(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】タンパク質の回収方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20240529BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20240529BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
C07K1/14 ZNA
C07K14/435
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2018559448
(86)(22)【出願日】2017-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2017046394
(87)【国際公開番号】W WO2018123953
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2016254005
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】関山 和秀
(72)【発明者】
【氏名】尾関 明彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亮二
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 浩一
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】福井 悟
【審判官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-345472(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/14
C08J11/08
C12N15/09
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とするタンパク質と、前記目的とするタンパク質とは異なる材料と、を含む混合物から前記目的とするタンパク質を回収する方法であって、
前記混合物と極性溶媒とを含む溶解用溶液に、加熱しながら圧力を印加することによって前記目的とするタンパク
質を溶解する溶解工程、及び
得られた溶解液を分離する分離工程を備え、
前記目的とするタンパク質がフィブロインであり、
前記材料が、ポリエステル、ナイロン、コットン及びウールからなる群より選択される1種以上の材料を含み、
前記極性溶媒が水とアルコールとの混合溶媒であり、
前記アルコールが、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群より選択される1種以上のアルコールである、
タンパク質の回収方法。
【請求項2】
前記フィブロインが人工フィブロインである、請求項1に記載のタンパク質の回収方法。
【請求項3】
前記
フィブロインが、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上の
フィブロインである、請求項
1に記載のタンパク質の回収方法。
【請求項4】
前記溶解用溶液が、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドからなる群より選択される1種以上の溶媒を
更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物から材料をリサイクル(回収)する方法は環境保全の点から、非常に有用である。このような背景の下、廃棄物から、特定の材料をリサイクルする方法に関しては、様々な開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート廃棄物のケミカルリサイクル方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、強度等の点で優れる構造タンパク質は、石油由来の材料の代替物質として有用な材料である。しかしながら、廃棄物からのリサイクルは、石油由来の材料に関するものが主流であり、構造タンパク質等のタンパク質を含む廃棄物から、目的とするタンパク質を回収することができる方法は知られていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、目的とするタンパク質と目的とするタンパク質とは異なる材料とを含む混合物から目的とするタンパク質を回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、目的とするタンパク質と、上記目的とするタンパク質とは異なる材料と、を含む混合物から上記目的とするタンパク質を回収する方法であって、上記混合物と極性溶媒とを含む溶解用溶液に、加熱しながら圧力を印加することによって上記目的とするタンパク質又は上記材料の一方を溶解する溶解工程、及び得られた溶解液を分離する分離工程を備える、タンパク質の回収方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記混合物と極性溶媒とを含む溶解用溶液に、加熱しながら圧力を印加することによって上記目的とするタンパク質又は上記材料の一方が溶解するため、例えば、固液分離により、上記混合物から目的とするタンパク質を回収することができる。
【0009】
上記溶解工程は、上記目的とするタンパク質を溶解する工程であることが好ましい。これにより、より一層高純度に目的とするタンパク質の回収が可能となる。
【0010】
上記目的とするタンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上のタンパク質であってもよい。
【0011】
上記極性溶媒は、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びヘキサフルオロアセトンからなる群より選択される1種以上の溶媒を含むことが好ましい。これにより、上記混合物からの目的とするタンパク質の回収がより一層容易になる。
【0012】
