、藻類バイオマスに注目が集まっている。藻類は農地に適さない土地でも培養でき、食糧生産と競合することがない上に、CO2、栄養塩、太陽光によって循環的に培養を繰り返すことができる。そのため、化石資源の代替として持続的な利用が可能である。さらに藻類は、有用な有機成分、特にバイオプラスチックの主要成分として有効な長鎖脂肪酸や多糖類などを高効率で生産することも可能である。このような藻類由来の多糖類として、β-1,3グルカン(パラミロン)が知られている。パラミロンはグルコースの重合体(重合度700-750)で、β-1,3結合のみで構成されるという特徴を持つ。セルロースと同様に、パラミロンもヒドロキシ基に由来する水素結合によって強力な分子間力を持つため、熱可塑性がない。
【0008】
このため、パラミロンを使ったバイオプラスチックに関しては、セルロースと同様に、パラミロンにアセチル基や長鎖有機基などを付加させることで、熱可塑性を有するパラミロン誘導体が開発されている。
【0009】
特許文献1には、パラミロンの重量平均分子量が70000~140000の範囲にあり、該パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、長鎖成分と短鎖成分で置換され、それらの置換度が所定の範囲内にあり、かつ所定のアイゾット衝撃強度とメルトフローレートを有するパラミロン系樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、重量平均分子量が70000~140000の範囲のパラミロンから得られるパラミロン系樹脂について記載されているものの、重量平均分子量が140000より大きいパラミロンおよびこれから得られるパラミロン系樹脂について詳細な検討は行われていない。一方、例えば光合成培養した藻類から得られるパラミロンは、パラミロン以外の成分が多く含まれることにより分子量を140000以下に調整することが困難な場合があり、分子量が大きいパラミロンからでも物性の優れたパラミロン系樹脂を得る方法の開発が求められていた。
【0012】
本発明の目的は、機械特性および熱可塑性に優れたパラミロン系樹脂、これを用いた成形用材料および成形体、並びにパラミロン系樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態の一態様によれば、
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分、及び/又は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロン系樹脂であって、
前記パラミロンの重量平均分子量が140000超~220000の範囲にあり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.5以下であり、前記パラミロン中のタンパク質含有量が、0.22質量%~5.0質量%であり、かつ、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)と前記短鎖成分による置換度(DSSh)が、以下の式(S1)、式(L1)および式(T1)を満たす、パラミロン系樹脂が提供される。
1.7 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S1)
0 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L1)
2.1 ≦ DSLo+DSSh ≦ 2.8 (T1)
【発明の効果】
【0014】
本実施形態によれば、機械特性および熱可塑性に優れたパラミロン系樹脂、これを用いた成形用材料および成形体、並びにパラミロン系樹脂の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態によるパラミロン系樹脂は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分、及び/又は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロン誘導体である。本明細書においては、「パラミロン系樹脂」のことを「パラミロン誘導体」とも記載する。
【0016】
<パラミロン>
まず、本実施形態のパラミロン系樹脂の製造に用いられるパラミロン(長鎖成分と短鎖成分の導入前)について説明する。
【0017】
パラミロンは、下記式(101)で示されるβ-D-グルコース分子(β-D-グルコピラノース)がβ(1→3)グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。パラミロンを構成する各グルコース単位は三つのヒドロキシ基を有している(式中のnは自然数を示す)。本発明の実施形態では、このようなパラミロンに、これらのヒドロキシ基を利用して、短鎖有機基および/または長鎖有機基を導入することができる。
【0018】
【0019】
パラミロンは、藻類(特にユーグレナ)の主成分である。パラミロンは、ユーグレナに貯蔵多糖として蓄積された多糖類であり、栄養条件などの環境によりエネルギー源として貯蔵または消費されるものである。本実施形態において、パラミロンを抽出するユーグレナは、光合成条件下で培養したものであってもよいし、炭素源が追加された培地を用いた従属栄養条件下で培養したものであってもよい。光合成条件下でユーグレナを培養すると、二酸化炭素を細胞内に取り込みながら増殖するので、大気中の二酸化炭素を固定化できるという利点を持つ。また、従属栄養条件下でユーグレナを培養すると、光合成のための葉緑素は退化するので色素量が少なくなり、パラミロン系樹脂の成形体の透明性が高くなる。パラミロンはグルコースからのみ成り、Euglena gracilisから得たパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700~750であることが知られている。GPCにより測定したパラミロン(後述の加水分解工程前のパラミロン)の重量平均分子量は240000程度である。
【0020】
本発明の実施形態によるパラミロン系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が140000より大きく220000以下の範囲にあるパラミロンに、そのパラミロンのヒドロキシ基を利用して、長鎖成分および/または短鎖成分が導入されたものであることが好ましい。パラミロンのMwは、好ましくは150000以上であってもよく、また好ましくは200000以下であってもよい。パラミロンの重量平均分子量が低すぎると、パラミロン中のタンパク質含有量が規定の範囲内であっても、製造した樹脂の熱可塑性が高くなりすぎてしまい、成形に支障をきたす場合がある。逆に、重量平均分子量が高すぎると、製造した樹脂の不均質性が高く、曲げ破壊ひずみが不十分となってしまう場合がある。また、重量平均分子量が高すぎると、熱可塑性が不十分となり、成形に支障をきたす場合がある。パラミロンの分子量は後述する酸またはアルカリによる加水分解工程における加水分解条件により制御することができる。
【0021】
また、該パラミロンの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、6.5以下であることが好ましく、6.3以下であることがより好ましく、6.0以下であることがさらに好ましく、下限は好ましくは2.0以上であればよい。パラミロンの分子量分布が6.5以下であることにより、均質性の高いパラミロン系樹脂を得やすくなる。パラミロンの数平均分子量(Mn)は特に限定はされないが、例えば30000~70000であるのが好ましい。
【0022】
パラミロンの重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により以下の条件で測定した値である。
【0023】
(パラミロンのGPC測定条件)
カラム:PLgel20μmMIXED-A(製品名、アジレントテクノロジー(株)製)
溶離液:ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液(0.1M LiCl)
流速:0.5mL/min
検出器:RI(示差屈折率)(東ソー(株)製RI-71型201(16X))
温度:23.0℃
標準試料:Pullulan standard
【0024】
本実施形態において、パラミロン(後述の第2のパラミロン)中のタンパク質含有量は、0.22質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは0.24質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、上限は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.8質量%以下である。パラミロン中のタンパク質含有量は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。パラミロン中のタンパク質含有量が0.22質量%以上であると、製造した樹脂の熱可塑性が十分となり、成形性が良好となる。一方、パラミロン中のタンパク質含有量が5質量%以下であると、曲げ強度等の機械的特性と耐熱性の両方に優れたパラミロン系樹脂が得やすく、また、該パラミロン系樹脂の透明性も向上する。
【0025】
本実施形態に用いるパラミロン(後述の第2のパラミロン)中の色素量は、20μg/g以下であるのが好ましく、0μg/gであってもよい。パラミロン中の色素量は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。パラミロン中の色素量が20μg/g以下であることにより、パラミロン系樹脂およびこれを含む材料を用いて形成された成形体の透明性が向上する。
【0026】
パラミロンには、本願発明の効果を損なわない範囲で、類似の構造物、例えばセルロース、キチン、キトサン、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、カードラン等が混合されていてもよい。このような類似の構造物が混合されている場合は、その類似の構造物の含有量は混合物全体に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
上記説明はパラミロンを対象としているが、この類縁体として、通常の非食用の多糖類、すなわち、セルロース、キチン、キトサン、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、カードランなどにも、本発明は適用可能である。
【0028】
本実施形態において、パラミロン系樹脂の製造に用いられるパラミロン(後述の第2のパラミロン)は、培養された藻類(好ましくはユーグレナ)から回収されたパラミロンを精製する工程(精製工程)と、精製されたパラミロンを加水分解する工程(加水分解工程)とを含む製造方法により得られる。以下、各工程について説明する。
【0029】
(パラミロンの精製工程)
培養後の藻類には、タンパク質、色素等のパラミロン以外の成分(他の成分)が含まれる。特に光合成条件下で培養したユーグレナから得られるパラミロンは、これら他の成分の含有量が多い。本実施形態においては、後述のパラミロンの加水分解工程の前にこれら他の成分を除去するパラミロンの精製工程(単に「精製工程」とも記載)を含むのが好ましい。パラミロンの精製工程は、培養された藻類を有機溶媒で処理して、有機溶媒に可溶な成分と、パラミロンを含む固形分(有機溶媒に不溶な成分)とに分離する分離工程と、該分離工程により分離された固形分を界面活性剤で処理し、第1のパラミロンを得る界面活性剤処理工程とを含む。分離工程においては、有機溶媒に可溶な成分として色素が除去され、界面活性剤処理工程においてはタンパク質が除去される。
【0030】
(分離工程)
分離工程は、培養された藻類を有機溶媒で処理して、有機溶媒に可溶な成分(クロロフィル等の色素を含む)と、有機溶媒に不溶な成分(パラミロンを含む)とを分離する工程である。培養後の藻類はそのまま用いてもよいが、濃縮するのが好ましい。濃縮方法は、特に限定されないが、培養液の遠心分離、重力分離、吸引ろ過、また、凝集剤を用いた重力による沈降などの方法も可能である。凝集剤を用いる場合、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの無機系凝集剤を用いるのが好ましい。例えば、硫酸マグネシウムで凝集する場合、培養液に硫酸マグネシウムを添加後、凝集助剤として水酸化ナトリウムなどを使って培養液のpHをアルカリ性(pH10~12)に調整することで水酸化マグネシウムに変化させ、藻類とフロックを形成し凝集沈降させる。上澄み液を分離後、沈殿液に硫酸を加えて酸性(pH2~4)にすることで、水酸化マグネシウムは水溶性の硫酸マグネシウムへと戻るので、水洗によりユーグレナから凝集剤を除去できる。pHを調整するための凝集助剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが使用できる。凝集剤を除去するための酸としては、塩酸、硫酸などが使用できる。
