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特許7495681マスク、マスクの製造方法及びマスクの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】マスク、マスクの製造方法及びマスクの製造装置
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020161135
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054121
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】596089296
【氏名又は名称】株式会社白鳩
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】岡地 ▲祥▼太郎
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕智
(72)【発明者】
【氏名】横井 隆直
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 彰規
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3227801(JP,U)
【文献】国際公開第2009/130799(WO,A1)
【文献】特開2020-084388(JP,A)
【文献】特開2018-095981(JP,A)
【文献】特開2011-120647(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0062939(KR,A)
【文献】登録実用新案第3157299(JP,U)
【文献】台湾実用新案公告第M597668号公報,2020年07月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口又は経鼻による内視鏡検査を受ける被検者が着用する検査用マスクであって、
不織布により形成され、被検者の口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の表裏に貫通して形成され、互いに交差する一対のスリットと、
を備え、
前記交差する一対のスリットとして、
互いに交差する一対の第1スリットと、
それら第1スリットから離れた位置に設けられ、互いに交差する一対の第2スリットと、を有し、
前記一対の第1スリットは、前記マスク本体における横方向の中央付近に設けられ、
前記一対の第2スリットは、前記横方向における前記一対の第1スリットの両側にそれぞれ設けられ、
被検者の口又は鼻孔に挿入される内視鏡を前記各第1スリットの前記交差した部分に押し込むことにより、前記内視鏡が挿通される内視鏡用開口部が形成され、
被検者の口又は鼻孔に挿入される吸痰チューブを前記各第2スリットの前記交差した部分に押し込むことにより、前記吸痰チューブが挿通される吸痰チューブ用開口部が形成され
前記一対の第1スリットは、十字状をなし、
前記一対の第2スリットは、×の字状をなしている検査用マスク。
【請求項2】
前記マスク本体は、複数枚の不織布が重ねられて形成されている、請求項1に記載の検査用マスク。
【請求項3】
前記複数枚の不織布のうち少なくとも1枚は帯電フィルタによって形成されている、請求項2に記載の検査用マスク。
【請求項4】
前記マスク本体は複数のプリーツを有し、
前記一対のスリットは、前記マスクの着用により前記各プリーツが広げられた場合に前記マスク本体において被検者の口元から最も前方に遠ざかる部分に形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の検査用マスク。
【請求項5】
前記マスク本体は、その縦方向の中央部に設けられ、横方向に延びる帯部を備え、
前記複数のプリーツは、
前記帯部の上端部から前記帯部の裏面側を下方へ延びるとともに、下端部にて上方に開口するように折られた第1プリーツと、
前記帯部の下端部から前記帯部の裏面側を上方へ延びるとともに、上端部にて下方に開口するように折られた第2プリーツとを有し、
前記一対のスリットは、前記帯部のうち、前記マスク本体の正面視において前記第1プリーツ及び前記第2プリーツと重なっていない領域に形成されている、請求項4に記載の検査用マスク。
【請求項6】
前記一対の第1スリットが交差する点と、前記一対の第2スリットが交差する点との距離が20mm~30mmの範囲内に設定されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の検査用マスク。
