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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
G01N27/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020201127
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088972
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 実証研究タイプ「酸化チタンナノチューブ構造による集積化ガスセンサシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591074736
【氏名又は名称】宮城県
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100106356
【弁理士】
【氏名又は名称】松枝 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宏之
(72)【発明者】
【氏名】庭野 道夫
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-046916(JP,A)
【文献】特開平11-264809(JP,A)
【文献】特開平07-198641(JP,A)
【文献】特開2007-256131(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003465(WO,A1)
【文献】特開2009-008476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスの濃度に対応する出力値を出力するガスセンサにより当該測定対象ガスの濃度を測定するガス濃度測定方法において、
前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間の間、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる暴露工程と、前記第1の時間経過後第2の時間の間暴露を停止させる暴露停止工程とを複数回繰り返して前記ガスセンサを前記測定対象ガスに間欠的に暴露させる間欠暴露工程と、
前記複数回の暴露工程における各暴露工程の開始から前記第1の時間経過するまでの間の前記ガスセンサの出力値を取得する取得工程と、
各暴露工程における前記取得工程により取得した出力値の時間変化率に基づいて、前記測定対象ガスの濃度を求める工程とを備えることを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項2】
前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間は、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させ続けた場合に前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達して当該出力値が平衡状態となる時間であり、
前記間欠暴露工程にかかる時間は、前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短いことを特徴とする請求項に記載のガス濃度測定方法。
【請求項3】
前記暴露停止工程において、前記第2の時間の間、前記ガスセンサに空気を吹き付けることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス濃度測定方法。
【請求項4】
前記暴露工程において、前記ガスセンサに前記測定対象ガスを吹き付けて暴露させることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のガス濃度測定方法。
【請求項5】
前記第1の時間は、前記暴露工程の開始から増大していく前記ガスセンサの出力値の時間変化率が増加から減少に変化する前までの時間であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のガス濃度測定方法。
【請求項6】
測定対象ガスの濃度を測定するガス濃度測定装置において、
測定対象ガスの濃度に対応する出力値を出力するガスセンサと、
前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間の間、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる暴露期間と、前記第1の時間経過後第2の時間の間暴露を停止させる暴露停止期間とを複数回繰り返して前記ガスセンサを前記測定対象ガスに間欠的に暴露させるように、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる時間を制御する暴露制御手段と、
前記複数回の暴露期間における各暴露期間の開始から前記第1の時間経過するまでの間の前記ガスセンサの出力値を取得し、各暴露期間において取得した出力値の時間変化率に基づいて、前記測定対象ガスの濃度を演算する演算手段とを備えることを特徴とするガス濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスの濃度に対応する出力値を出力するガスセンサにより当該測定対象ガスの濃度を測定するガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検出するセンサにおいて、検出感度の向上などセンサを高性能にするため、多孔質体を用いてガス検知部の比表面積を増やす手法が採用されている。前記手法の先行技術として、下記非特許文献1では、ガス検知部に二酸化チタンのナノチューブ(細孔)を用いた水素ガスセンサについて提案されている。