【0031】
濃縮後は、水を30~90%含む、濃縮された藻類が得られる。水の含有量は濃縮方法等によって異なる。この濃縮された藻類は乾燥させずに次の工程(有機溶媒で処理する工程)へ進むのが好ましい。乾燥させると、藻類細胞が収縮し、後の工程で有機溶媒および界面活性剤が細胞の中まで浸透しにくくなってしまい、色素、脂質、タンパク質などの処理効率が低下してしまう場合がある。
【0032】
濃縮した藻類(好ましくはユーグレナ)を有機溶媒で処理(脱色)し、これをろ過等で分離することにより、有機溶媒に可溶な成分(色素、脂質等を含む成分)と、それ以外の固形分(パラミロン、タンパク質等を含む成分)に分離できる。有機溶媒としては、エタノール,メタノール,プロパノール,ブタノール,エチレングリコール,ジエチルエーテル,酢酸,テトラヒドロフラン,ジオキサン,アセトン,エチルメチルケトン,ベンゼン,トルエン,キシレン,シクロヘキセン,ペンタン,ヘキサン,ヘプタン,アセトニトリル,クロロホルム等が挙げられ、これらのうち1種であっても2種以上の混合物であってもよく、クロロホルムとメタノールの混合物を用いるのが好ましい。例えば、クロロホルムとメタノールの混合比(体積比)が、8:2~3:7である有機溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒の使用量は、特に限定はされないが、乾燥質量1gに相当する藻類(特にユーグレナ)に対し、3mL~20mL程度であるのが好ましい。分離工程においては、濃縮した藻類と有機溶媒とを混合して脂質および色素を抽出し、撹拌してもよい。抽出回数は1回であってもよいが、2~3回行うのが好ましい。抽出温度は特に限定されず、例えば10~70℃が好ましく、20~60℃(好ましくは用いる有機溶媒の沸点以下)がより好ましい。また、抽出時間は特に限定されず、例えば、30分~24時間が好ましく、30分~15時間がより好ましく、30分~5時間程度がさらに好ましい。一態様として、濃縮した藻類と有機溶媒を混ぜて一晩静置しておくのが好ましい。
【0033】
(界面活性剤処理工程)
界面活性剤処理工程においては、上記分離工程において分離された固形分(有機溶媒に不溶な成分)を界面活性剤で処理して、固形分中に含まれるタンパク質をパラミロンから除去する。本明細書においては、界面活性剤処理工程後で、かつ、後述する加水分解工程前のパラミロンのことを「第1のパラミロン」とも記載する。パラミロン中のタンパク質は、後述する酸またはアルカリによるパラミロンの加水分解工程においても分解されるが、該工程の前に界面活性剤処理工程を含むことにより、加水分解工程における分子量の調整が行いやすくなり、かつ、パラミロンから得られるパラミロン系樹脂の物性が向上する。
【0034】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などが挙げられる。
【0035】
アニオン界面活性剤としては、デオキシコール酸ナトリウムなどのカルボン酸型界面活性剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸型界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの硫酸エステル型界面活性剤、ラウリルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル型界面活性剤などが挙げられる。
【0036】
カチオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキシド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)などが挙げられる。
【0037】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(製品名:Tween 20)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(製品名Triton X-100)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトシドなどが挙げられる。
【0038】
界面活性剤としては、安価であり分散力に優れるという観点から、ドデシル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0039】
界面活性剤処理工程では、水等の液体中で、上記分離工程で分離された固形分を界面活性剤で処理して、固形分に含まれるタンパク質が液中に分散されるのが好ましい。一態様として、該固形分と、界面活性剤の水溶液とを混合するのが好ましく、撹拌しながら混合してもよい。温度は、特に限定はされないが、液体の温度を、例えば40℃~95℃に調整するのが好ましい。界面活性剤処理工程においては、界面活性剤処理を複数回行ってもよい。例えば、固形分を界面活性剤で処理した後、冷却して遠心分離により固形分を取り出し、これを再度界面活性剤で処理してもよい。複数回(好ましくは2~5回)処理を行う場合、処理条件は、毎回同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、処理時間(複数回処理を行う場合は1回あたり)は、特に限定されないが、例えば10分間~2時間であるのが好ましい。
【0040】
界面活性剤処理工程において、液体中の界面活性剤の濃度は、特に限定はされないが、0.1~10質量%であるのが好ましく、0.1~5質量%、さらには0.1~2質量%であるのがより好ましい。また、界面活性剤の量は、特に限定はされないが、上記固形分100質量部に対して、0.1~50質量部であるのが好ましく、1~20質量部であるのがより好ましい。
【0041】
本実施形態において、界面活性剤処理工程後の第1のパラミロン中のタンパク質含有量は、特に限定はされないが、1~25質量%であるのが好ましく、2~19質量%であるのがより好ましく、3~15質量%であるのがより好ましい。第1のパラミロン中のタンパク質含有量が該範囲内にあることにより、後述のパラミロンの加水分解工程において、パラミロンの分子量および分子量分布の調整が行いやすくなる。また加水分解工程後のパラミロン中のタンパク質含有量も調整しやすくなり、得られるパラミロン系樹脂の特性が向上する。
【0042】
(パラミロンの加水分解工程)
加水分解工程においては、上記界面活性剤処理工程後の第1のパラミロンを、酸またはアルカリにより加水分解して、パラミロンの分子量を調整する。また、加水分解工程により、第1のパラミロン中に残留しているタンパク質が加水分解され、より精製されたパラミロンを得ることができる。本明細書において、加水分解工程後のパラミロンのことを「第2のパラミロン」とも記載する。本実施形態においては、この第2のパラミロンをパラミロン系樹脂の製造に用いる。
【0043】
加水分解工程に用いる酸またはアルカリとしては、塩酸、硫酸、水溶性の有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸など)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。例えば、塩酸を用いる場合、0.5~15%塩酸水溶液と第1のパラミロンとを反応させるのが好ましく、第1のパラミロン1gあたり、5~20倍の質量の塩酸水溶液と反応させるのがより好ましい。反応温度および反応時間は、第1のパラミロン中のタンパク質含有量、目的とするパラミロンの分子量等に応じて調整できるが、例えば50~100℃で、30分~7時間反応させるのが好ましい。加水分解工程後に中和または水で洗浄することで、酸やアルカリを除去することができる。
【0044】
第2のパラミロンの分子量、タンパク質含有量、および色素含有量は、加水分解条件により制御することができる。本発明者は、パラミロン系樹脂の製造に用いるパラミロン中のタンパク質含有量等を所定の範囲内に調整することにより、パラミロン系樹脂を用いて形成された成型体の曲げ破壊ひずみ、成形性等の物性が向上することを見出した。
【0045】
<パラミロン系樹脂>
本実施形態のパラミロン系樹脂は、上記パラミロン(第2のパラミロン)のヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分(単に「長鎖成分」とも記載)及び/又は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又はプロピオニル基)である短鎖成分(単に「短鎖成分」とも記載)で置換されたパラミロン系樹脂である。本実施形態のパラミロン系樹脂においては、長鎖成分による置換度(DSLo)と短鎖成分による置換度(DSSh)が、以下の式(S1)、(L1)および(T1)を満たすのが好ましい。
1.7 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S1)
0 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L1)
2.1 ≦ DSLo+DSSh ≦ 2.8 (T1)
【0046】
パラミロン系樹脂は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、長鎖成分と短鎖成分の両方で置換されていてもよいし、短鎖成分のみで置換されていてもよい。
【0047】
本実施形態のパラミロン系樹脂の好ましい一態様において、DSLoおよびDSShが、上記式(T1)に加え、以下の式(S2)および式(L2)を満たす。
1.7 ≦ DSSh <2.8 (S2)
0 < DSLo ≦ 0.4 (L2)
【0048】
本実施形態のパラミロン系樹脂のより好ましい一態様においては、上記式(T1)に加え、以下の式(S3)および式(L3)を満たす。
1.9 ≦ DSSh ≦ 2.4 (S3)
0.18 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L3)
【0049】
本実施形態のパラミロン系樹脂の好ましい一態様においては、以下の式(S4)および式(L4)を満たす。
2.1 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S4)
DSLo = 0 (L4)
【0050】
本実施形態のパラミロン系樹脂は、機械特性(曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破壊ひずみ等)、耐熱性および熱可塑性に優れ、かつ透明性が高く外観に優れる。
【0051】
本発明の実施形態によるパラミロン系樹脂のMFR(230℃、荷重20kgにおけるメルトフローレート)は、3g/10min以上であることが好ましい。このMFRは、流動性が低くなりすぎて成形への支障を防ぐ点から5g/10min以上が好ましく、7g/10min以上がより好ましく、10g/10min以上がさらに好ましい。MFRの上限は特に制限されないが、一般に200g/10min以下に設定することができ、また180g/10min以下が好ましく、150g/10min以下がより好ましく、100g/10min以下がさらに好ましい。MFRが大きすぎる場合は、タンパク質などの残留物が多く含まれる傾向にあり、これに応じて曲げ特性や成形体外観が悪くなる場合がある。MFRは実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0052】
本実施形態によるパラミロン系樹脂のガラス転移点(Tg)は、93℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましく、上限は特に限定されないが、例えば125℃程度である。Tgは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
本発明の実施形態によるパラミロン系樹脂を用いて実施例に記載の方法で成形体を製造したとき、得られた成形体の曲げ破壊ひずみは、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上である。曲げ破壊ひずみは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
(長鎖成分)
本発明の実施形態の一態様によるパラミロン系樹脂は、パラミロンのヒドロキシ基を利用して、短鎖成分に加えて長鎖成分が導入されたものである。
【0055】