【請求項7】
前記第1スリットの長さは、6mm~15mmの範囲内に設定されており、
前記第2スリットの長さは、3mm~10mmの範囲内に設定されている、請求項のいずれか1項に記載の検査用マスク。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の検査用マスクの製造方法であって、
前記マスク本体を製造する工程と、
前記マスク本体に前記各スリットを形成する工程と、
を備える、検査用マスクの製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の検査用マスクの製造装置であって、
前記マスク本体を製造する本体製造装置と、
前記マスク本体に前記各スリットを形成するスリット形成装置と、
を備える、検査用マスクの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク、マスクの製造方法及びマスクの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上気道ウイルス検査を行う場合、鼻腔ぬぐい液又は咽頭ぬぐい液を採取する(例えば特許文献1参照)。検査は、被検者の鼻孔や口から綿棒を挿入することにより行われる。
【0003】
鼻孔や口から行われる検査としては、他に、耳鼻咽喉内視鏡、上部消化管内視鏡、気管支鏡などの内視鏡検査(例えば特許文献2参照)や口腔鼻腔内ケア、口腔鼻腔内吸引処置、胃管チューブなど経口・経鼻チューブ処置なども挙げられる。
【0004】
これらの検査や処置では、被検者の多くはくしゃみをしたり咳込んだりする。被検者の口や鼻孔は露出したままであるため、被検者の飛沫が拡散される。被検者の飛沫やエアロゾルによる術者の感染を予防するため、術者はマスクを装着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5602279号公報
【文献】特許第5498522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、より安全な検査、処置等のためには、被検者の飛沫の拡散自体を減らすことが望ましい。
【0007】
本発明は、経口又は経鼻による検査や処置等を行う場合に被検者の飛沫の拡散を抑制し得るマスク、マスクの製造方法及びマスクの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明のマスクは、
不織布により形成され、着用者の口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の表裏に貫通して形成され、互いに交差する複数本のスリットと、
を備え、
着用者の口又は鼻孔に挿入される長尺体を前記各スリットの前記交差した部分に押し込むことにより、前記長尺体が挿通される開口部が形成される。
【0009】
本発明のマスクは、被検者の口又は鼻孔に内視鏡や綿棒、処置用カテーテル等の長尺体を挿入し検査や処置等を行う際に、被検者に着用されるものである。このマスクによれば、マスク本体に互いに交差する複数本のスリットが形成されているため、それらスリットの交差部分に長尺体を押し込むことにより、比較的大きな開口部を無理なく形成することができる。そのため、その開口部を通じて長尺体を被検者の口又は鼻孔に挿入することができる。これにより、長尺体の挿入時に、被検者がくしゃみ等をしても飛沫が拡散するのを抑制することができる。
【0010】
また、本発明のマスクでは、スリットがマスク本体を形成する不織布に形成されているため、長尺体の押し込みにより開口部が形成される前の状況では、スリット周辺の繊維が絡み合うことで、スリットを閉じておくことができる。これにより、スリットを通じた飛沫の漏れを好適に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経口又は経鼻による検査や処置等を行う場合に被検者の飛沫の拡散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マスクの正面図。
図2】マスクの背面図。
図3】(a)は図1のA-A線断面図であり、(b)は(a)においてマスク本体のプリーツを広げた状態を示す図。
図4】マスク製造装置を示すブロック図。