【0003】
また、下記特許文献1では、ガス検知部に半導体または金属の多孔質体を用いることによって吸着面積(表面積)を増大させ、感度及び応答特性を向上させたガスセンサが提案されている。さらに、多孔質のガス検知部に白金、パラジウム等の触媒を坦持させ、検知ガスの吸脱着を促進して、高感度化を図る手段が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、チタン金属上にガス検知部である多孔質の酸化チタン層を形成した構造のガスセンサが提案されている。
【0005】
さらに、下記特許文献3では、絶縁体の基板表面上にチタン酸化物を主成分とする微細筒構造のセンサ素子が形成される水素ガスセンサが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献4は、本発明者により提案されたガスセンサであり、多孔質体内の細孔が多孔質体の表面側から裏面側に貫通して両面側ともに塞がれていない構造を有するため、測定対象ガスがガス検知部である多孔質体を表面側から裏面側へ透過可能であって、多孔質体の細孔内に入り込みやすくなり、高い感度で、且つ、早い応答速度でガスを検知することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Oomman K. Varghese 他、”Hydrogen sensing using titania nanotubes”、 Sensor and Actuators B 93 (2003) 338-344
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-213851号公報
【文献】特開平8-145925号公報
【文献】特開2013-40961号公報
【文献】特開2018-77152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1、特許文献1乃至4に記載のガスセンサでは、多孔質体の細孔の内壁に検知するガスが吸着することでガス検知を行うが、ガス濃度の測定においては、ガスセンサの出力値に基づいて濃度を測定するために、ガスセンサの出力値がほぼ平衡状態に達するまでの時間を要するため、ガス濃度の測定時間に、例えば数十秒~数分程度の比較的長い時間を要する。
【0010】
また、非特許文献1には、ある濃度の水素を流した後に窒素ガスのみを流した時のセンサの抵抗変化が示されているが、水素ガスがない状態の抵抗値に戻るまでの時間が、約2000秒と非常に長く、センサの回復速度が遅いという課題がある。同様のセンサ構造である特許文献1及び2に示されているガスセンサも同じ課題があると推測される。
【0011】
このように、従来のガス濃度測定方法は、ガス濃度の測定時間に比較的長い時間を要し、さらに、回復速度に時間がかかる場合、次の測定までの間隔が長くなり、ガス濃度測定作業全体に時間を要することとなる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ガス濃度の測定時間をより短時間で行うことができるガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のガス濃度測定方法の第一の態様は、測定対象ガスの濃度に対応する出力値を出力するガスセンサにより当該測定対象ガスの濃度を測定するガス濃度測定方法において、前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間の間、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる暴露工程と、前記第1の時間経過後第2の時間の間暴露を停止させる暴露停止工程とを複数回繰り返して前記ガスセンサを前記測定対象ガスに間欠的に暴露させる間欠暴露工程と、前記複数回の暴露工程における各暴露工程の開始から前記第1の時間経過するまでの間の前記ガスセンサの出力値を取得する取得工程と、各暴露工程における前記取得工程により取得した出力値の時間変化率に基づいて、前記測定対象ガスの濃度を求めるステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
上記第一の態様について、前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間は、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させ続けた場合に前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達して当該出力値が平衡状態となる時間であり、前記間欠暴露工程にかかる時間は、前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短いことを特徴とする。
【0016】
上記第一の態様について、前記暴露停止工程において、前記第2の時間の間、前記ガスセンサに空気を吹き付けることを特徴とする。
【0017】
上記第一の態様について、前記暴露工程において、前記ガスセンサに前記測定対象ガスを吹き付けて暴露させることを特徴とする。
【0018】
上記第一の態様について、前記第1の時間は、前記暴露工程の開始から増大していく前記ガスセンサの出力値の時間変化率が増加から減少に変化する前までの時間であることを特徴とする。
