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特許7495679ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤
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  • 特許-ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4545 20060101AFI20240529BHJP
   A61P 17/12 20060101ALI20240529BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240529BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61P17/12
A61P31/20
A61K9/70 401
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019183118
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021059500
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開の事実1 ウェブサイトの掲載日 平成30年10月4日(2018年10月4日) ウェブサイトのアドレス https://doi.org/10.1007/s40261-018-0712-7 (2)公開の事実2 ウェブサイトの掲載日 令和1年8月9日(2019年8月9日) ウェブサイトのアドレス https://doi.org/10.1186/s13063-019-3570-6
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(委託開発)」「抗単純ヘルペス軟膏薬」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515255478
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本医療研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正敏
(72)【発明者】
【氏名】椛島 健治
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】小野木 博
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/020198(WO,A1)
【文献】特表2010-524978(JP,A)
【文献】画期的抗ウイルス薬FIT-039による子宮頸がんの阻止-治験を年度内に開始する予定ー,京都大学ホームページ,京都大学,2018年05月21日,https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-05-18,[令和5年7月6日検索]
【文献】抗ウイルス薬FIT-039に抗HTV作用、子宮頚部異形成の治療薬となりうる可能性-京大,医療NEWS,QLife Pro,2018年05月23日,https://www.qlifepro.com/news/20180523/antiviral-drug-fit-039.html,[令和5年7月6日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物又はその製薬上許容される塩(以下、「化合物A」という)を有効成分として単位面積(1cm2)あたり50~500μg含有し、
1日1回反復貼付されるように用いられることを特徴とする、ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤。
【化1】
【請求項2】
化合物Aの含有量が、単位面積(1cm2)あたり50~250μgである、請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】
1日1回5日間以上反復貼付されるように用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の貼付剤。
【請求項4】
支持体と粘着剤層を有する、請求項1から3のいずれかに記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤、又は、ヒトパピローマウイルス性疣贅の治療用外用貼付剤、それらの使用、それらを用いたヒトパピローマウイルス性疣贅の治療又は再発予防法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、パルボウイルス科に属し、環状の二本鎖DNAをゲノムとして持つDNAウイルスである。HPVは、接触感染により伝播する。HPVは、上皮や粘膜に感染し、感染した宿主細胞においてHPV非構造タンパク質であるE6タンパク質及びE7タンパク質を発現し、宿主細胞のp53遺伝子やpRB遺伝子等のがん抑制遺伝子を分解することにより、ウイルスの複製を行う。これらの宿主細胞内の遺伝子の分解は、異常な細胞増殖を惹起し、尋常疣贅、扁平疣贅、足底疣贅等の疣贅、ヒトの子宮頸がん、尖圭コンジローマ、咽頭の乳頭腫など様々な疾病の原因となることが明らかとなっている。HPVは、現在までに100種類を超える型がしられており、その発がん性によって、疣贅、尖圭コンジローマ、乳頭腫等の良性腫瘍の原因となる低リスク型、及び、子宮頸がん等の悪性腫瘍の原因となる高リスク型に分類される。
【0003】