図5】マスクの使用方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態のマスクについて図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1図3に示すように、マスク10は、マスク本体11と、マスク本体11の横方向(左右方向)の両端部に設けられた耳かけ部12とを備える。マスク本体11は、着用者の口及び鼻孔を覆うものである。マスク本体11は、横方向に長い略長方形状とされている。耳かけ部12は、着用者の耳に掛けられる部分であり、ゴム紐からなる。耳かけ部12は、その両端がマスク本体11に取り付けられている。
【0015】
マスク本体11は、複数枚(具体的には3枚)の不織布13が重ねられて形成されている。そのため、マスク本体11は、これら3枚の不織布13による3層構造となっている。3枚の不織布13には、マスク本体11の表面を形成する外側不織布13aと、マスク本体11の裏面を形成する内側不織布13bと、各不織布13a,13bの間に挟まれた中間不織布13cとが含まれている。これら各不織布13a~13cは、ウイルスや塵等を捕集するフィルタ機能を有している。
【0016】
外側不織布13aと内側不織布13bはサーマルボンド不織布からなる。サーマルボンド不織布以外にスパンボンド不織布等の他の不織布を用いてもよいが、本実施形態では、マスク本体11の形態を保持しやすくする観点から、サーマルボンド不織布が用いられている。また、中間不織布13cはメルトブロー不織布からなる。中間不織布13cは帯電加工が施されており、静電気の力でウイルス等を捕集する機能を有している。中間不織布13cの静電気力により、外側不織布13a及び内側不織布13bは中間不織布13cに吸着されている。なお、中間不織布13cが帯電フィルタに相当する。
【0017】
各不織布13a~13cは、周縁部に沿ってスポット溶着(例えば超音波溶着)されることで一体化されている。図1,2では、その溶着部分が符号15で示されている。各不織布13a~13cは、上縁部及び下縁部では折り返された状態でスポット溶着されている。各不織布13a~13cの上縁部には、上記折り返しの内側に横方向へ延びる芯材18が配設されている。芯材18は、マスク本体11の上縁部を着用者の鼻に沿って塑性変形させるもので、ノーズフィッターとも呼ばれる。
【0018】
マスク本体11は、帯部21と複数のプリーツ22~25とを有している。そのため、本実施形態のマスク10は、プリーツタイプのマスクとなっており、詳しくはオメガプリーツ型のマスクとなっている。帯部21は、マスク本体11における縦方向の中央部に設けられ、マスク本体11の横方向に延びている。帯部21は、一定の上下幅である。
【0019】
複数のプリーツ22~25はいずれもマスク本体11の横方向に延びている。これらのプリーツ22~25には、帯部21の上側に設けられた複数の上側プリーツ22,23と、帯部21の下側に設けられた複数の下側プリーツ24,25とが含まれている。各上側プリーツ22,23は、上方に開口するように折り畳まれている。
【0020】
各上側プリーツ22,23のうち、第1上側プリーツ22は帯部21の裏面側に一部が重なるようにして設けられ、第2上側プリーツ23は第1上側プリーツ22の裏面側に一部が重なるようにして設けられている。第1上側プリーツ22は、帯部21の上端部21aから帯部21の裏面側を下方へ向けて延びているとともに、その下端部22aにおいて上方に開口するよう折り畳まれている。なお、第1上側プリーツ22が第1プリーツに相当する。
【0021】
各下側プリーツ24,25は、下方に開口するように折り畳まれている。各下側プリーツ24,25のうち、第1下側プリーツ24は帯部21の裏面側に一部が重なるようにして設けられ、第2下側プリーツ25は第1下側プリーツ24の裏面側に一部が重なるようにして設けられている。第1下側プリーツ24は、帯部21の下端部21bから帯部21の裏面側を上方へ向けて延びているとともに、その上端部24aにおいて下方に開口するよう折り畳まれている。なお、第1下側プリーツ24が第2プリーツに相当する。
【0022】
各プリーツ22~25は、マスク10の着用時に上下に広げられる(図3(b)参照)。各プリーツ22~25が上下に広げられると、マスク本体11の帯部21がマスク本体11の上下端部に対して前方に変位する。そのため、各プリーツ22~25が広げられた状態で、マスク10が着用されると、帯部21が着用者の口元から最も前方に離れた(遠い)位置になる。
【0023】
帯部21には、マスク本体11の正面視にて、第1上側プリーツ22と重なる重なり領域27と、第1下側プリーツ24と重なる重なり領域28と、第1上側プリーツ22及び第1下側プリーツ24のいずれにも重ならない非重なり領域29とが存在している。各重なり領域27,28は、縦方向の長さがいずれも同じ長さとなっている。
【0024】