【0019】
本発明における測定対象ガスの濃度を測定するガス濃度測定装置は、測定対象ガスの濃度に対応する出力値を出力するガスセンサと、前記測定対象ガスの濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間の間、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる暴露期間と、前記第1の時間経過後第2の時間の間暴露を停止させる暴露停止期間とを複数回繰り返して前記ガスセンサを前記測定対象ガスに間欠的に暴露させるように、前記ガスセンサを前記測定対象ガスに暴露させる時間を制御する暴露制御手段と、前記複数回の暴露期間における各暴露期間の開始から前記第1の時間経過するまでの間の前記ガスセンサの出力値を取得し、各暴露期間において取得した出力値の時間変化率に基づいて、前記測定対象ガスの濃度を演算する演算手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置によれば、ガス濃度を測定するガスセンサの出力値が最大となる平衡状態に達する前のより短い時間でガス濃度を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施するためのガス濃度測定装置の第1の構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施するためのガス濃度測定装置の第2の構成例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるガスセンサの構成例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の概要を説明する図である。
図5】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の概要を説明する図である。
図6】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第1の測定処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第2の測定処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第3の測定処理を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施した第1の測定例を示すグラフ図である。
図10】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施した第1の測定例を示すグラフ図である。
図11】本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施した第2の測定例を示すグラフ図である。
図12】第2の測定例におけるガスセンサ出力値の時間変化率とガス濃度との関係を示すデータである。
図13】ガスセンサ出力値の時間変化率について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に従い本発明の実施の形態例を説明する。なお、実施の形態例は、本発明の理解のためのものであり、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施するためのガス濃度測定装置の第1の構成例を示す図である。第1の構成例におけるガス濃度測定装置100は、ガスセンサ10、ガス供給管20、ガス供給用電磁バルブ30、制御装置40を備えて構成される。ガスセンサ10は、周囲に存在する特定のガスを検知し、その濃度に応じた電気的特性値(電流値、電圧値等)を出力するセンサであり、例えばいわゆる半導体式センサ、接触燃焼式センサ、電気化学式などガスの酸化還元反応を利用したガスセンサである。ガスセンサ10は、測定対象ガス(試料ガス)の種類に応じて、適宜選択され、後述において、一例として、水素ガスを検出するガスセンサの構成について例示する。
【0024】
ガスセンサ10は、所定容積を有する容器70内に配置され、ガス供給管20は、容器70を貫通して、容器70内のガスセンサ10のガス検知面にガス導入可能に配置される。また、容器70は、ガス又は空気の排気口70aが設けられる。
【0025】
ガス供給管20は、ガスセンサ10のガス検知面に試料ガスを供給するパイプ管であり、試料ガスの供給源(図示せず)から試料ガスが所定圧力・流量でガスセンサ10の検知面に吹き付けられる。
【0026】
ガス供給用電磁バルブ30は、ガス供給管20を電磁気的に開閉するバルブであり、電磁バルブ30が開けられているタイミングでは、試料ガスがガスセンサ10に吹き付けられ、電磁バルブ30が閉じられているタイミングでは、ガスセンサ10への試料ガスの供給が停止される。
【0027】