上記材料は、ポリエステル、ナイロン、コットン及びウールからなる群より選択される1種以上の材料を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、目的とするタンパク質と目的とするタンパク質とは異なる材料とを含む混合物から目的とするタンパク質を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1におけるGPCの分析結果を示すグラフである。
【
図2】実施例5におけるGPCの分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る方法は、目的とするタンパク質と、上記目的とするタンパク質とは異なる材料と、を含む混合物から上記目的とするタンパク質を回収する方法であって、上記混合物と極性溶媒とを含む溶解用溶液に、加熱しながら圧力を印加することによって上記目的とするタンパク質又は上記材料の一方を溶解する溶解工程、及び得られた溶解液を分離する分離工程を備える。
【0017】
上記混合物と極性溶媒とを含む溶解用溶液に、加熱しながら圧力を印加することによって目的とするタンパク質又は目的とするタンパク質とは異なる材料のうち一方の極性溶媒への溶解性を向上させることが可能である。これにより、上記混合物から、目的とするタンパク質を回収することが可能となる。
【0018】
上記溶解工程は、上記目的とするタンパク質を溶解する工程であることが好ましい。目的とするタンパク質を上記溶解用溶液に溶解させることで、より高純度に目的とするタンパク質を回収することが可能となる。
【0019】
上記溶解工程が、上記目的とするタンパク質を溶解する工程である場合、目的とするタンパク質の全量が溶解している必要は必ずしもなく、タンパク質の一部が溶解していればよい。
【0020】
溶解用溶液に含まれる極性溶媒は、例えば、水、アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びヘキサフルオロアセトン(HFA)からなる群より選択される1種以上の溶媒を含んでいてもよい。より効率よく目的とするタンパク質を回収する観点からは、極性溶媒は水単独、又はアルコールと水との混合溶媒であることができる。環境に対する悪影響を低減する観点からは、極性溶媒は水であることができる。より温和な条件で目的とするタンパク質を得る観点からは、極性溶媒がアルコールを含んでいてもよい。例えば、極性溶媒が水とアルコールとの混合溶媒、ジメチルスルホキシドとアルコールとの混合溶媒、又は、水、アルコール及びジメチルスルホキシドの混合溶媒であってもよい。極性溶媒(又は混合溶媒)の全量に対するアルコールの割合は、5~100質量%、又は10~50質量%であってもよい。アルコールを含む極性溶媒を用いると、より低圧で目的とするタンパク質を極性溶媒に溶解させることができる傾向がある。
【0021】
本明細書において「アルコール」は、置換基を有していてもよい脂肪族基及び該脂肪族基に結合した水酸基からなる化合物を意味する。脂肪族基は、例えばフッ素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよいし、無置換であってもよい。フッ素原子で置換された脂肪族基を有するフルオロアルコールの例としては、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)がある。
【0022】
低い沸点を有するアルコールは、アルコール溶液の調製及びその濃縮、成形体の形成等の条件を温和なものとできる点で、特に有利である。係る観点から、アルコールの沸点は、例えば1気圧下で99℃以下、50℃以上であってもよい。アルコールの沸点は、1気圧下で60℃以上であってもよい。また、一般に、1個の水酸基を有するアルコールは、2個以上の水酸基を有するアルコールよりも低い沸点を有する傾向がある。
【0023】
アルコールの炭素数(脂肪族基の炭素数)は、特に制限されないが、1~10であってもよい。特に温和な条件で目的とするタンパク質を回収し得る観点からは、アルコールの炭素数は2~8又は2~5であってもよい。極性溶媒に含まれるアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、及びこれらのアルコールの異性体からなる群より選択される1種以上の炭素数1~10のアルコールであってもよく、エタノール、プロパノール、ブタノール、及びこれらのアルコールの異性体からなる群より選択される1種以上の炭素数2~5のアルコールであってもよく、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群より選択される1種以上のアルコールであってもよい。
【0024】
目的とするタンパク質は、構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質には、疎水性タンパク質及び極性溶媒中で自己凝集を起こしやすい傾向にあるポリペプチドが含まれる。これらの構造タンパク質は、一般に極性溶媒への溶解性が低いため、これらの構造タンパク質を回収するために、本実施形態の方法が特に有用である。
【0025】
目的とするタンパク質は、フィブロインであってもよい。フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってもよい。目的とするタンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってもよい。
【0026】
絹は、カイコガ(Bombyxmori)の幼虫である蚕の作る繭から得られる繊維である。一般に、1本の繭糸は、2本の絹フィブロインと、これらを外側から覆うニカワ質(セリシン)とから構成される。絹フィブロインは多数のフィブリルで構成される。絹フィブロインは4層のセリシンで覆われる。実用的には、精錬により外側のセリシンを溶解して取り除いて得られる絹フィラメントが、衣料用途に使用されている。一般的な絹は、1.33の比重、平均3.3decitexの繊度、及び1300~1500m程度の繊維長を有する。絹フィブロインは、天然若しくは家蚕の繭、又は中古若しくは廃棄のシルク生地を原料として得られる。
【0027】