非重なり領域29は、帯部21において第1下側プリーツ24の上端部24aから第1上側プリーツ22の下端部22aまでの縦方向範囲に形成された領域である。非重なり領域29は、縦方向の長さが各重なり領域27,28の縦方向の長さよりも長くなっている。詳しくは、非重なり領域29の縦方向の長さは、各重なり領域27,28の縦方向の長さの2倍以上となっている。
【0025】
帯部21の非重なり領域29には、互いに直交する一対のスリット(切り込み)が横方向における複数箇所(具体的には3箇所)に形成されている。直交する一対のスリットには、十字状をなす一対の第1スリット31と、×の字状をなす一対の第2スリット32とがある。一対の第1スリット31は1箇所だけ形成されているのに対し、一対の第2スリット32は2箇所に形成されている。
【0026】
各スリット31,32はいずれも、マスク本体11の表裏に貫通して形成されている。マスク本体11においてスリット31,32を挟んだ両側は互いに接触した状態となっている。詳しくは、スリット31,32を挟んだ両側の繊維(不織布13の繊維)同士が互いに絡み合った状態となっている。そのため、各スリット31,32は、通常時は閉じた状態となっている。
【0027】
一対の第1スリット31は、マスク本体11における横方向の中央部に形成されている。各第1スリット31のうち一方は縦方向に延びており、他方は横方向に延びている。また、各第1スリット31の長さは6mm~15mmの範囲内、好ましくは8~12mmの範囲内に設定され、例えば10mmとされている。また、各第1スリット31は、各々の中央部にて互いに交差している。
【0028】
一対の第2スリット32は、横方向における一対の第1スリット31を挟んだ両側にそれぞれ形成されている。この場合、これら両側に形成された一対の第2スリット32は、縦方向において一対の第1スリット31と同じ位置に位置している。各第2スリット32はいずれも縦方向及び横方向に対して斜めの方向に延びており、詳しくは縦方向及び横方向に対して45°をなす方向に延びている。したがって、各第2スリット32のスリット向きは各第1スリット31のスリット向きと異なる向きとなっている。また、各第2スリット32の長さは3mm~10mmの範囲内、好ましくは5~6mmの範囲内に設定され、例えば6mmとされている。また、各第2スリット32は、各々の中央部にて互いに交差している。
【0029】
2箇所に形成された一対の第2スリット32はいずれも、一対の第1スリット31から同じ距離だけ離れた位置にある。一対の第1スリット31が交差する点K1と、一対の第2スリット32が交差する点K2との距離Lは、20mm~30mmの範囲内に設定されており、例えば25mmに設定されている。
【0030】
続いて、上述したマスク10の製造装置及び製造方法について図4を参照しながら説明する。
【0031】
図4に示すように、マスク10は、マスク製造装置40によって製造される。マスク製造装置40は、マスク本体11を製造する本体製造装置41と、マスク本体11にスリット31,32を形成するスリット形成装置42と、マスク本体11に耳かけ部12を取り付ける耳かけ取付装置43とを備える。本体製造装置41は、マスク本体11を構成する各不織布13a~13cをスポット溶着する溶着装置や、不織布13a~13cにプリーツ22~25を形成するプリーツ形成装置等を有している。また、スリット形成装置42は、マスク本体11にスリット加工を行うための刃部(図示略)等を有している。
【0032】
マスク10を製造する際にはまず、本体製造装置41によりマスク本体11を製造する本体製造工程を行う。本体製造工程では、まず溶着装置により各不織布13a~13cをスポット溶着し、その後、プリーツ形成装置により各不織布13a~13cにプリーツ22~25を形成する。これにより、マスク本体11が製造される。
【0033】
次に、スリット形成装置42によりマスク本体11に各スリット31,32を形成するスリット形成工程を行う。この工程では、マスク本体11のプリーツ22~25が折り畳まれた状態で、マスク本体11の非重なり領域29に各スリット31,32を形成する。具体的には、スリット形成装置42の刃部により非重なり領域29に切り込みを入れることで各スリット31,32を形成する。この場合、プリーツ22~25を広げることなくスリット31,32を形成することができるため、マスク10の製造効率向上を図ることができる。
【0034】
次に、耳かけ取付装置43によりマスク本体11に耳かけ部12を取り付ける耳かけ取付工程を行う。これにより、マスク10の製造が完了する。なお、耳かけ取付工程を、本体製造工程の際に行うようにしてもよい。この場合、耳かけ取付装置43を本体製造装置41に含めるようにすればよい。