長鎖成分は、パラミロン中のヒドロキシ基と長鎖反応剤とを反応させることで導入することができる。この長鎖成分は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入されたアシル基に相当する。また長鎖成分の長鎖有機基とパラミロンのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。この導入されたアシル基は炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基であり、炭素数14~30の直鎖状飽和脂肪族アシル基が挙げられ、炭素数14~22の直鎖状飽和脂肪族アシル基が好ましく、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸のカルボキシル基からOHを除いた基(テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イコサノイル基、ドコサノイル基)がより好ましい。
【0056】
長鎖反応剤は、パラミロン中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物であり、例えばカルボキシル基、カルボン酸ハライド基、又はカルボン酸無水物基を有する化合物を用いることができる。
【0057】
長鎖反応剤には、例えば、その炭素数が14以上の長鎖カルボン酸、およびその長鎖カルボン酸の酸ハライド又は酸無水物を用いることができる。これらのカルボン酸又はカルボン酸誘導体の飽和度ができるだけ高いことが望ましく、直鎖状飽和脂肪酸、その酸ハライド又は無水物が好ましい。長鎖カルボン酸の具体例としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の直鎖状飽和脂肪酸が挙げられ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が好ましい。さらに長鎖カルボン酸としては、環境調和性の観点からは、天然物から得られるカルボン酸であることが好ましい。天然物から得られるカルボン酸として、藻類から抽出した脂質由来のカルボン酸を使うことができる。例えば、ユーグレナから抽出した脂質から、水酸化カリウムによるけん化反応や高温高圧加水分解により遊離脂肪酸を得て、さらに水素添加反応を行うことでC14~C22混合飽和長鎖カルボン酸を得ることができる。
【0058】
この長鎖成分は、炭素数14以上のものが好ましく、16以上のものが特に好ましい。長鎖成分導入時の反応効率の点から、炭素数が48以下のものが好ましく、36以下のものがより好ましく、22以下のものが特に好ましい。この長鎖成分は一種単独であってもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0059】
パラミロンのグルコース単位あたりの導入された長鎖成分の平均個数(DSLo)(長鎖成分導入比率)、すなわちグルコース単位あたりの長鎖成分(炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、下記式(L1)を満たすのが好ましい。一態様において、DSLoは、0(すなわち長鎖成分を含まない)であってもよい。
0 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L1)
【0060】
本実施形態の一態様においては、下記式(L2)を満たすのがより好ましく、下記式(L3)を満たすのがさらに好ましい。
0 < DSLo ≦ 0.4 (L2)
0.18 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L3)
DSLoは、0.18以上であると十分な長鎖成分の導入効果を得ることができ、0.19以上であるとより好ましい。DSLoは、製造時の効率や耐久性(強度、耐熱性など)の観点から0.4以下であると好ましく、0.25以下であるとより好ましい。
【0061】
上述の長鎖成分をパラミロン又はその誘導体に導入することにより、その特性を改質することができ、例えば耐水性や熱可塑性、曲げ強度等の機械特性を向上することができる。
【0062】
(短鎖成分)
本発明の実施形態によるパラミロン系樹脂は、パラミロンのヒドロキシ基を利用して、長鎖成分に加えて、短鎖成分が導入されたものであってもよいし、短鎖成分のみが導入されたものであってもよい。短鎖成分として、アセチル基及び/又はプロピオニル基が好ましく、少なくともプロピオニル基を含むことが好ましく、プロピオニル基が特に好ましい。
【0063】
このような短鎖成分は、パラミロン中のヒドロキシ基と短鎖反応剤とが反応することで導入することができる。この短鎖成分は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入されたアシル基部分に相当する。また短鎖成分の短鎖有機基(メチル基又はエチル基)とパラミロンのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。
【0064】
この短鎖反応剤は、パラミロン中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物であり、例えばカルボキシル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸無水物基を有する化合物が挙げられる。具体的には、脂肪族モノカルボン酸、その酸ハロゲン化物、その酸無水物が挙げられる。
【0065】
この短鎖成分は、その炭素数が2~3であることが好ましく、その炭素数が3であることがより好ましく、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数2~3のアシル基(アセチル基、プロピオニル基)で置き換えられていることが好ましく、少なくとも炭素数3のアシル基(プロピオニル基)で置き換えられていることがより好ましい。
【0066】
パラミロンのグルコース単位あたりの導入された短鎖成分の平均個数(DSSh)(短鎖成分導入比率)、すなわちグルコース単位あたりの短鎖成分(アセチル基又は/及びプロピオニル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、以下の式(S1)を満たすのが好ましい。
1.7 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S1)
【0067】
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、長鎖成分と短鎖成分の両方で置換されている場合(すなわち前記式(L2)を満たす場合)、下記式(S2)を満たすのが好ましく、下記式(S3)を満たすのがより好ましく、下記式(S3-1)を満たすのがさらに好ましい。
1.7 ≦ DSSh <2.8 (S2)
1.9 ≦ DSSh ≦ 2.4 (S3)
2.0 ≦ DSSh ≦ 2.3 (S3-1)
DSShは、耐水性、流動性などの観点から1.7以上であると好ましく、また、2.4以下であると短鎖成分の導入効果を得ながら、長鎖成分の効果を十分に得ることができる。
【0068】
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、短鎖成分のみで置換されている場合(すなわち前記式(L4)を満たす場合)、下記式(S4)を満たすのが好ましく、下記式(S5)を満たすのがより好ましい。
2.1 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S4)
2.4 ≦ DSSh ≦ 2.7 (S5)
DSShは、耐水性、流動性などの観点から2.1以上であると好ましく、また、耐熱性の観点から2.8以下であると好ましい。
【0069】
上述の短鎖成分をパラミロン又はその誘導体に導入することにより、パラミロンの分子間力(分子間結合)を低減することができ、弾性率等の機械特性や、耐薬品性、表面硬度の物性を高めることができる。
【0070】
(長鎖成分の比率と短鎖成分の比率)
本実施形態の一態様において、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、長鎖成分と短鎖成分の両方で置換されている場合、長鎖成分の比率と短鎖成分の比率の比(DSSh/DSLo)は5以上25以下であることが好ましい。この比が低すぎると、材料が柔軟になりすぎて、強度・耐熱性が低下する場合があり、逆に25を上回ると熱可塑性が不足して成形用途に不適となる場合がある。これらの点から、一態様においては、DSSh/DSLoは5以上が好ましく、6以上がより好ましく、25以下が好ましく、18以下がより好ましく、10以下に設定してもよい。
【0071】
長鎖成分の比率と短鎖成分の比率の合計(DSLo+DSSh)は、
2.1 ≦ DSLo+DSSh ≦ 2.8 (T1)
を満たすことが好ましい。アシル基の十分な導入効果を得る点から、DSLo+DSShは、2.1以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、また、機械特性等の観点から、2.8以下が好ましく、2.7以下がより好ましい。
【0072】
(パラミロン系樹脂のヒドロキシ基の残存量)
ヒドロキシ基の残存量が多いほど、パラミロン系樹脂の最大強度や耐熱性が大きくなる傾向がある一方で、吸水性が高くなる傾向がある。一方、ヒドロキシ基の変換率(置換度)が高いほど、吸水性が低下し、可塑性や破断歪みが増加する傾向がある一方で、最大強度や耐熱性が低下する傾向がある。これらの傾向等を考慮して、ヒドロキシ基の変換率を適宜設定することができる。
【0073】
最終生成パラミロン系樹脂のグルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の平均個数(水酸基残存度、DSOH)は、DSOHは0.2~0.9の範囲が好ましい。ヒドロキシ基は、最大強度等の機械特性や耐熱性等の耐久性の観点から、最終生成パラミロン系樹脂の水酸基残存度は0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、流動性に加えて耐水性などの観点から0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。
【0074】
(パラミロンの活性化)
パラミロンに長鎖成分及び/又は短鎖成分を導入するための反応工程の前に、パラミロンの反応性を上げるために、活性化処理(前処理工程)を行うことができる。この活性化処理は、パラミロンのアセチル化の前に通常行われる活性化処理を適用できる。
【0075】
活性化処理は、例えば、パラミロンに親和する活性化溶媒をパラミロンに対して噴霧する方法、あるいはパラミロンを活性化溶媒に浸漬する方法(浸漬法)などの湿式法で、パラミロンと当該溶媒とを接触させ、パラミロンを膨潤させる。これにより、パラミロン分子鎖間に反応剤が浸入しやすくなるため(溶媒や触媒を用いている場合はこれらとともに浸入しやすくなるため)、パラミロンの反応性が向上する。ここで、活性化溶媒は、例えば、水;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸などのカルボン酸;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、エタノールアミン、ピリジンなどの含窒素化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド化合物が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用できる。特に好ましくは、水、酢酸、ピリジン、ジメチルスルホキシドを使用できる。
【0076】
長鎖脂肪酸中にパラミロンを投入し、活性化を行うこともできる。長鎖脂肪酸の融点が室温以上である場合、当該融点以上に加熱することもできる。
【0077】
活性化溶媒の使用量は、パラミロン100質量部に対して例えば10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上に設定できる。パラミロンを活性化溶媒に浸漬する場合は、パラミロンに対して質量で例えば1倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上に設定することができる。前処理後の活性化溶媒の除去の負担や材料コスト低減等の点から300倍以下が好ましく、100倍以下がより好ましく、50倍以下がさらに好ましい。
【0078】
活性化処理の温度は、例えば0~100℃の範囲で適宜設定できる。活性化の効率やエネルギーコスト低減の観点から10~40℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。
【0079】