絹フィブロインは、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製した絹フィブロインを、凍結乾燥して得られる粉末である。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製のフィブロインである。
【0028】
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び、天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドからなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0029】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と無定形領域からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つと推測される。クモ糸の横糸は結晶領域を持たず、無定形領域からなる繰り返し領域を持つことが大きな特徴である。一方、横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。これは横糸の大部分が無定形領域によって構成されているためだと考えられている。
【0030】
大吐糸管しおり糸タンパク質はクモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephilaclavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0031】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliformgland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliformsilk protein)が挙げられる。
【0032】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってもよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう)である。
【0033】
大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドは、式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位(モチーフともいう。)を2以上、5以上、又は10以上含んでいてもよい。式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位の数の上限は特に限定されないが、例えば300以下、又は200以下であってもよい。あるいは、大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドは、式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドにおいて、式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
式1において、REP1モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は、通常83%以上であり、86%以上、90%以上又は95%以上であってもよい。REP1は、アラニン残基数の比率が100%であるポリアラニンであってもよい。REP1において連続して並んでいるアラニン(Ala)は、2残基以上、3残基以上、4残基以上、又は5残基以上であってもよい。REP1において、連続して並んでいるアラニンは、20残基以下、16残基以下、12残基以下、又は10残基以下であってもよい。REP1モチーフは、アラニン(Ala)の他、セリン(Ser)、グリシン(Gly)、及びグルタミン(Gln)等から選ばれる他のアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0035】
式1において、REP2は、10~200残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ酸配列中に含まれるグリシン(Gly)、セリン(Ser)、グルタミン(Gln)及びアラニン(Ala)の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して40%以上、60%以上、又は70%以上であってもよい。
【0036】
大吐糸管しおり糸において、REP1は、繊維内で結晶βシートを形成する結晶領域に該当し、REP2は、繊維内でより柔軟性があり大部分が規則正しい構造を欠いている無定型領域に該当する。[REP1-REP2]は、結晶領域と無定型領域とからなる繰り返し領域(反復配列)に該当し、しおり糸タンパク質の特徴的配列である。
【0037】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3のアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一である。配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0038】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、例えば、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであることができる。配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Humanrhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号4)を付加したADF3のアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)において、翻訳が第543番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。