【0035】
次に、マスク10の使用方法について図5に基づき説明する。マスク10は、例えば内視鏡検査を受ける被検者が予め着用する検査用マスクとして利用される。
【0036】
まず、内視鏡検査について説明すると、内視鏡検査では、内視鏡51を被検者の口又は鼻孔に挿入し、その挿入状態で内視鏡51の先端を所定の検査部位まで導入し検査を行う。内視鏡検査では、内視鏡51として、例えば気管支鏡や上部消化管内視鏡等が用いられる。また、内視鏡検査では、内視鏡51の導入に伴い被検者の喉等に生じる痰の吸引処理を併せて行う。この吸引処理を行うにあたっては、吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入し、その挿入状態で吸痰チューブ52の先端を被検者の喉等に導入する。吸痰チューブ52には、痰の吸引を行う吸痰装置が接続されており、この吸痰装置により吸痰チューブ52を介して痰の吸引を行う。なお、内視鏡51及び吸痰チューブ52がそれぞれ長尺体に相当する。
【0037】
続いて、内視鏡51と吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する際の手順について図5を参照しながら説明する。
【0038】
まず、内視鏡51を被検者の口又は鼻孔に挿入する際には、図5に示すように、内視鏡51を一対の第1スリット31の交差する交差部分に押し込む。すると、第1スリット31の両側にある繊維が互いに絡み合った状態が解かれ、マスク本体11に内視鏡51を挿通する開口部54が形成される。そして、その開口部54を通じて内視鏡51を被検者の口又は鼻孔に挿入する。
【0039】
同様に、吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する際には、吸痰チューブ52を一対の第2スリット32の交差する交差部分に押し込む。詳しくは、2箇所に設けられた一対の第2スリット32のうち、いずれかの一対の第2スリット32に吸痰チューブ52を押し込む。すると、第2スリット32の両側にある繊維が互いに絡み合った状態が解かれ、マスク本体11に吸痰チューブ52を挿通する開口部55が形成される。そして、その開口部55を通じて吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する。
【0040】
なお、図5の例では、被検者から見て左側にある一対の第2スリット32に吸痰チューブ52が挿通されている。図示は省略するが、この例では、吸痰装置が被検者の左側に設置されている。そして、その関係で、吸痰装置から延びる吸痰チューブ52が左側の一対の第2スリット32に挿通されている。
【0041】
上記のように、本実施形態のマスク10によれば、被検者がマスク10を着用した状態で、内視鏡51や吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に開口部54,55(スリット31,32)を通じて挿入することができる。そのため、挿入時に被検者がくしゃみをしたり咳こんだりしても、被検者の飛沫が拡散するのを抑制することができる。
【0042】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0043】
上述したように、本実施形態のマスク10によれば、被検者の口又は鼻孔に内視鏡51を挿入して内視鏡検査を行う場合、さらには吸痰チューブ52を挿入して痰の吸引処理を行う場合に、被検者の飛沫の拡散を抑制することができる。
【0044】
また、内視鏡51を一対の第1スリット31の交差部分に押し込むことにより、内視鏡51用の開口部54が形成されるようにし、吸痰チューブ52を一対の第2スリット32の交差部分に押し込むことにより、吸痰チューブ52用の開口部55が形成されるようにした。これらの場合、比較的大きな開口部54,55を無理なく形成することができる。
【0045】
また、スリット31,32がマスク本体11を形成する不織布13に形成されているため、内視鏡51や吸痰チューブ52がスリット31,32に押し込まれて開口部54,55が形成される前の状況では、スリット31,32周辺の繊維が絡み合うことで、スリット31,32を閉じておくことができる。これにより、スリット31,32を通じた被検者の飛沫の漏れを好適に抑制することができる。したがって、内視鏡51や吸痰チューブ52等の長尺体が挿通されていないスリット31,32から被検者の飛沫が拡散する可能性も低くなる。
【0046】
以上より、経口又は経鼻による内視鏡検査を行う際に、被検者の飛沫の拡散を好適に抑制することができる。