長鎖脂肪酸を溶融させた中にパラミロンを投入する場合、当該長鎖脂肪酸の融点以上に加熱することもできる。
【0080】
活性化処理の時間は、例えば0.1時間~72時間の範囲で適宜設定できる。十分な活性化を行い且つ処理時間を抑える観点から、0.1時間~24時間が好ましく、0.5時間~3時間がより好ましい。
【0081】
活性化処理後、過剰な活性化溶媒は吸引濾過、フィルタープレス、圧搾などの固液分離方法により除去することができる。
【0082】
活性化処理後、パラミロンに含まれる活性化溶媒を反応時に用いる溶媒に置換することができる。例えば、活性化溶媒を反応時に用いる溶媒に代えて上記の活性化処理の浸漬法に従って置換処理を行うことができる。
【0083】
(長鎖成分および/又は短鎖成分の導入方法)
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体(パラミロン系樹脂)は、以下に示す方法によって製造することができる。なお、以下の説明においては、一態様として、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子を、長鎖成分および短鎖成分の両方で置換する場合を記載する。パラミロンのヒドロキシ基の水素原子を短鎖成分のみで置換する場合は、下記長鎖反応剤は用いずに、下記短鎖反応剤のみを用いて同様の方法を適用すればよい。
【0084】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体の製造方法は、溶媒中、酸捕捉成分の存在下、加温下で、この溶媒中に分散されたパラミロンと短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)および長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)とを反応させて、パラミロンのヒドロキシ基をアシル化する工程を有する。短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)と長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)は溶媒に溶解していることが好ましい。酸捕捉成分を溶媒として用いることもできる。
【0085】
パラミロンに長鎖成分を導入するための長鎖反応剤としては、前記の直鎖状飽和脂肪酸の酸塩化物が好ましく、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。パラミロンに短鎖成分を導入するための短鎖反応剤としては、塩化アセチル又は/及び塩化プロピオニルが好ましく、塩化プロピオニルがより好ましい。
【0086】
長鎖反応剤および短鎖反応剤の添加量は、目的のパラミロン誘導体の長鎖成分による置換度(DSLo)及び短鎖成分による置換度(DSSh)に応じて設定することができる。一態様において、短鎖反応剤が多すぎると、長鎖成分の結合量が低下し、長鎖成分による置換度(DSLo)が低下する場合がある。
【0087】
溶媒としては、綿繊維製のろ紙による保液率が90体積%以上となる溶媒を用いることができる。
【0088】
「保液率」は以下の方法で測定することができる。
綿繊維製のろ紙(5B、40mmφ、含水率約2%)を各溶媒に室温下1hr浸漬する。浸漬前後の重量を測定し、下式に当てはめて保液率(vol%)を求める。浸漬後の試料から溶媒のしたたりがとまった時点で重量を測定した。
【0089】
保液率(vol%)=(浸漬後重量-浸漬前重量)/浸漬前重量/溶媒比重×100
【0090】
上記の手法で保液率90vol%以上となる溶媒としては、水(保液率145vol%)、酢酸(保液率109vol%)、ジオキサン(保液率93vol%)、ピリジン(保液率109vol%)、N-メチルピロリドン(保液率104vol%)、N,N-ジメチルアセトアミド(保液率112vol%)、N,N-ジメチルホルムアミド(保液率129vol%)、ジメチルスルホキシド(保液率180vol%)が挙げられる。
【0091】
酸捕捉成分としては、副生する酸(塩酸、酢酸、プロピオン酸など)を中和する塩基であれば特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどの金属アルコキシド;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリエチルアミン、ピリジンなどの含窒素求核性化合物が挙げられ、中でもトリエチルアミンやピリジンが好ましく、溶媒としても使用できる点でピリジンが特に好ましい。酸捕捉成分を溶媒とは別に添加する場合、反応開始時から酸捕捉成分が反応系に存在することが好ましい。酸捕捉成分が反応開始時に反応系に存在していれば、アシル化剤を添加する前に添加しても後に添加しても構わない。
【0092】
酸捕捉成分の添加量は、長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)と短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)の合計仕込み量に対して0.1~10当量が好ましく、0.5~5当量がより好ましい。ただし、含窒素求核性化合物を溶媒として用いる場合はこの範囲に限定されない。酸捕捉剤の添加量が少ないとアシル化反応の効率が低下する。また、酸捕捉剤の添加量が多いとパラミロンが分解して分子量が低下することがある。
【0093】
このアシル化工程における反応温度は、50~100℃が好ましく、75~95℃がより好ましい。反応時間は、2時間から5時間に設定でき、3時間から4時間に設定することが好ましい。反応温度が十分に高いと反応速度を高くできるため、比較的短い時間でアシル化反応を完了させることができ、反応効率を高めることができる。また、反応温度が上記範囲にあれば、加熱による分子量の低下を抑えることができる。
【0094】
溶媒の量は、原料のパラミロンの乾燥質量に対して10~50倍量に設定することができ、10~40倍量(質量比)に設定することが好ましい。
【0095】
(熟成工程)
上記のアシル化の工程の後、アルカリ性水溶液を加えて、加温しながら保持(熟成)することが好ましい。この熟成時の温度は25~75℃が好ましく、40~70℃が好ましく、熟成の時間は1~5時間の範囲に設定でき、1~3時間の範囲が好ましい。
【0096】
アルカリ性水溶液の添加量は、使用する溶媒に対して3~30質量%相当量に設定することができ、5~20質量%相当量が好ましい。
【0097】
アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの水溶液が挙げられ、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の濃度は1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0098】
このような熟成工程によって一旦結合した長鎖成分と短鎖成分が部分的に加水分解し、均質に水酸基を復活させることができ、強度や耐衝撃性などの機械特性を高めることができ、また、その後の析出工程で良好な性状(微粒状)の生成物を得ることができる。
【0099】
(回収工程)
長鎖成分および/又は短鎖成分が導入されたパラミロン誘導体(生成物)は、通常の回収方法に従って反応溶液から回収することができ、その方法は限定されるものではないが、生成物が反応溶液に溶解していない場合は、反応溶液と生成物とを固液分離する回収方法が製造エネルギーの観点から好ましい。生成物が反応溶液に溶解ないし親和して固液分離が困難な場合は、反応溶液を留去し生成物を残留分として回収することができる。あるいは、反応溶液に、生成物に対する貧溶媒を添加することにより、析出した生成物を固液分離して回収してもよい。
【0100】
反応溶液を留去する場合、短鎖反応剤や反応溶媒、触媒は沸点が低いものが好ましいが、触媒を留去せずに、洗浄溶媒等により生成物から除去することもできる。また、反応溶液から溶媒等の生成物以外の成分を留去する際に、生成物が析出した時点で留去を止め、その後、残る反応溶液と析出した生成物とを固液分離して生成物を回収することもできる。
【0101】
固液分離方法としては、濾過(自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、およびこれらの熱時ろ過)、自然沈降・浮上、分液、遠心分離、圧搾等が挙げられ、これらを適宜組み合わせて行ってもよい。
【0102】
固液分離後の濾液に溶解した生成物(パラミロン誘導体)は、生成物に対する貧溶媒を添加することにより析出させ、さらに固液分離して回収することができる。
【0103】
反応溶液から回収した固形分(パラミロン誘導体)は、必要に応じて洗浄し、通常の方法で乾燥することができる。
【0104】
本方法で製造されたパラミロン誘導体は、熱可塑性のマトリックスの中にパラミロン主鎖結晶による補強結晶構造を有することができる。これは、パラミロン原料をアシル化した際の未反応部分に由来する。このようなパラミロン主鎖結晶は、例えば、X線回折法により評価できる。この評価時には、例えば、パラミロン誘導体をプレスして密度を上げることで、信号を確認しやすくすることもできる。
【0105】
(その他のパラミロン誘導体の製造方法)
アシル化剤として長鎖成分と短鎖成分を有する混合酸無水物を用い、固液不均一系でパラミロンをアシル化することで、パラミロン系樹脂を得ることができる。パラミロンは活性化処理することが好ましい。活性化処理は通常の方法で行うことができる。
【0106】
アシル化は、綿繊維製のろ紙による保液率90%以上となる溶媒(例えばジオキサン、乾燥パラミロン重量の例えば80~120倍量)中、酸触媒(例えば硫酸)の存在下、45~65℃で2~5時間攪拌して行うことができる。その後、水を加えて、数時間(例えば1~3時間)、加熱下(例えば55~75℃)で熟成させることが好ましい。
【0107】
反応終了後は、水/メタノール混合溶媒等の貧溶媒を加えて液相に溶解している生成物を十分に析出させ、固液分離を行って生成物を回収することができる。その後、洗浄、乾燥を行うことができる。
【0108】
また、アシル化は、パラミロン及びアシル化剤が溶媒に溶解した均一溶解系で行ってもよい。パラミロンは活性化処理することが好ましい。活性化処理は通常の方法で行うことができる。
【0109】
アシル化の際の溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、ピリジン、N-メチルピロリジノン等のパラミロンと親和性の高い溶媒を用いる。
【0110】
アシル化剤としては、アシル化に用いる溶媒と同じ溶媒中で、長鎖成分と短鎖成分を有する混合酸無水物を形成し、これを用いることができる。
【0111】
反応終了後は、メタノール等の貧溶媒を加えて生成物を析出させ、固液分離を行って生成物を回収することができる。その後、洗浄、乾燥を行うことができる。
【0112】
(成形用樹脂組成物および添加剤)
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体は、所望の特性に応じて添加剤を加え、成形用材料に好適な樹脂組成物を得ることができる。このパラミロン誘導体は、通常のパラミロン誘導体と相溶する添加剤と相溶させることができる。
【0113】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体には、通常の熱可塑性樹脂に使用する各種の添加剤を適用できる。例えば、可塑剤を添加することで、熱可塑性や破断時の伸びを一層向上できる。このような可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル;酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル;トリアセチン、ジアセチルグリセリン、トリプロピオニトリルグリセリン、グリセリンモノステアレートなどの多価アルコールエステル;リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等の二塩基性脂肪酸エステル;クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ヒマシ油およびその誘導体;O-ベンゾイル安息香酸エチル等の安息香酸エステル;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル等の脂肪族ジカルボン酸エステル;マレイン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;その他、N-エチルトルエンスルホンアミド、トリアセチン、p-トルエンスルホン酸O-クレジル、トリプロピオニンなどが挙げられる。中でも特に、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジル-2ブトキシエトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸ジフェニルオクチルなどの可塑剤を添加すると、熱可塑性や破断時の伸びだけでなく、耐衝撃性も効果的に向上させることができる。