制御装置40は、ガスセンサ10の出力値を取得し、所定の演算処理を実行するとともに、電磁バルブ30の開閉制御を行う制御装置(暴露制御手段及び演算手段)である。制御装置40は、例えば、測定全体を制御する例えばパーソナルコンピュータなどのコンピュータ装置、ガスセンサ10の出力値を演算するアナログ又はデジタル演算回路、電磁バルブを駆動する駆動装置などを含む制御ユニットである。コンピュータ装置は、後述するガスセンサ10の出力値の時間変化率に基づいてガス濃度を求める演算処理装置として機能し、ガス濃度の変化率に基づいてガス濃度を求める演算処理プログラムを実行する。演算処理プログラムは、ガス濃度の時間変化率に基づいてガス濃度を求めるためのコンピュータプログラムである。演算処理プログラムの実行に用いるテーブルデータがコンピュータ装置の所定の記憶手段に記憶される。このテーブルデータは、ガス濃度測定方法に用いるガスセンサ10について、そのガスセンサ10の出力値の時間変化率とガス濃度の相関関係を示すデータであり、あらかじめ実験により当該相関関係を示すデータを求めておく。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施するためのガス濃度測定装置の第2の構成例を示す図である。第2の構成例におけるガス濃度測定装置200は、図1及び図2に示す第1の構成例におけるガス濃度測定装置100と同様に、ガスセンサ10、ガス供給管20、ガス供給用電磁バルブ30、制御装置40を備えて構成され、さらに、第1の構成例のガス濃度測定装置100と比較して、ガスセンサ10に空気を供給する空気供給管50及び空気供給用電磁バルブ60を備える。
【0029】
空気供給管50は、ガスセンサ10のガス検知面に空気を供給するパイプ管であり、空気が所定圧力・流量でガスセンサ10のガス検知面に吹き付けられる。空気供給管50には、空気供給用電磁バルブ60が設けられる。
【0030】
空気供給用電磁バルブ60は、空気供給管50を電磁気的に開閉するバルブであり、電磁バルブ60が開けられているタイミングでは、空気がガスセンサ10に吹き付けられ、電磁バルブ60が閉じられているタイミングでは、ガスセンサ10への空気の供給が停止される。
【0031】
第2の構成例においても、ガスセンサ10は、所定容積を有する容器70内に配置され、ガス供給管20及び空気供給管50は、容器70を貫通して、容器70内のガスセンサ10のガス検知面にガス又は空気を導入可能に配置される。また、容器70は、ガス又は空気の排気口70aが設けられる。
【0032】
図3は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法に用いられるガスセンサの構成例を示す図であり、図5(a)は斜視図、図5(b)は上面図、図5(c)は図5(b)のA-A断面図である。
【0033】
ガスセンサ10は、金属または半導体の薄板部材12の一部分が多孔質体14に形成され、多孔質体14を挟んだ両側の薄板部分が一対の電極18a、18bとなるガスセンサである。多孔質体14がガスを検知するガス検知部となる。具体的には、ガスセンサ10は、1片の金属または半導体の薄板部材12であって、その薄板12の表面の一部を、例えば陽極酸化することによって、薄板面に対して略垂直方向に配向し且つ片面から反対面へ貫通する多数の筒状の細孔15を有する多孔質体14を形成する。
【0034】
多孔質体14は、薄板部材12の略中央部分の一端部からその反対の端部までの領域を陽極酸化することで薄板を横断して形成される。薄板部材12の片面から反対面へ貫通する細孔15は、細孔15の底部が反対面に到達する直前まで陽極酸化を行い、その後、反対面を研磨等の手法を用いて細孔15が貫通するまで研磨することで、両端が開口した細孔15が形成される。細孔15の一端側は、基板などで塞がれていないため、細孔15の一端側の開口から流入したガス他端側の開口から通り抜けることができ、ガスが多孔質体14の片面から反対面に透過可能であるため、ガスが細孔15内部へ入り込みやすくなり、ガス検知の感度、応答性を向上させることができる。
【0035】
該細孔15を有する多孔質体14を挟んでその両側にある薄板部分が一対の電極18a、18bとなる。電極18a、18bは多孔質体14により隔てられている。したがって、薄板の多孔質体部分以外の部分を電極として利用できるので、電極を形成する工程が不要であるという利点がある。当該ガスセンサのさらなる詳細な構成及び製造方法については、特開2018-77152号に開示される。
【0036】
図4及び図5は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の概要を説明する図である。図4に示すように、ガスセンサは、測定開始タイミングで試料ガスを暴露させると、検知したガスの濃度に応じて、所定の測定時間をかけてその出力値が上昇していき、出力値がほぼ最大に達したところで出力値は安定し平衡状態となり、このタイミングで測定終了となる。この最大出力値がガス濃度に対応するため、従来のガス濃度測定は、ガスセンサの出力値が最大となるまでの時間を必要としている。今回、発明者は、測定開始からのガスセンサの出力値の変化が、試料ガスの濃度に応じて異なることを見出し、着眼した。具体的には、測定開始からの出力値の立ち上がりの時間変化率が、測定対象の試料ガスの濃度に応じて異なり、濃度が相対的に高い場合は、ガスセンサへ試料ガスを暴露開始からの出力値の時間変化率は大きく、濃度が相対的に低い場合は、ガスセンサへ試料ガスを暴露開始からの出力値の時間変化率が小さくなるとの技術的な知見を得た。これにより、ガスセンサの出力値が最大に達し平衡状態となる前のタイミングであって、ガスセンサの出力値の立ち上がり時のごく短い時間で得られる出力値からガス濃度を求めることができるようになる。
【0037】
また、発明者は、ガスセンサへの試料ガスの暴露を停止した後のガスセンサの回復時間について、ガス濃度が低いほど、回復時間も早いことに着眼した。この着眼点によれば、ガスセンサの出力値が最大に達する前の比較的低い値の段階で、出力値を得るとともに、試料ガスの暴露を停止することにより、ガスセンサの回復時間が早まり、次の測定へのインターバルも短くすることができる。
【0038】