【0039】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、結晶領域と無定型領域とからなる繰り返し領域を有するタンパク質であることができる。本明細書において、「1又は複数個」とは、例えば、1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、及び、1又は数個から選ばれる範囲を意味する。本明細書において、「1又は数個」は、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個を意味する。
【0040】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、配列番号6に示されているアミノ酸配列を有するADF4由来の組換えタンパク質であってもよい。配列番号6に示されているアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したADF4の部分的なアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:AAC47011、GI:1263289)のN末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Humanrhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号4)を付加したものである。
【0041】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、配列番号6に示されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、結晶領域と無定型領域とからなる繰り返し領域を有するポリペプチドであることができる。
【0042】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、配列番号7に示されているアミノ酸配列を有するMaSp2由来の組換えタンパク質であってもよい。配列番号7に示されているアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したMaSp2の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAT75313、GI:50363147)のN末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Humanrhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号11)を付加したものである。
【0043】
式1:REP1-REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドは、配列番号7に示されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、結晶領域と無定型領域とからなる繰り返し領域を有するポリペプチドであることができる。
【0044】
横糸タンパク質に由来するポリペプチドは、式2:REP3(2)で示されるアミノ酸配列の単位を10以上、20以上、又は30以上含んでいてもよい。式2:REP3(2)で示されるアミノ酸配列の単位の数の上限は特に限定されないが、例えば300以下、又は200以下であってもよい。
【0045】
式2において、REP3はGly-Pro-Gly-Gly-Xから構成されるアミノ酸配列を意味し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を意味する。
【0046】
式2:REP3(2)で示されるアミノ酸配列の単位を10以上含むポリペプチドは、例えば、配列番号8に示されているアミノ酸配列を有する鞭毛状絹タンパク質に由来の組換えタンパク質であることができる。配列番号8に示されているアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号4)を付加したアミノ酸配列である。
【0047】
式2:REP3(2)で示されるアミノ酸配列の単位を10以上含むポリペプチドは、配列番号8に示されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、無定形領域からなる繰り返し領域を有するポリペプチドであることができる。
【0048】
タンパク質又はポリペプチドの分子量は、大腸菌等の微生物を宿主とした組み換えタンパク質生産を行う場合の生産性の観点から、500kDa以下、300kDa以下、200kDa以下又は100kDa以下であってもよく、10kDa以上であってもよい。
【0049】
ホーネットシルクフィブロインは、蜂の幼虫が産生するタンパク質であり、天然ホーネットシルクタンパク質及び天然ホーネットシルクタンパク質に由来するポリペプチドからなる群より選ばれるポリペプチドを含有していてもよい。
【0050】
ポリペプチドは、例えば、ポリペプチドをコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した宿主を用いて製造することができる。
【0051】
ポリペプチドをコードする遺伝子の製造方法は特に制限されない。例えば、天然型クモ糸タンパク質の場合、タンパク質をコードする遺伝子をクモ由来の細胞からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的な合成によって、遺伝子を製造することができる。遺伝子の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した天然型クモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTAoligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製や確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質、をコードする遺伝子を合成してもよい。
【0052】