【0114】
その他の可塑剤として、シクロヘキサンジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジ-2-メチルオクチル等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;トリメリット酸ジヘキシル、トリメリット酸ジエチルヘキシル、トリメリット酸ジオクチル等のトリメリット酸エステル;ピロメリット酸ジヘキシル、ピロメリット酸ジエチルヘキシル、ピロメリット酸ジオクチル等のピロメリット酸エステルが挙げられる。
【0115】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体には、必要に応じて、無機系もしくは有機系の粒状または繊維状の充填剤を添加できる。充填剤を添加することによって、強度や剛性を一層向上できる。充填剤としては、例えば、鉱物質粒子(タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレイ、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(またはウォラストナイト)など)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタンなど)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなど)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウムなど)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタンなど)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンなど)、ホワイトカーボン、各種金属箔が挙げられる。繊維状の充填剤としては、有機繊維(天然繊維、紙類など)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維など)、金属繊維などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0116】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体には、必要に応じて、難燃剤を添加できる。難燃剤を添加することによって、難燃性を付与できる。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトのような金属水和物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、ゼオライト、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン酸系難燃剤(芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類など)、リンと窒素を含む化合物(フォスファゼン化合物)などが挙げられる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0117】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体には、必要に応じて、耐衝撃性改良剤を添加できる。耐衝撃性改良剤を添加することによって、耐衝撃性を向上できる。耐衝撃性改良剤としては、ゴム成分やシリコーン化合物を挙げられる。ゴム成分としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。また、シリコーン化合物としては、アルキルシロキサン、アルキルフェニルシロキサンなどの重合によって形成された有機ポリシロキサン、もしくは、前記有機ポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル、メチルスチリル、アルキル、高級脂肪酸エステル、アルコキシ、フッ素、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などで変性した変性シリコーン化合物などが挙げられる。これらの耐衝撃性改良剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0118】
このシリコーン化合物としては、変性シリコーン化合物(変性ポリシロキサン化合物)が好ましい。この変性シリコーン化合物としては、ジメチルシロキサンの繰り返し単位から構成される主鎖を持ち、その側鎖または末端のメチル基の一部が、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基、長鎖アルキル基、アラルキル基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基、ポリエーテル基から選ばれる少なくとも1種類の基を含む有機置換基で置換された構造を有する変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。変性シリコーン化合物は、このような有機置換基を有することによって、前述のパラミロン誘導体に対する親和性が改善され、パラミロン誘導体中の分散性が向上し、耐衝撃性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0119】
このような変性シリコーン化合物は、通常の方法に従って製造されるものを用いることができる。
【0120】
この変性シリコーン化合物に含まれる上記の有機置換基としては、下記式(2)~(20)で表されるものを挙げることができる。
【化2】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
上記の式中、a、bはそれぞれ1から50の整数を表す。
【0131】
上記の式中、R1~R10、R12~R15、R19、R21は、それぞれ2価の有機基を表す。2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、-(CH2-CH2-O)c-(cは1から50の整数を表す)、-〔CH2-CH(CH3)-O〕d-(dは1から50の整数を表す)等のオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基、-(CH2)e-NHCO-(eは1から8の整数を表す)を挙げることができる。これらのうち、アルキレン基が好ましく、特に、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
【0132】
上記の式中、R11、R16~R18、R20、R22は、それぞれ炭素数20以下のアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。また、上記アルキル基の構造中に、1つ以上の不飽和結合を有していてもよい。
【0133】
変性シリコーン化合物中の有機置換基の合計平均含有量は、パラミロン誘導体組成物の製造時において、当該変性シリコーン化合物がマトリックスのパラミロン誘導体中に適度な粒径(例えば0.1μm以上100μm以下)で分散可能な範囲とすることが望ましい。パラミロン誘導体中において、変性シリコーン化合物が適度な粒径で分散すると、弾性率の低いシリコーン領域の周囲への応力集中が効果的に発生し、優れた耐衝撃性を有する樹脂成形体を得ることができる。かかる有機置換基の合計平均含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。変性シリコーン化合物は、有機置換基が適度に含有されていれば、パラミロン系樹脂との親和性が向上し、パラミロン誘導体中において適度な粒径で分散でき、さらに、成形品において当該変性シリコーン化合物の分離によるブリードアウトを抑制することができる。有機置換基の合計平均含有量が少なすぎると、パラミロン系樹脂中において適度な粒径での分散が困難になる。
【0134】
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がアミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(I)から求めることができる。
【0135】
有機置換基平均含有量(%)=
(有機置換基の式量/有機置換基当量)×100 (I)
【0136】
式(I)中、有機置換基当量は、有機置換基1モルあたりの変性シリコーン化合物の質量の平均値である。
【0137】
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖アルキル基、アラルキル基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(II)から求めることができる。
【0138】
有機置換基平均含有量(%)=
x×w/[(1-x)×74+x×(59+w)]×100 (II)
【0139】
式(II)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物中の全シロキサン繰り返し単位に対する有機置換基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値であり、wは有機置換基の式量である。
【0140】
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェニル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のフェニル基の平均含有量は下記式(III)から求めることができる。
【0141】
フェニル基平均含有量(%)=
154×x/[74×(1-x)+198×x]×100 (III)
【0142】
式(III)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物(A)中の全シロキサン繰り返し単位に対するフェニル基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値である。
【0143】
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がポリエーテル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のポリエーテル基の平均含有量は下記式(IV)から求めることができる。
【0144】
ポリエーテル基平均含有量(%)=HLB値/20×100 (IV)
【0145】
式(IV)中、HLB値は界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法に基づいて下記の式(V)により定義される。
【0146】
HLB値=20×(親水部の式量の総和/分子量) (V)
【0147】
本実施形態のパラミロン誘導体へは、当該誘導体に対する親和性が異なる2種類以上の変性シリコーン化合物を添加してもよい。この場合、比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の分散性が、比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)によって改善され、より一層優れた耐衝撃性を有するパラミロン系樹脂組成物を得ることができる。比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の有機置換基の合計平均含有量としては、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)の有機置換基の合計平均含有量は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、また90質量%以下が好ましい。
【0148】
変性シリコーン化合物(A1)と変性シリコーン化合物(A2)との配合比(質量比)は、10/90~90/10の範囲で設定できる。
【0149】
変性シリコーン化合物においては、ジメチルシロキサン繰返し単位および有機置換基含有シロキサン繰り返し単位が、同種のものが連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。変性シリコーン化合物は、分岐構造を有していてもよい。
【0150】