【0047】
マスク本体11は複数の不織布13が重ねられて形成されている。これにより、スリット31,32周辺の繊維同士が一層絡み合い、スリット31,32を通じた飛沫の漏れをより一層抑制することができる。
【0048】
各不織布13a~13cのうち、中間不織布13cについては捕集用の帯電フィルタにより形成されている。この場合、中間不織布13cに他の不織布13a,13bが吸着されるため、スリット31,32をより強固に閉じておくことができる。
【0049】
マスク本体11は、複数のプリーツ22~25を有している。このようなプリーツタイプのマスク10では、着用時にマスク本体11を着用者の口元から前方に離すことができるため、内視鏡51及び吸痰チューブ52を口と鼻孔のいずれにもアクセスさせ易い。特に、マスク本体11をオメガプリーツ型とし、その縦方向の中央部に設けられた帯部21、すなわちマスク着用時にマスク本体11において着用者の口元から最も遠ざかる部分にスリット31,32を形成したため、上記の効果を一層高めることができ、しかもマスク10の形態を崩れにくくすることができる。
【0050】
互いに交差する一対のスリットとして、互いに交差する一対の第1スリット31と、互いに交差する一対の第2スリット32とを設けた。この場合、第1スリット31を用いて内視鏡51による内視鏡検査を行いながら、第2スリット32を用いて吸痰チューブ52による吸痰を行うことができる。
【0051】
互いに交差する一対の第1スリット31をマスク本体11における横方向の中央部に設け、互いに交差する一対の第2スリット32を横方向における一対の第1スリット31の両側にそれぞれ設けた。この場合、吸痰装置が被検者の左右どちらに設置されている場合でも、吸痰装置に接続された吸痰チューブ52を内視鏡51と干渉させることなく第2スリット32に挿通することができる。このため、内視鏡検査を行いながら吸痰処理を行う上で好適な構成とすることができる。
【0052】
互いに交差する一対の第2スリット32を×の字状に形成した。この場合、一対の第2スリット32のうち一方の第2スリット32(以下、第2スリット32aという)については、上側から下側に向かうにつれて横方向における第1スリット31から離れる側(換言すると、マスク本体11の横方向における中央部とは反対側)に傾斜している。ここで、第2スリット32は、マスク本体11において第1スリット31の左右両側に配置されているため、第2スリット32を通じて吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する際には、吸痰チューブ52を第2スリット32に斜めに挿通することになると考えられる。この点、上記の構成によれば、かかる挿通状態において、吸痰チューブ52を第2スリット32aのV字部分(詳しくは第2スリット32aが開いてV字となった部分)で支えることが可能となる。そのため、吸痰チューブ52を安定な状態で保持することが可能となる。
【0053】
互いに交差する一対の第2スリット32については、上述のように×の字状とする一方で、互いに交差する一対の第1スリット31については十字状に形成した。つまり、互いに交差する一対の第1スリット31のスリット向きを、互いに交差する一対の第2スリット32のスリット向きと異ならせた。この場合、内視鏡51用の第1スリット31と、吸痰チューブ52用の第2スリット32とが区別し易くなるため、内視鏡51又は吸痰チューブ52を誤ったスリットに挿通してしまうのを抑制することができる。
【0054】
第1スリット31に挿通する内視鏡51類の直径は、気管支鏡の直径が4~8mm、一般的な上部消化管内視鏡の直径が9mm、大腸用ファイバを経口で使用するような大径の上部消化管内視鏡で最大15mmである。その点、第1スリット31の長さが6mm~15mmの範囲内に設定されているため、第1スリット31に内視鏡51を挿通させ易い。なお、内視鏡51が特殊な大きさのものではなく汎用性をもたせる場合には、第1スリット31の直径が8~12mmの範囲であることが好ましい。
【0055】
吸痰チューブ52の直径は3.3~4.67mmが一般的で最大6mmである。その点、第2スリット32の長さが3mm~10mmの範囲内に設定されているため、第2スリット32に吸痰チューブ52を挿通させ易い。
【0056】