発現ベクターとしては、DNA配列からタンパク質を発現し得るプラスミド、ファージ、ウイルスなどを用いることができる。プラスミド型発現ベクターとしては、宿主細胞内で目的の遺伝子が発現し、かつそれ自体が増幅することのできるものであればよく、特に限定されない。例えば、宿主として大腸菌Rosetta(DE3)を用いる場合は、pET22b(+)プラスミドベクター、pColdプラスミドベクターなどを用いることができる。中でも、タンパク質の生産性の観点から、pET22b(+)プラスミドベクターを用いることができる。宿主としては、例えば動物細胞、植物細胞、微生物などを用いることができる。
【0053】
絹糸フィブロイン及びクモ糸フィブロイン等の上述の目的とするタンパク質と、その他のタンパク質との組み合わせを、溶解用溶液及びこれから得られる溶解液が含んでいてもよい。その他のタンパク質としては、例えば、コラーゲン、大豆タンパク質、カゼイン、ケラチン及び乳清タンパク質が挙げられる。その他のタンパク質を目的とするタンパク質と併用することにより、目的とするタンパク質に由来する物性を適宜調整することができる。その他のタンパク質の割合は、例えば、目的とするタンパク質100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってもよい。
【0054】
溶解用溶液における目的とするタンパク質の濃度は、極性溶媒の質量を基準として、15質量%以上、30質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上であってもよい。目的とするタンパク質の回収効率の観点から、目的とするタンパク質の濃度は、極性溶媒の質量を基準として、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
【0055】
目的とするタンパク質とは異なる材料は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。無機材料としては、例えば、金属、炭素繊維、ガラス又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。有機材料としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、コットン、ウール、レーヨン等のセルロース系繊維、アラミド、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリウレタン、PLA(ポリ乳酸)を代表とするバイオポリエステルやバイオナイロン、バイオPETといったバイオプラスチック繊維又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリブチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。また、ウールは主成分がケラチンである動物繊維であり、綿は主成分がセルロースである植物繊維であり、ナイロンは、ポリアミドの一種である疎水性繊維である。
【0056】
目的とするタンパク質とは異なる材料としては、ポリエステル、ナイロン、コットン及びウールからなる群より選択される1種以上の材料を含むものであってもよい。
【0057】
溶解用溶液は、1種又は2種以上の無機塩を更に含有してもよい。溶解用溶液に無機塩を加えることにより、加温及び加圧による溶解性向上の効果がより一層顕著なものとなり得る。無機塩は、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基は、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオンなどであってもよい。ルイス酸は、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオンなどであってもよい。無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウムのようなリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウムのようなカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄のような鉄塩、並びに、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウムのようなアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウムのようなカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウムのようなナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛のような亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウムのようなマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウムのようなバリウム塩、塩化ストリンチウム、臭化ストリンチウム、ヨウ化ストリンチウム、硝酸ストリンチウム、過塩素酸ストリンチウム、及びチオシアン酸ストリンチウムのようなストリンチウム塩などが挙げられる。無機塩の濃度は、目的とするタンパク質の全量を基準として、1.0質量%以上、5.0質量%以上、9.0質量%以上、15.0質量%以上又は20.0質量%以上であることができる。無機塩の濃度はまた、目的とするタンパク質の全量を基準として、30質量%以下、25質量%以下又は20質量%以下であってもよい。
【0058】
溶解用溶液は、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、架橋剤、重合禁止剤、フィラー及び合成樹脂が挙げられる。添加剤の濃度は、目的とするタンパク質の全量を基準として、50質量%以下であってもよい。
【0059】