HPV性疣贅の治療は、主に、レーザー蒸散、液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼、外科的切除等の外科的治療が挙げられる。しかし、HPVのウイルス粒子が表皮基底細胞に残存しやすく頻回に再発してしまうため、患者に大きな負担となる。
【0004】
パピローマウイルスに対して抗ウイルス作用を示す化合物として、N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドが知られている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1)。N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドは、宿主細胞のリン酸化酵素を標的とし、HPVのE6遺伝子及びE7」遺伝子の発現を抑制し、かつ、p53遺伝子を安定化させることにより抗ウイルス作用を発揮すると知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2005/063293
【文献】WO2009/020198
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yamamoto M et al., J Clin Invest, 2014, 124(8), 3479-3488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現在のHPV性疣贅の再発予防法や根本的な治療法は存在しないといえる。HPV性疣贅の治療又は再発予防法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、HPV性疣贅に対する貼付剤であって、式(I)で表される化合物又はその製薬上許容される塩(以下、「化合物A」という)を有効成分として単位面積(1cm2)あたり50~500μg含有し、1日1回反復貼付されるように用いられることを特徴とする、HPV性疣贅に対する貼付剤、及び、それらの使用、それらを用いたヒトパピローマウイルス性疣贅の治療又は再発予防法に関する。式(I)については後述する。
【化1】
式(I)
【発明の効果】
【0009】
本開示は、一態様において、HPV性疣贅に対する貼付剤を提供できる。
本開示は、その他の一態様において、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防を提供でき、あるいは、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防のための貼付剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示に係る貼付剤を使用した一症例について、治療経過(疣贅の寸法と、疣贅の点状出血の数)の評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、所定量の化合物Aを有効成分として含有する貼付剤を、1日1回反復貼付することで、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防が可能になるという知見に基づく。
【0012】
[貼付剤]
本開示において、貼付剤は、一又は複数の実施形態において、局所作用型貼付剤である。本開示に係る貼付剤は、有効成分として、化合物Aを含有する。
【0013】
[化合物A]
本開示における化合物Aは、下記式で表される化合物:N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミド又はその製薬上許容される塩である。
【0014】
【化2】
【0015】
本開示における化合物Aは、一又は複数の実施形態において、公知の製造方法やWO2009/020198を参照して製造することができる。
【0016】
本開示において「製薬上許容される塩」とは、薬理上及び/又は医薬上許容される塩であって、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性アミノ酸塩又は塩基性アミノ酸塩などが挙げられる。無機酸塩としては、一又は複数の実施形態において、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。有機酸塩としては、一又は複数の実施形態において、酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。無機塩基塩としては、一又は複数の実施形態において、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基塩としては、一又は複数の実施形態において、ジエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、メグルミン塩、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩などが挙げられる。酸性アミノ酸塩としては、一又は複数の実施形態において、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられる。塩基性アミノ酸塩としては、一又は複数の実施形態において、アルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩などが挙げられる。
【0017】
本開示において「化合物の塩」には、化合物が大気中に放置されることにより、水分を吸収して形成されうる水和物が包含され得る。また、本開示において「化合物の塩」には、化合物が他のある種の溶媒を吸収して形成されうる溶媒和物も包含され得る。
【0018】
[化合物Aの含有量]