変性シリコーン化合物の数平均分子量は、900以上が好ましく、1000以上がより好ましく、また1000000以下が好ましく、300000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。変性シリコーン化合物の分子量が十分に大きいと、パラミロン誘導体組成物の製造時において、溶融した当該パラミロン誘導体と混練時に揮発による喪失を抑制することができる。また、変性シリコーン化合物の分子量が大きすぎることなく適度な大きさであると、分散性がよく均一な成形品を得ることができる。
【0151】
数平均分子量は、試料のクロロホルム0.1%溶液のGPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用することができる。
【0152】
このような変性シリコーン化合物の添加量は、十分な添加効果を得る点から、パラミロン誘導体組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。パラミロン系樹脂の強度等の特性を十分に確保し、またブリードアウトを抑制する点から20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0153】
このような変性シリコーン化合物をパラミロン誘導体に添加することにより、樹脂中に変性シリコーン化合物を適度な粒径(例えば0.1~100μm)で分散させることができ、樹脂組成物の耐衝撃性を向上できる。
【0154】
本実施形態のパラミロン誘導体には、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤など、通常の樹脂組成物に適用される添加剤を添加してもよい。
【0155】
本実施形態のパラミロン誘導体には、必要に応じて、一般的な熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0156】
熱可塑性樹脂として、ポリエステルを添加することができ、直鎖状脂肪族ポリエステルを好適に用いることができる。この直鎖状脂肪族ポリエステル(Y)としては、下記(Y1)及び(Y2)の直鎖状脂肪族ポリエステルが好ましく、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0157】
(Y1)下記式(21)及び式(22)の少なくとも一方の繰り返し単位を含む直鎖状脂肪族ポリエステル
-(CO-R23-COO-R24-O-)- (21)
-(CO-R25-O-)- (22)
【0158】
前記式(21)中、R23は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、1~12であり、好ましくは2~8であり、より好ましくは2~4である。またR24は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、2~12であり、好ましくは2~8であり、より好ましくは2~4である。
【0159】
前記式(22)中、R25は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、2~10であり、好ましくは2~8であり、より好ましくは2~4である。
【0160】
(Y2)環状エステルの開環重合物からなる直鎖状脂肪族ポリエステル。
【0161】
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y1)は、例えば、脂肪族ジカルボン酸、その酸無水物及びそのジエステル体からなる群から選択された少なくとも一種と、脂肪族ジオールとの縮合反応により得られる。
【0162】
前記脂肪族ジカルボン酸は、例えば、炭素数3~12であり、好ましくは炭素数3~9であり、より好ましくは炭素数3~5である。この脂肪族カルボン酸は、例えば、アルカンジカルボン酸であり、具体例として、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸等があげられる。前記脂肪族ジカルボン酸は、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0163】
前記脂肪族ジオールは、例えば、炭素数2~12であり、好ましくは炭素数2~8であり、より好ましくは炭素数2~6である。この脂肪族ジオールは、例えば、アルキレングリコールであり、具体例として、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオール等があげられる。中でも、炭素数2~6の直鎖型脂肪族ジオールが好ましく、特に、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。前記脂肪族ジオールは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0164】
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y2)は、環状エステルが開環重合した直鎖状脂肪族ポリエステルである。この環状エステルは、例えば、炭素数2~12のラクトンがあげられ、具体例として、例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン及びδ-バレロラクトン等があげられる。前記環状エステルは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0165】
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y)の数平均分子量は、特に制限されず、下限は、例えば、10000以上が好ましく、より好ましくは20000以上であり、また、上限は、例えば、200000以下が好ましく、より好ましくは100000以下である。前記脂肪族ポリエステルは、その分子量を前記範囲に設定することで、例えば、より分散性に優れ、より均一な成形体を得ることができる。
【0166】
前記数平均分子量は、例えば、試料のクロロホルム0.1%溶液に関する、GPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用できる。
【0167】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体には、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)などの柔軟性に優れる熱可塑性樹脂を添加することにより、耐衝撃性を向上できる。このような熱可塑性樹脂(特にTPU)の添加量は、十分な添加効果を得る点から、本実施形態のパラミロン誘導体を含む組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0168】
耐衝撃性向上に好適な熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、ポリオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤を用いて調製されるものを用いることができる。
【0169】
このポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0170】
上記のポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の多価アルコール又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0171】
上記のポリエステルエーテルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコールもしくはアルキレンオキサイド付加物(プロピレンオキサイド付加物等)等のグリコール等又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られる化合物が挙げられる。
【0172】
上記のポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。また、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)とポリヘキサメチレンカーボネート(PHL)との共重合体であってもよい。
【0173】
上記のポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。
【0174】
TPUの形成に用いられるジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)等が挙げられる。これらの中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を好適なものとして用いることができる。
【0175】
TPUの形成に用いられる鎖延長剤としては、低分子量ポリオールが使用できる。この低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール;1,4-ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールが挙げられる。
【0176】
これらの材料から得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)に、シリコーン化合物が共重合されていると、さらに優れた耐衝撃性を得ることができる。
【0177】
これらの熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0178】
本発明の実施形態によるパラミロン誘導体に各種添加剤や熱可塑性樹脂を添加した樹脂組成物の製造方法については、特に限定はなく、例えば各種添加剤とパラミロン系樹脂をハンドミキシングや、公知の混合機、例えばタンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置で溶融混合し、必要に応じ適当な形状に造粒等を行うことにより製造できる。また別の好適な製造方法として、有機溶媒等の溶剤に分散させた、各種添加剤と樹脂を混合し、さらに必要に応じて、凝固用溶剤を添加して各種添加剤と樹脂の混合組成物を得て、その後、溶剤を蒸発させる製造方法がある。
【0179】
以上に説明した実施形態によるパラミロン系樹脂は、成形用材料(樹脂組成物)のベース樹脂として用いることができる。当該パラミロン系樹脂をベース樹脂として用いた成形用材料は、電子機器用外装などの筺体などの成形体に好適である。
【0180】
ここでベース樹脂とは、成形用材料中の主成分を意味し、この主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容することを意味し、特にこの主成分の含有割合を特定するものではないが、この主成分が組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上を占めることを包含するものである。
【実施例】
【0181】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0182】
実施例および比較例において行った測定方法は下記のとおりである。
【0183】
[重量平均分子量および数平均分子量の測定]
パラミロンの重量平均分子量および数平均分子量はGPCにより以下の条件で測定して求めた。測定結果を表1に示す。
【0184】
(パラミロンのGPC測定条件)
カラム:PLgel20μmMIXED-A(製品名、アジレントテクノロジー(株)製)
溶離液:ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液(0.1M LiCl)
流速:0.5mL/min
検出器:RI(示差屈折率)(東ソー(株)製RI-71型201(16X))
温度:23.0℃
標準試料:Pullulan standard
【0185】
[パラミロン中のタンパク質含有量の測定]
パラミロンに6mol/L塩酸水溶液を添加し、110度で24時間加水分解した後、エバポレータで溶液を除去した。0.02mol/L塩酸水溶液に溶解させた後、0.22μmフィルタでろ過し、ポストカラムニンヒドリン誘導体化法(JEOL JLC-500/V2 Amino Acid Analyzer)によりアミノ酸を定量し、アミノ酸の総量をタンパク質含有量とした。
【0186】
[パラミロン中の色素含有量の測定]
パラミロンをアセトンに分散させ一晩静置し、ろ過後のろ液を紫外可視分光光度計(UV-1800 島津製作所)にかけ、クロロフィルaの吸光度を測定した。クロロフィルaの量は、ユネスコ法の計算式を用いて算出した。
全クロロフィルa [μg/mL] = 1.64*E663-2.16*E645+0.10*E630