一対の第1スリット31と一対の第2スリット32との間の距離が短い場合には、第1スリット31に挿通される内視鏡51と、第2スリット32に挿通される吸痰チューブ52とが互いに干渉するおそれがある。そのため、内視鏡51や吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する作業がしづらくなるおそれがある。その一方で、一対の第1スリット31と一対の第2スリット32との間の距離を長くすると、一対の第2スリット32が左側又は右側に大きく寄ってしまうため、第2スリット32を通じて吸痰チューブ52を被検者の口又は鼻孔に挿入する作業がしづらくなるおそれがある。
【0057】
そこで、上記の実施形態では、これらの点に鑑み、一対の第1スリット31が交差する点K1と、一対の第2スリット32が交差する点K2との距離を20mm~30mmの範囲内に設定した。これにより、内視鏡51用の第1スリット31と吸痰チューブ52用の第2スリット32とをそれぞれ設けた構成にあって、上述した問題が生じるのを抑制することができる。
【0058】
互いに直交する一対(2本)の第1スリット31により、内視鏡51が挿通される開口部54が形成されるようにした。また、同様に、互いに直交する一対(2本)の第2スリット32により、吸痰チューブ52が挿通される開口部55が形成されるようにした。この場合、内視鏡51や吸痰チューブ52を挿通するのに、最小限のスリット数をもって対応することで、スリット31,32を通じた飛沫漏れを低減させることができる。
【0059】
マスク10の製造に際しては、まず本体製造装置41によりマスク本体11を製造し、その後、スリット形成装置42によりマスク本体11に各スリット31,32を形成するようにした。この場合、マスク本体11を製造した後にスリット31,32を形成すればよいので、既存のマスク本体の製造装置(本体製造装置41)を活用しつつ、スリット形成装置42を別途追加すればよく、既存のマスク製造装置やマスク製造方法を変更することなく、スリット付きのマスク10を製造することができる。
【0060】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、互いに交差する一対の第2スリット32を2箇所に設けたが、1箇所にだけ設けるようにしてもよい。また、互いに交差する一対の第2スリット32を設けずに、互いに交差する一対の第1スリット31だけ設けるようにしてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、互いに交差する一対の第2スリット32を、互いに交差する一対の第1スリット31と縦方向において同位置に位置させたが、互いに交差する一対の第1スリット31よりも上側又は下側に位置させてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、一対の第1スリット31を各々の中央部において互いに交差させるようにしたが、一対の第1スリット31を中央部からずれた位置で互いに交差させるようにしてもよい。また、一対の第2スリット32についても同様に、中央部からずれた位置で互いに交差させるようにしてもよい。
【0064】
・互いに交差する一対(2本)の第1スリット31に代えて、互いに交差する3本以上の第1スリット31を設けてもよい。これと同様に、互いに交差する一対の第2スリット32に代えて、互いに交差する3本以上の第2スリット32を設けてもよい。また、互いに交差する第1スリット31の本数と、互いに交差する第2スリット32の本数とは必ずしも同じである必要はなく、異なる本数としてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、内視鏡51を用いた内視鏡検査の際にマスク10を用いたが、例えば上気道ウイルス検査(インフルエンザウイルス検査等)において綿棒により被検者から検体を採取する際にマスク10を用いてもよい。この場合、一対の第1スリット31の交差部分に綿棒を押し込んで開口部54を形成し、その開口部54を通じて綿棒を被検者の口又は鼻孔に挿入する。なお、この場合、綿棒が長尺体に相当する。また、口腔・鼻腔内のケアなどの処置、カテーテルの挿入留置などを行う際にマスク10を用いることもできる。この場合、吸引カテーテル体や胃管チューブが長尺体である。また、医療処置や医療検査だけでなく、飲食の際にマスク10の第1スリット31にストローを通すことでマスクしたまま飲料や流動物を吸うことも可能である。
【符号の説明】
【0066】
10…マスク、11…マスク本体、21…帯部、13a~13c…不織布、22…第1プリーツとしての第1上側プリーツ、24…第2プリーツとしての第1下側プリーツ、29…非重なり領域、31…第1スリット、32…第2スリット、40…マスク製造装置。
図1
図2
図3
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図5