溶解用溶液に対して加熱しながら所定の圧力を印加することによって上記目的とするタンパク質又は上記材料の一方を溶解することができる。ここで、溶解用溶液に圧力を印加することにより、比較的低温であっても、上記目的とするタンパク質又は上記材料の一方を溶解させることが可能である。そのため、目的とするタンパク質の変質、ゲル化、分解の誘発をさせることを抑制しつつ、目的とするタンパク質を回収することができる。さらに、溶解工程で目的とするタンパク質が溶解する場合、透析等を用いた濃縮工程を必ずしも必要としないことから、生産効率良く、タンパク質溶液を得ることも可能である。
【0060】
溶解用溶液に印加される圧力は、溶解用溶液に印加される圧力は、目的とするタンパク質及び極性溶媒の種類、所望の濃度等に応じて、目的とするタンパク質を回収することができるように調整される。溶解用溶液に印加される圧力が高いと、より溶解性が高まる傾向にある。溶解用溶液に印加される圧力は0.05MPa以上、0.06MPa以上、0.07MPa以上、0.08MPa以上、0.1MPa以上、1.0MPa以上、5.0MPa以上、又は10MPa以上であることができる。溶解用溶液に印加される圧力は、300MPa以下、150MPa以下、50MPa以下、又は30MPa以下であることができる。
【0061】
溶解用溶液に圧力を印加する方法は、特に制限されないが、例えば、耐圧容器内において、溶媒を加熱し、溶媒の蒸気圧により圧力を印加する方法、窒素、アルゴン等の不活性ガス、又は空気を封入して耐圧容器内の圧力を調整することにより、圧力を印加する方法等を適用するものであってもよい。
【0062】
溶解用溶液を加熱しながら溶解用溶液に圧力を印加してもよい。加熱は、圧力を印加している間に限られず、例えば、溶解用溶液を所定の温度に加熱してから溶解用溶液に圧力を印加してもよい。タンパク質の分解をより抑制する観点から、加熱温度は、150℃以下、140℃以下、135℃以下、又は130℃以下であってもよい。極性溶媒が水の場合、水が介在するタンパク質の分解をより抑制する観点から、加熱温度が140℃以下であることが望ましい。より溶解性向上の観点から、加熱温度は、70℃以上、90℃以上、又は100℃以上であってもよい。これら上限及び下限を任意に組み合わせることができる。例えば、加熱温度が70℃以上150℃以下、90℃以上140℃以下、又は100℃以上130℃以下であってもよい。また、例えば、極性溶媒が水及びアルコールの混合溶媒である場合の加熱温度は、タンパク質の分解をより抑制する観点から、150℃以下、140℃以下、135℃以下、又は130℃以下であってもよく、溶解性向上の点から、70℃以上、80℃以上、又は90℃以上であってもよい。これら上限及び下限を任意に組み合わせることができる。例えば、極性溶媒が水及びアルコールの混合溶媒である場合の加熱温度は70℃以上150℃以下、80℃以上140℃以下、又は90℃以上130℃以下であってもよい。加熱温度は、一定の温度であってもよいし、変動してもよい。
【0063】
溶解用溶液を攪拌しながら溶解用溶液に圧力を印加してもよい。攪拌は、圧力を印加している間に限られず、圧力を印加する前後に溶解用溶液を攪拌してもよい。攪拌の方法は特に制限されるものではない。例えば、傾斜翼、タービン翼等により溶解用溶液を攪拌することができる。
【0064】
加圧後に得られた溶解液は、加圧用のガスを含んでいることがある。そのため、一実施形態に係るタンパク質の回収方法は、溶解液からガスを除去することを更に含んでいてもよい。ガスを除去する方法は特に制限されないが、例えば、遠心分離器による方法が挙げられる。溶解液を遠心分離器にかけることにより、ガスが比較的多量に含まれる層を除去することが可能である。
【0065】
本実施形態に係るタンパク質の回収方法は、溶解工程で得られた溶解液を分離する分離工程を備える。
【0066】
上記分離工程は、常法の固液分離処理によって行うものであってよく、例えば、濾過により溶解液と、不溶解物とを分離するものであってよい。
【0067】
溶解工程が、目的とするタンパク質を溶解する工程である場合、溶解液に溶解している目的とするタンパク質の濃度は、溶解液の質量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上又は30質量%以上であってもよく、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってもよい。
【0068】
本実施形態に係るタンパク質の回収方法は、水、アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)及びヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等の極性溶媒により、不溶解物を洗浄する工程を含むものであってもよい。アルコールとしては、上述のアルコールを用いることができる。
【0069】
本実施形態に係るタンパク質の回収方法において、溶解工程が、目的とするタンパク質を溶解する工程である場合、例えば、溶解液から極性溶媒を除去する方法、再沈殿等の通常の方法を適用することにより、溶解液から目的とするタンパク質を回収することができる。この場合、目的とするタンパク質を含む溶解液から、粉末状等の任意の形態のタンパク質を回収してもよいし、成形体の製造に直接用いてもよい。
【0070】
溶解工程が目的とするタンパク質を溶解する工程である場合、目的とするタンパク質を含む溶解液は、例えば、各種の方法でタンパク質の成形体を製造するために用いることができる。例えば、目的とするタンパク質を含む溶解液から極性溶媒を除去することによりタンパク質を含有する成形体を得るものであってもよい。特に、クモ糸フィブロインを含有する溶解液は、クモ糸フィブロインの特性を生かした優れた物性を有する成形体を製造するために用いることができる。
【0071】
溶解工程が、目的とするタンパク質を溶解する工程である場合、例えば溶解液をドープ溶液として用いて、ゲル、フィルム、ファイバー等の成形体を製造することができる。フィルムは、例えば、溶解液(ドープ溶液)の膜を形成し、形成された膜から極性溶媒を除去する方法により製造できる。ファイバーは、例えば、溶解液を紡糸し、紡糸された溶解液から極性溶媒を除去する方法により製造できる。
【0072】