(E663,E645,E630は、それぞれ、663,645,630nmの各吸光度から、750nmの吸光度を差し引いた値である。)
【0187】
<実施例1>
[ユーグレナ(光合成培養)からのパラミロンの回収と精製]
ユーグレナ藻体を光合成培養後、硫酸マグネシウムと水酸化ナトリウムで凝集沈殿し、吸引ろ過することで、凝集剤(水酸化マグネシウム)を含むユーグレナペースト1340gを得た。次に、ユーグレナペーストに10質量%硫酸水溶液1340gを添加し、室温で3時間撹拌後に吸引ろ過した。さらに水1340gを添加し室温で30分撹拌後に吸引ろ過することを3回繰り返し、ユーグレナ藻体288g(乾燥藻体量188gと水100gの混合物)を得た。このユーグレナ藻体に、クロロホルム900mLおよびメタノール450mLを添加し、室温で一晩静置後、40℃で3時間撹拌しろ過した。そして、このろ過物にクロロホルム450mLおよびメタノール225mLを添加し、室温で30分後ろ過することを2回繰り返すことで、溶媒可溶成分(色素と脂質を含む)と固形分(パラミロンとタンパク質の混合物を含む)に分離した(分離工程)。この固形分162gにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の2質量%水溶液1620gを添加し、90℃まで加熱し30分撹拌した。冷却後の溶液を遠心分離して固液分離し、固形分を取りだした後、この固形分に1質量%SDS水溶液1620gを添加し、90℃まで加熱後30分撹拌した。冷却後、遠心分離により固液分離し、固形分を取り出した後、水810gを添加し、室温で30分撹拌しSDSを洗浄した。水で洗浄する作業は3回繰り返した。得られたパラミロンAは104g、重量平均分子量は245000、パラミロンA中のタンパク質含有量は13質量%であった。
【0188】
[パラミロンの分子量調整(酸分解)]
パラミロンA 15g、および10%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で4時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン1を得た。パラミロン1の重量平均分子量(Mw)は、152000、パラミロン中のタンパク質含有量は0.28質量%、色素量は0μg/gであった。さらに、固液不均一系でアシル化することで、パラミロン系樹脂を得た。具体的には、下記に従ってパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した。
【0189】
[パラミロン系樹脂の合成]
パラミロン1の4.5g(乾燥質量換算、27.8mmol/グルコース単位)を反応器に投入し、窒素雰囲気下で51.4mLのN-メチルピロリドン、7.1mLのピリジンの混合液に分散させ、室温で一晩撹拌して活性化を行った。
【0190】
その後、パラミロン1の分散液を10℃以下に冷却し、ステアロイルクロリド1.68g(5.6mmol)と塩化プロピオニル6.16g(66.6mmol)を予め混合して10℃以下を維持しながら反応器に投入した。
【0191】
90℃で4時間加熱しながら撹拌した後、65℃まで冷却し、メタノール58mLを滴下して30分程度撹拌した。
【0192】
さらに水を13mL加えて生成物を析出させ、吸引ろ過で回収した。得られた固形分を54mLのメタノール/水混合液(9/1 v/v)でろ液の色が消えるまで(5回)洗浄した。
【0193】
洗浄した固形分を105℃で5時間真空乾燥し、粉末状のパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)8.7gを得た。
【0194】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を1H-NMR(Bruker社製、AV-400、400MHz、溶媒:CDCl3)によって測定したところ、DSLoは0.20、DSShは2.0であった。
【0195】
また、このパラミロン系樹脂について、下記に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0196】
[ガラス転移点(Tg)の測定]
ガラス転移点は、下記の条件で示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)を行って求めた。測定装置は、セイコーインスツルメンツ社のEXSTAR2000,DSC6200を用いた。パラミロン系樹脂を20℃から200℃まで10℃/minで昇温した後、200℃から-30℃まで50℃/minで急冷した。そして、-30℃から200℃まで20℃/minで昇温した時のガラス転移点(Tg)を測定した。
【0197】
[射出成形体の作製]
射出成形(Thermo Electron Corporation製、HAAKE MiniJet II)を使用して、上記で得た試料から下記形状の成形体を作製した。
【0198】
成形体サイズ:厚み2.4mm、幅12.4mm、長さ80mm
その際、成形機のシリンダー温度を200℃、金型温度を65℃、射出圧力1200bar(120MPa)で5秒間、保圧600bar(60MPa)で20秒間の成形条件に設定した。
【0199】
[曲げ強度、曲げ弾性率、および曲げ破壊ひずみの測定]
得られた成形体について、JIS K7171に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破壊ひずみを測定した。
【0200】
[流動性(メルトフローレート(MFR))の測定]
高化式フローテスター(島津製作所株式会社製、製品名:CFT-500D)を用い、JIS7210:1990に基づいて、温度230℃、荷重20kg、ダイ2mmφ×10mm(穴の直径2mm、穴の長さ10mm)、余熱2分(試料をシリンダー充填してピストンを挿入した時点から荷重をかけるまでの時間)の条件でMFRを測定した。
【0201】
[成形体の外観]
得られた成形体の外観を目視し、下記の基準で評価した。
〇:成形体は、薄茶色で透明であり、成形不良は観察されなかった。
×:成形体は、黒くて不透明であった、あるいは、成形不良(成形体表面にウェルドが発生)が観察された。
【0202】
(実施例2)
パラミロンA 15g、および5%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で7時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン2を得た。パラミロン2の重量平均分子量(Mw)は、180000、パラミロン2中のタンパク質含有量は2.8質量%、色素量は2.89μg/gであった。さらに、パラミロン1をパラミロン2に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量8.0g)。
【0203】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.20、DSShは2.0であった。
【0204】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0205】
(実施例3)
パラミロンA 15g、および5%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で4時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン3を得た。パラミロン3の重量平均分子量(Mw)は、196000、タンパク質含有量は4.8質量%、色素量は0μg/gであった。さらに、パラミロン1をパラミロン3に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量8.1g)。
【0206】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.20、DSShは2.0であった。
【0207】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0208】
(実施例4)
パラミロンA 15g、および3%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で7時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン4を得た。パラミロン4の重量平均分子量(Mw)は、214000、タンパク質含有量は1.9質量%、色素量は13.1μg/gであった。さらに、パラミロン1をパラミロン4に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量8.1g)。
【0209】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.19、DSShは2.2であった。
【0210】
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0211】
(実施例5)
パラミロンA 15g、および5%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で5時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン8を得た。パラミロン8の重量平均分子量(Mw)は、164000(数平均分子量は36600、分子量分布は4.5)、タンパク質含有量は4.3質量%、色素量は7.9μg/gであった。
【0212】
さらに、パラミロン8の10.0g(乾燥質量換算、61.7mmol/グルコース単位)を反応器に投入し、窒素雰囲気下で131.7mLのN-メチルピロリドン、18.3mLのピリジンの混合液に分散させ、室温で一晩撹拌して活性化を行った。
【0213】
その後、パラミロン8の分散液を10℃以下に冷却し、塩化プロピオニル17.12g(185.0mmol)を、10℃以下を維持しながら反応器に投入した。
【0214】
90℃で4時間加熱しながら撹拌した後、65℃まで冷却し、メタノール150mLを滴下して30分程度撹拌した。
【0215】
さらに水を33mL加えて生成物を析出させ、吸引ろ過で回収した。得られた固形分を99mLのメタノール/水混合液(9/1 v/v)でろ液の色が消えるまで(5回)洗浄した。
【0216】
洗浄した固形分を105℃で5時間真空乾燥し、粉末状のパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネート)17gを得た。
【0217】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSShは2.6であった。
【0218】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0219】
(比較例1)
ユーグレナ藻体を光合成培養(実施例1とは異なるロットで培養)後、硫酸マグネシウムと水酸化ナトリウムで凝集沈殿し、吸引ろ過することで、凝集剤(水酸化マグネシウム)を含むユーグレナペースト424gを得た。次に、ユーグレナペーストに10質量%硫酸水溶液241gを添加し、室温で3時間撹拌後に吸引ろ過した。さらに水241gを添加し室温で30分撹拌後に吸引ろ過することを3回繰り返し、ユーグレナ藻体127g(乾燥藻体量69gと水58gの混合物)を得た。このユーグレナ藻体に、クロロホルム330mLおよびメタノール165mLを添加し、室温で一晩静置後、40℃で3時間撹拌しろ過した。そして、このろ過物にクロロホルム165mLおよびメタノール83mLを添加し、室温で30分後ろ過することを2回繰り返すことで、溶媒可溶成分(色素と脂質を含む)と固形分(パラミロンとタンパク質の混合物を含む)に分離した(分離工程)。この固形分60gにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の5質量%水溶液600gを添加し、90℃まで加熱し30分撹拌した。冷却後の溶液を遠心分離して固液分離し、固形分を取りだし、同様に、5質量%のSDS水溶液を用いた処理をさらに2回繰り返した。冷却後の溶液を遠心分離して固液分離して得られた固形分に、1質量%SDS水溶液600gを添加し、90℃まで加熱後30分撹拌した。冷却後、遠心分離により固液分離し、固形分を取り出した後、水600gを添加し、室温で30分撹拌しSDSを洗浄した。水で洗浄する作業は3回繰り返し、パラミロンBを得た。得られたパラミロンBは42g、重量平均分子量は245000、パラミロンB中のタンパク質含有量は20質量%であった。
【0220】