本開示に係る貼付剤における化合物Aの含有量は、単位面積(1cm2)あたり50~500μgである。前記単位面積とは、一又は複数の実施形態において、皮膚(患部)に接する部分であって、かつ、薬剤(化合物A)を放出可能な部分の面積をいう。
本開示に係る貼付剤における化合物Aの含有量は、一又は複数の実施形態において、より低濃度でHPV性疣贅に対する治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防(以下、「治療等」ともいう)の効果を発揮できる観点から、50~400μg/cm2が好ましく、50~300μg/cm2がより好ましく、50~250μg/cm2がさらにより好ましく、50~220μg/cm2がさらにより好ましく、50~200μg/cm2がさらにより好ましく、50~100μg/cm2がさらにより好ましい。
本開示に係る貼付剤における化合物Aの含有量は、一又は複数の実施形態において、HPV性疣贅に対する治療等の効果を向上させる観点から、100~500μg/cm2が好ましく、200~500μg/cm2がより好ましく、250~500μg/cm2がさらにより好ましく、300~500μg/cm2がさらにより好ましく、350~500μg/cm2がさらにより好ましく、400~500μg/cm2がさらにより好ましい。
【0019】
[構成]
本開示に係る貼付剤は、一又は複数の実施形態において、支持体及び化合物Aを含む粘着剤層、さらに必要に応じてライナー(剥離フィルム)を含む構成のタイプ(マトリックス型)でもよく、ライナー(剥離フィルム)、粘着剤層、放出制御膜、化合物Aの貯蔵層、及び支持体(パッキング)を含む構成のタイプ(リザーバー型)でもよい。
【0020】
マトリックス型の場合、粘着剤層に有効成分として化合物Aが含有される。粘着剤層における化合物Aの含有量としては、一又は複数の実施形態において、0.1~10質量%が挙げられる。一又は複数の実施形態において、含有量は、0.1~2.5質量%、0.5~2質量%、0.5~1.5質量%、又は、0.5~1質量%が挙げられる。その他の実施例において、含有量は、3.5~10質量%、4.0~10質量%、又は、5.0~10質量%が挙げられる。
【0021】
粘着剤層又は貯蔵層における化合物Aは、溶解していることが好ましいが、必要量溶解していればよく、すべてが溶解していなくてもよい。未溶解の化合物Aが存在する場合には、未溶解の化合物Aが粘着剤層又は貯蔵層に分散していることが好ましく、均一に分散していることがより好ましい。
【0022】
[粘着剤層]
粘着剤層における粘着剤としては、アクリル系、ゴム系、シリコン系、又はこれらの組み合わせが使用できる。これらは、市販品でもよく、定法により合成されたものを用いてもよい。粘着剤層における粘着剤は、一種類でもよく、二種類以上であってもよい。
アクリル系の粘着剤としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、官能基を有してもよく、官能基を有さなくてもよい。
官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、一又は複数の実施形態において、カルボキシ基を有するアクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体であるMASSCOS10(コスメディ製薬社製)、カルボキシ基を有するDuro Tak87-235A(Henkel社製)、ヒドロキシ基を有するDuro Tak87-4287(同社製)などが挙げられる。
官能基を有さないものの市販品としては、一又は複数の実施形態において、アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体であるMAS-811(コスメディ製薬社製)、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ブチルとメタクリル酸ジメチルアミノエチルとの共重合体であるオイドラギットEPO(Evonik Rohm社製)などが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、一又は複数の実施形態において、ピロリドン環構造を有さない(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0023】
粘着剤層における粘着剤の含有量としては、一又は複数の実施形態において、50質量%超96質量%以下が挙げられ、又は、60質量%以上95質量%以下が挙げられる。
【0024】
粘着剤層の構造としては、1層構造であってもよく、多層構造であってもよい。粘着剤層の厚みは、上述の単位面積当たりの化合物Aの含有量を満たす範囲で適宜選択できる。
【0025】
粘着剤層には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分は、公知の成分から目的に応じて適宜選択できる。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、経皮吸収促進剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0026】
経皮吸収促進剤としては、一又は複数の実施形態において、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、ジ-sec-ブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、トリ-sec-ブタノールアミン等の低級アルカノールアミン類; ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。
経皮吸収促進剤は、一種類で使用してもよく、二種類以上組み合わせてもよい。
【0027】
[支持体]