タンパク質の回収方法において、回収されたタンパク質が目的とするタンパク質であるかどうかは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、赤外分光法(IR)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‐PAGE)、質量分析法(MS)、核磁気共鳴(NMR)により確認することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0074】
〔クモ糸タンパク質の調製〕
(1)改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築
天然由来のクモ糸フィブロインであるNephilaclavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号9及び10でそれぞれ示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインを設計した。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、上記天然由来のフィブロインから出発して、その(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数が5つになるよう欠失させ、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフ((A)5)を欠失させ、C末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入し、REP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列はこの配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。
【0075】
配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端にHisタグ配列及びヒンジ配列(配列番号11)を付加した配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0076】
(2)タンパク質の発現
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。同培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加して、形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0077】
【0078】
当該シード培養液を500mlの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0079】
【0080】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、YeastExtract 120g/1L)を1ml/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0081】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mMTris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEANiro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8Mグアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0082】
得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlineardynamicsltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、タンパク質の精製度は約85%であった。
【0083】
〔クモ糸タンパク質の回収〕
(実施例1)
上記で得られたクモ糸タンパク質(人工クモ糸繊維、以下、「SSP」とも称する。)と、クモ糸タンパク質とは異なる材料(以下、「他材料」とも称する。)であるウール繊維とを交編した(混ぜて編んだ)ニットを約2cm四方にカットし約1.79g用意した。クモ糸タンパク質及びウール繊維のそれぞれの重量は計算上0.41g及び1.38gであった。上記ニットと、極性溶媒である水及びクリンソルブP-7(エタノール85.5±1.0%、イソプロパノール5.0%未満、ノルマルプロパノール9.6±0.5%、及び水分0.2%以下を含有する混合溶媒、「クリンソルブ」は日本アルコール販売株式会社の登録商標である。)の混合溶媒(水:クリンソルブP-7=7:3)6.78g(水 4.75g、クリンソルブP-7 2.03g)と、を撹拌子とともに容器に投入し、密閉した。
【0084】
この容器をホットスターラー(東京理化器械株式会社製、RCH-20L)にセットし、ヒーター温度90℃にセット、300rpmで撹拌した。最初の10分で内容物がほぼ90℃に達し、同時に溶媒の蒸気圧により内部圧力が計算上0.08MPaに達した。ここからさらに20分間撹拌を継続した。その後容器をホットスターラーから外し、溶媒の沸点以下である70℃に下がるまで室温下に静置した。
【0085】
容器の蓋を取り外して、撹拌子を取り出した上で、容器の内容物をフィルターを用いて溶解液と不溶解物とに分離した。さらに不溶解物を容器内で水洗し、同様のフィルターを用いて溶解液と不溶解物に分離し、この操作を3回繰り返した。
【0086】
フィルターを通った溶液は全て同じ容器に移し不溶解物とは別にした。得られた溶解液及び不溶解物は、それぞれ恒温器(エスペック株式会社製、PVH-212M)を用いて80℃で12時間乾燥させた。
【0087】
乾燥後、溶解液及び不溶解物から得られたそれぞれの固形物の重量を測定した。クモ糸タンパク質とウール繊維の、上記交編したニット(処理前)におけるそれぞれの重量と上記処理後におけるそれぞれの重量及び収率の結果を表3に示す。
【0088】
また、
図1に処理前後のクモ糸タンパク質のGPC測定結果を示す。その結果、処理前後のクモ糸タンパク質のGPC測定結果はほぼ同じであるため、クモ糸タンパク質がほぼそのまま回収できていると判断した。なお、処理後のグラフでは高分子量側(