このように、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法では、ガスセンサへの試料ガスの暴露開始からごく短時間経過後のガスセンサの出力値からその時間変化率を算出し、その時間変化率に応じたガス濃度を求める。
【0039】
また、図5に示すように、ガスセンサへの試料ガスの暴露開始からごく短時間経過後のガスセンサの出力値を取得することで、ガスセンサの出力値が比較的低い時点で試料ガスへの暴露を停止できるので、ガスセンサの回復時間を短くして、短いインターバルで次のガス濃度測定が可能となる。これにより、短時間サイクルで複数回のガス濃度測定を繰り返すことが可能となり、複数回のガス濃度測定で得られる出力値の時間変化率からより精度の高いガス濃度を求めることができる。
【0040】
図6は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第1の測定処理を示すフローチャートである。第1の測定処理を実施するガス濃度測定装置は、上記第1の構成例のガス濃度測定装置100又は第2の構成例におけるガス濃度測定装置200のいずれでもよく、ガスセンサ10によるガス濃度測定動作を1回のみ行う。ガス濃度測定装置200の場合は、空気供給用電磁バルブ50は閉じられ、空気は供給されない。
【0041】
また、以下に説明する本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第1、第2及び第3の測定処理において、電磁バルブの開閉動作、時間計測、ガスセンサの出力値取得、演算処理などは測定装置40の制御により実行される。
【0042】
ステップS100において、ガス供給管20のガス供給用電磁バルブ30を開け、ガスセンサ10に試料ガスの吹付けを開始し、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させる。
【0043】
ステップS102において、測定装置40は、ガスセンサ10の出力値の取得を開始し、ステップS104において、試料ガスの暴露開始からの時間を計測し、ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間経過するまでの間、測定装置40は、ガスセンサ10の出力値を取得する。
【0044】
ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間は、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させ続けた場合に試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達して出力値がほぼ平衡状態となる時間であり、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させる時間である第1の時間はそれよりも短い時間であり、好ましくは、暴露開始から増大していくガスセンサ10の出力値の時間変化率が増加から減少に変化するよりも前までのごく短い時間である。
【0045】
ガスセンサ10は、試料ガスに暴露される第1の時間の間、複数回出力値を出力する。すなわち、ガスセンサ10の出力インターバルは、第1の時間よりも短く、制御装置40は、第1の時間の間、ガスセンサ10からの複数の出力値を取得する。
【0046】
ステップS106において、測定装置40は、取得した出力値の時間変化率を演算により求め、さらに、ステップS108において、測定装置40は、求めた時間変化率に基づいて試料ガスの濃度を求める。具体的には、取得したガスセンサ10の出力値の時間変化率を演算により求め、その時間変化率から試料ガスの実際の濃度を求める。測定装置40には、ガスセンサ10の出力値の時間変化率と試料ガスのガス濃度との関係を示すテーブルデータが記憶され、測定装置40は、当該テーブルデータのデータに基づいて、ステップS106において求められた時間変化率に対応するガス濃度を求める。
【0047】
図7は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第2の測定処理を示すフローチャートである。第2の測定処理を実施するガス濃度測定装置は、上記第1の構成例のガス濃度測定装置100又は第2の構成例におけるガス濃度測定装置200のいずれでもよく、ガスセンサ10によるガス濃度測定動作を複数回繰り返して行う。ガス濃度測定装置200の場合は、空気供給用電磁バルブ50は閉じられ、空気は供給されない。
【0048】
ステップS200において、ガス供給管20のガス供給用電磁バルブ30を開け、ガスセンサ10に試料ガスの吹付けを開始し、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させる。
【0049】
ステップS202において、測定装置40は、ガスセンサ10の出力値の取得を開始し、ステップS204において、試料ガスの暴露開始からの時間を計測し、ステップS206において、測定装置40は、ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間経過時に、ガス供給用電磁バルブ30を閉じて、ガスセンサ10への試料ガスの供給を停止するとともに、上記第1の時間経過時、ガスセンサ10の出力値を取得する。ガス供給用電磁バルブ30を閉じることにより、ガスセンサ10は試料ガスに暴露していない状態となる。
【0050】
ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間は、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させ続けた場合に試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達して出力値がほぼ平衡状態となる時間であり、ガスセンサを試料ガスに暴露させる時間である第1の時間はそれよりも短い時間であり、好ましくは、暴露開始から増大していくガスセンサの出力値の時間変化率が増加から減少に変化するよりも前までのごく短い時間である。
【0051】
ガスセンサ10は、試料ガスに暴露される第1の時間の間、複数回出力値を出力する。すなわち、ガスセンサ10の出力インターバルは、第1の時間よりも短く、制御装置40は、第1の時間の間、ガスセンサ10からの複数の出力値を取得する。
【0052】
ステップS208において、上記ステップS200乃至S206の測定工程がN回(複数)実行されたか判定し、N回未満の場合は、ステップS210において、時間を計測し、ガスセンサ10の回復時間に相当する予め設定された第2の時間の経過をカウントする。第2の時間経過後に、ステップS200に戻り、再度、ガス供給用電磁バルブ30を開けてガスセンサ10を試料ガスに暴露させる。このように、ステップS200乃至S206の測定工程をN回繰り返して、ガスセンサに試料ガスを間欠的に複数回暴露させ、各測定工程ごとにガスセンサ10の出力値を取得する。なお、制御装置40は、第2の時間の間も、ガスセンサ10から出力され続ける出力値を取得してもよいが、ガス濃度の演算処理には用いられない。
【0053】
ステップS208において、上記ステップS200乃至S206の測定工程の繰り返し回数がN回に達した場合は、ステップS212において、測定装置40は、各回で取得した出力値それぞれの時間変化率を演算により求め、さらに、ステップS214において、測定装置40は、求めた複数の時間変化率に基づいて試料ガスの濃度を求める。例えば、求められた複数の時間変化率すべての平均値を用いて試料ガスの濃度を求める。もしくは、求められた複数の時間変化率のうち最小値と最大値を除いた値を用いて試料ガスの濃度を求めてもよい。複数の時間変化率を演算する手法は適宜選択することができる。測定装置40には、ガスセンサ10の出力値の時間変化率と試料ガスのガス濃度との関係を示すテーブルデータが記憶され、測定装置40は、当該テーブルデータのデータに基づいて、ステップS212において求められた時間変化率(複数の時間変化率を演算処理された値を含む)に対応するガス濃度を求める。
【0054】
図8は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法の第3の測定処理を示すフローチャートである。第3の測定処理を実施するガス濃度測定装置は、上記第2の構成例におけるガス濃度測定装置200を用いて、ガスセンサ10によるガス濃度測定動作を複数回繰り返して行う。
【0055】
ステップS300において、ガス供給管20のガス供給用電磁バルブ30を開け、ガスセンサ10に試料ガスの吹付けを開始し、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させる。
【0056】
ステップS302において、測定装置40は、ガスセンサ10の出力値の取得を開始し、ステップS104において、試料ガスの暴露開始からの時間を計測し、ステップS306において、測定装置40は、ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間よりも短い第1の時間経過時に、ガス供給用電磁バルブ30を閉じて、ガスセンサ10への試料ガスの供給を停止するとともに、上記第1の時間経過までの間、ガスセンサ10の出力値を取得し、さらに、空気供給用電磁バルブ50を開けて、ガスセンサ10に空気を供給する。これにより、ガスセンサ10に空気が供給され、試料ガスを強制的に排除し、ガスセンサ10の回復時間を早めることができる。
【0057】
ガスセンサ10が試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達する時間は、ガスセンサ10を試料ガスに暴露させ続けた場合に試料ガスの実際の濃度に対応する出力値に達して出力値がほぼ平衡状態となる時間であり、ガスセンサを試料ガスに暴露させる時間である第1の時間はそれよりも短い時間であり、好ましくは、暴露開始から増大していくガスセンサの出力値の時間変化率が増加から減少に変化するよりも前までのごく短い時間である。
【0058】
ガスセンサ10は、試料ガスに暴露される第1の時間の間、複数回出力値を出力する。すなわち、ガスセンサ10の出力インターバルは、第1の時間よりも短く、制御装置40は、第1の時間の間、ガスセンサ10からの複数の出力値を取得する。
【0059】
ステップS308において、上記ステップS300乃至S306の測定工程がN回(複数)実行されたか判定し、N回未満の場合は、ステップS310において、時間を計測し、ガスセンサ10の回復時間に相当する予め設定された第2の時間経過をカウントする。第2の時間経過後に、ステップS312において、空気供給用電磁バルブ50を閉じて、空気供給を停止し、ステップS300に戻る。そして、ステップS300において、再度、ガス供給用電磁バルブ30を開けてガスセンサ10を試料ガスに暴露させる。このように、ステップS300乃至S306の測定工程をN回繰り返して、ガスセンサに試料ガスを間欠的に複数回暴露させ、各測定工程ごとにガスセンサ10の出力値を取得する。なお、制御装置40は、第2の時間の間も、ガスセンサ10から出力され続ける出力値を取得してもよいが、ガス濃度の演算処理には用いられない。
【0060】