支持体は、マトリックス型においては粘着剤層を物理的に支持し、外的な環境から前記粘着剤層を保護する。リザーバー型では、さらに、薬剤の貯蔵層をパッキングする役目もある。
このような支持体としては、貼付剤の支持体として公知のものから適宜選択して使用できる。
支持体の材料としては、一又は複数の実施形態において、紙、樹脂などが挙げられる。
紙としては、一又は複数の実施形態において、含浸紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、和紙、グラシン紙などが挙げられる。
樹脂としては、一又は複数の実施形態において、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル; ナイロン等のポリアミド; ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン: ポリ塩化ビニル; ポリカーボネート; ポリウレタン; ポリテトラフルオロエチレン; 酢酸セルロース; エチルセルロース; 可塑化酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体; エチレン-酢酸ビニル共重合体; エチレン-アクリル酸エチル共重合体; 可塑化ポリ塩化ビニル; アルミニウム箔等の金属箔;などが挙げられる。
これらの材料は、一種類で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0028】
支持体の構造としては、一層構造であってもよく、多層構造であってもよい。また、多孔質、網目構造、発泡体、不織布、織布、又は編布であってもよい。
支持体の形状としては、一又は複数の実施形態において、フィルム状、シート状、又は平板上が挙げられる。
【0029】
支持体は、化合物Aが透過しないような材料、構造、及び形状であること、ならびに、透湿性の低い材料、構造、及び形状であることが好ましい。支持体としては、一又は複数の実施形態において、柔軟性の化合物Aの非透過性が優れる点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた不織布などが好ましい。
【0030】
支持体は、一方の面がシリコン処理されていてもよいが、その場合、粘着剤層は、支持体のシリコン処理がされてない面に積層されることが挙げられる。
支持体の厚みは、適宜選択できる。
本開示に係る貼付剤は、支持体の両面に粘着剤層が積層される構造であってもよく、支持体の一方の面に粘着剤層が積層される構造であってもよい。
【0031】
[ライナー(剥離フィルム)]
ライナーは、貼付剤の製造、運搬、又は、保存中において、粘着剤層を外的な環境から保護し、貼付剤の劣化を防止する。ライナーは、使用時に剥離され、粘着剤層が露出される。当該粘着剤層を皮膚(患部)に接するように貼付剤を貼付する。
【0032】
ライナーとしては、公知のもから適宜選択して使用できる。ライナーは、一又は複数の実施形態において、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムや、上質紙若しくはグラシン紙とポリオレフィンとのラミネートフィルムなどが挙げられる。ライナーは、粘着剤層との剥離を容易にする点で、粘着剤層と接する面にシリコン処理がされていることが好ましい。
ライナーの厚みは、適宜選択できる。一又は複数の実施形態において、25~150μm、又は50~100μmが挙げられる。
【0033】
本開示に係る貼付剤がライナーを有する場合、その構造としては、ライナー以外の貼付剤の両面が粘着剤層からなる場合は、当該両面にライナーが積層された構造が挙げられる。本開示に係る貼付剤が、ライナー以外の貼付剤の一方の面が粘着剤層で、他方の面が支持体の場合、粘着剤層にライナーが積層される構造、すなわち、支持体、粘着剤層、及びライナーがこの順で積層される構造が挙げられる。
【0034】
[貼付剤の大きさ]
本開示に係る貼付剤の大きさは、HPV性疣贅の大きさに応じて適宜選択でき、一又は複数の実施形態において、HPV性疣贅を覆うことができるサイズが挙げられる。
【0035】
本開示に係る貼付剤は、密封性や遮光性の高い包装材料で作製した包装体内に収容し、使用の直前まで保存してもよい。
包装体に用いられる包装材料としては、一般的に貼付剤の包装に用いられる材料を使用でき、一又は複数の実施形態において、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム等のポリオレフィン系樹脂フィルム; ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、アイオノマーフィルム等のビニル系樹脂フィルム; ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系樹脂フィルム; ナイロンフィルム等のポリアミド系樹脂フィルム; セロファン等のセルロース系樹脂フィルム; ポリカーボネート樹脂フィルム; 及びこれらの積層フィルムが挙げられる。
【0036】
密封性に加え、遮光性を高めるのであれば、上述の樹脂フィルム及びそれらの積層フィルム等とアルミニウムの積層フィルムや、上述の樹脂フィルムにおいて黒色顔料等を添加した顔料添加樹脂フィルム等の包装材料が挙げられ、これらの樹脂フィルムを組み合わせた積層フィルムを包装材料とすることができる。
【0037】
本開示に係る貼付剤は、包装体に収容され、ヒートシール等の公知の方法で密封された態様も含みうる。貼付剤を収容する包装体は、内部の雰囲気を窒素等の不活性ガスで置換してもよい。
【0038】
[製造方法]