図1のグラフの左側)に物質の存在が見られるが、クモ糸タンパク質がエタノールによって凝集したためと考えられる。
【0089】
なお、GPCによる測定は、GPC(島津製作所社製、商品名:2C-20AD)、カラムLF-404(昭和電工社製)、Shodex検出器(昭和電工社製、商品名:RI-504)を用いた。
【0090】
(実施例2)
実施例1におけるウール繊維を綿(コットン)繊維に替え、実施例1と同様の実験を行った。その結果を表3に示す。
【0091】
【0092】
表3に記載のとおり、極性溶媒として、水及びアルコールの混合溶媒を用いた場合、SSP及び他材料の混合物を含む極性溶媒に加熱しながら圧力を印加することにより、SSPが回収されることが示された。また、処理後の他材料の重量が加工前よりも大きくなっているが、クモ糸タンパク質の一部が付着したまま残ったものが原因と考えられる。
【0093】
(実施例3)
実施例1における極性溶媒を水に替え、さらにホットスターラーの設定温度を110℃に替えて実施例1と同様の実験を行った。なお、撹拌開始から約10分で内容物がほぼ110℃に達し、同時に溶媒の蒸気圧により内部圧力が計算上0.15MPaとなる。また、撹拌後に容器をホットスターラーから外した後は、容器が溶媒の沸点以下である90℃に下がるまで室温下に静置した。クモ糸タンパク質と綿繊維の、上記交編したニット(処理前)におけるそれぞれの重量と上記処理後におけるそれぞれの重量及び収率の結果を表4に示す。
【0094】
(実施例4)
実施例3におけるウールを綿に替え、実施例3と同様の実験を行った。その結果を表4に示す。
【0095】
【0096】
表4に記載のとおり、極性溶媒として、水を用いた場合であっても、SSPと、他材料(ウール又はコットン)と、を含む混合物から、SSPが回収されることが示された。
【0097】
以下、クモ糸タンパク質繊維と他繊維とを交編したニットではなく、簡易的にクモ糸タンパク質粉末と他繊維の織布とを用いた同様の実験について説明する。
【0098】
(実施例5)
平織された無着色のナイロン生地を約2cm四方にカットし約0.5g用意した。このナイロン生地と、クモ糸タンパク質粉末0.5gと、極性溶媒として水及びクリンソルブ(登録商標)P-7の混合溶媒(水:クリンソルブ=7:3)4.5g(水 3.15g、クリンソルブP-7 1.35g)と、を撹拌子とともに容器に投入し、密閉した。
【0099】
この容器をホットスターラー(東京理化器械株式会社製、RCH-20L)にセットし、ヒーター温度90℃にセット、300rpmで撹拌した。最初の10分で内容物がほぼ90℃に達し、同時に溶媒の蒸気圧により内部圧力が計算上0.08MPaに達した。ここからさらに20分間撹拌を継続した。その後容器をホットスターラーから外し、溶媒の沸点以下である70℃に下がるまで室温下に静置した。
【0100】
容器の蓋を取り外して、撹拌子を取り出した上で、容器の内容物をフィルターを用いて溶解液と不溶解物とに分離した。さらに不溶解物を容器内で水洗し、同様のフィルターを用いて溶解液と不溶解物に分離し、この操作を3回繰り返した。
【0101】
フィルターを通った溶解液は全て同じ容器に移し、不溶解物とは別にした。得られた溶解液及び不溶解物は、それぞれ恒温器(エスペック株式会社製、PVH-212M)を用いて80℃で12時間乾燥させた。
【0102】
乾燥後、溶解液及び不溶解物から得られたそれぞれの固形物の重量を測定した。クモ糸タンパク質とナイロン生地の混合物(処理前)におけるそれぞれの重量と上記処理後におけるそれぞれの重量及び収率の結果を表5に示す。
【0103】
また、
図2に処理前後のクモ糸タンパク質のGPC測定結果を示す。その結果、処理前後のクモ糸タンパク質のGPC測定結果はほぼ同じであるため、クモ糸タンパク質がほぼそのまま回収できていると判断した。なお、GPC測定は、実施例1と同様の条件にて実施した。
【0104】
(実施例6)
実施例5における無着色のナイロン生地を赤色に染色されたナイロン生地に替え、実施例5と同様の実験を行った。その結果を表5に示す。
【0105】
(実施例7)
実施例5における無着色のナイロン生地を青色に染色されたPET生地に替え、実施例5と同様の実験を行った。その結果を表5に示す。
【0106】
(実施例8)
実施例5における無着色のナイロン生地を無着色のPET生地に替え、実施例5と同様の実験を行った。その結果を表5に示す。
【0107】
【0108】
表5に記載のとおり、極性溶媒として水及びアルコールの混合溶媒を用いた場合、他材料がナイロン及びPETのいずれであっても、SSP及び他材料の混合物を含む極性溶媒に加熱しながら圧力を印加することにより、クモ糸タンパク質を回収することができることが示された。また、赤又は青に染色された他材料を用いた場合であっても、クモ糸タンパク質が回収されることが示された。
【0109】
(実施例9)
実施例5における溶媒を水に替え、さらにホットスターラーの設定温度を110℃に替えて実施例5と同様の実験を行った。なお、撹拌開始から約10分で内容物がほぼ110℃に達し、同時に溶媒の蒸気圧により内部圧力が計算上0.15MPaとなる。また、撹拌後に容器をホットスターラーから外した後は、容器が溶媒の沸点以下である90℃に下がるまで室温下に静置した。クモ糸タンパク質とナイロン生地の混合物におけるそれぞれの重量と上記処理後におけるそれぞれの重量及び収率の結果を表6に示す。
【0110】
(実施例10)
実施例9における無着色のナイロン生地を赤色に染色されたナイロン生地に替え、実施例9と同様の実験を行った。その結果を表6に示す。
【0111】
(実施例11)
実施例9における無着色のナイロン生地を青色に染色されたPET生地に替え、実施例9と同様の実験を行った。結果を表6に示す。
【0112】
(実施例12)
実施例9における無着色のナイロン生地を無着色のPET生地に替え、実施例9と同様の実験を行った。その結果を表6に示す。
【0113】
【0114】
表6に記載のとおり、極性溶媒として水、他材料としてナイロン又はPETを用いた場合であっても、クモ糸タンパク質を回収することができることが示された。また、赤又は青に染色された他材料を用いた場合であっても、クモ糸タンパク質が回収されることが示された。
【配列表】