暴露停止後に第2の時間の間ガスセンサ10に空気を吹き付けることによりガスセンサ10の回復時間を早められ、この第2の時間を短縮することができ、測定サイクルをより短くすることができる。
【0061】
ステップS308において、上記ステップS300乃至S306の測定工程の繰り返し回数がN回に達した場合は、ステップS314において、測定装置40は、各回で取得した出力値それぞれの時間変化率を演算により求め、さらに、ステップS316において、測定装置40は、求めた複数の時間変化率に基づいて試料ガスの濃度を求める。測定装置40には、ガスセンサ10の出力値の時間変化率と試料ガスのガス濃度との関係を示すテーブルデータが記憶され、測定装置40は、当該テーブルデータのデータに基づいて、ステップS316において求められた時間変化率(複数の時間変化率を演算処理された値を含む)に対応するガス濃度を求める。
【0062】
図9及び図10は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施した第1の測定例を示すグラフ図である。図10は、図9における点線囲み部分の拡大図である。第1の測定例では、図2に示したガス濃度測定装置の第二の構成例により、上記図8の第3の測定処理に従って、図3で例示したガスセンサ10により水素ガスの濃度測定を行った。水素ガス濃度が10ppm、20ppm、50ppm、100ppmの4種類の試料ガス(水素ガス)について、ガスセンサ10の出力値が平衡状態となるまで測定する従来のガス濃度測定方法による測定(図9(a)及び図10(a))と、本発明のガス濃度測定方法による測定(図9(b)及び図10(b))をそれぞれを実行した。ガス供給用電磁バルブ30の開時間(第1の時間)を1秒、空気供給用電磁バルブ50の開時間(第2の時間)を10秒とした。また、ガスセンサ10の出力インターバル(単位測定間隔)は300msecである。図9(a)及び図10(a)に示す水素ガス濃度が大きい試料ガスほど、図9(b)及び図10(b)において、所定時間間隔ごとの複数の測定工程それぞれで暴露開始からの立ち上がり時における時間変化率が大きくなり、出力値の時間変化率がガス濃度に対応していることが確認できた。なお、図9(b)及び図10(b)では、各濃度に対応するガスセンサの出力値(出力電流)がグラフの上で重なって表記されるのを避けるために、それぞれ座標を縦軸方向にずらして表記している。したがって、ガスセンサの出力値は任意単位であり、その大きさは相対的な差異を表す。
【0063】
図11は、本発明の実施の形態におけるガス濃度測定方法を実施した第2の測定例を示すグラフ図である。第2の測定例では、図2に示したガス濃度測定装置の第二の構成例により、上記図8の第3の測定処理に従って、図3で例示したガスセンサ10により水素ガスの濃度測定を行った。水素ガス濃度が10ppm、20ppm、50ppm、100ppmの4種類の試料ガス(水素ガス)について、本発明のガス濃度測定方法による測定を実行した。ガス供給用電磁バルブ30の開時間(第1の時間)を2秒、空気供給用電磁バルブ50の開時間(第2の時間)を1秒とした。また、ガスセンサ10の出力インターバル(単位測定間隔)は300msecである。なお、図11では、図9(b)及び図10(b)と同様に、各濃度に対応するガスセンサの出力値(出力電流)がグラフの上で重なって表記されるのを避けるために、それぞれ座標を縦軸方向にずらして表記している。したがって、ガスセンサの出力値は任意単位であり、その大きさは相対的な差異を表す。
【0064】
第2の測定例においても、ガス濃度が大きい試料ガスほど、所定サイクルごとの複数の測定工程それぞれで暴露開始からの立ち上がり時の時間変化率が大きくなり、ガスセンサ出力値の時間変化率がガス濃度に対応していることが確認することができた。
【0065】
図12は、第2の測定例におけるガスセンサ出力値の時間変化率とガス濃度との関係を示すデータである。求められた時間変化率が大きくなるに従って、ガス濃度が大きくなる相関関係が得られる。相関関係を表す校正曲線(検量線)は、既知の統計学的手法によりを導出することができる。また、あらかじめ実験により求められた相関関係のデータを用いて機械学習により濃度推定を行うことも可能である。
【0066】
図13は、ガスセンサ出力値の時間変化率について説明する図であり、一例として、図11の点線囲み部のガスセンサ出力値の波形を示す図である。演算処理により求めるガスセンサ出力値の時間変化率は、例えば、ガスセンサに試料ガスを暴露させる時間である上記第1の時間の間において、所定期間(Δt:ガスセンサの測定間隔×n)でのセンサ出力値の変化量(ΔI)の時間変化率(ΔI/Δt)として求めることができる。図12に示すデータは、第1の時間内における最初と最後のセンサ出力値の差分値の変化率(ΔI/Δt)をガスセンサ出力値の時間変化率として求めた数値である。
【0067】
また、ガスセンサ出力値の時間変化率の別の演算手法として、例えば、ガスセンサに試料ガスを暴露させる時間である上記第1の時間の間において、隣接する(連続する)単位測定間隔でのガスセンサ出力値の変化量のうちの最大の変化量(dI)を求め、その時間変化率(dI/dt)を、ガス濃度に対応付けるガスセンサ出力値の時間変化率としてするようにしてもよい。
【0068】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
10:ガスセンサ
12:薄板部材
14:多孔質体
18a、18b:電極
20:ガス供給管
30:ガス供給用電磁バルブ
40:制御装置
50:空気供給管
60:空気供給用電磁バルブ
70:容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13