本開示に係る貼付剤は、公知の方法で適宜製造できる。一又は複数の実施形態において、本開示に係るマトリックス型の貼付剤は、化合物A、粘着剤、及び必要に応じてその他の成分を含有する膏体溶液を調製し、これを支持体の一方の面上に塗布した後、加温して前記膏体溶液中の溶剤を除去して、該支持体上に化合物Aを含有する粘着剤層が積層されたとし、必要に応じて当該粘着剤層の支持体とは反対側の面にライナーを積層することで製造できる。
【0039】
[反復貼付]
本開示に係る貼付剤は、1日1回反復貼付で使用される。
本開示において、1日1回の反復貼付とは、本開示に係る貼付剤を1日に1回貼付し、それを2日以上続けることをいう。
反復貼付の期間としては、一又は複数の実施形態において、3日間以上、6日間以上、9日間以上、12日間以上、15日間以上、18日間以上が挙げられる。反復貼付期間の上限としては、一又は複数の実施形態において、1か月以下、2か月以下、3か月以下、6か月以下が挙げられる。
また、反復貼付の期間としては、一又は複数の実施形態において、HPV性疣贅が視覚的に確認できなくなるまでが挙げられる。
本開示に係る貼付剤は、一又は複数の実施形態において、上記期間以上貼付しても有害な事象が生じない。
【0040】
[HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防]
本開示に係る貼付剤は、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防に使用できる。
したがって、本開示はその他の態様において、HPV性疣贅の患部に本開示に係る貼付剤を1日1回の反復貼付を行うことを含む、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防の方法に関する。
また、本開示はその他の態様において、HPV性疣贅の患部に貼付剤を1日1回の反復貼付を行うことを含むHPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防の方法における、本開示に係る貼付剤の使用に関する。
【0041】
本開示に係る貼付剤が貼付される患部は、一又は複数の実施形態において、治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防の効果の観点から、HPV性疣贅の外科的処置が行われた後の患部であってもよく、外科的治療により角質層が剥離され、真皮層が露出した状態の皮膚であってもよい。
本開示に係る貼付剤が貼付される患部は、一又は複数の実施形態においてHPV性疣贅の外科的処置が行われていない患部でもよい。
【0042】
前記外科的治療としては、一般的に疣贅の治療で行われる外科的治療が挙げられ、一又は複数の実施形態において、レーザー蒸散、液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼、及び、外科的切除が挙げられる。
【0043】
本開示は以下の一又は複数の実施形態に関しうる。
[1] 下記で表される化合物又はその製薬上許容される塩(以下、「化合物A」という)を有効成分として単位面積(1cm2)あたり50~500μg含有し、
1日1回反復貼付されるように用いられることを特徴とする、ヒトパピローマウイルス性疣贅に対する貼付剤。
【化3】
[2] 化合物Aの含有量が、単位面積(1cm2)あたり50~250μgである、[1]記載の貼付剤。
[3] 1日1回5日間以上反復貼付されるように用いられることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の貼付剤。
[4] 基剤と粘着剤層を有する、[1]から[3]のいずれかに記載の貼付剤。
[5] HPV性疣贅の患部に、[1]から[4]のいずれかに記載の貼付剤を1日1回の反復貼付を行うことを含む、HPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防の方法。
[6]HPV性疣贅の患部に貼付剤を1日1回の反復貼付を行うことを含むHPV性疣贅の治療、改善、進行抑制、及び/又は、再発予防の方法における、[1]から[4]のいずれかに記載の貼付剤の使用。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本開示中に引用された文献のその全体は、本開示の一部として組み入れられる。
【0045】
N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミド(以下、「化合物a」ともいう)の製造
下記化学式で表される化合物aを、WO2009/020198の参考例11を参照して製造した。
【0046】
【化4】
【0047】
化合物aの含有量が216μg/cm2であるパッチを作成し、四肢に4-10mmのHPV性疣贅(尋常性疣贅)を有する20才以上の男性又は女性を対象に適用した。
まず、対象の標的疣贅を液体窒素で短時間前処置し、続いて14日間パッチを適用し、57日まで評価した。
1日目、8日目、15日目、29日目、43日目、及び57日目に患部画像を撮影し、疣贅の寸法と、疣贅の点状出血の数を評価した。
【0048】
疣贅の寸法は、疣贅の軸線上の最大直径と、軸線の法線上の最大直径との積と定義した。寸法は、診療医師の診察により評価した。疣贅の寸法変化は、[測定日の疣贅の寸法]/[一日目の疣贅の寸法]x100(%)で算出した。
【0049】
疣贅は点状出血を伴う症状を呈する場合がある。疣贅の点状出血の数は、二人の独立した皮膚科医により決定された。
【0050】
対象の一人についての疣贅の寸法と、疣贅の点状出血の数を評価した結果を図1に示す。
この症例は典型的な疣贅の症状を呈しているが、図1に示すとおり14日間の投与期間に疣贅の寸法の縮小及び点状出血の数の減少が認められた。
なお、他の5症例においても、14日間の投与期間に疣贅の寸法の縮小が認められた。
すなわち、化合物aを含有するパッチのHPV性疣贅に対する治療効果が認められた。
図1