パラミロンB 15g、および5%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で4時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン5を得た。パラミロン5の重量平均分子量(Mw)は、191000、パラミロン5中のタンパク質含有量は7.9質量%、色素含有量は436μg/gであった。さらに、パラミロン1をパラミロン5に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量7.9g)。
【0221】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.24、DSShは2.1であった。
【0222】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0223】
(比較例2)
パラミロン1をパラミロン5に変更し、ステアロイルクロリドの使用量を0.84g(2.8mmol)変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量7.1g)。
【0224】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.12、DSShは2.1であった。
【0225】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0226】
(比較例3)
比較例1とは異なるロットで培養したユーグレナを用いて、比較例1と同様にユーグレナからパラミロンを回収し、パラミロンCを得た。得られたパラミロンCの重量平均分子量は245000、パラミロンC中のタンパク質含有量は30質量%であった。
【0227】
パラミロンC 15g、5%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、90℃で4時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン6を得た。パラミロン6の重量平均分子量(Mw)は、236000、パラミロン6中のタンパク質含有量は11.6質量%、色素量は44.3μg/gであった。さらに、原料をパラミロン6に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量8.2g)。
【0228】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.19、DSShは2.2であった。また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0229】
(比較例4)
[ユーグレナ(従属栄養培養)からパラミロンの回収]
ユーグレナ藻体を従属栄養で培養後、遠心分離によりユーグレナペースト16.1kg(乾燥藻体量9.23kg)を得た。次に、ユーグレナペーストに、アセトン92Lを添加し室温で一晩静置後、ろ過することで溶媒可溶成分(色素と脂質)と固形分(パラミロンとタンパク質の混合物)に分離した。この固形分9.34kgにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の1%水溶液92.2kgを添加し、90℃まで加熱し30分撹拌した。冷却後の溶液を遠心分離に固液分離し、固形分を取りだした後、0.1%SDS水溶液92.2kgを添加し、90℃まで加熱後30分撹拌した。冷却後、遠心分離により固液分離し、固形分を取り出した後、水92.2kgを添加し、室温で30分撹拌しSDSを洗浄した。水で洗浄する作業は3回繰り返した。得られたパラミロンDは5.94kg、重量平均分子量は242000、パラミロンD中のタンパク質含有量は0.9質量%であった。
【0230】
パラミロン1を上記のパラミロンDに変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量6.8g)。得られた試料(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.26、DSShは1.5であった。
【0231】
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0232】
(比較例5)
比較例4のパラミロンDを15g、1%塩酸水溶液150gを反応器に投入し、100℃で4時間撹拌後、水で洗浄することで、パラミロン7を得た。パラミロン7の重量平均分子量(Mw)は、202,000、タンパク質含有量は0.20質量%、色素量は0μg/gであった。さらに、パラミロン1をパラミロン7に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を作製した(収量8.0g)。
【0233】
得られたパラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H-NMRによって測定したところ、DSLoは0.20、DSShは2.1であった。
【0234】
また、このパラミロン系樹脂について、実施例1と同様の方法に従って曲げ強度等、Tg、流動性、成形体の外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0235】
表1に、製造したパラミロンの特性と、パラミロン系樹脂(パラミロンプロピオネートステアレート)の長鎖成分(オクタデカノイル基(ステアリン酸に含まれるアシル基部分に相当))、短鎖成分(プロピオニル基)及び置換度、並びに曲げ強度、ガラス転移点、流動性、成形体の外観の評価結果を示す。
【0236】
【0237】
表1が示すように、本発明の実施形態による実施例のパラミロン系樹脂は、いずれも機械特性(曲げ強度、耐熱性)および熱可塑性(流動性)、ならびに成形体の外観に優れることが分かる。
【0238】
一方、比較例1および比較例3に示すように、タンパク質含有量が5質量%より大きいパラミロンを用いたパラミロン系樹脂においては、実施例とほぼ同じ置換度(DS)であってもガラス転移点は低下する。これは、タンパク質が可塑成分として働くからと考えられる。さらに、比較例1~3が示すように、パラミロン中のタンパク質含有量および色素含有量が多すぎると成形体の透明性は失われ、成形体は黒く着色してしまった。また、重量平均分子量が14万超~22万の範囲にないパラミロンを用いて作製した比較例4は、生成物の不均質性が高く衝撃強度が劣るとともに、熱可塑性も不十分であるため、成形不良(成形体表面にウェルドが発生)が起こった。また、比較例5は、パラミロンの重量平均分子量が14万超~22万の範囲にあるが、パラミロン中のタンパク質含有量が0.20質量%と少ないため、熱可塑性が低下し、曲げ破壊ひずみや成形不良が起こった。
【0239】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0240】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
【0241】
(付記1)
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分、及び/又は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロン系樹脂であって、
前記パラミロンの重量平均分子量が140000超~220000の範囲にあり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.5以下であり、前記パラミロン中のタンパク質含有量が、0.22質量%~5.0質量%であり、かつ、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)と前記短鎖成分による置換度(DSSh)が、以下の式(S1)、式(L1)および式(T1)を満たす、パラミロン系樹脂。
1.7 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S1)
0 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L1)
2.1 ≦ DSLo+DSSh ≦ 2.8 (T1)
【0242】
(付記2)
以下の式(S2)および式(L2)を満たす、付記1に記載のパラミロン系樹脂。
1.7 ≦ DSSh <2.8 (S2)
0 < DSLo ≦ 0.4 (L2)
【0243】
(付記3)
以下の式(S3)および(L3)を満たす、付記1または2に記載のパラミロン系樹脂。
1.9 ≦ DSSh ≦ 2.4 (S3)
0.18 ≦ DSLo ≦ 0.4 (L3)
【0244】
(付記4)
以下の式(S4)および式(L4)を満たす、付記1に記載のパラミロン系樹脂。
2.1 ≦ DSSh ≦ 2.8 (S4)
DSLo = 0 (L4)
【0245】
(付記5)
さらに、下記式(T2)を満たす、付記1~3のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
5≦ DSSh/DSLo ≦ 25 (T2)
【0246】
(付記6)
パラミロン中の色素の含有量が20μg/g以下である、付記1~5のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
【0247】
(付記7)
前記長鎖成分がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分である、付記1~3、5および6のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂。
【0248】
(付記8)
付記1~7のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂を含む成形用材料。
【0249】
(付記9)
付記8に記載の成形用材料を用いて形成された成形体。
【0250】
(付記10)
培養された藻類を有機溶媒で処理して、有機溶媒に不要な成分として、パラミロンを含む固形分を得る分離工程と、
前記固形分を界面活性剤で処理して第1のパラミロンを得る界面活性剤処理工程と、
前記第1のパラミロンを、酸またはアルカリにより加水分解して第2のパラミロンを得る加水分解工程と、
前記第2のパラミロンのヒドロキシ基をアシル化するアシル化工程と、
を含み、
前記第2のパラミロンが、重量平均分子量が140000超~220000の範囲にあり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.5以下であり、かつ、前記第2のパラミロン中のタンパク質含有量が、0.22質量%~5.0質量%である、付記1~7のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0251】
(付記11)
前記アシル化工程において、
酸捕捉成分の存在下、加温下で、
溶媒中に分散された前記第2のパラミロンと、
塩化アセチル又は/及び塩化プロピオニルと、を反応させて、前記第2のパラミロンのヒドロキシ基をアシル化する、付記10に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0252】
(付記12)
前記アシル化工程において、
酸捕捉成分の存在下、加温下で、
溶媒中に分散された前記第2のパラミロンと、
塩化アセチル又は/及び塩化プロピオニルと、
炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分を有する長鎖脂肪酸の酸塩化物である長鎖反応剤と、
を反応させて、前記第2のパラミロンのヒドロキシ基をアシル化する、付記10に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0253】
(付記13)
前記溶媒が、水、酢酸、ジオキサン、ピリジン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドから選ばれる少なくとも1種である、付記11又は12に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0254】
(付記14)
前記酸捕捉成分は、トリエチルアミンまたはピリジンを含む、付記11~13のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0255】
(付記15)
前記溶媒の量は、前記第2のパラミロンの乾燥質量に対して10~50倍量である、付記11~14のいずれか一項に記載のパラミロン系樹脂の製造方法。
【0256】
この出願は、2020年5月8日に出願された日本出願特願2020-82878を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0257】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。